説明

光拡散部材および光拡散部材の製造方法

【課題】結晶化ガラスを用い、良好な光拡散性を有する光拡散部材に関し、広範囲で平均線膨張係数を調整でき、耐熱性に優れており、高い剛性を有し寸法安定性に優れた光拡散部材、およびそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】ガラス相中に結晶を含み、厚さが0.1mmの時のC光に対するヘイズ値が0.1%以上であることを特徴とする光拡散部材。また、ガラス原料を溶融する工程と、溶融したガラスを成形する工程と、成形したガラスを徐冷する工程と、徐冷後加熱処理をする工程とを含むことを特徴とする光拡散部材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は結晶化ガラスを用い、良好な光拡散性を有する光拡散部材に関し、また広範囲で平均線膨張係数を調整でき、耐熱性に優れており、高い剛性を有し寸法安定性に優れた光拡散部材、およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光拡散板として使用されている材料は樹脂やガラスが知られている。これらの材料からなる光拡散板は、例えば材料自体に光拡散性を有する乳白色のポリカーボネート樹脂を用いたり、材料の表面に酸処理や砂ずり等の加工を施して光拡散性を付与したり、材料自体を基板として光拡散性を有するフィルムや乳白色膜をつける等の方法が用いられている。
【0003】
これら従来の光拡散板は膨張係数が高いものが多く、剛性も低いため寸法安定性に問題があった。また耐熱性も低いため高温環境下では軟化してしまうと言う問題があった。樹脂からなる光拡散部材の場合には射出成形の方向によって生じる線膨張係数の異方性も寸法安定性に問題を生じる原因となっている。
【0004】
一方で、近年種々の分野に使用される光拡散部材において、寸法安定性などの諸物性に対しての要求が厳しいものとなっている。
例えば、液晶ディスプレーやプロジェクターテレビなどの表示装置の大型化に伴い、これらに使用される拡散板に高い寸法安定性が求められるようになっている。
また、温度変化を伴う環境下で拡散光を精密に測定する場合において、測定器の光拡散部材が温度変化によって変形し、光拡散性が変化することが無いように、光拡散部材を支持する部材と膨張特性を合わせることが求められる。また、温度変化が少ない環境であっても被拡散光源がレーザー光など大きなエネルギーを持つ場合には光拡散部材の温度が高温となり変形や破損を生じたり、光拡散性が不安定なものとなってしまう。このような場合は光拡散部材が極低膨張であることが求められる場合もある。
【0005】
前述の問題点を解決し、これらの厳しい要求を満足するためには、膨張特性に異方性がなく、負の線膨特性からほぼ膨張がゼロである極低膨張、ひいては高膨張に至るまで、使用用途や使用環境に合わせ広範囲に平均線膨張係数を調整でき、耐熱性にすぐれており、高い剛性と寸法安定性を有する必要がある。しかし、このような良好な特性を有する光拡散部材は存在しなかった。
【0006】
特許文献1においては、良好な剛性、寸法安定性を目的として、樹脂組成物からなる光拡散板が提案されているが、Tgが80℃〜250℃と耐熱性が低く、線膨張係数の異方性が存在し、剛性、寸法安定性とも満足のいくものではない。
【0007】
【特許文献1】特開2004−175963号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は上記のような従来技術における問題点を解決し、良好な光拡散性を有しつつ、膨張特性に異方性がなく、広範囲で平均線膨張係数を調整でき、耐熱性に優れており、高い剛性を有し寸法精度に優れた光拡散部材、およびそれらの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の発明者は上記課題を解決するため鋭意試験研究を行った結果、ガラス相に結晶を析出させた結晶化ガラスを用いた光拡散部材は、良好な光拡散性を有しつつも、使用される環境や目的に合わせ広範囲に平均線膨張係数を調節でき、膨張特性が等方性であり、耐熱性に優れており、剛性も高く、寸法安定性も良好であることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の好適な態様は以下に列挙する構成のいずれかで表わされる。
(構成1)ガラス相中に結晶を含み、厚さが0.1mmの時のC光に対するヘイズ値が0.1%以上であることを特徴とする光拡散部材。
(構成2)ガラス相中に含まれる結晶はSi、Al、P、B、Li、Na、K、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cu、Ni、Co、Moの中から選ばれる少なくとも2成分以上を含有する事を特徴とする構成1に記載の光拡散部材。
(構成3)厚さが0.1mmの時のC光に対する全光線透過率が5%以上であることを特徴とする構成1または2に記載の光拡散部材。
(構成4)波長200〜2500nmの光線反射率が1%以上であることを特徴とする構成1から3に記載の光拡散部材。
