説明

作業車の車速制御構造

【課題】操作ペダルの踏み込み操作で車体を制動停止させた状態での他の操作などに起因して、操作ペダルに対する踏力が低下して車体が不測に発進する虞を防止する。
【解決手段】制御手段に、制動装置に連係した操作ペダルの操作位置と無段変速装置の出力との関係を示す変速出力設定データとして、無段変速装置の出力が零速になる操作ペダルの減速終了位置c,eが踏み込み解除位置aからの踏み込み操作量が大きくなるように設定した第1データと、踏み込み解除位置aからの踏み込み操作量が小さくなるように設定した第2データとを備え、制御手段が、第1データに基づく制御作動の実行中にペダルセンサの出力から操作ペダルの操作位置が減速終了位置cを超えた踏み込み限界位置側の位置であることを検知すると、第1データに基づく制御作動の実行状態から第2データに基づく制御作動の実行状態に切り換わるように構成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速装置を変速操作して前記無段変速装置の出力を変更する変速操作手段と、踏み込み解除位置に自動復帰する操作ペダルの操作位置に応じた制動力で車輪を制動する制動装置と、前記操作ペダルの操作位置を検出するペダルセンサと、前記ペダルセンサの出力に基づいて前記変速操作手段の作動を制御することで前記無段変速装置の出力を変速操作具で予め設定した設定速度と零速とにわたる変速領域での前記ペダルセンサの出力に応じた速度に変更する制御手段とを備えた作業車の車速制御構造に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような作業車の車速制御構造では、操作ペダルが変速制動領域と停止制動領域との間の境界位置を超えて停止制動領域に到達することで車体が制動停止し、境界位置を超えて変速制動領域に戻ることで車体が発進するように構成したものがある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−111353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の構成では、車体の制動停止状態を維持するためには、大きい踏力で操作ペダルを停止制動領域に保持する必要があることから、制動停止状態で他の操作などを行うことで操作ペダルに対する踏力が低下すると、操作ペダルが境界位置を超えて変速制動領域に戻ってしまう可能性が高く、そのため、車体を不測に発進させてしまう虞があった。
【0005】
本発明の目的は、操作ペダルの踏み込み操作で車体を制動停止させた状態での他の操作などに起因して、操作ペダルに対する踏力が低下して車体が不測に発進する虞を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、無段変速装置を変速操作して前記無段変速装置の出力を変更する変速操作手段と、踏み込み解除位置に自動復帰する操作ペダルの操作位置に応じた制動力で車輪を制動する制動装置と、前記操作ペダルの操作位置を検出するペダルセンサと、前記ペダルセンサの出力に基づいて前記変速操作手段の作動を制御することで前記無段変速装置の出力を変速操作具で予め設定した設定速度と零速とにわたる変速領域での前記ペダルセンサの出力に応じた速度に変更する制御手段とを備えた作業車の車速制御構造において、
前記制御手段に、前記操作ペダルの操作位置と前記無段変速装置の出力との関係を示す変速出力設定データとして、前記無段変速装置の出力が零速になる前記操作ペダルの減速終了位置が前記踏み込み解除位置からの踏み込み操作量が大きくなるように設定した第1データと、前記踏み込み解除位置からの踏み込み操作量が小さくなるように設定した第2データとを備え、
前記制御手段が、前記第1データに基づく制御作動の実行中に前記ペダルセンサの出力から前記操作ペダルの操作位置が前記減速終了位置を超えた踏み込み限界位置側の位置であることを検知すると、前記第1データに基づく制御作動の実行状態から前記第2データに基づく制御作動の実行状態に切り換わるように構成してある。
【0007】
第1の発明によると、第1データに基づく制御作動の実行中に、操作ペダルを第1データの減速終了位置を超える踏み込み限界位置側の操作位置まで踏み込み操作して車体を制動停止させた状態では、操作ペダルが第1データの減速終了位置を超えた際に、制御手段が第1データに基づく制御作動の実行状態から第2データに基づく制御作動の実行状態切り換わることで、操作ペダルが第1データの減速終了位置を通過して第2データの減速終了位置まで戻らない限り車体が発進しなくなる。
【0008】
そのため、操作ペダルの踏み込み操作で車体を制動停止させた状態で他の操作などを行うことで、操作ペダルに対する踏力が低下して操作ペダルが第1データの減速終了位置と第1データの減速終了位置との間まで戻った場合であっても、車体の発進を防止することができる。
【0009】
従って、操作ペダルの踏み込み操作で車体を制動停止させた状態での他の操作などに起因して、操作ペダルに対する踏力が低下して車体が不測に発進する虞を防止することができる。
【0010】
第2の発明は、上記第1の発明において、
前記第1データ及び前記第2データにおける前記無段変速装置の出力を前記設定速度に変更する前記操作ペダルの増速終了位置を、前記第2データの前記増速終了位置が前記第1データの前記増速終了位置よりも前記踏み込み解除位置からの踏み込み操作量が小さくなるように設定してある。
【0011】
第2の発明によると、第1データでは第1データの増速終了位置(減速開始位置)と減速終了位置とにわたる操作ペダルの踏み込み操作で無段変速装置の出力が変化し、第2データでは第1データの増速終了位置よりも踏み込み解除位置からの踏み込み操作量が小さくなるように設定した第2データの増速終了位置(減速開始位置)と、第1データの減速終了位置よりも踏み込み解除位置からの踏み込み操作量が小さくなるように設定した減速終了位置とにわたる操作ペダルの踏み込み操作で無段変速装置の出力が変化することになる。
【0012】
これにより、第1データでの操作ペダルの操作位置の変化量に対する無段変速装置の出力の変化量と、第2データでの操作ペダルの操作位置の変化量に対する無段変速装置の出力の変化量とを類似あるいは同じにすることができる。
