説明

光スイッチ

【課題】光クロストークを低減させることができる光スイッチを提供する。
【解決手段】ミラー43は、その外形が、ミラー43の中央部を通りかつ光ファイバアレイ1の光ファイバの配列方向に平行な直線に対して直交する線分を持たない。これにより、ミラー43に照射された入力光の一部がミラ43ーの縁部で散乱し、かつ、これらが互いに干渉して生じる回折光は、上記配列方向上に生じないので、他の出力ポートに信号光が漏れ込む光クロストークを低減させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光スイッチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば、入出力ポートとなる複数の光ファイバが配列された光ファイバアレイと、照射された信号光を偏向する偏向素子とを備え、入力ポートから入力された入力光を偏向素子により偏向して何れかの出力ポートに選択的に出力させる空間光学系を用いた光スイッチが提案されている。この場合、その偏向素子として、基板上に設けられた駆動電極と、この駆動電極と対向配置され少なくとも1つの回動軸回りに回動可能に支持された反射面を備えた可動電極とを備え、駆動電極と可動電極との間の電位差により生じる静電引力により反射面を回動させる静電駆動型MEMSミラー装置が用いられている。このような光スイッチの一例を図1に示す。
【0003】
<1×n光スイッチ>
図1に示す1×n光スイッチは、ファイバアレイ1と、マイクロレンズアレイ2と、レンズ3と、MEMSミラー装置100とを備えており、これらをこの順番で1の方向(以下、「Z軸方向」という)に沿って配列した構成を有する。
【0004】
ファイバアレイ1は、複数の光ファイバ(図1の場合5本)を、その光軸をZ軸に沿わせた状態でZ軸と直交するY軸方向に並設した構成を有する。なお、図1においては、1つの入力ポート1aと4つの出力ポート1bが設けられた場合を例に説明するが、出力ポートの数量は4つに限定されず、光スイッチの用途等に応じて適宜自由に設定することができる。
【0005】
マイクロレンズアレイ2は、複数のマイクロレンズ2aをY軸方向に沿って並設したものである。このようなマイクロレンズアレイ2は、入力ポート1aの出力側および出力ポート1bの入力側、すなわちファイバアレイ1のZ方向の正の側に、各マイクロレンズが対応するファイバアレイ1の各光ファイバと対向するように配設される。
【0006】
レンズ3は、焦点距離fの公知の凸レンズから構成され、マイクロレンズアレイ2のZ方向の正の側にマイクロレンズアレイ2と対向するように配設される。
【0007】
MEMSミラー装置100は、図14に示すように、X軸方向に所定距離離間して対向配置された一対の基部101と、この基部101からX軸方向に沿いかつ対向する基部101の方向に延在した一対の支持部102と、この支持部102によりX軸回りに回動可能に支持され平面視略矩形の板状の形状を有し一方の面に反射面が形成されたミラー103と、このミラー103の反射面とは反対側の面と対向配置された基板上に設けられた図示しない駆動電極とを備え、レンズ3のZ軸方向の正の側におけるレンズ3の焦点面に配置される。このようなMEMSミラー装置100は、可動電極として機能するミラー103に接地電位、駆動電極に正(または負)の電圧を印加してミラー103と駆動電極との間に静電引力を発生させ、この静電引力によりミラー103をX軸回りに回動させるものである。
【0008】
このような光スイッチにおいて、入力ポート1aに入力された信号光は、マイクロレンズアレイ2によってビーム形成された後、レンズ3により集光される。このレンズ3の焦点面には、MEMSミラー装置100が配設されている。これにより、MEMSミラー装置100のミラー103をX軸回りに所定の角度だけ回動させると、ミラー103に入射した信号光は、その角度に対応する方向に反射され、レンズ3およびマイクロレンズアレイ2を介してファイバアレイ1の所定の出力ポート1bで結像され、この出力ポート1bに対応する光ファイバから出力される。このように、MEMSミラー素子102をX軸回りに選択的に回動させることにより、チャネル毎の出力ポートの切り替え、いわゆるスイッチングを選択的に行うことができる。
【0009】
このように、焦点距離fのレンズ3を用いて2f光学系を構成することにより、信号光の角度−位置変換が可能なf−θ光学系が構成され、このf−θ光学系の焦点面にMEMSミラー装置100を配置し、ミラー103の回動角を所定の値に設定することにより、何れかの出力ポート1bに選択的に信号光を出力させることができる光スイッチを実現することができる。
【0010】
<n×m光スイッチ>
