光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量の算定方法および装置
【課題】工事進捗に応じた構造物のたわみ量を算定することができる光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量の算定方法および装置を提供する。
【解決手段】構造物の上側のひずみと下側のひずみとを光ファイバセンサで計測し、光ファイバセンサで計測した上側のひずみと下側ひずみとの差を構造物の上下方向の高さで除算してたわみ量を規定するたわみ曲率を求め、たわみ曲率を構造物の水平方向に関して2回積分して任意の積分定数を含む数式からなる基本たわみ量を求め、基本たわみ量に対して構造物の所定の工事進捗における境界条件を適用して積分定数の値を決定し、決定した積分定数の値が代入された基本たわみ量に基づいて構造物の所定の工事進捗におけるたわみ量を算定するようにする。
【解決手段】構造物の上側のひずみと下側のひずみとを光ファイバセンサで計測し、光ファイバセンサで計測した上側のひずみと下側ひずみとの差を構造物の上下方向の高さで除算してたわみ量を規定するたわみ曲率を求め、たわみ曲率を構造物の水平方向に関して2回積分して任意の積分定数を含む数式からなる基本たわみ量を求め、基本たわみ量に対して構造物の所定の工事進捗における境界条件を適用して積分定数の値を決定し、決定した積分定数の値が代入された基本たわみ量に基づいて構造物の所定の工事進捗におけるたわみ量を算定するようにする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量の算定方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
新たな社会資本投資が堅調に進む一方、高度成長期に整備が進められた社会資本は、供用開始より30〜40年の年月を経ており、これらの安全かつ効率的な維持管理は今後の大きな課題である。
【0003】
すでに米国では、1990年代から橋梁や高速道路などの老朽化に伴う大小の事故、障害が頻発して社会問題化しており、さらにノースリッジ地震などの数々の地震災害を契機として、社会資本の維持管理手法に関する検討が盛んであるが、その中で適用が有望視されている技術に構造ヘルスモニタリングがあげられる(例えば、非特許文献1および2参照)。
【0004】
構造ヘルスモニタリングとは、構造体にあらかじめセンサ等を設置して、そのセンサからの情報から、損傷箇所の検知や劣化度の診断を目的とした技術であり、いわばセンサ技術、計測技術と、計測データを適切に処理し、損傷、劣化の指標を導出する解析技術の複合技術である(例えば、非特許文献3参照)。
【0005】
しかし従来は、光ファイバセンサに代表される先端センサの開発、および、これらセンサを構造体に設置するためのセンサ適用手法の開発が主体となっていた。そのため、果たしてこれらの先端センサを用いた構造ヘルスモニタリングシステムは、社会資本の管理者、使用者などに対して、損傷の検知や、維持管理に有用な情報を提供できるのかどうか、解析技術の開発を含めて検討する必要がある。
【0006】
その一方で、現在数多く建設が進められている長大橋をはじめとする土木構造物では、建設時は安全かつ高精度な施工管理を目的として、各種センサによる計測や高精度な測量などによる大規模管理が必須であり、さらに、完成後、供用中には長期にわたる維持管理をサポートする何らかのモニタリングシステムの設置が必要である。これらは従来、別個のシステムとして考えられていたため、供用中の長期の維持管理において非常に重要な指標となる建設中および完成直後(供用初期)の構造性能を引き継ぐことは困難であった。
【0007】
そこで、建設時の施工管理から完成後、供用申の維持管理まで一貫して担うことが可能な構造モニタリングシステムの構築が可能であれば、設計者、施工者、さらに管理者にとって有益でかつ有効なツールとして活用することができる。また、一貫したシステム構築により、高性能、高耐久性などの利点に関わらず、コスト面で導入が困難であった光ファイバセンサ等の先端センサの使用にも改めて道を開くことができる。
【0008】
これに関し、本発明者は、光ファイバセンサを主体とした長大PC橋構造ヘルスモニタリングシステムを既に開発している(例えば、非特許文献4および5参照)。
【0009】
非特許文献5には、主桁の上床版と下床版とに光ファイバセンサを敷設し、この光ファイバセンサによる主桁上下の計測ひずみ値から、長大橋の主桁たわみ曲線(たわみ量)を求めることが示されている。これは、主桁を連続梁としてモデル化し、工事進捗による主桁と各塔との締結・閉合に沿って変化する境界条件を逐次反映させることにより求めている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】K. P. Chong, N. J. Carino, G. Washer : Health Monitoring of civil Infrastructures, Smart Materials and Structures, Vol. 12, pp.483-493, 2003.05
【非特許文献2】A. Mita : Emerging Needs in Japan for Health Monitoring Technologies in Civil and Building Structures, Proceedings of Second Workshop on Structural Health Monitoring, pp. 56-67, 1999.09
【非特許文献3】武田展雄ほか:第1回〜第3回知的材料・構造システムシンポジウム、1999.12、2000.12、2002.01
【非特許文献4】岩城英朗、稲田裕、若原敏裕:“光ファイバひずみセンサ(B−OTDR)を用いた長大斜張橋施工時モニタリング”、土木学会第62回年次学術講演会、pp.805−806、2007年9月
【非特許文献5】岩城英朗、稲田裕、若原敏裕:“長大橋モニタリングシステムの開発と適用例”、プレストレストコンクリート、第50巻第2号、2008年3月、社団法人プレストレストコンクリート技術協会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、上記の従来の非特許文献5の長大橋の構造ヘルスモニタリングシステムにおいては、長大橋建設のごく初期における主桁のたわみ曲線を表す式を示すに留まり、この開示内容では、施工開始時から完成後に至るまでの工事進捗の各段階のたわみ量を求めることは難しい。
【0012】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、工事進捗に応じた構造物のたわみ量を算定することができる光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量の算定方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の請求項1に係る光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量の算定方法は、光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量を、前記光ファイバセンサで計測した前記構造物の計測ひずみに基づいて算定する方法において、前記構造物の上側のひずみと下側のひずみとを前記光ファイバセンサで計測し、前記光ファイバセンサで計測した前記上側のひずみと前記下側ひずみとの差を前記構造物の上下方向の高さで除算して前記たわみ量を規定するたわみ曲率を求め、前記たわみ曲率を前記構造物の水平方向に関して2回積分して任意の積分定数を含む数式からなる基本たわみ量を求め、前記基本たわみ量に対して前記構造物の所定の工事進捗における境界条件を適用して前記積分定数の値を決定し、決定した前記積分定数の値が代入された前記基本たわみ量に基づいて前記構造物の所定の工事進捗におけるたわみ量を算定することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項2に係る光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量の算定装置は、光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量を、前記光ファイバセンサで計測した前記構造物の計測ひずみに基づいて算定する装置において、前記光ファイバセンサは、前記構造物