説明

保護ポリマーの脱保護方法

【課題】アシル基によって保護されたフェノール性水酸基を有する単位構造を有する単位構造を含むポリマーの脱保護反応において、より短時間に、他の部分構造を保存したまま脱アシル化を行うことができ、かつポリマーとして取出した際、反応に係わるポリマー以外の物質による汚染を高度に抑制可能な保護ポリマーの脱保護方法を提供する。
【解決手段】アシル基により保護されたフェノール性水酸基を有する単位構造を少なくとも含む保護ポリマーと、ClogPの値が1.00以下である第1級または第2級アミン化合物から選ばれる脱保護試薬(但し、第2級アミン化合物はアミノ基の窒素原子に結合する二つの炭素原子がいずれも第3級ではない)とを、有機溶剤に溶解して脱保護するステップを少なくとも含む、保護ポリマーの脱保護方法が提供できる。上記第1級または第2級アミン化合物は、好ましくは HNR2−n (1) で示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、官能基の保護を行って重合して得たポリマーまたは側鎖の修飾を行って得たポリマーより、保護基を除去する脱保護方法に関し、特に化学増幅型のフォトレジスト材料に用いられるポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、集積回路の高集積化に伴いより微細なパターン形成が求められ、0.2μ以下のパターンの加工ではもっぱら酸を触媒とした化学増幅型レジストが使用されている。また、この際の露光源としてKrFエキシマレーザー光、ArFエキシマレーザー光、EUV、電子線などの高エネルギー線が用いられるが、特に超微細加工技術として利用されている電子線リソグラフィーは、半導体製造用のフォトマスクを作成する際のフォトマスクブランクの加工方法としても不可欠となっている。
【0003】
一般的に、KrFエキシマレーザー光又は電子線をパターン露光用の高エネルギー線に使用するように設計されたレジスト組成物中に含まれる樹脂は、基板密着性を与える官能基としてフェノール性水酸基を有する単位構造を含み、またEUV用レジストもその方向で開発が進められている。このフェノール性水酸基を有する単位構造の代表としては4−ヒドロキシスチレンが良く知られているが、ヒドロキシスチレンモノマーは安定性が高くないため、重合を行う際には、安定かつ重合性の良いアセトキシスチレンモノマーを重合もしくは共重合し、得られたポリアセトキシスチレン誘導体をトリエチルアミン/メタノールによるメタノリシス法やアンモニア水、水酸化ナトリウム、ナトリウムメトキシド、ヒドロキシルアミン塩酸塩等の塩基を用いて脱アセチル化を行い、ヒドロキシスチレン単位を有するポリマー得るという方法が多用されている。
【0004】
特許文献1は、典型的な材料であるアセトキシスチレン単位構造を含むポリマーを水系反応液による懸濁状態で脱保護反応を行う方法を開示したものであるが、使用できる塩基として多数のものが開示されている。上記有機溶剤を用いて反応基質であるアシル基保護されたポリマーと脱保護試薬を共に溶解して脱保護反応を行う均一系脱保護反応においても、それら開示された塩基は基本的には使用可能であると思われる。
【0005】
上記レジスト用のベースポリマーとして使用されるヒドロキシスチレン単位構造を有するポリマーとしては、ヒドロキシスチレンのホモポリマーもあるが、レジストとして用いる際の物性や機能の制御因子として、機能構造をエステル結合の形で導入することがある。このようなポリマーを合成するためには、例えば上記機能構造を有する脂肪族アルコール由来の(メタ)アクリル酸エステル(例えば特許文献2)や、ビニル芳香族カルボン酸エステル(例えば特許文献3)をアセトキシスチレンまたはアセチル基保護されたフェノール性水酸基を有するビニル芳香族化合物と共重合し、得られたポリマーの脱保護を行って目的とするポリマーを得る方法が一般的に使用される。なお、(メタ)アクリル酸は、メタクリル酸及び/又はアクリル酸を表す。
【0006】
上記のような脂肪族アルコール由来のエステルが含まれるポリマーの脱保護では、脂肪族アルコール由来のエステルを保存したまま、フェノールエステルを選択的に解裂させる必要があるため、弱塩基による加水分解が行われてきた。また、弱塩基うち、アンモニア水を用いる反応は、アンモニアが揮発しやすいため温度を高くすることができず、安定な工業的製法としては採用しにくいため、通常、有機塩基であるトリエチルアミンを塩基として用い、メタノール中で行うメタノリシス脱保護反応が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−188502号公報
【特許文献2】特開2002−62652号公報
【特許文献3】特開2007−254495号公報
【特許文献4】特開2003−84440号公報
【特許文献5】特開2002−244297号公報
【特許文献6】特開平1−139546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記トリエチルアミンを用いるメタノリシスは、反応性が低いことから上述のように高い選択性を持った反応を実現することができ、フェノール性水酸基由来のエステルと脂肪族アルコール由来のエステルが共存する際に、フェノール性水酸基由来のエステルを選択的に分解することができる。しかし同時に、反応時間も非常に長くかかり、生産性の向上には不向きな方法であった。
本発明は上述のようなアシル基によって保護されたフェノール性水酸基を有する単位構造を含むポリマーの脱保護反応において、より短時間に、他の部分構造を保存したまま脱アシル化を行うことができ、かつポリマーとして取出した際、反応に係わるポリマー以外の物質による汚染を高度に抑制可能な保護ポリマーの脱保護方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述の課題に鑑み種々検討を行ったところ、アシル基によって保護されたフェノール性水酸基を有する単位構造を有する単位構造を含むポリマーの脱保護反応に、第1級あるいは第2級アミン化合物を塩基として用いた場合には、一般有機化学の情報通り、トリエチルアミンを用いた場合に比較して反応が非常に速くなることを見出したが、同時に副生するアミド体が最終的に精製ポリマーとして取出した際に不純物として混入する危険が高くなることが判明した。しかし、水溶性が高い第1級もしくは第2級アミンを用いてアシル基によって保護されたフェノール性水酸基を有する単位構造を有する単位構造を含むポリマーの脱保護反応を行うと、副生物であるアミド体による汚染を抑制できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