また、図1に示すような光スイッチにおいて、光ファイバを2次元的に配列した光ファイバアレイを用いても、光スイッチを実現することができる。このような光スイッチを図2に示す。なお、この図2において、図1の光スイッチと同等の構成要素については、同じ名称および符号を付して適宜説明を省略する。
【0011】
図2に示すn×m光スイッチは、光ファイバアレイ11と、マイクロレンズアレイ12と、レンズ13と、MEMSミラー装置200とを備えており、これらがこの順番でZ方向に沿って配列した構成を有する。なお、本実施の形態においては、光ファイバを5×5に配列した場合を例に説明するが、光ファイバの行方向および列方向の数量はこれに限定されず、光スイッチの用途等に応じて適宜自由に設定することができる。
【0012】
光ファイバアレイ11は、25本の光ファイバを、その光軸をZ軸に沿わせた状態でZ軸と直交するX軸およびY軸方向にマトリクス状に並設した構成を有する。なお、図2においては、1つの入力ポート11aと24の出力ポート11bとを設けられている。
【0013】
マイクロレンズアレイ12は、複数のマイクロレンズ2aをX軸およびY軸方向にマトリクス状に並設した構成を有する。このようなマイクロレンズアレイ12は、入力ポート11aの出力側および出力ポート11bの入力側、すなわちファイバアレイ11のZ方向の正の側に、各マイクロレンズが対応するファイバアレイ11の各光ファイバと対向するように配設される。
【0014】
MEMSミラー装置200は、図15に示すように、固定された一端からY軸方向に沿って延在しかつY軸方向に所定距離離間して対向配置された一対の梁部材201と、この梁部材201からY軸方向に沿いかつ対向する基部101の方向に延在した一対のバネ部材202と、平面視略矩形の板状の形状を有し一対の対辺が対向するバネ部材202に接続され一方の面に反射面が形成されたミラー203と、このミラー203の反射面とは反対側の面と対向配置された基板上に設けられた図示しない駆動電極とを備え、レンズ3のZ方向の正の側におけるレンズ3の焦点面に配置される。このようなMEMSミラー装置200は、可動電極として機能するミラー203に接地電位、駆動電極に正(または負)の電圧を印加してミラー203と駆動電極との間に静電引力を発生させ、この静電引力によりミラー203をX軸およびY軸回りに回動させるものである。このX軸およびY軸の2軸回りの回動は、例えば、駆動電極を複数設け、この駆動電極に選択的に電圧を印加し、ミラー203に働く静電引力の分布を変化させることにより、実現することができる。
【0015】
<波長選択型光スイッチ>
さらに、図1で示した2f光学系を4f光学系とし、焦点距離fの2つのレンズの間に回折格子を配設することにより、波長選択型光スイッチ(WSS:Wavelength Selective Switch)を実現することもできる(例えば、特許文献1参照。)。この波長選択型光スイッチの一例を図3に示す。なお、図3において、図1,図2に示す光スイッチと同等の構成要素については、同じ名称および符号を付し、適宜説明を省略する。
【0016】
図3に示す波長選択型光スイッチは、ファイバアレイ11と、マイクロレンズアレイ12と、レンズ3と、4f光学系24と、MEMSミラーアレイ300とを備えており、これらがこの順番でZ軸方向に沿って配列した構成を有する。
【0017】
4f光学系24は、それぞれ焦点距離がf1の第1レンズ241および第2レンズ242と、透過型の回折格子243とから構成され、第1レンズ241、回折格子243、第2レンズ242の順序でレンズ3からZ方向の正の側に配設される。第1レンズ41は、レンズ3からレンズ3の焦点距離fおよび第1レンズ41の焦点距離f1だけ離間した位置に配設される。回折格子43は、第1レンズ41から焦点距離f1だけ離間した位置に配設される。第2レンズ42は、回折格子43から焦点距離f1だけ離間した位置に配設される。ここで、第1レンズ41のレンズ3側の焦点におけるX軸およびX軸並びにZ軸に垂直なY軸から構成される平面を第1焦点面、第2レンズ42のMEMSミラーアレイ300側の焦点におけるX軸およびY軸から構成される平面を第2焦点面という。
【0018】
MEMSミラーアレイ300は、MEMSミラー装置100をX軸方向に沿って波長チャネル数と同じ数量だけ1列に配列したものである。このようなMEMSミラーアレイ300は、MEMSミラー装置100のミラー103の主表面を4f光学系4に対向させた状態で、第2焦点面に配設される。
【0019】
