説明

光学センサ及びその製造方法

【課題】本発明は、微弱な非弾性散乱光を効率よく受光可能な光学センサ及び当該光学センサの製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】本願発明の光学センサは、光を出射する発光素子16と、発光素子16からの光が被検体100で散乱された非弾性散乱光と弾性散乱光の干渉光を受光する受光素子17と、が電気配線パターンの形成されている同一の基板11面に配置されている光学センサであって、受光素子17を囲むように基板11面に設けられ、干渉散乱光を受光素子17の受光面に入射させる入射窓を有する遮光壁18を備え、発光素子16、遮光壁18及び受光素子17は、順に隣接して配置されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学センサ及びその製造方法に関し、特に流体中の微小な散乱体からの非弾性散乱光を利用して当該流体の流速、流量等の情報を測定する光学センサに関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化が進み、生活習慣病等を予防するため健康を管理することについての関心が高まっている。血液の流れが悪くなることによっておきる脳血栓及び心筋梗塞などの生活習慣病を早期かつ簡便に発見するために、光学センサを利用して血流などの生体情報の測定を行う生体情報測定装置が開発されている(例えば、特許文献1及び2参照。)。
【0003】
図7及び図8に、生体情報測定装置に搭載されている従来の光学センサの一例を示す。図7は、従来の光学センサの概略構成図である。図8は、従来の光学センサの鳥瞰図である。基板11面に電気配線パターン102、103、104、105が形成されている。電気配線パターン102は受光素子17のアノード、電気配線パターン103は受光素子17のカソードに接続される。電気配線パターン102は、微小信号検出のために増幅器(図示せず)と接続されている。電気配線パターン105は発光素子16のアノード、電気配線パターン104は発光素子16のカソードに接続される。電気配線パターン105は、発光素子16の駆動回路へと接続される。
【0004】
電気配線パターン104の上に半田膜(図示せず)を介して発光素子16が搭載されている。発光素子16上には電極があり、当該電極がワイヤボンディングによって電気配線パターン105に接続されている。発光素子16の駆動回路からの電流は、当該電極から発光素子16に注入される。電気配線パターン103の上に半田膜(図示せず)を介して受光素子17が搭載されている。受光素子17上には電極があり、当該電極がワイヤボンディングによって電気配線パターン102に接続されている。
【0005】
上記光学センサ101を用いた生体情報の測定法の一例として、ドップラーシフト法を説明する。この場合、被検体は生体であり、測定対象は毛細血管中を移動している赤血球となる。発光素子16に電気配線パターン105から電流を注入すると、発光素子16が発振し、発光素子16から光が出射される。発光素子16から出射した光は、光学センサ101外の生体表面に照射され、測定対象である赤血球で散乱された非弾性散乱光が発生する。また、静止した生体組織からは弾性散乱光が発生する。この非弾性散乱光と弾性散乱光は干渉し、この干渉光を受光素子17で受光することで、生体情報を測定する。
【0006】
ここで、光学センサ101を測定対象に近づけたとき、発光素子16からの光が静止した生体組織などでも散乱する。そのため、受光素子17が受光する散乱光には、角質層などの静止した生体組織による弾性散乱光と、測定対象である赤血球による非弾性散乱光が含まれる。非弾性散乱光の振動数は血流に応じてドップラーシフトをしており、静止した生体組織による弾性散乱光と干渉を起こす。この干渉光をホモダイン検波によって検出することで、血流量、血液量、血流速度、脈拍などの生体情報を測定することができる。
【0007】
ここで、測定対象が生体の毛細血管内の赤血球である場合、受光素子17で受光する非弾性散乱光は数100pW程度と非常に微弱である。そのため、発光素子16から直接光が受光素子17へ入射すると、受光素子17からの出力信号のSN比が悪くなり、非弾性散乱光の寄与がノイズに埋もれてしまうので、血流速度の検出ができない。そこで、基板11面には、発光素子16から受光素子17への直接光を避けるための遮光壁108が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−330936号
