説明

光モジュール

【課題】光導波路アレイと光機能素子アレイをレンズ光学系で光結合させる光モジュールにおいて、特性の安定性が高く、かつ、低コストの光モジュールを提供する。
【解決手段】筐体の内部に、複数の光入出射ポートを有する光導波路アレイ2と、複数の光出入射ポートを有する光機能素子アレイ5と、両者間を伝搬する光ビームを集光させて両者を光結合させる少なくとも1つのレンズ3を使用したレンズ光学系と、レンズ光学系と光機能素子アレイの間を伝搬する光ビームの伝搬方向を変換するように配置されたミラー4とを備える光モジュールであって、光機能素子アレイ5は筐体に対して直接、あるいは、サブマウントなどを介して固定されており、ミラー4が、光導波路アレイ2と光機能素子アレイ5とが光結合するように、ミラーの配置角度が調整されて、筐体の一部に直接、あるいは、固定冶具などを介して固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光信号を出射する光導波路アレイと光信号を受信し電気信号に変換する光機能素子アレイとを内蔵した光モジュールに関し、より詳細には、光導波路アレイから出射された光ビームアレイを光機能素子アレイの受光部に集光させる光学系の内部に光ビームアレイの角度ずれ補正を行うためのミラーを備え、ミラーを用いて角度ずれ補正を行ったのちにミラーを固定することによって性能が安定し、かつ低コストな製造が可能な光モジュールの実装構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、通信トラフィックの増大はさらに加速を続け、大容量伝送技術として、高密度波長分割多重(DWDM:Dense Wavelength Division Multiplexing)システムの開発が急速に進んでいる。従来、DWDMシステムでは1波長あたり10Gbpsのチャネルを多重して伝送を行っていたが、1波長あたり40Gbpsや100Gbpsなどの超高速伝送方式を採用することによりラインカード数が削減でき、低コスト化、省スペース化、省電力化などが実現できることから、超高速伝送方式の導入が進んでいる。これら超高速伝送方式では、高速化によってOSNR感度低下や波長分散、偏波モード分散などが生じ、伝送距離が制限される。この伝送距離制限を回避するために、光強度に加えて光位相状態にも信号の情報をのせることでボーレートを低減させるDQPSK伝送方式や、DP−QPSK伝送方式などの採用が有望視されている。これらの伝送方式で使用される受信回路は、遅延干渉計(DLI:Delay Line Interferometer)やDPOH(Dual Polarization Optical Hybrid)と呼ばれる光回路を使用して、信号光の光位相差を光強度差に変換し、変換された光強度をフォトダイオード(PD)で受光する。近年、前述のように入力した光信号の光位相−光強度変換を行う光回路と、PDと、PDで光電流に変換された信号を電流−電圧変換し、増幅して高周波電気信号として出力する機能を有する高周波アンプとを集積した、集積型受信モジュールの需要が急速に高まっている。このような従来の集積型受信モジュールは、特許文献1などに開示されている。
【0003】
上述の光回路と、PDと、高周波アンプとを応用した集積型受信モジュールの例を図1(a)(b)(c)、および図2(a)(b)(c)に示す。図1(a)(b)(c)と図2(a)(b)(c)はともに、平面光波回路により製造されたDLI2、裏面入射型PIN−PDアレイ5、および差動入力型TIA6を使用した、40GbpsのDQPSK光信号を受信する集積型受信モジュールの1例である。図1(a)および図2(a)は側面図であり、図1(b)および図2(b)は上面図であり、図1(c)および図2(c)は裏面入射型PIN−PDアレイ5の光入射面から見た正面図である。
【0004】
図1(a)(b)(c)の集積型受信モジュールにおける構成は以下の通りである。DLI2はマウント7を介して筐体1に固定されている。裏面入射型PIN−PDアレイ5、差動入力型TIA6はキャリア9の上面に搭載され、ワイヤ配線13によって電気的に接続されている。キャリア9にはキャリアの一部分に斜面が形成されており、斜面にはミラー4が取り付けられている。裏面入射型PIN−PDアレイ5と差動入力型TIA6を搭載したキャリア9は筐体1上に搭載され、リッド12により局所的に気密封止されている。AR(Anti Reflection、無反射)膜付きガラス10は、AR膜がコーティングされた面が、AR膜付きガラスから光ビームが出射する面になるようにやといガラス14によって固定されている。