説明

光導波路変調器及び光ファイバジャイロ

【課題】焦電効果による電界の発生を防止した簡単な構成の光導波路変調器の実現。
【解決手段】基材11と、基材11内の上面の直下に設けられた光導波路12,13,14と、基材11の上面上の光導波路13,14の両側に設けられた制御電極15A,15B,16A,16Bと、を備える光導波路変調器であって、基材11の上面上の制御電極の両側に設けられた2つの接地電極21,22と、2つの接地電極21,22を接続するボンディングワイヤ23と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニオブ酸リチウムなどの電気光学結晶基材に設けられた光導波路変調器及びそれを使用した光ファイバジャイロに関する。
【背景技術】
【0002】
電気光学効果を利用した光変調器は、光ファイバジャイロや光通信装置などに広く使用されている。光ファイバジャイロに使用される光変調器を例として説明を行う。
【0003】
図1は、特許文献1に記載された光ファイバジャイロの概略構成を示す図である。光源1から出た光を、光ファイバを介して光カプラ2、偏光子(ポラライザ)3、更に光導波路変調器4などを経由することにより2つの進路に分岐し、光ファイバループ5の中を時計回り方向(CW方向)と反時計回り方向(CCW方向)との両方向に光を伝播させる。そして、このような光伝播状態下で、光ファイバループ5に、光ファイバループ5のループ中心の周りに角速度を印加すると、CW、CCW光間にいわゆるサニヤック(Sugnac)効果と称される、角速度に比例した位相差が発生する。光ファイバジャイロは、このようなCW方向及びCCW方向の光の干渉光の強度が位相差に応じて変化することを利用して、角速度に対する干渉光強度の変化を光カプラ2で結合された検出系のファイバを介して受光器6により光学的出力として得た出力を光電変換により電気出力に変換して検出出力を得るようにした構成を有している。
【0004】
ここで、CW光とCCW光との位相差をφとすると、干渉光の強度Pは次の式で表される。
【0005】
P=Kp(1+COSφ)
ここでKpは定数である。このような干渉光の強度出力Pは、角速度の変化に対応した出力変化においては余弦(COS)系の出力曲線を呈するためにゼロ入力角速度を境界とした正負の角速度付近では、きわめて検出速度が緩慢になる欠点がある。このために、干渉光の強度Pの検出系で正弦波位相変調をかける電気的処理を施すことが行われる。図1に示す正弦波発生回路7により光導波路変調器4の電極4a、4bを介して光に正弦波変調をかける。このような変調が行われた干渉光を検出して復調器8により復調すると、出力の角速度成分は、角速度の正弦関数になる。しかし、このままではリニアな出力が得られる範囲が制限されるので、更に制限回路9と鋸歯状波発生回路10とを有したクローズドループ回路によりフィードバック処理をかけて受光器6の出力Vpを狭い範囲に抑えるようにしている。
【0006】
図2は、図1に示した光導波路変調器4の構成例を示す図である。この光導波路変調器は、ニオブ酸リチウム結晶の基材11に形成される。図示のように、基材11の上面がYZ面であり、上面の直下にプロトン交換型の光導波路12がY軸方向に形成され、光導波路12は2つの光導波路13、14に分岐される。光導波路13の光の入出面(XZ面)は、Z軸方向に対して傾いている。光導波路13に沿ってその両側の基材11の上面に1組の電極15A及び15Bが形成され、光導波路14に沿ってその両側の基材11の上面に1組の電極16A及び16Bが形成される。基材11の上面には更に接続用電極パッド17A及び17B、18A及び18Bが設けられ、それぞれ対応する電極15A及び15B、16A及び16Bに接続される。接続用電極パッド17A及び17B、18A及び18Bは、ボンディングワイヤなどにより外部の駆動回路の端子に接続される。光導波路変調器の製作方法については、特許文献2などに記載されるように広く知られているので、説明は省略する。
【0007】
以上、特許文献1に記載された光ファイバジャイロ及びそこで使用される光導波路変調器について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0008】
ニオブ酸リチウム結晶の基材11に形成された光導波路変調器は、温度変化や応力印加により、Z軸方向に垂直な対向面に逆極性の電荷が帯電する、いわゆる焦電効果が生じることが知られており、図2において破線の矢印で示すようにZ軸方向に電界を生じる。焦電効果による電界は不安定であり、この電界により光導波路を通る光の強度が変動するという問題がある。なお、このような問題は、ニオブ酸リチウム結晶の基材に限らず、焦電効果を有する基材を使用する場合に生じる。
【0009】
このような問題による影響を防止するため、例えば光導波路変調器を使用する光ファイバジャイロの製造工程では、長時間の温度サイクルをかけて光量変動を安定化した上で各種の調整を行っていた。しかし、焦電効果による電界の変動は完全には除去できないため、焦電効果による電界の変動が許容レベルまで低下したところで調整を開始していた。また、光ファイバジャイロを使用する場合も同様であり、安定するまで時間を要していた。
【0010】
このような問題を解決するため、例えば、特許文献3は、ニオブ酸リチウムデバイスを安定化させるために、光導波路を形成した上面にシリコンチタンオキシニトライド層を形成し、基材の他の面に相互接続するための接続層を設けることを記載している。
【0011】
