説明

侵入者検知装置および侵入者検知方法

【課題】セキュリティを目的とするセンサとしてのサニャック干渉型の光ファイバ振動センサの設計自由度を上げるための一つの提案として、高い計算負荷をかけることなく、風による誤判定の発生を防ぎ、侵入検知精度を向上した侵入者検知装置および侵入者検知方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る侵入者検知装置は、光ファイバ振動センサと、侵入者検知部を備え、前記侵入者検知部は、侵入判定ユニットと警報器から構成され、前記侵入判定ユニットが、風速値に対する出力レベルを予め格納したデータ部と、前記光ファイバ振動センサからの検知信号に基づいて風速を判定する風速判定部と、判定された前記風速に基づき前記警報器を作動させる出力レベルを前記データ部に格納したデータを参照して決定する閾値決定部と、から構成され、前記検知信号が前記警報器を作動させる出力レベルよりも大きいときに警報器作動信号を出力することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバに加わる機械的な振動を検知するサニャック干渉型の光ファイバ振動センサを用いた侵入者検知装置および侵入者検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、サニャック効果を原理とした光ファイバジャイロを応用して振動を計測できることが知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、光ファイバジャイロに備えられる光ファイバループの一部を振動計測用のセンサケーブルとして用いたサニャック干渉型の光ファイバ振動センサが記載されている。
【0004】
非特許文献1には、侵入検知等のセキュリティを目的とするサニャック干渉型の光ファイバ振動センサについて、侵入等の人的行為(侵入者)による振動の周波数出力分布と、風による振動の周波数出力分布とが異なる特性を利用して、前記センサからの出力信号を周波数解析することで、侵入等の人的行為を正確に判別し、風による誤判定の発生を防止する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−208080号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】”Optical Fiber Vibration Sensor for Intrusion Detection”,HITACHI CABLE REVIEW No27(August 2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
サニャック干渉型の光ファイバ振動センサは、敷設が容易で、低コストで製造でき、かつ、長手方向のセンサケーブルに加わる振動を高い分解能で検出できるという特徴がある。特に、敷設に際し、センサケーブルに均一な張力を付与する必要がないため、フェンス等に取り付けて、侵入検知等のセキュリティを目的とするセンサに適している。しかし、サニャック干渉型の光ファイバ振動センサをフェンス等に取り付けて、侵入検知等のセキュリティを目的とするセンサとして用いる場合、強風時に風による誤判定が頻発するという問題がある。
【0008】
サニャック干渉型の光ファイバ振動センサを侵入検知等のセキュリティを目的とするセンサとして使用する場合、前記センサからの出力信号により作動する警報器が接続されることが多い。この場合、予め警報器が作動する出力信号レベル、即ち閾値を設定しておき、前記センサからの出力信号が該閾値を超えた場合に警報器が作動することとなる。
【0009】
ここで、前記センサの侵入検知精度を上げるためには、前記閾値はなるべく低いレベルである方が好ましい。前記閾値のレベルが低ければ、微弱な振動であっても警報器が作動する出力信号レベルとなり、なんらかの事態が発生したことを知らせることが可能となるためである。しかしながら、前記閾値のレベルが低すぎる場合、前記センサが設置されている環境で風が吹いた場合、該風による振動によって前記センサからの出力レベルが前記閾値を超えてしまい、警報器が作動する誤判定を引き起こしてしまう。その一方で、誤判定の発生を回避するために前記閾値のレベルを高く設定すると、侵入等の事案で発生した振動が微弱であった場合に、警報器が作動するだけの出力信号レベルが得られず、充分な侵入検知精度が得られないという問題がある。
