説明

光ファイバ用母材の製造方法、及び、光ファイバの製造方法

【課題】 信頼性の高い光ファイバを製造可能な光ファイバ用母材の製造方法、及び、それを用いる光ファイバの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 光ファイバ用母材10Pの製造方法は、MCVD法を用いて光ファイバ用母材を製造する光ファイバ用母材の製造方法であって、ガラス管15Gを回転しながら加熱すると共に、ガラス管15Gの貫通孔H内にガスを供給する工程を備え、この工程の少なくとも一部において、ガラス管15Gの外径が大きくなるように、貫通孔H内を加圧することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信頼性の高い光ファイバを製造可能な光ファイバ用母材の製造方法、及び、それを用いる光ファイバの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ用母材の製造方法の一つとして、MCVD(Modified Chemical Vapor Deposition)法が知られている。MCVD法においては、両端がチャッキングされ、水平に支持されたガラス管が、軸中心に回転されながら、外部から加熱されると共に、ガラス管の貫通孔に原料ガスが供給され、この原料ガスから生じるスートが、堆積・焼結されることで、ガラス管の内壁にガラス層が積層される。そして、このガラス層を複数層積層後、ガラス管全体がコラプスされることで、光ファイバ用母材は製造される。
【0003】
しかし、ガラス管は、両端がチャッキングされた状態で加熱されるため、ガラス管全体がアーチ状に反る曲がりが生じたり、局所的に折れ曲がる曲がりが生じる場合がある。このアーチ状に反る曲がりは、ガラス管の自重による撓みと区別されるものであり、ガラス管が特定の方向に反っている状態が維持される。従って、このような曲がりが生じると、回転に合わせてガラス管が偏心回転する振れ回りが生じる。この振れ回りは、ガラス管が局所的に折れ曲がる場合においても生じる。特にガラス管が長い場合には、自重による撓み量が大きくなることにより、上記の曲がりが生じることが助長される傾向がある。
【0004】
このようなガラス管の曲がりによる振れ回りが生じると、ガラス管の回転に伴い、熱源に近づく部位と熱源から離れる部位が生じるため、ガラス管の周方向における温度分布が大きくなり、スート(ガラス微粒子)の堆積量が偏在し易くなる。このため、製造される光ファイバ用母材におけるコアガラス体の偏心の量が大きくなり、この光ファイバ用母材を用いて製造される光ファイバにおいては、偏心の量が許容量を超え、信頼性が低下する虞がある。
【0005】
このような光ファイバ用母材の曲がりを抑制する方法として、下記特許文献1に記載の光ファイバ用母材の製造方法がある。この光ファイバ用母材の製造方法においては、両端がチャッキングされたガラス管の途中位置において、ガラス管の外周面を下側から支える補助支持部材が用いられている。そして、この補助支持部材により、ガラス管が支えられた状態で、ガラス管が回転されながら加熱される。こうして加熱中のガラス管の撓みが抑制され、上述の曲がりの発生が抑制されて、コアガラス体が偏心することが低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2005−520776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記光ファイバ用母材の製造方法においては、補助支持部材がガラス管の外周面に接触するため、ガラス管の外周面に傷が付く場合や、不純物がガラス管に付着する場合がある。これらの場合、製造された光ファイバ用母材を用いて光ファイバを製造すると、母材についた傷の影響により部分的にコアが偏心したり、母材に付着した不純物の影響により部分的に屈折率が異なる光ファイバとなる可能性があり、信頼性の低い光ファイバが製造される虞がある。
【0008】
そこで、本発明は、信頼性の高い光ファイバを製造可能な光ファイバ用母材の製造方法、及び、それを用いる光ファイバの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、MCVD法を用いて光ファイバ用母材を製造する光ファイバ用母材の製造方法であって、ガラス管を回転させながら加熱すると共に、前記ガラス管の貫通孔内にガスを供給する工程を備え、前記工程の少なくとも一部において、前記ガラス管の外径が大きくなるように、前記貫通孔内を加圧することを特徴とするものである。
【0010】
加熱されたガラス管は、ガラスの粘度が下がり、表面張力による外径の収縮が生じる傾向がある。そこで、ガラス管を加熱しながらガスを供給する際、熱によりガラス管が収縮しないように、ガラス管の貫通孔内を加圧することが考えられる。しかし、このように貫通孔内を加圧してガラス管の外径を一定に維持する場合においても、ガラス管の曲がりが生じることが、本発明者らの研究により明らかになった。そこで、本発明者らは鋭意研究を重ねて、ガラス管が加熱される工程の少なくとも一部において、ガラス管の外径が大きくなるようにガラス管の貫通孔内を加圧すれば、ガラス管の曲がりを抑制できるという結論に至った。このようにガラス管の貫通孔内を加圧することで、ガラス管の曲がりを抑制することができる理由は定かではないが、本発明者らは、上記の様に加圧することで、ガラス管の表面張力、及び、ガラス管の粘度による抵抗力よりも、貫通孔内の圧力によりガラス管に加えられる応力が勝り、ガラス管の形状が維持されて、曲がりが抑制できるものと考えている。
【0011】
