説明

作業車両の油圧制御装置

【課題】複合操作が可能なパラレル油圧回路であっても、複合操作時のバケットの回動速度が低下することによる不具合の発生を防止できる作業車両の油圧制御装置を提供する。
【解決手段】メインポンプ6からの圧油の流れに対してアーム用コントロールバルブ41とバケット用コントロールバルブ42とを並列に配設し、アーム用コントロールバルブ41の上流に流量制御弁43を配設した。そして、アームシリンダ114とバケットシリンダ115を同時に駆動する複合操作が行われたと判断されると、メインポンプ6からアーム用コントロールバルブ41へ流れる圧油を流量制御弁43で規制するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両に取り付けられたアームやバケットを駆動するための油圧制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
揺動可能なアームやアームの先端で揺動可能なバケットを有するホイールローダなどの作業車両が知られている。従来、このような作業車両では、アームやバケットを揺動駆動するための油圧回路として、バケットの揺動操作を優先するタンデム油圧回路が採用されていた(特許文献1参照)。しかし、バケットが揺動操作されるとアームが駆動されなくなってしまうため、アームの動きが滑らかではなくなってしまう。そのため、バケットが揺動操作されていてもアームの揺動操作ができるように、アームやバケットを揺動駆動するための油圧回路として、パラレル油圧回路を採用する作業車両が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−136803号公報
【特許文献2】特開2005−127416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アームやバケットを揺動駆動するための油圧回路として、パラレル油圧回路を採用した上述の作業車両で、たとえば、バケット内の土砂を放出した後、アームの下げ動作を行いながらバケットの角度位置を水平位置に戻そうとする場合を考える。このとき、アームが自重で下がろうとするため、アームを駆動する油圧シリンダでは、アームを下げる方向に駆動するために圧油を供給する方の油室の圧力が低下する。そのため、この油室に優先的に圧油が供給されてしまい、バケットを駆動する油圧シリンダへ圧油が供給されなくなるため、バケットが所定の位置まで戻り難くなるという不都合が生じる恐れがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1) 請求項1の発明による作業車両の油圧制御装置は、圧油を供給する油圧ポンプと、油圧ポンプから供給される圧油によって作業車両に取り付けられたアームを揺動駆動するアーム駆動用アクチュエータと、油圧ポンプから供給される圧油によってアームの先端に取り付けられたバケットを揺動駆動するバケット駆動用アクチュエータと、油圧ポンプからアーム駆動用アクチュエータに供給される圧油を制御してアーム駆動用アクチュエータの駆動を制御するアーム駆動用圧油制御弁と、油圧ポンプからバケット駆動用アクチュエータに供給される圧油を制御してバケット駆動用アクチュエータの駆動を制御するバケット駆動用圧油制御弁と、アーム駆動用圧油制御弁を制御するアーム操作手段と、バケット駆動用圧油制御弁を制御するバケット操作手段と、アーム駆動用アクチュエータおよびバケット駆動用アクチュエータの操作状態を検出する操作状態検出手段と、操作状態検出手段でアーム駆動用アクチュエータとバケット駆動用アクチュエータとが複合的に操作されたことを検出すると、アーム駆動用アクチュエータに供給される圧油を制限する流量制御弁とを備えることを特徴とする。
(2) 請求項2の発明は、請求項1に記載の作業車両の油圧制御装置において、流量制御弁は、バケット駆動用圧油制御弁の圧油の制御特性に応じてアーム駆動用アクチュエータに供給される圧油を制御することを特徴とする。
(3) 請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載の作業車両の油圧制御装置において、油圧ポンプで供給される圧油の最高圧力を規定するメインリリーフ弁をさらに備え、流量制御弁は、バケット駆動用圧油制御弁がバケット駆動用アクチュエータへの圧油を遮断している間は、メインリリーフ弁から圧油がタンク側へ導かれないようにアーム駆動用アクチュエータに供給される圧油を制御することを特徴とする。
(4) 請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の作業車両の油圧制御装置において、流量制御弁は、バケット駆動用圧油制御弁がバケット駆動用アクチュエータへ供給される圧油の流量が最大となるように制御されているときには、アーム駆動用アクチュエータに供給される圧油を遮断することを特徴とする。
(5) 請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の作業車両の油圧制御装置において、流量制御弁は、操作状態検出手段によってバケット駆動用アクチュエータの操作とアームの下げ方向へのアーム駆動用アクチュエータの操作とが検出されたとき、および、バケット駆動用アクチュエータの操作とアームの上げ方向へのアーム駆動用アクチュエータの操作とが検出されたときに、油圧ポンプから吐出される圧油のアーム駆動用アクチュエータへの流入量を制限することを特徴とする。
(6) 請求項6の発明は、請求項5に記載の作業車両の油圧制御装置において、流量制御弁は、アーム駆動用アクチュエータが下げ方向へ操作されたときと、上げ方向へ操作されたときとで、油圧ポンプから吐出されてアーム駆動用アクチュエータへ流入する圧油の流量特性を変更することを特徴とする。
(7) 請求項7の発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載の作業車両の油圧制御装置において、アームの角度を検出する角度検出手段と、アームの任意の角度を設定する角度設定手段をさらに備え、流量制御弁は、操作状態検出手段によりバケット駆動用アクチュエータの操作と、アームの上げ方向のアーム駆動用アクチュエータの操作とが検出されると、角度検出手段で検出したアームの角度が角度設定手段で設定された角度に達した後に油圧ポンプから供給される圧油のアーム駆動用アクチュエータへの流入量の制限を開始することを特徴とする。