このような波長選択型光スイッチにおいて、WDM信号光が入力ポート11aより入力されると、そのWDM信号光は、マイクロレンズアレイ12、レンズ3および第1レンズ241を介して回折格子243に入射し、この回折格子243によって分波され、分波されたチャネルのそれぞれが第二の焦点面のX軸上に整列してビームウェストを形成する。このビームウェスト位置には、各チャネル(図3においてはλ1〜λ5)に対応して適切なピッチでMEMSミラー装置100が配列されたMEMSミラーアレイ300が配置されている。これにより、MEMSミラー装置100をX軸回りに所定の角度だけ回動させると、そのMEMSミラー装置100に入射したチャネルがその所定の角度に対応する方向に反射され、4f光学系4、レンズ3およびマイクロレンズアレイ12を介してファイバアレイ11の所定の光ファイバに入射し、所定の出力ポート11bから出力される。このように、MEMSミラー装置100のミラー103をX軸回りに選択的に回動させることにより、チャネル毎の出力ポートの切り替え、いわゆるスイッチングを選択的に行うことができる。
【0020】
【特許文献1】特開2007−140168号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
上述したような光スイッチの光学特性は、MEMSミラー装置のミラーと、このミラーに照射される光ビームとのサイズの相対的な関係に大きく影響される。
【0022】
例えば、図16に示すように、サイズが100[μm]×100[μm]のミラーの中心に半径50[μm](I/e2径)のスポットサイズを有するガウシアンビームをその中心を一致させて照射した場合、約13.5%の光量の入射ビームがミラーに照射されないこととなる。このような現象は「クリッピング」と呼ばれ、クリッピングによりミラーに照射されなかった入射ビームは、システムの透過損失となるばかりか、迷光となって他のポートへの漏れ光となり、システムのクロストーク特性をも劣化させてしまう。これを防ぐべく、図17に示すように入射ビームのスポットサイズに対してミラーのサイズを大きくすると、MEMSミラー装置の集積度が低下してしまう。また、入射ビームがガウシアンビームである以上、クリッピング現象を完全に防ぐことは困難である。
【0023】
したがって、MEMSミラー装置を用いた光スイッチにおいては、ミラーの有限の形状サイズによって、少なからず光ビームがクリッピングされることとなる。
【0024】
一般的に、有限な形状に照射された光ビームは、回折現象を生じさせる。図14,図15に示したような矩形のミラーに照射された光ビームは、図18(a)に示すように、ミラーと光学的に平行な平面に対して、辺と直交する方向に沿い、かつ、中央部から離れるに連れて小さくなる矩形の明るい領域が配列された回折パターンを形成する。この回折パターンの光強度分布は、図18(b)に示すように、中央部から離れるに連れて小さくなる。ミラーに照射された光ビームは、その一部がミラーの輪郭部分にも照射されるが、この輪郭部分に照射された光ビームは散乱し、かつ、これらが互いに干渉することにより、回折光を生じさせる。この回折光は、図18に(a)示すように、主ビームの投影面を中心として十字状に配列された複数の輝点として現れる。
【0025】
図1で示した光スイッチの場合、ミラーのX軸に平行な辺による回折光は、Y軸方向に現れるため、そのミラーが選択した出力ポート以外のポートに漏れ込んでしまう光クロストークが発生してしまう。また、図3で示した波長選択型光スイッチでも、同様の光クロストークが発生してしまう。さらに、図2で示した光スイッチの場合、ミラーのX軸およびY軸に平行な辺による回折光が、そのミラーが選択した出力ポートとX軸およびY軸方向に並んでいる別の出力ポートに漏れ込んでしまう光クロストークが発生してしまう。このとき、輝点と出力ポートとが一致すると、システムにとっては重篤な光クロストークが発生してしまうことがあった。
【0026】
そこで、本願発明は、光クロストークを低減させることができる光スイッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上述したような課題を解決するために、本発明に係る光スイッチは、所定の方向に配列された少なくとも1つの入力ポートおよび少なくとも1つの出力ポートを備えた入出力光学系と、回動可能に支持されて、入出力光学系の入力ポートから入力された光を反射するミラーを有し、このミラーの角度に応じてその反射光を入出力光学系の出力ポートから出力させるミラー装置とを備え、ミラーの外形は、当該ミラーの中央部を通りかつ所定の方向に平行な直線に対し直交する線分を持たないことを特徴とする。
【0028】
上記光スイッチにおいて、八角形の形状を有し、この八角形の向かい合う2つの頂点を通り、かつ、所定の方向と直交する回動軸を備えるようにしてもよい。
【0029】
