説明

低鉄損方向性電磁鋼板の製造方法

【課題】中間焼鈍において、従来技術よりも効率よく脱炭することができ、薄物でも安定して低鉄損が得られる方向性電磁鋼板の有利な製造方法を提案する。
【解決手段】C:0.02〜0.15%、Si:2.0〜7.0%、Mn:0.005〜0.3%、酸可溶性Al:0.01〜0.05%、N:0.002〜0.012%、SおよびSeのうちから選ばれる1種または2種を合計で0.05%以下を含有する鋼スラブを熱間圧延し、1回以上の中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施して最終板厚とした後、一次再結晶焼鈍を施し、その後、仕上焼鈍を施す一連の工程からなる方向性電磁鋼板の製造方法において、上記いずれかの中間焼鈍において、鋼板表面に鉄系酸化物層を形成し、必要に応じて還元して純鉄層を形成した後、脱炭することを特徴とする方向性電磁鋼板の有利な製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶粒がミラー指数で、板面に{110}、圧延方向に<001>の方位に高度に集積した、低鉄損の方向性電磁鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は、軟磁性材料の一種であり、主に変圧器や電動機等の電気機器の鉄心材料として広く用いられている。この方向性電磁鋼板は、二次再結晶を利用して、結晶粒を{110}<001>方位(以降、「Goss方位」とも称する。)に高度に集積させることによって、優れた磁気特性を付与したものである(例えば、特許文献1参照)。方向性電磁鋼板の磁気特性を表す指標としては、磁場の強さ800A/mにおける磁束密度Bと、励磁周波数50Hzの交流磁場で1.7Tまで磁化したときの鋼板1kgあたりの鉄損W17/50が一般に用いられている。
【0003】
方向性電磁鋼板の鉄損を、より低減する方法としては、二次再結晶粒の方位をGoss方位に高度に集積させることや、二次再結晶粒を微細化して磁区を細分化することが有効であることが知られている。
【0004】
二次再結晶粒のGoss方位への集積度を高めるためには、予め先鋭なGoss方位粒のみが優先的に成長できるよう、一次再結晶焼鈍板の集合組織を造り込んでおくことが重要である。先鋭なGoss方位粒のみが優先成長できるマトリックス方位としては、{111}<112>粒や、{12 4 1}<014>粒が知られており、これらの方位粒を一次再結晶焼鈍板のマトリックス中にバランス良く形成させておくことで、二次再結晶後のGoss方位粒を高度に集積させることができる。
【0005】
このような技術としては、例えば、特許文献2には、一次再結晶焼鈍板において、鋼板の表層近傍の集合組織がBungeのオイラー角表示で、φ1=0°、Φ=15°、φ2=0°の方位から10°以内、またはφ1=5°、Φ=20°、φ2=70°の方位から10°以内に極大方位を有し、かつ鋼板の中心層の集合組織が同じくBungeのオイラー角表示で、φ1=90°、Φ=60°、φ2=45°の方位から5°以内に極大方位を有する場合に、安定して優れた磁気特性を有する二次再結晶焼鈍板を製造できることが開示されている。
【0006】
一次再結晶焼鈍板の集合組織を制御する因子の一つに、最終冷間圧延の圧下率がある。例えば、特許文献3には、最終冷間圧延の圧下率が70〜91%の好適範囲があり、一般的な方法を用いて、最終冷間圧延圧下率をこの範囲として方向性電磁鋼板を製造した場合には、安定して優れた磁気特性が得られることが開示されている。
【0007】
近年、省エネルギー化への要求の高まりから、低鉄損の方向性電磁鋼板への需要が急激に拡大している。鉄損値を決める一因である古典的渦電流損は、非特許文献1によると、板厚の二乗に比例する、つまり、板厚を薄くすることで、鉄損は大きく改善されることが開示されている。したがって、方向性電磁鋼板の低鉄損化を実現するためには、板厚が薄い方向性電磁鋼板を安定して生産できることが重要となる。しかし、方向性電磁鋼板の素材となる鋼は、Siを多量に含むことから熱間加工性が悪く、熱間圧延で薄鋼板を製造するには限界がある。そこで、最終冷間圧延の圧下率を、上記の好適範囲に制御する方法として、いわゆる「冷延二回法」が採用されている。
【0008】
冷延二回法を用いて方向性電磁鋼板を製造する方法において、先鋭なGoss方位粒のみを優先的に成長させることができる一次再結晶焼鈍板の集合組織を造り込む技術としては、これまで多くの方法が提案されている。例えば、特許文献4には、中間焼鈍後の冷却を制御し、最終冷間圧延前の炭化物の析出形態を適正範囲に制御することで、優れた一次再結晶焼鈍板の集合組織を造り込む技術が開示されている。
上記のように、二次再結晶焼鈍板の結晶粒をGoss方位に高度に集積させる技術は、ある程度完成された技術である。
【0009】
一方、二次再結晶焼鈍板の結晶粒を微細化するためには、一次再結晶焼鈍板において、二次再結晶の核となるGoss方位粒を多数形成させておくことが重要である。非特許文献2によると、二次再結晶の核となるGoss方位粒は、板厚表層から約1/10層に存在する。よって、二次再結晶焼鈍板の結晶粒を微細化するためには一次再結晶焼鈍板の板厚表層から1/10層にGoss方位粒の核を多数形成させておくことが必要である。
【0010】
一次再結晶焼鈍板の板厚表層から1/10層におけるGoss方位粒の核を増加させる手段としては、中間焼鈍工程の前部領域で脱炭することが有効である。例えば、特許文献5には、中間焼鈍前部領域の雰囲気の酸化度を、PH2O/PH2で0.02〜0.20となるように制御し、その前部領域で鋼中の炭素を0.006〜0.020mass%脱炭する技術が開示されている。また、特許文献6には、脱炭焼鈍において酸素含有雰囲気中で焼鈍し、鋼板表面に鉄系酸化物を形成させ、さらに均熱帯の雰囲気ガスを鉄系酸化物が形成されない酸化度(PH2O/PH2)に制御することで、一次再結晶焼鈍における内部酸化層を形成させずに脱炭させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特公昭40−015644号公報
【特許文献2】特開2001−060505号公報
【特許文献3】特許第4123653号公報
【特許文献4】特開昭63−259024号公報
【特許文献5】特開昭59−143022号公報
【特許文献6】特開2002−332523号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Brailsford,F.:Investigation of the Eddy−Current Anomaly in Electrical Sheet Steels.:J.Inst.Elec.Engrs.,London,England,vol.95,no.43,pt.II,1948,p.38−48.
