体積走査型3次元映像表示装置
【課題】走査光学系をコンパクトに構成することができ、駆動時における振動や騒音が大きくなるといった問題を軽減し、従来の光学系に比べ大型化が容易となり、大きな3次元画像を表示することができる3次元映像表示装置を提供する。
【解決手段】被投影物として映像を表示するディスプレイと、上記ディスプレイからの入射光を屈曲させて入射角度に対する出射角度を変える、素子面がディスプレイからの入射光の入射方向に対して直交又は傾斜した状態で回転可能な走査素子と、上記走査素子から出射する光を結像させる結像素子とを備える。
【解決手段】被投影物として映像を表示するディスプレイと、上記ディスプレイからの入射光を屈曲させて入射角度に対する出射角度を変える、素子面がディスプレイからの入射光の入射方向に対して直交又は傾斜した状態で回転可能な走査素子と、上記走査素子から出射する光を結像させる結像素子とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体積走査方式により立体空中映像を表示することができる3次元映像表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、立体映像を閲覧可能とする技術が開発されてきている。現在実用化されている立体表示装置の多くは、立体視要因のうち両眼視差のみを利用するものが多いが、立体像を閲覧するときの焦点調節や輻輳等の条件を満たすことができないことにより、長時間見ることで目が疲労するなどといった問題もあり、より利用しやすい技術が望まれているところである。
【0003】
例えば、下記非特許文献1には体積走査法による3次元映像表示装置が開示されている。図11に、この3次元映像表示装置の概略構成図を示す。結像光学系として共焦点凸レンズを用いており、高速表示が可能な2次元ディスプレイを光学系の光軸に対して傾けて配置し、ミラースキャナ、ガルバノミラー等により光軸に対して傾いた2次元像を移動させ、それにあわせて2次元ディスプレイに表示物体の断面像を表示させることにより、3次元像を形成する。これによれば、3次元実像が形成されているので、眼鏡などの装着物は不要であり、人の立体視知覚要因を全て満たすことが期待される。
【0004】
図12は、別の3次元映像表示装置を示す概略構成図である。この装置では、結像素子として透過型面対称結像光学素子を用いている。透過型面対称結像光学素子は、下記特許文献1に開示されているように、被投影物をその光学系に設定される対称面に対する面対称位置に等倍の実像として歪みなく結像させるものである。この素子を結像に使うと、焦点距離に制限されない自由な位置に像を形成でき、凸レンズで発生する像の歪みも存在しない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】“Volumetric display systembased on three-dimensional scanning ofinclined optical image”、Daisuke Miyazaki et al,、Optic Express、Vol.14 Issue 26、pp12760−12769
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−75483号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述の3次元映像表示装置は、走査素子としてミラーを用いているため、表示像の観察が可能な角度はミラーサイズにより制限される。ミラーのサイズを拡張すると大きな駆動力が必要となり、さらに振動や騒音が大きくなることが問題であった。また,反射光学系にする必要があるため、光学系の構成が複雑になり、システムの小型化が困難であった。
【0008】
一方、図12に示すような透過型面対称結像光学素子を用いる技術においても、ミラースキャナがあることにより映像を大きくする場合には走査体積が著しく増大するため,装置が大型化し,駆動時の振動等の問題を解決することが難しいという問題があった。
【0009】
本発明は、上記問題点を解消することを目的に提案されたもので、装置の小型化と構造の簡易化を可能となるとともに、光学素子と結像位置との距離を短くして回折によるボケを抑えることができる3次元映像表示装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の3次元映像表示装置は、被投影物として映像を表示するディスプレイと、上記ディスプレイからの入射光を屈曲させて入射角度に対する出射角度を変える、素子面がディスプレイからの入射光の入射方向に対して直交又は傾斜した状態で設けられ、その直交又は傾斜した角度を維持して回転可能な走査素子と、上記走査素子から出射する光を結像させる結像素子とを備える。
【0011】
ここで、走査素子による入射光の屈曲とは、屈折だけでなく反射や回折も含み、具体的には、屈折させるプリズムや、反射させるミラーや、回折させる回折素子等が本発明の走査素子に該当する。なお、プリズムを用いる場合には、細長いプリズム板を断面鋸刃状に配置したプリズムシートを用いても良いし,ミラーを用いる場合には,前記プリズムシートにミラーコートを施したものを用いても良い。
【0012】
走査素子を回転させると、それに合わせて像の形成位置は、円を描くように移動する。走査素子を目の残像しきい値より早く回転させ、像の位置に応じて3次元物体の断面像を2次元空間光変調デバイスに表示させると、残像により全ての断面像を観察できるようになり、3次元像を形成することができる。
【0013】
回転可能な走査素子を用いることにより、コンパクトな光学系を構成できる。また、走査素子を素子面が入射光の入射方向に対して直交又は傾斜した状態で設け、その直交又は傾斜した角度を維持しながら面内方向で回転させるため、面積が大きくなってもミラースキャナに比べると駆動時における振動や騒音が大きくなるといった問題は軽減される。
【0014】
また、上記結像素子として、上記走査素子から出射する光を結像素子の素子面に対する面対称位置に等倍の実像として結像させる透過型面対称結像光学素子を用いることができる。ここで、結像素子の素子面とは、走査素子からの光が入射する平面をいい、被投影物を面対称位置に実像として結像させる場合の対称面となっている。透過型面対称結像光学素子を用いることで、焦点距離に制限されない自由な位置に像を形成でき、通常のレンズで発生する像の歪みも存在しない。
【0015】
上記面対称結像素子として、素子面に直角な相互に直交する2つの鏡面から構成される2面コーナーリフレクタを当該素子面上に複数並べた2面コーナーリフレクタアレイを用いることができる。
【0016】
また別の態様の上記面対称結像素子として、光線を再帰反射させるレトロリフレクタアレイと光線を反射及び透過させるハーフミラー面を有するハーフミラーとを具備するものを用いることができる。この場合の結像素子の素子面とは、ハーフミラー面をいう。さらに別の態様の上記面対称結像素子として、素子面に垂直な光軸を有するアフォーカルレンズを当該素子面上に複数並べたアフォーカルレンズアレイを用いることができる
