説明

光導波路素子及びそのような光導波路素子を備えた光受信機

【課題】小さな寸法を有し、且つ光学性能に優れた光ハイブリッド回路を提供する。
【解決手段】光ハイブリッド回路10は、4つの入力チャネル11と、4つの出力チャネル12と、一方の端部に4つの入力チャネル11が接続され、他方の端部に4つの出力チャネル12が接続される多モード干渉カプラ13と、を備える。多モード干渉カプラ13は、一方の端部から他方の端部に向かって光を伝搬する。多モード干渉カプラ13は、一方の端部14から他方の端部15側に向かって幅が漸減する第1部分13aと、この第1部分13aと接続され接続部分の幅を保持したまま一方の端部14側から他方の端部15側に向かって延びる第2部分13bと、この第2部分13bと接続され一方の端部14側から他方の端部15に向かって幅が漸増する第3部分13cと、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路素子及びそのような光導波路素子を備えた光受信機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光通信システムにおける伝送容量を増大するために、ビットレートの向上が求められている。ビットレートを増大しないまま伝送容量を向上するために、例えば、多値位相偏移変調を使用する場合がある。
【0003】
多値位相偏移変調として、具体的には、4値位相偏移変調(Quadrature Phase Shift Keying:QPSK)又は差分4値位相偏移変調(Differential Quadrature Phase Shift Keying:DQPSK)が挙げられる。
【0004】
QPSK又はDQPSK信号光を復調するためには、例えば、光ハイブリッド回路を備えたコヒーレント光受信機が用いられる。光ハイブリッド回路は、入力されたQPSK又はDQPSK信号光の位相変調状態に応じて、4つの信号光を出力し、多値化されていた情報を取り出すものであり、コヒーレント光受信機における主要な回路である。
【0005】
そして、コストパフォーマンスに優れたコヒーレント光受信機を製造するために、光ハイブリッド回路を小型化することが求められている。
【0006】
図1は、従来技術による光ハイブリッド回路の例1を示す図である。
【0007】
図1に示す光ハイブリッド回路111は、4つの3dBカプラと、90°位相シフタとから形成される。3dBカプラ同士又は3dBカプラと90°位相シフタとは、光導波路によって接続される。光ハイブリッド回路111は、2つの入力チャネルを用いて、QPSK信号光及び局部発振光(LO光)が入力される。そして、位相が90度ずつ異なる4つの出力光が出力チャネルそれぞれから出力される。出力光は、同相成分であるS−L及びS+L信号光、及び直交成分であるS−jL及びS+jL信号光を含む。
【0008】
しかし、図1に示す光ハイブリッド回路111は、回路を形成する要素が多いので、光ハイブリッド回路を小型化することには限界がある。
【0009】
図2は、従来技術による光ハイブリッド回路の例2を示す図である。
【0010】
図2に示す光ハイブリッド回路112は、4つの入力チャネル及び4つの出力チャネルと、矩形の4:4多モード干渉(Multi Mode Interference:MMI)カプラとにより形成される。光ハイブリッド回路112は、4つの入力チャネルの内、光伝搬方向の中心軸に非対称な2つの入力チャネルを用いて、QPSK信号光及びLO光が入力される。すると、入力された信号光は、MMIカプラ内の多モード干渉によって自己結像され、位相が90度ずつ異なる4つの出力光が出力チャネルそれぞれから出力される。
【0011】
光ハイブリッド回路112は、図1に示す光ハイブリッド回路と比べて、構造が単純であり、光伝搬方向の寸法(以下、単に素子長ともいう)を短縮できる。図2に示す矩形の光ハイブリッド回路では、素子長LMMIが、光ハイブリッド回路の幅(光伝搬方向と直交する方向の寸法)の2乗に比例する。そこで、図2に示す矩形の光ハイブリッド回路は、素子長を短縮するために、幅WMMIを低減する必要がある。
【0012】
しかし、入力チャネルの幅を維持したまま、幅WMMIを低減するためには、入力チャネル間の幅gを低減しなくてはならない。だが、エッチング等の製造工程における加工精度の観点から、幅gを小さくすることには限界がある。従って、図2に示す矩形の光ハイブリッド回路の素子長を短縮することには限界がある。
【0013】
図3は、従来技術による光ハイブリッド回路の例3を示す図である。
【0014】
図3に示す光ハイブリッド回路113は、MMIカプラの両側部がバタフライテーパ状に形成される。MMIカプラの幅は、光伝搬方向に向かってテーパ状に減少した後、テーパ状に増加している。MMIカプラの入力側の幅はWMMIであって、図2に示す光ハイブリッド回路112と同じであるが、光伝搬方向の中央の幅がWMBであって、入力側の幅WMMIよりも狭まっている。MMIカプラの両側部は、中央部分の幅WMBの部分において、不連続点を有する。このような形状を有する光ハイブリッド回路113は、平均の幅を低減して、素子長の減少を図っている。
【0015】
図4は、従来技術による光ハイブリッド回路の例4を示す図である。
【0016】
図4に示す光ハイブリッド回路114は、MMIカプラの両側部が、内側に凸の放物線状に形成される。MMIカプラの幅は、光伝搬方向に向かって、連続的に減少した後、連続的に増加する。MMIカプラの入力側の幅はWMMIであって、図2に示す光ハイブリッド回路112と同じであるが、光伝搬方向の中央の幅がWMPであって、入力側の幅WMMIよりも狭まっている。MMIカプラの両側部は、中央の幅WMPの部分においても連続している。このような形状を有する光ハイブリッド回路114も、平均の幅を低減して、素子長の減少を図っている。
【0017】
図3及び図4に示す光ハイブリッド回路は、MMIカプラの素子長を低減する。しかし、図3及び図4に示す光ハイブリッド回路に対しては、入力光を等分配して出力すること、又は出力される各信号の位相情報が入力された多値位相偏移変調信号が有する位相情報を維持すること等の光学性能に関して、更に改善が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特表2001−514766
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】D.Hoffmann他、”Integrated Optics Eigh−Port90°Hybrid on LiNbO3”、Journal of Lightwave Technology、1989年5月、Vol.7、No.5、pp.794−798
【非特許文献2】E.C.M.Pennings他、”Ultracompact、All−Passive Optical 90°Hybrid on InP Using Self−Imaging”,IEEE Photonics Technology Letters、1993年6月、Vol.5、No.6、pp.701−703
