説明

偏平導電性繊維及びその製造方法

【課題】画像形成装置のブラシ用導電糸として用いて、均一でかつ鮮明な印刷画像が得られる導電糸及びその製造方法を提供する。
【解決手段】導電性物質を含有する1以上のポリマーからなる繊維であって、該繊維には捲縮が付与されており、かつ、該繊維はその横断面において最大長さ(長軸)aとそれに直交する軸で最大となる長さ(短軸)bとの比b/aが0.47以下である偏平断面を有する偏平導電性繊維とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏平導電性繊維及びその製造方法に関する。さらに詳細には、レーザープリンター等の画像形成装置に用いるブラシ、例えば画像転写後の感光ドラム表面を除電するための除電ブラシ、感光ドラム表面を帯電するための帯電ブラシ、感光体上の残留トナーを除去するためのクリーニングブラシ等として好適に用いることができる偏平導電繊維及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真記録方式の乾式複写機やファクシミリ、プリンターなどに用いられるブラシ用繊維としては、セルロース系繊維や導電性カーボンを含有したビニロン導電糸やナイロン導電糸あるいはポリエステル導電糸が用いられている(例えば特許文献1〜4等)。
【0003】
また、従来、導電糸はまっすぐなフィラメント糸のままで、カットパイル織編物、あるいはタフトや起毛などにより立毛された立毛布帛の、それぞれ立毛繊維として用いられ、さらにこれを導電性ブラシとして利用されるのがほとんどである。
【0004】
しかし、上記導電性ブラシでは、これを感光ドラム等と接触させた場合、点接触となるため除電斑、帯電斑、クリーニング斑が生じ、均一かつ鮮明な印刷画像が得られないという問題がある。このため、パイル織編物等の立毛密度を高くするといった方法が考えられるが、かかる方法でも限界がある。
【0005】
【特許文献1】特開平9−49117号公報
【特許文献2】特開2000−355823号公報
【特許文献3】特開2000−160427号公報
【特許文献4】特開2003−66669号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記背景技術に鑑みなされたもので、その目的は画像形成装置のブラシ用導電糸として用いて、均一でかつ鮮明な印刷画像が得られる導電糸及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、ブラシに用いる導電性繊維に捲縮を付与することにより、該導電性繊維の先端が屈曲あるいは湾曲した形状となり、感光ドラム等との接触面積が大きくなり、除電、帯電、クリーニングの作用面積が大きくなる効果により、上記問題を解決できると考えた。また、捲縮を付与するため、繊維に仮撚加工を施したところ、特定の繊維に該加工をしたものはさらに上記効果が大きくなることを見出した。さらに、導電性繊維の品質が低下したり加工時に断糸したりする問題があったが、これらを解決し本発明に到達した。
【0008】
かくして、本発明によれば、導電性物質を含有する1以上のポリマーからなる繊維であって、該繊維には捲縮が付与されており、かつ、該繊維はその横断面において最大長さを示す軸を長軸としそれに直交する軸を短軸としたとき、該最大長さaと短軸で最大となる長さbとの比b/aが0.47以下である偏平断面を有すことを特徴とする偏平導電性繊維が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、導電性物質を含有する1以上のポリマーからなり、伸度が120%以上の合繊繊維を、該ポリマーの融点よりも低い温度で、延伸倍率を1.4倍以上、撚り係数を0.93以上として延伸仮撚加工することを特徴とする偏平性導電繊維の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の偏平導電性繊維によれば、画像形成装置のブラシ用導電糸として用いて、均一でかつ鮮明な印刷画像が得ることができる。また、本発明の製造方法によれば、高品質の捲縮を有する導電性繊維を安定して製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の偏平導電繊維は、導電性物質を含有する1以上のポリマーからなる繊維であればよい。以下図1を用いて具体的に説明する。図1は本発明の導電性繊維の偏平横断面を模式的に示したものである。また、上記の偏平横断面は、図2に示すような多角形の形状をしているものも含まれる。
