光分散補償素子及びその設計方法
【課題】高密度波長多重通信システムの光ファイバ伝送路にインライン型としても設置可能で、複数の波長チャネルを一括して補償し、各波長チャネルの分散補償残差をより小さくすることが可能な小型の光分散補償素子及びその設計方法を提供する。
【解決手段】該光分散補償素子の群遅延スペクトルは、該システムにおいて光信号の伝送を意図する波長である複数の波長チャネルのそれぞれにおいて所定のチャネル帯域幅の範囲で分散補償を意図する群遅延時間を有する複数の分散補償波長チャネル帯域A,B,C,D,E,Fに分割され、前記複数の分散補償波長チャネル帯域は、チャネル帯域幅がそれぞれ異なり、かつ、前記複数の分散補償波長チャネル帯域は、ps/nmを単位として表した分散補償量と、nmを単位として表したチャネル帯域幅との積が、略同一である。
【解決手段】該光分散補償素子の群遅延スペクトルは、該システムにおいて光信号の伝送を意図する波長である複数の波長チャネルのそれぞれにおいて所定のチャネル帯域幅の範囲で分散補償を意図する群遅延時間を有する複数の分散補償波長チャネル帯域A,B,C,D,E,Fに分割され、前記複数の分散補償波長チャネル帯域は、チャネル帯域幅がそれぞれ異なり、かつ、前記複数の分散補償波長チャネル帯域は、ps/nmを単位として表した分散補償量と、nmを単位として表したチャネル帯域幅との積が、略同一である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ通信システムにおいて伝送路である光ファイバの波長分散を補償するために用いられる光分散補償素子及びその設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光ファイバ通信システムの発展、特にエルビウム添加光ファイバ増幅器(EDFA)と高密度波長多重通信システム(DWDM)の発明により、光ファイバ通信網で伝送される情報量が急速に増大している。さらなるデータ容量の増加に備え、時分割多重変調方式の高速化、多重する波長数の増加や周波数利用効率の高い変調方式などについて研究開発が進められている。
【0003】
光ファイバ伝送路には、屈折率の波長依存性すなわち波長分散があり、これにより変調した信号光を伝送した時に群遅延が生じる。光ファイバ通信システムでは、通常、群遅延の波長依存性を波長分散と呼称している。変調速度を高速化すると、1チャネルの信号伝送に必要とされる帯域幅が拡がり、また伝送される信号の各ビットの時間間隔が狭まることから、光ファイバ伝送路の波長分散の影響による信号波形の劣化が著しいものとなる。このため、高速通信では光波長分散補償器を用いることが必須となる。
【0004】
一方、情報通信システムの規模及び設置数量の急速な拡大に伴って、コンピュータシステムやハイエンドルータなどの消費する膨大な電力が経済性のみならず環境影響の観点からも問題視されるようになりつつあり、省電力化し環境負荷を低減するグリーンICT(Information and Communication Technology)が必要とされている。ルータ等各種伝送装置を小型化することが出来れば、データセンターや通信キャリア局舎への装置収容効率が改善され、空間利用効率が良くなるばかりでなく、当該データセンターあるいは通信キャリア局舎のエアコン電力を大きく削減することが可能となり、省エネに貢献する。よって、各種光伝送装置に用いられる光部品についても、省電力化と小型化とが求められている。
【0005】
従来、光波長分散補償には、伝送路用光ファイバとは波長分散の符号の正負が逆転した光学特性を有する波長分散補償用光ファイバを用いた分散補償光ファイバモジュールが一般的に用いられている。分散補償光ファイバモジュールは、長距離の波長分散補償用光ファイバをボビンに巻いたモジュールが大型であることや、補償距離に比例して挿入損失が増大することなどの欠点があるため、その代替として、より小型で挿入損失の小さい光部品型の分散補償器が要望されていた。
分散補償光ファイバモジュールは、通信波長帯域の全体を補償しようとするものであって、その群遅延スペクトルは連続的であり、いずれの波長を波長チャネルとして利用するかについての制限はない。また、各波長チャネルにおいて利用可能なチャネル帯域幅についての制限もない。ただし、波長分散補償用光ファイバでは、各種光学特性のバランスを勘案してその設計を決めるために、必ずしも補償対象とする伝送路用光ファイバの分散スロープを完全に補償できるような光学特性とすることはできず、通常は波長チャネルによって分散補償残差が生じることとなる。近年、ROADM(Reconfigurable Optical Add/Drop Multiplexer)装置などの普及により、分散補償残差の累積が問題視されるようになっている。実際に分散補償光ファイバモジュールで補償可能な波長範囲は、分散補償残差の累積に対するトレランスによって制約を受ける。
【0006】
チャープトFBG(Fiber Bragg Grating)など、単チャネル用の光部品型の光波長分散補償器では、その単一のチャネルの一定の帯域内において所望の補償特性を高い精度で達成することが可能であり、また、光学特性を可変とすることもできる。しかしながら、DWDMですべての波長チャネルを一括して補償することができないため、インライン型の光波長分散補償器として使用することはできない。これらは、通常は、受信器の前段に配置される。また、1チャネルに1個必要となるため、高価である。合分波器と組み合わせてインライン型として用いることも技術的には可能であるが、さらに高価となる。
【0007】
VIPA型又はエタロンを用いた光分散補償器や、AWG又はMZIを用いたPLC型の光分散補償器などの中には、FSR(Free Spectral Range)と呼ばれる一定の周波数間隔で生じる光学特性の周期性を利用して、複数の波長チャネルの波長分散を一括して補償できるものがある。この場合、波長チャネル間隔とFSRとは一致している必要があるため、1個の光分散補償器を用いて一括して補償可能な波長帯域では、波長チャネル間隔は単一であり、波長チャネル帯域幅すなわち各波長チャネルにおいて波長分散が適切に補償され光信号伝送に利用可能な帯域幅は概略同一とされる。DWDMにおいて利用される波長チャネルは、ITU−T G.694.1 Spectral grids for WDW applications: DWDM frequency grid(06/2002)に規定されており、12.5GHz間隔、25GHz間隔、50GHz間隔及び100GHz間隔について記載がある。100GHzを超える間隔で用いる場合には、100GHz間隔で用いる波長(周波数)から選択して用いる。一般的には、C−band及びL−bandの多数の波長チャネルの信号を波長多重して1本の光ファイバで伝送するシステムにおいて、C−band用の光分散補償器を1個と、L−band用の光分散補償器を1個用いることにより、2つの波長帯域に分けて扱う。これら一定の周波数間隔で複数の波長チャネルの波長分散を一括して補償する光分散補償器においては、ITU−T G.694.1に規定された周波数グリッドに対応する波長、すなわちDWDMにおいて光信号の伝送を意図する波長である複数の波長の波長チャネルのそれぞれにおいて、例えば50GHzといった所定のチャネル帯域幅の範囲で分散補償できるように群遅延スペクトルが設定されている。つまり、分散補償光ファイバモジュールとは異なり、その群遅延スペクトルは分散補償を意図する所望の群遅延時間を有する複数の分散補償波長チャネル帯域に分割されており、そのようなチャネル帯域の範囲外となる分散補償を意図しない波長範囲においては群遅延特性は規定されない。
これらの光分散補償器は、分散スロープ補償まで含めて所望の光学特性とすることは困難であり、インライン型として用いた場合には、チャネルによっては大きな分散補償残差が生じる。光学特性を可変する機能を有するものが多く、単チャネル用としても多用される。
【0008】
特許文献1には、逆散乱問題解法を用いて設計した、離散化した複数のグレーティングピッチと不均一かつ非チャープ型のグレーティング振幅を有するグレーティング構造からなる基板型光導波路で実現した光分散補償器が開示されている。この光分散補償器は、所望の光学特性を設計インプットとし、逆散乱問題解法を用いてグレーティング構造を設計することから、分散補償残差が無いようにして複数チャネルを一括して補償するインライン型光波長分散補償器を設計し、実現することが可能である。
【0009】
なお、DWDMでは、多数の波長チャネルを同時に使用するが、初期投資を抑制し当初は使用チャネル数を少なくしておき、需要の増加とともに使用チャネル数を追加していくというようなことが行われる。このとき、例えば多くの波長チャネルでは高速かつ比較的安価な10Gbpsの伝送装置が用いられ、一部の波長チャネルでのみ、超高速であるが高価な40Gbpsの伝送装置が用いられるというように、異なる通信速度が混在して使用されることがある。例えば、特許文献2や特許文献3には、10Gbpsなどの低速チャネルと40Gbpsの高速チャネルとを混在させて使用する光ファイバ通信システムの事例及び該システムにおける波長分散補償に関する問題について開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2009/107798号
【特許文献2】特開2009−094979号公報
【特許文献3】特開2009−232101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
光ファイバ通信網の伝送容量を増大させようとする時、2.5Gbpsから10Gbps、40Gbps、100Gbpsへと時分割多重変調方式の変調速度を向上させる場合には、1波長チャネル当りの必要帯域幅が変調速度によって広くなっていく。
ところで、一般に光分散補償器は、分散補償量に応じた光路長を要するデバイスであることから、大きな分散量を補償しようとする場合、また広い帯域について補償しようとする場合に、長い素子長が必要となる。例えば、同一のチャネル帯域を補償する場合に、200ps/nmを補償する光分散補償器は100ps/nmを補償する光分散補償器の2倍の光路長を必要とする。また、同じ100ps/nmの波長分散を補償しようとする時、1.6nmのチャネル帯域を有する光分散補償器は0.8nmのチャネル帯域を有する光分散補償器の2倍の光路長を必要とする。2倍の光路長を必要とする場合、一般には素子内の光分散補償部の寸法が2倍必要になる。
よって、ある決められた寸法の光分散補償器でチャネル帯域を2倍、4倍に拡張しようとすると、補償可能な分散量は1/2、1/4に減少してしまうことになる。同一の分散補償量を保持したままチャネル帯域を2倍、4倍に拡張しようとすると、光分散補償素子の寸法も略2倍、略4倍に増大してしまう。しかし、一方では、上述したように小型な光分散補償器が要望されている。
このような、小型であり、広いチャネル帯域で分散を補償するという相反する要求を同時に解決し、インライン型として用いて複数の波長チャネルの波長分散を一括して補償することが可能であり、分散補償残差が小さく、安価な光波長分散補償用部品が求められていた。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、光ファイバ伝送路にインライン型としても設置可能で、複数の波長チャネルを一括して補償し、各波長チャネルの分散補償残差をより小さくすることが可能な小型の光分散補償素子及びその設計方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため、本発明は、高密度波長多重通信システムの光ファイバ伝送路の波長分散及び分散スロープを補償する光分散補償素子であって、光分散補償素子の群遅延スペクトルは、該システムにおいて光信号の伝送を意図する波長である複数の波長チャネルのそれぞれにおいて所定のチャネル帯域幅の範囲で分散補償を意図する群遅延時間を有する複数の分散補償波長チャネル帯域に分割され、前記複数の分散補償波長チャネル帯域は、チャネル帯域幅がそれぞれ異なり、かつ、前記複数の分散補償波長チャネル帯域は、ps/nmを単位として表した分散補償量と、nmを単位として表したチャネル帯域幅との積が、略同一であることを特徴とする光分散補償素子を提供する。
本発明の光分散補償素子においては、前記複数の分散補償波長チャネル帯域は、前記光ファイバ伝送路の群遅延の波長分散が零となる零分散波長より長波長側であって、かつ前記光ファイバ伝送路の群遅延の波長分散が正となる波長領域に位置し、前記複数の分散補償波長チャネル帯域は、前記チャネル帯域幅が、長波長側の波長チャネルにおいて狭くなっており、波長が短くなるに従って広くなっていく構成とすることも可能である。
該光分散補償素子は、グレーティング構造を有するコアが基板上に形成された基板型光導波路であることも可能である。
【0014】
前記課題を解決するため、本発明は、高密度波長多重通信システムの光ファイバ伝送路の波長分散及び分散スロープを補償する光分散補償素子の設計方法であって、該光分散補償素子は、グレーティング構造を有するコアを備えた光導波路からなり、前記グレーティング構造は、前記コアの断面寸法が前記光導波路の導波方向に沿って変化することにより構成され、該設計方法は、コアの断面寸法を変化させた際の光導波路の断面構造と実効屈折率との関係を求める光導波路断面構造設計工程と、設計入力パラメータとして波長分散、分散スロープ及び反射率を指定して所定の複素反射率スペクトルを算出した後、逆散乱問題解法によって前記複素反射率スペクトルを実現するための前記光導波路の導波方向に沿った実効屈折率分布を求めるグレーティングパターン設計工程と、前記光導波路断面構造設計工程で求めた前記断面構造と実効屈折率との関係に基づいて、前記グレーティングパターン設計工程で求めた前記実効屈折率分布を、前記断面構造の前記光導波路の導波方向に沿った分布に変換することにより、該断面構造の分布からなるグレーティング構造を求めるグレーティング構造設計工程と、を有し、前記設計入力パラメータとして入力する波長分散、分散スロープ及び反射率を、該システムにおいて光信号の伝送を意図する波長である複数の波長チャネルのそれぞれにおいて所定のチャネル帯域幅の範囲で分散補償を意図する群遅延時間を有する複数の分散補償波長チャネル帯域に分割し、前記複数の分散補償波長チャネル帯域は、チャネル帯域幅がそれぞれ異なり、かつ、前記複数の分散補償波長チャネル帯域を、ps/nmを単位として表した分散補償量の設定値と、nmを単位として表したチャネル帯域幅の設定値との積が、略同一となるように設定することを特徴とする光分散補償素子の設計方法を提供する。
本発明の光分散補償素子の設計方法においては、前記複数の分散補償波長チャネル帯域を、前記光ファイバ伝送路の群遅延の波長分散が零となる零分散波長より長波長側であって、かつ前記光ファイバ伝送路の群遅延の波長分散が正となる波長領域において、設定し、かつ、前記チャネル帯域幅を、長波長側の波長チャネルにおいて狭く設定し、波長が短くなるに従って広く設定していくことも可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、光分散補償素子の群遅延スペクトルは、該システムにおいて光信号の伝送を意図する波長である複数の波長チャネルのそれぞれにおいて所定のチャネル帯域幅の範囲で分散補償を意図する群遅延時間を有する複数の分散補償波長チャネル帯域に分割され、前記複数の分散補償波長チャネル帯域は、ps/nmを単位として表した分散補償量と、nmを単位として表したチャネル帯域幅との積が、略同一であることから、素子寸法が過剰に大きくなることを抑止でき、小型かつ安価な光分散補償素子を提供することができる。
分散補償量を大きく設定する必要のある長波長側のチャネルではチャネル帯域を必要最小限とし、他のチャネルよりも狭い帯域に設定し、分散補償量の設定が小さくても良い短波長側のチャネルでは、代わりにチャネル帯域を広く設定して、中間のチャネルにおいては、長波長側から短波長側に向かって各チャネルの設定分散補償量が小さくなるのに応じて、チャネル帯域を徐々に広く設定していったことから、各チャネルの設定分散補償量に対応した、可能な限り広いチャネル帯域幅で光ファイバ伝送路の波長分散を補償するものであるような特性を有し、必要とするチャネル帯域幅の異なる複数の変調速度または変調方式に適切に対応して、光ファイバ伝送路にインライン型としても設置可能で、複数の波長チャネルを一括して補償することができ、各波長チャネルの分散補償残差をより小さくすることができる。
所望の光学特性を設計インプットとして与え、逆散乱問題解法を用いてグレーティング構造を設計することにより、離散化した複数のグレーティングピッチと不均一かつ非チャープ型のグレーティング振幅を有する光導波路部品として、光分散補償素子を実現することができる。
前記複数の分散補償波長チャネル帯域は、光ファイバ伝送路の零分散波長より長波長側であって、かつ光ファイバ伝送路の群遅延の波長分散が正となる波長領域に位置する場合、チャネル帯域幅が、長波長側の波長チャネルにおいて狭くなっており、波長が短くなるに従って広くなっていくように設定すると、そのように配置しなかった場合と比べて、光分散補償素子をより小さく構成することができる。
基板型光導波路部品として構成した場合には、より小型な光部品として光分散補償素子を実現可能であり、データセンターや通信キャリア局舎の装置収容効率を向上させ、空調電力を削減し省エネに貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の光分散補償素子において、挿入損失スペクトル及び群遅延スペクトルの一例を示す模式図である。
【図2】(a)は基板型光導波路部品の第1実施形態を示すコアの部分斜視図、(b)はコアの部分上面図、(c)は基板型光導波路部品の断面図である。
【図3】基板型光導波路部品と光伝送路とを接続した形態の一例を示す説明図である。
【図4】第1実施形態の基板型光導波路部品の製造工程を示す部分斜視図である。
【図5】第1実施形態の基板型光導波路部品の製造工程を示す部分斜視図である。
【図6】第1実施形態の基板型光導波路部品の製造工程を示す部分斜視図である。
【図7】第1実施形態におけるコアの幅wに対する実効屈折率neffの変化の一例を示すグラフである。
【図8】第1実施形態におけるコアの幅wに対する実効屈折率neffの変化の別の例を示すグラフである。
【図9】基板型光導波路部品の第2実施形態を示す部分斜視図である。
【図10】第2実施形態におけるwinに対するneffの変化の一例を示すグラフである。