AR膜付きガラス10のAR膜は、出力ポートから出射されAR膜付きガラス内部を伝搬した光ビームがガラスから出射される際に、ガラスと空気の屈折率の差に起因する反射により光ビームの強度が低下するのを防ぐ。筐体1の一部には、裏面入射型PIN−PDアレイ5、差動入力型TIA6、キャリア9などを収納する箱型形状が形成されており、その壁面には、DLI2から出射された光ビームがリッド内部に入射するように、窓11が取り付けられている。ファイバ16はファイバブロック15で固定され、DLI2に光結合するように接続されている。DLI2の出力ポート2a、2b、2c、2dは、図1(b)のDLI2のAR膜付きガラス10を貼り付けた端面上に、図1(b)の上から2a、2b、2c、2dの順番に配置されている。
【0005】
ファイバ16から光がDLI2に入射され、DLI2の出力ポート2a、2b、2c、2dのそれぞれから出射された4本の光ビームは、レンズ3a、3bにより集光ビームに変換され、窓11を透過して局所気密封止パッケージの内部に入射し、ミラー4で上方に伝搬方向が変換された後に、光入射面が下方を向くように配置された裏面入射型PIN−PDアレイ5の受光部5a、5b、5c、5dのそれぞれの上に集光している。
【0006】
図2(a)(b)(c)の集積型受信モジュールでは、図1(a)(b)(c)の集積型受信モジュールと同様にDLI2はマウント7を介して筐体1に固定されている。裏面入射型PIN−PDアレイ5はキャリア9の側面に搭載され、差動入力型TIA6はキャリア9の上面に搭載され、ワイヤ配線13によって電気的に接続されている。裏面入射型PIN−PDアレイ5と差動入力型TIA6を搭載したキャリア9は筐体1上に搭載され、リッド12により局所的に気密封止されている。AR膜付きガラス10は、AR膜がコーティングされた面が、AR膜付きガラスから光ビームが出射する面になるようにやといガラス14によって固定されている。筐体1の一部には、裏面入射型PIN−PDアレイ5、差動入力型TIA6、キャリア9などを収納する箱型形状が形成されており、その壁面には、DLI2から出射された光ビームがリッド内部に入射するように、窓11が取り付けられている。ファイバ16はファイバブロック15で固定され、DLI2に光結合するように接続されている。DLI2の出力ポート2a、2b、2c、2dは、図2(b)のDLI2のAR膜付きガラス10を貼り付けた端面上に、図2(b)の上から2a、2b、2c、2dの順番に配置されている。 ファイバ16から光ビームがDLI2に入射され、DLI2の出力ポート2a、2b、2c、2dのそれぞれから出射された4本の光ビームは、レンズ3a、3bにより集光ビームに変換され、窓11を透過して局所気密封止パッケージの内部に入射し、光入射面がDLI2の方向を向くように立てて配置された裏面入射型PIN−PDアレイ5の受光部5a、5b、5c、5dのそれぞれの上に集光している。
【0007】
これらの集積型受信モジュールは、DLI2を筐体1上に搭載し、裏面入射型PIN−PDアレイ5を搭載したキャリア9を筐体1上に搭載した後に、レンズ3a、3bをX、Y、Z軸方向に調芯して筐体1に固定する。筐体1へのDLI2の搭載や、キャリア9への裏面入射型PIN−PDアレイ5の搭載、筐体1へのキャリア9の搭載の際に生じる搭載位置ずれや各部材の寸法公差などの原因によって、DLI2と裏面入射型PIN−PDアレイ5の相対的な位置関係に設計値からの誤差が生じた場合、位置ずれがX、Y、Z軸方向の水平ずれであれば、レンズ3a、3bの位置をX、Y、Z軸方向に調整することによって、DLI2から出射された光ビームを裏面入射型PIN−PDアレイ5の受光部5a、5b、5c、5d上に集光させることができ、この様な形態で集積型受信モジュールを実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−134444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、これらの集積型受信モジュールでは、DLI2と裏面入射型PIN−PDアレイ5の相対的な位置関係にX、および/またはY、および/またはZ軸を中心とする回転角度ずれが生じて、裏面入射型PIN−PDアレイ5の受光部5a、5b、5c、5d上に集光する光ビームの整列方向と、裏面入射型PIN−PDアレイ5の受光部5a、5b、5c、5dの整列方向との間に回転角度ずれが生じた場合、レンズ3a、3bには光ビームの回転角度調整の機能がないため、レンズ3a、3bの位置調整では回転角度ずれを補正することができない。そのため、DLI2と裏面入射型PIN−PDアレイ5の相対的な位置に角度ずれが生じないように、各部材の搭載角度誤差や角度寸法の誤差を極めて低く抑制する必要がある。ここで、図3(a)(b)、図4、図5、および図6を参照しながら、要求される角度精度の一例を高速伝送用の集積型受信モジュールで考える。
