説明

低吸湿性粉末にがり

【課題】 本発明は、多種多様なミネラルをバランスよく含みつつ、大気中に長時間さらされても潮解が起きない、安定した性質を有する粉末にがり、即ち、低吸湿性粉末にがりを提供することを目的とする。
【解決手段】 吸湿性の低い物質からなるコーティング剤によって、粒子全表面がむらなくコーティングされた粉末にがりを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低吸湿性粉末にがりに関し、より詳しくは吸湿性の低い物質によって粒子全表面がむらなくコーティングされた粉末にがりに関する。
【背景技術】
【0002】
にがりとは、海水から食塩を結晶させた残りの苦みをもつ溶液のことをいう。
にがりの主成分は塩化マグネシウムであるが、海水から作られたものなので、その他にもナトリウム・カリウム・亜鉛・鉄・リン・カルシウムなどの様々なミネラルが含まれている。
体に必要な働きをしているミネラルは、約50種類程といわれているが、中でも特に人が生きていくのに必要不可欠な29種類のミネラルを必須ミネラルと呼んでいる。
にがりは上記必須ミネラルの内、主に4種類のミネラルを含んでいる。
【0003】
にがりに主に含まれる4種類の必須ミネラルとして、カルシウム、マグネシウム、カリウム及びナトリウムがある。
これらミネラルの働きとして、カルシウムは骨や歯を形成・精神の安定・筋肉の収縮・細胞に必要な栄養素を取り入れ排出する役割を担い、マグネシウムは体内で約300種類もの酵素の働きに関与・筋肉の収縮をコントロールし、体温や血圧を調節する役割を担う。カリウムは細胞内外液の浸透圧や酸アルカリ度、水分バランスの調整・心臓や血圧、筋肉機能の調節する役割を、ナトリウムは体内の水分バランスを調節・消化液の分泌を促進する役割を担う。
【0004】
ミネラルが体の機能の維持や調節に欠かせないものであるにも関らず、現代人の大半は、片寄った食生活などを原因に日常的にミネラルが不足している。
ミネラルは体内のいろいろな機能をコントロ−ルするために使われる重要な栄養素であるので、不足するとさまざまな不快症状が出たり病気になったりすることが知られているも、体内では十分つくることができず、食物などから摂取するしかない。
【0005】
ミネラル不足を解消する為には、どれか一つだけを積極的に補給しても意味がなく、必要なミネラルをバランスよく補給することが重要である。例えば、カルシウムが不足しているからといってカルシウムのみを摂取し、他のミネラルを摂取しないでいると、カルシウムは充分な働きが出来ないこととなる。
それぞれのミネラルが密接な関係を保ちながら機能しているからである。
即ち、必須ミネラルをバランス良く摂ることが必要不可欠となる。
そこで、必須ミネラルをバランス良く摂ることを可能とするものとして、上述したにがりが注目されている。
【0006】
にがりには、各種ミネラルがバランス良く含まれているので、食品、農業、水産、医学など様々な分野での活用が期待されている。
この内、液体状のにがりは、例えば食品加工分野において、にがりを加工食品に添加する際に食品生産ラインにおいて添加量の誤差が生じることや保管が困難であるなどの欠点がある。
その為、にがりに含有される各種成分について正確に配合量を把握する必要がある場合には特に液体状の物質は適さず、粉末状のにがりを使用することが望まれるところ、にがりの粉末化への要望が高まってきている。
また粉末にがりは生産する側にも利点が多く、粉末化することで液体にがりに比して重量が約70%減少する為、輸送する際に有利である。
ここで、粉末にがりとは、食塩生産時に副生物として得られる液体にがりを固体粉末化したものをいう。
【0007】
しかしながら、粉末にがりに含まれるマグネシウム成分は吸湿性が高く、室温にて大気中に放置すれば、大気中の水蒸気を捕えてその水に溶ける現象、即ち、潮解が起きるという問題があった。
かかる問題を解決すべく、特許文献1においては内部に細孔を有する食品または食品添加物を固定化剤にし、その固定化剤に液体にがりを吸収保持させ、噴霧などにて乾燥するにがりの潮解を防止する方法が開示されている。
