説明

作業機用エンジン

【課題】環境に及ぼす悪影響が小さい作業機用のエンジンを提供する。
【解決手段】混合気を吸入して爆発させる燃焼室8と、燃焼室8で発生する爆発圧力によって往復動するピストン4と、ピストン4に連係されピストン4の往復運動を回転運動に変換して出力するクランクシャフト16と、容積の90%以上をエタノールとするエタノール燃料を貯留するフューエルタンク56と、フューエルタンク56および燃焼室8の双方に接続され、燃焼室8の負圧作用によって流通する空気中にエタノール燃料を混合し、質量の8.5%以上を前記燃料で占める混合気を生成する気化器100と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば刈払機等の作業機に用いられるエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に示すような構成の作業機用のエンジンが知られている。こうした作業機用のエンジンはガソリンを燃料とするものであり、空気に対して所定の割合でガソリンが混合された混合気によって爆発作用がもたらされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−288020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようにガソリンを燃料とする作業機用のエンジンは、排出ガスによって環境に悪影響を及ぼしてしまう。近年においては、糖化係バイオマスやデンプン系バイオマスさらにはセルロース系バイオマスといった種々の原料からエタノールの生成が可能になっており、こうしたエタノールを作業機用のエンジンにおいても用いることが環境上は望ましい。
しかしながら、従来の作業機用のエンジンは、ガソリンを燃料とすることを前提に設計されているため、ガソリンの代わりにエタノールを用いると、両者の理論空燃比の違いから、未燃燃料が排出されてしまい、かえって環境に悪影響を及ぼしてしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、環境に及ぼす悪影響が小さい作業機用のエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、混合気を吸入して爆発させる燃焼室と、前記燃焼室で発生する爆発圧力によって往復動するピストンと、前記ピストンに連係され、前記ピストンの往復運動を回転運動に変換して出力するクランクシャフトと、容積の90%以上がエタノールで構成される燃料を貯留するフューエルタンクと、前記燃焼室の負圧作用によって当該燃焼室に吸入される空気中に前記燃料を混合するとともに、少なくとも前記空気の流量が最大となるときに質量の8.5%以上を前記燃料で占める前記混合気を生成する混合気生成手段と、を備えている。
【0007】
請求項2に記載の発明は、前記混合気生成手段が、前記燃料の占める割合が質量の14%以下の混合気を生成する。
【0008】
請求項3に記載の発明は、前記混合気生成手段が、前記燃焼室に連通する通路と、前記通路の開度を調整して空気の流量を変化させるスロットルバルブと、前記フューエルタンクから導かれた前記燃料を一時的に貯留する貯留室と、前記貯留室と前記通路とを連通し、前記通路内を空気が流通したときに前記貯留室から前記通路まで前記燃料を導く流路と、前記流路上に設けられ、前記スロットルバルブの開度調整に応じて前記燃料の流量を制御するとともに、少なくとも前記スロットルバルブによって前記通路が全開となった状態で、前記通路を流通する空気の質量に対して、前記流路を流通する燃料の質量を8.5%〜14%に制御する流量制御部と、を備えた気化器からなる。
【0009】
請求項4に記載の発明は、前記クランクシャフトを収容するクランク室に連通し潤滑油が貯留される油溜室と、前記クランクシャフトを収容するクランク室と潤滑対象とを連通する潤滑油路と、を有する潤滑系統を備え、前記潤滑系統は、前記クランク室の圧力変化によって、前記油溜室に貯留される潤滑油を、前記潤滑油路を介して潤滑対象に導くとともに、各潤滑対象から前記油溜室に潤滑油を戻す。
【0010】