【0010】
図3(a)は裏面入射型PIN−PDアレイ5の受光部5a、5b、5c、5dを光入射面に垂直な方向から見た図であり、図3(b)は受光部5aの拡大図である。図3(a)は受光部5a、5b、5c、5dと集光ビーム17との間に角度ずれが生じていることを示す。各受光部は直線上に等間隔に配置され、隣り合う受光部の中心間距離をPとする。集光ビームの入射位置は直線上に位置し、受光部の直線と集光ビームの入射位置の直線との交わる点は、受光部5bと5cの中点と一致すると仮定し、受光部5bと5cの中点と最も外側の受光部5aの中心点との間の距離をLとする。それぞれの受光部の中心を通る直線とそれぞれの集光ビームの中心を通る直線とのなす角をθとした時、両端の受光部と両端の光ビームの間で生じるX軸方向、Y軸方向、受光部の半径方向の軸ずれをそれぞれDx、Dy、Dとすると、それぞれ(式1)、(式2)、および(式3)で表される。
【0011】
【数1】

【0012】
特に、高速伝送用に使用されるフォトダイオードは、容量による帯域低下を回避するために、受光径を非常に小さく設計する必要がある。具体的な数値例として、PD受光部の半径(図4中のRpd)を6umとし、集光ビーム17の半径(光強度で1/(e2)半径、図4中のRopt))を5umとする。また、4つの受光部それぞれの間隔は250um均一で両端の受光部の間隔が750umとする。また、4つの集光ビームの間隔も250um均一で両端の受光部の間隔が750umとする。PD受光部の中心と集光光ビームの中心との軸ずれの長さDを変えた時に生じる受光感度変化を求めた結果を図5に示す。図5に観られるように、実用に耐えうる変化として、受光強度変化を−0.2dB以内に抑えるためには、軸ずれ量Dを1.7um以下に抑える必要がある。L=750um÷2=375umを(式1)および(式2)に代入して、θを変化させた時のDx、Dyの変化を求めた結果を図6に示す。図6に観られるように、回転角度ずれが生じると、Dxに比べてDyが急速にθとともに増大することが分かる。また、軸ずれ量Dを1.7um以下に抑えるためには、回転角度ずれを概ね0.25°以下に抑える必要がある。これは即ち、筐体1へのDLI2の搭載や、キャリア9への裏面入射型PIN−PDアレイ5の搭載や、筐体1へのキャリア9の搭載などで生じる搭載位置ずれ、各部材の寸法公差、平面光波回路を形成する導波路材料と基板の熱膨張係数差によるDLI2の反りなどの、複数の原因によって生じる光ビームアレイとPD受光部アレイの回転角度ずれの合計を0.25°以下に抑える必要があることを意味している。したがって、使用する部材の寸法や実装技術に極めて高い精度が要求され、このことが安定的な製品製造や、低コスト化を阻害する大きな要因となっている。
【0013】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、光導波路アレイと、面型受発光素子アレイ、変調器アレイなどの多入出力型導波路アレイなどの光機能素子アレイとをレンズ光学系で光結合させる光モジュールにおいて、安定的な製品製造や、低コスト化を阻害する大きな要因となっている光ビームアレイと光機能素子アレイの回転角度ずれを調整し、小さくすることによって光結合強度やその他特性の安定性が高く、低コストの光モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、筐体の内部に、複数の光入射ポートおよび/または光出射ポートを有する光導波路アレイと、複数の光出射ポートおよび/または光入射ポートを有する光機能素子アレイと、光導波路アレイと光機能素子アレイとの間を伝搬する光ビームを集光させて光導波路アレイと光機能素子アレイを光結合させる少なくとも1つのレンズを使用したレンズ光学系と、レンズ光学系と光機能素子アレイの間を伝搬する光ビームの伝搬方向を変換するように配置されたミラーとを備える光モジュールであって、光機能素子アレイは筐体に対して直接、あるいは、サブマウントなどを介して固定されており、ミラーが、光導波路アレイと光機能素子アレイとの間を伝搬する光ビームの伝搬光路中に光機能素子アレイが配置され、ミラーが、光導波路アレイと光機能素子アレイとが光結合するように、ミラーの配置角度が調整されて、筐体の一部に直接、あるいは、固定冶具などを介して固定されていることを特徴とする。