しかしながら、特許文献1において開示された方法により得られた粉末状固定化にがりについても、大気に長時間さらされるとやはり液状化してしまい、潮解を防止するのは困難であった。
さらに粉末にがりは、飲食物としての用途のみならず、その富栄養性より農業用肥料として利用可能であるが、この場合、葉面散布するも、潮解性の大きさから大気中の放置により数時間で液状化してしまい実用に適さないという問題があった。
【0008】
以上より、多種多様なミネラルをバランスよく含みつつ、大気中に長時間さらされても潮解が起きない、安定した性質を有する粉末にがり、即ち、低吸湿性粉末にがりの開発が強く望まれていた。
【0009】
【特許文献1】特開平6−153855号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、多種多様なミネラルをバランスよく含みつつ、大気中に長時間さらされても潮解が起きない、安定した性質を有する粉末にがり、即ち、低吸湿性粉末にがりを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、コーティング剤として吸湿性の低い物質を用い、該コーティング剤を粉末にがり粒子の表面全体にむらなくコーティングすることによって得られた粉末にがりは潮解が起きにくいことを見出し、大気中に長時間さらされても安定した品質を有する粉末にがりを提供すべく、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、請求項1は、吸湿性の低い物質からなるコーティング剤によって、粒子全表面がむらなくコーティングされた粉末にがりに関する。
請求項2は、前記コーティング剤が、グルタミン酸ソーダ、糖類、カルボキシメチルセルロース、シクロデキストリンからなる群より選択されるいずれか一つであって、食品用として利用される請求項1記載の粉末にがりに関する。
請求項3は、前記コーティング剤が、グルタミン酸ソーダ、糖類、カルボキシメチルセルロース、シクロデキストリンからなる群より選択されるいずれか一つであって、飲料水用として利用される請求項1記載の粉末にがりに関する。
請求項4は、前記コーティング剤が、アミノ酸、増粘多糖類、グリセリン等を添加したゼラチンコラーゲンからなる群より選択されるいずれか一つであって、農業肥料用として利用される請求項1記載の粉末にがりに関する。
請求項5は、前記粉末にがりが海洋深層水から得られたものである請求項1乃至4いずれか記載の粉末にがりに関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る粉末にがりは、多種多様なミネラルをバランスよく含み、且つ、吸湿性の低い物質をコーティング剤として使用し、粉末にがりの粒子表面全体をむらなくコーティングされていることから、潮解が起きるのを十分に防止することができるので、大気中に長時間放置しても、安定した品質を保つことができる。
以上の構成を有することから、本発明に係る粉末にがりは、低吸湿性粉末にがりであるといえ、食品加工や農業用肥料をはじめ、あらゆる用途において有効に活用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
吸湿性の低い物質をコーティング剤として使用し、粉末にがりの粒子表面全体をむらなくコーティングすることにより、粉末にがりそのものの潮解性が大きいことに起因する液状化を十分に防止することができる。
その為、にがりが有する多種多様なミネラルをバランスよく含みつつ、潮解の防止作用に優れ、大気中に長時間放置しても安定した性質を有する粉末にがり、即ち、低吸湿性粉末にがりを提供できる。
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0015】
本発明の粉末にがりの原料となる海水は、特に限定されるものではないが、ミネラル特性、富栄養性、清浄性、低温安定性、熟成性など種々の性質から鑑みて、海洋深層水であることが特に望ましい。
以下、海洋深層水を例にとって本発明の最良の実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれら記載により何ら限定されるものではなく本発明の技術分野における通常の変更ができることは言うまでもない。
