説明

光吸収測定装置

【課題】大掛かりなマルチパスセルを必要とせず、入射光の波長を掃引しながら複数の吸収線を検知し、多種の吸収物質をコンパクトな装置で高感度に検出する。
【解決手段】レーザ光出射手段から出射された光を被測定物質に入射して、被測定物質の光学吸収特性を測定する光吸収測定装置において、被測定物質に入射された入射光の光路と交差するように、被測定物質内に第1の音叉を配置する。さらに、第1の音叉の共鳴周波数近傍の信号で入射光の強度を変調する変調手段と、第1の音叉の共鳴振動を第1の電気信号に変換する変換手段と、第1の電気信号と共鳴周波数近傍の信号とをロックイン検波して、測定物質の光学吸収特性を測定する測定手段とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光吸収測定装置に関し、より詳細には、環境ガス、危険性を伴うガスおよび残留農薬の光学的な極微量検出を行う光吸収分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
環境保護、安全衛生上の観点から、NOx、SOx、アンモニア系等の環境ガス、水の吸収、あるいは多くの有機系ガスまたは残留農薬の極微量分析技術の確立が強く望まれている。極微量分析技術としては、被測定ガスを特定の物質に吸着し、電気化学的手法による定量分析、または被測定物質の固有の光学吸収特性を測定する方法が一般的である。さらに、他の光学的手法による極微量分析の検討がなされている。光学的手法は、実時間測定が可能で、測定光の通過する広範囲な領域の観測が可能といった特徴を有する。
【0003】
希薄なガスに代表される極微弱な吸収の検出には、実質的に光路長を長くとれるマルチパスセル、光の共振器、遠方に配した反射板ないしは散乱板が用いられる。これらの光学系は、光路長が長くなればなるほど光軸調整が難しくなる。また、これら光学系を含む測定系全体が必然的に大きくなり、可般性が乏しくなる。
【0004】
図1を参照して、従来の光吸収測定の測定原理を説明する。図1(a)は、光吸収信号の増幅に関する模式図である。本来、光吸収測定は透過測定であるため、光吸収信号は背景信号に重畳されて存在している。従って、光吸収信号の増幅は背景信号の増幅を伴うため、S/Nの向上は望めず、増幅率の増加には必然的に限界がある。ここで、限界増幅率をAとしておく。
【0005】
一方、図1(b)は、零位法に関する模式図である。光音響分光法は、光吸収によって発生するガスの膨張の有無に基づく疎密波としての音響信号を検知する。従って、吸収が存在する部分にしか信号が発生しない。このため原理的には、S/N低下を招くことなく増幅することが可能となる。この場合の増幅率をGとすると、G>>Aは容易であり、光吸収測定と比較して零位法が有利であることがわかる。
【0006】
オシロスコープの波形観測などでしばしば経験することであるが、直流信号の変化を観測する場合、直流信号に重畳した交流成分のみを観測することによって変化が見やすくなり、ほぼ所望の信号成分だけを増幅できる。これは、正弦波による周波数変調を施した光を用いることにより、位相敏感測定を行い、微分検波を実施する手法と似通っている。信号光の変調周波数fmと同じ周波数を有する位相参照信号を用いる場合は1次微分、信号光の変調周波数の倍の周波数2fmの参照信号を用いる場合は2次微分、3倍の周波数3fmの参照信号を用いる場合は3次微分信号が得られ、変化率だけの観測が可能になる。なお、各々の信号の大きさは、微分係数とともに吸収線の波形をテーラー展開した場合の係数にも依存する。
【0007】
希薄ガスの検出に用いられる光音響分光法は、図1(b)に示した零位法による測定となり、検出感度が向上する。しかしながら、対象とする被測定物に応じた装置特有の共鳴ガスセルの作製が必要となることには変わりなく、光吸収測定の測定系より小型化が期待できるとは言え、基本的には減圧可能なガスセルを使用せざるを得ない。従って、可般性の実現という観点からも限界がある。
【0008】
図2を参照して、従来の位相敏感測定の測定原理を説明する。吸収線の最大吸収点f0(透過率の最小点)では、波形歪みは避けられないにしても信号光の変調周波数の倍波の信号が発生する。位相参照信号を信号光の変調周波数と一致させる場合、あるいは3倍の周波数にする場合は、f0を中心に左右で出力信号の符号が変わるため、周波数安定化などに利用される周波数弁別特性が得られる。位相参照信号を2倍の周波数にすると、吸収スペクトルの2次微分波形となり、実スペクトルより幅の狭いスペクトルが得られる。これら微分波形を得る微分検波は、上述したように、オシロスコープにおける交流成分の観測のように変化率のみを見ているため、弱い吸収が存在する媒質の光透過特性など、背景に直流成分の多い信号の観測には非常に有効な観測手法となる。
【0009】
光音響分光法の場合は、吸収線の最大吸収点f0において音響信号が最大になると期待できる。しかし、このことは強度変調を施した場合であり、周波数変調を用いる場合には少々事情が異なる。図2に示したように、周波数変調を施す場合、f0においては変調周波数fmの倍音、つまり2fmの周波数の出力波形が主に発生する。従って、f0における2fmの振幅と、f0からずれたf1におけるfmの振幅の大小は、変調振幅Δfの大きさ、吸収線の周波数に関する変化率などに依存し、一意的には決まらない。希薄ガスの場合は、必然的に吸収が小さくなるため、光音響分光法の場合には、音響信号が最大となる吸収の中心周波数f0における変調周波数fmの振幅が、f0の周辺部より更に小さくなる。従って、周波数変調は、得策ではないと言える。
【0010】
最近、水晶振動子を用いた光音響分光法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。しかし、測定系の構成は、被測定物となるガスを減圧セルに封入し、光吸収によって発生するガスの膨張の有無に基づく粗密波としての音響信号を検出するので、従来の光音響分光法と同一である。光音響セルにおける音響信号の検出に、圧電素子、コンデンサマイクロフォンに代えて、水晶振動子を用いているに過ぎない。また、半導体レーザ(LD)を直接使用するため波長掃引幅が確保できず、測定対象物は注目する1〜2本の吸収線に限られる。非特許文献1の例では、ガスの吸収が弱い1.6μm近傍の近赤外で発振するLDからの出射光を用いており、大気中の希薄ガスの測定は不可能である。
【0011】
また、非特許文献1においては、光吸収の測定系に、LDの電流を変調する直接周波数変調を用いている。このとき、零位法による測定を行うので、正弦波を用いた周波数変調による微分波形の計測は、上述したように必ずしも得策ではない。一方、手軽さからも有利と思われるLDの直接変調方式は、周波数変調と共に強度変調も重畳しており、変調信号の波形歪みは避けられない。非特許文献1の例では1次微分波形の検出が採用されており、音響信号出力最大点が0になっている。2次微分波形が得られる倍波の信号波形を観測すれば、音響信号出力最大点が有効に利用できることになるが、図2に示したような整流波形に近い波形しか得られない。従って、水晶振動子を含む音叉を用いる信号検出の場合は、機械的なチョッパ、外部変調方式による強度(振幅)変調を用いた手法の方が望ましいということになる。また、非特許文献1の例では、LDの周波数変調には音叉の共鳴周波数の半分を用いる。このことは、モニタ感度の向上には有効であっても、吸収信号の高感度化には必ずしも得策ではない。
【0012】
次に、測定系のレーザ光源について説明する。被測定物質の吸収ピークは、原子間結合の振動回転モードに起因し、主に2μmから20μmの中赤外領域に基本振動に基づく強い吸収バンドがある。しかし、波長2μm以上の中赤外領域で室温での連続発振が安定に得られるレーザは、未だ実用化が困難である。量子カスケードレーザの研究開発がなされているものの、上述した光学的手法に用いることのできるレーザ光源がないことが大きな支障になっている。
【0013】
中赤外領域における実用可能なレーザ光源が存在しないので、通常は、既存の通信用半導体レーザ(0.8μmから2μm)が使用される。しかし、この波長で各種ガスなどの微量分析を行う場合、本来のガスの基本吸収波長の倍音(=基本吸収波長の2分の1)、3倍音(=基本吸収波長の3分の1)、または結合音(=複数の基本吸収波長の組み合わせ)における吸収を利用することになる。しかし、倍音程度であれば必要な感度が得られる場合もあるが、3倍音以上に相当するような高次の吸収ピークでの測定となると、吸収量そのものが小さいために検出に限界が生じる。従って、本来の基本吸収ピークにおける測定に較べて、3桁程度あるいはそれ以上の感度の低下を招くことになる。