これにより、回転するガラス管を加熱する熱源との距離が変動することが抑制され、MCVD法において、ガラス管を加熱する際、ガラス管の周方向における熱の偏在が抑制される。従って、原料ガスに由来するスートは、周方向において、一定の厚さに堆積され、スートがガラス化して積層されるガラス層の厚さが、周方向で一定とされる。こうして、ガラス管の肉厚が一定に保たれる。こうした工程を備えて、製造される光ファイバ用母材は、偏心が抑制され、かつ、補助支持部材のようなガラス管の途中でガラス管に触れる部材が無いため不純物が混入することも防止される。従って、このような光ファイバ用母材は、信頼性の高い光ファイバを製造することができる。
【0012】
また、前記工程は、前記ガラス管の内壁にガラス層を積層する積層工程であり、前記ガスは、前記ガラス層を積層するための原料ガスであることが好ましい。ガラス管の内壁にガラス層を積層する積層工程において、ガラス管の曲がりを抑制することができる。このように積層工程中に、ガラス管の曲がりを抑制することで、光ファイバ用母材の偏心を抑制することができる。なお、積層されるガラス層は、光ファイバのコアとなるコアガラス体であっても良く、光ファイバのクラッドとなるクラッドガラス体であっても良い。
【0013】
さらにこの場合、前記ガラス管を加熱する熱源は、前記ガラス管の長手方向に沿って移動しながら前記ガラス管を加熱し、前記熱源が前記原料ガスの供給側から排出側に1トラバースする間に、前記ガラス管の外径が、0.040%以上0.160%以下大きくなるように、前記貫通孔内を加圧することが好ましい。
【0014】
このように貫通孔内を加圧することで、ガラス管の曲がりをより抑制することができることが本発明者らの実験により明らかとなった。従って、このように加圧することにより、信頼性のより高い光ファイバを製造することができる光ファイバ用母材を製造することができる。
【0015】
また、前記積層工程の途中からは、前記ガラス管の外径が一定となるように、前記貫通孔内を加圧することとしても良い。ガラス管の肉厚が増すにつれ、ガラス管の曲がりが生じにくくなるので、積層工程の途中までガラス管の外径が大きくなるように加圧することで、ガラス管の曲がりを抑制することができる。そして、積層工程の途中からガラス管の外径が一定となるように加圧することで、ガラス管の外径が不要に大きくなることを防止して、その後の工程を行い易くすることができる。
【0016】
或いは、前記積層工程の途中からは、前記貫通孔内の加圧を行わないこととしても良い。ガラス管を加熱しながら原料ガスを供給する工程の途中から、加圧を止めることで、ガラスは収縮する。従って、加圧を止めるまでの工程で、大きくなったガラス管の外径を小さくし、その後の工程を行い易くすることができる。また、途中から加圧を行わないことで、加圧のためのガスの使用量を低減することができる。なお、積層工程の途中で加圧を止める場合においても、上記の様に、積層工程の途中まで、ガラス管の外径が大きくなるように加圧を行うことで、ガラス管の曲がりが生じることを抑制することができる。
【0017】
また或いは、前記積層工程の間、常に、前記ガラス管の外径が大きくなるように、前記貫通孔内を加圧することとしても良い。このように加圧を行うことで、積層工程において、ガラス管の曲がりが生じることを更に抑制することができる。
【0018】
或いは、前記工程は、前記ガラス管の内壁をエッチングするエッチング工程であり、前記ガスは、エッチングガスであることとしても良い。MCVD法を行う場合、一般的に、ガラス管に原料ガスを供給する前や、原料ガスによるガラス層が積層された後に、ガラス管の内壁をエッチングするエッチング工程を行う。なお、ガラス層が積層された後のガラス管とは、ガラス層が積層される前のガラス管と積層されたガラス層とからなるガラス管を意味し、この場合の内壁は積層されたガラス層の内壁となる。このようにガラス管の内壁をエッチングする場合においても、ガラス管を加熱するため、ガラス管の曲がりが生じる恐れがある。しかし、上記の様に、ガラス管の外径が大きくなるように加圧することで、エッチング工程において、ガラス管に曲がりが生じることを抑制することができる。従って、ガラス管が上記のように撓まされるエッチング工程が、ガラス管に原料ガスを供給する前のエッチング工程であれば、その後、ガラス管の内壁にガラス層を積層する場合に、スートがガラス管の周方向で偏在することを抑制することができる。また、ガラス管が上記のように撓まされるエッチング工程が、ガラス管にガラス層が積層された後のエッチング工程である場合であっても、光ファイバ用母材が曲がることを抑制することができる。このようにエッチング工程において、上記の様に加圧することによっても、信頼性の高い光ファイバを製造可能な光ファイバ用母材を製造することができる。
【0019】
また、前記加圧は、前記ガラス管の前記ガスが排出される側に加圧用ガスを供給することにより行うことが好ましい。加圧ガスの供給をガスの排出側から行うことにより、ガスの供給量に影響が出ることを抑制することができる。例えば、ガスが、上述のように原料ガスである場合、加圧ガスを排出側から供給することで、原料ガスの供給量が少なくなることを抑制して、設計通りにガラス層を積層することができる。また、原料ガスが、上述のようにエッチングガスである場合、エッチングガスの供給量が少なくなることを抑制して、設計通りにガラス層の内壁をエッチングすることができる。
【0020】
また、本発明の光ファイバの製造方法は、MCVD法を用いて光ファイバ用母材を製造する光ファイバ用母材製造工程と、前記光ファイバ用母材を線引きする線引工程と、を備える光ファイバの製造方法であって、前記光ファイバ用母材製造工程は、ガラス管を回転させながら加熱すると共に、前記ガラス管の貫通孔内にガスを供給する工程を備え、当該工程の少なくとも一部において、前記ガラス管の外径が大きくなるように、前記貫通孔内を加圧すること特徴とするものである。
【0021】