【非特許文献2】井口征夫、「一方向性珪素鋼の2次再結晶機構」:「鉄と鋼」,第70年(1984年)第15号、p.2033−2040.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、方向性電磁鋼板の鉄損特性を改善する技術として、特許文献5および特許文献6に記載されたように、中間焼鈍前部領域において鋼板表層を脱炭し、一次再結晶焼鈍板の板厚表層近傍におけるGoss方位粒の核を増加させる方法は、それなりの効果を発現するものの、開示された雰囲気制御法で所望の低鉄損特性を達成するためには、脱炭に長時間を要し、生産性を確保する観点からは、さらに改善の余地がある。
【0014】
そこで、本発明の目的は、中間焼鈍において、従来技術よりも効率よく脱炭することができ、薄物でも安定して低鉄損が得られる方向性電磁鋼板の有利な製造方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明者らは、上記課題を解決するべく、中間焼鈍条件に着目して鋭意検討を重ねた。その結果、いずれかの中間焼鈍の前段において鋼板表面に積極的に鉄系酸化物層を形成させた後、後段で雰囲気酸化度(PH2O/PH2)を制御し脱炭することで、従来よりも効率よく脱炭することができることを見出した。さらに、上記鉄系酸化物層を形成した後、脱炭する前に、雰囲気酸化度(PH2O/PH2)を0.20以下に制御することで、上記鉄系酸化物層が還元され、さらに効率よく脱炭することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0016】
すなわち、本発明は、C:0.02〜0.15mass%、Si:2.0〜7.0mass%、Mn:0.005〜0.3mass%、酸可溶性Al:0.01〜0.05mass%、N:0.002〜0.012mass%、SおよびSeのうちから選ばれる1種または2種を合計で0.05mass%以下含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを熱間圧延し、1回以上の中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施して最終板厚とした後、一次再結晶焼鈍を施し、その後、仕上焼鈍を施す一連の工程からなる方向性電磁鋼板の製造方法において、上記いずれかの中間焼鈍において、鋼板表面を酸化して鉄系酸化物層を形成後、脱炭することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法を提案する。
【0017】
本発明の方向性電磁鋼板の製造方法は、上記鉄系酸化物層の酸素目付量を0.05〜11g/mの範囲に制御することを特徴とする。
【0018】
また、本発明の方向性電磁鋼板の製造方法は、上記鉄系酸化物層を形成後、脱炭する前に、雰囲気酸化度(PH2O/PH2)を0.20以下に制御することを特徴とする。
【0019】
また、本発明の方向性電磁鋼板の製造方法は、上記脱炭する際の雰囲気酸化度(PH2O/PH2)を0.15〜0.60の範囲に制御することを特徴とする。
【0020】
また、本発明の方向性電磁鋼板の製造方法における鋼スラブが、上記成分組成に加えてさらに、Ni:0.005〜1.5mass%、Sn:0.005〜0.50mass%、Sb:0.005〜0.50mass%、Cu:0.005〜1.5mass%、P:0.005〜0.03mass%、Ge:0.005〜0.03mass%、V:0.005〜0.03mass%、Nb:0.005〜0.03mass%、As:0.005〜0.03mass%、Cr:0.003〜0.30mass%、Bi:0.005〜0.02mass%およびTe:0.005〜0.02mass%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする。
【0021】
また、本発明の方向性電磁鋼板の製造方法は、上記一次再結晶焼鈍の昇温過程における500〜700℃間の昇温速度を50℃/s以上とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、中間焼鈍における脱炭を効率よく行うことで、従来技術より良好な一次再結晶板集合組織を造り込むことができるので、従来にも増して優れた磁気特性を有する方向性電磁鋼板を製造することが可能となる。特に、低鉄損とすることが難しい板厚0.23mmのような薄物でも、二次再結晶焼鈍後の鉄損W17/50:0.80W/kg以下を安定して達成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】中間焼鈍における酸化物層形成条件、還元条件および脱炭条件が、脱炭量に及ぼす影響を示す図である。
