説明

光導波路型センサチップおよび光導波路型センサ

【課題】光学設計を簡素化し、光損失を抑えることができる光導波路型センサチップを得ること。
【解決手段】光導波路層と、前記光導波路層へ光を入射させ、前記光導波路層外に前記光を出射させるよう、前記光導波路層の界面のうち一方の面の両端に配置された1対の光学素子と、前記光導波路層上の所定の領域に形成された機能膜と、前記光導波路層の前記光の入射面上の、少なくとも前記光学素子が配置された平面領域を含む平面領域に形成された被覆層と、入射側の前記光学素子に入射する前記光を通過させるように、前記被覆層に形成された第1の貫通孔と、出射側の前記光学素子から出射する前記光を通過させるように、前記被覆層に形成された第2の貫通孔と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、光導波路型センサチップおよび光導波路型センサに関する。
【背景技術】
【0002】
試料溶液中に含まれる物質の濃度を測定する方法として、光導波現象を利用した方法が知られている。その一例として、レーザ光を、入射側グレーティングを通じて光導波路層に入射することによりエバネッセント波を発生させ、試料溶液中に含まれる物質と光導波路層上に形成された機能膜に含まれる分子との反応に起因するエバネッセント波の変化量を、出射側グレーティングから放出される光を検出することにより、試料溶液中に含まれる物質の濃度を測定する方法が挙げられる。
【0003】
このような光導波現象を利用して試料溶液中に含まれる物質の濃度を測定する装置は、光導波路型センサと呼ばれている。光導波路型センサは、例えば、ガラスまたは石英からなる透明な基板と、その基板の主面のその基板内にレーザ光を入出射するための一対のグレーティングと、グレーティングを含む基板の主面の基板より高屈折率の高分子樹脂からなる光導波路層と、光導波路層上に形成された機能膜と、で構成される。このような光導波路型センサでは、基板側から基板を介して光導波路へレーザ光を入射させる。したがって、基板はレーザ光を透過する透明な基板であることが要求され、基板として用いる材料に制約があった。また、基板を通して光導波路へレーザ光が入射されるため、複数の材料の屈折率を考慮した光学設計を行う必要があり、基板を透過することにより光損失が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−208359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の光導波路型センサでは、透明な基板を通して光導波路へレーザ光が入射されるため、複数の材料の屈折率を考慮した光学設計を行う必要があり光学設計が複雑となり、基板を透過することによる光損失が生じる、という問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明の一態様によれば、光導波路層と、前記光導波路層へ光を入射させ、前記光導波路層外に前記光を出射させるよう、前記光導波路層の界面のうち一方の面の両端に配置された1対の光学素子と、前記光導波路層上の所定の領域に形成された機能膜と、前記光導波路層の前記光の入射面上の、少なくとも前記光学素子が配置された平面領域を含む平面領域に形成された被覆層と、を備える光導波路型センサチップが提供される。この光導波路型センサチップは、入射側の前記光学素子に入射する前記光を通過させるように、前記被覆層に形成された第1の貫通孔と、出射側の前記光学素子から出射する前記光を通過させるように、前記被覆層に形成された第2の貫通孔と、を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、第1の実施の形態にかかる光導波路型センサの構成例を示す図である。
【図2】図2は、第1の実施の形態の光導波路型センサチップの上面および断面の概略を示す図である。
【図3】図3は、第1の実施の形態の光導波路型センサチップの製造方法の一例を示す図である。
【図4】図4は、第2の実施の形態にかかる光導波路型センサの構成例を示す図である。
【図5】図5は、第2の実施の形態の光導波路型センサチップの製造方法の一例を示す図である。
【図6】図6は、第3の実施の形態にかかる光導波路型センサの構成例を示す図である。
【図7】図7は、第3の実施の形態の光導波路型センサチップの製造方法の一例を示す図である。
