説明

先止め式加熱殺菌型浄水器

【課題】先止め式の用途にも安全に使用でき、かつ電磁弁や電動弁を使用しない簡便安価な加熱殺菌型の吸着式浄水器を提供する。
【解決手段】原水取入口5には温調開閉弁12が設置される。一方、浄水排出口6には温調三方弁7が設置される。温調開閉弁と温調三方弁の外側表面には電気ヒーター13,8が密着して取り付けられている。これらの電気ヒーターは加熱殺菌用の電気ヒーター4に通電される時に同時に通電されるように設定されている。このために、加熱モードでは原水側の温調開閉弁が電気ヒーターに加熱されて閉じて、原水の流入を遮断すると共に、温調三方弁も電気ヒーターに加熱されて加熱された浄水を温水排出パイプ10に導く。浄水モードではこれら3種の電気ヒーターには通電されないので、温調開閉弁は開いて原水を導入すると共に、温調三方弁は浄水を浄水供給パイプ9側に導く。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加熱殺菌型浄水器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
活性炭等の吸着剤によって水道水中の化学物質を吸着する方式の浄水器、所謂吸着式浄水器は広く普及している。吸着式浄水器においては、吸着剤を含む浄水器内部において細菌や真菌等の菌が繁殖するという衛生上の問題があることは周知の通りである。
【0003】
この問題を解決する手段として、吸着剤を含む浄水器内部を加熱する方式、所謂加熱殺菌型が提案され、一部実用化されている。例えば引用文献1、2、3では浄水器容器底面外部に電気ヒーターを設置して容器内の水を加熱する方式が提案されている。引用文献4では、浄水器容器底面内部に電気ヒーターを設置して容器内の水を加熱する方法が提案されている。このようにして、浄水器内部における菌の繁殖という衛生上の問題は解決された。
【0004】
しかしながら、加熱殺菌型の吸着式浄水器は用途が所謂元止め式に限定され、所謂先止め式の要請に応えるものは存在しない。図2に示すように、元止め式では浄水の供給は浄水器の上流側の元栓の開閉によって行われる。加熱殺菌は一般に真夜中に設定されるが、元栓は閉じられているために、加熱殺菌は浄水器内に溜められた水と吸着剤に対して行われるために、短時間に所定の温度まで昇温可能となる。
【0005】
一方、先止め式においては、図3に示すように、浄水の供給は浄水器の下流側の蛇口等の開閉によって行われる。一般に蛇口等の数は複数であり、その開閉は任意で不規則である。そのために、先止め式において加熱殺菌型の吸着式浄水器を用いた場合、過熱殺菌中に蛇口が開かれると、原水の水圧がかかり、蛇口から熱水が供給されて火傷の危険を生じる。あるいは、水が加熱層を流れ放しになるために所定の温度に昇温できないという事態が生じる。これらの不都合が、加熱殺菌型の吸着式浄水器が元止め式に限定されている所以である。
【0006】
以上のように、加熱殺菌型の吸着式浄水器で、先止め式の用途に応えられるものは無かった。若し、加熱殺菌型の吸着式浄水器で先止め式の用途に応えられるものが実現されれば、飲食店の厨房や食品工場など、複数の蛇口を有する場所に一台の浄水器を設置するだけでよくなり、経済性が格段に高まることが期待される。そのような事情から、引用文献5では、先止め式の用途にも安全に使用できる加熱殺菌型の吸着式浄水器を提案している。この提案では、図4に示すように原水側と浄水供給側と温水排出側の3箇所に電磁弁あるいは電動弁を設置している。浄水モードでは原水側の弁と浄水供給側の弁が開く。加熱殺菌モードでは電気ヒーターに通電すると共に原水側の弁と浄水供給側の弁が閉じ温水排出側の弁が開く。そのために、加熱層に原水が流入することはないので、短時間に所定の温度まで昇温可能となる。加熱殺菌中に蛇口が開かれても熱水が蛇口からでてくる危険も無い。加熱殺菌モード直後の冷却モードでは上流側の弁と温水排出側の弁が開き、浄水供給側の弁が閉じる。以上のように3つのモードをタイマー内蔵制御回路でシーケンス制御することによって課題の解決を図っている。
【0007】
以上のようにして、加熱殺菌型の吸着式浄水器で先止め式の用途に答えるものが実現された。しかしながら、周知のごとく電磁弁あるいは電動弁は高額であり、その制御には複雑で高額な回路を要するという不都合が一方で生じた。若し、電磁弁あるいは電動弁を必要としない先止め式の加熱殺菌型吸着式浄水器を実現できれば、構造は簡便となり、製造コストを著しく低く押さえることが可能となり、多用途で歓迎される浄水器となることが期待される。
【特許文献1】実開昭61−187292号