【0014】
上述したように、環境ガス、危険性を伴うガスなどを分析する際に高い検出感度を得るためには、中赤外レーザ光源の開発が不可欠である。最近では、波長3μm等において中赤外光を発生させ、ガスセンサー動作を確認したことが報告されている(例えば、非特許文献2参照)。この報告では、光源に、周期的な分極反転構造を有するニオブ酸リチウム(LiNbO3)からなる波長変換素子を用いて、差周波発生により中赤外光を発生させている。
【0015】
【非特許文献1】A.A.Kosterev et al., "Quartz-enhanced photoacoustic spectroscopy", Optics Letters, Vol.27, No.21, po.1902-1904 (2002)
【非特許文献2】D.Richter, et al., "Development of an automated diode-laser-based multicomponent gas sensor", Applied Optics, Vol.39, No.24, pp.4444-4450 (2000)
【非特許文献3】A.Miklos, et al., "Application of acoustic resonators in photoacoustic trace gas analysis and metrology", Review of scientific instruments, Vol.72, No.4, pp.1937-1955, 2001
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
以上述べたように、従来の光吸収測定装置は、100m近くの光路長を有するマルチパスセルを用い、1〜2本の吸収線の検出しかできなかった。これに対して、(1)可視域から赤外域(0.45〜5.5μm)まで、特に波長域1.9〜5.5μmの広い中赤外域の波長範囲において測定が可能なこと、(2)大気に存在する環境ガスに応じて複数の吸収線を検知することができるように波長を可変できること、(3)大気中の環境ガスを直接検知することができるように高感度であること、および(4)コンパクトで可般型の光吸収測定装置が求められている。
【0017】
本発明の目的は、大掛かりなマルチパスセルを必要とせず、入射光の波長を掃引しながら複数の吸収線を検知し、多種の吸収物質をコンパクトな装置で高感度に検出するための光吸収測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、レーザ光出射手段から出射された光を被測定物質に入射して、該被測定物質の光学吸収特性を測定する光吸収測定装置において、前記被測定物質に入射された入射光の光路と交差するように、前記被測定物質内に配置された第1の音叉と、該第1の音叉の共鳴周波数近傍の信号で前記入射光の強度を変調する変調手段と、前記第1の音叉の共鳴振動を第1の電気信号に変換する変換手段と、前記第1の電気信号と前記共鳴周波数近傍の信号とをロックイン検波して、前記測定物質の光学吸収特性を測定する測定手段とを備えたことを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、音叉の共鳴周波数近傍の信号で入射光の強度を変調し、被測定物質であるガス内に配置された音叉に入射する。光吸収によって発生するガスの膨張に基づく疎密波により、音叉の共鳴振動が生ずる。この共鳴振動を音響信号として検出し、電気信号に変換する。変換された電気信号と共鳴周波数近傍の信号とをロックイン検波して、測定物質の光学吸収特性を測定することができる。
【0020】
変調手段は、入射光の強度を変調してもよいし、入射光の周波数を変調してもよい。変換手段は、音叉の共鳴振動である音響信号を、コンデンサマイクロフォンにより電気信号に変換してもよいし、音叉の共鳴振動を、歪みセンサで電気信号に変換してもよい。音叉として水晶振動子を用いて、変換手段に前置増幅器とインピーダンス変換器とを含めることもできる。
【0021】
入射光の光路と第1の音叉とが交差する点を内挿し、音叉の共鳴周波数近傍で共振する共鳴器をさらに備えてもよい。入射光の光路上に配置され、入射光の光路と音叉とが交差する点を挟んで対向する反射鏡をさらに備えてもよい。
【0022】
請求項9に記載の発明は、請求項1ないし8のいずれかに記載の光吸収測定装置において、前記入射光の光路上に配置され、前記入射光の一部を分岐する分岐手段と、前記分岐された入射光を第2の電気信号に変換する光電気変換手段と、前記第2の気信号と前記共鳴周波数近傍の信号とをロックイン検波して、前記測定手段で測定された前記測定物質の光学吸収特性を補正する第1の補正手段とを備えたことを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、入射光の強度信号と検出した音響信号とをそれぞれ検波するので、音響信号の入射光強度の波長依存性および強度揺らぎの影響を相殺することができる。
【0024】
請求項10に記載の発明は、請求項1ないし9のいずれかに記載の光吸収測定装置において、前記入射光の光路と交差しないように前記被測定物質内に配置された第2の音叉と、該第2の音叉の共鳴振動を第3の電気信号に変換する変換手段と、前記第3の電気信号と前記共鳴周波数近傍の信号とをロックイン検波して、前記測定手段で測定された前記測定物質の光学吸収特性を補正する第2の補正手段とを備えたことを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、入射光と交差しない音叉で検出される音響信号と検出した音響信号とをそれぞれ検波するので、背景の音響雑音を除去することができる。
【0026】
請求項11に記載の発明は、請求項1ないし10のいずれかに記載の光吸収測定装置において、前記レーザ光出射手段は、波長λ1のレーザ光を発生する第1のレーザと、波長λ2のレーザ光を発生する第2のレーザと、前記波長λ1のレーザ光と前記波長λ2のレーザ光とを入力し、1/λ1−1/λ2=1/λ3の関係にある波長λ3の差周波光を出力する非線形光学結晶とを備えたことを特徴とする。
【0027】
より具体的には、第1のレーザは、波長λ1=0.9〜1.1μmのレーザ光を発生し、第2のレーザは、波長λ2=1.25〜1.75μmのレーザ光を発生し、非線形光学結晶は、波長λ3=1.9〜5.7μmを有する差周波光を出力する。
【0028】
非線形光学結晶は、LiNbO3(LN)、LiTaO3(LT)またはその混晶、あるいはZnもしくはMgが添加されているLN、LTまたはその混晶であり、周期的に分極反転構造が形成されていることが好ましい。また、非線形光学結晶は、導波路構造を有することが好適である。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したように、本発明によれば、大掛かりなマルチパスセルを必要とせず、入射光の波長を掃引しながら複数の吸収線を検知し、多種の吸収物質をコンパクトな装置で高感度に検出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明では、光吸収を音叉で検出する新規な光音響分光法を提供する。本発明では、強度変調であれ周波数変調であれ、用いる変調周波数は音叉の共鳴周波数とほぼ同一であるということが大きな特徴である。
【0031】
(動作原理)
光の吸収媒質は直接遷移(放射遷移)がない限り、光を照射すると光の吸収による熱H(r,t)を発生する。H(r,t)は、位置rと時間tの関数である。熱の発生は光の吸収媒質を膨張させることになるので、強度変調された光を当てると、光の変調周波数の粗密波、つまり音波が発生する。音波はそのまま圧力変化pとなるので、この音圧を測定すれば光吸収分析装置が実現できる。
【0032】
熱源H(r,t)による音波の発生理論(例えば、非特許文献3参照)によれば、圧力変化pは、次の波動方程式で表される。
【0033】
【数1】