(8) 請求項8の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の作業車両の油圧制御装置において、流量制御弁は、操作状態検出手段によりバケット駆動用アクチュエータが操作とアームを下げる方向のアーム駆動用アクチュエータの操作とが検出されたときのみ、油圧ポンプから供給される圧油のアーム駆動用アクチュエータへの流入量を制限することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、複合操作時のバケットの回動速度が低下することによる不具合の発生を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明による油圧制御装置を備えた作業車両の一例としてのホイールローダの側面図である。
【図2】アーム111およびバケット112を駆動する油圧回路を示す図である。
【図3】比例電磁弁出力圧と流量制御弁43の流路の開口面積との関係を示す図である。
【図4】バケット用コントロールバルブ42のパイロット圧と、比例電磁弁44の比例電磁弁出力圧との関係を示す図である。
【図5】バケット用コントロールバルブ42の流路の開口面積、高圧側パイロット圧力、流量制御弁43の流路の開口面積とバケットスプールストロークとの関係を示す図である。
【図6】比例電磁弁44への制御信号の出力処理の動作を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1〜6を参照して、本発明による作業車両の油圧制御装置の一実施の形態を説明する。図1は、本実施の形態の油圧制御装置を備えた作業車両の一例としてのホイールローダの側面図である。ホイールローダ100は、アーム111,バケット112,タイヤ113等を有する前部車体110と、運転室121,エンジン室122,タイヤ123等を有する後部車体120とで構成される。リフトアーム(以下、単にアームと呼ぶ)111はアームシリンダ114の駆動により上下方向に回動(俯仰動)し、バケット112はバケットシリンダ115の駆動により上下方向に回動(ダンプまたはクラウド)する。前部車体110と後部車体120はセンタピン101により互いに回動自在に連結され、ステアリングシリンダ(不図示)の伸縮により後部車体120に対し前部車体110が左右に屈折する。
【0009】
図2は、アーム111およびバケット112を駆動する油圧回路を示す図である。この油圧回路には、アームシリンダ114およびバケットシリンダ115へ供給される圧油を吐出するメインポンプ6と、メインポンプ6から供給される圧油の方向と流量を制御してアームシリンダ114およびバケットシリンダ115の伸縮動作を制御するアーム用コントロールバルブ41およびバケット用コントロールバルブ42と、バケット用コントロールバルブ42の上流側の管路から分岐してアーム用コントロールバルブ41とパラレル接続するパラレル油路中に設けられる流量制御弁43と、流量制御弁43を制御する比例電磁弁44と、メインポンプ6から吐出される圧油の最大圧を規定するメインリリーフ弁45と、パイロットポンプ46とが設けられている。
【0010】
バケット用コントロールバルブ42およびアーム用コントロールバルブ41は、それぞれ不図示のアーム用およびバケット用の油圧パイロット式操作レバーの操作によって操作され、これら油圧パイロット式操作レバーは、パイロットポンプ46から吐出される圧油を操作レバーの操作量に応じて減圧するパイロット弁を備え、このバイロット弁により生成されるパイロット圧がバケット用コントロールバルブ42およびアーム用コントロールバルブ41に作用してその切換量が制御される。
【0011】
また、この油圧回路には、アーム用コントロールバルブ41を上げ側へ操作するパイロット圧を検出するアーム上げパイロット圧力センサ51と、下げ側のパイロット圧を検出するアーム下げパイロット圧力センサ52と、バケット用コントロールバルブ42のチルト側(上げ側)へのパイロット圧を検出するバケットチルトパイロット圧力センサ53と、ダンプ側(下げ側)へのパイロット圧を検出するバケットダンプパイロット圧力センサ54と、メインポンプ6の吐出圧力を検出する圧力センサ55とが設けられている。これらの各センサはコントローラ10に接続されている。
【0012】
メインポンプ6およびパイロットポンプ46は、不図示のエンジンにより駆動される油圧ポンプである。
【0013】
アーム用コントロールバルブ41は、パイロット圧(アーム上げパイロット圧力およびアーム下げパイロット圧力)に応じてスプールの切換位置を変更して、アームシリンダ114に供給される圧油の方向および流量を変更するバルブである。アーム用コントロールバルブ41は、Pポートと、P’ポートと、Tポートと、T’ポートと、Aポートと、Bポートとを有している。
【0014】
また、バケット用コントロールバルブ42は、パイロット圧(バケットチルトパイロット圧力およびバケットダンプパイロット圧力)に応じてスプールの切換位置を変更して、バケットシリンダ115に供給される圧油の方向および流量を変更するバルブである。このバケット用コントロールバルブ42は、Pポートと、P’ポートと、Tポートと、T’ポートと、Aポートと、Bポートとを有している。
【0015】
アーム用コントロールバルブ41のPポートは逆止弁を介してパラレル油路上にある流量制御弁43に接続され、P’ポートはバケット用コントロールバルブ42のT’ポートに、Tポートは作動油タンク7にそれぞれ接続されている。アーム用コントロールバルブ41のT’ポートは作動油タンク7に、Aポートはアームシリンダ114のボトム側油室114aに、Bポートはアームシリンダ114のロッド側油室114bにそれぞれ接続されている。
【0016】
バケット用コントロールバルブ42のPポートは逆止弁を介してメインポンプ6に接続され、P’ポートはメインポンプ6に、T’ポートは、アーム用コントロールバルブ41のP’ポートに、Tポートは作動油タンク7に、Aポートはバケットシリンダ115のボトム側油室115aに、Bポートはバケットシリンダ115のロッド側油室115bにそれぞれ接続されている。
【0017】
アーム上げパイロット圧力およびアーム下げパイロット圧力のいずれもがアーム用コントロールバルブ41に作用しないとき、アーム用コントロールバルブ41のスプールは中立位置となり、P’ポートとT’ポートとが接続され、PポートおよびTポートがAポートおよびBポートと遮断される。
【0018】
