説明

偏波モード分散ストレス発生方法および装置

【課題】複雑な制御が不要で低コストに任意のPMDを発生させることができるようにする。
【解決手段】光入射部21に入射された光信号を偏波分離手段23により二つの直交偏波成分に分離し、その一方を第1可変遅延手段25に与え、他方を第2可変遅延手段26に与え、第1可変遅延手段25によって遅延された一方の直交偏波成分と、第2可変遅延手段26によって遅延された他方の直交偏波成分とを偏波合波手段28によって合波し、光出射部29から出射させる。制御部30は、第1可変遅延手段25と第2可変遅延手段26の遅延量を互いに異なる周期で変動させて、その周期差により、偏波合波手段28で合波された光の偏波成分の群遅延時間差を変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速光通信において問題となる光の偏波モード分散(PMD:Polarization Mode
Dispersion)に対する光伝送システム、光部品などの耐力測定に必要な偏波モード分散ストレス発生装置に関し、特に、低コストに任意のPMDが設定できるようにするための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信システムに対するPMD耐力試験に用いる装置として従来からPMDエミュレータが用いられており、このPMDエミュレータで試験対象に入射する光にPMDストレスを加え、試験対象から出射される光信号についてのビット誤り率(BER)の測定を行い、加えるPMDストレスの大きさとBERとの関連付けにより耐力評価を行っている。
【0003】
なお、PMDは光信号が光コンポーネントを通過する際の直交する2つの偏波間における伝達速度の差と定義され、PMDについて議論するとき、実際に信号劣化に影響を及ぼすのは特定波長におけるある時間での群遅延時間差DGD(Differential Group Delay )であり、PMDは波長と時間に対するDGDの平均値となり、DGDを決定すればPMDも必然的にわかる。
【0004】
PMDは、光の直交偏波成分間の速度差であり、これを発生させる方式としてこれまでに以下に示す3つの方式が提案されている。
【0005】
第1方式は、特許文献1に開示されているように、光路に対して直列に並んだ複数の複屈折素子の間に偏波コントローラを配置し、それらの偏波コントローラにより通過する光の偏波をランダムに変化させて、直交する偏波成分にDGDを与えて、PMDを発生させる方式である。この方式は、複屈折素子の数を増やしていくことで、DGDの分布を理想とされるマクスウェル分布とすることができ、また高次PMDの発生も可能である。
【0006】
しかし、この第1方式で、DGDの量は複屈折素子で与えられる位相差によって決まるため、任意のDGDを与えることが難しい。また、瞬時変化するDGDを発生させることが難しく、さらに、複数の複屈折素子と偏波コントローラが必要となるから、小型化および低コスト化が困難である。
【0007】
また、第2方式としては、特許文献2(特に図10)に開示されているように、光路に対して直列に並んだ複数の複屈折素子を機械的に回転させて、各複屈折素子に位相差を変化させることで、PMDを発生させるものであり、この方式も高次PMDの発生が可能である。
【0008】
しかし、第1方式同様に、任意のPMD量を与えることが難しく、複数の複屈折素子およびこれらを回転させる機構が必要となり、小型化および低コスト化が困難であった。
【0009】
また、第3方式としては、特許文献3に開示されているように、光を直交偏波成分に分離してその一方の光を可変遅延器で遅延させて、他方の光と合波することで、PMD(DGD)を発生させるものであり、この方式は、可変遅延器の遅延量に対応した任意で且つ正確なDGDを発生させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4098630号公報
【特許文献2】特開2006−086955号公報
【特許文献3】特開2003−143088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記第3方式は、原理的に高次PMDを発生させることができない。また、第3方式の構成で、DGDを経時変化させる場合、可変遅延器の遅延量を周期関数(例えば一定振幅の正弦関数)で変化させることが想定されるが、その場合のDGD発生分布は、図10のように両端の発生確率が高く、中央部が低い凹型分布となり、凸型のマクスウェル分布に程遠くなってしまう。つまり、可変遅延器を用いてマクスウェル分布に近い発生確率でDGDを発生させるためには、可変遅延器に対して極めて複雑な遅延量可変制御が必要となり、実現が困難である。
