説明

作業車両におけるHST変速装置の調節機構

【課題】左右の走行装置が同時に駆動又は停止するように左右のHST変速装置を調節するHST変速装置の調節機構を提供することを課題としている。
【解決手段】変速レバー13の中立位置において、左右の各走行装置2L,2Rに各々対応する左右のHST変速装置ニュートラルとなるように、HST変速装置の変速操作を揺動により行う操作部9L,9Rを自動的に調節する調節機構を各操作部9L,9Rに各々対応して設けた。また変速レバー13を前進開始ポジション又は後進開始ポジションに位置させた場合に、左右の走行装置2L,2Rが同時に前進側又は後進側に駆動されるように、両操作部9L,9Rの揺動を自動的に調節する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右の走行装置をそれぞれ独立したHST変速装置によって駆動する作業車両におけるHST変速装置の調節機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来左右の走行装置と、各走行装置に各々対応する左右のHST変速装置と、走行機体の走行速度の変速操作を行う変速レバーと、変速レバーの操作に応じて各HST変速装置の変速装置を行う制御部とを備え、該制御部が、変速レバーの操作に応じて各HST変速装置を各別に操作して各HST変速装置の変速操作を行い車速を変速する作業車両が公知となっている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−335257号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記各HST変速装置がニュートラルとなる変速操作位置は1点のみである。そして変速レバーは、中立ポジションでHST変速装置がニュートラルとなるように設けられている。しかしHST変速装置はワイヤ等によって機械的に操作されるため、変速レバーの揺動操作に対して機械的な誤差や遊びが存在し、この遊びや誤差の範囲で変速レバーを中立ポジションから前進側又は後進側に揺動操作しても、HST変速装置はニュートラルのままとなる。
【0004】
つまり変速レバーには、HST変速装置をニュートラルとする中立範囲が存在する。このため中立範囲を越えて変速レバーを前進側又は後進側に操作するとHST変速装置が駆動される。ただし前述の機械的な誤差や遊びによって、各HST変速装置に対する変速レバーの中立範囲が、左右のHST変速装置で異なる場合がある。
【0005】
このため変速レバーを前進側又は後進側に操作した場合に、左右のHST変速装置が同時に駆動されない場合がある。同様に変速レバーを中立範囲内に戻しても、左右のHST変速装置が同時に停止しない場合がある。走行機体を停止状態から直進させる場合に、左右の走行装置の駆動開始時期が異なると、走行開始時に走行機体が左右方向に曲がり、停止時に左右の走行装置の駆動開始時期が異なると、走行機体が左右方向に曲がって停止するという欠点がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明の作業車両におけるHST変速装置の調節機構は、左右の走行装置2L,2Rと、各走行装置2L,2Rに各々対応する左右のHST変速装置と、走行機体1の走行速度の変速操作を行う変速レバー13と、変速レバー13の操作に応じて各HST変速装置の変速装置を行う制御部とを備え、該制御部が、変速レバー13の操作に応じて各HST変速装置の変速操作を揺動により行う操作部9L,9Rを各別に揺動操作して各HST変速装置の変速操作を行う作業車両において、変速レバー13の中立位置において、両HST変速装置がニュートラルとなるように、両操作部9L,9Rの揺動を自動的に調節する調節機構を各操作部9L,9Rに各々対応して設けたことを第1の特徴としている。
【0007】
第2に調節機構を、変速レバー13を前進開始ポジション又は後進開始ポジションに位置させた場合に、左右の走行装置2L,2Rが同時に前進側又は後進側に駆動されるように、両操作部9L,9Rの揺動を自動的に調節する構造としたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
以上のように構成される本発明の構造によると、変速レバーの中立位置で両HST変速装置がニュートラルとなるように調節することができるため、左右の走行装置のバランスを維持することができる。これにより直進性能が向上する他、主変速レバーのポジションに応じた走行特性を設計通りに出すことができるという利点がある。
【0009】
特に各調節機構を、変速レバーを前進開始ポジション又は後進開始ポジションに位置させた場合に、左右の走行装置が同一の速度で前進側又は後進側に駆動されるように、両操作部の揺動を自動的に調節する構造とすることによって、変速レバーを前進開始ポジション又は後進開始ポジションに位置させることで、走行機体を確実に前方又は後方に直進させるように各HST変速装置を調節することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1,図2は本発明を採用した作業車両であるトラクタの側面図及び正面図である。トラクタの走行機体1は左右の下方にクローラタイプの走行装置2L,2Rを備えている。各走行装置2L,2Rは油圧モータを内装する駆動スプロケット3とアイドラ4との間にクローラ6L,6Rが巻き回された構造となっている。各油圧モータには、各々に対して油圧ポンプが設けられている。各油圧モータと各々対応する油圧ポンプとによってHST変速装置が構成されている。
【0011】