【0010】
この点について、非特許文献1に記載の方法は、前記センサからの出力信号を周波数解析することで、侵入等の人的行為を正確に判別し、風による誤判定を防止するものである。当該方法は出力信号の周波数解析を行うものであるため、計算負荷が高く、使用できる計算機の性能が充分でない場合、適用が制約される虞がある。
【0011】
また、サニャック干渉型の光ファイバ振動センサが侵入検知等のセキュリティを目的とするセンサに適していたとしても、「侵入者の検知」に至る手法が限られていては、セキュリティ設計における自由度(設計自由度)が制限され、充分な活用がなされない懸念がある。
【0012】
本発明は、上記の事情に鑑みなされたもので、セキュリティを目的とするセンサとしてのサニャック干渉型の光ファイバ振動センサの設計自由度を上げるための一つの提案として、高い計算負荷をかけることなく、風による誤判定の発生を防ぎ、侵入検知精度を向上した侵入者検知装置および侵入者検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明は、
少なくとも、光を出射する光源、第1の光カプラ、位相変調器、光ファイバループ、受光器、信号処理ユニットを備え、前記光源より出射し、前記第1の光カプラを伝搬して分岐した2つの光信号を、前記位相変調器を含む前記光ファイバループに左右回りに入射し、その戻り光信号を前記第1の光カプラを介して前記受光器で受信し、前記信号処理ユニットで前記戻り光信号を光電変換して検知信号を出力するサニャック干渉型の光ファイバであって、前記光ファイバループの一部を振動計測用のセンサケーブルとして用いる光ファイバ振動センサと、
侵入判定ユニットおよび警報器を備えた侵入者検知部とから構成され、
前記侵入判定ユニットが、前記警報器を作動させる警報信号の出力に係る複数の閾値が段階的に予め格納したデータ部と、前記光ファイバ振動センサから出力された検知信号に基づいて風速を判定する風速判定部と、該風速判定部による判定された前記風速に基づき、前記複数の閾値の中から1つ選択し決定する閾値決定部と、から構成され、
前記光ファイバ振動センサから出力された検知信号が、前記閾値決定部によって決定された閾値よりも大きいときに、前記警報器に警報信号を出力すること
を特徴とする侵入者検知装置を提供する。
【0014】
また、本発明は、前記侵入判定ユニットは、前記光ファイバ振動センサで検知されたセンサケーブルでの検知信号について、区間毎に前記検知信号の分散値を計算する区間分散値演算部を備え、前記風速判定部は、前記分散値に基づき、区間毎に風速を判定することを特徴とする侵入者検知装置を提供する。
【0015】
また、本発明は、前記区間分散値演算部は、前の区間について計算した平均的な風速を用いて現に計算している区間の分散値を計算することを特徴とする侵入者検知装置を提供する。
【0016】
上記目的を達成するため、本発明は、
少なくとも、光を出射する光源、第1の光カプラ、位相変調器、光ファイバループ、受光器、信号処理ユニットを備え、前記光源より出射し、前記第1の光カプラを伝搬して分岐した2つの光信号を、前記位相変調器を含む前記光ファイバループに左右回りに入射し、その戻り光信号を前記第1の光カプラを介して前記受光器で受信し、前記信号処理ユニットで前記戻り光信号を光電変換して検知信号を出力するサニャック干渉型の光ファイバであって、前記光ファイバループの一部を振動計測用のセンサケーブルとして用いる光ファイバ振動センサと、
侵入判定ユニットおよび警報器を備えた侵入者検知部とを有する侵入者検知装置による侵入者検知方法において、
前記侵入判定ユニットが備えるデータ部に、前記警報器を作動させる警報信号の出力に係る複数の閾値を段階的に予め格納し、
前記侵入判定ユニットによって、前記光ファイバ振動センサから出力された検知信号に基づいて風速を判定し、該風速に基づき前記複数の閾値の中から1つ選択し決定し、
前記光ファイバ振動センサから出力された検知信号が、前記閾値決定部によって決定された閾値よりも大きいときに、前記警報器に警報信号を出力すること
を特徴とする侵入者検知方法を提供する。
【0017】
また、本発明は、前記光ファイバ振動センサで検知されたセンサケーブルでの検知信号の区間毎の分散値を計算する区間分散値演算部によって、風速が6m/sを超える範囲で分散値を計算することを特徴とする侵入者検知方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高い計算負荷をかけることなく、風による誤判定の発生を防ぎ、侵入検知精度を向上した侵入者検知装置および侵入者検知方法が得られる。