【図2】中間焼鈍における酸化物層形成条件、還元条件および脱炭条件が、二次再結晶後の鋼板の鉄損に及ぼす影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の方向性電磁鋼板の製造方法は、所定の成分組成を有する鋼スラブを熱間圧延し、1回以上の中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施して最終板厚とした後、一次再結晶焼鈍を施し、その後、二次再結晶焼鈍を施す一連の工程からなる方向性電磁鋼板の製造方法において、上記いずれかの中間焼鈍において、前段で雰囲気酸化度(PH20/PH2)を高めて鋼板表面にFeやFeO等の鉄系酸化物層を形成後、必要に応じて中段を設け、その中段で雰囲気酸化度(PH20/PH2)を下げて上記酸化物層を還元して純鉄層を形成させた後、さらに後段で雰囲気酸化度(PH2O/PH2)を適正範囲に制御して脱炭するところに特徴がある。
以下、上記中間焼鈍での処理条件について、実験データを用いて説明する。
【0025】
C:0.06mass%、Si:3.2mass%、Mn:0.10mass%、酸可溶性Al:0.020mass%、N:0.007mass%、S:0.003mass%およびSe:0.02mass%を含有する鋼スラブを、1350℃の温度に加熱後、熱間圧延して板厚2.0mmの熱延板とした後、1000℃×40secの熱延板焼鈍を施してから、冷間圧延して板厚1.5mmの中間冷延板とした。
その後、上記中間冷延板に、連続焼鈍炉を用いて、前段では、酸素含有雰囲気の酸化度(PH2O/PH2)を変えて800℃×10secの熱処理を施して鋼板表面の酸素目付量を0.1g/mと2.0g/mの2水準に変化させ、中段では、還元焼鈍なし(中段なし)、および、上述した雰囲気酸化度(PH2O/PH2)を0.01と0.15の2水準に変化させて800℃×20secの還元処理を施し、後段では、同じく上述した雰囲気酸化度(PH2O/PH2)を0〜0.7の範囲で種々に変化させて800℃×30secの脱炭処理を施し、その後、1080℃×60secの均熱処理を施す中間焼鈍を施した。
次いで、上記中間焼鈍を施した中間冷延板を最終冷間圧延し、板厚0.23mmの最終板厚の冷延板とした後、820℃×120secの脱炭を兼ねた一次再結晶焼鈍を施し、その後、鋼板表面にMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布してから、1150℃×50hrの純化焼鈍と二次再結晶焼鈍を兼ねた仕上焼鈍を施して方向性電磁鋼板とした。
【0026】
斯くして得た方向性電磁鋼板について、中間焼鈍の後段における雰囲気酸化度(PH2O/PH2)と中間焼鈍板の脱炭量との関係を図1に、中間焼鈍の後段における雰囲気酸化度(PH2O/PH2)と仕上焼鈍後の二次再結晶焼鈍板の鉄損W17/50との関係を図2に示した。なお、比較として、図1および図2中には、雰囲気酸化度(PH2O/PH2)を0.10として、前段で800℃×60sec、後段で1080℃×60secの熱処理を施す従来法の中間焼鈍を施した場合における脱炭量と鉄損値を破線にて表示した。
【0027】
図1および図2から、中間焼鈍の前段において、雰囲気酸化度を高めて鋼板表面に鉄系酸化物層を酸素目付量で0.1g/mとなるように形成させた後、雰囲気酸化度を0.15から0.60の範囲に制御した場合(図中の×印)、従来法よりも脱炭が促進され、二次再結晶後の鉄損W17/50も低減していることがわかる。中間焼鈍の前段における酸素目付量を0.1g/mとし、中段において雰囲気酸化度(PH2O/PH2)を0.15として上記鉄系酸化物層を還元して純鉄層を形成させ、その後、雰囲気酸化度(PH2O/PH2)を0.15〜0.60の範囲に制御した場合(図中の●印)には、さらに脱炭が促進され、二次再結晶後の鉄損W17/50も0.80W/kg以下と大きく低減していることがわかる。
【0028】
酸化物層を形成後、焼鈍することで、酸化物の酸素ポテンシャルを利用して脱炭する、いわゆるスケール脱炭が進行する。また、このスケール脱炭は、雰囲気酸化度を0.15〜0.60の範囲に制御したときにより顕著となる。なお、酸化物層を形成後、還元して純鉄層を形成することで脱炭が促進される理由は、還元されて形成された純鉄層は、鋼中のSi,Al等の外部酸化を抑制する一方、拡散速度が速いCを優先的に透過するため、脱炭が効果的に促進されるためと考えられる。そして、中間焼鈍における表層脱炭量が増加することで、中間焼鈍板表層の結晶粒が粗大化し、一次再結晶板表層のGoss方位粒、つまり、二次再結晶でのGoss方位粒の核の数が増加して二次再結晶粒が微細化し、鉄損が改善されるものと考えられる。
【0029】
さらに、図1および図2からは、中間焼鈍の前段における鋼板表面の酸素目付量を0.1g/m(図中の△印)あるいは2.0g/m(図中の□印)とし、その後、雰囲気酸化度(PH2O/PH2)を0.01の還元処理を施す中間焼鈍を施した場合には、脱炭量がさらに増加し、二次再結晶焼鈍板の鉄損値もより低減していることがわかる。これらの結果は、上記条件では、鉄系酸化物層の形成およびその後の還元反応がより促進される結果、中間焼鈍板における表層脱炭量がさらに増大して二次再結晶粒がさらに微細化し、鉄損値がより改善されたことを示している。
本発明は、上記知見に基づき開発したものである。
【0030】
次に、本発明の方向性電磁鋼板が有すべき成分組成について説明する。