ガラス管が加熱される工程の少なくとも一部において、ガラス管の外径が大きくなるようにガラス管の貫通孔内を加圧することで、ガラス管の曲がりを抑制できる。従って、MCVD法において、積層されるガラス層の厚さが、周方向で異なることが抑制される。このため、製造される光ファイバ用母材は、偏心が抑制され、この光ファイバ用母材を線引きすることで、信頼性の高い光ファイバを製造することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明によれば、信頼性の高い光ファイバを製造可能な光ファイバ用母材の製造方法、及び、それを用いる光ファイバの製造方法を提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態に係る光ファイバの長手方向に垂直な断面の構造を示す図である。
【図2】図1に示す光ファイバの製造に用いる光ファイバ用母材を示す図である。
【図3】光ファイバ用母材を製造する工程及び光ファイバを製造する工程を示すフローチャートである。
【図4】ガラス管がセットされた状態の母材製造装置を示す図である。
【図5】積層工程の様子を示す図である。
【図6】線引工程の様子を示す図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る光ファイバの長手方向に垂直な断面の構造を示す図である。
【図8】1トラバース当たりの平均膨張量と、ガラス管の振れ回り量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る光ファイバ用母材の製造方法、及び、光ファイバの製造方法の好適な実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0025】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る光ファイバの長手方向に垂直な断面の構造を示す図である。本実施形態の光ファイバ10は、例えば、シングルモードファイバとされ、図1に示すように、コア11と、コア11の外周面を囲むクラッド12と、クラッド12の外周面を被覆する第1被覆層13と、第1被覆層13の外周面を被覆する第2被覆層14とから構成される。クラッド12の屈折率はコア11の屈折率よりも低くされている。このような、コア11を構成する材料としては、例えば、屈折率を上昇させるゲルマニウム等の元素が添加された石英が挙げられる。また、クラッド12を構成する材料としては、例えば、何らドーパントが添加されていない純粋石英が挙げられる。また、第1被覆層13、第2被覆層14を構成する材料としては、例えば、互いに異なる種類の紫外線硬化樹脂が挙げられる。
【0026】
このような光ファイバ10は、後述の様に光ファイバ用母材を線引きすることにより製造される。図2は、図1に示す光ファイバ10の製造に用いる光ファイバ用母材を示す図である。図2に示すように、光ファイバ用母材10Pは、円柱状の形状をしており、光ファイバ10のコア11となるコアガラス体11Pと、コアガラス体11Pの外周面を囲み、光ファイバ10のクラッド12となるクラッドガラス体12Pとから構成される。
【0027】
コアガラス体11Pは、光ファイバ10のコア11と同じ材料から成り、クラッドガラス体12Pは、クラッド12と同じ材料から成る。そして、コアガラス体11Pの直径とクラッドガラス体の外径との比は、光ファイバ10のコア11の直径とクラッド12の外径との比と略同様とされる。
【0028】
次にこのような光ファイバ用母材10Pを製造し、製造した光ファイバ用母材10Pを用いて光ファイバ10を製造する方法について説明する。
【0029】
図3は、光ファイバ用母材10Pを製造する工程、及び、光ファイバ10を製造する工程を示すフローチャートである。図3に示すように、光ファイバ用母材10Pの製造方法は、ガラス管を母材製造装置にセットする準備工程P1と、ガラス管の内壁をエッチングするエッチング工程P2と、ガラス管の内壁にガラス層を積層する積層工程P3と、ガラス管の貫通孔を潰して光ファイバ用母材とするコラプス工程P4とを主な構成として備え、光ファイバ10の製造方法は、上記の各工程と、光ファイバ用母材10Pを線引きする線引工程P5と、を主な構成として備える。
【0030】
<準備工程P1>
まず、ガラス管を準備する。このガラス管は、光ファイバ用母材10Pのクラッドガラス体12Pの一部となるため、製造する光ファイバ10のクラッド12と同様の材料とする。準備したガラス管は、必要に応じて、表面の洗浄を行う。
【0031】
次に、ガラス管を母材製造装置にセットする。
【0032】
図4は、ガラス管15Gがセットされた状態の母材製造装置を示す図である。図4に示すように、母材製造装置50は、ガラス管15Gの両端部をチャッキング可能な一対のチャッキング部55a、55bと、SiClガスを供給するSiClガス供給部51sと、GeClガスを供給するGeClガス供給部51gと、キャリアガスを供給するキャリアガス供給部51cと、エッチングガスを供給するエッチングガス供給部51eと、SiClガス、GeClガス、キャリアガス、エッチングガス等をガラス管15Gに供給するガス供給配管54と、ガラス管から排出される不要なガスを処理する排ガス処理部57と、ガラス管15Gのガスの排出側に加圧用のガスを供給する加圧ガス供給部56と、ガラス管15Gの長手方向に移動可能とされ、ガラス管15Gの外周面を加熱可能なバーナ58と、を主な構成として備える。
【0033】
チャッキング部55a,55bは、ガラス管15Gを水平に支持することができ、チャッキング部55aはガラス管15Gの一方の端部をチャッキングし、チャッキング部55bは、ガラス管15Gの他方の端部をチャッキングする。また、それぞれのチャッキング部55a,55bは、ガラス管15Gの軸を中心に回転可能な構成とされる。
【0034】
また、ガス供給配管54は、ガラス管15Gが、チャッキング部55aにチャッキングされた状態で、先端がガラス管15Gの貫通孔H内に、僅かに挿入されるよう構成されている。
【0035】