【0019】
これにより、セキュリティを目的とするセンサとしてのサニャック干渉型の光ファイバ振動センサの設計自由度が向上し、活用が促進されることが期待される。また、この設計自由度に関し、設計自由度を向上させること、例えば、「侵入者の検知」に至る手法(アルゴリズム)を増やすことは、アルゴリズムの組み合わせによる侵入検知精度の向上に繋がり、実用的であり非常に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る侵入者検知装置の全体の構成を示す図である。
【図2】本発明に係る侵入者検知装置で用いられる侵入判定ユニットの構成を示すブロック図である。
【図3】本発明に係る侵入者検知装置で用いられる区間毎の分散値の演算のフローチャートである。
【図4】本発明に係る侵入者検知装置で用いられる風速値演算方法を示す図である。
【図5】本発明に係る侵入者検知装置での閾値決定方法を示す図である。
【図6】本発明の効果を示す図である。
【図7】本発明に係る侵入者検知装置の応用例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
【0022】
図1は、本発明に係る侵入者検知装置の全体の構成を示す。図1において、本発明に係る侵入者検知装置1は、光ファイバ振動センサ2と侵入者検知部3とから構成される。
【0023】
光ファイバ振動センサ2は、例えば特許文献1に記載されているような従来技術のものでよい。本実施の形態における光ファイバ振動センサ2は、光源22、受光器23、第1の光カプラ24、偏光子26、第2の光カプラ25及びこれらを光学的に接続する接続用光ファイバ29、並びに光ファイバループ21、並びに信号処理ユニット28から構成される。
【0024】
光源22及び受光器23には、それぞれ、接続用光ファイバ29である光ファイバ29a、29bが接続され、両光ファイバ29a、29bは共に光分岐結合素子である第1の光カプラ24に接続されている。第1の光カプラ24及び第2の光カプラ25は、1×2入出力ポートを有する光ファイバカプラである。第1の光カプラ24の一端側の2つの入出力ポートに、光ファイバ29a、29bがそれぞれ接続される。第1の光カプラ24の他端側の1入出力ポートには、接続用光ファイバ29である光ファイバ29cが接続され、光ファイバ29cは、その一部が偏光子26を形成して第2の光カプラ25の1入出力ポートに接続されている。第2の光カプラ25の他端側の2入出力ポートには長尺の光ファイバの両端がそれぞれ接続され、この光ファイバはループ(閉回路)状の光ファイバループ21となっており、該光ファイバループ21の一部が振動計測用のセンサケーブルであるセンサケーブル21aとなる。
【0025】
光ファイバループ21の一端側に設けた位相変調器27は、光ファイバループ21を互いに反対方向に伝搬する光波間に相対的に時間遅れのある位相変調をかけるものである。本実施の形態では、位相変調器22は、振動子とする円筒状のPZT(ピエゾセラミック)に光ファイバループ21の一部を巻き付けて形成し、PZTへ印加する電圧によりPZTに巻き付けた光ファイバを伸縮させて伝搬光の位相を変調するものとした。
【0026】
信号処理ユニット28は、光源22の駆動、位相変調器27の変調レベル制御、受光器23で検出された光信号の光電変換、光電変換された電気信号の処理をし、光電変換された電気信号を出力電圧信号11として、処理結果である振動レベルを振動レベル信号12として出力するものである。信号処理ユニット28は、光源22、受光器23及び位相変調器27と電気的に接続されている。
【0027】
偏光子26は、第1及び第2の両光カプラ24、25に接続される光ファイバ29cの一部をコイル状に形成すると共に、コアの複屈折を大きくしたファイバ型の偏光子である。
【0028】
本実施の形態において、光源22、受光器23、偏光子26及び光カプラ24、25に接続される接続用光ファイバ29及び光ファイバループ21は、偏波面保存光ファイバで構成される。
【0029】