【0034】
ここで、cは音速、γはガスの比熱比(=Cp/Cv)である。光源が正弦波で変調されている場合、式1は圧力変化pを正規音響モードpjを用いてフーリエ変換することにより解ける。圧力変化pは、すべての正規音響モードpjの和として表すことができ、下記の式が得られる。
【0035】
【数2】

【0036】
また、上記の正規音響モードpjは、次式の波動方程式の解である。
【0037】
【数3】

【0038】
音波の共鳴体を用いる場合、正規音響モードpjは、壁面では0になるので、円筒状の共鳴体では次式を満たすことになる。
【0039】
【数4】

【0040】
【数5】

【0041】
ここで、k,m,nは、軸方向、方位角方向、径方向のモード次数、
【0042】
【数6】

【0043】
はベッセル関数で、Pjは規格化定数、Lは共鳴体の長さ、Rは共鳴体の半径、αm,nは、共鳴体の壁面(r=R)で0になるという境界条件dJm/dr=0を満たすn次の根である。
【0044】
吸収媒質への入射光が共鳴体の中心軸に沿って入射し、かつ吸収が微弱であるという通常の状況においては、径方向に変化するモードのみが高次モードとして励振される。従って、角周波数ωで強度が正弦波変調された入射光によって励振される音圧は、入射光の径が共鳴体の内径より充分小さい場合は、壁面において次式で与えられる。
【0045】
【数7】

