説明

低温岩盤貯槽

【課題】地下水圧と凍結膨張による悪影響を排除し得て構造的な安定性や信頼性を充分に向上させることができるメンブレン式の低温岩盤貯槽を提供する。
【解決手段】岩盤内に掘削された空洞1の表面に、吹付コンクリート2、躯体コンクリート4、保冷材、メンブレン材からなる覆工を形成し、その内部空間を低温流体を貯蔵するための貯槽とするメンブレン式の低温岩盤貯槽において、吹付コンクリート中に排水路網7を埋設するとともに、躯体コンクリート中には加温管路網8を埋設し、その加温管路網を排水路網の内側に重なる位置に配置する。排水路網を扁平な板状排水材による縦排水路7aと横排水路7bとによる縦横の格子状に形成する。加温管路網を蛇行状態に形成する。躯体コンクリートの目地部4aを横排水路に重なる位置に形成する。躯体コンクリート中に二次排水路網を埋設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、岩盤内に掘削した空洞を低温流体を貯蔵するための貯槽(タンク)として利用する低温岩盤貯槽に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の低温岩盤貯槽は、安定した岩盤内に大規模な空洞を掘削し、その空洞をタンクとして機能せしめてLPGやLNG、DME(ジメチルエーテル)等の低温液化ガス、あるいはその他の低温液体や低温気体を貯蔵するものであって、空洞の内面に設ける覆工の構造によって特許文献1に示されているような所謂「凍結式」のものと、特許文献2に示されているような所謂「メンブレン式」のものに大別される。
【0003】
凍結式の低温岩盤貯槽は、貯蔵物が氷点以下の低温であることから貯槽周囲に存する地下水が自ずと凍結してしまって貯槽周囲に安定な凍結領域が形成され、したがって岩盤に多少の亀裂や間隙があっても貯槽の気密性や液密性が自ずと安定に確保されることが期待できるものである。そのため、空洞の内面に吹付コンクリートとロックボルト程度の簡易な支保を設けるだけに留めて格別のライニング材や大がかりな覆工を省略可能であり、構造が比較的簡略であって建設コストを抑えることができる点で有利である。
但し、このような凍結式は貯蔵温度が極めて低いと岩盤に温度クラックが発生することが懸念されることから、貯蔵温度は−60℃〜−80°C程度が限界とされ、したがってDME(沸点−25℃)やLPG(沸点−42℃)のような比較的貯蔵温度が高い燃料の場合には好適に採用可能であるが、LNG(沸点−162℃)のような極低温流体には不適であるとされている。
【0004】
それに対し、メンブレン式の低温岩盤貯槽はLNGのような極低温粒体の貯蔵に適用するものとして提案されたもので、貯槽として要求される気密性と液密性をメンブレン材により確保するというものである。この場合、具体的には空洞の内側に吹付コンクリートおよび躯体コンクリートによる覆工を設け、さらにその内側に保冷材を設けた上でその表面にメンブレン材を取り付けるという多層構造の覆工を設けることになり、したがって凍結式のものに比べて構造が複雑にはなるものの岩盤の影響を受け難いものとなるし、凍結式の場合と同様にいずれは貯槽の外側に凍結領域が形成されてそれが二次的なバリアになるとも考えられることから、信頼性や安定性の点ではより有利であるとされている。
【特許文献1】特開2005−195110号公報
【特許文献2】特開平7−54366号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、凍結式の低温岩盤貯槽は運用後には貯槽周囲に良好な凍結領域が確実に形成されなければならないことから、貯槽としての空洞を掘削する際にもその周囲岩盤に常に地下水が飽和状態で存在していることが必要である。すなわち、空洞を掘削するに際して周囲岩盤の地下水位が低下して一時的にでも不飽和状態になってしまうと、その後に地下水位を回復させたとしても完全な飽和状態に回復させることは困難であり、そのために運用後においても貯槽周囲に良好な凍結領域が形成されないことが想定され、この種の施設に要求される信頼性や安全性の点で問題を残す懸念があるためである。