本実施の形態に係る光ファイバ振動センサ2は、サニャック効果を原理とした光ファイバジャイロを応用したものである。光ファイバジャイロとは、ループ状に閉じた光ファイバが回転を受けたとき、該ループ状の光ファイバを右回りに伝搬する光と左回りに伝搬する光との間に回転角速度に比例した位相差が生じるサニャック効果を利用して、該ループ状の光ファイバの回転角速度を測定するものである。本実施の形態に係る光ファイバ振動センサ2は、光ファイバループ21の振動によって、左右回り光間に位相差が発生し、光ファイバジャイロにおける回転角速度に相当する振動データを出力するものである。
【0030】
本実施の形態における光ファイバ振動センサ2は以下のように作用する。
【0031】
光源22より出射された光L1は、第1の光カプラ24を伝搬し、偏光子26で直線偏光にされ、第2の光カプラ25に入射する。第2の光カプラ25では、光L1が2つに分岐されて、光ファイバループ21の互いに異なる端に入射する。ここで、光ファイバループ12に入射した2つの光(光信号)のうち、一方を右回り光L、他方を左回り光Lとする。
【0032】
左右両回り光L、Lはそれぞれ位相変調器27で光の位相を変調され、光ファイバループ21を1周して第2の光カプラ25へ戻り光信号として再び入射する。
【0033】
第2の光カプラ25へ再び入射した各々左右両回り光L、L(戻り光信号)は、第2の光カプラ25で干渉して干渉光L2となる。干渉光L2は、偏光子26を伝搬して第1の光カプラ24へ入射し、再び2つの光に分岐され、分岐された光の一方は受光器23で検出される。
【0034】
第2の光カプラ25で干渉する2つの光L、Lが同位相であれば、第2の光カプラ25に入射する光L1と、第2の光カプラを出射する干渉光L2は、第1の光カプラ24、第2の光カプラ25での放射損失等を除き、光強度は等しく検出される。
【0035】
一方、光が光ファイバループ21を伝搬中に、センサケーブル21aの任意の箇所に振動が生じると、振動が生じた箇所では光ファイバの伸縮により伝搬光の位相が変化する。
【0036】
第2の光カプラ25に入射する2光の位相が異なる(位相差が生じる)と、受光器23で受光される光の強度は、同位相で結合した光の強度とは異なって検出される。すなわち、受光器23では、センサケーブル21aに振動が無いときは常に略一定の光強度(零点)を検出しており、その一定の光強度と異なる光強度を検出したとき、センサケーブル21aで振動を検知したことになる。
【0037】
受光器23で検出された光強度は、信号処理ユニット28で光電変換され、電圧に変換される。また、前記電圧で表わされる振動レベルは、信号処理ユニット28において規格化され、センサケーブル21aの振動レベルがデシベルで表わされる。すなわち、本実施の形態における光ファイバ振動センサ2では、センサケーブル21aが検知した振動レベルが、信号処理ユニット28において電圧及びデシベルの2通りのデータに変換され、出力される。
【0038】
光ファイバ振動センサ2から出力された、電圧及びデシベルの2通りのデータは、電圧が第1検知信号である出力電圧信号11として、デシベルが第2検知信号である振動レベル信号12として、それぞれ侵入検知部3に伝達される。
【0039】
侵入検知部3は、侵入判定ユニット31と警報器32とから構成される。侵入検知部3に伝達された出力電圧信号11及び振動レベル信号12は、侵入判定ユニット31に入力される。
【0040】
侵入判定ユニット31は、前記入力された出力電圧信号11に基づき、振動計測用のセンサケーブルであるセンサケーブル21aを含む光ファイバループ21が設置されている環境の風速の判定を行う。前記判定された風速から、警報信号13を出力する振動レベルである閾値の決定を行い、侵入判定ユニット31に入力された前記振動レベル信号12が、前記閾値を超えるものであった場合、警報信号13を出力し、警報器32を作動させ、侵入事案の発生を知らせる。
【0041】
侵入判定ユニット31の構成を示すブロック図を図2に示す。侵入判定ユニット31は、区間分散値演算部311、風速判定部312、閾値決定部313、振動レベル判定部314及びデータ部315から構成される。データ部315には、警報信号13を出力する振動レベルである閾値、及び閾値が適用される風速が、各々の複数のレベルで予め定められている。
【0042】
侵入判定ユニット31でのデータ処理の流れを、図2に示すブロック図に従って説明する。
【0043】
侵入判定ユニット31に入力された出力電圧信号11は、まず区間分散値演算部311に入力される。区間分散値演算部311では、入力された出力電圧信号11の分散値が計算される。