これにより左右の各走行装置2L,2Rに対して各々HST変速装置が設けられ、各走行装置2L,2Rは、各々対応するHST変速装置(油圧モータ)によって駆動され、左右のクローラ6L,6Rが回転駆動される。両HST変速装置により左右のクローラ6L,6Rを同一速度で回転駆動することによって走行機体1は直進する。左側のクローラ6Lの回転速度と右側のクローラ6Rの回転速度に差を設けることによって、走行機体1は、回転速度が小さい側に旋回する。
【0012】
図3に示されるように、左右の油圧ポンプ7L,7Rには、対応する油圧モータの変速操作を行うトラニオン軸8L,8Rが回動自在に設けられている。トラニオン軸8L,8Rを回動操作することによって左右の油圧モータが無段階に変速され、つまりHST変速装置が変速操作される。ただし左右の各トラニオン軸8L,8Rには各々トラニオンレバー9L,9Rが設けられている。このためトラニオンレバー9L,9Rの揺動操作によってHST変速装置(油圧モータ)の変速が行われ、各走行装置2の駆動速度(クローラ6の回転速度)が変速される。
【0013】
走行機体1の運転席11内には、旋回操作可能なステアリングハンドル12と前後揺動可能な主変速レバー13とが設けられている。図3に示されるように、ステアリングハンドル12及び主変速レバー13は油圧ポンプ7の操作ユニット14に連結接続されている。操作ユニット14には左右のトラニオンレバー9L,9Rを各々操作する左右のワイヤ16L,16Rが設けられている。ワイヤ16Lはインナ17Lとアウタ18Lとからなり、ワイヤ16Rはインナ17Rとアウタ18Rとからなる。
【0014】
上記操作ユニット14によって、ステアリングハンドル12の左又は右への旋回操作及び主変速レバー13の前後揺動操作に応じて左右のワイヤ16L,16Rのインナ17L,17Rが操作される。左側のワイヤ16Lのインナ17Lの端部は、左側のトラニオンレバー9Lに連結されている。右側のワイヤ16Rのインナ17Rの端部は、右側のトラニオンレバー9Rに連結されている。
【0015】
操作ユニット14は、主変速レバー13の前後揺動操作時には、左右のワイヤ16L,16Rのインナ17L,17Rを、左右両方同時に同方向に同量操作する。またステアリングハンドル12の左側への旋回操作時には、左側のワイヤ16Lのインナ17Lが操作され、ステアリングハンドル12の右側への旋回操作時には、右側のワイヤ16Rのインナ17Rが操作される。インナ17L,17Rの操作量は、主変速レバー13の揺動角度及びステアリングハンドル14の切れ角(旋回角)に対して比例的に増減する。
【0016】
以上により走行機体1は前方又は後方に、主変速レバー13の揺動角度(各ポジション)に応じた速度で走行し、ステアリングハンドル12の位置をセンタ(中立位置)に合わせると、ステアリングハンドル12の旋回操作に基づくインナ17L又は17Rの操作が行われないため、走行機体1が直進する。
【0017】
そしてステアリングハンドル12を左又は右に旋回操作すると、ステアリングハンドル12の切れ角に対して比例的にインナ17L又は17Rが操作され、左側のインナ17L又は右側のインナ17Rによって左又は右のHST変速装置が減速側に操作され、左側のクローラ6L又は右側のクローラ6Rの回転速度が減速され、走行機体1が左又は右に旋回する。
【0018】
図3に示されるように、左右の両アウタ18L,18Rの油圧ポンプ7L,7R側は、各々左右の支持体19L,19Rによって支持されている。各支持体19L,19Rには、ロッド21が電気的にスライドするリニアアクチュエータ22L,22Rのロッド21が連結されている。リニアアクチュエータ22L,22Rは走行機体1側に取り付けられており、リニアアクチュエータ22L,22Rを駆動することによってアウタ18L,18Rの支持位置が変更される。
【0019】
支持体19L,19Rは、リニアアクチュエータ22L,22Rによるアウタ18L,18Rの支持位置の変更によって、トラニオンレバー9L,9Rの揺動角度が変更されるように設けられている。これにより左右のトラニオンレバー9L,9Rの揺動操作、つまり左右のクローラ6L,6Rの変速操作は、操作ユニット14によるインナ17L,17Rの操作以外に、リニアアクチュエータ22L,22Rの駆動によるアウタ18L,18Rの支持位置の調節によっても行われる。
【0020】
左右のリニアアクチュエータ22L,22Rは、図3に示されるように、走行制御用のマイコンユニット23によって作動が制御されている。マイコンユニット23には記憶装置としてEEPROM24が接続されている。マイコンユニット23の出力側に両リニアアクチュエータ22L,22Rが接続されている。
【0021】
マイコンユニット23の入力側には、左右の走行装置2L,2Rの駆動速度(クローラ6の回転速度)を検出する左右の駆動回転センサ26L,26Rと、左右のトラニオンレバー9L,9Rの揺動角度を検出する左右のレバーセンサ27L,27Rと、主変速レバー13の揺動角度を検出する主変速センサ28と、ステアリングハンドル12の旋回方向と旋回角度(切れ角)を検出するステアリングセンサ29とが接続されている。
【0022】
以上のように、操作ユニット14と、左右のリニアアクチュエータ22L,22Rを含む各アウタ18L,18Rの支持機構と、マイコンユニット23を中心としたリニアアクチェータ22L,22Rの制御システムとによって、ステアリングハンドル12の旋回操作及び主変速レバー13の揺動操作に応じて両HST変速装置の変速操作を行い、走行機体1の操向を行う制御部が構成されている。該制御部はEEPROM24内に記憶されているプログラムに基づきマイコンユニット23が作動することによって後述するように複数の自動制御が可能となっている。
【0023】
ステアリングハンドル12をセンタに合わせると、前述のように走行機体1は主変速レバー13の揺動位置に応じた速度で直進する。ただしステアリングハンドル12を正確にセンタに位置させないと走行機体1が左又は右方向に曲がるというセッティングでは、操作性が悪いため、本実施形態においては、ステアリングハンドル12が、センタ位置を中心として左右に所定の遊びを含む範囲(中立範囲)に位置している場合は、走行機体1を直進させるように両HST変速装置の出力を補正する補正手段が設けられている。
