説明

位置決め装置

【課題】 精密又は微小な部品を位置決めしながら組立作業を行うロボットの接触力や位置・姿勢を、組立作業に応じて調整することができる多軸の位置決め装置を提供する。
【解決手段】 位置決め装置4は、駆動軸44を駆動するリニアアクチュエータ42と、リンク機構43とが駆動軸44によって連結され、リニアアクチュエータ42が駆動軸を駆動することでリンク機構43が駆動されて部品の位置決めを行う。コントローラ41は、変位センサ45及び位置座標変換演算部414が求めたハンドの位置、速度、及び加速度から装置のインピーダンスを算出し、算出した装置のインピーダンスからリニアアクチュエータ42の駆動力を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ロボットにより半導体部品などの微小部品や精密部品を実装する作業において、それらの部品を精密に位置決めするための位置決め装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体部品やMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術によって製造される精密部品を組み立てる作業時には、部品にあわせて精密な位置決めが必要であるとともに、部品の接触を正確に検知して、接触力が過大にならないように位置決めを制御することが必要である。
【0003】
このような高精度の制御を行う装置の一例として、半導体素子を基板に実装するときに加圧するアームを、平行板ばねで構成した弾性案内に取り付け、ボイスコイルモータで加圧力を与えるように構成し、ボイスコイルモータのコイルに流す電流を電流調節器で調節することによって加圧力を制御するようにしたものが知られている(下記特許文献1)。
【0004】
また、ロボットの手首に取り付けた力センサからの信号をサーボ制御系にフィードバックするものが知られている(下記特許文献2)。これは、ロボットの作業中、力をモニタリングすることによって部品位置の認識と作業の成否確認を行う一方、力情報を制御系にフィードバックすることによってコンプライアンス制御を実現し、作業の信頼性を向上させるようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−86317号公報
【特許文献2】特開平7−24665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の位置決め制御の技術には、次のような問題があった。
【0007】
上記特許文献1の技術では、静止時には精密は加圧力を加えることができるが、部品搬送時の振動を抑えることや押し付けながら移動する作業で接触力を精密に制御することは難しい。また、接触を検知するためには、別に接触センサを付加する必要がある。
【0008】
上記特許文献2の技術では、アームの質量や減速器の摩擦力の影響により、微小な接触力を維持しながら作業を行うことは難しい。
【0009】
また、特許文献1、2のいずれの技術においても、ロボットの先のハンドや冶具の質量の影響により、位置が変化したり接触力が過大になったりする。そのような過大な質量による衝突を回避するためには、作業速度を遅くして作業を慎重に行わなければならず、それだけ作業時間が増大してしまう。
【0010】
更に、特許文献1、2のいずれの技術も、単一軸の構造であるため、例えば、軸挿入作業やすみ肉半田付けなどの複雑な組立作業を行うには、複雑な調整作業が必要となり、安定した制御を行うことは難しい。
【0011】
具体的には、単一軸の構造で軸挿入作業を制御するためには、X−Y軸方向の並進とX−Y軸周りの回転方向の調整が必要とされる。また、単一軸構造で、すみ肉半田付けを制御するには、稜線と直交する2つの並進方向の制御が必要とされる。単一軸構造で、このような制御を安定して行うことは難しい。
【0012】
本発明は、上記の問題を解決するものとして、精密又は微小な部品を多軸構造で位置決めしながら組立作業を行うロボットの接触力や位置・姿勢を、組立作業に応じて調整することができる位置決め装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、部品を精密に位置決めするための位置決め装置であって、複数の駆動軸を駆動するアクチュエータと、前記複数の駆動軸に連結されて前記アクチュエータにより駆動されるリンク機構と、前記リンク機構を介して駆動されて前記部品の位置決めを行う部品操作部と、前記部品操作部の変位を計測する計測手段と、前記計測手段で計測された変位と該変位から算出した速度及び加速度と前記アクチュエータ及び前記リンク機構を含む機械系のインピーダンスとに基づいて、前記アクチュエータの駆動力を演算し、演算した駆動力に応じてアクチュエータを駆動する出力を生成するコントローラとを備えたことを特徴とする。