本発明によれば、アシル基により保護されたフェノール性水酸基を有する単位構造を少なくとも含む保護ポリマーと、ClogPの値が1.00以下である第1級または第2級アミン化合物から選ばれる脱保護試薬(但し、第2級アミン化合物はアミノ基の窒素原子に結合する二つの炭素原子がいずれも第3級ではない)とを、有機溶剤に溶解して脱保護するステップを少なくとも含む、保護ポリマーの脱保護方法が提供できる。この脱保護方法によれば、用いるアミン化合物が第1級あるいは第2級であることから脱保護反応はトリエチルアミンに比べて反応時間を大きく短縮することができる。また、ClogPが1.00以下であることにより、脱保護反応によって水溶性が高いアミド体が副生することになり、ポリマーを取り出すための精製工程で容易にアミド体を除くことができる。
上記第1級または第2級アミン化合物は、好ましくは下記一般式(1)で示される。
HNR2−n (1)
上式中、Rは水素原子または炭素数1〜6の直鎖、分岐または環状のアルキル基であり、Rは独立して1以上の酸素原子もしくは窒素原子を含む炭素数2〜7の直鎖、分岐または環状のアルキル基であり、2つのRが互いに結合して酸素原子および/または窒素原子を1以上含有する環状構造を取ってもよく、nは1または2である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアシル基により保護されたフェノール性水酸基を有する単位構造を含むポリマーの脱保護方法を用いることにより、短時間で脱保護を行うことができ、脱保護反応液より容易に高純度な脱保護ポリマーを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
高エネルギー線をパターン照射し、照射部のポリマーの現像液に対する溶解性を変化させ、現像を行って所望のパターンを得るフォトリソグラフィー法に用いるレジスト膜用ポリマーには種々の機能が求められる。上記のような現像液に対する溶解性変化を与える機能は最も重要な機能であるが、ポリマーの被加工基板に対する密着性も重要な機能の一つである。
【0013】
露光に用いる高エネルギー線の種類によってポリマーの設計は全く異なることがあるが、KrFエキシマレーザー光による露光や、電子線、EVU露光用のポリマーとしては、芳香族骨格を有するポリマーが有用であり、芳香族骨格を有するポリマーを使用する場合には、一般に上記の密着性機能を与える官能基としてフェノール性水酸基が用いられ、ベースポリマー中にフェノール性水酸基を有する繰り返し単位を一定量加える設計がなされる。これは、フェノール性水酸基を有する芳香環を含む部分構造が、良好なエッチング耐性と好ましい分極特性を有するためであり、この構造の特性は、化学増幅型に限らず、極めて初期の水性現像可能なポジ型レジストの時代より使用されてきた。
【0014】
上記フェノール性水酸基を有する繰り返し単位として多用されるものの一つに4−ヒドロキシスチレンがあるが、モノマーとしてのヒドロキシスチレン類は安定性が低く、一般に重合を行う場合には、フェノール性水酸基を保護基により保護して重合を行った後、脱保護を行うことによりフェノール性水酸基を有するポリマーを得る方法が採られる。また、インデンやアセナフチレンのような重合可能な化合物では、フェノール性水酸基を有する誘導体(特許文献4〜5等)の安定性は比較的高いが、このような材料を用いる場合にも、重合後に脱金属処理を行おうとした場合には、フリーのフェノール性水酸基がある場合には処理効率が下がるため、保護ポリマーを一旦得て、脱金属処理を行った後に脱保護してやることによってベースポリマーを得る方法が採られることもある。
【0015】
フェノール性水酸基を有する化合物の具体例としては、4−ヒドロキシスチレン、4−ヒドロキシ−3−メチルスチレンおよび3−ヒドロキシスチレン等のヒドロキシスチレン類の他、ヒドロキシビニルナフタレン類、ヒドロキシビニルアントラセン類、ヒドロキシインデン類、ヒドロキシアセナフチレン類等が挙げられる。
【0016】
このフェノール性水酸基の保護方法は、有機化学の一般法として多くの方法が知られているが、塩基性条件で脱保護ができるアシル基による保護は、上記レジストポリマーの現像液に対する溶解性変化を起こす機能を司る酸不安定基(酸分解性保護基)を有する繰り返し単位を同時に持つポリマーを合成する際に有用な方法であり、これまでも多く用いられてきた。
【0017】
上記アシル基による保護は、重合用のモノマー(有機合成の基礎的手法であるため、詳述しない)またはモノマーの合成中間体(例えば特許文献6)に対して行われ、更にアシル基保護されたモノマーを含むモノマー単体あるいは混合物を重合することによって、アシル基保護されたポリマーが得られる。また、金属を除去し易くすること等を目的として、ポリマー形成後にアシル基により保護してもよい。
ここでアシル基は、一般にR−CO−で表されるが、モノマーは一般的には重合を行う前に蒸留によって精製されるため、保護に使用される保護基は容易に蒸留可能とするために、通常炭素数が7以下のものが選択され、工業的にはもっぱらアセチル基による保護が行われる。以下の説明においても、多くを、最も広く用いられているアセチル基で保護し
た場合に基づいて説明を行うが、他のアシル基においても本発明の脱保護方法が有効であることは自明である。
【0018】
アシル基保護されたモノマーを含有するモノマーの単体あるいは混合物の重合は、通常ラジカル重合によって重合が行われ、場合によってはカチオン重合を適用することもできる。レジスト組成物のベース樹脂用のポリマーをラジカル重合で合成する方法はすでに多数が公知であり(例えば上述の特許文献1〜6)、本発明の脱保護方法を適用するポリマーも、公知の方法に従って得ることができる。この際、アセトキシスチレンやインデン、アセナフチレンのような芳香族に共役する二重結合が重合活性点であるものの他に、(メタ)アクリル酸エステルを共重合させることも良く行われる(例えば特許文献2〜5)。
【0019】
