説明

光学装置、露光方法及び装置、並びにデバイス製造方法

【課題】簡単な構成で、又は振動を発生することなく光学素子に対する光束の照射位置を変更できる光学装置を提供する。
【解決手段】露光光が照射されるレンズ32を有する光学装置において、露光光と波長域の異なる非露光光LBAを発生する光源と、その光源で発生される非露光光LBAをレンズ32の表面の一部に照射する照射ユニット48Aと、その光源とレンズ32の表面との間に配置される音響光学変調素子52Aと、レンズ32の表面に対する非露光光LBAの照射位置を変更するために音響光学変調素子52Aを駆動するAOM駆動系27と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明光が照射される光学素子を有する光学装置、この光学装置を備えた露光装置、光学素子を用いる露光方法、並びにこの露光装置又は露光方法を用いるデバイス製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子等を製造する際に、レチクルのパターンをフォトレジストが塗布されたウエハ(又はガラスプレート等)上の各ショット領域に転写するために使用される露光装置においては、結像特性を常に所望の状態に維持するために、例えば投影光学系を構成する一部の光学素子(レンズ等)の位置等を制御することによって、その結像特性を補正する結像特性補正機構が備えられている。
【0003】
さらに、例えば2極照明(ダイポール照明)時に発生する光軸上の非点収差(センターアス)のような非回転対称な結像特性、又は例えば小さいコヒーレンスファクタ(σ値)で照明する際に発生する恐れのある高次の球面収差のような高次の結像特性を補正するために、投影光学系の所定の光学素子(レンズ等)の周囲に配置した複数の照射系から任意に選択された照射系より、フォトレジストを感光させない非露光光をその光学素子の対応する部分に照射するようにした露光装置も提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2005/022614号パンフレット
【特許文献2】特開2001−196305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近は製造対象の電子デバイス(マイクロデバイス)が多様化しており、露光装置においては、例えば従来の2極照明時の露光光の光量分布を光軸の回りに所定角度回転したような照明条件の使用が要求されるパターンが、露光対象となることもある。このような場合に、非回転対称な結像特性を有効に補正するためには、その露光光の光量分布に合わせて、投影光学系中の光学素子に対する非露光光の照射位置を変更することが好ましい。ところが、従来の非露光光の照射系の照射位置は固定されているため、そのような照射位置の変更に対応するためには、予め使用される可能性のある照明条件に応じて光学素子の周囲の多数の位置に照射系を配置しておく必要がある。しかしながら、このように多数の照射系を配置しておくのでは、投影光学系の鏡筒部の構成が複雑化し、かつ製造コストも高くなる。
【0006】
また、レンズの周縁部近傍に、レンズの光軸を中心した円周上に案内溝を設け、この案内溝に沿って、非露光光を射出する光ファイバの端部を移動可能に構成することによって、一つの照射系で或る程度広い範囲内で非露光光の照射位置を変更する構成も知られている。しかしながら、光ファイバの端部を移動させる場合、光ファイバの端部の移動に伴って僅かな振動が発生し、この振動によって投影光学系の結像特性が劣化する恐れがある。
本発明はこのような事情に鑑み、例えば結像特性補正用の光束が照射される光学素子を有するとともに、簡単な構成で、その光学素子に対する光束の照射位置を変更できる光学装置、または振動を発生することなく、その光学素子に対する光束の照射位置を変更できる光学装置を提供することを目的とする。さらに、本発明は、この光学装置を備えた露光装置、その光学素子を用いる露光方法、及びこの露光装置又は露光方法を用いるデバイス製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に従えば、第1照明光が照射される光学素子を有する光学装置であって、その第1照明光と波長域の異なる第2照明光を発生する光源と、その光源で発生されるその第2照明光をその光学素子の表面の少なくとも一部に照射する照射機構と、その光源とその光学素子の表面との間に配置される音響光学系と、その光学素子の表面に対するその第2照明光の照射位置を変更するためにその音響光学系を駆動する制御装置と、を備える光学装置が提供される。
【0008】
また、本発明の第2の態様に従えば、照明光でパターンを照明し、その照明光でそのパターン及び投影光学系を介して物体を露光する露光装置であって、その投影光学系が前記第1の態様に従う光学装置を備えた露光装置が提供される。
【0009】
また、本発明の第3の態様に従えば、第1照明光でパターンを照明し、その第1照明光でそのパターン及び投影光学系を介して物体を露光する露光方法であって、その第1照明光と異なる波長の第2照明光を音響光学素子を介して、その投影光学系に含まれる光学素子に照射することと、その音響光学素子を駆動してその光学素子に照射される第2照明光の照射領域を変更することと、その第1照明光でパターンを照明し、その第1照明光でそのパターン及び投影光学系を介して物体を露光することを含む露光方法が提供される。
また、本発明の第4の態様に従えば、上記露光装置または露光方法を用いて基板上に感光層のパターンを形成することと、その感光層のパターンが形成された基板を処理することと、を含むデバイス製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、第2照明光が照射される光学素子を有するとともに、簡単な構成で、その光学素子に対する第2照明光の照射位置を変更できるか、または振動を発生することなく、その光学素子に対する第2照明光の照射位置を変更できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態の一例の露光装置の概略構成を示す一部を切り欠いた図である。
【図2】(A)は図1中の非露光光照射装置40の構成を示す一部を切り欠いた斜視図、(B)は図2(A)中の照射ユニット48A〜48Dの構成を示す図、(C)は図2(A)中の時分割ユニット44の構成を示す図である。
【図3】(A)はX方向のL&Sパターンを示す図、(B)はX方向の2極照明時の投影光学系の瞳面上での光量分布を示す図である。
【図4】(A)はY方向のL&Sパターンを示す図、(B)はY方向の2極照明時の投影光学系の瞳面上での光量分布を示す図である。
【図5】(A)はY方向の2極照明時の非露光光の照射位置を示す断面図、(B)は回転したY方向の2極照明時の非露光光の照射位置を示す断面図である。
【図6】レチクル上のX方向及びY方向のL&Sパターンの一例を示す拡大平面図である。