【0024】
上記補正手段は、後述するように、走行機体1の走行状態が「直進」と判断されるときに作動し、前述のEEPROM24内に記憶されている補正プログラムによってマイコンユニット23が、図5に示されるフローに基づいて作動することによって実現される。
【0025】
図5に示されるように、補正手段の作動フローは、まずステップS1において、左右のクローラ6L,6Rの回転速度を比較し、右側のクローラ6Rの回転速度が、左側のクローラ6Lの回転速度より速いか否かをチェックする。ステップS1において右側のクローラ6Rの回転速度が、左側のクローラ6Lの回転速度より速くない場合は、ステップS2に進み、再度左右のクローラ6L,6Rの回転速度を比較し、左側のクローラ6Lの回転速度が、右側のクローラ6Rの回転速度より速いか否かをチェックする。
【0026】
ステップS1において右側のクローラ6Rの回転速度が、左側のクローラ6Lの回転速度より速い場合は、ステップS3に進み、右側のリニアアクチュエータ22R又は左側のリニアアクチュエータ22Lを作動させ、右側のワイヤ16Rのアウタ18R又は左側のワイヤ16Lのアウタ18Lの支持位置を変更調節することによって、右側のHST変速装置を減速、又は左側のHST変速装置を増速させる。
【0027】
またステップS2において左側のクローラ6Lの回転速度が、右側のクローラ6Rの回転速度より速い場合は、ステップS4に進み、左側のリニアアクチュエータ22L又は右側のリニアアクチュエータ22Rを作動させ、左側のワイヤ16Lのアウタ18L又は右側のワイヤ16Rのアウタ18Rの支持位置を変更調節することによって、左側のHST変速装置を減速、又は右側のHST変速装置を増速させる。
【0028】
なおステップS2において左側のクローラ6Lの回転速度が、右側のクローラ6Rの回転速度より速くない(同速)場合は、フローを出る。上記補正手段の作動によって、ステアリングハンドル12を中立範囲内に位置させると左側又は右側のHST変速装置の出力がリニアアクチュエータ22L,22Rによって自動的に補正され、左右のクローラ6L,6Rの回転速度が等しくなり、走行機体1が直進する。
【0029】
上記補正手段の作動によって、ステアリングハンドル12を中立範囲を越えて左又は右に旋回操作することによって、旋回操作方向側のHST変速装置を減速させ、旋回の内側となる左側のクローラ6Lの回転速度又は右側のクローラ6Rの回転速度を減速させて走行機体1を旋回させることができる。
【0030】
一方走行機体1を旋回させた後、ステアリングハンドル12を中立範囲内に戻して走行機体1を直進させるような操作がある。この際旋回の内側のクローラ6L又は6Rの回転速度には応答遅れがあり、上記のようにステアリングハンドル12を中立範囲内に戻した直後には、クローラ6L又は6Rの回転速度は、ステアリングハンドル12の旋回位置に対応する本来の速度に達していない。
【0031】
このため上記のように本来の速度に移動中の速度が安定していないクローラ6L又は6Rの回転速度に基づいて、HST変速装置を補正手段によって補正すると、クローラ6L又は6Rが本来の速度に移動中に、すなわち回転速度の変化中に強制的に補正手段による補正が行われ、その後クローラ6L又は6Rの回転速度が安定すると、ステアリングハンドル12が正確にセンタに合っていない場合は、再度補正手段による補正が行われる。
【0032】
上記のようにクローラ6L又は6Rの回転速度が安定する前に補正が行われることによって、旋回終了に伴い、徐々に直進方向を向く走行機体1が、補正時点でいったん強制的に直進させられ、その後クローラ6L又は6Rの回転速度の安定により再度走行方向が左又は右に向きかけ、再度直進させられるように動作し、運転者にとっては不自然な走行機体1の作動となる。
【0033】
このためステアリングハンドル12の旋回操作により走行機体1を旋回させた後に、走行機体1を直進させるためにステアリングハンドル12を中立範囲内に位置させる場合は、ステアリングハンドル12の位置が中立範囲に入った後、一定時間上記補正手段の作動を規制する補正規制手段が設けられている。
【0034】
上記補正規制手段は、前述のEEPROM24内に記憶されている走行状態判定プログラムに組み込まれており、走行状態判定プログラムによってマイコンユニットが、図6に示されるフローに基づいて走行機体1の走行状態を判定する際に実現される。
【0035】
図6に示されるように、走行機体1の走行状態の判定フローは、まずステップS1において、ステアリングハンドル12が中立範囲内に位置しているか否かをステアリングセンサ29からの情報に基づき判断する。ステップS1においてステアリングハンドル12が中立範囲内に位置している場合には、ステップS2に進み、前回のチェックで走行状態が「直進」との判定であったか否かをチェックする。ステップS1においてステアリングハンドル12が中立範囲内にない場合は、走行状態が「旋回」と判定する。
【0036】
ステップS2において前回の走行状態の判定が「直進」であった場合は、走行状態を「直進」と判定する。ステップS2において前回の判定が「直進ではない」場合は、ステップS3に進み、「待ち時間中フラグ」のチェックを行う。ステップS3において「待ち時間中フラグ」が立っている場合は、ステップS4に進み、待ち時間が経過したか否かをチェックする。
【0037】
ステップS3において「待ち時間中フラグ」が立っていない場合は、ステップS5に進み、「待ち時間中フラグ」をセットした後、ステップS6に進み、待ち時間タイマをセットし、ステップS4に進み、待ち時間が経過したか否かをチェックする。
【0038】