ところで、レジスト材料として用いる上述のようなフェノール性水酸基をアシル基により保護された繰り返し単位を含むポリマーの脱保護反応は、ナトリウムのような金属による汚染を生じないこと、安定した再現性の高い反応結果が得られること、他の部分構造に変質を起こさせないこと等の要請より、弱塩基が選択され、多くの場合トリエチルアミンのような3級アミンが用いられてきた。このトリエチルアミンを水やアルコールと共に用いたソルボリシス反応は、マイルドなため、他の部分構造に変質を生じさせず、種々のポリマーに適用されてきたが、反応は非常に遅く、経済的には不利な方法である。
【0020】
そこで、本発明者らは、反応速度の速い脱保護反応として、第1級アミンによる脱保護を試みた。一般有機化学で良く知られているように、第1級アミンを用いた脱保護反応は、ソルボリシス反応よりアミン化合物によるアシル基への求核反応が優先することによって速い反応速度が得られるが、ポリマー中に脂肪族アルコール由来のエステル構造が共存する場合には、フェノール由来のエステル構造との間に選択性が得られない可能性がある。しかし、実際に試みてみると、反応条件の選択により上記2種の異なる水酸基に由来するエステル構造間の選択性は確保できることが判明した。ところが、更にポリマーを単離してみたところ、例えばn−ブチルアミンを用いてポリ(アセトキシスチレン−t−ブトキシスチレン)の脱保護を行ったところ、精製後に得られた脱保護ポリマーに脱保護反応の副生物であるn−ブチルアセトアミドが微量混入することが判明した。このアミン化合物の求核反応によって副生するアミド化合物はほぼ中性であるため、トリエチルアミンが弱酸水溶液を用いて精製除去できるのに対して処理が困難な不純物である。一方、アミド化合物は強酸を捕捉する程度の塩基性はあるため、残存した場合、レジストの感度やパターン形状に影響を与える危険性が高い。また、アミド化合物の残存が現像欠陥の原因にもなる可能性もある。
【0021】
しかし、本発明者らは、用いる第1級もしくは第2級アミン化合物として、水溶性の高いアミン化合物を選択してやることにより、通常の再沈殿あるいは2相分離による精製方法を用いることで、アミド化合物を水溶液側に除去できることを見出した。
【0022】
本発明は、上述のようなフェノール性水酸基をアシル基により保護された繰り返し単位を含むポリマーの、下記のアミン化合物を用いる脱保護方法である。用いるアミン化合物は、上述のようにアシル基に対する高い反応性を有する第1級あるいは第2級アミン化合物であり、アシル基との反応により副生するアミド体の水溶性を確保するため、化学構造由来の水溶性を示す因子であるClogPが1.00以下の化合物である。
ここで、「logP」と「ClogP」について説明する。
「logP」は、化合物の1−オクタノール/水の分配係数の対数値であり、1−オクタノールと水の2液相の溶媒系に化合物が溶質として溶け込んだときの分配平衡において、それぞれの溶媒中での溶質の平衡濃度の比を意味し、底10に対する対数「logP」の形で一般的に示される。すなわち、logPは親油性(疎水性)の指標であり、この値が大きいほど疎水的であり、値が小さいほど親水的である。
「ClogP」は、プログラム“CLOGP” (Daylight CIS)において、Hansch,Leoのフラグメントアプローチにより算出される「計算logP(ClogP)」の値であり、フラグメントアプローチは化合物の化学構造に基づいており、原子の数及び化学結合のタイプを考慮している(A.Leo,Comprehensive Medicinal Chemistry,Vol.4,C.Hansch,P.G.Sammens,J.B.Taylor and C.A.Ramsden,Eds.,p.295, Pergamon Press,1990)。ClogPは、現在最も一般的で信頼できるlogP値の推定値である。本発明においては、logPの測定値、又はプログラム“CLOGP”により計算したClogPのいずれを用いてもよいが、好ましくはClogP値を基準とする。
【0023】
いくつかの酸素官能基を有するアミン化合物および参考としてn−ブタノールのClogPの値を以下に示す。
【0024】
【化1】

【0025】
8−ヒドロキシオクチルアミンは、ClogPとして1.05の値を持ち、水溶性が弱く、本発明の目的には不向きである。
第2級アミン化合物の場合は、アミノ基の窒素原子に結合する二つの炭素原子がいずれも第3級であるものを除く。例えば、2,2,6,6−テトラメチルー4−ヒドロキシピペリジンは、ClogPとして0.92の値を持ち、好ましい水溶性を示すが、塩基性中心である窒素原子に結合する2つの炭素原子が第3級であることから求核性が低く、本発
明の目的には好ましくない。
ClogPの値が0以下であるものは、特に水溶性が高くなるため、精製後のポリマーより副生物であるアミド体を特に容易に除去することができる。
また、ClogPを1以下とするためには、上記一般式(1)におけるRとRに含まれる炭素原子の合計量[C]と、Rに含まれる酸素原子および窒素原子の合計量[ON]との間で [C]<{([ON]+1)×4} の関係を満たすように設計することが一つの一般的目安となり、より水溶性を高めて本発明の効果を強く得るためには[C]≦{([O
N]+1)×3}になるよう設計することが好ましい。
【0026】
脱保護試薬とし用いる第1級または第2級アミン化合物は、好ましくは下記一般式(1)で示される。
HNR2−n (1)
上式中、Rは、水素原子、または炭素数1〜6の直鎖、分岐もしくは環状のアルキル基であり、Rは、独立して1以上の酸素原子もしくは窒素原子を含む炭素数2〜7の直鎖、分岐または環状のアルキル基であり、2つのRが互いに結合して酸素原子および/または窒素原子を1以上含有する環状構造を取ってもよく、nは1または2である。なお、Rはアルキル基であると記載するように、Rに関して、一般式(1)中のNで表わされた窒素原子と直接結合を持つ原子は炭素である。
【0027】
一般式(1)で定義されているように、塩基性中心である窒素原子は、酸素原子もしくは窒素原子を含有するアルキル基(ただし、該塩基性中心である窒素原子と直接結合する原子は炭素原子である)を1以上含有し、該酸素原子もしくは窒素原子を含有するアルキル基は炭素数2〜7の直鎖、分岐または環状のアルキル基より選ばれ、また、上記酸素原子もしくは窒素原子を含有するアルキル基の2つが互いに結合して、上記塩基性中心である窒素を含む環状構造を形成するものであってもよく、さらに該塩基性中心である窒素とは別に、酸素原子もしくは窒素原子を1以上含有する環状構造を形成するものであってもよい。