【0016】
海洋深層水とは、深海すなわち陸棚外縁部より深いところ、およそ水深200〜300メートル以深にある海水のことである。
深海で地球規模の時間を経過した海洋深層水は、多くのミネラルをバランスよく含み(ミネラル特性)、且つ、生命活動に欠かせない窒素、リン、ケイ酸などの無機栄養塩を多く含む(富栄養性)。
また、陸水や大気からの化学物質の汚染にさらされる機会が極めて少なく(清浄性)、周年に渡り温度の変化が少ない(低温安定性)ので、水圧30気圧以上で長い年月を経て熟成された結果、性質が安定(熟成性)している。
以上の性質より、有益価値を秘めた海洋資源として、特に注目されている。
【0017】
海洋深層水の代表的な取水地としては、高知県室戸市沖や富山県滑川市沖、沖縄県糸満市沖等が挙げられる。
上記海洋深層水を常法により濃縮、固体粉末化して得られた粉末にがりの主成分は塩化マグネシウムで、その他の成分として、塩化ナトリウム・塩化カリウム・亜鉛・鉄・リン・塩化カルシウムなど様々な無機塩類(ミネラル)が百種類以上の成分からなる。
しかしながら、マグネシウム成分は吸湿性が高く、室温にて大気中に放置すれば潮解が起きるので、潮解を防止すべく本発明においては、吸湿性の低い物質をコーティング剤として用い、粉末にがり粒子全表面をむらなくコーティングすることにより、粉末にがり成分を外部から保護する状態としている(図1)。
その結果、大気中に長時間放置しても本発明にかかる粉末にがりは潮解により液状化しない。
【0018】
本発明の粉末にがりにおいて、にがりのコーティング剤として使用される物質は、潮解性が小さい、即ち、吸湿性の低い物質であることが望まれる。
吸湿性の高低は、通常、吸湿率(%)により示されるが、本発明において使用するコーティング剤としては、その吸湿率(%)が3%以下であることが望ましい。
この理由は3%を超えれば、コーティング剤が大気中の水分を吸収してしまう結果、コーティングされた粉末にがりも潮解してしまうので望ましくないからである。
具体例としては、グルタミン酸ソーダ(味の素〔登録商標〕)、ブドウ糖をはじめとする糖類、カルボキシメチルセルロース、シクロデキストリン等が挙げられる。
【0019】
用途に応じ、例えば該粉末にがりを食品用として使用する場合、ブドウ糖やグルタミン酸ソーダ(味の素〔登録商標〕)などを粉末にがりの表面にコーティングして、これを口に入れるとまろやかな味が保たれるようにする、即ち、コーティング剤を適時変更できることも本発明の特徴の一つである。
その他、当該粉末にがりを塩成分に添加混合して調製した食用塩では、にがりと塩成分とが直接接することはなく、にがりに吸収された水分の塩成分に対する影響が低減され、塩成分の粉末が湿った状態になることはない。
従って、本発明の粉末にがりは、にがり含有食用塩において、流動性を損うことなく多量に配合が可能となり、”やわらかく、まろやかな味”といったにがり独特の味覚をも提供する。
【0020】
肥料として利用する場合には、潮解性が小さい肥料をにがり粒子全表面にむらなくコーティングすることによって、肥料の効果を向上させる。
コーティング剤としては、その吸湿率(%)が3%以下であることが望ましい。
この理由は3%を超えれば、コーティング剤が大気中の水分を吸収してしまう結果、コーティングされた粉末にがりも潮解してしまうので望ましくないからである。
具体例としては、アミノ酸、増粘多糖類、グリセリン等を添加したゼラチンコラーゲン等が挙げられる。
以上の構成及び効果を有することから、本発明の粉末にがりは、食品加工や農業用肥料をはじめ、あらゆる用途において有効に活用することができる。
【0021】
本発明の粉末にがりは、粉末にがり粒子にコーティング剤を、その粒子全表面にむらなくコーティングできるよう噴霧した後、乾燥させることにより調製される。
具体的には、前記コーティング剤として、グルタミン酸ソーダ(味の基〔登録商標〕)、ブドウ糖をはじめとする糖類、カルボキシメチルセルロース、シクロデキストリン等をスプレーノズルから粉末にがり粒子の表面全体を覆うように噴霧する。