【0046】
ここでQjは、j次モードのQ値、Vrは共鳴体の内容積、Pabsは共鳴体内で吸収されたピークパワーのほぼ1/2で与えられる値である。j次の共鳴周波数は、次式で表される。
【0047】
【数8】

【0048】
ω=ωjの場合に、式(5)は次式になる。
【0049】
【数9】

【0050】
なお、
【0051】
【数10】

【0052】
のとき、
【0053】
【数11】

【0054】
である。p(ω)が測定系のS/Nを考慮した上で測定可能なレベルに達したとき、光吸収分析装置になり得ることになる。ちなみに、本実施形態において、時計のクロックに用いる水晶振動子を音叉として用いる場合、水晶振動子の共鳴周波数にて入射光強度を正弦波変調すると、原理的には式(7)の音圧に対して検出器のQ値(10,000前後)が乗算されて増幅されることになる。
【0055】
ここで、光源は、非線形光学結晶と2つの励起レーザ光とを用いた和周波発生、差周波発生、または非線形光学結晶と1つの励起レーザ光とを用いた倍波発生を行う。前者を分光応用に用いるとき、2つのレーザ光の波長λ1、λ2と、発生する出力光の波長λ3との関係は、
【0056】
【数12】

【0057】
で与えられる。ここで、波長λ1とλ2の大小関係は問わないが、便宜上、λ3>0とするため、λ1<λ2とする。λ3を効率よく発生させるためには、位相整合条件k3=k1±k2を満足する必要がある。ki(i=1,2,3)は、非線形結晶内を伝搬するレーザ光の伝搬定数であり、λiにおける非線形光学結晶の屈折率をniとすると、
【0058】
【数13】

【0059】
となる。しかし、結晶のもつ分散特性により、一般的には、位相整合条件を満足することは難しい。
【0060】
これを解決する方法として、非線形結晶を周期的に分極反転させた擬似位相整合法が用いられている。擬似位相整合法には、LiNbO3のような強誘電体結晶が有利なのであるが、これらの非線形光学定数の符号は自発分極の極性に対応する。この自発分極を、光の伝搬方向に周期Λで変調した場合、位相整合条件は、
【0061】
【数14】

【0062】
で表され、特定の波長λ1、λ2を励起光として用いた場合は、高効率な出力光λ3の発生が可能となる。
【0063】
しかしながら、波長λ1、λ2を変化させて異なる波長λ3の出力光を得ようとする場合、波長λ1、λ2に変動がある場合には、式(9)を満足することができず、λ3の強度は低下する。ここで、波長λ1、λ2、λ3、および周期Λと出力光の発生効率ηとの関係について考えると、以下のようになる。まず、位相不整合量Δkを
【0064】
【数15】