【0012】
本発明は、上記事情を鑑みて、複雑な制御が不要で低コストに任意のPMDを発生させることができる偏波モード分散ストレス発生方法および装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1の偏波モード分散ストレス発生方法は、
偏波モード分散の付与対象となる光信号を二つの直交偏波成分に分離し、
前記分離された一方の直交偏波成分を、第1周期(Ta)で光路長が周期変動する光路を伝搬させ、他方の直交偏波成分を、前記第1周期と異なる第2周期(Tb)で光路長が周期変動する光路を伝搬させ、
両光路を伝搬した直交偏波成分を合波して、互いに直交する偏波成分の群遅延時間差が、前記第1周期と前記第2周期による光路長変動の差に応じて変化する光を生成することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項2の偏波モード分散ストレス発生装置は、
偏波モード分散の付与対象となる光信号を入射させるための光入射部(21)と、
前記光入射部に入射された光信号を二つの直交偏波成分に分離する偏波分離手段(22、23)と、
前記二つの直交偏波成分の一方を受けて長さ可変の光路を経由させ、該光路長相当の遅延を与えて出射する第1可変遅延手段(25)と、
前記二つの直交偏波成分の他方を受けて長さ可変の光路を経由させ、該光路長相当の遅延を与えて出射する第2可変遅延手段(26)と、
前記第1可変遅延手段によって遅延された一方の直交偏波成分と、前記第2可変遅延手段によって遅延された他方の直交偏波成分を合波する偏波合波手段(22、28)と、
前記偏波合波手段で合波された光を外部へ出射するための光出射部(29)と、
前記第1可変遅延手段と前記第2可変遅延手段の遅延量を互いに異なる周期で変動させて、前記偏波合波手段で合波された光の偏波成分の群遅延時間差を変化させる制御部(30)とを備えたことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項3の偏波モード分散ストレス発生装置は、請求項2の偏波モード分散ストレス発生装置において、
前記制御部は、前記第1可変遅延手段および前記第2可変遅延手段の遅延量の変動周期、変動振幅と、それによって決まる出射光の群遅延時間差の発生分布との関係を示す情報を予め記憶しており、指定された発生分布に対応した変動周期および変動振幅で前記第1可変遅延手段および前記第2可変遅延手段の遅延量を可変制御することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の請求項4の偏波モード分散ストレス発生装置は、請求項2または請求項3記載の偏波モード分散ストレス発生装置において、
単一の偏光ビームスプリッタ(22)が、前記偏波分離手段と前記偏波合波手段とを兼ねており、
前記第1可変遅延手段と前記第2可変遅延手段は、前記偏光ビームスプリッタによって分離されてそれぞれ入射される直交偏波成分を、その入射光軸に対してそれぞれ平行で一定距離離れた光軸に沿って折り返して前記偏光ビームスプリッタに戻し、それらを直交成分とする光を、前記偏光ビームスプリッタに対する前記光信号の入射光軸と平行な光軸に沿って出射させることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の請求項5の偏波モード分散ストレス発生装置は、請求項2または請求項3記載の偏波モード分散ストレス発生装置において、
単一の偏光ビームスプリッタ(22)が、前記偏波分離手段と前記偏波合波手段とを兼ね、
前記偏光ビームスプリッタと前記第1可変遅延手段との間および前記偏光ビームスプリッタと前記第2可変遅延手段との間に、それぞれ1/4波長板(31、32)が挿入されており、
前記第1可変遅延手段と第2可変遅延手段は、前記偏光ビームスプリッタで分離された直交偏波成分を前記各1/4波長板を介して受けてこれを同一光軸で逆向きに折り返して再度前記1/4波長板に入射させて、分離時と偏光方向がそれぞれ90度異なる直交偏波成分に変えて分離時と同一光軸で前記偏光ビームスプリッタに戻し、それらを直交成分とする光を、前記偏光ビームスプリッタに対する前記光信号の入射光軸と直交する光軸に沿って出射させることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の請求項6の偏波モード分散ストレス発生装置は、請求項2または請求項3記載の偏波モード分散ストレス発生装置において、