この際、むらが生じない様、粉末にがり粒子の表面全体を隈なく覆う必要がある点、特に注意する。このむらから潮解が起きるのを防止する為である。
その後、コーティング剤をその粒子の表面全体に噴霧された粉末にがりを乾燥させることにより、本発明に係る粉末にがりが得られるが、乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥、噴霧乾燥等が挙げられる。
これらのうち、前者が採用される場合、乾燥後において塊状の粉末にがりが得られるため、この塊を更に粉砕して粉末状のにがりを得る。
後者が採用される場合、乾燥後において均一な微粉末状のにがりが得られる。
【0022】
以下、本発明に係る低吸湿性粉末にがりの製造方法における、粉末にがりをコーティングする方法について、図2に示すドラフトチューブ付噴流層装置(4)をもとに、更に詳細に説明する。
【0023】
図2にドラフトチューブ付噴流層装置(4)を示す。
本装置は、噴流層装置本体(5)とサイクロン(6)、コーティング粉末にがり回収タンク(7)、真空ポンプ(8)で構成されている。
コーティング操作は、噴流層装置本体(5)下部から乾燥用熱風(9)を送込み、熱風の流れにより、海洋深層水から得られた粉末にがり(2)を、アニュラス部(10)とスパウト部(11)を循環させる。
その間にスパウト部(11)で、上述したような吸湿性の低い成分をコーティング剤として使用し、該コーティング剤からなるミスト液滴(12)を、粉末にがり(2)に付着させる。
その後、乾燥用熱風(9)でミスト液滴(12)を乾燥させることにより粉末にがりにコーティング剤をコーティングする。
ミスト液滴(12)を用いることにより、粉末にがり(2)粒子全表面にむらなくコーティングすることが可能となる。
コーティング操作終了後は、コーティング粉末にがり(3)と乾燥用熱風(9)をサイクロン(6)へ送込み、コーティング粉末にがり(3)のみを分離回収する。
以上の操作によって得られたコーティング粉末にがり(3)は、吸湿性の低い成分でコーティングされている為、潮解が起きるのを十分に防止することができ、大気中に長時間放置しても、安定した品質を保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る低吸湿性粉末にがりの概念図を示す。
【図2】本発明に係る低吸湿性粉末にがりを製造する為のドラフトチューブ付噴流層装置を示す。
【符号の説明】
【0025】
1・・・吸湿性の低い物質からなるコーティング剤
2・・・粉末にがり
3・・・コーティングされた粉末にがり

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸湿性の低い物質からなるコーティング剤によって、粒子全表面がむらなくコーティングされた粉末にがり。
【請求項2】
前記コーティング剤が、グルタミン酸ソーダ、糖類、カルボキシメチルセルロース、シクロデキストリンからなる群より選択されるいずれか一つであって、食品用として利用される請求項1記載の粉末にがり。
【請求項3】
前記コーティング剤が、グルタミン酸ソーダ、糖類、カルボキシメチルセルロース、シクロデキストリンからなる群より選択されるいずれか一つであって、飲料水用として利用される請求項1記載の粉末にがり。
【請求項4】
前記コーティング剤が、アミノ酸、増粘多糖類、グリセリン等を添加したゼラチンコラーゲンからなる群より選択されるいずれか一つであって、農業肥料用として利用される請求項1記載の粉末にがり。
【請求項5】
前記粉末にがりが海洋深層水から得られたものである請求項1乃至4いずれか記載の粉末にがり。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−238720(P2006−238720A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−54996(P2005−54996)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(398025432)室戸海洋深層水株式会社 (3)
【出願人】(597154966)学校法人高知工科大学 (141)
【Fターム(参考)】