本発明の方向性電磁鋼板の素材となる鋼は、C:0.020〜0.15mass%、Si:2.0〜7.0mass%、Mn:0.005〜0.3mass%、酸可溶性Al:0.01〜0.05mass%、N:0.002〜0.012mass%、SおよびSeのうちから選ばれる1種または2種を合計で0.05mass%以下含有するものであることが必要である。
【0031】
C:0.02〜0.15mass%
Cは、熱間圧延時や熱延板焼鈍時におけるオーステナイト−フェライト変態を利用して、熱延板の再結晶組織を微細化するのに必要な元素である。C含有量が0.02mass%未満では、上記熱延板組織の改善効果が小さく、均一な一次再結晶集合組織を得ることが難しい。一方、C含有量が0.15mass%を超えると、後工程での脱炭負荷が増大するばかりでなく、脱炭が不十分となり、製品板において磁気時効を起こす原因ともなる。よって、Cは0.02〜0.15mass%の範囲とする。好ましくは0.04〜0.08mass%の範囲である。
【0032】
Si:2.0〜7.0mass%
Siは、鋼の固有抵抗を増大させて、鉄損の一部を構成する渦電流損を低減するのに有効な元素であり、本発明では、2.0mass%以上を添加する。一方、上記固有抵抗の増大化効果は、Si含有量が11mass%まで続くが、7.0mass%を超えると、加工性が著しく低下し、圧延して製造することが難しくなる。よって、Siは2.0〜7.0mass%の範囲とする。好ましくは3.0〜3.5mass%の範囲である。
【0033】
Mn:0.005〜0.3mass%
Mnは、SおよびSeとMnSおよびMnSeを形成し、二次再結晶焼鈍において正常粒成長を抑制するインヒビターとしての働きをする、方向性電磁鋼板の製造においては極めて重要な元素である。Mn含有量が0.005mass%未満では、インヒビターの絶対量が不足し、上記インヒビターの抑制力が十分に得られない。一方、0.3mass%を超えると、熱間圧延前に完全固溶させるために必要なスラブ加熱温度が高温となったり、インヒビターが粗大析出し、抑制力が不足したりするので好ましくない。よって、Mnは0.005〜0.3mass%の範囲とする。好ましくは0.02〜0.10mass%の範囲である。
【0034】
酸可溶性Al:0.01〜0.05mass%
Alは、NとAlNを形成し、二次再結晶焼鈍において、正常粒成長を抑制するインヒビターとしての働きをする、方向性電磁鋼板の製造においては極めて重要な元素である。Alが、酸可溶性Alとして0.01mass%未満では、上記インヒビターの絶対量が不足するため、抑制力が不十分となる。一方、0.05mass%を超えると、AlNが粗大析出し、やはりインヒビターとしての抑制力が不十分となる。よって、Alは酸可溶性Alとして0.01〜0.05mass%の範囲とする。好ましくは0.015〜0.030mass%の範囲である。
【0035】
N:0.002〜0.012mass%
Nは、Alと結合してインヒビターであるAlNを形成するのに必要な成分である。しかし、0.002mass%未満では、絶対量が不足し、インヒビターの抑制力が不足する。一方、0.012mass%を超えると、冷間圧延時にブリスターと呼ばれる表面欠陥を引き起こすおそれがある。よって、Nは0.002〜0.012mass%の範囲とする。好ましくは0.005〜0.010mass%の範囲である。
【0036】
SおよびSeのうちの1種または2種:合計0.05mass%以下
SおよびSeは、Mnと結合してインヒビターを形成する元素であり、合計で0.01mass%以上含有させることが好ましい。しかし、SおよびSeの合計含有量が0.05mass%を超えると、仕上焼鈍における純化過程で脱S、脱Seが不完全となり、鉄損特性の低下を引き起こすおそれがある。よって、SおよびSeは、合計で0.05mass%以下とする。好ましくは、合計で0.01〜0.03mass%の範囲である。
【0037】
本発明の方向性電磁鋼板は、上記必須成分の他に、Ni,Sn,Sb,Cu,P,Ge,V,Nb,As,Cr,BiおよびTeのうちから選ばれる1種または2種以上を、下記の範囲で添加することができる。
【0038】
Ni:0.005〜1.5mass%
Niは、オーステナイト生成元素であり、熱間圧延時や熱延板焼鈍時におけるオーステナイト−フェライト変態を利用して熱延板組織を改善し、磁気特性の向上を図るのに有用な元素である。しかし、Ni含有量が0.005mass%未満では、上記効果が十分に得られず、一方、1.5mass%を超えると、加工性が低下し、製造性が悪くなるほか、二次再結晶が不安定となって磁気特性が低下するようになる。よって、Niは0.005〜1.5mass%の範囲で添加するのが好ましい。
【0039】
Sn:0.005〜0.50mass%、Sb:0.005〜0.50mass%、Cu:0.005〜1.5mass%、P:0.005〜0.03mass%、Ge:0.005〜0.03mass%、V:0.005〜0.03mass%、Nb:0.005〜0.03mass%、As:0.005〜0.03mass%、Cr:0.003〜0.30mass%、Bi:0.005〜0.02mass%およびTe:0.005〜0.02mass%