の上側のひずみと下側のひずみとを計測するものであり、前記光ファイバセンサで計測した前記上側のひずみと前記下側ひずみとの差を前記構造物の上下方向の高さで除算して前記たわみ量を規定するたわみ曲率を求め、前記たわみ曲率を前記構造物の水平方向に関して2回積分して任意の積分定数を含む数式からなる基本たわみ量を求め、前記基本たわみ量に対して前記構造物の所定の工事進捗における境界条件を適用して前記積分定数の値を決定し、決定した前記積分定数の値が代入された前記基本たわみ量に基づいて前記構造物の所定の工事進捗におけるたわみ量を算定することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項3に係る光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量の算定装置は、上述した請求項2において、前記構造物は、橋梁であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の請求項4に係る光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量の算定装置は、上述した請求項3において、前記橋梁は、斜張橋であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量を、前記光ファイバセンサで計測した前記構造物の計測ひずみに基づいて算定する方法において、前記構造物の上側のひずみと下側のひずみとを前記光ファイバセンサで計測し、前記光ファイバセンサで計測した前記上側のひずみと前記下側ひずみとの差を前記構造物の上下方向の高さで除算して前記たわみ量を規定するたわみ曲率を求め、前記たわみ曲率を前記構造物の水平方向に関して2回積分して任意の積分定数を含む数式からなる基本たわみ量を求め、前記基本たわみ量に対して前記構造物の所定の工事進捗における境界条件を適用して前記積分定数の値を決定し、決定した前記積分定数の値が代入された前記基本たわみ量に基づいて前記構造物の所定の工事進捗におけるたわみ量を算定するので、工事進捗に応じた構造物のたわみ量を算定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の適用対象例とした長大PC斜張橋の側面図である。
【図2】図2は、本発明の算定装置が含まれる構造ヘルスモニタリングシステムの構成図である。
【図3】図3は、光ファイバセンサを示す斜視図である。
【図4】図4は、光ファイバセンサによるひずみの計測部の構成図である。
【図5】図5は、架設時の光ファイバセンサの延伸プロセスを示す斜視図であり、(a)は主桁コンクリート打設直後の図、(b)は型枠移動・配筋完了後の図である。
【図6】図6は、ひずみ計測結果の一例を示す図である。
【図7】図7は、本発明に係る光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量の算定方法の実施例を示すフローチャート図である。
【図8】図8は、主桁たわみ解析に用いる座標系を示す図である。
【図9】図9は、ステージ1のたわみ曲線を示す図である。
【図10】図10は、ステージ2のたわみ曲線を示す図である。
【図11】図11は、ステージ3のたわみ曲線を示す図である。
【図12】図12は、ステージ4のたわみ曲線を示す図である。
【図13】図13は、主桁たわみ曲線を比較した図であり、(a)は測量レベルとの比較図であり、(b)は設計値との比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明に係る光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量の算定方法および装置の実施例を、長大PC斜張橋主桁のたわみ量を例にとり図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0020】
まず、本発明のたわみ量の算定方法および装置を説明する前に、光ファイバセンサが敷設された長大PC斜張橋について説明する。
【0021】
図1に示すように、この長大PC斜張橋1は、移動型枠を用いた張出し架設工法等により施工される中央支間長500m程度の橋梁である。この斜張橋1は、径間中央CLに関して略左右対称であり、主塔P3、P4と、橋脚A1、P1、P2、P5、P6Aを有する。架設工法を用いた施工では、安全かつ高精度な施工のために、架設全期間にわたって、型枠移動やコンクリート打設、斜材緊張などに伴う構造体の変形の常時把握、および出来高の管理や、台風などの強風時の変形や振動予測が重要な課題となる。
【0022】
このため、架設時には、工事進捗に沿った線形・出来高の管理、施工期間中にわたる気候変動などの外乱に対する応答、型枠移動などで発生する振動(内乱)に対する応答の把握を主眼として施工管理を行う必要がある。一方、完成後の供用中の維持管理においては、クリープ、斜材張力の緩和等の影響、強風などの外乱に対する応答、走行車両等の活荷重による応答等を逐次計測し、これらを維持管理の指標とする必要がある。
【0023】
図2に示すように、本発明に係る光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量の算定装置100は、光ファイバセンサ10により主桁2のひずみを計測する構造ヘルスモニタリングシステム101(以下、システムという。)の中に備えてある。このシステム101は、取得したひずみデータをインターネットを通じてデータセンターに転送し、所定のデータ処理をした後、サーバー上に保存するシステムである。設計者、管理者などはWebブラウザを通じてシステム101を用い、どこからでも計測データの参照や分析を行うことができる。なお、システム101の設置は、図1に示した適用対象の対称性を考慮し、同図に示す主塔P3側としてある。また、本発明のたわみ量の算定装置100は、設計者や管理者側のパソコン(パーソナルコンピュータ)に含まれるCPUや記憶領域を使用して動作するものであり、受信したひずみ値に基づいてたわみ量を算定する。
【0024】
システム101で用いる光ファイバセンサ10(B−OTDR方式:Brillouin Optical Time Domain Reflectometer)は、光ファイバの軸方向に沿って非常に短い周期のパルス光を入射すると光ファイバ中のパルス光伝搬に伴って微量な光が反射するという特性(後方散乱)を利用している。反射光の波長は光ファイバに加わるひずみや温度で変化するため、反射光の波長と伝搬時間(パルス光を入射してから反射光が受信されるまでの時間)をあわせて記録すれば、光ファイバ全域をひずみセンサ、温度センサとして使用できる。
【0025】
なお、計測できるひずみ・温度の長さ方向の精度(空間分解能)と光ファイバに入射するパルス光の周期(幅)とは反比例関係にあり、入射パルス光の周期(幅)を長くすると、空間分解能は低下する。例えば、入射パルス光の周期が10n秒(10×10−9秒)の場合の空間分解能は1mとなり、ある点で計測された計測値(ひずみ・温度)はその点の前後0.5mの範囲の平均ひずみ(温度)値となる。周期が100n秒の場合の空間分解能は10mである。さらに、反射光は非常に微弱な光であるため、実際の計測ではパルス光を反復して入射し、反射光を平均化してひずみ・温度を求める。また、入射パルス光の周期とはべつに、反射光の受信間隔を変化させ、計測間隔(サンプリング間隔)を設定する。
【0026】
光ファイバセンサ10は、コンクリート中に埋設使用されることを前提として、図3に示すように、光ファイバ素線4を、エンボス加工したポリエチレン樹脂6およびアラミド繊維8で被覆補強したものをひずみセンサとして開発し、適用している。なお、コンクリート埋設時にもセンサ外部からの応力(側圧や付着による引張や圧縮)の影響を回避するために、光ファイバ素線をステンレス細管に内挿し保護したものを温度センサとして使用することもできる。
【0027】
光ファイバセンサ10の敷設に際しては、移動型枠に沿って主塔P3から延伸するPC主桁2の四隅に上記センサを順次埋設する工法を用いる。すなわち、主桁2の四隅に埋設するおのおのの光ファイバセンサ10の始端(主塔P3側)を、図4に示すように、センサ埋設開始当初から光成端箱22と光スイッチ12を介して計測器14に接続して計測可能な状態とし、センサ10の未埋設部および終端はリール16を使用し束ね移動型枠の先端部近傍に仮設する。次に、主桁2の延伸に伴う型枠の移動および配筋完了後、リール16から光ファイバセンサ10を引き出して鉄筋に沿わせ固定し、コンクリート打設にあわせて主桁2中に埋設する。