【図7】(A)は4極照明時の非露光光の照射位置の一例を示す図、(B)は小σ照明時の非露光光の照射位置の一例を示す図である。
【図8】2次元的に照射位置を変更できる照射ユニットの一例を示す斜視図である。
【図9】電子デバイスの製造工程の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態の一例につき図1〜図7を参照して説明する。
図1は、本実施形態のスキャニングステッパーよりなる走査露光型の露光装置(投影露光装置)の概略構成を示す。図1において、その露光装置は、露光光源1と、露光光源1から発生される露光光(露光用の照明光)ILでレチクル11(マスク)のパターン面を照明する照明光学系ILSと、レチクル11を保持して移動するレチクルステージ12とを備えている。さらに、その露光装置は、レチクル11のパターンの像をウエハ18(物体)上に投影する投影光学系PLと、ウエハ18を保持して移動するウエハステージ20と、装置全体の動作を統括制御するコンピュータよりなる主制御系24とを備えている。
【0013】
以下、投影光学系PLの光軸AXに平行にZ軸を取り、Z軸に垂直な平面(本実施形態ではほぼ水平面)内で走査露光時のレチクル11及びウエハ18の走査方向(図1の紙面に垂直な方向)にY軸を取り、走査方向に直交する非走査方向(図1の紙面に平行な方向)にX軸を取って説明する。また、X軸、Y軸、及びZ軸に平行な軸の回りの回転方向(傾斜方向)をθx方向、θy方向、及びθz方向とも呼ぶ。
【0014】
先ず、露光光源1としてはArFエキシマレーザ光源(波長193nm)が使用されている。なお、露光光源としては、KrFエキシマレーザ光源(波長248nm)などの紫外レーザ光源、YAGレーザ若しくは固体レーザ(半導体レーザなど)の高調波発生装置、又は水銀ランプ(i線等)なども使用することができる。
露光時に露光光源1からパルス発光された露光光ILは、不図示のビーム整形光学系等を経てオプティカルインテグレータとしての第1のフライアイレンズ2に入射して、照度分布が均一化される。そして、第1のフライアイレンズ2から射出された露光光ILは、不図示のリレーレンズ及びスペックル等の低減用の振動ミラー3を経てオプティカルインテグレータとしての第2のフライアイレンズ4に入射し、照度分布が更に均一化される。なお、フライアイレンズ2,4の代わりに、回折光学素子(DOE:Diffractive Optical Element) や内面反射型インテグレータ(ロッドレンズ等)等を使用することもできる。
【0015】
第2のフライアイレンズ4の射出側の焦点面(照明光学系ILSの瞳面)には、露光光ILの光量分布(2次光源)を小さい円形(小σ照明)、通常の円形、複数の偏心領域(2極及び4極照明)、並びに輪帯状領域などのうちの何れかに設定して照明条件を決定するための照明系開口絞り部材25が、駆動モータ25aによって回転自在に配置されている。主制御系24が、駆動モータ25aを介して照明系開口絞り部材25の回転角を制御することによって照明条件を設定する。図1の状態では、照明系開口絞り部材25の複数の開口絞り(σ絞り)のうちの、光軸を中心として対称に2つの円形開口が形成された第1の2極照明(ダイポール照明)用の開口絞り26A、及びこの開口絞り26Aを90°回転した形状の第2の2極照明用の開口絞り26Bが現れている。
【0016】
なお、製造対象の電子デバイスの構造によっては、後述のように開口絞り26A,26Bを僅かな角度(例えば数deg)だけ回転した別の開口絞り(不図示)が使用されることもある。このような別の開口絞りは、必要に応じて照明系開口絞り部材25に着脱できるように構成されている。
照明系開口絞り部材25中の開口絞り(図1では開口絞り26A)を通過した露光光ILは、反射率の小さいビームスプリッタ5に入射し、ビームスプリッタ5で反射された露光光は、集光レンズ(不図示)を介してインテグレータセンサ6に受光される。インテグレータセンサ6の検出信号は、主制御系24中の露光量制御部及び結像特性演算部に供給され、その露光量制御部は、その検出信号と予め計測されているビームスプリッタ5からウエハ18までの光学系の透過率とを用いてウエハ18上での露光エネルギーを間接的に算出する。その露光量制御部は、ウエハ18上での積算露光エネルギーが目標範囲内に収まるように、露光光源1の出力を制御すると共に、必要に応じて不図示の減光機構を用いて露光光ILのパルスエネルギーを段階的に制御する。
【0017】
そして、ビームスプリッタ5を透過した露光光ILは、不図示のリレーレンズを経て視野絞り8の開口上に入射する。視野絞り8は、実際には固定視野絞り(固定ブラインド)及び可動視野絞り(可動ブラインド)から構成されている。視野絞り8の開口を通過した露光光ILは、不図示のコンデンサレンズ、光路折り曲げ用のミラー9、及びコンデンサレンズ10を経て、レチクル11のパターン面(下面)をX方向に細長い矩形の照明領域を均一な照度分布で照明する。
【0018】
露光光ILのもとで、レチクル11の照明領域内のパターンは、両側テレセントリックの投影光学系PLを介して投影倍率β(βは1/4,1/5等)で、ウエハ18上の一つのショット領域上の露光領域(照明領域と共役な領域)に投影される。ウエハ18は、例えばシリコン又はSOI(silicon on insulator)等の直径が200〜450mm程度の円板状の基材に、フォトレジスト(感光剤)を塗布したものである。
【0019】
露光光ILの一部はウエハ18で反射され、その反射光は投影光学系PL、レチクル11、及びコンデンサレンズ10等を経てビームスプリッタ5に戻り、ビームスプリッタ5で更に反射された光が集光レンズ(不図示)を介して第1光電センサとしての反射量センサ7で受光される。反射量センサ7の検出信号は主制御系24中の結像特性演算部に供給され、結像特性演算部は、インテグレータセンサ6及び反射量センサ7の検出信号を用いて、レチクル11から投影光学系PLに入射する露光光ILの積算エネルギー、及びウエハ18で反射されて投影光学系PLに戻る露光光ILの積算エネルギーを算出する。また、その結像特性演算部には、露光中の照明条件(照明系開口絞りの種類)の情報も供給されている。更に、投影光学系PLの外部に気圧及び温度を計測するための環境センサ23が配置され、環境センサ23の計測データもその結像特性演算部に供給されている。その主制御系24内の結像特性演算部は、照明条件、露光光ILの積算エネルギー、及び周囲の気圧、温度等の情報を用いて、投影光学系PLの結像特性中の回転対称な収差成分及び非回転対称な収差成分の変動量を算出する。主制御系24内には結像特性制御部も設けられており、その収差成分の変動量の算出結果に応じて、その結像特性制御部は、常に所望の結像特性が得られるように結像特性の変動量を抑制する(詳細後述)。
【0020】
フライアイレンズ2,4、ミラー3,9、照明系開口絞り部材25、視野絞り8、及びコンデンサレンズ10等を含んで照明光学系ILSが構成されている。