【0065】
と定義する。このとき、試料長をlとすると、差周波光の発生効率ηは、位相不整合量Δkと試料長lの積に依存し、
【0066】
【数16】

【0067】
と表される。式(11)において、ηoは、k=0の時の差周波発生効率である。このηoは、LiNbO3など結晶の非線形光学定数、励起光強度、試料長などで決まる。その発生強度は、二つの入力光強度の積に比例する。
【0068】
本実施形態で用いる光源は、上記の手法による出力光によって確保されることになる。また、擬似位相整合法によって得られるLiNbO3の波長変換素子を導波路構造とすると、光の閉じ込め効果が得られ、更に高効率な波長変換が可能となる。
【0069】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、下記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々変更可能であることは言うまでもない。
【実施例1】
【0070】
図3に、本発明の実施例1にかかる測定系の基本構成を示す。レーザ光出射手段である光源1からの出射された光を、外部変調器30により音叉32の共鳴周波数で強度(振幅)変調し、被測定物3に入射する。発振器31から出力された信号は、音叉32の共鳴周波数を有し、増幅器33Aで増幅されて、外部変調器30に入力される。変調波形は正弦波が基本であるが、基本波成分が音叉32の共鳴周波数であれば、方形波や矩形波はもとより、三角波や鋸歯状波、その他の如何なる波形でも差し支えない。
【0071】
分光測定を行う被測定物3に入射された光が、音叉32のU字状脚部の内側を通過するように配置する。すなわち、音叉32が、被測定物3に入射された光の光路と交差するように配置する。図3において、音叉32を90度左に傾け、入射された光が音叉32の股部分(U字状の底部)に当たるように、音叉32を配置してもよい。
【0072】
音叉32で検出される音響信号を、コンデンサマイクロフォンで電気信号に変換したり、圧電素子である歪みセンサで電気信号に変換し、必要に応じて前置増幅器33Bで増幅する。なお、音叉32として水晶振動子などの圧電素子を用いる場合は、前置増幅器33Bにインピ−ダンス変換器の役割を持たせる。前置増幅器33Bで増幅された信号と、発振器31から出力された信号(参照信号として用いる)とを、ロックインアンプ25に入力する。
【0073】
ロックインアンプ25は、発振器31の周波数成分、つまり音叉32の共鳴周波数成分を検出する。光源1からの出射された光の周波数を掃引させれば、被測定物3の分光が可能である。このようにして、光吸収測定装置を具体化することができる。なお、入力光を正弦波で周波数変調、または位相変調を用いることもできるが、音叉32の共鳴周波数を用いることから、強度変調を行うものとする。また、LDを用いる場合には直接変調も可能ではあるが、望ましくは外部変調を行う。前置増幅器33Bで増幅された信号として得られる出力波形は微分波形になる。
【実施例2】
【0074】
図4に、本発明の実施例2にかかる測定系の基本構成を示す。実施例2の構成は、実施例1の構成に加えて、音叉32の共鳴周波数近傍の共鳴振動で共振する共鳴器35を配置している。共鳴器35は、被測定物3に入射された光の光路と音叉32が交差する点を内挿するように配置する。例えば、図4では、両端開放型の円筒形状の共鳴器35が2つ示されている。被測定物3に入射された光の光軸を、円筒の中心軸とし、音叉32を挟んで共鳴器35を配置する。共鳴器35を、1つの円筒とし、円筒の中央にスリットを設け、音叉32を挿入する構成としてもよい。
【0075】
例えば、共鳴器35となる円筒の直径は、水晶振動子を用いる場合、音叉32の共鳴周波数の半波長λ/2に開口端補正を行い、2.5mmφとする。このとき共鳴器35の全長は、4mm程度となる。なお、現状の開口端補正に関する理論には異論が唱えられており、厳密には決着がついていないが、概略は同程度の寸法となる。また、ガスの種類、ガスの圧力の差で若干の補正が必要である(例えば、非特許文献3参照)。また、共鳴器35は両端開放型でなくてもよく、片方が閉じた閉管でもよい。この場合、円筒の直径2.5mmφでは、全長1.5mm程度となる。楽器の共鳴に用いる音叉であれば、6cmφ程度の閉管の共鳴器の場合、17〜18cm程の長さが適当である。
【0076】
式(4)が成立するためには、ガスセルなど壁面のあるもので被測定ガス3を覆うことが必要である。しかし、共鳴効果を用いなくても音圧が充分確保できている場合は、共鳴器を用いる必要はない。もちろん、ガスセルの中に共鳴器35を配置してもよい。共鳴器の形状、共鳴器として用いる管や箱が閉管、開放管にかかわらず、どのような共鳴器を用いてもよい。通常の音響振動理論で利用されている補正を用いれば、共鳴器の寸法は、ほぼ決定できる。
【実施例3】
【0077】
図5に、実施例1および2における応用例を示す。図5(a)では、被測定物3に入射された光の光軸上、音叉32の前後に平行平板反射鏡40A,40Bを配置する。平行平板反射鏡40A,40Bにより、入射光の光路と音叉32とが交差する点を挟んで対向する位置に、光の共振器を形成する。図5(b)では、音叉32の前後に凹面鏡40C,40Dを配置する。凹面鏡40C,40Dにより、音叉32を挟んで多重反射光路を形成する。いずれの場合も、音叉32を通過する複数の光路を確保できれば、通過する回数分だけ被測定物となるガスの吸収が増加するため、音叉32で検知する音響信号は強調されることになる。
【0078】
図5(c)では、音叉32を内挿する共鳴器35の前後に平行平板反射鏡40E,40Fを配置する。図5(d)では、音叉32を内挿する共鳴器35の前後に凹面鏡40G,40Hを配置する。
【実施例4】
【0079】
図6に、本発明の実施例4にかかる測定系の基本構成を示す。この測定系では、音叉32で検出される音響信号の入射光強度の波長依存性および強度揺らぎの影響を相殺する。入射光の強度は、式(7)から類推できるように、吸収測定にそのまま比例して影響する。中赤外光の強度は、例えば、LiNbO3結晶の位相整合曲線に基づくsinc関数曲線に近い波長依存性を示す。また、入射光の光路上に存在する光学部品で生じる多重反射に基づく光学フリンジなども強度変化として吸収測定に影響する。そこで、音響信号の強度補正を行って、入射光強度の波長依存性のないフラットな吸収スペクトルを得る。