【0012】
本発明の導電繊維は、例えば図1(イ)のように導電性物質を含有させた単一のポリマーからなる繊維であってもよい。また、(ロ)〜(チ)のように導電性物質を含有するポリマーと導電性物質を含有しないポリマーとを複合した複合繊維であってもよく、(へ)〜(チ)のように導電性物質を含有するポリマーを芯部、導電性物質を含有しないポリマーを鞘部とした芯鞘複合繊維であることが好ましく、(チ)のように芯部に芯鞘複合繊維の表面に接近する突起部を6個以上設けた芯鞘複合繊維が特に好ましい。
【0013】
(ロ)〜(チ)のように、導電性物質を含有するポリマーと導電性物質を含有しないポリマーとを複合した複合繊維とした場合は、それぞれのポリマーや導電性物質として以下のものを好ましくあげることができる。
【0014】
すなわち、本発明における導電性物質を含有するポリマーとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリブタジエン等のポリオレフィン、ナイロン−6、ナイロン6,6等のポリアミド又はこれらを主成分とする共重合ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル又はこれらを主成分とする共重合ポリエステルを例示することができ、なかでもポリオレフィン、特にポリエチレンが好ましい。なお、これらのうち2種以上を併用してもよい。
【0015】
上記の導電性物質としては、導電性カーボンブラック、導電性金属化合物等を使用することができる。カーボンブラックの種類としては、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラック、チャネルブラック、ケッチェンブラック等が例示される。他方導電性金属化合物としては、導電性金属酸化物を主たる対象とし、特に白色性に優れた酸化第二錫および酸化亜鉛が好ましい。ここでいう酸化第二錫には、少量のアンチモン化合物を含む酸化第二錫、酸化チタン粒子の表面に少量のアンチモン化合物を含む酸化第二錫をコーティングして得られる導電性金属複合体も含まれる。また酸化亜鉛には少量の酸化アルミニウム、酸化リチウム、酸化インジウム等を溶解した導電性酸化亜鉛も含まれる。これらは、通常微粉末として芯部を構成するポリマーに分散して用いることができる。
【0016】
一方、導電性物質を含有しないポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン−6やナイロン−6,6等のポリアミドなどがあげられ、また、これらに少量の第3成分が共重合された共重合体であってもよい。なかでも、製糸性などの点から固有粘度0.50〜0.70のポリエチレンテレフタレートが好ましい。また、上記ポリマーには、必要に応じて、任意の添加剤、例えば艶消剤、着色剤、酸化防止剤、染色性向上剤、制電剤等を含有させてもよい。
【0017】
なお、(イ)のような単一なポリマーからなる繊維横断面とした場合は、該ポリマーとして前記の導電性物質を含有するポリマーに例示したものを好ましく挙げることができるが、なかでもポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0018】
本発明においては、導電性繊維に捲縮が付与されていること、及び、該繊維がその横断面において最大長さ(長軸)aとそれに直交する軸で最大となる長さ(短軸)bとの比b/aが0.47以下である偏平断面を有すことが肝要である。なお、ここで、aとbは、具体的にはそれぞれ図2に示す長さをいう。
【0019】
すなわち、上記のように導電性繊維を先端が捲縮によって屈曲あるいは湾曲した形状となっているため、これを画像形成装置の導電ブラシとして用いた際、従来のまっすぐな導電糸と比較し、繊維先端と感光ドラム等との接触面積が大きくなり、除電、帯電、クリーニングの作用面積が大きくなり、その結果より均一で鮮明な印刷画像を得ることができる。
【0020】
