説明

光学式距離計測装置、光学式距離計測装置の距離計測方法および距離計測用プログラム

【課題】低コストで製造することが可能な光学式距離計測装置を提供すること。
【解決手段】光学式距離計測装置1は、所定のパターンを断続的に投射するパターン投射装置2と、イメージセンサにより撮像を行う1台の撮像装置3と、制御装置4を備える。撮像装置3はパターン投射装置2が被写体に所定の投射パターンを投射した状態で撮像を行って第1画像データを取得するとともに、被写体に対して所定の投射パターンが投射されていない状態で撮像を行なって第2画像データを取得する。制御装置4は、第1画像メモリ13aに展開された第1画像データと第2画像メモリ13bに展開された第2画像データの差分から、所定の投射パターンの反射光のみを含む第3画像データを抽出し、第3画像データの画素間の自己相関係数R(x,y)を各画素P(x,y)について算出し、各画素P(x,y)の自己相関係数R(x,y)に基づいて、被写体までの距離を取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イメージセンサによって被写体を撮像して得た画像データに基づいて、被写体までの距離を計測する光学式距離計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
このような光学式距離計測装置の距離計測方法としては、特許文献1に記載のステレオ画像法、特許文献2に記載の空間コード化法、特許文献3に記載の光伝播時間計測法などが知られている。ステレオ画像法は、所定間隔で配置された2台以上の撮像装置で被写体を撮像して得た複数の画像データから三角測量の原理で被写体までの距離を計測する。空間コード法は、白黒の投射パターンを、パターンを変化させながら被写体に複数回投射して、被写体上に点滅で形成されるコードに基づいて被写体までの距離を計測する。光伝播時間計測法は、パルス状の光を照射し、この照射光が物体で反射してイメージセンサで受光するまでの時間に基づいて被写体までの距離を計測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−114168号公報
【特許文献2】特開2007−315864号公報
【特許文献3】特開2002−22425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、ステレオ画像法を用いて被写体までの距離を計測する場合には、複数台の撮像装置を搭載する必要がある。空間コード化法を用いて被写体までの距離を計測する場合には、投射パターンを変化させながら投射するパターン投射装置を搭載する必要がある。光伝播時間計測法を用いて被写体までの距離を計測する場合には、被写体との距離が近いときに極めて短い時間を計測する必要があるので、例えば、1画素に2個の光電変換素子を備えており、これらの光電変換素子から時間差で検出される光量の差分に基づいて時間を計測可能な特殊なイメージセンサを搭載する必要がある。従って、これらの各方法を用いて被写体までの距離を計測する場合には、光学式距離計測装置の製造コストを抑制することが難しいという問題がある。
【0005】
本発明の課題は、この点に鑑みて、低コストで製造することが可能な光学式距離計測装置を提供することにある。また、このような光学式距離計測装置に用いられる距離計測方法および距離計測用プログラムを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の光学式距離計測装置は、
光源、および、所定の投射パターンを被写体に投射するために前記光源からの光線の一部分を透過あるいは反射する素子を備え、前記投射パターンを前記被写体に断続的に投射するパターン投射装置と、
イメージセンサを備え、前記所定の投射パターンが投射されたときに前記被写体を撮像して第1画像データを取得するとともに、前記所定の投射パターンが投射されていないときに前記被写体を撮像して第2画像データを取得する撮像装置と、
前記第1画像データと前記第2画像データとの差分から前記所定の投射パターンの反射光のみを含む第3画像データを取得する差分画像データ抽出部と、
前記第3画像データの画素間の自己相関係数を予め定めた所定の画素について算出する自己相関係数取得部と、
前記所定の画素の自己相関係数に基づいて、前記被写体までの距離を取得する距離取得部とを有することを特徴とする。
【0007】