【0014】
本発明の位置決め装置において、コントローラは、複数の駆動軸に連結されてアクチュエータにより駆動されるリンク機構を介して駆動される部品操作部の変位と、この変位から算出した速度及び加速度と、アクチュエータ及びリンク機構を含む機械系のインピーダンスとに基づいて、アクチュエータの駆動力を演算し、演算した駆動力に応じてアクチュエータを駆動する出力を生成する。
【0015】
この出力に応じて、アクチュエータは、複数の駆動軸を駆動し、各駆動軸を介してリンク機構を駆動するため、リンク機構は複数の自由度を有する。部品操作部は、このリンク機構によって駆動される。これにより、単一の駆動軸で部品操作部を駆動する場合と比較して、部品操作部の位置をきめ細かく調整することが可能となる。
【0016】
また、コントローラは、部品操作部の位置、速度及び加速度から機械系のインピーダンスを制御することができる。このため、微小な接触力を維持しながら位置決めを実行することが可能となる。
【0017】
従って、本発明の位置決め装置によれば、精密又は微小な部品を位置決めしながら組立作業を行うロボットの接触力や位置・姿勢を、組立作業に応じて調整することができる。
【0018】
上記の発明において、前記計測手段は、前記複数の駆動軸にそれぞれ取り付けられ、各駆動軸の変位を計測する変位センサと、前記変位センサが計測した各駆動軸の変位から、前記部品操作部の位置、部品操作部の速度、及び部品操作部の加速度を算出する位置座標変換演算手段とを備え、前記コントローラは、前記位置座標変換演算手段によって算出された部品操作部の位置、部品操作部の速度、及び部品操作部の加速度と、前記複数のアクチュエータを含む機械系のインピーダンスに基づいて、接触位置における駆動力を算出する多自由度インピーダンス制御演算手段と、前記多自由度インピーダンス制御演算手段によって算出された部品操作部における駆動力から、前記アクチュエータの駆動軸毎の駆動力を算出する駆動力座標変換演算手段と、前記駆動力座標変換演算手段が算出した駆動軸毎の駆動力に応じた駆動電流を生成し、生成した駆動電流によって、当該アクチュエータを駆動してリンク機構を動作させる駆動電流生成手段とを備えることが好ましい。
【0019】
この態様によれば、変位センサが、各駆動軸の変位を計測し、位置座標変換演算手段が、変位センサが計測した各駆動軸の変位から、部品操作部の位置、部品操作部の速度、及び部品操作部の加速度を算出する。多自由度インピーダンス制御演算手段が、位置座標変換演算手段が算出した部品操作部の位置、部品操作部の速度、及び部品操作部の加速度と、複数のリニアアクチュエータを含む機械系のインピーダンスに基づいて、部品操作部における駆動力を算出する。駆動力座標変換演算手段が、多自由度インピーダンス制御演算手段が算出した部品操作部における駆動力から、リニアアクチュエータの駆動軸毎の駆動力を算出する。駆動電流生成手段が、駆動力座標変換演算手段が算出した駆動軸毎の駆動力に応じた駆動電流を生成し、生成した駆動電流によって当該リニアアクチュエータを駆動してリンク機構を動作させる。
【0020】
これにより、部品操作部の位置を直接計測できない場合でも、複数の駆動軸の位置から部品操作部の位置を算出して部品操作部における駆動力を算出することが可能となり、多軸の位置決め制御装置において、精密又は微小な部品を位置決めしながら組立作業を行うロボットの接触力や位置・姿勢を、組立作業に応じて調整することができる。
【0021】
上記の発明において、前記多自由度インピーダンス制御演算手段は、前記インピーダンスを表す部品操作部の位置、部品操作部の速度、部品操作部の加速度の各フィードバックゲインに前記部品操作部の位置、部品操作部の速度、及び部品操作部の加速度を乗算して得られる値と、任意に設定した外力の値とから部品操作部における駆動力を算出することが好ましい。
【0022】
この態様によれば、多自由度インピーダンス制御演算手段は、インピーダンスを表す部品操作部の位置、部品操作部の速度、及び部品操作部の加速度の各フィードバックゲインに部品操作部の位置、部品操作部の速度、及び部品操作部の加速度を乗算して得られる値と、任意に設定した外力の値とから部品操作部における駆動力を算出するようにしている。
【0023】