また、投影光学系PLは屈折系であり、投影光学系PLを構成する複数の光学素子は、光軸AXを中心として回転対称な石英よりなる複数のレンズ、及び石英よりなる平板状の収差補正板等を含んでいる。なお、レンズ及び収差補正板等を蛍石(CaF2)等から形成してもよい。そして、投影光学系PLの瞳面PP(照明光学系ILSの瞳面と共役な面)には開口絞り15が配置され、瞳面PPの近傍にレンズ32が配置されている。レンズ32に露光光ILとは異なる波長域の非回転対称の収差等を補正するための照明光が照射される(詳細後述)。また、投影光学系PLには、回転対称な収差(ディストーション、倍率誤差、コマ収差又は波面収差等)を補正するための結像特性補正機構16が組み込まれており、主制御系24内の結像特性制御部が、制御部17を介して結像特性補正機構16の動作を制御する。
【0021】
結像特性補正機構16は、例えば米国特許出願公開第2006/244940号明細書に開示されているように、投影光学系PLの鏡筒内で、複数の光学素子中から選択された複数枚(例えば5枚)のレンズの光軸方向(Z方向)の位置、及びθx方向、θy方向の傾斜角を制御する。
次に、レチクル11はレチクルステージ12上に吸着保持され、レチクルステージ12は不図示のレチクルベース上でY方向に一定速度で移動すると共に、同期誤差を補正するようにX方向、Y方向、θz方向に微動して、レチクル11の走査を行う。レチクルステージ12の少なくともX方向、Y方向の位置、及びθz方向の回転角は、レーザ干渉計(不図示)によって計測され、この計測値が主制御系24内のステージ制御部に供給されている。ステージ制御部は、その計測値及び各種制御情報に基づいてレチクルステージ12の位置及び速度を制御する。投影光学系PLの上部側面には、レチクル11のパターン面(レチクル面)に斜めに検出光を投影し、レチクル面のZ方向への変位を検出する斜入射方式のオートフォーカスセンサ(以下、レチクル側AFセンサと言う)13が配置されている。レチクル側AFセンサ13による検出情報は、主制御系24内のZチルトステージ制御部に供給されている。また、レチクル11の周辺部の上方には、レチクルアライメント系(不図示)が配置されている。
【0022】
一方、ウエハ18は、ウエハホルダ(不図示)を介してZチルトステージ19上に吸着保持され、Zチルトステージ19はウエハステージ20上に固定され、ウエハステージ20は不図示のウエハベース上でY方向に一定速度で移動すると共に、X方向、Y方向にステップ移動する。また、Zチルトステージ19は、ウエハ18のZ方向の位置、及びθx方向、θy方向の傾斜角を制御する。ウエハステージ20の少なくともX方向、Y方向の位置、及びθz方向の回転角は、レーザ干渉計(不図示)によって計測され、この計測値が主制御系24内のステージ制御部に供給されている。そのステージ制御部は、その計測値及び各種制御情報に基づいてウエハステージ20の位置及び速度を制御する。投影光学系PLの下部側面には、ウエハ18の表面(ウエハ面)に斜めに検出光を投影し、ウエハ面のZ方向への変位及びθx方向、θy方向の傾斜角を検出する斜入射方式のオートフォーカスセンサ(以下、ウエハ側AFセンサと言う)22が配置されている。ウエハ側AFセンサ22による検出情報は、主制御系24内のZチルトステージ制御部に供給され、Zチルトステージ制御部は、レチクル側AFセンサ13及びウエハ側AFセンサ22の検出情報に基づいて、常時ウエハ面が投影光学系PLの像面に合焦されるように、オートフォーカス方式でZチルトステージ19を駆動する。
【0023】
また、Zチルトステージ19上のウエハ18の近くには、露光光ILを検出する光電センサよりなる照射量センサ21が固定され、照射量センサ21の検出信号が主制御系24内の露光量制御部に供給されている。露光開始前又は定期的に、照射量センサ21の受光面を投影光学系PLの露光領域に移動し、照射量センサ21の検出信号をインテグレータセンサ6の検出信号で除算することによって、ビームスプリッタ5から照射量センサ21(ウエハ18)までの光学系の透過率を算出できる。
【0024】
更に、ウエハステージ20の上方には、オフ・アクシス方式のウエハアライメント系(不図示)が配置されており、上記のレチクルアライメント系及びウエハアライメント系の検出結果に基づいて、主制御系24はレチクル11のアライメント及びウエハ18のアライメントを行う。
露光時には、レチクル11上の照明領域に露光光ILを照射しつつ、レチクルステージ12及びウエハステージ20を駆動して、レチクル11とウエハ18上の一つのショット領域とをY方向に同期走査する動作と、ウエハステージ20を駆動してウエハ18をX方向、Y方向にステップ移動する動作とが繰り返される。この動作によって、ステップ・アンド・スキャン方式でウエハ18上の各ショット領域にレチクル11のパターン像が露光される。
【0025】
さて、本実施形態では、図1の照明光学系ILSの瞳面には、X方向に対応する方向に離れた2つの開口を持つX方向の2極照明用の開口絞り26Aが配置されている。この場合、レチクル11に形成される主な転写用のパターンは、一例として図3(A)に拡大して示すように、Y方向に細長いラインパターンをX方向(非走査方向)にほぼ投影光学系PLの解像限界に近いピッチ(周期)で配列してなるX方向のライン・アンド・スペースパターン(以下、「L&Sパターン」と言う)33Vである。この際に、レチクル11上には通常、L&Sパターン33Vよりも大きい配列ピッチで配列方向がX方向及びY方向(走査方向)の別の複数のL&Sパターン等も形成されている。
【0026】
開口絞り26Aを用いるX方向の2極照明では、レチクルが無いものとすると、図3(B)に示すように、投影光学系PLの瞳面PPにおいて、光軸AXを挟んでX方向に対称な2つの円形の領域34を露光光ILが照明する。また、露光光ILの光路に種々のレチクルパターンが配置された場合にも、通常は0次光の光量が回折光の光量に比べてかなり大きいと共に、回折角も小さいため、露光光IL(結像光束)の大部分は領域34又はその近傍を通過する。また、露光光ILの光路中に図3(A)のレチクル11が配置されたときには、解像限界に近いピッチのL&Sパターン33Vからの±1次回折光もほぼ領域34又はその近傍を通過するため、そのL&Sパターン33Vの像を高解像度でウエハ上に投影することができる。
【0027】
この状態では、図1の投影光学系PLの瞳面PPの近傍のレンズ32に入射する露光光ILの光量分布もほぼ図3(B)の光量分布になる。従って、露光を継続すると、その瞳面PP近傍のレンズ32の温度分布は、非回転対称になり、光軸上での非点収差(センターアス)等の非回転対称な収差が発生する。
