説明

作業車両

【課題】ディーゼルパティキュレートフィルタの再生効率を向上させ、作業車両の作業能率を低下させないようにすることを課題とする。
【解決手段】シリンダー5から排出される排気ガス中の粒状化物質PMを捕集するディーゼルパティキュレートフィルタ46bと過給器TBとディーゼルエンジンEを搭載した作業車両において、エンジンEと過給器TBの間に第一ヒーター67を設け、過給器TBとディーゼルパティキュレートフィルタ46bの間に第二ヒーター68を設け、ディーゼルパティキュレートフィルタ46b再生時には前記第一ヒーター67と第二ヒーター68を起動するように構成したことを特徴とする作業車両の構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、作業車両に関する。特に、粒状化物質を捕集するためのディーゼルパティキュレートフィルタを有するディーゼルエンジンを備えた作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)とエンジンの間にヒーターを設ける構成は公知である(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−127298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述のような技術では、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)を再生するために必要な排気ガス温度まで上昇させるのに時間がかかっていた。特に、冬場の気温が低い時期や寒冷地では多くの時間がかかっていたので、燃料消費量が多くなり、作業能率も低下していた。
【0005】
本発明の課題は、前述のような不具合を解消する作業車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記課題は次の構成によって達成される。
すなわち、請求項1記載の発明では、シリンダー(5)から排出される排気ガス中の粒状化物質(PM)を捕集するディーゼルパティキュレートフィルタ(46b)と過給器(TB)とディーゼルエンジン(E)を搭載した作業車両において、エンジン(E)と過給器(TB)の間に第一ヒーター(67)を設け、過給器(TB)とディーゼルパティキュレートフィルタ(46b)の間に第二ヒーター(68)を設け、ディーゼルパティキュレートフィルタ(46b)再生時に前記第一ヒーター(67)と第二ヒーター(68)を起動するように構成したことを特徴とする作業車両とする。
【0007】
ディーゼルエンジン(E)から排出された排気ガスは、ディーゼルパティキュレートフィルタ(46b)を通過して機外へ放出される。このとき、排気ガス内の粒状化物質(PM)は、ディーゼルパティキュレートフィルタ(46b)で捕集される。
【0008】
ディーゼルパティキュレートフィルタ(46b)内に粒状化物質(PM)が所定量以上堆積すると、排気ガス温度を上昇させて粒状化物質(PM)を焼き飛ばして除去(再生)する。エンジン(E)と過給器(TB)の間の第一ヒーター(67)と、過給器(TB)とディーゼルパティキュレートフィルタ(46b)の間の第二ヒーター(68)を起動すると、排気ガス温度が上昇する。
【0009】
請求項2記載の発明では、作業車両に作業機(21)と作業機用の油圧システム(71)を搭載し、ディーゼルパティキュレートフィルタ(46b)再生時に前記作業機用油圧システム(71)を駆動するように構成したことを特徴とする請求項1に記載の作業車両とする。
【0010】
作業機用の油圧システム(71)を駆動するとエンジンに負荷がかかり、排気温度が上昇する。
請求項3記載の発明では、作業車両に発電機(70)を搭載し、ディーゼルパティキュレートフィルタ(46b)再生時に発電機(70)を駆動するように構成したことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の作業車両とする。
【0011】
ディーゼルパティキュレートフィルタ(46b)再生時に発電機(70)を駆動するとエンジンに負荷がかかり、排気温度が上昇する。
請求項4記載の発明では、前記ディーゼルパティキュレートフィルタ(46b)の上流側に温度センサ(59)を設け、該温度センサ(59)の検出値に基づいて前記第一ヒーター(67)と第二ヒーター(68)の起動、作業油圧システム(71)の駆動、及び発電機(70)の駆動を適宜選択するように構成したことを特徴とする請求項3に記載の作業車両とする。
【0012】