本発明の発明者らは、被写体に投射した所定の投射パターンの反射光を撮影した第3画像データの各画素について求めた画素間の自己相関係数と、各画素に対応する被写体までの距離との間に相関関係があり、画素の自己相関係数に基づいて被写体までの距離を取得できることを見出した。本発明によれば、一つの視点から被写体を撮像して得られる第1画像データおよび第2画像データに基づいて距離を計測できるので、撮像装置が1台で済む。また、第1画像データおよび第2画像データを取得するために、被写体に投射パターンを投射した状態と、被写体にパターンを投射しない状態とを形成すればよく、基本的には投射パターン自体を変化させる必要がない。よって、パターン投射装置を簡易な構成とすることができる。さらに、撮像に際して特殊なイメージセンサを用いる必要がなく、汎用のイメージセンサを用いることができる。従って、光学式距離計測装置の製造コストを抑えることができる。なお、所定の投射パターンを被写体に投射するために前記光源からの光線の一部分を透過あるいは反射する素子としては、フォトマスク、透過型の液晶パネル、反射型の液晶パネル、デジタル・マイクロミラー・デバイスなどの空間変調素子がある。また、パターン投射装置は、これらの素子によって固定された投射パターンを投射するだけではなく、必要に応じて投射パターンを変化させても構わない。さらに、所定の画素としてすべての画素に関して自己相関係数を算出してもよいが、被測定物の大きさによっては代表点のみの距離を算出してもよく、その場合は離散的な画素について自己相関係数を演算してもよい。
【0008】
本発明において、画素の自己相関係数に基づいて、前記被写体までの距離を取得するためには、前記第3画像データの画素の自己相関係数と被写体までの距離とを対応付けた形態で記憶保持しているテーブルを有し、前記距離取得部は、前記画素の自己相関係数に基づいて前記テーブルを参照して、前記被写体までの距離を取得することが望ましい。
【0009】
本発明において、前記光源からの投射光を前記被写体に導くとともに、前記被写体からの反射光を前記イメージセンサに導く光学素子を有し、前記光学素子から前記被写体に至る前記投射光の光路と前記被写体から前記光学素子に至る前記反射光の光路とは共通であり、前記パターン投射装置による投射照明画角と前記撮像装置による撮像画角とは、同一であることが望ましい。このようにすれば、パターン投射装置から被写体に至る投射光の光路の一部と、被写体から撮像装置に至る反射光の光路の一部とが共通の光路となっているので、装置を小型化することが容易となる。また、投射照明画角と撮像画角とが同一なので第1画像データを取得する際に被写体に影が発生することを抑制できる。従って、所定の投射パターンの反射光のみを含む第3画像データを精度よく抽出することができる。
【0010】
本発明において、前記イメージセンサは、インターレース走査方式であり、前記パターン投射装置は、前記所定の投射パターンを前記イメージセンサの奇数フィールドおよび前記偶数フィールドのいずれか一方に同期させて投射し、前記撮像装置は、前記奇数フィールドおよび偶数フィールドのうちのいずれか一方で前記第1画像データを取得し、いずれか他方で前記第2画像データを取得することが望ましい。このようにすれば、CCDイメージセンサなどを用いて、第1画像データおよび第2画像データをほぼリアルタイムに取得することが可能となる。
【0011】
本発明において、前記イメージセンサは、2次元イメージセンサを前提としているが、被測定物の形状や移動がある特定された方向に限定されているのであれば1次元イメージセンサであってもよい。1次元イメージセンサを用いれば、装置の製造コストをより抑制することができ、高速走査も可能となる。
【0012】
本発明において、前記光源は、近赤外線を放射することが望ましい。すなわち、パターン投射装置が波長0.7μm〜1.1μmの範囲の赤外域の光線を用いて所定の投射パターンを被写体に投射すれば、被写体となっている人間、あるいは、被写体の近傍に位置する人間に投射パターンの投射を意識させることなく被写体までの距離を計測することができる。
【0013】
本発明において、前記パターン投射装置は、光軸方向に前記素子を移動させるフォトマスク移動機構を備えていることが望ましい。このようにすれば、光源からの光量を2次元的に変化させる素子を移動させて投射パターンの結像点の位置を変化させることができるので、第1画像データの取得時における距離に対する感度を調整することができる。
【0014】
次に、本発明は、光学式距離計測装置の距離計測方法であって、
被写体に対して所定の投射パターンを投射した状態でイメージセンサにより撮像を行って第1画像データを取得するとともに、前記被写体に対して前記所定の投射パターンを投射していない状態で前記イメージセンサによる撮像を行なって第2画像データを取得する画像取得工程と、
前記第1画像データと前記第2画像データの差分から、前記所定の投射パターンの反射光のみを含む第3画像データを抽出する差分画像抽出工程と、