【非特許文献3】Pierre A Besse他、”New 2×2 and 1×3 Multimode Interface Couplers with Free Selection of Power Splitting Ratios”、Journal of Lightwave Technology、1996年10月、Vol.14、No.10、pp.2286−2293
【非特許文献4】D. S.Levy他、”Length Reduction of Tapered N×N MMI Devices”、IEEE Photonics Technology Letters、1998年6月、Vol.10、No.6、pp.830−832
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本明細書は、小さな寸法を有し、且つ光学性能に優れた光導波路素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決するために、本明細書で開示する光導波路素子の一形態によれば、複数の入力チャネルと、複数の出力チャネルと、一方の端部に複数の入力チャネルが接続され、他方の端部に複数の出力チャネルが接続される多モード干渉カプラと、を備え、多モード干渉カプラは、一方の端部から他方の端部側に向かって幅が漸減する第1部分と、第1部分と接続され接続部分の幅を保持したまま一方の端部側から他方の端部側に向かって延びる第2部分と、第2部分と接続され一方の端部側から他方の端部に向かって幅が漸増する第3部分と、を有する。
【発明の効果】
【0022】
上述した本明細書で開示する光導波路素子の一形態によれば、小さな寸法を有し、且つ光学性能に優れる。
【0023】
本発明の目的及び効果は、特に請求項において指摘される構成要素及び組み合わせを用いることによって認識され且つ得られるだろう。
【0024】
前述の一般的な説明及び後述の詳細な説明の両方は、例示的及び説明的なものであり、クレームされている本発明を制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】従来技術による光ハイブリッド回路の例1を示す図である。
【図2】従来技術による光ハイブリッド回路の例2を示す図である。
【図3】従来技術による光ハイブリッド回路の例3を示す図である。
【図4】従来技術による光ハイブリッド回路の例4を示す図である。
【図5】本明細書に開示する光ハイブリッド回路の第1実施形態を示す図である。
【図6】図5に示す光ハイブリッド回路内を伝搬する波面を説明する図である。
【図7】(A)〜(E)は、光ハイブリッド回路の多モード干渉カプラの第2部分の長さを変えた場合の各出力チャネルの透過率と波長との関係を示す図である。
【図8】(A)〜(E)は、光ハイブリッド回路の多モード干渉カプラの第2部分の長さを変えた場合の各出力チャネルの位相のズレと波長との関係を示す図である。
【図9】図3に示す光ハイブリッド回路内を伝搬する波面を説明する図である。
【図10】(A)は、図4に示す光ハイブリッド回路の各出力チャネルの透過率と波長との関係を示す図であり、(B)は、各出力チャネルの位相のズレと波長との関係を示す図である。
【図11】図4に示す光ハイブリッド回路内を伝搬する波面を説明する図である。
【図12】第1実施形態の光ハイブリッド回路の短縮率を、図3及び図4に示す光ハイブリッド回路と比較した図である。
【図13】第1実施形態の光ハイブリッド回路の短縮率と第2部分の長さとの関係を示す図である。
【図14】第1実施形態の光ハイブリッド回路の短縮率を0.58にした場合の各出力チャネルの位相のズレと波長との関係を示す図である。
【図15】図4に示す光ハイブリッド回路の短縮率を0.58にした場合の各出力チャネルの位相のズレと波長との関係を示す図である。
【図16】図5のX−X線拡大断面図である。
【図17】本明細書に開示する光ハイブリッド回路の第2実施形態を示す図である。
【図18】(A)は、第1実施形態の光ハイブリッド回路の各出力チャネルの透過率と波長との関係を示す図であり、(B)は、第2実施形態の光ハイブリッド回路の各出力チャネルの透過率と波長との関係を示す図である。
【図19】(A)は、第1実施形態の光ハイブリッド回路の各出力チャネルの位相のズレと波長との関係を示す図であり、(B)は、第2実施形態の各出力チャネルの位相のズレと波長との関係を示す図である。
【図20】本明細書に開示する光ハイブリッド回路の第3実施形態を示す図である。
【図21】(A)は、第1実施形態の光ハイブリッド回路の各出力チャネルの透過率と波長との関係を示す図であり、(B)は、第3実施形態の光ハイブリッド回路の各出力チャネルの透過率と波長との関係を示す図である。
【図22】(A)は、第1実施形態の光ハイブリッド回路の各出力チャネルの位相のズレと波長との関係を示す図であり、(B)は、第3実施形態の各出力チャネルの位相のズレと波長との関係を示す図である。
【図23】本明細書に開示する光受信機の一実施形態を示す図である。
【図24】図23に示す光受信機にQPSK信号光が入力された場合の各出力チャネルにおける透過率を示す図である。
【図25】本明細書に開示する光受信機の他の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本明細書に開示する光導波路素子としての光ハイブリッド回路は、多値位相偏移変調信号光を入力し、この入力した信号から、位相を変化させて多値化された信号を復調するために好適に用いられる。本明細書に開示する光ハイブリッド回路は、例えば、BPSK、QPSK、8PSK等の多値位相偏移変調信号光、又は16QAM、64QAM等の多値振幅位相変調信号光を復調するために用いることができる。以下の説明では、QPSK信号光を復調する場合の光ハイブリッド回路を例として述べる。光ハイブリッド回路が備える入力チャネル及び出力チャネルの数は、入力する信号光に応じて適宜設定され得る。
【0027】
以下、本明細書で開示する光導波路素子としての光ハイブリッド回路の好ましい第1実施形態を、図面を参照して説明する。但し、本発明の技術範囲はそれらの実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【0028】
図5は、本明細書に開示する光ハイブリッド回路の第1実施形態を示す図である。
【0029】
本実施形態の光ハイブリッド回路10は、4つの入力チャネル11と、4つの出力チャネル12と、一方の端部14に4つの入力チャネル11が接続され、他方の端部15に4つの出力チャネル12が接続される多モード干渉カプラ13と、を備える。多モード干渉カプラ13は、一方の端部14から他方の端部15に向かって光を伝搬する。
【0030】
多モード干渉カプラ13は、一方の端部14から他方の端部15側に向かって幅が漸減する第1部分13aと、この第1部分13aと接続され接続部分の幅を保持したまま一方の端部14側から他方の端部15側に向かって延びる第2部分13bと、この第2部分13bと接続され一方の端部14側から他方の端部15に向かって幅が漸増する第3部分13cと、を有する。第1部分13aと第2部分13bの接続部分の幅は、第2部分13bと第3部分13cの接続部分の幅と同じである。本明細書では、多モード干渉カプラ13における一方の端部14から他方の端部15に向かう方向を、光伝搬方向ともいう。