温度センサ(59)の検出値に基づいて、エンジンに負荷をかける状態を適宜選択する。
【発明の効果】
【0013】
本発明は上述のごとく構成したので、請求項1から請求項3記載の発明においては、排気ガス温度が速やかに上昇するので、ディーゼルパティキュレートフィルタ(46b)の再生効率が向上する。また、短い時間でディーゼルパティキュレートフィルタ(46b)が再生するので、作業能率低下を防止できる。過給器(TB)の上流側に第一ヒーター(67)を設けているので、高温の排気ガスで過給器(TB)の回転効率が向上し、吸気効率が向上する。
【0014】
請求項4の発明においては、温度センサ(59)の検出値に基づいて、エンジンに負荷をかける状態を適宜選択できるので、無駄な燃料を使用することなく効率良く排気ガス温度を上昇可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】蓄圧式燃料噴射装置の全体構成図
【図2】各制御モードによるエンジン回転数とエンジン出力の関係を示す線図
【図3】トラクタの左側面図
【図4】トラクタの平面図
【図5】吸気系と排気系の模式図
【図6】トラクタの左側面図
【図7】フローチャート図
【図8】フローチャート図
【図9】フローチャート図
【図10】エンジンと排気系の模式図
【図11】エンジン回転数とエンジン出力の関係を示す線図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を実施するための最良の形態を説明する。
なお、後述する各実施例は、理解を容易にするために、個別または混在させて図示、あるいは説明しているが、これらは夫々種々組合せ可能であり、これらの説明順序・表現等によって、構成・作用等が限定されるものではなく、また、相乗効果を奏する場合も勿論存在する。
【0017】
図1は、蓄圧式燃料噴射装置の全体構成図である。蓄圧式燃料噴射装置は、例えば、多気筒ディーゼル機関に適用されるものであるが、軽油以外の機関でもよい。そして、蓄圧式燃料噴射装置は、噴射圧力に相当する高圧燃料を蓄圧するコモンレール1と、このコモンレール1に取り付けられる圧力センサ2と、燃料タンク3より汲み上げた燃料を加圧してコモンレール1に圧送する高圧ポンプ4と、コモンレール1に蓄圧された高圧燃料をエンジンEのシリンダー5内に噴射する燃料噴射ノズル6と、前記高圧ポンプ4と燃料噴射ノズル6等の動作を制御する制御装置(ECU)等から構成される。ECUとは、エンジンコントロールユニットの略称である。ECU100には本機側のCPU200が接続しており、相互に情報交換をしている。
【0018】
このように、コモンレール1は、エンジンEの各シリンダー5へ燃料を噴射するものであり、燃料供給を要求された圧力とするものである。
前記燃料タンク3内の燃料は吸入通路により燃料フィルタ7を介してエンジンEで駆動される高圧ポンプ4に吸入され、この高圧ポンプ4によって加圧された高圧燃料は吐出通路8によりコモンレール1に導かれて蓄えられる。
【0019】
コモンレール1内の高圧燃料は各高圧燃料供給通路9により気筒数分の燃料噴射ノズル6に供給され、ECU100からの指令に基づき、各シリンダーに燃料噴射ノズル6が作動して、高圧燃料がエンジンEの各シルンダー5室内に噴射供給され、各燃料噴射ノズル6での余剰燃料(リターン燃料)は各リターン通路10により共通のリターン通路10へ導かれ、このリターン通路10によって燃料タンク3へ戻される。
【0020】
また、コモンレール1内の燃料圧力(コモンレール圧)を制御するため高圧ポンプ4に圧力制御弁11が設けられており、この圧力制御弁11はECU100からのデューティ信号によって、高圧ポンプ4から燃料タンク3への余剰燃料のリターン通路10の流路面積を調整するものであり、これによりコモンレール1側への燃料吐出量を調整してコモンレール圧を制御することができる。
【0021】
具体的には、エンジン運転条件に応じて目標コモンレール圧を設定し、レール圧力センサ2により検出されるコモンレール圧が目標コモンレール圧と一致するよう、圧力制御弁11を介してコモンレール圧をフィードバック制御する構成としている。
【0022】
作業車(農作業機)におけるコモンレール1を有するディーゼルエンジンEのECU100は、図2に示すように、回転数と出力トルクの関係において走行モードAと通常作業モードB及び重作業モードCの三種類の制御モードを有する構成としている。
【0023】