【0028】
また、図4に示すように、計測器14とパソコン18(パーソナルコンピュータ)、光スイッチ12とパソコン18、パソコン18および計測器14とハブ20はそれぞれ接続してある。なお、パソコン18のCPUに余裕があれば、たわみ量の算定装置100をパソコン18に組み込み、現地でたわみ量を算出した後、インターネットを介して設計者や管理者に送信するようにしても良い。
【0029】
図5(a)、(b)に本工法の概要を示す。本工法の適用により、主桁延伸の開始初頭から完成まで、継続した計測が可能となり、かつセンサ設置の労力を大幅に軽減できる。
【0030】
架設時の主桁ひずみ計測結果例を図6に示す。システム101では、入射パルス光の周期を20n秒、反射光の平均化回数を213回、計測間隔(サンプリング間隔)を0.5mと設定している。すなわち、敷設した光ファイバセンサ全域において、0.5m刻みでひずみ値が得られ、そのおのおののひずみ値は、計測点の前後1m(計2m)の光ファイバセンサに沿った範囲のひずみ平均値(ひずみ分布)である。
【0031】
上記の計測パラメータを用いた場合に必要な計測時間は1本のセンサあたり数分程度である。このため、振動や衝撃などによって生じるひずみ変化には追従しない。すなわち、本システム101から得られるデータは、ほぼ静的現象によって得られたひずみ値である。
【0032】
なお、光スイッチに接続したすべての光ファイバセンサの計測が完了するまでの時間は、光スイッチのチャンネル切替え、おのおののセンサからの計測データの保存に要する時間などを含めると、約1時間である。
【0033】
また、本システム101で採用した光ファイバセンサは、現場での施工の進捗に合わせてコンクリート打設時に埋設するため、破断に対する補償として、1本のセンサに2本の光ファイバ素線を配置する方式を採用しており(図3)、リール先端部で両素線を折り返して融着し、センサ全体でループ状にしている。このため、コンクリート打設時などに1本の光ファイバ素線が破断しても、残りの一方から光を逆向きに入射することで、途切れることなく計測が可能となる。図6においてもリール先端部を中心としてひずみ値は左右対称であり、センサ中の光ファイバは2素線ともに稼働状態にあることを示している。
【0034】
なお、光ファイバセンサを用いたひずみ計測は、システム稼働開始当初から、連日2(架設中)〜4時間(完成後)おき(1日あたり6〜12回)に継続して実施している。
【0035】
架設時の主桁たわみ分布を把握することは施工管理上非常に重要である。上記で示した光ファイバセンサによるひずみ値から主桁たわみ曲線(たわみ量)を算定することになる。たわみ量の算定は、以下より詳述する本発明に係る光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量の算定方法または装置100による。
【0036】
図7に示すように、本発明に係る光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量の算定方法は、主桁の上側のひずみ値と下側のひずみ値とを光ファイバセンサで計測し(ステップS1)、ひずみ値で定義した主桁のたわみ曲線を表す数式(基本たわみ量)に工事進捗により変化する境界条件を反映する(ステップS2)。そして、基本たわみ量の積分定数を決定し(ステップS3)、この積分定数の値が代入された基本たわみ量に基づいて、主桁の工事進捗におけるたわみ量を算定する(ステップS4)という手順からなる。本発明の算定装置100としては、この手順をコンピュータを用いた演算処理により行う。
【0037】
たわみ曲線を表す数式(基本たわみ量)は、たわみ量の算定式であり、光ファイバセンサで計測した上側のひずみと下側ひずみとの差を主桁の上下方向の高さで除算して得られるたわみ曲率を、主桁の水平方向に関して2回積分することで得られ、任意の積分定数を含んでいる。
【0038】
この積分定数を含むたわみ曲線を表す数式に、工事進捗の各段階に対して予め求めてある境界条件を適用することで、工事進捗に応じた長大PC斜張橋主桁のたわみ量を容易に算定することができる。
【0039】
次に、たわみ量の算定式の導出過程等について具体的に説明する。
【0040】
[座標系および基本式]
図8に示すように、主塔P3と主桁の結合部を原点とし、主径間方向をx軸、主桁計画線からのずれ量をy軸とする座標系を導入する。傾斜角θは反時計回りを正とする。
主桁のたわみ曲率1/ρおよび傾斜角θの基本式は、
【0041】
【数1】
【数2】
【0042】
で表すことができ、たわみ曲率とひずみの関係式は、主桁上面の分布ひずみ値をεu、下面の分布ひずみ量をεd、主桁断面の高さをhとおくと、以下の式の通り示される。
【0043】
【数3】
【0044】
式(3)を式(1)に代入し、さらに逐次積分すると、
【0045】
【数4】
【数5】
【数6】
【0046】
となる。主桁の各点の傾斜角θとたわみ量yは、式(5)、(6)中の積分定数C1およびC2を境界条件から求めることにより得られる。
【0047】
主桁の工事進捗に伴う支持状態の変化により境界条件は変化するため、本実施の形態においては、長大PC斜張橋の一方の主塔P3から主桁を延伸して、他方の主塔P4の主桁と中央で閉合するまでを4つの段階(ステージ1〜4)に分けてモデル化し、それぞれの傾斜角とたわみ量を算定する。なお、以下の計算においては、表記を簡単にするため、以下の定積分を定義する。
【0048】
【数7】
【数8】
【0049】
すなわち、上記基本式(5)、(6)は、
【0050】
【数9】
【数10】
【0051】
と書き表すことができる。
【0052】
[主桁支持状態の変化に伴うたわみ量]
(ステージ1:主桁延伸BL00〜P2結合まで)
まず、ステージ1のたわみ量の算定式について説明する。
【0053】
図9に示すように、本ステージ1での境界条件は主塔P3における拘束のみであり、次式のように示される。
【0054】
【数11】
【数12】
【0055】
式(11)、(12)を式(9)、(10)に代入すると、積分定数はそれぞれ
【0056】
【数13】
【数14】
【0057】
と求められる。したがって、本条件下でのたわみ曲線(図中太線で表示)は、
【0058】
【数15】
【0059】
となる。
【0060】
(ステージ2:P2結合〜P1閉合前)
次に、ステージ2のたわみ量の算定式について説明する。
【0061】
図10に示すように、本ステージ2での境界条件はP2および主塔P3における拘束であり、次式のように示される。
【0062】
【数16】
【数17】
【0063】
式(16)、(17)を式(9)、(10)に代入すると、積分定数はそれぞれ
【0064】
【数18】
【数19】
【0065】
と求められる。したがって、本条件下でのたわみ曲線は、
【0066】
【数20】
【0067】
となる。
【0068】
(ステージ3:P1閉合〜中央閉合前)
次に、ステージ3のたわみ量の算定式について説明する。
【0069】
本ステージ3の条件では、不静定はりとなるため、図11に示すように、P1〜P2間(点A〜点B)、P2〜中央(点B〜中央)の2つの区間にはりを分割し、P2(点B)における仮想モーメント(未知定数)および角度を導入する。
【0070】
<ステージ3−1:P1〜P2間(点A〜点B)の連続はり>
P2における曲げモーメント寄与分を未知定数M2として導入すると、
【0071】
【数21】
【0072】
となる。式(21)を逐次積分すると、
【0073】
【数22】
【数23】
【0074】
なお、この場合の境界条件は、P1およびP2に拘束され、さらにP2における連続はりの傾斜角をθ2(未知定数)として導入すると、
【0075】
【数24】
【数25】
【数26】
【0076】
となる。
【0077】
<ステージ3−2:P2〜中央までの連続はり>
P2における曲げモーメント寄与は、上記のステージ3−1と等価であると考えられる。したがって、本ステージ3−2でのたわみ曲線は、以下の3つの式で表すことができる。
【0078】
【数27】
【数28】
【数29】
【0079】
なお、この場合の境界条件はP2およびP3での拘束となり、さらにP2における連続はりの傾斜角は上記のステージ3−1と等価のθ2を導入できるので、以下のようになる。
【0080】
【数30】
【数31】
【数32】
【0081】
<ステージ3−3:P2で結合>
本ステージ3−3での積分定数および未知定数を簡単に求めるため、式(21)以降を行列表記する。
式(22)、(23)は、
【0082】
【数33】
【0083】
同様に、式(28)、(29)は、