【0031】
多モード干渉カプラ13の第1部分13aの幅は、幅方向の中心軸CLに対称な対向する一対の側部13eによって規定されており、この一対の側部13eそれぞれの形状は直線である。ここで、第1部分13aの幅は、第1部分13aにおける光伝搬方向と直交する向きの長さである。このことは、第2部分13bの幅及び第3部分13cの幅に対しても適用される。
【0032】
第1部分13aの開放されている一方の端部14は、幅がWであり、この端部14に4つの入力チャネル11が接続される。4つの入力チャネル11は、光ハイブリッド回路10の幅方向の中心軸CLに対して対称に且つ等間隔に配置される。第1部分13aの光伝搬方向の長さはLM1である。
【0033】
多モード干渉カプラ13の第3部分13cの幅は、幅方向の中心軸CLに対称な対向する一対の側部13fによって規定されており、この一対の側部13fそれぞれの形状も直線である。
【0034】
第3部分13cの開放されている他方の端部15も、幅がWであり、この端部15に4つの出力チャネル12が接続される。4つの出力チャネル12は、光ハイブリッド回路10の幅方向の中心軸CLに対して対称に且つ等間隔に配置される。図5では、4つの出力チャネルに、Ch−1、Ch−2、Ch−3、Ch−4と番号が付されている。
【0035】
第1部分13aと第3部分13cとの挟まれた第2部分13bは、矩形形状を有する。第2部分13bの幅はWであり、第2部分13bの光伝搬方向の長さはLSTである。
【0036】
第1部分13aの幅は、光伝搬方向に向かって、WからWまでテーパ状に減少する。第3部分13cの幅は、光伝搬方向に向かって、WからWまでテーパ状に増加する。
【0037】
光ハイブリッド回路10では、第1部分13a及び第3部分13cは、光伝搬方向の長さが同じである。
【0038】
光ハイブリッド回路10は、第1部分13a及び第3部分13cが、光ハイブリッド回路10の光伝搬方向の中心軸(図示せず)に対して、対称に形成される。従って、4つの入力チャネル11及び4つの出力チャネル12も、光伝搬方向の中心軸(図示せず)に対して、対称に形成される。
【0039】
図5では、多モード干渉カプラ13における一方の端部14から他方の端部15に向かう方向が、z軸の正の方向で表されている。
【0040】
図5に示す光ハイブリッド回路10では、第1部分13a及び第2部分13bを合わせたz軸方向の長さがLM2である。また、多モード干渉カプラ13のz軸方向の長さはLM3で表されている。
【0041】
光ハイブリッド回路10には、4つの入力チャネル11の内、幅方向の中心軸CLに非対称な2つの入力チャネルを用いて、QPSK信号光及びLO光が入力される。例えば、使用されない他の2つの入力チャネルは、形成されなくても良い。この場合には、光ハイブリッド回路10は、2つの入力チャネル11と、4つの出力チャネル12とを備えることになる。
【0042】
このように、光ハイブリッド回路10は、光伝搬方向の中心軸に非対称な2つの入力チャネルを用いて、QPSK信号光及びLO光が入力される。入力チャネル11から入力したQPSK信号光及びLO光は、多モード干渉カプラ13内で、一般モード干渉に基づく多モード干渉により自己結像して、4つの異なる信号光が出力チャネル12それぞれから出力される。
【0043】
光ハイブリッド回路10は、入力チャネルの内の何れか1つから入力された光を、各出力チャネルから等分岐して出力する光学性能を有することが好ましい。また、光ハイブリッド回路10は、出力チャネルから出力される各信号光の位相と、入力されたQPSK信号光が有する位相との間の位相のズレが少ない光学性能を有することが好ましい。
【0044】
光ハイブリッド回路10では、第2部分の光伝搬方向の長さLSTを調節することで、多モード干渉カプラ13の光伝搬方向の長さ(以下、単に素子長ともいう)を短縮すると共に、優れた光学性能を提供する。
【0045】
具体的には、多モード干渉カプラ13の第2部分13bの光伝搬方向の長さLSTは、以下のように定められることが好ましい。4つの入力チャネル11の何れかのチャネルにQPSK信号光が入力されて、4つの出力チャネル12から出力される各信号光間の光強度の差が、入力したQPSK信号光の光強度を基準として、3dB以内になるように長さLSTが定められる。より好ましくは、4つの出力チャネル12から出力される各信号光間の光強度の差が、入力したQPSK信号光の光強度を基準として、2dB以内になるように長さLSTが定められる。更に好ましくは、4つの出力チャネル12から出力される各信号光間の光強度の差が、入力したQPSK信号光の光強度を基準として、1dB以内になるように長さLSTが定められる。
【0046】
また、多モード干渉カプラ13の第2部分13bの光伝搬方向の長さLSTは、以下のように定められることも好ましい。4つの出力チャネルから出力される信号光の位相のズレは、±10度以内になるように長さLSTが定められる。具体的には、出力される信号光が同相成分であれば、その信号光の位相が、0又は180度に対して±10度以内になるように長さLSTが定められることが好ましい。また、出力される信号光が直交成分であれば、その信号光の位相が、90又は270度に対して±10度以内になるように長さLSTが定められることが好ましい。より好ましくは、4つの出力チャネルから出力される信号光の位相のズレが、±5度以内になるように長さLSTが定められる。具体的には、出力される信号光が同相成分であれば、その信号光の位相が、0又は180度に対して±5度以内になるように長さLSTが定められることが好ましい。また、出力される信号光が直交成分であれば、その信号光の位相が、90又は270度に対して±5度以内になるように長さLSTが定められることが好ましい。
【0047】
次に、光ハイブリッド回路10の多モード干渉カプラ13の素子長ついて、以下に説明する。
【0048】
まず、図2に示す矩形の多モード干渉カプラの最適な素子長LMMIと、多モード干渉カプラの幅WMMIとの関係について説明する。次に、この矩形の多モード干渉カプラの素子長LMMIを用いて、光ハイブリッド回路10の多モード干渉カプラ13の素子長を表す。
【0049】
図2に示す矩形の多モード干渉カプラの最適な素子長LMMIは、多モード干渉カプラの幅WMMI、導波路の屈折率、励振モード数及び干渉メカニズム等に依存して決定される。この多モード干渉カプラの最適な素子長LMMIと多モード干渉カプラの幅WMMIとの関係は以下のように求められる。
【0050】
まず、図2に示す矩形の多モード干渉カプラでは、多モード干渉カプラ内を伝搬する任意のモードにおける伝搬定数βν(ν:伝搬モードの次数)が、式(1)のように簡略化して表される。
【0051】
【数1】

【0052】