そのため、凍結式の低温岩盤貯槽の施工に際しては、貯槽としての空洞を掘削するに先立ってその上方に大規模な注水トンネルや注水ボーリング孔を先行施工し、そこから空洞掘削領域の周囲岩盤に対して人工的な地下水涵養としての多量の注水を連続的に行うことによって周囲岩盤を常に飽和状態に維持しつつ空洞を掘削する必要があるとされ、そのために多大な手間とコストを要するものであった。
【0006】
一方、メンブレン式の低温岩盤貯槽では、逆に施工途中においては空洞周囲の地下水位を低下させて周囲をドライとして掘削を行うことが有利である。すなわち、メンブレン式の場合には地中に掘削した空洞内に覆工としての躯体を施工するのであるが、そのような施工を地下水位以深の岩盤内で行うことは、多量の地下水流入が生じてしまうばかりでなく、施工途中の覆工材、特に躯体コンクリートやメンブレン材に対して大きな地下水圧が外圧として作用してしまうことから、施工性の点でも施工精度を確保する上でも著しく困難である。
したがって、メンブレン式の低温岩盤貯槽の施工に際しては、通常の土中工事の場合と同様に周囲岩盤から地下水を排水して地下水位を低下させることにより、施工領域をドライとして空洞を掘削し覆工を施工する必要がある。そして、そのためには空洞を掘削するべき領域の下方に集水および排水のための大規模な排水トンネルや排水ボーリング孔を先行施工し、そこから地下水を多量に汲み上げて地下水位を低下させて空洞周囲をドライに維持する必要があり、そのような大規模な排水工法を実施するために多大な手間とコストを要するものである。しかも、そのような工法によっても岩盤状況によっては必ずしも充分にドライにできないことも想定され、その場合には覆工時に地下水圧が作用して施工性が良くないばかりか施工品質に悪影響が及ぶ懸念がある。
【0007】
また、メンブレン式の場合においても、貯槽完成後の低温貯蔵開始後に周囲岩盤からの排水を中止することによりいずれは地下水位が回復し、したがって運用後には貯槽周囲に凍結領域が形成されてそれが二次バリアとして機能するとも考えられるが、上述したように施工中には周囲岩盤が不飽和化されることから良好な凍結領域が形成される保証はなく、そのような凍結領域には二次バリアとして充分な機能を期待できないことも想定されるから、それを見越して覆工の設計を行う必要がある。
【0008】
さらに、貯槽を完成させた後には短時間にクールダウンを行って低温貯蔵を開始するが、貯槽周辺が完全に不飽和でない場合は、局所的に大きな地下水圧が作用したり、凍結膨張により周囲岩盤に異常なクラックが生じるような懸念も完全には否定できず、構造的な安定性や信頼性を確保するためには地下水圧の作用や凍結膨張による悪影響を可及的に排除する必要があると考えられている。
【0009】
なお、特許文献1には貯槽の周囲に形成される凍結領域が地表部付近にまで達してしまうことを防止する目的で、貯槽の上方の岩盤中に設けた水封ボーリング内において水を循環させることにより周囲地盤を凍結温度以上に維持することが開示されている。また、特許文献2には、LNG用の一般的な地下タンクにおける周知技術として周囲岩盤の凍結をヒーティングパイプによって防止することが開示されている。
そのような凍結防止手法をメンブレン式の低温岩盤貯槽の周囲岩盤に対しても適用すれば凍結膨張による覆工に対する弊害を防止できると考えられるが、それを実現するための具体的かつ有効適切な手法は提案されていない。
【0010】
上記事情に鑑み、本発明は、周囲岩盤から地下水圧を受けることによる悪影響や、周囲岩盤が凍結膨張することによる悪影響を有効に排除し得て、構造的な安定性や信頼性を充分に向上させることができる有効適切な構造のメンブレン式の低温岩盤貯槽を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、岩盤内に掘削された空洞の表面に、吹付コンクリート、躯体コンクリート、保冷材、メンブレン材からなる覆工を形成し、その内部空間を低温流体を貯蔵するための貯槽とするメンブレン式の低温岩盤貯槽であって、前記吹付コンクリート中に、周囲岩盤から地下水を集水して排水するための排水路網を埋設し、前記躯体コンクリート中に、温水やブライン等の加温媒体を循環させることにより躯体コンクリート、吹付コンクリートおよび周囲岩盤を凍結温度以上に維持するための加温管路網を埋設するとともに、該加温管路網を前記排水路網の内側に重なる位置に配置してなることを特徴とする。