SiClガス供給部51sは、SiClを蒸気で供給する構成とされ、例えば、SiClバブリング機とされる。また、GeClガス供給部51gは、GeClを蒸気で供給する構成とされ、例えば、GeClバブリング機とされる。また、キャリアガス供給部51cは、SiClガスやGeClガスを搬送するキャリアガスを発生する。キャリアガスは、例えば、窒素ガス等の不活性ガスから成り、キャリアガスが窒素ガスである場合は、液体窒素からNガスを発生させる装置を用いれば不純物の少ない窒素ガスを供給することができる。また、エッチングガス供給部51eは、ガラス管15Gをエッチング可能なエッチングガスを供給する構成とされ、このようなエッチングガスとしては、SFガスを挙げることができる。
【0036】
なお、SiClガス供給部51s、GeClガス供給部51g、キャリアガス供給部51c、エッチングガス供給部51eには、それぞれ配管が接続されており、これらの配管は、ガス供給配管54に接続されている。従って、それぞれのガスは、ガス供給配管54を介して、ガラス管15Gの貫通孔H内に供給されるように構成されている。また、それぞれの配管の途中には、図示しないバルブが設けられており、それぞれのガスの供給がコントロールできるようにされている。
【0037】
排ガス処理部57は、ガラス管15Gの貫通孔Hから排出される不要なガスを蓄積する構成とされている。
【0038】
加圧ガス供給部56は、ガラス管15Gのガスの排出側において、ガラス管15Gの長手方向に略垂直な方向から加圧ガスを供給するよう構成されている。この加圧ガスとしては、窒素ガス等の不活性ガスを挙げることができる。
【0039】
バーナ58は、例えば、酸水素バーナとされ、上述のようにガラス管15Gの長手方向に移動可能に構成される。
【0040】
このような母材製造装置50の一対のチャッキング部55a,55bに、ガラス管15G両端部をチャッキングすることで、上述のように、母材製造装置50にガラス管15Gをセットする。こうして準備工程P1が完了する。
【0041】
<エッチング工程P2>
次に、母材製造装置50にセットされたガラス管15Gの内壁をエッチングする。具体的には、チャッキング部55a,55bを回転させることで、ガラス管15Gを軸中心に回転させると共に、ガラス管15Gの長手方向に沿ってバーナ58を往復移動させることで、ガラス管15Gを加熱する。
【0042】
そして、ガラス管15Gが加熱されている最中に、エッチングガス供給部51eからエッチングガスを供給し、キャリアガス供給部51cからキャリアガスを供給して、これらのガスをガス供給配管54を介してガラス管15Gの貫通孔H内に供給する。このときのガラス管15Gの温度は、ガラス管のエッチングを行うことができる限りにおいて特に限定されないが、例えば、1900℃〜2300℃とされる。さらにこのとき、加圧ガス供給部56から加圧ガスを供給することで、ガラス管15Gの貫通孔H内を加圧する。このときの加圧は、ガラス管15Gの外径が大きくなるように行う。具体的には、バーナ58が、ガラス管15Gを1トラバースする間に、ガラス管15Gの外径が、例えば、0.040%以上0.160%以下大きくなるように、前記貫通孔H内を加圧する。なお、上述のように、エッチングガスがガラス管におけるエッチングガスの排出側から供給されるため、加圧ガスのより、エッチングガスが希釈化されることが抑制されるので、設計値通りにエッチングを行うことができる。
【0043】
こうして、エッチングガスによりガラス管15Gの内壁がエッチングされる。
【0044】
<積層工程P3>
次にエッチング工程を経たガラス管15Gの内壁にガラス層を積層する。本実施形態においては、ガラス管15Gの内壁に、まず、クラッドガラス体12Pとなるクラッドガラス層を積層し、次にコアガラス体11Pとなるコアガラス層を積層する。
【0045】
図5は、このような積層工程P3の様子を示す図である。図5に示すように、積層工程においては、エッチング工程P2と同様に、チャッキング部55a,55bを回転させて、ガラス管15Gを軸中心に回転させると共に、ガラス管15Gの長手方向に沿ってバーナ58を移動させることで、ガラス管15Gを加熱する。MCVD法においては、バーナ58がSiClやGeCl等の原料ガスの供給側から排出側に移動する、いわゆる行きトラバースにおいて、バーナ58よりも排出側において、原料ガスに由来するスート15Sが堆積して、堆積したスート15Sが、バーナ58の移動により加熱されて、ガラス層15Lが積層される。そして、積層されたガラス層15Lは、ガラス管15Gの一部なり、ガラス管15Gの厚さは、ガラス層15Lが積層される毎に厚くなる。なお、行きトラバースにおいて、比較的ゆっくりとバーナ58を移動させる。また、原料ガスの排出側から供給側に移動する、いわゆる帰りトラバースは、ガラス層の形成と無関係であるため、素早くバーナを移動して、バーナを原料ガスの供給側に戻す。
【0046】
行きトラバースにおけるガラス管15Gの回転速度、及び、バーナ58の移動速度は、ガラス管15Gの肉厚や直径等により異なるため、特に限定されないが、例えば、ガラス管15Gの回転速度が、5rpm〜75rpmとされ、バーナ58の移動速度が、30mm/min〜200mm/minとされる。また、行きトラバースにおけるガラス管15Gの温度は、後述のように原料ガスからスート15Sが堆積されると共に堆積されたスートがガラス化されガラス層15Lとされる限りにおいて特に限定されないが、例えば、1900℃〜2300℃とされる。
【0047】
クラッドガラス層の積層においては、母材製造装置50のキャリアガス供給部51c、及び、SiClガス供給部51sから、ガス供給配管54を介して、ガラス管15G内に、キャリアガス、及び、SiClガス(原料ガス)を供給する。
【0048】