前記偏波分離手段と前記偏波合波手段は、それぞれ個別の偏光ビームスプリッタ(23、28)によって構成されていることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の請求項7の偏波モード分散ストレス発生装置は、請求項2〜6のいずれかに記載の偏波モード分散ストレス発生装置において、
前記第1可変遅延手段と前記第2可変遅延手段の少なくとも一方が、入射光をそれと平行な光軸で折り返す直交ミラー(25a、26a)を含み、該直交ミラーをその入射光軸と平行にスライド駆動して光路長を変化させる構造を有していることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の請求項8の偏波モード分散ストレス発生装置は、請求項5記載の偏波モード分散ストレス発生装置において、
前記第1可変遅延手段と前記第2可変遅延手段の少なくとも一方が、入射光を所定角度範囲に出射する回動ミラー(25d、26d)と、該回動ミラーの出射光を受けて平行な光軸で折り返す固定の直交ミラー(25a、26a)と、該直交ミラーで折り返されて前記光回動ミラーで反射された光を同一光軸で逆向きに折り返す固定の平板ミラー(25c、26c)とを含み、前記回動ミラーの回動駆動により光路長を変化させる構造を有していることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の請求項9の偏波モード分散ストレス発生装置は、請求項2〜8のいずれかに記載の偏波モード分散ストレス発生装置において、
前記光入射部には、入射光の偏波状態をランダム化する偏波スクランブラ(21c)が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
このように、本発明は、偏波分離された二つの直交偏波成分をそれぞれ異なる周期で光路長が変動する光路を経由させて合波することで、その光路長変動の差に応じて群遅延時間差が変化する光を生成しているから、両光路の変動周期に基づいて任意のDGDを与えることができ、しかも、二つの周期変動を用いるので、その変動の周期や振幅を選ぶことで所望分布(例えばマックスウェルのような)のDGDを発生させることができる。
【0023】
さらに、装置として機械的に駆動される部分は二つの可変遅延器だけなので、小型化および低コストが可能である。
【0024】
また、光入射部に偏波スクランブラを設けたものでは、入射光の偏波依存性を排除できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の基本構成図
【図2】本発明の第1の実施形態の構成図
【図3】二つの可変遅延手段の遅延量可変制御の例を示す図
【図4】遅延量の差の変化を示す図
【図5】DGDの発生確率分布図
【図6】第2の実施形態の構成図
【図7】第2の実施形態に適用可能な可変遅延手段の構成例を示す図
【図8】第3の実施形態の構成図
【図9】第4の実施形態としての光入射部の構成例を示す図
【図10】単一の正弦関数で遅延量を変動させた場合のDGDの発生確率分布図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の偏波モード分散ストレス発生装置20の基本構成図である。
【0027】
図1において、光入射部21は、偏波モード分散の付与対象となる光信号Pin(ここでは直線偏光とする)を入射させるためのものであり、一般的に光ファイバにより入射させる場合には、その光ファイバ接続用のコネクタやコネクタから入射された光を平行光にするコリメータレンズ等が含まれる。
【0028】
光入射部21に入射された光信号Pinは、偏波分離手段23に入射され、二つの直交偏波成分(P波、S波)Pp、Psに分離される。この偏波分離手段23としては主に偏光ビームスプリッタが用いられる。
【0029】
分離された直交偏波成分の一方Ppは第1可変遅延手段25に入射され、他方Psは第2可変遅延手段26に入射される。第1可変遅延手段25と第2可変遅延手段26は、入射光を受けて長さ可変の光路を経由させ、その光路長相当の遅延を与えて出射するものであり、基本的にはその光路の一部に配置されたミラーの位置や角度を変動させて、その光路長を周期的に変動させることができる機構を有している。