【0028】
上記一般式(1)で示される塩基は、Rとして炭素数1〜6の直鎖、分岐または環状のアルキル基を有していても良い。
炭素数1〜6の直鎖、分岐または環状のアルキル基としては、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロビル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基およびその構造異性体である分岐アルキル基、シクロへキシル基等が挙げられる。
【0029】
上記Rは、上述のように、酸素原子もしくは窒素原子を含有する炭素数2〜7の直鎖、分岐または環状のアルキル基より選ばれ、また、酸素原子もしくは窒素原子を含有するアルキル基の2つが互いに結合して、上記塩基性中心である窒素を含む環状構造を形成するものであってもよく、さらに該塩基性中心である窒素とは別に、酸素原子もしくは窒素原子を1以上含有する環状構造を形成するものであってもよい。
このうちRが、酸素原子を含むものである場合には、好ましくはアルコキシ基置換アルキル基を選ぶことができ、2−メトキシエチル基、2−エトキシエチル基、2−プロポキシエチル基、2−イソプロポキシエチル基、2−メトキシプロピル基、2−エトキシプロピル基、2−プロポキシプロピル基、2−イソプロポキシプロピル基、3−メトキシプロピル基、3−エトキシプロピル基、3−プロポキシプロピル基、3−イソプロポキシプロピル基等を好ましい例として挙げることができ、アルコキシ基は好ましくは炭素数1〜3を有する。アルコキシ基が置換されていない場合、炭素数が7より多い場合には塩基化合物が有する水溶性が低くなり、反応後のポリマー溶液からの除去が容易ではなくなる場合がある。また、アルコキシ基が置換される場合、塩基性中心である窒素原子に対しβあるいはγ−位の炭素に置換されたものが準備しやすい。
また、Rが、酸素原子を含むものである場合には、好ましくは水酸基置換アルキル基
を選ぶことができ、2−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシブチル基、3−ヒドロキシプロピル基、2−(2’−ヒドロキシエトキシ)エチル基、2−(2’−ヒドロキシエトキシ)プロピル基、3−(2’−ヒドロキシエトキシ)プロピル基、1−メチル−2−ヒドロキシプロピル基、2,3−ジヒドロキシプロピル基等を好ましい例として挙げることができる。
さらに、Rが、窒素原子を含むものである場合には、好ましくはアミノ基、またはアルキルアミノ基を置換基として持つ炭素数3〜7(アルキルアミノ基の炭素数を含む)のアルキル基を選ぶことができ、2−アミノエチル基、2−メチルアミノエチル基、2−ジメチルアミノエチル基、2−アミノプロピル基、2−アミノブチル基、3−アミノプロピル基、2−(2’−アミノエチル)アミノエチル基、4−(3’−アミノプロピル)アミノブチル基等を好ましい例として挙げることができる。
【0030】
上記一般式(1)で示される塩基は、より好ましくは下記一般式(2)で示される構造を持つ側鎖をRの一部もしくは全部として有する。なお、Rの一部は、例えば、上記一般式(1)においてnが2の場合、一つのRのみが下記一般式(2)の構造を持つ場合であり、全部とは、nが2の場合には両方のRが下記一般式(2)の構造を有する場合か、nが1の場合である。
【化2】

【0031】
上式中、R、R、R、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であり、Xは水酸基、アミノ基またはアルキルアミノ基であり、mは0または1であり、(N)はRの窒素への置換位置を示す記号である。R〜Rは、それぞれ独立に水素または炭素数1〜4のアルキル基であるが、一般式(2)全体に含まれる炭素数は好ましくは7以下である。
【0032】
一般式(2)のように上記塩基性中心である窒素原子と一般式(2)中でXとして表わされる官能基の酸素原子あるは窒素原子との間に炭素原子2個あるいは3個を介して結合されることによって、上記塩基性中心である窒素原子と上記官能基Xとの間で水素結合に基づく相互作用が強く起き、塩基性中心である窒素原子の求核性が適度に制御される。
これによって、上述の副生するアミド体の水溶性が優位に得られるだけでなく、脱保護を行いたいアシル基で保護されたフェノール性水酸基を有するポリマーが、塩基性条件で加水分解を起こす恐れがある官能基や求核反応を受けやすい官能基、例えば脂肪族アルコール由来のエステル構造を有しているような場合にも、官能基の変質を生じることなくアシル基の脱保護のみを行う反応条件を選択することができる。脂肪族アルコール由来のエステル構造は微量でも変質を受けるとポリマーの物性を大きく変化させる危険があるが、上記一般式(2)で示されるアミン化合物を用いることにより、変質を起こす危険を有効に下げることができる。事実、n−ブチルアミンのpKaは10.6であるのに対し、側鎖β−位にアミノ基を持つエチレンジアミンの第1pKaは9.9と小さい値を示し、側鎖β−位に水酸基を持つエタノールアミンでは、より好ましい更に小さな値(pKa=9.5)を持ち、脱アシル化以外の副反応を起こす危険性を抑制できる。そして、上記の通り、その効果は特にアミノ化合物が水酸基を有する場合において著しい。ただし、アシル基の脱保護反応においては、実施例にも示した通り、トリエチルアミンに比較して十分に大きな反応速度を与えることができる。
【0033】
一般式(2)の好ましい具体例としては、Xが水酸基であるものとして、2−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシブチル基、3−ヒドロキシプロピル基、2−(2’−ヒドロキシエトキシ)エチル基、2−(2’−ヒドロキシエトキシ)プロピル基、3−(2’−ヒドロキシエトキシ)プロピル基、1−メチル−2−ヒドロキシプロピル基、2,3−ジヒドロキシプロピル基等を挙げることができ、Xがアミノ基であるものとして、2−アミノエチル基、2−アミノプロピル基、2−アミノブチル基、3−アミノプロピル基、2−(2’−アミノエチル)アミノエチル基、4−(3’−アミノプロピル)アミノブチル基等を挙げることができ、Xがアルキルアミノ基であるものとして、2−メチルアミノエチル基、2−ジメチルアミノエチル基等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0034】