また、クラッドガラス層が所定数積層されたら、コアガラス層を積層する。コアガラス層の積層においては、母材製造装置50のキャリアガス供給部51c、及び、SiClガス供給部51s、及び、GeClガス供給部51gから、ガス供給配管54を介して、ガラス管15G内に、キャリアガス、及び、SiClガスとGeClガスとからなる原料ガスを供給する。
【0049】
そして、クラッドガラス層の積層時、及び、コアガラス層の積層時の少なくとも一部において、加圧ガス供給部56から加圧ガスを供給することで、ガラス管15Gの貫通孔H内を加圧する。このときの加圧は、ガラス管15Gの外径が大きくなるように行う。具体的には、バーナ58が、ガラス管15Gを原料ガスの供給側から排出側に1トラバースする間に、ガラス管15Gの外径が、例えば、0.040%以上0.160%以下大きくなるように、貫通孔H内を加圧することが好ましい。このように貫通孔H内を加圧することで、ガラス管15Gの曲がりをより抑制することができることが本発明者らの実験により明らかとなった。従って、このように加圧することにより、信頼性のより高い光ファイバ10を製造することができる光ファイバ用母材10Pを製造することができる。
【0050】
なお、上述のように、加圧ガスがガラス管における原料ガスの排出側から供給されるため、加圧ガスのより、原料ガスガスが希釈化されることが抑制され、設計値通りにガラス層の積層を行うことができる。
【0051】
なお、上記の加圧は、ガラス層を積層する積層工程P3の途中まで行い、積層工程P3の途中からは、ガラス管15Gの外径が一定となるように、ガラス管15Gの貫通孔H内を加圧しても良い。例えば、クラッドガラス層の形成時の全て、及び、コアガラス層の形成時の途中まで、ガラス管15Gの外形が大きくなるように加圧して、コアガラス形成時の途中からガラス管15Gの外形が一定となるように加圧したり、クラッドガラス層の形成時において、ガラス管15Gの外形が大きくなるように加圧して、コアガラス形成時において、ガラス管15Gの外形が一定となるように加圧する。ガラス管15Gの肉厚が増すにつれ、ガラス管15Gの曲がりが生じにくくなるので、積層工程P3の途中までガラス管15Gの外径が大きくなるように加圧することで、ガラス管15Gの曲がりを抑制することができる。そして、積層工程P3の途中からガラス管15Gの外径が一定となるように加圧することで、ガラス管15Gの外径が不要に大きくなることを防止して、その後の工程を行い易くすることができる。
【0052】
或いは、積層工程P3の途中からは、貫通孔H内の加圧を行わないこととしても良い。例えば、クラッドガラス層の形成時の全て、及び、コアガラス層の形成時の途中まで、ガラス管15Gの外形が大きくなるように加圧して、コアガラス形成時の途中から加圧を行わないようにする。ガラス管15Gを加熱しながら原料ガスを供給する工程の途中から、加圧を止めることで、ガラスは収縮する。従って、加圧を止めるまでの工程で、大きくなったガラス管15Gの外径を小さくし、その後の工程を行い易くすることができる。また、途中から加圧を行わないことで、加圧ガスの使用量を低減することができる。なお、積層工程P3の途中で加圧を止める場合においても、上記の様に、積層工程P3の途中まで、ガラス管15Gの外径が大きくなるように加圧を行うため、ガラス管15Gの曲がりが生じることを抑制することができる。
【0053】
また或いは、積層工程P3の間、常に、ガラス管15Gの外径が大きくなるように、貫通孔H内を加圧することとしても良い。このように加圧を行うことで、積層工程P3において、ガラス管15Gの曲がりが生じることを更に抑制することができる。
【0054】
こうして、クラッドガラス層、及び、コアガラス層が所定数積層される。
【0055】
<コラプス工程P4>
本工程においては、クラッドガラス層及びコアガラス層が積層された後、原料ガスの供給を停止して、バーナ58を往復移動させることにより、ガラス管15Gを過熱する。この加熱により、ガラス管15Gの貫通孔Hが縮小され、貫通孔Hは潰される。
【0056】
なお、本工程においては、ガラス管15Gの貫通孔Hを縮径する前、或いは、貫通孔Hを縮径している途中において、ガラス管15Gの内壁をエッチングするエッチング工程を行っても良い。この場合のエッチング工程は、上述のエッチング工程P2と同様に行えばよい。つまり、ガラス管15Gは、中心軸15Cが、上下反対形状のカテナリー曲線となるように、上側に撓んだ状態で、エッチングされる。このようにコラプス工程P4の前、或いは、途中においてエッチング工程を行う場合においても、光ファイバ用母材が曲がることを抑制することができる。なお、本工程のように、ガラス層15Lが積層された後のガラス管15Gとは、ガラス層15Lが積層される前のガラス管15Gと積層されたガラス層15Lとからなるガラス管を意味し、この場合の内壁は積層されたガラス層15Lの内壁となる。こうして、図2に示す光ファイバ用母材10Pを得る。
【0057】
<線引工程P5>
図6は、線引工程P5の様子を示す図である。
【0058】
まず、線引工程P5を行う準備段階として、準備工程P1〜コラプス工程P4により製造された光ファイバ用母材10Pを紡糸炉110に設置する。そして、紡糸炉110の加熱部111を発熱させて、光ファイバ用母材10Pを加熱する。このとき光ファイバ用母材10Pの下端は、例えば2000℃に加熱され溶融状態となる。そして、光ファイバ用母材10Pからガラスが溶融して、ガラスが線引きされる。線引きされた溶融状態のガラスは、紡糸炉110から出ると、すぐに固化して、コアガラス体11Pがコア11となり、クラッドガラス体12Pがクラッド12となり、コア11とクラッド12とから構成される光ファイバとなる。その後、この光ファイバは、冷却装置120を通過して、適切な温度まで冷却される。冷却装置120に入る際、光ファイバの温度は、例えば1800℃程度であるが、冷却装置120を出る際には、光ファイバの温度は、例えば40℃〜50℃となる。
【0059】