【特許文献2】特開平9−248563号
【特許文献3】特開平11−342387号
【特許文献4】特開平18−314963号
【特許文献5】登録実用新案3131349号
【発明の表示】

【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は以上の事情に鑑み為されたものであって、その解決しようとする課題は、先止め式の用途にも安全に使用でき、かつ電磁弁や電動弁を必要としない簡便安価な加熱殺菌型の吸着式浄水器を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
原水取り入れ口には温調開閉弁が設置される。この温調開閉弁は、所定温度以上では閉じて原水の流入を遮断し、所定温度以下になると開いて原水を浄水器に導入する。一方、浄水排出口には温調三方弁が設置される。この温調三方弁は、所定温度以上になると浄水を温水排出パイプの方に導き、所定温度以下では浄水を浄水供給パイプに導く。温調開閉弁と温調三方弁の外側表面には電気ヒーターが密着して取り付けられている。これらの電気ヒーターは加熱殺菌用の電気ヒーターに通電される時に同時に通電されるように設定されている。このために、加熱モードでは原水側の温調開閉弁が電気ヒーターに加熱されて閉じて、原水の流入を遮断すると共に、温調三方弁も電気ヒーターに加熱されて加熱された高温の浄水を温水排出パイプに導く。浄水モードではこれら3種の電気ヒーターには通電されないので、温調開閉弁は開いて原水を導入すると共に、温調三方弁は浄水を浄水供給パイプ側に導く。
【0010】
以上のようにして、電気ヒーターで加熱して温調開閉弁と温調三方弁とを作動させることにより課題の解決が図られる。然しながら、原水の水圧が高い時には、水圧の影響によって温調三方弁、あるいは、温調開閉弁が作動しないという不都合が生じる場合がある。すなわち、図6に示す温調三方弁を例に採ると、シリンダー内を摺動するピストンは中央部に突起部があり、この突起部を左右から形状記憶合金バネとバイアスバネとが挟んでいる。今、浄水モードでは形状記憶合金バネの温度は低いために、バネ反発力は弱く、バイアスバネに押されてピストンは図の左側に押され、温水経路をふさぐ状態になっている。この状態では、ピストンの左側は水圧から開放されているために、ピストンには左向きの水圧不釣り合い力が掛かっている。次に加熱殺菌モードに切り替わると、温調三方弁の外側表面に取り付けられた電気ヒーターに通電されて形状記憶合バネは加熱されて伸びようとする。この伸び力とバイアスバネの反発力の差が前記の水圧不釣り合い力を上回ることができない場合はピストンを図の右側方向に動かすことができず、流水経路を切り替えられないという不都合が生じることになる。
【0011】
そこで、請求項2、3で訴求したごとく、温調三方弁、あるいは、温調開閉弁内部に水圧の影響を受けずに作動するパイロット機構を設けることによってこの不都合の解決を図った。この構造を図7に沿って説明する。シリンダー内をピストンが摺動する。ピストン中央部には窪み部が設けられており、この窪み部にはストッパーが摺動自在に嵌設されている。形状記憶合金バネとバイアスバネがストッパーを挟む形で嵌めこまれている。ピストンには図の左側の温水経路と窪みを繋ぐ細い孔が開けられている。ストッパーにはピストンの位置に関わらず、左右の水圧の掛かり方は等しいので、水圧の不釣り合い力は生じない。浄水モードから加熱殺菌モードに移って、電気ヒーターに通電されると、形状記憶合金バネは加熱されて伸び、ストッパーを押す。ストッパーには水圧不釣り合い力は掛かっていないので、ストッパーは図の右方向に移動する。すると、今までストッパーによって塞がれていた細孔が開放され、同時に水圧不釣り合い力も解放される。水圧不釣り合い力が開放されるとピストン自体も形状記憶合金バネに押されて図の右方向に移動する。このようにして水圧が高い場合に流水経路が切り替わらないという不都合は解決された。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、電磁弁や電動弁を使用すること無く、加熱殺菌型の吸着式浄水器を先止め式の用途に供じることが初めて可能となった。制御方式も、加熱殺菌用ヒーターと温調開閉弁用ヒーターと温調三方弁用のヒーターとに同時に通電するのみであるから、メカニカルなタイマーでオンオフ制御するだけでよく、リレーや特別な電子回路も必要としない。以上により、簡便で安価な先止め式加熱殺菌型の吸着式浄水器が実現された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