Sn,Sb,Cu,P,Ge,V,Nb,As,Cr,BiおよびTeは、固溶状態もしくは炭窒化物の状態で粒界に存在することで、補助インヒビターとしての働きをするので、磁気特性を向上するのに有用な元素である。しかし、いずれの元素も含有量が上記範囲の下限値未満であると、磁気特性の改善効果が小さく、一方、含有量が上記範囲の上限値を超えると、二次再結晶が不安定となり、磁気特性が低下するようになる。よって、これらの元素を添加する場合には、上記範囲で添加するのが好ましい。
【0040】
次に、本発明の方向性電磁鋼板の製造方法について説明する。
本発明の方向性電磁鋼板の製造方法は、上記成分組成に調整した鋼スラブを熱間圧延し必要に応じて熱延板焼鈍した後、1回以上の中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施して最終板厚の冷延板とし、その後、一次再結晶焼鈍を施し、二次再結晶させる仕上焼鈍を施す一連の工程からなる。上記製造工程において、鋼スラブの製造および熱間圧延は、従来公知のインヒビターを含有させた方向性電磁鋼板の製造方法に準じて行えばよく、特に制限はない。以下、熱延板焼鈍以降の工程について説明する。
【0041】
熱延板焼鈍
熱間圧延した鋼板(熱延板)は、その後、必要に応じて、均熱温度:800〜1200℃×均熱時間:2〜300secの熱延板焼鈍を施すのが好ましい。
均熱温度が800℃未満あるいは均熱時間が2sec未満では、未再結晶組織が残存し、熱延板組織の改善が不完となり、所望の均一な再結晶組織を得ることができないおそれがある。一方、均熱温度が1200℃超えあるいは均熱時間が300secを超えると、AlNやMnSeおよびMnSの溶解が進行し、二次再結晶過程でのインヒビターの抑制力が不足し、二次再結晶を起こさず、磁気特性の低下を引き起こすおそれがあるからである。
【0042】
冷間圧延および中間焼鈍
熱延板焼鈍を施した熱延板は、その後、1回以上の中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延によって最終板厚の冷延板とする。ここで、前述したように、本発明の特徴は、上記1回以上の中間焼鈍のいずれかの中間焼鈍において、前段で雰囲気酸化度(PH20/PH2)を高めて鋼板表面にFeやFeO等の鉄系酸化物層を形成した後、好ましくは、中段で雰囲気酸化度(PH20/PH2)を下げて上記酸化物層を還元して純鉄層を形成させ、さらに、後段で雰囲気酸化度(PH2O/PH2)を適正範囲に制御して脱炭するところにある。
【0043】
ここで、いずれかの中間焼鈍の前段において形成させるFeやFeO等の鉄系酸化物層は、酸素目付量で0.05〜11g/mであることが好ましい。0.05g/m未満では、脱炭の促進に必要な純鉄層が十分に得られない。一方、酸素目付量が11g/mを超えると、脱炭が促進され過ぎて板厚中心部まで脱炭が進行し、二次再結晶でGoss粒が蚕食し易い一次再結晶集合組織を形成することができなくなるおそれがある。より好ましい酸素目付量は、0.1〜10g/mの範囲である。
また、上記酸化物層を形成する際は、雰囲気酸化度(PH20/PH2)0.4以上において、600〜900℃で、10〜180secの範囲とするのが好ましい。熱処理温度が600℃未満では、FeSiO、FeSiO等の内部酸化層が形成され、十分な酸素目付量を得ることができない。また、900℃超では、後段の脱炭焼鈍の適正温度域が700〜850℃であるため、エネルギー効率の観点から好ましくない。また、熱処理時間が10sec未満では十分な酸素目付量を得ることができず、一方、180sec超えでは、生産性の観点から好ましくない。なお、焼鈍時の雰囲気は、酸化物層を積極的に形成させるため、大気雰囲気や湿潤雰囲気としてもよい。
【0044】
また、いずれかの中間焼鈍の中段において、必要に応じて上記前段で形成された酸化物層を還元処理するときの雰囲気は、酸化度(PH20/PH2)で0.20以下であることが好ましい。0.20を超える酸化度(PH20/PH2)では、還元力が不足し、脱炭を促進するのに十分な純鉄層を確保することができないからである。より好ましい酸化度(PH20/PH2)は0.15以下である。
また、上記酸化物層を還元する際の熱処理温度と時間は、600〜900℃で、10〜180secの範囲とするのが好ましい。600℃未満あるいは10sec未満では、還元鉄の形成が不十分であり、一方、900℃超えあるいは180sec超えでは、生産性の観点から好ましくない。
【0045】
また、いずれかの中間焼鈍の後段において脱炭を行うための雰囲気は、図1および図2からわかるように、酸化度(PH20/PH2)で0.15〜0.60の範囲であることが好ましい。酸化度(PH20/PH2)が、0.15未満では、脱炭量が不足し、一次再結晶板の板厚表層近傍のGoss方位粒の数が不足し、一方、0.60を超えると、外部酸化層が形成され、脱炭しなくなる。より好ましくは0.30〜0.50の範囲である。