一方、図4(A)に拡大して示すように、レチクル11上に主にX方向に細長いラインパターンをY方向(走査方向)にほぼ投影光学系PLの解像限界に近いピッチで配列してなるY方向のL&Sパターン33Hが形成されている場合を想定する。この場合には、図1の照明光学系ILSの瞳面には開口絞り26Aを90°回転した形状の開口絞り26Bが設定される。この開口絞り26Bを用いるY方向の2極照明では、レチクルが無いものとすると、図4(B)に示すように、投影光学系PLの瞳面PPにおいて、光軸AXを挟んでY方向に対称な2つの円形の領域35を露光光ILが照明する。この際に、露光光ILの光路に種々のレチクルパターンが配置されても、通常は大部分の露光光IL(結像光束)は領域35及びその近傍を通過する。そして、露光光ILの光路中に図4(A)のレチクル11が配置されると、解像限界に近いピッチのL&Sパターン33Hからの±1次回折光もほぼ領域35又はその近傍を通過するため、そのL&Sパターン33Hの像は高解像度でウエハ上に投影される。
【0028】
この場合、図1の投影光学系PLの瞳面PPの近傍のレンズ32に入射する露光光ILの光量分布もほぼ図4(B)の光量分布になる。従って、露光を継続すると、そのレンズ32の温度分布は非回転対称になり、X方向の2極照明を用いる場合とは符号の異なるセンターアス等の非回転対称な収差が発生する。
さらに、レチクル11上に主に、例えば図4(A)のL&Sパターン33Hを時計回りに数deg回転したパターンが形成されている場合には、投影光学系PLの瞳面PPにおける結像光束は、主に図4(B)の円形領域35を時計回りに数deg回転した領域又はその近傍の領域を通過するため、非回転対称な収差が発生する。
【0029】
これらのセンターアス等の非回転対称な収差は、図1の結像特性補正機構16では実質的に補正できない。また、他の非回転対称な照明条件を用いた場合にも、非回転対称な収差が発生する。更に、照明条件として小σ照明を用いた場合、照明光学系ILSの瞳面(投影光学系PLの瞳面)での露光光ILの光量分布が半径方向に大きく変化する。この場合、結像特性補正機構16では良好に補正しきれない高次の球面収差等の高次の回転対称な収差が発生する恐れもある。そこで、本実施形態では、その非回転対称な収差又は高次の回転対称な収差を補正するために、図1において、投影光学系PLの瞳面PP付近のレンズ32に露光光ILとは異なる波長域の収差補正用の照明光である非露光光LBを照射する。以下、その非露光光LBをレンズ32に照射するための非露光光照射機構40の構成、及びその結像特性の補正動作につき詳細に説明する。
【0030】
本実施形態では、非露光光LBとして、ウエハ18に塗布されたフォトレジストを殆ど感光しない波長域の光を使用する。非露光光LBとして、一例として炭酸ガスレーザ(CO2 レーザ)から連続発光又はパルス発光される例えば波長10.6μmの赤外のレーザ光を使用する。この波長10.6μmの赤外光は、石英の吸収性が高く、投影光学系PL中の1枚のレンズによってほぼ全て(望ましくは90%以上)吸収されるため、他のレンズに対して影響を与えることなく収差を制御するために使用し易いという利点がある。また、レンズ32に照射された非露光光LB(LBA,LBB等)は、90%以上が吸収されるように設定されている。なお、非露光光LBとしては、その他にYAGレーザなどの固体レーザから射出される波長1μm程度の近赤外のレーザ光、又は半導体レーザから射出される波長数μm程度の赤外のレーザ光なども使用することができる。
【0031】
図1の非露光光照射機構40において、光源系41から射出されたレーザ光よりなる非露光光LBは、ビームスプリッタ42によって僅かな部分が分岐されて光電センサ43に向かい、ビームスプリッタ42を透過した非露光光LBは時分割ユニット44に向かう。光電センサ43で検出される非露光光LBの光量に対応する検出信号は、光源系41にフィードバックされている。また、非露光光LBを時分割ユニット44で4つの光束に時分割して得られる4つの非露光光LBA,LBB,LBC,LBD(図2(A)参照)の内の2つの非露光光LBA,LBBが、投影光学系PLをX方向に挟むように配置された2つの照射ユニット48A,48B及び音響光学変調素子(以下、AOMという)52A,52Bを介してレンズ32に照射される。AOM52A,52B等の動作、並びに光源系41の発光動作及び出力は、AOM駆動系27によって制御される。AOM駆動系27は、主制御系24によって制御されている。
【0032】
図2(A)は、非露光光照射機構40の詳細な構成を示す。図2(A)において、投影光学系PLのレンズ32を含む複数の光学素子は、それぞれレンズホルダ(不図示)を介して鏡筒14内に保持され、鏡筒14はフランジ部14Fを介してフレーム(不図示)に支持されている。なお、図2(A)では鏡筒14、フランジ部14F、及び後述の保持部材50A,50Bの一部を切り欠いて示している。
【0033】
図1のビームスプリッタ42を透過した直線偏光の非露光光LBは、不図示の集光レンズを介して図2(A)の時分割ユニット44の光ファイバ49Sの入射端(不図示)に入射する。光ファイバ49S内を伝播して光ファイバ49Sの射出端から射出された非露光光LBは、集光レンズ45を介してAOM(音響光学変調素子)46に入射する。AOM46によって時分割的に異なる角度に偏向された非露光光LBA,LBB,LBC,LBDはそれぞれ固定部材47に固定された光ファイバ49A,49B,49C,49Dの入射端に入射する。光ファイバ49A〜49D,49Sとしては、例えばコア径が50μm程度でクラッド径が125μm程度のマルチモード光ファイバ、又はコア径が10μm程度でクラッド径が125μm程度のシングルモード光ファイバ等が使用できる。
【0034】
図2(A)中の時分割ユニット44においては、図2(C)に示すように、光ファイバ49Sから射出された非露光光LBは、集光レンズ45によってAOM46を介して固定部材47の端面(光ファイバ49A〜49Dの入射端)に集光される。また、AOM46は、レーザ光よりなる非露光光LBが透過する音響光学媒体46aと、音響光学媒体46a内に超音波46cを発生させて1次のブラッグ回折光(ブラッグ反射光)を発生させるトランスデューサ46bとを含み、トランスデューサ46bがAOM駆動系27によって駆動される。AOM46は、例えば中心周波数40〜60MHz程度で、かつ変調帯域10MHz程度で駆動される。音響光学媒体46aとしては、例えば使用可能波長域が2〜12μm程度であるゲルマニウム(Ge)が使用できる。なお、非露光光LBの波長が0.6〜10μm程度であれば、音響光学媒体46aとしてガリウム・リン(GaP)も使用でき、非露光光LBの波長が0.4〜5μm程度であれば、音響光学媒体46aとして2酸化テルル(TeO2)も使用できる。また、音響光学媒体46aがゲルマニウム又はガリウム・リンである場合には、入射する光束は直線偏光であることが好ましいため、光ファイバ49S及び光ファイバ49A〜49Dとして、偏波面保存ファイバを使用してもよい。
【0035】
図2(C)において、AOM46は、入射する非露光光LBに対する1次回折光の回折角が所定の小さい角度、θb1、θb2、又はθb3(4つの回折角)のいずれかになるように駆動される。そして、回折角がその小さい角度、θb1、θb2又はθb3の1次回折光がそれぞれ非露光光LBA,LBC,LBD又はLBBとして光ファイバ49A,49C,49D,又は49Bに入射端に入射する。この時分割駆動によって、光ファイバ49Sで伝送された非露光光LBを、非露光光LBA〜LBDとして光ファイバ49A〜49Dのいずれかに順次供給できる。
