説明

保護被膜による実装構造体の被覆方法および実装構造体、ならびに実装構造体のリペア方法

【課題】高温度高湿度下においても電極部を確実に防湿保護でき、かつ電子部品のリペアを容易にする。
【解決手段】電子部品やそれが実装された電子回路基板1を、耐湿性および絶縁性を有する第1のコーティング剤で被覆して第1の被膜51を形成し、さらに第1のコーティング剤に増粘作用を有する添加剤を加えた第2のコーティング剤を塗布して第2の被膜52を形成して、実装構造体を被覆する。電子部品が挿入タイプであっても、そのピン状電極部44を少なくとも第2の被膜52によって十分な厚さで被覆保護できる。また、第1、第2のコーティング剤の主成分が同じであるので、電子部品のリペア時には同じ溶剤で第1、第2の被膜51、52を選択的に溶解または軟化させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は実装構造体を保護被膜で被覆する方法、この方法による実装構造体、ならびに実装構造体のリペア方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電気機械器具や電子機器の長寿命化が進む中、車両等に搭載される機器、屋外に設置される機器、さらには、主に室内で使用される機器であっても、洗濯機や乾燥機等のように、相対湿度のきわめて高い環境下で使用されるものについて、過酷な使用環境にも耐え得るだけの信頼性を有することが強く要求されて来ている。
【0003】
これら機器には、電子回路基板上に種々のタイプの電子部品を実装した実装構造体が搭載されており、付着する塵埃、水分や湿気、温度変化等によって、実装構造体の半田接合部分や電極部分が劣化することを防止するための対策が講じられている。その方法として、たとえば、実装構造体の主要部分または全体をエポキシ樹脂等で注型封止したり、ウレタン樹脂やシリコーン樹脂、または炭化水素系樹脂等で被覆したりすることが行われている。
【0004】
電子回路基板上に電子部品を実装し、そのピン部分や半田接合部分等を樹脂注型して封止するという方法は、ピン部分や接合部分の保護には適した方法であるが、いったん封止をしてしまうと、その封止樹脂を取り除くのが困難となる。このため、実装後に電子部品が不良品であることが判明した場合や、故障した場合等には、それを良品にリペアするのがむずかしく、この方法は実際の使用に適したものとは言えない。また、注型封止をするためには、封止樹脂を供給する工程と、硬化させまたは乾燥させる工程とが必要となり、これらの工程にはそれぞれ専用の設備が必要となる。そのため、生産タクトにおいてこれら工程の占める割合が非常に大きくなり、実装構造体の生産性を向上させることが困難となる。
【0005】
ウレタン系樹脂や炭化水素系樹脂による保護膜で被覆する方法では、その使用材料の粘度が低いことから、一般に、これら樹脂材料を噴霧式のディスペンサーまたは筆や刷毛等を使用して、実装構造体を広範囲にわたって均一に塗布することが多い(たとえば特許文献1、2)。そのため、このような方法には、生産タクトに占める割合が樹脂注型による方法よりも小さいという利点がある。
【0006】
ところが、この方法では、種々のタイプ、形状の電子部品が電子回路基板に実装されることから、粘度の低い樹脂材料で実装構造体を被覆しようとしても、所望の保護作用が得られるだけの厚さの被膜を形成できないということがしばしば生じる。たとえば、QFP(Quad Flat Package)やSOP(Small Outline Package)等の表面実装用の電子部品では、その折曲げ成形されたリードに、電子回路基板面に対して比較的大きな勾配をもつ部分があり、また、コネクタや大型コンデンサ等の挿入部品では、その端子ピンまたはリードが電子回路基板に直立する形態となる。そのために、コーティング剤をこのようなリードや端子ピンに付着させても、それが固化するまでに流下してしまうことから、十分な厚さの被膜を形成するのが非常にむずかしい。すなわち、リードや端子ピンの塗布時の姿勢によって、被膜が上側に位置した部分では薄く、下側となる部分では厚く形成されてしまう。
