説明

充電制御方法および充電制御装置

【課題】充電開始時の急激な電流によるバッテリーや充電器の劣化を防ぐことができる充電制御方法およびその充電制御装置を提供する。
【解決手段】電動車に搭載されたバッテリーを充電する充電器の制御状態を、定電流制御、定電力制御、定電圧制御の順に切り替える充電制御方法であって、定電流制御時における充電器の出力電流値である目標値を設定するステップ(S4)と、充電開始時における出力電流値である初期値を目標値より低く設定するステップ(S4)と、初期値から目標値までの電流増加率を設定するステップ(S4)と、を実行してから、電流増加率に基づいて初期値から目標値に到るまで出力電流値を徐々に増加させる徐変電流制御による充電を行わせるステップ(S6)を実行し、その後、制御状態を定電流制御に切り替えるステップ(S10)を実行することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充電制御方法および充電制御装置に関し、特に充電器の制御状態を、定電流制御、定電力制御、定電圧制御の順に切り替えて電動車に搭載されたバッテリーを充電する充電制御方法および充電制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の充電制御方法としては、図6に示すように、充電を開始してからバッテリー電圧が所定の電圧値になるまで、またはバッテリーの充電量が所定の値になるまでは定電流制御による充電を行い、所定の電圧値(充電量)を超えてからは充電器の出力電圧を徐々に増加させつつ出力電流を徐々に低下させる定電力制御による充電を行い、その後、充電が終了するまでは出力電流を徐々に低下させる定電圧制御による充電が行う方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−240001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の充電制御方法では、バッテリーが許容できる最大の出力電流で定電流制御による充電を始めるので、充電開始時の周囲環境の影響や充電器の状態により出力電流が少し増加しただけで、過電流によりバッテリーや充電器が劣化したり、場合によっては故障するおそれがあった。
また、バッテリーが許容できる最大の出力電流で充電を始めるので、バッテリーの状態によっては過電流となり、バッテリーが劣化することがあった。さらに、充電開始時にバッテリーの温度が急激に上昇して、バッテリーが劣化することもあった。
【0005】
本発明は上記事情を鑑みてなされたものであって、その課題とするところは、充電開始時の急激な電流によるバッテリーや充電器の劣化および故障を防ぐことができる充電制御方法およびその充電制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る充電制御方法は、電動車に搭載されたバッテリーを充電する充電器の制御状態を、定電流制御、定電力制御、定電圧制御の順に切り替える充電制御方法であって、
定電流制御時における充電器の出力電流値である目標値を設定するステップと、充電開始時における出力電流値である初期値を目標値より低く設定するステップと、初期値から目標値までの電流増加率を設定するステップと、を実行してから、
電流増加率に基づいて初期値から目標値に到るまで出力電流値を徐々に増加させる徐変電流制御による充電を行わせるステップを実行し、その後、制御状態を定電流制御に切り替えるステップを実行することを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、定電流制御時における出力電流値(目標値)よりも低い出力電流値(初期値)で充電が開始されるので、充電開始時の周囲環境の影響や充電器の状態により出力電流が増加方向にずれたとしても、過電流とならないような適正電流範囲に出力電流を抑えることができる。
また、この構成によれば、充電開始時における出力電流の増加が緩やかになるので、急激すぎることによるバッテリーの劣化も防ぐことができる。
【0008】
さらに、上記徐変電流制御による充電を行うステップの実行中に、バッテリーの温度があらかじめ設定された温度以上となった場合、徐変電流制御による充電を行うステップを終了し、定電流制御に切り替えるステップを実行することが好ましい。
【0009】
一般に、充電開始時のバッテリーの温度は、出力電流の増加に伴い急激に上昇してしまうが、ある程度上昇して所定の温度に到達すると、上昇しにくくなり安定する。
この点、この構成によれば、バッテリーの温度があらかじめ設定された値以上となった場合には、徐変電流制御による充電を行うステップを終了して、定電流制御に切り替えるステップを実行するので、充電時間を短縮することができる。
【0010】
