説明

作業車両

【課題】個々の動作特性を有する摩擦接続によるクラッチについて、その接続タイミングを合わせた高精度のクラッチ制御による円滑な接続動作を可能とする作業車両を提供する。
【解決手段】作業車両は、摩擦接続によって伝動力制御をする走行用クラッチ(21a…)および作業機用クラッチ(26)を内装してエンジンから受けた動力を変速伝動する変速伝動部と、この変速伝動部のクラッチ制御をおこなう制御部(41)とを備えて構成され、上記制御部(41)は、上記クラッチ接続のピストンストロークに基づいてクラッチを制御するとともに、少なくとも一つのクラッチのピストンストロークをそのストローク動作に基づいて推定処理する調整モードを備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行用クラッチ等の摩擦接続によって伝動力制御をするクラッチを内装した変速伝動部を備える作業車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示されるように、摩擦接続による走行用クラッチ等を内装した変速伝動部を備える作業車両が知られている。この作業車両の変速伝動部は、前後進切換クラッチと変速ギヤとを備えて前後進と変速比の変更を可能とし、かつ、前後進切換クラッチを走行用クラッチとして走行動力の断接を行う。
これらのクラッチの制御は、クラッチおよび駆動制御系の構成の設計仕様に応じた動作特性により一定精度でクラッチを制御することができる。
【0003】
しかしながら、個々のクラッチの部品や組み付け精度および油圧駆動系の精度に起因する動作特性のばらつきにより、特にクラッチ接続行程のピストンストロークと対応する接続位置のばらつきによって不安定な接続動作を招くことがあり、伝動系の過大な負荷変動を招くとともに機体発進の円滑性を損なう原因となっていた。
【特許文献1】特開平6−11023号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明が解決しようとする課題は、個々の動作特性を有する摩擦接続によるクラッチについて、その接続タイミングを合わせた高精度のクラッチ制御による円滑な接続動作を可能とする作業車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、摩擦接続によって伝動力制御をする走行用クラッチ(21a…)および作業機用クラッチ(26)を内装してエンジンから受けた動力を変速伝動する変速伝動部と、この変速伝動部のクラッチ制御をおこなう制御部(41)とを備える作業車両において、上記制御部(41)は、上記クラッチ接続のピストンストロークに基づいてクラッチを制御するとともに、少なくとも一つのクラッチのピストンストロークをそのストローク動作に基づいて推定処理する調整モードを備えることを特徴とする。
上記制御部によって調整モードの処理がされるとクラッチのピストンストロークが現実のストローク動作に基づいて推定され、このピストンストロークによってクラッチが制御される。
【0006】
請求項2に係る発明は、請求項1の構成において、前記変速伝動部は、副変速レバー(18)によって変速比を切換える副変速機構(24)を前記走行変速用クラッチ(22a〜22d)と直列に備え、かつ、前記制御部(41)による調整モードの処理は、調整モードの適用指示のためのチェックモード信号に加え、上記副変速レバー(18)が中立位置で、前記クラッチ(21a…)の動作指示用のモーメンタリ式操作部(42p)が操作オンである場合であって、エンジン始動後の同モーメンタリ式操作部(42p)の操作オフを条件とすることを特徴とする。
走行伝動系の遮断とクラッチの突き回り等によるミッション内負荷の影響の遮断とによって測定が安定化され、また、モーメンタリ式操作部によりオペレータの介入を受けて測定がされる。
【0007】
請求項3に係る発明は、請求項1の構成において、前記調整モードは、クラッチの切位置から入動作させる作動用バルブへの圧力制御出力を行い、この圧力制御出力の開始からクラッチの入位置と対応する規定圧に達するまでの基準イニシャル時間を測定し、この基準イニシャル時間に基づいてそのピストンストロークの推定をすることを特徴とする。
クラッチの入位置までの現実のストローク動作に要するストローク時間が得られる。
【0008】
請求項4に係る発明は、請求項1の構成において、前記調整モードは、対象のクラッチのストローク動作を繰り返し、その二回目以降のストローク動作に基づいてそのピストンストロークを推定することを特徴とする。
ストローク動作の繰り返えしによる二回目以降のストローク動作により、オイル循環の不十分なエンジン始動直後より状態が安定化される。
【0009】