【特許文献2】特開2004−229920号
【特許文献3】特開2007−175415号
【特許文献4】特開2008−010832号
【特許文献5】特開2008−145168号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】M.D.Stern:In vivo evaluation of microcirculation by coherent light scattering,Nature,Vol.254,pp.56−58(1975)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、従来の光学センサにおいては、発光素子と受光素子の間隔や発光素子と被検体との間隔は考慮されていなかった。また、遮光壁の形状も十分については考慮されていなかった。
【0011】
そこで、本発明は、微弱な非弾性散乱光を効率よく受光可能な光学センサ及び当該光学センサの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、発明者らは実験によって、微弱な非弾性散乱光が精度よく測定可能になるような発光素子、受光素子及び遮光壁の配置を発見した。
【0013】
具体的には、本願発明の光学センサは、光を出射する発光素子と、前記発光素子からの光が被検体の内部を移動する測定対象で散乱された非弾性散乱光および被検体内部の静止した対象から散乱された弾性散乱光の干渉光を受光する受光素子と、が電気配線パターンの形成されている同一の基板面に配置されている光学センサであって、前記受光素子を囲むように前記基板面に設けられ、前記干渉光を前記受光素子の受光面に入射させる入射窓を有する遮光壁を備え、前記発光素子、前記遮光壁及び前記受光素子は、順に隣接して配置されていることを特徴とする。
【0014】
発光素子、遮光壁及び受光素子が順に隣接して配置されているので、発光素子と受光素子を最も近づけることができる。これにより、測定対象からの微弱な非弾性散乱光を効率よく受光することができる。
また、遮光壁が発光素子からの直接光を遮光するので、発光素子及び受光素子を同一の基板面に設けることができる。これにより、光学センサの製造が容易になる。
【0015】
本願発明の光学センサでは、前記発光素子と前記被検体との距離は、1.3mm以上2.8mm以下であることが好ましい。
【0016】
本願発明の光学センサでは、前記基板面における前記発光素子と前記受光素子の距離は、500μm以下であることが好ましい。
【0017】
本願発明の光学センサでは、前記遮光壁の前記基板面への投影形状が、回転対象形状であることが好ましい。
本発明により、遮光壁の製造が容易であるとともに、遮光壁の基板面への搭載が容易になる。従って、光学センサの製造が容易になる。
【0018】
本願発明の光学センサでは、前記遮光壁は、非導電性材料からなることが好ましい。
本発明により。発光素子と受光素子を近づけることによるノイズの発生を防ぐことができる。
また、遮光壁の入射窓を被検体の表面に密着させた場合に、被検体の静電気によるノイズの発生を防ぐことができる。
【0019】
本願発明の光学センサでは、前記基板面における前記発光素子と前記受光素子の距離は、略500μmであることが好ましい。
【0020】
本願発明の光学センサでは、前記基板面と前記被検体との距離は、略2.0mmであることが好ましい。
【0021】
本願発明の光学センサでは、前記遮光壁は、円筒形であり、前記円筒形の開口部の一方が前記基板面と固定され、前記円筒形の開口部の他方が前記入射窓となっていることが好ましい。
本発明により、遮光壁の製造が容易であるとともに、遮光壁の基板面への搭載が容易になる。従って、光学センサの製造が容易になる。
また、遮光壁の入射窓全体を被検体表面に密着させやすいので、遮光壁内への外光の入射を容易に防ぐことができる。
【0022】
本願発明の光学センサでは、前記遮光壁は、前記受光素子を立体的に覆うキャップ形状であり、前記入射窓の面積が前記基板面での面積よりも小さいことが好ましい。
入射窓に対して遮光壁で囲まれた内部が広がっているので、大きな散乱角で散乱した非弾性散乱光を受光素子で受光することができる。また、入射窓の面積が小さいことで、遮光壁内への外光の入射を効率よく防ぐことができる。従って、非弾性散乱光を効率よく受光することができる。