【0013】
従って、第1データでの操作ペダルによる変速操作の操作感覚と第2データでの操作ペダルによる変速操作の操作感覚とを類似あるいは同じにすることができ、操作ペダルによる変速操作での操作性を良くすることができる。
【0014】
第3の発明は、上記第1又は第2の発明において、
前記第1データの前記減速終了位置と前記第2データの前記減速終了位置との間に位置する前記操作ペダルの操作位置から前記踏み込み限界位置にわたる前記操作ペダルの操作領域を、前記制動装置を作動させる制動操作領域に設定してある。
【0015】
第3の発明によると、第1データでの操作ペダルによる変速操作では、操作ペダルの変速操作領域では、操作ペダルの踏み操作位置に応じて無段変速装置の出力が変更するようになり、又、ペダルが制動操作領域に達すると、操作ペダルの踏み操作位置で速度が低下した状態で制動装置が制動することから、操作ペダルによる変速操作の操作性を良くすることができるとともに、車体の走行停止を制動装置の負担を軽減しながら確実に行うことができる。
【0016】
又、第2データでの操作ペダルによる変速操作では、操作ペダルの変速操作領域では、操作ペダルの踏み操作位置に応じて無段変速装置の出力が変更するようになり、制動装置は制動しないことから、操作ペダルの変速操作領域の全域において操作ペダルによる変速操作の操作性を良くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】トラクタの全体側面図である。
【図2】トラクタの全体平面図である。
【図3】伝動構造を示す縦断側面図である。
【図4】制御構成を示すブロック図である。
【図5】ブレーキペダルの操作位置と無段変速装置の出力との関係を示す図である。
【図6】ブレーキペダルの操作位置を示す側面図である。
【図7】無段変速装置の出力と前進用クラッチ及び後進用クラッチとの関係を示すタイムチャートである。
【図8】前後進切り換え制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態の一例として、本発明に係る作業車の車速制御構造を、作業車の一例であるトラクタに適用した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
図1及び図2に示すように、このトラクタは、その前部に搭載したエンジン1の後部にクラッチハウジング2を連結し、このクラッチハウジング2に、フレーム兼用のトランスミッションケース(以下、T/Mケースと略称する)3を、クラッチハウジング2の後部から車体後部に向けて延出するように連結してある。エンジン1の左右両側方には、左右一対の前輪4を操舵可能かつ駆動可能に配備してある。T/Mケース3における後部の左右両側方には、左右一対の後輪5を駆動可能かつ制動可能に配備してある。T/Mケース3の上方には、前輪操舵用のステアリングホイール6や運転座席7などを配備して搭乗運転部8を形成してある。
【0020】
図3に示すように、エンジン1からの動力は、主クラッチ9及びギア式の動力分配機構10を介して主変速装置11に伝達する。そして、主変速装置11による変速後の動力を、走行用の動力として電子油圧制御式の前後進切換装置12を介してシンクロメッシュ式の副変速装置13に伝達し、副変速装置13による変速後の動力を、前輪駆動用の動力として電子油圧制御式の前輪変速装置14及び前輪用差動装置15などを介して左右の前輪4に伝達し、かつ、後輪駆動用の動力として後輪用差動装置16などを介して左右の後輪5に伝達する。又、主変速装置11を通過したエンジン1からの動力(非変速動力)を、作業用として電子油圧制御式のPTOクラッチ17及びシンクロメッシュ式のPTO変速装置18などを介して動力取り出し用のPTO軸19に伝達する。
【0021】
図1及び図2に示すように、T/Mケース3の後部には、このトラクタの後部に連結するロータリ耕耘装置やプラウなどの作業装置(図示せず)の昇降操作を可能にする左右一対のリフトアーム20、及び、対応するリフトアーム20を揺動駆動する左右一対のリフトシリンダ21などを配備してある。右側のリフトアーム20は、作業装置連結用としてT/Mケース3の右後下部に上下揺動可能に連結する右側の下部リンク22にローリングシリンダ23を介して連結してある。左側のリフトアーム20は、作業装置連結用としてT/Mケース3の左後下部に上下揺動可能に連結する左側の下部リンク22に連係ロッド24を介して連結してある。左右のリフトシリンダ21には単動型の油圧シリンダを採用し、ローリングシリンダ23には複動型の油圧シリンダを採用してある。
【0022】
つまり、このトラクタは、その後部に連結した作業装置を左右のリフトシリンダ21の作動で昇降させることができ、ローリングシリンダ23の作動でローリングさせることができる。又、その後部にロータリ耕耘装置などの駆動型の作業装置を連結する場合には、その作業装置をPTO軸19から取り出した作業用の動力で駆動することができる。
【0023】
図4に示すように、エンジン1は、その調速機(図示せず)の調速レバー25を操作するアクセルシリンダ26の作動で、その出力回転数をアイドリング回転数と定格回転数との間で無段階に変更することができる。アクセルシリンダ26には電動シリンダを採用してある。アクセルシリンダ26の作動は、制御手段として機能する電子制御ユニット(以下、ECUと称する)27に制御プログラムとして備えたアクセル制御手段27Aの制御作動で制御する。
【0024】
ECU27は、CPU及びEEPROMなどを備えたマイクロコンピュータを利用して構成してある。ECU27には、アクセルレバー28の操作位置を検出するレバーセンサ29の出力、アクセルペダル30の操作位置を検出するペダルセンサ31の出力、及び、エンジン1の出力回転数を検出するエンジンセンサ32の出力、などを入力してある。又、アクセルレバー28の操作位置とエンジン1の出力回転数との関係を示す第1エンジン回転数設定データ、及び、アクセルペダル30の操作位置とエンジン1の出力回転数との関係を示す第2エンジン回転数設定データ、などを備えてある。
【0025】