【0084】
【数34】
【0085】
と表すことができる。上記の境界条件を表す式(24)、(25)、(26)、(30)、(31)、(32)を行列(33)、(34)に代入し整理すると、
【0086】
【数35】
【0087】
と表記できる。積分定数および未知定数は、行列(35)の両辺に、右辺第1項の6次正方行列の逆行列を左方から乗ずることで求められる。すなわち、
【0088】
【数36】
【0089】
上記行列(36)に対して掃き出し法などを用いた数値計算を行えばよい。
【0090】
(ステージ4:中央閉合後)
次に、ステージ4のたわみ量の算定式について説明する。
【0091】
本ステージ4では、上記のステージ3と同様に不静定はりとなるため、主桁を図12に示すP1〜P2間(点A〜点B)、P2〜P3間(点B〜点C)、P3〜P4間の3つの区間にはりを分割し検討する。
【0092】
<ステージ4−1:P1〜P2間>
支配方程式および境界条件は上記のステージ3−1と同様である。すなわち、
【0093】
【数37】
【数38】
【数39】
【数40】
【数41】
【数42】
【0094】
となる。
【0095】
<ステージ4−2:P2〜P3間>
本条件における両端の曲げモーメント寄与をそれぞれM2、M3として与えると、支配方程式は
【0096】
【数43】
【0097】
となる。式(43)を逐次積分すると、
【0098】
【数44】
【数45】
【0099】
となる。また、境界条件は、
【0100】
【数46】
【数47】
【数48】
【数49】
【0101】
である。
【0102】
<ステージ4−3:P3〜P4間>
本条件での支配方程式は、上記のステージ4−2の未知定数M3のみが寄与する。したがって、
【0103】
【数50】
【0104】
式(50)を逐次積分すると、
【0105】
【数51】
【数52】
【0106】
となる。境界条件は、
【数53】
【数54】
【数55】
【0107】
である。
【0108】
<ステージ4の積分定数、未知定数の導出について>
上記のステージ3と同様に、各支配方程式を行列表記する。
式(38)、(39)は、
【0109】
【数56】
【0110】
同様に式(44)、(45)は、
【0111】
【数57】
【0112】
さらに、式(51)、(52)は、
【0113】
【数58】
【0114】
と表すことができる。
境界条件を表す式(40)、(41)、(42)、(46)、(47)、(48)、(49)、(53)、(54)、(55)を行列(56)、(57)、(58)に代入し整理すると、
【0115】
【数59】
【0116】
となり、これを上記のステージ3と同様に数値計算すればよい。
【0117】
以上のステージ1〜ステージ4に示した方法により、光ファイバ分布ひずみセンサを敷設した長大橋主桁の工事進捗に伴うたわみ曲線を導出することができる。実際には、光ファイバ分布ひずみ計測器により得られる分布ひずみ値は、例えば0.5m程度間隔の値であるため、上記の方法で求めた未知定数および積分定数を使用して、数値積分を行う必要がある。また、主桁に光ファイバセンサを敷設しない未敷設区間がある場合には、この未敷設区間のたわみ曲線については、適切な方法で補間するようにしてもよい。
【0118】
次に、本発明により算定したたわみ曲線と、測量値および設計値(理論値)との比較例について説明する。図13は、主桁たわみ曲線を比較した図であり、(a)は測量レベルとの比較図、(b)は設計値との比較図であり、それぞれ主桁延伸工程におけるたわみ曲線を、1つ前の施工ステップの斜材緊張後の線形を基準値として示している。
【0119】
図13(a)は、本発明の算定装置100により算定したたわみ曲線と、1つ前のステップ斜材緊張時を基準とした測量レベル(相対レベル値)を比較した例であり、上からコンクリート打設時、型枠移動時、斜材緊張時の各施工ステップについての図である。連続計測を行っている光ファイバセンサ10から得られたひずみ値より上記の算定装置100により求めた主桁たわみ曲線の状況が、施工ステップの進展に伴う荷重変化に沿って、刻々と変化していることが分かる。また、光ファイバセンサ10による計測ひずみ値に基づくたわみ曲線(実線)と、測量レベル差分(黒▽印)は各施工プロセスにおいて、良好な関係を示していることが分かる。
【0120】
また、図13(b)は、斜張橋の詳細設計で予め予測したたわみ量(〇印で示す設計値)との比較例を示している。光ファイバセンサ10による計測ひずみ値に基づくたわみ曲線(実線)と、設計値は良好な関係を示していることが分かる。このように、光ファイバセンサ10を用いた連続計測から得られたひずみ値を用いてたわみ曲線を時々刻々求める方法は、次ステップの上げ越し管理を行ううえで有用である。
【0121】
以上説明したように、本発明によれば、光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量を、前記光ファイバセンサで計測した前記構造物の計測ひずみに基づいて算定する方法において、前記構造物の上側のひずみと下側のひずみとを前記光ファイバセンサで計測し、前記光ファイバセンサで計測した前記上側のひずみと前記下側ひずみとの差を前記構造物の上下方向の高さで除算して前記たわみ量を規定するたわみ曲率を求め、前記たわみ曲率を前記構造物の水平方向に関して2回積分して任意の積分定数を含む数式からなる基本たわみ量を求め、前記基本たわみ量に対して前記構造物の所定の工事進捗における境界条件を適用して前記積分定数の値を決定し、決定した前記積分定数の値が代入された前記基本たわみ量に基づいて前記構造物の所定の工事進捗におけるたわみ量を算定するので、工事進捗に応じた構造物のたわみ量を算定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0122】
以上のように、本発明に係る光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量の算定方法および装置は、工事進捗に応じた構造物のたわみ量を算定するのに有用であり、特に、たわみ量を算定するための境界条件が工事進捗によって刻々と変化する橋梁などの構造物のたわみ量を算定するのに適している。
【符号の説明】
【0123】
1 長大PC斜張橋
2 主桁(構造物)
4 光ファイバ素線
6 ポリエチレン樹脂
8 アラミド繊維
10 光ファイバセンサ
12 光スイッチ
14 計測器
16 リール
18 パソコン
20 ハブ
22 光成端箱
100 光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量の算定装置
101 構造ヘルスモニタリングシステム
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量の算定方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
新たな社会資本投資が堅調に進む一方、高度成長期に整備が進められた社会資本は、供用開始より30〜40年の年月を経ており、これらの安全かつ効率的な維持管理は今後の大きな課題である。
【0003】
すでに米国では、1990年代から橋梁や高速道路などの老朽化に伴う大小の事故、障害が頻発して社会問題化しており、さらにノースリッジ地震などの数々の地震災害を契機として、社会資本の維持管理手法に関する検討が盛んであるが、その中で適用が有望視されている技術に構造ヘルスモニタリングがあげられる(例えば、非特許文献1および2参照)。
【0004】
構造ヘルスモニタリングとは、構造体にあらかじめセンサ等を設置して、そのセンサからの情報から、損傷箇所の検知や劣化度の診断を目的とした技術であり、いわばセンサ技術、計測技術と、計測データを適切に処理し、損傷、劣化の指標を導出する解析技術の複合技術である(例えば、非特許文献3参照)。
【0005】
しかし従来は、光ファイバセンサに代表される先端センサの開発、および、これらセンサを構造体に設置するためのセンサ適用手法の開発が主体となっていた。そのため、果たしてこれらの先端センサを用いた構造ヘルスモニタリングシステムは、社会資本の管理者、使用者などに対して、損傷の検知や、維持管理に有用な情報を提供できるのかどうか、解析技術の開発を含めて検討する必要がある。
【0006】
その一方で、現在数多く建設が進められている長大橋をはじめとする土木構造物では、建設時は安全かつ高精度な施工管理を目的として、各種センサによる計測や高精度な測量などによる大規模管理が必須であり、さらに、完成後、供用中には長期にわたる維持管理をサポートする何らかのモニタリングシステムの設置が必要である。これらは従来、別個のシステムとして考えられていたため、供用中の長期の維持管理において非常に重要な指標となる建設中および完成直後(供用初期)の構造性能を引き継ぐことは困難であった。