脱保護試薬とし用いる第1級または第2級アミン化合物の好ましい具体例としては、エタノールアミン、ジエタノールアミン、メチルエタノールアミン、エチルエタノールアミン、2−プロパノールアミン、2−ブタノールアミン、3−プロパノールアミン、2−アミノー1−ブタノール、4−アミノー1−ブタノール、2−アミノー2−メチルー1−プロパノール、3−ヒドロキシピペリジン、2−アミノ−3−メチルー1−ブタノール、6−アミノー1−ヘキサノール、6−アミノー2−メチルー2−ヘプタノール、4−ヒドロキシピペリジン、ジアミノエタン、1,2−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノプロパン、1,2−ジアミノブタン、2,3−ジアミノブタン、スペルミジン等を挙げることができる。
【0035】
アシル基により保護されたフェノール性水酸基を有する単位構造を含むポリマーのアシル基の脱保護反応に上述のアミン化合物を用いる場合、塩基性中心である窒素原子の他に、側鎖に第1級あるいは第2級のアミノ基を含まない場合には、高い脱保護反応速度を得るために、脱保護対象となるアシル基に対し、好ましくは当モル等量以上のアミン化合物を用いる。また、側鎖に第1級あるいは第2級のアミノ基を有する場合には、そのアミノ基による反応も期待することができ、例えば1,2−ジアミノエタンの場合であれば、好ましくは0.5モル等量以上のジアミノエタンを用いる。一般には、ポリマーに含まれる脱保護対象となるアシル基に対して1〜50モル等量、好ましくは1.1〜30モル等量のアミン化合物(上記1,2−ジアミノエタンのような2塩基アミンであればその半量、以下3塩基アミンであれば1/3量とすることもできる)を用いて脱保護反応を行う。なお、この際に用いる上述のClogPの値が1.00以下である第1級または第2級アミン化合物は、単一で用いても、複数種混合して用いても良い。
【0036】
上記塩基を用いるアシル基によるフェノール性水酸基を保護したポリマーの脱保護反応は、他の条件については、従来法であるトリエチルアミンを用いた脱保護反応を参考にして実施することができる(例えば特開2002−62652号公報、特開2007−254495号公報、特開2003−84440号公報、及び特開2002−244297号公報)。
【0037】
脱保護反応に用いる有機溶剤は、保護ポリマーと脱保護試薬をともに溶解して均一系脱保護反応を可能とするものが好ましい。
反応に用いる溶剤の選択では、本発明はトリエチルアミンによるソルボリシス反応とはメカニズムが異なると考えられ、水またはアルコール類等のプロトン性溶剤は必須ではないが、アルコール類は本発明のアシル基の脱保護反応においても好ましい溶剤である。また、本発明の方法ではポリマーの溶解を妨げない範囲であれば水を加えても良い。
好ましく用いられる溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール(いずれも構造異性体を含む)、エチレングリコール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノアルキルエーテル等のアルコール類、ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、ジブチルエーテル、
テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジグリム、プロピレングリコールモノメチル
エーテルアセテート等のエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン等の非プロトン極性溶媒類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、アセトン、2−ブタノン等のケトン類、アセトニトリル等のニトリル類等を挙げることができる。更に、その他の溶剤としてヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素類を用いて、後処理時の溶剤の極性調整をここで行っておいても良い。
これらのうち、特にメタノール、エタノール、イソプロパノール、tert−ブチルメチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、トルエン
等は好ましく用いられるが、メタノール、エタノールは他の溶剤と混合溶剤として使用されることが多く、それ以外の溶剤についても他の溶剤との混合溶剤として使用しても良い。
反応溶剤は、脱保護反応が不十分な状態とならないよう、脱保護を行うポリマーの物性に合わせて、ポリマーが反応前後で分離しないよう調整してやることが好ましく、上記溶剤を用いることで、一般にはポリマー1質量部に対し溶剤1〜5質量部を用いて反応を行うことができる。
【0038】
脱保護反応は、アシル基により保護されたフェノール性水酸基を有する単位構造を少なくとも含む保護ポリマーと、ClogPの値が1.00以下である第1級または第2級アミン化合物から選ばれる脱保護試薬(但し、第2級アミン化合物はアミノ基の窒素原子に結合する二つの炭素原子がいずれも第3級ではない)とを有機溶剤に溶解して、必要に応じて加熱することにより行なわれる。
脱保護反応は、大気条件下でも構わないが、安全上の面から考えて窒素雰囲気下もしくはアルゴン雰囲気下等の不活性気体雰囲気下で行なうことが好ましい。
脱保護反応は、例えば、40〜100℃で行った場合、0.5〜8時間、多くの場合1〜3時間で99%以上のアシル基が脱保護される。
【0039】
脱保護されたポリマーは、反応液のポリマー濃度を調整して水晶出を行って反応液より取り出しても良いし、ポリマーを溶解する溶液相と上記アミンを抽出除去するための水相の間で分液操作を行うことによって、精製ポリマー溶液として取り出しても良い。何れの方法も常用されるものであるが、以下のように行うことができる。
【0040】
まず水晶出の場合、一般的手法としては、反応液を減圧下に濃縮し、水が含まれる場合にはエタノール等の良く使用される共沸溶剤を使用して水をなるべく除去し、また非水溶性溶剤が含まれる場合にはそれもなるべく除去し、好ましくはポリマー濃度20〜50質量%を目安として水溶性溶剤の溶液とする。水溶性溶剤としては、メタノール、アセトンが最も好ましいが、THF、アセトニトリルのような他の水溶性溶剤でも良い。これを、目安として上記ポリマーの溶解に使用した水溶性溶剤に対して好ましくは10〜100質量倍量の水中に、撹拌下に滴下することで、晶出固化されたポリマーを取り出すことができる。本発明の方法においては、上記水溶性の高い塩基を用いることによって、塩基が水相に容易に溶解し、この方法によってポリマーを容易に固化することができる。また、痕跡の塩基を除去する場合には、一旦固化したポリマーを、酢酸等の弱酸希薄水溶液を用いて再度水晶出を行うことで完全に除去することができる。