バケットチルトパイロット圧力およびバケットダンプパイロット圧力のいずれもがバケット用コントロールバルブ42に作用しないとき、バケット用コントロールバルブ42のスプールは中立位置となり、P’ポートとT’ポートとが接続され、PポートおよびTポートがAポートおよびBポートと遮断される。
【0019】
アーム用コントロールバルブ41のスプールは、アーム上げパイロット圧の大きさに応じてP’ポートとT’ポートとを接続する流路の開口面積(アームスプール開口面積)が漸減し、PポートとAポートとを接続する流路の開口面積、およびTポートとBポートとを接続する流路の開口面積がそれぞれ漸増する。すなわち、アーム上げパイロット圧力が高圧となると、メインポンプ6からの圧油がアームシリンダ114のボトム側油室114aに供給されるように、そして、アームシリンダ114のロッド側油室114bが作動油タンク7と接続されるようにスプールが移動する。その結果、アームシリンダ114のシリンダロッドが伸長されてアーム111が上方向に回動される。
【0020】
逆に、アーム下げパイロット圧力が高圧となると、その大きさに応じて、P’ポートとT’ポートとを接続する流路の開口面積が漸減し、PポートとBポートとを接続する流路の開口面積、およびTポートとAポートとを接続する流路の開口面積がそれぞれ漸増する。すなわち、アーム下げパイロット圧力が高圧となると、メインポンプ6からの圧油がアームシリンダ114のロッド側油室114bに供給されるように、そして、アームシリンダ114のボトム側油室114aが作動油タンク7と接続されるようにスプールが移動する。その結果、アームシリンダ114のシリンダロッドが縮退されてアーム111が下方向に回動される。
【0021】
なお、図示するアーム用コントロールバルブ41は、アーム下げパイロット圧力がさらに高圧になるとPポートを遮断し、P’ポートとT’ポートとを連通し、AポートとBポートとを連通して共にTポートに接続するフロート位置を備える。
【0022】
バケット用コントロールバルブ42のスプールは、バケットチルトパイロット圧力が高くなると中立位置から移動する。バケットチルトパイロット圧力の大きさに応じて、P’ポートとT’ポートとを接続する流路の開口面積が漸減し、PポートとAポートとを接続する流路の開口面積、およびTポートとBポートとを接続する流路の開口面積がそれぞれ漸増する。すなわち、バケットチルトパイロット圧力が高圧となると、メインポンプ6からの圧油がバケットシリンダ115のボトム側油室115aに供給されるように、そして、バケットシリンダ115のロッド側油室115bが作動油タンク7と接続されるようにスプールが移動する。その結果、バケットシリンダ115のシリンダロッドが伸長されてバケット112が上方向に回動される。なお、バケット112が上方向に回動されることをバケットがチルトされる、とも言う。
【0023】
逆に、バケットダンプパイロット圧力が高圧となるとその大きさに応じて、P’ポートとT’ポートとを接続する流路の開口面積が漸減し、PポートとBポートとを接続する流路の開口面積、およびTポートとAポートとを接続する流路の開口面積がそれぞれ漸増する。すなわち、バケットダンプパイロット圧力が高圧となると、メインポンプ6からの圧油がバケットシリンダ115のロッド側油室115bに供給されるように、そして、バケットシリンダ115のボトム側油室115aが作動油タンク7と接続されるようにスプールが移動する。その結果、バケットシリンダ115のシリンダロッドが縮退されてバケット112が下方向に回動(ダンプ)される。
【0024】
流量制御弁43は、メインポンプ6と逆止弁を介したアーム用コントロールバルブ41のPポートとを結ぶパラレル油路の途中に設けられている。流量制御弁43は、比例電磁弁44を介して供給されるパイロット圧油の圧力(比例電磁弁出力圧)に応じて、アーム用コントロールバルブ41のPポートへ流れる圧油の流量を制御する。すなわち、流量制御弁43に供給されるパイロット圧油の圧力が大きくなるにつれパラレル油路を絞り、アーム用コントロールバルブ41のPポートに供給される圧油の流量を少なく制限し、パイロット圧油の圧力が小さくなるにつれパラレル油路を開放してアーム用コントロールバルブ41のPポートに供給される圧油を制限しないように制御する。
【0025】
図3は、比例電磁弁出力圧と流量制御弁43の流路の開口面積との関係を示す図である。比例電磁弁出力圧が所定の圧力Pa1以下の場合には、流量制御弁43の流路の開口面積は最大となり、比例電磁弁出力圧が所定の圧力Pa1よりも大きくなると、比例電磁弁出力圧が増えるにつれて流量制御弁43の流路の開口面積は漸減する。比例電磁弁出力圧が所定の圧力Pamaxに達すると、流量制御弁43の流路の開口面積はゼロとなり、パラレル油路を遮断する。なお、比例電磁弁出力圧は、コントローラ10から比例電磁弁44へ出力される制御信号(ソレノイド励磁出力)によって決定される。
【0026】
比例電磁弁44は、コントローラ10からの出力に基づいてパイロットポンプ46から流量制御弁43に供給されるパイロット圧油の圧力を後述するように制御する。
【0027】
コントローラ10は、ホイールローダ100の各部の制御を行うほか、比例電磁弁44への制御信号を出力する制御装置であり、CPU,ROM,RAM,その他の周辺回路などを有する演算処理装置を含んで構成される。コントローラ10には、上述した各センサ51〜55の他に、トルクコンバータの入力軸の回転数Niを検出するトルコン入力軸回転数センサ13と、トルクコンバータの出力軸の回転数Ntを検出するトルコン出力軸回転数センサ14と、アーム111の前部車体110に対する角度を検出するアーム角度センサ56と、後述する角度調整スイッチ57とが接続されている。なお、コントローラ10は、トルコン入力軸回転数センサ13、およびトルコン出力軸回転数センサ14で検出したトルコンの入力軸の回転数Niと出力軸の回転数Ntの比であるトルコン速度比e(=Nt/Ni)を算出する。
【0028】
角度調整スイッチ57は、流量制御弁43による流量制御の開始条件としてのアーム111の角度をオペレータが設定するためのスイッチであり、運転室121内に設けられている。
【0029】
この油圧回路では、アーム用コントロールバルブ41とバケット用コントロールバルブ42とがメインポンプ6からの圧油の流れに対して並列に配設されており、いわゆるパラレル油圧回路の構成となっている。流量制御弁43は、メインポンプ6からの圧油の流れに対してアーム用コントロールバルブ41の上流に配設されている。なお、流量制御弁43は、メインポンプ6からの圧油の流れに対してバケット用コントロールバルブ42およびバケットシリンダ115とは並列に配設されている。