【0023】
上記目的を達成するために、本願発明の光学センサの製造方法は、本願発明の光学センサの製造方法であって、前記発光素子、前記遮光壁及び前記受光素子を、順に隣接して配置する配置工程を有することを特徴とする。
【0024】
遮光壁が発光素子からの直接光を遮光するので、発光素子及び受光素子を同一の基板面に設けることができる。これにより、光学センサの製造が容易になる。また、発光素子、遮光壁及び受光素子が順に隣接して配置されているので、測定対象からの微弱な非弾性散乱光を効率よく受光することができる。したがって、本発明により、測定対象からの微弱な非弾性散乱光を効率よく受光することができる光学センサを容易に製造することができる。
【0025】
なお、上記各発明は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、発光素子、遮光壁及び受光素子が順に隣接して配置されるので、微弱な非弾性散乱光が精度よく測定可能な光学センサ及び当該光学センサの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本実施形態に係る光学センサを搭載した生体情報測定装置の概略構成図である。
【図2】本実施形態に係る光学センサの拡大図である。
【図3】光学センサ及び増幅器を搭載したチップの拡大図であり、(a)は側面図、(b)は上面図である。
【図4】発光素子と受光素子の中心間隔に対する増幅器からの出力電圧の変化の一例を示す。
【図5】基板面から被検体までの距離に対する散乱光強度の1次モーメント積分値の測定結果を示す。
【図6】血流量の測定結果であり、(a)は市販の血流計を用いた場合、(b)は本実施例に係る血流計を用いた場合を示す。
【図7】従来の光学センサの概略構成図である。
【図8】従来の光学センサの鳥瞰図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0029】
図1は、本実施形態に係る光学センサを搭載した生体情報測定装置の概略構成図である。本実施形態に係る光学センサを搭載した血流計は、本実施形態に係る光学センサ1と、増幅器2と、駆動演算装置3と、出力部4と、を備える。駆動演算装置3は、全体をLSIとして構成することが可能であり、光学センサ1及び増幅器2と合わせて一体として構成でき、人体等に容易に装着できる形状に構成することが可能である。
【0030】
光学センサ1は、測定対象に照射する光を出射し、測定対象からの非弾性散乱光と弾性散乱光の干渉光を受光し、当該干渉光を光電変換した電気信号を増幅器2に出力する。増幅器2は、光学センサ1からの電気信号を増幅して、駆動演算装置3に出力する。駆動演算装置3は、光学センサ1に光を出射させるとともに、増幅器2からの電気信号の演算処理を行う。この演算処理により、測定対象及び被検体からの干渉光を解析して測定結果を得る。測定対象が赤血球の場合、この測定結果は、例えば、血流量、血液量、血流速度、脈拍などの生体情報である。出力部4は、駆動演算装置3の測定結果を出力する。ここで、出力は、例えば、小型液晶ディスプレイへの表示である。
【0031】
駆動演算装置3は、AD変換器5と、駆動回路6と、デジタル信号プロセッサ(DSP)7と、電源供給部8と、インタフェース9と、を備える。駆動回路6は、光学センサ1に備わる発光素子を駆動させる。AD変換器5は、増幅器2からのアナログ電気信号をデジタル信号に変換する。DSP7は、AD変換器5からのデジタル信号を用いて演算処理を行う。電源供給部8は、光学センサ1、増幅器2及び駆動演算装置3などへの電源供給を行う。インタフェース9は、駆動演算装置3からの測定結果を出力部4へ出力する。
【0032】
なお、本実施形態に係る光学センサの例として生体情報測定装置を挙げているが、本発明に係る光学センサは生体情報測定装置のみでなく、血圧計その他の光学センサに適用できる。例えば、被検体に代えて果物をおけば、果実糖度計として機能する。これは、果実の甘さ成分である蔗糖や果糖は、血糖成分であるグルコースと類似の波長に吸収を有するからである、
【0033】
本実施形態に係る光学センサ1について図2及び図3を用いて説明する。図2は、本実施形態に係る光学センサの拡大図である。図3は、光学センサ及び増幅器を搭載したチップの拡大図であり、(a)は側面図、(b)は上面図である。光学センサは、基板11と、発光素子16と、受光素子17と、電気配線パターン12、13、14と、遮光壁18と、を備える。