前記第3画像データの画素間の自己相関係数を予め定めた所定の画素について算出する自己相関係数算出工程と、
前記画素の自己相関係数に基づいて、前記被写体までの距離を取得する距離取得工程とを含むことが望ましい。
【0015】
本発明によれば、一つの視点から被写体を撮像して得られる第1画像データおよび第2画像データに基づいて距離を計測できるので、撮像装置が1台で済む。また、第1画像データおよび第2画像データを取得するために、被写体に投射パターンを投射した状態と、被写体にパターンを投射しない状態とを形成すればよく、基本的に投射パターン自体を変化させる必要がない。よって、パターン投射装置を簡易な構成とすることができる。さらに、撮像に際して特殊なイメージセンサを用いる必要がなく、汎用のイメージセンサを用いることができる。従って、光学式距離計測装置の製造コストを抑えることができる。
【0016】
次に、本発明は、上記の距離計測方法によって被写体までの距離を計測する光学式距離計測装置において、
光源、および、所定の投射パターンを被写体に投射するために前記光源からの光線の一部分を透過あるいは反射する素子を備え、前記投射パターンを前記被写体に断続的に投射するパターン投射装置と、
イメージセンサを備え、前記所定の投射パターンが投射されたときに前記被写体を撮像して第1画像データを取得するとともに、前記所定の投射パターンが投射されていないときに前記被写体を撮像して第2画像データを取得する撮像装置と、
前記撮像装置に接続されており、前記撮像装置で取得された前記第1画像データおよび前記第2画像データを記憶保持するための画像メモリを備えるコンピュータと、
前記コンピュータに、前記差分画像抽出工程、前記自己相関係数算出工程、および前記距離取得工程を行わせる距離計測用プログラムとを有することを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、撮像装置により取得された第1画像データおよび第2画像データをコンピュータによって画像処理して、被写体までの距離を取得する。画像処理および距離の取得に専用の制御装置を用いる必要がないので、装置の製造コストを更に抑えることができる。
【0018】
次に、本発明は、上記の光学式距離計測装置の距離計測用のプログラムとすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、1台の撮像装置によって取得した画像データに基づいて被写体までの距離を計測できる。また所定のパターンを被写体に投射するパターン投射装置を簡易な構成とすることができる。さらに、画像データの取得に汎用のイメージセンサを用いることができる。従って、装置の製造コストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を適用した光学式距離計測装置の概略構成図である。
【図2】フォトマスクによって投射されるパターンの例である。
【図3】撮像装置のCCDイメージセンサの垂直同期信号とパターン投射装置の光源を点滅させるための制御信号とを示すタイミングチャートである。
【図4】自己相関係数の算出方法を説明するための第3画像データの模式図である。
【図5】画素の自己相関係数と被写体までの距離との関係を示すグラフである。
【図6】光学式距離計測装置の距離計測方法を示す概略フローチャートである。
【図7】第1画像データ、第2画像データ、第3画像データ、および、距離画像データの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、図面を参照して、本発明を適用した光学式距離計測装置の実施の形態を説明する。
【0022】
(全体構成)
図1は本発明を適用した光学式距離計測装置の概略構成図である。光学式距離計測装置1は、被写体100に対して所定の投射パターンを断続的に投射するパターン投射装置2と、撮像装置3と、パターン投射装置2および撮像装置3を駆動制御するとともに、撮像装置3が取得した画像データを演算処理して被写体100までの距離Dを算出する制御装置4を備えている。なお、本例の被写体は円柱100aと壁100bである。
【0023】
パターン投射装置2は、光源5として波長0.85μmの近赤外線を射出する発光素子(LED)を備えている。また、光源5から被写体100に向かう投射光の光路上に、所定の投射パターンを投射するためのフォトマスク(光源からの光線の一部分を透過する素子)6、プリズム(光学素子)7、および、対物レンズ8を備えている。
【0024】
図2は、フォトマスク6によって投射されるパターンの一例である。図2に示すように、フォトマスク6は光源5から放出される投射光を部分的に通過させるランダムなパターンを備えている。フォトマスク6はピエゾ素子を備えるフォトマスク移動機構9によって光軸方向に移動可能とされている。