【図8】図8は、第4の実施の形態の光導波路型センサチップの製造方法の一例を示す図である。
【図9】図9は、第4の実施の形態の光導波路型センサチップの別の製造方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態にかかる光導波路型センサの構成例を示す図である。本実施の形態の光導波路型センサは、光導波路型センサチップと、光源7と、受光素子8と、を備える。また、光導波路型センサチップは、光導波路層1と、反射膜2と、基板3と、機能膜4と、グレーティング5a,5bと、保護層(表面保護層)6と、を備える。
【0009】
光源7は、光導波路型センサチップに対して、保護層6側から光導波路層1へ光を入射する。また、受光素子8は、光導波路型センサチップの保護層6側から射出された光を検出する。光源7としては、例えばレーザーダイオード等を用いることができるが、これに限らず単色光を射出できればどのような光源を用いてもよい。受光素子8としては、例えばフォトダイオードを用いることができるが、これに限らずどのような素子を用いてもよい。
【0010】
図2は、本実施の形態の光導波路型センサチップの上面および断面の概略を示す図である。図2に示すように、反射膜2は、基板3と光導波路層1との間に形成されている。また、グレーティング5aは、反射膜2上(基板3に接する面と反対側)の一方の端部(光導波路層1の長手方向の端部)の、光源7からの光が入射される領域を含む領域に形成され、グレーティング5bは、反射膜2上の他方の端部の、光導波路層1から光が射出される領域を含む領域に形成されている。グレーティング5a,5bは、光導波路層1に光を入射させ、光導波路層1から光を射出させるための光学素子であり、グレーティング5a,5bの代わりにプリズム等の光学素子を用いてもよい。
【0011】
機能膜4は、光導波路層1上の所定の領域に形成されている。保護層6は、機能膜4が形成されている領域以外の光導波路層1上の領域に形成され、貫通孔9および貫通孔10を有している。
【0012】
基板3は、機能膜4が形成されていない面(裏面)で光導波路層1に接し、裏面から光導波路層1を機械的な損傷等から保護する裏面保護層として機能する。
【0013】
貫通孔9は、光源7から入射される光が保護層6で遮られることなく光導波路層1へ入射するように形成されている。また、貫通孔9の平面位置(光導波路型センサチップの厚さ方向に垂直な面内の位置)が、入射側のグレーティング5aが形成される平面位置内となるよう形成されている。貫通孔10は、光導波路層1から受光素子8へ出射する光が保護層6で遮られることないように形成されている。また、貫通孔10の平面位置は、出射側のグレーティング5bが形成される平面位置内となるよう形成されている。
【0014】
また、図2では、構成を模式的に示した図であり、各構成要素の大きさ等を示していない。ここでは、一例として、光導波路型センサチップのサイズとして、長手方向が16mm程度、短手方向が6.5mm程度を想定している。また、基板3の厚さは、700μm程度、光導波路層1の厚さは30μm程度、保護層6の厚さは3μm程度を想定している。また、機能膜4のサイズは、光導波路型センサチップの長手方向が7mm程度、光導波路型センサチップの短手方向が4mm程度を想定している。グレーティング5a,5bの各領域の大きさは、光導波路型センサチップの長手方向が2〜3mm、光導波路型センサチップの短手方向が4.5mm程度を想定している。なお、これらのサイズは一例であり、各構成要素のサイズに制約はない。
【0015】
貫通孔9,10の大きさは、光源7から入射する光束の大きさに依存するが、例えば、直径1〜5mm程度とする。なお、図2では、貫通孔9,10の形状を円柱状としたが、これに限らず、四角柱やテーパー状などのほかの形状であってもよい。
【0016】
本実施の形態の光導波路型センサでは、光源7から射出される光を、貫通孔9および入射側のグレーティング5aを通じて光導波路層1に入射することによりエバネッセント波を発生させる。そして、機能膜4上に導入された試料溶液等と、光導波路層1上に形成された機能膜4に含まれる分子等との反応に起因するエバネッセント波の変化量を、出射側のグレーティング5bおよび貫通孔10を経由して放出される光を受光素子8により検出する。受光素子8が検出する光の変化量は、試料溶液等に含まれる検出対象の物質(機能膜4に含まれる分子等との反応する物質)の濃度に依存するため、受光素子8が検出する光の変化量を求めることにより試料溶液等に含まれる検出対象の物質の濃度を検出することができる。