【0034】
絶縁性材料からなる基板11面に電気配線パターン12、13、14が形成されている。電気配線パターン12は、受光素子17のアノードに接続されるとともに、微小信号検出のための増幅器2に接続されている(図示せず)。電気配線パターン13は、発光素子16用のアノードに接続されるとともに、駆動回路(図1に示す符号6)に接続されている。電気配線パターン14は、発光素子16と受光素子17共用カソードに接続されるとともに、駆動回路(図1に示す符号6)と増幅器2のそれぞれに接続される(図示せず)。
【0035】
発光素子16及び受光素子17は、電気配線パターン12、13、14の形成されている同一の基板11面に、配置されている。例えば、電気配線パターン14の上に、銀ペースト膜(図示せず)を介して配置される。ここで、発光素子16は、レーザダイオードであることが好ましい。さらに、基板11面に対して垂直方向に光を出射するため、発光素子16は面発光型であることが好ましい。また、受光素子17は、微弱な光を受光できることが好ましく、例えば、フォトダイオードであることが好ましい。
【0036】
受光素子17の上面にも電極があり、ワイヤボンディングによって、電気配線パターン12に接続される。発光素子16の上面にも電極があり、ワイヤボンディングによって、電気配線パターン13に接続される。電気配線パターン13には、駆動回路(図1に示す符号6)から電流が注入される。
【0037】
ここで、被検体100が毛細血管内の赤血球の場合、ドップラーシフトにより強度変調された成分は、数100pW程度と非常に微弱なため、遮光壁18を設けないと信号のSN比が悪くなる。この遮光壁18がない状態では、微弱なドップラーシフトした非弾性散乱光成分の強度がノイズに埋もれてしまい、血流速度の測定ができない。そこで、本実施形態では、基板11に遮光壁18が設けられている。
【0038】
遮光壁18は、受光素子17を囲むように基板11面に設けられ、非弾性散乱光を受光素子17の受光面17aに入射させる入射窓を有する。入射窓は、被検体100側に設けられている開口部である。遮光壁18が円筒形などの筒状の場合、開口部の一方が基板11面に固定され、開口部の他方が入射窓となる。これにより、発光素子16からの直接光や遮光壁18の外部からの外光の受光素子17への入射を防ぐことができる。また、遮光壁18は、受光素子17を立体的に覆うキャップ形状であり、入射窓の面積が基板11面での面積よりも小さいことが好ましい。これにより、測定対象からの散乱光を効率よく受光することができる。
【0039】
遮光壁18は非導電性材料からなることが好ましい。本実施形態では、発光素子16、遮光壁18及び受光素子17は隣接して配置されるので、遮光壁18に流れる電流によって発光素子16や受光素子17へのノイズが発生しやすい。例えば、入射窓が被検体100に密着した場合、被検体100に帯電していた電荷が発光素子16や受光素子17に流入する可能性がある。そのため、遮光壁18が非導電性材料からなることで、発光素子16や受光素子17へのノイズを防ぐことができる。
【0040】
発光素子16、遮光壁18及び受光素子17は、順に隣接して配置されている。例えば、図3(a)に示すように、受光素子17、遮光壁18及び発光素子16が、僅かな隙間を空けて配置される。この隙間は、受光素子17の受光面17aと発光素子16の発光面16aの距離aが最小となるように配置した場合の隙間である。このように、受光素子17の受光面17aと発光素子16の発光面16aの距離aが最小となるように配置することで、発光素子16からの光が被検体100で散乱した散乱光を受光素子17にて効率よく受光することができる。
【0041】
例えば、300μm角の発光素子16及び受光素子17と、厚さ100μmの遮光壁18を用いた場合を考える。この場合、基板11面における発光素子16と受光素子17の距離aは、最小で400μmとなる。このとき、必要な隙間がそれぞれ50μmであれば、基板11面における発光素子16と受光素子17の距離aは略500μmであることが好ましい。また、隙間を50μmよりも小さくできる場合は、基板11面における発光素子16と受光素子17の距離aは400μm以上500μm以下であることが好ましい。
【0042】
