説明

作業車輌

【課題】前後方向の重量バランスを変化させることを可能とした作業車輌を提供する。
【解決手段】作業車輌1は、下部機体2及び上部機体3により構成されており、下部機体2には、ボンネット6の内部に収納されたエンジンや走行装置8が配設された下部フレーム4が、上部機体3には、キャビン7やタンク11等が積載された上部フレーム5が、それぞれ備えられている。上部フレーム5は、下部フレーム4に配設されたレール部材と、上部フレーム5にボルトによって固定されるスライドピース31a,31bとにより、下部フレーム4に対して前後方向にスライド移動自在に支持され、また、上部フレーム5と下部フレーム4との間には油圧シリンダ35が介在している。該油圧シリンダ35を駆動することで、下部機体2に対して上部機体3が前後方向にスライド駆動され、作業車輌1全体の前後方向の重量バランスが変化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばトラクタ等の作業車輌に係り、詳しくはエンジン及び走行装置が配設された下部フレームとキャビンが積載された上部フレームとを備えた作業車輌に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、トラクタに代表される作業車輌においては、エンジン、トランスミッションやクローラを有する走行装置、等が配設された下部フレームと、該下部フレームの上に配置され、運転席や操作部を有するキャビン、燃料や作動油を貯留するタンク、等が積載された上部フレームとが備えられている。
【0003】
このような作業車輌の中には、下部フレームと上部フレームとの間に防振具を介在させて配置し、該防振具により原動機から発生する振動を吸収させることでキャビン内の居住性の向上を図ったものも提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平8−113159号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のような作業車輌は、車輌後部にロータリ耕耘装置等の作業機を取付けたり、車輌前部にフロントドーザ(土寄せ作業用付属装置)等の作業機を取付けた状態で作業を行う場合がある。
【0006】
しかしながら、車輌後部に作業機を取付けた場合と車輌前部に作業機を取付けた場合とでは、作業車輌は、前後の重量バランスが大きく異なり、例えば車輌後部にロータリ耕耘装置を取付けた状態で作業する場合には、後方部分が重くなって車輌前部が浮き上がったり、反対に、例えば車輌前部にフロントドーザを取付けた状態で作業する場合には、前方部分が重くなって車輌後部が浮き上がったりする虞があり、安定した作業ができないという問題があった。
【0007】
また、特に上記車輌後部に作業機を取付けた場合においては、重量バランスを平衡に近づけるために、車輌前部にバランスウエイトを取付け、前後の重量バランスを安定させることも行われているが、作業車輌全体の重量が増加して、特にトランスミッションや走行装置等にかかる負荷が増加するため、耐久性が悪化する虞があるという問題があった。
【0008】
そこで本発明は、作業車輌の前後方向の重量バランスを変化させることを可能とし、もって上記課題を解決した作業車輌を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る本発明は(例えば図1乃至図5参照)、エンジン及び走行装置(8)が配設された下部フレーム(4)と、
キャビン(7)が積載された上部フレーム(5)と、を備え、
前記上部フレーム(5)を前記下部フレーム(4)に対して前後方向移動自在に支持した、
ことを特徴とする作業車輌(1)にある。
【0010】
請求項2に係る本発明は(例えば図2乃至図5参照)、前記下部フレーム(4)に対して前記上部フレーム(5)を回動自在に支持し得る支軸(38)を備え、
前記下部フレーム(4)に対して前記上部フレーム(5)を前記支軸(38)を中心に回動駆動可能に構成した、
請求項1記載の作業車輌(1)にある。
【0011】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これにより特許請求の範囲の記載に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る本発明によると、下部フレームに対して上部フレームを前後方向にスライド移動できるようにしたので、キャビンを有する上部フレームを前後方向に移動させることで、作業車輌の前後方向の重量バランスを変化させ、作業車輌に作業機を取付けた場合における全体の前後の重量バランスを安定させることができ、車輌前部または車輌後部の浮き上がりを防止することができる。
【0013】
また、作業車輌に作業機を取付けた状態での前後の重量バランスを安定させることができるので、バランスウエイトの使用を不要とすることができ、または重量を減少させることができ、車輌全体の重量を軽量化することにより走行装置等にかかる負荷を軽減させることができて、作業車輌の耐久性の向上を図ることができる。
【0014】
請求項2に係る本発明によると、下部フレームに対して上部フレームを支軸を中心に回動可能に構成したので、上部フレームを下部フレームに対して上下方向に回動することができ、下部フレームの内部及び上部フレームの下方部を開放することができ、作業車輌のメンテナンス性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に関する実施の形態を図1乃至図5に沿って説明する。