これにより、多軸の位置決め装置においても、精密又は微小な部品を位置決めしながら組立作業を行うロボットの接触力や位置・姿勢を、組立作業に応じて調整することができる。
【0024】
上記の発明において、請求項3記載の位置決め装置において、前記多自由度インピーダンス制御演算手段は、前記リンク機構及びアクチュエータの剛性、粘性、及び慣性を装置の先端の直交座標で表した剛性行列、粘性行列、及び慣性行列を、前記インピーダンスを表す部品操作部の位置、部品操作部の速度、及び部品操作部の加速度の各フィードバックゲインとして用いることが好ましい。
【0025】
この態様によれば、多自由度インピーダンス制御演算手段は、リンク機構及びリニアアクチュエータの剛性、粘性、及び慣性を部品操作部の直交座標で表した剛性行列、粘性行列、及び慣性行列を、インピーダンスを表す部品操作部の位置、部品操作部の速度、及び部品操作部の加速度の各フィードバックゲインとして用いる。
【0026】
これにより、部品操作部の変位を直接計測できない場合でも、複数の駆動軸の変位から部品操作部の位置を算出して部品操作部における駆動力を算出することが可能となり、多軸の位置決め装置においても、精密又は微小な部品を位置決めしながら組立作業を行うロボットの接触力や位置・姿勢を、組立作業に応じて調整することができる。
【0027】
上記の発明において、前記コントローラは、前記部品操作部の位置、部品操作部の速度、部品操作部の加速度、及び部品操作部の駆動力と、自装置の剛性行列、粘性行列、及び慣性行列の推定値とから、外力の推定値を算出して外部に通知する外力推定演算手段を更に備えることが好ましい。
【0028】
この態様によれば、外力推定演算手段が、部品操作部の位置、部品操作部の速度、部品操作部の加速度、及び部品操作部の駆動力と、自装置の剛性行列、粘性行列、及び慣性行列の推定値とから、外力の推定値を算出して外部に通知するようにしている。
【0029】
これにより、位置決め装置の上位コントローラが、外力の推定値から、部品操作部から部品への重力や接触力を認識可能となり、作業状態に応じた制御を行うことが可能となる。
【0030】
本発明によれば、複数の駆動軸を駆動するアクチュエータと、前記複数の駆動軸に連結されて前記アクチュエータにより駆動されるリンク機構と、前記リンク機構を介して駆動されて前記部品の位置決めを行う部品操作部とを有し、前記アクチュエータを駆動して部品を精密に位置決めする位置決め装置の制御方法であって、前記部品操作部の変位を計測する計測ステップと、前記計測手段で計測された変位と、該変位から算出した速度及び加速度と、前記アクチュエータ及び前記リンク機構を含む機械系のインピーダンスとに基づいて、前記アクチュエータの駆動力を演算し、演算した駆動力に応じてアクチュエータを駆動する出力を生成する制御ステップとを含むことを特徴とする。
【0031】
本発明によれば、複数の駆動軸に連結されてアクチュエータによって駆動されるリンク機構を介して駆動される部品操作部の変位と、この変位から算出した部品操作部の速度及び加速度と、アクチュエータ及びリンク機構を含む機械系のインピーダンスとに基づいて、アクチュエータの駆動力を演算し、演算した駆動力に応じて各アクチュエータを駆動する出力を生成するようにしている。
【0032】
これにより、多軸の位置決め装置において、精密又は微小な部品を位置決めしながら組立作業を行うロボットの接触力や位置・姿勢を、組立作業に応じて調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】ロボットのアームの先端に位置決め装置を取り付けた状態を示す外観図。
【図2】位置決め装置の一構成例を示す模式図。
【図3】位置決め装置の力学モデルの説明図。
【図4】位置決め装置の制御系を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1に示すように、本発明の実施形態の位置決め装置は、ロボット1のアーム2の先端に取り付けられる位置決め機構4と部品を把持するハンド3とを備えて構成される。ハンド3は、本発明における部品操作部に相当する。位置決め機構4は、ハンド3にコンプライアンスを与える。
【0035】
位置決め機構4は、図2に示すように、ロボット1のアーム2に取り付けられるn(nは2以上の自然数で、本実施形態ではn=2)個のリニアアクチュエータ42(以下、2つのアクチュエータを42−1,42−2で示す)と、ハンド3に取り付けられ、リニアアクチュエータ42によって駆動されるリンク機構43と、リニアアクチュエータ42の作動を制御するコントローラ41(図4)とを備えている。