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の光モジュールであって、光導波路アレイの光ビーム入出射方向が概ね水平方向であり、光機能素子アレイの光ビーム入出射方向が概ね上面を向いて配置され、ミラーが光ビームの伝搬方向を概ね水平方向と概ね鉛直下方の間を変換するように、光機能素子アレイの上方に配置されていることを特徴とする。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項1乃至請求項2のいずれかに記載の光モジュールであって、光機能素子アレイが局所気密パッケージ内に封止され、ミラーが局所気密パッケージの上面に配置、固定されていることを特徴とする。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の光モジュールであって、光導波路アレイが、基板上に光導波路を形成した平面光波回路からなる光導波路アレイ、あるいは、光ファイバを直線上に整列させた光ファイバアレイであることを特徴とする。
【0018】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の光モジュールであって、光機能素子アレイが、PIN−PDアレイ、またはVCSELアレイなどの面型受発光素子アレイ、または変調器アレイなどの多入出力型導波路アレイであることを特徴とする。
【0019】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の光モジュールであって、レンズ光学系が2枚のレンズにより構成されていることを特徴とする。
【0020】
請求項7に記載の発明は、請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の光モジュールであって、レンズ光学系が、1つのレンズ光学系で複数の光ビームを同時に集光させるように構成されていることを特徴とする。
【0021】
請求項8に記載の発明は、請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の光モジュールであって、レンズ光学系が、2枚のレンズを用いて構成されるテレセントリック光学系であることを特徴とする。
【0022】
請求項9に記載の発明は、請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の光モジュールであって、レンズ光学系が、2枚のレンズを用いて構成され、テレセントリック光学系と比較して、2枚のレンズの距離を狭めた、あるいは、拡げたレンズ光学系でることを特徴とする。
【0023】
請求項10に記載の発明は、請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の光モジュールであって、光導波路の光ビームを出射する出力ポートの端面に無反射処理を施していることを特徴とする。
【0024】
請求項11に記載の発明は、光モジュールの製造方法であって、光導波路アレイを、筐体に固定するステップと、光機能素子アレイを、前記筐体に直接、あるいは、マウントなどを介して固定するステップと、光導波路アレイと光機能素子アレイの間に1つまたは複数のレンズを設置するステップと、光ビームの伝搬方向を変換するミラーを、筐体の一部に直接、あるいは、固定冶具を介して固定するステップとを含み、光導波路アレイ、1つまたは複数のレンズ、ミラー、および光機能素子アレイの位置関係と、1つまたは複数のレンズの設計を調整し、さらに筐体の底面の法線を回転軸としたときのミラーの角度を調整することによって光導波路アレイから出斜された全ての光ビームを光機能素子アレイに光結合させて、ミラーを筐体の一部に固定することを特徴とする。
【0025】
請求項12に記載の発明は、請求項11に記載の光モジュールの製造方法であって、光機能素子アレイを搭載したキャリアを筐体上に搭載されたリッドにより局所的に気密封止するステップをさらに含み、ミラーはリッド上に固定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明の光モジュールは、光導波路アレイから空間に出力した光ビームアレイを光機能素子アレイに集光させる光学系中の光路上にミラーを配置し、部材の寸法公差や搭載位置の誤差などにより、光ビームアレイの配列方向と光機能素子アレイの配列方向がずれた場合でも、ミラーの角度を調整して、光ビームアレイの配列方向を光機能素子アレイの配列方向に一致させることができる。特に、平面光波回路を光導波路アレイとして使用した光モジュールでは、一般的に光導波路アレイは平板状の平面的な構造をなしており、筐体1に平板の面で接続されるため、光導波路アレイの搭載角度を調整しながら筐体1に搭載するのは技術的に困難であり、角度ずれを極めて小さく抑えるためには、本発明のようにミラーの角度を調節して光ビームアレイの整列方向と光機能素子アレイの配列方向を一致させる技術は、安定に製造する上で極めて大きな効果を奏する。
