説明

光学系及びそれを有する光学機器

【課題】 色収差を始めとする諸収差を良好に補正することができる高い光学性能を有する光学系を得ること。
【解決手段】 物体側から像側へ順に、正の屈折力の前群、開口絞り、後群から構成され、前群は正の屈折力の第1レンズ群より成り、後群は前記開口絞りに隣接し合焦の際に移動する第2レンズ群を有し、第1レンズ群はn個の正レンズと1以上の負レンズを有する光学系において、材料の異常部分分散性をΔθgFとするとき、第1レンズ群に含まれる正レンズのうち少なくとも2つの正レンズの材料は、0.0100<ΔθgFなる条件式を満足し、そのうち1以上の正レンズの材料は、0.0272<ΔθgFなる条件を満足し、第1レンズ群の最も像側の屈折面は凹形状でその曲率半径Rp、第2レンズ群の最も物体側の屈折面は凹形状でその曲率半径Rn、全系の焦点距離ftotalを各々適切に設定すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学系及びそれを有する光学機器に関し、たとえば、デジタルスチルカメラ・デジタルビデオカメラ、銀塩カメラ、監視用カメラ、プロジェクター等に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラやビデオカメラ等の光学機器に用いられる撮像光学系として、Fナンバーが1.2〜2.0程度と大口径比で、焦点距離が比較的長い中焦点距離の撮像光学系が知られており、ポートレート撮影や屋内スポーツでの撮影で広く使用されている。このような撮像光学系はレンズ全長(第1レンズ面から像面までの長さ)が短く、小型で高い光学性能を有することが求められている。
【0003】
一般に撮像光学系では、レンズ全長を短縮するほど軸上色収差及び倍率色収差等の色収差が増加し、光学性能が低下してくる。特に焦点距離の長い中望遠レンズ〜望遠レンズでは、焦点距離が長くなるほど色収差が拡大してくる。またレンズ全長が短縮するにつれて色収差が多く発生してくる。
【0004】
一方、大口径比で明るい撮像光学系は被写界深度が浅く、諸収差が画質に与える影響が強い。このため明るい撮影光学系には、より高精度な収差補正が求められている。従来より大口径比で焦点距離のやや長い中望遠の撮像光学系が知られている(特許文献1)。また色収差を補正するために物体側の前群に蛍石等の異常部分分散性材料より成るレンズを配置した望遠レンズが知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−188286号公報
【特許文献2】特開2005−321574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された撮像光学系では、球面収差や像面湾曲等の諸収差を補正するために高屈折率、中分散硝材より成るレンズを多用している。また特許文献2に開示された望遠レンズでは、色収差の補正のために低屈折率低分散硝材より成るレンズを多用している。
【0007】
一般にアッベ数が40〜60程度で屈折率が1.6〜1.8程度の高屈折率中分散硝材は負の異常部分分散性を持つため正の屈折力を持つレンズとして用いると軸上色収差が悪化してくる。またアッベ数が70〜90程度で屈折率が1.4〜1.5程度の低屈折率低分散硝材は正の異常部分分散性を持つため正の屈折力を持つレンズとして用いると軸上色収差を良好に補正することができる。
【0008】
しかし、屈折率が低いため所望の屈折力を得るためにはレンズ面(屈折面)の曲率を強くしなければならず、この結果、球面収差や像面湾曲が発生しやすくなる。画面全体にわたり、高い光学性能を得るには、硝材を適切に設定し色収差の補正とともに、球面収差や像面湾曲等の諸収差を同時に良好に補正することが必要となる。
【0009】
特に大口径比で焦点距離がやや長い中焦点距離レンズでは、色収差の補正と球面収差や像面湾曲等の緒収差を良好に補正しないと、画面全体にわたり高い光学性能を得るのが困難になる。
【0010】
本発明は色収差を始めとする諸収差を良好に補正することができる高い光学性能を有する光学系及びそれを有する光学機器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の光学系は、物体側から像側へ順に、正の屈折力の前群、開口絞り、後群から構成され、前記前群は正の屈折力の第1レンズ群より成り、前記後群は前記開口絞りに隣接し合焦の際に移動する第2レンズ群を有し、前記第1レンズ群はn(nは2以上の整数)個の正レンズと1以上の負レンズを有する光学系において、材料の異常部分分散性をΔθgFとするとき、前記第1レンズ群に含まれる正レンズのうち少なくとも2つの正レンズの材料は、
0.0100<ΔθgF
なる条件式を満足し、そのうち1以上の正レンズの材料は、
0.0272<ΔθgF
なる条件を満足し、
前記第1レンズ群の最も像側の屈折面は凹形状でその曲率半径をRp、前記第2レンズ群の最も物体側の屈折面は凹形状でその曲率半径をRn、全系の焦点距離をftotalとするとき、
0.15<Rp/ftotal<0.90
−15.00<Rn/ftotal<−0.15
なる条件式を満足することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば色収差を始めとする諸収差を良好に補正することができる高い光学性能を有する光学系が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1の光学系の断面図
【図2】実施例1の光学系の無限遠合焦点時の縦収差図
【図3】実施例2の光学系の断面図
【図4】実施例2の光学系の無限遠合焦点時の縦収差図
【図5】実施例3の光学系の断面図
【図6】実施例3の光学系の無限遠合焦点時の縦収差図
【図7】実施例4の光学系の断面図
【図8】実施例4の光学系の無限遠合焦点時の縦収差図
【図9】本発明の光学機器(撮像装置)の要部概略図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の光学系及びそれを有する光学機器について説明する。本発明の光学系は、物体側から像側へ順に、正の屈折力の前群、開口絞り、後群から構成されている。前群は正の屈折力の第1レンズ群より成り、後群は開口絞りに隣接し、合焦(フォーカシング)の際に移動する第2レンズ群を有している。第1レンズ群はn(nは2以上の整数)個の正レンズと1以上の負レンズを有している。
【0015】
次に本発明の各実施例について説明する。図1は本発明の光学系の実施例1のレンズ断面図である。図2は実施例1の光学系において無限遠物体にフォーカスを合わせたとき(合焦したとき)の諸収差図である。図3は本発明の光学系の実施例2のレンズ断面図である。図4は実施例2の光学系において無限遠物体にフォーカスを合わせたときの諸収差図である。図5は本発明の光学系の実施例3のレンズ断面図である。
【0016】
図6は実施例3の光学系において無限遠物体にフォーカスを合わせたときの諸収差図である。図7は本発明の光学系の実施例4のレンズ断面図である。図8は実施例4の光学系において無限遠物体にフォーカスを合わせたときの諸収差図である。図9は本発明の光学系を有する光学機器(撮像装置)の要部概略図である。
【0017】
各実施例の光学系は焦点距離がやや長い中焦点距離レンズより成っている。ここで中焦点距離レンズとは撮影画角12°〜50°程度の撮像光学系をいう。レンズ断面図において左側が物体側(前方、拡大側)、右側が像側(後方、縮小側)である。
【0018】
OLは光学系であり、物体側から像側へ順に、正の屈折力の前群LF、開口絞りSP、正の屈折力の後群LRより成っている。jを物体側から像側へ順に数えたレンズ群の順番とする時、Lj(j=1,2,3)は第jレンズ群を表わす。また、kを物体側から像側へ数えた順にレンズの順番とする時、Gk(k=1,2,3,・・・)は第kレンズを表す。
【0019】
IPは像面であり、ビデオカメラやデジタルスチルカメラの撮像光学系として用いる際には像面はCCDセンサやCMOSセンサ等の固体撮像素子(光電変換素子)の撮像面に相当する。また銀塩フィルムカメラ用として用いる際には、像面はフィルム面に相当する。OAは光軸を表す。収差図において、d、g、C、Fは各々d線、g線、C線、F線を表す。ΔM、ΔSはそれぞれd線のメリディオナル像面、サジタル像面を表す。また歪曲収差はd線によって表している。またFnoはFナンバー、ωは半画角(度)である。