また、本発明に係る充電制御装置は、電動車に搭載されたバッテリーを充電する充電器の制御状態を、定電流制御、定電力制御、定電圧制御の順に切り替える充電制御装置であって、
定電流制御時における充電器の出力電流値である目標値と、目標値より低い充電開始時における出力電流値である初期値と、初期値から目標値までの電流増加率とからなる制御条件を設定する制御条件設定手段と、制御状態を制御条件に基づいた徐変電流制御とした後に、制御状態を定電流制御に切り替える切替手段と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、定電流制御時における出力電流値(目標値)よりも低い出力電流値(初期値)で充電器に充電を開始させることができるので、充電開始時の周囲環境の影響や充電器の状態により出力電流が増加方向にずれたとしても、過電流とならないような適正電流範囲に出力電流を抑えることができる。
また、この構成によれば、充電開始時における出力電流の増加が緩やかになるので、急激すぎることによるバッテリーの劣化も防ぐことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、充電開始時の急激な電流によるバッテリーや充電器の劣化を防ぐことができる充電制御方法およびその充電制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る充電制御装置を用いた充電システムの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明に係る充電制御方法における出力電流とバッテリー電圧との関係を示すグラフである。
【図3】充電器の型による、目標値と初期値算出係数に関するテーブルを示す図である。
【図4】SOCと初期値算出係数に関するテーブルを示す図である。
【図5】本発明に係る充電制御方法を示すフローチャートである。
【図6】従来の充電制御方法における出力電流とバッテリー電圧との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0015】
[充電制御装置の構成]
図1に示すように、本発明に係る充電制御装置1は、車載充電器2と、バッテリーおよびバッテリー制御ユニット(EV−BCU)からなるバッテリーユニット3とともに電動車内の充電システム10を構成している。
また、充電制御装置1、車載充電器2、バッテリーユニット3、および車両制御ユニット(EV−ECU)4は、CANを介して相互に通信可能に接続されている。
【0016】
バッテリーは、給電ステーション等に設置されている設置型充電器(不図示)によって充電されるか、電動車内の車載充電器2によって充電される。設置型充電器は、高電圧(例えば、DC400V)の直流電力をバッテリーに供給する。
一方、車載充電器2は、家庭用電源5から供給される低電圧(例えば、AC100V)の交流電力を、高電圧(例えば、DC400V)の直流電力に変換してバッテリーに供給する。
【0017】
車載充電器2および設置型充電器(以下、これらをまとめて「充電器2」と呼ぶこととする。)の制御状態には、徐変電流制御と、定電流制御と、定電力制御と、定電圧制御とがあり(図2参照)、これらの制御状態は、充電制御装置1の制御下で切り替えられる。
【0018】
図1に示すように、充電制御装置1は、制御条件設定手段11と、切替手段12と、記録手段13とを備える。
このうち、制御条件設定手段11は、図2に示すように、定電流制御時における充電器2の出力電流値である目標値I1と、充電開始時における出力電流値である初期値I0と、初期値I0から目標値I1までの電流増加率とからなる制御条件を設定する。
【0019】
制御条件設定手段11により設定される目標値I1および初期値I0は、車両制御ユニット4からの指令値に基づいて算出される場合と、バッテリーの容量および充電量(SOC)に基づいて算出される場合とがある。
まず、前者について説明する。図3は、目標値I1と初期値算出係数の関係を規定したテーブルTである。このテーブルTは記録手段13に予め記録されている。ここで、例えば、目標値I1が10A、充電器2の種類が小形の設置型充電器の場合であれば、テーブルTから初期値算出係数は、30.0%であることが分かる。このため、初期値I0は、3A(=10A×0.3)と算出される。
【0020】
一方、後者の場合は、バッテリーが許容できる最大の出力電流値が目標値I1となる。また、初期値I0は、目標値I1と図4に示すテーブルとに基づいて算出された値となる。
図4に示すテーブルは、記録手段13にあらかじめ記録されたものであり、SOCと初期値算出係数との関係を示している。このテーブルによれば、例えば、目標値I1が10A、SOCが40%であれば、初期値I0を5A(=10A×0.5)とすればよいことが分かる。
【0021】