【0041】
一方、2相に分離する溶液相を利用する分液法による精製においても、本発明で使用する塩基は分液処理前に反応液の濃縮を行った場合、トリエチルアミンに比べて濃縮で失われる量がわずかであり、塩基を除去するために使用する水相に加えるべき適切な弱酸量が容易に合理的予想が可能となるため、過剰の酸による処理を行ってしまう危険が少なく、また、弱酸による抽出操作で完全に塩基を除去することができる。このような分液法による塩基除去操作を行う方法は、例えば、反応液を溶質に対して0〜10質量倍量程度まで
濃縮し、これに必要であれば良溶剤(例えば酢酸エチル、アセトン、メタノール等)を加えてポリマー濃度が5〜50質量%程度のポリマー溶液を調製し、これに、含有する塩基に対して当モル倍量(若干であれば過剰でも良い)の例えば酢酸のような弱酸を含む、溶質に対して1〜25質量倍量の水を加えて良く混合して静置し、これを分離することで行える。
【0042】
更に、本発明で使用する塩基は、例えば特開2009−24122号公報のように、低分子化合物を除去するための分液法による分画方法と上記分液法を組み合わせる場合にも有利である。すなわち、分画のための分液法では、有機良溶剤相(アセトン、酢酸エチル、プロピレングリコールモノエチルエーテルまたはそのアセテート、THF等)と有機貧溶剤相(ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、トルエン等)による分液操作が行われ、有機塩基を除去するための分液法では、有機相と弱酸性の水相による分液操作が行われるが、本発明に使用する塩基は前者では良溶剤相に、後者では水相への選択性がトリエチルアミンに比較して高く、弱酸性の水相に用いる酸の量を適切に制御することが可能となる。これによってポリマーが酸不安定基を有する場合にも過剰の酸による変質を防止することができ、また酸不安定基がない場合にもポリマー溶液からの確実な塩基成分の除去が容易になる。
上述の低分子化合物の除去を行う分液操作は、特開2009−24122号公報を参考に行うことができるが、例えば、ポリマーを含む溶質の質量1に対して有機良溶剤0.5〜5質量倍量、好ましくは0.7〜3質量倍量の溶液を作成し、これに有機貧溶剤を溶質に対し2〜25倍量、好ましくは2〜15質量倍量加えて、良く混合して静置し、これを分離することで行える。
また、塩基成分を除去するための分液操作は、上記と同様、例えば、ポリマーを含む溶質を溶質に対して0.5〜5質量倍量の有機良溶剤に溶解し、これに、含有する塩基に対して当モル倍量(若干であれば過剰でも良い)の弱酸を含む、溶質に対して1〜25倍量の水を加えて良く混合して静置し、これを分離することで行える。
【0043】
本発明によれば、上記脱保護方法を実施する工程を含む、化学増幅型レジスト用ベースポリマーの製造方法を提供できる。本発明の保護ポリマーの脱保護方法を用いることにより、短時間で確実な脱保護が行われると共に、化学増幅型レジストとして使用する際に、酸の触媒作用に影響を与える不純物の混入によるレジスト性能の変化を防止することができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
[実施例1]
窒素雰囲気下、300mLの滴下シリンダーにアセトキシスチレン53.9g、アセナ
フチレン9.7g、下記に示すモノマー(3)36,3g、ジメチル−2,2´−アゾビス−(2−メチルプロピオネート)(和光純薬工業社製、商品名V601)を6.8g、溶媒としてトルエンを75g加えた溶液を調整した。さらに窒素雰囲気下とした別の500mL重合用フラスコに、トルエンを25g加え、80℃に加温した状態で、上記で調整した溶液を4時間かけて滴下した。滴下終了後、重合温度を80℃に維持しながら20時間撹拌を続け、次いで室温まで冷却した。得られた重合液を1200gのヘキサンに滴下し、析出した共重合体を濾別した。濾別した共重合体をヘキサン200gで二回洗浄を行ない、次反応に用いた。
【0045】
【化3】

【0046】
上記で得られた共重合体(ポリマー(X))を窒素雰囲気下で、500mLフラスコにTHF180g、メタノール60gに溶解し、エタノールアミン18.7gを加えた溶液を調整し、窒素雰囲気下にて60℃で2.5時間撹拌した。この反応溶液を減圧濃縮し、得られた濃縮物を300gの酢酸エチルに溶解させた溶液を分液ロートに移し、水200g、酢酸9.4gを加え、分液操作を行なった。下層を除去し、得られた有機層に水200g、ピリジン12.5gを加え、分液操作を行なった。下層を除去し、さらに得られた有機層に水200gを用いて水洗分液を行った(水洗分液は計5回)。(各分液工程毎の静置時に、アセトンを30g加えて少し撹拌すると、分離性良く分液ができた。)分液後の有機層を濃縮後、アセトン140gに溶解し、0.02μmのナイロンフィルターを通したアセトン溶液を水1800gに滴下して得られた晶出沈澱物を濾過、水洗浄、乾燥を行い、白色のヒドロキシスチレン共重合体を82.0gで得た(ポリマー1)。特に半導体用途において欠陥を気にしない場合には、ポリマー合成時にナイロンもしくはUPEフィルターを通す必要はない。
得られた共重合体を1H−NMR測定したところ、共重合体であるメタクリルエステル
基のエステル分解及びエタノールアミン由来の不純物は確認できなかった。
【0047】
[実施例2]
実施例1の重合反応において、モノマー(3)の代わりにモノマー(4)を用いる以外は同様の反応を行い、白色重合体78.0gを得た(ポリマー2)。
得られた共重合体を1H−NMR測定したところ、共重合体である安息香酸エステル基
のエステル分解及びエタノールアミン由来の不純物は確認できなかった。
【0048】
【化4】

【0049】
[実施例3]
実施例1の重合反応において、モノマー(3)の代わりにモノマー(5)を用いる以外は同様の反応を行い、白色重合体75.0gを得た(ポリマー3)。
得られた共重合体を1H−NMR測定したところ、共重合体であるメタクリルエステル