【0017】
従来の光導波路型センサでは、例えば、基板上に光導波路層を形成し、基板側から光導波路層へ光を入射し、光導波路層から基板側に射出された光を検出する。したがって、基板は光導波路層へ入射される光を透過する材質である必要があった。また、この場合、空気と基板界面と、基板と光導波路層界面と、の二つの界面現象が生じる、という問題もある。また、基板に透明な材質を使い、これらを経由して光導波路層へ光を入射させる場合、複数の材料屈折率を考慮した光学設計を行う必要があり、光学設計が複雑になるという問題がある。さらに、基板を通過することにより、光損失が生じるという問題もある。
【0018】
また、光導波路層上に形成された保護層側から光を入射させることも考えられるが、この場合も、透明な基板を用いる場合と同様に、複数の材料屈折率を考慮した光学設計を行う必要があり、光学設計が複雑になるという問題がある。また、基板を通過することにより、光損失が生じるという問題もある。
【0019】
これに対し、本実施の形態の光導波路型センサは、保護層6に形成された貫通孔9を経由して光導波路層1へ光源7からの光を入射させ、貫通孔10を経由して光導波路層1から光を射出しているので、基板3または保護層6に、透明な材質を用いる必要がない。例えば基板3としてシリコン基板を用いれば、半導体チップの製造技術を光導波路型センサチップの製造に適用することができる。また、光源7から光導波路層1へ直接光を入射させることができるため、複数の材料屈折率を考慮した光学設計を行う必要がなく、また光損失が生じない。
【0020】
さらに、本実施の形態の光導波路型センサは、反射膜2を備えているため、基板3に対する光学的な制約がなくなり、基板3の材質の選択肢をさらに広げることができる。なお、本実施の形態では、反射膜2を備えるようにしたが、基板3を金属等の材質として表面とを鏡面加工することにより、反射膜2を備えないようにしてもよい。この場合、基板3の材質の選択肢は反射膜2を備える場合に比べ低減するが、貫通孔9を経由して光導波路層1へ光源7からの光を入射させ、貫通孔10を経由して光を射出することにより、複数の材料屈折率を考慮した光学設計を行う必要がなく、また光損失が生じないという効果を得ることができる。
【0021】
光導波路層1としては、光導波路として通常用いられるどのような材質を用いてもよいが、例えば、ガラスや有機膜等を用いることができる。
【0022】
反射膜2としては、鏡面反射率の高い材質であればどのような材質を用いてもよいが、例えば、鏡面加工されたアルミや銀の金属薄膜や樹脂反射膜を用いることができる。
【0023】
保護層6としては、光導波路層1より屈折率が低く、かつ試料溶液等と反応しない材料が用いられる。保護層6は、機能膜4が形成されている領域以外で光導波路層1と試料溶液が接触することを防ぐとともに、光導波路型センサチップの製造過程で機能膜4が所定の領域以外に形成されることを防ぐ。保護層6は、どのような方法で形成してもよいが、例えば基板3上に光導波路層1を形成した後に、光導波路層1上の、機能膜4および貫通孔9,10が形成される領域を除いた部分にパターン転写可能な印刷法やインプリント法等を用いて形成する方法が適している。保護層6の材質としては、撥水性の高い材質を用いることが望ましく、例えばフッ素樹脂等を用いることができる。
【0024】
基板3としては、反射膜2を用いる場合、透明度等の光学的性能に対する要求が無いため、どのような材質を用いてもよい。例えばシリコン基板を用いると半導体チップの製造工程を適用することができるという利点がある。耐熱性を要求される場合には、ガラスを用いることもできるが、本実施の形態では、透明度が要求されないため、透明度の低い(グレードの低い)ガラス等を用いることができる。また、プラスチック等を用いてもよい。
【0025】
グレーティング5a,5bとしては、光導波路層1より屈折率が高い材質であればどのような材質を用いてもよいが、例えば二酸化チタンを用いることができる。
【0026】