請求項1または2に記載の発明において、混合気生成手段の具体的な構成や燃焼室等との相対位置関係は特に限定されず、例えば、フューエルインジェクションによって構成してもよいし、請求項3に記載の発明のように気化器によって構成してもよい。
本発明において、糖質系バイオマス、デンプン系バイオマス、セルロース系バイオマス等、エタノールの原料は特に限定されない。容積の90%以上がエタノールで構成された燃料であれば、どのような原料によって生成されたエタノールであっても最適燃料となりうる。また、本来的にはエタノール100%の燃料が望ましいが、燃料中にエタノール以外の成分が一切含有されないというのは現実的ではない。そこで、燃料中にエタノール以外の成分が故意にあるいは意図せずに含有される場合を考慮して、容積の90%以上がエタノールで構成され燃料を最適燃料とすることとしている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態の4サイクルエンジンの正面側の断面図である。
【図2】本実施形態の4サイクルエンジンの側面側の断面図である。
【図3】本実施形態の気化器の断面図である。
【図4】本実施形態のスロットルバルブの開度を示す図である。
【図5】本実施形態の2次フィルタの分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、刈払機に用いられる4サイクルエンジンの正面側の断面図、図2は側面側の断面図である。
図1および図2に示すように、4サイクルエンジン1は、シリンダブロック2にピストン4を往復動自在に収容している。このシリンダブロック2の長手方向の一端側(図中上方)にはシリンダヘッド6が一体的に設けられており、これらシリンダブロック2、シリンダヘッド6およびピストン4の上面によって燃焼室8が形成される。
シリンダブロック2の長手方向の他端側(図中下方)には、オイルパン10が固定されており、シリンダブロック2とオイルパン10とによってクランクケース12が構成されている。
【0013】
このクランクケース12の内部にはクランク室14が形成されており、このクランク室14から両端が突出するようにクランクシャフト16が回転自在に支持されている。このクランクシャフト16は、コンロッド18によってピストン4に連結されており、ピストン4の往復運動がコンロッド18を介してクランクシャフト16の回転運動に変換されることとなる。
なお、クランクケース12の内部には、各機関を潤滑するための潤滑油を貯留する油溜室20が設けられている。この油溜室20は、図示のようにシリンダブロック2に形成された仕切壁2aによってクランク室14から仕切られ、密閉された空間となっている。これにより、刈払機のような携帯式の作業機において、使用の際に天地が逆になったり横向きになったりしても、油溜室20から潤滑油が飛散しないようにしている。
【0014】
また、図2に示すように、クランクケース12には連通路22が形成されている。この連通路22は、一端を油溜室20に開口させ、他端をクランク室14においてクランクシャフト16の周囲に臨ませている。連通路22における油溜室20側の開口には、可撓性を有するパイプ24が接続されている。パイプ24の先端には錘26が設けられており、4サイクルエンジン1が傾いたとしても、潤滑油の液面の変位にパイプ24が追従して、油溜室20内の潤滑油を確実に吸入することができるようにしている。
【0015】
また、クランクシャフト16には、その回転過程で連通路22とクランク室14とを連通する潤滑油路16aが形成されており、クランク室14に生じる負圧作用によって、油溜室20内の潤滑油が、パイプ24、連通路22および潤滑油路16aを介してクランク室14に導かれるようにしている。クランク室14に導かれた潤滑油は、クランクシャフト16の回転によって主にクランクウェッブ等から方々に飛散し、ピストン4やクランク室14内の各種の部品を潤滑することとなる。このとき、クランク室14内に飛散した潤滑油は、その一部がミスト化されて、図中符号aで示す潤滑油路を介して後述する側室50や動弁室52に導かれ、これによって側室50や動弁室52内に設けられた各種の部品も潤滑されるようにしている。なお、側室50や動弁室52に導かれた潤滑油は、ピストン4の昇降作用によって生じる負圧作用により、図中符号bで示す潤滑油路を介して再びクランク室14内に戻される。そして、仕切壁2aには、クランク室14から油溜室20への潤滑油の流通のみを許容する一方向弁28が設けられている。この一方向弁28は、クランク室14内の昇圧作用によって開弁するとともに、各種の部品を潤滑した潤滑油を油溜室20に戻すこととなる。