【0036】
リニアアクチュエータ42は、例えば、サーボモータ、ボイスコイルモータ(VCM)或いはシリンダ機構などで構成される。リンク機構43は、複数の自由度を有し、2つの駆動軸44(以下、2つの駆動軸を44−1,44−2で示す)によってリニアアクチュエータ42と接続される。
【0037】
図2において、リンク機構43は、連結点aにてリンク431の一端とリンク434の一端が接続され、連結点bにてリンク431の他端とリンク432の一端が接続され、連結点cにてリンク432の他端とリンク433の一端が接続され、連結点dにてリンク433の他端とリンク434の他端が接続されてなる平行リンクと、この平行リンクと連結点dにて接続されるリンク435とを備えている。
【0038】
平行リンクは、連結点aにおいて第1リニアアクチュエータ42−1によって駆動される第1駆動軸44−1と接続される。また、連結点dにおいて一端が平行リンクと接続されたリンク435の他端は、点eにおいて、第2リニアアクチュエータ42−2によって駆動される第2駆動軸44−2に接続される。また、平行リンクのリンク433がハンド3と接続される。従って、リンク機構43は、X−Z軸に対して2自由度を有し、2個のリニアアクチュエータ42−1,42−2で駆動される。
【0039】
位置決め装置の制御系の動作は、下記の力学モデルに基づくコントローラ41での演算処理によって実行されるものであり、以下これについて説明する。
【0040】
図3において、位置決め装置のハンド3の位置を表す座標xの右方向を正(+)とすると、位置決め装置の運動方程式は、下記の式(1)のように表される。
【0041】
fa+fd=Max”+Dax’+Kax …(1)
但し、x’、x”は位置決め装置の速度、加速度を表す。
【0042】
Ma:位置決め装置の慣性行列(n×n)
Da:位置決め装置の粘性行列(n×n)
Ka:位置決め装置の剛性行列(n×n)
n:リンク機構43の自由度
fa:位置決め装置が発生する駆動力
fd:外力(重力、接触力など)
なお、上記慣性行列、粘性行列及び剛性行列は、リンク機構43及びリニアアクチュエータ42の慣性、粘性及び剛性を、位置決め装置の先端部位(ハンド3の位置)の直交座標で表したものである。
【0043】
上記駆動力faは、次式で表される。
【0044】
fa=−Mcx”−Dcx’−Kcx+fc …(2)
ここで、fcは重力相殺や作業のために必要な力、Mc、Dc、Kcは加速度、速度、位置の各フィードバックゲインであり、それぞれ任意に決められるパラメータである。
【0045】
以下、位置決め装置の先端の位置x、速度x’、加速度x”をそれぞれ装置位置、装置速度、装置加速度と呼ぶことがある。
【0046】
上式(1)及び(2)から、
fd=Mvx”+Dvx’+Kvx−fc …(3)
が導かれる。但し、Mv、Dv、Kvは、下記の式(4)〜(6)で表される力学モデルのインピーダンスである。
【0047】
Mv=Ma+Mc …(4)
Dv=Da+Dc …(5)
Kv=Ka+Kc …(6)
従って、パラメータMc、Dc、Kcをそれぞれ適当に設定することにより、外力に対する機械系の応答を決めるインピーダンス(Mv、Dv、Kv)を定めることができる。すなわち、コントローラ41により、機械系のインピーダンスを制御することができる。
【0048】
なお、駆動力faは、式(2)において加速度フィードバック(−Mcx”)や速度フィードバック(Dcx’)の項を省略し、次式のようにしてもよい。
【0049】
fa=−Kcx+fc …(7)
上式(7)の場合は、機械系が本来持っている慣性及び粘性での応答となる。
【0050】
また、リンク機構43では、位置決め装置の先端部(この場合、ハンド3)にセンサを取り付けることが困難な場合があり、装置位置x、装置速度x’及び装置加速度x”を直接計測できないことがある。そのような場合は、各軸のリニアアクチュエータの先端にそれぞれセンサを取り付けて、リニアアクチュエータの位置(角度)から、装置位置x、装置速度x’及び装置加速度x”を求めるようにしてもよい。
【0051】
一般に、装置位置x、装置速度x’及び装置加速度x”は、軸位置qを用いて、下記の式(8)〜式(10)で表される。
【0052】
x=T(q) …(8)
x’=Jq’ …(9)
x”=J’q’+Jq” …(10)
但し、
T:位置変換式
q:各軸の位置(角度)
q’:各軸の速度
q”:各軸の加速度
J:ヤコビ行列
J’:Jの時間微分。