機能膜4は、膜形成高分子化合物等で膜体が構成され、この膜体内に本実施の形態の光導波路型センサの検出対象の物質と反応する酵素や色素などが保持される。例えば、検出対象をグルコースとする場合には、機能膜4は、グルコースの酸化酵素または還元酵素と、この酵素により生成物と反応して発色剤を発色させる物質を発生する試薬と、発色剤と、膜形成高分子化合物と、で構成される。また、必要に応じて透水性促進剤を備える。グルコースの酸化酵素として、例えばグルコースオキシターゼを用いる場合には、発色剤を発色させる物質を発生する試薬としてペルオキシターゼを用い、発色剤として3,3´,5,5´−テトラメチルベンジジン等を用いることができる。また、膜形成高分子化合物としては、例えばセルロース系高分子化合物を用いることができる。
【0027】
つぎに、本実施の形態の光導波路型センサチップの製造方法について説明する。なお、以下に説明する製造方法は、本実施の形態の光導波路型センサチップの製造方法の一例であり、本実施の形態の光導波路型センサチップの製造方法はこれに限定されない。
【0028】
図3は、本実施の形態の光導波路型センサチップの製造方法の一例を示す図である。ここでは、一例として、基板3がシリコン基板であり、光導波路層1と保護層6が有機薄膜であり、反射膜2が金属薄膜である場合について説明する。
【0029】
まず、図3(a)に示すように基板3を準備し、図3(b)に示すように基板3の片面に金属薄膜である反射膜2を形成する。金属薄膜形成方法としては、めっきやスパッタ、CVD(Chemical Vapor Deposition)などが挙げられる。そして、形成した金属薄膜を研磨し鏡面とすることで反射膜2とする。
【0030】
つぎに、図3(c)に示すように、反射膜2上に、グレーティング材料の薄膜5をスパッタやCVD法等により形成した後、図3(d)に示すようにレジストパターンにあわせて薄膜5をエッチングしパターンを形成することにより、入射側と射出側の2箇所にグレーティング5a,5bをそれぞれ形成する。薄膜5のエッチングはどのような方法で行なってもよいが、例えば、RIE(Reactive Ion Etching)を用いることができる。
【0031】
つぎに、図3(e)に示すように、反射膜2およびグレーティング5a,5b上に、光導波路層1を形成する。例えば、液状の光導波路層1の材料をスピンコートにより塗布し硬化させて形成できる。光導波路層1の材料は保護層6の屈折率よりも高い屈折率を有する材料であればよく、熱可塑性樹脂でもよく、硬化性樹脂でもよい。
【0032】
そして、図3(f)に示すように、光導波路層1に保護層6を形成する。この際、保護層6は、機能膜4が形成される所定の領域と、貫通孔9,10と、を除いた領域に、印刷法やインプリント法等により形成する。
【0033】
そして、図3(g)に示すように、所定の領域(光導波路層1の保護層6が形成されていない領域のうち、貫通孔9,10を除いた領域)に、機能膜4を形成する。機能膜4の形成方法としては、酵素や色素などの試薬を含ませた膜形成高分子化合物を溶媒に拡散させ、開口部にディスペンスした後に溶媒を揮発させる方法などがその方法として挙げられる。
【0034】
なお、本実施の形態では、光源7および受光素子8をそれぞれ1つとした例について説明したが、光源7および受光素子8が、2つ以上の場合には、それぞれの入射する光束を通過させるための貫通孔、それぞれの出射する光束を通過させるための貫通孔、を設けるようにすればよい。例えば、光源7が2つの場合、2つの入射位置が近い場合には、1つの貫通孔で入射する2つの光束を通過させるようにしてもよいし、光束ごとに貫通孔を設けてもよい。出射側も同様である。
【0035】
なお、ここでは、光導波路層1の材料に有機材料を用いた場合について説明したが、光導波路層1にシリコン酸化物等を用いてもよい。光導波路層1にシリコン酸化物を用いる場合は、反射膜2上にシリコン酸化膜を形成すればよい。
【0036】
また、本実施の形態では、保護層6を1層としたが、保護層6が多層で構成されていてもよく、その場合にはそれらの多層の全てを貫通するように貫通孔9,10を設ける。また、保護層6以外の構成層が保護層6の上部または下部(光導波路層1との間)に形成されていてもよい。その場合、光導波路型センサチップの上部(光の入射側)の表面から光導波路層1の表面に達するまでの全層を1つの被覆層と考え、被覆層を貫通する貫通孔9,10を設けることにより、光導波路層1に入射する光を通過させるようにすればよい。言い換えると、光導波路層1へ光が入射する面(光が出射する面)と光導波路型センサチップの表面(光の入射側の表面)との間に、少なくともグレーティング5a,5bが形成される平面領域を含む領域に形成された被覆層が存在する場合に、光導波路層1(グレーティング5a)へ入射する光または光導波路層1から出射する光を通過させるよう、被覆層に貫通孔9,10を設ければよい。