【0016】
このように、本実施形態においては、クランクシャフト16を収容するクランク室14の圧力変化によって、油溜室20に貯留される潤滑油を、ピストン4やクランクシャフト16、さらには後述する動弁機構40等の各潤滑対象に導くとともに、各潤滑対象から油溜室20に潤滑油を戻す潤滑系統Aを備えている。
【0017】
そして、上記シリンダヘッド6には、後述する気化器100で生成された混合気を燃焼室8に導く吸気ポート30、および燃焼室8で生成された排ガスを排気マフラ32に導く排気ポート34が形成されている。また、シリンダヘッド6には、燃焼室8に対して吸気ポート30を開閉する吸気バルブ36および排気ポート34に対して燃焼室8を開閉する排気バルブ38が設けられている。これら吸気バルブ36および排気バルブ38は、動弁機構40によって開閉する。
【0018】
図2に示すように、本実施形態においては、動弁機構40をいわゆるOHV型動弁機構としている。この動弁機構40は、主な構成部品としてクランクシャフトギヤ42、カムシャフト44、ロッカーアーム46,48等を有している。クランクシャフトギヤ42およびカムシャフト44は、シリンダブロック2およびクランクケース12に沿って形成される側室50に設けられており、ロッカーアーム46,48は、シリンダヘッド6よりも図中さらに上方に形成される動弁室52に設けられている。
【0019】
上記のクランクシャフトギヤ42は、側室50においてクランクシャフト16と一体となって回転する。上記のカムシャフト44には、側室50においてクランクシャフトギヤ42と噛み合い、クランクシャフト16の1/2回転でカムシャフト44を回転させるカムシャフトギヤ44aが設けられている。さらに、カムシャフト44には、当該カムシャフト44と一体回転するカム44bが設けられている。このカム44bには、プッシュロッド54の一端が接触しており、カム44bの回転によってプッシュロッド54が長手方向に移動するようにしている。プッシュロッド54の他端は、上記のロッカーアーム46,48に接続されており、プッシュロッド54の移動にともなってロッカーアーム46,48は揺動することとなる。そして、ロッカーアーム46,48の揺動によって、それぞれ吸気バルブ36および排気バルブ38が押し下げられ、これによって吸気ポート30および排気ポート34が開閉することとなる。
【0020】
吸気バルブ36は、ピストン4が上死点から下死点まで移動する吸入工程において開弁する。この吸入工程では、燃焼室8において容積拡大にともなって生じる負圧の作用により、吸気ポート30から燃焼室8内に混合気が吸入することとなる。このように、燃焼室8に吸入される混合気を生成するのが気化器100である。この気化器100は、フューエルタンク56から導かれた燃料を、エアクリーナを通過した空気に混合して混合気を生成している。
すでに説明したように、使用中に天地が逆になったり横向きになったりするおそれがあることを考慮し、本実施形態においては、いずれの方向でも使用できるように、気化器100をダイヤフラム式の構成としている。以下に、図3を用いて気化器100の構成について説明する。
【0021】
図3に示すように、気化器100は気化器本体102を備えている。気化器本体102には、クランク室14に連通するパルス通路104が形成されており、このパルス通路104をポンプダイヤフラム106の一方の側(図中上面)に臨ませている。このポンプダイヤフラム106の他方の側(図中下面)には、ポンプ室108が形成されている。ポンプ室108には、インレットバルブ110を介してフューエルインレット112が連通し、アウトレットバルブ114およびニードルバルブ116を介して貯留室(ダイヤフラム室)118が連通している。なお、フューエルインレット112は、後述する吸入管200および吸入パイプ62を介してフューエルタンク56に接続されている(図1参照)。
【0022】