浄水器容器は吸着層と加熱層を2体に分離してパイプ等で接続する方式でも構わないが図1に示したような一体式にした方が構造簡便で好ましい。容器形状は角筒型でも構わないが、耐圧性やシール性や製造コストの点で円筒型が好ましい。容器材料は金属性でもガラス製でもプラスチック製でも構わないが、耐熱性と耐食性と安全性の上でステンレス製が最良である。
【0014】
吸着剤としては有機吸着剤でも無機吸着剤でも構わないが、吸着性能、安全性、耐久性、経済性の観点から無機吸着剤、特に微粒子状の活性炭が最も好ましい。吸着剤の量は多ければ多いほど、寿命も長く望ましい。吸着剤の保持は容器に固定された上下2枚のステンレス製ネットで挟持される方式が好ましい。
【0015】
電気ヒーターの設置は容器底面の内部でも外部でも構わない。外部設置はヒーター表面へのスケール堆積という問題が生じない利点があるが、熱伝達効率の悪さという短所がある。逆にヒーター内蔵型は、熱伝達効率は優れているが、ヒーター表面へのスケール堆積による耐久性の低下という問題がある。内蔵型のヒーターは水に漬かるために、耐水性に優れたものが要求される。実用化されているヒーターの中ではステンレス製のシーズヒーターが最良である。
【0016】
原水供給手段としては、上水道の水を直接あるいは受水槽を介して浄水器容器底面にパイプにより導く方法が一般的であり、最良であるが、貯水槽から水位差あるいはポンプによって導いても構わない。
【0017】
温調開閉弁としてはワックスバルブ方式の温調弁でも可能であるが、図5に示すような形状記憶合金バネを利用した方式が最良である。この方式では、金属ケース内に収納された摺動自在のピストンが形状記憶合金バネとステンレス製バイアスバネにより挟持されている。原水供給パイプから供給された原水は形状記憶合金バネを通過してから原水取入口に導かれる。
【0018】
温調開閉弁の金属ケース外側表面には電気ヒーターが密着して取り付けられる。電気ヒーターとしてはラバーヒーターのような可撓性で絶縁性のものを巻きつけてもよいが、図5に示すようにセラミックヒーターを板バネのような弾性体を介して取り付ける方式、あるいは熱伝導性の接着剤を用いて接着する方式が最良である。
【0019】
電気ヒーターに通電されると金属ケースを介して形状記憶合金バネが加熱されて伸び、ピストンを図5上では右方向に移動させることにより原水の通路を遮断する。その結果、加熱殺菌モードでは原水が遮断され、浄水器内部に貯留された水のみが加熱用電気ヒーターによって加熱されて高温となる。
【0020】
温調三方弁に関しても、温調開閉弁と同様に形状記憶合金バネを利用する方式が最良である。この方式を図6に示す。金属ケース外部表面にはセラミックヒーターが弾性体を介して取り付けられる。セラミックヒーターは熱伝導性の接着剤を用いて金属ケースに接着してもよい。電気ヒーターに通電されると金属ケースを介して形状記憶合金バネが加熱されて伸び、ピストンを図上右方向に移動させることにより、温水排出口からの高温になった浄水を温水排出パイプに導く。
【0021】
次に、請求項2で訴求した温調三方弁のパイロット機構につき、図7に沿って説明する。形状記憶合金バネとバイアスバネとがストッパーを挟む形で嵌め込まれている。凡そ30℃以下ではバイアスバネの力が形状記憶合金バネの力を上回り、凡そ40℃以上では形状記憶合金バネの力が上回るように、形状記憶合金バネの温度特性・長さ・線径、バイアスバネのヤング率、線径、長さ等を設定する。形状記憶合金バネの材質については特に指定しない。バイアスバネの材質についても特に指定しないが、水中で使用するために、ステンレスを用いることが好ましい。このように設定すると、浄水モードではピストンは図の左側に押し付けられる。この時、温水経路が完全に塞がれる必要がある。図に示したように、ピストン端部に段付き部を設け、Oリングを嵌めることによって温水経路が塞がれる方式が最良である。
【0022】
ピストンには窪み部が設けてあり、ストッパーは窪み部に摺動自在に嵌め込まれている。ストッパーの摺動幅は1ミリメートル程度でよい。ストッパーの材質は金属でも硬質の高分子材料でもよい。ピストンには窪み部と温水経路とを繋ぐように細い孔が設けられている。この孔の形状は如何様でも構わない。孔径は1ミリメートル程度でよい。浄水モードでは、ストッパーが図の左側に押され、細孔の入り口を塞ぐ。この時に、水が漏れないように完全に塞ぐ必要があるので、ピストンとストッパーが共に金属材料である場合には、接触部に高分子材料で作られたシール材を介在させることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明になる加熱殺菌型吸着式浄水器は、カートリッジの交換が不要であるために年間の水の使用量が多い場合に経済性が高まる。また、構造上、流路抵抗が小さいので、大流量を確保できるために、大流量を要する場所でも喜ばれる。先止め式の利用を可能にしたために、ホテルや飲食店、給食設備等の厨房用や食品工場など、複数の蛇口を有する業務用としての利用の可能性が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の浄水器の全体構造を示した図である。