また、特許文献4は、導通はしないが電位差は解消できる抵抗値のシリコン皮膜を各電極に接触するように設けることを記載している。
【0012】
【特許文献1】特開平10−221088号公報
【特許文献2】特開2003−66257
【特許文献3】特表2005−515485
【特許文献4】特開平11−118857公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献3に記載された構成では、基材の上面だけでなく、他の面にも接続層を設ける必要があり、基材の面の向きを変えて接続層を形成する処理を行う必要があり、製造工程が複雑になるという問題があった。
【0014】
また、特許文献4に記載された構成では、シリコン皮膜は導通はしないが電位差は解消できる抵抗値であることが必要であり、そのような要求を満たす抵抗値のシリコン皮膜を形成するのが難しいという問題があった。
【0015】
本発明は、このような問題を解決するもので、焦電効果による電界の発生を防止した光導波路変調器を簡単な構成で実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を実現するため、本発明の光導波路変調器は、基材の上面上の光導波路を通過する光の位相を変調する制御電極の両側に、2つの接地電極を設け、2つの接地電極をボンディングワイヤ又は上面上の接続パターンで相互に接続する。ボンディングワイヤによる2つの接地電極の接続は、接続用電極パッドへのワイヤボンディングと同じ工程で行うことが可能であり、工程は増加しない。また、2つの接地電極を接続する接続パターンは、他の電極形成と同じ工程で行うことが可能であり、工程は増加しない。
【0017】
本発明は、ニオブ酸リチウム基材だけでなく、焦電効果のある基材であれば、適用可能である。
【0018】
2つの接地電極は、基材の上面の縁まで、光導波路の全長に沿って形成されていることが望ましい。
【0019】
本発明は、図2にしたような光導波路が基材内で分岐され、分岐した各光導波路に対して2組の制御電極が設けられる光導波路変調器にも適用され、その場合には2つの接地電極は2組の制御電極の更に外側に設けられる。
【0020】
更に、本発明の光導波路変調器は、図1に示した光ファイバジャイロでの使用に適している。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、簡単な構成で製造工程を増加させること無しに、焦電効果の影響を除去して安定した動作が可能な光導波路変調器及び光ファイバジャイロが実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図3は本発明の第1実施例の光導波路変調器の平面図であり、図4は図3の分岐した2つの光導波路の制御電極が設けられた部分の断面図である。この光導波路変調器は、図1の光ファイバジャイロの光変調器4として使用されるものである。
【0023】
図2と比較して明らかなように、第1実施例の光導波路変調器は、上面の光導波路12、13、14の伸びる方向に沿った両側の縁に、接地電極パターン21、22が設けられ、ボンディングワイヤ23で相互に接続されていることが、図2の従来例と異なり、他の部分は同じである。
【0024】
図3及び図4に示すように、ニオブ酸リチウム結晶の基材11のYZ面を上面とし、XZ面に近似した面に光導波路の光の入出力口が形成され、この面はY軸に対して垂直から少し傾斜している。基材11の表面にプロトン交換処理及びアニール処理を含むプロトン交換法よって埋め込み型の光導波路12、13、14を形成する。光導波路12は、途中で光導波路13、14に分岐される。光導波路12を進む光は分岐点で分割されて光導波路13、14を進み、光導波路13、14を逆方向に進む光は分岐点で合成されて光導波路12に入る。
【0025】
分岐した光導波路13、14の両側の上面の上に、制御電極15A、15Bと16Aと16Bが、クローム又はチタニューム、白金、金を順に蒸着することにより形成される。この時、同時に接続用電極パッド17Aと17B、18Aと18B、制御電極15A、15Bと16Aと16Bを接続用電極パッド17Aと17B、18Aと18Bに接続する電極パターン、及び接地電極パターン21、22を形成する。このようにすべての電極及び電極パターンは、1つの工程で同時に作製される。接地電極パターン21、22は、図示のように、光導波路の全長に沿って形成され、基材11の上面の縁まで伸びている。従って、2つの接地電極パターン21、22の間に、制御電極15A、15Bと16Aと16B、及び接続用電極パッド17Aと17B、18Aと18Bが配置される。
【0026】
図4に示すように、2つの接地電極パターン21、22は、ボンディングワイヤ23で接続されている。接続用電極パッド17Aと17B、18Aと18Bは、ワイヤボンディングにより外部回路に接続される。また、2つの接地電極パターン21、22の少なくとも一方は、ワイヤボンディングにより外部回路の接地(グランド)端子に接続される。ボンディングワイヤ23は、これと同じ工程で取り付けられる。
【0027】
第1実施例の光導波路変調器では、光導波路12、13、14は、接地された2つの接地電極パターン21、22の間に配置されるので、たとえ基材11のZ軸に垂直な対向する面に焦電効果により電荷が蓄積されて電界が形成されても電界がシールドされ、光導波路12、12,14の両側は常に同電位になるので、その影響を除去又は低減できる。また、対向する面に蓄積された電荷は、接地電極パターン21、22及びボンディングワイヤ23を介して中和しやすくなるので、電荷の蓄積も抑制される。
【0028】