走行モードAは、エンジン回転数の変動で出力も変動するドループ制御である。即ち、エンジンに負荷が掛かると負荷に応じてエンジン回転数を減少させる制御である。例えば、ブレーキを掛けて走行速度を減速したり停止したりすると、この走行負荷の増大に伴ってエンジン回転数が低下するため走行速度の減速や停止を安全に行うことができるものである。基本的には農作業等を行わず移動走行する場合に使用するものであるが、比較的負荷の小さい作業の場合は、このドループ制御を選択することもある。
【0024】
通常作業モードBは、負荷が変動してもエンジン回転数が一定で出力を負荷に応じて変更するアイソクロナス制御である。通常の農作業を行う場合に使用するものである。例えば、トラクターであれば耕耘作業時に耕地が固く耕耘刃に抵抗が掛かるときであり、コンバインであれば収穫作業時に収穫物が多く負荷が増大したときでも、出力が変動して回転数を維持するときである。
【0025】
重作業モードCは、通常作業モードBと同様に負荷が変動してもエンジン回転数一定で出力を負荷に応じて変更するアイソクロナス制御に加え、負荷限界近くになると回転数を上昇させて出力を上げる重負荷制御を加えた制御である。特に、負荷限界近くで農作業を行う場合に使用するものである。例えば、トラクターで耕耘作業を行っている際に、特に、固い耕地に遭遇してもエンジン出力が通常の限界を越えて増大するので作業を中断することがなく、効率の良い作業が可能となる。
【0026】
これらの作業モードA,B,Cは、各作業モードA,B,Cを切り替え可能な作業モード切替スイッチの操作、又は農作業車(トラクター、コンバイン、田植機等)の走行変速レバーの変速操作、又は作業クラッチ(トラクターであればロータリであり、コンバインであれば刈取部、脱穀部である)の入り切り操作等によって切り替わるように構成する。
【0027】
ディーゼルエンジンEでは、メイン噴射に先立って少量の燃料をパルス的に噴射するパイロット噴射を行うことにより、着火遅れを短縮してディーゼルエンジンE特有のノック音を低減し、騒音を低減することが可能な構成としている。
【0028】
このパイロット噴射は、メイン噴射の前に1回又は2回に限定して行われるものであったが、前記コモンレール1の蓄圧式燃料噴射装置を用いることで、エンジンEの状況に応じてパイロット噴射の状態を変化させ、騒音の低減や不完全燃焼による白煙又は黒煙の発生を抑制できるようになる。また、メイン噴射に先立って少量の燃料をパルス的に噴射するパイロット噴射を行うことにより、排ガス中の窒素酸化物の量が減少するようになる。
【0029】
図3は、前述のようなコモンレール1を有するディーゼルエンジンを搭載したトラクターの側面図を示し、図4はその平面図を示している。平面図においては、図3に示すキャビン14を省いた状態を示している。
【0030】
トラクターは、機体の前後部に前輪12、12と後輪13、13を備え、機体前部のエンジンルーム61内に搭載したエンジンEの回転動力をトランスミッションケースT内の変速装置によって適宜減速して、これら前輪12、12と後輪13、13に伝えるように構成している。前記エンジンルーム61はボンネット62で覆う構成である。
【0031】
機体中央であってキャビン14内のハンドルポスト15にはステアリングハンドル16が支持され、その後方にはシート17が設けられている。ステアリングハンドル16の下方には、機体の進行方向を前後方向に切り換える前後進レバー18が設けられている。この前後進レバー18を前側に移動させると機体は前進し、後方へ移動させると後進する構成である。
【0032】
また、ハンドルポスト15を挟んで前後進レバー18の反対側にはエンジン回転数を調節するアクセルレバー25が設けられ、またステップフロア19の右コーナー部には、同様にエンジン回転数を調節するアクセルペダル23と、左右の後輪13、13にブレーキを作動させる左右のブレーキペダル24L、24Rが設けられている。ステップフロア19の左コーナー部にはクラッチペダル20が設けられている構成である。
【0033】
また、主変速レバー26はシート17の左前方部にあり、低速、中速、高速及び中立のいずれかの位置を選択できる副変速レバー27はその後方にあり、さらにその右側にPTO変速レバー28を設けている。さらに、シート17の右側には作業機21(ロータリ等)の高さを設定するポジションレバー29と圃場の耕耘深さを自動的に設定する自動耕深レバー30、これらのレバーの後に作業機21の右上げスイッチ31と右下げスイッチ32が配置され、さらにその後に作業機21の自動水平スイッチ33とバックアップスイッチ34が配置されている。バックアップスイッチ34は、機体が後進時において、作業機21を自動的に上昇させるものである。作業機21は、機体の後方にリンク22で連結されている構成である。トラクターは作業機21を駆動させて機体を走行させることで、圃場内の耕耘等の作業を行なうものである。21aは作業機21を昇降する油圧シリンダーである。