請求項5に係る発明は、請求項3の構成において、前記調整モードは、圧力制御出力から別途設定による最大駆動時間内に前記規定圧に達しない場合にそのピストンストロークの推定をすることなく、異常と判定することを特徴とする。
ストローク動作異常に対する判定により、動作異常のクラッチが所定時間内に判定される。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の構成の制御部における調整モードの処理により個々のクラッチについてピストンストロークが現実のストローク動作に基づいて推定されることから、そのピストンストロークに基づき接続タイミングを合わせた高精度のクラッチ制御による円滑な接続動作が可能となる。
【0011】
請求項2の構成により、無負荷下で測定が安定化され、また、モーメンタリ式操作部によるオペレータの介入による安定測定のための自由度が確保される。
【0012】
請求項3の構成により、クラッチの入位置までの現実のストローク動作に要するストローク時間が得られることから、このストローク時間によって個別のクラッチ構成およびその駆動制御構成の固有特性が反映され、設計仕様に基づく特性変動幅を含まない高精度のピストンストロークが推定される。
【0013】
請求項4の構成により、ストローク動作の繰り返えしによる二回目以降のストローク動作により、オイル循環の程度等によるエンジン始動直後の不安定状態を避けて安定したストローク動作による高精度のピストンストロークの推定が可能となる。
【0014】
請求項5の構成により、所定時間内におけるストローク動作異常に対する判定により、動作異常のクラッチに対しても調整モード処理を迅速に進めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
上記技術思想に基づいて具体的に構成された実施の形態について以下に図面を参照しつつ説明する。
本発明の作業車両の1例としての農用トラクタ1は、機体側面図を図14に示すように、前輪2、2と後輪3、3とを備えた機体前部のボンネット内にエンジン4を搭載し、このエンジン4の回転動力をミッションケース5内の変速伝動部5aに伝達し、この変速伝動部5aで適宜減速された動力を前輪2、2と後輪3、3とに伝達するとともに、後部のPTO軸6を介して作業機6aに出力するように構成している。
また、オペレータによる操作のために、ミッションケース5の上部に操縦席7を設けて操作部を構成し、ステアリングハンドル11の近傍に前後進切換の前後進切換レバー13、基部にクラッチペダル15等が配置され、制御部Cにより自動変速可能に構成される。
【0016】
変速伝動部は走行動力と作業機動力を変速制御する機構部であり、図1の伝動系統展開図に示すように、走行系はエンジン4から動力を受ける前後進切替部21、四速変速機構22、高低速変速機構23、副変速部24により差動機構3dを介して後輪3,3に伝達し、また、前輪伝動クラッチ(二駆四駆切替クラッチ)25を備えて二駆四駆切替制御可能に差動機構2dを介して前輪2,2用動力を分ける。作業機系は、エンジン4から作業機動力を分岐して後部のPTO軸6に伝達制御するPTOクラッチ26、PTO変速部27等から構成される。
【0017】
上記前後進切替部21は、前進・後進の2つのクラッチ21a,21bを連設した二連型クラッチを備えて前進と後進のギヤ列を前後進レバー操作による制御部の指令に応じて選択可能に構成する。また、クラッチペダル操作に応じて両クラッチによりエンジン動力の伝動が調節される。
【0018】
上記四速変速機構22は、1速3速切換用クラッチ22a,22cと2速4速切換用クラッチ22b、22dの2つの二連型クラッチを備えてその4つのクラッチ22a〜22dにより1速から4速までのギヤ列を選択可能に構成する。高低速変速機構23はLo・Hiの2つのクラッチ23a,23bによる二連型クラッチを備えて低速と高速のギヤ列を選択可能に構成する。これら四速変速機構22および高低速変速機構23は直列に連結してアクセルペダルや増減速ボタンにより制御部の指令に応じて8速の変速幅内で切替可能な主変速部を形成する。
【0019】
上記副変速部24は、オペレータ操作の変速レバー18により切替可能な高中低の変速比を有する3速ギヤによって構成する。この高中低の変速比と対応して「H」「M」「L」の3つのレバーポジション(変速位置)を設定し、これらレバーポジションを作業走行のための速度帯域とし、動力伝達のない停止速である中立位置「N」から変速レバー18の操作により速度帯域が選択される。
【0020】
上記四速変速機構22、高低速変速機構23および副変速部24の変速組合わせにより、全24速の変速比を選択することができる。組合わせの決定は、変速レバー18のシフト操作とアクセル操作とを介して制御部により条件に応じて選択され、機体走行速度を調節可能に構成する。
【0021】