【図11】第2実施形態におけるwinの変化に伴うwoutの変化の一例を示すグラフである。
【図12】第2実施形態におけるneffに対するwinおよびwoutの変化を示すグラフである。
【図13】基板型光導波路部品の第3実施形態を示す断面図である。
【図14】第3実施形態におけるwinに対するneffの変化の一例を示すグラフである。
【図15】第3実施形態におけるwinの変化に伴うwoutの変化の一例を示すグラフである。
【図16】第3実施形態におけるneffに対するwinおよびwoutの変化を示すグラフである。
【図17】実施例1の反射率スペクトルの一例を示すグラフである。
【図18】図17の一部を拡大して示すグラフである。
【図19】実施例1の群遅延スペクトルの一例を示すグラフである。
【図20】図19の一部を拡大して示すグラフである。
【図21】実施例1のポテンシャル分布の一例を示すグラフである。
【図22】図21の一部を拡大して示すグラフである。
【図23】図21に示す実施例1のポテンシャル分布から求めた反射率スペクトルを示すグラフである。
【図24】図23の一部を拡大して示すグラフである。
【図25】図23の一部を拡大して示すグラフである。
【図26】図23の一部を拡大して示すグラフである。
【図27】図21に示す実施例1のポテンシャル分布から求めた群遅延スペクトルを示すグラフである。
【図28】図27の一部を拡大して示すグラフである。
【図29】図27の一部を拡大して示すグラフである。
【図30】図27の一部を拡大して示すグラフである。
【図31】実施例2の反射率スペクトルの一例を示すグラフである。
【図32】図31の一部を拡大して示すグラフである。
【図33】実施例2の群遅延スペクトルの一例を示すグラフである。
【図34】図33の一部を拡大して示すグラフである。
【図35】実施例2のポテンシャル分布の一例を示すグラフである。
【図36】図35の一部を拡大して示すグラフである。
【図37】図35に示す実施例2のポテンシャル分布から求めた反射率スペクトルを示すグラフである。
【図38】図37の一部を拡大して示すグラフである。
【図39】図37の一部を拡大して示すグラフである。
【図40】図37の一部を拡大して示すグラフである。
【図41】図35に示す実施例2のポテンシャル分布から求めた群遅延スペクトルを示すグラフである。
【図42】図41の一部を拡大して示すグラフである。
【図43】図41の一部を拡大して示すグラフである。
【図44】図41の一部を拡大して示すグラフである。
【図45】比較例1の反射率スペクトルの一例を示すグラフである。
【図46】図45の一部を拡大して示すグラフである。
【図47】比較例1の群遅延スペクトルの一例を示すグラフである。
【図48】図47の一部を拡大して示すグラフである。
【図49】比較例1のポテンシャル分布の一例を示すグラフである。
【図50】図49の一部を拡大して示すグラフである。
【図51】図49に示す比較例1のポテンシャル分布から求めた反射率スペクトルを示すグラフである。
【図52】図51の一部を拡大して示すグラフである。
【図53】図51の一部を拡大して示すグラフである。
【図54】図51の一部を拡大して示すグラフである。
【図55】図49に示す比較例1のポテンシャル分布から求めた群遅延スペクトルを示すグラフである。
【図56】図55の一部を拡大して示すグラフである。
【図57】図55の一部を拡大して示すグラフである。
【図58】図55の一部を拡大して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、好適な実施の形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
図1に、本発明の光分散補償素子において、複数の波長チャネルのそれぞれにおいて、分散補償波長チャネル帯域のチャネル帯域幅が異なり、ps/nmを単位として表した分散補償量と、nmを単位として表したチャネル帯域幅との積が、略同一である場合の挿入損失スペクトル及び群遅延スペクトルの一例を示す。図1に示す群遅延スペクトルにおいては、それぞれの分散補償波長チャネル帯域の所定のチャネル帯域幅A乃至Fの範囲で分散補償を意図する群遅延時間を有する複数の分散補償波長チャネル帯域が、高密度波長多重通信システムの光信号の伝送を意図する波長である複数の波長チャネルに応じて分割されている。また、複数の分散補償波長チャネル帯域は、チャネル帯域幅がそれぞれ異なっている。
光分散補償素子の各分散補償波長チャネル帯域は、光ファイバ伝送路により伝送される信号が当該波長チャネルにおいて光ファイバ伝送路の波長分散(群遅延量)及び分散スロープから受けた影響を補償するために必要な群遅延時間を有する。
【0018】
分散補償を意図する群遅延時間を有する波長領域、すなわち各分散補償波長チャネル帯域は、群遅延量(単位はps)が傾斜して波長依存性のある領域であり、図1では、A、B、C、D、EまたはFとして示す。各波長チャネルにおける分散補償波長チャネル帯域内の群遅延量の傾斜は、群遅延の波長依存性(単位はps/nm)を表し、波長分散補償量に相当する。分散補償を意図する波長領域がさらに分散スロープを補償するための波長依存性(単位はps/nm2)を含んでいても良い。この場合は、波長チャネル同士で、少しずつ群遅延量が変化していてもよい。
【0019】
分散補償を意図しない波長領域は、図1の隣接するチャネル帯域幅AとBの間、BとCの間、CとDの間などにそれぞれ存在する。これにより、各分散補償波長チャネル帯域の群遅延スペクトルは不連続となり、相互に分離される。分散補償を意図しない波長領域では、群遅延量が波長にかかわらず一定である波長領域や、群遅延量の波長依存性が不定である波長領域や、挿入損失が大きく出力が得られない波長領域を含んでいても良い。ここで、挿入損失とは、素子が反射型である場合には反射光の挿入損失であり、挿入損失が大きい波長領域とは、反射率が小さく、当該波長の光を透過させる領域であっても良い。
各波長チャネルにおいて、分散補償を意図する波長領域の両側に、分散補償を意図しないが一定の小さい挿入損失を有する波長領域を付与することが好ましい。例えば、図1では、分散補償を意図する波長領域において挿入損失を一定とするのみならず、分散補償を意図する波長領域の両側に、分散補償を意図する波長領域におけるのと概略同一の挿入損失を有する波長領域を有する。つまり、挿入損失を小さく設定した波長領域は、分散補償を意図して群遅延を設定した波長領域A乃至Fに比べて、帯域幅が広くされている。これにより、分散補償を意図する波長領域A乃至F内に挿入損失が増大した部分が発生することを抑制できる。この、分散補償を意図しないが挿入損失を小さく設定した波長領域では、群遅延量が波長にかかわらず一定であっても良い。
なお、図1は、各波長チャネルの群遅延量(単位はps)は各分散補償波長チャネル帯域内での群遅延量の傾斜を説明するものであり、ある波長チャネルと別の波長チャネルとの間の群遅延量の関係を示すものではない。
【0020】
図1に示す複数の波長チャネルは、より狭いチャネル帯域幅Aを有する分散補償波長チャネル帯域から、より広いチャネル帯域幅Fを有する分散補償波長チャネル帯域まで、それぞれの波長チャネルにおいて光信号の伝送を意図する波長に応じて、チャネル帯域幅が徐々に変化している。
【0021】
このように、光分散補償素子が、各波長チャネルに対応して、分散補償を意図する波長領域である分散補償波長チャネル帯域と分散補償を意図しない波長領域とによって構成されるとともに、複数の分散補償波長チャネル帯域は、チャネル帯域幅がそれぞれ異なっていることにより、必要とするチャネル帯域幅の異なる2種類以上の変調速度または変調方式に適切に対応して、光ファイバ伝送路にインライン型としても設置可能で、複数の波長チャネルを一括して補償することができ、各波長チャネルの分散補償残差をより小さくすることができる。
【0022】
また、特許文献3の段落0032には、10Gb/sの波長チャネルと40Gb/sの波長チャネルとを混載するときに、伝送速度の違いによらず、チャネル間隔を一定に設定することが記載されている。本発明の後述する実施例においても、チャネル間隔(チャネルグリッド)を一定に設定しているが、本発明においてはチャネル間隔は任意に設定可能である。例えば、分散補償波長チャネル帯域の帯域幅が狭い複数の波長チャネルを第1の群とし、分散補償波長チャネル帯域の帯域幅が広い複数の波長チャネルを第2の群としたとき、第1の群のチャネル間隔を、第2の群のチャネル間隔よりも狭く設定すると、第2の群では、広い帯域幅に対応するために必要なチャネル間隔を確保しつつ、第1の群では、より多くの波長チャネルを配置することができる。
【0023】
分散補償波長チャネル帯域Aから分散補償波長チャネル帯域Fのすべてが光ファイバ伝送路の零分散波長(群遅延の波長分散が零となる波長)より長波長側であって、かつ光ファイバ伝送路の群遅延の波長分散Dが正となる波長領域に位置する(すなわち、光ファイバ伝送路の分散スロープSは正であり、S/Dの比で定義されるRDSは正である)場合には、光分散補償素子の波長分散補償量は負となり、長波長側ほど小さい(絶対値としては大きい)波長分散補償量が必要になる。すなわち、光分散補償素子の分散スロープSは負であり、RDSは正である。
【0024】
1つの分散補償波長チャネル帯域に必要な最大の群遅延差(分散補償波長チャネル帯域内の最大群遅延量と最小群遅延量との差)は、分散補償を意図する波長領域の波長帯域幅(単位はnm)と波長分散補償量との積にほぼ相当する。このため、チャネルに要求される周波数帯域幅(単位はGHz)が広いと、波長分散補償量が同程度でも、必要な最大の群遅延差は大きくなる。
例えば、隣接する波長チャネルであり波長分散補償量はほぼ同程度である場合であっても、ある波長チャネルにおいて分散補償を意図する周波数帯域幅(例えば50GHz)が隣接波長チャネルにおいて分散補償を意図する周波数帯域幅(例えば25GHz)の2倍であるとすれば、それらの周波数帯域に対応する波長領域の帯域幅も約2倍となるため、必要となる最大の群遅延差も約2倍となる。
【0025】
また、後述するグレーティング構造においては、最大の群遅延差が大きいほど、必要素子長が大きくなる。
このような条件下では、チャネル帯域幅の広い分散補償波長チャネル帯域では、チャネル帯域幅の狭い分散補償波長チャネル帯域よりも、必要な最大の群遅延差が大きく、さらに、分散スロープに依存して、長波長側ほど必要な最大の群遅延差が大きい。
そこで、絶対値の大きい波長分散補償量を設定する必要のある長波長側の波長チャネルを、例えば、狭いチャネル帯域幅Aを有する分散補償波長チャネル帯域とし、絶対値の小さい波長分散補償量を設定すれば良い短波長側の波長チャネルを、例えば、広いチャネル帯域幅Fを有する分散補償波長チャネル帯域とし、中間の波長チャネルB〜Eにおいては、長波長側から短波長側に向かって各波長チャネルの波長分散補償量が小さくなるのに応じて、チャネル帯域幅を徐々に広く設定して、それぞれ配置することが好ましい。このように配置することによって、最大の群遅延差を略同一とすることが可能となり、光分散補償素子をより小さく構成することができる。
例えば、複数の波長チャネルのそれぞれについて、RDSに応じて変化する分散補償量と反比例するように、分散補償を意図するチャネル帯域幅を設定すると、最大の群遅延差を略同一にすることができる。さらに、伝送に用いるチャネル帯域幅は、分散補償を意図するチャネル帯域幅の範囲内で設定可能である。これにより、上述したように、最も広いチャネル帯域幅を、最も狭いチャネル帯域幅の2〜3倍またはそれ以上とすることもできる。
分散補償量と分散補償を意図するチャネル帯域幅を設定する際、最も短波長側にあるチャネルから最大群遅延差の基準を求めると、最も広いチャネル帯域の帯域幅を最初に決定することができる。その逆に、最も長波長側にあるチャネルから最大群遅延差の基準を求めると、最も狭いチャネル帯域の帯域幅を最初に決定することができる。
また、チャネル数とチャネル間隔を設定してから最大群遅延差及び各チャネル帯域の帯域幅を決定してもよく、その逆に、最大群遅延差及び各チャネル帯域の帯域幅を決定してから、それに収まるようにチャネル数とチャネル間隔を設定しても良い。
【0026】
該光分散補償素子は、グレーティング構造を有するコアが基板上に形成された基板型光導波路からなる基板型光導波路部品として構成した場合には、より小型な光部品として光分散補償素子を実現可能であり、データセンターや通信キャリア局舎の装置収容効率を向上させ、空調電力を削減し省エネに貢献することができる。
【0027】
<基板型光導波路部品の第1実施形態>
図2(a)〜(c)に、本発明の基板型光導波路部品の第1実施形態を模式的に示す。図2(a)は光導波路のコア1の一部の斜視図、図2(b)はコア1の同じ部分の上面図、図2(c)は基板型光導波路部品の断面図である。また、基板型光導波路部品の斜視図を図6に示す。なお、図2(c)においては、コア1の側壁に関して、図2(a)及び図2(b)の凹部2a及び凸部2bの区別なしに、符号2を用いている。
この基板型光導波路部品は、光導波路が基板5上に形成された基板型光導波路部品である。光導波路は、基板5上に形成された下部クラッド6と、下部クラッド6上に形成されたコア1と、コア1および下部クラッド6の上に形成された上部クラッド7を有する。
また、側壁グレーティング構造2は、コアの幅wの周期的変化としてコア1の両側壁に形成された凹部2aと凸部2bとから構成されている。コア幅wとは、光導波路の長手方向即ち信号光の導波する方向に対して垂直であり、かつ基板に平行である方向におけるコア1の幅を言う。凹部2aではコア幅が狭く、凸部2bではコア幅が広い。
コア1の上面3及び底面4は平坦である。
【0028】
光導波路の長手方向(図2(b)の左右方向)において凹部2aが継続する距離を、凹部の幅と呼ぶ。また、光導波路の長手方向において凸部2bが継続する距離を、凸部の幅と呼ぶ。隣接する凸部と凹部とを一組とし、その凸部の幅と凹部の幅とを加算したものが、その位置におけるグレーティングピッチである。
【0029】
本実施形態の基板型光導波路部品は、詳しくは後述するが、グレーティングピッチが逆散乱問題を解いた結果として得られる離散化したピッチのいずれかの値をとる。すなわち、本実施形態の基板型光導波路部品は、従来公知の等ピッチグレーティング構造、チャープピッチグレーティング構造、サンプルドグレーティング構造のいずれとも異なる。
図2(b)には、グレーティングピッチが、光導波路の長手方向の位置によってP、P+ΔP、P−ΔPのように異なる値をとることが示されている。また、コア幅wに関しては、図2(b)には左から右に向かってコア幅wが増大する傾向をもつ部分を示している。後述するように、同じ光導波路が、他の部分(図示略)では左から右に向かってコア幅wが減少する傾向をもつ部分を含んでいる。
このように、グレーティングピッチとコア幅とが、逆散乱問題を解いた結果として得られる複雑な変化をしているので、所望の機能性を光導波路に付与することができる。
【0030】
(デバイスの使用例)
図3に、基板型光導波路部品101と光伝送路103,105とを接続した形態100の一例を示す。この基板型光導波路部品101はグレーティング構造を有する反射型デバイスであるため、開始端が光信号の入射端であると同時に出射端となる。図3に示すように、通常はサーキュレータ102を介して入出力光ファイバを接続し、使用する。サーキュレータ102には、入射信号光を伝搬する入射用光ファイバ103と、基板型光導波路部品101と光サーキュレータ102とを接続する結合用光ファイバ104と、出射信号光を伝搬する出射用光ファイバ105が接続されている。
また、基板型光導波路部品101と結合用光ファイバ104とが光接続される箇所には、通常モードフィールド変換部(モードフィールドコンバーター)あるいはスポットサイズ変換部(スポットサイズコンバーター)と呼ばれる入出力変換部を追加すると、結合用光ファイバ104と基板型光導波路部品101との接続損失を低減できるので、好ましい。
【0031】
(デバイスの製造方法)
所望の光学特性が得られるグレーティング構造を有する基板型光導波路部品を得るため、本発明では、該光導波路の光伝搬方向にわたるポテンシャル分布を求め、これを光導波路の光伝搬方向にわたる等価屈折率分布に換算し、光導波路の寸法、より具体的には、コアの断面構造寸法及び長手方向寸法に変換することが好ましい。ポテンシャル分布の算出は、光導波路の前方及び後方に伝搬する電力波振幅なる変数を導入した波動方程式より、例えば光導波路の等価屈折率の対数の微分から導かれるポテンシャルを有するZakharov-Shabat方程式などに帰着させ、グレーティング光導波路の反射率の強度および位相のスペクトルである複素反射スペクトルからポテンシャル関数を数値的に導く逆散乱問題として解き、所望の反射スペクトルを実現するためのポテンシャルを推測する設計法を用いて設計することが出来る。
これにより、従来公知の等ピッチグレーティング素子やチャープピッチグレーティング素子では実現出来ないような複雑な光学特性を有するブラッググレーティング素子を設計し製作することが可能となるため、例えばDWDM光ファイバ通信システムにおいて40チャネル一括で伝送線路光ファイバの波長分散と分散スロープとを同時に補償する光波長分散補償器といったような所望の光学特性を有するデバイスを実現することが出来る。
【0032】
(ポテンシャル分布の設計方法)
所望の複素反射スペクトルから逆散乱問題を用いてポテンシャル分布を設計する手法は以下の通りである。
なお、後述する設計手順中の数式においては、グレーティング光導波路の長手方向、すなわち光伝搬方向をz軸として数式を示す。図2(b)の左右方向がz軸方向である。該グレーティング光導波路デバイスのグレーティング領域開始端をz=0、終了端をz最大値座標とし、z最大値がすなわちグレーティング光導波路部の領域長である。
【0033】
まず、光導波路を伝搬する電磁界を、Sipeの論文(J.E. Sipe, L. Poladian, and C. Martijn de Sterke, “Propagation through nonuniform grating structures,” Journal of the Optical Society of America A, Vol. 11, Issue 4, pp. 1307-1320 (1994))を参照して、次のように定式化する。
【0034】