【0044】
区間分散値演算部311で計算された分散値は風速判定部312に入力され、風速判定部312では、この分散値に基づき振動計測用のセンサケーブルであるセンサケーブル21aを含む光ファイバループ21が設置されている環境の風速の判定を行う。
【0045】
閾値決定部313では、風速判定部312で判定された風速に基づき、データ部315に格納されたデータを参照して警報信号13を出力する振動レベルである閾値を決定する。
【0046】
振動レベル判定部314では、閾値決定部313で決定された前記閾値と、侵入判定ユニット31に入力された振動レベル信号12との比較を行う。前記振動レベル信号12の振動レベルが、前記閾値よりも大きい場合、振動レベル判定部314は警報信号13を出力する。前記振動レベル信号12の振動レベルが、前記閾値よりも小さい場合、侵入判定ユニット31でのデータ処理が終了する。
【0047】
図1において、振動レベル判定部314から出力された警報信号13は、警報器32に入力され、該入力に基づき警報器32が作動して、侵入事案の発生を知らせる。
【0048】
図2で示した各々のデータ処理の詳細を以下に説明する。
【0049】
区間分散値演算部311では、侵入判定ユニット31に入力された出力電圧信号11の分散値が計算される。
【0050】
分散とは、平均値からの2乗距離の平均をいい、平均値から誤差がどのくらい散らばっているかを示す指標である。分散をssとすると、ssは図3(b)に示す式で求められる。図3(b)に示す式において、xiは区間i=1〜nのうちのi番目の入力信号、すなわち区間1〜nのうちのi番目の出力電圧信号11を表し、xAVEは、現に計算を行っている区間の一つ前の区間の入力信号の平均値を表す。ここで、区間i=1〜nとは、連続的に入力される出力電圧信号11の、区間開始点のi=1に対応する一番目の出力電圧信号11から、i=nに対応するn番目の出力電圧信号11までの時間区間を表す。
【0051】
すなわち、分散値とは、連続的に入力される出力電圧信号11の、ある時間区間における平均値からの誤差のばらつきを示す指標である。
【0052】
区間分散値演算部311での分散値の演算フローチャートを図3(a)に示す。ステップS101から開始する分散値の演算フローチャートは、ステップS102において、現区間の平均値x’AVE、分散値ss、区間認識指標iが初期化される。ステップS102で初期化がなされた後、ステップS103〜S104で区間1〜nのうちのi番目の出力電圧信号11であるxiが入力される。
【0053】
入力されたxiと、現に計算がおこなわれている区間の一つ前の区間における平均値であるxABEとから、ステップS105において、現区間平均値x’AVEと、区間1〜iにおける分散値ssが計算される。
【0054】
前記ステップS103〜ステップS105のステップは、区間iがnに達するまで繰り返される。
【0055】
区間iがnに達したら、ステップS107において、現に計算を行っている区間の次の区間で用いる平均値xABEを計算する。また、ステップS108において、分散値ssの確定を行う。確定された分散値ssは、ステップS109で出力される。
【0056】
ステップS109で分散値ssの出力がなされたら、現に計算を行っている区間での分散値演算は終了し、ステップS110でリターンされる。ステップS110でリターンされた後、ステップS101から開始される次区間での分散値演算では、ステップS107で計算された現区間xABEを用いて、次区間におけるステップS105において次区間分散値が計算される。
【0057】
区間分散値演算部311で計算され、ステップS109で出力された分散値は、風速判定部312に入力される。風速判定部312では、前記分散値に基づき、図4に示す、分散値が風速に比例する特徴を用いて、振動計測用のセンサケーブルであるセンサケーブル21aを含む光ファイバループ21が設置されている環境の風速を判定する。
【0058】
図4(a)は、最大風速の時間当たりの変化と、本実施の形態における光ファイバ振動センサ2を用いて該最大風速を計測したときの出力電圧信号11の分散値の時間当たりの変化を表している。図4(a)で表わされる二つの変化から、時間要素を排除して、最大風速と出力電圧信号11の分散値との関係を求めたものが図4(b)である。
【0059】