上記変速伝動部5aを含む各機器の油圧制御系の構成は、油圧回路図を図2に示すように、油圧ポンプ31pにより前後進切替部21の2つのクラッチ21a,21b、四速変速機構22の4つのクラッチ22a〜22dおよび高低速変速機構23の2つのクラッチ23a,23b、PTOクラッチ26、その他の油圧機器に作動油を供給する。作動油供給量は、上記前後進切替部21のクラッチ21a,21bの単位時間当たりの流量を他のクラッチより大きく配分する。この流量配分により、ポンプ容量を抑えつつオペレータのペダル操作等について応答性を確保することができる。
【0022】
これらクラッチの動作制御については、前後進切替部21の前進「F」と後進「R」の2つのクラッチ21a,21bに切換弁32を介設するとともに、比例制御弁33aをパイロットとして昇圧制御するリリーフ弁33bを設け、また、両クラッチ21a,21b間に作動側の油圧を検出する圧力センサ34p付きのシャトル弁34を設ける。
【0023】
四速変速機構22の動作制御は、その1速3速切換用のクラッチ22a,22cに切換弁35aを介設するとともに、その昇圧制御のために比例制御弁36aを設け、また、両クラッチ22a,22c間に圧力センサ37p付きのシャトル弁37aを設け、同様に、2速4速切換用のクラッチ22b,22dに切換弁35b、比例制御弁36b、圧力センサ37q付きのシャトル弁37bを設ける。
【0024】
高低速変速機構23の動作制御は、低速「Lo」と高速「Hi」の2つのクラッチ23a,23bに切換弁38a、38b、圧力センサ38p、38qをそれぞれ介設し、また、PTOクラッチ26の動作制御は、比例制御弁39aと切換弁39b、圧力センサ39pを介設して動作制御する。
【0025】
次ぎに、油圧制御系の制御構成について説明する。
油圧制御系の制御構成は、図3に示すように、制御部41の入力側にモーメンタリ式操作部としてのクラッチペダルの踏込み検出スイッチ42pと踏込みストロークを検出するストロークセンサ42s、アクセルの踏込みストロークを検出するアクセルセンサ43、副変速位置センサ24p、前後進操作レバー21p、チェックスイッチ44等の操作機器を接続して操作信号を入力し、油温センサ32t、前後進圧力センサ34p、1速3速クラッチの圧力センサ37p、2速4速クラッチの圧力センサ37q、高低速変速機構23のクラッチセンサ38p、38q等の機器動作センサによるセンサ信号を入力する。
【0026】
制御部41の出力側には、前後進切換弁32とその昇圧制御用の比例制御弁33a、1速3速切換弁35aとその昇圧制御用の比例制御弁36a、2速4速切換弁35bとその昇圧制御用の比例制御弁36bの駆動ソレノイドを接続してそれぞれ駆動制御可能に構成する。
【0027】
次に、油温検出については、伝動上手の前後進切替部21の一番上流側のクラッチ21a,21bを制御するバルブ32の上流側に油温センサを配置する。この油温センサにより、前後進切替部21は車輪までの減速比が大きく、圧力コントロールの際に低い圧力の制御が多用されて圧力変化の影響を大きく受けることから、その油温を直接検出することにより、コントロール精度を向上することができる。
【0028】
上記の場合において、油温センサは走行系の減圧弁の下流側に配置する。この走行系減圧弁の下流側は、コントロールするクラッチ室への通路であり、そのままその時の油温で制御されることになり、制御油自体の油温とほぼ同等になることから、コントロールの間違いを少なくすることができる。
【0029】
また、トラクタのミッションオイルを油圧オイルと兼用使用している場合については、一般の油圧専用オイルよりオイルの粘性変化が常温付近から0℃以下付近で大きく、この粘性変化により圧力損失が増加したり、瞬間通過流量が少なくなったりして十分な性能が発揮できない原因となることから、前後進クラッチ21a,21b、主変速クラッチ22a〜22d、高低切換クラッチ23a,23p等のクラッチ室の圧力を検出するセンサと油温センサを設け、油温の違いによる特性差を考慮してコントロールを行う。このような考慮により、油圧オイルと兼用使用でも、性能を確保することができる。
【0030】
また、作動油の循環における流動している部位と停滞している部位については、ミッションケース内で大きな温度差が生じないことから、少なくとも同時に作動することのない油圧クラッチ室の圧力が全て同時に確認できるように油圧センサ34p…を複数配置する一方、油温センサは1個のみ配置して各クラッチ制御に使用することにより、コスト低減を図ることができる。
【0031】
次に、作動油供給路について説明する。
変速伝動部の要部拡大軸線展開図を図4に示すように、走行系動力伝達機構のコントロールバルブブロック50をミッションケース5の外側面に配置し、クラッチCをコントロールする油路をミッションケース5に、クラッチCを配置するシャフトSに加工油路を通して作動油を供給する場合は、シャフトSの長手方向の穴径およびミッションケース5側油路51、52の穴径を大きく、クラッチCと直接接する穴53(シャフトSの長手方向に直交する穴)を小さく形成する。