導電性繊維としては、繊維径が細いものほど除電、帯電、クリーニングを緻密にすることができるが、トナーなどの掻き落とし性からは硬さも必要とされる。これに対して、本発明の導電性繊維は、上記のような偏平度の偏平断面を有しており、偏平な面が感光ドラム等に対して水平に向きやすいため、繊度を大きくし適度な硬さを維持しながら、それでいて繊維密度を挙げる効果がある。
【0021】
以上に説明した導電性繊維は、次の方法によって製造することができる。すなわち、前述した導電性物質を含有する1以上のポリマーからなる繊維で、伸度が120%以上の合繊繊維を、該ポリマーの融点よりも低い温度で、延伸倍率を1.4倍以上、撚り係数を0.93以上として延伸仮撚加工することで製造することができる。
【0022】
すなわち、導電性物質を含有するポリマーとしては、特に複合繊維とした場合、該導電性物質の分散性を向上させるため、一般に低融点や低粘度のポリマーが好ましく用いられ、該ポリマーの融点より高い温度で仮撚加工を行うと、繊維が溶融したり、複合繊維の場合は、成分間で剥離したり、また芯鞘複合繊維の場合は鞘部が破損したりするため好ましくない。
【0023】
また、延伸仮撚加工前の複合繊維の伸度を120%以上とし、これを延伸倍率1.4倍以上で延伸しながら繊維を細化させながら、撚り係数を0.93以上とすることで繊維断面方向に大きい力で締め付けることによって、もともと丸断面を有している該複合繊維を、変形させて前述した偏平度を有する偏平断面の導電繊維を製造することができる。この方法によれば、捲縮付与と繊維の偏平化を同時に行うことができる。
【0024】
ただし、上記の複合繊維の伸度があまり大きいと導電性繊維の配向が低くなりすぎ、仮撚加工で融着が発生したり、強度が低下したりしやすくなるため、該伸度は260%以下とするのが好ましい。また、撚り係数が大きくなる過ぎると、仮撚で2重撚り構造が発生したり、断糸しやすくなったりするため、撚り係数は1以下とするのが好ましい。
【0025】
上記導電繊維の捲縮率はあまり高すぎてもブラシ用の立毛布帛としたとき立毛の配向や配列が乱れやすく、例えば、クリーニングすべきトナーがブラシ内部に蓄積されてしまうといった不具合もおこりやすい。一方、捲縮率があまり低すぎても捲縮付与による前述したの効果を十分に発揮できない。よって、捲縮率としては2〜8%が好ましい。
【0026】
また、上記導電繊維の断面電気抵抗値は、10〜1011Ω/cmが好ましい。画像形成装置の種類によりも異なるが、かかる断面電気抵抗値の範囲とすることで、均一な帯電、除電、クリーニング効果を得やすくなる。
【0027】
上記導電繊維を用いて導電性ブラシとするには、例えば、該導電繊維を少なくとも立毛部分に用いた立毛布帛とし、これを平面に貼り付けるか、これを支柱(軸)に螺旋状に巻きつけてブラシ形状とする。その後、立毛処理、シャーリング処理を行い、画像形成装置用の導電性ブラシとすることができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例より本発明をさらに詳細に説明する。評価方法は以下の通りである。
(1)ポリエステルの固有粘度
オルソクロルフェノールを用い25℃で測定した。
(2)印刷画像品質
電子写真学会が発行するテストチャートを複写し、印刷回数1回での印刷画質の均一性、鮮明性を5人で官能評価した。
【0029】
[実施例1]
ポリエチレン(住友化学製スミカセンG−807)70重量部に対してファーネス系の導電性カーボンブラック30重量部を添加し、溶融混合して得られた導電性ポリマーのチップ(融点130℃)と、固有粘度0.64、融点256℃のポリエチレンテレフタレートのチップ(帝人ファイバー製)とを複合紡糸口金を用いて、紡糸温度290℃、引取り速度2400m/分として紡糸し、伸度165%の56デシテックス4フィラメントの図1(チ)の横断面を有する芯鞘複合繊維を得た。
【0030】
次いで、上記複合繊維を6本合糸し、スピンドル方式の撚り掛け装置を備えた仮撚加工機を用いて、加工温度130℃、延伸倍率1.7倍、仮撚数2327T/m(撚係数0.95)、加工速度120m/分で延伸仮撚加工を施し、捲縮率6%、平均偏平度0.42の偏平導電性繊維を得た。
【0031】
さらに上記捲縮糸に100T/mの撚糸を施し、パイル織機を使用して立毛織物を作成し、これを20mm幅のテープ状にスリットして金属製の軸にらせん状に巻きつけ、パイルの高さが一定になるようカットして整え導電性ブラシを作成した。