【0012】
本発明においては、空洞をトンネル状に掘削し、吹付コンクリート中に埋設する排水路網を、該空洞の軸方向に沿う縦排水路と周方向に沿う横排水路とを交差させてなる縦横の格子網として形成し、躯体コンクリート中に埋設する加温管路網を、前記排水路網における縦排水路の内側に重なる位置に配置した加温管の端部どうしを接続することによって空洞の軸方向に往復する蛇行状態に形成し、かつ、躯体コンクリートをトンネル軸方向に打ち継いで形成するとともに、その打ち継ぎ部に形成する目地部をいずれかの横排水路の内側に重なる位置に形成することが好ましい。
その場合においては、排水路網を形成する縦排水路および横排水路を、いずれも横断面形状が扁平な矩形断面の長尺帯板状の板状排水材により形成することが好ましい。
また、躯体コンクリート中に、吹付コンクリートを越えて浸入してくる地下水を集水して排水するための二次排水路網を埋設することも考えられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、躯体コンクリートに埋設した加温管路網に加温媒体を強制循環させて躯体コンクリートおよびその周囲岩盤の温度を制御することによって、凍結領域が躯体コンクリートおよびその外側にまで生じることを防止でき、それにより従来においては懸念されていた凍結膨張に起因する悪影響を排除できて覆工の構造力学的な信頼性と安全性を十分に確保することができる。
また、周囲岩盤には凍結領域が生じないことから周囲岩盤中の地下水は常に排水路網により集水されて速やかに排水されてしまい、したがって貯槽完成後に覆工に対して過大な地下水圧が外圧として作用することもなく、この点においても覆工の構造力学的な信頼性を向上させることができる。
さらに、施工段階においても排水路網を通して周囲岩盤からの排水を行うことが可能であり、それにより従来一般のメンブレン式の貯槽を施工する場合のように大がかりな排水トンネルや排水ボーリング孔を設けて周囲岩盤全体をドライにするような必要がなく、したがって施工性を十分に改善することができて工期短縮、工費削減に大きく寄与できるものである。
勿論、排水路網の内側にはそれに重なる位置に加温管路網を設けているので、排水路網が効果的に加温されて凍結してしまうことはなく、常に安定な集水と排水を確実に行うことができる。
【0014】
しかも、排水路網を縦排水路と横排水路とによる縦横の格子状に形成することにより、空洞全体からの集水と排水を確実に行い得るし、縦排水路と横排水路としていずれも扁平な帯板状の板状排水材を使用することにより、小断面で充分な集水量と通水量を確保できるばかりでなく、それを埋設する吹付コンクリートの厚みを必要以上に大きくする必要もない。
また、躯体コンクリートにも同様の排水路網を設ければ、吹付コンクリートを越えて浸入してくる地下水をさらに集水して排水することができるので、より万全である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1〜図6は本発明の実施形態である低温岩盤貯槽の概略構成を示すものである。
本実施形態の低温岩盤貯槽は、岩盤に形成された略馬蹄形断面のトンネル状の空洞1の内面に、吹付コンクリート2、調整コンクリート3、躯体コンクリート4、保冷材5、メンブレン材6を順次積層状態で形成してメンブレン式の覆工を形成することにより、LNGやLPG、DME等の低温流体の貯槽(タンク)として機能するものであるが、本実施形態の低温岩盤貯槽が従来一般のものと異なる点は、吹付コンクリート2中に周囲岩盤からの地下水を常に集水して排水するための排水路網7が埋設されているとともに、躯体コンクリート4中には加温媒体を循環させることにより躯体コンクリート4およびその外側の温度を常に凍結温度以上に維持するための加温管路網8が埋設されている点にある。
【0016】