【0007】
そこで、建設時の施工管理から完成後、供用申の維持管理まで一貫して担うことが可能な構造モニタリングシステムの構築が可能であれば、設計者、施工者、さらに管理者にとって有益でかつ有効なツールとして活用することができる。また、一貫したシステム構築により、高性能、高耐久性などの利点に関わらず、コスト面で導入が困難であった光ファイバセンサ等の先端センサの使用にも改めて道を開くことができる。
【0008】
これに関し、本発明者は、光ファイバセンサを主体とした長大PC橋構造ヘルスモニタリングシステムを既に開発している(例えば、非特許文献4および5参照)。
【0009】
非特許文献5には、主桁の上床版と下床版とに光ファイバセンサを敷設し、この光ファイバセンサによる主桁上下の計測ひずみ値から、長大橋の主桁たわみ曲線(たわみ量)を求めることが示されている。これは、主桁を連続梁としてモデル化し、工事進捗による主桁と各塔との締結・閉合に沿って変化する境界条件を逐次反映させることにより求めている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】K. P. Chong, N. J. Carino, G. Washer : Health Monitoring of civil Infrastructures, Smart Materials and Structures, Vol. 12, pp.483-493, 2003.05
【非特許文献2】A. Mita : Emerging Needs in Japan for Health Monitoring Technologies in Civil and Building Structures, Proceedings of Second Workshop on Structural Health Monitoring, pp. 56-67, 1999.09
【非特許文献3】武田展雄ほか:第1回〜第3回知的材料・構造システムシンポジウム、1999.12、2000.12、2002.01
【非特許文献4】岩城英朗、稲田裕、若原敏裕:“光ファイバひずみセンサ(B−OTDR)を用いた長大斜張橋施工時モニタリング”、土木学会第62回年次学術講演会、pp.805−806、2007年9月
【非特許文献5】岩城英朗、稲田裕、若原敏裕:“長大橋モニタリングシステムの開発と適用例”、プレストレストコンクリート、第50巻第2号、2008年3月、社団法人プレストレストコンクリート技術協会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、上記の従来の非特許文献5の長大橋の構造ヘルスモニタリングシステムにおいては、長大橋建設のごく初期における主桁のたわみ曲線を表す式を示すに留まり、この開示内容では、施工開始時から完成後に至るまでの工事進捗の各段階のたわみ量を求めることは難しい。
【0012】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、工事進捗に応じた構造物のたわみ量を算定することができる光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量の算定方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の請求項1に係る光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量の算定方法は、光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量を、前記光ファイバセンサで計測した前記構造物の計測ひずみに基づいて算定する方法において、前記構造物の上側のひずみと下側のひずみとを前記光ファイバセンサで計測し、前記光ファイバセンサで計測した前記上側のひずみと前記下側ひずみとの差を前記構造物の上下方向の高さで除算して前記たわみ量を規定するたわみ曲率を求め、前記たわみ曲率を前記構造物の水平方向に関して2回積分して任意の積分定数を含む数式からなる基本たわみ量を求め、前記基本たわみ量に対して前記構造物の所定の工事進捗における境界条件を適用して前記積分定数の値を決定し、決定した前記積分定数の値が代入された前記基本たわみ量に基づいて前記構造物の所定の工事進捗におけるたわみ量を算定することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項2に係る光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量の算定装置は、光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量を、前記光ファイバセンサで計測した前記構造物の計測ひずみに基づいて算定する装置において、前記光ファイバセンサは、前記構造物の上側のひずみと下側のひずみとを計測するものであり、前記光ファイバセンサで計測した前記上側のひずみと前記下側ひずみとの差を前記構造物の上下方向の高さで除算して前記たわみ量を規定するたわみ曲率を求め、前記たわみ曲率を前記構造物の水平方向に関して2回積分して任意の積分定数を含む数式からなる基本たわみ量を求め、前記基本たわみ量に対して前記構造物の所定の工事進捗における境界条件を適用して前記積分定数の値を決定し、決定した前記積分定数の値が代入された前記基本たわみ量に基づいて前記構造物の所定の工事進捗におけるたわみ量を算定することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項3に係る光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量の算定装置は、上述した請求項2において、前記構造物は、橋梁であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の請求項4に係る光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量の算定装置は、上述した請求項3において、前記橋梁は、斜張橋であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量を、前記光ファイバセンサで計測した前記構造物の計測ひずみに基づいて算定する方法において、前記構造物の上側のひずみと下側のひずみとを前記光ファイバセンサで計測し、前記光ファイバセンサで計測した前記上側のひずみと前記下側ひずみとの差を前記構造物の上下方向の高さで除算して前記たわみ量を規定するたわみ曲率を求め、前記たわみ曲率を前記構造物の水平方向に関して2回積分して任意の積分定数を含む数式からなる基本たわみ量を求め、前記基本たわみ量に対して前記構造物の所定の工事進捗における境界条件を適用して前記積分定数の値を決定し、決定した前記積分定数の値が代入された前記基本たわみ量に基づいて前記構造物の所定の工事進捗におけるたわみ量を算定するので、工事進捗に応じた構造物のたわみ量を算定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の適用対象例とした長大PC斜張橋の側面図である。
【図2】図2は、本発明の算定装置が含まれる構造ヘルスモニタリングシステムの構成図である。
【図3】図3は、光ファイバセンサを示す斜視図である。
【図4】図4は、光ファイバセンサによるひずみの計測部の構成図である。
【図5】図5は、架設時の光ファイバセンサの延伸プロセスを示す斜視図であり、(a)は主桁コンクリート打設直後の図、(b)は型枠移動・配筋完了後の図である。
【図6】図6は、ひずみ計測結果の一例を示す図である。
【図7】図7は、本発明に係る光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量の算定方法の実施例を示すフローチャート図である。
【図8】図8は、主桁たわみ解析に用いる座標系を示す図である。
【図9】図9は、ステージ1のたわみ曲線を示す図である。
【図10】図10は、ステージ2のたわみ曲線を示す図である。
【図11】図11は、ステージ3のたわみ曲線を示す図である。
【図12】図12は、ステージ4のたわみ曲線を示す図である。