記録手段13には、バッテリーの容量毎に複数のテーブルが記録されている。また、各テーブルに示されたSOCと初期値算出係数との関係は、バッテリーの容量や充電器2の仕様等により実験的に決定される。
【0022】
制御条件設定手段11により設定される電流増加率は、初期値I0から目標値I1までの単位時間当たりの出力電流の増加率である。ここで、電流増加率は、回路構成(バッテリーおよび充電器2の仕様)の許容電流変化率により、実験的に決められる。
例えば、充電器2が許容できる最大の電流増加率が10A/secだとすると、設定される電流増加率は、その10分の1程度の1A/secとなり、これにより充電器2の劣化を防ぐことができる。
【0023】
切替手段12は、充電器2の制御状態を制御条件設定手段11により設定された初期値I0、目標値I1、および電流増加率からなる制御条件に基づいた徐変電流制御として、充電器2にその出力電流値が初期値I0から、目標値I1に到るまで徐々に増加するようにバッテリーの充電を行わせ、その後、制御状態を定電流制御に切り替える。
【0024】
徐変電流制御から定電流制御への制御状態の切り替えは、出力電流が目標値I1に到達した場合、または、バッテリーの温度があらかじめ設定された温度以上となった場合に行われる。充電開始時のバッテリーは、ある程度温度が上がると安定し、出力電流を増加させても温度が上昇しにくくなる。
このため、後者の場合、出力電流が目標値I1に到達していなくても、制御状態を定電流制御に切り替えて出力電流を目標値I1まで一気に上げることができる。
【0025】
上記のように、本発明に係る充電制御装置1によれば、定電流制御時における出力電流値(目標値I1)よりも低い出力電流値(初期値I0)で充電器2に充電を開始させることができるので、充電開始時の周囲環境の影響や充電器2の状態により出力電流が増加方向にずれたとしても、過電流とならないような適正電流範囲に出力電流を抑えることができる。
また、本発明に係る充電制御装置1によれば、充電開始時における出力電流の増加が緩やかになるので、急激すぎることによるバッテリーの劣化も防ぐことができる。
【0026】
さらに、本発明に係る充電制御装置1によれば、バッテリーの温度があらかじめ設定された温度以上となった場合に、徐変電流制御による充電を終了させて、定電流制御に切り替えることで、出力電流を目標値I1まで一気に上げることができるので、充電時間を短縮することができる。
【0027】
[充電制御方法]
次に、図5を参照して、本発明に係る充電制御方法の具体的な一例について説明する。
この例では、バッテリーの容量を50kW、充電開始時のSOCを20%とする。また、バッテリーが許容できる最大の出力電流を10A、充電器2が許容できる最大の電流増加率を10A/secとする。
【0028】
本発明に係る充電制御方法では、まず、制御条件設定手段11における徐変電流制御の制御条件設定回数および出力電流の増加回数を示すカウント数nが初期化され(S1)、バッテリーの容量、SOC、電圧、温度等を含むバッテリー情報が読み込まれる(S2)。バッテリー情報が読み込まれると、制御条件設定手段11によりすでに徐変電流制御の制御条件が設定されているか、すなわちn=0かどうかの判断が行われる(S3)。
【0029】
充電開始前は徐変電流制御の制御条件が設定されていないため、n=0と判断され、制御条件設定手段11により初期値I0、目標値I1、および電流増加率からなる制御条件が設定される(S4)。
本例では、バッテリーが許容できる最大の出力電流値が10Aであるため、目標値I1は10Aに設定される。また、初期値I0は、充電開始時のSOCが20%であるため、図4に示すテーブルに基づいて1A(=10A×0.1)に設定される。電流増加率は、前述したように、回路構成(バッテリーおよび充電器2の仕様)の許容電流変化率により、実験的に決められ、10A/secの10分の1程度の1A/secに設定される。
【0030】
制御条件設定手段11により制御条件が設定されると、切替手段12により充電器2の制御状態が徐変電流制御とされ、該制御条件に従って充電が開始される(S6)。なお、制御条件が設定されたため、カウント数nがn=1に設定される(S7)。
【0031】
徐変電流制御による充電が開始されると、制御条件設定手段11により出力電流が目標値I1(10A)に到達したかどうかの判断(S8)、およびバッテリー温度があらかじめ設定された温度(例えば、50℃)以上かどうかの判断(S9)が行われる。
出力電流が目標値I1に到達していないとの判断が行われ、かつバッテリー温度があらかじめ設定された温度未満であるとの判断が行われた場合、ステップS2に戻って充電が継続される。
なお、これらの判断(S8、S9)は同時に行われてもよいし、バッテリー温度があらかじめ設定された温度以上かどうかの判断(S9)が先に行われてもよい。
【0032】