電磁界の時間変動をexp(−iωt)と仮定すると、該光導波路の光伝搬方向をz軸として、光導波路中の電界の複素振幅E(z)及び磁界の複素振幅H(z)は、マクスウェル方程式(Maxwell's equations)により、次式(1)、(2)となる。
【0035】
【数1】
【0036】
【数2】
【0037】
ただし、E(z)は電界の複素振幅、H(z)は磁界の複素振幅、iは虚数単位、ωは角周波数、μ0は真空の透磁率、ε0は真空の誘電率、neffは光導波路の実効屈折率を表す。
【0038】
式(1)、(2)から結合モード方程式(coupled-mode equations)を構築するため、ここで、次式(3)、(4)のようにE(z)及びH(z)を進行波(前方に伝搬する電力波)振幅A+(z)と後退波(後方に伝搬する電力波)振幅A−(z)に変換する。該デバイスは反射スペクトルとして所望の光学特性を実現する反射型デバイスである。反射波は後退波振幅A−(z)に対応する。
【0039】
【数3】
【0040】
【数4】
【0041】
ただし、navは光導波路の参照屈折率(平均実効屈折率)であり、このnavは、neff(z)の基準となる。これらの変数A+(z)及びA−(z)は、clightを真空中の光速として、次式(5)、(6)を満たす。
【0042】
【数5】
【0043】
【数6】
【0044】
ここで、波数k(z)を次式(7)で表す。ここで、clightは真空中の光速度である。
【0045】
【数7】
【0046】
また、式(8)のq(z)は、結合モード方程式におけるポテンシャル分布である。
【0047】
【数8】
【0048】
式(5)、式(6)のn(z)を式(7)、式(8)のneff(z)と同一視して代入すると、式(5)、式(6)は、式(9)、式(10)に示すZakharov-Shabat方程式に帰着される。
【0049】
【数9】
【0050】
【数10】
【0051】
Zakharov-Shabat方程式で示された逆散乱問題を解くことは、後述するゲルファント−レヴィタン−マルチェンコ方程式(Gel'fand-Levitan-Marchenko type integral equations)を解くことであり、その手順は例えば、Frangosの論文(P.V. Frangos and D.L. Jaggard, “A numerical solution to the Zakharov-Shabat inverse scattering problem,” IEEE Transactions on Antennas and Propagation, Vol. 39, Issue. 1, pp. 74-79 (1991))に開示されている。
また、Xiaoの論文(G. Xiao and K. Yashiro, “An Efficient Algorithm for Solving Zakharov-Shabat Inverse Scattering Problem,” IEEE Transaction on Antennas and Propagation, Vol. 50, Issue 6, pp. 807-811 (2002))には、Zakharov-Shabat方程式の効率的な解法が開示されている。
【0052】
上記のグレーティング構造を有する基板型光導波路部品の光学特性は、光導波路入出力端における複素反射スペクトルr(k)として、次式(11)で定義される。
【0053】
【数11】
【0054】
次式(12)に示すように、r(k)のフーリエ変換はこの系のインパルス応答R(z)である。
【0055】
【数12】
【0056】
複素反射スペクトルr(k)として波長に対する所望の群遅延特性と反射率の分布を与えることにより、これを実現するためのポテンシャル分布関数q(z)を数値的に解くことができる。
本設計では、グレーティングの振幅が変化して位相は振幅に従属して変化するという振幅変調型のグレーティングを用いた設計を行なう。そのため、設計の入力データとして用いる複素反射スペクトルにおいては、グレーティングの振幅の包絡線とグレーティングの振動の位相との分離性を高めるため、周波数の原点(すなわち0Hz)から所定の群遅延時間特性が求められる周波数領域をすべて含める。
【0057】
まず、式(3)及び式(4)の解を次式(13)、(14)のように表す。
【0058】
【数13】
【0059】
【数14】
【0060】
A+(z)及びA−(z)はそれぞれ+z方向及び−z方向に伝搬する。式(13)及び式(14)中の積分項は反射の影響を表している。式(13)及び式(14)から、結合モード方程式が次の式(15)及び式(16)で表されるゲルファント−レヴィタン−マルチェンコ方程式に変換される。
【0061】
【数15】
【0062】
【数16】
【0063】
ここで、正規化時間yはy=clight t (tは時間)であり、z>yである。R(z)は、波数を変数とした複素反射スペクトルr(k)の逆フーリエ変換であり、インパルス応答に相当する。R(z)を与えて式(15)及び式(16)を解くことにより、ポテンシャル分布q(z)が求められ、式(17)で与えられる。
【0064】
【数17】
【0065】
得られたポテンシャル分布q(z)を次式(18)に適用することで、グレーティング光導波路の実効屈折率分布neff(z)が得られる。
【0066】
【数18】
【0067】
本発明では、式(8)及び式(17)のポテンシャル分布q(z)を実数とする。その結果、複素反射スペクトルr(k)からインパルス応答(時間応答)R(z)へと変換するための演算は実数型となり、振幅が変化して位相が振幅に従属して変化する。
【0068】
このようにして得られた実効屈折率分布neff(z)は、高屈折率値と低屈折率値とが短いピッチ(周期)で交互に現れるものであり、グレーティング光導波路構造を示すものとなっている。このグレーティング構造は、光導波路コアの側壁の凹部および凸部におけるコア幅wに対応する、隣接する高屈折率値と低屈折率値との屈折率差が一定ではなく漸次変化する不均一なものとなっており、また屈折率の変化するピッチはある限定された離散値をとるものとなっており、従来公知の等ピッチグレーティング光導波路、チャープピッチグレーティング光導波路、サンプルドグレーティング光導波路のいずれとも一致しない新規な構造を有する。
【0069】
本発明のグレーティング光導波路は、ブラッググレーティングの振幅を変化させてグレーティングパターンを形成するものであり、グレーティングの振幅の包絡線の勾配の符号が反転する振幅変調型である。サンプルドグレーティング光導波路では、符号が反転する二点間で振幅が連続的にゼロになる光導波路領域が介在するという特徴がある。これに対し、本願の振幅変調型グレーティング光導波路では、そのような構造は現れない。符号の反転は孤立した単一の座標点で生じるという階段的な急峻性あるいは不連続性を示す。つまり、あるz座標で包絡線の勾配の符号が反転するという意味である。包絡線の勾配の符号が反転する孤立した一座標点でのみ振幅がゼロとなるため、実質的には振幅が一定の区間ゼロのままとなるような領域は出現しない。これにより、サンプルドブラッググレーティングよりも導波路長を短縮することが可能となる。
【0070】
包絡線の勾配の符号が反転する孤立した座標点は導波路上で複数個存在する。おのおのの座標点では、付随的に位相の不連続変化を伴う。位相が不連続変化すると局所周期(ピッチ)が変化するため、ピッチが当該座標点で対象とするスペクトルにおける中心波長を光導波路の実効屈折率の平均値navで除算した値の半分とは異なる値をとる。包絡線の勾配の符号が反転する座標点を特定する精度は、横軸にとっている導波路の座標zの離散化刻みによる。その刻みをΔzとすると、座標点を特定する精度は±Δzの範囲にある。このように、本発明の振幅変調型グレーティング光導波路には、グレーティングの振幅の包絡線の勾配の符号が反転し、その結果、ピッチが離散的に変化する座標点が存在する。
離散化したグレーティングピッチは、Δzに依存して決まるΔPにより、P±NΔPとして表すことが可能であり、Nは逆散乱問題を解く際の離散化パラメータに係る整数である。
【0071】
ピッチの離散的変化は、チャープトブラッググレーティングには見られない特徴である。チャープトブラッググレーティングでは、ピッチは光導波方向に沿って連続的に変化する。チャープトブラッググレーティングでは、ブラッググレーティングの振幅も同時に変化するが、振幅の変化はアポダイズのような副次的特性の実現に利用されるにとどまり、フィルタの反射スペクトルのチャネル数・位相特性などの主要な特性はブラッググレーティングの周波数を光の導波方向に沿って変化させることによって達成される。ここに開示した手順では、チャープ型グレーティングを構成することはできない。チャープ型グレーティングを構成するには、複素反射スペクトルr(k)から時間応答(インパルス応答)R(z)への変換を複素数型へと切り替える必要がある。その結果、式(17)により得られるポテンシャル分布q(z)は複素数となる。q(z)が複素数であると、q(z)から実効屈折率分布neff(z)を求めるにあたり、neff(z)は実数であるため、q(z)の実部のみをとることが必要である。よって、本発明の振幅変調型グレーティング構造と従来公知のチャープ型グレーティング構造とは設計方法を異にし、互いに異なる範疇に分類される。振幅変調型に相対することから、チャープ型グレーティング構造は、いわば、周波数変調型に分類される。
【0072】
本発明では、他の実施例すべてを含めて、当該の複素反射スペクトルからインパルス応答への変換に用いる演算は実数型とし、振幅変調型ブラッググレーティングを対象とする。振幅変調型ブラッググレーティングを選択するための条件をまとめると、以下の二点となる。
(I) 指定するスペクトル特性の周波数範囲を原点(周波数ゼロ)から該当するスペクトルチャネルの存在する領域まですべてを含める。
(II)上述の複素反射スペクトルからインパルス応答への変換において実数型を選択する。
【0073】
実際の計算手順では、まず、グレーティング光導波路デバイスの全長を決めることにより、zの最大値を特定する。これは、例えば、光分散補償器の場合であれば、補償すべき群遅延分散値とチャネル帯域幅とからグレーティング光導波路で発生すべき群遅延時間の最大値が決まるので、これに真空中の光速度clightを乗じ、さらに実効屈折率の平均値navで除することで、最低限必要となる素子長を決めることが出来る。反射型デバイスとして構成する場合、往復の光路により必要な群遅延時間を得れば良いので、実際の必要素子長は群遅延時間差の最大値から直接求められる素子長の概略半分で良い。素子の全長は、これに一定の余長を追加したものとする。例えば、素子全長を必要素子長の120%とする。
続いて、z座標の離散化の刻みを決める。z軸上で定義される各種分布関数を数値解析で取り扱うには、データを有限長にする(離散化する)ために、z軸上に等間隔に配置された点を選び、z座標を設定する。一例として、設計中心波長λを基準として素子全長を13,200λ、z軸上の離散化刻みΔzをλ/40に設定すると、z0からz528000までの528,000点について光分散補償器のポテンシャル分布q(z)を計算することとなる。
【0074】
複素反射スペクトルr(k)として与えた波長に対する所望の光学特性の一例として、反射率の分布を図17及び図18に示すとおりとし、群遅延特性を図19及び図20としたとき、計算によって求められるポテンシャル分布q(z)の一例を図21及び図22に示す。後述する実施例1のシミュレーション結果によれば、このようにして求められた図21のポテンシャル分布q(z)が達成していると期待される反射率の分布(反射率スペクトル)は、図23、図24、図25及び図26、また群遅延特性(群遅延スペクトル)は、図27、図28、図29及び図30であり、設計インプットとして与えた光学特性をよく再現している。なお、図24、図25、図26、図28、図29及び図30においては、各波長チャネルのうちで分散補償を意図する波長領域である分散補償波長チャネル帯域内を太実線で、分散補償を意図していない領域を点線で示した。
【0075】
複素反射スペクトルr(k)として与える光学特性においては、各波長チャネルにおいて、分散補償を意図する波長領域である分散補償波長チャネル帯域の両側に、分散補償を意図しないが一定の反射率を有する波長領域を付与することが好ましい。例えばこの領域では、一定の群遅延量を有し、かつ、分散補償を意図する波長領域と概略同一の反射率を有するようにする。さらに、各波長チャネルの境界付近、すなわち、ある波長チャネルの「波長分散を補償することを意図していないが一定の反射率を有するように規定した領域」と隣接する波長チャネルの「波長分散を補償することを意図していないが一定の反射率を有するように規定した領域」との間に、反射率を規定しないか、又は原則として透過すると規定した領域を設けても良い。
【0076】
予め求めた光導波路断面構造、具体的にはコア寸法と等価屈折率との関係を元に、逆散乱問題を解いて得られたポテンシャル分布q(z)を実効屈折率neff(z)に換算し、続いて光導波路の光伝搬方向(長手方向)におけるコア寸法分布を算出する。
【0077】
図2(a)〜(c)に示した第1実施形態の光導波路デバイスについて、実効屈折率neffとコア幅wとの対応を求めた結果の一例を図7に示す。この事例では、クラッド材料はシリカ(SiO2)であり、コア材料は窒化ケイ素(Si3N4)である。コアの厚みtは1.4μmとした。この第1実施形態の光導波路構造は偏波依存性を有するため、この事例では、TEモード用のデバイスとして設計した。この図7に示したような実効屈折率neffとコア幅wとの対応関係を得るには、コア幅wの値を変化させて、それぞれの光導波路の断面構造から固有伝搬モードの電磁界分布をモードマッチング法、有限要素法、もしくはビーム伝搬法など各種方法を採用したモードソルバープログラムにより求め、その実効屈折率neffを算出することで求められる。
実効屈折率分布neff(z)と図7のグラフとから、各z座標におけるコア幅wを求めることが出来る。図7より、実効屈折率と光導波路の構造寸法との関係を検討した範囲のおよそ中央を基準にとることによって、参照屈折率(平均実効屈折率)navは例えば1.95とする。また、図8には、コアの厚みtを1.0μmとした場合に求められた実効屈折率neffとコア幅wとの対応を示す。
【0078】
(光導波路の製造工程)
次に、第1実施形態の基板型光導波路の製造工程について説明する。
まず、図4に示すように、コア1の材料となる高屈折率材料層1aを形成する(高屈折率材料層形成工程)。ここでは、支持基板5の上に下部クラッド6を形成した後、下部クラッド6の上に高屈折率材料層1aを形成している。支持基板5は例えばシリコンウエハであり、下部クラッド6は、CVD装置等を用いて適切な厚さで堆積させたSiO2膜である。また、高屈折率材料層1aは、光導波路コアを形成するためのSi3N4膜を、CVD装置等を用いて所望の厚さで堆積させたものである。
【0079】
次に、図4に二点鎖線で示すように、高屈折率材料層1aの上にフォトレジストパターン60を形成する。このフォトレジストパターン60は、設計された光導波路のグレーティング構造2に対応するものである。露光は、ステッパー露光装置を用いて行うことができる。露光に用いる光の波長は、フォトレジストの特性に応じて適宜設定することができ、例えば248nmが挙げられる。フォトレジストパターン60の形成には、バイナリ型のフォトマスクを用いて露光しても良いが、露光装置の性能上その必要がある場合には、レベンソン型位相シフト型フォトマスクを用いて露光するか、またはレベンソン型位相シフト型フォトマスクを用いた露光とバイナリ型フォトマスクを用いた露光とを組み合わせ2段階の露光工程を行うこともできる。露光工程後、フォトレジスト層を現像する現像工程を行う。
現像工程により得られたフォトレジストパターンを用いて高屈折率材料層1aをエッチングするエッチング工程を行い、続いて残留したフォトレジストを除去する工程を行うことにより、図5に示すように、側壁に凸部2b及び凹部2aからなるグレーティング構造2を有するコア1を形成することができる。
さらに、図6に示すように、CVD装置等を用いて適切な厚さで上部クラッド7(例えばSiO2)を堆積させる。コア1上に堆積された上部クラッド7の厚さは、下部クラッド6の上に堆積する上部クラッド7の厚さと異なることがある。必要に応じて、基板5からの高さが揃うように化学機械研磨(CMP)等により平坦化工程を行うこともできる。
【0080】
以上の工程により、コア側壁にグレーティング構造を有する基板型光導波路を製作することが可能である。なお、通常、比屈折率差の大きい基板型光導波路の使用にあたっては、光ファイバとの光学的接続においてモードフィールド径の変換器が必要である。一般的には、上記工程に前後してモードフィールド変換部あるいはスポットサイズ変換部と呼ばれる領域を形成する工程を設け、同一基板上に当該光導波路と光学的に接続するように集積化して形成する。
【0081】
<基板型光導波路部品の第2実施形態>
図9に基板型光導波路部品の第2実施形態の断面図を示す。この実施形態では、光導波路コア側壁にグレーティング構造12を有するとともにコア上部11に溝状グレーティング構造13を有することで、偏波無依存型のデバイスとすることができる。
側壁グレーティング構造12は、コアの幅woutの周期的変化としてコア10の両側壁に形成された凹部12aと凸部12bとから構成されている。凹部12aではコア幅が狭く、凸部12bではコア幅が広い。
コア上部11の溝状グレーティング構造13においては、側壁グレーティング構造12の凸部12bに相当する位置において、コア10を形成する材料が凸状を成し溝状構造13の幅が狭くなっていて、凸部13bとなっている。また、側壁グレーティング構造12の凹部12aに相当する位置において、コア10を形成する材料が凹状を成し溝状構造13の幅が広くなっていて、凹部13aとなっている。つまり、溝状構造13の幅winとしては、凸部13bにおいて溝状構造13の幅winが狭く、凹部13aにおいて溝状構造13の幅winが広いという逆転した関係になっている。
この事例では、コア10をSi3N4膜、クラッド16,17をSiO2膜とし、図11に示す断面においてコアの厚みtoutを1.4μm、コア上部の溝深さtinを0.1μmとしたとき、図10、図11、図12に示すように、実効屈折率neffに対して適切なコア幅woutとコア上部の溝幅winとを求めることにより、偏波無依存型のデバイスを実現することができる。
【0082】
<基板型光導波路部品の第3実施形態>