【0037】
このように、本実施の形態では、保護層6に貫通孔9,10を設け、貫通孔9を経由して光導波路層1に光源7からの光を入射させ、貫通孔10を経由して光導波路層1から出射する光を受光素子8に入射させるようにした。そのため、基板3の材料に広い選択肢を与えることができる。また、複数の材料屈折率を考慮した光学設計を行う必要がなく、また光損失が生じない。また、基板3にシリコン基板を用いると、多くの工程で半導体製造プロセスを利用することができるため、高い精度と生産性で光導波路型センサチップを製造することができる。また、反射膜2を備えると、さらに基板3の材料に広い選択肢を与えることができる。さらに、基板3の材料によっては、基板3が遮光膜として機能する。
【0038】
(第2の実施の形態)
図4は、第2の実施の形態にかかる光導波路型センサの構成例を示す図である。本実施の形態の光導波路型センサは、光導波路型センサチップと、光源7と、受光素子8と、を備える。本実施の形態の光導波路型センサチップは、第1の実施の形態と同様に、光導波路層1と、反射膜2と、基板3と、機能膜4と、グレーティング5a,5bと、保護層6と、を備えるが、第1の実施の形態と異なり、保護層6には貫通孔9,10が形成されておらず、基板3および反射膜2に貫通孔11,12が形成されている。また、本実施の形態では、光源7から入射される光は貫通孔11を経由して光導波路層1に入射し、光導波路層1が出射する光は、貫通孔12を経由して受光素子8へ入射する。第1の実施の形態と同様の機能を有する構成要素は、第1の実施の形態と同一の符号を付して重複する説明を省略する。以下、第1の実施の形態と異なる点を説明する。
【0039】
第1の実施の形態では、保護層6に貫通孔9,10を設けたが、本実施の形態では、基板3および反射膜2に貫通孔11,12を設ける。そして、光源7から入射される光は、基板3側から貫通孔11を経由して光導波路層1に入射させ、光導波路層1が出射する光は、貫通孔12を経由して基板3側から出射させる。したがって、機能膜4と貫通孔11,12が、同一面内になく光導波路型センサチップの反対面に配置されるため、機能膜4に試料を添加する際に、貫通孔11,12を経由して試料が侵入することによる、光導波路層1の汚染を防ぐことができる。
【0040】
貫通孔11は、光源7から入射される光が基板3および反射膜2で遮られることなく光導波路層1へ入射するように形成されている。また、貫通孔11の平面位置(光導波路型センサチップの厚さ方向に垂直な面内の位置)が、入射側のグレーティング5aが形成される平面位置内となるよう形成されている。貫通孔12は、光導波路層1から受光素子8へ出射する光が基板3および反射膜2で遮られることのないように形成されている。また、貫通孔12の平面位置は、出射側のグレーティング5bが形成される平面位置内となるよう形成されている。
【0041】
貫通孔11,12の大きさは、光源7から入射する光束の大きさに依存するが、例えば、直径1〜2mm程度とする。なお、図2では、貫通孔9,10の形状を円柱状としたが、これに限らず、四角柱やテーパー状などのほかの形状であってもよい。
【0042】
本実施の形態の光導波路型センサの構成、機能および各構成要素の材質は、貫通孔の位置が異なること、および入射および出射する光の方向が異なること、以外は第1の実施の形態の光導波路型センサの構成および機能と同様である。ただし、貫通孔11,12を基板3に設けることから、基板3の厚さを第1の実施の形態より薄くすることが望ましい(例えば、100〜300μm程度)。
【0043】
つぎに、本実施の形態の光導波路型センサチップの製造方法について説明する。なお、以下に説明する製造方法は、本実施の形態の光導波路型センサチップの製造方法の一例であり、本実施の形態の光導波路型センサチップの製造方法はこれに限定されない。
【0044】
図5は、本実施の形態の光導波路型センサチップの製造方法の一例を示す図である。ここでは、一例として、基板3がシリコン基板であり、光導波路層1と保護層6が有機薄膜であり、反射膜2が金属薄膜である場合について説明する。
【0045】
図5(a)〜図5(d)(光導波路層1を形成するまで)の工程は、第1の実施の形態と同様であるため説明を省略する。光導波路層1の形成の後、図5(e)に示すように、光導波路層1に保護層6を形成する。この際、保護層6は、機能膜4が形成される所定の領域を除いた領域に、印刷法やインプリント法等により形成する。