【0030】
流量制御弁43がメインポンプ6からの圧油を規制していない場合には、この油圧回路はパラレル油圧回路として、アームシリンダ114とバケットシリンダ115に同時に圧油を供給できる。したがって、この油圧回路を用いたホイールローダ100では、アーム111とバケット112を同時に揺動できる。
【0031】
ここで、たとえばバケット112内の土砂を放出した後、アーム111の下げ動作を行いながらバケット112の角度位置を元の水平位置に戻す、複合操作が行われる場合を考える。バケット112内の土砂を放出する際には、アーム111は上方向に回動された状態となっており、バケット112は下方向に回動された状態となっている。この状態からアーム111の下げ動作を行いながらバケット112の角度位置を元の水平位置に戻そうとする場合、アーム用コントロールバルブ41には、アーム下げパイロット圧を作用させてアーム用コントロールバルブ41はPポートとBポートとが接続され、TポートとAポートとが接続される。また、バケット用コントロールバルブ42には、バケットチルトパイロット圧を作用させてPポートとAポートとが接続され、TポートとBポートとが接続される。
【0032】
しかし、アーム111が自重で下がろうとするため、アームシリンダ114のロッド側油室114bの圧力が低下する。そのため、従来のパラレル油圧回路のように流量制御弁43が配設されていない場合には、メインポンプ6からの圧油がアームシリンダ114のロッド側油室114bに優先的に供給されてしまい、バケットシリンダ115のボトム側油室115aへ圧油が供給され難くなるため、バケット112が上方向へ回動し難くなるという不都合が生じる恐れがある。
【0033】
また、土砂等荷のかき上げ作業の際にアーム111の上げ動作を行いながらバケット112をチルトさせる、複合操作が行われることがある。この場合、アームシリンダ114のボトム室114aおよびバケットシリンダ115のボトム室115aが共に高圧となるためにメインポンプ6からの圧油がアームシリンダ114とバケットシリンダ115の双方に流れるため、バケット112の回動速度が高まらず、荷を遠くへ放出できないという不具合が生じる恐れがある。
【0034】
そこで、本実施の形態の油圧回路では、アーム111とバケット112とを同時に揺動させるように複合操作が行われた場合に、メインポンプ6からアーム用コントロールバルブ41へ流れる圧油を流量制御弁43で規制してバケット用コントロールバルブ42へ優先的に圧油を流すようにすることで、上述した不具合を抑制する。以下、流量制御弁43による圧油の流量制御について詳述する。
【0035】
本実施の形態の油圧回路では、所定の条件によりホイールローダ100における掘削作業、非掘削作業を判断し、非掘削作業と判断されたときに、さらに他の条件によって判断されるアーム111とバケット112の双方を操作するような複合操作が行われると、メインポンプ6からアーム用コントロールバルブ41へ流れる圧油を流量制御弁43で規制する。
【0036】
コントローラ10は、たとえば、次の各条件を全て満たしたときに、ホイールローダ100で掘削作業を行っている(掘削状態である)と判断し、次の条件を1つでも満たさない場合には、ホイールローダ100が非掘削状態であると判断する。
(1) 圧力センサ55で検出されるメインポンプ6の吐出圧力が所定の圧力を超えている。すなわち、メインポンプ6の負荷が高負荷である場合。
(2) アーム角度センサ56で検出されるアーム111の角度が所定の角度以下である。すなわち、アーム111の位置が低い場合。
(3) トルコン入力軸回転数センサ13、およびトルコン出力軸回転数センサ14で検出したトルコンの入力軸の回転数Niと出力軸の回転数Ntとに基づいてトルコン速度比eを算出し、算出したトルコン速度比eが所定値以下である。すなわち、ホイールローダ100の車速が低いがエンジン1の回転数が高く、走行負荷が大きい場合。
【0037】
(A) ホイールローダ100で掘削作業を行っていると判断した場合
コントローラ10は、ホイールローダ100で掘削作業を行っていると判断した場合には、比例電磁弁44のソレノイドを消磁する。これにより、比例電磁弁44が比例電磁弁出力圧をゼロとするので、流量制御弁43の流路の開口面積が最大となる。したがって、掘削作業時には、アーム用コントロールバルブ41のPポートへ流れる圧油の流量が流量制御弁43で制限されず、不図示の操作レバーの操作に応じてアームシリンダ114が駆動される。
【0038】
(B) ホイールローダ100が非掘削状態であると判断した場合
コントローラ10は、ホイールローダ100が非掘削状態であると判断した場合には、各パイロット圧力センサ51〜54で検出した各パイロット圧力に基づいて、アーム上げパイロット圧力センサ51またはアーム下げパイロット圧力センサ52の検出圧力が所定の圧力以上であり、かつ、バケットチルトパイロット圧力センサ53またはバケットダンプパイロット圧力センサ54の検出圧力が所定の圧力以上であるときに複合操作が行われたと判断する。コントローラ10は、複合操作が行われたか否かによって、流量制御弁43を(すなわち比例電磁弁44の比例電磁弁出力圧を)以下のように制御する。
【0039】
(B−1) 複合操作が行われていないと判断した場合
コントローラ10は、上記により複合操作が行われていないと判断した場合には、比例電磁弁44のソレノイドを消磁する。これにより、比例電磁弁44が比例電磁弁出力圧をゼロとするので、流量制御弁43の流路の開口面積が最大となる。したがって、複合操作が行われていない場合には、アーム用コントロールバルブ41のPポートへ流れる圧油の流量が流量制御弁43で制限されず、不図示の操作レバーの操作に応じてアームシリンダ114が駆動される。
【0040】
(B−2) 複合操作が行われていると判断した場合
コントローラ10は、上記により複合操作が行われていると判断した場合には、バケット112を操作する不図示の操作レバーの操作量が多くなるほど、アーム用コントロールバルブ41のPポートへ流れる圧油の流量が少なくなるように流量制御弁43を制御する。すなわち、コントローラ10は、バケット112を操作する不図示の操作レバーの操作量が多くなるほどバケット112がアーム111に優先して駆動されるように、比例電磁弁44への出力信号を制御することで比例電磁弁44の比例電磁弁出力圧を制御する。
【0041】