ここで、kは信号光の真空中の波数、Neqは多モード干渉カプラ内の導波路の屈折率、λは信号光の波長である。この場合、多モード干渉カプラ内で励振される基本モードと任意の高次モードとの伝搬定数の差は式(2)のように表される。
【0053】
【数2】

【0054】
ここで、Lπは多モード干渉カプラのビート長である。図2に示す矩形の多モード干渉カプラの場合、このLπは、式(2)を用いて、式(3)のように近似される。
【0055】
【数3】

【0056】
このようにして、図2に示す矩形の多モード干渉カプラの最適な素子長LMMIと、多モード干渉カプラの幅WMMIとの関係が、式(3a)のように求められる。
【数4】

【0057】
次に、矩形の多モード干渉カプラの素子長LMMIを用いて、図5に示す光ハイブリッド回路10の多モード干渉カプラ13の素子長と第2部分13bの長さLSTとの関係を求める。
【0058】
まず、図5に示す多モード干渉カプラ13では、その幅がz軸方向に一定ではないので、基本モードと任意の高次モード間の伝搬定数の差がz軸方向において変化する。そこで、基本モードと任意の高次モード間の伝搬定数の差を、z軸方向に0からLM3までの領域について積分し、多モード干渉カプラ13における位相の変化量Δρが式(4)のように表される。
【0059】
【数5】

【0060】
ここで、W(z)は多モード干渉カプラ13の幅をzの関数で表したものである。
【0061】
関数W(z)は、z軸の3つ領域それぞれでは、式(5a)、式(5b)、式(5c)のように表される。
【0062】
【数6】

【0063】
また、多モード干渉カプラ13の第2部分のz軸方向の長さLSTを、長さLM3を用いて式(6)のように表す。
【0064】
【数7】

【0065】
ここで、パラメータfは0以上の実数である。
【0066】
式(5a)、式(5b)、式(5c)を、式(4)に代入して積分を行った後、式(6)の関係を考慮すると、式(7)が得られる。
【0067】
【数8】

【0068】
ここで、式(8)で表されるχは多モード干渉カプラ13の形状に依存する定数であり、多モード干渉カプラ13の幅を表すW、W及びパラメータfによって定められる。
【0069】
そして、式(3)及び式(7)から、図5に示す光ハイブリッド回路10の多モード干渉カプラ13のビート長LTπおよびχとの関係が、式(9)のように求められる。
【0070】
【数9】

【0071】
このようにして、この矩形の多モード干渉カプラのビート長Lπを用いて、光ハイブリッド回路10の多モード干渉カプラ13の最適なビート長LTπを表すことができる。
【0072】
式(9)に示すように、矩形の多モード干渉カプラのビート長Lπが一定の場合、多モード干渉カプラ13のビート長LTπとχとは反比例の関係になる。従って、図5に示す多モード干渉カプラ13の素子長LM3は、χが増加するのと共に、短縮することが分かる。即ち、光ハイブリッド回路10では、多モード干渉カプラ13の第1部分13a及び第3部分の幅Wを、図2に示す矩形の多モード干渉カプラの幅WMMIと同じにした場合には、多モード干渉カプラ13の素子長LM3は、図2に示す多モード干渉カプラの素子長LMMIよりも、1/χの割合に短縮される。
【0073】
このχは、多モード干渉カプラ13の幅を表すW、Wと共に、パラメータfを定めることによって決定される。同様に、第2部分13bの長さLSTも、式(6)に示すように、パラメータfによって決定される。従って、W、Wが一定であれば、χを決定することによって、パラメータfが決定するので、同様に、第2部分13bの長さLSTも決定されるここで、式(6)における素子長LM3としては、ビート長LTπが用いられる。
【0074】
図6は、図5に示す光ハイブリッド回路10の多モード干渉カプラ13内を伝搬する波面を概略的に説明する図である。
【0075】
図6に示すように、光ハイブリッド回路10では、入力チャネル11から多モード干渉カプラ13内に入射した信号光の波面は、同心円状に湾曲して多モード干渉カプラ13内を伝搬する。そして、多モード干渉カプラ13内を伝搬する波面は、多モード干渉カプラ13の中央部分において、伝搬する信号光の波数ベクトルの不連続性に起因して位相のズレが生じる。光ハイブリッド回路10の良好な光学特性を得るためには、この位相のズレが小さいことが好ましい。
【0076】
光ハイブリッド回路10では、多モード干渉カプラ13の第2部分13bの長さLSTを調整することによって、この位相のズレが補償される。
【0077】
次に、光ハイブリッド回路10の光学特性の計算例を、図面を参照して、以下に説明する。
【0078】
図7(A)〜図7(E)は、光ハイブリッド回路10の多モード干渉カプラ13の第2部分13bの長さLSTを変えた場合の各出力チャネルの透過率Trと波長λとの関係を示す図である。図7(A)〜図7(E)では、4つの入力チャネル11の内の1つから信号光を入力し、4つの出力チャネルそれぞれから出力される信号光の透過率Trが、入力される信号光の波長λに対して計算された結果が、実線で示されている。また、図7(A)〜図7(E)では、別の1つの入力チャネルから信号光を入力し、4つの出力チャネルそれぞれから出力される信号光の透過率Trが、入力される信号光の波長λに対して計算された結果が、鎖線で示されている。即ち、図7(A)〜図7(E)では、4本の実線と4本の鎖線により、透過率Trが示されている。この透過率Trは、4つの出力チャネル12から出力される各信号光の光強度が、入力したQPSK信号光の光強度を基準としたdBを単位として示されている。
【0079】
また、図8(A)〜図8(E)は、光ハイブリッド回路10の多モード干渉カプラの第2部分13bの長さLSTを変えた場合の各出力チャネルの位相のズレと波長λとの関係を示す図である。図8(A)〜図8(E)では、2つの入力チャネル11にQPSK信号光及びLO光が入力され、4つの出力チャネルから出力される各信号光の強度から算出された位相のズレΔψが、入力される信号光の波長λに対して計算された結果が示されている。具体的には、出力される信号光が同相成分であれば、その信号光の位相と、0又は180度との間の差が、位相のズレΔψを意味する。また、出力される信号光が直交成分であれば、その信号光の位相と、90又は270度との間の差が、位相のズレをΔψ意味する。図8(A)〜図8(E)では、動作帯域が、位相のズレが±5度の所に鎖線で示されている。
【0080】
図7(A)〜図7(E)及び図8(A)〜図8(E)に示す結果は、ビーム伝搬法(Beam Propagation Method:BPM)を用いて計算された。BPMの計算では、多モード干渉カプラの導波路領域の等価屈折率として3.24を用い、導波路以外の領域の屈折率として1.0を用いた。また、光ハイブリッド回路10を形成する各要素の寸法は、入力チャネル11及び出力チャネル12の幅が2.0μm、入出力チャネル間の間隔が2.3μm、幅Wが17.2μm、幅Wが13.2μmであった。
【0081】
BPMの計算では、まず、短縮率として1/χを決定し、続いてビート長LTπを決定する。次に、第2部分13bの長さLST及び幅Wを変化させて、各LSTに対して、最も良好な透過率を示すように素子長LM3が最適化された。結局、任意の実数であるf値を定め、f値に対する適正な素子長LM3を求め、それぞれのデバイスに対して、透過率および位相ズレ特性の面でが一番良いものを選べばよい。