【0036】
図2(A)において、光ファイバ49A,49B,49C,49Dの射出端は、それぞれ投影光学系PLの鏡筒14及びフランジ部14Fに設けられた貫通穴に固定された円筒状の支持部材50A,50B,50C,50D内に固定される。そのうちの1対の支持部材50A,50Bは、レンズ32の上面をX方向に挟むように、かつ支持部材50A,50Bの中心軸がレンズ32の上面に斜めに交差するように配置される。別の1対の支持部材50C,50Dは、レンズ32の上面をY方向に挟むように、かつ支持部材50C,50Dの中心軸がレンズ32の上面に斜めに交差するように配置される。
【0037】
また、支持部材50A,50B内の光ファイバ49A,49Bの射出端にはそれぞれ集光レンズ51A,52Bが配置され、集光レンズ51A,51Bとレンズ32との間にAOM52A,52Bが配置されている。光ファイバ49A,49B、支持部材50A,50B、及び集光レンズ51A,51Bを含んで、それぞれレンズ32をX方向に挟むように配置される1対の照射ユニット48A,48Bが構成されている。同様に、光ファイバ49C,49D、支持部材50C,50D、及びこの中の集光レンズ(不図示)を含んで、それぞれレンズ32をY方向に挟むように配置される1対の照射ユニット48C,48Dが構成されている。さらに、照射ユニット48C,48Dとレンズ32との間に支持部材50C,50Dの先端に固定されたAOM52C,52Dが配置されている。AOM52A〜52Dの構成はAOM46と同様であり、AOM52A〜52DはAOM駆動系27によって例えば中心周波数40〜60MHz程度で、かつ変調帯域10MHz程度で駆動される。
【0038】
照射ユニット48Aにおいて、図2(B)に示すように、光ファイバ49Aから射出される非露光光LBAは、集光レンズ51Aを介してAOM52Aに入射し、AOM52Aから射出される1次のブラッグ回折光がレンズ32の表面のほぼ円形(又は楕円でもよい)の照射領域53Aに照射される。AOM52Aは、照射領域53Aの中央に入射する光で示すように、1次光の回折角がθa(rad)(例えば数degに対応する値)の範囲内の任意の値になるように駆動される。この場合、AOM52Aの中心から照射領域53Aの中央までの距離をLaとすると、レンズ32上で照射領域をY方向にほぼLa・θaの範囲内で任意の位置に移動可能である。その照射領域53Aの可変範囲の−Y方向の位置をB1、中央の位置をB2、及び+Y方向の位置をB3とする。その距離Laを長くすることによって、位置B1及びB3の間の照射領域53Aの可変範囲を広くできる。なお、必要に応じて、AOM52A〜52Dから発生する0次光を遮光する遮光部材及びそのための冷却機構を設けてもよい。
【0039】
図2(A)において、他の照射ユニット48B,48C,48Dから射出される非露光光LBB,LBC,LBDはそれぞれレンズ32上でY方向に可変の照射領域53B、X方向に可変の照射領域53C、及びX方向に可変の照射領域53Dに照射される。1対の照射ユニット48A,48Bによる可変範囲の中央の照射領域53A,53Bは、レンズ32の周縁部で光軸AXをX方向に挟むように対称に設定され、他の1対の照射ユニット48C,48Dによる可変範囲の中央の照射領域53C,53Dは、レンズ32の周縁部で光軸AXをY方向に挟むように対称に設定されている。
【0040】
次に、非回転対称な照明条件を使用する場合に、非露光光照射装置40から非露光光を投影光学系PLの瞳面PPの近傍のレンズ32に照射して、非回転対称な収差を補正又は低減する種々の動作につき説明する。
先ず、主に図4(A)のL&Sパターン33Hがレチクル11上に形成されている場合には、図4(B)のY方向の2極照明が使用され、投影光学系PLの瞳面PPの近傍のレンズ32は、図5(A)に示すように、光軸AXをY方向に対称に挟む2つの円形の領域35が露光光ILで照射される。この場合、主制御系24からその照明条件及び露光光ILの照射量の情報がAOM駆動系27に供給され、AOM駆動系27は、露光光ILの照射量に応じて非露光光照射装置40の光源系41から非露光光LBを発光させる。さらに、AOM駆動系27は、図2(C)の時分割ユニット44中のAOM46を駆動して、入射する非露光光LBをほぼ同じ時間間隔で交互に非露光光LBA,LBBとして光ファイバ49A,49Bに供給する。さらに、AOM駆動系27は、図5(A)のAOM52A,52Bを駆動して、2つの照射ユニット48A,48Bから射出される非露光光LBA,LBBをレンズ32上の光軸AXをY方向に対称に挟む位置の照射領域53A,53Bに照射する。なお、実際には、照射領域53A,53Bには交互に非露光光LBA,LBBが照射される。
【0041】
これによって、レンズ32は回転対称に近い(周方向に均一な)温度分布になるため、センターアス等の非回転対称な収差が補正される。
次に、主に図4(A)のL&Sパターン33Hを時計回りに数deg回転したL&Sパターンがレチクル11上に形成されている場合には、図4(B)のY方向の2極照明を同じ角度だけ時計回りに回転した2極照明が使用される。そして、投影光学系PLのレンズ32は、図5(B)に示すように、光軸AXをY方向に対称に挟む位置を時計回りに数deg回転した位置にある2つの円形の領域35Aが露光光ILで照射される。この場合、主制御系24からその照明条件等の情報がAOM駆動系27に供給されると、AOM駆動系27は、照射ユニット48A,48Bに交互に非露光光LBA,LBBを供給させる。さらに、AOM駆動系27は、AOM52A,52Bを駆動して、図5(B)に示すように、2つの照射ユニット48A,48Bから射出される非露光光LBA,LBBの照射領域53A,53Bを、可変範囲の中央の位置B2A,B2Bに対して時計回りに数deg回転させる。すなわち、AOM52A,52Bは、非露光光LBA,LBBの照射領域53A,53BあるいはAOM52A,52Bからの非露光光LBA,LBBの射出方向を、光軸AXを中心として周方向に回転移動させていると見ることもできる。これによって、レンズ32は回転対称に近い温度分布になるため、センターアス等の非回転対称な収差が補正される。
【0042】