【0032】
油路は穴径を大きくするほど圧力損失が少なくなりコントロールしやすくなるが、クラッチに入るところをあまりに大きくするとクラッチ自体が前後方向に長くなって車両自体の前後長さが長くなるので、上記構成とすることにより、圧力損失を最低限に抑えることができる。
【0033】
次に、調整モードの制御について説明する。
調整モードはクラッチの動作制御に必要な各クラッチの入位置を設定するクラッチ初期調整を行うモードである。このクラッチ初期調整は、調整モードの適用指示のためのチェックモード信号によって制御部41により処理し、走行用クラッチを含む作業車両のクラッチのピストンストロークをそのストローク動作の測定によって推定を行う。
【0034】
昇圧バルブの制御は、圧力変化特性図を図5に示すように、クラッチの切位置においてクラッチ最大圧力に相当する駆動電流を出力し、同最大圧力より小さく設定した所定の判定圧力Psに達するまでのピストンストローク時間を計測し、これを基準イニシャル時間Tsとする。
【0035】
この基準イニシャル時間Tsによってクラッチのピストンストロークが現実のストローク動作によって推定される。したがって、クラッチ毎にそれぞれのピストンストロークが推定され、このピストンストロークに基づき、接続タイミングを合わせた高精度のクラッチ制御による円滑な接続動作が可能となる。
【0036】
以下において、調整モードの詳細な制御処理についてフローチャートにより説明する。
まず、調整モードの開始については、フローチャート(1)を図6に示すように、データ読込(S1)により、制御部の電源投入直後(S2)においては、所定の3条件、すなわち、チェックモードが入力チェック判定(S3)、モーメンタリ式操作部である増減速スイッチが共にオンの判定処理(S4)、副変速レバーが中立位置の判定処理(S5)により全て該当することを条件に、エンジンが所定回転数以上(S6)になるのを待ってクラッチ初期調整モード処理(S7)に入る。
【0037】
このように、クラッチ初期調整モード処理の開始については、チェックモードの入切を行う入力ラインを設け、チェックモード入力ラインがチェックモード「入」で、他のモーメンタリー式操作部(例えば、押し操作を続けていないとオン状態に保持できないようなスイッチ)が「操作状態」で更に副変速レバーが中立位置でエンジンを始動し、前記他のモーメンタリー式操作部を非操作状態にした時に調整モードに突入し、各バルブを駆動して調整を実施するように制御処理を構成する。
【0038】
上記処理構成により、副変速を中立にしておくことで、調整モード実施中に機体が不意に動いたりすることがなく、また、クラッチの突き回り等によるミッション内負荷の影響を遮断できる。さらに、バルブ駆動実施は、オペレータ操作を条件とすることにより、エンジン始動後にその回転がある程度安定するまで待つ等により開始タイミングを調整することができる。この場合において、上記モーメンタリー式操作部は、クラッチペダル或いは増減速ボタン或いは走行系の全ての操作部等の変速との関係が深いもので構成することにより、調整モードの操作自体を覚えておきやすくなる。
【0039】
上記制御部の電源投入直後判定(S2)において非該当の場合は、制御モードの選択判定(S8)に応じて通常制御(S8a)、チェックモード制御(S8b)、クラッチ初期調整モード処理(S7)の処理に移行する。また、上記所定の3条件のチェックモード入力チェック判定処理(S3)において非該当の場合は通常制御(8a)に、同3条件の増減速スイッチ共にオンの判定処理(S4)、副変速レバー中立位置の判定処理(S5)において非該当の場合はチェックモード制御(S8b)の処理に移行する。
【0040】
次に、クラッチ初期調整モードの処理について詳細に説明する。
クラッチ初期調整モードは、フローチャート(2)(3)を図7、図8にそれぞれ示すように、調整動作中についての判定処理(S11)により該当するまでの間、クラッチペダルスイッチ42p、増減速スイッチの全てがオンからオフへ変化して調整動作中セット、調整動作スタートセットの処理(S13a〜S13c)を待ち、その上で、クラッチペダルスイッチオンの判定処理(S12)により、該当すればペダル操作解除の上で再調整を要する旨の所定の表示処理(S12a)をして終了する。
【0041】
この表示処理(S12a)により、調整動作中に油圧力の変動を起こすような外乱を受けた場合の調整動作を中止してその内容がモニターに表示される。上記のように外乱を受けると一部オイル供給が絶たれる部位が生じるので、警報のメッセージ表示により再測定を促してそのような原因による誤検出をなくすことができる。なお、上記のような外乱を受けた場合については調整動作処理の中断としてもよい。