【0080】
実施例4では、被測定物3の手前で強度変調された入射光を、分岐手段であるビームスプリッタ23により分岐し、光電気変換手段である受光器24に入力する。ロックインアンプ25Aには、発振器31から出力された信号(参照信号として用いる)と、受光器24から出力される電気信号を入力する。音叉32で検出される音響信号は、前置増幅器33Bを介してロックインアンプ25Bに入力する。
【0081】
なお、ビームスプリッタ23は、被測定物3を通過した後の入射光を分岐するようにしてもよい。ただし、音叉32の厚みにおいて被測定物3の吸収が、光の透過で観測できる程度の強いものである場合には、被測定物3に入射前に、ビームスプリッタ23で分岐する方が好適である。
【0082】
ロックインアンプ25A,25Bは、発振器31の周波数成分、つまり音叉32の共鳴周波数成分のみを検出し、各々の出力同士を除算して、強度補正を行う。光吸収による音響信号は入射光強度に比例している。入射光の強度信号と検出した音響信号とをそれぞれ検波するので、音響信号の入射光強度の波長依存性および強度揺らぎの影響を相殺することができる。
【実施例5】
【0083】
図7に、本発明の実施例5にかかる測定系の基本構成を示す。この測定系では、音叉を複数用いて音響信号の背景雑音を相殺する。音叉32Aで検出される信号には、被測定物3の光吸収信号のみならず背景の音響雑音が含まれる。この背景の音響雑音を除去するために、入射光と交差しない音叉32Bで検出される音響信号をロックインアンプ25に入力する。差動入力型のロックインアンプ25Cであれば、そのまま差動増幅すれば、被測定物3の光吸収信号のみを測定することができる。差動入力端子がないロックインアンプの場合は、実施例4と同様に、2台のロックインアンプを用いて、各々の出力の差を算出するか除算を実施すればよい。
【実施例6】
【0084】
図8に、本発明の実施例6にかかる測定系の基本構成を示す。この測定系では、音叉32で検出される音響信号の入射光強度の波長依存性および強度揺らぎの影響を相殺し、かつ音叉を複数用いて音響信号の背景雑音を相殺する。実施例4および実施例5は、独立の現象に関しての雑音除去であるため、単純な組み合わせによって、双方の雑音を相殺することができる。
【0085】
被測定物3の手前で強度変調された入射光を、ビームスプリッタ23により分岐して、受光器24に入力する。ロックインアンプ25Aには、発振器31から出力された信号(参照信号として用いる)と、受光器24から出力される電気信号を入力する。音叉32Aで検出される音響信号と、光入射のない音叉32Bで検出される音響信号とを、それぞれ前置増幅器33B,33Cを介して、差動入力型のロックインアンプ25Cに入力する。ロックインアンプ25Cの出力により、音響信号の背景雑音が相殺され、ロックインアンプ25A,25Cの出力を除算すれば、音響信号の入射光強度の波長依存性および強度揺らぎの影響が相殺される。なお、ロックインアンプ25Cは、2台のロックインアンプを使用して、各々の出力同士を除算してもよい。
【実施例7】
【0086】
図9に、本発明の実施例7にかかる光吸収分析装置の構成を示す。波長域1.9〜5.5μmの広い中赤外域の波長範囲において、波長を可変することができ、大気中の環境ガスの直接検知する光吸収分析装置の構成を示す。光吸収分析装置の光源は、波長λ1(λ1=0.9〜1.1μm帯とする)の半導体レーザ10の出射光と、波長λ2(λ2=1.25〜1.75μm帯すべて、あるいはこの範囲内のいずれかの波長領域で波長可変とする)の半導体レーザ11の出射光とを、合波器18で合波して、非線形光学結晶であるLiNbO3結晶21に入射する。
【0087】
半導体レーザ10は、端面10Aが90%以上の高反射膜を形成し、反対側の端面10Bは、反射率2%以下の低反射膜を形成している。半導体レーザ10の出力には、光ファイバ16が接続され、ファイバブラッググレーティング16Aを設けて波長安定性を向上させている。光ファイバ16から出射された光は、光アイソレータ14Bおよび外部変調器30を介して合波器36に入力される。
【0088】
半導体レーザ11の出力には、光ファイバアンプ15が接続され、必要に応じて出射光を増幅する。光ファイバアンプ15から出射された光は、光アイソレータ14Aおよび光ファイバ17を介して合波器36に入力される。なお、本実施例のように、差周波発生を行う場合には、2つの励起光の偏光方向が一致するとき、最大の中赤外光が発生する、従って、光ファイバ16,17として、偏波保持ファイバを使用すると、簡便で効率の良い中赤外光の発生が得られる。
【0089】
合波器18からの出射光は、光結合用のレンズ13を介して、LiNbO3結晶21に入射される。LiNbO3結晶21は、周期的な分極反転構造を有し、光導波路が形成されている。LiNbO3結晶21に対して温度制御を行い、差周波発生を行うことにより、1.9μm<λ2<5.5μmの波長範囲の中赤外光が得られ。半導体レーザ11の波長、出力を一定とし、波長λ2を変化させる場合、波長λ2の変化が、中赤外光の波長λ3の変化に対応する。発生した中赤外光の波長は、分光器により確認できる。実施例8では、素子長10mmのLiNbO3結晶バルクを用い、変換効率は全ての波長域で1%/W程度以下であった。素子長50mmの導波路素子を用いると、波長λ3が3.3μmのとき、40%/Wであった。
【0090】
なお、中赤外光の発生効率が低下するが、導波路構造を有しないLiNbO3結晶のバルク素子を用いてもよい。また、LiTaO3結晶またはその混晶、あるいはZnもしくはMgが添加されているLN、LTまたはその混晶でもよい。
【0091】
LiNbO3結晶21からの出射光は、光結合用のレンズ12とフィルタ22とを介して、被測定物3に入射される。光結合用のレンズ12,13は必ずしもレンズである必要はなく、光ファイバのバットジョイントで行ってもよい。フィルタ22は、LiNbO3結晶21から出射される中赤外光と、LiNbO3結晶21に入射された光の分離を行う。実施例7では、Geのフィルタを用いる。フィルタの代わりに、ダイクロイックミラーなどを利用してもよい。ただし、入力光の消去に関する消光比は、現状ではGeのフィルタの方が優れている。