(構成5)平均線膨張係数が0〜50℃の温度範囲で+200×10−7/℃以下であることを特徴とする構成1から4に記載の光拡散部材。
(構成6)平均線膨張係数が0〜50℃の温度範囲で−100×10−7/℃〜+200×10−7/℃の範囲であることを特徴とする構成1から5に記載の光拡散部材。
(構成7)平均結晶粒子径が5nm以上であることを特徴とする構成1から6に記載の光拡散部材。
(構成8)平均結晶粒子径が5nm〜2000nmの範囲であることを特徴とする構成1から7に記載の光拡散部材。
(構成9)ガラス相中に含まれる結晶は質量%で、
SiO2 5%〜90%、
Li2O3 0%〜50%、
Al2O3 0%〜50%、
の各成分を含むことを特徴とする構成1から8に記載の光拡散部材。
(構成10)ガラス相中に含まれる結晶はモル%で、
SiO2 3%〜95%、
Li2O3 0%〜90%、
Al2O3 0%〜50%、
の各成分を含むことを特徴とする構成1から8に記載の光拡散部材。
(構成11)ガラス原料を溶融する工程と、溶融したガラスを成形する工程と、成形したガラスを徐冷する工程と、徐冷後加熱処理をする工程とを含むことを特徴とする光拡散部材の製造方法。
【0011】
本発明の光拡散部材の態様の一つにおいては、ガラスを再加熱し、ガラス相に結晶を析出させたものであることが重要である。本発明はガラス相に微細な結晶を析出させることにより高い剛性と耐熱性を実現している。また、本発明は析出した結晶が主要な光拡散因子となることにより、光拡散性を実現している。ガラスを再加熱することによる結晶の析出は部材に一様に分布するため、良好な光拡散性能を実現でき、拡散光の均一性も良好である。さらに、本発明の光拡散部材はガラス相に結晶を析出させたものであるので、樹脂組成物からなる光拡散部材の様な線膨張係数の異方性は存在しないか、もしくは無視できる程に微小である。
【0012】
本発明の光拡散部材が良好な光拡散性を有するためにはガラス相中に含まれる結晶の平均結晶粒子径は5nm以上であることが好ましく、5nm〜2000nmの範囲であると広範囲に光拡散性能を調整できるためより好ましい。最も好ましくは100nm〜1000nmの範囲である。
【0013】
さらに析出させる結晶を適宜選択し、部材全体の質量に対して析出する結晶の割合を調整することにより、光拡散部材の平均線膨張係数やヘイズ値、全光線透過率、光線反射率等を広範囲に調節することが可能となる。
【0014】
本発明の光拡散部材のヘイズ値は、良好な拡散性を得る為に、厚さが0.1mmの時のC光に対して、0.1%以上であることが好ましく、1%以上であることがより好ましく、5%以上であることが最も好ましい。
【0015】
ここでヘイズ値とは、材料の光拡散性を定量化したものであり、その値が高い(大きい)程光拡散性が良好なものであると言うことができる。
本発明で表されるヘイズ値とは以下の方法により測定されたものを言う。
すなわち、具体的には、20×20×0.1mmの板状の試料を用意し、その両面を光学研磨する。光学研磨が良好になされているかどうかは、研磨面に砂目が観察されないことにより容易に確認することができる。研磨された試料を洗浄した後、ヘイズメーター(「HGM-2DP」スガ試験機株式会社製)を用いて測定する。
【0016】
なお、C光とは、国際照明委員会(CIE)が規定した標準光Cである。これは色温度が6740°Kであり、一定の規定で点灯したガス入りタングステン電球に規定のフィルターをかけることにより得られる。この光の性質は青空の光を含む昼光に相当する。
【0017】
光拡散部材を透過する光を拡散させる目的で使用する場合には、光の透過率は高いことが光量の損失が少なくなるため好ましい。従って、本発明の光拡散部材の態様の一つにおいては、厚さが0.1mmの時のC光に対する全光線透過率が5%以上であることが好ましく、7%以上であることがより好ましく、10%以上であることが最も好ましい。
本発明で表わされる全光線透過率とは、JIS K 7361−1に示される方法で評価されるものであり、具体的には波長380〜770nmでの平均透過率を示す。
【0018】
本発明の光拡散部材は反射した光を拡散させる目的で使用することも可能である。この場合には反射率が高いことが光量の損失が少なくなるため好ましい。従って、本発明の光拡散部材の態様の一つにおいては、波長200〜2500nmの光線反射率が1%以上であることが好ましく、2%以上であることがより好ましく、3%以上であることが最も好ましい。
本発明で表わされる光線反射率とは波長200〜2500nmの範囲で測定した各波長の反射率の平均値を意味する。
【0019】
本発明の光拡散部材の平均線膨張係数は使用環境や使用目的に合わせて広い範囲で調整できることが好ましい。このため、平均線膨張係数が0〜50℃の温度範囲で+200×10−7/℃以下であることが好ましく、−100×10−7/℃〜+200×10−7/℃の範囲であることがより好ましい。この範囲内であれば金属、セラミック、結晶化ガラス、ガラス、樹脂等の材料と平均線膨張係数を合わせることが可能である。