【0025】
撮像装置3は、撮像素子として、インターレース走査方式のCCDイメージセンサ10を搭載している。また、CCDイメージセンサ10と被写体100との間の光路上に、プリズム7と対物レンズ8を備えている。撮像装置3は、パターン投射装置2との間でプリズム7および対物レンズ8を共有している。
【0026】
プリズム7は2個の三角プリズム7a、7bを張り合わせて形成されており、張り合わせ面7cには、パターン投射装置2の光源5からの投射光を透過して被写体100に導くとともに、被写体100からの反射光を投射光の光路とは異なる方向に反射してCCDイメージセンサ10に導く光学特性を備える薄膜が形成されている。これにより、プリズム7から対物レンズ8を介して被写体100に至る投射光の光路と被写体100から対物レンズ8を介してプリズム7に至る反射光の光路が共通となっている。なお、パターン投射装置2による投射照明画角と撮像装置3による撮像画角とは、同一であり、重なっている。
【0027】
制御装置4は、ドライバ11を介してパターン投射装置2の光源5を駆動制御すると共に、撮像装置3のCCDイメージセンサ10を駆動制御する駆動制御部12を備えている。また、制御装置4は、被写体100の撮像によりCCDイメージセンサ10が取得した画像データを一時的に記憶保持する画像メモリ13を備えている。さらに、制御装置4は、差分画像データ抽出部14、自己相関係数取得部15、距離取得部16およびテーブル記憶部17を有している。
【0028】
図3は、撮像装置3のCCDイメージセンサ10の垂直同期信号と、パターン投射装置2の光源5を点滅させるための制御信号とを示すタイミングチャートである。図3に示すように、駆動制御部12は、光源5を駆動制御して、所定の投射パターンをCCDイメージセンサ10の奇数フィールドに同期させて投射する。また、駆動制御部12は、CCDイメージセンサ10を駆動制御して、投射パターンが投射された状態で被写体100を撮像して得られる第1画像データを奇数フィールドに取得するとともに、所定の投射パターンが投射されていない状態で被写体100を撮像して得られる第2画像データを偶数フィールドに取得する。さらに、駆動制御部12は撮像装置3を駆動制御して、第1画像データおよび第2画像データを撮像装置3から制御装置4に転送させる。
【0029】
画像メモリ13は、第1画像データを2次元展開した状態で記憶保持する第1画像メモリ13aと、第2画像データを2次元展開した状態で記憶保持する第2画像メモリ13bを備えている。第1画像メモリ13aに展開される第1画像データ、および、第2画像メモリ13bに展開される第2画像データは、CCDイメージセンサ10による撮像に伴って逐次に更新される。なお、第2メモリに展開された第2画像データは、光学式距離計測装置1に接続されているモニタ18に逐次に出力される。
【0030】
差分画像データ抽出部14は、第1画像メモリ13aに2次元展開されている第1画像データと第2画像メモリ13bに2次元展開されている第2画像データの差分を、所定の投射パターンの反射光のみを含む第3画像データとして抽出する。本例では、第1画像データおよび第2画像データを各画素の輝度に基づいてモノクロ化した後に、第1画像データから第2画像データを差し引き、第3画像データを抽出している。
【0031】
自己相関係数取得部15は、第3画像データの画素間の自己相関係数を各画素Pについて算出する。図4は自己相関係数の算出方法を説明するための第3画像データの模式図である。自己相関係数R(x,y)は、第3画像データの座標(x,y)における画素P(x,y)を含むN×N画素を1ブロックQとして次式で定義する。

R(x,y):座標(x,y)における自己相関係数
I(x,y) :輝度
N:ブロックサイズ
<I>:ブロック内の平均輝度
【0032】
なお、Nは8画素程度が好ましく、1画素毎にこのブロックQをスライドさせてR(x,y)を求める。演算時間の制限がある場合、または距離画像として精細度が低くても良い場合には、複数の画素について自己相関係数R(x,y)を算出する毎にこのブロックQをスライドさせてもよい。なお、上式において<I>は被測定物体の反射率などによる光量を補正するための規格化因子として用いている。
【0033】