また、脱炭する際の温度と時間は、700〜850℃で、10〜180secの範囲とするのが好ましい。10sec未満では、十分な脱炭量を得ることができず、一方、180secを超えるのは、生産性の観点から好ましくない。
【0046】
なお、上記中間焼鈍の説明では、鋼板表面を酸化して鉄系酸化物層を形成後、必要に応じて当該酸化物層を還元して純鉄層を形成し、さらに脱炭する工程を、連続して1回の中間焼鈍で行う場合について説明したが、中間焼鈍を複数回行う場合には、上記工程を複数の中間焼鈍に分割して行うこともできる。また、熱延板焼鈍を施す場合には、熱延板焼鈍において上記工程の一部または全部を行ってもよく、同様の効果を得ることができる。
【0047】
なお、中間焼鈍を複数回行う場合の最終冷間圧延前の中間焼鈍は、800〜1200℃×2〜300secの均熱処理を施した後、800〜400℃の間を冷却速度10〜200℃/secで冷却することが好ましい。
均熱温度が800℃未満あるいは均熱時間が2sec未満では、未再結晶組織が残存し、一次再結晶板の組織を整粒組織とすることができず、良好な方位への二次再結晶が起こらなくなり、磁気特性の低下を招くおそれがある。一方、均熱温度が1200℃超えあるいは均熱時間が300secを超えると、AlNやMnSeおよびMnSのインヒビターの溶解が進行し、二次再結晶での抑制力が不足して二次再結晶しなくなり、磁気特性の低下を招くおそれがあるからである。
また、800〜400℃間を冷却速度10℃/sec未満とすると、カーバイドの粗大化が進行し、その後の冷間圧延〜一次再結晶焼鈍における集合組織の改善効果が弱まり、磁気特性が低下するおそれがある。一方、冷却速度が200℃/secを超えると、マルテンサイト相の分率が増加し、一次再結晶板の鋼板組織を所望の組織とすることができなくなり、やはり磁気特性の低下を招くからである。
一方、中間焼鈍が1回である場合には、前述した前段における酸化物層を形成する工程、必要に応じて中段において純鉄層を形成する工程、および、後段における脱炭処理の工程を経た後、上記の条件で均熱処理を施し、冷却するのが好ましい。
【0048】
また、最終冷間圧延の圧下率は、低鉄損を得るため、特許文献3に記載された理由から、70〜91%の範囲とするのが好ましい。
【0049】
一次再結晶焼鈍
最終板厚まで冷間圧延した冷延板は、その後、700〜1000℃の均熱温度で一次再結晶焼鈍を施すのが好ましい。均熱温度が700℃未満では、未再結晶部が残存し、均一な一次再結晶集合組織を得ることができない。一方、均熱温度が1000℃を超えると、二次再結晶を起こしてしまうおそれがある。
【0050】
上記の均熱温度を満たして一次再結晶焼鈍を施すことで、均一な集合組織改善が得られる。しかし、発明者らは、上記一次再結晶焼鈍の昇温過程における500〜700℃間の昇温速度を50℃/s以上とすることにより、一次再結晶板集合組織のGoss方位粒の数がさらに増加して二次再結晶粒が微細化し、鉄損特性がより改善されることを見出した。一次再結晶の駆動力は、転位の蓄積歪エネルギーであり、その蓄積歪エネルギー量には結晶方位依存性があり、<111>//ND方位が最も再結晶し易く、Goss方位は相対的に再結晶し難いこと、また、一次再結晶の昇温過程では、比較的低温から組織の回復が起こり、ある温度域を超えたところで転位の蓄積歪エネルギーが解放されて一次再結晶が起こることが知られている
【0051】
しかし、一次再結晶の昇温過程で急速加熱を行った場合には、蓄積歪エネルギーが解放されることなく、即ち、蓄積歪エネルギーを保持したまま高温域まで昇温されるので、通常の昇温速度では本質的に再結晶し難い方位であるGoss方位粒でも容易に再結晶を起こすことができる。なお、上記急速加熱する温度域は、再結晶を起こさせることが目的であるため、冷延組織の回復が起こり、かつ再結晶核が発生する500〜700℃の温度範囲とするのが好ましい。また、急速加熱する昇温速度は、50℃/s未満では、上記温度での組織の回復を十分に抑制することができないため、50℃/s以上とするのが好ましい。
【0052】
なお、一次再結晶焼鈍は、一般に、脱炭焼鈍を兼ねて行われることが多いが、この場合には、焼鈍時の雰囲気を適正な酸化性雰囲気、例えば、PH2O/PH2>0.1として焼鈍を行えばよい。また、高い昇温速度が求められる500〜700℃間の焼鈍雰囲気については、設備制約等により酸化性雰囲気とすることが困難な場合もあり得るが、脱炭は主として800℃近傍で起こるため、500〜700℃間の雰囲気はPH2O/PH2≦0.1であってもよい。また、このような焼鈍雰囲気とすることが困難な場合には、一次再結晶焼鈍と脱炭焼鈍を別々に行ってもよい。
【0053】
仕上焼鈍
一次再結晶焼鈍した鋼板は、その後、必要に応じて、鋼板表面にMgO等を主成分とする焼鈍分離剤を塗布した後、常法に準じて、二次再結晶させてGoss方位粒を成長させる仕上焼鈍を施す。なお、この仕上焼鈍は、水素雰囲気中で行えば、純化焼鈍を兼ねることもできる。
【0054】
上記仕上焼鈍後の鋼板は、その後、絶縁被膜形成および平坦化処理を兼ねた平坦化焼鈍を施し、必要であれば、さらに鋼板表面にレーザー照射等の磁区細分化処理を施して、製品板である低鉄損の方向性電磁鋼板とする。