【0020】
各実施例の光学系OLにおいて前群LFは、正の屈折力の第1レンズ群L1より構成されている。第1レンズ群L1の直後の像側に開口絞りSPが配置されている。後群LRは開口絞りSPと、開口絞りSPの直後の像側に第2レンズ群L2を有している。また、後群LRは第2レンズ群L2の像側に正の屈折力の第3レンズ群L3を有する場合もある。第1レンズ群L1は2以上の正の屈折力のレンズ(正レンズ)と1以上の負の屈折力のレンズ(負レンズ)を有している。
【0021】
各実施例において、材料の異常部分分散性をΔθgFとする。このとき、第1レンズ群L1に含まれる正レンズのうち少なくとも2つの正レンズの材料は、
0.0100<ΔθgF ・・・(1)
なる条件式を満足する。更に、そのうち1以上の正レンズの材料は、
0.0272<ΔθgF ・・・(2)
なる条件を満足する。
【0022】
そして第1レンズ群L1の最も像側の屈折面は凹形状でその曲率半径をRp、第2レンズ群L2の最も物体側の屈折面は凹形状でその曲率半径をRn、全系の焦点距離をftotalとする。このとき、
0.15<Rp/ftotal<0.90 ・・・(3)
−15.00<Rn/ftotal<−0.15 ・・・(4)
なる条件式を満足している。
【0023】
次に前述の各条件式の技術的意味について説明する。
条件式(1),(2)中の材料の異常部分分散性(異常部分分散比)ΔθgFについて説明する。今、g線(435.8nm)、F線(486.1nm)、d線(587.6nm)、C線(656.3nm)に対する材料の屈折率をそれぞれNg、NF、Nd、NCとする。するとアッベ数νd、部分分散比θgF、異常部分分散性ΔθgFは以下のように表すことができる。
【0024】
νd=(Nd−1)/(NF−NC) ・・・(a)
θgF=(Ng−NF)/(NF−NC) ・・・(b)
ΔθgF=θgF−(−1.665×10−7×νd+5.213×10−5×νd−5.656×10−3×νd+7.278×10−1) ・・・(c)
条件式(1),(2)は第1レンズ群L1に含まれる正レンズの異常部分分散性を表す。条件式(1),(2)を満たす材料からなるレンズを用いることで色収差を良好に補正することが容易となる。条件式(1),(2)の下限を下回ると色収差の補正が不十分となる。
【0025】
条件式(1)を満たす材料としては、低分散で異常部分分散性を示すことで知られている蛍石等の結晶材料がある。この他、S−FPL53、S−FPL51、S−FPM2(商品名 株式会社OHARA社製)やFCD100,FCD1、FCD505(商品名 HOYA株式会社製)等の光学硝子がある。
【0026】
また、条件式(2)を満たす光学材料の具体例として、例えばアクリル系UV硬化樹脂(Nd=1.633、νd=23.0、θgF=0.68)やN−ポリビニルカルバゾール(Nd=1.696、νd=17.7、θgF=0.69)がある。尚、条件式(2)を満足する材料であれば、これらに限定するものではない。
【0027】
また、一般の硝材とは異なる特性を持つ光学材料として、下記の無機酸化物ナノ微粒子を合成樹脂中に分散させた混合体がある。TiO(Nd=2.758、νd=9.54、θgF=0.76)等がある。TiO微粒子を合成樹脂中に適切な体積比で分散させた場合、条件式(2)を満足する光学材料が得られる。なお、条件式(2)を満足する材料であれば、これらに限定するものではない。
【0028】
TiOは様々な用途で使われる材料であり、光学分野では反射防止膜などの光学薄膜を構成する蒸着用材料として用いられている。他にも光触媒、白色顔料などとして、またTiO微粒子は化粧品材料として用いられている。
【0029】
各実施例において樹脂に分散させる微粒子の平均径は、散乱などの影響を考えると2nm〜50nm程度がよく、凝集を抑えるために分散剤などを添加しても良い。微粒子を分散させる媒体材料としては、ポリマーが良く、成形型等を用いて光重合成形または熱重合成形することにより高い量産性を得ることができる。ナノ微粒子を分散させた混合体の分散特性N(λ)は、良く知られたDrudeの式から導きだされた次式によって簡単に計算することができる。
【0030】
即ち、波長λにおける屈折率N(λ)は、
N(λ)=[1+V{Npar(λ)−1}+(1−V){Npoly(λ)−1}]1/2
である。ここで、λは任意の波長、Nparは微粒子の屈折率、Npolyはポリマーの屈折率、Vはポリマー体積に対する微粒子の総体積の分率である。このように樹脂や樹脂中に微粒子を分散させた有機複合物は条件式(2)を満たす光学材料である。
【0031】
各実施例では前述の条件式(1)を満たす材料として硝子等の光学無機材料を用いており、また条件式(2)を満たす材料として前述の有機複合物を用いている。このように各実施例において第1レンズ群L1に含まれる正レンズであって、材料の異常部分分散性をΔθgFとするとき、
0.0100<ΔθgF
を満足する少なくとも2つの正レンズのうち少なくとも一つは有機複合物からなる材料である。また少なくとも一つは無機材料からなっている。
【0032】
また、各実施例の光学系では第1レンズ群L1の最も像側の屈折面は像側に凹面を向けた形状であり、第2レンズ群L2の最も物体側の屈折面は物体側に凹面を向けた形状である。
【0033】
条件式(3)及び(4)は第1レンズ群L1中の最も像側の屈折面及び、第2レンズ群L2中の最も物体側の屈折面の曲率半径に関する条件式である。これらの屈折面は開口絞りSPを挟んで向かい合った凹面となっている。これらの凹面によって像面湾曲や特にコマ収差やサジタルハロを良好に補正している。この条件式(3)、(4)の範囲を外れると諸収差特にコマ収差やサジタルハロが悪化しやすくなる。
【0034】
なお、第1レンズ群L1中の最も像側の屈折面の曲率は条件式(3)で示されるように、ある程度強いことが必要である。これと比べると第2レンズ群L2中の最も物体側の屈折面は条件式(4)で示されるように、ある程度曲率を緩くしても良く平面に近い形状を取っても良い。更に好ましくは条件式(1)乃至(4)の数値範囲を次の如く設定するのが良い。
【0035】
0.0110<ΔθgF<0.0200 ・・・(1a)
0.0400<ΔθgF ・・・(2a)
0.20<Rp/ftotal<0.80 ・・・(3a)
−1.00<Rn/ftotal<−0.20 ・・・(4a)
以上のように各実施例によれば色収差を始めとする諸収差を良好に補正することができる高い光学性能を有する光学系が得られる。尚、各実施例において更に好ましくは次の諸条件のうち1以上を満足するのが良い。
【0036】
iを物体側から数えた順とし、第1レンズ群L1の第i正レンズの材料の異常部分分散性をΔθgFi(i=1,2、・・・,n)、第1レンズ群L1の第i正レンズの材料のアッベ数をνdi(i=1,2、・・・,n)とする。第1レンズ群L1に含まれる正レンズの材料のアッベ数の最大値と最小値を各々max(νd)、min(νd)とする。第1レンズ群L1に含まれる正レンズの材料の屈折率の最小値をmin(Nd)とする。第1レンズ群L1の最も像側の屈折面と、第2レンズ群L2の最も物体側の屈折面で構成される空気レンズの焦点距離をfairとする。
【0037】
無限遠物体に合焦したときの光学系OLの開口比をFnoとする。第1レンズ群L1の焦点距離をfp、第1レンズ群L1の第i正レンズの焦点距離をfi(i=1,2、・・・,n)とする。各実施例の光学系を光電変換素子を有する光学機器(撮像装置)に用いたときの光学系の撮影半画角をωとする。このとき、以下の諸条件のうち1以上を満足するのが良い。
【0038】
5.0<(ΔθgFm1/νdm1)/(ΔθgFm2/νdm2)<50.0
・・・(5)
(ただし、m1、m2は第1レンズ群L1中の正レンズを表し、この2つは、1≦m1≦n、1≦m2≦n、0.0<ΔθgFm2/νdm2<ΔθgFm1/νdm1
なる関係式を満足している。)
2.2<max(νd)/min(νd) ・・・(6)
min(νd)<30.0 ・・・(7)
1.55<min(Ndi) ・・・(8)
−0.900<fair/ftotal<−0.100 ・・・(9)
Fno<2.5 ・・・(10)
5.00×10−4<Σ(ΔθgFi/νdi)×(fp/fi) ・・・(11)