【0082】
具体的には、図7(A)及び図8(A)の素子長LM3は477.5μmであり、長さLSTは0μmである。図7(B)及び図8(B)の素子長LM3は462.8μmであり、長さLSTは50μmである。図7(C)及び図8(C)の素子長LM3πは449.0μmであり、長さLSTは100μmである。図7(D)及び図8(D)の素子長LM3は446.3μmであり、長さLSTは110μmである。図7(E)及び図8(E)の素子長LM3は436.0μmであり、長さLSTは150μmである。
【0083】
図7(A)〜図7(E)及び図8(A)〜図8(E)では、第2部分13bの長さLSTが、特に100μmから110μmの範囲において、良好な透過率及び少ない位相のズレが得られている。即ち、広い波長の範囲に亘って、入力された信号光が4つの出力チャネルそれぞれに等分岐し且つ少ない位相のズレの信号光が出力されている。即ち、第2部分13bの長さLSTが100μmから110μmの範囲にあれば、光ハイブリッド回路10は、Cバンド領域において良好な光学性能を有することが分かる。
【0084】
ここで、図7(A)及び図8(A)は、第2部分13bの長さLSTが0μmであり、即ち、図3に示す光ハイブリッド回路の場合の透過率及び位相のズレを示している。図7(A)及び図8(A)に示すように、図3に示す光ハイブリッド回路は、素子長を短縮した場合には、光学特性が大きく低下することが分かる。
【0085】
図9は、図3に示す光ハイブリッド回路内を伝搬する波面を説明する図である。
【0086】
図9に概略的に示すように、図3に示す光ハイブリッド回路113では、入力チャネルから多モード干渉カプラ内に入射した信号光の波面が、同心円状に湾曲して多モード干渉カプラ内を伝搬する。そして、多モード干渉カプラ内を伝搬する波面は、多モード干渉カプラの両側部における不連続点の部分において、位相のズレが生じる。そのため、図3に示す光ハイブリッド回路113では、図7(A)及び図8(A)に示すような光学特性を示すことになる。
【0087】
一方、光ハイブリッド回路10は、図6を参照して説明したように、多モード干渉カプラ13の第2部分13bを設けることによって、第1部分13aと第3部分13cとの間に生じる位相のズレを補償する。そして、第2部分13bの長さLSTを大きくすることによって、補償される位相の量が増加する。図7(A)及び図7(B)並びに図8(A)及び図8(B)の例では、第2部分13bの長さLSTが小さいので、補償される位相の量が足りない状態であると考えられる。そして、図7(C)及び図7(D)並びに図8(C)及び図8(D)の例では、第2部分13bの長さLSTが補償する位相の量が、位相のズレに対応した状態にあると考えられる。一方、図7(E)及び図8(E)の例では、第2部分13bの長さLSTが大き過ぎるため、過剰に位相のズレが補償された状態にあると考えられる。
【0088】
図10(A)は、図4に示す従来の光ハイブリッド回路の各出力チャネルの透過率と波長との関係を示す図であり、図10(B)は、各出力チャネルの位相のズレと波長との関係を示す図である。図10(A)及び図10(B)では、光ハイブリッド回路を形成する各要素の寸法は、入力チャネル11及び出力チャネル12の幅が2.0μm、入出力チャネル間の間隔が2.3μm、幅WMMIが17.2μm、幅WMPが13.2μmであった。素子長の短縮率は、70%であった。
【0089】
図10(A)に示すように、図4に示す光ハイブリッド回路は、広い波長の範囲に亘って、良好な透過率を有するものの、図10(B)に示すように、位相のズレが±5度以内に収まる範囲が大幅に狭くなることが分かる。
【0090】
図11は、図4に示す光ハイブリッド回路内を伝搬する波面を説明する図である。
【0091】
図11に概略的に示すように、図4に示す光ハイブリッド回路114では、入力チャネルから多モード干渉カプラ内に入射した信号光の波面は、同心円状に湾曲して多モード干渉カプラ内を伝搬する。そして、多モード干渉カプラ内を伝搬する波面は、位相のズレを生じることなく、出力チャネルから出射する。しかし、図4に示す光ハイブリッド回路114では、図10(B)に示すように、位相のズレに関して光学特性が良くないので、例えば、Cバンド領域において良好な光学性能を得ることができない。
【0092】
図12は、第1実施形態の光ハイブリッド回路の短縮率を、図3及び図4に示す光ハイブリッド回路と比較した図である。
【0093】
図12では、図5に示す光ハイブリッド回路10について、幅Wと幅Wとの差と、素子長の短縮率Reとの関係がカーブC1で示されている。カーブC1は、図7(C)及び図8(C)と同じ条件でBPMを用いて計算された。ここで、短縮率Reは1/χである。
【0094】
図12に示すように、カーブC1は、ほぼ直線的に減少する。カーブC1の変化は、式(8)に示すように、幅Wと幅Wとの差が増加するのと共に1/χが減少することから理解できる。
【0095】
また、図12では、図3及び図4に示す光ハイブリッド回路についても、幅Wと幅Wとの差と、素子長の短縮率Reとの関係がカーブC2及びC3で示されている。図3及び図4に示す光ハイブリッド回路についても、短縮率は、式(9)を用いたのと同様にして導かれる。
【0096】
図12のカーブC1とカーブC2との比較から、図5に示す光ハイブリッド回路10は、図3に示す光ハイブリッド回路よりも、同じ横軸の値に対して、優れた短縮率を有することが分かる。
【0097】
更に、図5に示す光ハイブリッド回路10の素子長の短縮率と長さLSTとの関係を、図3に示す光ハイブリッド回路を基準として比較した結果を図13に示す。
【0098】
図13は、第1実施形態の光ハイブリッド回路の素子長の短縮率Reと第2部分の長さLSTとの関係を示す図である。
【0099】
図13において、長さLSTがゼロの場合は、図3に示す光ハイブリッド回路に対応する。図13に示すように、長さLSTを増加すると共に、素子長の短縮率Reが直線的に減少する。即ち、図5に示す光ハイブリッド回路10の素子長は、長さLSTを増加する程、図3に示す光ハイブリッド回路の素子長よりも更に低減することができる。
【0100】
また、図12に示すように、図4に示す光ハイブリッド回路は、図5に示す光ハイブリッド回路10と同等の素子長の短縮率を有する。しかし、図4に示す光ハイブリッド回路は、図10(B)に示すように、素子長を短縮した場合には、位相のズレに関して光学特性が良くない。
【0101】
また、図12に示すように、図5に示す光ハイブリッド回路10は、第2部分13bの長さLSTを100〜110μmにした場合には、W−W=4μmの時に短縮率Reが約0.70となり、矩形の多モード干渉カプラに比べて素子長が約30%低減される。そして、図12に示すように、幅Wと幅Wとの差を更に増加させることによって、短縮率を更に低減することが可能である。
【0102】