【0034】
図5はエンジンのシリンダー5内への吸気と排気の模式図であり、4サイクルのディーゼルエンジンの実施例である。過給器TBの吸気タービン36により過給された空気は、エアクリーナー35から吸気タービン36、インタークーラー37を通過して吸気マニホールド38からシリンダー5内へ送られる構成である。39は吸気バルブであり、40はピストンである。48はカムでありロッカーアーム49を介して吸排気バルブ39、41を開閉させるものである。
【0035】
シリンダー5内で燃焼した排ガスは、排気バルブ41から排気マニホールド42を通過した後、過給器TBの排気タービン45で過給器TBを駆動して排出される構成である。
このディーゼルエンジンは、排気ガスの一部を吸気側に混入させるためのEGR(排気再循環装置)回路44を有している。EGR回路で排気ガスの一部を吸気側に混入させることで酸素量(O2)を減らして、窒素酸化物Noxの発生を低減させるように構成している。ただし、EGR率が上昇しすぎると、逆に酸素量が少なくなって不完全燃焼になるので、燃焼状態によりEGR率を調節する必要がある。この調節は、EGRバルブ43にて行う。EGR回路44は、後述する後処理装置46下流側の排気管55と過給器TBの吸気タービン36上流側の吸入管56との間を接続している。また、EGR回路44の途中にはEGRクーラ57を設ける構成としている。このEGRバルブ43の開閉具合でシリンダー5内への排気ガスの還元量が変化する。
【0036】
排気タービン45を通過後の排気ガスは、後処理装置46を通過してマフラー50から大気中に排出される。後処理装置46は、酸化触媒(DOC)46aとディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)46bとから構成されている。
【0037】
酸化触媒(DOC)は不燃物室を燃焼させるものであり、ディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)は粒状化物室(PM)を捕集するためのものである。前記EGRバルブ43と絞り弁47については、ECU100により制御される構成である。後処理装置46はディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)46bのみで構成してもよい、酸化触媒(DOC)46aを設けると不燃物質が燃焼するので、よりクリーンな排気ガスとなる。
【0038】
DPF46bは、排気ガスの温度が低い状態(低負荷)が長時間続くと、PMが溜まってきて能力の低下が懸念される。そこで、後処理装置46の下手側に絞り弁47を設け、この絞り弁47を絞るとDPF46b内の圧力が高く保持されるので温度も高くなる。これにより、高い温度の影響により、DPF46bの再生が可能となる。即ち、高い温度の排気ガスがDPF46bを通過すると、DPF46b内に存在しているPMが焼き飛ばされることでDPF46bが再生される。
【0039】
DPF46bを再生させるためのDPF再生運転としては、EGRバルブ43と絞り弁47の両方を絞る。そして、燃料噴射タイミングのリタード(遅角)と合わせてDPF46b内のガス温度を上昇させ、DPF46bが再生に入るようにする。これにより、燃料のアフター噴射(排気ガス温度を上昇させるため)が不要となったり、アフター噴射の回数を減らすことができるようになるので、燃料消費量を抑制できて環境にもよい。
【0040】
このようなDPF再生運転を行うための条件としては、後処理装置46の上手側に圧力センサ52を設けておいて、この圧力センサ52の値が所定値以上になるとDPF46b内にPMが蓄積して抵抗となっている状態なので、DPF再生運転を行うようにする。
【0041】
また、DPF再生運転に入った状態が長時間続くと、過熱状態となってしまいDPF46bが損傷してしまう。そこで、後処理装置46の下手側に温度センサ53を設け、この温度センサ53の値が所定値を超えるとDPF再生運転を止めて通常運転に戻るようにする。
【0042】
通常の運転は、EGRバルブ43と絞り弁47を同時に制御してEGR量を適宜コントロールするようにする。特に、絞り弁47を有することで、DPF46b内のガス温度を高く保持することができるようになる。
【0043】