【0030】
第1可変遅延手段25によって遅延された一方の直交偏波成分Pp′と、第2可変遅延手段26によって遅延された他方の直交偏波成分Ps′は、偏波合波手段28によって一つの光の直交成分として合波される。この偏波合波手段28は、偏波分離手段23と同様に偏光ビームスプリッタで構成される。
【0031】
偏波合波手段28で合波された光Poutは、光出射部29を介して出射される。この光出射部29としては、出射用のコネクタや偏波合波手段28から平行光で出射された光をコネクタの入射部に収束する集光レンズ等が含まれる。
【0032】
制御部30は、第1可変遅延手段25と第2可変遅延手段26の遅延量をそれぞれ振幅Va、Vbで互いに異なる周期Ta、Tbで変動させて、偏波合波手段28で合波された光Poutの偏波成分の群遅延時間差を変化させる。
【0033】
このような基本構成を有する偏波モード分散ストレス発生装置20では、偏波分離された二つの直交偏波成分Pp、Psを、それぞれの可変遅延手段25、26に入射させてその可変遅延手段25、26で遅延された光を合波して出射する構造であり、可変遅延手段25、26で遅延量を異なる周期Ta、Tbで変動させることで出射光のDGDを変動させるので、その変動量に応じた任意のDGD(即ち、その平均値としての任意のPMD)を与えることができる。
【0034】
また、二つの異なる周期変動Ta、Tbを用いるので、その遅延量の差の変動は、単純な一定振幅の周期関数とはならず、前記した正弦関数による凹型分布から凸型分布にすることができ、周期Ta、Tbや振幅Va、Vbを選ぶことで所望分布(例えばマックスウェルのような)のDGDを発生させることができる。
【0035】
さらに、機械的に駆動される部分は二つの可変遅延手段25、26だけで、しかも基本的にミラーを動かすだけなので、小型化および低コスト化が可能である。
【0036】
(第1の実施形態)
次に、より具体的な構成の第1の実施形態を、図2を用いて説明する。
図2の偏波モード分散ストレス発生装置20は、光入射部21が、光信号Pinを入射させるためのコネクタ21aと、入射した光を平行光にするコリメートレンズ21bにより構成され、その光入射部21から出射された光をPBS(偏光ビームスプリッタ)22で受ける。
【0037】
この偏波モード分散ストレス発生装置20は、一つのPBS22が前記した偏波分離手段23と偏波合波手段28とを兼ねた所謂マイケルソン型干渉計の構造を有しており、入射した光信号Pinを二つの直交偏波成分Pp、Psに分け、その一方Ppを第1可変遅延手段25に入射し、他方Psを第2可変遅延手段26に入射し、それらの出射光Pp′、Ps′をPBS22に戻して合波する構成となっている。
【0038】
第1可変遅延手段25と第2可変遅延手段26は、入射光をその入射光軸と平行で一定距離離れた光軸(出射光軸)に沿って折り返すための直交ミラー25a、26aと、その直交ミラー25a、26aをその入射光軸に平行にスライド移動させる駆動装置25b、26bを有しており、第1可変遅延手段25は入射光Ppを直交ミラー25aで平行に折り返し、第2可変遅延手段25は入射光Psを直交ミラー26aで平行に折り返す。
【0039】
これら折り返された光Pp′、Ps′は、それぞれ分離時と同じ偏光面で再びPBS22に互いに直交する向きで同一位置に入射されるので、PBS22の可逆性により、PBS22に対する光信号Pinの入射光軸と平行な共通の光軸上でそれらを直交成分とする光Poutに合波されて、光出射部29を介して外部に出射される。
【0040】
なお、光出射部29はPBS22で合波された光を、集光レンズ29aによって出射用のコネクタ29bに収束させ、そのコネクタ29bから外部へ出射させる。
【0041】
制御部30は、二つの可変遅延手段25、26の駆動装置25b、26bを制御して、直交ミラー25a、26aをそれぞれ異なる周期Ta、Tbで周期的にスライド移動させて、出射光Poutの二つの直交偏波成分の群遅延時間差DGDを異なる周期で変動させ、所望の発生確率分布を与える。
【0042】
制御部30には、光信号に付加したいPMDの発生確率分布毎に予め求めた変動周期Ta、Tbおよび変動振幅Va、Vbのデータが記憶されていて、外部から指定された分布に応じた周期と振幅で各可変遅延手段25、26を駆動して、指定された分布のPMDを与える。
【0043】