しかし、多モード干渉カプラの素子長の短縮率Reと光ハイブリッド回路10の動作帯域幅等の光学特性とは、一般にトレードオフの関係にある。そこで、光ハイブリッド回路10の短縮率を更に低減した場合の例を、図面を参照して、以下に説明する。
【0103】
図14は、光ハイブリッド回路10の短縮率Reを0.58にした場合の各出力チャネルの位相のズレと波長との関係を示す図である。図14に示す光学特性は、LST=80μm、W−W=6μmの場合について計算された。
【0104】
図14に示すように、光ハイブリッド回路10の動作帯域幅は、図8(C)及び図8(D)に示す動作帯域幅よりも減少している。
【0105】
図15は、図4に示す光ハイブリッド回路の短縮率を0.58にした場合の各出力チャネルの位相のズレと波長との関係を示す図である。
【0106】
図15に示すように、図4に示す光ハイブリッド回路は、短縮率を0.58にした場合の位相のズレが、図5に示す光ハイブリッド回路10よりも更に大きくなっている。従って、本実施形態の光ハイブリッド回路10は、短縮率を0.70から更に低減した場合には、動作帯域幅が減少するものの、図4に示す光ハイブリッド回路よりも広い動作帯域幅を有していることが分かる。
【0107】
図16は、図5のX−X線拡大断面図である。
【0108】
光ハイブリッド回路10は、基板40上に下クラッド層41が積層され、この下クラッド層41上にコア層42が積層され、このコア層42上に上クラッド層43が形成されている。下クラッド層41及びコア層42及び上クラッド層43によって、メサ部44が形成される。なお、光ハイブリッド回路10では、下クラッド層41と基板40とが一体に形成される。
【0109】
図16に示す断面図は、多モード干渉カプラ13の第2部分13bの断面図であるが、第1部分13a、第3部分13c、入力チャネル11及び出力チャネル12も同様の断面構造を有する。即ち、下クラッド層41及びコア層42及び上クラッド層43の厚さは、光ハイブリッド回路10の全体に亘って一定である。
【0110】
図5に示す光ハイブリッド回路10は、例えば、以下のように形成される。
【0111】
まず、基板40上に、例えば有機金属気相成長法(以下、MOVPE法ともいう)によってコア層41が積層される。基板40としては、n型InP基板又はアンドープのInP基板を用いることができる。コア層42の形成材料としては、アンドープのGaInAsP(発光波長1.30μm)を用いることができる。コア層42の厚さは、例えば0.3μmとすることができる。
【0112】
次に、コア層42上に、上クラッド層43がエピタキシャルに積層される。上クラッド層43の形成材料としては、アンドープ又はp型InPを用いることができる。上クラッド層43の厚さは、例えば2.0μmとすることができる。
【0113】
次に、上クラッド層43上に、SiO2膜等によるマスク層が形成される。
【0114】
次に、光露光プロセスを用いて、マスク層における光ハイブリッド回路の形成領域がパターニングされる。
【0115】
次に、マスク層をマスクとして、上クラッド層43及びコア層42及び基板40がエッチングされて、メサ部44が形成される。基板40は、図16に示すように、基板40の表面から途中の深さまでエッチングされて、凸状の下クラッド層41が形成される。エッチング方法としては、例えば、ICP反応性イオンエッチング等のドライエッチングを用いることができる。また、メサ部44の高さとしては、例えば3.0μmとすることができる。
【0116】
そして、上クラッド層43上のマスク層が除去されて、光ハイブリッド回路10が形成される。
【0117】
なお、上述した光ハイブリッド回路10の形成方法では、形成材料として、III−V族化合物半導体のInPを用いる例を示したが、形成材料は、これらの材料系に限らず、III−V族化合物半導体のGaAs、又はIV族半導体のSi等を用いて、光ハイブリッド回路を形成しても良い。
【0118】
上述した本実施形態の光ハイブリッド回路10によれば、小さな寸法を有し、且つ光学性能に優れる。
【0119】
また、本実施形態の光ハイブリッド回路10は、モノリシック集積化に適している。上述したように、光ハイブリッド回路10の多モード干渉カプラ13の素子長は、良好な光学特性を維持しつつ、少なくとも約30%の短縮化が可能である。
【0120】
また、光ハイブリッド回路10は、入力チャネル及び出力チャネル同士の間隔を短縮することなく、多モード干渉カプラの素子長を短縮することができる。従って、従来の加工精度を有する製造工程を用いて、光ハイブリッド回路10を形成することが可能である。
【0121】
次に、本明細書に開示する第2及び第3実施形態の光導波路としての光ハイブリッド回路を、図面を参照しながら以下に説明する。第2及び第3実施形態について特に説明しない点については、上述の第1実施形態に関して詳述した説明が適宜適用される。また、図17及び図20において、図5と同じ構成要素に同じ符号を付してある。
【0122】
図17は、本明細書に開示する光ハイブリッド回路の第2実施形態を示す図である。
【0123】
本実施形態の光ハイブリッド回路100は、多モード干渉カプラ13の第1部分13aの幅を規定する一対の側部13eそれぞれの形状が、内側に凸の放物線である。同様に、光ハイブリッド回路10は、多モード干渉カプラ13の第3部分13cの幅を規定する一対の側部13fそれぞれの形状も、内側に凸の放物線である。
【0124】
光ハイブリッド回路100の他の部分は、上述した第1実施形態と同様である。
【0125】
次に、本実施形態の光ハイブリッド回路100の光学特性を、図面を参照して、上述した第1実施形態と比較する。
【0126】
図18(A)は、第1実施形態の光ハイブリッド回路の各出力チャネルの透過率と波長との関係を示す図であり、図18(B)は、第2実施形態の光ハイブリッド回路100の各出力チャネルの透過率と波長との関係を示す図である。
【0127】
図18(A)は、図7(C)と同じ条件で計算された。図18(B)は、第1部分13a及び第3部分13cの側部の形状が異なる他は、図18(A)と同じ条件で計算された。
【0128】
本実施形態の光ハイブリッド回路100の透過率よりも、第1実施形態の透過率の方が優れている。即ち、第1実施形態の光ハイブリッド回路の方が、入力した信号光が、各出力チャネルに等分岐している。
【0129】
図19(A)は、第1実施形態の光ハイブリッド回路の各出力チャネルの位相のズレと波長との関係を示す図であり、図19(B)は、第2実施形態の光ハイブリッド回路100の各出力チャネルの位相のズレと波長との関係を示す図である。
【0130】
図19(A)は、図8(C)と同じ条件で計算された。図19(B)は、第1部分13a及び第3部分13cの側部の形状が異なる他は、図19(A)と同じ条件で計算された。
【0131】
本実施形態の光ハイブリッド回路100よりも、第1実施形態の方が各出力信号光の位相のズレが少ない。第1実施形態の光ハイブリッド回路の出力信号光の方が、入力した信号光が有する位相を精度良く維持している。
【0132】
図20は、本明細書に開示する光ハイブリッド回路の第3実施形態を示す図である。