図13に基板型光導波路部品の第3実施形態の断面図を示す。この基板型光導波路部品20は、光学特性を可変とするための内側コア21,22と、光学特性の偏波依存性の問題を解消するための外側コア24とを備えた二重コア構造を採用している。
この二重コア構造は、基板25上に形成された下部クラッド26上に存在する。内側コア21,22は例えばシリコン(Si)から構成され、外側コア24は例えば窒化ケイ素(Si3N4)から構成される。中央ギャップ23は、高屈折率材料とする必要はなく、シリカ(SiO2)、窒酸化シリコン(SiOxNy)あるいは窒化シリコン(SixNy)等から構成しても良い。組成比x:yは、所望の屈折率が得られるように制御することができる。
複合コアの上部および両側方は、上部クラッド27で覆われている。上部クラッド27および下部クラッド26は、二重コア構造の平均屈折率よりも低い材料から構成され、例えばシリカ(SiO2)から構成される。上部クラッド27の材料と下部クラッド26の材料は、同じでも異なっても構わない。
【0083】
内側コア21,22は、中央ギャップ23を介して2つの部分に分けられ、それぞれがリブ21b,22bとスラブ21a,22aとを有する。内側コア21,22には、不純物元素(ドーパント)のインプラント処理によってP型半導体領域及びN型半導体領域が形成されている。
外側コア24は内側コア21,22の上に配置されている。外側コア24の屈折率は、内側コア21,22の平均屈折率よりも低い。図13には現されていないが、外側コア24の側壁24b及び上面24aの溝状構造24cには、それぞれ図9のコア10と同様な側壁グレーティング構造及び上部溝状グレーティング構造が形成されている。具体的には、外側コア24の幅woutを周期的に変化させた側壁グレーティング構造と、外側コア24の上面24aに形成された溝状構造24cの幅winを周期的に変化させた上部溝状グレーティング構造を備えている。
内側コア21,22は一方がN型シリコン、他方がP型シリコンからなり、金属配線を介して外部の制御回路(図示せず)と接続し、外部から電圧を印加することにより光学特性を可変としている。
【0084】
光導波路断面構造の設計事例として、t1を250nm、t2を50nm、w1を280nm、w2を160nm、toutを600nm、tinを100nmとした場合で算出した実効屈折率neffに対するコア幅woutとコア上部の溝幅winとの関係を図14、図15、図16に示す。この事例では、参照屈折率navは例えば2.348であり、第1及び第2の実施形態と同様にして、グレーティング構造を設計することができる。
【実施例】
【0085】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。
【0086】
(実施例1)
分散シフト光ファイバ(DSF)100kmからなる光ファイバ伝送路のL−bandの波長分散を補償する波長分散補償素子を設計した。
設計中心周波数を188.4THz(すなわち、設計中心波長は1591.255nm)とし、該設計中心周波数・設計中心波長における波長分散補償量を−295ps/nm、分散スロープRDSを0.024/nmとし、分散補償を意図するチャネル帯域(分散補償波長チャネル帯域)及びその両側の分散補償を意図しないが一定の反射率を有する領域における反射率を0.9(反射信号の挿入損失0.5dBに相当。)に設定した。
186.2THz(1610.056nm)の第1チャネルから190.6THz(1572.888nm)の第45チャネルまですべてのチャネルについてチャネルグリッドを100GHzとした。
【0087】
分散スロープRDSに依存して、最も短波長側にある第45チャネルにおいて設定すべき波長分散補償量は−165ps/nmとなり、分散補償に必要となる最大群遅延差が最小の値を取る。このことから、第45チャネルにおいて、分散補償を意図するチャネル帯域を一番広く設定することが可能である。第45チャネルにおいて、分散補償を意図するチャネル帯域を80GHz、分散補償を意図しないが反射率を規定する領域を10GHz(5GHzずつ両側)、反射率を規定しない境界領域を10GHzとした。このとき、第45チャネルにおいては80GHzのチャネル帯域は0.660nmに相当し、80GHzのチャネル帯域全体の分散補償に必要となる最大群遅延差は、109psであった。第45チャネルは80GHzもの広いチャネル帯域を有するので、40Gbpsなどの広い帯域を必要とする高速な信号を伝送可能である。
一方、最も長波長側にある第1チャネルにおいては、設定すべき波長分散補償量は−428ps/nmとなり、80GHzのチャネル帯域は0.692nmに相当する。このことから、チャネル帯域を第45チャネルと同一の80GHzにした場合に分散補償に必要となる最大群遅延差は、296psということになる。よって、第1チャネルにおいても第45チャネルと同じ109psを最大群遅延差とした場合には、第1チャネルの帯域は第45チャネルの帯域に対して約37%となる30GHzしか割り当てることができない。しかしながら、最も長波長側にある第1チャネルにおいても30GHzのチャネル帯域を割り当てることができれば、例えば10Gbpsの信号の伝送には十分な広さである。このようにして、各チャネルについて、第45チャネルの最大群遅延差である109psを基準とし、当該チャネルにおける所望の分散補償量の大きさ、すなわち、ps/nmを単位として表した分散補償量の設定値の絶対値と、nmを単位として表したチャネル帯域幅の設定値との積が、109psとなるように、各チャネルのチャネル帯域を決める。例えば、上述の第1チャネルの場合、nmを単位として表したチャネル帯域幅の設定値は、109psを428ps/nmで除することにより約0.255nmと求められ、約30GHz(より詳しくは29.5GHz)に相当する。
【0088】
このようにして各チャネルにおいて分散補償を意図するチャネル帯域の帯域幅を決定して群遅延スペクトルを設計し、反射率スペクトルとともに設計入力パラメータ(インプット)とする。この実施例では、図17及び図18に示す反射率スペクトルと、図19及び図20に示す群遅延スペクトルを設計し、これを複素反射スペクトルr(k)として与えた。
なお、本実施例では、図17及び図18に示す反射率スペクトルにおいて、反射率を0.9とする領域(分散補償を意図するチャネル帯域及びその両側の分散補償を意図しないが一定の反射率を有する領域の合計)の帯域幅が一定となるようにしているので、波長が短くなる(周波数が大きくなる)に従って分散補償を意図するチャネル帯域が広くなっていく様子は、図19及び図20に示す群遅延スペクトルから理解することができる。また、図19及び図20によれば、各チャネルの最大群遅延差が略同一であることも理解することができる。
【0089】
この素子では、最大群遅延差としては109psを要することから、必要素子長としては11000λ程度である。別途実施した検討から、必要素子長に対し20%程度の余長を付加するのが適切であることがわかっているため、11000λに対して120%となる13200λの素子長でポテンシャル分布q(z)を求めた。離散化刻みをλ/40としたので、z軸上の点数は528000である。このようにして設計したポテンシャル分布q(z)を図21及び図22に示す。
図21及び図22のポテンシャル分布が達成している光学特性を計算した結果を、図23、図24、図25及び図26の反射率スペクトルと、図27、図28、図29及び図30の群遅延スペクトルに示す。なお、図24、図25、図26、図28、図29及び図30においては、各波長チャネルのうちで分散補償を意図する波長領域である分散補償波長チャネル帯域内を太実線で示しており、設計インプットを良く再現した設計結果が得られていることが分かる。
本実施例は、13200λの素子長で設計したので、navが1.95である実施形態であれば11mm、navが2.348である実施形態であれば9mmでこの波長分散補償素子が実現できる。
以上の結果から、DSF100kmからなる光ファイバ伝送路について、L−bandにおいて45チャネルの多数のチャネルの波長分散及び分散スロープを一括して補償することが可能であり、サーキュレータとともに用いることでインラインでの分散補償に用いることができ、30GHzから80GHzまでの異なるチャネル帯域を有する小型の波長分散補償素子を設計することができた。45チャネルのうち、一部のチャネルは広帯域であり40Gbpsなどの高速な信号を伝送可能であり、残りのチャネルも10Gbpsの信号を十分伝送可能である。
【0090】
(実施例2)
分散シフト光ファイバ(DSF)200kmからなる光ファイバ伝送路のL−bandの波長分散を補償する波長分散補償素子を設計した。
実施例2では、実施例1を若干変更して、設計中心周波数188.4THz(すなわち、設計中心波長は1591.255nm)における波長分散補償量を実施例1の2倍の、−590ps/nmとした。
【0091】
分散スロープRDSを実施例1と同一にしたため、第45チャネルにおいて設定すべき波長分散補償量は−330ps/nmとなり、80GHzのチャネル帯域全体の分散補償に必要となる最大群遅延差は、218psであった。各チャネルについて、当該チャネルにおける所望の分散補償量の大きさ、すなわち、ps/nmを単位として表した分散補償量の設定値の絶対値と、nmを単位として表したチャネル帯域幅の設定値との積が、218psとなるように、各チャネルのチャネル帯域を決めた。各チャネルの帯域は実施例1とそれぞれ同一であり、第1チャネルの帯域は約30GHzである。他のパラメータは実施例1と同様とした。
【0092】
これらの諸光学特性を設計インプットとして、図31及び図32に示す反射率スペクトルと、図33及び図34に示す群遅延スペクトルとを設計し、これを複素反射スペクトルr(k)として与えた。
なお、本実施例では、図31及び図32に示す反射率スペクトルにおいて、反射率を0.9とする領域(分散補償を意図するチャネル帯域及びその両側の分散補償を意図しないが一定の反射率を有する領域の合計)の帯域幅が一定となるようにしているので、波長が短くなる(周波数が大きくなる)に従って分散補償を意図するチャネル帯域が広くなっていく様子は、図33及び図34に示す群遅延スペクトルから理解することができる。また、図33及び図34によれば、各チャネルの最大群遅延差が略同一であることも理解することができる。
【0093】
この素子では、最大群遅延差としては218psを要することから、必要素子長を22000λと考え、余長を付加し120%となる26400λの素子長でポテンシャル分布q(z)を求めた。離散化刻みをλ/40としたので、z軸上の点数は1056000である。このようにして設計したポテンシャル分布q(z)を図35及び図36に示す。
図35及び図36のポテンシャル分布が達成している光学特性を計算した結果を、図37、図38、図39及び図40の反射率スペクトルと、図41、図42、図43及び図44の群遅延スペクトルに示す。なお、図38、図39、図40、図42、図43及び図44において、太実線が分散補償を意図するチャネル帯域内を示しており、設計インプットを良く再現した設計結果が得られていることが分かる。
本実施例は、26400λの素子長で設計したので、navが1.95である実施形態であれば22mm、navが2.348である実施形態であれば18mmでこの波長分散補償素子が実現できる。
以上の結果から、DSF200kmからなる光ファイバ伝送路について、L−bandにおいて45チャネルの多数のチャネルの波長分散及び分散スロープを一括して補償することが可能であり、サーキュレータとともに用いることでインラインでの分散補償に用いることができ、30GHzから80GHzまでの異なるチャネル帯域を有する小型の波長分散補償素子を設計することができた。45チャネルのうち、一部のチャネルは広帯域であり40Gbpsなどの高速な信号を伝送可能であり、残りのチャネルも10Gbpsの信号を十分伝送可能である。
【0094】
(比較例1)
チャネル帯域幅をすべてのチャネルで一定として光分散補償素子を設計した比較例1として、分散シフト光ファイバ(DSF)100kmからなる光ファイバ伝送路のL−bandの波長分散を補償する波長分散補償素子を設計した。
設計中心周波数188.4THz(すなわち、設計中心波長は1591.255nm)における波長分散補償量を−295ps/nm、分散スロープRDSを0.024/nmとし、分散補償を意図するチャネル帯域(分散補償波長チャネル帯域)及びその両側の分散補償を意図しないが一定の反射率を有する領域における反射率を0.9(反射信号の挿入損失0.5dBに相当。)に設定した。
186.2THz(1610.056nm)の第1チャネルから190.6THz(1572.888nm)の第45チャネルまですべてのチャネルについてチャネルグリッドを100GHz、分散補償を意図するチャネル帯域を80GHz、分散補償を意図しないが反射率を規定する領域を10GHz(5GHzずつ両側)、反射率を規定しない境界領域を10GHzとした。
これらの諸光学特性を設計インプットとして、図45及び図46に示す反射率スペクトルと、図47及び図48に示す群遅延スペクトルを設計し、これを複素反射スペクトルr(k)として与えた。
【0095】
この素子では、最大群遅延差としては296psを要することから、必要素子長を28000λと考え、余長を付加し120%となる33600λの素子長でポテンシャル分布q(z)を求めた。離散化刻みをλ/40としたので、z軸上の点数は1344000である。このようにして設計したポテンシャル分布q(z)を図49及び図50に示す。
図49及び図50のポテンシャル分布が達成している光学特性を計算した結果を、図51、図52、図53及び図54の反射率スペクトルと、図55、図56、図57及び図58の群遅延スペクトルに示す。なお、図52、図53、図54、図56、図57及び図58においては、各波長チャネルのうちで分散補償を意図する波長領域である分散補償波長チャネル帯域内を太実線で示しており、設計インプットを良く再現した設計結果が得られていることが分かる。
本比較例では、光ファイバ伝送路の長さ、設計中心周波数における波長分散補償量、分散スロープRDS及びチャネル数が実施例1と同じ場合に、すべてのチャネル帯域幅を一定にした条件で波長分散補償素子を実現するため、33600λの素子長で設計した。navが1.95である実施形態であれば28mm、navが2.348である実施形態でも23mmもの素子長が必要になる。
以上の結果から、DSF100kmからなる光ファイバ伝送路について、L−bandにおいて45チャネルの多数のチャネルの波長分散及び分散スロープを一括して補償するにあたり、本比較例では、実施例1の2.5倍もの素子長が必要であることがわかった。
【符号の説明】
【0096】
1,10…コア、1a…高屈折率材料層、2,12…側壁グレーティング構造、2a,12a…凹部、2b,12b…凸部、13…溝状グレーティング構造、13a…凹部、13b…凸部、3,11…上面、4,14…底面、5,15,25…基板(支持基板)、6,16,26…下部クラッド、7,17,27…上部クラッド、20…基板型光導波路デバイス、21,22…内側コア、21a,22a…スラブ、21b,22b…リブ、23…中央ギャップ、24…外側コア、24a…上面、24b…側壁、24c…溝状構造、60…側壁用のフォトレジストパターン。
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ通信システムにおいて伝送路である光ファイバの波長分散を補償するために用いられる光分散補償素子及びその設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光ファイバ通信システムの発展、特にエルビウム添加光ファイバ増幅器(EDFA)と高密度波長多重通信システム(DWDM)の発明により、光ファイバ通信網で伝送される情報量が急速に増大している。さらなるデータ容量の増加に備え、時分割多重変調方式の高速化、多重する波長数の増加や周波数利用効率の高い変調方式などについて研究開発が進められている。
【0003】
光ファイバ伝送路には、屈折率の波長依存性すなわち波長分散があり、これにより変調した信号光を伝送した時に群遅延が生じる。光ファイバ通信システムでは、通常、群遅延の波長依存性を波長分散と呼称している。変調速度を高速化すると、1チャネルの信号伝送に必要とされる帯域幅が拡がり、また伝送される信号の各ビットの時間間隔が狭まることから、光ファイバ伝送路の波長分散の影響による信号波形の劣化が著しいものとなる。このため、高速通信では光波長分散補償器を用いることが必須となる。
【0004】
一方、情報通信システムの規模及び設置数量の急速な拡大に伴って、コンピュータシステムやハイエンドルータなどの消費する膨大な電力が経済性のみならず環境影響の観点からも問題視されるようになりつつあり、省電力化し環境負荷を低減するグリーンICT(Information and Communication Technology)が必要とされている。ルータ等各種伝送装置を小型化することが出来れば、データセンターや通信キャリア局舎への装置収容効率が改善され、空間利用効率が良くなるばかりでなく、当該データセンターあるいは通信キャリア局舎のエアコン電力を大きく削減することが可能となり、省エネに貢献する。よって、各種光伝送装置に用いられる光部品についても、省電力化と小型化とが求められている。
【0005】
従来、光波長分散補償には、伝送路用光ファイバとは波長分散の符号の正負が逆転した光学特性を有する波長分散補償用光ファイバを用いた分散補償光ファイバモジュールが一般的に用いられている。分散補償光ファイバモジュールは、長距離の波長分散補償用光ファイバをボビンに巻いたモジュールが大型であることや、補償距離に比例して挿入損失が増大することなどの欠点があるため、その代替として、より小型で挿入損失の小さい光部品型の分散補償器が要望されていた。
分散補償光ファイバモジュールは、通信波長帯域の全体を補償しようとするものであって、その群遅延スペクトルは連続的であり、いずれの波長を波長チャネルとして利用するかについての制限はない。また、各波長チャネルにおいて利用可能なチャネル帯域幅についての制限もない。ただし、波長分散補償用光ファイバでは、各種光学特性のバランスを勘案してその設計を決めるために、必ずしも補償対象とする伝送路用光ファイバの分散スロープを完全に補償できるような光学特性とすることはできず、通常は波長チャネルによって分散補償残差が生じることとなる。近年、ROADM(Reconfigurable Optical Add/Drop Multiplexer)装置などの普及により、分散補償残差の累積が問題視されるようになっている。実際に分散補償光ファイバモジュールで補償可能な波長範囲は、分散補償残差の累積に対するトレランスによって制約を受ける。