6°<ω<25° ・・・(12)
次に各条件式の技術的意味について説明する。条件式(5)は第1レンズ群L1中の正レンズm1、m2について異常部分分散性とアッベ数の比に関する。
【0039】
条件式(5)は、第1レンズ群L1中にこのような条件式を満足する組合わせが存在する材料よりなるレンズがあることを意味する。光学系中に配置されたレンズを構成する光学材料の短波長側の色収差の補正力は前述の異常部分分散性ΔθgFに比例し、アッベ数νdに半比例する。条件式(5)は第1レンズ群L1中に配置されている正レンズのうちの2枚のレンズの材料の色収差の補正力の比を表す。
【0040】
この2枚のレンズの色収差の補正力の比を適切な範囲内とすることで、光学系中に配置されたそれぞれのレンズに対するパワー(屈折力)分担を適切にすることが容易となる。条件式(5)の範囲を満たすことで、色収差の補正を担う正レンズのパワー分担が適切となり、色収差を始め球面収差や像面湾曲やコマ収差等の諸収差を良好に補正することが容易となる。
【0041】
この条件式(5)の値が大きすぎても小さすぎても、色収差の補正を担う正レンズのどちらかに色収差の補正力が集中し過ぎる。したがって、例えばパワーをつけ過ぎてレンズ面の曲率が強く敏感度の高い、もしくは逆にパワーをつけられなさ過ぎて十分な光学作用が得られなくなってくる。
【0042】
条件式(6)は第1レンズ群L1に含まれる正レンズに使われている硝材(材料)のアッベ数νdの最大値と最小値の比を表す。この条件式(6)の範囲を満たすことで、光学系全系として色収差のバランスを保ちながら、色収差を良好に補正をすることが容易となる。このことについてさらに説明する。Fナンバー1.2〜2.0程度の小さい(明るい)光学系では被写界深度が浅いため、色収差を始め、球面収差や像面湾曲やコマ収差等の諸収差を良好に補正する必要がある。
【0043】
通常このような明るい光学系では比較的、屈折率が高い硝材を第1レンズ群中の正レンズとして用いることで、球面収差や像面湾曲等の諸収差を補正している。例えばアッベ数νdが40〜60程度で屈折率が1.6〜1.8程度の高屈折率,中分散の硝材を正レンズとして用い、アッベ数が20〜30程度で屈折率が1.6〜1.8程度の高屈折率,高分散の硝材を負レンズとして用いている。つまり、これらを組み合わせて諸収差を補正している。
【0044】
しかし、アッベ数νdが40〜60程度で屈折率が1.6〜1.8程度の硝材は異常部分分散性ΔθgFの値が負のものが多く、正レンズとして用いると色収差が悪化しやすい。特に色収差が目立ちやすい、焦点距離が比較的長い、大口径の中望遠レンズでは、このことは顕著である。色収差だけを補正するのであれば、正レンズとして、異常分散性のある蛍石等の低屈折率低分散の硝材を用いることもできる。
【0045】
しかし、その場合、屈折率が低いため所望の屈折力を得るためにレンズ面の曲率を強くしなければならず、球面収差や像面湾曲等が悪化する。また、正レンズと組み合わせていた負レンズも正レンズが低分散側にシフトしたことに伴って、低分散側にシフトしなければならない。その場合も必要な色消し条件を満たすためには負レンズのレンズ面の曲率を強くせねばならず、コマ収差やサジタルフレアが悪化する。
【0046】
そこで本発明の光学系では、第1レンズ群L1が正レンズを2枚以上有する構成とし、かつ条件式(6)を満たすように高分散な硝材と低分散な硝材を正レンズとして組み合わせて用いている。このように組み合わせることで、第1レンズ群L1中の複数の正レンズと負レンズの色収差のバランスを良好に保つことができる。
【0047】
この結果、負レンズの材料を低分散側にシフトさせることなくレンズ面の曲率も必要以上に強くせず、コマ収差やサジタルハロを良好に補正している。また、高分散硝材と比較的低分散な硝材の異常部分分散性ΔθgFの値はアッベ数νdが40〜60の中分散硝材と比べると大きく、色収差も良好に補正することができる。
【0048】
条件式(6)の範囲を外れると、全系としての色収差を良好に補正しながら、かつ球面収差や像面湾曲、コマ収差等の諸収差を良好に補正することが難しくなる。
【0049】
条件式(7)は第1レンズ群L1に含まれる正レンズに使われている硝材のアッベ数νdの最小値を表す。条件式(7)の範囲を満たす高分散硝材を正レンズとして用いることで、色収差を効果的に補正することが容易となる。条件式(7)の範囲を外れると、色収差の補正が難しくなる。
【0050】
条件式(8)は、第1レンズ群L1中の正レンズに使われている硝材の屈折率の最小値を表す。条件式(8)の範囲を満たす硝材を正レンズとして用いることで、球面収差や像面湾曲、コマ収差等を良好に補正することが容易となる。条件式(8)の範囲を外れると、これらの諸収差を良好に補正することが困難になる。
【0051】
条件式(9)は、開口絞りSPを挟んで向かい合った第1レンズ群L1の最も像側の屈折面と、第2レンズ群L2の最も物体側の屈折面で構成される、空気レンズの焦点距離と全系の焦点距離の比に関する。この空気レンズの屈折力を所望の範囲に収めることで、諸収差、特にコマ収差やサジタルハロを良好に補正することができる。条件式(9)の範囲を外れると諸収差、特にコマ収差やサジタルハロが悪化しやすい。
【0052】
条件式(10)は光学系の開口比のFナンバーに関する条件式である。条件式(10)の範囲を満たすことで、明るい光学系を得ている。
【0053】
次に条件式(11)について説明する。光学系中に配置されたレンズで発生する色収差の量は材料のアッベ数νdに反比例し、屈折力1/f(=φ)に比例する。ただしこれはアッベ数νdで表されるF線〜C線までの色収差の量である。
【0054】
通常、撮影レンズではF線よりも短波長側のg線も合わせて色収差を補正する必要がある。つまりg線〜C線の広い波長帯域に渡って色収差のバランスを取る必要がある。したがって、短波長側の色収差を良好に補正することができなければ、結局、光学系全系として発生する色収差の量は大きくなる。g線〜F線で発生する色収差の量はアッベ数νdに反比例し、部分分散比θgFと屈折力1/f(=φ)に比例する。そしてこの短波長側の色収差の補正効果は前述したようにアッベ数νdに反比例し、前述の異常部分分散性ΔθgFと屈折力1/f(=φ)に比例し以下の式で表される。
【0055】
(ΔθgF/νd)/f ・・・(d)
光学系中に配置されたレンズにおいて、上記の式(d)で表される数字の絶対値が大きければ、それだけ色収差補正効果が大きくなる。
【0056】
条件式(11)は以上のような知見によって得られたものであり、第1レンズ群L1中の正レンズの色収差の補正効果の和を表すものである。なお、条件式(11)では第1レンズ群L1中の色消し効果を表すために、各レンズの屈折力1/fを第1レンズ群L1の屈折力1/fpで割って規格化している。
【0057】
条件式(11)の範囲を満たすことで、第1レンズ群L1中の正レンズで十分な色収差の補正効果を出し、光学系全系として色収差の量を低減させることができる。条件式(11)の範囲を外れると、十分な色収差の補正効果が得られず、光学系全系として色収差の補正が不十分になるので好ましくない。
【0058】
条件式(12)は光学系を光電変換素子を有する光学機器に適用したときの好ましい撮影画角の半画角に関する。条件式(12)の範囲を満たすことで、色収差を始め、緒収差を良好に補正することが容易になる。
【0059】
以上のように各実施例によれば色収差を始め球面収差や像面湾曲等の諸収差が良好に補正された大口径比の光学系が得られる。各実施例において更に好ましくは条件式(5)乃至(11)の数値範囲を次の如く設定するのが良い。
【0060】
8.0<(ΔθgFm1/νdm1)/(ΔθgFm2/νdm2)<45.0
・・・(5a)
2.5<max(νd)/min(νd)<5.0 ・・・(6a)
10.0<min(νd)<25.0 ・・・(7a)
1.552<min(Nd)(i=1,2、・・・,n) ・・・(8a)
−0.500<fair/ftotal<−0.110 ・・・(9a)
Fno<2.2 ・・・(10a)
1.00×10−3<Σ(ΔθgFi/νdi)×(fp/fi) ・・・(11a)
6°<ω<24° ・・・(12a)
次に各実施例のレンズ構成について説明する。
【0061】
[実施例1]