【0133】
本実施形態の光ハイブリッド回路200は、多モード干渉カプラ13の第1部分13aの光伝搬方向の長さLM1が、第3部分13cの光伝搬方向の長さ(LM3−LM2)よりも短い。即ち、光ハイブリッド回路200は、第1部分13a及び第3部分13cが、光ハイブリッド回路200の光伝搬方向の中心軸(図示せず)に対して、非対称に形成される。
【0134】
各出力チャネル12は、各入力チャネル11が一方の端部14の幅方向において接続される間隔と同じ割合で、他方の端部15の幅方向に接続される。
【0135】
光ハイブリッド回路100の他の部分は、上述した第1実施形態と同様である。
【0136】
次に、本実施形態の光ハイブリッド回路200の光学特性を、図面を参照して、上述した第1実施形態と比較する。
【0137】
図21(A)は、第1実施形態の光ハイブリッド回路の各出力チャネルの透過率と波長との関係を示す図であり、図21(B)は、第3実施形態の光ハイブリッド回路200の各出力チャネルの透過率と波長との関係を示す図である。
【0138】
図21(A)は、図7(C)と同じ条件で計算された。図21(B)は、第1部分13a及び第3部分13cの光伝搬方向の長さが異なる他は、図21(A)と同じ条件で計算された。
【0139】
本実施形態の光ハイブリッド回路200の透過率よりも、第1実施形態の透過率の方がやや優れている。即ち、第1実施形態の光ハイブリッド回路の方が、入力した信号光が、各出力チャネルに等分岐している。
【0140】
図22(A)は、第1実施形態の光ハイブリッド回路の各出力チャネルの位相のズレと波長との関係を示す図であり、図22(B)は、第3実施形態の光ハイブリッド回路200の各出力チャネルの位相のズレと波長との関係を示す図である。
【0141】
図22(A)は、図8(C)と同じ条件で計算された。図22(B)は、第1部分13a及び第3部分13cの光伝搬方向の長さが異なる他は、図22(A)と同じ条件で計算された。
【0142】
本実施形態の光ハイブリッド回路200よりも、第1実施形態の方が各出力信号光の位相のズレが少ない。第1実施形態の光ハイブリッド回路の出力信号光の方が、入力した信号光が有する位相を精度良く維持している。
【0143】
次に、本明細書に開示する上述した光ハイブリッド回路を備えた光受信機について、図面を参照して、以下に説明する。図23は、本明細書に開示するコヒーレント光受信機の一実施形態を示す図である。
【0144】
コヒーレント光受信機30は、上述した第1実施形態の光ハイブリッド回路10を備えている。
【0145】
また、コヒーレント光受信機30は、LO光を発生して光ハイブリッド回路10へ出力する局部発振光発生部としてのLO光源31と、光ハイブリッド回路10の各出力光信号を電気信号に変える光電変換部32a、32bと、を備える。光電変換部32a、32bとして、具体的には、差動型フォトダイオード(Balanced PhotoDiode:BPD)を用いている。BPD32aの2つのフォトダイオードそれぞれには、同相成分の出力信号が入力され、BPD32bの2つのフォトダイオードそれぞれには、直交成分の出力信号が入力される。
【0146】
また、コヒーレント光受信機30は、光電変換部32a、32bが出力するアナログの各電気信号を入力し、デジタル電気信号を出力するAD変換部33a、33bと、デジタル電気信号を入力して位相を推定する位相推定部としてのデジタル演算回路34とを、備える。
【0147】
光ハイブリッド回路10としてモノシリック集積回路を用いることが、コヒーレント光受信機30を小型化する上で好ましい。
【0148】
次に、コヒーレント光受信機30の動作を以下に説明する。
【0149】
まず、QPSK信号光と、このQPSK信号光と同期したLO光が、光ハイブリッド回路10の入力チャネル11に入力される。
【0150】
光ハイブリッド回路10内では、LO光とQPSK信号光との相対位相差Δφに応じて、これらの信号光が多モード干渉して自己結像し、4つの出力チャネル12それぞれから信号光が出力される。
【0151】
図24は、図23に示す光受信機にQPSK信号光が入力された場合の各出力チャネルにおける透過率を示す図である。図24では、(a)Δφ=0、(b)Δφ=π、(c)Δφ=-π/2、(d)Δφ=π/2の場合の各出力チャネルの透過率が示されている。4つの出力光それぞれの相対位相差Δφにおける透過率の比は、(a)1:0:2:1、(b)1:2:0:1、(c)0:1:1:2、(d)2:1:1:0となる。
【0152】
そして、各出力チャネルからの信号光がBPD32a、32bへ入力される。
【0153】
BPD32a、32bでは、上部のフォトダイオードへの入力に対して+1に相当する電流が出力され、下部のフォトダイオードへの入力に対して-1に相当する電流が出力され、上部及び下部の両方への同時入力に対しては、電流が出力されない。このように、BPD32a、32bは、出力信号光を電気信号へ変換して、AD変換部33a、33bへ出力する。
【0154】
BPD32a、32bが出力するアナログの電気信号を入力したAD変換部33a、33bは、アナログの電気信号をデジタルの電気信号に変換して、デジタル演算回路34へ出力する。
【0155】
デジタル演算回路34は、デジタル電気信号を入力して位相を推定し、推定した位相を出力する。このようにして、コヒーレント受信機30は、入力したQPSK信号光を復調する。
【0156】
上述した本実施形態のコヒーレント受信機30によれば、小さな寸法を有し、且つ光学性能に優れる。
【0157】
図25は、本明細書に開示する光受信機の他の実施形態を示す図である。
【0158】
本実施形態の光受信機30aは、DQPSK信号光を入力する。
【0159】
コヒーレント光受信機30aは、DQPSK信号光を入力し、2つに分岐して出力する1:2MMIカプラ35を備える。この1:2MMIカプラ35が出力した2つの信号光は、2つの導波路36a、36bを伝搬して光ハイブリッド回路10に入力する。ここで、導波路36aの光路長は、導波路36bの光路長よりも、DQPSK信号光の1ビット分の光路長だけ長くなっている。
【0160】
光ハイブリッド回路10に入力した2つのDQPSK信号光は、互いに1ビット分だけ位相が異なっているので、光ハイブリッド回路10内で多モード干渉して自己結像し、4つの出力チャネル12それぞれから信号光が出力される。コヒーレント光受信機30aのその他の動作は、上述した実施形態と同様である。
【0161】
本発明では、上述した各実施形態の光ハイブリッド回路及びこのような光ハイブリッド回路を備えた光受信機は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更が可能である。また上述した一の実施形態または変形例における要件は、適宜、実施形態および変形例間で相互に置換可能である。例えば、直接検波を考えたとき、BPSK信号光を入力する場合には、出力チャネルの数は2つにする。また、8PSK信号光を入力する場合には、出力チャネルの数は8つにする。
【0162】