【0006】
チャープトFBG(Fiber Bragg Grating)など、単チャネル用の光部品型の光波長分散補償器では、その単一のチャネルの一定の帯域内において所望の補償特性を高い精度で達成することが可能であり、また、光学特性を可変とすることもできる。しかしながら、DWDMですべての波長チャネルを一括して補償することができないため、インライン型の光波長分散補償器として使用することはできない。これらは、通常は、受信器の前段に配置される。また、1チャネルに1個必要となるため、高価である。合分波器と組み合わせてインライン型として用いることも技術的には可能であるが、さらに高価となる。
【0007】
VIPA型又はエタロンを用いた光分散補償器や、AWG又はMZIを用いたPLC型の光分散補償器などの中には、FSR(Free Spectral Range)と呼ばれる一定の周波数間隔で生じる光学特性の周期性を利用して、複数の波長チャネルの波長分散を一括して補償できるものがある。この場合、波長チャネル間隔とFSRとは一致している必要があるため、1個の光分散補償器を用いて一括して補償可能な波長帯域では、波長チャネル間隔は単一であり、波長チャネル帯域幅すなわち各波長チャネルにおいて波長分散が適切に補償され光信号伝送に利用可能な帯域幅は概略同一とされる。DWDMにおいて利用される波長チャネルは、ITU−T G.694.1 Spectral grids for WDW applications: DWDM frequency grid(06/2002)に規定されており、12.5GHz間隔、25GHz間隔、50GHz間隔及び100GHz間隔について記載がある。100GHzを超える間隔で用いる場合には、100GHz間隔で用いる波長(周波数)から選択して用いる。一般的には、C−band及びL−bandの多数の波長チャネルの信号を波長多重して1本の光ファイバで伝送するシステムにおいて、C−band用の光分散補償器を1個と、L−band用の光分散補償器を1個用いることにより、2つの波長帯域に分けて扱う。これら一定の周波数間隔で複数の波長チャネルの波長分散を一括して補償する光分散補償器においては、ITU−T G.694.1に規定された周波数グリッドに対応する波長、すなわちDWDMにおいて光信号の伝送を意図する波長である複数の波長の波長チャネルのそれぞれにおいて、例えば50GHzといった所定のチャネル帯域幅の範囲で分散補償できるように群遅延スペクトルが設定されている。つまり、分散補償光ファイバモジュールとは異なり、その群遅延スペクトルは分散補償を意図する所望の群遅延時間を有する複数の分散補償波長チャネル帯域に分割されており、そのようなチャネル帯域の範囲外となる分散補償を意図しない波長範囲においては群遅延特性は規定されない。
これらの光分散補償器は、分散スロープ補償まで含めて所望の光学特性とすることは困難であり、インライン型として用いた場合には、チャネルによっては大きな分散補償残差が生じる。光学特性を可変する機能を有するものが多く、単チャネル用としても多用される。
【0008】
特許文献1には、逆散乱問題解法を用いて設計した、離散化した複数のグレーティングピッチと不均一かつ非チャープ型のグレーティング振幅を有するグレーティング構造からなる基板型光導波路で実現した光分散補償器が開示されている。この光分散補償器は、所望の光学特性を設計インプットとし、逆散乱問題解法を用いてグレーティング構造を設計することから、分散補償残差が無いようにして複数チャネルを一括して補償するインライン型光波長分散補償器を設計し、実現することが可能である。
【0009】
なお、DWDMでは、多数の波長チャネルを同時に使用するが、初期投資を抑制し当初は使用チャネル数を少なくしておき、需要の増加とともに使用チャネル数を追加していくというようなことが行われる。このとき、例えば多くの波長チャネルでは高速かつ比較的安価な10Gbpsの伝送装置が用いられ、一部の波長チャネルでのみ、超高速であるが高価な40Gbpsの伝送装置が用いられるというように、異なる通信速度が混在して使用されることがある。例えば、特許文献2や特許文献3には、10Gbpsなどの低速チャネルと40Gbpsの高速チャネルとを混在させて使用する光ファイバ通信システムの事例及び該システムにおける波長分散補償に関する問題について開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2009/107798号
【特許文献2】特開2009−094979号公報
【特許文献3】特開2009−232101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
光ファイバ通信網の伝送容量を増大させようとする時、2.5Gbpsから10Gbps、40Gbps、100Gbpsへと時分割多重変調方式の変調速度を向上させる場合には、1波長チャネル当りの必要帯域幅が変調速度によって広くなっていく。
ところで、一般に光分散補償器は、分散補償量に応じた光路長を要するデバイスであることから、大きな分散量を補償しようとする場合、また広い帯域について補償しようとする場合に、長い素子長が必要となる。例えば、同一のチャネル帯域を補償する場合に、200ps/nmを補償する光分散補償器は100ps/nmを補償する光分散補償器の2倍の光路長を必要とする。また、同じ100ps/nmの波長分散を補償しようとする時、1.6nmのチャネル帯域を有する光分散補償器は0.8nmのチャネル帯域を有する光分散補償器の2倍の光路長を必要とする。2倍の光路長を必要とする場合、一般には素子内の光分散補償部の寸法が2倍必要になる。
よって、ある決められた寸法の光分散補償器でチャネル帯域を2倍、4倍に拡張しようとすると、補償可能な分散量は1/2、1/4に減少してしまうことになる。同一の分散補償量を保持したままチャネル帯域を2倍、4倍に拡張しようとすると、光分散補償素子の寸法も略2倍、略4倍に増大してしまう。しかし、一方では、上述したように小型な光分散補償器が要望されている。
このような、小型であり、広いチャネル帯域で分散を補償するという相反する要求を同時に解決し、インライン型として用いて複数の波長チャネルの波長分散を一括して補償することが可能であり、分散補償残差が小さく、安価な光波長分散補償用部品が求められていた。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、光ファイバ伝送路にインライン型としても設置可能で、複数の波長チャネルを一括して補償し、各波長チャネルの分散補償残差をより小さくすることが可能な小型の光分散補償素子及びその設計方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため、本発明は、高密度波長多重通信システムの光ファイバ伝送路の波長分散及び分散スロープを補償する光分散補償素子であって、光分散補償素子の群遅延スペクトルは、該システムにおいて光信号の伝送を意図する波長である複数の波長チャネルのそれぞれにおいて所定のチャネル帯域幅の範囲で分散補償を意図する群遅延時間を有する複数の分散補償波長チャネル帯域に分割され、前記複数の分散補償波長チャネル帯域は、チャネル帯域幅がそれぞれ異なり、かつ、前記複数の分散補償波長チャネル帯域は、ps/nmを単位として表した分散補償量と、nmを単位として表したチャネル帯域幅との積が、略同一であることを特徴とする光分散補償素子を提供する。
本発明の光分散補償素子においては、前記複数の分散補償波長チャネル帯域は、前記光ファイバ伝送路の群遅延の波長分散が零となる零分散波長より長波長側であって、かつ前記光ファイバ伝送路の群遅延の波長分散が正となる波長領域に位置し、前記複数の分散補償波長チャネル帯域は、前記チャネル帯域幅が、長波長側の波長チャネルにおいて狭くなっており、波長が短くなるに従って広くなっていく構成とすることも可能である。
該光分散補償素子は、グレーティング構造を有するコアが基板上に形成された基板型光導波路であることも可能である。
【0014】
前記課題を解決するため、本発明は、高密度波長多重通信システムの光ファイバ伝送路の波長分散及び分散スロープを補償する光分散補償素子の設計方法であって、該光分散補償素子は、グレーティング構造を有するコアを備えた光導波路からなり、前記グレーティング構造は、前記コアの断面寸法が前記光導波路の導波方向に沿って変化することにより構成され、該設計方法は、コアの断面寸法を変化させた際の光導波路の断面構造と実効屈折率との関係を求める光導波路断面構造設計工程と、設計入力パラメータとして波長分散、分散スロープ及び反射率を指定して所定の複素反射率スペクトルを算出した後、逆散乱問題解法によって前記複素反射率スペクトルを実現するための前記光導波路の導波方向に沿った実効屈折率分布を求めるグレーティングパターン設計工程と、前記光導波路断面構造設計工程で求めた前記断面構造と実効屈折率との関係に基づいて、前記グレーティングパターン設計工程で求めた前記実効屈折率分布を、前記断面構造の前記光導波路の導波方向に沿った分布に変換することにより、該断面構造の分布からなるグレーティング構造を求めるグレーティング構造設計工程と、を有し、前記設計入力パラメータとして入力する波長分散、分散スロープ及び反射率を、該システムにおいて光信号の伝送を意図する波長である複数の波長チャネルのそれぞれにおいて所定のチャネル帯域幅の範囲で分散補償を意図する群遅延時間を有する複数の分散補償波長チャネル帯域に分割し、前記複数の分散補償波長チャネル帯域は、チャネル帯域幅がそれぞれ異なり、かつ、前記複数の分散補償波長チャネル帯域を、ps/nmを単位として表した分散補償量の設定値と、nmを単位として表したチャネル帯域幅の設定値との積が、略同一となるように設定することを特徴とする光分散補償素子の設計方法を提供する。
本発明の光分散補償素子の設計方法においては、前記複数の分散補償波長チャネル帯域を、前記光ファイバ伝送路の群遅延の波長分散が零となる零分散波長より長波長側であって、かつ前記光ファイバ伝送路の群遅延の波長分散が正となる波長領域において、設定し、かつ、前記チャネル帯域幅を、長波長側の波長チャネルにおいて狭く設定し、波長が短くなるに従って広く設定していくことも可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、光分散補償素子の群遅延スペクトルは、該システムにおいて光信号の伝送を意図する波長である複数の波長チャネルのそれぞれにおいて所定のチャネル帯域幅の範囲で分散補償を意図する群遅延時間を有する複数の分散補償波長チャネル帯域に分割され、前記複数の分散補償波長チャネル帯域は、ps/nmを単位として表した分散補償量と、nmを単位として表したチャネル帯域幅との積が、略同一であることから、素子寸法が過剰に大きくなることを抑止でき、小型かつ安価な光分散補償素子を提供することができる。
分散補償量を大きく設定する必要のある長波長側のチャネルではチャネル帯域を必要最小限とし、他のチャネルよりも狭い帯域に設定し、分散補償量の設定が小さくても良い短波長側のチャネルでは、代わりにチャネル帯域を広く設定して、中間のチャネルにおいては、長波長側から短波長側に向かって各チャネルの設定分散補償量が小さくなるのに応じて、チャネル帯域を徐々に広く設定していったことから、各チャネルの設定分散補償量に対応した、可能な限り広いチャネル帯域幅で光ファイバ伝送路の波長分散を補償するものであるような特性を有し、必要とするチャネル帯域幅の異なる複数の変調速度または変調方式に適切に対応して、光ファイバ伝送路にインライン型としても設置可能で、複数の波長チャネルを一括して補償することができ、各波長チャネルの分散補償残差をより小さくすることができる。
所望の光学特性を設計インプットとして与え、逆散乱問題解法を用いてグレーティング構造を設計することにより、離散化した複数のグレーティングピッチと不均一かつ非チャープ型のグレーティング振幅を有する光導波路部品として、光分散補償素子を実現することができる。
前記複数の分散補償波長チャネル帯域は、光ファイバ伝送路の零分散波長より長波長側であって、かつ光ファイバ伝送路の群遅延の波長分散が正となる波長領域に位置する場合、チャネル帯域幅が、長波長側の波長チャネルにおいて狭くなっており、波長が短くなるに従って広くなっていくように設定すると、そのように配置しなかった場合と比べて、光分散補償素子をより小さく構成することができる。
基板型光導波路部品として構成した場合には、より小型な光部品として光分散補償素子を実現可能であり、データセンターや通信キャリア局舎の装置収容効率を向上させ、空調電力を削減し省エネに貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の光分散補償素子において、挿入損失スペクトル及び群遅延スペクトルの一例を示す模式図である。
【図2】(a)は基板型光導波路部品の第1実施形態を示すコアの部分斜視図、(b)はコアの部分上面図、(c)は基板型光導波路部品の断面図である。
【図3】基板型光導波路部品と光伝送路とを接続した形態の一例を示す説明図である。
【図4】第1実施形態の基板型光導波路部品の製造工程を示す部分斜視図である。
【図5】第1実施形態の基板型光導波路部品の製造工程を示す部分斜視図である。
【図6】第1実施形態の基板型光導波路部品の製造工程を示す部分斜視図である。
【図7】第1実施形態におけるコアの幅wに対する実効屈折率neffの変化の一例を示すグラフである。
【図8】第1実施形態におけるコアの幅wに対する実効屈折率neffの変化の別の例を示すグラフである。
【図9】基板型光導波路部品の第2実施形態を示す部分斜視図である。
【図10】第2実施形態におけるwinに対するneffの変化の一例を示すグラフである。
【図11】第2実施形態におけるwinの変化に伴うwoutの変化の一例を示すグラフである。
【図12】第2実施形態におけるneffに対するwinおよびwoutの変化を示すグラフである。
【図13】基板型光導波路部品の第3実施形態を示す断面図である。
【図14】第3実施形態におけるwinに対するneffの変化の一例を示すグラフである。
【図15】第3実施形態におけるwinの変化に伴うwoutの変化の一例を示すグラフである。
【図16】第3実施形態におけるneffに対するwinおよびwoutの変化を示すグラフである。
【図17】実施例1の反射率スペクトルの一例を示すグラフである。
【図18】図17の一部を拡大して示すグラフである。
【図19】実施例1の群遅延スペクトルの一例を示すグラフである。
【図20】図19の一部を拡大して示すグラフである。
【図21】実施例1のポテンシャル分布の一例を示すグラフである。
【図22】図21の一部を拡大して示すグラフである。
【図23】図21に示す実施例1のポテンシャル分布から求めた反射率スペクトルを示すグラフである。
【図24】図23の一部を拡大して示すグラフである。
【図25】図23の一部を拡大して示すグラフである。
【図26】図23の一部を拡大して示すグラフである。
【図27】図21に示す実施例1のポテンシャル分布から求めた群遅延スペクトルを示すグラフである。
【図28】図27の一部を拡大して示すグラフである。
【図29】図27の一部を拡大して示すグラフである。
【図30】図27の一部を拡大して示すグラフである。
【図31】実施例2の反射率スペクトルの一例を示すグラフである。
【図32】図31の一部を拡大して示すグラフである。
【図33】実施例2の群遅延スペクトルの一例を示すグラフである。
【図34】図33の一部を拡大して示すグラフである。
【図35】実施例2のポテンシャル分布の一例を示すグラフである。
【図36】図35の一部を拡大して示すグラフである。
【図37】図35に示す実施例2のポテンシャル分布から求めた反射率スペクトルを示すグラフである。
【図38】図37の一部を拡大して示すグラフである。
【図39】図37の一部を拡大して示すグラフである。
【図40】図37の一部を拡大して示すグラフである。
【図41】図35に示す実施例2のポテンシャル分布から求めた群遅延スペクトルを示すグラフである。
【図42】図41の一部を拡大して示すグラフである。
【図43】図41の一部を拡大して示すグラフである。
【図44】図41の一部を拡大して示すグラフである。
【図45】比較例1の反射率スペクトルの一例を示すグラフである。
【図46】図45の一部を拡大して示すグラフである。
【図47】比較例1の群遅延スペクトルの一例を示すグラフである。
【図48】図47の一部を拡大して示すグラフである。
【図49】比較例1のポテンシャル分布の一例を示すグラフである。
【図50】図49の一部を拡大して示すグラフである。
【図51】図49に示す比較例1のポテンシャル分布から求めた反射率スペクトルを示すグラフである。
【図52】図51の一部を拡大して示すグラフである。
【図53】図51の一部を拡大して示すグラフである。
【図54】図51の一部を拡大して示すグラフである。
【図55】図49に示す比較例1のポテンシャル分布から求めた群遅延スペクトルを示すグラフである。
【図56】図55の一部を拡大して示すグラフである。
【図57】図55の一部を拡大して示すグラフである。
【図58】図55の一部を拡大して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、好適な実施の形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
図1に、本発明の光分散補償素子において、複数の波長チャネルのそれぞれにおいて、分散補償波長チャネル帯域のチャネル帯域幅が異なり、ps/nmを単位として表した分散補償量と、nmを単位として表したチャネル帯域幅との積が、略同一である場合の挿入損失スペクトル及び群遅延スペクトルの一例を示す。図1に示す群遅延スペクトルにおいては、それぞれの分散補償波長チャネル帯域の所定のチャネル帯域幅A乃至Fの範囲で分散補償を意図する群遅延時間を有する複数の分散補償波長チャネル帯域が、高密度波長多重通信システムの光信号の伝送を意図する波長である複数の波長チャネルに応じて分割されている。また、複数の分散補償波長チャネル帯域は、チャネル帯域幅がそれぞれ異なっている。
光分散補償素子の各分散補償波長チャネル帯域は、光ファイバ伝送路により伝送される信号が当該波長チャネルにおいて光ファイバ伝送路の波長分散(群遅延量)及び分散スロープから受けた影響を補償するために必要な群遅延時間を有する。