【0053】
図4は、図2に示した位置決め機構4の制御装置(コントローラ)を含む機能ブロック図である。
【0054】
本実施形態の制御系は、X−Z軸に対してn=2自由度を有するリンク機構43と、多自由度インピーダンス制御演算部411、駆動力座標変換演算部412、駆動電流生成部413、位置座標変換演算部414及び外力推定演算部415を有するコントローラ41と、コントローラ41によって制御されてリンク機構43を駆動する2つのリニアアクチュエータ42−1,42−2と、各リニアアクチュエータに取り付けられて各リニアアクチュエータの位置(変位)を計測する変位センサ45−1,45−2とを含んでいる。変位センサ45としては、例えば、接近センサ、ひずみケージ、リニアエンコーダなどが用いられる。
【0055】
なお、変位センサ45と位置座標変換演算部414とで、本発明における計測手段を構成している。
【0056】
前述したように、実施形態は、自由度n=2の位置決め装置であるため、2個のリニアアクチュエータ42−1,42−1を備え、各リニアアクチュエータが各々連結した駆動軸44−1,44−2を介してリンク機構43を駆動する。n=3の場合は、リニアアクチュエータ、変位センサ及び駆動軸の組は3つとなる。すなわち、位置決め装置は、少なくとも自由度nに相当する個数のリニアアクチュエータ及び駆動軸を有するものとなる。
【0057】
変位センサ45は、リニアアクチュエータ42に取り付けられ、当該リニアアクチュエータ42の先端の位置(角度)qを計測する。図示の例では、2つの変位センサ45−1,45−2が、リニアアクチュエータ42−1,42−2に取り付けられている。以下、変位センサ45が計測するリニアアクチュエータ42の先端の位置を、駆動軸の位置ということがある。
【0058】
位置座標変換演算部414は、上式(8)〜(10)を用いて、変位センサ45が計測した各軸のリニアアクチュエータ42の位置(各駆動軸の位置)qから装置位置x、装置速度x’、及び装置加速度x”を算出する。
【0059】
多自由度インピーダンス制御演算部411は、上記位置座標変換演算部414によって算出された装置位置x、装置速度x’、装置加速度x”と、上位コントローラ(この場合、ロボット1のコントローラ)から入力されるパラメータ情報に基づいて、位置決め装置が発生すべき駆動力を求める。ここで、パラメータ情報とは、上式(1)〜(6)による演算に必要な情報であり、重力相殺や作業のために必要な力fcと、フィードバックゲインを表すパラメータMc、Dc、Kcである。
【0060】
駆動力座標変換演算部412は、上記多自由度インピーダンス制御演算部411によって求められた駆動力を、リニアアクチュエータ42の駆動力に変換する。多自由度インピーダンス制御演算部411が求める駆動力は、位置決め装置が発生すべき駆動力、すなわち作業座標(装置位置xの座標)における駆動力である。
【0061】
従って、駆動力座標変換演算部412は、作業座標の駆動力を、リニアアクチュエータ42毎の駆動力に変換する。更に、駆動力座標変換演算部412は、リニアアクチュエータ42毎の駆動力を、それぞれ当該リニアアクチュエータ42を駆動する電流の値を示す電流指示値に変換する。
【0062】
リニアアクチュエータ毎の駆動力は、次式によって表される。
【0063】
τ=Jfa …(11)
但し、
τ:各駆動軸の駆動力
J:ヤコビ行列(x’=Jq’)
:Jの転置行列
q:各駆動軸の位置(角度)。
【0064】
駆動力座標変換演算部412は、上式(10)を用いてリニアアクチュエータ毎の駆動力を求め、求めた駆動力を電流指示値に変換する。
【0065】
駆動電流生成部413は、駆動力座標変換演算部412によって変換されたリニアアクチュエータ毎の電流指示値に応じた駆動電流をそれぞれ生成し、この駆動電流を当該リニアアクチュエータに供給してリニアアクチュエータを駆動する。これにより、リニアアクチュエータ42がリンク機構43を動作させて位置決めが行われる。
【0066】
外力推定演算部415は、上記多自由度インピーダンス制御演算部411によって求められた駆動力と、位置座標変換演算部414によって算出された装置位置x、装置速度x’及び装置加速度x”に基づいて、外力を推定する。
【0067】
外力は、上式(1)より
fd=Max”+Dax’+Kax−fa …(12)
で表される。
【0068】
しかし、実際上、位置決め装置の慣性行列Ma、粘性行列Da及び剛性行列Kaの真の値はわからないので、上式(12)において慣性行列Ma、粘性行列Da及び剛性行列Kaの値には推定値を用いる。