【0042】
上記クラッチペダルスイッチオンの判定処理(S12)において非該当の場合は、調整動作スタートセット中についての判定処理(S14a)を行う。該当すればブザー出力(S14b)をし、全クラッチ出力オフを500msec等の所定時間の経過まで繰り返し(S14c,S14d)てから調整動作スタートセットのクリアーおよび0回目セットの処理(S14e)をした上で2回目についての判定処理(S15)を行う。上記調整動作スタートセット中の判定処理(S14a)において非該当の場合も2回目についての判定処理(S15)を行う。
【0043】
この2回目についての判定処理(S15)において非該当であれば、該当全クラッチ出力実施を1サイクルとして各油圧クラッチを順次規定時間内で1個ずつの出力実施を繰り返し(S15a,S15b)、さらに全クラッチ出力オフを500msec等の所定時間の経過まで繰り返し(S15c,S15d)てから2回目セットの処理(S15e)をした上で最初から繰り返す。上記1サイクルの処理は、例えば、前進クラッチ21a、Hiクラッチ23b、1速クラッチ22a、2速クラッチ22b、後進クラッチ21b、Loクラッチ23a、3速クラッチ22c、4速クラッチ22d、PTOクラッチ26についてその順に実施する。
【0044】
このように調整のためのクラッチ動作は最低2サイクル以上とし、オイル循環がどの程度できているか不明なエンジン始動直後は各バルブを動かして1サイクル目を処理することで各油路に流されるオイルが充填されてエアーが抜かれ、2回目以降では安定して動作することから、2サイクル目以降(2サイクル目を含む)の動作結果により基準値を判定して記憶することにより、検出精度を向上することができる。また、1サイクル分の処理において、クラッチ1個ずつを駆動してこれを全クラッチについて順次進めることにより、クラッチ駆動の際の圧力変動を少なくし、精度の良い測定結果を得ることができる。
【0045】
上記2回目についての判定処理(S15)において該当する場合は、まず、前進クラッチ21aについて調整動作に入るために、油温が規定温度(例えば30℃)以上の判定処理(S21)をし、非該当なら暖機後再調整を要する旨の表示(S21a)と上記対象クラッチの圧力異常の旨の表示(S22)により処理を終了する。上記油温の判定処理(S21)は、油温によりオイルの粘性が変化して動作時に流量差が生じることから、これを加味して調整動作が正常終了したかどうかを判定することにより、測定精度を確保することができる。また、粘性変化による流量や圧力損失の影響が少なくなる規定の温度によって判定することにより、温度ごとのマップ等による複雑な処理によることなく簡易な制御処理が可能となる。
【0046】
上記油温の判定処理(S21)において該当する場合は、対象クラッチ圧力が所定の開放圧力(例えば、0.5kgf毎平方cm)未満の判定処理(S23)を繰り返し、規定時間の範囲(S23a)で上記開放圧力未満に下がらない場合は上記圧力異常の旨の表示(S22)により処理を終了する。上記開放圧力未満の判定処理(S23)は、クラッチの圧力が十分に開放されたことを圧力で判定する他に開放が推定できる時間の経過を待つようにしてもよく、いずれも、ピストンストローク容積分の作動オイルが排出されて1サイクル目のクラッチ動作からピストンが戻りかけによる動作を防止して正確な測定が可能となる。
【0047】
上記圧力開放についての判定処理(S23)において対象クラッチ圧力が開放圧力未満に下がった場合は、対象クラッチについて出力オンおよび他クラッチ全オフの処理(S24)をし、次いで規定圧力への変化判定(S24a)をし、該当するまで対象クラッチオンから所定時間(例えば、500msec)の範囲内(S25)で上記油温の判定処理(S21)から再度繰り返し、所定時間が経過したときは、対象クラッチについて基準範囲外の旨のモニター表示処理(S26)によって終了する。
【0048】
上記対象クラッチの動作出力処理(S24)は、調整動作中の圧力コントロール可能なバルブの最大圧力相当の制御電流により最大流量でクラッチを駆動することによりバルブ流量のばらつきを少なくすることができる。また、クラッチ動作について所定時間の範囲内(S25)として最大駆動時間を設け、その時間内に規定圧力に達しない場合は異常判定として調整動作を中止することにより、組立不具合等があった場合にいつまでも調整動作が終了しないという事態を招くことなく、時間のロスを回避することができる。また、上記異常判定のモニター表示処理(S26)により、不具合内容を素早く推定することができる。なお、上記時間異常判定に該当の場合は次のクラッチの処理に移行しても良い。
【0049】