【0016】
本発明に係る作業車輌1は、図1に示すように、クローラ式走行車輌としてのトラクタである。該作業車輌1は、下部機体2と上部機体3とで構成されている。
【0017】
該下部機体2は、下部フレーム4を備えており、該下部フレーム4には、ボンネット6の内部に収納されたエンジン(図示せず)と、トランスミッション(図示せず)や詳しくは後述するクローラ23等からなる走行装置8とが配設されている。また、該下部フレーム4の前端部分(作業車輌の進行方向前方側、つまり図1中では左側方向)には、バランスウエイトを取付ける際の接続部42が備えられ、後部には、ロータリ耕耘装置等の作業機が装着される3点リンク機構40が備えられている。一方、該上部機体3は、ボンネット6の後方にあって、上記下部フレーム4上に配置された上部フレーム5を備えており、該上部フレーム5には、運転席(図示せず)等を有するキャビン7と、燃料や作動油を貯留するタンク11,12が積載されている。
【0018】
上記走行装置8は、走行フレーム25の前部で該走行フレーム25に支持される駆動スプロケット21と、該駆動スプロケット21と離間して走行フレーム25に支持された従動ホイル22と、これら駆動スプロケット21及び従動ホイル22の間に巻き掛けられたクローラ23とを有して構成されている。
【0019】
上記従動ホイル22は、走行フレーム25に対してスライドして伸縮可能に嵌挿されたアジャスタアーム28に支持されていて、クローラ張り機構(図示せず)でクローラ23の張圧が調整されるようになっている。また、走行フレーム25の上下には上転輪26と複数の下転輪27が設けられて、クローラ23が案内されるようになっている。
【0020】
上記下部フレーム4は、上述のように前方部分にエンジンが配置され、下方に走行装置8を備えており、該下部フレーム4に囲まれた部分で上記キャビン7の下方となる部分には、駆動機構や油圧機構等の装置が配置されている。
【0021】
上部フレーム5は、図2に示すように、角パイプ状の部材を溶接等で固着させることで組み合わせて構成されており、前後方向に延びて配置されたメインフレーム5c,5cと、サイドフレーム5d,5dと、該メインフレーム5c及びサイドフレーム5dに亘って配置された複数の補強部材5g,5g・・・とを備えている。さらに、上部フレーム5は、該メインフレーム5c,5cに亘って配置された前連結部材5aと、同じく後連結部材5bとを備えている。
【0022】
また、左右それぞれのサイドフレーム5dの前方部分は、メインフレーム5c側に曲げられ、該メインフレーム5cの前端部と接続されている。さらに、メインフレーム5c及びサイドフレーム5dの前方部分には、該メインフレーム5c及びサイドフレーム5dに亘って、キャビン7に乗降する際の足場となるステップ部5fが左右それぞれに設けられている。
【0023】
一方、下部フレーム4には、図3(b)に示すように、メインフレーム5cに沿って前後方向に延びて配置された断面コ字状のレール部材4aが、左右対向する位置に配設されている。そして、上部フレーム5のメインフレーム5cには、該下部フレーム4のレール部材4aの上面4a´を上下方向に挟み込むように、断面L字状のメインスライドピース31bが複数のボルト32bによって固定されており、同様に、前連結部材5aの前方部分では、サブスライドピース31aが複数のボルト32aによって固定されている(図2参照)。
【0024】
ここでレール部材4aが、下部フレーム4と一体に構成され、メインスライドピース31b及びサブスライドピース31aが、上部フレーム5に一体となるように固定されており、該レール部材4aは、それぞれが内方向への移動が規制され、左右対称な配置となっている。これにより、上部フレーム5は、下部フレーム4に対して、左右方向の移動を規制され、前後方向にスライド移動自在に支持される。
【0025】
また、上部フレーム5は、図3(a)に示すように、後連結部材5bに設けられた接続部5e,5eにおいて、2本の油圧シリンダ(駆動装置)35が、上端部35aにて回動自在にそれぞれ接続されており、この油圧シリンダ35は、下端部35bにて下部フレーム4と回動自在に接続されている。
【0026】
さらに、上部フレーム5は、左右のメインフレーム5cの後端部にそれぞれ、回動アーム36を備えている。該回動アーム36は、図4に示すように、端部36aにおいて下部フレーム4に一体に形成された支軸38に回動自在に接続されており、回動アーム36のアーム部36bが該メインフレーム5cの後端部分で入れ子状に構成され、該メインフレーム5cに対してスライド移動自在となっている。また、回動アーム36においては、ピン(図示せず)によりアーム部36bが上部フレーム5に対して固定され、該上部フレーム5に対してスライド移動ができない状態とすることができるように構成されている。
【0027】
なお、図1に示すように、ボンネット6とキャビン7との間には、土や埃等が機体内部に侵入することを防ぐための伸縮カバー41が配置されている。
【0028】
ところで、本実施の形態に係る作業車輌1は、下部フレーム4に対して上部フレーム5が移動可能となるように構成するため、下部機体2と上部機体3とを別個に製作することになる。これにより、下部機体2と上部機体3を別体とすることができるので、塗装等の作業を容易とすることができ、また、操作部を下部機体2側に残すようにするなどして運搬車として改造することも容易となる。