次に、光ファイバは、第1被覆層13となる紫外線硬化性樹脂が入ったコーティング装置131を通過し、この紫外線硬化性樹脂で被覆される。更に紫外線照射装置132を通過し、紫外線が照射されることで、紫外線硬化性樹脂が硬化して第1被覆層13が形成される。次に光ファイバは、第2被覆層14となる紫外線硬化性樹脂が入ったコーティング装置133を通過し、この紫外線硬化性樹脂で被覆される。更に紫外線照射装置134を通過し、紫外線が照射されることで、紫外線硬化性樹脂が硬化して第2被覆層14が形成され、図1に示す光ファイバ10となる。
【0060】
そして、光ファイバ10は、ターンプーリー141により方向が変換され、リール142により巻取られる。
【0061】
以上説明したように、本実施形態の光ファイバ用母材10Pの製造方法によれば、ガラス管が加熱されるエッチング工程P2や積層工程P3の少なくとも一部において、ガラス管15Gの外径が大きくなるようにガラス管15Gの貫通孔H内を加圧することで、ガラス管15Gの曲がりを抑制することができる。このようにガラス管15Gを加圧することで、ガラス管15Gの曲がりが抑制できる理由は定かではないが、本発明者らは、上記の様に加圧することで、ガラス管15Gの表面張力、及び、ガラス管15Gの粘度による抵抗力と、貫通孔H内の圧力によりガラス管15Gに加えられる応力とが、釣り合うものと考えている。
【0062】
これにより、回転するガラス管15Gと、このガラス管15Gを加熱するバーナ58との距離が変動することが抑制され、MCVD法において、ガラス管15Gを加熱する際におけるガラス管15Gの周方向の熱の偏在が抑制される。従って、原料ガスに由来するスート15Sは、周方向において略一定の厚さに堆積され、スート15Sがガラス化して積層されるガラス層15Lの厚さが、周方向で略一定とされる。こうして、ガラス管15Gの肉厚が略一定に保たれる。こうした工程を経て光ファイバ用母材10Pは製造されるため、光ファイバ用母材10Pの偏心を抑制することができる。そして、この光ファイバ用母材10Pを線引きすることで、信頼性の高い光ファイバ10を製造することができる。
【0063】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図7を参照して詳細に説明する。なお、第1実施形態と同一又は同等の構成要素については、特に説明する場合を除き、同一の参照符号を付して重複する説明は省略する。図7は、本発明の第2実施形態に係る光ファイバの長手方向に垂直な断面の構造を示す図である。
【0064】
図7に示すように、本実施形態の光ファイバ20は、コアに活性元素が添加されている増幅用光ファイバ(ダブルクラッドファイバ)とされ、コア21と、コア21を囲むクラッド22と、クラッド22を被覆する樹脂クラッド23と、樹脂クラッド23を被覆する被覆層24とを有する。クラッド22の屈折率はコア21の屈折率よりも低く、樹脂クラッド23の屈折率はクラッド22の屈折率よりもさらに低くされている。このような、コア21を構成する材料としては、第1実施形態の光ファイバ10のコア11と同様の材料に、励起光により励起されるYb等の活性元素が添加されたガラスが挙げられる。このような活性元素としては、希土類元素が挙げられ、希土類元素としては、上記Ybの他にツリウム(Tm)、セリウム(Ce)、ネオジウム(Nd)、ユーロピウム(Eu)、エルビウム(Er)等が挙げられる。さらに活性元素として、希土類元素の他に、ビスマス(Bi)等を挙げることができる。また、クラッド22を構成する材料としては、例えば、第1実施形態の光ファイバ10のクラッド12と同様の材料を挙げることができる。また、樹脂クラッド23を構成する材料としては、例えば、光透過性の紫外線硬化樹脂が挙げられ、被覆層24を構成する材料としては、第1実施形態の光ファイバ10の第2被覆層14と同様の材料を挙げることができる。
【0065】
このような光ファイバ20を製造するための光ファイバ用母材は、図2に示す光ファイバ用母材10Pと外見が同様であり、コアガラス体11Pに上記活性元素が添加されている点において、光ファイバ用母材10Pと異なる。
【0066】
この光ファイバ20を製造する方法は、次の通りとなる。
【0067】
(第1の製造方法)
第1の製造方法においては、第1実施形態の光ファイバ用母材10Pの製造方法と同様にして、準備工程P1と、エッチング工程P2を行う。なお、本実施形態の本製造方法においても、エッチング工程P2において、第1実施形態のエッチング工程P2と同様にして、ガラス管15Gの外径が大きくなるように、ガラス管15Gの貫通孔H内を加圧する。
【0068】
そして、積層工程P3のクラッドガラス層を積層する工程を第1実施形態におけるクラッドガラス層を積層する工程と同様に行い、コアガラス層を積層する工程において、キャリアガス及びSiClガス及びGeClガスの他に、活性元素を気相化させたガスをガラス管15Gの貫通孔H内に供給する。従って、本実施形態における母材製造装置は、第1実施形態の母材製造装置50の構成に加えて、活性元素を気相化する加熱装置を備えており、この加熱装置で気相化された活性元素が、ガス供給配管54を介して、ガラス管15Gの貫通孔H内に供給されるよう構成されている。なお、本実施形態の本製造方法においても、積層工程P3において、第1実施形態の積層工程P3と同様にして、ガラス管15Gの外径が大きくなるように、ガラス管15Gの貫通孔H内を加圧する。
【0069】
そして、コアガラス層が所定数積層された後、第1実施形態と同様にして、コラプス工程P4を行い、図7の光ファイバ20を製造するための光ファイバ用母材を得る。なお、本実施形態においても、第1実施形態と同様にして、コラプス工程P4の前、或いは、途中にエッチング工程を行っても良い。
【0070】
次に線引工程P5を行う。線引工程P5においては、コーティング装置131において、第1被覆層13となる紫外線硬化性樹脂の代わりに、樹脂クラッド23となる紫外線硬化性樹脂を用いる点において、第1実施形態の線引工程P5と異なり、他の点においては、第1実施形態の線引工程P5と同様とされる。