ステップS4において待ち時間が経過していない場合は、ステップS1にリターンする。ステップS4において待ち時間が経過している場合は、ステップS7に進み、「待ち時間中フラグ」をリセットし、走行状態を「直進」と判断する。
【0039】
上記走行状態の判定作動により、ステアリングハンドル12を旋回操作して走行機体1を旋回させた後、ステアリングハンドル12を中立範囲内に戻すと、ステアリングハンドル12の位置が中立範囲に入った直後は、ステップS2において前回の判定が「直進ではない」と判断される。
【0040】
このため、ステップS3→ステップS5→ステップS6→ステップS4と進み、待ち時間が経過するまではステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4を繰り返すことになり、待ち時間が経過する間は、上記のようにステアリングハンドル12を中立範囲内に戻しても、走行状態が「直進」とは判断されない。
【0041】
走行状態が「直進」と判断されない場合は、前述の補正手段が作動しない。つまりステップS3〜ステップS7が補正規制手段を構成し、ステアリングハンドル12を旋回操作して走行機体1を旋回させた後、ステアリングハンドル12を中立範囲内に戻しても、ステアリングハンドル12の位置が中立範囲に入った直後から、所定時間(待ち時間)が経過する間は補正手段の作動が規制される。
【0042】
待ち時間タイマによって設定される上記待ち時間は、ステアリングハンドル12が中立範囲に入った後、左右のクローラ6L,6Rの回転速度が安定する(ステアリングハンドル12の位置に対応する本来の速度となる)までの時間が設定されている。
【0043】
これにより走行機体1を旋回させた後、ステアリングハンドル12を中立範囲内に戻して走行機体1を直進させるような操作を行うと、クローラ6L又は6Rの回転速度が安定するまで補正手段による直進の補正が規制され、上記のように旋回終了に伴う走行機体1の不自然な作動が防止され、走行機体1は徐々に直進方向を向きながら、最終段階(クローラ6L又は6Rの回転速度が安定した段階)で直進の補正が行われ、旋回直後の走行フィールや直進安定性の低下等が防止される。
【0044】
一方走行機体1の旋回時には、前述のように旋回の内側となる左又は右の油圧ポンプ7L又は7Rが、左又は右のワイヤ16L又は16Rのインナ17L又は17Rによって操作され、左又は右のHST変速装置が減速側に操作される。ただし左右の一方のクローラ6L又は6Rの回転速度が低下するのみでは、旋回時の旋回速度が低下する。この旋回速度の低下を防止するために、旋回の外側のクローラ6L又は6Rの回転速度を増加させる旋回制御手段を備えている。
【0045】
なお旋回時の車速(主変速レバー13によって設定されている走行速度)に関係なく旋回の外側のクローラ6L又は6Rの回転速度を所定量増加させると、増速量を高速旋回に対応するように設定する(比較的小さい)と、低速走行時に旋回速度の増加の補正が効かず、旋回半径が大きくなったり、旋回速度が低下するという問題点が発生し、増速量を低速旋回に対応するように設定する(比較的大きい)と、高速走行時に急旋回となるという問題点がある。
【0046】
このため旋回制御手段による増速量を上記旋回時の車速及びステアリングハンドル12の切れ角に応じて変更する増速制御手段が、旋回制御手段に連係して設けられている。
【0047】
上記増速制御手段は、マイコンユニット23に旋回制御手段を実現させるように、前述のEEPROM24内に記憶されている旋回制御プログラム内に組み込まれており、旋回制御プログラムによってマイコンユニット23が、図7に示されるフローに基づいて、旋回の外側のHST変速装置の変速制御を行う際に実現される。なお旋回制御プログラムによる旋回制御手段は前述の走行状態の判定により「旋回」と判定された際に作動する。
【0048】
図7に示されるように、旋回制御手段の作動フローは、まずステップS1において、主変速センサ28からのデータに基づき最大の増速量(最大調整量)を決定する。最大調整量は主変速レバー13のポジション(揺動位置)に応じて設定され、旋回時の車速の設定値(主変速レバー13の揺動角度)の絶対値が大きくなるに従って小さな値をとるように設定される。つまり旋回時の車速が速くなるに従って最大調整量は小さな値となる。
【0049】
次にステップS2に進み、ステアリングセンサ29からの情報に基づき右旋回(ステアリングハンドル12の右旋回操作)か否かをチェックする。ステップS2において右旋回の場合は、ステップS3に進み、ステアリングハンドル12の切れ角が予め定められている設定最大角以上か否かをチェックする。
【0050】
ステアリングハンドル12の切れ角が設定最大角となると、ステアリングセンサ29の値がSmaxをとる。このためステップS3においては、ステアリングセンサ29がSmax以上か否かのチェックを行う。そしてステップS3においてステアリングセンサ29の値がSmax以上の場合は、ステップS4に進み増速量(調整量c)を前述の最大調整量に設定し、ステップS5に進み、左側のHST変速装置を最大調整量で増速させ、左側のクローラ6Lの回転速度を増速させる。
【0051】
またステップS3においてステアリングセンサ29の値がSmax未満の場合は、ステップS6に進み、ステアリングハンドル12の切れ角に応じて調整量cを演算し、ステップS5に進み、左側のHST変速装置を演算された調整量cで増速させ、左側のクローラ6Lの回転速度を増速させる。
【0052】
なお調整量cの演算は、
調整量 c =(初期値C0)+(最大調整量)×(ステアリングセンサ値 s -Smin)/(Smax-Smin)
とし、図8に示されるように、調整量cは、ステアリングセンサ値がSminからSmaxの範囲で、ステアリングハンドル12の切れ角に比例して設定される。ただしSminは、増速制御手段を作動させる予め設定されているステアリングハンドルの最低切れ角であり、C0は、ステアリングハンドルの切れ角がSminの場合の調整量である。なお図8は、旋回速度が所定の「高速」の場合と、所定の「低速」の場合とを示している。