【実施例1】
【0055】
C:0.06mass%、Si:3.0mass%、Mn:0.10mass%、酸可溶性Al:0.021mass%、N:0.007mass%、S:0.003mass%およびSe:0.02mass%を含有する鋼スラブを、1350℃の温度で加熱後、熱間圧延して板厚2.2mmの熱延板とした後、1050℃×40secの熱延板焼鈍を施した。その後、上記熱延焼鈍板を冷間圧延して板厚1.5mmの中間冷延板とした後、中間焼鈍を施すに際し、前段では、酸素含有雰囲気の酸化度(PH2O/PH2)を種々に変化させて800℃×20secの熱処理を施し、中段では、雰囲気酸化度(PH2O/PH2)を0.10として800℃×10secの還元処理を施し、後段では、雰囲気酸化度(PH2O/PH2)を0.40として800℃×30secの熱処理を施し、その後、1100℃×60secの均熱処理を施す一連の中間焼鈍を施した後、最終冷間圧延して板厚0.23mmの冷延板とした。
その後、上記最終板厚の冷延板に820℃×120secの脱炭を兼ねた一次再結晶焼鈍を施した後、鋼板表面にMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布してから、1150℃×50hrの二次再結晶焼鈍と純化焼鈍を兼ねた仕上焼鈍を施し、製品板とした。
【0056】
表1に、中間焼鈍の前段における鋼板表面への酸素付着量、中段における脱炭量および仕上焼鈍後の二次再結晶板の磁気特性の測定結果を示す。表1から、中間焼鈍前段から、本発明に適合する雰囲気制御を行うことで、二次再結晶板の鉄損W17/50を0.80W/kg以下に低減できることがわかる。また、鋼板表面の酸素目付量を0.1〜10g/mの範囲とすることで、二次再結晶板の鉄損W17/50をさらに低減できることがわかる。一方、No.1の例のように、酸素目付量が0g/mでは、中間焼鈍における表層脱炭がほとんど起こらず、二次再結晶粒の微細化が十分ではないため、磁気特性が悪化している。
【0057】
【表1】

【実施例2】
【0058】
C:0.06mass%、Si:3.3mass%、Mn:0.10mass%、酸可溶性Al:0.026mass%、N:0.008mass%、S:0.003mass%およびSe:0.02mass%を含有する鋼スラブを、1350℃の温度で加熱後、熱間圧延して板厚2.2mmの熱延板とし、1050℃×40secの熱延板焼鈍を施した後、冷間圧延して板厚1.5mmの中間冷延板とした。その後、上記中間冷延板に中間焼鈍を施すに際し、前段では、鋼板表面の酸素目付量として2.0g/mとなるよう雰囲気中の酸素含有量を制御して800℃×10secの熱処埋を施し、中段では、種々の雰囲気酸化度(PH2O/PH2)で800℃×10secの還元処理を施し、後段では、雰囲気酸化度(PH2O/PH2)を0.30として800℃×40secの熱処理を施し、その後、1080℃×60secの均熱処理を施す一連の中間焼鈍を施した後、最終冷間圧延して最終板厚0.23mmの冷延板とした。
その後、上記最終板厚の冷延板に、820℃×120secの脱炭を兼ねた一次再結晶焼鈍を施した後、鋼板表面にMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布してから、1150℃×50hrの二次再結晶焼鈍と純化焼鈍を兼ねた仕上焼鈍を施し、製品板とした。
【0059】
表2に、中間焼鈍の中段における雰囲気酸化度(PH2O/PH2)、中間焼鈍板の脱炭量および二次再結晶板の磁気特性の測定結果を示す。表2から、本発明に適合した雰囲気制御を行うことで、二次再結晶板の鉄損W17/50を0.80W/kg以下に低減できることがわかる。また、中間焼鈍の中段における雰囲気酸化度(PH2O/PH2)を0.20以下とすることで、二次再結晶板の鉄損W17/50をさらに低減することができることがわかる。
【0060】
【表2】

【実施例3】
【0061】
Si:3.2mass%、N:0.008mass%、S:0.003mass%およびSe:0.02mass%を含有し、C,Mn,Alおよびその他の成分を表3に記載した量含有する鋼スラブを1350℃の温度で加熱後、熱間圧延して板厚2.2mmの熱延板とした後、上記熱延板に1050℃×40secの熱延板焼鈍を施し、冷間圧延して板厚1.5mmの中間冷延板とした。その後、中間焼鈍を施すに際し、前段で800℃×10secの熱処理を施し、鋼板表面を酸化して酸素目付量が2.0g/mの酸化物層を形成させ、中段で、雰囲気酸化度(PH2O/PH2)を0.10として800℃×10secの還元処理を施し、後段で、雰囲気酸化度(PH2O/PH2)を0.30として800℃×40secの熱処理を施し、その後、1120℃×60secの均熱処理を行う一連の中間焼鈍を施した後、最終冷間圧延して板厚0.23mmの冷延板とした。
その後、上記最終板厚の冷延板に、820℃×120secの脱炭を兼ねた一次再結晶焼鈍を施した後、鋼板表面にMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布してから、1150℃×50hrの二次再結晶焼鈍と純化焼鈍を兼ねた仕上焼鈍を施し、製品板とした。