また、上記光スイッチにおいて、ミラーは、全体として平面視略矩形の形状を有し、少なくとも所定の方向と直交する辺の中央部が当該ミラーを含む平面内において所定の方向に屈曲するように形成されているようにしてもよい。具体的には、ミラーは、全体として平面視略矩形の形状を有し、この対辺の中央部を通り所定の方向と直交する回動軸回りに支持され、当該対辺の中央部がミラーの中央部から離れる方向またはミラーの中央部に近づく方向に屈曲し、当該対辺とは異なる他の対辺の中央部がミラーの中央部から離れる方向またはミラーの中央部に近づく方向に屈曲するように形成されているようにしてもよい。
【0030】
また、上記光スイッチにおいて、ミラー装置は、ミラーが形成された上部基板と、この上部基板と対向配置され、ミラーと対向する駆動電極を有する下部基板とから構成されるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、ミラーの外形が、当該ミラーの中央部を通りかつ入力ポートおよび出力ポートが配列された所定の方向に平行な直線に対して直交する線分を持たないので、ミラーに照射された入力光の一部がミラーの縁部で散乱し、かつ、これらが互いに干渉して生じる回折光が、上記所定の方向上に生じないので、他の出力ポートに信号光が漏れ込む光クロストークを低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
[第1の実施の形態]
以下、図面を参照して、本発明に係る光スイッチの第1の実施の形態について詳細に説明する。なお、本実施の形態に係る光スイッチは、図1を参照して背景技術の欄で説明した光スイッチにおいて、構成の異なるMEMSミラー装置を適用したものである。したがって、本実施の形態において、図1を参照して背景技術の欄で説明した光スイッチと同等の構成要素については、同じ名称および符号を付し適宜説明を省略する。
【0033】
<光スイッチの構成>
図1に示すように、本実施の形態に係る光スイッチは、入出力光学系を構成するファイバアレイ1と、マイクロレンズアレイ2と、レンズ3と、MEMSミラー装置4とを備えており、これらをこの順番でZ軸方向に沿って配列した構成を有する。ここで、ファイバアレイ1は、光ファイバをY軸方向に沿って一列に配列している。これに対応して、マイクロレンズアレイ2も、マイクロレンズ2aをY軸方向に沿って一列に配列している。
【0034】
≪MEMSミラー装置の構成≫
MEMSミラー装置4は、上部基板41と下部基板44とが対向配置された構成を有する。上部基板41には、図4に示すように、平面視略矩形の開口を有し、Y軸方向に沿ったその開口の対辺からY軸およびZ軸と直交するX軸方向に沿いかつ開口の対辺の方向に延在した一対の支持部42と、この支持部42によりX軸回りに回動可能に支持され一方の面に反射面が形成されたミラー43とが設けられている。一方、下部基板44には、ミラー43の反射面とは反対側の面と対向配置された駆動電極45が設けられている。MEMSミラー装置4は、レンズ3のZ軸方向の正の側におけるレンズ3の焦点面に配置される。このようなMEMSミラー装置4は、可動電極として機能するミラー43に接地電位、駆動電極45に正(または負)の電圧を印加してミラー43と駆動電極45との間に静電引力を発生させ、この静電引力によりミラー43をX軸回りに回動させるものである。
【0035】
ここで、ミラー43は、平面視正八角形の板状の形状を有する。その正八角形の各辺は、X軸およびY軸それぞれに対して±22.5°の傾きをもって形成されている。また、正八角形の8つの頂点のうち、向かい合う(最も離れた)2つの頂点に支持部42が接続されている。
【0036】
駆動電極45は、ミラー43と同等の平面形状を有し、これがX軸に線対称に2つに分割された構成を有する。このような駆動電極45は、ミラー43とZ軸方向に対向配置されている。
【0037】
<MEMSミラー装置の製造方法>
このようなMEMSミラー装置4は、以下のように形成される。まず、上部基板41は、SOI(Silicon On Insulator)基板を加工し、支持部42およびミラー43などの板状の構造体を形成する。このとき、SOI基板の厚い基体部を枠状に残すようにしてもよい。
【0038】
次に、下部基板44は、シリコン基板を水酸化カリウムなどのアルカリ溶液でエッチング加工して所定の形状を形成した後、この面を酸化してシリコン酸化膜を形成し、この上に蒸着法などにより金属膜を形成し、この金属膜を公知のフォトリソグラフィ技術とエッチング技術とによりパターニングして駆動電極45を形成する。
【0039】
このようにミラー43を有する上部基板41と駆動電極45を有する下部基板44を形成した後、これらを貼り合わせることで、駆動電極45に対する電界印加によってミラー43が可動(回動)するMEMSミラー装置4が形成できる。
【0040】
<光スイッチの動作>