【発明の効果】
【0017】
本発明の3次元映像表示装置は、プリズムシート等の回転可能な走査素子を用いることで、従来の反射光学系よりもコンパクトな構成にすることができる。また、透過型面対称結像光学素子を用いているため、スクリーンと透過型面対称結像光学素子間の光学距離を変えれば自由に表示位置を変えることができるとともに、像の歪みを抑制させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1の実施形態における3次元映像表示装置の概略構成図
【図2】第1の実施形態におけるプリズムシートを斜め上から見た概念図
【図3】第1の実施形態における2面コーナーリフレクタアレイの基本構成を示す図
【図4】第1の実施形態における2面コーナーリフレクタアレイの動作原理を示す図
【図5】第2の実施形態における3次元映像表示装置の結像を示す図
【図6】第2の実施形態におけるレトロリフレクタアレイの概略構成図
【図7】第2の実施形態におけるレトロリフレクタアレイの動作原理を示す図
【図8】第3の実施形態における3次元映像表示装置の概略構成図
【図9】第3の実施形態における結像素子の基本構成を示す図
【図10】第4の実施形態に係る3次元映像表示装置の概略構成図
【図11】従来の3次元映像表示装置の概略構成図
【図12】従来の3次元映像表示装置の概略構成図
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。図1は、第1の実施形態に係る3次元映像表示装置の概略構成図である。
【0020】
第1の実施形態の3次元映像表示装置100は、被投影物として映像を表示するディスプレイ装置101と、走査用の素子として微小プリズムを平面状に並べて作られたプリズムシート104と、透過型面対称結像光学素子としての2面コーナーリフレクタアレイ105を備えている。
【0021】
ディスプレイ装置101は、表示させる物体である被投影物の2次元切断面画像を投影する2次元ディスプレイ102と、2次元ディスプレイ102からの2次元切断面画像を適した画像サイズに拡大する球面アクロマティクレンズ103と、光を当てた反対側から観察できる拡散板106とで構成されている。
【0022】
本実施形態の2次元ディスプレイ102は、光源から光を照射してその反射光を利用することで、表示させる物体の切断面画像を作成する。すでに実用化されているディスプレイを用いればよく、例えば高速に画像を切り替えることが可能なTexas Instruments社製の「DMD Discover1100 ControllerBoard」を使用することができる。
【0023】
2次元ディスプレイ102から照射された光(すなわち、表示させる物体の切断面画像)は球面アクロマティクレンズ103を通過する。本実施形態の球面アクロマティクレンズ103は、2次元ディスプレイ102からの2次元切断面画像を、プリズムシート104と2面コーナーリフレクタアレイ105による光学系のサイズに適した画像サイズに拡大する。
【0024】
球面アクロマティクレンズ103は、分散が低い材料のレンズと高い材料のレンズの2種類を組み合わせることにより、青、緑、赤の3種類の波長の光線に対して色収差を除去できるように作られている。また、球面収差に関しても球面単レンズよりもはるかに改良されている。なお、この球面アクロマティクレンズに代えて、収差を最小化することが可能な非球面レンズを用いることもできる。
【0025】
このようにして、球面アクロマティクレンズ103によりサイズが調整された画像は、拡散板106に投影される。拡散板106はレンチキュラスクリーンからなり、プリズムシート104と2面コーナーリフレクタアレイ105による結像光学系に対して35度傾けて配置されている。拡散板106から投影された光はプリズムシート104を通過する際に屈折の効果を受けて方向が変化する。
【0026】
なお、ディスプレイ装置101は、被投影物として映像を表示することができるものであれば、その手段は問わない。例えば、画面に映像を表示する液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等のディスプレイ装置を用いても良い。また、プロジェクタ等で投射された映像を映すスクリーン等の映像を表示可能なものでもよく、表示面は平面だけでなく曲面であってもよい。
【0027】
図2は、本実施形態のプリズムシート104を斜め上から見た概念図である。プリズムシート104は、スリット状の細長いプリズム201を断面鋸刃状に並べた走査素子である。本実施形態のプリズムシート104は、図2に示すように、プリズムシート104の片方の面(すなわち、入射光が入射する面と反対側の面(出射面))のみに対して、断面が鋸刃状になるように形成されているが、光線の集束状態の向上などを目的として、その反対側の面(すなわち、入射光が入射する面(素子面))も断面が鋸刃状になるように形成してもよい。形状、サイズ、材質は特に限定されないが、本実施形態では、サイズは80mm×110mm、厚さは2mm、プリズム角度は15°、ピッチは0.9mmである。材質はポリメタクリル酸メチル樹脂である。
【0028】
このプリズムシート104は、素子面から入射した光を別方向に屈折させて出射させる。従って、素子面に直角な回転軸を中心に面内回転(すなわち、素子面の面内方向に回転)させることにより、入射光に対するプリズム角度が変化していき、光線走査ができる。図2中の下側の平らな部分が素子面となっており、この素子面に光を入射させ、上側の鋸刃状の部分から出射させる。なお本実施形態では、素子面がディスプレイからの入射光の入射方向に対して直交した状態で回転させているが、素子面が入射方向に対して傾斜した状態に配設し、その傾斜した角度を維持しながら回転させるようにしても良い。
【0029】
プリズムシートを回転させる駆動手段として、エンコーダ一体型サーボモータ(スマートモータ)を使用しており、このモータの軸をアクリルパイプで延長し、その先にプリズムシートを取り付けてある。
【0030】
スマートモータは内部にエンコーダとメモリを備え付けており、このメモリにユーザプログラムを書き込むことで所望の速度で回転させたり、現在の回転位置を取得することができる。また、このモータはEIA−232−D/E規格(RS232−C)のケーブルを用いてPCと通信することが可能である。この機能を用いてプリズムシートの回転と制御ボードの画像更新命令を同期させる。具体的な方法を以下に示す。
【0031】
まずモータ側に「1200rpmになるまで加速させ、1200rpmに達し、かつ回転位置が360°の倍数の位置になり次第PC側に信号を送り、以降は等速で回転し続ける」という内容のプログラムを書き込んでおく。PCとスマートモータ、制御ボードを接続させてある状態でモータを作動させる。モータの回転速度が1200rpmに達し、PCに信号が送られてきたら、制御ボードに画像表示開始の命令を送る。ただし、PCとの送受信時にはタイムラグが発生するため、このタイムラグを考慮に入れた上でモータの回転位置が360度の倍数になる時に1枚目の画像が表示されるようにPC上でプログラムしておく。