【0053】
一方ステップS2において右旋回ではない場合は、ステップS7に進み、ステアリングセンサ29からの情報に基づき左旋回か否かをチェックする。ステップS7において左旋回の場合は、ステップS8に進み、ステアリングハンドル12の切れ角が予め定められている設定最大角以上に設定されているか否かをステアリングセンサ29の値がSmax 以上か否かによってチェックする。
【0054】
そしてステップS8においてステアリングセンサの値がSmax以上の場合は、ステップS9に進み増速量(調整量c)を前述の最大調整量に設定し、ステップS10に進み、右側のHST変速装置を最大調整量で増速させ、右側のクローラ6Rの回転速度を増速させる。
【0055】
またステップS8においてステアリングセンサ29の値がSmax未満の場合は、ステップS11に進み、ステアリングハンドル12の切れ角に応じて調整量cを演算し、ステップS10に進み、右側のHST変速装置を演算された調整量cで増速させ、右側のクローラ6Rの回転速度を増速させる。なおステップS7において左旋回ではない場合には、フローを抜ける。
【0056】
上記旋回制御手段の作動によって、ステアリングハンドル12の切れ角に応じて異なる旋回半径で走行機体1を旋回させることができ、ステアリングハンドル12を上記最低切れ角以上に旋回操作すると、ステアリングハンドル12の切れ角が大きくなるに従って小さな旋回半径で走行機体1が旋回する。
【0057】
ただしステアリングハンドル12を設定最大角以上に旋回操作しても、旋回半径は変わらず、走行機体1は予め設定される最小旋回半径で急旋回する。最小旋回半径は旋回の外側のクローラ6L又は6Rが最大調整量で増速された場合の旋回半径である。
【0058】
上記旋回制御手段は、図8に示されるように、調整量cを、最大調整量と初期値C0とSminとSmaxとを定数とし、最大調整量と初期値との間の範囲でステアリングハンドル12の切れ角に比例して設定する。そして最大調整量は主変速レバー13の揺動位置、つまり旋回速度に応じて設定され、旋回速度の絶対値が大きくなるに従って小さな値をとる。
【0059】
以上のようにステップS1とステップ6およびステップ11における調整量cの演算によって、増速制御手段が構成され、旋回制御手段による旋回外側のクローラ6L又は6Rの増速量が旋回時の車速及びステアリングハンドル12の切れ角に応じて変更される。そしてステアリングハンドル12の切れ角が最低切れ角を越えると、すべてのステアリングハンドル12の切れ角において、旋回速度が速くなるに従って調整量が小さくなり、旋回速度が遅くなるに従って調整量が大きくなる。
【0060】
これにより旋回速度が遅くなるに従って旋回の外側のクローラ6L又は6Rの回転速度が大きくなるため、低速走行時に旋回半径が大きくなる不都合が防止され、いかなる速度域においても、旋回速度が低下することなく、同一のステアリングハンドル12の切れ角において同じ旋回半径で走行機体1を旋回させることができる。
【0061】
また高速走行時は、旋回の外側のクローラ6L又は6Rの回転速度が小さくなり、運転者が予期しない急旋回等が発生せず、走行機体1の旋回を円滑に行うことができる。なお旋回制御手段によって、走行機体1の旋回速度が低下しない他、旋回半径は左右のクローラ6L,6Rの速度差によって決まるため、左右のリニアアクチュエータ22L,22Rの駆動量を小さくすることができ、制御時間を短縮することができる。
【0062】
一方 Sminを走行速度に応じて自動的に変更する増速開始制御手段を設けることもできる。増速開始制御手段により、旋回速度が速くなるに従ってSminを大きくするように構成することによって高速走行時の急旋回の防止効果が高くなり、また旋回速度が遅くなるに従って旋回の外側のクローラ6L又は6Rの増速を開始するステアリングハンドル12の切れ角が、小さくなるため、より正確に旋回時のステアリングハンドル12の操作フィール、すなわち操向フィールを旋回速度に関係なく一定とすることができる。
【0063】
なお本実施形態のようなクローラタイプのトラクタは、走行状態がクローラ6L,6Rの接地面積によって左右されるケースがある。例えばヘッドアップ等によってクローラ6L,6Rの接地面積が減少すると、走行状態は、左右のクローラ6L,6Rの回転速度の影響を大きく受ける。
【0064】
このため走行機体1にピッチングセンサ等の走行機体1の前後バランスを検出するセンサを設け、該センサの出力をマイコンユニット23の入力側に接続し、旋回制御手段によって、走行機体1の前後バランスに応じて、増速量(調整量)を変更するように構成してもよい。これにより例えば走行機体1のヘッドアップ時には調整量が小さくなるようにし、走行機体1の前後バランスに関係なく旋回を一定に且つ円滑に行わせ、操向フィールを一定にすることができる。
【0065】
なお走行機体1の前後バランスは、走行機体1の後方に取り付ける作業機の機種によっても異なる。例えばプラウを装着する場合は、ロータリを装着する場合に比較して後方が重くなり、走行状態が変化する。このため運転席11内のサイドパネル等に設置する設定手段から運転者が切り替える作業モードと連動して、旋回制御手段によって、走行機体1の前後バランスに応じて、調整量を変更するように構成してもよい。
【0066】
これにより作業機や作業形態の差異による操向性の悪化を防止することができ、作業機や作業形態に関係なく、走行機体1の旋回を一定に且つ円滑に行わせ、操向フィールを一定にすることができる。
【0067】