【0027】
また、これらの光モジュールは、筐体1上にDLI2や裏面入射型PIN−PDアレイ5や差動入力型TIA6などの構成部材を全て搭載してから、光ビームアレイと光機能素子アレイの相対的な位置関係が決定するため、もし、角度ずれが許容値以下に抑えられていないことが、筐体1上に構成部材を全て搭載し、製造を完了した時点で判明した場合には、この光モジュールは製品として出荷することができず、これらの構成部材を全て廃棄することになるため、本発明のようにミラーの角度を調節して光ビームアレイの整列方向と光機能素子アレイの配列方向を一致させる技術は、歩留まり向上による製造コスト低減の観点でその効果は甚大である。
【0028】
さらに、本発明によれば、光導波路アレイチップやPDアレイチップ、パッケージ等の寸法公差、および、実装時の位置ずれなどの要因によって、光導波路アレイと光機能素子アレイの間に角度ずれが発生した場合でも、光導波路アレイから出射された光ビームアレイを光機能素子アレイ上に集光させる光学系の内部に配置されたミラーの搭載角度を調整することで、光機能素子アレイと光機能素子アレイ上に集光される光ビームアレイの相対的な角度を一致させることができ、実装ばらつきによる歩留まり低下が回避され、安定に、かつ、低コストで製造可能な光モジュールを実現することが可能になる。
【0029】
また、光導波路アレイとして、石英系平面光波回路から成る光導波路を使用すると、低損失性、温度依存性、長期安定性、生産性に優れた光モジュールの実現が可能となる。また、光機能素子アレイとして、PIN−PDアレイやVCSELアレイなどの面型受発光素子アレイを使用すると、導波路型のものなどと比べて、軸ずれに対するトレランスが広く、偏波依存性などの特性も優れるため、特性の優れた光モジュールを安定に実現することが可能となる。また、テレセントリック光学系を使用することで、レンズ3bから光機能素子までの作動距離が変化しても光ビームアレイの間隔がずれないため、光機能素子アレイと光ビームアレイの光結合が安定化し、したがって調芯工程が容易になり、特性の優れた光モジュールをより安定に、かつ、効率的に実現可能となる。また、テレセントリック光学系と比較して、2枚のレンズの距離を狭めたレンズ光学系を使用する、2枚のレンズ間の距離が縮小するため、さらに小型の光モジュールを実現することが出来る。また、光導波路端面に無反射コート処理を施すことによって、反射減衰量が高く、特性の優れた光モジュールの実現が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】(a)は、第一の従来の例に係る光モジュールの側面図であり、(b)は、(a)の光モジュールの上面図であり、(c)は裏面入射型PIN−PDアレイ5を光ビームアレイが入射する方向から見た正面図である。
【図2】(a)は、第二の従来の例に係る光モジュールの側面図であり、(b)は、(a)の光モジュールの上面図であり、(c)は裏面入射型PIN−PDアレイ5を光ビームアレイが入射する方向から見た正面図である。
【図3】(a)は、PDアレイとPDアレイ上に集光した光ビームの位置関係を示す図であり、(b)は、PDアレイ5aの拡大図である。
【図4】PDアレイとPDアレイ上に集光した光ビームの軸ずれ量D、PD受光径Rpd、および光ビーム径Roptの定義を示す図である。
【図5】軸ずれ量Dと受光感度変化の関係を示す図である。
【図6】角度ずれθと軸ずれ量Dの関係を示す図である。
【図7】(a)は、本発明の実施形態に係る光モジュールの側面図であり、(b)は、(a)の光モジュールの上面図であり、(c)は裏面入射型PIN−PDアレイ5を光ビームアレイが入射する方向から見た正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0032】