【0018】
分散補償を意図する群遅延時間を有する波長領域、すなわち各分散補償波長チャネル帯域は、群遅延量(単位はps)が傾斜して波長依存性のある領域であり、図1では、A、B、C、D、EまたはFとして示す。各波長チャネルにおける分散補償波長チャネル帯域内の群遅延量の傾斜は、群遅延の波長依存性(単位はps/nm)を表し、波長分散補償量に相当する。分散補償を意図する波長領域がさらに分散スロープを補償するための波長依存性(単位はps/nm2)を含んでいても良い。この場合は、波長チャネル同士で、少しずつ群遅延量が変化していてもよい。
【0019】
分散補償を意図しない波長領域は、図1の隣接するチャネル帯域幅AとBの間、BとCの間、CとDの間などにそれぞれ存在する。これにより、各分散補償波長チャネル帯域の群遅延スペクトルは不連続となり、相互に分離される。分散補償を意図しない波長領域では、群遅延量が波長にかかわらず一定である波長領域や、群遅延量の波長依存性が不定である波長領域や、挿入損失が大きく出力が得られない波長領域を含んでいても良い。ここで、挿入損失とは、素子が反射型である場合には反射光の挿入損失であり、挿入損失が大きい波長領域とは、反射率が小さく、当該波長の光を透過させる領域であっても良い。
各波長チャネルにおいて、分散補償を意図する波長領域の両側に、分散補償を意図しないが一定の小さい挿入損失を有する波長領域を付与することが好ましい。例えば、図1では、分散補償を意図する波長領域において挿入損失を一定とするのみならず、分散補償を意図する波長領域の両側に、分散補償を意図する波長領域におけるのと概略同一の挿入損失を有する波長領域を有する。つまり、挿入損失を小さく設定した波長領域は、分散補償を意図して群遅延を設定した波長領域A乃至Fに比べて、帯域幅が広くされている。これにより、分散補償を意図する波長領域A乃至F内に挿入損失が増大した部分が発生することを抑制できる。この、分散補償を意図しないが挿入損失を小さく設定した波長領域では、群遅延量が波長にかかわらず一定であっても良い。
なお、図1は、各波長チャネルの群遅延量(単位はps)は各分散補償波長チャネル帯域内での群遅延量の傾斜を説明するものであり、ある波長チャネルと別の波長チャネルとの間の群遅延量の関係を示すものではない。
【0020】
図1に示す複数の波長チャネルは、より狭いチャネル帯域幅Aを有する分散補償波長チャネル帯域から、より広いチャネル帯域幅Fを有する分散補償波長チャネル帯域まで、それぞれの波長チャネルにおいて光信号の伝送を意図する波長に応じて、チャネル帯域幅が徐々に変化している。
【0021】
このように、光分散補償素子が、各波長チャネルに対応して、分散補償を意図する波長領域である分散補償波長チャネル帯域と分散補償を意図しない波長領域とによって構成されるとともに、複数の分散補償波長チャネル帯域は、チャネル帯域幅がそれぞれ異なっていることにより、必要とするチャネル帯域幅の異なる2種類以上の変調速度または変調方式に適切に対応して、光ファイバ伝送路にインライン型としても設置可能で、複数の波長チャネルを一括して補償することができ、各波長チャネルの分散補償残差をより小さくすることができる。
【0022】
また、特許文献3の段落0032には、10Gb/sの波長チャネルと40Gb/sの波長チャネルとを混載するときに、伝送速度の違いによらず、チャネル間隔を一定に設定することが記載されている。本発明の後述する実施例においても、チャネル間隔(チャネルグリッド)を一定に設定しているが、本発明においてはチャネル間隔は任意に設定可能である。例えば、分散補償波長チャネル帯域の帯域幅が狭い複数の波長チャネルを第1の群とし、分散補償波長チャネル帯域の帯域幅が広い複数の波長チャネルを第2の群としたとき、第1の群のチャネル間隔を、第2の群のチャネル間隔よりも狭く設定すると、第2の群では、広い帯域幅に対応するために必要なチャネル間隔を確保しつつ、第1の群では、より多くの波長チャネルを配置することができる。
【0023】
分散補償波長チャネル帯域Aから分散補償波長チャネル帯域Fのすべてが光ファイバ伝送路の零分散波長(群遅延の波長分散が零となる波長)より長波長側であって、かつ光ファイバ伝送路の群遅延の波長分散Dが正となる波長領域に位置する(すなわち、光ファイバ伝送路の分散スロープSは正であり、S/Dの比で定義されるRDSは正である)場合には、光分散補償素子の波長分散補償量は負となり、長波長側ほど小さい(絶対値としては大きい)波長分散補償量が必要になる。すなわち、光分散補償素子の分散スロープSは負であり、RDSは正である。
【0024】
1つの分散補償波長チャネル帯域に必要な最大の群遅延差(分散補償波長チャネル帯域内の最大群遅延量と最小群遅延量との差)は、分散補償を意図する波長領域の波長帯域幅(単位はnm)と波長分散補償量との積にほぼ相当する。このため、チャネルに要求される周波数帯域幅(単位はGHz)が広いと、波長分散補償量が同程度でも、必要な最大の群遅延差は大きくなる。
例えば、隣接する波長チャネルであり波長分散補償量はほぼ同程度である場合であっても、ある波長チャネルにおいて分散補償を意図する周波数帯域幅(例えば50GHz)が隣接波長チャネルにおいて分散補償を意図する周波数帯域幅(例えば25GHz)の2倍であるとすれば、それらの周波数帯域に対応する波長領域の帯域幅も約2倍となるため、必要となる最大の群遅延差も約2倍となる。
【0025】
また、後述するグレーティング構造においては、最大の群遅延差が大きいほど、必要素子長が大きくなる。
このような条件下では、チャネル帯域幅の広い分散補償波長チャネル帯域では、チャネル帯域幅の狭い分散補償波長チャネル帯域よりも、必要な最大の群遅延差が大きく、さらに、分散スロープに依存して、長波長側ほど必要な最大の群遅延差が大きい。
そこで、絶対値の大きい波長分散補償量を設定する必要のある長波長側の波長チャネルを、例えば、狭いチャネル帯域幅Aを有する分散補償波長チャネル帯域とし、絶対値の小さい波長分散補償量を設定すれば良い短波長側の波長チャネルを、例えば、広いチャネル帯域幅Fを有する分散補償波長チャネル帯域とし、中間の波長チャネルB〜Eにおいては、長波長側から短波長側に向かって各波長チャネルの波長分散補償量が小さくなるのに応じて、チャネル帯域幅を徐々に広く設定して、それぞれ配置することが好ましい。このように配置することによって、最大の群遅延差を略同一とすることが可能となり、光分散補償素子をより小さく構成することができる。
例えば、複数の波長チャネルのそれぞれについて、RDSに応じて変化する分散補償量と反比例するように、分散補償を意図するチャネル帯域幅を設定すると、最大の群遅延差を略同一にすることができる。さらに、伝送に用いるチャネル帯域幅は、分散補償を意図するチャネル帯域幅の範囲内で設定可能である。これにより、上述したように、最も広いチャネル帯域幅を、最も狭いチャネル帯域幅の2〜3倍またはそれ以上とすることもできる。
分散補償量と分散補償を意図するチャネル帯域幅を設定する際、最も短波長側にあるチャネルから最大群遅延差の基準を求めると、最も広いチャネル帯域の帯域幅を最初に決定することができる。その逆に、最も長波長側にあるチャネルから最大群遅延差の基準を求めると、最も狭いチャネル帯域の帯域幅を最初に決定することができる。
また、チャネル数とチャネル間隔を設定してから最大群遅延差及び各チャネル帯域の帯域幅を決定してもよく、その逆に、最大群遅延差及び各チャネル帯域の帯域幅を決定してから、それに収まるようにチャネル数とチャネル間隔を設定しても良い。
【0026】
該光分散補償素子は、グレーティング構造を有するコアが基板上に形成された基板型光導波路からなる基板型光導波路部品として構成した場合には、より小型な光部品として光分散補償素子を実現可能であり、データセンターや通信キャリア局舎の装置収容効率を向上させ、空調電力を削減し省エネに貢献することができる。
【0027】
<基板型光導波路部品の第1実施形態>
図2(a)〜(c)に、本発明の基板型光導波路部品の第1実施形態を模式的に示す。図2(a)は光導波路のコア1の一部の斜視図、図2(b)はコア1の同じ部分の上面図、図2(c)は基板型光導波路部品の断面図である。また、基板型光導波路部品の斜視図を図6に示す。なお、図2(c)においては、コア1の側壁に関して、図2(a)及び図2(b)の凹部2a及び凸部2bの区別なしに、符号2を用いている。
この基板型光導波路部品は、光導波路が基板5上に形成された基板型光導波路部品である。光導波路は、基板5上に形成された下部クラッド6と、下部クラッド6上に形成されたコア1と、コア1および下部クラッド6の上に形成された上部クラッド7を有する。
また、側壁グレーティング構造2は、コアの幅wの周期的変化としてコア1の両側壁に形成された凹部2aと凸部2bとから構成されている。コア幅wとは、光導波路の長手方向即ち信号光の導波する方向に対して垂直であり、かつ基板に平行である方向におけるコア1の幅を言う。凹部2aではコア幅が狭く、凸部2bではコア幅が広い。
コア1の上面3及び底面4は平坦である。
【0028】
光導波路の長手方向(図2(b)の左右方向)において凹部2aが継続する距離を、凹部の幅と呼ぶ。また、光導波路の長手方向において凸部2bが継続する距離を、凸部の幅と呼ぶ。隣接する凸部と凹部とを一組とし、その凸部の幅と凹部の幅とを加算したものが、その位置におけるグレーティングピッチである。
【0029】
本実施形態の基板型光導波路部品は、詳しくは後述するが、グレーティングピッチが逆散乱問題を解いた結果として得られる離散化したピッチのいずれかの値をとる。すなわち、本実施形態の基板型光導波路部品は、従来公知の等ピッチグレーティング構造、チャープピッチグレーティング構造、サンプルドグレーティング構造のいずれとも異なる。
図2(b)には、グレーティングピッチが、光導波路の長手方向の位置によってP、P+ΔP、P−ΔPのように異なる値をとることが示されている。また、コア幅wに関しては、図2(b)には左から右に向かってコア幅wが増大する傾向をもつ部分を示している。後述するように、同じ光導波路が、他の部分(図示略)では左から右に向かってコア幅wが減少する傾向をもつ部分を含んでいる。
このように、グレーティングピッチとコア幅とが、逆散乱問題を解いた結果として得られる複雑な変化をしているので、所望の機能性を光導波路に付与することができる。
【0030】
(デバイスの使用例)
図3に、基板型光導波路部品101と光伝送路103,105とを接続した形態100の一例を示す。この基板型光導波路部品101はグレーティング構造を有する反射型デバイスであるため、開始端が光信号の入射端であると同時に出射端となる。図3に示すように、通常はサーキュレータ102を介して入出力光ファイバを接続し、使用する。サーキュレータ102には、入射信号光を伝搬する入射用光ファイバ103と、基板型光導波路部品101と光サーキュレータ102とを接続する結合用光ファイバ104と、出射信号光を伝搬する出射用光ファイバ105が接続されている。
また、基板型光導波路部品101と結合用光ファイバ104とが光接続される箇所には、通常モードフィールド変換部(モードフィールドコンバーター)あるいはスポットサイズ変換部(スポットサイズコンバーター)と呼ばれる入出力変換部を追加すると、結合用光ファイバ104と基板型光導波路部品101との接続損失を低減できるので、好ましい。
【0031】
(デバイスの製造方法)
所望の光学特性が得られるグレーティング構造を有する基板型光導波路部品を得るため、本発明では、該光導波路の光伝搬方向にわたるポテンシャル分布を求め、これを光導波路の光伝搬方向にわたる等価屈折率分布に換算し、光導波路の寸法、より具体的には、コアの断面構造寸法及び長手方向寸法に変換することが好ましい。ポテンシャル分布の算出は、光導波路の前方及び後方に伝搬する電力波振幅なる変数を導入した波動方程式より、例えば光導波路の等価屈折率の対数の微分から導かれるポテンシャルを有するZakharov-Shabat方程式などに帰着させ、グレーティング光導波路の反射率の強度および位相のスペクトルである複素反射スペクトルからポテンシャル関数を数値的に導く逆散乱問題として解き、所望の反射スペクトルを実現するためのポテンシャルを推測する設計法を用いて設計することが出来る。
これにより、従来公知の等ピッチグレーティング素子やチャープピッチグレーティング素子では実現出来ないような複雑な光学特性を有するブラッググレーティング素子を設計し製作することが可能となるため、例えばDWDM光ファイバ通信システムにおいて40チャネル一括で伝送線路光ファイバの波長分散と分散スロープとを同時に補償する光波長分散補償器といったような所望の光学特性を有するデバイスを実現することが出来る。
【0032】
(ポテンシャル分布の設計方法)
所望の複素反射スペクトルから逆散乱問題を用いてポテンシャル分布を設計する手法は以下の通りである。
なお、後述する設計手順中の数式においては、グレーティング光導波路の長手方向、すなわち光伝搬方向をz軸として数式を示す。図2(b)の左右方向がz軸方向である。該グレーティング光導波路デバイスのグレーティング領域開始端をz=0、終了端をz最大値座標とし、z最大値がすなわちグレーティング光導波路部の領域長である。
【0033】
まず、光導波路を伝搬する電磁界を、Sipeの論文(J.E. Sipe, L. Poladian, and C. Martijn de Sterke, “Propagation through nonuniform grating structures,” Journal of the Optical Society of America A, Vol. 11, Issue 4, pp. 1307-1320 (1994))を参照して、次のように定式化する。
【0034】
電磁界の時間変動をexp(−iωt)と仮定すると、該光導波路の光伝搬方向をz軸として、光導波路中の電界の複素振幅E(z)及び磁界の複素振幅H(z)は、マクスウェル方程式(Maxwell's equations)により、次式(1)、(2)となる。
【0035】
【数1】
【0036】
【数2】
【0037】
ただし、E(z)は電界の複素振幅、H(z)は磁界の複素振幅、iは虚数単位、ωは角周波数、μ0は真空の透磁率、ε0は真空の誘電率、neffは光導波路の実効屈折率を表す。
【0038】
式(1)、(2)から結合モード方程式(coupled-mode equations)を構築するため、ここで、次式(3)、(4)のようにE(z)及びH(z)を進行波(前方に伝搬する電力波)振幅A+(z)と後退波(後方に伝搬する電力波)振幅A−(z)に変換する。該デバイスは反射スペクトルとして所望の光学特性を実現する反射型デバイスである。反射波は後退波振幅A−(z)に対応する。
【0039】
【数3】
【0040】
【数4】
【0041】
ただし、navは光導波路の参照屈折率(平均実効屈折率)であり、このnavは、neff(z)の基準となる。これらの変数A+(z)及びA−(z)は、clightを真空中の光速として、次式(5)、(6)を満たす。
【0042】
【数5】
【0043】
【数6】
【0044】
ここで、波数k(z)を次式(7)で表す。ここで、clightは真空中の光速度である。
【0045】
【数7】
【0046】
また、式(8)のq(z)は、結合モード方程式におけるポテンシャル分布である。
【0047】
【数8】
【0048】
式(5)、式(6)のn(z)を式(7)、式(8)のneff(z)と同一視して代入すると、式(5)、式(6)は、式(9)、式(10)に示すZakharov-Shabat方程式に帰着される。
【0049】
【数9】
【0050】
【数10】
【0051】
Zakharov-Shabat方程式で示された逆散乱問題を解くことは、後述するゲルファント−レヴィタン−マルチェンコ方程式(Gel'fand-Levitan-Marchenko type integral equations)を解くことであり、その手順は例えば、Frangosの論文(P.V. Frangos and D.L. Jaggard, “A numerical solution to the Zakharov-Shabat inverse scattering problem,” IEEE Transactions on Antennas and Propagation, Vol. 39, Issue. 1, pp. 74-79 (1991))に開示されている。
また、Xiaoの論文(G. Xiao and K. Yashiro, “An Efficient Algorithm for Solving Zakharov-Shabat Inverse Scattering Problem,” IEEE Transaction on Antennas and Propagation, Vol. 50, Issue 6, pp. 807-811 (2002))には、Zakharov-Shabat方程式の効率的な解法が開示されている。
【0052】
上記のグレーティング構造を有する基板型光導波路部品の光学特性は、光導波路入出力端における複素反射スペクトルr(k)として、次式(11)で定義される。
【0053】
【数11】
【0054】
次式(12)に示すように、r(k)のフーリエ変換はこの系のインパルス応答R(z)である。
【0055】
【数12】
【0056】
複素反射スペクトルr(k)として波長に対する所望の群遅延特性と反射率の分布を与えることにより、これを実現するためのポテンシャル分布関数q(z)を数値的に解くことができる。
本設計では、グレーティングの振幅が変化して位相は振幅に従属して変化するという振幅変調型のグレーティングを用いた設計を行なう。そのため、設計の入力データとして用いる複素反射スペクトルにおいては、グレーティングの振幅の包絡線とグレーティングの振動の位相との分離性を高めるため、周波数の原点(すなわち0Hz)から所定の群遅延時間特性が求められる周波数領域をすべて含める。
【0057】
まず、式(3)及び式(4)の解を次式(13)、(14)のように表す。
【0058】
【数13】
【0059】
【数14】
【0060】
A+(z)及びA−(z)はそれぞれ+z方向及び−z方向に伝搬する。式(13)及び式(14)中の積分項は反射の影響を表している。式(13)及び式(14)から、結合モード方程式が次の式(15)及び式(16)で表されるゲルファント−レヴィタン−マルチェンコ方程式に変換される。
【0061】
【数15】
【0062】
【数16】
【0063】