図1の実施例1の光学系OLについて説明する。実施例1の光学系OLは大口径比の中焦点距離レンズである。図1の光学系OLは物体側から像側へ順に、正の屈折力の前群LF、開口絞りSP、正の屈折力の後群LRより成っている。前群LFは正の屈折力の第1レンズ群L1より成っている。後群LRは正の屈折力の第2レンズ群L2、正の屈折力の第3レンズ群L3から成っている。
【0062】
無限遠物体から近距離物体への合焦(フォーカス)は第1レンズ群L1、開口絞りSP、第2レンズ群L2を物体側に移動させて行う。なおこの際第3レンズ群L3は不動である。第1レンズ群L1は4枚の正レンズG1,G2、G3、G4と1枚の負レンズG5からなっており、第1レンズ群L1の焦点距離は201.74(mm)である(この値は後述する数値実施例をmm単位で表したときの値である。以下全て同じである。)。さらに全系の焦点距離は85.00mmであり、開口比(Fno)は1.24、半画角ωは14.28°である。
【0063】
第1レンズ群L1中で正レンズG1、G2、G3及びG4の焦点距離は、各々218.68、122.14、85.81、485.71である。また正レンズG2のR1面(物体側のレンズ面)は非球面形状である。正レンズG1の硝材はS−TIH53(商品名 株式会社OHARA社製)であり、d線の屈折率Ndは1.847、アッベ数νdは23.8である。
【0064】
また部分分散比θgFは0.620であり、異常部分分散性ΔθgFは0.0000である。正レンズG2及びG3の硝材はS−FPM2(商品名 株式会社OHARA社製)であり、d線の屈折率Ndは1.595、アッベ数νdは67.7である。また部分分散比θgFは0.544であり、異常部分分散性ΔθgFは0.0120である。
【0065】
正レンズG4の材料は前述の微粒子分散材料からなる有機複合物を硬化させたものであり、アクリルにTiO2微粒子を体積比で15%混合させたものである。この材料の屈折率Ndは1.765、アッベ数νdは15.0である。また部分分散比θgFは0.748であり、異常部分分散性ΔθgFは0.0939である。この実施例1の第1レンズ群L1中、最も像側に配置された負レンズG5の像側の屈折面の曲率半径Rpは24.60、第2レンズ群L2中、最も物体側に配置された負レンズG6の物体側の屈折面の曲率半径Rnは−27.49である。
【0066】
この実施例1において正レンズG2、G3及びG4の材料の条件式(1)に相当する数値がそれぞれ、0.0120、0.0120、0.0939でありこの条件式(1)を満たす。さらに正レンズG4の材料は条件式(2)も満たす。また条件式(3)及び(4)に相当する値はそれぞれ0.29及び−0.32であり、条件式(5)に相当する数値は35.2である。
【0067】
条件式(6)に相当するアッベ数νdの比は4.51である。条件式(7)(8)に相当する最小アッベ数及び最小屈折率は15.0及び1.595である。条件式(9)に相当する空気レンズの焦点距離を全系の焦点距離で割った値は−0.14である。さらに条件式(10)に相当するFナンバーFnoは1.24であり、色収差の補正の条件である条件式(11)に相当する量は3.31×10−3である。そして条件式(12)の半画角ωは14.28°である。
【0068】
この実施例1では第1レンズ群L1中に色収差の補正に有利な異常部分分散性が比較的大きく低分散硝材からなる正レンズと、異常部分分散性がかなり大きく高分散硝材からなる正レンズを配置している。その上で、それぞれの色収差の補正の分担を適切な範囲内に設定している。このことによって開口比1.24と大口径でありながら、図2の縦収差図からわかるように大口径の中焦点距離レンズで目立ちやすくなる色収差を始め球面収差や像面湾曲等の諸収差を良好に補正している。
【0069】
[実施例2]
図3の実施例2の光学系OLについて説明する。実施例2の光学系OLは大口径比の中焦点距離レンズである。図3の光学系OLは物体側から像側へ順に、正の屈折力の前群LF、開口絞りSP、正の屈折力の後群LRより成っている。前群LFは正の屈折力の第1レンズ群L1より成っている。後群LRは正の屈折力の第2レンズ群L2、正の屈折力の第3レンズ群L3から成っている。
【0070】
無限遠物体から近距離物体への合焦(フォーカス)は第2レンズ群L2を物体側に移動させて行う。なおこの際第1レンズ群L1、開口絞りSP、及び第3レンズ群L3は不動である。第1レンズ群L1は4枚の正レンズG1,G2、G3、G4と1枚の負レンズG5からなっており、第1レンズ群L1の焦点距離は143.34である。さらに全系の焦点距離は83.30mmであり、開口比(Fno)は1.80、半画角ωは14.56°である。
【0071】
第1レンズ群L1中で正レンズG1、G2、G3及びG4の焦点距離は、各々322.76、111.18、89.49、213.09である。正レンズG1の硝材はS−TIH53(商品名 株式会社OHARA社製)であり、d線の屈折率Ndは1.847、アッベ数νdは23.8である。また部分分散比θgFは0.620であり、異常部分分散性ΔθgFは0.0000である。
【0072】
正レンズG2の硝材はK−GFK68(商品名 株式会社住田光学ガラス社製)であり、d線の屈折率Ndは1.592、アッベ数νdは68.3である。また部分分散比θgFは0.546であり、異常部分分散性ΔθgFは0.0139である。正レンズG3の硝材はS−LAL18(商品名 株式会社OHARA社製)であり、d線の屈折率Ndは1.729、アッベ数νdは54.7である。また部分分散比θgFは0.544であり、異常部分分散性ΔθgFは−0.0027である。
【0073】
正レンズG4の材料は前述のN−ポリビニルカルバゾールを硬化させたものである。この材料の屈折率Ndは1.696、アッベ数νdは17.7である。また部分分散比θgFは0.686であり、異常部分分散性ΔθgFは0.0425である。この実施例2の第1レンズ群L1中、最も像側に配置された負レンズG5の像側の屈折面の曲率半径Rpは25.85、第2レンズ群L2中、最も物体側に配置された負レンズG6の物体側の屈折面の曲率半径Rnは−28.75である。
【0074】
この実施例2において正レンズG2及び正レンズG4の材料の条件式(1)に相当する数値がそれぞれ、0.0139、0.0425でありこの条件式(1)を満たす。さらに正レンズG4の材料は条件式(2)も満たす。また条件式(3)及び(4)に相当する値はそれぞれ0.31及び−0.35であり、条件式(5)に相当する数値は11.8である。
【0075】
条件式(6)に相当するアッベ数νdの比は3.86である。条件式(7)(8)に相当する最小アッベ数及び最小屈折率は17.7及び1.592である。条件式(9)に相当する空気レンズの焦点距離を全系の焦点距離で割った値は−0.15である。さらに条件式(10)に相当するFナンバーFnoは1.80であり、色収差の補正の条件である条件式(11)に相当する量は1.80×10−3である。そして条件式(12)の半画角ωは14.56°である。
【0076】
この実施例2では第1レンズ群L1中に色収差の補正に有利な異常部分分散性が比較的大きく低分散硝材からなる正レンズと、異常部分分散性がかなり大きく高分散硝材からなる正レンズを配置している。その上で、それぞれの色収差の補正の分担を適切な範囲内に設定している。このことによって開口比1.80と大口径でありながら、図4の縦収差図からわかるように大口径の中焦点距離レンズで目立ちやすくなる色収差を始め球面収差や像面湾曲等の諸収差を良好に補正している。
【0077】
[実施例3]
図5の実施例3の光学系OLについて説明する。実施例3の光学系OLは大口径比の中焦点距離レンズである。図5の光学系OLは物体側から像側へ順に、正の屈折力の前群LF、開口絞りSP、正の屈折力の後群LRより成っている。前群LFは正の屈折力の第1レンズ群L1より成っている。後群LRは正の屈折力の第2レンズ群L2、負の屈折力の第3レンズ群L3から成っている。
【0078】
無限遠物体から近距離物体への合焦(フォーカス)は第2レンズ群L2を物体側に移動させて行う。なおこの際第1レンズ群L1、開口絞りSP、及び第3レンズ群L3は不動である。第1レンズ群L1は4枚の正レンズG1,G2、G3、G4と1枚の負レンズG5からなっており、第1レンズ群L1の焦点距離は184.49である。さらに全系の焦点距離は132.30mmであり、開口比(Fno)は2.06、半画角ωは9.29°である。