【0029】
以上のように構成された作業車輌1は、図4に示すように、例えば後部の3点リンク機構40にロータリ耕耘装置を装着した場合、上記油圧シリンダ35を伸長方向に駆動するように操作することで、上部フレーム5を下部フレーム4に対して前方側にスライドさせ、つまり上部機体3を前方側(二点鎖線51で示す位置)へ移動させる。これにより、作業車輌1の重心が後方側に偏ることを防ぎ、安定して作業を行うことができる。このとき、回動アーム36は、下部フレーム4に一体に形成された支軸38に接続されているが、上部フレーム5のメインフレーム5cに対してスライド移動自在となっているので影響を与えない。
【0030】
また、例えば下部フレーム4の前方部分にブラケット等を用いてフロントドーザを装着した場合、上記油圧シリンダ35を収縮方向に駆動するように操作することで、上部フレーム5を下部フレーム4に対して後方側にスライドさせ、つまり上部機体3を後方側(二点鎖線52で示す位置)へ移動させる。これにより、作業車輌1の重心が前方側に偏ることを防ぎ、安定して作業を行うことができる。
【0031】
一方、作業車輌1のメンテナンスの際には、上記複数のボルト32a,32bを取外し、上記左右それぞれのメインスライドピース31b及びサブスライドピース31aを取外し、左右の回動アーム36をピンにより上部フレーム5に対して固定し、上記伸縮カバー41を取外して、油圧シリンダ35を伸長方向側に駆動させる。これにより、図5に示すように、上部機体3は、支軸38を回動支点として上方へ回動し、キャビン7の下方位置となっていた部分が開放され、下部フレーム4に囲まれた部分に配置された駆動機構や油圧機構等の装置や、キャビン7の下面側に配置された装置等のメンテナンスが容易となる。
【0032】
以上のように本発明に係る作業車輌1によると、下部フレーム4に対して上部フレーム5を前後方向にスライド移動できるようにしたので、キャビン7を有する上部フレーム5を前後方向に移動させることで、作業車輌1の前後方向の重量バランスを変化させ、作業車輌1に作業機を取付けた場合における全体の前後の重量バランスを安定させることができ、車輌前部または車輌後部の浮き上がりを防止することができる。
【0033】
また、作業車輌1に作業機を取付けた状態での前後の重量バランスを安定させることができるので、バランスウエイトの使用を不要とすることができ、または重量を減少させることができ、車輌全体の重量を軽量化することにより走行装置2等にかかる負荷を軽減させることができて、作業車輌1の耐久性の向上を図ることができる。
【0034】
また、下部フレーム4に対して上部フレーム5を支軸を中心に回動可能に構成したので、上部フレーム5を下部フレーム4に対して上下方向に回動することができ、下部フレーム4の内部及び上部フレーム5の下方部を開放することができ、作業車輌1のメンテナンス性を向上させることができる。
【0035】
なお、本実施の形態においては、下部フレームに対して上部フレームを前後方向に移動させる際に駆動装置を用いた場合を説明したが、これに限らず、例えば手動で移動させるようにしてもよい。
【0036】
また、本実施の形態においては、駆動装置として油圧シリンダを用いた場合を説明したが、これに限らず、例えばボールネジ式のアクチュエータを用いてもよく、つまり下部フレームに対して上部フレームを移動駆動できるものであれば、どのような駆動装置を用いてもよい。
【0037】
また、本実施の形態においては、下部フレームに対して上部フレームを前後方向に移動可能とした構成として、レール状の部材とそのガイドの役割をする部材とでスライドさせる場合を説明したが、これに限らず、例えばガイドローラを用いてもよく、つまり上部フレームを左右方向への移動を規制すると共に、前後方向に移動可能であれば、どのような構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】作業車輌を示す側面図。
【図2】上部機体を示す斜視図。
【図3】上部フレームと周辺部を示す図で、(a)は図2のB矢視図、(b)は図2のA−A断面図。
【図4】上部機体のスライド移動を示す側面図。
【図5】上部機体の回動移動を示す斜視図。
【符号の説明】
【0039】
1 作業車輌
4 下部フレーム
5 上部フレーム
7 キャビン
8 走行装置
35 駆動装置
38 支軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン及び走行装置が配設された下部フレームと、
キャビンが積載された上部フレームと、を備え、
前記上部フレームを前記下部フレームに対して前後方向移動自在に支持した、
ことを特徴とする作業車輌。
【請求項2】
前記下部フレームに対して前記上部フレームを回動自在に支持し得る支軸を備え、
前記下部フレームに対して前記上部フレームを前記支軸を中心に回動駆動可能に構成した、
請求項1記載の作業車輌。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−68830(P2008−68830A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−251659(P2006−251659)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】