【0046】
つぎに、図5(f)に示すように、基板3および反射膜2に貫通孔11,12を形成する。貫通孔11,12の形成は、どのような方法で行ってもよいが、例えば、レジストでパターニングを行い、ウエットエッチングまたはRIEを用いて行えば、精度よく加工することができる。
【0047】
そして、図5(g)に示すように、所定の領域に、機能膜4を形成する。機能膜4の形成方法としては、酵素や色素などの試薬を含ませた膜形成高分子化合物を溶媒に拡散させ、開口部にディスペンスした後に溶媒を揮発させる方法などがその方法として挙げられる。
【0048】
なお、第1の実施の形態と同様に、基板3の材質を金属等とすることにより、反射膜2を備えないようにしてもよい。また、貫通孔11,12を、透明な材質の部材で埋めるようにしてもよい。
【0049】
また、本実施の形態では、基板3および反射膜2を貫通する貫通孔11,12を設けるようにしたが、これは言い換えると、第1の実施の形態で述べた、光導波路層1へ光が入射する面(光が出射する面)と光導波路型センサチップの表面(光の入射側の表面)との間に、少なくともグレーティング5a,5bが形成される平面領域を含む領域に形成された被覆層が基板3および反射膜2である場合に相当する。
【0050】
なお、第1の実施の形態および本実施の形態では、光導波路層1へ光が入射する面と
光導波路層1から光が出射する面が同一である場合について説明したが、入射面と出射面が異なっていてよい。その場合は、それぞれに対応する面側の被覆層に貫通孔をそれぞれ形成する。例えば、保護層6側から光が入射し、基板3側から光が出射する場合には、保護層6に第1の実施の形態と同様に貫通孔9を設け、基板3および反射膜2に貫通孔12を設ければよい。
【0051】
このように、本実施の形態では、基板3および反射膜2に貫通孔11,12を設け、貫通孔11を経由して光導波路層1に光源7からの光を入射させ、貫通孔12を経由して光導波路層1から出射する光を受光素子8に入射させるようにした。そのため、実施の形態1と同様の効果が得られるとともに、さらに、機能膜4への試料添加時の光導波路層1の汚染を防ぐことができる。
【0052】
(第3の実施の形態)
図6は、第3の実施の形態にかかる光導波路型センサの構成例を示す図である。本実施の形態の光導波路型センサは、光導波路型センサチップと、光源7と、受光素子8と、を備える。本実施の形態の光導波路型センサチップは、光導波路層1と、基板13と、機能膜4と、グレーティング5a,5bと、保護層6と、を備える。また、第1の実施の形態と同様の保護層6には貫通孔9,10が形成されている。第1の実施の形態と同様の機能を有する構成要素は、第1の実施の形態と同一の符号を付して重複する説明を省略する。以下、第1の実施の形態と異なる点を説明する。
【0053】
本実施の形態では、基板13として、樹脂のようなフレキシブルな材料(例えば、メタクリル樹脂,シクロオレフィンポリマー樹脂等)を用いる。そして、光導波路層1および保護層6についても、樹脂のようなフレキシブルな材料(例えば、透明フッ素樹脂,シリコーン樹脂、アクリル樹脂等)を用いれば、高い曲げ耐性をもつチップを得ることができる。図6の構成例では、反射膜2を備えない構成を示しているが、反射膜2としてフレキシブルな材料(例えば、アルミニウム蒸着膜等)を用いて、光導波路層1と基板13の間に反射膜2を備えるようにしてもよい。
【0054】
図7は、本実施の形態の光導波路型センサチップの製造方法の一例を示す図である。ここでは、一例として、基板13、光導波路層1、保護層6がそれぞれフレキシブルな樹脂材料で構成され、反射膜2を備えない場合について説明する。ここでは、一例として、支持基板上でチップを形成後、基板から剥離を行う方法を説明する。
【0055】
まず、図7(a)に示すように、支持基板14を用意する。支持基板14の材料はどのようなものでもよいが、例えば、ガラス、シリコン基板等を用いることができる。
【0056】
つぎに、図7(b)に示すように、支持基板14上に基板13を形成する。例えば、液状の基板13の材料をスピンコートにより塗布し硬化させて形成することができる。硬貨方法は、どのような方法を用いてもよいが、例えば、UV(Ultraviolet)照射、ホットプレートによるベーク等を用いることができる。つぎに、図7(c)に示すように、基板13上にグレーティング5a,5bを形成する。グレーティング5a,5bの形成方法は、第1の実施の形態と同様の方法を用いることができる。