図1、図2及び図4に示すように、アクセルレバー28は、前後揺動式の位置保持型に構成してステアリングホイール6の右下方に配備してある。アクセルペダル30は、踏み込み解除位置に自動復帰する自己復帰型に構成して搭乗運転部8の右足元部に配備してある。アクセルレバー用のレバーセンサ29及びアクセルペダル用のペダルセンサ31には回転式のポテンショメータを採用してある。エンジンセンサ32には電磁ピックアップ式の回転センサを採用してある。第1エンジン回転数設定データ及び第2エンジン回転数設定データにはマップデータや関係式などを採用することができる。
【0026】
アクセル制御手段27Aは、アクセルレバー用のレバーセンサ29の出力、アクセルペダル用のペダルセンサ31の出力、及び、エンジンセンサ32の出力などに基づいてアクセル制御を行う。具体的には、アクセルレバー用のレバーセンサ29の出力、アクセルペダル用のペダルセンサ31の出力、第1エンジン回転数設定データ、及び第2エンジン回転数設定データに基づいて、アクセルレバー28の操作位置に対応する設定回転数とアクセルペダル30の操作位置に対応する設定回転数とを求め、求めたアクセルレバー28による設定回転数とアクセルペダル30による設定回転数とを比較する。そして、アクセルペダル30による設定回転数がアクセルレバー28による設定回転数以下である場合は、アクセルレバー28による設定回転数を目標回転数として採用する。又、アクセルペダル30による設定回転数がアクセルレバー28による設定回転数よりも高い場合は、アクセルペダル30による設定回転数を目標回転数として採用する。そして、採用した目標回転数にエンジンセンサ32の出力が一致する(目標回転数の不感帯幅内に収まる)ようにアクセルシリンダ26の作動を制御する。
【0027】
図3に示すように、主変速装置11には、無段変速装置Aの一例である油圧機械式無段変速装置(以下、HMTと称する)33を採用してある。HMT33は、静油圧式無段変速装置(以下、HSTと称する)34と遊星歯車機構35とを組み合わせて構成してある。HST34は、アキシャルプランジャ形の可変容量ポンプ34A、及び、アキシャルプランジャ形の定容量モータ34B、などを備えて構成してある。遊星歯車機構35は、その中心に位置するサンギア35A、サンギア35Aの周囲にサンギア35Aと噛合する状態で等間隔に分散配置した3個のプラネタリギア35B、各プラネタリギア35Bを相対回転可能に支持するプラネタリキャリア35C、及び、各プラネタリギア35Bと噛合する状態でそれらのプラネタリギア35Bを外囲するアウタギア35D、などを備えて構成してある。そして、動力分配機構10からの動力をHST34のポンプ軸34Aaと遊星歯車機構35のプラネタリキャリア35Cとに伝達してあり、HST34は、HST34による変速後の動力をモータ軸34Baから遊星歯車機構35のサンギア35Aに伝達する。遊星歯車機構35は、プラネタリキャリア35Cに伝達されたエンジン1からの動力とサンギア35Aに伝達されたHST34による変速後の動力とを合成して前後進切換装置12に伝達する。
【0028】
図3及び図4に示すように、HST34は、可変容量ポンプ34Aの斜板角を変更することでエンジン1からの動力を変速することができる。可変容量ポンプ34Aの斜板角は、T/Mケース3の内部に備えた変速シリンダ36の作動で無段階に変更することができる。変速シリンダ36には複動型の油圧シリンダを採用してある。変速シリンダ36の作動は、変速シリンダ36に対するオイルの流れを制御する変速弁37の作動で制御する。変速弁37には電磁比例弁を採用してある。変速弁37の作動は、ECU27に制御プログラムとして備えた車速制御手段27Bの制御作動で制御する。
【0029】
図2及び図4に示すように、ECU27には、変速操作具としての主変速レバー38の操作位置を検出するレバーセンサ39の出力、及び、可変容量ポンプ34Aの斜板角を検出する斜板角センサ40の出力、などを入力してある。又、主変速レバー38の操作位置と可変容量ポンプ34Aの斜板角との関係を示す斜板角設定データなどを備えてある。
【0030】
主変速レバー38は、前後揺動式の位置保持型に構成して運転座席7の右側部に配備したアームレスト41の前部側に装備してある。主変速レバー用のレバーセンサ39及び斜板角センサ40には回転式のポテンショメータを採用してある。斜板角設定データにはマップデータや関係式などを採用することができる。
【0031】
車速制御手段27Bは、主変速レバー用のレバーセンサ39の出力、斜板角センサ40の出力、及び、斜板角設定データに基づいて主変速制御を行う。具体的には、主変速レバー用のレバーセンサ39が出力する主変速レバー38の操作位置と斜板角設定データとに基づいて求めた主変速レバー38の操作位置に対応する可変容量ポンプ34Aの斜板角を目標斜板角に設定し、この目標斜板角に可変容量ポンプ34Aの斜板角が一致する(目標斜板角の不感帯幅内に収まる)ように変速弁37の作動を制御して変速シリンダ36を作動させる。
【0032】
図示は省略するが、斜板角設定データは、主変速レバー38の操作位置と可変容量ポンプ34Aの斜板角との関係を、主変速レバー38の操作位置が零速位置である場合には可変容量ポンプ34Aの斜板角が逆転方向での最大角になってポンプ斜板34Abの操作位置が逆転最速位置になり、かつ、主変速レバー38の操作位置が最速位置である場合には可変容量ポンプ34Aの斜板角が正転方向での最大角になってポンプ斜板34Abの操作位置が正転最速位置になる状態が得られるように、主変速レバー38の零速位置からの操作量に応じてポンプ斜板34Abの逆転最速位置からの操作量が変化する関係に設定してある。
【0033】
HMT33は、可変容量ポンプ34Aの斜板角が逆転方向での最大角(以下、可変容量ポンプ34Aの最小斜板角とする)である場合に遊星歯車機構35による合成後の出力が零速になり、かつ、可変容量ポンプ34Aの斜板角が正転方向での最大角(以下、可変容量ポンプ34Aの最大斜板角とする)である場合に遊星歯車機構35による合成後の出力が最速になるように、可変容量ポンプ34Aの最小斜板角(ポンプ斜板34Abの逆転最速位置)からの操作量に応じて出力が大きくなるように構成してある。
【0034】
つまり、変速シリンダ36及び変速弁37などにより、可変容量ポンプ34Aのポンプ斜板34Abを操作することでHMT33の出力を変更する変速操作手段Bを構成してある。尚、斜板角設定データは、主変速レバー38の操作位置とHMT33の出力との比例関係が成立するように設定してある。