クランク室14内では、容積変化にともなって正圧および負圧の交互作用が生じ、この圧力変化がパルス通路104を介してポンプダイヤフラム106に作用する。これにより、ポンプダイヤフラム106は波動運動することとなる。そして、ポンプダイヤフラム106の運動によってポンプ室108側に負圧が作用すると、アウトレットバルブ114が閉じられたままインレットバルブ110が開弁し、フューエルインレット112からポンプ室108に燃料が吸入される。これに対して、ポンプダイヤフラム106の運動によってポンプ室108側に正圧が作用すると、インレットバルブ110が閉じられたままアウトレットバルブ114が開弁し、ポンプ室108から貯留室(ダイヤフラム室)118に燃料が吐出される。
【0023】
貯留室(ダイヤフラム室)118は、メタリングダイヤフラム120によって背圧室122と区画されている。背圧室122にはエンジンの負圧が作用しており、メタリングダイヤフラム120は、エンジンの負圧と貯留室(ダイヤフラム室)118との圧力差によって作動することとなる。このメタリングダイヤフラム120は、コントロールレバー124を介して上記のニードルバルブ116に接続されており、このメタリングダイヤフラム120の作動によってニードルバルブ116が開閉するようにしている。具体的には、貯留室(ダイヤフラム室)118が燃料で一杯になると、貯留室(ダイヤフラム室)118が昇圧し、メタリングダイヤフラム120が背圧室122側に作動する。このとき、コントロールレバースプリング126の弾性力により、コントロールレバー124は、その一端(図中左側)が押し下げられるとともに、他端(図中右側)が押し上げられるように回動する。こうしたコントロールレバー124の回動動作によって、ニードルバルブ116が押し上げられ、ポンプ室108と貯留室(ダイヤフラム室)118の連通が遮断されることとなる。
【0024】
また、気化器本体102には、シリンダヘッド6に形成された吸気ポート30と、不図示のエアクリーナとを接続する通路128が形成されている。この通路128は、上流側(エアクリーナ側)を大径部128aとし、下流側(吸気ポート30側)を大径部128aよりも小径のベンチュリ部128bとしており、このベンチュリ部128bに、その開度を変位させるスロットルバルブ130が設けられている。このスロットルバルブ130は、その回転軸を通路128に直交させており、回転レバー130aを操作することによって図中上下方向にスライドしながら回転し、その回転量によってベンチュリ部128bの開度が変位するようにしている。
【0025】
また、このスロットルバルブ130には、アジャスタスクリュ132が設けられている。このアジャスタスクリュ132は、スロットルバルブ130に対して螺子式に止められており、そのスクリュ先端132aを通路128の中心近傍まで延伸させている。アジャスタスクリュ132をスロットルバルブ130に対して一方(締め付け方向)に回転させると、アジャスタスクリュ132のスクリュ先端132aは、図中下方に移動してベンチュリ部128bへの突出量を増す。これとは逆に、アジャスタスクリュ132をスロットルバルブ130に対して他方(戻し方向)に回転させると、アジャスタスクリュ132のスクリュ先端132aは、図中上方に移動してベンチュリ部128bへの突出量を少なくする。
【0026】
また、気化器本体102には、アジャスタスクリュ132に対向するようにノズル134が設けられており、このノズル134のノズル先端134aに、アジャスタスクリュ132のスクリュ先端132aが挿入されている。
さらに、ノズル134には、通路128に開口する孔134bが形成されており、この孔134bに連通する基端134cを、貯留室(ダイヤフラム室)118に臨ませている。これにより、貯留室(ダイヤフラム室)118と通路128とが、流路135を介して連通することとなる。なお、流路135上には、メインジェット136およびメインチェックバルブ138が設けられている。
【0027】