ここで、二つの可変遅延手段25、26の遅延量の変動を正弦的に行った場合の分布例を示す。可変遅延手段25、26の直交ミラー25a、26aを、それぞれ図3の(a)、(b)のように、同一振幅(±1に規格化して示す)で、Ta=3kHz、Tb=1.7kHzの周期でスライド移動させたとき、両可変遅延手段25、26による遅延量の差は、図4のように変化する。なお、この図4は、遅延量の差の変動の一部を示すものであり、時間経過に伴い、振幅は理論上の最大値(+2)と最小値(−2)だけでなく、その間の複数のレベル位置で極小、極大が現れる波形となる。
【0044】
そして、この波形の一部を取り出してその遅延量の差の発生確率を求めたのが、図5であり、上記したように最大値(+2)と最小値(−2)だけでなく、その間の複数の位置で極小、極大が現れる波形の特徴から凸型の分布となり、マクスウェル分布に近づけることができる。なお、上記数値は一例であり、変動振幅や変動周期を選ぶことで、所望分布を得ることが可能である。
【0045】
(第2の実施形態)
前記第1の実施形態では、偏波分離手段23と偏波合波手段28を兼用するPBS22への光信号の入射光軸と合波した光の出射光軸とが平行となる配置例であったが、図6のように、PBS22と第1可変遅延手段25との間およびPBS22と第2可変遅延手段26との間に、1/4波長板31、32を、それぞれ入射する光の偏波方向に対して、1/4波長板31、32の光軸方向が45度となるように配置することで、PBS22への光信号の入射光軸と合波した光の出射光軸とを直交させる配置が可能である。
【0046】
この場合、各可変遅延手段25、26は、例えば図示のように、直交ミラー25a、26aで折り返した光を固定の平板ミラー25c、26cで反対向きに反射して、入射光と出射光の光軸が一致する配置とする。
【0047】
この構成で、PBS22で分離された一方の偏波成分Ppは、1/4波長板31により円偏光となり、直交ミラー25a、平板ミラー25cで折り返されて再び1/4波長板31に反対向きに入射されるので、この1/4波長板31からは元の偏波成分Ppに対して90度偏波方向が回転した偏波成分Pp′が出射されることになる。そして、この偏波成分Pp′はPBS22に再入射するが、分離時の偏波方向と90度異なるから光信号Pinの入射方向には戻らず、それに直交する方向(図で下方)に出射する。
【0048】
また、PBS22で分離された他方の偏波成分Psは、1/4波長板32により円偏光となり、直交ミラー26a、平板ミラー26cで折り返されて再び1/4波長板32に反対向きに入射されるので、1/4波長板32からは元の偏波成分Psに対して90度偏波方向が回転した偏波成分Ps′が出射されることになる。そして、この偏波成分Ps′は、PBS22に再入射するが、分離時の偏波方向と90度異なるから光信号の入射方向には戻らず、それと直交する方向、即ち偏波成分Pp′と同じ方向(図で下方)に出射されて、互いに直交する偏波成分として合波された出射光Poutとなり、光出射部29へ出射される。
【0049】
なお、上記した各実施形態の可変遅延手段25、26は、直交ミラー25a、26aを移動装置25b、26bによってスライド移動させて、遅延量を変化させる構成であったが、図6に示した第2の実施形態の可変遅延手段25、26のように、直交ミラー25a、26aからの光を平板ミラー25c、26cによって逆向き同一光軸で折り返す構成の場合には、直交ミラー25a、26a側を固定し、平板ミラー25c、26cを移動装置25b、26bによって光の入出射光軸と平行にスライド移動させてもよい。
【0050】
また、図6に示した第2の実施形態の可変遅延手段25、26としては、図7のように、回動ミラー25d、26dを用いた構造も採用できる。
【0051】
即ち、偏波分離されてそれぞれ1/4波長板31、32を通過した光を、回動ミラー25d、26dでそれぞれ受ける。回動ミラー25d、26dは、半導体基板に対するエッチング処理などで構成した所謂MEMS構造の小型なものを用いることができ、これを駆動装置25b、26bによって矢印A〜Bの方向に往復回動させる。
【0052】
回動ミラー25d、26dに入射した光は反射されて直交ミラー25a、26aに入射し、その入射光軸と平行で離間した光軸に沿って出射され回動ミラー25d、26dに再入射し、反射する。この時、回動ミラ−の角度の違いによって直交ミラー25a、26aから回動ミラー25d、26dに戻って来る光の位置はそれぞれ異なるが、その戻って来た光に対する反射光は、分離光Pp、Psの入射光軸と平行(図では上下方向)となり、この入射光軸に直交する反射面をもつ平板ミラー25cによって逆経路で戻されて、分離光Pp、Psの入射光軸と同一光軸に沿って1/4波長板31、32へ出射される。