【0007】
このため、被膜による保護効果が十分でないと考えられる箇所には、さらにシリコーン系樹脂やウレタン系樹脂等の、粘度が高いポッティング剤やシーリング剤等を塗布して、膜厚の薄い被膜部分を保護することが必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−332279号公報
【特許文献2】特開2007−154005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、シリコーン系樹脂による被膜は、ガス透過性が高く、水蒸気や雰囲気ガスを透過させやすい。そのため、高湿の環境、さらに高温高湿の環境で使用する場合には、実装された電子部品の電極を構成するリードやピンが短期間に腐食してしまうおそれが大きい。
【0010】
ウレタン系樹脂は、炭化水素系樹脂やシリコーン系樹脂よりも耐熱性に劣るので、高い信頼性を必要とする防湿絶縁処理には適していない。このため、複数種の樹脂材料を部分的にしろ重ねて被覆して、実装構造体の重要部分の防湿性を高め、それによって絶縁性を高める構造とすると、電子回路基板に電子部品を実装した後に不良を発見し、または、電子部品と基板回路との電気的接合の不良を発見したときには、それを良品にリペアするのが非常にむずかしい。すなわち、電子回路基板と電子部品とを、連続した被膜が重なり合うようにして覆っているために、不良品や不良箇所があったときには、まず、少なくともリペアすべき部品を囲む周辺部分を取り除いてから、リペアしなければならない。
【0011】
また、複数種の被覆用樹脂材料を一連の製造工程で使用すると、その混同を生じやすく、その防止のための管理工程が必要となり、工程管理が煩雑となる。
【0012】
本発明は、リードを備えた面実装型の電子部品や、リードや端子ピンを備えた挿入型の電子部品を実装した構造体において、そのリードや端子ピンを含む電極部を確実に被覆して保護するとともに、リペア時には必要箇所を容易に除去できる保護被膜の形成方法、それによる実装構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の保護被膜による実装構造体の被覆方法は、
電子部品が実装された電子回路基板の特定部位に耐湿性および絶縁性を有する保護被膜を形成する方法であって、
樹脂を含む第1のコーティング剤を塗布して第1の被膜を形成する第1の工程と、
前記第1のコーティング剤に増粘性を付与する添加剤を加えた第2のコーティング剤を塗布して第2の被膜を形成する第2の工程とを
有する。
【0014】
この被覆方法において、前記第1のコーティング剤が、炭化水素系樹脂と、前記炭化水素系樹脂を溶解する溶剤とを含むことが好ましい。
【0015】
また、前記第1のコーティング剤の粘度が100〜300mPa・sの範囲内にあり、そのチクソ比の値が0.8〜1.2の範囲内にあることが好ましい。
【0016】
前記添加剤が脂肪酸系添加剤であることが好ましい。
【0017】
前記添加剤の添加量が、前記炭化水素系樹脂100質量部に対して0.1〜5質量部の範囲内であることが好ましい。
【0018】
前記第2のコーティング剤の粘度が300〜1000mPa・sの範囲内であって、そのチクソ比の値が1.5〜2.5の範囲内であることが好ましい。
【0019】
ここで、本発明において、第1および第2のコーティング剤の粘度については、温度25℃において円錐・平板回転粘度計を用いて測定する。また、それぞれのチクソ比については、温度25℃において、回転速度が5rpm、50rpmであるときの粘度V5rpm、V50rpmを測定し、その比の値V5rpm/V50rpmで求める。
【0020】
前記第1のコーティング剤と前記第2のコーティング剤とによる被膜の厚さが25〜100μmの範囲内であることが好ましい。
【0021】
本発明の実装構造体は、電子部品が実装された電子回路基板と、電子部品から電子回路基板にわたって被覆する、耐湿性および絶縁性を有する保護被膜とを有し、この保護被膜が第1のコーティング膜とその上に形成された第2のコーティング膜とからなり、さらに第1および第2のコーティング膜の主成分が同じであることを特徴とする。