図4は、バケット用コントロールバルブ42のパイロット圧(バケットチルトパイロット圧力およびバケットダンプパイロット圧力)と、比例電磁弁44の比例電磁弁出力圧との関係を示す図である。コントローラ10は、バケットチルトパイロット圧力センサ53またはバケットダンプパイロット圧力センサ54で検出するパイロット圧力のうち、高い方の圧力(高圧側パイロット圧力)に応じて、比例電磁弁44の比例電磁弁出力圧が図4のL1〜L3のいずれかの対応関係となるように、比例電磁弁44への出力信号を制御する。このL1〜L3の対応関係は、後述するように、バケット用コントロールバルブ42のスプールの移動量とバケット用コントロールバルブ42の流路の開口面積との関係に基づいて決定されている。
【0042】
図5(a)は、バケット112が下方向に回動されているときの(バケットダンプ時の)バケットスプールストロークと、バケット用コントロールバルブ42の流路の開口面積との関係を示す図である。図5(b)は、バケットダンプ時のバケットスプールストロークと、高圧側パイロット圧力(バケットダンプパイロット圧力)との関係を示す図である。図5(c)は、バケットダンプ時のバケットスプールストロークと、流量制御弁43の流路の開口面積との関係を示す図である。図5(d)は、バケット112が上方向に回動されているときの(バケットチルト時の)バケットスプールストロークと、バケット用コントロールバルブ42の流路の開口面積との関係を示す図である。図5(e)は、バケットチルト時のバケットスプールストロークと、高圧側パイロット圧力(バケットチルトパイロット圧力)との関係を示す図である。図5(f)は、バケットチルト時のバケットスプールストロークと、流量制御弁43の流路の開口面積との関係を示す図である。
【0043】
(B−2−1) バケットダンプ時
バケットダンプ時、バケットスプールストロークが増えるにつれて、P’ポートとT’ポートとを接続する流路の開口面積は、図5(a)のP’−T’線図で示すように減少する。また、PポートとAポートとを接続する流路の開口面積は、図5(a)のP−A線図で示すように、バケットスプールストロークがS1になるまではゼロであり、S1を超えると増え始め、S3に至ると最大となる。TポートとBポートとを接続する流路の開口面積は、図5(a)のT−B線図で示すように、バケットスプールストロークがS1になるまではゼロであり、S1を超えると増え始め、S3よりも小さいストロークで最大となる。なお、バケットスプールストロークは、図5(b)に示すように、バケットダンプパイロット圧力と略比例関係にある。
【0044】
コントローラ10は、図5(c)に示すように、バケットスプールストロークがS1に達するまでは流量制御弁43の流路の開口面積が最大となるように比例電磁弁44への出力信号を制御する。すなわち、コントローラ10は、PポートとAポートとを接続する流路およびTポートとBポートとを接続する流路が開き始めるまではアーム用コントロールバルブ41のPポートへ流れる圧油の流量を制限しないように比例電磁弁44への出力信号を制御する。このように、バケットシリンダ115が駆動されていないときにアームシリンダ114へ供給される圧油が流量制御弁43で制限されないようにすることで、アームシリンダ114の駆動が不必要に制限されることを防止している。
【0045】
コントローラ10は、バケットスプールストロークがS1を超えるとバケットスプールストロークが増えるにつれて流量制御弁43の流路の開口面積が漸減するように比例電磁弁44への出力信号を制御する。なお、コントローラ10は、アーム111を上方向に回動させているとき(リフトアーム上げ時)と下方向に回動させているとき(リフトアーム下げ時)とでは、バケットスプールストロークと流量制御弁43の流路の開口面積との関係を次のように変更する。
【0046】
すなわち、コントローラ10は、リフトアーム下げ時にはリフトアーム上げ時よりもバケットスプールストローク増加量に対する流量制御弁43の流路の開口面積の減少量を多くする。具体的には、コントローラ10は、リフトアーム下げ時にはバケットダンプパイロット圧力と比例電磁弁44の比例電磁弁出力圧が図4のL3で示す対応関係となるように、リフトアーム上げ時にはバケットダンプパイロット圧力と比例電磁弁44の比例電磁弁出力圧が図4のL1で示す対応関係となるように比例電磁弁44への出力信号を制御する。その結果、リフトアーム下げ時にはリフトアーム上げ時よりもバケットスプールストロークが少なくても流量制御弁43の流路が大きく制限され、たとえば図5(c)のS4で流量制御弁43がアーム用コントロールバルブ41のPポートへ流れる圧油を遮断する。
【0047】
なお、リフトアーム上げ時には、PポートとAポートとを接続する流路の開口面積が最大となるストロークS3にバケットスプールストロークが達したときに流量制御弁43がアーム用コントロールバルブ41のPポートへ流れる圧油を遮断する。換言すると、リフトアーム上げ時には、バケットスプールストロークがストロークS3に達したときに流量制御弁43がアーム用コントロールバルブ41のPポートへ流れる圧油を遮断するように、図4のL1で示す対応関係があらかじめ定められている。
【0048】
このように、リフトアーム上げ時とリフトアーム下げ時とでバケットスプールストロークと流量制御弁43の流路の開口面積との関係を変更しているのは次の理由による。リフトアーム下げ時には、上述したように、アーム111の自重の影響でバケットシリンダ115へ圧油が供給され難くなってバケット112が回動し難くなるという不都合が生じることを防止するために、アームシリンダ114へ供給される圧油を流量制御弁43で積極的に制限する必要がある。これに対して、リフトアーム上げ時には、アーム111の自重の影響でバケットシリンダ115へ圧油が供給され難くなるということはないが、いわゆるタンデム油圧回路の場合のようにバケット112を優先的に回動させるために、アームシリンダ114へ供給される圧油を流量制御弁43で制限する必要がある。そのため、図4に示すように、高圧側パイロット圧力に対して比例電磁弁出力圧の変化がL1に比べてL3が急峻となるようしている。
【0049】
なお、リフトアーム上げ時には、角度調節スイッチ57のオペレータによる操作によって設定された角度位置よりもアーム111が高い位置にある場合にのみ、上述した流量制御弁43による流量制御が行われるように構成されている。
【0050】
(B−2−2) バケットチルト時