そして、吸気バルブ36が開くと、スロットルバルブ130の開度に応じた流量の空気が、エアクリーナから吸気ポート30に向かって通路128内を通過する。このとき、ベンチュリ部128bにおいて空気の流速が増し、ノズル134近傍の負圧作用によって、貯留室(ダイヤフラム室)118から流路135を介して燃料が吸い上げられる。貯留室(ダイヤフラム室)118から吸い上げられた燃料は、孔134bから通路128に吸い出される。このようにして混合気が生成され、この混合気が吸気ポート30を介して燃焼室8に導かれることとなる。なお、空気に混合される燃料の量は、スロットルバルブ130の開度すなわち空気の流量に応じて、流路135上に設けられたメインジェット136、孔134bおよびスクリュ先端132aによって構成される流量制御部によって次のように制御される。
【0028】
まず、回転レバー130aが図3に示す位置にあるときには、図4(a)に示すように、スロットルバルブ130によってベンチュリ部128bの開度が絞られており、僅かな空気が通路128を通過する。この状態が4サイクルエンジン1のアイドル状態となるが、このときに孔134bから吸い出される燃料の量は、アジャスタスクリュ132の回転によって調節することができる。つまり、アジャスタスクリュ132を一方(締め付け方向)に回転させると、スクリュ先端132aがベンチュリ部128bに突出して孔134bの開度が小さくなる。よって、孔134bから吸い出される燃料の量が少なくなり、混合気を薄めることができる。これとは逆に、アジャスタスクリュ132を戻し方向に回転させると、スクリュ先端132aがベンチュリ部128bから退避して孔134bの開度が大きくなる。よって、孔134bから吸い出される燃料の量が多くなり、混合気を濃くすることができる。このように、アジャスタスクリュ132を調節することで、アイドル状態における混合気の濃度を調節することが可能となる。
【0029】
上記のアイドル状態から回転レバー130aを回転させると、図4(b)に示すように、スロットルバルブ130が回転軸方向にスライドしながら回転し、ベンチュリ部128bの開度が大きくなって、通路128を通過する空気の流量が増す。このとき、スロットルバルブ130と一体となってアジャスタスクリュ132も図3において上方にスライドする。したがって、スクリュ先端132aが上方に引き上げられて孔134bの開度が大きくなり、通路128に吸い出される燃料の量が上記のアイドル状態に比べて多くなる。
【0030】
そして、上記の状態からさらに回転レバー130aを回転させると、図4(c)に示すように、スロットルバルブ130が回転軸方向にさらにスライドしながら回転し、ベンチュリ部128bの開度が最大となる。また、スクリュ先端132aがさらに上方に引き上げられるため、孔134bの開度もさらに大きくなるが、このときに通路128に吸い出される燃料の量はメインジェット136の径によって制御されることとなる。
ここで、メインジェット136の開口径は、スロットルバルブ130によって通路128が全開となった状態で、混合気の質量に占める燃料の質量の割合が10%前後の範囲、望ましくは8.5%〜14%の範囲に収まるように設定されている。これは、100%エタノールを燃料とした場合の理論空燃比が、空気:燃料(エタノール)=9:1であることを考慮したものである。ただし、エタノールは親水性が強く、エタノール100%の燃料とはいっても、実際には燃料中に水分が含まれてしまう。したがって、最大出力を確実に確保するといった観点からすれば、混合気の質量に占める燃料の質量の割合が10%以上(高濃度)になるようにメインジェット136の開口径を設定する方が望ましい。
【0031】
ただし、メインジェット136の開口径をあまり大きくし過ぎると、今度は混合気中に不必要に燃料が混合されてしまうので、実際は、混合気の質量に占める燃料の質量の割合が8.5%以上かつ14%以下、より理想的には空気:燃料(エタノール)が7:1〜9:1の範囲内になるように設定することが望ましい。
このことからも明らかなように、本実施形態においては、容積のほぼ100%がエタノールで構成される燃料を最適燃料としており、この最適燃料を用いることによって、従来のガソリンを燃料とする作業機用エンジンに比べて、環境への悪影響を低減しながらも同等の出力を実現することが可能となる。