この導電糸ブラシを画像形成装置に使用したところ、印刷画像は均一性、鮮明性がいずれも優れていた。
【0032】
[比較例1]
実施例1と同じ導電性ポリマーのチップと、ポリエチレンテレフタレートのチップを用い複合紡糸口金を用いて、紡糸温度290℃、引取り速度1200m/分として紡糸し、未延伸糸を得た。この未延伸糸を、予熱100℃、熱セット温度180℃、延伸倍率3.1倍で熱延伸し、伸度は40%、33デシテックス4フィラメントの図2(チ)の横断面を有する芯鞘複合繊維の伸度糸を得た。
【0033】
次いで、上記延伸糸を8本合糸し、スピンドル方式の撚り掛け装置を備えた仮撚加工機を用いて、加工温度130℃、仮撚り数1741T/m(仮撚り係数0.83)、加工速度100m/分で仮撚り加工を施し、捲縮率6%、平均偏平度0.85の導電繊維を得た。さらに上記捲縮繊維を用い、実施例1と同様にして導電性ブラシを作成した。
この導電糸ブラシを画像形成装置に使用したところ、印刷画像は均一性、鮮明性がいずれも実施例1の印刷画像よりも劣っていた。
【0034】
[比較例2]
合糸した延伸糸に仮撚り加工を施さなかった以外は比較例1と同様にして、導電性ブラシを作成し、画像形成装置に使用した。得られた印刷画像は均一性、鮮明性がいずれも比較例1の印刷画像よりも劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の導電繊維によれば、画像形成装置のブラシ用導電糸として用いて、均一でかつ鮮明な印刷画像が得ることができる。また、本発明の製造方法によれば、高品質の捲縮を有する導電繊維を安定して製造することができる。このため、本発明の導電繊維およびその製造法はいずれもその産業上の利用価値が極めて高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の偏平導電糸を構成する複合繊維の横断面形状の例を示す模式図である。
【図2】本発明の偏平導電糸を構成する複合繊維の横断面において、該横断面における最大長さ(長軸)aと、aに直交する軸で最大となる長さ(短軸)bを説明する図である。
【符号の説明】
【0037】
a 繊維横断面における最大長さ(長軸)
b aに直交する軸で最大となる長さ(短軸)
1 芯部
2 鞘部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性物質を含有する1以上のポリマーからなる繊維であって、該繊維には捲縮が付与されており、かつ、該繊維はその横断面において最大長さ(長軸)aとそれに直交する軸で最大となる長さ(短軸)bとの比b/aが0.47以下である偏平断面を有することを特徴とする偏平導電性繊維。
【請求項2】
偏平導電性繊維が、導電性物質を含有させた単一のポリマーからなる繊維である、請求項1記載の偏平導電性繊維。
【請求項3】
偏平導電性繊維が、導電性物質を含有するポリマーと導電性物質を含有しないポリマーとを複合した複合繊維である請求項1記載の偏平導電性繊維。
【請求項4】
偏平導電性繊維が、導電性物質を含有するポリマーを芯部、導電性物質を含有しないポリマーを鞘部とした芯鞘複合繊維である、請求項3記載の偏平導電性繊維。
【請求項5】
芯部に芯鞘複合繊維の表面に接近する突起部を6個以上設けている、請求項4記載の偏平導電性繊維。
【請求項6】
捲縮率が2〜6である、請求項1〜5のいずれかに記載の偏平導電性繊維。
【請求項7】
導電性物質を含有する1以上のポリマーからなり、伸度が120%以上の合繊繊維を、該ポリマーの融点よりも低い温度で、延伸倍率を1.4倍以上、撚り係数を0.93以上として延伸仮撚加工することを特徴とする偏平導電性繊維の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の偏平導電性繊維を少なくとも一部に用いてなる導電性ブラシ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−336142(P2006−336142A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−161466(P2005−161466)
【出願日】平成17年6月1日(2005.6.1)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】