【0022】
この構造体において、前記第1のコーティング膜が炭化水素系樹脂からなることが好ましい。
【0023】
前記第2のコーティング膜は、前記第1のコーティング膜における炭化水素系樹脂に増粘性を付与する添加剤を含有させたものであることが好ましい。
【0024】
前記添加剤が、前記炭化水素系樹脂100質量部に対して0.1〜5質量部の範囲内であることが好ましい。
【0025】
本発明の実装構造体のリペア方法は、前記実装構造体に実装された電子部品のうちのリペアすべき電子部品およびその周辺部分を覆う前記第2のコーティング膜および前記第1のコーティング膜を、同じ成分の溶剤を使用して溶解させまたは軟化させて除去し、リペアすべき前記電子部品をリペアすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、本発明によれば、被膜を形成しにくい、電子回路基板に対して勾配のある電子部品の電極部を確実に被覆することができる。さらに主成分が同じ二つのコーティング剤を用いることによりコーティング膜間の密着性がよく、またリペアの際の被膜の除去も容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の被覆方法に使用する実装構造体の電子部品搭載面側の斜視図である。
【図2】図1に示した実装構造体の裏面側を示す斜視図である。
【図3】図1に示した実装構造体における搭載電子部品の一例であるコネクタの斜視図である。
【図4】本発明の被覆方法を説明するための最初の工程図である。
【図5】本発明の被覆方法を説明するための次の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
まず、本発明の実装構造体の被覆方法における実施の形態について、説明する。なお、この形態において、第1および第2のコーティング剤の粘度およびチクソ比の値は、上述した測定条件によって求める。
【0029】
この実施の形態は、電子部品が実装された電子回路基板の特定の部位、すなわち少なくとも耐湿性および絶縁性を必要とする基板領域上、電子部品上に、耐湿性および絶縁性を有する保護被膜を形成する方法であって、樹脂を含む第1のコーティング剤を塗布して第1の被膜を形成する第1の工程と、第1のコーティング剤に増粘作用を付与する添加剤を加えた第2のコーティング剤を塗布して第2の被膜を形成する第2の工程とを有する。
【0030】
第1のコーティング剤は、炭化水素系樹脂とそれを溶解する溶剤とを含む。
【0031】
この炭化水素系樹脂には、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、および、ポリエチレンやポリプロピレン等の飽和炭化水素系樹脂が好ましい。それらのうち、飽和炭化水素系樹脂が、ポリウレタン系樹脂やアクリル系樹脂よりも耐熱性に優れているので、より好ましい。
【0032】
コーティング剤の溶剤には、炭化水素系樹脂を溶解する物質であって、揮発性のよいものが好ましい。代表例として、トルエンやキシレン等の芳香族炭化水素、および、シクロヘキサンやメチルシクロヘキサン等の脂環式アルカンが挙げられる。これのうち、人的な影響の少なさという観点から、脂環式アルカンがより好ましい。
【0033】
第2のコーティング剤は、第1のコーティング剤と同じ成分および増粘性を付与する液状の添加剤を含む。このように、第1および第2のコーティング剤の主成分が同一であるので、これらコーティング剤による被膜は、その界面が互いに親和性がよく、きわめて強固に密着して、過酷な使用環境に絶え得る信頼性をもった保護膜としての機能を奏することができる。なお、異なる種類のコーティング剤を重ね塗りして被膜を形成した場合には、一般的に、異種コーティング剤による被膜の界面に気泡が残ったり、密着が悪く容易に剥がれたりするため、所望の保護膜を形成することはきわめて困難となる。
【0034】