さらに圃場状態によってクローラ6L,6Rのスリップ率が変化し、圃場状態により走行フィールが変わる場合がある。これを防止するためにスリップ率を検出するセンサを設け、該センサの出力をマイコンユニット23の入力側に接続し、旋回制御手段によって、走行機体1の前後バランスに応じて、調整量を変更するように構成してもよい。これにより圃場状態に応じてスリップ率が変化した場合であっても、走行機体1の旋回を一定に且つ円滑に行わせ、操向フィールを一定にすることができる。
【0068】
そして走行機体1が傾斜し、左右の走行装置6L,6Rの圃場に対する接地状態が異なることによって、操向フィールが変わることを防止するために、走行機体1の傾斜を検出する傾斜センサを設け、該センサの出力をマイコンユニット23の入力側に接続し、旋回制御手段によって、走行機体1の傾斜に応じて、調整量を変更するように構成してもよい。これにより走行機体1の傾斜が変化した場合であっても、走行機体1の旋回を一定に且つ円滑に行わせ、操向フィールを一定にすることができる。
【0069】
一方HST変速装置がニュートラルとなるトラニオン軸の回動角度(トラニオン軸のニュートラル)は1点のみである。主変速レバー13は、中立ポジションでトラニオン軸がニュートラルとなるように設けられており、主変速センサ28は主変速レバー13の中立ポジションを基準点として設けられている。
【0070】
しかし両トラニオンレバー9L,9Rは、それぞれ主変速レバー13の揺動に伴いワイヤ16L,16Rによって操作されるため、主変速レバー13の揺動に対して機械的な誤差や遊びが存在し、この遊びや誤差の範囲で主変速レバー13を中立ポジションから前進側又は後進側に揺動操作しても、トラニオンレバー9L,9Rの操作が行われず、HST変速装置はニュートラルのままとなる。
【0071】
つまり主変速レバー13には、HST変速装置をニュートラルとする中立範囲が存在する。このため中立範囲を越えて主変速レバー13を前進側又は後進側に操作するとHST変速装置が駆動される。ただし図9に示されるように、前述の機械的な誤差や遊びによって、各HST変速装置に対する主変速レバー13の中立範囲が、左右のHST変速装置で異なる場合がある。なお図9に示される斜線範囲が、左右の各HST変速装置に対する主変速レバー13の中立範囲である。
【0072】
このためなんら調整を行なわなければ、主変速レバー13を前進側又は後進側に操作した場合に、左右のHST変速装置が同時に駆動されない場合がある。同様に主変速レバー13を中立位置に戻しても、左右のHST変速装置が同時に停止しない場合がある。
【0073】
走行機体1を停止状態から直進させる場合に、左右の走行装置2L,2Rの駆動開始時期が異なると、走行開始時に走行機体1が左右方向に曲がり、停止時に左右の走行装置2L,2Rの駆動開始時期が異なると、走行機体1が左右方向に曲がって停止するという欠点がある。
【0074】
このため本トラクタには、主変速レバー13の左右のHST変速装置に対する中立範囲を合わせ、主変速レバー13を中立範囲内から前進側又は後進側に揺動操作すると、左右のクローラ6L,6Rが同時に駆動を開始し、主変速レバー13を中立側に戻すと、左右のクローラ6L,6Rが同時に駆動を停止するように両HST変速装置(油圧ポンプ7L,7R)のトラニオンレバー9L,9Rの状態を自動的に調節する調節手段(調節機構)が設けられている。
【0075】
なお両クローラ6L,6Rが同時に前進側に駆動を開始する主変速レバー13の揺動角度(ポジション)が前進開始ポジション、両クローラ6L,6Rが同時に後進側に駆動を開始する主変速レバー13の揺動角度(ポジション)が後進開始ポジションとなる。そして前進開始ポジションより中立ポジション側及び後進開始ポジションより中立ポジション側が主変速レバー13の中立範囲(中立位置)となる。
【0076】
上記調節手段は、前述のEEPROM24内に記憶されている自動調節プログラムに基づいてマイコンユニット23が図10のフローチャートに示されるように作動することによって実現され、走行機体1の前進又は後進開始時(主変速レバー13を前進側又は後進側に揺動させる際)、及び走行機体1の前進又は後進状態からの停止時(主変速レバー13を前進側又は後進側から中立ポジションに戻す際)に作動する。
【0077】
調節手段による自動調節は、図10に示されるように、ステップS1において主変速センサ28に基づいて主変速レバー13が中立範囲にあるか否かをチェックする。主変速レバー13が中立範囲内にある場合は、ステップS2に進み、中立ポジションに対して前進側に揺動されているかをチェックする。
【0078】
ステップS2において前進側に揺動されている場合は、ステップS3に進み、後述するように予め各個体毎に設定される補正値c1又は補正値c2によってリニアアクチュエータ22L又は22Rによりアウタ18L又は18Rの支持位置を変更調節し、主変速レバー13の揺動操作に伴い左右のクローラ6L,6Rを同時に駆動開始又は駆動停止させる。
【0079】
一方ステップS2において前進側に揺動されていない場合(主に後進側に揺動されている場合)は、ステップS4に進み、後述するように予め各個体毎に設定される補正値c3又は補正値c4によってリニアアクチュエータ22L又は22Rによりアウタ18L又は18Rの支持位置を変更調節し、主変速レバー13の揺動操作に伴い、左右のクローラ6L,6Rを同時に駆動開始又は駆動停止させる。
【0080】
上記調節手段によって、主変速レバー13を前進開始ポジション又は後進開始ポジションとすると、両クローラ6L,6Rが同時に前進側又は後進側に駆動を開始し、主変速レバー13を中立位置(中立範囲内)に戻すと両クローラ6L,6Rが同時に停止し、走行機体1の走行バランスが維持される。
【0081】
次に上記補正値c1,c2,c3,c4の設定方法について設定手順に従って説明する。図11に示されるように、まず主変速レバー13を中立範囲内に位置させる。その後エンジンを始動させ、エンジンの回転数を最大とする。その後主変速レバー13を少しずつ前進側(前方)に揺動させる。