【0035】
図1〜4に示すように、前後進切換装置12は、多板式の油圧クラッチを採用した前進用クラッチ12A及び後進用クラッチ12Bなどを備えて構成してある。そして、前進用クラッチ12A及び後進用クラッチ12Bに対するオイルの流れを制御する前後進切換弁42の作動を制御することで、HMT33からの動力を前進用の動力として副変速装置13に伝達する前進伝動状態、HMT33からの動力を後進用の動力として副変速装置13に伝達する後進伝動状態、及び、HMT33から副変速装置13への伝動を遮断する伝動遮断状態に切り換えることができる。前後進切換弁42には電磁制御弁を採用してある。前後進切換弁42の作動は、ECU27に制御プログラムとして備えた前後進切換制御手段27Cの制御作動で制御する。
【0036】
図2及び図4に示すように、ECU27には、前後進切り換え用のFRレバー43の操作位置を検出するFRセンサ44の出力などを入力してある。FRレバー43は、前後揺動式で前進位置と後進位置の2位置に位置切り換え保持可能に構成してステアリングホイール6の左下方に配備してある。FRセンサ44は、FRレバー43の前進位置への操作で閉状態に切り換わる前進位置検出用のマイクロスイッチ、及び、FRレバー43の後進位置への操作で閉状態に切り換わる後進位置検出用のマイクロスイッチを備えて構成してある。
【0037】
前後進切換制御手段27Cは、FRセンサ44の出力に基づいて前後進切換装置12の作動状態を切り換える前後進切り換え制御を行う。前後進切り換え制御では、基本的には、FRセンサ44の出力に基づいてFRレバー43の前進位置から後進位置への切り換え操作を検知すると、前進用クラッチ12Aが減圧して遮断状態に切り換わり、その設定時間後に後進用クラッチ12Bが昇圧して伝動状態に切り換わるように前後進切換弁42の作動を制御することで前後進切換装置12を後進伝動状態に切り換える。FRセンサ44の出力に基づいてFRレバー43の後進位置から前進位置への切り換え操作を検知すると、後進用クラッチ12Bが減圧して遮断状態に切り換わり、その設定時間後に前進用クラッチ12Aが昇圧して伝動状態に切り換わるように前後進切換弁42の作動を制御することで前後進切換装置12を前進伝動状態に切り換える。
【0038】
図2に示すように、搭乗運転部8における運転座席7の左側方箇所には副変速レバー45を配備してある。図示は省略するが、副変速装置13は、その変速段が副変速レバー45の操作位置に応じて作業用の低速段と作業用の高速段と移動用の最速段のいずれかに切り換わるように、機械式の副変速用連係機構を介して副変速レバー45に連係してある。
【0039】
図3に示すように、前輪変速装置14は、シフト部材46の摺動操作で、左右の前輪4の周速が左右の後輪5の周速と同調するように副変速装置13からの動力を左右の前輪4に伝達する等速伝動状態と、左右の前輪4の周速が左右の後輪5の周速に対して約2倍になるように副変速装置13からの動力を左右の前輪4に伝達する増速伝動状態とに切り換えることができる。
【0040】
図示は省略するが、シフト部材46は、複動型の油圧シリンダを採用した前輪変速シリンダの作動で、前輪変速装置14を等速伝動状態に切り換える等速位置と増速伝動状態に切り換える増速位置とに摺動する。前輪変速シリンダの作動は、前輪変速シリンダに対するオイルの流れを制御する前輪変速弁の作動で制御することができる。前輪変速弁には電磁制御弁を採用してある。前輪変速弁の作動は、ECU27に制御プログラムとして備えた前輪変速制御手段の制御作動で制御する。
【0041】
ECU27には、前輪4の舵角を検出する舵角センサの出力、及び、搭乗運転部8に備えた選択スイッチの出力、などを入力してある。舵角センサには回転式のポテンショメータを採用してある。
【0042】
前輪変速制御手段は、舵角センサの出力に基づいて前輪変速装置14を等速伝動状態と増速伝動状態とに切り換える前輪変速制御を実行可能に構成してあり、選択スイッチの押圧操作で選択スイッチからオン信号が出力されるごとに、前輪変速制御を実行する前輪変速選択状態と前輪変速制御を実行しない前輪変速選択解除状態とに切り換わる。
【0043】
前輪変速制御では、具体的には、舵角センサの出力に基づいて前輪4の舵角が設定角度(例えば35度)未満であることを検知している場合は前輪変速装置14が等速伝動状態になり、又、前輪4の舵角が設定角度(例えば35度)以上であることを検知している場合は前輪変速装置14が増速伝動状態になるように前輪変速弁の作動を制御する。
【0044】
この構成から、前輪4を設定角度以上に操舵する畦際旋回などにおいて車体の旋回半径をより小さくしたい場合には、選択スイッチの操作で前輪変速選択状態に切り換えておくことにより、前輪4の設定角度以上の操舵に伴って前輪変速装置14を等速伝動状態から増速伝動状態に自動的に切り換えることができ、等速伝動状態よりも小さい旋回半径で車体を旋回させることができる。そして、その旋回後に前輪4の舵角を設定角度未満に戻すことで前輪変速装置14を増速伝動状態から等速伝動状態に自動的に復帰させることができる。
【0045】
図1、図2及び図4に示すように、搭乗運転部8の右足元部位には操作ペダルCとして左右一対のブレーキペダル47を配備してある。左右のブレーキペダル47は、対応する捻りバネ48の作用により踏み込み解除位置に向けて復帰揺動する。左側のブレーキペダル47は、左側の後輪5を制動する左側のサイドブレーキ49に機械式の制動用連係機構50を介して連係してある。右側のブレーキペダル47は、右側の後輪5を制動する右側のサイドブレーキ49に機械式の制動用連係機構50を介して連係してある。左右のサイドブレーキには多板型のものを採用してある。
【0046】
図示は省略するが、左側の制動用連係機構50は、左側のブレーキペダル47と左側のサイドブレーキ49とをクランクアーム及び押し引きロッドなどを介して連係することで、左側のブレーキペダル47が制動操作領域まで踏み込み操作された場合に、左側のブレーキペダル47の制動操作領域での踏み込み操作量に応じた制動力で左側のサイドブレーキ49を左側の後輪5に制動作用させるように構成してある。右側の制動用連係機構50は、右側のブレーキペダル47と右側のサイドブレーキ49とをクランクアーム及び押し引きロッドなどを介して連係することで、右側のブレーキペダル47が制動操作領域まで踏み込み操作された場合に、右側のブレーキペダル47の制動操作領域での踏み込み操作量に応じた制動力で右側のサイドブレーキ49を右側の後輪5に制動作用させるように構成してある。