充電が継続されると、再度バッテリー情報が読み込まれ(S2)、n=0かどうかの判断が行われる(S3)。ここではn=1となるため、制御条件設定手段11により設定された電流増加率(1A/sec)に基づいて、出力電流値を増加させて1A+1A/sec×tsec(tは図示しない充電開始からの時間)に設定され(S5)、充電器2から増加された出力電流が出力される(S6)。
出力電流が増加されると、カウント数nがn=2に設定され(S7)、ステップS8とS9の判断が行われる。
【0033】
出力電流が目標値I1(10A)に到達したとの判断が行われると、徐変電流制御を終了させ(S10)、充電器2の制御状態が定電流制御に切り替えられて、定電流制御による充電が開始される(S11)。
【0034】
同様に、バッテリー温度があらかじめ設定された温度以上であるとの判断が行われると(S9)、徐変電流制御を終了させ(S10)、充電器2の制御状態が定電流制御に切り替えられて、出力電流が10Aとなる(S11)。
【0035】
充電器2の制御状態が定電流制御に切り替えられ、定電流制御による充電が開始され(S11)、設定電圧に到達すると(S12でYES)、制御状態は定電力制御(S13)に切り替えられ、設定電圧に到達すると(S14でYES)、定電圧制御(S15)に切り替えられ、出力電流が所定値よりも小さくなるか、バッテリーのSOCが所定値より大きくなると(S16でYES)、充電が終了する。
【0036】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0037】
例えば、図4に示すテーブルにおいて、初期値I0はSOCが増加するにつれて増加するように設定されているが、SOCが増加するにつれて減少するように設定してもよく、充電中の周囲環境の影響や充電器2の状態により出力電流が増加しても、過電流とならないような適正電流範囲に出力電流が含まれる限りは任意に設定することができる。
【0038】
また、図4に示すテーブルに替えて、SOCと初期値I0との関係を示すテーブルを記録手段13にあらかじめ記録しておき、SOCに応じて直接的に初期値I0が求められるようにしてもよい。
【0039】
さらに、上記実施形態に係る充電制御方法のステップS9において、あらかじめ設定された温度を50℃に設定しているが、この温度は単なる一例であり、バッテリーの特性に応じて任意に変更することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 充電制御装置
2 充電器
3 バッテリーユニット
4 車両制御ユニット
5 家庭用電源
10 充電システム
11 制御条件設定手段
12 切替手段
13 記録手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動車に搭載されたバッテリーを充電する充電器の制御状態を、定電流制御、定電力制御、定電圧制御の順に切り替える充電制御方法であって、
前記定電流制御時における前記充電器の出力電流値である目標値を設定するステップと、
充電開始時における前記出力電流値である初期値を前記目標値より低く設定するステップと、
前記初期値から前記目標値までの電流増加率を設定するステップと、
を実行してから、
前記電流増加率に基づいて前記初期値から前記目標値に到るまで前記出力電流値を徐々に増加させる徐変電流制御による充電を行わせるステップを実行し、その後、前記制御状態を前記定電流制御に切り替えるステップを実行することを特徴とする充電制御方法。
【請求項2】
前記徐変電流制御による充電を行うステップの実行中に、前記バッテリーの温度があらかじめ設定された温度以上となった場合、
前記徐変電流制御による充電を行うステップを終了し、前記定電流制御に切り替えるステップを実行することを特徴とする請求項1に記載の充電制御方法。
【請求項3】
電動車に搭載されたバッテリーを充電する充電器の制御状態を、定電流制御、定電力制御、定電圧制御の順に切り替える充電制御装置であって、
前記定電流制御時における前記充電器の出力電流値である目標値と、前記目標値より低い充電開始時における前記出力電流値である初期値と、前記初期値から前記目標値までの電流増加率とからなる制御条件を設定する制御条件設定手段と、
前記制御状態を前記制御条件に基づいた徐変電流制御とした後に、前記制御状態を前記定電流制御に切り替える切替手段と、
を備えたことを特徴とする充電制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−60757(P2012−60757A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200824(P2010−200824)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000004606)ニチコン株式会社 (656)
【Fターム(参考)】