上記規定圧力への変化判定(S24a)において該当する場合はその圧力変化時間について所定の範囲の判定処理(S27)をし、非該当なら上記同様に基準範囲外処理(S26)によって終了する一方、該当すれば、図8における測定中におけるクラッチペダルスイッチオンの判定処理(S27a)をする。
【0050】
上記圧力変化時間範囲の判定処理(S27)は、測定結果について油圧クラッチ別に設定された正常基準範囲により判定し、この正常基準範囲は、理論値から推定される長い側の時間公差について短い側の時間公差より大きな時間公差を付けて設定する。
【0051】
一般に油圧クラッチの動作については、クラッチ駆動部までの間でオイルリーク等理論値より長くなる要素が多く、逆に理論値より短くなる要素は流量が多く出て圧力が高めになる場合であり部品レベルでは通常プラスマイナスでほぼ同等となり、双方を考えると正常部品であるが長めになる場合の方が多くなることから、上記のような正常基準範囲を設定することにより、できる限り許容範囲を狭くして誤判定を少なくするとともに、部品のばらつきによる誤判定を少なくすることができる。
【0052】
このクラッチペダルスイッチオンの判定処理(S27a)において、該当すれば、図7の所定の表示処理(S12a)により警告出力して終了し、一方、非該当であれば、対象クラッチの圧力変化時間を基準イニシャル時間としてEEPROM等のメモリーに書込み処理(S28)をする。
【0053】
このようにして、前進クラッチ21aについて規定圧力に達するまでの基準イニシャル時間を測定することができる。この測定時間は、クラッチの個々のストロークのばらつきや機械毎に異なる流量のばらつき、油路やクラッチからの漏れのばらつき等の全てを考慮したそのクラッチ固有の特性であり、これを記憶しておいてクラッチの動作制御に使うことで機械毎のばらつきを考慮した精度の良いクラッチ制御が可能となる。なお、データ記憶上は、上記測定時間に基づいて実ピストンストロークに近いデータなどに加工してもよい。
【0054】
次に、対象クラッチをHiクラッチ23bとして前記同様に一連の処理(S31〜S38)を行い、続いて1速クラッチ22aについても同様に一連の処理(S41〜S48)を行うことにより、それぞれの基準イニシャル時間を順次測定して記憶する。
【0055】
この場合における最大駆動時間は、クラッチの特性と対応するように、Hiクラッチ23bについては、所定時間の範囲内(S35)として例えば500msecとし、また、1速クラッチ22aについては、所定時間の範囲内(S45)として例えば1000msecとして設定する。
【0056】
次いで、フローチャート(4)を図9に示すように、対象クラッチを2速クラッチ22bとして前記同様に一連の処理(S51〜S58)を行い、続いて後進クラッチ21bについても同様に一連の処理(S61〜S68)を行うことにより、それぞれの基準イニシャル時間を順次測定して記憶する。また、最大駆動時間は、それぞれにつき、例えば1000msec、500msecとして設定する。
【0057】
次いで、フローチャート(5)を図10に示すように、対象クラッチをLoクラッチ23aとして前記同様に一連の処理(S71〜S78)を行い、続いて3速クラッチ22cについても同様に一連の処理(S81〜S88)を行うことにより、それぞれの基準イニシャル時間を順次測定して記憶する。また、最大駆動時間は、それぞれにつき、例えば500msec、1000msecとして設定する。
【0058】
次いで、フローチャート(6)を図11に示すように、対象クラッチを4速クラッチ22dとして前記同様に一連の処理(S91〜S98)を行い、続いてPTOクラッチ26についても同様に一連の処理(S101〜S108)を行うことにより、それぞれの基準イニシャル時間を、順次測定して記憶する。最大駆動時間は、それぞれにつき、例えば1000msec、500msecとして設定する。
【0059】
このようにして、上記1サイクル分の全油圧クラッチについて動作出力およびその出力開始からクラッチ圧力が規定圧になるまでの時間測定を順次処理した上で、正常終了のブザー出力処理(S109)をして終了する。これら一連の処理によって得られた基準イニシャル時間Tsによってクラッチのピストンストロークが現実のストローク動作によって推定され、このピストンストロークに基づいてクラッチ制御をすることにより、接続タイミングを合わせた高精度のクラッチ動作による円滑な接続動作が可能となる。
【0060】
次に、前後進切替部21の前進・後進の2つのクラッチ21a,21bについて、クラッチペダル操作におけるクラッチ制御について説明する。