【0092】
被測定物3への入射光を強度(振幅)変調あるいは周波数(位相)変調する用途に、外部変調器30を用いる。実施例8では、半導体レーザ10の出力側に振幅変調器を接続すする。半導体レーザ11の出力側に振幅変調器を接続してもよい。また、外部変調器30として位相変調器を用いてもよい。また、外部変調器には電気光学変調器(EO変調器)を用いているが、音響光学変調器(AO変調器)でも差し支えない。
【0093】
発振器31は、発振周波数を音叉32の共鳴周波数に合致させる。外部変調器30の駆動入力に要する電力は、増幅器33Aを用いて確保する。音叉32に水晶振動子を用いる場合は、例えばfr=33.7kHzが共振周波数となる。実施例7では、外形が6mm×1.4mm×0.2mmの水晶振動子を用いる(図9では機械的な音叉32として記載されている)。
【0094】
機械的な音叉を用いる場合には、圧力センサ、歪みセンサを音叉32に直結して音響信号を検出する。ただし、共鳴周波数が低くなり、背景雑音との分離が容易ではなくなる。また、音叉とコンデンサマイクロフォンとを用いる方法もあるが、接触部の密着性の問題を克服し、トータルな音圧−電気変換効率を確保する必要がある。変調波形は正弦波が基本であるが、振幅変調では方形波など他の波形(周波数の異なる正弦波の重なりとして扱える)であっても構わない。基本波周波数が、音叉32の共振周波数にほぼ一致していれば差し支えない。
【0095】
音叉32としての水晶振動子は、圧電素子として働くため、圧力変化が直接電気信号として得られる。前置増幅器33Bにおいて、得られた電気信号のうち、音叉32の共振周波数成分を効率よく増幅する。増幅器33Bは、Q値は約6000、利得は15dB程度である。増幅された電気信号の共振周波数に発振器の発振周波数を一致させてロックイン検出することにより、吸収線の信号強度を再現する。LiNbO3結晶21への入射光の一方を波長掃引することにより、吸収線スペクトルを得ることができる。
【0096】
なお、図4に示した実施例2のように、音響信号を効率的に取り出すために、共鳴器を用いてもよい。実施例8において、共鳴器35は、全長3.8mm、内径が2.5mmφで、中央部に音叉32を挿入するスリットが設けられている。音圧の検出感度の向上には、上述した増幅器33Bにおける電気の共振現象を利用し、共鳴器35では音波の共振現象を利用しており、2重の感度向上を図っていることになる。
【0097】
本実施形態には本来必要ではないが、被測定物3に入射された変調光のモニタとして、受光器24とオシロスコープ34とを接続している。受光器24には、例えば、PbSeなどの中赤外光用の光導電検出器を用いる。
【0098】
図10に、従来のマルチパスセルを用いた光吸収分析装置との比較を行うための測定系の構成を示す。従来の光吸収分析装置は、マルチパスセル26に被測定物を充填し、マルチパスセル26を透過した変調光を、受光器24Bで検出し、スイッチ36を介して、電気信号としてロックインアンプ25Aに出力する。実施例7にかかる光吸収分析装置は、被測定物3(図示を省略している)に入射された変調光が、音叉32を通過するように、音叉32と共鳴器35(図示を省略している)とを配置する。
【0099】
また、実施例4と同様に、強度変調された入射光を、ビームスプリッタ23により分岐して、受光器24Aに入力する。ロックインアンプ25Bには、発振器31から出力された信号(参照信号として用いる)と、受光器24Aから出力される電気信号を入力する。
【0100】
図11に、従来の光吸収分析装置と実施例7にかかる光吸収分析装置との比較結果を示す。3.3μm帯において大気中に含まれる1.78ppmのメタン(CH4)の測定結果である。図11(a)は、切替スイッチ36をA側に接続し、107mの光路長を有するマルチパスセル26の透過光を測定した結果を示す。ロックインアンプ25A,25Bの各々の出力同士を除算した結果である。図11(b)は、切替スイッチ36をB側に接続し、音叉により検出した光吸収に基づく光音響信号である。
【0101】
図11(a)の水(H2O)とメタン(CH4)の吸収線に対応して、図11(b)の出力が変化しているのがわかる。すなわち、107mのマルチパスセル26を通さなくても、大気中のメタンの吸収を測定できることがわかる。音叉の信号検出部の構成、共鳴管の最適設計により、さらにS/Nを向上させることができる。音叉の厚みが0.2mmであることを考慮すると、高感度であることがよくわかる。なお、増幅器33Bから出力された信号と受光器24Bから出力された電気信号とを、切替スイッチ36を介さずに、2台のロックインアンプに入力すれば、マルチパスセル26の透過光を変換した信号と音叉32により検出した光音響信号とを直接比較することができる。
【実施例8】
【0102】
図12に、本発明の実施例8にかかる光吸収分析装置の構成を示す。この測定系では、図9に示した実施例7の構成に加えて、図8に示した実施例6と同様に、音叉32で検出される音響信号の入射光強度の波長依存性および強度揺らぎの影響を相殺し、かつ音叉を複数用いて音響信号の背景雑音を相殺する。
【0103】
実施例8では、被測定物3を通過した後の入射光を受光器24で受光し、受光器24から出力される電気信号をロックインアンプ25Cに入力する。なお、図8で示したように、ビームスプリッタ23で分岐した光を、ロックインアンプ25Cで参照してもよい。ロックインアンプ25A,25Cは、発振器31の周波数成分、つまり音叉32Aの共鳴周波数成分のみを検出し、各々の出力同士を除算して、音響信号の入射光強度の波長依存性を補正する。
【0104】
また、背景の音響雑音を除去するために、光入射のない同じ音叉32Bで検出される音響信号をロックインアンプ25Bに入力する。ロックインアンプ25A,25Bは、発振器31の周波数成分のみを検出し、各々の出力同士を除算する。なお、ロックインアンプ25A,25Bは、差動入力型のロックインアンプに置き換えることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】従来の光吸収測定の測定原理を説明するための図である。
【図2】従来の位相敏感測定の測定原理を説明するための図である。