遮光壁18を基板11上に安定して保持するため、遮光壁18は、基板11上で受光素子17を囲む枠の形状をなしていることが好ましい。また、光学センサは小型が好ましく、この場合の枠の典型的な大きさは内径が1mm以上3mm以下である。この大きさの枠を製作する場合、種々の形状が考えられる。もし枠の形状が長方形の場合、周囲4辺と上下のカット及び内部のくりぬきなどを加工する必要があるが、回転対象形状にすると旋盤などで容易に作製でき、製作に必要な工程数を大幅に減らすことができ安価となる。また、遮光壁18が回転対象形状以外の形状であれば、製造工程数の部品実装際において方向を定めるために回転動作が必要である。しかし、回転対象の形状であれば、回転動作は不要であり、製造工程を減らすことで安価となる。
【0043】
そこで、遮光壁18の基板11面への投影形状は、回転対象形状であることが好ましい。回転対象形状は、例えば多角形や円形である。特に、遮光壁18は、円筒形であることが好ましい。枠の形状を円筒形にすることによって経済化を図ることができる。
【0044】
後述する実施例2にて説明するように、発光素子16と被検体100との距離は、1.3mm以上2.8mm以下であることが好ましい。また、基板11面と被検体100との距離は、略2.0mmであることが好ましい。そのため、遮光壁18の基板11面からの高さは、1.5mm以上3.0mm以下であることが好ましく、さらに略2.0mmであることが好ましい。これにより、遮光壁18の入射窓を被検体100に密着させれば、発光素子16と被検体100との距離を適切な一定の距離に保つことができるので、光学センサを用いて血流量が精度よく測定できる。
【0045】
本実施形態に係る光学センサの製造方法は、光学センサの基板11面に、発光素子16、遮光壁18及び受光素子17を、順に隣接して配置する配置工程を有することを特徴とする。例えば、電気配線パターン12、13、14が形成された基板11の上に、受光素子17、遮光壁18及び発光素子16が密着するように配置する。ここで、受光素子17、遮光壁18及び発光素子16を密着させた場合に受光素子17にノイズが生じたり、発光素子16の動作が不安定になったりする場合は、受光素子17と遮光壁18の間、又は発光素子16と遮光壁18の間、或いはそれぞれの間に、空隙を設ける。また、空隙を設ける代わりに、また、空隙と共に、非導電性材料からなる遮光壁18を用いることが好ましい。これにより、基板11面における発光素子16と受光素子17の距離aを最小にすることができる。
【0046】
ここで、本実施形態では、発光素子16と受光素子17のカソードに共通の電気配線パターン14を用いている。これにより、基板11の配線が簡略化され、光学センサの小型化、低コスト化に寄与できる。また、基板11から図1に示す駆動演算装置3への信号線の本数が低減され部品点数が削減されるため、軽量化かつ低コスト化される。さらに、発光素子16と受光素子17をダイボンディングするときの許容誤差を大きく取れるため、製造時の歩留まりの向上が見込めるため、低コスト化できる。
【0047】
次に、図3を参照しながら本実施形態に係る光学センサの動作を説明する。発光素子16に電気配線パターン13から電流を注入すると、発光素子16が発振し、光を出射する。発光素子16から出射した光は、光学センサの外部に位置する被検体100に照射される。発光素子16を被検体100に近づけた場合、被検体100の内部に位置する測定対象や被検体100の表面で光散乱が生じ、非弾性散乱光及び弾性散乱光を含む散乱光が遮光壁18内に入射して受光素子17に入射する。受光素子17は、発光素子からの光が被検体100で散乱された非弾性散乱光と弾性散乱光が干渉した干渉光を受光する。
【0048】
この干渉光には、静止した被検体100からの弾性散乱光と、被検体100内の測定対象からの非弾性散乱光の干渉成分が含まれる。ここで、被検体100内の測定対象は、例えば、毛細血管中を移動している赤血球である。この場合、被検体100である生体は静止しており、非弾性散乱光は赤血球の移動によりドップラーシフトしているので、弾性散乱光と非弾性散乱光の干渉成分が干渉する。この干渉成分を周波数解析し、パワースペクトルの1次モーメント積分を求める。これにより、血流量を測定するために最適な条件を探ることができる。
【0049】