本発明の実施形態に係る光モジュールを図7(a)、(b)、および(c)に示す。図7(a)は側面図であり、図7(b)は上面図であり、(c)は裏面入射型PIN−PDアレイ5を光ビームアレイが入射する方向から見た正面図である。本実施例は、平面光波回路により製造されたDLI2と面型PIN−PDアレイ5、差動入力型TIA6を使用して、40GbpsのDQPSK光信号を受信する集積型受信モジュールを実現した例である。本実施形態では、DLI2はマウント7を介して筐体1に固定されている。裏面入射型PIN−PDアレイ5、差動入力型TIA6はキャリア9の上面に搭載され、ワイヤ配線13によって電気的に接続されている。裏面入射型PIN−PDアレイ5は光入射面が上方を向くようにキャリア9の上面に搭載されている。裏面入射型PIN−PDアレイ5と差動入力型TIA6を搭載したキャリア9は筐体1上に搭載され、リッド12により局所的に気密封止されている。AR膜付きガラス10は、AR膜がコーティングされた面が、AR膜付きガラスから光ビームが出射する面になるようにやといガラス14によって固定されている。リッド12には、DLI2から出射された光ビームアレイがリッド内部に入射するように、窓11が取り付けられている。ファイバ16はファイバブロック15で固定され、DLI2に光結合するように接続されている。DLI2の出力ポート2a、2b、2c、2dは、図7(a)のDLI2のAR膜付きガラス10を貼り付けた端面上に、図7(a)の上から2a、2b、2c、2dの順番に配置されている。リッド12の上面には、下方に光ビームアレイの伝搬方向を変換するミラー4が配置されている。ミラー4は一部に斜面を形成したミラーブロック8に貼り付けられている。ミラー4の角度は光ビームアレイの整列方向と裏面入射型PIN−PDアレイ5の受光部5a、5b、5c、5dの整列方向がほぼ一致するように配置されている。まず、ミラー4はミラーブロック8に取り付けられ、ミラーブロック8を角度調整が可能な微動冶具でつまみ、リッド12にミラーブロック8の底面を接触させながら、裏面入射型PIN−PDアレイ5の受光強度変化をモニターしつつ、全てのPDでの受光強度が最大になるようにミラーブロック8と一緒にミラー4のX軸方向位置、Z軸方向位置、θy角度を調整したのち、YAG溶接によってミラー4をミラーブロック8に固定した。
【0033】
ファイバ16から光ビームがDLI2に入射され、DLI2の出力ポート2a、2b、2c、2dから出射された4本の光ビームは、レンズ3a、3bにより集光ビームに変換され、ミラー4によって伝搬方向を変換され、窓11を透過して局所気密封止パッケージの内部に入射し、光入射面が上方を向くように立てて配置された裏面入射型PIN−PDアレイ5の受光部5a、5b、5c、5d上に集光する。DLI2、レンズ3a、3b、ミラー4、裏面入射型PIN−PDアレイ5の位置関係と、レンズ3a、3bの設計を調整することによって、テレセントリック光学系を構成した。
【0034】
ここで、本発明の実施形態の光モジュールについてその効果を具体的に述べる。図1(a)(b)(c)に示す従来の例と図7(a)(b)(c)に示す本発明の実施形態のそれぞれの集積型受信モジュールを製造した。製造したそれぞれの集積型受信モジュールにおいて、PD受光部の半径(図4中のRpd)を6umとし、集光ビーム半径(光強度で1/(e2)半径、図4中のRopt))を5umとした。4つの受光部の間隔は250um均一で両端の受光部の間隔が750umとし、4つの光ビームの間隔も250um均一で両端の受光部の間隔が750umとなるように設計した。また、裏面入射型PIN−PDアレイ5のPDの整列方向が光ビームアレイの整列方向に対して0.5°の回転角度ずれを有するように、PDを配置した。リッド12のミラーブロック8と接している面は裏面入射型PIN−PDアレイ5のPDが整列している面と平行とした。
【0035】
その結果、従来の例の集積型受信モジュールでは、受光部5b、および5cの2つのPDでは0.07dBの受光感度低下であったが、受光部5a、および5dの2つのPDでは0.78dBの大きな受光感度低下が発生した。図3(a)に示すように、光ビームアレイの整列方向と裏面入射型PIN−PDアレイ5の受光部5a、5b、5c、5dの整列方向が0.5°の角度ずれを持ったため、集光ビームの一部がPD受光部の外にはみ出て受光感度低下を生じた。特に受光部5a、および5dのPDでは軸ずれが大きくなるため、受光部5b、および5cのPDと比較して、特に大きな受光感度低下を生じた。内側と外側のPDで受光感度が異なると、例えば、差動入力型TIAに接続する場合には差動入力信号にアンバランスが生じて受信特性を劣化させるため問題となる。このように、従来の集積型受信モジュールは角度ずれを補正する機構がないため、光ビームアレイの整列方向と裏面入射型PIN−PDアレイ5の受光部5a、5b、5c、5dの整列方向に角度ずれが生じた場合に生じる大きな受光感度低下や受光感度バランスの崩れを抑えることが出来ないため、性能の良い集積型受信モジュールを安定的に製造することが困難である。
【0036】