【図13】図13は、主桁たわみ曲線を比較した図であり、(a)は測量レベルとの比較図であり、(b)は設計値との比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明に係る光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量の算定方法および装置の実施例を、長大PC斜張橋主桁のたわみ量を例にとり図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0020】
まず、本発明のたわみ量の算定方法および装置を説明する前に、光ファイバセンサが敷設された長大PC斜張橋について説明する。
【0021】
図1に示すように、この長大PC斜張橋1は、移動型枠を用いた張出し架設工法等により施工される中央支間長500m程度の橋梁である。この斜張橋1は、径間中央CLに関して略左右対称であり、主塔P3、P4と、橋脚A1、P1、P2、P5、P6Aを有する。架設工法を用いた施工では、安全かつ高精度な施工のために、架設全期間にわたって、型枠移動やコンクリート打設、斜材緊張などに伴う構造体の変形の常時把握、および出来高の管理や、台風などの強風時の変形や振動予測が重要な課題となる。
【0022】
このため、架設時には、工事進捗に沿った線形・出来高の管理、施工期間中にわたる気候変動などの外乱に対する応答、型枠移動などで発生する振動(内乱)に対する応答の把握を主眼として施工管理を行う必要がある。一方、完成後の供用中の維持管理においては、クリープ、斜材張力の緩和等の影響、強風などの外乱に対する応答、走行車両等の活荷重による応答等を逐次計測し、これらを維持管理の指標とする必要がある。
【0023】
図2に示すように、本発明に係る光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量の算定装置100は、光ファイバセンサ10により主桁2のひずみを計測する構造ヘルスモニタリングシステム101(以下、システムという。)の中に備えてある。このシステム101は、取得したひずみデータをインターネットを通じてデータセンターに転送し、所定のデータ処理をした後、サーバー上に保存するシステムである。設計者、管理者などはWebブラウザを通じてシステム101を用い、どこからでも計測データの参照や分析を行うことができる。なお、システム101の設置は、図1に示した適用対象の対称性を考慮し、同図に示す主塔P3側としてある。また、本発明のたわみ量の算定装置100は、設計者や管理者側のパソコン(パーソナルコンピュータ)に含まれるCPUや記憶領域を使用して動作するものであり、受信したひずみ値に基づいてたわみ量を算定する。
【0024】
システム101で用いる光ファイバセンサ10(B−OTDR方式:Brillouin Optical Time Domain Reflectometer)は、光ファイバの軸方向に沿って非常に短い周期のパルス光を入射すると光ファイバ中のパルス光伝搬に伴って微量な光が反射するという特性(後方散乱)を利用している。反射光の波長は光ファイバに加わるひずみや温度で変化するため、反射光の波長と伝搬時間(パルス光を入射してから反射光が受信されるまでの時間)をあわせて記録すれば、光ファイバ全域をひずみセンサ、温度センサとして使用できる。
【0025】
なお、計測できるひずみ・温度の長さ方向の精度(空間分解能)と光ファイバに入射するパルス光の周期(幅)とは反比例関係にあり、入射パルス光の周期(幅)を長くすると、空間分解能は低下する。例えば、入射パルス光の周期が10n秒(10×10−9秒)の場合の空間分解能は1mとなり、ある点で計測された計測値(ひずみ・温度)はその点の前後0.5mの範囲の平均ひずみ(温度)値となる。周期が100n秒の場合の空間分解能は10mである。さらに、反射光は非常に微弱な光であるため、実際の計測ではパルス光を反復して入射し、反射光を平均化してひずみ・温度を求める。また、入射パルス光の周期とはべつに、反射光の受信間隔を変化させ、計測間隔(サンプリング間隔)を設定する。
【0026】
光ファイバセンサ10は、コンクリート中に埋設使用されることを前提として、図3に示すように、光ファイバ素線4を、エンボス加工したポリエチレン樹脂6およびアラミド繊維8で被覆補強したものをひずみセンサとして開発し、適用している。なお、コンクリート埋設時にもセンサ外部からの応力(側圧や付着による引張や圧縮)の影響を回避するために、光ファイバ素線をステンレス細管に内挿し保護したものを温度センサとして使用することもできる。
【0027】
光ファイバセンサ10の敷設に際しては、移動型枠に沿って主塔P3から延伸するPC主桁2の四隅に上記センサを順次埋設する工法を用いる。すなわち、主桁2の四隅に埋設するおのおのの光ファイバセンサ10の始端(主塔P3側)を、図4に示すように、センサ埋設開始当初から光成端箱22と光スイッチ12を介して計測器14に接続して計測可能な状態とし、センサ10の未埋設部および終端はリール16を使用し束ね移動型枠の先端部近傍に仮設する。次に、主桁2の延伸に伴う型枠の移動および配筋完了後、リール16から光ファイバセンサ10を引き出して鉄筋に沿わせ固定し、コンクリート打設にあわせて主桁2中に埋設する。
【0028】
また、図4に示すように、計測器14とパソコン18(パーソナルコンピュータ)、光スイッチ12とパソコン18、パソコン18および計測器14とハブ20はそれぞれ接続してある。なお、パソコン18のCPUに余裕があれば、たわみ量の算定装置100をパソコン18に組み込み、現地でたわみ量を算出した後、インターネットを介して設計者や管理者に送信するようにしても良い。
【0029】
図5(a)、(b)に本工法の概要を示す。本工法の適用により、主桁延伸の開始初頭から完成まで、継続した計測が可能となり、かつセンサ設置の労力を大幅に軽減できる。
【0030】
架設時の主桁ひずみ計測結果例を図6に示す。システム101では、入射パルス光の周期を20n秒、反射光の平均化回数を213回、計測間隔(サンプリング間隔)を0.5mと設定している。すなわち、敷設した光ファイバセンサ全域において、0.5m刻みでひずみ値が得られ、そのおのおののひずみ値は、計測点の前後1m(計2m)の光ファイバセンサに沿った範囲のひずみ平均値(ひずみ分布)である。
【0031】
上記の計測パラメータを用いた場合に必要な計測時間は1本のセンサあたり数分程度である。このため、振動や衝撃などによって生じるひずみ変化には追従しない。すなわち、本システム101から得られるデータは、ほぼ静的現象によって得られたひずみ値である。
【0032】
なお、光スイッチに接続したすべての光ファイバセンサの計測が完了するまでの時間は、光スイッチのチャンネル切替え、おのおののセンサからの計測データの保存に要する時間などを含めると、約1時間である。
【0033】
また、本システム101で採用した光ファイバセンサは、現場での施工の進捗に合わせてコンクリート打設時に埋設するため、破断に対する補償として、1本のセンサに2本の光ファイバ素線を配置する方式を採用しており(図3)、リール先端部で両素線を折り返して融着し、センサ全体でループ状にしている。このため、コンクリート打設時などに1本の光ファイバ素線が破断しても、残りの一方から光を逆向きに入射することで、途切れることなく計測が可能となる。図6においてもリール先端部を中心としてひずみ値は左右対称であり、センサ中の光ファイバは2素線ともに稼働状態にあることを示している。
【0034】
なお、光ファイバセンサを用いたひずみ計測は、システム稼働開始当初から、連日2(架設中)〜4時間(完成後)おき(1日あたり6〜12回)に継続して実施している。
【0035】
架設時の主桁たわみ分布を把握することは施工管理上非常に重要である。上記で示した光ファイバセンサによるひずみ値から主桁たわみ曲線(たわみ量)を算定することになる。たわみ量の算定は、以下より詳述する本発明に係る光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量の算定方法または装置100による。
【0036】
図7に示すように、本発明に係る光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量の算定方法は、主桁の上側のひずみ値と下側のひずみ値とを光ファイバセンサで計測し(ステップS1)、ひずみ値で定義した主桁のたわみ曲線を表す数式(基本たわみ量)に工事進捗により変化する境界条件を反映する(ステップS2)。そして、基本たわみ量の積分定数を決定し(ステップS3)、この積分定数の値が代入された基本たわみ量に基づいて、主桁の工事進捗におけるたわみ量を算定する(ステップS4)という手順からなる。本発明の算定装置100としては、この手順をコンピュータを用いた演算処理により行う。