前述のような構成としたことで、吸気スロットルが不要となる。即ち、過給器付き機関では吸気側圧力が高いので、EGRガス量を確保するために排気絞り弁または吸気スロットルを設け、EGRバルブと連動した制御が必要となるが、このようなシステムが不要となる。
【0044】
また、DPF46b下流の排気ガスを取り出すために、過給器TBの汚れに伴う性能劣化を生じることを防止できるようになる。そして、EGRガスはEGRクーラ57で冷却されるため、NOx低減に対して効果が大きくなる。
【0045】
前述したように、DPFの再生運転を行なうDPF強制再生モードにおいては、排気絞り弁47を絞り、ON−OFF制御によってEGRバルブ43を全閉とするように構成する。したがって、排気ガスの還元が行なわれないのでNOが増加し、このNOが酸化触媒(DOC)46aによってNO2に転換され、DPF46bの再生が促進されるようになる。
【0046】
また、DPF46bの強制再生中において、エンジン回転がローアイドルに移行した場合は、前記EGRバルブ43を全開とする。DPF46bの下流側には温度センサ53を設けているので、この温度センサ53による検出値が所定値以上に上昇したことも条件に加えるようにしてもよい。
【0047】
DPF46bを再生するときにおいては、排気温度が低いと再生不良となる。そこで、シリンダ5から排気タービン45の間に第一ヒーター67を設ける構成とする。さらに、排気タービン45と後処理装置46に第二ヒーター68を設ける構成とするが、いずれか一方のみを設ける構成として廉価な構成としてもよい。この場合は、排気温度が上昇するのに時間がかかってしまう。このように、第一ヒータ67と第二ヒータ68で排気ガスを直接温めることにより、DPF46bの再生が良好にできるようになる。
【0048】
また、過給器TBの上流側に第一ヒータ67を設けて排気ガス温度を上昇(熱膨張)させることで、排気ガスは過給器TBを速やかに、即ち高速状態で通過するので、吸気効率が向上する。
【0049】
また、エンジンそのものに負荷をかけて排気温度を上昇させてもよい。ECU100から発電機70駆動用のテンションクラッチモータ69に信号を送って入り状態とし、発電機70を駆動することで負荷をかけてもよい。また、トラクタには作業機を装着しているので、この作業機用の油圧システム71を駆動することでエンジンに負荷をかけるように構成してもよい。トラクタの後部には作業機(ロータリ)21を装着しているので、この作業機21の昇降を繰り返したり、作業機21を地面に当接させておいて、作業機21を下降させて油圧に負荷をかけることなどが考えられる。
【0050】
これにより、エンジンに負荷が作用することでエンジンから排出される排気ガス温度が上昇するので、DFP46bの再生が良好となる。
車両側のCPU200にはDPF46bの手動再生を行う手動再生スイッチ72を設けており、この手動再生スイッチ72を入り状態にすると、ECU100からエンジンに必要な負荷の要求値が送信される。即ち、排気ガス温度が所定値以上でないとDPF46bが再生できないので、負荷の要求値はDPF46bを適正に再生するために必要な排気ガスの温度であり、この排気ガス温度を得るために必要なエンジン負荷値である。この要求値の算出は、排気ガスの温度センサ59で行う。負荷の要求値に応じて、CPU200は負荷を段階的に増加させていく。そして、負荷が必要量(温度センサ59の値で判断)になるとDPF46bの手動再生を開始し、再生が完了すると、CPU200に完了終了信号を送信する。
【0051】
また、温度センサ59の検出値に複数のしきい値を設けておいて、このしきい値に基づいてエンジンに負荷をかける手段を決めていく構成とする。温度センサ59の検出値が低い場合は多くの負荷をかけ、検出値が高い場合は少ない負荷をかける構成とする。高負荷での作業走行後にDPF46bの再生を行う場合は、エンジンに負荷をかけなくてもよい場合がある。
【0052】
前記負荷の要求値に対して負荷を上昇させる手段としては、前述したように、作業機用の油圧システム71、発電機70の他に、ミッションの駆動等がある。ミッションの駆動としては、前後輪12,13に動力が伝達されないように下流側の油圧クラッチは切りとするが、ミッション内には複数の油圧クラッチがあるので、これらの入り切りで負荷量の予測と負荷量を算出する。
【0053】
これにより、DPF46bの手動再生が良好に実施でき、また、負荷の要求量に応じてミッション内の油圧クラッチの入り切りを行うので、ミッション内の油音上昇を最小限に抑制できる。
【0054】