また、主に図6のX方向のL&Sパターン33V及びY方向のL&Sパターン33HAが並列にレチクル11上に形成されている場合には、一例としてX方向の2極照明及びY方向の2極照明を合わせた4極照明が使用される。そして、投影光学系PLの瞳面PPの近傍のレンズ32は、図7(A)に示すように、光軸AXをX方向及びY方向に対称に挟む4つの円形の領域34及び35が露光光ILで照射される。この場合、主制御系24からその照明条件等の情報がAOM駆動系27に供給され、AOM駆動系27は、光源系41から非露光光LBを発光させた後、図2(C)の時分割ユニット44中のAOM46を駆動して、入射する非露光光LBをほぼ同じ時間間隔で周期的に非露光光LBA,LBB,LBC,LBDとして光ファイバ49A,49B,49C,49Dに供給する。さらに、AOM駆動系27は、図7(A)のAOM52A〜52Dを駆動して、照射ユニット48A,48B,48C,48Dから射出される非露光光LBA〜LBDの照射領域53A,53B,53C,53Dを、それぞれレンズ32上の領域34又は35を円周方向に対称に挟む2つの位置B1A,B3A、位置B1B,B3B、位置B1C,B3C、及び位置B1D,B3Dに交互に移動する。すなわち、AOM52A〜52Dは、非露光光LBA〜LBDの照射領域53A,53B,53C,53Dを、光軸AXを中心として周方向に回転移動させていると見ることもできる。この場合にも、実際には、照射領域53A〜53Dには周期的に順次非露光光LBA〜LBDが照射される。具体的には、例えば、位置B1A、位置B1B、位置B1C及び位置B1Dがこの順で非露光光により照射され、次に、位置B3A、位置B3B、位置B3C及び位置B3Dが非露光光によりこの順で照射されてもよい。あるいは、位置B1A,B3A、位置B1B,B3B、位置B1C,B3C、及び位置B1D,B3Dの順に非露光光により照射されてもよい。非露光光がそれらの位置に均等に照射されるのであれば、照射順序は任意でよい。いずれにしても、AOM駆動系27は、AOM46とAOM52A〜52Dを駆動するタイミングを同期して制御して、AOM52A〜52Dにより変更可能な非露光光の全ての射出方向及び照射位置に照射している。これにより、少ない光源及び照射系でレンズ32の広い領域における所望の位置に非露光光を照射してレンズ32の温度分布を制御することができる。
【0043】
これによって、4つの領域34及び35に露光光ILが照射されたとしても、レンズ32は回転対称に近い温度分布になるため、すなわち、レンズの光軸を中心として周方向に均一な温度分布となるために、センターアス等の非回転対称な収差が補正される。
さらに、例えば投影光学系PLの瞳面上で半径方向に光量分布が大きく変動するような照明条件で露光を行うときに、高次の球面収差等の高次の回転対称な収差が発生する場合にも、本実施形態のように非露光光を照射することによって、その高次の回転対称な収差を減少できる。一例として、小σ照明を行う場合には、図7(B)に示すように、投影光学系PLの瞳面PPの近傍のレンズ32では、光軸AXを含む小さい円形の領域36及びその近傍の領域を露光光ILが通過し、光量分布が半径方向に大きく変動する。この場合、主制御系24からその照明条件等の情報がAOM駆動系27に供給され、AOM駆動系27は、光源系41から非露光光LBを発光させた後、図2(C)の時分割ユニット44中のAOM46を駆動して、入射する非露光光LBをほぼ同じ時間間隔で周期的に非露光光LBA,LBB,LBC,LBDとして光ファイバ49A,49B,49C,49Dに供給する。さらに、AOM駆動系27は、図7(B)のAOM52A〜52Dを駆動して、照射ユニット48A,48B,48C,48Dから射出される非露光光LBA〜LBDの照射領域53A,53B,53C,53Dを、それぞれレンズ32の領域36を囲む領域内で位置B1A,B3A、位置B1B,B3B、位置B1C,B3C、及び位置B1D,B3Dの間を周期的に移動させる。
【0044】
これによって、レンズ32は半径方向の光量分布がほぼ均一になるため、高次の球面収差等の高次収差が補正される。
また、上記の非露光光照射装置40による非露光光の照射タイミングとしては以下の(a)〜(g)のようなタイミングが考えられる。どのタイミングを用いるかは製造プロセス毎に判定してもよい。
【0045】
(a)収差成分の変動量に応じて照射する。(b)露光光の照射と同期して非露光光を照射する。(c)図1のウエハステージ20のステッピング中に非露光光を照射する。(d)ウエハ交換中に照射する。(e)収差成分の変動量が閾値以上なった時に照射する。収差成分の変動量は実測値又は計算値で閾値と比較する。(f)照明条件を切換えるときに照射する。(g)常に照射する。なお、収差成分の変動量については前述の方法により求めることができる。
【0046】
本実施形態の作用効果等は以下の通りである。
(1)本実施形態の投影光学系PL内のレンズ32及び非露光光照射装置40を含む装置は、露光光IL(第1照明光)が照射されるレンズ32を有する装置において、露光光ILと波長域の異なる非露光光LBA〜LBD(第2照明光)を発生する光源系41と、光源系41で発生される非露光光LBA〜LBDをレンズ32の表面の照射領域53A〜53Dに照射する照射ユニット48A〜48Dと、光源系41とレンズ32の表面との間に配置されるAOM(音響光学変調素子)52A〜52D(音響光学系)と、非露光光LBA〜LBDの照射領域53A〜53Dの位置を変更するためにAOM52A〜52Dを駆動するAOM駆動系27とを備えている。
【0047】
この装置によれば、レンズ32には、投影光学系PL内で結像特性補正用の非露光光LBA〜LBDが照射される。そして、光源系41とレンズ32との間に配置されるAOM52A〜52D内の超音波の周波数を切り替えてその回折角を(レンズ32の光軸と直交する面内で)変更するのみで、簡単な構成で、レンズ32に対する非露光光LBA〜LBDの照射位置を変更できる。また、この装置によれば、振動を発生することなく、レンズ32に対する非露光光LBA〜LBDの照射位置を変更できる。従って、露光光ILの光量分布が種々の非回転対称(不均一)な分布であっても、それに応じて非露光光LBA〜LBDの照射位置を変更することで、レンズ32の光量分布又は熱変形を回転対称に近づけることができる。
【0048】
(2)また、照射ユニット48A〜48Dは、光源系41で発生される非露光光LBA〜LBDをレンズ32の表面に伝送する光ファイバ49A〜49Dを有し、AOM52A〜52Dは光ファイバ49A〜49Dとレンズ32の表面との間に配置される。このようにAOM52A〜52Dを非露光光LBA〜LBDの光路上に配置する構成では、例えばミラーで非露光光LBA〜LBDの光路を偏向する構成に比べて、構成が簡素化できるとともに、照射機構の組み立て調整が容易である。
【0049】
(3)また、照射ユニット48A〜48D及びAOM52A〜52Dは、レンズ32の表面の複数の照射領域53A〜53Dに対応して複数組(4組)設けられているため、個々のAOM52A〜52Dによる非露光光LBA〜LBDの偏向量が少ない場合でも、レンズ32の外周部のほぼ全面の任意の領域に非露光光を照射できる。
なお、照射ユニット48A〜48Dの個数、ひいてはAOM52A〜52Dの個数は任意である。さらに、例えばAOM52Aによる光束の偏向量を大きくできる場合には、レンズ32の周囲の1箇所にのみ照射ユニット48A及びAOM52Aを配置し、照射ユニット48Aから射出される非露光光LBAをAOM52Aを介してレンズ32の表面の必要な領域に時分割的に照射してもよい。
【0050】