【0079】
第1レンズ群L1中で正レンズG1、G2、G3及びG4の焦点距離は、各々496.33、145.78、112.71、180.46である。正レンズG1の硝材はS−NBH55(商品名 株式会社OHARA社製)であり、d線の屈折率Ndは1.800、アッベ数νdは29.8である。また部分分散比θgFは0.602であり、異常部分分散性ΔθgFは0.0006である。
【0080】
正レンズG2の硝材はFCD505(商品名 HOYA株式会社製)であり、d線の屈折率Ndは1.593、アッベ数νdは68.6である。また部分分散比θgFは0.545であり、異常部分分散性ΔθgFは0.0132である。正レンズG3の硝材はS−LAL14(商品名 株式会社OHARA社製)であり、d線の屈折率Ndは1.697、アッベ数νdは55.5である。また部分分散比θgFは0.543であり、異常部分分散性ΔθgFは−0.0027である。
【0081】
正レンズG4の材料は前述のアクリル系UV硬化樹脂を硬化させたものである。この材料の屈折率Ndは1.636、アッベ数νdは22.7である。また部分分散比θgFは0.689であり、異常部分分散性ΔθgFは0.0650である。この実施例3の第1レンズ群L1中、最も像側に配置された負レンズG5の像側の屈折面の曲率半径Rpは32.38、第2レンズ群L2中、最も物体側に配置された負レンズG6の物体側の屈折面の曲率半径Rnは−36.01である。
【0082】
この実施例3において正レンズG2及び正レンズG4の材料の条件式(1)に相当する数値がそれぞれ、0.0132、0.0650でありこの条件式(1)を満たす。さらに正レンズG4の材料は条件式(2)も満たす。また条件式(3)及び(4)に相当する値はそれぞれ0.24及び−0.27であり、条件式(5)に相当する数値は14.8である。
【0083】
条件式(6)に相当するアッベ数νdの比は3.02である。条件式(7)(8)に相当する最小アッベ数及び最小屈折率は22.7及び1.593である。条件式(9)に相当する空気レンズの焦点距離を全系の焦点距離で割った値は−0.12である。さらに条件式(10)に相当するFナンバーFnoは2.06であり、色収差の補正の条件である条件式(11)に相当する量は3.10×10−3である。そして条件式(12)の半画角ωは9.29°である。
【0084】
この実施例3では第1レンズ群L1中に色収差の補正に有利な異常部分分散性が比較的大きく低分散硝材からなる正レンズと、異常部分分散性がかなり大きく高分散硝材からなる正レンズを配置している。その上で、それぞれの色収差の補正の分担を適切な範囲内に設定している。このことによって開口比2.06と大口径でありながら、図6の縦収差図からわかるように大口径の中焦点距離レンズで目立ちやすくなる色収差を始め球面収差や像面湾曲等の諸収差を良好に補正している。
【0085】
[実施例4]
図7の実施例4の光学系OLについて説明する。実施例4の光学系OLは大口径比の中焦点距離レンズである。図7の光学系OLは物体側から像側へ順に、正の屈折力の前群LF、開口絞りSP、正の屈折力の後群LRより成っている。前群LFは正の屈折力の第1レンズ群L1より成っている。後群LRは正の屈折力の第2レンズ群L2から成っている。
【0086】
無限遠物体から近距離物体への合焦(フォーカス)は第1レンズ群L1、開口絞りSP、第2レンズ群L2等の全てを物体側に移動させて行う。第1レンズ群L1は3枚の正レンズG1,G2、G4と2枚の負レンズG3、G5からなっており、第1レンズ群L1の焦点距離は190.28である。さらに全系の焦点距離は51.70mmであり、開口比(Fno)は1.41、半画角ωは22.71°である。
【0087】
第1レンズ群L1中で正レンズG1、G2、及びG4の焦点距離は、各々74.35、105.97、219.80である。また正レンズG4のR1面(物体側のレンズ面)は非球面形状である。正レンズG1の硝材はS−LAH65(商品名 株式会社OHARA社製)であり、d線の屈折率Ndは1.804、アッベ数νdは46.6である。また部分分散比θgFは0.557であり、異常部分分散性ΔθgFは−0.0034である。
【0088】
正レンズG2の硝材はFCD5050(商品名 HOYA株式会社製)であり、d線の屈折率Ndは1.593、アッベ数νdは68.6である。また部分分散比θgFは0.545であり、異常部分分散性ΔθgFは0.0132である。正レンズG4の材料は前述の微粒子分散材料からなる有機複合物を硬化させたものであり、フルオレン系樹脂にTiO2微粒子を体積比で9%混合させたものである。この材料の屈折率Ndは1.757、アッベ数νdは16.1である。また部分分散比θgFは0.711であり、異常部分分散性ΔθgFは0.0613である。
【0089】
この実施例4の第1レンズ群L1中、最も像側に配置された負レンズG5の像側の屈折面の曲率半径Rpは28.15、第2レンズ群L2中、最も物体側に配置された負レンズG6の物体側の屈折面の曲率半径Rnは−15.62である。この実施例4において正レンズG2、G4の材料の条件式(1)に相当する数値がそれぞれ、0.0132、0.0613でありこの条件式(1)を満たす。さらに正レンズG4の材料は条件式(2)も満たす。また条件式(3)及び(4)に相当する値はそれぞれ0.54及び−0.30であり、条件式(5)に相当する数値は19.7である。
【0090】
条件式(6)に相当するアッベ数νdの比は4.26である。条件式(7)(8)に相当する最小アッベ数及び最小屈折率は16.1及び1.593である。条件式(9)に相当する空気レンズの焦点距離を全系の焦点距離で割った値は−0.21である。さらに条件式(10)に相当するFナンバーFnoは1.41であり、色収差の補正の条件である条件式(11)に相当する量は3.45×10−3である。そして条件式(12)の半画角ωは22.71°である。
【0091】
この実施例4では第1レンズ群L1中に色収差の補正に有利な異常部分分散性が比較的大きく低分散硝材からなる正レンズと、異常部分分散性がかなり大きく高分散硝材からなる正レンズを配置している。その上で、それぞれの色収差の補正の分担を適切な範囲内に設定している。このことによって開口比1.41と大口径でありながら、図8の縦収差図からわかるように大口径の中焦点距離レンズで目立ちやすくなる色収差を始め球面収差や像面湾曲等の諸収差を良好に補正している。
【0092】
次に本発明の光学系を用いたデジタルスチルカメラ(光学機器)の実施例を図9を用いて説明する。図9において、20はカメラ本体、21は本発明の光学系によって構成された撮影光学系である。22はカメラ本体に内蔵され、撮影光学系21によって形成された被写体像を受光するCCDセンサやCMOSセンサ等の固体撮像素子(光電変換素子)、23は固体撮像素子22によって光電変換された被写体像に対応する情報を記録するメモリである。24は液晶ディスプレイパネル等によって構成され、固体撮像素子22上に形成された被写体像を観察するためのファインダである。
【0093】
このように本発明の光学系をデジタルスチルカメラ等の光学機器に適用することにより、小型で高い光学性能を有する光学機器を実現している。
【0094】
本発明の光学系をミラーあり又はミラーレスの一眼レフカメラ交換レンズ等の撮像装置に適用することもできる。以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0095】
以下、数値実施例1〜4の光学系の具体的な数値データを示す。iは物体から数えた順序を示す。面番号iは物体側から順に数えている。Riは曲率半径(mm)、Diは第i番目と第i+1番目の面間隔(mm)である。Ndiとνdiはそれぞれd線に対する第i面と第(i+1)面との間の媒質の屈折率、アッベ数を表す。θgFiは第i面と第(i+1)面との間の媒質の部分分散値を表す。またBFはバックフォーカスであり、レンズ全長は第1レンズ面から像面までの距離を表す。
【0096】
また、非球面は面番号の後に、*の符号を付加して表している。非球面形状は、Xを光軸方向の面頂点からの変位量、hを光軸と垂直な方向の光軸からの高さ、rを近軸曲率半径、Kを円錐定数、B、C、D、E・・・を各次数の非球面係数とするとき、
【0097】
【数1】