【0062】
表3に、各鋼板のSi,N,SおよびSe以外の成分組成と共に、二次再結晶板の磁気特性の測定結果を示す。表3から、No.1〜5の例に示すように、C含有量のみを変化させた場合、No.2〜4に示す範囲、つまり、C:0.02〜0.15mass%で良好な磁気特性が得られることがわかる。No.1の磁気特性が劣る理由は、C含有量が少ないため熱間圧延等でオーステナイト−フェライト変態が起こらず、一次再結晶板集合組織の改善効果が得られなかったためと考えられる。一方、No.5の磁気特性が劣る理由は、C含有量が多過ぎため、逆に一次再結晶板の集合組織が劣化し、さらに、一次再結晶焼鈍での脱炭が不完全であったためと考えられる。
また、表3のNo.6〜45の例は、Cを0.05〜0.08mass%の範囲とし、Al,Mn,Ni,Sn,Sb,Cu,P,Ge,V,Nb,As,Cr,BiおよびTeの添加量を種々に変化させたものである。これらの例から、本発明の範囲でこれらの成分を添加することで、鉄損W17/50が0.80W/kg以下の優れた鉄損特性が安定して得られることがわかる。
【0063】
【表3】

【実施例4】
【0064】
実施例1のNo.3(発明例)で得た板厚0.23mmの冷延板に、表4に示した条件の、脱炭焼鈍を兼ねた一次再結晶焼鈍を施した。なお、一次再結晶焼鈍の昇温手段としては、誘導加熱装置を用い、500〜700℃間の昇温速度を制御した。その後、820℃×120secの脱炭処理を施し、鋼板表面にMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布した後、1150℃×50hrの二次再結晶焼鈍と純化焼鈍を兼ねた仕上焼鈍を施し、製品板とした。
【0065】
斯くして得られた製品板について磁気特性を測定し、その結果を表4に併記した。表4から、一次再結晶焼鈍における500℃〜700℃間の昇温速度を高めるにしたがって鉄損特性が向上することがわかる。
【0066】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.02〜0.15mass%、Si:2.0〜7.0mass%、Mn:0.005〜0.3mass%、酸可溶性Al:0.01〜0.05mass%、N:0.002〜0.012mass%、SおよびSeのうちから選ばれる1種または2種を合計で0.05mass%以下含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを熱間圧延し、1回以上の中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施して最終板厚とした後、一次再結晶焼鈍を施し、その後、仕上焼鈍を施す一連の工程からなる方向性電磁鋼板の製造方法において、上記いずれかの中間焼鈍において、鋼板表面を酸化して鉄系酸化物層を形成後、脱炭することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項2】
上記鉄系酸化物層の酸素目付量を0.05〜11g/mの範囲に制御することを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項3】
上記鉄系酸化物層を形成後、脱炭する前に、雰囲気酸化度(PH2O/PH2)を0.20以下に制御することを特徴とする請求項1または2に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項4】
上記脱炭する際の雰囲気酸化度(PH2O/PH2)を0.15〜0.60の範囲に制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項5】
鋼スラブが、上記成分組成に加えてさらに、Ni:0.005〜1.5mass%、Sn:0.005〜0.50mass%、Sb:0.005〜0.50mass%、Cu:0.005〜1.5mass%、P:0.005〜0.03mass%、Ge:0.005〜0.03mass%、V:0.005〜0.03mass%、Nb:0.005〜0.03mass%、As:0.005〜0.03mass%、Cr:0.003〜0.30mass%、Bi:0.005〜0.02mass%およびTe:0.005〜0.02mass%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項6】
上記一次再結晶焼鈍の昇温過程における500〜700℃間の昇温速度を50℃/s以上とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−32583(P2013−32583A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−142231(P2012−142231)
【出願日】平成24年6月25日(2012.6.25)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】