このような光スイッチにおいて、入力ポート1aに入力された信号光は、マイクロレンズアレイ2によってビーム形成された後、レンズ3により集光される。このレンズ3の焦点面には、MEMSミラー装置4が配設されている。これにより、MEMSミラー装置4のミラー43をX軸回りに所定の角度だけ回動させると、ミラー43に入射した信号光は、その角度に対応する方向に反射され、レンズ3およびマイクロレンズアレイ2を介してファイバアレイ1の所定の出力ポート1bで結像され、この出力ポート1bに対応する光ファイバから出力される。このように、MEMSミラー素子102をX軸回りに回動させることにより、チャネル毎の出力ポートの切り替え、いわゆるスイッチングを行うことができる。
【0041】
MEMSミラー装置4のミラー43は、X軸に沿った回動軸を有するので、ミラー43の回動に伴って掃引される光ビームの方向は、回動軸と垂直な方向、すなわちY軸方向となる。したがって、光ファイバアレイ1は、上述したように、光ファイバをミラー43の回動軸と垂直な方向であるY軸方向に配列されている。このようなMEMSミラー装置4において、図5に示すようなビームスポット形状が円形で、プロファイルがガウシアンの光ビームがミラー43の中央付近に照射されると、このミラー43の輪郭(縁部)により発生する回折光は、図6に示すように、ミラー43の輪郭線に対して垂直な方向に配列される。この回折光は、図7に示すように、入出力ポートの配置面においても同様のパターンを形成する。上述したように、ミラー43は、正八角形の形状を有し、向かい合う一対の頂点に支持部42が接続されており、X軸方向に沿った辺が存在しない。したがって、ミラー43により発生する回折光の輝点は、正八角形の各辺に垂直な方向に現れ、X軸に垂直なY軸方向には現れない。このように、本実施の形態では、ミラー43により発生する回折光の輝点の配列方向が、光ファイバアレイ1の光ファイバの配列方向と一致しないので、選択した出力ポート以外のポートへの光の漏れ込みが少なくなるので、従来の矩形状のミラーよりも、光クロストークを低減させることができる。
【0042】
以上説明したように、本実施の形態によれば、ミラー43の外形が、ミラー43の中央部を通りかつ光ファイバアレイ1の光ファイバの配列方向に平行な直線に対して直交する線分を持たないので、ミラー43に照射された入力光の一部がミラ43ーの縁部で散乱し、かつ、これらが互いに干渉して生じる回折光が、上記配列方向上に生じないので、他の出力ポートに信号光が漏れ込む光クロストークを低減させることができる。
【0043】
なお、本実施の形態において、ミラー43の形状は、回動軸がミラー43の略中心を通過し、かつ、回動軸に対して線対称に形成されているが、ミラー43の外形が、ミラー43の中央部を通りかつ光ファイバアレイ1の光ファイバの配列方向に平行な直線に対して直交する線分を持たないのであれば適宜自由に設定することができる。ただし、ミラー43を回動軸の両方の方向に回動させる場合には、回動軸に対して線対称に形成された方が望ましい。
【0044】
また、本実施の形態において、ミラー43の形状は、正八角形の場合を例に説明したが、ミラー43に照射される光ビームの形状が楕円状の場合には、その光ビームの長軸と同じ方向に正八角形を延伸したような形状とするようにしてもよい。
【0045】
また、本実施の形態において、ミラー43は、反射面と可動電極が同一の形状となるように形成しているが、例えば、可動電極を単結晶シリコンで形成し、この可動電極の表面の一部に金などの金属を蒸着させた反射面を形成するようにしてもよい。このような場合には、回折光が最も反射しやすい反射面の外形が上述した八角形となるようにすればよい。
【0046】
また、ミラー43の形状は、正八角形に限定されず、ミラー43の外形が、ミラー43の中央部を通りかつ光ファイバアレイ1の光ファイバの配列方向に平行な直線に対して直交する線分を持たないのであれば適宜自由に設定することができる。
【0047】
例えば、図8(a)に示すミラー431のように、平面視正六角形の形状とするようにしてもよい。この場合、一対の支持部は、それぞれ向かい合う辺に接続され、これらの辺はX軸に沿った回動軸と直交する。このときの回折パターンとしては、図8(b)に示すように、中央部に現れる楕円状の明るい領域と、X軸方向、並びに、六角形の各辺に対して垂直な方向、すなわちX軸およびY軸に対して30°または60°で交わる方向に沿いかつ中央部から離れるにしたがって小さくなる楕円状の明るい領域(輝点)とが現れる。このように、発生する回折光の輝点は、図8(b)に示すように、光ファイバアレイ1における光ファイバの配列方向であるY軸方向に配列されることがないので、回折による光クロストークを防ぐことができる。
【0048】