【0057】
そして、図7(d)に示すように、基板13およびグレーティング5a,5b上に、光導波路層1を形成する。第1の実施の形態と同様に、例えば、液状の光導波路層1の材料をスピンコートにより塗布し硬化させて形成できる。
【0058】
以降の保護層6および貫通孔9,10の形成処理、機能膜4の形成処理は(図7(e),図7(f)は、第1の実施の形態の図3(e),図3(f)に示した処理と同様である。機能膜4の形成後、図7(g)に示すように、基板13を支持基板14から剥離する。
【0059】
このように、本実施の形態では、基板13、光導波路層1、保護層6がそれぞれフレキシブルな材料を用いるようにした。そのため、第1の実施の形態と同様の効果が得られるとともに、高い曲げ耐性をもつチップを得ることができ、さらにガラス基板で見られるような光導波路層の材料と基板との密着不良発生を回避することができる。
【0060】
(第4の実施の形態)
図8は、第4の実施の形態の光導波路型センサチップの製造方法の一例を示す図である。本実施の形態の光導波路型センサチップの構成は、第1の実施の形態の光導波路型センサチップの基板3の代わりに裏面保護層を備える以外は、第1の実施の形態の光導波路型センサチップと同様である。
【0061】
本実施の形態では、光導波路層1としてガラス基板を用いることにより、第2の実施の形態の基板13や第1の実施の形態の基板3を不要とする。その代わりに、光導波路層1の裏面には、光導波路層1として用いるガラス基板を汚染等から保護する裏面保護層を、例えばスピンコートや印刷法等により形成する。
【0062】
第4の実施の形態の光導波路型センサチップの製造方法を、図8を用いて説明する。まず、図8(a)に示すように、光導波路層1として機能するガラス基板を用意する。そして、図8(b)に示すように、光導波路層1をエッチングしパターンを形成することにより、溝15を形成する。溝15は、後の工程でグレーティングの材料が埋め込まれることにより、グレーティング5a,5bを形成するため、グレーティング5a,5bの形状に基づいて溝15を形成しておく。光導波路層1のエッチングはどのような方法で行なってもよいが、例えば、ウエットエッチング、RIE等を用いることができる。
【0063】
次に、図8(c)に示すように、溝15上を含めた光導波路層1上に、グレーティング材料の薄膜16をスパッタ、めっき、CVD法等により形成する。薄膜16の材料は第1の実施の形態の薄膜5と同様である。
【0064】
そして、図8(d)に示すように、光導波路層1上の平坦部(溝15上以外)に形成された薄膜16を除去することにより、グレーティング5a,5bを形成する。このときの除去方法としては、どのような方法を用いてもよいが、例えば研磨を用いることができる。
【0065】
次に、図8(e)に示すように、光導波路層1の裏面(グレーティング5a,5bが形成された面と反対側の面)に裏面保護層17を形成する。裏面保護層17の形成方法は、どのような方法を用いてもよいが、例えば、スピンコートや印刷法などが挙げられる。また、裏面保護層17の材質としては、どのような材質を用いてもよいが、例えば、フッ素樹脂等を用いることができる。
【0066】
そして、図8(f)に示すように、光導波路型センサチップを反転させ、第1の実施の形態の図3(e)と同様に、光導波路層1上の機能膜4が形成される所定の領域と、貫通孔9,10と、を除いた領域に、保護層6を形成した後、図8(g)に示すように、第1の実施の形態の図3(f)と同様に機能膜4を形成する。なお、ここでは、反射膜2を備えない場合を説明したが、裏面保護層17の形成の前に反射膜2を形成してもよい。
【0067】
このように光導波路層1としてガラス基板を用いた場合、光導波路層1の厚さは、第1の実施の形態等の場合に比べ厚くなる(例えば、100μm程度となる)。光導波路層1もより薄くする場合には、薄化したガラス基板を支持基板に固定してから、上記の図8(a)〜図8(e)を行い、支持基板から剥離した後に、図8(f)以降の工程を行なうようにしてもよい。
【0068】
図9は、第4の実施の形態の光導波路型センサチップの別の製造方法の一例を示す図である。図8では、光導波路層1上に溝15を形成して、グレーティング5a,5bを形成する例を説明したが、図9に示すように、溝15を形成せずにグレーティング5a,5bを形成してもよい。