すなわち、従来一般のこの種の低温岩盤貯槽では、上述したように低温流体の貯蔵によって周囲岩盤に自ずと生じる凍結領域を二次バリアとしても活用することを基本としているのであるが、それは反面において凍結膨張による種々の悪影響が問題となることもあることから、本実施形態の低温岩盤貯槽ではそのような凍結領域を敢えて生じさせないものとしており、そのために躯体コンクリート4中に埋設した加温管路網8にたとえば20℃程度の温水やブライン(不凍液)を常時強制循環させることによって、躯体コンクリート4より外側の温度を少なくとも氷点以上の温度に維持するものとしている。
【0017】
但し、その場合には周囲岩盤中の地下水圧がそのまま覆工に対して外圧として常に作用してしまうことから、その対策として本実施形態では吹付コンクリート2中に排水路網7を埋設しておき、周囲岩盤中の地下水をその排水路網7を通して積極的に空洞1内に流入させて常に排水することとしている。それにより、貯槽完成後には覆工に対して過大な地下水圧が作用することを有効に防止できるとともに、施工段階においてもその排水路網7を有効に利用して周囲岩盤からの排水を行うことが可能であるから、従来のように大がかりな排水トンネルや排水ボーリング孔を設けて周囲岩盤全体をドライにするような必要なく、覆工を効率的にかつ精度良く安全に施工し得るものとなっている。
【0018】
本実施形態の低温岩盤貯槽の構造について、その施工手順とともに詳細に説明する。
空洞1を掘進しつつ必要に応じてロックボルトの打設を行い、空洞1の内面にコンクリートを吹き付けて吹付コンクリート2を形成していくが、その際には吹付コンクリート2中に図2〜図3に示すように排水路網7を埋設していく(図2では後段で施工する躯体コンクリート4を鎖線で示し、保冷材5およびメンブレン材6の図示は省略している)。
【0019】
排水路網7としては、たとえば土木工事の分野において法面排水用の資材として使用されている樹脂製の成形品や多孔質材料あるいは有孔管等も採用可能であるが、本実施形態で横断面形状が扁平な矩形断面とされている長尺帯板状の板状排水材を使用し、それを空洞1の軸方向と周方向の双方に沿うように設置している。
すなわち、空洞1の底面と周面には、空洞1の軸方向に沿う縦排水路7aおよび周方向に沿う横排水路7bとなる板状排水材がそれぞれ所定間隔で交差させた状態で配置されて、それらの全体で縦横の格子網としての排水路網7が形成されている。その排水路網7は空洞1の底面中央部に設けられた主排水溝9に接続されていて、その内部には有孔ヒューム管等の主排水管10が敷設されている。それら主排水溝9および主排水管10は坑口側に向かって下がり勾配としておいて自然流下による排水を行うと良い。
これにより、周囲岩盤からの地下水はこの排水路網7によって集水されて主排水管10を通して排水され、したがってこのような排水路網7を施工した以降は、後段の躯体コンクリート4や保冷材5、メンブレン材6の施工に際しても、また貯槽完成後にも、それらに大きな地下水圧が作用することはない。
【0020】
上記の排水路網7を埋設しつつ吹付コンクリート2を施工した後、その内側に必要に応じて調整コンクリート3を打設し、さらにその内側に躯体コンクリート4を打設するが、その際には図2および図4に示すように躯体コンクリート4中に加温管路網8を埋設していく。
加温管路網8は躯体コンクリート4の全面に対して温水やブライン等の加温媒体を強制循環させることによって躯体コンクリート4を加温し、それにより排水路網7はもとより周囲岩盤の凍結を防止するためのものである。
加温管路網8としては、躯体コンクリート4全体が可及的に均等な温度となって温度むらが生じないように、かつ循環抵抗が過大にならないように、その位置やピッチを適宜設定して設ければ良いが、本実施形態では多数本(図4では32本)の加温管8aを空洞1の軸方向に平行に敷設するとともに、図2に示すようにそれら加温管8aをいずれも上記の排水路網7を形成している縦排水路7aの内側に重なる位置に配置して、調整コンクリート3(調整コンクリート3を省略する場合にはその下地としての吹付コンクリート2)に対してサドル11を介してアンカー12により固定するものとしている。そして、図4〜図5に示すように複数本の加温管8aを1組として隣接している加温管8aの両端部どうしを交互に接続することによって、1系統の加温管路網8を空洞の軸方向に往復するような蛇行状態に形成している(図4では全32本の加温管8aを4本あるいは6本ずつで1系統として、全6系統の加温管路網8を設けた場合の例を示している)。