【0071】
こうして、図7に示す光ファイバ20を得る。
【0072】
(第2の製造方法)
第2の製造方法においては、第1の製造方法と同様にして、準備工程P1、エッチング工程P2を行い、さらに積層工程P3のクラッドガラス層を第1の製造方法と同様に行う。なお、本製造方法においても、エッチング工程P2、積層工程P3のクラッドガラス層の積層をする工程において、第1の製造方法と同様にして、ガラス管15Gの外径が大きくなるように、ガラス管15Gの貫通孔H内を加圧する。
【0073】
そして、積層工程P3におけるコアガラス層の積層は、次のように行う。まず、クラッドガラス層が積層されたガラス管15Gを、第1実施形態と同様にして、回転させると共に、バーナ58を原料ガスの供給側から排出側に移動させる。そして、第1実施形態と同様にキャリアガス及びSiClガス及びGeClガスを供給する。ただし、第1実施形態においては、原料ガスをスート化して、スートをガラス層としたのに対して、本製造方法においては、原料ガスをスート化するが、この時点で、ガラス層化しない点において、第1実施形態のコアガラス層の積層と異なる。そして、本製造方法においては、次に、堆積されたスートの隙間に活性元素を含む水溶液を含浸させて、その後乾燥させる。こうして、スートの隙間に活性元素が坦持される。そして、再びガラス管を加熱して、活性元素とスートとが一体化したコアガラス層とする。なお、本製造方法において、コアガラス層をなるスートを堆積するためにガラス管を加熱する際においても、第1実施形態のコアガラス層を積層するときと同様に、ガラス管の外径が大きくなるように、ガラス管の貫通孔を加圧しても良い。
【0074】
その後、コラプス工程P4を行い、第1の製造方法と同様にして、線引工程P5を行い、図7に記載の光ファイバ20を得る。
【0075】
以上、本発明について、第1、第2実施形態を例に説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0076】
例えば、第1実施形態における光ファイバは、シングルモードファイバに限らずマルチモードファイバであっても良い。
【0077】
また、第1、第2実施形態の積層工程において、クラッドガラス層を積層せずに、コアガラス層のみを積層しても良い。この場合、準備するガラス管15Gのみを用いて、クラッドガラス体12Pとすれば良い。
【0078】
また、上記実施形態においては、熱源としてバーナ58を用いたが、バーナ58と同様に移動し、ガラス管15Gに外周を取り囲む加熱ヒータを用いても良い。このような加熱ヒータを用いる光ファイバ用母材の製造方法は、FCVD(Furnace Chemical Vapor Deposition)法と呼ばれ、MCVD法の一種と捉えることができる。
【0079】
また、上記実施形態のエッチング工程P2においては、ガラス管15Gの外径が一定となるように加圧し、積層工程P3の少なくとも一部において、ガラス管15Gの外径が大きくなるように加圧しても良い。逆に、上記実施形態のエッチング工程P2の少なくとも一部において、ガラス管15Gの外径が大きくなるように加圧し、積層工程P3において、ガラス管15Gの外径が一定となるように加圧しても良い。
【実施例】
【0080】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものでは無い。
【0081】
(比較例1)
外径が40mmで、肉厚が2.2mmで、長さが200cmのガラス管を準備した。このガラス管を母材製造装置にセットして、MCVD法によるコアガラス層の積層を行った。MCVD法においては、ガラス管の回転数を20rpmとし、原料ガスの供給側から排出側に、酸水素バーナを50mm/minで移動させて、80回トラバースさせた。このとき酸水素炎があたっている場所におけるガラス管の温度は、約2000℃であった。さらにトラバース中において、ガラス管の外径が一定となるように、ガラス管の貫通孔を加圧した。このときガラス管の最大振れ回り量は、0.64mmとなった。
【0082】
(実施例1)
ガラス管の貫通孔を加圧して、1回のトラバースにおいて、ガラス管の外径が平均0.040%大きくなるようにしたこと以外は、比較例1と同様にMCVD法によりコアガラス層を積層した。このときガラス管の振れ回り量は、比較例1のガラス管の振れ回り量を1とする場合に、約0.1となった。
【0083】
(実施例2)
ガラス管の貫通孔を加圧して、1回のトラバースにおいて、ガラス管の外径が平均0.050%大きくなるようにしたこと以外は、比較例1と同様にMCVD法によりコアガラス層を積層した。このときガラス管の振れ回り量は、比較例1のガラス管の振れ回り量を1とする場合に、約0.2となった。
【0084】
(実施例3)
ガラス管の貫通孔を加圧して、1回のトラバースにおいて、ガラス管の外径が平均0.090%大きくなるようにしたこと以外は、比較例1と同様にMCVD法によりコアガラス層を積層した。このときガラス管の振れ回り量は、比較例1のガラス管の振れ回り量を1とする場合に、約0.2となった。
【0085】
(実施例4)
ガラス管の貫通孔を加圧して、1回のトラバースにおいて、ガラス管の外径が平均0.140%大きくなるようにしたこと以外は、比較例1と同様にMCVD法によりコアガラス層を積層した。このときガラス管の振れ回り量は、比較例1のガラス管の振れ回り量を1とする場合に、約0.15となった。
【0086】
(比較例2)
外径が38mmで肉厚が2.7mmのガラス管を用いたこと以外は、比較例1と同様にして、コアガラス層を積層した。このときガラス管の最大振れ回り量は、0.51mmとなった。
【0087】
(実施例5)
ガラス管の貫通孔を加圧して、1回のトラバースにおいて、ガラス管の外径が平均0.070%大きくなるようにしたこと以外は、比較例2と同様にMCVD法によりコアガラス層を積層した。このときガラス管の振れ回り量は、比較例2のガラス管の振れ回り量を1とする場合に、約0.15となった。