また、本実施形態においては、図4(a)や図4(b)に示す状態でも、空気:燃料(エタノール)=7:1〜9:1となるように、孔134bの開口量とスクリュ先端132aの突出量とが設定されている。ただし、常に空気:燃料(エタノール)=7:1〜9:1(混合気の質量に占める燃料の質量の割合が8.5%以上かつ14%以下)となるように設定する必要はなく、例えば、図4(c)に示す高出力状態においてのみ、混合気の質量に占める燃料の質量の割合が10%前後となり、図4(a)や図4(b)に示す状態では、混合気中に占める燃料の割合が少なく(薄く)または多く(濃く)なるようにしてもよい。
【0032】
なお、図3に示すように、気化器本体102には、手動で圧縮および膨張が可能に構成され、その操作によって貯留室(ダイヤフラム室)118に負圧を生じさせるプライマポンプ140が設けられている。このプライマポンプ140を操作すると、貯留室(ダイヤフラム室)118が負圧になるため、フューエルタンク56から貯留室(ダイヤフラム室)118内に燃料が吸い上げられる。このとき、メインチェックバルブ138は、ノズル134を介して通路128から貯留室(ダイヤフラム室)118へ空気が流入するのを防ぐように機能している。そして、吸い上げられた燃料は貯留室(ダイヤフラム室)118からオーバーフローパイプ142を介してフューエルタンク56に戻される。
【0033】
ここで、図1に示すように、気化器100とフューエルタンク56とは、吸入管200および戻り管202によって接続されている。
より具体的には、フューエルタンク56は、断面を略コ字形に形成されており、クランクケース12を覆うように配置されている。フューエルタンク56において、気化器100と対面する部分にはキャップ嵌め込み孔58が形成されており、このキャップ嵌め込み孔58にキャップ60が嵌め込まれている。キャップ60は、戻り管202を圧入固定した状態で貫通させている。戻り管202は、一端を気化器100のオーバーフローパイプ142に圧入固定され、他端をフューエルタンク56内に位置させている。これにより、プライマポンプ140の操作によって貯留室(ダイヤフラム室)118に吸い上げられた燃料は、オーバーフローパイプ142および戻り管202を介してフューエルタンク56に戻されることとなる。
【0034】
また、キャップ60は、吸入パイプ62を圧入固定した状態で貫通させている。この吸入パイプ62は可撓性を有するものであり、一方の端部62aは、後述する接続部材204を介して吸入管200に接続され、他方の端部62bは、フューエルタンク56内に位置している。吸入パイプ62は、戻り管202に比べて長く、フューエルタンク56の奥にまで進入可能としている。また、吸入パイプ62の端部62bには、燃料内の不純物を取り除くための1次フィルタ64が設けられており、気化器100に燃料が導かれる際に、吸入パイプ62に不純物が進入しないようにしている。1次フィルタ64の周囲には錘66が設けられており、4サイクルエンジン1が傾いたとしても、燃料の液面の変位に吸入パイプ62が追従するようにしている。これにより、4サイクルエンジン1がいずれの方向に傾いた場合にも、フューエルタンク56内の燃料が確実に吸入されることとなる。
【0035】
吸入パイプ62および吸入管200は、図5に示すように、接続部材204を介して接続される。すなわち、接続部材204は、中空の筒体204aと、この筒体204aに螺子止めによって固定される蓋体204bとによって構成される。筒体204aには、圧入や接着剤等によって吸入管200が固定されており、これと同様に、蓋体204bには、吸入パイプ62の端部62aが固定されている。蓋体204bには貫通孔が形成されており、この蓋体204bを筒体204aに螺子止めすることにより、吸入パイプ62と吸入管200とが連通することとなる。
また、筒体204a内には、2次フィルタ206と、この2次フィルタ206を蓋体204b側から筒体204a側に押し付けるスプリング208とが設けられている。2次フィルタ206の側面の面積は、吸入管200の開口面積よりも大きく、スプリング208の弾性力によって2次フィルタ206が吸入管200の開口部全面に押し付けられることにより、吸入される燃料が確実に2次フィルタ206を通過するようにしている。
【0036】