ここで、正規化時間yはy=clight t (tは時間)であり、z>yである。R(z)は、波数を変数とした複素反射スペクトルr(k)の逆フーリエ変換であり、インパルス応答に相当する。R(z)を与えて式(15)及び式(16)を解くことにより、ポテンシャル分布q(z)が求められ、式(17)で与えられる。
【0064】
【数17】
【0065】
得られたポテンシャル分布q(z)を次式(18)に適用することで、グレーティング光導波路の実効屈折率分布neff(z)が得られる。
【0066】
【数18】
【0067】
本発明では、式(8)及び式(17)のポテンシャル分布q(z)を実数とする。その結果、複素反射スペクトルr(k)からインパルス応答(時間応答)R(z)へと変換するための演算は実数型となり、振幅が変化して位相が振幅に従属して変化する。
【0068】
このようにして得られた実効屈折率分布neff(z)は、高屈折率値と低屈折率値とが短いピッチ(周期)で交互に現れるものであり、グレーティング光導波路構造を示すものとなっている。このグレーティング構造は、光導波路コアの側壁の凹部および凸部におけるコア幅wに対応する、隣接する高屈折率値と低屈折率値との屈折率差が一定ではなく漸次変化する不均一なものとなっており、また屈折率の変化するピッチはある限定された離散値をとるものとなっており、従来公知の等ピッチグレーティング光導波路、チャープピッチグレーティング光導波路、サンプルドグレーティング光導波路のいずれとも一致しない新規な構造を有する。
【0069】
本発明のグレーティング光導波路は、ブラッググレーティングの振幅を変化させてグレーティングパターンを形成するものであり、グレーティングの振幅の包絡線の勾配の符号が反転する振幅変調型である。サンプルドグレーティング光導波路では、符号が反転する二点間で振幅が連続的にゼロになる光導波路領域が介在するという特徴がある。これに対し、本願の振幅変調型グレーティング光導波路では、そのような構造は現れない。符号の反転は孤立した単一の座標点で生じるという階段的な急峻性あるいは不連続性を示す。つまり、あるz座標で包絡線の勾配の符号が反転するという意味である。包絡線の勾配の符号が反転する孤立した一座標点でのみ振幅がゼロとなるため、実質的には振幅が一定の区間ゼロのままとなるような領域は出現しない。これにより、サンプルドブラッググレーティングよりも導波路長を短縮することが可能となる。
【0070】
包絡線の勾配の符号が反転する孤立した座標点は導波路上で複数個存在する。おのおのの座標点では、付随的に位相の不連続変化を伴う。位相が不連続変化すると局所周期(ピッチ)が変化するため、ピッチが当該座標点で対象とするスペクトルにおける中心波長を光導波路の実効屈折率の平均値navで除算した値の半分とは異なる値をとる。包絡線の勾配の符号が反転する座標点を特定する精度は、横軸にとっている導波路の座標zの離散化刻みによる。その刻みをΔzとすると、座標点を特定する精度は±Δzの範囲にある。このように、本発明の振幅変調型グレーティング光導波路には、グレーティングの振幅の包絡線の勾配の符号が反転し、その結果、ピッチが離散的に変化する座標点が存在する。
離散化したグレーティングピッチは、Δzに依存して決まるΔPにより、P±NΔPとして表すことが可能であり、Nは逆散乱問題を解く際の離散化パラメータに係る整数である。
【0071】
ピッチの離散的変化は、チャープトブラッググレーティングには見られない特徴である。チャープトブラッググレーティングでは、ピッチは光導波方向に沿って連続的に変化する。チャープトブラッググレーティングでは、ブラッググレーティングの振幅も同時に変化するが、振幅の変化はアポダイズのような副次的特性の実現に利用されるにとどまり、フィルタの反射スペクトルのチャネル数・位相特性などの主要な特性はブラッググレーティングの周波数を光の導波方向に沿って変化させることによって達成される。ここに開示した手順では、チャープ型グレーティングを構成することはできない。チャープ型グレーティングを構成するには、複素反射スペクトルr(k)から時間応答(インパルス応答)R(z)への変換を複素数型へと切り替える必要がある。その結果、式(17)により得られるポテンシャル分布q(z)は複素数となる。q(z)が複素数であると、q(z)から実効屈折率分布neff(z)を求めるにあたり、neff(z)は実数であるため、q(z)の実部のみをとることが必要である。よって、本発明の振幅変調型グレーティング構造と従来公知のチャープ型グレーティング構造とは設計方法を異にし、互いに異なる範疇に分類される。振幅変調型に相対することから、チャープ型グレーティング構造は、いわば、周波数変調型に分類される。
【0072】
本発明では、他の実施例すべてを含めて、当該の複素反射スペクトルからインパルス応答への変換に用いる演算は実数型とし、振幅変調型ブラッググレーティングを対象とする。振幅変調型ブラッググレーティングを選択するための条件をまとめると、以下の二点となる。
(I) 指定するスペクトル特性の周波数範囲を原点(周波数ゼロ)から該当するスペクトルチャネルの存在する領域まですべてを含める。
(II)上述の複素反射スペクトルからインパルス応答への変換において実数型を選択する。
【0073】
実際の計算手順では、まず、グレーティング光導波路デバイスの全長を決めることにより、zの最大値を特定する。これは、例えば、光分散補償器の場合であれば、補償すべき群遅延分散値とチャネル帯域幅とからグレーティング光導波路で発生すべき群遅延時間の最大値が決まるので、これに真空中の光速度clightを乗じ、さらに実効屈折率の平均値navで除することで、最低限必要となる素子長を決めることが出来る。反射型デバイスとして構成する場合、往復の光路により必要な群遅延時間を得れば良いので、実際の必要素子長は群遅延時間差の最大値から直接求められる素子長の概略半分で良い。素子の全長は、これに一定の余長を追加したものとする。例えば、素子全長を必要素子長の120%とする。
続いて、z座標の離散化の刻みを決める。z軸上で定義される各種分布関数を数値解析で取り扱うには、データを有限長にする(離散化する)ために、z軸上に等間隔に配置された点を選び、z座標を設定する。一例として、設計中心波長λを基準として素子全長を13,200λ、z軸上の離散化刻みΔzをλ/40に設定すると、z0からz528000までの528,000点について光分散補償器のポテンシャル分布q(z)を計算することとなる。
【0074】
複素反射スペクトルr(k)として与えた波長に対する所望の光学特性の一例として、反射率の分布を図17及び図18に示すとおりとし、群遅延特性を図19及び図20としたとき、計算によって求められるポテンシャル分布q(z)の一例を図21及び図22に示す。後述する実施例1のシミュレーション結果によれば、このようにして求められた図21のポテンシャル分布q(z)が達成していると期待される反射率の分布(反射率スペクトル)は、図23、図24、図25及び図26、また群遅延特性(群遅延スペクトル)は、図27、図28、図29及び図30であり、設計インプットとして与えた光学特性をよく再現している。なお、図24、図25、図26、図28、図29及び図30においては、各波長チャネルのうちで分散補償を意図する波長領域である分散補償波長チャネル帯域内を太実線で、分散補償を意図していない領域を点線で示した。
【0075】
複素反射スペクトルr(k)として与える光学特性においては、各波長チャネルにおいて、分散補償を意図する波長領域である分散補償波長チャネル帯域の両側に、分散補償を意図しないが一定の反射率を有する波長領域を付与することが好ましい。例えばこの領域では、一定の群遅延量を有し、かつ、分散補償を意図する波長領域と概略同一の反射率を有するようにする。さらに、各波長チャネルの境界付近、すなわち、ある波長チャネルの「波長分散を補償することを意図していないが一定の反射率を有するように規定した領域」と隣接する波長チャネルの「波長分散を補償することを意図していないが一定の反射率を有するように規定した領域」との間に、反射率を規定しないか、又は原則として透過すると規定した領域を設けても良い。
【0076】
予め求めた光導波路断面構造、具体的にはコア寸法と等価屈折率との関係を元に、逆散乱問題を解いて得られたポテンシャル分布q(z)を実効屈折率neff(z)に換算し、続いて光導波路の光伝搬方向(長手方向)におけるコア寸法分布を算出する。
【0077】
図2(a)〜(c)に示した第1実施形態の光導波路デバイスについて、実効屈折率neffとコア幅wとの対応を求めた結果の一例を図7に示す。この事例では、クラッド材料はシリカ(SiO2)であり、コア材料は窒化ケイ素(Si3N4)である。コアの厚みtは1.4μmとした。この第1実施形態の光導波路構造は偏波依存性を有するため、この事例では、TEモード用のデバイスとして設計した。この図7に示したような実効屈折率neffとコア幅wとの対応関係を得るには、コア幅wの値を変化させて、それぞれの光導波路の断面構造から固有伝搬モードの電磁界分布をモードマッチング法、有限要素法、もしくはビーム伝搬法など各種方法を採用したモードソルバープログラムにより求め、その実効屈折率neffを算出することで求められる。
実効屈折率分布neff(z)と図7のグラフとから、各z座標におけるコア幅wを求めることが出来る。図7より、実効屈折率と光導波路の構造寸法との関係を検討した範囲のおよそ中央を基準にとることによって、参照屈折率(平均実効屈折率)navは例えば1.95とする。また、図8には、コアの厚みtを1.0μmとした場合に求められた実効屈折率neffとコア幅wとの対応を示す。
【0078】
(光導波路の製造工程)
次に、第1実施形態の基板型光導波路の製造工程について説明する。
まず、図4に示すように、コア1の材料となる高屈折率材料層1aを形成する(高屈折率材料層形成工程)。ここでは、支持基板5の上に下部クラッド6を形成した後、下部クラッド6の上に高屈折率材料層1aを形成している。支持基板5は例えばシリコンウエハであり、下部クラッド6は、CVD装置等を用いて適切な厚さで堆積させたSiO2膜である。また、高屈折率材料層1aは、光導波路コアを形成するためのSi3N4膜を、CVD装置等を用いて所望の厚さで堆積させたものである。
【0079】
次に、図4に二点鎖線で示すように、高屈折率材料層1aの上にフォトレジストパターン60を形成する。このフォトレジストパターン60は、設計された光導波路のグレーティング構造2に対応するものである。露光は、ステッパー露光装置を用いて行うことができる。露光に用いる光の波長は、フォトレジストの特性に応じて適宜設定することができ、例えば248nmが挙げられる。フォトレジストパターン60の形成には、バイナリ型のフォトマスクを用いて露光しても良いが、露光装置の性能上その必要がある場合には、レベンソン型位相シフト型フォトマスクを用いて露光するか、またはレベンソン型位相シフト型フォトマスクを用いた露光とバイナリ型フォトマスクを用いた露光とを組み合わせ2段階の露光工程を行うこともできる。露光工程後、フォトレジスト層を現像する現像工程を行う。
現像工程により得られたフォトレジストパターンを用いて高屈折率材料層1aをエッチングするエッチング工程を行い、続いて残留したフォトレジストを除去する工程を行うことにより、図5に示すように、側壁に凸部2b及び凹部2aからなるグレーティング構造2を有するコア1を形成することができる。
さらに、図6に示すように、CVD装置等を用いて適切な厚さで上部クラッド7(例えばSiO2)を堆積させる。コア1上に堆積された上部クラッド7の厚さは、下部クラッド6の上に堆積する上部クラッド7の厚さと異なることがある。必要に応じて、基板5からの高さが揃うように化学機械研磨(CMP)等により平坦化工程を行うこともできる。
【0080】
以上の工程により、コア側壁にグレーティング構造を有する基板型光導波路を製作することが可能である。なお、通常、比屈折率差の大きい基板型光導波路の使用にあたっては、光ファイバとの光学的接続においてモードフィールド径の変換器が必要である。一般的には、上記工程に前後してモードフィールド変換部あるいはスポットサイズ変換部と呼ばれる領域を形成する工程を設け、同一基板上に当該光導波路と光学的に接続するように集積化して形成する。
【0081】
<基板型光導波路部品の第2実施形態>
図9に基板型光導波路部品の第2実施形態の断面図を示す。この実施形態では、光導波路コア側壁にグレーティング構造12を有するとともにコア上部11に溝状グレーティング構造13を有することで、偏波無依存型のデバイスとすることができる。
側壁グレーティング構造12は、コアの幅woutの周期的変化としてコア10の両側壁に形成された凹部12aと凸部12bとから構成されている。凹部12aではコア幅が狭く、凸部12bではコア幅が広い。
コア上部11の溝状グレーティング構造13においては、側壁グレーティング構造12の凸部12bに相当する位置において、コア10を形成する材料が凸状を成し溝状構造13の幅が狭くなっていて、凸部13bとなっている。また、側壁グレーティング構造12の凹部12aに相当する位置において、コア10を形成する材料が凹状を成し溝状構造13の幅が広くなっていて、凹部13aとなっている。つまり、溝状構造13の幅winとしては、凸部13bにおいて溝状構造13の幅winが狭く、凹部13aにおいて溝状構造13の幅winが広いという逆転した関係になっている。
この事例では、コア10をSi3N4膜、クラッド16,17をSiO2膜とし、図11に示す断面においてコアの厚みtoutを1.4μm、コア上部の溝深さtinを0.1μmとしたとき、図10、図11、図12に示すように、実効屈折率neffに対して適切なコア幅woutとコア上部の溝幅winとを求めることにより、偏波無依存型のデバイスを実現することができる。
【0082】
<基板型光導波路部品の第3実施形態>
図13に基板型光導波路部品の第3実施形態の断面図を示す。この基板型光導波路部品20は、光学特性を可変とするための内側コア21,22と、光学特性の偏波依存性の問題を解消するための外側コア24とを備えた二重コア構造を採用している。
この二重コア構造は、基板25上に形成された下部クラッド26上に存在する。内側コア21,22は例えばシリコン(Si)から構成され、外側コア24は例えば窒化ケイ素(Si3N4)から構成される。中央ギャップ23は、高屈折率材料とする必要はなく、シリカ(SiO2)、窒酸化シリコン(SiOxNy)あるいは窒化シリコン(SixNy)等から構成しても良い。組成比x:yは、所望の屈折率が得られるように制御することができる。
複合コアの上部および両側方は、上部クラッド27で覆われている。上部クラッド27および下部クラッド26は、二重コア構造の平均屈折率よりも低い材料から構成され、例えばシリカ(SiO2)から構成される。上部クラッド27の材料と下部クラッド26の材料は、同じでも異なっても構わない。
【0083】
内側コア21,22は、中央ギャップ23を介して2つの部分に分けられ、それぞれがリブ21b,22bとスラブ21a,22aとを有する。内側コア21,22には、不純物元素(ドーパント)のインプラント処理によってP型半導体領域及びN型半導体領域が形成されている。
外側コア24は内側コア21,22の上に配置されている。外側コア24の屈折率は、内側コア21,22の平均屈折率よりも低い。図13には現されていないが、外側コア24の側壁24b及び上面24aの溝状構造24cには、それぞれ図9のコア10と同様な側壁グレーティング構造及び上部溝状グレーティング構造が形成されている。具体的には、外側コア24の幅woutを周期的に変化させた側壁グレーティング構造と、外側コア24の上面24aに形成された溝状構造24cの幅winを周期的に変化させた上部溝状グレーティング構造を備えている。
内側コア21,22は一方がN型シリコン、他方がP型シリコンからなり、金属配線を介して外部の制御回路(図示せず)と接続し、外部から電圧を印加することにより光学特性を可変としている。
【0084】
光導波路断面構造の設計事例として、t1を250nm、t2を50nm、w1を280nm、w2を160nm、toutを600nm、tinを100nmとした場合で算出した実効屈折率neffに対するコア幅woutとコア上部の溝幅winとの関係を図14、図15、図16に示す。この事例では、参照屈折率navは例えば2.348であり、第1及び第2の実施形態と同様にして、グレーティング構造を設計することができる。
【実施例】
【0085】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。
【0086】
(実施例1)
分散シフト光ファイバ(DSF)100kmからなる光ファイバ伝送路のL−bandの波長分散を補償する波長分散補償素子を設計した。
設計中心周波数を188.4THz(すなわち、設計中心波長は1591.255nm)とし、該設計中心周波数・設計中心波長における波長分散補償量を−295ps/nm、分散スロープRDSを0.024/nmとし、分散補償を意図するチャネル帯域(分散補償波長チャネル帯域)及びその両側の分散補償を意図しないが一定の反射率を有する領域における反射率を0.9(反射信号の挿入損失0.5dBに相当。)に設定した。
186.2THz(1610.056nm)の第1チャネルから190.6THz(1572.888nm)の第45チャネルまですべてのチャネルについてチャネルグリッドを100GHzとした。
【0087】
分散スロープRDSに依存して、最も短波長側にある第45チャネルにおいて設定すべき波長分散補償量は−165ps/nmとなり、分散補償に必要となる最大群遅延差が最小の値を取る。このことから、第45チャネルにおいて、分散補償を意図するチャネル帯域を一番広く設定することが可能である。第45チャネルにおいて、分散補償を意図するチャネル帯域を80GHz、分散補償を意図しないが反射率を規定する領域を10GHz(5GHzずつ両側)、反射率を規定しない境界領域を10GHzとした。このとき、第45チャネルにおいては80GHzのチャネル帯域は0.660nmに相当し、80GHzのチャネル帯域全体の分散補償に必要となる最大群遅延差は、109psであった。第45チャネルは80GHzもの広いチャネル帯域を有するので、40Gbpsなどの広い帯域を必要とする高速な信号を伝送可能である。