バケットチルト時、バケットスプールストロークが増えるにつれて、P’ポートとT’ポートとを接続する流路の開口面積は、図5(d)のP’−T’線図で示すように減少する。また、PポートとBポートとを接続する流路の開口面積は、図5(d)のP−B線図で示すように、バケットスプールストロークがS1になるまではゼロであり、S1を超えると増え始め、S3よりも少ないS2に至ると最大となる。TポートとAポートとを接続する流路の開口面積は、図5(d)のT−A線図で示すように、バケットスプールストロークがS1になるまではゼロであり、S1を超えると増え始め、S3で最大となる。なお、バケットスプールストロークは、図5(e)に示すように、バケットチルト時のパイロット圧力であるバケットチルトパイロット圧力と略比例関係にある。
【0051】
コントローラ10は、図5(f)に示すように、バケットスプールストロークがS1に達するまでは流量制御弁43の流路の開口面積が最大となるように比例電磁弁44への出力信号を制御する。すなわち、コントローラ10は、PポートとBポートとを接続する流路およびTポートとAポートとを接続する流路が開き始めるまではアーム用コントロールバルブ41のPポートへ流れる圧油の流量を制限しないように比例電磁弁44への出力信号を制御する。このように、バケットダンプ時と同様に、バケットシリンダ115が駆動されていないときにアームシリンダ114へ供給される圧油が流量制御弁43で制限されないようにすることで、アームシリンダ114の駆動が不必要に制限されることを防止している。
【0052】
コントローラ10は、バケットスプールストロークがS1を超えるとバケットスプールストロークが増えるにつれて流量制御弁43の流路の開口面積が漸減するように比例電磁弁44への出力信号を制御する。なお、コントローラ10は、リフトアーム上げ時とリフトアーム下げ時とでは、バケットスプールストロークと流量制御弁43の流路の開口面積との関係を次のように変更する。
【0053】
すなわち、コントローラ10は、リフトアーム下げ時にはリフトアーム上げ時よりもバケットスプールストローク増加量に対する流量制御弁43の流路の開口面積の減少量を多くする。具体的には、コントローラ10は、リフトアーム下げ時にはバケットチルトパイロット圧力と比例電磁弁44の比例電磁弁出力圧が図4のL3で示す対応関係となるように、リフトアーム上げ時にはバケットチルトパイロット圧力と比例電磁弁44の比例電磁弁出力圧が図4のL2で示す対応関係となるように比例電磁弁44への出力信号を制御する。その結果、リフトアーム下げ時にはリフトアーム上げ時よりもバケットスプールストロークが少なくても流量制御弁43の流路が大きく制限され、たとえば図5(f)のS4で流量制御弁43がアーム用コントロールバルブ41のPポートへ流れる圧油を遮断する。
【0054】
なお、リフトアーム上げ時には、PポートとBポートとを接続する流路の開口面積が最大となるストロークS2にバケットスプールストロークが達したときに流量制御弁43がアーム用コントロールバルブ41のPポートへ流れる圧油を遮断する。換言すると、リフトアーム上げ時には、バケットスプールストロークがストロークS2に達したときに流量制御弁43がアーム用コントロールバルブ41のPポートへ流れる圧油を遮断するように、図4のL2で示す対応関係があらかじめ定められている。
【0055】
このように、バケットチルト時にも、バケットダンプ時について説明した理由と同じ理由により、リフトアーム上げ時とリフトアーム下げ時とでバケットスプールストロークと流量制御弁43の流路の開口面積との関係を変更している。なお、バケットダンプ時と同様にバケットチルト時でも、リフトアーム上げ時には、角度調節スイッチ57によって設定された角度位置よりもアーム111が高い位置にある場合にのみ、上述した流量制御弁43による流量制御が行われるように構成されている。
【0056】
−−−フローチャート−−−
図6は、本実施の形態における、比例電磁弁44への制御信号の出力処理の動作を示したフローチャートである。ホイールローダ100の不図示のイグニッションスイッチがオンされると、図6に示す処理を行うプログラムが起動され、コントローラ10で繰り返し実行される。ステップS1において、各センサの検出値や角度調整スイッチ57の設定角度を読み込んでステップS3へ進む。ステップS3において、ステップS1で読み込んだ検出値等に基づいて、上述したように掘削状態であるか否かを判断する。
【0057】
ステップS3が否定判断されると、すなわち非掘削状態であると判断されるとステッS5へ進み、ステップS1で読み込んだ各センサ51〜54の検出値に基づいて、複合操作が行われているか否かを判断する。ステップS5が肯定判断されるとステップS7へ進み、ステップS1で読み込んだ各センサ51,52の検出値に基づいて、リフトアーム上げ時であるか否かを判断する。ステップS7が肯定判断されると、ステップS9へ進み、ステップS1で読み込んだ角度調節スイッチ57の設定角度およびアーム角度センサ56の検出角度に基づいて、アーム111の角度が設定角度以上であるか否かを判断する。ステップS9が肯定判断されるとステップS11へ進み、ステップS1で読み込んだ各センサ53,54の検出値に基づいて、バケット112をダンプしているのか、バケット112をチルトしているのかを判断する。
【0058】
ステップS11において、バケット112をダンプしていると判断されるとステップS13へ進み、高圧側パイロット圧力と比例電磁弁44の比例電磁弁出力圧が図4のL1で示す対応関係となるように比例電磁弁44への制御信号を出力してリターンする。
【0059】
ステップS11において、バケット112をチルトしていると判断されるとステップS15へ進み、高圧側パイロット圧力と比例電磁弁44の比例電磁弁出力圧が図4のL2で示す対応関係となるように比例電磁弁44への制御信号を出力してリターンする。
【0060】
ステップS7が否定判断されるとステップS17へ進み、高圧側パイロット圧力と比例電磁弁44の比例電磁弁出力圧が図4のL3で示す対応関係となるように比例電磁弁44への制御信号を出力してリターンする。
【0061】
ステップS3が肯定判断されるか、ステップS5が否定判断されるか、ステップS9が否定判断されるとステップS19へ進み、比例電磁弁44のソレノイドを消磁するように制御信号を出力してリターンする。
【0062】
上述した油圧制御装置を備えた作業車両では、次の作用効果を奏する。