以上説明したように、第1実施例の光導波路変調器は、従来の工程を増加させることなく製造することができ、且つ焦電効果による電界の影響を除去できる。
【0029】
図5は、本発明の第2実施例の光導波路変調器の平面図である。第1実施例の光導波路変調器では2つの接地電極パターン21、22をボンディングワイヤ23で接続していたのに対して、第2実施例の光導波路変調器では接地電極パターン21、22を接続パターン24で接続する点が異なる。接続パターン24は、他の電極及び電極パターンと同時に作製されるので従来例に比べて工程が増加することはない。
【0030】
図6は、第1及び第2実施例の光導波路変調器における焦電効果による影響を、従来例と比較した実験結果を示す図である。この図は、光導波路に一定光量の光を入射させその出射光量を検出する測定系で、破線で示すように光導波路変調器の温度を−35℃と+85℃の間で4時間周期で変化させた時の出射光量の変化(実線)を示すグラフであり、(A)が図2の従来例における測定結果を、(B)が第1及び第2実施例の光導波路変調器における測定結果を示す。図示のように、従来例では出射光量が温度変化に伴って大きく変化しているのに対して、第1及び第2実施例では安定した一定の変化を示していることが分かる。
【0031】
前述のように、第1及び第2実施例の光導波路変調器は図1の光ファイバジャイロの光変調器として使用するものであり、第1及び第2実施例の光導波路変調器を使用して光ファイバジャイロは、安定して使用可能になるまでの時間が非常に短く、温度変化があっても安定した高精度の出力が得られる。
【0032】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、各種の変形例が可能であるのはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、焦電効果のある基材を使用する光導波路変調器及びそのような光導波路変調器を使用する装置であれば、どのような装置にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】光ファイバジャイロの概略構成を示す図である。
【図2】光導波路変調器の従来例の平面図である。
【図3】本発明の第1実施例の光導波路変調器の平面図である。
【図4】第1実施例の光導波路変調器の断面図である。
【図5】本発明の第2実施例の光導波路変調器の平面図である。
【図6】従来例と比較した本発明の効果を示す実験結果を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
11 ニオブ酸リチウム結晶の基材
12、13、14 光導波路
15A、15B、16A、16B 制御電極
17A、17B、18A、18B 接続用電極パッド
21、22 接地電極パターン
23 ボンディングワイヤ
24 接続パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材内の上面の直下に設けられた光導波路と、
前記基材の上面上の、前記光導波路の両側に設けられた制御電極と、を備える光導波路変調器であって、
前記基材の上面上の、前記制御電極の両側に設けられた2つの接地電極と、
前記2つの接地電極を接続するボンディングワイヤと、を備えることを特徴とする光導波路変調器。
【請求項2】
基材と、
前記基材内の上面の直下に設けられた光導波路と、
前記基材の上面上の、前記光導波路の両側に設けられた制御電極と、を備える光導波路変調器であって、
前記基材の上面上の、前記制御電極の両側に設けられた2つの接地電極と、
前記2つの接地電極を接続するように、前記基材の上面上に設けられた接続電極パターンと、を備えることを特徴とする光導波路変調器。
【請求項3】
前記基材は、ニオブ酸リチウム基材である請求項1又は2に記載の光導波路変調器。
【請求項4】
前記2つの接地電極は、前記基材の上面の縁まで、前記光導波路の全長に沿って形成されている請求項1から3のいずれか1項に記載の光導波路変調器。
【請求項5】
前記光導波路は、前記基材内で分岐され、
前記制御電極は、分岐した各光導波路に対して2組設けられ、
前記2つの接地電極は、2組の前記制御電極の更に外側に設けられる請求項1から4のいずれか1項に記載の光導波路変調器。
【請求項6】
光ファイバループと、光源と、前記光源からの光を前記光ファイバループへの接続経路に導くと共に前記光ファイバループから前記接続経路を介して戻る光を分離する光カプラと、前記接続経路に設けられた光変調器と、前記光カプラで分離された光を検出する受光器と、を備える光ファイバジャイロであって、
前記光変調器は、請求項1から5のいずれか1項に記載された光導波路変調器であることを特徴とする光ファイバジャイロ。
【請求項7】
前記光変調器は、前記接続経路を分岐し、
分岐した2つの前記接続経路が前記光ファイバループの両方の端に接続され、
前記光変調器は、分岐した2つの前記接続経路を通過する光の位相をそれぞれ調整する請求項6に記載の光ファイバジャイロ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−264063(P2007−264063A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−85643(P2006−85643)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(000176730)三菱プレシジョン株式会社 (97)
【Fターム(参考)】