この2次フィルタ206は、バイオマスエタノールの生成過程で分解されずに残留してしまった物質(例えば、セルロース類。以下、「非分解物質」という)の除去を目的とするものである。つまり、フューエルタンク56から気化器100に燃料が導かれる過程では、まず、1次フィルタ64によって燃料中に混入したゴミ等の不純物が除去される。1次フィルタ64によって不純物が除去された燃料は、さらに2次フィルタ206を通過することとなるが、この2次フィルタ206を燃料が通過する過程で、燃料(バイオマスエタノール)中に含まれる非分解物質が除去されるようにしている。本実施形態においては、2次フィルタ206として、微細な濾過孔が形成され、かつ、燃料の流通方向に立体的に繊維体が入り組む性質を有する金属繊維を用いているが、耐熱性、耐食性等を考慮するとステンレス鋼繊維を用いることがより望ましい。
【0037】
上記のように、1次フィルタ64と2次フィルタ206とによって、燃料中の不純物を段階的に除去する本実施形態によれば、気化器100への燃料の流通がすぐに阻害されたり、フィルタを頻繁に交換または洗浄したりしなければならないといった煩わしさを生じることなく、確実に不純物を除去することが可能となる。
すなわち、1次フィルタ64によって除去することができなかったセルロース類等の非分解物質を、2次フィルタ206によって除去することができる。
気化器100においては、理論空燃比を実現するために、メインジェット136やノズル134の径を詳細に設計する必要があるが、こうした部位にセルロース類等の非分解物質が付着し続けると径が小さくなってしまい、理論空燃比を実現できなくなってしまう。本実施形態のように、不純物の付着によって影響が及ぼされる部位よりも上流側に2次フィルタ206を設けることにより、こうした特段の問題が生じるのを防ぐことが可能となる。
【0038】
なお、1次フィルタ64も2次フィルタ206と同様の材質で構成し、非分解物質を1次フィルタ64においても除去するようにしても構わない。ただし、1次フィルタ64によってセルロース類等の非分解物質と他の物質とをまとめて除去しようとすると、1次フィルタ64が目詰まりを生じやすくなるおそれがある。そのため、1次フィルタ64の濾過孔を2次フィルタ206の濾過孔に比べて粗くするとともに、1次フィルタ64によって、主に非分解物質よりも大きな不純物を除去し、非分解物質は主に2次フィルタ206によって除去するようにすることがより望ましい。
【0039】
このようにした場合には、2次フィルタ206は、1次フィルタ64に比べて濾過孔が微細であるため、交換や洗浄の頻度が多くなる可能性がある。そこで、本実施形態によれば、2次フィルタ206の交換や洗浄の頻度を考慮して、フューエルタンク56と気化器100との流通過程、より詳細には、フューエルタンク56の外方であって、しかも、気化器本体102の外方に着脱容易に2次フィルタ206を設けるようにしている。つまり、2次フィルタ206は、1次フィルタ64よりも下流であって、混合気が生成される前に燃料を濾過することができる位置であれば、その配置や段階は特に限定されない。したがって、2次フィルタ206はフューエルタンク56内に設けてもよいし、気化器100内に設けてもよい。
しかしながら、上記のように交換や洗浄の頻度が高くなるおそれがある2次フィルタ206を、気化器本体102やフューエルタンク56等、他の部品の内部に設けてしまうと、その交換作業や洗浄作業が煩雑になってしまう。本実施形態のように、フューエルタンク56の外方であって、しかも、気化器本体102の外方に着脱容易に2次フィルタ206を設ければ、交換作業や洗浄作業が容易となり、上記のような煩雑さを解消することができる。
【0040】
なお、作業機用のエンジンにおける各部品の潤滑方法として、燃料中に潤滑油を混入させ、燃料とともに潤滑油を各部品に供給する方法が考えられる。しかしながら、ガソリンを含有していないエタノールのみの燃料を用いる場合には、エタノールと潤滑油とが分離してしまい、潤滑油を各潤滑対象に確実に導くことができなくなってしまうおそれがある。そこで、本実施形態においては、燃料系統とは完全に分離した潤滑系統Aを設け、主にクランク室14の圧力変化によって各潤滑対象に潤滑油を供給するようにしている。このように、燃料系統と潤滑系統とを完全に分離させることにより、ガソリンを含有していない燃料であっても、確実に潤滑対象を潤滑することが可能となる。