ここで、本発明の発明者らは、各画素P(x,y)について求めた画素間の自己相関係数R(x,y)と、各画素Pに対応している被写体100までの距離Dとの間に相関関係があり、各画素P(x,y)の自己相関係数R(x,y)に基づいて被写体100までの距離Dを取得できることを見出した。すなわち、パターン投射装置2が結像光学系を構成しており、投射部からある距離に結像点を設定しておけば、フォトマスクによる光点の像の大きさは距離に逆比例し、近接した物体に投射された光点は互いに重なりが生じて自己相関係数が大きくなる。ここで、数学的には自己相関係数のフーリエ変換は一義的に画像を直接フーリエ変換したものと同等である。したがって、第3画像のフーリエ変換と距離との相関関係を取ってもよい。
【0034】
図5は画素P(x,y)の自己相関係数R(x,y)と、画素P(x,y)に対応する被写体100までの距離Dとの関係を示すグラフである。図5は、光学式距離計測装置1を固定し、壁100bの前で光学式距離計測装置1から円柱100aまでの距離を2m〜40cmの間で変化させた場合における自己相関係数R(x,y)と距離Dとの関係を示している。自己相関係数R(x,y)を求める際の画素間の相関距離は4pixelである。図5に示すように、光学式距離計測装置1と円柱100aとの間の距離Dが短くなるのに伴って、各画素P(x,y)は近傍の画素Pとの相関性が高くなり、各画素P(x,y)の自己相関係数R(x,y)の値が高くなっている。また、自己相関係数R(x,y)と被写体100までの距離Dの間には対応関係があることが認められる。従って、第3画像データの各画素P(x,y)の自己相関係数R(x,y)を算出すれば、各画素P(x,y)の自己相関係数R(x,y)に基づいて被写体100までの距離Dを把握することが可能となる。
【0035】
次に、距離取得部16は、各画素P(x,y)の自己相関係数R(x,y)が算出されると、テーブル記憶部17に記憶保持されているテーブルを参照して、各画素P(x,y)に対応する被写体100の部位までの距離Dを取得する。また、距離取得部16は、各画素P(x,y)に、取得された距離Dに対応付けられた色を付ける着色処理を施して距離画像データを生成し、この距離画像データをモニタ18に出力する。
【0036】
ここで、テーブルは、第3画像データの各画素P(x,y)について算出した自己相関係数R(x,y)と、光学式距離計測装置1から各画素P(x,y)に対応する被写体100の部位までの距離Dを予め実測し、自己相関係数R(x,y)と被写体100までの距離Dを対応付けた形態で記憶保持したものである。なお、図5の円柱までの距離のグラフに示されるように、自己相関係数R(x,y)と被写体100までの距離Dとの間に線形的な対応が認められる範囲がある場合には、距離取得部16は、テーブルを参照せずに、各画素P(x,y)の自己相関係数R(x,y)に基づいて、被写体100までの距離Dを算出することができる。
【0037】
(距離計測方法)
図6は光学式距離計測装置1の距離計測方法を示す概略フローチャートである。図7(a)〜(d)はそれぞれ第1画像データ、第2画像データ、第3画像データ、および、距離画像データの説明図である。図7(a)〜(d)のそれぞれにおいて、被写体100は図1に示されている円柱100aと壁100bである。また、図7(a)〜(d)のそれぞれにおいて、左端の画像データは、円柱100aを壁100bに近い位置に配置した第1状態を撮像して得られたものであり、中央の画像データは、円柱100aを壁100bから離して第1状態よりも光学式距離計測装置1に近い位置に配置した第2状態を撮像して得られたものであり、右端の画像データは、円柱100aを壁100bからさらに離して、第2状態よりも光学式距離計測装置1に近い位置に配置した第3状態を撮像して得られたものである。
【0038】
被写体100までの距離Dを計測する際には、撮像装置3はCCDイメージセンサ10による撮像を開始し、パターン投射装置2は所定の投射パターンをCCDイメージセンサ10の奇数フィールドに同期させて投射する。これにより、CCDイメージセンサ10は、図7(a)に示すように、所定の投射パターンが投射された状態の被写体100の第1画像データを奇数フィールドに取得する。また、図7(b)に示すように、所定の投射パターンを投射していない状態の被写体100の第2画像データを偶数フィールドに取得する(ステップST1)。
【0039】
第1画像データおよび第2画像データが取得されると、差分画像データ抽出部14は、第1画像データから第2画像データを差し引いて、図7(c)に示すように、所定の投射パターンの反射光のみを含む第3画像データを抽出する(ステップST2)。
【0040】
第3画像データが抽出されると、自己相関係数取得部15は、第3画像データの画素間の自己相関係数R(x,y)を、第3画像データの各画素P(x,y)について算出する(ステップST3)。また、各画素P(x,y)の自己相関係数R(x,y)が算出されると、距離取得部16は算出された自己相関係数R(x,y)に基づいてテーブルを参照して、被写体100までの距離Dを取得する(ステップST4)。しかる後に、各画素P(x,y)に距離Dに対応する着色を施して、図7(d)に示すように距離画像データを生成して、モニタ18に出力する(ステップST5)。