(1) メインポンプ6からの圧油の流れに対してアーム用コントロールバルブ41とバケット用コントロールバルブ42とを並列に配設し、アーム用コントロールバルブ41の上流に流量制御弁43を配設した。そして、アームシリンダ114とバケットシリンダ115を同時に駆動する複合操作が行われたと判断されると、メインポンプ6からアーム用コントロールバルブ41へ流れる圧油を流量制御弁43で規制するように構成した。これにより、複合操作が可能なパラレル油圧回路であっても、複合操作時のバケット112の回動速度が低下することによる不具合の発生を防止できる。したがって、パラレル油圧回路化による複合操作時の操作性の向上と、パラレル油圧回路化による不具合の発生防止とを両立して、作業効率の高い油圧制御装置および作業車両を実現できる。
【0063】
(2) 図5に示すように、バケットスプールストロークとバケット用コントロールバルブ42の流路の開口面積との関係、すなわち、バケット用コントロールバルブ42の流量制御特性に応じて、流量制御弁43がメインポンプ6からアーム用コントロールバルブ41へ流れる圧油を制限するように構成した。これにより、圧油の供給が制限されるアームシリンダ114の動き、すなわちアーム111の動きを滑らかにすることができ、アーム111の操作性悪化を防止できる。
【0064】
(3) バケットスプールストロークがS1を超えてからアーム用コントロールバルブ41のPポートへ流れる圧油の流量が徐々に制限され始めるように構成した。これにより、バケットシリンダ115が駆動されていないときにはアームシリンダ114へ供給される圧油が流量制御弁43で制限されないので、メインポンプ6の吐出圧力が不用意に高圧になりメインリリーフ弁45でリリーフすることが防止できる。
【0065】
(4) バケットダンプ時にはPポートとAポートとを接続する流路の開口面積が最大となったときに、バケットチルト時にはPポートとBポートとを接続する流路の開口面積が最大となったときに、流量制御弁43がアーム用コントロールバルブ41のPポートへ流れる圧油を遮断するように構成した。これにより、バケット112の開度速度を確実に高めることができ、バケット112の開度速度低下による不具合を防止できる。
【0066】
(5) リフトアーム上げ時およびリフトアーム下げ時の双方で、メインポンプ6からアーム用コントロールバルブ41へ流れる圧油を流量制御弁43で規制するように構成した。これにより、リフトアーム上げ時において荷を遠くへ放出できないという不具合や、リフトアーム下げ時にバケット112の戻りが悪くなるといった不具合を防止できる。
【0067】
(6) リフトアーム上げ時とリフトアーム下げ時とでバケットスプールストロークと流量制御弁43の流路の開口面積との関係を変更するように構成した。これにより、アームシリンダ114の駆動制限が作業状態に応じて適切に行われるようになるので、作業時にオペレータが違和感を覚えることを抑制できる。
【0068】
(7) リフトアーム上げ時には、角度調節スイッチ57のオペレータによる操作によって設定された角度位置よりもアーム111が高い位置にある場合にのみ、上述した流量制御弁43による流量制御が行われるように構成した。これにより、掘削する土砂等が盛られている高さ位置や、放土するダンプとの高さ位置が作業現場によって異なっても、上述した流量制御弁43による流量制御開始タイミングをオペレータが適宜変更できるので、利便性が高い。
【0069】
−−−変形例−−−
(1) 上述の説明では、バケット用コントロールバルブ42の流量制御特性に応じて、流量制御弁43がメインポンプ6からアーム用コントロールバルブ41へ流れる圧油を適宜制限するように構成したが、本発明はこれに限定されない。たとえば、バケット用コントロールバルブ42の流量制御特性に関わらず、バケットスプールストロークが所定のスロークに達するまではアーム用コントロールバルブ41のPポートへ流れる圧油の流量を制限せず、バケットスプールストロークが所定のスロークに達した時点でアーム用コントロールバルブ41のPポートへ流れる圧油を遮断するように構成してもよい。また、この場合に、遮断開始から遮断完了までに所定時間(たとえば数秒)要するように構成することで、アーム111の回動が急激に停止することを防止できる。
【0070】
(2) 上述の説明では、バケットスプールストロークが所定のスローク(S2またはS3)に達すると、流量制御弁43がメインポンプ6からアーム用コントロールバルブ41へ流れる圧油を遮断するように構成したが、本発明はこれに限定されない。たとえば、バケットスプールストロークが所定のスローク(S2またはS3)に達しても、流量制御弁43がメインポンプ6からアーム用コントロールバルブ41へ流れる圧油を完全に遮断するのではなく、ある程度圧油が流れることを許容するように構成してもよい。
【0071】
(3) 上述の説明では、リフトアーム上げ時とリフトアーム下げ時とでバケットスプールストロークと流量制御弁43の流路の開口面積との関係を変更するように構成したが、リフトアーム上げ時とリフトアーム下げ時とでバケットスプールストロークと流量制御弁43の流路の開口面積との関係を変更することは必須ではない。
【0072】
(4) 上述の説明では、リフトアーム上げ時とリフトアーム下げ時の双方で流量制御弁43がメインポンプ6からアーム用コントロールバルブ41へ流れる圧油を制限するように構成したが、本発明はこれに限定されない。たとえば、少なくともリフトアーム上げ時およびリフトアーム下げ時のいずれか一方でのみ、流量制御弁43がメインポンプ6からアーム用コントロールバルブ41へ流れる圧油を制限するように構成してもよく、当該一方においては上述した作用効果と同様の作用効果を奏する。
【0073】
(5) 上述の説明における、ホイールローダ100で掘削作業を行っているか否かの判断基準は一例であり、上述した条件に限定されない。たとえば、上述した条件の少なくともいずれか一つを満たせばホイールローダ100で掘削作業を行っていると判断するようにしてもよく、他の条件に基づいてホイールローダ100で掘削作業を行っているか否かを判断するようにしてもよい。
(6) 上述した各実施の形態および変形例は、それぞれ組み合わせてもよい。
【0074】
なお、本発明は、上述した実施の形態のものに何ら限定されず、圧油を供給する油圧ポンプと、油圧ポンプから供給される圧油によって作業車両に取り付けられたアームを揺動駆動するアーム駆動用アクチュエータと、油圧ポンプから供給される圧油によってアームの先端に取り付けられたバケットを揺動駆動するバケット駆動用アクチュエータと、油圧ポンプからアーム駆動用アクチュエータに供給される圧油を制御してアーム駆動用アクチュエータの駆動を制御するアーム駆動用圧油制御弁と、油圧ポンプからバケット駆動用アクチュエータに供給される圧油を制御してバケット駆動用アクチュエータの駆動を制御するバケット駆動用圧油制御弁と、アーム駆動用圧油制御弁を制御するアーム操作手段と、バケット駆動用圧油制御弁を制御するバケット操作手段と、アーム駆動用アクチュエータおよびバケット駆動用アクチュエータの操作状態を検出する操作状態検出手段と、操作状態検出手段でアーム駆動用アクチュエータとバケット駆動用アクチュエータとが複合的に操作されたことを検出すると、アーム駆動用アクチュエータに供給される圧油を制限する流量制御弁とを備えることを特徴とする各種構造の作業車両の油圧制御装置を含むものである。