また、被検体内部からの非弾性散乱光は微弱であり、その散乱光強度の変動成分は1%程度である。受光素子17の受光する散乱光強度が小さいと増幅器2の増幅率を10V/A程度に非常に高くする必要がある。しかし、増幅器2の増幅率を高くすると、増幅帯域が狭まるという問題が生じる。そのため、受光素子17に入射する散乱光の光信号強度を高める必要がある。このように、受光素子17からの信号強度が最大で、かつ1次モーメント積分が高い位置を探し出すことが重要である。
【実施例1】
【0050】
本実施例では、図3に示す発光素子16と受光素子17の中心間隔aの最適値を実験により求めた。実験では、発光素子16及び受光素子17に300μm角のレーザダイオード及びフォトダイオードを用い、厚さ100μmの遮光壁18を用いた。そして、発光素子16と受光素子17の中心間隔aを変化させながら、増幅器2からの出力電圧を測定した。
【0051】
発光素子16、遮光壁18及び受光素子17のすべてが接した場合、発光素子16と受光素子17の中心間隔aは300μmであった。発光素子16と受光素子17を実装するために必要な最小空間(遮光壁の両側50μm)を考慮すると、発光素子16と受光素子17の最小の中心間隔aは500μmとなる。したがって、この場合の発光素子16と受光素子17の最小の中心間隔aは500μmである。
【0052】
図4に、発光素子と受光素子の中心間隔に対する増幅器からの出力電圧の変化の一例を示す。図4において、横軸は図3に示す発光素子16と受光素子17の中心間隔、縦軸は図3に示す増幅器2からの出力電圧を示す。このデータは出力光が0.5mWの条件で正規化を行っている。図4から明らかなように、発光素子16と受光素子17の中心間隔が狭いほど増幅器2からの出力電圧は高い。このため、発光素子16と受光素子17の中心間隔が狭いほど受光素子への散乱光の信号強度は高く、発光素子16と受光素子17の中心間隔が最小となる500μmで最適な測定ができることが判明した。
【実施例2】
【0053】
本実施例では、図3に示す発光素子16と被検体100との距離bの最適値を実験により導き出した。実験では、発光素子16及び受光素子17に厚さ0.2mmのレーザダイオード及びフォトダイオードを用いた。そして、基板11と被検体100の距離cを変えながら、受光素子17で検出される散乱光の強度の時間変動のパワースペクトルの1次モーメント積分値を算出した。ここで、1次モーメント積分は、前述の通り血流量に比例するため指標となる。
【0054】
図5に、基板面から被検体までの距離に対する散乱光強度の1次モーメント積分値の測定結果を示す。図5において、横軸は基板面から被検体までの距離c、縦軸は1次モーメント積分値である。ここで、1次モーメント積分値は、受光素子17で受光した散乱光の平均強度の2乗で正規化している。グラフに示すように、距離cが2mm付近のときに1次モーメント積分値が最大となっている。このとき、発光素子及び受光素子の厚みが共に0.2mmであることから、発光素子及び受光素子と被検体100との距離(図3の符号b)が1.8mm付近の場合において血流量の最適な測定ができることが判明した。
【0055】
また、1次モーメント積分値が0.08以上のときにピークが明確に現れ始めているので、距離cが1.3mmから3.8mmの範囲で効果が現れていると考えられる。このため、距離cは、1.3mm以上3.8mm以下であること、すなわち、発光素子及び受光素子と被検体との距離(図3の符号b)が1.1mm以上3.6mm以下であることが好ましい。
【0056】
また、距離cが1.5mmと3.0mmのときに、1次モーメント積分値がほぼ同じになっているため、1次モーメント積分値は同等であるといってよい。このため、距離cが1.5mm以上3.0mm以下であること、すなわち、発光素子及び受光素子と被検体との距離(図3の符号b)が1.3mm以上2.8mm以下であることが好ましい。
【0057】
基板11面からの距離cが1.8mmのときに、1次モーメント積分値が最大となっている。そのため、発光素子16及び受光素子17と被検体100との距離bは、1.6であることが好ましい。
【実施例3】
【0058】
本実施例では、図3に示す光学センサが実際に血流量の変動を観測できるかどうかを実験により確認した。実験では、人差し指に、市販の血流計及び本実施例に係る血流計の光学センサを両面テープで接着し、手首を絞めて阻血し、その後徐々に開放した際の血流量変化を観測した。
【0059】