【0053】
なお、図の配置では、回動ミラー25d、26dから直交ミラー25a、26aおよび回動ミラー25d、26dを経由して平板ミラー25c、26cに至り、逆向きに戻ってくる光の伝搬長は、回動ミラー25d、26dがA方向に回動すると短くなり、B方向に回動すると長くなる。また、この構成では回動ミラー25d、26dの僅かな角度変化で、大きな遅延量変化を与えることができるという利点がある。
【0054】
(第3の実施形態)
前記第1、2の実施形態では、単一のPBS22が偏波分離手段23と偏波合波手段28を兼ねた構成(マイケルソン型干渉計)を示したが、図8のように、それらを互いに独立したPBSで構成した、所謂マッハツェンダー型干渉計の構成を採用することもできる。
【0055】
即ち、光入射部21から入射された光を、偏波分離手段としてのPBS23により、二つの直交偏波成分Pp、Psに分け、第1可変遅延手段25と第2可変遅延手段26にそれぞれ出射する。
【0056】
第1可変遅延手段25は、直交ミラー25a、移動装置25bおよび平板ミラー25eを有し、第2可変遅延手段26も同様に、直交ミラー26a、移動装置26bおよび平板ミラー26eを有している。
【0057】
第1可変遅延手段25および第2可変遅延手段26は、入射光Pp、Psをそれぞれ直交ミラー25a、26aに入射させ、それぞれの直交ミラー25a、26bで入射光軸と平行で離間した光軸に沿って折り返された光を、それぞれ平板ミラー25e、26eにより直交方向に反射して、偏波合波手段としてのPBS28に入射させ、それらが直交偏波成分となる光に合波して、光出射部29へ出射する。
【0058】
(第4の実施形態)
なお、上記各実施形態では、入射する光信号Pinを直線偏波とし、偏波分離手段22を構成するPBS22、23で分離される二つの直交偏波成分の大きさがほぼ等しくなるような偏光面で入力させて両偏波成分の遅延量に有効な変動を与えるようにしているが、各実施形態において、図9のように、光入射部21に偏波スクランブラ21cを設け、これを制御部30によって制御し、入射する光信号Pinの偏波をランダムに変化させることで、光信号Pinの偏波方向を意識しないでも出射光Poutの両偏波成分の遅延量に有効な変動を与えることができる。
【0059】
また、前記各実施形態では、第1可変遅延手段25と第2可変遅延手段26の構成を同一としていたが、これは本発明を限定するものではなく、両者の構成が異なっていてもよい。例えば、図6の実施形態で説明したように、直交ミラーと平板ミラーのいずれか一方をスライド移動させるものと、図7の回動ミラーを用いたものとを組合せてもよい。
【符号の説明】
【0060】
20……偏波モード分散ストレス発生装置、21……光入射部、22……偏光ビームスプリッタ(PBS)、23……偏波分離手段(PBS)、25……第1可変遅延手段、25a……直交ミラー、25b……駆動装置、25c、25e……平板ミラー、25d……回動ミラー、26……第2可変遅延手段、26a……直交ミラー、26b……駆動装置、26c、26e……平板ミラー、26d……回動ミラー、28……偏波合波手段(PBS)、29……光出射部、30……制御部、31、32……1/4波長板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏波モード分散の付与対象となる光信号を二つの直交偏波成分に分離し、
前記分離された一方の直交偏波成分を、第1周期(Ta)で光路長が周期変動する光路を伝搬させ、他方の直交偏波成分を、前記第1周期と異なる第2周期(Tb)で光路長が周期変動する光路を伝搬させ、
両光路を伝搬した直交偏波成分を合波して、互いに直交する偏波成分の群遅延時間差が、前記第1周期と前記第2周期による光路長変動の差に応じて変化する光を生成することを特徴とする偏波モード分散ストレス発生方法。
【請求項2】
偏波モード分散の付与対象となる光信号を入射させるための光入射部(21)と、
前記光入射部に入射された光信号を二つの直交偏波成分に分離する偏波分離手段(22、23)と、
前記二つの直交偏波成分の一方を受けて長さ可変の光路を経由させ、該光路長相当の遅延を与えて出射する第1可変遅延手段(25)と、