【0069】
これにより、外力の推定値<fd>は、次式(13)で表される。
【0070】
<fd>=<Ma>x”+<Da>x’+<Ka>x−fa …(13)
但し、
<Ma>:慣性行列の推定値
<Da>:粘性行列の推定値
<Ka>:剛性行列の推定値
外力推定演算部415は、上式(13)を用いて外力推定値を求める。
【0071】
次に、本実施形態の制御系の動作を説明する。
【0072】
まず、変位センサ45によりリニアアクチュエータ42の位置が計測される。変位センサ45は、計測したリニアアクチュエータ42の位置を位置座標変換演算部414に通知する。
【0073】
位置座標変換演算部414は、変位センサ45が計測した各軸のリニアアクチュエータ42の位置と上式(8)〜(10)を用いて、装置位置x、装置速度x’及び装置加速度x”を算出する。位置座標変換演算部414は、算出した装置位置x、装置速度x’及び装置加速度x”を、多自由度インピーダンス制御演算部411及び外力推定演算部415に通知する。
【0074】
多自由度インピーダンス制御演算部411は、通知された装置位置x、装置速度x’及び装置加速度x”と、上位コントローラから入力されるパラメータ情報(重力相殺や作業のために必要な力fc、及びパラメータMc、Dc、Kc)とを用いて、上式(2)に基づき位置決め装置が発生すべき駆動力fa(n次元ベクトル)を算出する。そして、算出した駆動力を駆動力座標変換演算部412及び外力推定演算部415に通知する。
【0075】
駆動力座標変換演算部412は、通知された駆動力fa、装置位置x、装置速度x’及び装置加速度x”を用いて、上式(11)により、各リニアアクチュエータの駆動力τ(軸駆動力ベクトル)を算出する。そして、算出した各リニアアクチュエータの駆動力τを、当該リニアアクチュエータを駆動する電流の値を示す電流指示値に変換する。駆動力座標変換演算部412は、電流指示値を当該リニアアクチュエータ42に通知する。
【0076】
なお、駆動力τから電流指示値への変換は、予め定められた式に基づいて行ってもよく、或いは、予め駆動力と電流指示値とを対応付けた変換テーブルを作成しておき、この変換テーブルを用いるようにしてもよい。
【0077】
駆動電流生成部413は、通知された電流指示値に応じた駆動電流を生成し、当該リニアアクチュエータ42に出力(供給)する。これにより、リニアアクチュエータ42は、駆動力座標変換演算部412によって算出された駆動力に応じてリンク機構43を動作させ、ハンド3の位置決めを行う。
【0078】
一方、外力推定演算部415は、通知された駆動力fa、装置位置x、装置速度x’、装置加速度x”、慣性行列の推定値<Ma>、粘性行列の推定値<Da>、及び剛性行列の推定値<Ka>を用いて、上式(13)に基づき、外力推定値<fd>を算出する。
【0079】
なお、慣性行列、粘性行列、剛性行列の各推定値<Ma>、<Da>、<Ka>は、コンプライアンスの設計値である。コントローラ41は、上位コントローラからの指令により、動作モードやコンプライアンスの設定値を決定する。外力推定演算部415は、これらの推定値<Ma>、<Da>、<Ka>として、コントローラ41が決定したコンプライアンスの設定値を用いる。
【0080】
外力推定演算部415は、算出した外力推定値<fd>を上位コントローラに通知する。上位コントローラは、外力推定演算部415から通知された外力推定値により作業状態を検出して作業結果を確認するとともに、ロボット1の動作を決定する。
【0081】
以上のように、本実施形態においては、コントローラ41は、リニアアクチュエータ42により駆動軸44及びリンク機構43を介して駆動されるハンド3の変位と、この変位から算出した部品操作部の速度及び加速度と、リニアアクチュエータ42及びリンク機構43を含む機械系のインピーダンスとに基づいて、リニアアクチュエータ42の駆動力を演算し、得られた駆動力に応じて各リニアアクチュエータを駆動する出力を生成する。
【0082】
従って、実施形態の位置決め装置は、駆動軸44を駆動するリニアアクチュエータ42とリンク機構43とが駆動軸44によって連結され、リニアアクチュエータ42が駆動軸44を駆動することでリンク機構43が駆動されて、部品操作部としてのハンド3による部品の位置決めを行うものである。
【0083】
ここで、変位センサ45が、リニアアクチュエータ42とリンクとを連結する各駆動軸44の変位を計測し、位置座標変換演算部414が、変位センサ33が計測した各駆動軸44の変位から、ハンド3の位置で表される装置位置x、装置速度x’及び装置加速度x”を算出する。