また、図9(a)に示すミラー432のように、一対の支持部が向かい合う2つの頂点に接続された平面視菱形の形状とするようにしてもよい。このときの回折パターンとしては、図9(b)に示すように、中央部に現れる楕円状の明るい領域と、四角形の各辺に対して垂直な方向、すなわちX軸およびY軸に対して45°で交わる方向に沿いかつ中央部から離れるにしたがって小さくなる楕円状の輝点とが現れる。このように、発生する回折光の輝点は、図9(b)に示すように、光ファイバアレイ1における光ファイバの配列方向であるY軸方向に配列されることがないので、回折による光クロストークを防ぐことができる。
【0049】
また、図10(a)に示すミラー433のように全体として矩形の形状を有し、一対の対辺の中央部にX軸に沿って設けられた一対の支持部を接続し、その各辺の中央部をミラー433の中央部(重心)方向に屈曲させた形状とするようにしてもよい。この場合、回折パターンとしては、図10(b)に示すように、中央部に現れる楕円状の明るい領域と、その屈曲した各辺に対して垂直な方向、すなわちX軸およびY軸に直交しない方向に沿いかつ中央部から離れるにしたがって小さくなる楕円状の輝点とが現れる。このように、発生する回折光の輝点は、図10(b)に示すように、光ファイバアレイ1における光ファイバの配列方向であるY軸方向に配列されることがないので、回折による光クロストークを防ぐことができる。
【0050】
また、図11(a)に示すミラー434のように全体として矩形の形状を有し、一対の対辺の中央部にX軸に沿って設けられた一対の支持部を接続し、そのX軸と平行な辺の中央部をミラー434の中央部(重心)方向に屈曲させた形状としたりするようにしてもよい。この場合、回折パターンとしては、図11(b)に示すように、中央部に現れる楕円状の明るい領域と、X軸方向に沿いかつ中央部から離れるにしたがって小さくなる楕円状の輝点と、その屈曲した各辺に対して垂直な方向、すなわちX軸およびY軸に直交しない方向に沿いかつ中央部から離れるにしたがって小さくなる楕円状の輝点とが現れる。このように、発生する回折光の輝点は、図11(b)に示すように、光ファイバアレイ1における光ファイバの配列方向であるY軸方向に配列されることがないので、回折による光クロストークを防ぐことができる。
【0051】
また、図12(a)に白色の領域で示すミラー435のように全体として矩形の形状を有し、一組の対辺の中央部にX軸に沿って設けられた一対の支持部を接続し、各辺の中央部をミラー435の中央部(重心)と反対方向に屈曲させた形状とするようにしてもよい。ここで、図12(a)に黒色の領域で示す楕円形状は、楕円のビーム形状を有する光ビームが、ミラー43の反射面の中央近傍に照射された状態を示したものである。光ビームの形状は、通常、そのような楕円形状または円形状となる。このため、ミラー43が矩形の形状を有する場合、最も強い光が照射される輪郭部分は、各辺の中央付近となる。したがって、この部分が最も強い回折光を生じさせることになるので、図4に示したような各辺が回動軸と平行ならないようにするのみならず、矩形の各辺の中央付近のみが回動軸と平行または垂直にならないように屈曲させた形状としても、上述したのと同様の作用効果を得ることができる。また、この場合の回折パターンは、図12(b)に示すように、中央部に現れる楕円状の明るい領域と、X軸方向に沿いかつX軸に対して線対称に現れるとともに中央部から離れるにしたがって小さくなる楕円状の輝点と、X軸と平行な辺の屈曲させた部分に対して垂直な方向、すなわちX軸およびY軸に直交しない方向に沿いかつ中央部から離れるにしたがって小さくなる楕円状の輝点とが現れる。ここで、光ファイバの配列方向であるY軸方向には、輝点が配列されないので、従来よりも光クロストークを防ぐことができる。
【0052】
また、図13(a)に示すミラー436のように全体として矩形の形状を有し、一組の対辺の中央部にX軸に沿って設けられた一対の支持部を接続し、そのX軸と平行な辺の中央部をミラー435の中央部(重心)と反対方向に屈曲させた形状とするようにしてもよい。この場合、回折パターンは、図13(b)に示すように、中央部に現れる楕円状の明るい領域と、X軸方向に沿いかつ中央部から離れるにしたがって小さくなる楕円状の明るい領域および輝点と、X軸と平行な辺の屈曲させた部分に対して垂直な方向、すなわちX軸およびY軸に直交しない方向に沿いかつ中央部から離れるにしたがって小さくなる楕円状の輝点とが現れる。ここで、光ファイバの配列方向であるY軸方向には、輝点が配列されないので、従来よりも光クロストークを防ぐことができる。
【0053】
さらに、一対の支持部が一組の対辺の中央部に接続された矩形において、上述したミラー433〜436の形状を組み合わせた形状とするようにしてもよい。具体的には、一組の対辺のうち、一方をミラーの中央部(重心)と反対方向に、他方をミラーの中央部(重心)方向に、それぞれ屈曲させるようにしてもよい。このようにしても、上述したのと同様の作用効果を得ることができる。また、図10〜図13に示すミラー433〜436では、直線状に屈曲させた場合について示したが、曲線状に屈曲させるようにしてもよい。