一方、最も長波長側にある第1チャネルにおいては、設定すべき波長分散補償量は−428ps/nmとなり、80GHzのチャネル帯域は0.692nmに相当する。このことから、チャネル帯域を第45チャネルと同一の80GHzにした場合に分散補償に必要となる最大群遅延差は、296psということになる。よって、第1チャネルにおいても第45チャネルと同じ109psを最大群遅延差とした場合には、第1チャネルの帯域は第45チャネルの帯域に対して約37%となる30GHzしか割り当てることができない。しかしながら、最も長波長側にある第1チャネルにおいても30GHzのチャネル帯域を割り当てることができれば、例えば10Gbpsの信号の伝送には十分な広さである。このようにして、各チャネルについて、第45チャネルの最大群遅延差である109psを基準とし、当該チャネルにおける所望の分散補償量の大きさ、すなわち、ps/nmを単位として表した分散補償量の設定値の絶対値と、nmを単位として表したチャネル帯域幅の設定値との積が、109psとなるように、各チャネルのチャネル帯域を決める。例えば、上述の第1チャネルの場合、nmを単位として表したチャネル帯域幅の設定値は、109psを428ps/nmで除することにより約0.255nmと求められ、約30GHz(より詳しくは29.5GHz)に相当する。
【0088】
このようにして各チャネルにおいて分散補償を意図するチャネル帯域の帯域幅を決定して群遅延スペクトルを設計し、反射率スペクトルとともに設計入力パラメータ(インプット)とする。この実施例では、図17及び図18に示す反射率スペクトルと、図19及び図20に示す群遅延スペクトルを設計し、これを複素反射スペクトルr(k)として与えた。
なお、本実施例では、図17及び図18に示す反射率スペクトルにおいて、反射率を0.9とする領域(分散補償を意図するチャネル帯域及びその両側の分散補償を意図しないが一定の反射率を有する領域の合計)の帯域幅が一定となるようにしているので、波長が短くなる(周波数が大きくなる)に従って分散補償を意図するチャネル帯域が広くなっていく様子は、図19及び図20に示す群遅延スペクトルから理解することができる。また、図19及び図20によれば、各チャネルの最大群遅延差が略同一であることも理解することができる。
【0089】
この素子では、最大群遅延差としては109psを要することから、必要素子長としては11000λ程度である。別途実施した検討から、必要素子長に対し20%程度の余長を付加するのが適切であることがわかっているため、11000λに対して120%となる13200λの素子長でポテンシャル分布q(z)を求めた。離散化刻みをλ/40としたので、z軸上の点数は528000である。このようにして設計したポテンシャル分布q(z)を図21及び図22に示す。
図21及び図22のポテンシャル分布が達成している光学特性を計算した結果を、図23、図24、図25及び図26の反射率スペクトルと、図27、図28、図29及び図30の群遅延スペクトルに示す。なお、図24、図25、図26、図28、図29及び図30においては、各波長チャネルのうちで分散補償を意図する波長領域である分散補償波長チャネル帯域内を太実線で示しており、設計インプットを良く再現した設計結果が得られていることが分かる。
本実施例は、13200λの素子長で設計したので、navが1.95である実施形態であれば11mm、navが2.348である実施形態であれば9mmでこの波長分散補償素子が実現できる。
以上の結果から、DSF100kmからなる光ファイバ伝送路について、L−bandにおいて45チャネルの多数のチャネルの波長分散及び分散スロープを一括して補償することが可能であり、サーキュレータとともに用いることでインラインでの分散補償に用いることができ、30GHzから80GHzまでの異なるチャネル帯域を有する小型の波長分散補償素子を設計することができた。45チャネルのうち、一部のチャネルは広帯域であり40Gbpsなどの高速な信号を伝送可能であり、残りのチャネルも10Gbpsの信号を十分伝送可能である。
【0090】
(実施例2)
分散シフト光ファイバ(DSF)200kmからなる光ファイバ伝送路のL−bandの波長分散を補償する波長分散補償素子を設計した。
実施例2では、実施例1を若干変更して、設計中心周波数188.4THz(すなわち、設計中心波長は1591.255nm)における波長分散補償量を実施例1の2倍の、−590ps/nmとした。
【0091】
分散スロープRDSを実施例1と同一にしたため、第45チャネルにおいて設定すべき波長分散補償量は−330ps/nmとなり、80GHzのチャネル帯域全体の分散補償に必要となる最大群遅延差は、218psであった。各チャネルについて、当該チャネルにおける所望の分散補償量の大きさ、すなわち、ps/nmを単位として表した分散補償量の設定値の絶対値と、nmを単位として表したチャネル帯域幅の設定値との積が、218psとなるように、各チャネルのチャネル帯域を決めた。各チャネルの帯域は実施例1とそれぞれ同一であり、第1チャネルの帯域は約30GHzである。他のパラメータは実施例1と同様とした。
【0092】
これらの諸光学特性を設計インプットとして、図31及び図32に示す反射率スペクトルと、図33及び図34に示す群遅延スペクトルとを設計し、これを複素反射スペクトルr(k)として与えた。
なお、本実施例では、図31及び図32に示す反射率スペクトルにおいて、反射率を0.9とする領域(分散補償を意図するチャネル帯域及びその両側の分散補償を意図しないが一定の反射率を有する領域の合計)の帯域幅が一定となるようにしているので、波長が短くなる(周波数が大きくなる)に従って分散補償を意図するチャネル帯域が広くなっていく様子は、図33及び図34に示す群遅延スペクトルから理解することができる。また、図33及び図34によれば、各チャネルの最大群遅延差が略同一であることも理解することができる。
【0093】
この素子では、最大群遅延差としては218psを要することから、必要素子長を22000λと考え、余長を付加し120%となる26400λの素子長でポテンシャル分布q(z)を求めた。離散化刻みをλ/40としたので、z軸上の点数は1056000である。このようにして設計したポテンシャル分布q(z)を図35及び図36に示す。
図35及び図36のポテンシャル分布が達成している光学特性を計算した結果を、図37、図38、図39及び図40の反射率スペクトルと、図41、図42、図43及び図44の群遅延スペクトルに示す。なお、図38、図39、図40、図42、図43及び図44において、太実線が分散補償を意図するチャネル帯域内を示しており、設計インプットを良く再現した設計結果が得られていることが分かる。
本実施例は、26400λの素子長で設計したので、navが1.95である実施形態であれば22mm、navが2.348である実施形態であれば18mmでこの波長分散補償素子が実現できる。
以上の結果から、DSF200kmからなる光ファイバ伝送路について、L−bandにおいて45チャネルの多数のチャネルの波長分散及び分散スロープを一括して補償することが可能であり、サーキュレータとともに用いることでインラインでの分散補償に用いることができ、30GHzから80GHzまでの異なるチャネル帯域を有する小型の波長分散補償素子を設計することができた。45チャネルのうち、一部のチャネルは広帯域であり40Gbpsなどの高速な信号を伝送可能であり、残りのチャネルも10Gbpsの信号を十分伝送可能である。
【0094】
(比較例1)
チャネル帯域幅をすべてのチャネルで一定として光分散補償素子を設計した比較例1として、分散シフト光ファイバ(DSF)100kmからなる光ファイバ伝送路のL−bandの波長分散を補償する波長分散補償素子を設計した。
設計中心周波数188.4THz(すなわち、設計中心波長は1591.255nm)における波長分散補償量を−295ps/nm、分散スロープRDSを0.024/nmとし、分散補償を意図するチャネル帯域(分散補償波長チャネル帯域)及びその両側の分散補償を意図しないが一定の反射率を有する領域における反射率を0.9(反射信号の挿入損失0.5dBに相当。)に設定した。
186.2THz(1610.056nm)の第1チャネルから190.6THz(1572.888nm)の第45チャネルまですべてのチャネルについてチャネルグリッドを100GHz、分散補償を意図するチャネル帯域を80GHz、分散補償を意図しないが反射率を規定する領域を10GHz(5GHzずつ両側)、反射率を規定しない境界領域を10GHzとした。
これらの諸光学特性を設計インプットとして、図45及び図46に示す反射率スペクトルと、図47及び図48に示す群遅延スペクトルを設計し、これを複素反射スペクトルr(k)として与えた。
【0095】
この素子では、最大群遅延差としては296psを要することから、必要素子長を28000λと考え、余長を付加し120%となる33600λの素子長でポテンシャル分布q(z)を求めた。離散化刻みをλ/40としたので、z軸上の点数は1344000である。このようにして設計したポテンシャル分布q(z)を図49及び図50に示す。
図49及び図50のポテンシャル分布が達成している光学特性を計算した結果を、図51、図52、図53及び図54の反射率スペクトルと、図55、図56、図57及び図58の群遅延スペクトルに示す。なお、図52、図53、図54、図56、図57及び図58においては、各波長チャネルのうちで分散補償を意図する波長領域である分散補償波長チャネル帯域内を太実線で示しており、設計インプットを良く再現した設計結果が得られていることが分かる。
本比較例では、光ファイバ伝送路の長さ、設計中心周波数における波長分散補償量、分散スロープRDS及びチャネル数が実施例1と同じ場合に、すべてのチャネル帯域幅を一定にした条件で波長分散補償素子を実現するため、33600λの素子長で設計した。navが1.95である実施形態であれば28mm、navが2.348である実施形態でも23mmもの素子長が必要になる。
以上の結果から、DSF100kmからなる光ファイバ伝送路について、L−bandにおいて45チャネルの多数のチャネルの波長分散及び分散スロープを一括して補償するにあたり、本比較例では、実施例1の2.5倍もの素子長が必要であることがわかった。
【符号の説明】
【0096】
1,10…コア、1a…高屈折率材料層、2,12…側壁グレーティング構造、2a,12a…凹部、2b,12b…凸部、13…溝状グレーティング構造、13a…凹部、13b…凸部、3,11…上面、4,14…底面、5,15,25…基板(支持基板)、6,16,26…下部クラッド、7,17,27…上部クラッド、20…基板型光導波路デバイス、21,22…内側コア、21a,22a…スラブ、21b,22b…リブ、23…中央ギャップ、24…外側コア、24a…上面、24b…側壁、24c…溝状構造、60…側壁用のフォトレジストパターン。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高密度波長多重通信システムの光ファイバ伝送路の波長分散及び分散スロープを補償する光分散補償素子であって、
光分散補償素子の群遅延スペクトルは、該システムにおいて光信号の伝送を意図する波長である複数の波長チャネルのそれぞれにおいて所定のチャネル帯域幅の範囲で分散補償を意図する群遅延時間を有する複数の分散補償波長チャネル帯域に分割され、
前記複数の分散補償波長チャネル帯域は、チャネル帯域幅がそれぞれ異なり、かつ、前記複数の分散補償波長チャネル帯域は、ps/nmを単位として表した分散補償量と、nmを単位として表したチャネル帯域幅との積が、略同一であることを特徴とする光分散補償素子。
【請求項2】
前記複数の分散補償波長チャネル帯域は、前記光ファイバ伝送路の群遅延の波長分散が零となる零分散波長より長波長側であって、かつ前記光ファイバ伝送路の群遅延の波長分散が正となる波長領域に位置し、
前記複数の分散補償波長チャネル帯域は、前記チャネル帯域幅が、長波長側の波長チャネルにおいて狭くなっており、波長が短くなるに従って広くなっていくことを特徴とする請求項1に記載の光分散補償素子。
【請求項3】
該光分散補償素子は、グレーティング構造を有するコアが基板上に形成された基板型光導波路であることを特徴とする請求項1または2に記載の光分散補償素子。
【請求項4】
高密度波長多重通信システムの光ファイバ伝送路の波長分散及び分散スロープを補償する光分散補償素子の設計方法であって、
該光分散補償素子は、グレーティング構造を有するコアを備えた光導波路からなり、前記グレーティング構造は、前記コアの断面寸法が前記光導波路の導波方向に沿って変化することにより構成され、
該設計方法は、
コアの断面寸法を変化させた際の光導波路の断面構造と実効屈折率との関係を求める光導波路断面構造設計工程と、
設計入力パラメータとして波長分散、分散スロープ及び反射率を指定して所定の複素反射率スペクトルを算出した後、逆散乱問題解法によって前記複素反射率スペクトルを実現するための前記光導波路の導波方向に沿った実効屈折率分布を求めるグレーティングパターン設計工程と、
前記光導波路断面構造設計工程で求めた前記断面構造と実効屈折率との関係に基づいて、前記グレーティングパターン設計工程で求めた前記実効屈折率分布を、前記断面構造の前記光導波路の導波方向に沿った分布に変換することにより、該断面構造の分布からなるグレーティング構造を求めるグレーティング構造設計工程と、
を有し、
前記設計入力パラメータとして入力する波長分散、分散スロープ及び反射率を、該システムにおいて光信号の伝送を意図する波長である複数の波長チャネルのそれぞれにおいて所定のチャネル帯域幅の範囲で分散補償を意図する群遅延時間を有する複数の分散補償波長チャネル帯域に分割し、
前記複数の分散補償波長チャネル帯域は、チャネル帯域幅がそれぞれ異なり、かつ、前記複数の分散補償波長チャネル帯域を、ps/nmを単位として表した分散補償量の設定値と、nmを単位として表したチャネル帯域幅の設定値との積が、略同一となるように設定することを特徴とする光分散補償素子の設計方法。
【請求項5】
前記複数の分散補償波長チャネル帯域を、前記光ファイバ伝送路の群遅延の波長分散が零となる零分散波長より長波長側であって、かつ前記光ファイバ伝送路の群遅延の波長分散が正となる波長領域において、設定し、かつ、
前記チャネル帯域幅を、長波長側の波長チャネルにおいて狭く設定し、波長が短くなるに従って広く設定していくことを特徴とする請求項4に記載の光分散補償素子の設計方法。
【請求項1】
高密度波長多重通信システムの光ファイバ伝送路の波長分散及び分散スロープを補償する光分散補償素子であって、
光分散補償素子の群遅延スペクトルは、該システムにおいて光信号の伝送を意図する波長である複数の波長チャネルのそれぞれにおいて所定のチャネル帯域幅の範囲で分散補償を意図する群遅延時間を有する複数の分散補償波長チャネル帯域に分割され、
前記複数の分散補償波長チャネル帯域は、チャネル帯域幅がそれぞれ異なり、かつ、前記複数の分散補償波長チャネル帯域は、ps/nmを単位として表した分散補償量と、nmを単位として表したチャネル帯域幅との積が、略同一であることを特徴とする光分散補償素子。
【請求項2】
前記複数の分散補償波長チャネル帯域は、前記光ファイバ伝送路の群遅延の波長分散が零となる零分散波長より長波長側であって、かつ前記光ファイバ伝送路の群遅延の波長分散が正となる波長領域に位置し、
前記複数の分散補償波長チャネル帯域は、前記チャネル帯域幅が、長波長側の波長チャネルにおいて狭くなっており、波長が短くなるに従って広くなっていくことを特徴とする請求項1に記載の光分散補償素子。
【請求項3】
該光分散補償素子は、グレーティング構造を有するコアが基板上に形成された基板型光導波路であることを特徴とする請求項1または2に記載の光分散補償素子。
【請求項4】
高密度波長多重通信システムの光ファイバ伝送路の波長分散及び分散スロープを補償する光分散補償素子の設計方法であって、
該光分散補償素子は、グレーティング構造を有するコアを備えた光導波路からなり、前記グレーティング構造は、前記コアの断面寸法が前記光導波路の導波方向に沿って変化することにより構成され、
該設計方法は、
コアの断面寸法を変化させた際の光導波路の断面構造と実効屈折率との関係を求める光導波路断面構造設計工程と、
設計入力パラメータとして波長分散、分散スロープ及び反射率を指定して所定の複素反射率スペクトルを算出した後、逆散乱問題解法によって前記複素反射率スペクトルを実現するための前記光導波路の導波方向に沿った実効屈折率分布を求めるグレーティングパターン設計工程と、
前記光導波路断面構造設計工程で求めた前記断面構造と実効屈折率との関係に基づいて、前記グレーティングパターン設計工程で求めた前記実効屈折率分布を、前記断面構造の前記光導波路の導波方向に沿った分布に変換することにより、該断面構造の分布からなるグレーティング構造を求めるグレーティング構造設計工程と、
を有し、
前記設計入力パラメータとして入力する波長分散、分散スロープ及び反射率を、該システムにおいて光信号の伝送を意図する波長である複数の波長チャネルのそれぞれにおいて所定のチャネル帯域幅の範囲で分散補償を意図する群遅延時間を有する複数の分散補償波長チャネル帯域に分割し、
前記複数の分散補償波長チャネル帯域は、チャネル帯域幅がそれぞれ異なり、かつ、前記複数の分散補償波長チャネル帯域を、ps/nmを単位として表した分散補償量の設定値と、nmを単位として表したチャネル帯域幅の設定値との積が、略同一となるように設定することを特徴とする光分散補償素子の設計方法。
【請求項5】
前記複数の分散補償波長チャネル帯域を、前記光ファイバ伝送路の群遅延の波長分散が零となる零分散波長より長波長側であって、かつ前記光ファイバ伝送路の群遅延の波長分散が正となる波長領域において、設定し、かつ、
前記チャネル帯域幅を、長波長側の波長チャネルにおいて狭く設定し、波長が短くなるに従って広く設定していくことを特徴とする請求項4に記載の光分散補償素子の設計方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【図54】
【図55】
【図56】
【図57】
【図58】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【図54】
【図55】
【図56】
【図57】
【図58】
【公開番号】特開2012−155303(P2012−155303A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53449(P2011−53449)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】
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