【0084】
多自由度インピーダンス制御演算部411は、駆動力座標変換演算部412が算出した装置位置x、装置速度x’及び装置加速度x”と、複数のリニアアクチュエータ42を含む機械系のインピーダンスに基づいて、ハンド3の位置における駆動力faを算出する。
【0085】
駆動力座標変換演算部412は、多自由度インピーダンス制御演算部411が算出したハンド3の位置における駆動力から、リニアアクチュエータの駆動軸44毎の駆動力を算出する。
【0086】
駆動電流生成部413は、駆動力座標変換演算部412が算出した駆動軸44毎の駆動力に応じた駆動電流を生成し、生成した駆動電流によって当該リニアアクチュエータ42を駆動してリンク機構43を動作させてハンド3の位置を決める。
【0087】
上記のように、リニアアクチュエータ42は、当該駆動軸44を駆動し、各駆動軸44を介してリンク機構43を駆動するため、リンク機構43は複数の自由度を有する。ハンド3は、このリンク機構43によって駆動される。そのため、単一の駆動軸でハンド3を駆動する場合と比較して、ハンド3の位置をきめ細かに調整することが可能となる。
【0088】
また、多自由度インピーダンス制御演算部411は、ハンド3の位置、速度及び加速度からインピーダンスを制御できる。そのため、微小な接触力を維持しながら位置決めを実行することが可能となる。
【0089】
また、位置座標変換演算部414は、変位センサ45が計測した各駆動軸44の位置から、ハンド3の位置、速度、及び加速度を算出するため、ハンド3の位置を直接計測できない場合でも、ハンド3の位置、速度及び加速度を求めることが可能となる。
【0090】
これにより、ハンド3の位置を直接計測できない場合でも、複数の駆動軸44の位置からハンド3の位置を算出してハンド3における駆動力を算出することが可能となり、多軸の位置決め装置において、精密又は微小な部品を位置決めしながら組立作業を行うロボットの接触力や位置・姿勢を、組立作業に応じて調整することができる。
【0091】
また、多自由度インピーダンス制御演算部411は、装置位置x、装置速度x’、装置加速度x”の各フィードバックゲインMc、Dc、Kcに装置位置x、装置速度x’、装置加速度x”を乗算して得られる値と、任意に設定した外力の値とから、ハンド3の位置における駆動力を算出する。
【0092】
すなわち、多自由度インピーダンス制御演算部411は、リンク機構43とリニアアクチュエータ42の剛性、粘性及び慣性を装置の先端の直交座標で表した剛性行列、粘性行列及び慣性行列を、装置位置x、装置速度x’及び装置加速度x”の各フィードバックゲインとして用いる。
【0093】
これにより、ハンド3の位置を直接計測できない場合でも、複数の駆動軸44の位置からハンド3の位置を算出してハンド3における駆動力を算出することが可能となり、多軸の位置決め装置においても、精密又は微小な部品を位置決めしながら組立作業を行うロボットの接触力や位置・姿勢を、組立作業に応じて調整することができる。
【0094】
また、本実施形態においては、外力推定演算部415が、装置位置x、装置速度x’、装置加速度x”及びハンド3の駆動力と、装置の剛性行列、粘性行列及び慣性行列の推定値とから、外力の推定値を算出して上位コントローラに通知する。
【0095】
これにより、上位コントローラが、外力の推定値から、位置決め装置によって制御されるリンク機構43に取り付けられたハンド3から部品に作用する重力や接触力を認識することができ、作業状態に応じた制御を行うことが可能となる。
【0096】
以上のとおり実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0097】
例えば、上記実施形態においては、駆動軸を駆動するアクチュエータをリニアアクチュエータとし、リニアアクチュエータと駆動軸とを1対1で接続しているが、駆動軸を駆動するアクチュエータはリニアアクチュエータに限らず、複数の駆動軸を駆動できるものであればよい。
【0098】
また、アクチュエータと駆動軸との接続は、1対1のみならず、1つのアクチュエータで複数の駆動軸を駆動するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0099】