【0054】
このようなミラー431〜436をミラー43の代わりに用いても、ミラー43を用いた場合と同等の作用効果を得ることができる。
【0055】
なお、本実施の形態では、図1に示すような光スイッチに適用した場合を例に説明したが、図3に示すような波長選択型光スイッチにも適用できることは言うまでもない。この場合、図3を参照して背景技術の欄で説明した光スイッチにおける各MEMSミラー装置200を、上述したMEMSミラー装置4に置き換えればよい。このような構成にすることにより、図3に示す波長選択型光スイッチにおいても、上述したのと同等の作用効果を実現することができる。
【0056】
[第2の実施の形態]
次に、本発明に係る光スイッチの第2の実施の形態について詳細に説明する。なお、本実施の形態に係る光スイッチは、図2を参照して背景技術の欄で説明した光スイッチにおいて、構成の異なるMEMSミラー装置を適用したものである。したがって、本実施の形態において、図2を参照して背景技術の欄で説明した光スイッチ、および、上述した第1の実施の形態に係る光スイッチと同等の構成要素については、同じ名称および符号を付し適宜説明を省略する。
【0057】
<光スイッチの構成>
図2に示すn×m光スイッチは、光ファイバがX軸およびY軸に沿って複数の配列されたファイバアレイ11と、マイクロレンズアレイ12と、レンズ13と、MEMSミラー装置5とを備えており、これらがこの順番でZ軸に沿って配列した構成を有する。なお、本実施の形態においては、光ファイバを5×5に配列した場合を例に説明するが、光ファイバの行方向および列方向の数量はこれに限定されず、光スイッチの用途等に応じて適宜自由に設定することができる。
【0058】
MEMSミラー装置5は、図15に示したMEMSミラー装置200のミラー203の形状を、図4,図9,図10,図12のうちの何れかで示したミラー43の形状としたものである。
【0059】
図6に示したように、回折光は、主ビームの照射位置から遠くなるにつれて弱くなるので、回折光による光クロストークは、MEMSミラー装置5が選択している出力ポートの上下左右、すなわちX軸およびY軸方向に隣接して配置されたポートが最も影響を受ける。本実施の形態に係る光スイッチでは、MEMSミラー装置5のミラーとして、上述した図4,図9,図10,図12のミラー43,431,433,435のうちの何れかを用いている。これらは、ミラーの中央部を通り光ファイバアレイ1の光ファイバの配列方向に平行および垂直な直線に対して直交する線分を持たないので、そのミラーによる生じる回折光の輝点は、X軸およびY軸に沿った方向、すなわちファイバアレイ11において光ファイバが配列された方向に現れない。したがって、本実施の形態に係る光スイッチを用いることにより、ミラーに照射された入力光の一部がミラーの縁部で散乱しかつ干渉して生じる回折光が、MEMSミラー装置5が選択している出力ポートに隣接した出力ポートに漏れ込む光クロストークを低減させることができる。
【0060】
なお、本実施の形態では、X軸およびY軸という2つの回動軸を有するMEMSミラー装置に対して、X軸およびY軸という2つの方向に沿って2次元的に光ファイバを配列した光ファイバアレイを適用した場合を例に説明したが、MEMSミラー装置5のミラーによる回折光が光ファイバアレイの選択された以外のポートに入り込まないのであれば、光ファイバアレイの光ファイバの配列方向は、X軸およびY軸に沿っていなくてもよい。
【0061】
また、本実施の形態では、2次元的に光ファイバを配列した光ファイバアレイに対して、2つの回動軸を有するMEMSミラー装置5を適用した場合を例に説明したが、第1の実施の形態のように、1つの回動軸のみを有するMEMSミラー装置を適用するようにしてもよい。
【0062】
また、本実施の形態において、2f光学系を4f光学系とし、焦点距離fの2つのレンズの間に回折格子を配設することにより構成される波長選択型光スイッチに適用するようにしてもよい。
【0063】
また、第1,第2の実施の形態では、偏向素子としてMEMSミラー装置を用いた場合を例に説明したが、入力光を偏向させる部材の形状が第1,第2の実施の形態で示した形状であるならば、透過型または反射型液晶スイッチアレイなど、各種偏向素子を用いることができる。
【0064】