【符号の説明】
【0075】
6 メインポンプ 10 コントローラ
13 トルコン入力軸回転数センサ 14 トルコン出力軸回転数センサ
41 アーム用コントロールバルブ 42 バケット用コントロールバルブ
43 流量制御弁 44 比例電磁弁
51 アーム上げパイロット圧力センサ 52 アーム下げパイロット圧力センサ
53 バケットチルトパイロット圧力センサ
54 バケットダンプパイロット圧力センサ
55 圧力センサ 56 アーム角度センサ
57 角度調整スイッチ 100 ホイールローダ
111 リフトアーム(アーム) 112 バケット
114 アームシリンダ 115 バケットシリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧油を供給する油圧ポンプと、
前記油圧ポンプから供給される圧油によって作業車両に取り付けられたアームを揺動駆動するアーム駆動用アクチュエータと、
前記油圧ポンプから供給される圧油によって前記アームの先端に取り付けられたバケットを揺動駆動するバケット駆動用アクチュエータと、
前記油圧ポンプから前記アーム駆動用アクチュエータに供給される圧油を制御して前記アーム駆動用アクチュエータの駆動を制御するアーム駆動用圧油制御弁と、
前記油圧ポンプから前記バケット駆動用アクチュエータに供給される圧油を制御して前記バケット駆動用アクチュエータの駆動を制御するバケット駆動用圧油制御弁と、
前記アーム駆動用圧油制御弁を制御するアーム操作手段と、
前記バケット駆動用圧油制御弁を制御するバケット操作手段と、
前記アーム駆動用アクチュエータおよび前記バケット駆動用アクチュエータの操作状態を検出する操作状態検出手段と、
前記操作状態検出手段で前記アーム駆動用アクチュエータと前記バケット駆動用アクチュエータとが複合的に操作されたことを検出すると、前記アーム駆動用アクチュエータに供給される圧油を制限する流量制御弁とを備えることを特徴とする作業車両の油圧制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の作業車両の油圧制御装置において、
前記流量制御弁は、前記バケット駆動用圧油制御弁の圧油の制御特性に応じて前記アーム駆動用アクチュエータに供給される圧油を制御することを特徴とする作業車両の油圧制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の作業車両の油圧制御装置において、
前記油圧ポンプで供給される圧油の最高圧力を規定するメインリリーフ弁をさらに備え、
前記流量制御弁は、前記バケット駆動用圧油制御弁が前記バケット駆動用アクチュエータへの圧油を遮断している間は、前記メインリリーフ弁から圧油がタンク側へ導かれないように前記アーム駆動用アクチュエータに供給される圧油を制御することを特徴とする作業車両の油圧制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の作業車両の油圧制御装置において、
前記流量制御弁は、前記バケット駆動用圧油制御弁が前記バケット駆動用アクチュエータへ供給される圧油の流量が最大となるように制御されているときには、前記アーム駆動用アクチュエータに供給される圧油を遮断することを特徴とする作業車両の油圧制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の作業車両の油圧制御装置において、
前記流量制御弁は、前記操作状態検出手段によって前記バケット駆動用アクチュエータの操作と前記アームの下げ方向への前記アーム駆動用アクチュエータの操作とが検出されたとき、および、前記バケット駆動用アクチュエータの操作と、前記アームの上げ方向への前記アーム駆動用アクチュエータの操作とが検出されたときに、前記油圧ポンプから吐出される圧油の前記アーム駆動用アクチュエータへの流入量を制限することを特徴とする作業車両の油圧制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の作業車両の油圧制御装置において、
前記流量制御弁は、前記アーム駆動用アクチュエータが下げ方向へ操作されたときと、上げ方向へ操作されたときとで、前記油圧ポンプから吐出されて前記アーム駆動用アクチュエータへ流入する圧油の流量特性を変更することを特徴とする作業車両の油圧制御装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の作業車両の油圧制御装置において、
前記アームの角度を検出する角度検出手段と、
前記アームの任意の角度を設定する角度設定手段をさらに備え、
前記流量制御弁は、前記操作状態検出手段により前記バケット駆動用アクチュエータの操作と前記アームの上げ方向の前記アーム駆動用アクチュエータの操作とが検出されると、前記角度検出手段で検出した前記アームの角度が前記角度設定手段で設定された角度に達した後に前記油圧ポンプから供給される圧油の前記アーム駆動用アクチュエータへの流入量の制限を開始することを特徴とする作業車両の油圧制御装置。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の作業車両の油圧制御装置において、
前記流量制御弁は、前記操作状態検出手段により前記バケット駆動用アクチュエータの操作と前記アームを下げる方向の前記アーム駆動用アクチュエータの操作とが検出されたときのみ、前記油圧ポンプから供給される圧油の前記アーム駆動用アクチュエータへの流入量を制限することを特徴とする作業車両の油圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−236942(P2011−236942A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107255(P2010−107255)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】