【0069】
まず、図9(a)に示すように、光導波路層1として機能するガラス基板を用意する。そして、図9(b)に示すように、光導波路層1上に、グレーティング材料の薄膜16をスパッタ、めっき、CVD法等により形成する。その後、図9(c)に示すように、薄膜16をエッチングしパターンを形成することにより、入射側と射出側の2箇所にグレーティング5a,5bをそれぞれ形成する。薄膜16のエッチングはどのような方法で行なってもよいが、例えば、RIEを用いることができる。
【0070】
そして、図9(d)に示すように、グレーティング5a,5bを上側から研磨した後、図9(e)に示すように、光導波路層1上の機能膜4が形成される所定の領域と、貫通孔9,10と、を除いた領域に、保護層6を形成する。
【0071】
そして、図9(f)に示すように、裏面側に裏面保護層17を形成した後、図9(g)に示すように、機能膜4を形成する。
【0072】
このように、本実施の形態では、ガラス基板を光導波路層1として用いることにより、別途基板を備えない光導波路型センサチップにおいて、貫通孔9,10を設けることにより、貫通孔9を経由して光導波路層1に光源7からの光を入射させ、貫通孔10を経由して光導波路層1から出射する光を受光素子8に入射させるようにした。そのため、複数の材料屈折率を考慮した光学設計を行う必要がなく、また光損失が生じない。
【0073】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行なうことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0074】
1 光導波路層、2 反射膜、3,13 基板、4 機能膜、5a,5b グレーティング、6 保護層、7 光源、8 受光素子、9,10,11,12 貫通孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光導波路層と、
前記光導波路層へ光を入射させ、前記光導波路層外に前記光を出射させるよう、前記光導波路層の界面のうち一方の面の両端に配置された1対の光学素子と、
前記光導波路層上の所定の領域に形成された機能膜と、
前記光導波路層の前記光の入射面上の、少なくとも前記光学素子が配置された平面領域を含む平面領域に形成された被覆層と、
入射側の前記光学素子に入射する前記光を通過させるように、前記被覆層に形成された第1の貫通孔と、
出射側の前記光学素子から出射する前記光を通過させるように、前記被覆層に形成された第2の貫通孔と、
を備えることを特徴とする光導波路型センサチップ。
【請求項2】
前記被覆層を、前記光導波路層の前記機能膜が形成された面上の、前記所定の領域以外の領域に形成された表面保護層とする、
ことを特徴とする請求項1に記載の光導波路型センサチップ。
【請求項3】
前記被覆層を、前記光導波路層の前記機能膜が形成された面の裏面上に形成された基板とする、
ことを特徴とする請求項1に記載の光導波路型センサチップ。
【請求項4】
前記光導波路層の前記機能膜が形成された面の裏面上に形成された反射膜と、
前記反射膜上に形成された不透明基板と、
をさらに備えることを特徴とする請求項2に記載の光導波路型センサチップ。
【請求項5】
光源と、
受光素子と、
光導波路層と、
前記光導波路層へ光を入射させ、前記光導波路層外に前記光を出射させるよう、前記光導波路層の界面のうち一方の面の両端に配置された1対の光学素子と、
前記光導波路層上の所定の領域に形成された機能膜と、
前記光導波路層の前記光の入射面上の、少なくとも前記光学素子が配置された平面領域を含む平面領域に形成された被覆層と、
入射側の前記光学素子に入射する前記光を通過させるように、前記被覆層に形成された第1の貫通孔と、
出射側の前記光学素子から出射する前記光を通過させるように、前記被覆層に形成された第2の貫通孔と、
を備えることを特徴とする光導波路型センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−21936(P2012−21936A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161638(P2010−161638)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】