【0041】
(作用効果)
本例によれば、一つの視点から被写体100を撮像して得られる第1画像データおよび第2画像データに基づいて被写体までの距離Dを計測できるので、光学式距離計測装置1は撮像装置3を1台備えればよい。また、第1画像データおよび第2画像データを取得するために、被写体100に投射パターンを投射した状態と、被写体100にパターンを投射しない状態とを形成すればよく、投射パターン自体を変化させる必要がない。よって、パターン投射装置2を簡易な構成とすることができる。さらに、撮像に際して特殊なイメージセンサを用いる必要がなく、汎用のCCDイメージセンサ10を用いることができる。従って、光学式距離計測装置1の製造コストを抑えることができる。
【0042】
また、本例によれば、各画素P(x,y)の自己相関係数R(x,y)と被写体100までの距離Dとを対応付けた形態で記憶保持しているテーブルを有しており、距離取得部16は、各画素P(x,y)の自己相関係数R(x,y)に基づいてテーブルを参照して被写体100までの距離Dを取得している。従って、フォトマスク6によって投射される投射パターンに拘わらず、被写体100までの距離Dを取得することができる。
【0043】
さらに、本例では、第3画像データの各画素P(x,y)について距離Dを取得しているので、被写体100の形状を把握することができる。
【0044】
また、本例によれば、パターン投射装置2から被写体100に至る投射光の光路の一部と、被写体100から撮像装置3に至る反射光の光路の一部とが共通の光路となっているので、光学式距離計測装置1を小型化することが容易となる。
【0045】
さらに、本例では、投射照明画角と撮像画角とが同一であり、重なっているので、第1画像データを取得する際に被写体100に影が発生することを抑制できる。従って、所定の投射パターンの反射光のみを含む第3画像データを精度よく抽出することができる。
【0046】
また、本例では、パターン投射装置2は、所定の投射パターンをCCDイメージセンサ10の奇数フィールドに同期させて投射し、撮像装置3は、奇数フィールドで第1画像データを取得し、偶数フィールドで第2画像データを取得している。従って、第1画像データおよび第2画像データを、ほぼリアルタイムに取得することが可能となる。また、第2画像データを利用して、モニタ18から被写体100の映像を出力できる。
【0047】
さらに、本例は、パターン投射装置2が光軸方向にフォトマスク6を移動させるフォトマスク移動機構9を備えている。従って、フォトマスク6を移動させて、投射パターンの結像点の位置を変化させることにより、第1画像データの取得時における距離に対する感度を調整することができる。
【0048】
また、所定の投射パターンを投射するためのパターン投射装置2の光源5は、近赤外線を放射しているので、被写体100となっている人間、あるいは、被写体100の近傍に位置する人間に投射パターンの投射を意識させることなく被写体100までの距離Dを計測することができる。
【0049】
ここで、制御装置4はパターン投射装置2および撮像装置3が接続されたコンピュータを用いて構成することができる。
【0050】
この場合には、コンピュータ上でパターン投射装置2および撮像装置3を駆動制御するための第1のプログラムを動作させて、被写体100に対して所定の投射パターンを投射した状態でイメージセンサによる撮像を行って第1画像データを取得するとともに、被写体100に対して所定の投射パターンを投射していない状態でイメージセンサによる撮像を行なって第2画像データを取得する画像取得工程を行なう。また、撮像装置3が取得した第1画像データおよび第2画像データを、撮像装置3からコンピュータに逐次に転送させて、コンピュータの画像メモリ13に記憶保持する。
【0051】
しかる後に、コンピュータ上で、被写体100までの距離Dを取得するための第2のプログラムを動作させて、当該コンピュータに、撮像装置3が取得した第1画像データと第2画像データの差分から、所定の投射パターンの反射光のみを含む第3画像データを抽出する差分画像抽出工程と、第3画像データの画素間の自己相関係数R(x,y)を当該第3画像データの各画素P(x,y)について算出する自己相関係数算出工程と、各画素P(x,y)の自己相関係数R(x,y)に基づいて、被写体100までの距離Dを取得する距離取得工程を行なわせる。なお、第1のプログラムと第2のプログラムは単一のプログラムとしてもよい。当然、プログラムをハードウエア化してゲートアレーなどに置き換えてもよい。