【図2】元止め式の浄水器の構造を示した図である。
【図3】先止め式の浄水器の構造を示した図である。
【図4】電磁弁を利用した先止め式の浄水器の構造を示した図である。
【図5】温調開閉弁の構造を示した図である。
【図6】温調三方弁の構造を示した図である。
【図7】パイロット機構を有する温調三方弁の構造を示した図である。
【図8】パイロット機構を有する温調開放弁の構造を示した図である。
【符号の説明】
【0025】
1.容器
2.吸着剤
3.加熱層
4.電気ヒーター
5.原水取入口
6.浄水排出口
7.温調三方弁
8.温調三方弁用ヒーター
9.浄水供給パイプ
10.温水排出パイプ
11.原水供給パイプ
12.温調開閉弁
13.温調開閉弁用ヒーター
14.弁本体
15.浄水経路
16.温水経路
17.シリンダ
18.窪み部
19.ピストン
20.ストッパー
21.形状記憶合金バネ
22.バイアスバネ
23.Oリング
24.細孔
25.弁本体
26.原水供給経路
27.給水経路
28.シリンダ
29.窪み部
30.ピストン
31.ストッパー
32.形状記憶合金バネ
33.バイアスバネ
34.Oリング
35.細孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器1、該容器内に保持された吸着剤2、前記容器内の底部に設けられた加熱層3、前記容器底部に取り付けられた加熱用電気ヒーター4、前記容器底部に設けられた原水取入口5、前記容器上部に設けられた浄水排出口6、該浄水排出口に接続された温調三方弁7、該温調三方弁外部表面に密着されて取り付けられた温調三方弁用電気ヒーター8、前記温調三方弁に接続された浄水供給パイプ9、前記温調三方弁に接続された温水排出パイプ10、原水供給パイプ11、前記原水取入口と前記原水供給パイプの間に接続された温調開閉弁12、該温調開閉弁外部表面に密着されて取り付けられた温調開閉弁用電気ヒーター13から成り、浄水モードでは前記加熱用電気ヒーターと前記温調三方弁用電気ヒーターと前記温調開閉弁用電気ヒーターには通電されず、加熱殺菌モードでは前記加熱用電気ヒーターと前記温調三方弁用電気ヒーターと前記温調開閉弁用電気ヒーターに同時に通電されることを特徴とする加熱殺菌型浄水器。
【請求項2】
温調三方弁が、弁本体14、該弁本体に穿設された浄水経路15と温水経路16と、前記弁本体に穿設されたシリンダー17、該シリンダー内に摺動自在に設置され略中央部に窪み部18を有するピストン19、前記窪み部に摺動自在に設置されたストッパー20、前記弁本体と前記ストッパーに挟設された形状記憶合金バネ21、前記弁本体と前記ストッパーに挟設されたバイアスバネ22、前記シリンダー両端部に嵌設されたOリング23、前記温水経路と前記窪み部とを繋ぐように穿設された細孔24からなることを特徴とする請求項1記載の加熱殺菌型浄水器。
【請求項3】
温調開閉弁が、弁本体25、該弁本体に穿設された原水供給経路26と給水経路27、前記弁本体に穿設されたシリンダー28、該シリンダー内に摺動自在に設置され略中央部に窪み部29を有するピストン30、前記窪み部に摺動自在に設置されたストッパー31、前記弁本体と前記ストッパーに挟設された形状記憶合金バネ32、前記弁本体と前記ストッパーに挟設されたバイアスバネ33、前記シリンダー両端部に嵌設されたOリング34、前記給水経路と前記窪み部とを繋ぐように穿設された細孔35からなることを特徴とする請求項1記載の加熱殺菌型浄水器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−262118(P2009−262118A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137254(P2008−137254)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(508155619)株式会社海津工業所 (2)
【Fターム(参考)】