図4(b)に示すように、最大風速と出力電圧信号11の分散値との間には、特に最大風速が6m/sを超える範囲で比例する特徴が顕著に現れる。
【0060】
従って、風速判定部312において、最大風速と出力電圧信号11の分散値との間の比例関係を予め把握しておき、ステップS109で出力された分散値を該比例関係と対比することにより、振動計測用のセンサケーブルであるセンサケーブル21aを含む光ファイバループ21が設置されている環境の風速が判定される。
【0061】
風速判定部312で判定された風速は、閾値決定部313に入力される。閾値決定部313にはデータ部315が接続されており、データ部315には、図5に示すように、警報器32を作動させる警報信号13を出力する振動レベルである閾値が複数のレベルで、すなわち閾値1、閾値2、…閾値i、及び各々の閾値が適用される風速が、風速レベル1、風速レベル2、…風速レベルiとして段階的に予め定め格納されている。
【0062】
閾値が決定される手順は以下の通りである。すなわち、閾値決定部313に入力された風速は、データ部315に予め定められた風速レベルと比較される。前記風速が風速レベル1よりも小さければ閾値1が選択され、前記風速が風速レベル1を超えたら閾値2が選択される。さらに、前記風速が風速レベル2を超えたら、閾値3が選択される。このように、閾値決定部313に入力される風速に応じて、データ部315に予め定められた複数の閾値の中から最適な閾値が選択され、閾値決定部313において決定される。
【0063】
本発明の効果として、風速に応じて閾値を決定する効果を図6に示す。図6(a)は、本実施の形態にかかる光ファイバ振動センサ2が侵入者を検知した場合の振動レベルに係る出力を表す図である。図6(a)に示すように、侵入事案が発生した場合、10秒程度の短時間の間に大きな出力が得られるのが特徴である。
【0064】
図6(b)は、本実施の形態に係る光ファイバ振動センサ2が風を検知している場合の振動レベルに係る出力を表す図である。検知される振動が風によるものである場合、その振動レベルに係る出力は、図6(b)に示すように、侵入事案の場合と比較して小さい出力が長時間にわたって得られるのが特徴である。
【0065】
ここで、図6(c)に示すように、風が弱風であり、出力される振動レベルが小さい場合には、該振動レベルが閾値1を超えることはなく、風により警報器32が作動する誤報が発生することはない。しかし、風が強風となり、出力される振動レベルが大きくなると、該振動レベルが閾値1を超え、侵入事案が発生していないにもかかわらず警報器32が作動する誤報が発生してしまうことになる。この点において、本実施の形態では、風速が大きくなり、風による振動レベル出力が閾値1を超えてしまう状況になった場合、風速に応じて閾値1を閾値2に変更することが可能である。従って、強風時において、風による振動レベルが大きくなった場合に、閾値を高くして誤報の発生を防ぐことが可能となる。また弱風時に、風による振動レベルが小さくなった場合には、風速に応じて閾値を低くし、侵入者検知精度を高く保つことが可能となる。
【0066】
本発明の実施の形態の応用例を図7に示す。図7に示す侵入者検知装置1は、基本的な構成部分が図1に示す侵入者検知装置1とほぼ同様であり、同一構成部分には図1と同一の符号が付してあるが、本実施の形態においては光ファイバ振動センサ2の構成が異なる。
【0067】
図7に示す光ファイバ振動センサ2では、第2の光カプラ25及び偏光子26を省略し、一つの光カプラ24で光源22、受光器23及び光ファイバループ21を接続した点において異なる。
【0068】
当該構成により、本実施の形態に係る光ファイバ振動センサ2では、図1に示す光ファイバ振動センサ2と同様の作用効果を有するのみならず、図1に示す光ファイバ振動センサ2と比較して構成する部品点数が少ないので、より容易に構成できるメリットがある。
【0069】
以上、本実施の形態を構成することにより、高い計算負荷をかけることなく、風による誤判定の発生を防ぎ、侵入検知精度を向上した侵入者検知装置および侵入者検知方法が得られる。
【0070】
また、本実施の形態は、非特許文献1とは違う方法であるため、セキュリティを目的とするサニャック干渉型の光ファイバ振動センサにおける設計自由度を向上させ、活用が促進されることが期待される。また、この設計自由度に関し、設計自由度を向上させること、例えば、「侵入者の検知」に至る手法(アルゴリズム)を増やすことは、アルゴリズムの組み合わせによる侵入検知精度の向上に繋がり、実用的であり非常に有効である。特に、非特許文献1との併用は効果的である。