添加剤は、溶剤で溶解させた炭化水素系樹脂に対して溶解性のよい脂肪酸系添加剤が好ましい。また、その添加量は、炭化水素系化合物100質量部に対して0.1〜5質量部の範囲内とすることが好ましい。液状添加剤の添加量が炭化水素系化合物100質量部に対して5質量部を超えると、第2のコーティング剤の粘度およびチクソ比が高くなるため、塗布後の拡がりがよくなく、コーティング剤としての機能を果たすことが困難となる。また、それが0.1重量部未満であるときには、添加剤が及ぼす影響が小さく、粘度およびチクソ比が第1のコーティング剤と大差がないのでリードを備えた面実装型の電子部品や、リードや端子ピンを備えた挿入型の電子部品を実装した構造体において、そのリードや端子ピンを含む電極部を確実に被覆することが困難となる。
【0035】
第1のコーティング剤が、炭化水素系樹脂と、この炭化水素系樹脂を溶解する溶剤とを含むことが好ましい。
【0036】
また、第1のコーティング剤は、その粘度が100〜300mPa・sの範囲内にあり、また、チクソ比の値が0.8〜1.2の範囲内にあることが好ましい。
【0037】
第1のコーティング剤の粘度を100〜300mPa・sの範囲内とすることによって、市販の噴霧式ディスペンサーやカーテンコートタイプのディスペンサーで容易に塗布することができる。ところが、粘度が300mPa・sより高くなると、これらのディスペンサーで塗布することができないか、あるいは塗布できたとしても吐出にばらつきが生じて不均一となり、膜厚が一定にならず、またいわゆる糸引き現象等が発生するため、精密塗布をすることがきわめて困難となる。粘度が100mPa・sよりも低くなると、流動性が高すぎ、ディスペンサーで塗布後、電子回路基板上で流動することで膜厚を一定に保つことが困難となり、好ましくない。チキソ比の値が0.8未満であると、流動性が高く、希望する厚さの被膜を形成することがむずかしくなる。一方、チクソ比の値が1.2を超えると、電子回路基板面の細ピッチの電極間や端子間の部分やそれらで囲まれた部分を被覆するのに十分な流動性が得られなくなり、ボイドや被覆不十分な箇所が発生しやすくなる。
【0038】
第2のコーティング剤は、粘度が300〜1000mPa・sの範囲内であって、チクソ比の値が1.5〜2.5の範囲内であることが好ましい。
【0039】
粘度が300mPa・sより低くなる、流動性が高くとなり、リードを備えた面実装型の電子部品や、リードや端子ピンを備えた挿入型の電子部品を実装した構造体において、そのリードや端子ピンを含む電極部に第2のコーティング剤を塗布しても流動して所望の膜厚を形成することが困難になる。また、粘度が1000mPa・sよりも高くなると、形状安定性が高すぎて膜厚を所望の範囲に保つことが困難になる。
【0040】
また、チクソ比の値が1.5未満になると、形状保持がしにくくなって拡がり、リードや端子ピンを備えた挿入型の電子部品を実装した構造体において、リードや端子ピンを含む電極部に第2のコーティング剤を塗布しても流動して所望の膜厚を形成することが困難になる。このため、電子回路基板に実装された電子部品の電極部分を覆うよう塗布したとき、その基板面に対して勾配を持つ部分上では所望の膜厚とすることが困難となり、耐湿性等の耐侯性に優れた保護被膜を得ることができない。また、チクソ比の値が2.5を超えると、形状安定性が高すぎて膜厚を所望の範囲に保つことが困難になる。
【0041】
また、このコーティング剤は、その粘度が比較的高いために、第1のコーティング剤のように噴霧式ディスペンサーで塗布することがむずかしい。そのため、実装電子部品上を含めて電子回路基板上の全域または所定の領域上に、第1のコーティング剤を噴霧ディスペンサーで塗布した後、それに含まれていた溶剤が揮発し、被膜が形成されてから、その膜厚の薄い、たとえば電極部分のみにエア式ディスペンサーや、筆または刷毛等で塗布供給して、第2のコーティング膜を形成する。
【0042】
さらにまた、第2のコーティング剤に増粘性を付与するための添加剤には、脂肪酸系添加剤が好ましい。
【0043】