1…ロボット、2…アーム、3…ハンド、4…位置決め機構、41…コントローラ、42−1,42−2…リニアアクチュエータ、43…リンク機構、44−1,44−2…駆動軸、45−1,45−2…変位センサ、411…多自由度インピーダンス制御演算部、412…駆動力座標変換演算部、413…駆動電流生成部、414…位置座標変換演算部、415…外力推定演算部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部品を精密に位置決めするための位置決め装置であって、
複数の駆動軸を駆動するアクチュエータと、
前記複数の駆動軸に連結されて前記アクチュエータにより駆動されるリンク機構と、
前記リンク機構を介して駆動されて前記部品の位置決めを行う部品操作部と、
前記部品操作部の変位を計測する計測手段と、
前記計測手段で計測された変位と該変位から算出した速度及び加速度と前記アクチュエータ及び前記リンク機構を含む機械系のインピーダンスとに基づいて、前記アクチュエータの駆動力を演算し、演算した駆動力に応じてアクチュエータを駆動する出力を生成するコントローラとを備えたことを特徴とする位置決め装置。
【請求項2】
請求項1記載の位置決め装置において、
前記計測手段は、
前記複数の駆動軸にそれぞれ取り付けられ、各駆動軸の変位を計測する変位センサと、
前記変位センサが計測した各駆動軸の変位から、前記部品操作部の位置、部品操作部の速度、及び部品操作部の加速度を算出する位置座標変換演算手段とを備え、
前記コントローラは、
前記位置座標変換演算手段によって算出された部品操作部の位置、部品操作部の速度、及び部品操作部の加速度と、前記複数のアクチュエータを含む機械系のインピーダンスに基づいて、接触位置における駆動力を算出する多自由度インピーダンス制御演算手段と、
前記多自由度インピーダンス制御演算手段によって算出された部品操作部における駆動力から、前記アクチュエータの駆動軸毎の駆動力を算出する駆動力座標変換演算手段と、
前記駆動力座標変換演算手段が算出した駆動軸毎の駆動力に応じた駆動電流を生成し、生成した駆動電流によって、当該アクチュエータを駆動してリンク機構を動作させる駆動電流生成手段とを備えることを特徴とする位置決め装置。
【請求項3】
請求項2記載の位置決め装置において、
前記多自由度インピーダンス制御演算手段は、
前記インピーダンスを表す部品操作部の位置、部品操作部の速度、部品操作部の加速度の各フィードバックゲインに前記部品操作部の位置、部品操作部の速度、及び部品操作部の加速度を乗算して得られる値と、任意に設定した外力の値とから部品操作部における駆動力を算出することを特徴とする位置決め装置。
【請求項4】
請求項3記載の位置決め装置において、
前記多自由度インピーダンス制御演算手段は、
前記リンク機構及びアクチュエータの剛性、粘性、及び慣性を装置の先端の直交座標で表した剛性行列、粘性行列、及び慣性行列を、前記インピーダンスを表す部品操作部の位置、部品操作部の速度、及び部品操作部の加速度の各フィードバックゲインとして用いることを特徴とする位置決め装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項記載の位置決め装置において、
前記コントローラは、
前記部品操作部の位置、部品操作部の速度、部品操作部の加速度、及び部品操作部の駆動力と、自装置の剛性行列、粘性行列、及び慣性行列の推定値とから、外力の推定値を算出して外部に通知する外力推定演算手段を更に備えることを特徴とする位置決め装置。
【請求項6】
複数の駆動軸を駆動するアクチュエータと、
前記複数の駆動軸に連結されて前記アクチュエータにより駆動されるリンク機構と、
前記リンク機構を介して駆動されて前記部品の位置決めを行う部品操作部とを有し、前記アクチュエータを駆動して部品を精密に位置決めする位置決め装置の制御方法であって、
前記部品操作部の変位を計測する計測ステップと、
前記計測手段で計測された変位と、該変位から算出した速度及び加速度と前記アクチュエータ及び前記リンク機構を含む機械系のインピーダンスとに基づいて、前記アクチュエータの駆動力を演算し、演算した駆動力に応じてアクチュエータを駆動する出力を生成する制御ステップとを含むことを特徴とする位置決め装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−221322(P2010−221322A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−69969(P2009−69969)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000006666)株式会社山武 (1,808)
【Fターム(参考)】