一方、本発明の実施形態においては、ミラー4を取り付けたミラーブロック8をリッド12に固定する際には、光ビームアレイの整列方向と裏面入射型PIN−PDアレイ5の受光部5a、5b、5c、5dの整列方向の角度ずれを補正するように、リッド12の上面の法線を回転軸として0.5°回転させて、ミラーブロック8をリッド12の上面に固定し、ミラー4を回転調節して、全てのPDでの受光強度が最大になるようにしたあとにミラー4をミラーブロック8に固定した。また、この際、ミラーの回転により光ビームアレイと面入射型PIN−PDアレイ5の受光部5a、5b、5c、5dに軸ずれが生じたが、その軸ずれはレンズ3bの位置を調整して補償した。製造した集積型受信モジュールでは、4つのPDで受光感度低下は見られず、また、外側と内側のPDの受光感度のアンバランスも見られなかった。
【0037】
本実施形態では、40GbpsのDQPSK光信号を受信する集積型受信モジュールを実現した例を示したが、これに限定されるものではなく、例えば、100GbpsのDP−QPSK信号受信用や40GbpsのDPSK信号受信用などの各種集積型光モジュールやその他の光モジュールであっても、複数の光ビームを空間に出力する光導波路アレイを使用し、その光ビームをPDアレイで受光する光モジュールであれば、本実施形態と同様の効果を奏する。また、本実施形態では、光導波路としてDLI2を使用した場合を示したが、これに限定されるものではなく、例えば、ファイバをV溝基板上に配列したファイバブロックや、DPOHを始めとする平面光波回路で構成される光導波路など、複数の光ビームを空間に出力する光導波路アレイを使用し、その光ビームをPDアレイで受光する光モジュールであれば、本実施形態と同様の効果を奏する。また、本実施形態では、PDとして裏面入射型PDを使用して集積型受信モジュールを製造した場合を示したが、これに限定されるものではなく、例えば、導波路型PDや屈折型PDなどの端面入射型PDを使用して集積型受信モジュールを製造した場合や、VCSEL、FP−LDなどのLDを使用した場合でも、本実施形態と同様の効果を奏する。また、本実施形態では、レンズを2枚使用した倍率1倍のテレセントリック光学系を使用した場合を示したが、これに限定されるものではなく、レンズ使用枚数、倍率などの異なる光学系を使用した場合でも、本実施形態と同様の効果を奏する。例えば、レンズを2枚使用し、テレセントリック系から2枚のレンズ間隔を狭めたレンズ光学系を使用した場合にも本実施形態と同様の効果を奏し、さらに、小型の集積型受信モジュールを実現することが出来る。
【0038】
また、本実施形態では、ミラーをミラーブロックに取り付け、リッドにミラーブロックを固定し、ミラーの回転角度を調整し、全てのPDでの受光強度が最大になるようにしたあとにミラーをミラーブロックに固定する方法を使用した場合を示したが、これに限定されるものではなく、ミラーとミラーブロックを一体化し、ミラーブロックの回転角度を調整して、全てのPDでの受光強度が最大になるようにしたあとにミラーブロックをリッドに固定する場合でも、本実施形態と同様の効果を奏する。また、本実施例では、PDアレイ、TIAなどを局所気密封止し、局所気密封止パッケージのリッドにミラーを固定する構造を使用した場合を示したが、これに限定されるものではなく、例えば、筐体やキャリアなどの部材に突起を設けて、その突起にミラーを固定する構造を使用した場合でも、本実施形態と同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0039】
1 筐体
2 DLI
2a、2b、2c、2d 出力ポート
3a、3b レンズ
4 ミラー
5 PD
5a、5b、5c、5d PD受光部
6 TIA
7 マウント
8 ミラーブロック
9 キャリア
10 AR膜付きガラス
11 窓
12 リッド
13 電気配線
14 やといガラス
15 ファイバブロック
16 ファイバ
17 集光ビーム光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光モジュールであって、筐体の内部に、
複数の光入射ポートおよび/または光出射ポートを有する光導波路アレイと、
複数の光出射ポートおよび/または光入射ポートを有する光機能素子アレイと、
前記光導波路アレイと前記光機能素子アレイとの間を伝搬する光ビームを集光させて前記光導波路アレイと前記光機能素子アレイを光結合させる少なくとも1つのレンズを使用したレンズ光学系と、
前記レンズ光学系と前記光機能素子アレイの間を伝搬する光ビームの伝搬方向を変換するように配置されたミラーと
を備え、
前記光機能素子アレイは前記筐体に対して直接、あるいは、サブマウントなどを介して固定されており、