添加剤の添加量が、炭化水素系樹脂100質量部に対して0.1〜5質量部の範囲内であることが好ましい。添加量が1質量部未満であると、添加剤が及ぼす影響が小さく、粘度およびチクソ比が第1のコーティング剤と大差がないのでリードを備えた面実装型の電子部品や、リードや端子ピンを備えた挿入型の電子部品を実装した構造体において、そのリードや端子ピンを含む電極部を確実に被覆することが困難となり、また、5質量部を超えると、粘度とチクソ比が高くなるため、塗布後の拡がりが悪くコーティング剤としての機能を果たすことができなくなる。
【0044】
第1のコーティング剤と第2のコーティング剤とによる被膜の厚さが25〜100μmの範囲内であることが好ましい。その膜厚が25μm以上とすることによって、漏れ電流を無視できる範囲内のきわめて微弱なものとすることができることを実験的に確認した。また、膜厚が100μmを超えると、絶縁状態が良好であるものの、実装構造体を組込む電子装置の小型化、薄型化を困難なものとするため、厚みは100μmであることが望ましい。膜厚を確認するための方法には、たとえば、第1および第2のコーティング剤にあらかじめ顔料や染料を加えて、視認性を高める方法がある。
【0045】
この方法によれば、被膜が着色されてしまうことから、膜厚確認を容易にするためにその添加比率を高めると、被膜の透明度が低下してしまい、電子回路基板に対する電子部品の接合状態や、それら部材に付されているマーク等の表示を確認するのがむずかしくなるというおそれも生じる。このような確認が必要となる場合には、通常の染料や顔料に代えて蛍光染料を使用することが好ましい。この方法によれば、被膜が可視光では透明またはほぼ透明であることから、可視光によって被膜を通して部品の接合状態や、マーク等を人による視認、または画像認識装置による検査で確認可能となる。そして、紫外線ランプを使用し紫外光を被膜に照射することによって、その発光状態の分布から電子部品が被覆されていることを容易に確認することができる。
【0046】
本発明の実装構造体における実施の形態は、電子部品が実装された電子回路基板と、電子部品から電子回路基板にわたって被覆する、耐湿性および絶縁性を有する保護被膜とを有し、この保護被膜が第1のコーティング膜とその上に形成された第2のコーティング膜とからなり、かつ第1および第2のコーティング膜の主成分が同じである。
【0047】
この構造体において、第1のコーティング膜が炭化水素系樹脂からなることが好ましい。
【0048】
第2のコーティング膜は、第1のコーティング膜における炭化水素系樹脂に増粘性を付与する液状の添加剤を添加含有させたものであることが好ましい。
【0049】
添加剤が、炭化水素系樹脂100質量部に対して0.1〜5質量部の範囲内であることが好ましい。
【0050】
本発明のリペア方法における実施の形態は、上述の実装構造体に実装された電子部品のうちのリペアすべき電子部品およびその周辺部分を覆う、第2および第1のコーティング膜を、同じ成分の溶剤を使用して溶解させまたは軟化させて除去し、対象となる電子部品をリペアすることを特徴とする。
【0051】
これによれば、第1および第2のコーティング剤の主成分が同じであるので、リペアすべき電子部品上の被膜を同じ溶剤で除去することができ、その除去作業が容易となる。そして、電子部品取外し後の電子回路基板の被膜除去領域にコーティング膜の一部が残渣として残ることがあったとしても、従来品に比べてその量が非常に少なくなる。そのため、残渣をさらに除去する必要があるときには、それをきわめて容易に除去することが可能となる。コーティング剤残渣の除去には、イソプロピルアルコール等のアルコール系の溶剤や炭化水素系の溶剤を使用するのが好ましい。
【0052】
次に、本発明の実施例について説明する。
〔実施例〕
【0053】