【0037】
たわみ曲線を表す数式(基本たわみ量)は、たわみ量の算定式であり、光ファイバセンサで計測した上側のひずみと下側ひずみとの差を主桁の上下方向の高さで除算して得られるたわみ曲率を、主桁の水平方向に関して2回積分することで得られ、任意の積分定数を含んでいる。
【0038】
この積分定数を含むたわみ曲線を表す数式に、工事進捗の各段階に対して予め求めてある境界条件を適用することで、工事進捗に応じた長大PC斜張橋主桁のたわみ量を容易に算定することができる。
【0039】
次に、たわみ量の算定式の導出過程等について具体的に説明する。
【0040】
[座標系および基本式]
図8に示すように、主塔P3と主桁の結合部を原点とし、主径間方向をx軸、主桁計画線からのずれ量をy軸とする座標系を導入する。傾斜角θは反時計回りを正とする。
主桁のたわみ曲率1/ρおよび傾斜角θの基本式は、
【0041】
【数1】
【数2】
【0042】
で表すことができ、たわみ曲率とひずみの関係式は、主桁上面の分布ひずみ値をεu、下面の分布ひずみ量をεd、主桁断面の高さをhとおくと、以下の式の通り示される。
【0043】
【数3】
【0044】
式(3)を式(1)に代入し、さらに逐次積分すると、
【0045】
【数4】
【数5】
【数6】
【0046】
となる。主桁の各点の傾斜角θとたわみ量yは、式(5)、(6)中の積分定数C1およびC2を境界条件から求めることにより得られる。
【0047】
主桁の工事進捗に伴う支持状態の変化により境界条件は変化するため、本実施の形態においては、長大PC斜張橋の一方の主塔P3から主桁を延伸して、他方の主塔P4の主桁と中央で閉合するまでを4つの段階(ステージ1〜4)に分けてモデル化し、それぞれの傾斜角とたわみ量を算定する。なお、以下の計算においては、表記を簡単にするため、以下の定積分を定義する。
【0048】
【数7】
【数8】
【0049】
すなわち、上記基本式(5)、(6)は、
【0050】
【数9】
【数10】
【0051】
と書き表すことができる。
【0052】
[主桁支持状態の変化に伴うたわみ量]
(ステージ1:主桁延伸BL00〜P2結合まで)
まず、ステージ1のたわみ量の算定式について説明する。
【0053】
図9に示すように、本ステージ1での境界条件は主塔P3における拘束のみであり、次式のように示される。
【0054】
【数11】
【数12】
【0055】
式(11)、(12)を式(9)、(10)に代入すると、積分定数はそれぞれ
【0056】
【数13】
【数14】
【0057】
と求められる。したがって、本条件下でのたわみ曲線(図中太線で表示)は、
【0058】
【数15】
【0059】
となる。
【0060】
(ステージ2:P2結合〜P1閉合前)
次に、ステージ2のたわみ量の算定式について説明する。
【0061】
図10に示すように、本ステージ2での境界条件はP2および主塔P3における拘束であり、次式のように示される。
【0062】
【数16】
【数17】
【0063】
式(16)、(17)を式(9)、(10)に代入すると、積分定数はそれぞれ
【0064】
【数18】
【数19】
【0065】
と求められる。したがって、本条件下でのたわみ曲線は、
【0066】
【数20】
【0067】
となる。
【0068】
(ステージ3:P1閉合〜中央閉合前)
次に、ステージ3のたわみ量の算定式について説明する。
【0069】
本ステージ3の条件では、不静定はりとなるため、図11に示すように、P1〜P2間(点A〜点B)、P2〜中央(点B〜中央)の2つの区間にはりを分割し、P2(点B)における仮想モーメント(未知定数)および角度を導入する。
【0070】
<ステージ3−1:P1〜P2間(点A〜点B)の連続はり>
P2における曲げモーメント寄与分を未知定数M2として導入すると、
【0071】
【数21】
【0072】
となる。式(21)を逐次積分すると、
【0073】
【数22】
【数23】
【0074】
なお、この場合の境界条件は、P1およびP2に拘束され、さらにP2における連続はりの傾斜角をθ2(未知定数)として導入すると、
【0075】
【数24】
【数25】
【数26】
【0076】
となる。
【0077】
<ステージ3−2:P2〜中央までの連続はり>
P2における曲げモーメント寄与は、上記のステージ3−1と等価であると考えられる。したがって、本ステージ3−2でのたわみ曲線は、以下の3つの式で表すことができる。
【0078】
【数27】
【数28】
【数29】
【0079】
なお、この場合の境界条件はP2およびP3での拘束となり、さらにP2における連続はりの傾斜角は上記のステージ3−1と等価のθ2を導入できるので、以下のようになる。
【0080】
【数30】
【数31】
【数32】
【0081】
<ステージ3−3:P2で結合>
本ステージ3−3での積分定数および未知定数を簡単に求めるため、式(21)以降を行列表記する。
式(22)、(23)は、
【0082】
【数33】
【0083】
同様に、式(28)、(29)は、
【0084】
【数34】
【0085】
と表すことができる。上記の境界条件を表す式(24)、(25)、(26)、(30)、(31)、(32)を行列(33)、(34)に代入し整理すると、
【0086】
【数35】
【0087】
と表記できる。積分定数および未知定数は、行列(35)の両辺に、右辺第1項の6次正方行列の逆行列を左方から乗ずることで求められる。すなわち、
【0088】
【数36】
【0089】
上記行列(36)に対して掃き出し法などを用いた数値計算を行えばよい。
【0090】
(ステージ4:中央閉合後)
次に、ステージ4のたわみ量の算定式について説明する。
【0091】
本ステージ4では、上記のステージ3と同様に不静定はりとなるため、主桁を図12に示すP1〜P2間(点A〜点B)、P2〜P3間(点B〜点C)、P3〜P4間の3つの区間にはりを分割し検討する。
【0092】
<ステージ4−1:P1〜P2間>
支配方程式および境界条件は上記のステージ3−1と同様である。すなわち、
【0093】
【数37】
【数38】
【数39】
【数40】
【数41】
【数42】
【0094】
となる。
【0095】
<ステージ4−2:P2〜P3間>
本条件における両端の曲げモーメント寄与をそれぞれM2、M3として与えると、支配方程式は
【0096】
【数43】
【0097】
となる。式(43)を逐次積分すると、
【0098】
【数44】
【数45】
【0099】
となる。また、境界条件は、
【0100】
【数46】
【数47】
【数48】
【数49】
【0101】
である。
【0102】
<ステージ4−3:P3〜P4間>
本条件での支配方程式は、上記のステージ4−2の未知定数M3のみが寄与する。したがって、
【0103】
【数50】
【0104】
式(50)を逐次積分すると、
【0105】
【数51】
【数52】
【0106】
となる。境界条件は、
【数53】
【数54】
【数55】
【0107】
である。
【0108】
<ステージ4の積分定数、未知定数の導出について>
上記のステージ3と同様に、各支配方程式を行列表記する。
式(38)、(39)は、
【0109】
【数56】
【0110】
同様に式(44)、(45)は、
【0111】
【数57】
【0112】
さらに、式(51)、(52)は、
【0113】
【数58】
【0114】
と表すことができる。
境界条件を表す式(40)、(41)、(42)、(46)、(47)、(48)、(49)、(53)、(54)、(55)を行列(56)、(57)、(58)に代入し整理すると、
【0115】
【数59】
【0116】
となり、これを上記のステージ3と同様に数値計算すればよい。
【0117】
以上のステージ1〜ステージ4に示した方法により、光ファイバ分布ひずみセンサを敷設した長大橋主桁の工事進捗に伴うたわみ曲線を導出することができる。実際には、光ファイバ分布ひずみ計測器により得られる分布ひずみ値は、例えば0.5m程度間隔の値であるため、上記の方法で求めた未知定数および積分定数を使用して、数値積分を行う必要がある。また、主桁に光ファイバセンサを敷設しない未敷設区間がある場合には、この未敷設区間のたわみ曲線については、適切な方法で補間するようにしてもよい。
【0118】
次に、本発明により算定したたわみ曲線と、測量値および設計値(理論値)との比較例について説明する。図13は、主桁たわみ曲線を比較した図であり、(a)は測量レベルとの比較図、(b)は設計値との比較図であり、それぞれ主桁延伸工程におけるたわみ曲線を、1つ前の施工ステップの斜材緊張後の線形を基準値として示している。