【0098】
で表す。なお、各非球面係数における「E±XX」は「×10±XX」を意味している。群データでは設計上、開口絞りを1つの群(第2群)として表しているため、各実施例では前述した群よりも1つ多くなっている。さらに、前述の各条件式に相当する数値を表1に示す。表2に実施例1〜4で用いられている有機複合物の光学定数を示す。表3に実施例1及び4で用いている微粒子分散材料を構成するフルオレン系樹脂とアクリル系樹脂及びTiO単独の光学定数を示す。
【0099】
[数値実施例1]
単位 mm

面番号 R D Nd νd 光線有効径
1 131.811 4.83 1.84666 23.8 68.55
2 449.845 0.15 68.16
3* 48.334 13.30 1.59522 67.7 64.52
4 129.402 0.15 60.80
5 44.370 15.42 1.59522 67.7 54.65
6 294.068 0.88 1.76499 15.0 46.23
7 1408.144 2.25 1.84666 23.8 46.06
8 24.597 14.12 35.90
9(絞り) ∞ 8.99 33.98
10 -27.489 3.84 1.76182 26.5 32.92
11 132.719 10.50 1.91082 35.3 37.82
12 -43.321 0.15 39.56
13 253.916 3.58 1.90366 31.3 38.67
14 -97.609 0.99 38.53
15 198.461 1.54 1.65412 39.7 38.57
16 62.998 3.52 1.72916 54.7 38.85
17 763.404 38.35 38.88
像面 ∞