【0047】
この構成から、左側のブレーキペダル47を単独で制動操作領域まで踏み込み操作することで、左側のサイドブレーキ49によって左側の後輪5を制動することができ、逆に、右側のブレーキペダル47を単独で制動操作領域まで踏み込み操作することで、右側のサイドブレーキ49によって右側の後輪5を制動することができる。又、左右のブレーキペダル47を同時に同じ操作量で制動操作領域まで踏み込み操作することで、左右のサイドブレーキ49によって左右の後輪5を同時に同じ制動力で制動することができる。
【0048】
つまり、ステアリングホイール6を旋回方向に回動操作する旋回走行時に、旋回内側の後輪5に対応する左右いずれかのブレーキペダル47を単独で制動操作領域まで踏み込み操作することで、そのときの旋回状態を、ステアリングホイール6の回動操作による旋回状態から旋回内側の後輪5を制動する制動旋回状態に切り換えることができ、車体の旋回半径を小さくすることができる。又、左右のブレーキペダル47を同時に制動操作領域まで踏み込み操作することで、左右のサイドブレーキ49を減速停止用の制動装置Dとして使用することができる。
【0049】
図示は省略するが、左右のブレーキペダル47には、それらの単独操作を阻止する連結状態と、それらの単独操作を許容する連結解除状態とに切り換え可能な連結機構を備えてある。これにより、左右のブレーキペダル47を、それらの単独操作による制動旋回状態への切り換えが可能な状態と、制動旋回状態への切り換えを阻止する状態とに切り換えることができる。
【0050】
又、搭乗運転部8には、制動操作領域まで踏み込み操作した左側のブレーキペダル47の制動操作領域での係合保持を可能にする保持機構を装備してある。これにより、左右のブレーキペダル47を連結機構により連結した状態で制動操作領域まで踏み込み操作した後、保持機構を操作して左側のブレーキペダル47を制動操作領域で係合保持することで、左右のブレーキペダル47を、そのときの制動操作領域での踏み込み位置に保持することができ、これにより、左右のサイドブレーキ49を、そのときの制動操作領域での左右のブレーキペダル47の踏み込み操作量に応じた制動力で左右の後輪5を制動する制動状態に維持することができる。つまり、保持機構によって左右のサイドブレーキ49を駐車ブレーキとして機能させることができるように構成してある。
【0051】
図4に示すように、左右のブレーキペダル47には、左右のブレーキペダル47を両踏み操作した場合の操作位置である両踏み操作位置を検出する単一のペダルセンサ51を、左右のブレーキペダル47を両踏み操作した場合の踏み込み解除位置からの両踏み操作量のみをペダルセンサ51に伝達するように構成したリンク機構52を介して連係してある。
【0052】
ペダルセンサ51には回転式のポテンショメータを採用してあり、ペダルセンサ51は、左右のブレーキペダル47の踏み込み解除位置からの両踏み操作量を左右のブレーキペダル47の両踏み操作位置として検出する。
【0053】
リンク機構52は、左右のブレーキペダル47の踏み込み方向上手側に配備した左右向きの接当部材52Aが、引っ張りバネ(図示せず)の作用で、少なくとも左右いずれか一方のブレーキペダル47のアーム部47Aに、それらの踏み込み方向上手側から接当する状態を維持するように構成してある。これにより、左右のブレーキペダル47を両踏み操作していない場合には、接当部材52Aが、踏み込み解除位置に位置する左右のブレーキペダル47で受け止められることで、ブレーキペダル47の踏み込み解除位置に対応する基準位置に位置し、左右いずれか一方のブレーキペダル47を踏み込み操作した場合には、接当部材52Aが、踏み込み解除位置に位置する他方のブレーキペダル47で受け止められることで基準位置に位置し、左右のブレーキペダル47を両踏み操作した場合にのみ、接当部材52Aが、引っ張りバネの作用で左右のブレーキペダル47に接当追従するように構成してある。そして、このときの接当部材52Aの基準位置からの追従移動量を左右のブレーキペダル47の踏み込み解除位置からの両踏み操作量としてペダルセンサ51に伝達するように構成してある。
【0054】
図4及び図5に示すように、ペダルセンサ51は、検出した左右のブレーキペダル47の両踏み操作位置をECU27に出力する。ECU27には、左右のブレーキペダル47の両踏み操作位置とHMT33の出力との関係を示す変速出力設定データなどを備えてある。変速出力設定データにはマップデータや関係式などを採用することができる。尚、この変速出力設定データは前進用と後進用とを兼ねるものであるが、前進専用の変速出力設定データと後進専用の変速出力設定データとを備えるようにしてもよい。
【0055】
ECU27においては、車速制御手段27Bが、主変速レバー38の操作位置に対応して設定した可変容量ポンプ34Aの設定斜板角、斜板角センサ40の出力、ブレーキペダル用のペダルセンサ51の出力、及び、変速出力設定データに基づいてペダル変速制御を行う。具体的には、主変速レバー38の操作位置に対応して設定した可変容量ポンプ34Aの設定斜板角から主変速レバー38の操作位置に対応するHMT33の設定出力(設定速度)を求め、この設定出力が変速出力設定データでの左右のブレーキペダル47の踏み込み解除位置aに対応する最大出力(最大速度)になるように変速出力設定データを補正する。そして、ブレーキペダル用のペダルセンサ51が出力する左右のブレーキペダル47の両踏み操作位置と補正後の変速出力設定データとに基づいて、左右のブレーキペダル47の両踏み操作位置に対応するHMT33の出力(出力速度)を求め、求めたHMT33の出力を目標出力(目標速度)に設定し、この目標出力をHMT33の出力として得るための目標出力に対応する可変容量ポンプ34Aの目標斜板角を求め、求めた目標斜板角に可変容量ポンプ34Aの斜板角が一致する(目標斜板角の不感帯幅内に収まる)ように変速弁37の作動を制御して変速シリンダ36を作動させる。