【0052】
(その他の実施の形態)
上記の例では、投射パターンが投射された状態で被写体100を撮像して得られる第1画像データを奇数フィールドに取得するとともに、所定の投射パターンが投射されていない状態で被写体100を撮像して得られる第2画像データを第1画像データを取得した奇数フィールドに隣接した偶数フィールドから取得しているが、第1画像データおよび第2画像データは隣接したフィールドでなく、離散したフィールドから取得しても構わない。
【0053】
また、上記の例では、撮像装置3は、撮像素子としてインターレース方式のCCDイメージセンサ10を搭載しているが、プログレッシブ走査方式のイメージセンサを用いて第1画像データおよび第2画像データを取得してもよい。また、CMOS型のイメージセンサを用いてもよい。
【0054】
さらに、上記の例では、すべての画素に関して自己相関係数を算出しているが、被測定物の大きさによっては代表点のみの距離を算出してもよく、その場合は離散的な画素について自己相関係数を演算してもよい。
【0055】
また、上記の例では光源5は0.85μmの波長の光線を放射しているが、光源5から放射される光に波長はこれに限られるものではなく、CCDイメージセンサ10、或いは、CMOS型のイメージセンサによって撮像可能な波長の近赤外線、例えば、波長0.7〜1.1μmの光線であれば適宜に選択することができる。ここで、汎用品として流通している一般的なイメージセンサであっても、その波長感度は1.0μm程度まで広がっている。なお、より波長の長い光線を利用して第1画像データを取得する場合には、パターン投射装置2の光源強度を十分なものとしておくことが望ましい。また、SN比が十分に取れる環境での使用を前提とすることが望ましい。ここで、近赤外光を用いる際は通常イメージセンサの受光面の前に配置される赤外遮断フィルターの波長選択性を適宜変更する必要があることはいうまでもない。また赤外波長に対する感度を高め、波長域を広げたイメージセンサもあり、それを用いる際にはさらに長波長の光源を使用できる。いずれの波長を選択しても同じ波長の背景光は必ず存在するのでその除去を行うために、前述した第1、第2画像データ間の差分を算出することは有効な手段である。
【0056】
さらに、フォトマスク6によって投射される所定の投射パターンは、ストライプなどの規則性のある投射パターンであってもよい。また、被写体100や撮像環境に応じて投射パターンを異なるものとしてもよい。この場合には、フォトマスク6の替わりに、透過型の液晶パネル、反射型の液晶パネル、デジタル・マイクロミラー・デバイスなどの光源からの光線の一部分を透過、あるいは、反射する空間変調素子を用い、投射パターンを変化させることができる。
【0057】
また、精度を要求されない用途においては、パターン投射装置2と撮像装置3の光路を共通にする必要はなく、それぞれ独立した光学系を用いてもよいことはいうまでもない。
【0058】
さらに、被測定物の形状や移動がある特定された方向に限定されているのであれば、CCDイメージセンサ10として、1次元CCDイメージセンサを採用してもよい。1次元CCDイメージセンサを用いれば、装置の製造コストをより抑制することができ、高速走査も可能となる。
【符号の説明】
【0059】
1・光学式距離計測装置、2・パターン投射装置、3・撮像装置、4・制御装置、5・光源、6・フォトマスク、7・プリズム、8・対物レンズ、9・フォトマスク移動機構、10・CCDイメージセンサ、11・ドライバ、12・駆動制御部、13・画像メモリ、13a・第1画像メモリ、13b・第2画像メモリ、14・差分画像データ抽出部、15・自己相関係数取得部、16・距離取得部、17・テーブル記憶部、18・モニタ、100・被写体、100a・円柱、100b・壁、D・距離、P・画素、Q・画素領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源、および、所定の投射パターンを被写体に投射するために前記光源からの光線の一部分を透過あるいは反射する素子を備え、前記投射パターンを前記被写体に断続的に投射するパターン投射装置と、
イメージセンサを備え、前記所定の投射パターンが投射されたときに前記被写体を撮像して第1画像データを取得するとともに、前記所定の投射パターンが投射されていないときに前記被写体を撮像して第2画像データを取得する撮像装置と、
前記第1画像データと前記第2画像データとの差分から前記所定の投射パターンの反射光のみを含む第3画像データを取得する差分画像データ抽出部と、
前記第3画像データの画素間の自己相関係数を予め定めた所定の画素について算出する自己相関係数取得部と、