【図3】本発明の実施例1にかかる測定系の基本構成を示す図である。
【図4】本発明の実施例2にかかる測定系の基本構成を示す図である。
【図5】実施例1および2における応用例を示す図である。
【図6】本発明の実施例4にかかる測定系の基本構成を示す図である。
【図7】本発明の実施例5にかかる測定系の基本構成を示す図である。
【図8】本発明の実施例6にかかる測定系の基本構成を示す図である。
【図9】本発明の実施例7にかかる光吸収分析装置の構成を示す図である。
【図10】従来のマルチパスセルを用いた光吸収分析装置との比較を行うための測定系の構成を示す図である。
【図11】従来の光吸収分析装置と実施例7にかかる光吸収分析装置との比較結果を示す図である。
【図12】本発明の実施例8にかかる光吸収分析装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0106】
1 光源
3 被測定物
10,11 半導体レーザ
12,13 レンズ
14A,B アイソレータ
15 光ファイバアンプ
16,17 光ファイバ
16A ファイバブラッググレーティング
18 合波器
21 LiNbO3結晶
22 波長フィルタ
23 ビームスプリッタ
24,24A,B 受光器
25,25A〜C ロックインアンプ
26 マルチパスセル
30 外部変調器
31 発振器
32,32A,B 音叉
33A〜C 増幅器
34 オシロスコープ
35 共鳴器
36 切替スイッチ
40A,B,E,F 平行平板反射鏡
40C,D,G,H 凹面鏡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光出射手段から出射された光を被測定物質に入射して、該被測定物質の光学吸収特性を測定する光吸収測定装置において、
前記被測定物質に入射された入射光の光路と交差するように、前記被測定物質内に配置された第1の音叉と、
該第1の音叉の共鳴周波数近傍の信号で前記入射光の強度を変調する変調手段と、
前記第1の音叉の共鳴振動を第1の電気信号に変換する変換手段と、
前記第1の電気信号と前記共鳴周波数近傍の信号とをロックイン検波して、前記測定物質の光学吸収特性を測定する測定手段と
を備えたことを特徴とする光吸収測定装置。
【請求項2】
前記変調手段は、前記入射光の強度を変調することを特徴とする請求項1に記載の光吸収測定装置。
【請求項3】
前記変調手段は、前記入射光の周波数を変調することを特徴とする請求項1に記載の光吸収測定装置。
【請求項4】
前記変換手段は、前記第1の音叉の共鳴振動である音響信号を第1の電気信号に変換するコンデンサマイクロフォンであることを特徴とする請求項1、2または3に記載の光吸収測定装置。
【請求項5】
前記変換手段は、前記第1の音叉の共鳴振動を第1の電気信号に変換する歪みセンサであることを特徴とする請求項1、2または3に記載の光吸収測定装置。
【請求項6】
前記音叉は、水晶振動子であり、前記変換手段は、前置増幅器とインピーダンス変換器とを含むことを特徴とする請求項1、2または3に記載の光吸収測定装置。
【請求項7】
前記入射光の光路と前記第1の音叉とが交差する点を内挿し、前記共鳴周波数近傍の共鳴振動で共振する共鳴器をさらに備えたことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の光吸収測定装置。
【請求項8】
前記入射光の光路上に配置され、前記入射光の光路と前記第1の音叉とが交差する点を挟んで対向する反射鏡をさらに備えたことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の光吸収測定装置。
【請求項9】
前記入射光の光路上に配置され、前記入射光の一部を分岐する分岐手段と、
前記分岐された入射光を第2の電気信号に変換する光電気変換手段と、
前記第2の電気信号と前記共鳴周波数近傍の信号とをロックイン検波して、前記測定手段で測定された前記測定物質の光学吸収特性を補正する第1の補正手段と
を備えたことを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の光吸収測定装置。
【請求項10】
前記入射光の光路と交差しないように前記被測定物質内に配置された第2の音叉と、
該第2の音叉の共鳴振動を第3の電気信号に変換する変換手段と、
前記第3の電気信号と前記共鳴周波数近傍の信号とをロックイン検波して、前記測定手段で測定された前記測定物質の光学吸収特性を補正する第2の補正手段と
を備えたことを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載の光吸収測定装置。
【請求項11】
前記レーザ光出射手段は、
波長λ1のレーザ光を発生する第1のレーザと、
波長λ2のレーザ光を発生する第2のレーザと、
前記波長λ1のレーザ光と前記波長λ2のレーザ光とを入力し、1/λ1−1/λ2=1/λ3の関係にある波長λ3の差周波光を出力する非線形光学結晶と
を備えたことを特徴とする請求項1ないし10のいずれかに記載の光吸収測定装置。
【請求項12】
前記第1のレーザは、波長λ1=0.9〜1.1μmのレーザ光を発生し、
前記第2のレーザは、波長λ2=1.25〜1.75μmのレーザ光を発生し、
前記非線形光学結晶は、波長λ3=1.9〜5.7μmを有する差周波光を出力することを特徴とする請求項11に記載の光吸収測定装置。
【請求項13】
前記非線形光学結晶は、LiNbO3(LN)、LiTaO3(LT)またはその混晶、あるいはZnもしくはMgが添加されているLN、LTまたはその混晶であり、周期的に分極反転構造が形成されていることを特徴とする請求項12に記載の光吸収測定装置。
【請求項14】
前記非線形光学結晶は、導波路構造を有していることを特徴とする請求項13に記載の光吸収測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−36578(P2009−36578A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−199738(P2007−199738)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】