【0119】
図13(a)は、本発明の算定装置100により算定したたわみ曲線と、1つ前のステップ斜材緊張時を基準とした測量レベル(相対レベル値)を比較した例であり、上からコンクリート打設時、型枠移動時、斜材緊張時の各施工ステップについての図である。連続計測を行っている光ファイバセンサ10から得られたひずみ値より上記の算定装置100により求めた主桁たわみ曲線の状況が、施工ステップの進展に伴う荷重変化に沿って、刻々と変化していることが分かる。また、光ファイバセンサ10による計測ひずみ値に基づくたわみ曲線(実線)と、測量レベル差分(黒▽印)は各施工プロセスにおいて、良好な関係を示していることが分かる。
【0120】
また、図13(b)は、斜張橋の詳細設計で予め予測したたわみ量(〇印で示す設計値)との比較例を示している。光ファイバセンサ10による計測ひずみ値に基づくたわみ曲線(実線)と、設計値は良好な関係を示していることが分かる。このように、光ファイバセンサ10を用いた連続計測から得られたひずみ値を用いてたわみ曲線を時々刻々求める方法は、次ステップの上げ越し管理を行ううえで有用である。
【0121】
以上説明したように、本発明によれば、光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量を、前記光ファイバセンサで計測した前記構造物の計測ひずみに基づいて算定する方法において、前記構造物の上側のひずみと下側のひずみとを前記光ファイバセンサで計測し、前記光ファイバセンサで計測した前記上側のひずみと前記下側ひずみとの差を前記構造物の上下方向の高さで除算して前記たわみ量を規定するたわみ曲率を求め、前記たわみ曲率を前記構造物の水平方向に関して2回積分して任意の積分定数を含む数式からなる基本たわみ量を求め、前記基本たわみ量に対して前記構造物の所定の工事進捗における境界条件を適用して前記積分定数の値を決定し、決定した前記積分定数の値が代入された前記基本たわみ量に基づいて前記構造物の所定の工事進捗におけるたわみ量を算定するので、工事進捗に応じた構造物のたわみ量を算定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0122】
以上のように、本発明に係る光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量の算定方法および装置は、工事進捗に応じた構造物のたわみ量を算定するのに有用であり、特に、たわみ量を算定するための境界条件が工事進捗によって刻々と変化する橋梁などの構造物のたわみ量を算定するのに適している。
【符号の説明】
【0123】
1 長大PC斜張橋
2 主桁(構造物)
4 光ファイバ素線
6 ポリエチレン樹脂
8 アラミド繊維
10 光ファイバセンサ
12 光スイッチ
14 計測器
16 リール
18 パソコン
20 ハブ
22 光成端箱
100 光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量の算定装置
101 構造ヘルスモニタリングシステム
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量を、前記光ファイバセンサで計測した前記構造物の計測ひずみに基づいて算定する方法において、
前記構造物の上側のひずみと下側のひずみとを前記光ファイバセンサで計測し、
前記光ファイバセンサで計測した前記上側のひずみと前記下側ひずみとの差を前記構造物の上下方向の高さで除算して前記たわみ量を規定するたわみ曲率を求め、
前記たわみ曲率を前記構造物の水平方向に関して2回積分して任意の積分定数を含む数式からなる基本たわみ量を求め、
前記基本たわみ量に対して前記構造物の所定の工事進捗における境界条件を適用して前記積分定数の値を決定し、決定した前記積分定数の値が代入された前記基本たわみ量に基づいて前記構造物の所定の工事進捗におけるたわみ量を算定することを特徴とする光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量の算定方法。
【請求項2】
光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量を、前記光ファイバセンサで計測した前記構造物の計測ひずみに基づいて算定する装置において、
前記光ファイバセンサは、前記構造物の上側のひずみと下側のひずみとを計測するものであり、
前記光ファイバセンサで計測した前記上側のひずみと前記下側ひずみとの差を前記構造物の上下方向の高さで除算して前記たわみ量を規定するたわみ曲率を求め、
前記たわみ曲率を前記構造物の水平方向に関して2回積分して任意の積分定数を含む数式からなる基本たわみ量を求め、
前記基本たわみ量に対して前記構造物の所定の工事進捗における境界条件を適用して前記積分定数の値を決定し、決定した前記積分定数の値が代入された前記基本たわみ量に基づいて前記構造物の所定の工事進捗におけるたわみ量を算定することを特徴とする光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量の算定装置。
【請求項3】
前記構造物は、橋梁であることを特徴とする請求項2に記載の光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量の算定装置。
【請求項4】
前記橋梁は、斜張橋であることを特徴とする請求項3に記載の光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量の算定装置。
【請求項1】
光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量を、前記光ファイバセンサで計測した前記構造物の計測ひずみに基づいて算定する方法において、
前記構造物の上側のひずみと下側のひずみとを前記光ファイバセンサで計測し、
前記光ファイバセンサで計測した前記上側のひずみと前記下側ひずみとの差を前記構造物の上下方向の高さで除算して前記たわみ量を規定するたわみ曲率を求め、
前記たわみ曲率を前記構造物の水平方向に関して2回積分して任意の積分定数を含む数式からなる基本たわみ量を求め、
前記基本たわみ量に対して前記構造物の所定の工事進捗における境界条件を適用して前記積分定数の値を決定し、決定した前記積分定数の値が代入された前記基本たわみ量に基づいて前記構造物の所定の工事進捗におけるたわみ量を算定することを特徴とする光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量の算定方法。
【請求項2】
光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量を、前記光ファイバセンサで計測した前記構造物の計測ひずみに基づいて算定する装置において、
前記光ファイバセンサは、前記構造物の上側のひずみと下側のひずみとを計測するものであり、
前記光ファイバセンサで計測した前記上側のひずみと前記下側ひずみとの差を前記構造物の上下方向の高さで除算して前記たわみ量を規定するたわみ曲率を求め、
前記たわみ曲率を前記構造物の水平方向に関して2回積分して任意の積分定数を含む数式からなる基本たわみ量を求め、
前記基本たわみ量に対して前記構造物の所定の工事進捗における境界条件を適用して前記積分定数の値を決定し、決定した前記積分定数の値が代入された前記基本たわみ量に基づいて前記構造物の所定の工事進捗におけるたわみ量を算定することを特徴とする光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量の算定装置。
【請求項3】
前記構造物は、橋梁であることを特徴とする請求項2に記載の光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量の算定装置。
【請求項4】
前記橋梁は、斜張橋であることを特徴とする請求項3に記載の光ファイバセンサを備えた構造物のたわみ量の算定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−164024(P2011−164024A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29223(P2010−29223)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]