【0021】
なお、加温媒体を加温しつつ強制循環させるための装置が当然に必要であるので、図5に示すように熱源装置13や循環ポンプ14等の主装置類を地表部に適宜設ければ良い。また、加温媒体を加温するための熱源としては自然エネルギーや各種の排熱を有効利用することが好ましく、立地条件によっては、また周囲環境に対して悪影響を及ぼす懸念がない場合には、たとえば海水や湖沼水、河川水等の天然水と加温媒体との熱交換、あるいはそれら天然水を加温媒体として直接利用することが考えられるし、地熱や太陽熱の利用も考えられる。勿論、この貯槽に貯蔵する低温流体を使用する施設から人為的に発生する様々な排熱、たとえばタービン排熱や、ボイルオフガスを再液化するための冷凍サイクルからの排熱等の有効利用も考えられる。
【0022】
以上のようにして加温管路網8を埋設しながら躯体コンクリート4を施工していく際には、躯体コンクリート4を空洞1の軸方向に所定距離ずつ段階的に打ち継いでいくことになるから、その打ち継ぎ部には目地部を形成する必要があるが、本実施形態では図2(b)に示すように目地部4aをいずれかの横排水路7bの内側の位置に形成するものとしている。そのため、排水路網7を埋設しながら吹付コンクリート2を施工していく段階で目地部4aの形成予定位置を事前に決定しておき、目地部4aを形成するべき予定位置には横排水路7bを必ず埋設しておくこととする。
これにより、目地部4aでの止水性能が万一損なわれることを想定しても、その背面側に設置されている横排水路7bによって排水がなされることから、目地部4aを通して躯体コンクリート4の内側への漏水が生じる事態を未然に防止することができる。
なお、躯体コンクリート4を空洞1の周方向に打ち継ぐような場合には、空洞1の軸方向に沿う目地部を形成することになるので、その場合は縦排水路7aの内側の位置に目地部を設ける(その目地部の形成予定位置に予め縦排水路7aを形成しておく)と良い。
【0023】
躯体コンクリート4を施工した後、その表面にたとえば硬質ポリウレタンフォーム等の適宜の保冷材5(すなわち断熱材)を全面的に取り付け、さらにその表面にステンレス薄鋼板等からなるメンブレン材6を全面的に取り付けて覆工を完成させる。
その際には、上述したように周囲の地下水は排水路網7により集水されて排水されてしまうので、覆工の施工段階では大きな地下水圧が作用することはなくその作業を効率的に実施することができる。
【0024】
以上により覆工が完成した後には、低温流体の貯蔵に先立って覆工および周囲岩盤をクールダウンするのであるが、それに先立ち、加温管路網8に加温媒体を強制循環させて躯体コンクリート4に対する加温を開始し、低温流体の貯蔵後においても周囲岩盤温度が氷点温度以下に低下しないように加温媒体の循環温度や循環量を制御する。
具体的には、たとえば加温媒体として温水を使用してその供給温度を15℃、還り温度を5℃に設定して、躯体コンクリート4各部の平均温度が10℃程度となるように維持するように制御する。このような制御を行うことにより、低温流体を貯蔵した後にも凍結線(0℃等温線)は加温管路網8の内側に留まり、その外側に凍結領域が生じることはない。
【0025】
LNG(−162℃)を貯蔵するための貯槽に対して上記のような温度制御を行った場合の躯体コンクリート4の温度変化を解析した結果を以下に示す。解析モデルとしては、半径10mの円形断面の空洞1を地表面下60mの深度に水平に掘削し、その内面に、吹付コンクリート2および調整コンクリート3の厚さをそれぞれ10cm、躯体コンクリート4の厚さを50cm、保冷材5(硬質ウレタンフォーム)の厚さを30cmとした覆工を形成し(したがって貯槽としての有効半径が9m)、躯体コンクリート4中に32本の加温管8aを空洞1の軸方向に沿わせて周方向に等間隔(中心角11.25度)で配設し、加温媒体としての温水の供給温度を15℃、還り温度を5℃に制御したものである。外気温度は15℃、規定温度境界位置(深度−210m)における岩盤温度は21.3℃と想定した。