また、手動再生の突入できるエンジンの暖機運転のために負荷をかける場合、短い時間で暖気運転が終了するようにする。例えば、5分以内が後の作業に影響を与えない。そして、暖気運転が終了すると、手動再生に移行する(吸気絞り弁73を絞る、ポスト噴射の実行)。これにより、能率の良い作業が可能となる。
【0055】
図6は手動再生時において、洗車を行うシステムである。作業機(ロータリ)21の軸76でポンプ74を駆動することでエンジンに負荷をかける構成とする。そして、例えば、ポンプ74で川の水75等を汲み上げて、ホース77で洗車を行う構成とする。これにより、ポンプ74を動かすことでエンジン負荷が上昇して再生に必要な温度まで速やかに上昇すると共に、手動再生中に洗車できるので能率が向上する。
【0056】
トラクターが作業する地域としては山間地が多く、高度の高い場所も多い。高度が高い場所では酸素濃度が薄いので、排気ガスから白煙が出てしまい、DPF再生のための排気温度上昇も緩慢になってしまう。
【0057】
そこで、高度0m地点を基準として高度補正を行う。高度0mでの高度補正係数を1.00とする。そして、高度0mでは気圧1013hpa、酸素濃度100%、気温15.0度Cを標準値とする。そして、高度に応じて前記高度補正係数を予め設定しておく。例えば、高度1000mでは気圧899hpa、酸素濃度88%、気温8.5度Cを標準値とすることで、高度補正係数を1.14(気圧より)とする。
【0058】
そこで、高度0mの空気量19立方m/hに補正係数を乗算すると、高度1000mでの目標空気量は21.7立方m/hとなる。この目標空気量となるように吸気絞り弁73を制御する。これにより、白煙を防止しながらDPF46b再生のための排気ガス温度になるので、再生が速やかに可能となる。
【0059】
図7のフローチャートは、失火の判断である。手動再生中に吸気絞り弁73を絞って排気温度を上昇させる際、ECU100内の指示燃料噴射量を監視し、噴射量が40mg/stを超えた状態が継続して2秒以上起こった場合に、失火が起こっていると判断し、吸気絞り弁73を全開して手動再生を中止する構成とする。このように、失火状態を判断した場合は、直ぐに吸気絞り弁73を全開にすることで、失火状態を回避できる。
【0060】
図8のフローチャートは、アクセルマップの切り替え条件である。アクセルマップとは、アクセル踏込み量に対するトルク値である。路上走行中においてDPF46bが自動再生に入った場合、標準のアクセルマップ(通常の路上走行時)に対して、トルクが増大するマップを用いる構成とする。即ち、同じアクセルの踏込み量でも、トルクが増大するマップを用いる構成とする。これにより、路上走行時に自動再生に入っても、エンジンの応答性の低下と運転性能の低下を防止できるようになる。
【0061】
また、図9のフローチャートに示すように、路上走行中に自動再生中において、アクセル開度略100%、エンジン負荷率略100%、エンジン回転数所定の低回転数(1500rpm)以下の状態を所定時間(10秒)以上継続すると、DPF46bの自動再生を中止したり行わせないようにする。これにより、坂道のような出力が必要をされる場面において、DPF自動再生による出力不足でエンジン回転ドロップに突入するのを防止できる。
【0062】
トラクターにおいては、エンジン回転数調整用として足で操作するアクセルペダル23と手で操作するアクセルレバー25の両方を備えている(図4)。アクセルペダル23は自動車と同じで路上走行用であり、アクセルレバー25は作業走行時に用いる。アクセルレバー25は手を離してもセットしたエンジン回転数は保持される構成である。
【0063】
そこで、DPF46bの自動再生突入の条件として、アクセルレバー25を操作しているときとする。アクセルレバー25は定常運転で安定しているためである。アクセルペダル23は過渡運転であるので適さない。そして、DPF46b内のPM量が所定値以上とDOC46aの入口温度が略230度以上も条件である。これにより、自動再生の失敗を防止できる。
【0064】
図10はエンジンEとDPF46bの間にバーナー78を設ける構成である。バーナー78には燃料噴射ノズル79が設けられており、燃料タンク81からポンプ80で燃料を供給する構成である。バーナー78の着火によりDPF46bの再生を行うため、エンジンから排出された直後の排気温度は高温である必要はない。そのため、一部の気筒での燃料噴射を停止させ、排気側に酸素濃度の高いガスを排出することで、バーナー78の着火性能が向上して、着火後の失火を抑制する。
【0065】
高地では酸素濃度が元々低いため、一部の燃料噴射を停止させることで酸素濃度の更なる低下を抑制し、バーナー78への酸素供給量を確保することができる。