前記所定の画素の自己相関係数に基づいて、前記被写体までの距離を取得する距離取得部とを有することを特徴とする光学式距離計測装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記第3画像データの画素の自己相関係数と被写体までの距離とを対応付けた形態で記憶保持しているテーブルを有し、
前記距離取得部は、前記画素の自己相関係数に基づいて前記テーブルを参照して、前記被写体までの距離を取得することを特徴とする光学式距離計測装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記光源からの投射光を前記被写体に導くとともに、前記被写体からの反射光を前記イメージセンサに導く光学素子を有し、
前記光学素子から前記被写体に至る前記投射光の光路と前記被写体から前記光学素子に至る前記反射光の光路とは共通であり、
前記パターン投射装置による投射照明画角と前記撮像装置による撮像画角とは、同一であることを特徴とする光学式距離計測装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のうちのいずれかの項において、
前記イメージセンサは、インターレース走査方式であり、
前記パターン投射装置は、前記所定の投射パターンを前記イメージセンサの奇数フィールドおよび前記偶数フィールドのいずれか一方に同期させて投射し、
前記撮像装置は、前記奇数フィールドおよび偶数フィールドのうちのいずれか一方で前記第1画像データを取得し、いずれか他方で前記第2画像データを取得することを特徴とする光学式距離計測装置。
【請求項5】
請求項1ないし3のうちのいずれかの項において、
前記イメージセンサは、1次元イメージセンサであることを特徴とする光学式距離計測装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のうちのいずれかの項において、
前記光源は、近赤外線を放射することを特徴とする光学式距離計測装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のうちのいずれかの項において、
前記パターン投射装置は、光軸方向に前記素子を移動させるフォトマスク移動機構を備えていることを特徴とする光学式距離計測装置。
【請求項8】
被写体に対して所定の投射パターンを投射した状態でイメージセンサにより撮像を行って第1画像データを取得するとともに、前記被写体に対して前記所定の投射パターンを投射していない状態で前記イメージセンサによる撮像を行なって第2画像データを取得する画像取得工程と、
前記第1画像データと前記第2画像データの差分から、前記所定の投射パターンの反射光のみを含む第3画像データを抽出する差分画像抽出工程と、
前記第3画像データの画素間の自己相関係数を予め定めた所定の画素について算出する自己相関係数算出工程と、
前記画素の自己相関係数に基づいて、前記被写体までの距離を取得する距離取得工程とを含むことを特徴とする光学式距離計測装置の距離計測方法。
【請求項9】
請求項8に記載の距離計測方法によって被写体までの距離を計測する光学式距離計測装置において、
光源、および、所定の投射パターンを被写体に投射するために前記光源からの光線の一部分を透過あるいは反射する素子を備え、前記投射パターンを前記被写体に断続的に投射するパターン投射装置と、
イメージセンサを備え、前記所定の投射パターンが投射されたときに前記被写体を撮像して第1画像データを取得するとともに、前記所定の投射パターンが投射されていないときに前記被写体を撮像して第2画像データを取得する撮像装置と、
前記撮像装置に接続されており、前記撮像装置で取得された前記第1画像データおよび前記第2画像データを記憶保持するための画像メモリを備えるコンピュータと、
前記コンピュータに、前記差分画像抽出工程、前記自己相関係数算出工程、および前記距離取得工程を行わせる距離計測用のプログラムとを有することを特徴とする光学式距離計測装置。
【請求項10】
請求項9に記載の光学式距離計測装置の距離計測用プログラム。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−122975(P2012−122975A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276301(P2010−276301)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(391002775)マクセルファインテック株式会社 (40)
【Fターム(参考)】