まず、第1および第2のコーティング剤を塗布するための実装構造体として、図1に示す電子デバイスを準備した。図1において、電子回路基板1は、その少なくとも一方の主面上に所定の回路パターンの導電路(図示せず)を有する。この一方の主面上の所定箇所に、それぞれSOPタイプの電子部品2、各種チップ部品3およびコネクタ4が実装されている。電子部品2はたとえば半導体メモリまたはCPU等の半導体集積回路装置であり、チップ部品3は抵抗器やコンデンサ等であって、これらは互いに接続されて所定の機能を有する電子デバイスを構成している。コネクタ4はこの電子デバイスと他の電子デバイスとの電気的な接続に使用される。
【0054】
コネクタ4は、図3に示すように、たとえば、絶縁性ハウジング41に設けられたスロット42内に弾性を有する複数個の端子部43が配置され、各端子部43と一体に形成されたピン状端子部44がハウジング41を貫通しかつそれに保持された構造である。ピン状端子部44は電子回路基板1に設けられたスルーホールを通して、図2に示すように、電子回路基板1の他方の主面側に突出している。この実施例では、コネクタ4としてタイコエレクトロニクアンプ社製の品番『749771』を使用し、電子回路基板1の導体箔からなるランド11に、SnAgCuのやに入り半田(千住金属工業株式会社製『エコソルダーM705』)を使用して、温度300℃の半田鏝を使用して半田付けした。
【0055】
これと並行して、第1および第2のコーティング剤を準備した。第1のコーティング剤として、飽和炭化系樹脂であるChas社製『HumiSeal 1B51NSLU』2質量部に、シンナーを1質量部を加えて希釈して作製した。その粘度は230mPa・sであり、チクソ比の値は1.05であった。また、第2のコーティング剤として、飽和炭化系樹脂には第1のコーティング剤と同じChas社製『HumiSeal 1B51NSLU』を使用し、この樹脂成分100質量部に希釈剤としてシンナーを50質量部、および増粘のためのアミド化合物(添加剤)として楠本化成株式会社製『ディスパロン301』を0.5質量部添加して作製した。その粘度は500mPa・sであり、チクソ比の値は1.5であった。なお、これらコーティング剤の粘度の測定には、円錐・平板回転粘度計を使用し、温度25℃で行った。チクソ比については、温度25℃において、回転速度5rpm、50rpmにおける粘度V5rpm、V50rpmの比の値V5rpm/V50rpmとした。
【0056】
第1のコーティング剤を、図2に示す、コネクタ4のピン状端子44が突出した電子回路基板1の他方の主面側に、カーテンコートタイプのディスペンサー(アシムテック社製『Select Coat SL-940E』)で塗布した。塗布条件は、ディスペンサー速度を300mm/秒、吐出部高さを10mm、ヒーター温度を40℃とした。
【0057】
塗布後、室温において1時間放置して硬化させて、第1のコーティング膜51を形成した。ピン状電極部44の存在しない電子回路基板1の主面部分での膜厚T1を測定すると26〜35μmであり、半田接合部12上からピン状電極部44の側面部分上から先端部分上にわたって厚みが薄くなり、先端部分上ではその厚さt1が5〜25μmであった。そして、保護膜としての機能が実質的に得られない、きわめて薄い被膜の形成されたピン状電極部も見受けられた。
【0058】
次に、第2のコーティング剤を、エア式ディスペンサー(武蔵エンジニアリング株式会社製『MS-10DX』)を使用してピン状電極部44の部分に選択的に塗布し、室温で1時間放置して硬化させて、第2のコーティング膜52を形成した。なお、エア式ディスペンサーによる塗布条件は、ディスペンサー速度を100mm/秒、吐出部高さを10mm、ヒーター温度を30℃とした。
【0059】
第2のコーティング膜52は、図5に示すように、ピン状電極部44の先端部分においても十分な付着強度で形成されており、その膜厚t2を抜取り検査で測定したところ25〜50μmであった。また、電子回路基板1のピン状電極部44間の平坦な基板面部分上においても、ほぼ同じ厚みの被膜が形成された。なお、膜厚の測定は、抜取った試料の断面を研磨し、走査電子顕微鏡(SEM)を使用して行った。
【0060】