その解析により、温水による加温制御を行わない場合には、躯体コンクリート4の温度は運用開始後から急速に低下して約50年後(約18000日後)には−50℃にもなるのに対し、上記のような加温制御を行うことにより+5℃程度で安定してそれ以下となることはなく、したがって凍結領域が躯体コンクリート4の外側にまで達することがないことが確認できた。
【0026】
なお、加温管8aの単位長さあたりの放熱量からの解析によると、加温管8aでの水温低下は1000mにつき0.8deg程度に過ぎず、したがって上記のように往還の水温差を10degとする場合には1系統の管路長を10000m以上にもできる。したがってたとえば空洞長が500mの場合には、500mの長さの加温管8aを20本接続して空洞1を10往復するような蛇行状態の加温管路網8を1系統として設ければ良く、そのような加温管路網8をわずか2系統設けることで充分である。
【0027】
以上で説明した本実施形態の低温岩盤貯槽によれば、躯体コンクリート4に埋設した加温管路網8に加温媒体を強制循環させて躯体コンクリート4およびその周囲岩盤の温度を制御することによって、凍結領域が躯体コンクリート4およびその外側にまで生じることを防止でき、それにより従来においては懸念されていた凍結膨張に起因する悪影響を排除できて覆工の構造力学的な信頼性と安全性を十分に確保することができる。
【0028】
また、周囲岩盤には凍結領域が生じないことから周囲岩盤中の地下水は常に排水路網7により集水されて主排水管10を通して速やかに排水されてしまい、したがって貯槽完成後に覆工に対して過大な地下水圧が外圧として作用することもなく、この点においても覆工の構造力学的な信頼性を向上させることができる。
しかも、施工段階においても排水路網7を通しての周囲岩盤からの排水を行うことが可能であり、それにより従来一般のメンブレン式の貯槽を施工する場合のように大がかりな排水トンネルや排水ボーリング孔を設けて周囲岩盤全体をドライにするような必要がなく、したがって施工性を十分に改善することができて工期短縮、工費削減に大きく寄与できるものである。
【0029】
特に、排水路網7を縦排水路7aと横排水路7bとによる縦横の格子状に形成したので、空洞1全体からの集水と排水を確実に行い得るし、縦排水路7aと横排水路7bとしてはいずれも扁平な矩形断面の帯板状の板状排水材を使用したので小断面であっても充分な集水量と通水量を確保できるばかりでなく、それを埋設する吹付コンクリート2の厚みを必要以上に大きくする必要もない。
勿論、排水路網7の内側には加温管路網8を設け、しかも各加温管8aを縦排水路7aの内側に重なる位置に配置しているので、排水路網7が加温管路網8によって効果的に加温されて凍結してしまうことはなく、常に安定な集水と排水を確実に行うことができる。
【0030】
以上で本発明の一実施形態を説明したが、上記実施形態はあくまで好適な一例に過ぎず、本発明は上記実施形態に限定されることなく適宜の設計的変更や応用が可能である。
たとえば、上記実施形態では排水路網7を縦排水路7aと横排水路7bとによる縦横の格子状に形成したが、それに限るものでもなく、空洞1の周囲全体からの集水と排水が可能であれば縦排水路7aのみあるいは横排水路7bのみを設けることでも良いし、逆にほぼ全面的にマット状の排水路網として設けることでも良い。
また、加温管路網8の構成も、躯体コンクリート4およびそのその外側の岩盤を効果的に加温でき、かつ躯体コンクリート4中の排水路網7の凍結を防止するようにその内側に重なるように設ければ良く、その限りにおいては上記実施形態のように加温管8aを軸方向に往復する蛇行状態に設けることに代えて、加温管を周方向に往復するような蛇行状態に設けたり、あるいは周方向に連続する一連の螺旋状態に形成することも考えられる。
【0031】
また、上記実施形態のように排水路網7を吹付コンクリート2に埋設することに加えて、さらに躯体コンクリート4にも排水路網を設けることが考えられる。