【0056】
図5及び図6に示すように、変速出力設定データには第1データと第2データとを備えてある。第1データは、左右のブレーキペダル47が踏み込み解除位置aから予め設定した減速開始位置(増速終了位置)bに至るまでの間はHMT33の出力を最大出力(主変速レバー38の操作位置に対応する設定速度)に維持し、減速開始位置bに至ってから減速終了位置cを超えるまでの間は、左右のブレーキペダル47の両踏み操作量に反比例してHMT33の出力が最大出力から最小出力(零速)との間で変化するように、左右のブレーキペダル47の両踏み操作位置とHMT33の出力との関係を設定してある(図5の実線参照)。第2データは、左右のブレーキペダル47が踏み込み限界位置dから予め設定した増速開始位置(減速終了位置)eに戻るまでの間はHMT33の出力を最小出力に維持し、増速開始位置eに戻ってから予め設定した増速終了位置f未満に戻るまでの間は、左右のブレーキペダル47の両踏み操作量に反比例してHMT33の出力が最小出力から最大出力との間で変化するように、左右のブレーキペダル47の両踏み操作位置とHMT33の出力との関係を設定してある(図5の破線参照)。
【0057】
減速開始位置bは、増速終了位置fよりも左右のブレーキペダル47の踏み込み解除位置aからの両踏み操作量が大きい操作位置に設定してあり、増速開始位置eは、減速終了位置cよりも左右のブレーキペダル47の踏み込み解除位置aからの両踏み操作量が小さい操作位置に設定してある。
【0058】
又、減速開始位置bと増速終了位置fとの間での左右のブレーキペダル47の踏み込み解除位置aからの両踏み操作量の差を、減速終了位置cと増速開始位置eとの間での左右のブレーキペダル47の踏み込み解除位置aからの両踏み操作量の差よりも小さくして、第1データの減速開始位置bと減速終了位置cとの間での左右のブレーキペダル47の両踏み操作量に対するHMT33の出力の変化量が、第2データの増速開始位置eと増速終了位置fとの間での左右のブレーキペダル47の両踏み操作量に対するHMT33の出力の変化量よりも小さくなるように設定してある。
【0059】
車速制御手段27Bは、第1データに基づくペダル変速制御において左右のブレーキペダル47の両踏み込み操作位置が減速終了位置cを超えるのに伴って、変速出力設定データを第1データから第2データに切り換えて第2データに基づくペダル変速制御を行うように構成してある。又、第2データに基づくペダル変速制御において左右のブレーキペダル47の両踏み込み操作位置が増速終了位置f未満に戻るのに伴って、変速出力設定データを第2データから第1データに切り換えて第1データに基づくペダル変速制御を行うように構成してある。
【0060】
左右のブレーキペダル47の操作領域には、左右のブレーキペダル47の踏み込み操作にかかわらず左右のサイドブレーキ49を制動解除状態に維持する制動解除領域と、左右のブレーキペダル47の踏み込み操作量が大きくなるほど左右のサイドブレーキ49の対応する後輪5に作用する制動力が大きくなり、左右のブレーキペダル47の踏み込み操作量が小さくなるほど左右のサイドブレーキ49の対応する後輪5に作用する制動力が小さくなる制動操作領域とを備えてある。そして、制動解除領域と制動操作領域との境界位置gが減速終了位置cと増速開始位置eとの間に位置して、第1データでの左右のブレーキペダル47の変速操作領域における減速終了位置側の領域部分が制動操作領域と重合し、第2データでの左右のブレーキペダル47の変速操作領域が制動操作領域に重合しないように構成してある。
【0061】
この構成から、主変速レバー38を走行用の任意の操作位置に操作して左右のブレーキペダル47を踏み込み解除位置aに位置させた走行状態において、左右のブレーキペダル47の両踏み操作を行うと、車速制御手段27Bが第1データに基づくペダル変速制御を実行し、かつ、左右のサイドブレーキ49が、左右のブレーキペダル47の制動操作領域での両踏み操作量に応じた制動力で左右の後輪5を制動する。
【0062】
これにより、左右のブレーキペダル47が踏み込み解除位置aから減速開始位置bに至るまでの間は、車速制御手段27Bが、HMT33の出力を主変速レバー38の操作位置に対応する設定速度に維持し、かつ、左右のサイドブレーキ49が左右の後輪5を制動しないことから、左右のブレーキペダル47の両踏み操作にかかわらず、車速を、アクセルレバー28、主変速レバー38、及び、副変速レバー45の操作位置に基づいて得られる設定速度で一定にすることができる。
【0063】
又、左右のブレーキペダル47が減速開始位置bから制動解除領域と制動操作領域との境界位置gを超えるまでの間は、車速制御手段27Bが、左右のブレーキペダル47の両踏み操作位置に応じてHMT33の出力を変更するようになり、左右のサイドブレーキ49は左右の後輪5を制動しないことから、左右のブレーキペダル47の両踏み操作によって、車速を、設定速度と左右のブレーキペダル47を境界位置gまで踏み込み操作した場合に得られる速度との間で変更することができる。
【0064】
更に、左右のブレーキペダル47が境界位置gから減速終了位置cを超えるまでの間は、車速制御手段27Bが、左右のブレーキペダル47の両踏み操作位置に応じてHMT33の出力を変更し、かつ、左右のサイドブレーキ49が、左右のブレーキペダル47の制動操作領域での両踏み操作量に応じた制動力で左右の後輪5を制動することから、車速を、左右のブレーキペダル47を境界位置gまで踏み込み操作した場合に得られる速度と零速との間で変更することができ、かつ、左右のブレーキペダル47の減速終了位置cへの到達又はそれ以前の段階で車体を制動停止させることができる。
【0065】
そして、左右のブレーキペダル47が減速終了位置cを超えると、車速制御手段27Bが、第1データに基づくペダル変速制御を実行する状態から第2データに基づくペダル変速制御を実行する状態に切り換わり、左右のブレーキペダル47が減速終了位置cを超えた踏み込み限界位置dから減速終了位置cを通過して境界位置gに戻るまでの間は、車速制御手段27BがHMT33の出力を零速に維持した状態で、左右のサイドブレーキ49が、左右のブレーキペダル47の制動操作領域での両踏み操作量に応じた制動力で左右の後輪5を制動することから、左右のブレーキペダル47が減速終了位置cよりも境界位置gに近くなるように左右のブレーキペダル47に対する踏力を弱めても車体を制動停止状態に維持することができる。