基のエステル分解及びエタノールアミン由来の不純物は確認できなかった。
【0050】
【化5】

【0051】
[実施例4]
窒素雰囲気下、300mLの滴下シリンダーにアセトキシスチレン53.9g、アセナ
フチレン9.7g、上記式(3)のモノマー36,3g、ジメチル−2,2´−アゾビス−(2−メチルプロピオネート)(和光純薬工業社製、商品名V601)を6.8g、溶媒としてトルエンを75g加えた溶液を調整した。さらに窒素雰囲気下とした別の500mL重合用フラスコに、トルエンを25g加え、80℃に加温した状態で、上記で調整した溶液を4時間かけて滴下した。滴下終了後、重合温度を80℃に維持しながら20時間撹拌を続け、次いで室温まで冷却した。得られた重合液を1200gのヘキサンに滴下し、析出した共重合体を濾別した。濾別した共重合体をヘキサン200gで二回洗浄を行ない、次反応に用いた。
上記で得られた共重合体を窒素雰囲気下で、500mLフラスコにTHF180g、メタノール60gに溶解し、エタノールアミン18.7gを加えた溶液を調整し、窒素雰囲気下にて60℃で2時間撹拌した。この反応溶液を濃縮し、得られた濃縮物にメタノール120gとアセトン25gを加え溶液化した。得られた溶液を攪拌しながら、滴下ロートからヘキサンを225g滴下し、30分後に下層(ポリマー層)にテトラヒドロフラン66gを加え、ここに攪拌中ヘキサンを230g滴下し、30分後に下層(ポリマー層)を減圧濃縮した。得られた濃縮物を300gの酢酸エチルに溶解させた溶液を分液ロートに移し、水200g、酢酸9.4gを加え、分液操作を行なった。下層を除去し、得られた有機層に水200g、ピリジン12.5gを加え、分液操作を行なった。下層を除去し、さらに得られた有機層に水200gを用いて水洗分液を行った(水洗分液は計5回)。(各分液工程毎の静置時に、アセトンを30g加えて少し撹拌すると、分離性良く分液ができた。)
分液後の有機層を濃縮後、アセトン120gに溶解し、0.02μmのナイロンフィルターを通したアセトン溶液を水1800gに滴下して得られた晶出沈澱物を濾過、水洗浄、乾燥を行い、白色のヒドロキシスチレン共重合体を70.0gで得た(ポリマー4)。
得られた共重合体を1H−NMR測定したところ、共重合体であるメタクリルエステル
基のエステル分解及びエタノールアミン由来の不純物は確認できなかった。
【0052】
[実施例5]
窒素雰囲気下、300mLの滴下シリンダーにアセトキシスチレン60.5g、インデ
ン6.8g、4−クロロスチレン32,7g、ジメチル−2,2´−アゾビス−(2−メチルプロピオネート)(和光純薬工業社製、商品名V601)を6.5g、溶媒としてトルエンを108g加えた溶液を調整した。さらに窒素雰囲気下とした別の500mL重合用フラスコに、トルエンを43g加え、80℃に加温した状態で、上記で調整した溶液を4時間かけて滴下した。滴下終了後、重合温度を80℃に維持しながら20時間撹拌を続け、次いで室温まで冷却した。得られた重合液を1500gのヘキサンに滴下し、析出した共重合体を濾別した。濾別した共重合体をヘキサン300gで二回洗浄を行ない、次反応に用いた。
上記で得られた共重合体を窒素雰囲気下で、500mLフラスコにTHF180g、メタノール60gに溶解した。この溶液に、エタノールアミン22.3gを加えた溶液を調整し、窒素雰囲気下にて60℃で2.5時間撹拌した。この反応溶液を減圧濃縮し、得ら
れた濃縮物を300gの酢酸エチルに溶解させた溶液を分液ロートに移し、水200g、酢酸11.2gを加え、分液操作を行なった。下層を除去し、得られた有機層に水200g、ピリジン14.9gを加え、分液操作を行なった。下層を除去し、さらに得られた有機層に水200gを用いて水洗分液を行った(水洗分液は計5回)。(各分液工程毎の静置時に、アセトンを30g加えて少し撹拌すると、分離性良く分液ができた。)分液後の有機層を濃縮後、アセトン130gに溶解し、0.02μmのナイロンフィルターを通したアセトン溶液を水1800gに滴下して得られた晶出沈澱物を濾過、水洗浄、乾燥を行い、白色のヒドロキシスチレン共重合体を55.0gで得た(ポリマー5)。特に半導体用途において欠陥を気にしない場合には、ポリマー合成時にナイロンもしくはUPEフィルターを通す必要はない。
得られた共重合体を1H−NMR測定したところ、エタノールアミン由来の不純物は確
認できなかった。
【0053】
[比較参考例1]
実施例1において、エタノールアミンを用いる代わりに、従来の方法であるトリエチルアミン/メタノールによるメタノリシス法(反応は窒素雰囲気下、40時間、60℃)で脱保護した以外は同様な反応を行い、白色重合体81.0gを得た(比較参考ポリマー1)。
【0054】
[比較参考例2]
実施例1の重合反応において、アセナフチレンの代わりにインデン、モノマー(3)の代わりに4−クロロスチレンを用いる以外は同様の重合反応を行い、得られたポリマーを、従来の方法であるトリエチルアミン/メタノールによるメタノリシス法(反応は窒素雰囲気下、40時間、60℃)で脱保護した以外は同様な反応を行い、白色重合体60.0gを得た(比較参考ポリマー2)。
【0055】
[比較実験1<エタノールアミン vs n−ブチルアミンの簡易比較実験>]
実施例1で得られたアセチル基脱保護前のポリマー(X)(Polymer(X))を用いて、脱保護剤をエタノールアミンの場合とn−ブチルアミンの場合で比較検討を行った。なお、Meは、メチル基を表す。
【0056】
【化6】

【0057】
条件1
窒素雰囲気下で、ポリマー(X)10gを100mLフラスコにTHF18g、メタノール6gに溶解し、エタノールアミン1.9g加えて60℃で3時間撹拌した。この反応溶液を減圧濃縮し、得られた濃縮物をアセトン40gに溶解し、このアセトン溶液を水1000gに滴下して得られた晶出沈澱物を濾過、乾燥を行い、白色のヒドロキシスチレン共重合体を7.0gで得た(ポリマーZ1)。
【0058】
条件2
「条件1」の脱保護反応において、エタノールアミンの代わりにn−ブチルアミンを用いる以外は同様の操作を行い、白色のヒドロキシスチレン共重合体を6.5gで得た(ポリマーZ2)。
ポリマーZ1、ポリマーZ2共に1H−NMR測定したところ、アセトキシ保護体はな