すなわち、上記実施形態における排水路網7によって空洞1に流入してくる地下水の大半をこれにより集水し排水することを基本としつつ、図6に示すように躯体コンクリート4にも同様の二次排水路網20を設ければ、吹付コンクリート2および調整コンクリート3を越えて浸入してくる地下水をさらに集水して排水することができる。
その場合、二次排水路網20としては上記の排水路網7と同様に扁平な板状排水材を使用すると良く、それを(a)に示すように加温管8aの間に縦排水路20aとして設けるか、あるいは(b)に示すように縦排水路20aと横排水路20bとを格子状に設ければ良い。なお、横排水路20bを設ける場合には加温管8aと交差することになるので、加温管8aを横排水路20bの厚み相当分だけ調整コンクリート3の表面から浮かせた状態で配置すれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態である低温岩盤貯槽の概略構成を示す横断面図である。
【図2】同、排水路網および加温管路網を示す部分拡大図である。
【図3】同、排水路網の配置状況を示す図である。
【図4】同、加温管路網の配置状況を示す図である。
【図5】同、加温管路網の概略系統を示す図である。
【図6】同、排水路網の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
1 空洞
2 吹付コンクリート
3 調整コンクリート
4 躯体コンクリート
4a 目地部
5 保冷材
6 メンブレン材
7 排水路網
7a 縦排水路
7b 横排水路
8 加温管路網
8a 加温管
9 主排水溝
10 主排水管
11 サドル
12 アンカー
13 熱源装置
14 循環ポンプ
20 二次排水路網
20a 縦排水路
20b 横排水路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
岩盤内に掘削された空洞の表面に、吹付コンクリート、躯体コンクリート、保冷材、メンブレン材からなる覆工を形成し、その内部空間を低温流体を貯蔵するための貯槽とするメンブレン式の低温岩盤貯槽であって、
前記吹付コンクリート中に、周囲岩盤から地下水を集水して排水するための排水路網を埋設し、
前記躯体コンクリート中に、温水やブライン等の加温媒体を循環させることにより躯体コンクリート、吹付コンクリートおよび周囲岩盤を凍結温度以上に維持するための加温管路網を埋設するとともに、該加温管路網を前記排水路網の内側に重なる位置に配置してなることを特徴とする低温岩盤貯槽。
【請求項2】
請求項1記載の低温岩盤貯槽であって、
空洞をトンネル状に掘削し、
吹付コンクリート中に埋設する排水路網を、該空洞の軸方向に沿う縦排水路と周方向に沿う横排水路とを交差させてなる縦横の格子網として形成し、
躯体コンクリート中に埋設する加温管路網を、前記排水路網における縦排水路の内側に重なる位置に配置した加温管の端部どうしを接続することによって空洞の軸方向に往復する蛇行状態に形成し、
かつ、躯体コンクリートをトンネル軸方向に打ち継いで形成するとともに、その打ち継ぎ部に形成する目地部をいずれかの横排水路の内側に重なる位置に形成してなることを特徴とする低温岩盤貯槽。
【請求項3】
請求項2記載の低温岩盤貯槽であって、
排水路網を形成する縦排水路および横排水路を、いずれも横断面形状が扁平な矩形断面の長尺帯板状の板状排水材により形成してなることを特徴とする低温岩盤貯槽。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の低温岩盤貯槽であって、
躯体コンクリート中に、吹付コンクリートを越えて浸入してくる地下水を集水して排水するための二次排水路網を埋設してなることを特徴とする低温岩盤貯槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−208889(P2008−208889A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−45139(P2007−45139)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】