【0082】
そして左側の駆動回転センサ26Lの値のチェックによって左側のクローラ6Lの回転を監視し、左側のクローラ6Lが回転駆動を開始したときの左側のレバーセンサ27Lの値を読み込み、P1としてEEPROM24に記憶させ、且つ上記左側のクローラ6Lが回転駆動を開始したときの主変速センサ28の値を読み取り、 S1としてEEPROM24に記憶させる。
【0083】
左側のクローラ6Lが回転駆動を開始したときの左側のHST変速装置のトラニオンレバー9Lの揺動角度、及び主変速レバー13の揺動角度は、各々P1,S1に対応した角度となる。
【0084】
その後いったん主変速レバー13を中立範囲内に戻し、再度主変速レバー13を少しずつ前進側(前方)に揺動させる。そして右側の駆動回転センサ26Rの値のチェックによって右側のクローラ6Rの回転を監視し、右側のクローラ6Rが回転駆動を開始したときの右側のレバーセンサ27Rの値を読み込み、P2としてEEPROM24に記憶させ、且つ上記右側のクローラ6Rが回転駆動を開始したときの主変速センサ13の値を読み取り、S2としてEEPROM24に記憶させる。
【0085】
右側のクローラ6Rが回転駆動を開始したときの右側のHST変速装置のトラニオンレバー9Rの揺動角度、及び主変速レバー13の揺動角度は、各々P2,S2に対応した角度となる。その後、上記S1,S2,P1,P2を使用した後述する「前進補正値設定」が行われる。
【0086】
上記「前進補正値設定」が行われた後は、次に後進側の設定を行う。前述の前進側の設定と同様に、中立範囲内に位置する主変速レバー13を少しずつ後進側(後方)に揺動させる。そして右側の駆動回転センサ26Rの値のチェックによって右側のクローラ6Rの回転を監視し、右側のクローラ6Rが回転駆動を開始したときの右側のレバーセンサ27Rの値を読み込み、P3としてEEPROM24に記憶させ、且つ上記右側のクローラ6Rが回転駆動を開始したときの主変速センサ28の値を読み取り、 S3としてEEPROMに記憶させる。
【0087】
右側のクローラ6Rが回転駆動を開始したときの右側のHST変速装置のトラニオンレバー9Rの揺動角度、及び主変速レバー13の揺動角度は、各々P3,S3に対応した角度となる。
【0088】
その後いったん主変速レバー13を中立範囲内に戻し、再度主変速レバー13を少しずつ後進側(後方)に揺動させる。そして左側のクローラ6Lが回転駆動を開始したときの左側のレバーセンサ27Lの値を読み込み、P4としてEEPROM24に記憶させ、且つ上記左側のクローラ6Lが駆動を開始したときの主変速センサ28の値を読み取り、 S4としてEEPROM24に記憶させる。
【0089】
左側のクローラ6Lが回転駆動を開始したときの左側のHST変速装置のトラニオンレバー9Lの揺動角度、及び主変速レバー13の揺動角度は、各々P4,S4に対応した角度となる。その後、上記S3,S4,P3,P4を使用した「後進補正値設定」が行われる。以上で補正値c1,c2,c3,c4の設定が終了する。
【0090】
前述の前進補正値設定は、前述のEEPROM24内に記憶されている前進補正値設定プログラムに基づいてマイコンユニット23が図12のフローチャートに示されるように作動することによって実現される。
【0091】
前進補正値設定は、まずステップS1において主変速レバー13を中立範囲内に位置させ、ステップS2に進むと、ステップS2においてS1とS2の大きさを比較する。このときS1<S2は、図9に示されるように、主変速レバー13の揺動に対して、左側のクローラ6Lの方が右側のクローラ6Rに比較して早い時点から駆動が開始される場合となる。
【0092】
ステップS2において、S1<S2の場合は、ステップS3に進み、主変速レバー13を少しずつ前進側に動かし、ステップS4において主変速センサ28の値をチェックし、主変速センサ28の値がS2で、ステップS5に進み、左側のリニアアクチュエータ22Lを駆動する。
【0093】
そしてステップS6に進み、上記左側のリニアアクチュエータ22Lの駆動による、左側のワイヤ16Lにおけるアウタ18Lの操作により、左側のトラニオンレバー9Lを、左側のレバーセンサ27Lの値がP1となるまで調節する。そしてステップS7に進み、この調節量を補正値c1としてEEPROM24に記憶させる。
【0094】
つまり主変速レバー13の揺動に対して、左側のクローラ6Lの方が右側のクローラ6Rに比較して早い時点から駆動が開始される個体の場合は、前述の調節手段によって補正値c1で左側のHST変速装置を補正することによって、左側のクローラ6Lは、図13(a)に示されるように、主変速センサ28がs2の時点で回転駆動が開始又は停止され、左右のクローラ6L,6Rが同時に駆動又は停止する。
【0095】
そして主変速センサ28がs2となる主変速レバー13の揺動位置が前進開始ポジションとなる。そして前進開始ポジションが中立範囲の前進側の限界位置となるため、前進開始ポジションより中立ポジション側に揺動させると、両HST変速装置がニュートラルとなる。
【0096】
一方ステップS2において、S1≧S2の場合は、ステップS2からステップS8に進み、主変速レバー13を少しずつ前進側に動かし、ステップS9において主変速センサ28の値をチェックし、主変速センサ28の値がS1で、ステップS10に進み、右側のリニアアクチュエータ22Rを駆動する。
【0097】
そしてステップS11に進み、上記右側のリニアアクチュエータ22Rの駆動による、右側のワイヤ16Rにおけるアウタ18Rの操作により、右側のトラニオンレバー9Rを、右側のレバーセンサ27Rの値がP2となるまで調節する。そしてステップS12に進み、この調節量を補正値c2としてEEPROM24に記憶させる。
【0098】