非球面データ
円錐定数(K) 4次の係数(B) 6次の係数(C) 8次の係数(D) 10次の係数(E)
第3面 0.00000E+00 -3.80413E-09 2.51918E-11 -4.18559E-14 3.29624E-17

各種データ
焦点距離 85.00
Fno 1.24
像高 21.64
レンズ全長 122.56
BF 38.35
入射瞳位置 87.06
射出瞳位置 -42.49
前側主点位置 82.69
後側主点位置 -46.65

群データ
群 始面 焦点距離 レンズ構成長 前側主点位置 後側主点位置
1 1 201.74 36.98 -117.24 -87.39
2 9 ∞ 0 0 0
3 10 70.21 18.07 19.48 14.07
4 15 282.49 5.07 -0.49 -3.45

単レンズデータ
レンズ 始面 焦点距離
1 1 218.680
2 3 122.140
3 5 85.810
4 6 485.710
5 7 -29.590
6 10 -29.590
7 11 36.910
8 13 78.400
9 15 -141.740
10 16 93.970

【0100】
[数値実施例2]
単位 mm

面番号 R D Nd νd 光線有効径
1 102.902 2.53 1.84666 23.8 46.28
2 163.192 0.15 45.96
3 43.649 5.86 1.59240 68.3 45.24
4 122.954 1.73 44.42
5 40.248 9.19 1.72916 54.7 41.11
6 94.917 1.30 1.69591 17.7 36.60
7 262.229 2.70 1.80518 25.4 36.47
8 25.845 8.06 30.72
9(絞り) ∞ 20.75 29.71
10 -28.746 2.40 1.72825 28.5 27.55
11 -137.398 1.08 29.22
12 -63.671 8.56 1.88300 40.8 29.28
13 -36.024 0.15 32.13
14 96.577 4.60 1.77250 49.6 35.77
15 -115.161 1.50 36.15
16 -135.342 1.90 1.62588 35.7 36.50
17 70.730 4.54 1.88300 40.8 37.82
18 -389.950 39.11 38.00
像面 ∞

各種データ
焦点距離 83.30
Fno 1.80
像高 21.64
レンズ全長 116.11
BF 39.11
入射瞳位置 38.08
射出瞳位置 -89.87
前側主点位置 67.59
後側主点位置 -44.19

群データ
群 始面 焦点距離 レンズ構成長 前側主点位置 後側主点位置
1 1 143.34 23.46 -44.35 -44.27
2 9 ∞ 0 0 0
3 10 76.85 16.79 20.63 15.47
4 16 762.02 6.44 9.39 5.9

単レンズデータ
レンズ 始面 焦点距離
1 1 322.760
2 3 111.180
3 5 89.490
4 6 213.090
5 7 -35.790
6 10 -50.390
7 12 82.040
8 14 68.650
9 16 -73.960
10 17 68.120

【0101】
[数値実施例3]
単位 mm

面番号 R D Nd νd 光線有効径
1 163.099 5.26 1.80000 29.8 67.97
2 272.833 3.17 66.57
3 59.399 10.80 1.59282 68.6 62.19
4 177.117 14.29 59.83
5 44.158 6.47 1.69680 55.5 48.00
6 94.800 2.50 1.63555 22.7 46.04
7 541.026 4.00 1.80518 25.4 45.90
8 32.380 9.17 38.04
9(絞り) ∞ 34.35 36.94
10 -36.014 2.50 1.69895 30.1 29.58
11 -160.612 2.52 30.88
12 -72.736 7.97 1.83481 42.7 31.36
13 -41.856 0.15 33.90
14 105.321 6.96 1.77250 49.6 36.91
15 -194.340 1.50 37.54
16 -2009.882 2.50 1.48749 70.2 37.78
17 68.030 5.33 1.83400 37.2 38.19
18 136.664 43.23 38.00
像面 ∞