また、燃料噴射を停止させることで、エンジン側での燃料消費量が少なくなるため、システム全体としての燃費が向上するようになる。
【0066】
また、クランク軸83にモータ(電気又は油圧)82を連結しておいて、DPF46bを再生するときには全気筒で燃料噴射を停止し、クランク軸83を前記モータ82で駆動するように構成してもよい。これにより、酸素濃度を通常の大気と同じ状態を維持してバーナー78に送り込むことができるので、バーナー78の着火性能が向上し、DPF46bの再生効率が向上するようになる。
【0067】
図11はエンジン回転数と出力を示すエンジン性能曲線図である。縦軸Yはエンジン出力(kw)であり、横軸Xはエンジン回転数(rpm)である。エンジンの負荷率を算出する場合に、従来はエンジン回転数を示す横軸Xを負荷0%とし、最大負荷ラインL1を負荷100%として負荷率を算出していた。しかし、実際にはエンジンの摩擦損失、各種ファンの駆動、発電機の駆動損失がある。
【0068】
そこで、図11に示しているように、エンジンの摩擦損失を考慮して負荷0%の基本ラインをX1とする。そして、各種ファンが駆動するときは、負荷0%の基本ラインをX2とする。さらに、発電機が駆動するときは、負荷0%の基本ラインをX3とする。これにより、負荷率算出の精度が向上するようになる。
【0069】
図11に示す符号RとSは、負荷0%の基本ラインをX3としている実施例である。アクセル開度電圧が80%のときにおいては、P点が負荷0%の位置であり、最大負荷(100%)位置はM点となる。したがって、Rの長さが全負荷を示している。Q点は現在の負荷位置を示しているので、Sの長さが現在の負荷を示していることになる。よって、長さRに対する長さSの比が負荷率となる。このように負荷率を算出することで、精度の良い負荷率が算出可能となり、この負荷率をトラクタの表示パネルに表示することで、作業者はその後の対処(作業速度の増減速、路上速度の増減速、耕うん深さの調整、アクセル開度の調整等)を精度良く調節操作でき、作業能率が向上するようになる。
【符号の説明】
【0070】
5 シリンダー
21 作業機
46b ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)
59 温度センサ
67 第一ヒーター
68 第二ヒーター
70 発電機
71 作業機用の油圧システム
E ディーゼルエンジン
PM 粒状化物質
TB 過給器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダー(5)から排出される排気ガス中の粒状化物質(PM)を捕集するディーゼルパティキュレートフィルタ(46b)と過給器(TB)とディーゼルエンジン(E)を搭載した作業車両において、エンジン(E)と過給器(TB)の間に第一ヒーター(67)を設け、過給器(TB)とディーゼルパティキュレートフィルタ(46b)の間に第二ヒーター(68)を設け、ディーゼルパティキュレートフィルタ(46b)再生時に前記第一ヒーター(67)と第二ヒーター(68)を起動するように構成したことを特徴とする作業車両。
【請求項2】
作業車両に作業機(21)と作業機用の油圧システム(71)を搭載し、ディーゼルパティキュレートフィルタ(46b)再生時に前記作業機用油圧システム(71)を駆動するように構成したことを特徴とする請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
作業車両に発電機(70)を搭載し、ディーゼルパティキュレートフィルタ(46b)再生時に発電機(70)を駆動するように構成したことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の作業車両。
【請求項4】
前記ディーゼルパティキュレートフィルタ(46b)の上流側に温度センサ(59)を設け、該温度センサ(59)の検出値に基づいて前記第一ヒーター(67)と第二ヒーター(68)の起動、作業油圧システム(71)の駆動、及び発電機(70)の駆動を適宜選択するように構成したことを特徴とする請求項3に記載の作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−207636(P2012−207636A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75658(P2011−75658)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】