くなり、フェノール性水酸基が得られていることが確認できた。また、共重合体であるメタクリル酸エステル基のエステル分解は確認できなかった。ただし、ポリマーZ1からは脱保護で得られた不純物であるアミド体(A)が7.6モル%確認できたのに対し、ポリマー(B)から得られたアミド体(B)は10.6モル%確認できた。このことから、アミド体(B)はアミド体(A)に比較して脂溶性が高く、精製が困難であることが確認できた。
【0059】
[比較実験2<エタノールアミン vs トリエチルアミン>]
ポリマー(X)を用いて、エタノールアミンを用いる代わりに、従来の方法であるトリエチルアミン/メタノールによるメタノリシス法で脱保護反応を行った(反応は窒素雰囲
気下、20時間、60℃)。得られた共重合体を1H−NMR測定したところ、20時間
反応の場合ではアセトキシ保護体が11.2モル%残存していることが確認できた。このことから、トリエチルアミンによる脱保護反応では少なくとも20時間以上の反応時間が必要であることが確認できた。
【0060】
[評価]
レジスト材料の調製
上記で合成した高分子化合物(ポリマー1、5、比較参考ポリマー1、2)、下記式で示される酸発生剤(PAG−1)、塩基性化合物(Base−1)、架橋剤を表1に示す組成で有機溶剤中に溶解してレジスト材料を調合し、更に各組成物を0.02μmサイズのナイロンフィルター及びUPEフィルターで濾過することにより、ポジ型及びネガ型レジスト材料の溶液をそれぞれ調製した。
【0061】
<酸発生剤>
【化7】

【0062】
<塩基性化合物>
Base−1:トリス(2−(メトキシメトキシ)エチル)アミン N−オキサイド
<架橋剤>
テトラメトキシメチルグリコールウリル(TMGU)
<界面活性剤>
また、各組成物のレジスト調製時には界面活性剤としてPF−636(オムノバ社製)を0.075質量部添加している。
<有機溶剤>
表1中の有機溶剤は、PGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)、EL(乳酸エチル)、PGME(プロピレングリコールモノメチルエーテル)である。
【0063】
【表1】

【0064】
電子ビーム描画評価
上記調製したレジスト材料(実施例1、5、比較参考例1、2)をACT−M(東京エレクトロン社製)を用いて152mm角の最表面が酸化窒化クロム膜であるマスクブランク上にスピンコーティングし、ホットプレート上で110℃で600秒間プリベークして90nmのレジスト膜を作製した。得られたレジスト膜の膜厚測定は、光学式測定器ナノスペック(ナノメトリックス社製)を用いて行った。測定はブランク外周から10mm内側までの外縁部分を除くブランク基板の面内81ヶ所で行い、膜厚平均値と膜厚範囲を算出した。
更に、電子線露光装置(ニューフレアテクノロジー社製、EBM−5000plus、加速電圧50keV)を用いて露光し、110℃で600秒間ベーク(PEB:post
exposure bake)を施し、2.38質量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシドの水溶液で現像を行うと、ポジ型及びネガ型のパターンを得ることができた。更に得られたレジストパターンを次のように評価した。
【0065】
作製したパターン付き基板を上空SEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、200nmの1:1のラインアンドスペースを1:1で解像する露光量を最適露光量(μC/cm2
とし、200nmのラインアンドスペースを1:1で解像する露光量における最小寸法を限界解像度とし、100nmLSのラインエッジラフネス(LER)をSEMで測定した。パターン形状については、矩形か否かを目視にて判定した。EB描画における本発明のレジスト材料及び比較用のレジスト材料の評価結果を表2に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
上記表2に示す通り、本発明の塩基によって脱保護して得られたヒドロキシスチレン誘導体は従来処方によって得られた樹脂に対して、感度、解像性、ラインエッジラフネス、パターン形状に関して遜色ない結果が得られた。このことから、本発明を用いた製造方法を用いることで、高効率で従来品と同等の樹脂を得ることができ、非常に有用な製法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アシル基により保護されたフェノール性水酸基を有する単位構造を少なくとも含む保護ポリマーと、ClogPの値が1.00以下である第1級または第2級アミン化合物から選ばれる脱保護試薬(但し、第2級アミン化合物はアミノ基の窒素原子に結合する二つの炭素原子がいずれも第3級ではない)とを、有機溶剤に溶解して脱保護するステップを少なくとも含む、保護ポリマーの脱保護方法。
【請求項2】
上記第1級または第2級アミン化合物が、下記一般式(1)
HNR2−n (1)
(上式中、Rは、水素原子、または炭素数1〜6の直鎖、分岐もしくは環状のアルキル基であり、Rは、独立して1以上の酸素原子もしくは窒素原子を含む炭素数2〜7の直鎖、分岐または環状のアルキル基であり、2つのRが互いに結合して酸素原子および/または窒素原子を1以上含有する環状構造を取ってもよく、nは1または2である。)
で示される請求項1に記載の保護ポリマーの脱保護方法。
【請求項3】
上記一般式(1)のRの一部もしくは全部が、下記一般式(2)
【化1】


(上式中、R、R、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であり、Xは、水酸基、アミノ基またはアルキルアミノ基であり、mは0または1であり、(N)はRの窒素への置換位置を示す記号である。)
で示される構造を有する請求項2に記載の保護ポリマーの脱保護方法。
【請求項4】
上記保護ポリマーが、更に脂肪族アルコール由来のエステル構造を有する単位構造を含む請求項1〜3のいずれかに記載の保護ポリマーの脱保護方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の脱保護方法を実施する工程を含む、化学増幅型レジスト用ベースポリマーの製造方法。

【公開番号】特開2011−102386(P2011−102386A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228609(P2010−228609)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】