各種データ
焦点距離 132.30
Fno 2.06
像高 21.64
レンズ全長 162.67
BF 43.23
入射瞳位置 76.58
射出瞳位置 -108.62
前側主点位置 93.61
後側主点位置 -89.07

群データ
群 始面 焦点距離 レンズ構成長 前側主点位置 後側主点位置
1 1 184.49 46.49 -64.44 -70.75
2 9 ∞ 0 0 0
3 10 102.4 20.09 24.58 16.84
4 16 -857.7 7.83 16.55 11.76

単レンズデータ
レンズ 始面 焦点距離
1 1 496.330
2 3 145.780
3 5 112.710
4 6 180.460
5 7 -42.930
6 10 -66.970
7 12 105.700
8 14 89.320
9 16 -134.930
10 17 156.880

【0102】
[数値実施例4]
単位 mm

面番号 R D Nd νd 光線有効径
1 43.261 4.18 1.80400 46.6 37.17
2 149.853 0.27 36.20
3 33.837 5.56 1.59282 68.6 34.13
4 68.850 2.53 31.97
5 68.154 2.04 1.69895 30.1 29.80
6 22.440 1.89 26.38
7* 34.639 0.69 1.75728 16.1 26.33
8 43.364 1.29 1.66680 33.0 26.25
9 28.154 4.96 25.12
10(絞り) ∞ 9.28 24.69
11 -15.623 1.46 1.80518 25.4 23.89
12 -166.750 7.09 1.83481 42.7 29.18
13 -24.619 0.15 31.01
14 -75.475 2.61 1.88300 40.8 31.98
15 -39.557 0.15 32.27
16 165.083 4.76 1.72916 54.7 34.75
17 -60.207 38.94 35.19
像面 ∞

非球面データ
円錐定数(K) 4次の係数(B) 6次の係数(C) 8次の係数(D) 10次の係数(E)
第7面 0.00000E+00 -2.16382E-06 8.47733E-09 -5.16134E-11 3.36180E-13

各種データ
焦点距離 51.70
Fno 1.41
像高 21.64
レンズ全長 87.84
BF 38.94
入射瞳位置 28.57
射出瞳位置 -48.99
前側主点位置 49.87
後側主点位置 -12.76

群データ
群 始面 焦点距離 レンズ構成長 前側主点位置 後側主点位置
1 1 190.28 18.45 -58.33 -54.7
2 10 ∞ 0 0 0
3 11 39.86 16.22 14.49 9.9

単レンズデータ
レンズ 始面 焦点距離
1 1 74.350
2 3 105.970
3 5 -48.760
4 7 219.800
5 8 -124.590
6 11 -21.500
7 12 33.830
8 14 91.030
9 16 61.050

【0103】
【表1】

【0104】
【表2】

【0105】
【表3】

【符号の説明】
【0106】
OL 光学系 LF 前群 LR 後群 L1 光学系の第1群
L2 光学系の第2群 L3 光学系の第3群 OA 光軸
SP 開口絞り IP 像面 d d線 g g線 C C線
F F線 ΔM メリディオナル像面 ΔS サジタル像面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側から像側へ順に、正の屈折力の前群、開口絞り、後群から構成され、前記前群は正の屈折力の第1レンズ群より成り、前記後群は前記開口絞りに隣接し合焦の際に移動する第2レンズ群を有し、前記第1レンズ群はn(nは2以上の整数)個の正レンズと1以上の負レンズを有する光学系において、
材料の異常部分分散性をΔθgFとするとき、前記第1レンズ群に含まれる正レンズのうち少なくとも2つの正レンズの材料は、
0.0100<ΔθgF
なる条件式を満足し、そのうち1以上の正レンズの材料は、
0.0272<ΔθgF
なる条件を満足し、
前記第1レンズ群の最も像側の屈折面は凹形状でその曲率半径をRp、前記第2レンズ群の最も物体側の屈折面は凹形状でその曲率半径をRn、全系の焦点距離をftotalとするとき、
0.15<Rp/ftotal<0.90
−15.00<Rn/ftotal<−0.15
なる条件式を満足することを特徴とする光学系。
【請求項2】
iを物体側から数えた順とし、前記第1レンズ群の第i正レンズの材料の異常部分分散性をΔθgFi(i=1,2、・・・,n)、前記第1レンズ群の第i正レンズの材料のアッベ数をνdi(i=1,2、・・・,n)とするとき、前記第1レンズ群中の正レンズm1、m2について、
5.0<(ΔθgFm1/νdm1)/(ΔθgFm2/νdm2)<50.0
ただし、1≦m1≦n、1≦m2≦n、0.0<ΔθgFm2/νdm2<ΔθgFm1/νdm1
なる条件式を満足する組合せが存在することを特徴とする請求項1に記載の光学系。
【請求項3】
前記第1レンズ群に含まれる正レンズの材料のアッベ数の最大値と最小値を各々max(νd)、min(νd)とするとき、
2.2< max(νd)/min(νd)
min(νd)<30.0
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1又は2に記載の光学系。
【請求項4】
前記第1レンズ群に含まれる正レンズの材料の屈折率の最小値をmin(Nd)とするとき、
1.55<min(Nd)
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光学系。
【請求項5】
前記第1レンズ群の最も像側の屈折面と、前記第2レンズ群の最も物体側の屈折面で構成される空気レンズの焦点距離をfairとするとき、
−0.900<fair/ftotal<−0.100
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光学系。
【請求項6】
無限遠物体に合焦したときの前記光学系の開口比をFnoとするとき、
Fno<2.5
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光学系。
【請求項7】
前記第1レンズ群の焦点距離をfp、iを物体側から数えた順とし、前記第1レンズ群の第i正レンズの焦点距離と材料のアッベ数を各々fi(i=1,2、・・・,n)、νdi(i=1,2、・・・,n)とするとき、
5.00×10−4<Σ(ΔθgFi/νdi)×(fp/fi)
なる条件を満足することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の光学系。
【請求項8】
前記第1レンズ群に含まれる正レンズであって、
0.0100<ΔθgF
を満足する少なくとも2つの正レンズのうち少なくとも一つは有機複合物からなる材料であり、また少なくとも一つは無機材料からなることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の光学系。
【請求項9】
光電変換素子に像を形成することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の光学系。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項の光学系と、該光学系によって形成される像を受光する光電変換素子とを備えることを特徴とする光学機器。
【請求項11】
前記光学系の撮影半画角をωとするとき、
6°<ω<25°
なる条件式を満足することを特徴とする請求項10に記載の光学機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−114133(P2013−114133A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261634(P2011−261634)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】