【0032】
このように、走査部分に回転可能なプリズムシート104を用いることで、コンパクトな光学系を構成でき、面積が大きくなっても駆動時における振動や騒音が大きくなるといった問題は軽減される。また、本実施形態では、従来の光学系よりも結像位置を短くすることができ、後述する2面コーナーリフレクタアレイ105で起こる回折によるボケの影響を低減することができる。
【0033】
なお、走査素子は上記ディスプレイからの入射光を屈曲させて入射角度に対する出射角度を変えるものであれば、他の光学素子を用いることも可能である。例えば、プリズムシート104に代えて、2次元ディスプレイからの入射光を回折させる回折素子を用いても良い。この場合、回折素子の格子パターンは特に限定せず、例えば多数のスリットが平行に並んだ1次元パターンを持つ回折格子を用いることができる。この回折素子は、素子面に垂直な回転軸を中心に回転することができる。従って、回転に応じて光の回折方向が変化し、この反射方向の変化によって光学的な走査を行うことができる。
【0034】
また、上記プリズムシート104に代えて、素子面が鏡面で形成された、断面鋸刃状のミラーを用いることもできる。例えば、上記プリズムシートの表面にミラーコートを施したものを用いれば良い。断面鋸刃状のミラーは、素子面に垂直な回転軸を中心に回転することができる。従って、回転に応じて光の反射方向が変化し、この反射方向の変化によって光学的な走査を行うことができる。
【0035】
プリズムシート104によって屈折の効果を受けて方向が変化した光は、その後2面コーナーリフレクタアレイ105を透過して面対称位置に結像する。
【0036】
図3は、2面コーナーリフレクタアレイ105の基本構成を示す図である。本実施形態の2面コーナーリフレクタアレイ105は、所定の素子面に垂直な相互に垂線ベクトルが直交する2つの鏡面301A、301Bから構成される2面コーナーリフレクタ301を当該素子面S1上に複数並べた透過型面対称結像光学素子であって、例えば特開2009−75483に開示されているものを用いることができる。
【0037】
本実施形態では、素子面S1に対して垂直に多数の正方形の貫通孔(以下、ミラーホール302という)が開けられ、そのミラーホール302の内壁を鏡面とすることにより2面コーナーリフレクタ301を形成している。このミラーホール302のサイズは特に限定されないが、本実施形態では横150μm、縦150μm、深さ150μmであり、それぞれのミラーホール302の間隔は60μmである。
【0038】
本実施形態では、ナノ加工により銅製基盤にピラーを形成したものをマスター金型とし、電鋳によってニッケルに反転転写したのちにエッチングによってマスター金型を溶解し、製作されている。
【0039】
図4に2面コーナーリフレクタアレイ105の動作原理を示す。まず照射された光はミラーホール302に入射し、ミラーホール302内の隣り合うミラー301A、301Bにおいて2回反射したのち2面コーナーリフレクタアレイ105を透過する。すなわち、各2面コーナーリフレクタ301の2つの鏡面で1回ずつ反射して素子面S1と平行な光の成分が再帰反射することによって、素子面の面対称位置の空中に実像として結像する。これにより、観察者からは、2つの鏡面の内角が視線方向と向き合っている2面コーナーリフレクタ301で反射して結像した映像の実像を立体空中映像として観察することが可能となる。
【0040】
このように、2面コーナーリフレクタアレイ105の素子面を対称面として、面対称位置に被投影物である映像の実鏡映像が結像し、立体空中映像が観察される。この2面コーナーリフレクタアレイ105によって、焦点距離に制限されない自由な位置に像を形成でき、通常のレンズで発生する像の歪みも存在しない。ただし,この像は面対称位置に結像されるため、被投影物が立体物の場合には,観察方向からは奥行きが反転した像を見ることになる。
【0041】
なお、2面コーナーリフレクタアレイ105による結像においては、光線は微小な貫通穴を通過するため回折の影響を受け、結像距離が長くなると解像度が悪化することになる。
【0042】
ここで、2面コーナーリフレクタアレイ105のミラーホール301を透過する直接光や1回反射光、多重反射光は迷光となるため利用可能な範囲には制限がある。このため、2回反射光の最適観察方向が上下方向で30度から50度、左右方向でプラスマイナス20度とすることが好ましい。多重反射については、2面コーナーリフレクタ301となる2面以外の面に18度の傾きをつけることで抑制している。また、回折や加工精度の影響などにより結像距離が長くなると解像度が低くなるという問題があるため、2面コーナーリフレクタアレイ105から被投影物を所定距離内に配置することが好ましい。
【0043】
以上のようにして、表示物体の切断面画像を2次元ディスプレイ101に順次表示し、プリズムシート104の回転と同期させることにより切断面画像を移動させる。切断面画像が移動することで3次元空間を走査することができ、映像Oが空中に形成される。
【0044】
以上、本実施形態の3次元映像表示装置によれば、走査部分に回転可能なプリズムシート104を用いることで、コンパクトな光学系を構成でき、面積が大きくなっても駆動時における振動や騒音が大きくなるといった問題は軽減される。また、本実施形態では、従来の光学系よりも結像位置を短くすることができ、2面コーナーリフレクタアレイ105で起こる回折によるボケの影響を低減することができる。
【0045】
次に、第2の実施形態に係る3次元映像表示装置500について説明する。第1の実施形態と共通する点は説明を省略し、主として異なる点について説明する。図5は、本実施形態における3次元映像表示装置の結像を示す図である。本実施形態と第1の実施形態が異なる点は結像光学系であり、ディスプレイ装置及び走査素子は第1の実施形態と同様の構成となっている。
【0046】
図6は、本実施形態におけるレトロリフレクタアレイ502の概略構成図である。図7は、本実施形態におけるレトロリフレクタアレイ502の動作原理を示す図である。本実施形態の結像光学系は、光線を再帰反射させるレトロリフレクタアレイ502と光線を反射及び透過させるハーフミラー面を有するハーフミラー503とを具備するものであって、例えば特開2009−75483に開示されているものを用いることができる。上記ハーフミラー面S2を結像光学系における対称面とし、レトロリフレクタアレイ502をハーフミラー503に対して被投影物と同じ側の空間に配置している。ここでレトロリフレクタ502の作用である「再帰反射」とは、反射光を入射光が入射してきた方向へ反射(逆反射)する現象をいい、入射光と反射光とは平行であり且つ逆向きとなる。
【0047】