クラッチペダル操作部には、2つの検出手段、すなわち、クラッチペダル踏み込み位置付近で切り替わるスイッチ42pとクラッチペダルの操作ストロークをアナログ的に検出するセンサ42sとを設け、ペダル位置に対する指示圧力を決めるために前述の初期調整モードを設ける。この調整モードにより、図12のペダル動作線図(a)およびセンサ展開線図(b)に示すように、クラッチペダルスイッチ42pの切り替わり位置H2を基準にクラッチペダルストロークセンサ42sの圧力指示位置を設定する。調整処理の完了時には、正常、異常の判定に応じたブザー出力および異常判定時にその旨をモニター表示により警告する。
【0061】
上記ペダル動作は、図12(a)において、H1は踏み込み位置、H3はクラッチペダルセンサ圧力指定最大位置、H4はクラッチペダル開放フリー位置を示し、また、センサ展開については、図12(b)において、H5はクラッチペダルセンサ低圧保持位置、H6はクラッチペダルセンサ圧力最大指示位置、H7はクラッチペダルセンサ開放位置である。
【0062】
上記クラッチペダルスイッチ42pの切り替わり位置H2は、スイッチのヒステリシスを受けないように、オンからオフへの切り替わり側とすることにより、同切り替わり位置H2がスイッチ42pによるクラッチ接続開始検出ポイントになり、この位置を基準として展開することで両センサを使用した構成においてクラッチ切判定や入判定がやりやすくなる。
【0063】
上記クラッチペダルスイッチ42pと操作ストロークをアナログ的に検出するセンサ42sは、独立したクラッチ切位置を持たせることにより、どちらかが入側固定で故障しても他方の操作によりクラッチ切機能を確保することができる。
【0064】
この場合において、どちらか一方のセンサがクラッチ切状態を判定した場合にクラッチを切側に操作するように構成し、クラッチペダルストロークセンサ42sの変化方向は、センサ接続カプラが外れている場合に発生しているECU側入力電位がクラッチ踏み込み方向へ変化したとき前記電圧に近づくように構成し、カプラ抜けを検出しているときはクラッチを切側に操作するように構成する。すなわち、カプラ接続状態で踏み込むと0V、離すと5Vを検出し、また、カプラを外すと0Vを検出するように構成する。
【0065】
ECUのポテンショメータ入力回路がプルダウン方式の場合はカプラ非接続時0V検出、プルアップ方式の場合は5V検出になる。例えば、プルダウン方式の検出構成なら、ペダルストロークセンサ42sの電圧変化は、踏み込んでいくほど0V側へ変化するように構成する。逆に構成した場合には、クラッチペダルを放したときにクラッチが切れる事態が起こることから、上記の構成とすることにより、調整不良等があっても踏み込み側でクラッチが切れることになり安全を確保することができる。
【0066】
上記構成の場合において、クラッチ入り側(半クラッチも含む)保持中のクラッチ切検出は、スイッチ42pとセンサ42sのどちらが切側になっても早く切になった方によってリバースクラッチ21を切る動作をさせ、クラッチ切側保持中は、スイッチ42pの入り側とセンサ42sの入り側の時系列的に遅く検出した方(両方が入側を検出したタイミング)でクラッチ接続を開始するように構成する。このように構成することにより、クラッチ切側を確実にすることができる。
【0067】
また、クラッチペダルスイッチ42sの切判定ポイントとクラッチペダルセンサ42sの切判定ポイントは、クラッチペダルセンサ42sの方がクラッチペダル踏み込み側に来るように構成し、クラッチペダルセンサ42sでの指示圧力は、図12(b)に示すように、クラッチペダルスイッチ42p切ポイントH2から放し側のある設定領域H5まで低い規定圧力P1を指示するように配置構成する。
【0068】
スイッチは一般にヒステリシスにより切ポイントがペダルストロークに対し操作するたびに微妙に異なる位置で反応することから、クラッチペダルセンサ42sでの指示圧力P1を上記のようにすることにより、クラッチを放し始めたときの指示圧力が安定するので操作性を良くすることができる。
【0069】
次に、エンジンのスロットル制御について説明する。
メカニカルなエンジンのアクセル操作装置(メカガバナ)と連動して動作し、ガバナ側のアクセル操作量を検出するセンサを設けた構成において、初期調整モードを設け、調整モードの中でセンサ指示値(検出値)とエンジン回転数の関係のラインCを形成して制御に使用する場合に、図13(a)のセンサ検出特性図に示すように、調整モードではアイドリング回転と対応するLoアイドルP1付近と、定格回転と対応するHiアイドルP2付近と、その他の中間位置P3の少なくとも3点のアクセルセンサ指示値とそのときのエンジン回転数を検出し、各ポイントP1,P3,P2を順に直線で結んだラインL1,L2を指示位置と判断して制御に使用するように構成する。
【0070】
アクセルセンサは、エンジン側スロットル開度と連動して動作するものであるが、取付け分解能の関係でエンジンスロットル開度と比例関係で構成することが困難な場合が多いので、上記のように、基準ラインCを生成するために少なくとも3ポイントP1,P3,P2を押さえた単純な直線補間とすることにより、センサと実回転数指示の関係誤差を少なくすることができる。