ここで述べられた全ての例及び条件付きの言葉は、読者が、発明者によって寄与された発明及び概念を技術を深めて理解することを助けるための教育的な目的を意図する。ここで述べられた全ての例及び条件付きの言葉は、そのような具体的に述べられた例及び条件に限定されることなく解釈されるべきである。また、明細書のそのような例示の機構は、本発明の優越性及び劣等性を示すこととは関係しない。本発明の実施形態は詳細に説明されているが、その様々な変更、置き換え又は修正が本発明の精神及び範囲を逸脱しない限り行われ得ることが理解されるべきである。
【0163】
以上の上述した各実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0164】
(付記1)
複数の入力チャネルと、
複数の出力チャネルと、
一方の端部に前記複数の入力チャネルが接続され、他方の端部に前記複数の出力チャネルが接続される多モード干渉カプラと、
を備え、
前記多モード干渉カプラは、
前記一方の端部から前記他方の端部側に向かって幅が漸減する第1部分と、前記第1部分と接続され接続部分の幅を保持したまま前記一方の端部側から前記他方の端部側に向かって延びる第2部分と、前記第2部分と接続され前記一方の端部側から前記他方の端部に向かって幅が漸増する第3部分と、を有する、光導波路素子。
【0165】
(付記2)
前記第1部分の幅は、対向する一対の側部によって規定されており、前記一対の側部それぞれの形状は直線である付記1に記載の光導波路素子。
【0166】
(付記3)
前記第3部分の幅は、対向する一対の側部によって規定されており、前記一対の側部それぞれの形状は直線である付記1又は2に記載の光導波路素子。
【0167】
(付記4)
前記第1部分及び前記第3部分は、前記一方の端部から前記他方の端部側に向かう方向の長さが同じである付記1〜3の何れか一項に記載の光導波路素子。
【0168】
(付記5)
前記複数の入力チャネルの何れかのチャネルに多値位相偏移変調信号光が入力されて、前記複数の出力チャネルから出力される各信号光間の光強度の差が、前記多位相偏移変調信号光の光強度を基準として6dB以内になるように、前記第2部分の前記一方の端部側から前記他方の端部側に向かう方向の長さが定められる付記1〜4の何れか一項に記載の光導波路素子。
【0169】
(付記6)
2つの前記入力チャネルと、4つの前記出力チャネルとを備える付記1〜5の何れか一項に記載の光導波路素子。
【0170】
(付記7)
前記光導波路素子がモノシリック集積回路である付記1〜6の何れか一項に記載の光導波路素子。
【0171】
(付記8)
複数の入力チャネルと、
複数の出力チャネルと、
一方の端部に前記複数の入力チャネルが接続され、他方の端部に前記複数の出力チャネルが接続される多モード干渉カプラと、
を備え、
前記多モード干渉カプラは、
前記一方の端部から前記他方の端部側に向かって幅が漸減する第1部分と、前記第1部分と接続され接続部分の幅を保持したまま前記一方の端部側から前記他方の端部側に向かって延びる第2部分と、前記第2部分と接続され前記一方の端部側から前記他方の端部に向かって幅が漸増する第3部分と、を有する、光導波路素子を備えた光受信機。
【0172】
(付記9)
前記光導波路素子がモノシリック集積回路である付記8に記載の光受信機。
【0173】
(付記10)
前記光導波路素子の各出力光信号を電気信号に変える光電変換部と、前記光電変換部が出力する各電気信号を入力して、位相を推定する位相推定部とを、備える付記9又は10に記載の光受信機。
【0174】
(付記11)
一方の端部から他方の端部に向かって光を伝搬する多モード干渉カプラであって、
前記一方の端部から前記他方の端部側に向かって幅が漸減する第1部分と、前記第1部分と接続され接続部分の幅を保持したまま前記一方の端部側から前記他方の端部側に向かって延びる第2部分と、前記第2部分と接続され前記一方の端部側から前記他方の端部に向かって幅が漸増する第3部分と、を有する、多モード干渉カプラ。
【符号の説明】
【0175】
10 光ハイブリッド回路(光導波路素子)
11 入力チャネル
12 出力チャネル
13 多モード干渉カプラ
13a 多モード干渉カプラの第1部分
13b 多モード干渉カプラの第2部分
13c 多モード干渉カプラの第3部分
13e 第1部分の一対の側部
13f 第3部分の一対の側部
14 一方の端部
15 他方の端部
30 光受信機
31 局部発振光発生部
32a、32b 差動型フォトダイオード(光電変換部)
33a、33b AD変換部
34 デジタル演算回路(位相推定部)
35 遅延部
40 基板
41 下クラッド層
42 コア層
43 上クラッド層
44 メサ部
多モード干渉カプラの一方の端部の幅
多モード干渉カプラの第2部分の幅
LM1 第1部分の長さ
LM2 第1部分と第2部分とを合わせた長さ
LM3 多モード干渉カプラの長さ
CL 幅方向の中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の入力チャネルと、
複数の出力チャネルと、
一方の端部に前記複数の入力チャネルが接続され、他方の端部に前記複数の出力チャネルが接続される多モード干渉カプラと、
を備え、
前記多モード干渉カプラは、
前記一方の端部から前記他方の端部側に向かって幅が漸減する第1部分と、前記第1部分と接続され接続部分の幅を保持したまま前記一方の端部側から前記他方の端部側に向かって延びる第2部分と、前記第2部分と接続され前記一方の端部側から前記他方の端部に向かって幅が漸増する第3部分と、を有する、光導波路素子。
【請求項2】
前記第1部分の幅は、対向する一対の側部によって規定されており、前記一対の側部それぞれの形状は直線である請求項1に記載の光導波路素子。
【請求項3】
前記第3部分の幅は、対向する一対の側部によって規定されており、前記一対の側部それぞれの形状は直線である請求項1又は2に記載の光導波路素子。
【請求項4】
前記第1部分及び前記第3部分は、前記一方の端部から前記他方の端部側に向かう方向の長さが同じである請求項1〜3の何れか一項に記載の光導波路素子。
【請求項5】
複数の入力チャネルと、
複数の出力チャネルと、
一方の端部に前記複数の入力チャネルが接続され、他方の端部に前記複数の出力チャネルが接続される多モード干渉カプラと、
を備え、
前記多モード干渉カプラは、
前記一方の端部から前記他方の端部側に向かって幅が漸減する第1部分と、前記第1部分と接続され接続部分の幅を保持したまま前記一方の端部側から前記他方の端部側に向かって延びる第2部分と、前記第2部分と接続され前記一方の端部側から前記他方の端部に向かって幅が漸増する第3部分と、を有する、光導波路素子を備えた光受信機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2011−197069(P2011−197069A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60788(P2010−60788)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】