レトロリフレクタアレイ502は、立方体内角の1つの角を利用するコーナーキューブの集合であるコーナーキューブアレイである。個々のレトロリフレクタ701は、3つの同形同大の直角二等辺三角形をなす鏡面701a,701b,701cを1点に集合させて正面視した場合に正三角形を形成するものであり、これら3つの鏡面701a,701b,701cは互いに直交してコーナーキューブを構成している。
【0048】
図7のレトロリフレクタアレイ502を例にして説明すると、鏡面のうちの一つ(例えば701a)に入射した光は、順次他の鏡面(701b,701c)で反射することで、レトロリフレクタ701へ光が入射してきた元の方向へ反射する。なおレトロリフレクタアレイ701に対する入射光と出射光の経路は、厳密には重ならず平行であるが、レトロリフレクタ61がレトロリフレクタアレイ6と比べて十分小さい場合には、入射光と出射光の経路が重なっているとみなしてもよい。
【0049】
このようなレトロリフレクタアレイ502とハーフミラー503を利用する多視点空中映像表示光学系の場合、被投影物から出た光はハーフミラー面S2で反射し、さらにレトロリフレクタアレイで再帰反射して必ず元の方向に戻り、ハーフミラー面S2を透過して結像するため、ハーフミラーからの反射光を受けられる位置にある限りレトロリフレクタアレイの形状や位置は限定されない。
【0050】
次に、第3の実施形態に係る3次元映像表示装置について説明する。第1の実施形態と共通する点は説明を省略し、主として異なる点について説明する。図8は、本実施形態における3次元映像表示装置800の概略構成図である。本実施形態と第1の実施形態が異なる点は走査素子及び結像素子であり、2次元ディスプレイ801、球面アクロマティクレンズ802、拡散板803は第1の実施形態と同様の構成となっている。
【0051】
本実施形態の走査素子は、2次元ディスプレイからの入射光を反射させるミラー804である。この走査素子は、反射面に対して垂直ではない角度を持つ回転軸804Aを中心に回転することができる。従って、ミラー804の回転に応じて、光の反射方向が変化する。この反射方向の変化によって光学的な走査を行うことができる。ミラー804に反射された光は、以下に示すアフォーカルレンズアレイ805に入射する。
【0052】
本実施形態の結像素子は、所定の素子面に垂直な光軸を有するアフォーカルレンズを当該素子面上に複数並べたアフォーカルレンズアレイであって、例えば特開2009−75483に開示されているものを用いることができる。上記素子面S3を対称面とするものである。
【0053】
図9は、本実施形態におけるアフォーカルレンズアレイ805の基本構成を示す図である。アフォーカルレンズ901は、焦点距離を無限大としたものであり、例えば素子面S3に対して垂直な光軸を有しそれぞれの焦点距離を隔てて配置した2つのレンズ901A、901Bにより構成される。このようなアフォーカルレンズ901を素子面S3上に多数並べて配置することでアフォーカルレンズアレイ805を構成することができる。アフォーカルレンズ901の構成としては、凸レンズや、光ファイバレンズ等を採用することができる。
【0054】
このアフォーカルレンズアレイ805は、図9に示すように、多数のアフォーカルレンズ901を1つの素子面上に並べて構成される。具体的にアフォーカルレンズ901は、素子面に垂直な光軸gを共有し且つ互いの焦点距離fs,feを隔てた2つのレンズ901A、901Bから構成される。この例では、レンズ901A、901Bとして共に凸レンズを適用している。これにより、素子面の一方側からレンズ901A…に入射した光は、それぞれ対をなす他方側のレンズ901B…から出射して、光源とは素子面に対して面対称となる位置に集光する。すなわち、光源となるディスプレイに表示される映像は、素子面に対する面対称位置に結像する。
【0055】
次に、第4の実施形態に係る3次元映像表示装置について説明する。第1の実施形態と共通する点は説明を省略し、主として異なる点について説明する。第1の実施形態では、面対称結像素子を利用した3次元映像表示装置について説明したが、本実施形態では結像素子として凸レンズ501を用いている。
【0056】
図10は、本実施形態に係る3次元映像表示装置の概略構成図である。凸レンズ10は屈折透過型の素子で、基本的な光学原理は上述の実施形態と同じである。なお、凸レンズの代わりに、凹面鏡、フレネルレンズなどを用いることも可能である。フレネルレンズは屈折透過型の素子で、凹面鏡は反射型の素子であるが基本的な光学原理は同じである。これらは、固有の焦点距離を持ち、この距離よりも離れている物体を実像として結像させる。
【符号の説明】
【0057】
100 3次元映像表示装置
101 ディスプレイ装置
102 2次元ディスプレイ
103 球面アクロマティクレンズ
104 プリズムシート
105 2面コーナーリフレクタアレイ
106 拡散板
【技術分野】
【0001】
本発明は、体積走査方式により立体空中映像を表示することができる3次元映像表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、立体映像を閲覧可能とする技術が開発されてきている。現在実用化されている立体表示装置の多くは、立体視要因のうち両眼視差のみを利用するものが多いが、立体像を閲覧するときの焦点調節や輻輳等の条件を満たすことができないことにより、長時間見ることで目が疲労するなどといった問題もあり、より利用しやすい技術が望まれているところである。
【0003】
例えば、下記非特許文献1には体積走査法による3次元映像表示装置が開示されている。図11に、この3次元映像表示装置の概略構成図を示す。結像光学系として共焦点凸レンズを用いており、高速表示が可能な2次元ディスプレイを光学系の光軸に対して傾けて配置し、ミラースキャナ、ガルバノミラー等により光軸に対して傾いた2次元像を移動させ、それにあわせて2次元ディスプレイに表示物体の断面像を表示させることにより、3次元像を形成する。これによれば、3次元実像が形成されているので、眼鏡などの装着物は不要であり、人の立体視知覚要因を全て満たすことが期待される。
【0004】
図12は、別の3次元映像表示装置を示す概略構成図である。この装置では、結像素子として透過型面対称結像光学素子を用いている。透過型面対称結像光学素子は、下記特許文献1に開示されているように、被投影物をその光学系に設定される対称面に対する面対称位置に等倍の実像として歪みなく結像させるものである。この素子を結像に使うと、焦点距離に制限されない自由な位置に像を形成でき、凸レンズで発生する像の歪みも存在しない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】“Volumetric display systembased on three-dimensional scanning ofinclined optical image”、Daisuke Miyazaki et al,、Optic Express、Vol.14 Issue 26、pp12760−12769