前記二つの直交偏波成分の他方を受けて長さ可変の光路を経由させ、該光路長相当の遅延を与えて出射する第2可変遅延手段(26)と、
前記第1可変遅延手段によって遅延された一方の直交偏波成分と、前記第2可変遅延手段によって遅延された他方の直交偏波成分を合波する偏波合波手段(22、28)と、
前記偏波合波手段で合波された光を外部へ出射するための光出射部(29)と、
前記第1可変遅延手段と前記第2可変遅延手段の遅延量を互いに異なる周期で変動させて、前記偏波合波手段で合波された光の偏波成分の群遅延時間差を変化させる制御部(30)とを備えたことを特徴とする偏波モード分散ストレス発生装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記第1可変遅延手段および前記第2可変遅延手段の遅延量の変動周期、変動振幅と、それによって決まる出射光の群遅延時間差の発生分布との関係を示す情報を予め記憶しており、指定された発生分布に対応した変動周期および変動振幅で前記第1可変遅延手段および前記第2可変遅延手段の遅延量を可変制御することを特徴とする請求項2記載の偏波モード分散ストレス発生装置。
【請求項4】
単一の偏光ビームスプリッタ(22)が、前記偏波分離手段と前記偏波合波手段とを兼ねており、
前記第1可変遅延手段と前記第2可変遅延手段は、前記偏光ビームスプリッタによって分離されてそれぞれ入射される直交偏波成分を、その入射光軸に対してそれぞれ平行で一定距離離れた光軸に沿って折り返して前記偏光ビームスプリッタに戻し、それらを直交成分とする光を、前記偏光ビームスプリッタに対する前記光信号の入射光軸と平行な光軸に沿って出射させることを特徴とする請求項2または請求項3記載の偏波モード分散ストレス発生装置。
【請求項5】
単一の偏光ビームスプリッタ(22)が、前記偏波分離手段と前記偏波合波手段とを兼ね、
前記偏光ビームスプリッタと前記第1可変遅延手段との間および前記偏光ビームスプリッタと前記第2可変遅延手段との間に、それぞれ1/4波長板(31、32)が挿入されており、
前記第1可変遅延手段と第2可変遅延手段は、前記偏光ビームスプリッタで分離された直交偏波成分を前記各1/4波長板を介して受けてこれを同一光軸で逆向きに折り返して再度前記1/4波長板に入射させて、分離時と偏光方向がそれぞれ90度異なる直交偏波成分に変えて分離時と同一光軸で前記偏光ビームスプリッタに戻し、それらを直交成分とする光を、前記偏光ビームスプリッタに対する前記光信号の入射光軸と直交する光軸に沿って出射させることを特徴とする請求項2または請求項3記載の偏波モード分散ストレス発生装置。
【請求項6】
前記偏波分離手段と前記偏波合波手段は、それぞれ個別の偏光ビームスプリッタ(23、28)によって構成されていることを特徴とする請求項2または請求項3記載の偏波モード分散ストレス発生装置。
【請求項7】
前記第1可変遅延手段と前記第2可変遅延手段の少なくとも一方が、入射光をそれと平行な光軸で折り返す直交ミラー(25a、26a)を含み、該直交ミラーをその入射光軸と平行にスライド駆動して光路長を変化させる構造を有していることを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載の偏波モード分散ストレス発生装置。
【請求項8】
前記第1可変遅延手段と前記第2可変遅延手段の少なくとも一方が、入射光を所定角度範囲に出射する回動ミラー(25d、26d)と、該回動ミラーの出射光を受けて平行な光軸で折り返す固定の直交ミラー(25a、26a)と、該直交ミラーで折り返されて前記光回動ミラーで反射された光を同一光軸で逆向きに折り返す固定の平板ミラー(25c、26c)とを含み、前記回動ミラーの回動駆動により光路長を変化させる構造を有していることを特徴とする請求項5記載の偏波モード分散ストレス発生装置。
【請求項9】
前記光入射部には、入射光の偏波状態をランダム化する偏波スクランブラ(21c)が設けられていることを特徴とする請求項2〜8のいずれかに記載の偏波モード分散ストレス発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−23655(P2012−23655A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161467(P2010−161467)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】