前記ミラーが、前記光導波路アレイと前記光機能素子アレイとの間を伝搬する光ビームの伝搬光路中に前記光機能素子アレイが配置され、
前記ミラーが、前記光導波路アレイと前記光機能素子アレイとが光結合するように、前記ミラーの配置角度が調整されて、前記筐体の一部に直接、あるいは、固定冶具などを介して固定されていることを特徴とする光モジュール。
【請求項2】
前記光導波路アレイの光ビーム入出射方向が概ね水平方向であり、前記光機能素子アレイの光ビーム入出射方向が概ね上面を向いて配置され、前記ミラーが前記光ビームの伝搬方向を概ね水平方向と概ね鉛直下方の間を変換するように、前記光機能素子アレイの上方に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の光モジュール。
【請求項3】
前記光機能素子アレイが局所気密パッケージ内に封止され、前記ミラーが前記局所気密パッケージの上面に配置、固定されていることを特徴とする請求項1乃至2のいずれかに記載の光モジュール。
【請求項4】
前記光導波路アレイが、基板上に光導波路を形成した平面光波回路からなる光導波路アレイ、あるいは、光ファイバを直線上に整列させた光ファイバアレイであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の光モジュール。
【請求項5】
前記光機能素子アレイが、PIN−PDアレイ、またはVCSELアレイなどの面型受発光素子アレイ、または変調器アレイなどの多入出力型導波路アレイであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の光モジュール。
【請求項6】
前記レンズ光学系が2枚のレンズにより構成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の光モジュール。
【請求項7】
前記レンズ光学系が、1つのレンズ光学系で複数の光ビームを同時に集光させるように構成されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の光モジュール。
【請求項8】
前記レンズ光学系が、2枚のレンズを用いて構成されるテレセントリック光学系であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の光モジュール。
【請求項9】
前記レンズ光学系が、2枚のレンズを用いて構成され、テレセントリック光学系と比較して、2枚のレンズの距離を狭めた、あるいは、拡げたレンズ光学系でることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の光モジュール。
【請求項10】
前記光導波路の前記光ビームを出射する出力ポートの端面に無反射処理を施していることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の光モジュール。
【請求項11】
光モジュールの製造方法であって、
光導波路アレイを、筐体に固定するステップと、
光機能素子アレイを、前記筐体に直接、あるいは、マウントなどを介して固定するステップと、
前記光導波路アレイと前記光機能素子アレイの間に1つまたは複数のレンズを設置するステップと、
光ビームの伝搬方向を変換するミラーを、前記筐体の一部に直接、あるいは、固定冶具を介して固定するステップと
を含み、前記光導波路アレイ、前記1つまたは複数のレンズ、前記ミラー、および前記光機能素子アレイの位置関係と、前記1つまたは複数のレンズの設計を調整し、さらに前記筐体の底面の法線を回転軸としたときの前記ミラーの角度を調整することによって前記光導波路アレイから出斜された全ての光ビームを前記光機能素子アレイに光結合させて、前記ミラーを前記筐体の一部に固定することを特徴とする光モジュールの製造方法。
【請求項12】
前記光機能素子アレイを搭載した前記キャリアを前記筐体上に搭載されたリッドにより局所的に気密封止するステップをさらに含み、前記ミラーは前記リッド上に固定することを特徴とする請求項11に記載の光モジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−58409(P2012−58409A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200182(P2010−200182)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(591230295)NTTエレクトロニクス株式会社 (565)
【Fターム(参考)】