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−75483号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述の3次元映像表示装置は、走査素子としてミラーを用いているため、表示像の観察が可能な角度はミラーサイズにより制限される。ミラーのサイズを拡張すると大きな駆動力が必要となり、さらに振動や騒音が大きくなることが問題であった。また,反射光学系にする必要があるため、光学系の構成が複雑になり、システムの小型化が困難であった。
【0008】
一方、図12に示すような透過型面対称結像光学素子を用いる技術においても、ミラースキャナがあることにより映像を大きくする場合には走査体積が著しく増大するため,装置が大型化し,駆動時の振動等の問題を解決することが難しいという問題があった。
【0009】
本発明は、上記問題点を解消することを目的に提案されたもので、装置の小型化と構造の簡易化を可能となるとともに、光学素子と結像位置との距離を短くして回折によるボケを抑えることができる3次元映像表示装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の3次元映像表示装置は、被投影物として映像を表示するディスプレイと、上記ディスプレイからの入射光を屈曲させて入射角度に対する出射角度を変える、素子面がディスプレイからの入射光の入射方向に対して直交又は傾斜した状態で設けられ、その直交又は傾斜した角度を維持して回転可能な走査素子と、上記走査素子から出射する光を結像させる結像素子とを備える。
【0011】
ここで、走査素子による入射光の屈曲とは、屈折だけでなく反射や回折も含み、具体的には、屈折させるプリズムや、反射させるミラーや、回折させる回折素子等が本発明の走査素子に該当する。なお、プリズムを用いる場合には、細長いプリズム板を断面鋸刃状に配置したプリズムシートを用いても良いし,ミラーを用いる場合には,前記プリズムシートにミラーコートを施したものを用いても良い。
【0012】
走査素子を回転させると、それに合わせて像の形成位置は、円を描くように移動する。走査素子を目の残像しきい値より早く回転させ、像の位置に応じて3次元物体の断面像を2次元空間光変調デバイスに表示させると、残像により全ての断面像を観察できるようになり、3次元像を形成することができる。
【0013】
回転可能な走査素子を用いることにより、コンパクトな光学系を構成できる。また、走査素子を素子面が入射光の入射方向に対して直交又は傾斜した状態で設け、その直交又は傾斜した角度を維持しながら面内方向で回転させるため、面積が大きくなってもミラースキャナに比べると駆動時における振動や騒音が大きくなるといった問題は軽減される。
【0014】
また、上記結像素子として、上記走査素子から出射する光を結像素子の素子面に対する面対称位置に等倍の実像として結像させる透過型面対称結像光学素子を用いることができる。ここで、結像素子の素子面とは、走査素子からの光が入射する平面をいい、被投影物を面対称位置に実像として結像させる場合の対称面となっている。透過型面対称結像光学素子を用いることで、焦点距離に制限されない自由な位置に像を形成でき、通常のレンズで発生する像の歪みも存在しない。
【0015】
上記面対称結像素子として、素子面に直角な相互に直交する2つの鏡面から構成される2面コーナーリフレクタを当該素子面上に複数並べた2面コーナーリフレクタアレイを用いることができる。
【0016】
また別の態様の上記面対称結像素子として、光線を再帰反射させるレトロリフレクタアレイと光線を反射及び透過させるハーフミラー面を有するハーフミラーとを具備するものを用いることができる。この場合の結像素子の素子面とは、ハーフミラー面をいう。さらに別の態様の上記面対称結像素子として、素子面に垂直な光軸を有するアフォーカルレンズを当該素子面上に複数並べたアフォーカルレンズアレイを用いることができる
【発明の効果】
【0017】
本発明の3次元映像表示装置は、プリズムシート等の回転可能な走査素子を用いることで、従来の反射光学系よりもコンパクトな構成にすることができる。また、透過型面対称結像光学素子を用いているため、スクリーンと透過型面対称結像光学素子間の光学距離を変えれば自由に表示位置を変えることができるとともに、像の歪みを抑制させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1の実施形態における3次元映像表示装置の概略構成図
【図2】第1の実施形態におけるプリズムシートを斜め上から見た概念図
【図3】第1の実施形態における2面コーナーリフレクタアレイの基本構成を示す図
【図4】第1の実施形態における2面コーナーリフレクタアレイの動作原理を示す図
【図5】第2の実施形態における3次元映像表示装置の結像を示す図
【図6】第2の実施形態におけるレトロリフレクタアレイの概略構成図
【図7】第2の実施形態におけるレトロリフレクタアレイの動作原理を示す図
【図8】第3の実施形態における3次元映像表示装置の概略構成図
【図9】第3の実施形態における結像素子の基本構成を示す図
【図10】第4の実施形態に係る3次元映像表示装置の概略構成図
【図11】従来の3次元映像表示装置の概略構成図
【図12】従来の3次元映像表示装置の概略構成図
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。図1は、第1の実施形態に係る3次元映像表示装置の概略構成図である。
【0020】
第1の実施形態の3次元映像表示装置100は、被投影物として映像を表示するディスプレイ装置101と、走査用の素子として微小プリズムを平面状に並べて作られたプリズムシート104と、透過型面対称結像光学素子としての2面コーナーリフレクタアレイ105を備えている。
【0021】
ディスプレイ装置101は、表示させる物体である被投影物の2次元切断面画像を投影する2次元ディスプレイ102と、2次元ディスプレイ102からの2次元切断面画像を適した画像サイズに拡大する球面アクロマティクレンズ103と、光を当てた反対側から観察できる拡散板106とで構成されている。
【0022】
本実施形態の2次元ディスプレイ102は、光源から光を照射してその反射光を利用することで、表示させる物体の切断面画像を作成する。すでに実用化されているディスプレイを用いればよく、例えば高速に画像を切り替えることが可能なTexas Instruments社製の「DMD Discover1100 ControllerBoard」を使用することができる。
【0023】
2次元ディスプレイ102から照射された光(すなわち、表示させる物体の切断面画像)は球面アクロマティクレンズ103を通過する。本実施形態の球面アクロマティクレンズ103は、2次元ディスプレイ102からの2次元切断面画像を、プリズムシート104と2面コーナーリフレクタアレイ105による光学系のサイズに適した画像サイズに拡大する。
【0024】