【0071】
電子ガバナ装置のアクセル指示センサに関しては、アクセルペダルやスロットルレバー等のアクセル指示操作部と連動して動くポテンショメータを設け、アクセル操作部にはHiアイドルストッパとLoアイドルストッパを設け、図13(b)のアクセルセンサ展開線図に示すように、調整モードを設けてHiアイドルストッパ位置T1とLoアイドルストッパ位置T4とを記憶するように構成し、実際のエンジン回転数指示は、両ストッパ位置T1,T4より内側の範囲T2〜T3で全指示回転数を指示するように構成する。このような構成により、メカニカルな撓みやへたりがあっても、再調整を何度もする必要がなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】作業車両の変速伝動部の伝動系統展開図である。
【図2】作業車両の油圧回路図である。
【図3】油圧制御系の制御構成図である。
【図4】変速伝動部の要部拡大軸線展開図である。
【図5】昇圧バルブの圧力変化特性図である。
【図6】フローチャート(1)である。
【図7】フローチャート(2)である。
【図8】フローチャート(3)である。
【図9】フローチャート(4)である。
【図10】フローチャート(5)である。
【図11】フローチャート(6)である。
【図12】ペダル動作線図(a)およびセンサ展開線図(b)である。
【図13】センサ検出特性図(a)およびアクセルセンサ展開線図(b)である。
【図14】作業車両の機体側面図である。
【符号の説明】
【0073】
5a 変速伝動部
13 前後進切換レバー
15 クラッチペダル
18 変速レバー
21 前後進切替部
21a 前進クラッチ
21b 後進クラッチ
21p 前後進操作レバー
22 四速変速機構
22a〜22d 1速〜4速クラッチ
23 高低速変速機構
23a Loクラッチ
23b Hiクラッチ
24 副変速部
26 PTOクラッチ
34a 前後進圧力センサ
37c 圧力センサ
37d 圧力センサ
41 制御部(ECU)
43 アクセルセンサ
44 チェックスイッチ
Ts 基準イニシャル時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦接続によって伝動力制御をする走行用クラッチ(21a…)および作業機用クラッチ(26)を内装してエンジンから受けた動力を変速伝動する変速伝動部(5a)と、この変速伝動部(5a)のクラッチ制御をおこなう制御部(41)とを備える作業車両において、
上記制御部(41)は、上記クラッチ接続のピストンストロークに基づいてクラッチを制御するとともに、少なくとも一つのクラッチのピストンストロークをそのストローク動作に基づいて推定処理する調整モードを備えることを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記変速伝動部(5a)は、副変速レバー(18)によって変速比を切換える副変速機構(24)を前記走行変速用クラッチ(22a〜22d)と直列に備え、かつ、前記制御部(41)による調整モードの処理は、調整モードの適用指示のためのチェックモード信号に加え、上記副変速レバー(18)が中立位置で、前記クラッチ(21a…)の動作指示用のモーメンタリ式操作部(42p)が操作オンである場合であって、エンジン始動後の同モーメンタリ式操作部(42p)の操作オフを条件とすることを特徴とする請求項1記載の作業車両。
【請求項3】
前記調整モードは、クラッチの切位置から入動作させる作動用バルブへの圧力制御出力を行い、この圧力制御出力の開始からクラッチの入位置と対応する規定圧に達するまでの基準イニシャル時間(Ts)を測定し、この基準イニシャル時間(Ts)に基づいてそのピストンストロークの推定をすることを特徴とする請求項1記載の作業車両。
【請求項4】
前記調整モードは、対象のクラッチのストローク動作を繰り返し、その二回目以降のストローク動作に基づいてそのピストンストロークを推定することを特徴とする請求項1記載の作業車両。
【請求項5】
前記調整モードは、圧力制御出力から別途設定による最大駆動時間内に前記規定圧に達しない場合にそのピストンストロークの推定をすることなく、異常と判定することを特徴とする請求項3記載の作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−278353(P2007−278353A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−103357(P2006−103357)
【出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】