(4)また、非露光光照射装置40は、光源系41から発生する非露光光LBを照射ユニット48A〜48Dに時分割で切り換えて供給するAOM46を有する時分割ユニット44(切り替え部)を備えている。従って、1つの光源系41を用いて、レンズ32の周囲の複数の照射ユニット48A〜48Dから順次非露光光LBA〜LBDを照射できる。
(5)また、レンズ32は、レチクル11のパターンの像をウエハ18上に形成する投影光学系PLの一部を構成している。従って、露光光ILの瞳面上での光量分布が非回転対称(不均一)な場合に、投影光学系PLの非回転対称な結像特性を低減できる。
【0051】
(6)また、本実施形態の露光装置は、露光光ILでレチクル11のパターンを照明し、露光光ILでそのパターン及び投影光学系PLを介してウエハ18を露光する露光装置において、投影光学系PLとして上記の非露光光照射装置40を含む装置を備えている。
従って、投影光学系PLの非回転対称な結像特性を補正又は高次の収差等を低減できるため、レチクル11のパターンを高精度にウエハ18上に転写できる。
【0052】
(7)また、レチクル11に対する照明条件が例えば2極照明等の非回転対称(不均一)な場合に、その照明条件に応じて投影光学系PL中のレンズ32に対する非露光光LBA〜LBDの照射領域53A〜53Dの位置を変更している。従って、非回転対称な照明条件を用いる場合にも、レチクル11のパターンを高精度にウエハ18上に転写できる。
【0053】
(8)本実施形態の露光方法は、露光光ILと波長域の異なる非露光光LBA〜LBD(第2照明光)を 音響光学変調素子52A〜52Dに入射し、前記音響光学素子から射出した第2照明光を前記投影光学素子に含まれるレンズ32(光学素子)に照射することと、前記音響光学素子を駆動して前記光学素子に照射される第2照明光の照射領域を変更することと、前記第1照明光ILでレチクルのパターンを照明し、第1照明光で前記パターン及び投影光学系を介して物体を露光することとを含んでいる。この方法によれば、音響光学変調素子52A〜52D内の超音波の周波数を切り替えてその回折角を変更するのみで、簡単な構成で、レンズ32に対する非露光光LBA〜LBDの照射位置または照射方向を変更できる。また、この方法によれば、振動を発生することなく、レンズ32に対する非露光光LBA〜LBDの照射位置または照射方向を変更できる。従って、露光光ILの光量分布が種々の非回転対称(不均一)な分布であっても、それに応じて非露光光LBA〜LBDの照射位置を変更することで、レンズ32の光量分布又は熱変形を回転対称(均一)に近づけることができる。
次に、上記の実施形態については以下のような変形が可能である。
【0054】
(1)図2(A)では、照射ユニット48A〜48Dに対してそれぞれ一つのAOM52A〜52Dが設けられていたため、照射領域53A〜53Dは1次元的に変更できた。これに対して、図8に示すように、照射ユニット48Aとレンズ32との間に非露光光LBAをY方向(レンズ32の光軸と直交する方向)に偏向する第1のAOM52Aと、非露光光LBAをZ方向(レンズ32の光軸方向)に偏向する第2のAOM52AZとを配置してもよい。この変形例によれば、レンズ32上で非露光光LBAの照射領域53Aの位置をX方向及びY方向に2次元的に変更できる。
【0055】
(2)上記の実施形態では光源系41からの非露光光LBをAOM46を含む時分割ユニット44によって複数の照射ユニット48A〜48Dに分割している。しかしながら、光源系41からの非露光光LBを、例えば複数のガルバノミラーを組み合わせた光学系で照射ユニット48A〜48Dに時分割的に供給してもよい。さらに、例えば非露光光の光源が半導体レーザである場合には、照射ユニット48A〜48D毎に光源を設けてもよい。
【0056】
(3)非露光光を照射するレンズは、上記の実施形態のレンズ32のように照明光学系ILSの瞳面と共役な投影光学系PLの瞳面の近傍のレンズとすると、センターアス等の補正効果が大きくなる。
しかしながら、投影光学系PLの瞳面近傍の複数枚のレンズに非露光光を照射してもよい。さらに、例えば矩形の照明領域による結像特性の変動を抑制するような場合には、投影光学系PLの物体面側及び/又は像面側の一つ又は複数の光学素子に非露光光を照射してもよい。
【0057】
また、上記の実施形態の露光装置(露光方法)を用いて半導体デバイス等の電子デバイス(又はマイクロデバイス)を製造する場合、電子デバイスは、図9に示すように、電子デバイスの機能・性能設計を行うステップ221、この設計ステップに基づいたレチクル(マスク)を製作するステップ222、デバイスの基材である基板(ウエハ)を製造してレジストを塗布するステップ223、前述した実施形態の露光装置(露光方法)によりレチクルのパターンを基板(感光基板)に露光する工程、露光した基板を現像する工程、現像した基板の加熱(キュア)及びエッチング工程などを含む基板処理ステップ224、デバイス組み立てステップ(ダイシング工程、ボンディング工程、パッケージ工程などの加工プロセスを含む)225、並びに検査ステップ226等を経て製造される。
【0058】
言い換えると、このデバイスの製造方法は、上記の実施形態の露光装置(露光方法)を用いてレチクルのパターンの像を基板(ウエハ)に転写することと、転写された基板をそのパターンの像に応じて処理すること(ステップ224)とを含んでいる。この際に、上記の実施形態によれば、露光装置の投影光学系PLの種々の非回転対称な結像特性等を高精度に補正できるため、種々の電子デバイスを高精度に製造できる。
【0059】
なお、本発明は、走査露光型の投影露光装置のみならず、ステッパー等の一括露光型の露光装置で露光を行う場合にも同様に適用することができる。また、本発明は、反射光学系又は屈折光学系を含む投影光学系を用いる露光装置や、例えば米国特許出願公開第2005/0248856号、同第2007/242247号明細書、又は欧州特許出願公開第1420298号明細書等に開示されているような、投影光学系と露光対象の物体(ウエハ等)との間に露光光を透過する液体を供給する液浸型の露光装置において結像特性を補正する場合にも適用できる。この場合、投影光学系と物体との間の局所的空間だけに液体を介在させる局所液浸型のみならず、物体全体を液体に浸漬するタイプの液浸露光型の露光装置にも適用することができる。また、投影光学系と基板との間の液浸領域をその周囲のエアーカーテンで保持する液浸型の露光装置にも適用することができる。また、本発明は、例えば米国特許第6,590,634号明細書、米国特許第5,969,441号明細書、米国特許第6,208,407号明細書などに開示されるように、複数のステージを備えるマルチステージ型の露光装置または露光方法、あるいは、例えば国際公開第1999/23692号パンフレット、米国特許第6,897,963号明細書などに開示されるように、計測部材(基準マーク、センサなど)を有する計測ステージを備える露光装置及び露光方法を用いる場合にも適用することができる。
【0060】