また、第1,第2の実施の形態では、1つの入力ポートと複数の出力ポートを有する光スイッチに適用させた場合を例に説明したが、入力ポートと出力ポートがそれぞれ1つずつ設けられた信号のON/OFFを制御する光スイッチにも適用することができる。この場合、ミラーの外形は、当該ミラーの中央部を通りかつミラーの回動軸と直交する方向に平行な直線に対して直交する線分を持たないようにすればよい。これにより、入力ポートからの入力信号を出力ポートから出力させない場合、ミラーを回動させて入力光を出力ポート以外の方向に偏向させると、回折光が出力ポートの方向に生じないので、光クロストークを低減させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、MEMSミラー装置や液晶スイッチアレイなどの偏向素子、この偏向素子を用いた光スイッチに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明に係る1×n光スイッチの構成を示す図である。
【図2】本発明に係るn×m光スイッチの構成を示す図である。
【図3】(a)は本発明に係る波長選択型光スイッチのYZ方向からの構成を示す図、(b)はXZ方向からの構成を示す図である。
【図4】MEMSミラー装置の構成を示す斜視図である。
【図5】入射光の光強度分布とミラーとの関係を示す図である。
【図6】本発明に係る光スイッチにより発生した回折光の回折パターンを模式的に示す図である。
【図7】回折光が入射した光ファイバアレイの状態を模式的に示す図である。
【図8】(a)は他のミラーの構成例を示す平面図、(b)は(a)のミラーにより発生する回折光の回折パターンを示す図である。
【図9】(a)は他のミラーの構成例を示す平面図、(b)は(a)のミラーにより発生する回折光の回折パターンを示す図である。
【図10】(a)は他のミラーの構成例を示す平面図、(b)は(a)のミラーにより発生する回折光の回折パターンを示す図である。
【図11】(a)は他のミラーの構成例を示す平面図、(b)は(a)のミラーにより発生する回折光の回折パターンを示す図である。
【図12】(a)は他のミラーの構成例を示す平面図、(b)は(a)のミラーにより発生する回折光の回折パターンを示す図である。
【図13】(a)は他のミラーの構成例を示す平面図、(b)は(a)のミラーにより発生する回折光の回折パターンを示す図である。
【図14】従来のMEMSミラー装置の一例を示す斜視図である。
【図15】従来のMEMSミラー装置の一例を示す斜視図である。
【図16】入射光の光強度分布と従来のMEMSミラー装置のミラーとの関係を示す図である。
【図17】入射光の光強度分布と従来のMEMSミラー装置のミラーとの関係を示す図である。
【図18】(a)は従来の光スイッチにより発生した回折光の回折パターンを模式的に示す図、(b)は(a)のA−A’線断面図である。
【符号の説明】
【0067】
1,11…光ファイバアレイ、1a,11a…入力ポート、1b,11b…出力ポート、2…マイクロレンズアレイ、2a…マイクロレンズ、3…レンズ、4〜6…MEMSミラー装置、24…4f光学系、41…上部基板、42…支持部、43…ミラー、44…下部基板、45…駆動電極、241…第1レンズ、242…第2レンズ、243…回折格子、431〜436…ミラー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の方向に配列された少なくとも1つの入力ポートおよび少なくとも1つの出力ポートを備えた入出力光学系と、
回動可能に支持されて、前記入出力光学系の前記入力ポートから入力された光を反射するミラーを有し、このミラーの角度に応じてその反射光を前記入出力光学系の出力ポートから出力させるミラー装置と
を備え、
前記ミラーの外形は、当該ミラーの中央部を通りかつ前記所定の方向に平行な直線に対し直交する線分を持たない
ことを特徴とする光スイッチ。
【請求項2】
前記ミラーは、八角形の形状を有し、この八角形の向かい合う2つの頂点を通り、かつ、前記所定の方向と直交する回動軸を備える
ことを特徴とする請求項1記載の光スイッチ。
【請求項3】
前記ミラーは、全体として平面視略矩形の形状を有し、少なくとも前記所定の方向と直交する辺の中央部が当該ミラーを含む平面内において前記所定の方向に屈曲するように形成されている
ことを特徴とする請求項1記載の光スイッチ。
【請求項4】
前記ミラー装置は、
前記ミラーが形成された上部基板と、
この上部基板と対向配置され、前記ミラーと対向する駆動電極を有する下部基板と
から構成される
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の光スイッチ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate


【公開番号】特開2009−271447(P2009−271447A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123973(P2008−123973)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】