【0088】
(実施例6)
ガラス管の貫通孔を加圧して、1回のトラバースにおいて、ガラス管の外径が平均0.160%大きくなるようにしたこと以外は、比較例2と同様にMCVD法によりコアガラス層を積層した。このときガラス管の振れ回り量は、比較例2のガラス管の振れ回り量を1とする場合に、約0.21となった。
【0089】
以上の結果を図8に示す。図8は、1トラバース当たりの平均膨張量と、ガラス管の振れ回り量との関係を示す図である。図8に示すように、MCVD法において、ガラス層を積層する際、僅かでもガラス管の外径が大きくなるように、ガラス管の貫通孔を加圧することで、振れ回りが著しく抑制されることが分かった。
【0090】
従って、本発明によれば、原料ガスに由来するスートが、周方向において、一定の厚さに堆積されるので、ガラス層の厚さが、周方向で一定とされると考えられる、このため発明を用いて製造される光ファイバ用母材は、偏心が抑制されると考えられる。従って、このような光ファイバ用母材は、信頼性の高い光ファイバを製造することができると考えられ、この光ファイバ用母材を用いて製造される光ファイバは、高い信頼性を有すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
以上説明したように、本発明によれば、信頼性の高い光ファイバを製造可能な光ファイバ用母材の製造方法、及び、それを用いる光ファイバの製造方法を提供される。
【符号の説明】
【0092】
10・・・光ファイバ
10P・・・光ファイバ用母材
11・・・コア
11P・・・コアガラス体
12・・・クラッド
12P・・・クラッドガラス体
13・・・第1被覆層
14・・・第2被覆層
15G・・・ガラス管
15L・・・ガラス層
15S・・・スート
20・・・光ファイバ(増幅用光ファイバ)
21・・・コア
22・・・クラッド
23・・・樹脂クラッド
24・・・被覆層
50・・・母材製造装置
51c・・・キャリアガス供給部
51e・・・エッチングガス供給部
51g・・・SiClガス供給部
51s・・・GeClガス供給部
54・・・ガス供給配管
55a,55b・・・チャッキング部
56・・・加圧ガス供給部
57・・・排ガス処理部
58・・・バーナ
110・・・紡糸炉
111・・・加熱部
120・・・冷却装置
131,133・・・コーティング装置
132,134・・・紫外線照射装置
141・・・ターンプーリー
142・・・リール
P1・・・準備工程
P1・・・準備工程
P2・・・エッチング工程
P3・・・積層工程
P4・・・コラプス工程
P5・・・線引工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MCVD法を用いて光ファイバ用母材を製造する光ファイバ用母材の製造方法であって、
ガラス管を回転させながら加熱すると共に、前記ガラス管の貫通孔内にガスを供給する工程を備え、
前記工程の少なくとも一部において、前記ガラス管の外径が大きくなるように、前記貫通孔内を加圧する
ことを特徴とする光ファイバ用母材の製造方法。
【請求項2】
前記工程は、前記ガラス管の内壁にガラス層を積層する積層工程であり、
前記ガスは、前記ガラス層を積層するための原料ガスである
ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ用母材の製造方法。
【請求項3】
前記ガラス管を加熱する熱源は、前記ガラス管の長手方向に沿って移動しながら前記ガラス管を加熱し、
前記熱源が前記原料ガスの供給側から排出側に1トラバースする間に、前記ガラス管の外径が、0.040%以上0.160%以下大きくなるように、前記貫通孔内を加圧する
ことを特徴とする請求項2に記載の光ファイバ用母材の製造方法。
【請求項4】
前記積層工程の途中からは、前記ガラス管の外径が一定となるように、前記貫通孔内を加圧することを特徴とする請求項2または3に記載の光ファイバ用母材の製造方法。
【請求項5】
前記積層工程の途中からは、前記貫通孔内の加圧を行わないことを特徴とする請求項2または3に記載の光ファイバ用母材の製造方法。
【請求項6】
前記積層工程の間、常に、前記ガラス管の外径が大きくなるように、前記貫通孔内を加圧することを特徴とする請求項2または3に記載の光ファイバ用母材の製造方法。
【請求項7】
前記工程は、前記ガラス管の内壁をエッチングするエッチング工程であり、
前記ガスは、エッチングガスである
ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ用母材の製造方法。
【請求項8】
前記加圧は、前記ガラス管の前記ガスが排出される側に加圧用ガスを供給することにより行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の光ファイバ用母材の製造方法。
【請求項9】
MCVD法を用いて光ファイバ用母材を製造する光ファイバ用母材製造工程と、
前記光ファイバ用母材を線引きする線引工程と、
を備える光ファイバの製造方法であって、
前記光ファイバ用母材製造工程は、ガラス管を回転させながら加熱すると共に、前記ガラス管の貫通孔内にガスを供給する工程を備え、当該工程の少なくとも一部において、前記ガラス管の外径が大きくなるように、前記貫通孔内を加圧する
こと特徴とする光ファイバの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−75787(P2013−75787A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216439(P2011−216439)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】