図6は、血流量の測定結果であり、(a)は市販の血流計を用いた場合、(b)は本実施例に係る血流計を用いた場合を示す。変化の傾向はいずれもほぼ同等である。したがって、図3に示す光学センサは、実際に血流量の変動を観測できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の光学センサ及びその製造方法は、血圧計などの生体情報測定装置を製造等する医療機器産業及び健康・美容産業に適用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1:光学センサ
2:増幅器
3:駆動演算装置
4:出力部
5:AD変換器
6:駆動回路
7:DSP
8:電源供給部
9:インタフェース
11:基板
12、13、14:電気配線パターン
16:発光素子
16a:発光面の中心
17:受光素子
17a:受光面の中心
18:遮光壁
100:被検体
101:光学センサ
102、103、104、105:電気配線パターン
108:遮光壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を出射する発光素子と、
前記発光素子からの光が被検体の内部を移動する測定対象で散乱された非弾性散乱光および被検体内部の静止した対象から散乱された弾性散乱光の干渉光を受光する受光素子と、が電気配線パターンの形成されている同一の基板面に配置されている光学センサであって、
前記受光素子を囲むように前記基板面に設けられ、前記干渉光を前記受光素子の受光面に入射させる入射窓を有する遮光壁を備え、
前記発光素子、前記遮光壁及び前記受光素子は、順に隣接して配置されていることを特徴とする光学センサ。
【請求項2】
前記発光素子と前記被検体との距離は、1.3mm以上2.8mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の光学センサ。
【請求項3】
前記基板面における前記発光素子と前記受光素子の距離は、500μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学センサ。
【請求項4】
前記遮光壁の前記基板面への投影形状が、回転対象形状であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光学センサ。
【請求項5】
前記遮光壁は、非導電性材料からなることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の光学センサ。
【請求項6】
前記基板面における前記発光素子と前記受光素子の距離は、略500μmであることを特徴とする請求項1、2、4又は5に記載の光学センサ。
【請求項7】
前記基板面と前記被検体との距離は、略2.0mmであることを特徴とする請求項1、3、4、5又は6に記載の光学センサ。
【請求項8】
前記遮光壁は、円筒形であり、前記円筒形の開口部の一方が前記基板面と固定され、前記円筒形の開口部の他方が前記入射窓となっていることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の光学センサ。
【請求項9】
前記遮光壁は、前記受光素子を立体的に覆うキャップ形状であり、前記入射窓の面積が前記基板面での面積よりも小さいことを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の光学センサ。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の光学センサの製造方法であって、
前記発光素子、前記遮光壁及び前記受光素子を、順に隣接して配置する配置工程を有することを特徴とする光学センサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−200970(P2010−200970A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−49702(P2009−49702)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名:日本光学会(社団法人応用物理学会) 刊行物名:「日本光学会年次学術講演会OPTICS & PHOTONICS JAPAN2008講演予稿集」 刊行物発行年月日:平成20年11月4日
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】