以上のように、本実施形態によれば、エタノールを燃料として用いることにより、従来のガソリンを燃料とする作業機用のエンジンに比べて環境に及ぼす影響が小さくなる。
【0041】
なお、本実施形態においては、本発明を4サイクルエンジンに適用した場合について説明したが、本発明は2サイクルエンジンにも適用可能である。
また、本発明を適用可能な作業機は、クランクシャフト16に接続されて、クランクシャフト16の回転動力によって作動するもの全てが含まれる。
また、本実施形態におけるフューエルタンク56や気化器100、あるいはピストン4やクランクシャフト16といった燃焼系や駆動系等の各構成部品の形状や配置等は一例に過ぎず、本実施形態の構成に限定されるものではない。
また、本実施形態においては、2次フィルタ206を金属鋼線によって構成したが、濾過孔の大きさ等、バイオエタノールの生成過程で分解されずに残留してしまう物質を除去することができるものであれば、その材質や形状等は特に限定されない。
また、本実施形態においては、特に1次フィルタ64と2次フィルタ206との関係について説明したが、フィルタは2つに限らず、3つ以上設けることとしても構わない。いずれにしても、多段階にフィルタを設けた場合には、非分解物質を、少なくとも上流側から2つ目以降の1つまたは2以上のフィルタによって除去することができればよい。
【符号の説明】
【0042】
4 ピストン
8 燃焼室
14 クランク室
16 クランクシャフト
56 フューエルタンク
100 気化器
118 貯留室(ダイヤフラム室)
128 通路
130 スロットルバルブ
132 アジャスタスクリュ
132a スクリュ先端
134b 孔
135 流路
136 メインジェット
A 潤滑系統
a,b 潤滑油路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合気を吸入して爆発させる燃焼室と、
前記燃焼室で発生する爆発圧力によって往復動するピストンと、
前記ピストンに連係され、前記ピストンの往復運動を回転運動に変換して出力するクランクシャフトと、
容積の90%以上がエタノールで構成される燃料を貯留するフューエルタンクと、
前記燃焼室の負圧作用によって当該燃焼室に吸入される空気中に前記燃料を混合するとともに、少なくとも前記空気の流量が最大となるときに質量の8.5%以上を前記燃料で占める前記混合気を生成する混合気生成手段と、を備えた作業機用エンジン。
【請求項2】
前記混合気生成手段は、前記燃料の占める割合が質量の14%以下の混合気を生成する請求項1記載の作業機用エンジン。
【請求項3】
前記混合気生成手段は、
前記燃焼室に連通する通路と、
前記通路の開度を調整して空気の流量を変化させるスロットルバルブと、
前記フューエルタンクから導かれた前記燃料を一時的に貯留する貯留室と、
前記貯留室と前記通路とを連通し、前記通路内を空気が流通したときに前記貯留室から前記通路まで前記燃料を導く流路と、
前記流路上に設けられ、前記スロットルバルブの開度調整に応じて前記燃料の流量を制御するとともに、少なくとも前記スロットルバルブによって前記通路が全開となった状態で、前記通路を流通する空気の質量に対して、前記流路を流通する燃料の質量を8.5%〜14%に制御する流量制御部と、を備えた気化器からなる請求項1または2に記載の作業機用エンジン。
【請求項4】
前記クランクシャフトを収容するクランク室に連通し潤滑油が貯留される油溜室と、
前記クランクシャフトを収容するクランク室と潤滑対象とを連通する潤滑油路と、を有する潤滑系統を備え、
前記潤滑系統は、前記クランク室の圧力変化によって、前記油溜室に貯留される潤滑油を、前記潤滑油路を介して潤滑対象に導くとともに、各潤滑対象から前記油溜室に潤滑油を戻す請求項1〜3のいずれかに記載の作業機用エンジン。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−132856(P2011−132856A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292054(P2009−292054)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000137292)株式会社マキタ (1,210)
【Fターム(参考)】