【0066】
又、左右のブレーキペダル47が境界位置gから増速開始位置eに戻るまでの間は、車速制御手段27BがHMT33の出力を零速にして車速を零に維持することから、左右のブレーキペダル47が境界位置gよりも増速開始位置eに近くなるように左右のブレーキペダル47に対する踏力を弱めて左右のサイドブレーキ49による左右の後輪5に対する制動を解除しても車体を停止状態に維持することが可能になる。
【0067】
更に、左右のブレーキペダル47が増速開始位置eから増速終了位置fに戻るまでの間は、車速制御手段27Bが、左右のブレーキペダル47の両踏み操作位置に応じてHMT33の出力を変更するようになり、左右のサイドブレーキ49は左右の後輪5を制動しないことから、左右のブレーキペダル47の両踏み操作によって車速を零速と設定速度との間で変更することができる。
【0068】
そして、左右のブレーキペダル47が増速終了位置fを超えると、車速制御手段27Bが、第2データに基づくペダル変速制御を実行する状態から第1データに基づくペダル変速制御を実行する状態に切り換わり、前述したように、左右のブレーキペダル47が踏み込み解除位置aから減速開始位置bに至るまでの間は、左右のブレーキペダル47の両踏み操作にかかわらず車速を設定速度で一定にすることができる。
【0069】
つまり、左右のブレーキペダル47を、車速を零速と設定速度との間で変更する変速ペダルとして使用することができ、これにより、変速操作を容易にすることができる。
【0070】
又、左右のブレーキペダル47が減速終了位置cを超える踏み込み限界位置側の操作位置まで両踏み操作して車体を制動停止させた状態では、左右のブレーキペダル47が減速終了位置cを通過して増速開始位置eまで戻らない限り車体が発進しないことから、左右のブレーキペダル47の両踏み操作で車体を制動停止させた状態での他の操作などに起因して、左右のブレーキペダル47に対する踏力が低下して左右のブレーキペダル47が減速終了位置cと増速開始位置eとの間まで戻った場合であっても、車体の発進を防止することができる。
【0071】
しかも、車速制御手段27Bが第1データに基づくペダル変速制御の実行中は左右のブレーキペダル47が減速終了位置cを超えない限り、第2データに基づくペダル変速制御に切り換わらないことで、左右のブレーキペダル47を減速開始位置bと減速終了位置cとにわたって両踏み操作している間は、左右のブレーキペダル47の両踏み操作位置と車速の関係に変化が生じることがなく、操作フィーリングが一定になることから、又、車速制御手段27Bが第2データに基づくペダル変速制御の実行中は左右のブレーキペダル47が増速終了位置fを超えない限り、第1データに基づくペダル変速制御に切り換わらないことで、左右のブレーキペダル47を減速開始位置bと減速終了位置cとにわたって両踏み操作している間は、左右のブレーキペダル47の両踏み操作位置と車速の関係に変化が生じることがなく、操作フィーリングが一定になることから、車体の発進と停止とを繰り返すインチング操作などが行い易くなる。
【0072】
図4、図7及び図8に示すように、前後進切換制御手段27Cは、高速走行中に、伝動切換手段Eとして機能する前後進切換装置12による前後進の切り換えを指令する指令手段EであるFRセンサ44の出力に基づいて前後進切換装置12の作動状態を切り換えると、前進用クラッチ12A及び後進用クラッチ12Bで吸収するエネルギーが過大になって前進用クラッチ12A及び後進用クラッチ12Bが焼損する虞があることから、前後進切り換え制御では、その焼損の発止を回避するために以下のような制御作動を行うように構成してある。
【0073】
先ず、FRセンサ44の出力に基づいてFRレバー43の前進位置又は後進位置への切り換え操作を検知したか否かを判別し〔ステップ#1〕、切り換え操作を検知していない場合はステップ#1に戻り、切り換え操作を検知した場合は、エンジンセンサ32の出力と斜板角センサ40の出力とに基づいてHMT33の出力速度(前後進切換装置12に対する入力速度)を算出し〔ステップ#2〕、HMT33の出力速度が焼損防止用として予め設定した前後進切り換え用の設定速度(例えば15Km/h)を超えているか否かを判別する〔ステップ#3〕。
【0074】
焼損防止用の設定速度を超えていない場合は、FRレバー43の操作位置に対応しない前進用クラッチ12A又は後進用クラッチ12Bが減圧して遮断状態に切り換わり、その設定時間後にFRレバー43の操作位置に対応する前進用クラッチ12A又は後進用クラッチ12Bが昇圧して伝動状態に切り換わるように前後進切換弁42の作動を制御するクラッチ圧切換制御を行い〔ステップ#4〕、クラッチ圧切換制御が終了した段階で前後進切り換え制御を終了する。
【0075】
焼損防止用の設定速度を超えている場合は、変速シリンダ36の作動で可変容量ポンプ34Aの斜板角が小さくなってHMT33の出力速度が低下するように変速弁37の作動を制御する減速制御を開始するとともに〔ステップ#5〕、エンジンセンサ32の出力と斜板角センサ40の出力とに基づいてHMT33の出力速度を算出し〔ステップ#6〕、かつ、ECU27に備えたタイマ(図示せず)によって減速制御の開始からの計時を行う〔ステップ#7〕。
【0076】
次に、HMT33の出力速度が焼損防止用の設定速度に達したか否かを判別し〔ステップ#8〕、焼損防止用の設定速度に達した場合は、減速制御を終了してHMT33の出力速度を焼損防止用の設定速度に維持し〔ステップ#9〕、かつ、クラッチ圧切換制御を開始するとともに〔ステップ#10〕、タイマによってクラッチ圧切換制御の開始からの計時を行う〔ステップ#11〕。
【0077】
ステップ#8において焼損防止用の設定速度に達していない場合は、減速制御の開始からの計時が第1設定時間を経過したか否かを判別し〔ステップ#12〕、経過していない場合はステップ#8に戻り、経過した場合は、ステップ#9に移行してHMT33の出力速度をそのときの速度に維持する。
【0078】