球面アクロマティクレンズ103は、分散が低い材料のレンズと高い材料のレンズの2種類を組み合わせることにより、青、緑、赤の3種類の波長の光線に対して色収差を除去できるように作られている。また、球面収差に関しても球面単レンズよりもはるかに改良されている。なお、この球面アクロマティクレンズに代えて、収差を最小化することが可能な非球面レンズを用いることもできる。
【0025】
このようにして、球面アクロマティクレンズ103によりサイズが調整された画像は、拡散板106に投影される。拡散板106はレンチキュラスクリーンからなり、プリズムシート104と2面コーナーリフレクタアレイ105による結像光学系に対して35度傾けて配置されている。拡散板106から投影された光はプリズムシート104を通過する際に屈折の効果を受けて方向が変化する。
【0026】
なお、ディスプレイ装置101は、被投影物として映像を表示することができるものであれば、その手段は問わない。例えば、画面に映像を表示する液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等のディスプレイ装置を用いても良い。また、プロジェクタ等で投射された映像を映すスクリーン等の映像を表示可能なものでもよく、表示面は平面だけでなく曲面であってもよい。
【0027】
図2は、本実施形態のプリズムシート104を斜め上から見た概念図である。プリズムシート104は、スリット状の細長いプリズム201を断面鋸刃状に並べた走査素子である。本実施形態のプリズムシート104は、図2に示すように、プリズムシート104の片方の面(すなわち、入射光が入射する面と反対側の面(出射面))のみに対して、断面が鋸刃状になるように形成されているが、光線の集束状態の向上などを目的として、その反対側の面(すなわち、入射光が入射する面(素子面))も断面が鋸刃状になるように形成してもよい。形状、サイズ、材質は特に限定されないが、本実施形態では、サイズは80mm×110mm、厚さは2mm、プリズム角度は15°、ピッチは0.9mmである。材質はポリメタクリル酸メチル樹脂である。
【0028】
このプリズムシート104は、素子面から入射した光を別方向に屈折させて出射させる。従って、素子面に直角な回転軸を中心に面内回転(すなわち、素子面の面内方向に回転)させることにより、入射光に対するプリズム角度が変化していき、光線走査ができる。図2中の下側の平らな部分が素子面となっており、この素子面に光を入射させ、上側の鋸刃状の部分から出射させる。なお本実施形態では、素子面がディスプレイからの入射光の入射方向に対して直交した状態で回転させているが、素子面が入射方向に対して傾斜した状態に配設し、その傾斜した角度を維持しながら回転させるようにしても良い。
【0029】
プリズムシートを回転させる駆動手段として、エンコーダ一体型サーボモータ(スマートモータ)を使用しており、このモータの軸をアクリルパイプで延長し、その先にプリズムシートを取り付けてある。
【0030】
スマートモータは内部にエンコーダとメモリを備え付けており、このメモリにユーザプログラムを書き込むことで所望の速度で回転させたり、現在の回転位置を取得することができる。また、このモータはEIA−232−D/E規格(RS232−C)のケーブルを用いてPCと通信することが可能である。この機能を用いてプリズムシートの回転と制御ボードの画像更新命令を同期させる。具体的な方法を以下に示す。
【0031】
まずモータ側に「1200rpmになるまで加速させ、1200rpmに達し、かつ回転位置が360°の倍数の位置になり次第PC側に信号を送り、以降は等速で回転し続ける」という内容のプログラムを書き込んでおく。PCとスマートモータ、制御ボードを接続させてある状態でモータを作動させる。モータの回転速度が1200rpmに達し、PCに信号が送られてきたら、制御ボードに画像表示開始の命令を送る。ただし、PCとの送受信時にはタイムラグが発生するため、このタイムラグを考慮に入れた上でモータの回転位置が360度の倍数になる時に1枚目の画像が表示されるようにPC上でプログラムしておく。
【0032】
このように、走査部分に回転可能なプリズムシート104を用いることで、コンパクトな光学系を構成でき、面積が大きくなっても駆動時における振動や騒音が大きくなるといった問題は軽減される。また、本実施形態では、従来の光学系よりも結像位置を短くすることができ、後述する2面コーナーリフレクタアレイ105で起こる回折によるボケの影響を低減することができる。
【0033】
なお、走査素子は上記ディスプレイからの入射光を屈曲させて入射角度に対する出射角度を変えるものであれば、他の光学素子を用いることも可能である。例えば、プリズムシート104に代えて、2次元ディスプレイからの入射光を回折させる回折素子を用いても良い。この場合、回折素子の格子パターンは特に限定せず、例えば多数のスリットが平行に並んだ1次元パターンを持つ回折格子を用いることができる。この回折素子は、素子面に垂直な回転軸を中心に回転することができる。従って、回転に応じて光の回折方向が変化し、この反射方向の変化によって光学的な走査を行うことができる。
【0034】
また、上記プリズムシート104に代えて、素子面が鏡面で形成された、断面鋸刃状のミラーを用いることもできる。例えば、上記プリズムシートの表面にミラーコートを施したものを用いれば良い。断面鋸刃状のミラーは、素子面に垂直な回転軸を中心に回転することができる。従って、回転に応じて光の反射方向が変化し、この反射方向の変化によって光学的な走査を行うことができる。
【0035】
プリズムシート104によって屈折の効果を受けて方向が変化した光は、その後2面コーナーリフレクタアレイ105を透過して面対称位置に結像する。
【0036】
図3は、2面コーナーリフレクタアレイ105の基本構成を示す図である。本実施形態の2面コーナーリフレクタアレイ105は、所定の素子面に垂直な相互に垂線ベクトルが直交する2つの鏡面301A、301Bから構成される2面コーナーリフレクタ301を当該素子面S1上に複数並べた透過型面対称結像光学素子であって、例えば特開2009−75483に開示されているものを用いることができる。
【0037】
本実施形態では、素子面S1に対して垂直に多数の正方形の貫通孔(以下、ミラーホール302という)が開けられ、そのミラーホール302の内壁を鏡面とすることにより2面コーナーリフレクタ301を形成している。このミラーホール302のサイズは特に限定されないが、本実施形態では横150μm、縦150μm、深さ150μmであり、それぞれのミラーホール302の間隔は60μmである。
【0038】
本実施形態では、ナノ加工により銅製基盤にピラーを形成したものをマスター金型とし、電鋳によってニッケルに反転転写したのちにエッチングによってマスター金型を溶解し、製作されている。
【0039】