同様の手順で、電子回路基板1のSOPタイプの電子部品2およびチップ部品3上を含む、それらをマウントした面上についても、コネクタ4上を除いて第1および第2のコーティング膜を順次形成した。SOPタイプの電子部品2においては、その複数本のリード端子が、そのパッケージの平行な両側面から狭ピッチで突出し、先端部分が同方向へ折曲げ加工されて、各先端部が電子回路基板1上の対応する導電体に半田接合される。このため、そのリード端子には電子回路基板1の主面に対して急勾配の部分を有する。このような急勾配の部分については、第1のコーティング膜が保護作用を得るのに十分な厚さでその上に形成されない箇所が見受けられたが、その上に第2のコーティング剤を塗布することによって、厚さ25〜50μmの第2のコーティング膜が形成された。
【0061】
このように、第1のコーティング膜51のみでは保護作用が十分な厚みが得られない実装部品の構造部材上が、第2のコーティング膜52で被覆することによって、水分や湿気、塵埃等から確実に保護することができる。さらに、第1および第2のコーティング膜51および52は同じ主成分からなるため、第2のコーティング膜52は全域にわたって第1のコーティング膜51に強固に密着し、その結果、第1のコーティング膜51の薄い部分をも確実に被覆することができる。
【0062】
第1および第2のコーティング膜51および52による保護機能を調査するため、電源装置を用いてコネクタ4の端子部43間に100Vの電圧を印加し、第2のコーティング膜52の、ピン状端子部44の半田接合部12間の部分上に、濃度15質量%のNaCl水溶液10ccを滴下し、漏れ電流を測定した。その結果、滴下前、および滴下して30分経過後のいずれにおいても、漏れ電流はきわめて微弱で実使用上無視できる値であり、絶縁状態の維持されていることが確認された。
【0063】
このような保護作用の優れたコーティング膜の形成において、まず粘度の低い第1のコーティング剤を噴霧式ディスペンサー等で所定の領域内に広く均一に塗布し、さらにそれより粘度を増大させた第2のコーティング剤を、リード端子を備えた面実装タイプの部品や挿入部品の、リード端子部分上に重ねて塗ることにより、電子回路基板面に対して勾配をもつ電極部や基板面に直立するような形態の電極部を確実に、また、塗布禁止エリアへの飛散を抑えて被覆することができる。
【0064】
さらに、コネクタ4をリペアするために、第1および第2のコーティング膜51および52の、ピン状電極部44上およびその近傍の周辺部分上を、アセトンで浸したウエスで10分間覆った。そして、ウエスを取り除き、竹串等の絶縁性のピン状治具を使用し、その先端をウエスで被覆していた部分に刺し、引き上げたところ、その部分が残渣を残すことなく取り除かれた。ここでは、コーティング膜51、52が溶解する前の軟化した状態で除去したが、それらを溶解させ除去してもよい。それからコネクタ4の半田接合部12を半田鏝で加熱溶融させて除去し、新たなコネクタに交換して半田付けし、第1および第2のコーティング剤を順次塗布して、そのピン状端子部を被覆保護した。なお、この交換後においては、第2のコーティング剤を直接に塗布して、保護のためのコーティング膜を形成してもよい。
【0065】
このように、第1および第2のコーティング膜51および52の主成分が同じであるため、溶剤1種でリペアが可能となるだけでなく、リペアに支障を来たすような残渣を生じることもない。これにより、電子部品を容易にリペアすることができ、また、リペア後の状態も美麗であり、実装構造体の商品価値を低減させるおそれがない。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、被覆困難な、電子回路基板に対して勾配のある電子部品の電極部分や挿入部品の電極部を、確実に被覆し保護することができ、さらに主成分が同じ二つのコーティング剤を用いることによりコーティング剤間の密着性がよく、さらにまたリペアの際には、共通の溶剤で被膜を容易に除去することができる。そのため、車載用の機器や洗濯機等のように過酷な条件の環境において使用される機器等の、高い信頼性が求められる電子機器に搭載される実装構造体に適用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 電子回路基板