【符号の説明】
【0071】
1…侵入者検知装置、2…光ファイバ振動センサ、3…侵入者検知部、11…出力電圧信号、12…振動レベル信号、13…警報信号、21…光ファイバループ、21a…センサケーブル、22…光源、23…受光器、24,25…光カプラ、26…偏光子、27…位相変調器、28…信号処理ユニット、29…光ファイバ、31…侵入判定ユニット、32…警報器、311…区間分散値演算部、312…風速判定部、313…閾値決定部、314…振動レベル判定部、315…データ部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、光を出射する光源、第1の光カプラ、位相変調器、光ファイバループ、受光器、信号処理ユニットを備え、前記光源より出射し、前記第1の光カプラを伝搬して分岐した2つの光信号を、前記位相変調器を含む前記光ファイバループに左右回りに入射し、その戻り光信号を前記第1の光カプラを介して前記受光器で受信し、前記信号処理ユニットで前記戻り光信号を光電変換して検知信号を出力するサニャック干渉型の光ファイバであって、前記光ファイバループの一部を振動計測用のセンサケーブルとして用いる光ファイバ振動センサと、
侵入判定ユニットおよび警報器を備えた侵入者検知部とから構成され、
前記侵入判定ユニットが、前記警報器を作動させる警報信号の出力に係る複数の閾値が段階的に予め格納したデータ部と、前記光ファイバ振動センサから出力された検知信号に基づいて風速を判定する風速判定部と、該風速判定部による判定された前記風速に基づき、前記複数の閾値の中から1つ選択し決定する閾値決定部と、から構成され、
前記光ファイバ振動センサから出力された検知信号が、前記閾値決定部によって決定された閾値よりも大きいときに、前記警報器に警報信号を出力すること
を特徴とする侵入者検知装置。
【請求項2】
前記侵入判定ユニットは、前記光ファイバ振動センサで検知されたセンサケーブルでの検知信号について、区間毎に前記検知信号の分散値を計算する区間分散値演算部を備え、前記風速判定部は、前記分散値に基づき、区間毎に風速を判定することを特徴とする請求項1に記載した侵入者検知装置。
【請求項3】
前記区間分散値演算部は、前の区間について計算した平均的な風速を用いて現に計算している区間の分散値を計算することを特徴とする請求項1に記載した侵入者検知装置。
【請求項4】
少なくとも、光を出射する光源、第1の光カプラ、位相変調器、光ファイバループ、受光器、信号処理ユニットを備え、前記光源より出射し、前記第1の光カプラを伝搬して分岐した2つの光信号を、前記位相変調器を含む前記光ファイバループに左右回りに入射し、その戻り光信号を前記第1の光カプラを介して前記受光器で受信し、前記信号処理ユニットで前記戻り光信号を光電変換して検知信号を出力するサニャック干渉型の光ファイバであって、前記光ファイバループの一部を振動計測用のセンサケーブルとして用いる光ファイバ振動センサと、
侵入判定ユニットおよび警報器を備えた侵入者検知部とを有する侵入者検知装置による侵入者検知方法において、
前記侵入判定ユニットが備えるデータ部に、前記警報器を作動させる警報信号の出力に係る複数の閾値を段階的に予め格納し、
前記侵入判定ユニットによって、前記光ファイバ振動センサから出力された検知信号に基づいて風速を判定し、該風速に基づき前記複数の閾値の中から1つ選択し決定し、
前記光ファイバ振動センサから出力された検知信号が、前記閾値決定部によって決定された閾値よりも大きいときに、前記警報器に警報信号を出力すること
を特徴とする侵入者検知方法。
【請求項5】
前記光ファイバ振動センサで検知されたセンサケーブルでの検知信号の区間毎の分散値を計算する区間分散値演算部によって、風速が6m/sを超える範囲で分散値を計算することを特徴とする請求項4に記載した侵入者検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−237083(P2010−237083A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86392(P2009−86392)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】