図4に2面コーナーリフレクタアレイ105の動作原理を示す。まず照射された光はミラーホール302に入射し、ミラーホール302内の隣り合うミラー301A、301Bにおいて2回反射したのち2面コーナーリフレクタアレイ105を透過する。すなわち、各2面コーナーリフレクタ301の2つの鏡面で1回ずつ反射して素子面S1と平行な光の成分が再帰反射することによって、素子面の面対称位置の空中に実像として結像する。これにより、観察者からは、2つの鏡面の内角が視線方向と向き合っている2面コーナーリフレクタ301で反射して結像した映像の実像を立体空中映像として観察することが可能となる。
【0040】
このように、2面コーナーリフレクタアレイ105の素子面を対称面として、面対称位置に被投影物である映像の実鏡映像が結像し、立体空中映像が観察される。この2面コーナーリフレクタアレイ105によって、焦点距離に制限されない自由な位置に像を形成でき、通常のレンズで発生する像の歪みも存在しない。ただし,この像は面対称位置に結像されるため、被投影物が立体物の場合には,観察方向からは奥行きが反転した像を見ることになる。
【0041】
なお、2面コーナーリフレクタアレイ105による結像においては、光線は微小な貫通穴を通過するため回折の影響を受け、結像距離が長くなると解像度が悪化することになる。
【0042】
ここで、2面コーナーリフレクタアレイ105のミラーホール301を透過する直接光や1回反射光、多重反射光は迷光となるため利用可能な範囲には制限がある。このため、2回反射光の最適観察方向が上下方向で30度から50度、左右方向でプラスマイナス20度とすることが好ましい。多重反射については、2面コーナーリフレクタ301となる2面以外の面に18度の傾きをつけることで抑制している。また、回折や加工精度の影響などにより結像距離が長くなると解像度が低くなるという問題があるため、2面コーナーリフレクタアレイ105から被投影物を所定距離内に配置することが好ましい。
【0043】
以上のようにして、表示物体の切断面画像を2次元ディスプレイ101に順次表示し、プリズムシート104の回転と同期させることにより切断面画像を移動させる。切断面画像が移動することで3次元空間を走査することができ、映像Oが空中に形成される。
【0044】
以上、本実施形態の3次元映像表示装置によれば、走査部分に回転可能なプリズムシート104を用いることで、コンパクトな光学系を構成でき、面積が大きくなっても駆動時における振動や騒音が大きくなるといった問題は軽減される。また、本実施形態では、従来の光学系よりも結像位置を短くすることができ、2面コーナーリフレクタアレイ105で起こる回折によるボケの影響を低減することができる。
【0045】
次に、第2の実施形態に係る3次元映像表示装置500について説明する。第1の実施形態と共通する点は説明を省略し、主として異なる点について説明する。図5は、本実施形態における3次元映像表示装置の結像を示す図である。本実施形態と第1の実施形態が異なる点は結像光学系であり、ディスプレイ装置及び走査素子は第1の実施形態と同様の構成となっている。
【0046】
図6は、本実施形態におけるレトロリフレクタアレイ502の概略構成図である。図7は、本実施形態におけるレトロリフレクタアレイ502の動作原理を示す図である。本実施形態の結像光学系は、光線を再帰反射させるレトロリフレクタアレイ502と光線を反射及び透過させるハーフミラー面を有するハーフミラー503とを具備するものであって、例えば特開2009−75483に開示されているものを用いることができる。上記ハーフミラー面S2を結像光学系における対称面とし、レトロリフレクタアレイ502をハーフミラー503に対して被投影物と同じ側の空間に配置している。ここでレトロリフレクタ502の作用である「再帰反射」とは、反射光を入射光が入射してきた方向へ反射(逆反射)する現象をいい、入射光と反射光とは平行であり且つ逆向きとなる。
【0047】
レトロリフレクタアレイ502は、立方体内角の1つの角を利用するコーナーキューブの集合であるコーナーキューブアレイである。個々のレトロリフレクタ701は、3つの同形同大の直角二等辺三角形をなす鏡面701a,701b,701cを1点に集合させて正面視した場合に正三角形を形成するものであり、これら3つの鏡面701a,701b,701cは互いに直交してコーナーキューブを構成している。
【0048】
図7のレトロリフレクタアレイ502を例にして説明すると、鏡面のうちの一つ(例えば701a)に入射した光は、順次他の鏡面(701b,701c)で反射することで、レトロリフレクタ701へ光が入射してきた元の方向へ反射する。なおレトロリフレクタアレイ701に対する入射光と出射光の経路は、厳密には重ならず平行であるが、レトロリフレクタ61がレトロリフレクタアレイ6と比べて十分小さい場合には、入射光と出射光の経路が重なっているとみなしてもよい。
【0049】
このようなレトロリフレクタアレイ502とハーフミラー503を利用する多視点空中映像表示光学系の場合、被投影物から出た光はハーフミラー面S2で反射し、さらにレトロリフレクタアレイで再帰反射して必ず元の方向に戻り、ハーフミラー面S2を透過して結像するため、ハーフミラーからの反射光を受けられる位置にある限りレトロリフレクタアレイの形状や位置は限定されない。
【0050】
次に、第3の実施形態に係る3次元映像表示装置について説明する。第1の実施形態と共通する点は説明を省略し、主として異なる点について説明する。図8は、本実施形態における3次元映像表示装置800の概略構成図である。本実施形態と第1の実施形態が異なる点は走査素子及び結像素子であり、2次元ディスプレイ801、球面アクロマティクレンズ802、拡散板803は第1の実施形態と同様の構成となっている。
【0051】
本実施形態の走査素子は、2次元ディスプレイからの入射光を反射させるミラー804である。この走査素子は、反射面に対して垂直ではない角度を持つ回転軸804Aを中心に回転することができる。従って、ミラー804の回転に応じて、光の反射方向が変化する。この反射方向の変化によって光学的な走査を行うことができる。ミラー804に反射された光は、以下に示すアフォーカルレンズアレイ805に入射する。
【0052】
本実施形態の結像素子は、所定の素子面に垂直な光軸を有するアフォーカルレンズを当該素子面上に複数並べたアフォーカルレンズアレイであって、例えば特開2009−75483に開示されているものを用いることができる。上記素子面S3を対称面とするものである。
【0053】
図9は、本実施形態におけるアフォーカルレンズアレイ805の基本構成を示す図である。アフォーカルレンズ901は、焦点距離を無限大としたものであり、例えば素子面S3に対して垂直な光軸を有しそれぞれの焦点距離を隔てて配置した2つのレンズ901A、901Bにより構成される。このようなアフォーカルレンズ901を素子面S3上に多数並べて配置することでアフォーカルレンズアレイ805を構成することができる。アフォーカルレンズ901の構成としては、凸レンズや、光ファイバレンズ等を採用することができる。
【0054】