2 SOPタイプの電子部品
3 チップ部品
4 コネクタ
11 ランド
12 半田接合部
41 絶縁性ハウジング
42 スロット
43 弾性を有する端子部
44 ピン状端子部
51 第1のコーティング膜
52 第2のコーティング膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品が実装された電子回路基板の、少なくとも耐湿性および絶縁性が必要とされる部位に耐湿性および絶縁性を有する保護被膜を形成する方法であって、
樹脂を含む第1のコーティング剤を塗布して第1の被膜を形成する第1の工程と、
前記第1のコーティング剤に増粘性を付与する添加剤を加えた第2のコーティング剤を塗布して第2の被膜を形成する第2の工程と
を有することを特徴とする保護被膜による実装構造体の被覆方法。
【請求項2】
前記第1のコーティング剤が、炭化水素系樹脂と、前記炭化水素系樹脂を溶解する溶剤とを含むことを特徴とする請求項1に記載の保護被膜による実装構造体の被覆方法。
【請求項3】
前記第1のコーティング剤の粘度が、円錐・平板回転粘度計を用いて室温で測定した値が100〜300mPa・sの範囲内にあり、チクソ比が、同じ条件下で測定した値が0.8〜1.2の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の保護被膜による実装構造体の被覆方法。
【請求項4】
前記添加剤が脂肪酸系添加剤であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の保護被膜による実装構造体の被覆方法。
【請求項5】
前記添加剤の添加量が、前記炭化水素系樹脂100質量部に対して0.1〜5質量部の範囲内であることを特徴とする請求項3に記載の保護被膜による実装構造体の被覆方法。
【請求項6】
前記第2のコーティング剤の粘度が、円錐・平板回転粘度計を用いて室温で測定した値が300〜1000mPa・sの範囲内であって、チクソ比が、同じ条件下で測定した値が1.5〜2.5の範囲内であることを特徴とする請求項1、4または5に記載の保護被膜による実装構造体の被覆方法。
【請求項7】
前記第1のコーティング剤と前記第2のコーティング剤とによる被膜の厚さが25〜100μmの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の保護被膜による実装構造体の被覆方法。
【請求項8】
電子部品が実装された電子回路基板と、前記電子部品から前記電子回路基板にわたって被覆する、耐湿性および絶縁性を有する保護被膜とを有し、前記保護被膜が第1のコーティング膜と前記第1のコーティング膜上に形成された第2のコーティング膜とからなり、前記第1および前記第2のコーティング膜の主成分が同じであることを特徴とする実装構造体。
【請求項9】
前記第1のコーティング膜が炭化水素系樹脂からなることを特徴とする請求項8に記載の実装構造体。
【請求項10】
前記第2のコーティング膜は、前記第1のコーティング膜における炭化水素系樹脂と増粘性を付与する添加剤とを含んでいる特徴とする請求項8に記載の実装構造体。
【請求項11】
前記添加剤の添加量が、前記炭化水素系樹脂100質量部に対して0.1〜5質量部の範囲内であることを特徴とする請求項10に記載の実装構造体。
【請求項12】
請求項8から請求項11のいずれか1項に記載の実装構造体に対して、前記第2のコーティング膜と前記第1のコーティング膜とを、共通の溶剤を用いて溶解させまたは軟化させて除去し、リペアすることを特徴とする実装構造体のリペア方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−66080(P2011−66080A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213530(P2009−213530)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】