つまり主変速レバー13の揺動に対して、右側のクローラ6Rの方が左側のクローラ6Lに比較して早い時点から駆動が開始される個体の場合は、前述の調節手段によって補正値c2で右側のHST変速装置を補正することによって、右側のクローラ6Rは、主変速センサ28がs1の時点で回転駆動が開始又は停止され、左右のクローラ6L,6Rが同時に駆動又は停止する。
【0099】
この場合は主変速センサ28がs1となる主変速レバー13の揺動位置が前進開始ポジションとなる。そして前進開始ポジションが中立範囲の前進側の限界位置となるため、前進開始ポジションより中立ポジション側に揺動させると、両HST変速装置がニュートラルとなる。
【0100】
なお後進補正値設定は、上記前進補正値設定における「前進」を「後進」に、S1をS4に、P1をP4に、S2をS3に、P2をP3にそれぞれ置き換えるのみで、作動(フロー)自体は前進補正値設定と同様であるため詳細な説明は割愛する。ただし左側のクローラ6Lが早期に回転を開始する場合の調節量を補正値c4、右側のクローラ6Rが早期に回転を開始する場合の調節量を補正値c3とする。
【0101】
これにより主変速レバー13の揺動に対して、右側のクローラ6Rの方が左側のクローラ6Lに比較して早い時点から駆動が開始される個体の場合は、前述の調節手段によって補正値c3で右側のHST変速装置を補正することによって、右側のクローラ6Lは、図13(b)に示されるように、主変速センサ28がs4の時点で回転駆動が開始又は停止され、左右のクローラ6L,6Rが同時に駆動又は停止する。
【0102】
そして主変速センサ28がs4となる主変速レバー13の揺動位置が後進開始ポジションとなる。そして後進開始ポジションが中立範囲の後進側の限界位置となるため、後進開始ポジションより中立ポジション側に揺動させると、両HST変速装置がニュートラルとなる。
【0103】
また主変速レバー13の揺動に対して、左側のクローラ6Lの方が右側のクローラ6Rに比較して早い時点から駆動が開始される個体の場合は、前述の調節手段によって補正値c4で左側のHST変速装置を補正することによって、左側のクローラ6Lは、主変速センサ28がs3の時点で回転駆動が開始又は停止され、左右のクローラ6L,6Rが同時に駆動又は停止する。
【0104】
この場合は主変速センサ28がs3となる主変速レバー13の揺動位置が後進開始ポジションとなる。そして後進開始ポジションが中立範囲の後進側の限界位置となるため、後進開始ポジションより中立ポジション側に揺動させると、両HST変速装置がニュートラルとなる。
【0105】
なお上記調節手段によって、主変速レバー13を最大に揺動させた場合に、両HST変速装置の出力が最大となるように各HST変速装置に対する主変速レバー13の中立範囲を調節してもよい。この場合は主変速レバー13のポジションに応じた走行特性を設計通りに出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】トラクタの側面図である。
【図2】トラクタの正面図である。
【図3】油圧ポンプ回りの概要図である。
【図4】マイコンユニット回りのブロック図である。
【図5】補正手段の作動フローチャート図である。
【図6】走行状態の判定フローチャート図である。
【図7】旋回制御手段の作動フローチャート図である。
【図8】調整量とステアリングハンドルの旋回角との関係を示すグラフ図である。
【図9】左右のクローラの回転速度と、主変速レバーの揺動角度との関係を示すグラフ図である。
【図10】調節手段の作動フローチャート図である。
【図11】補正値c1,c2,c3,c4の設定手順を示すチャート図である。
【図12】前進補正値設定の作動フローチャート図である。
【図13】(a)は前進側で左右のクローラを同時に駆動するように調節した状態の左右のクローラの回転速度と、主変速レバーの揺動角度との関係を示すグラフ図であり、(b)は後進側で左右のクローラを同時に駆動するように調節した状態の左右のクローラの回転速度と、主変速レバーの揺動角度との関係を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0107】
1 走行機体
2L 走行装置
2R 走行装置
9L トラニオンレバー(操作部)
9R トラニオンレバー(操作部)
12 ステアリングハンドル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の走行装置(2L),(2R)と、各走行装置(2L),(2R)に各々対応する左右のHST変速装置と、走行機体(1)の走行速度の変速操作を行う変速レバー(13)と、変速レバー(13)の操作に応じて各HST変速装置の変速装置を行う制御部とを備え、該制御部が、変速レバー(13)の操作に応じて各HST変速装置の変速操作を揺動により行う操作部(9L),(9R)を各別に揺動操作して各HST変速装置の変速操作を行う作業車両において、変速レバー(13)の中立位置において、両HST変速装置がニュートラルとなるように、両操作部(9L),(9R)の揺動を自動的に調節する調節機構を各操作部(9L),(9R)に各々対応して設けた作業車両におけるHST変速装置の調節機構。
【請求項2】
調節機構を、変速レバー(13)を前進開始ポジション又は後進開始ポジションに位置させた場合に、左右の走行装置(2L),(2R)が同時に前進側又は後進側に駆動されるように、両操作部(9L),(9R)の揺動を自動的に調節する構造とした請求項1の作業車両におけるHST変速装置の調節機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−57696(P2006−57696A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−238886(P2004−238886)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】