また、本発明の露光装置の用途としては半導体デバイス製造用の露光装置に限定されることなく、例えば、角型のガラスプレートに形成される液晶表示素子、若しくはプラズマディスプレイ等のディスプレイ装置用の露光装置や、撮像素子(CCD等)、マイクロマシーン、薄膜磁気ヘッド、及びDNAチップ等の各種デバイスを製造するための露光装置にも広く適用できる。すなわち、パターンが形成される物体は、ウエハに限られるものでなく、例えばガラスプレート、セラミック基板、フィルム部材、あるいはマスクブランクスなどでも良いし、その形状も円形に限らず矩形などでも良い。
更に、本発明は、前述のように、各種デバイスのマスクパターンが形成されたマスク(フォトマスク、レチクル等)をフォトリソグフィ工程を用いて製造する際の、露光工程(露光装置)にも適用することができる。
【0061】
なお、上記の実施の形態の投影露光装置は、複数のレンズから構成される照明光学系、投影光学系を露光装置本体に組み込み光学調整をして、多数の機械部品からなるレチクルステージやウエハステージを露光装置本体に取り付けて配線や配管を接続し、更に総合調整(電気調整、動作確認等)をすることにより製造することができる。なお、その露光装置の製造は温度及びクリーン度等が管理されたクリーンルームで行うことが望ましい。
【0062】
なお、本願に記載した上記公報、各国際公開パンフレット、米国特許及び米国特許出願公開明細書における開示を援用して本明細書の記載の一部とする。
【0063】
なお、本発明は上述の実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の構成を取り得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、光源と光学素子の表面との間に配置される音響光学系を用いることによって、簡単な構成で、その光学素子に対する第2照明光の照射位置を変更できる。また、この音響光学系を用いることによって、振動を発生することなく、その光学素子に対する第2照明光の照射位置を変更できる。本発明を用いることで、種々のパターンに応じた多様な照明条件に対してもすぐれた結像特性で露光を行うことができる。それゆえ、本発明は、半導体産業を含む精密機器産業の国際的な発展に著しく貢献することができる。
【符号の説明】
【0065】
ILS…照明光学系、11…レチクル、PL…投影光学系、16…結像特性補正機構、18…ウエハ、20…ウエハステージ、24…主制御系、27…AOM駆動系、40…非露光光照射機構、41…光源系、44…時分割ユニット、48A〜48D…照射ユニット、49A〜49D…光ファイバ、46,52A〜52D…AOM(音響光学変調素子)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1照明光が照射される光学素子を有する光学装置であって、
前記第1照明光と波長域の異なる第2照明光を発生する光源と、
前記光源で発生される前記第2照明光を前記光学素子の表面の少なくとも一部に照射する照射機構と、
前記光源と前記光学素子の表面との間に配置される音響光学系と、
前記光学素子の表面に対する前記第2照明光の照射位置を変更するために前記音響光学系を駆動する制御装置と、
を備える光学装置。
【請求項2】
前記音響光学系は、入射する光束に対する偏向方向が交差するとともに、前記光源と前記光学素子の表面との間に、直列に配置される第1及び第2の音響光学素子を有し、
前記制御装置は、前記光学素子の表面に対する前記第2照明光の照射位置を2次元的に変更するために前記第1及び第2の音響光学素子を駆動する請求項1に記載の光学装置。
【請求項3】
前記照射機構は、前記光源で発生される前記第2照明光を前記光学素子の表面に伝送する光ファイバを有し、
前記音響光学系は前記光ファイバと前記光学素子の表面との間に配置される請求項1に記載の光学装置。
【請求項4】
前記第2照明光は、前記光学素子の表面の複数の照射位置に照射され、
前記照射機構及び前記音響光学系は、前記複数の照射位置に対応してそれぞれ設けられる複数の照射機構及び複数の音響光学素子を備える請求項1に記載の光学装置。
【請求項5】
前記光源から発生する前記第2照明光を前記複数の照射機構に時分割で切り換えて供給するさらなる音響光学素子を有する切り替え部を備える請求項4に記載の光学装置。
【請求項6】
前記光学素子は第1面のパターンの像を第2面上に形成する投影光学系の一部を構成する請求項1に記載の光学装置。
【請求項7】
前記制御装置は、前記投影光学系の非回転対称な結像特性を制御するように前記照射機構及び前記音響光学系を介して、前記光学素子の表面に対する前記第2照明光の照射位置を変更する請求項6に記載の光学装置。
【請求項8】
照明光でパターンを照明し、前記照明光で前記パターン及び投影光学系を介して物体を露光する露光装置であって、
前記投影光学系が、請求項6に記載の光学装置を備えた露光装置。
【請求項9】
前記制御装置は、前記パターンを照明する照明条件に応じて、前記光学素子の表面に対する前記第2照明光の照射位置を変更する請求項8に記載の露光装置。
【請求項10】
請求項請求項9に記載の露光装置を用いて基板上に感光層のパターンを形成することと、
前記感光層のパターンが形成された基板を処理することと、を含むデバイス製造方法。
【請求項11】
第1照明光でパターンを照明し、前記第1照明光で前記パターン及び投影光学系を介して物体を露光する露光方法であって、
前記第1照明光と異なる波長の第2照明光を音響光学素子を介して、前記投影光学系に含まれる光学素子に照射することと、
前記音響光学素子を駆動して前記光学素子に照射される前記第2照明光の照射領域を変更することと、
前記第1照明光でパターンを照明し、前記第1照明光で前記パターン及び投影光学系を介して物体を露光することとを含む露光方法。
【請求項12】
開口絞りを介して前記第1照明光で前記パターンが照明され、開口絞りにより設定される照明条件に応じて、前記第2照明光の照射領域が変更される請求項11に記載の露光方法。
【請求項13】
前記第2照明光の照射領域を、前記光学素子の光軸を中心とした周方向で変更する請求項11に記載の露光方法。
【請求項14】
前記音響光学素子は、前記光学素子を取り囲んで複数設けられ、各素子からの前記第2照明光の射出方向が変更可能である請求項11に記載の露光方法。
【請求項15】
前記各素子から前記第2照明光が射出方向が変更されながら射出される請求項14に記載の露光方法。
【請求項16】
前記複数の素子から交互に前記第2照明光が射出される請求項14に記載の露光方法。
【請求項17】
前記光学素子における前記第2照明光の照射領域は、第1照明光が照射される領域とは異なる請求項11に記載の露光方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−267966(P2010−267966A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110150(P2010−110150)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】