このアフォーカルレンズアレイ805は、図9に示すように、多数のアフォーカルレンズ901を1つの素子面上に並べて構成される。具体的にアフォーカルレンズ901は、素子面に垂直な光軸gを共有し且つ互いの焦点距離fs,feを隔てた2つのレンズ901A、901Bから構成される。この例では、レンズ901A、901Bとして共に凸レンズを適用している。これにより、素子面の一方側からレンズ901A…に入射した光は、それぞれ対をなす他方側のレンズ901B…から出射して、光源とは素子面に対して面対称となる位置に集光する。すなわち、光源となるディスプレイに表示される映像は、素子面に対する面対称位置に結像する。
【0055】
次に、第4の実施形態に係る3次元映像表示装置について説明する。第1の実施形態と共通する点は説明を省略し、主として異なる点について説明する。第1の実施形態では、面対称結像素子を利用した3次元映像表示装置について説明したが、本実施形態では結像素子として凸レンズ501を用いている。
【0056】
図10は、本実施形態に係る3次元映像表示装置の概略構成図である。凸レンズ10は屈折透過型の素子で、基本的な光学原理は上述の実施形態と同じである。なお、凸レンズの代わりに、凹面鏡、フレネルレンズなどを用いることも可能である。フレネルレンズは屈折透過型の素子で、凹面鏡は反射型の素子であるが基本的な光学原理は同じである。これらは、固有の焦点距離を持ち、この距離よりも離れている物体を実像として結像させる。
【符号の説明】
【0057】
100 3次元映像表示装置
101 ディスプレイ装置
102 2次元ディスプレイ
103 球面アクロマティクレンズ
104 プリズムシート
105 2面コーナーリフレクタアレイ
106 拡散板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被投影物として映像を表示するディスプレイと、
上記ディスプレイからの入射光を屈曲させて入射角度に対する出射角度を変える、素子面がディスプレイからの入射光の入射方向に対して直交又は傾斜した状態で設けられ、その直交又は傾斜した角度を維持して回転可能な走査素子と、
上記走査素子から出射する光を結像させる結像素子と、
を備える3次元映像表示装置。
【請求項2】
上記走査素子が、上記ディスプレイからの入射光を屈折させるプリズムである
請求項1記載の3次元映像表示装置。
【請求項3】
上記プリズムが、細長いプリズム板を断面鋸刃状に配置したプリズムシートである
請求項2記載の3次元映像表示装置。
【請求項4】
上記走査素子が、上記ディスプレイからの入射光を回折させる回折素子である
請求項1記載の3次元映像表示装置。
【請求項5】
上記走査素子が、上記ディスプレイからの入射光の入射方向に対して傾斜した状態で回転しながら、該入射光を反射させるミラーである
請求項1記載の3次元映像表示装置。
【請求項6】
上記結像素子が、
被投影物の実像を、対称面となるある1つの幾何平面に対する面対称位置に結像可能な面対称結像素子である
請求項1から5の何れかに記載の3次元映像表示装置。
【請求項7】
上記面対称結像素子が、
素子面に直角な相互に直交する2つの鏡面から構成される2面コーナーリフレクタを当該素子面上に複数並べた2面コーナーリフレクタアレイであり、この素子面を上記対称面とするものである
請求項6記載の3次元映像表示装置。
【請求項8】
上記面対称結像素子が、
光線を再帰反射させるレトロリフレクタアレイと光線を反射及び透過させるハーフミラー面を有するハーフミラーとを具備するものであり、当該ハーフミラー面が上記対称面とし、当該レトロリフレクタアレイを上記ハーフミラーに対して前記被投影物と同じ側の空間に配置しているものである
請求項6記載の3次元映像表示装置。
【請求項9】
上記面対称結像素子が、
所定の素子面に垂直な光軸を有するアフォーカルレンズを当該素子面上に複数並べたアフォーカルレンズアレイであり、当該素子面を上記対称面とするものである
請求項6記載の3次元映像表示装置。
【請求項1】
被投影物として映像を表示するディスプレイと、
上記ディスプレイからの入射光を屈曲させて入射角度に対する出射角度を変える、素子面がディスプレイからの入射光の入射方向に対して直交又は傾斜した状態で設けられ、その直交又は傾斜した角度を維持して回転可能な走査素子と、
上記走査素子から出射する光を結像させる結像素子と、
を備える3次元映像表示装置。
【請求項2】
上記走査素子が、上記ディスプレイからの入射光を屈折させるプリズムである
請求項1記載の3次元映像表示装置。
【請求項3】
上記プリズムが、細長いプリズム板を断面鋸刃状に配置したプリズムシートである
請求項2記載の3次元映像表示装置。
【請求項4】
上記走査素子が、上記ディスプレイからの入射光を回折させる回折素子である
請求項1記載の3次元映像表示装置。
【請求項5】
上記走査素子が、上記ディスプレイからの入射光の入射方向に対して傾斜した状態で回転しながら、該入射光を反射させるミラーである
請求項1記載の3次元映像表示装置。
【請求項6】
上記結像素子が、
被投影物の実像を、対称面となるある1つの幾何平面に対する面対称位置に結像可能な面対称結像素子である
請求項1から5の何れかに記載の3次元映像表示装置。
【請求項7】
上記面対称結像素子が、
素子面に直角な相互に直交する2つの鏡面から構成される2面コーナーリフレクタを当該素子面上に複数並べた2面コーナーリフレクタアレイであり、この素子面を上記対称面とするものである
請求項6記載の3次元映像表示装置。
【請求項8】
上記面対称結像素子が、
光線を再帰反射させるレトロリフレクタアレイと光線を反射及び透過させるハーフミラー面を有するハーフミラーとを具備するものであり、当該ハーフミラー面が上記対称面とし、当該レトロリフレクタアレイを上記ハーフミラーに対して前記被投影物と同じ側の空間に配置しているものである
請求項6記載の3次元映像表示装置。
【請求項9】
上記面対称結像素子が、
所定の素子面に垂直な光軸を有するアフォーカルレンズを当該素子面上に複数並べたアフォーカルレンズアレイであり、当該素子面を上記対称面とするものである
請求項6記載の3次元映像表示装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−8301(P2012−8301A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143460(P2010−143460)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(506122327)公立大学法人大阪市立大学 (122)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(506122327)公立大学法人大阪市立大学 (122)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】
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