クラッチ圧切換制御の開始後は、前進用圧力センサ53の出力又は後進用圧力センサ54の出力に基づいて昇圧側の前進用クラッチ12A又は後進用クラッチ12Bのクラッチ圧が設定圧に達したか否かを判別し〔ステップ#13〕、昇圧側のクラッチ圧が設定圧に達した場合は、変速シリンダ36の作動で可変容量ポンプ34Aの斜板角が大きくなってHMT33の出力速度が主変速レバー38の操作位置に対応する設定速度まで上昇するように変速弁37の作動を制御する増速制御を行う〔ステップ#14〕。
【0079】
昇圧側のクラッチ圧が設定圧に達していない場合は、クラッチ圧切換制御の開始からの計時が第2設定時間を経過したか否かを判別し〔ステップ#15〕、経過していない場合はステップ#13に戻り、経過した場合はステップ#14に移行して増速制御を行う。
【0080】
そして、クラッチ圧切換制御が終了したか否かを判別し〔ステップ#16〕、クラッチ圧切換制御及び増速制御が終了した段階で前後進切り換え制御を終了する。
【0081】
つまり、FRレバー43の操作に基づいて前後進の切り換えを行なう場合のHMT33の出力速度が減速制御によって第1設定時間の間で焼損防止用の設定速度まで減速させることが可能な速度である場合は、運転者に前後進の切り換え時間が長くなることによる違和感を感じさせることなく、前進用クラッチ12A及び後進用クラッチ12Bの焼損を回避することができる。又、HMT33の出力速度が減速制御によって第1設定時間の間で焼損防止用の設定速度まで減速させることができない速度であっても、運転者に前後進の切り換え時間が長くなることによる違和感を感じさせることなく、前進用クラッチ12A及び後進用クラッチ12Bの焼損を抑制することができる。
【0082】
尚、このトラクタでは、エンジンセンサ32及び斜板角センサ40などにより、前後進切換装置12を備える伝動系での回転速度であるHMT33の出力速度を検出する検出手段Gを構成してある。又、HMT33が、前後進切換装置12の作動による前後進の切り換え時に、前後進切換装置12を備える伝動系での回転速度を変速する変速手段Hとして機能する。
【0083】
〔別実施形態〕
【0084】
〔1〕無段変速装置Aとしては、静油圧式無段変速装置又はベルト式無段変速装置などを採用することができる。
【0085】
〔2〕変速操作手段Bとしては電動シリンダなどを採用することができる。
【0086】
〔3〕操作ペダルCとしては単一装備したブレーキペダルであってもよい。そして、制動装置Dとしては、単一装備したものであってもよく、又、前輪4又は前輪4と後輪5の双方を制動するように構成したものであってもよい。
【0087】
〔4〕ペダルセンサ51としては、左右のブレーキペダル47のそれぞれに対応して備えたものであってもよい。
【0088】
〔5〕変速操作具38としてスイッチなどを採用してもよい。
【0089】
〔6〕第1データ及び第2データとしては、それらの増速終了位置b,fが同じ位置になるように設定したものであってもよい。
【0090】
〔7〕第2データの減速終了位置eから踏み込み限界位置dにわたる操作ペダルCの操作領域を、制動装置Dを作動させる制動操作領域に設定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明に係る作業車の車速制御構造は、無段変速装置を備えるトラクタ、乗用田植機、コンバイン、及び乗用草刈機、などに適用することができる。
などに適用することができる。
【符号の説明】
【0092】
5 車輪
27 制御手段
38 変速操作具
51 ペダルセンサ
A 無段変速装置
B 変速操作手段
C 操作ペダル
D 制動装置
a 踏み込み解除位置
b 増速終了位置(第1データ)
c 減速終了位置(第1データ)
d 踏み込み限界位置
e 減速終了位置(第2データ)
f 増速終了位置(第2データ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無段変速装置を変速操作して前記無段変速装置の出力を変更する変速操作手段と、踏み込み解除位置に自動復帰する操作ペダルの操作位置に応じた制動力で車輪を制動する制動装置と、前記操作ペダルの操作位置を検出するペダルセンサと、前記ペダルセンサの出力に基づいて前記変速操作手段の作動を制御することで前記無段変速装置の出力を変速操作具で予め設定した設定速度と零速とにわたる変速領域での前記ペダルセンサの出力に応じた速度に変更する制御手段とを備えた作業車の車速制御構造において、
前記制御手段に、前記操作ペダルの操作位置と前記無段変速装置の出力との関係を示す変速出力設定データとして、前記無段変速装置の出力が零速になる前記操作ペダルの減速終了位置が前記踏み込み解除位置からの踏み込み操作量が大きくなるように設定した第1データと、前記踏み込み解除位置からの踏み込み操作量が小さくなるように設定した第2データとを備え、
前記制御手段が、前記第1データに基づく制御作動の実行中に前記ペダルセンサの出力から前記操作ペダルの操作位置が前記減速終了位置を超えた踏み込み限界位置側の位置であることを検知すると、前記第1データに基づく制御作動の実行状態から前記第2データに基づく制御作動の実行状態に切り換わるように構成してある作業車の車速制御構造。
【請求項2】
前記第1データ及び前記第2データにおける前記無段変速装置の出力を前記設定速度に変更する前記操作ペダルの増速終了位置を、前記第2データの前記増速終了位置が前記第1データの前記増速終了位置よりも前記踏み込み解除位置からの踏み込み操作量が小さくなるように設定してある請求項1に記載の作業車の車速制御構造。
【請求項3】
前記第1データの前記減速終了位置と前記第2データの前記減速終了位置との間に位置する前記操作ペダルの操作位置から前記踏み込み限界位置にわたる前記操作ペダルの操作領域を、前記制動装置を作動させる制動操作領域に設定してある請求項1又は2に記載の作業車の車速制御構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−2579(P2013−2579A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135788(P2011−135788)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】