また、0〜50℃の温度範囲で−5×10−7/℃〜+5×10−7/℃の極低膨張の範囲を有していると、光拡散部材自身が高い寸法安定性を持つため最も好ましい。
【0020】
本発明の光拡散部材の態様の一つにおいては、ガラス相中に含まれる結晶は、Si、Al、P、B、Li、Na、K、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cu、Ni、Co、Moの中から選ばれる少なくとも2成分以上を含有する事が好ましい。
ガラス相中に含まれる結晶がこれらの各成分から選ばれる少なくとも2成分以上を含有することによって、平均線膨張係数やヘイズ値、全光線透過率、光線反射率などを広範囲に調整するための結晶の種類をほぼカバーすることができ、所望の結晶の種類や割合を様々に変化させることが可能となる。
【0021】
本発明の光拡散部材の態様の一つにおいては、ガラス相中に含まれる結晶は質量%で、
SiO 5〜90%、Al 0〜50%、LiO 0〜50%、の各成分を含むことが好ましい。
この範囲内であれは、平均線膨張係数を広範囲に調整するための主要な結晶の種類をカバーすることが可能となる。
【0022】
本発明の光拡散部材の態様の一つにおいては、ガラス相中に含まれる結晶はモル%で、
SiO 3〜95%、Al 0〜90%、LiO 0〜50%、の各成分を含むことが好ましい。
上述と同様、この範囲内であれは、平均線膨張係数を広範囲に調整するための主要な結晶の種類をカバーすることが可能となる。
【0023】
結晶中に上記の各成分を含有させるには、溶融するガラス原料中にこれらの成分を含ませるようにしておき、ガラスを再加熱する際の加熱条件(結晶化条件)を適宜調節すればよい。
【0024】
β−ユークリプタイト、および/またはβ−ユークリプタイト固溶体、および/またはβ−石英、および/またはβ−石英固溶体をガラス相中に含ませる場合には、0〜50℃の温度範囲の平均線膨張係数を−100×10−7/℃〜+50×10−7/℃の範囲で調節することができる。
【0025】
β−石英および/またはβ−石英固溶体、および/またはβ−スポジューメン(β−LiO・Al・SiO)および/またはβ−スポジューメン固溶体(β−LiO・Al・SiO固溶体)をガラス相中に含ませる場合には、0〜50℃の温度範囲の平均線膨張係数を−10×10−7/℃〜+10×10−7/℃の範囲で調節することができる。
【0026】
特に光拡散部材の平均線膨張係数が0〜50℃の温度範囲で−5×10−7/℃〜+5×10−7/℃である極低膨張特性を実現するためには、ガラス相中にβ−石英および/またはβ−石英固溶体を含み、ガラス相中の結晶が質量%で、SiO50〜62%、P5〜10%、Al22〜26%、LiO3〜5%、TiO1〜4%、ZrO1〜4%の各成分を含有することが好ましい。
【0027】
α−石英(α−SiO)、および/またはα−石英固溶体(α−SiO固溶体)、および/またはα−クリストバライト(α−SiO)、および/またはα−クリストバライト固溶体(α−SiO固溶体)をガラス相中に含ませる場合には、0〜50℃の温度範囲の平均線膨張係数を+50×10−7/℃〜+200×10−7/℃の範囲で調節することができる。
【0028】
その他、ガラス相中に含ませる結晶の種類を選択することによって、光拡散部材の平均線膨張係数や結晶の平均結晶粒子径を様々に調節することができる。
【0029】
二珪酸リチウム(LiO・2SiO)、および/または
α−石英(α−SiO)、および/または
α−石英固溶体(α−SiO固溶体)、および/または
α−クリストバライト(α−SiO)、および/または
α−クリストバライト固溶体(α−SiO固溶体)
をガラス相中に含ませると、−50〜+70℃における平均線膨張係数は+65×10−7/℃〜+130×10−7/℃の範囲内、平均結晶粒子径は0.01〜1.00μmの範囲内とすることができる。
【0030】
上記の結晶を含ませるにはガラス原料が酸化物基準の質量百分率で、
SiO 70 〜79%、
LiO 5 〜12%、
O 0 〜 4%、
MgO 0 〜 2%未満、
ZnO 0 〜 2%未満、
1.5〜 3%、
ZrO 1.5〜 7%、
Al 3 〜 9%、
Sb2O3+As2O3 0 〜 2%、
の範囲の各成分を含有することが好ましい。
【0031】
α−石英(α−SiO)、および/または
α−石英固溶体(α−SiO固溶体)、
をガラス相中に含ませると、−50〜+70℃における平均線膨張係数は+60×10−7/℃〜+130×10−7/℃の範囲内、平均結晶粒子径は1.00μm以下とすることができる。
【0032】
上記の結晶を含ませるにはガラス原料が酸化物基準の質量百分率で、
SiO 70 〜77%、
LiO 5 〜 9%未満、
O 2 〜 5%、
MgO+ZnO+SrO+BaO 1 〜 2%、
+WO+La+Bi 1 〜 3%、
1.0〜 2.5%、
ZrO 2.0〜 7%、
Al 5 〜10%、
NaO 0 〜 1%、
Sb+As 0 〜 2%、
の範囲の各成分を含有することが好ましい。
【0033】
コージェライト(MgAlSi18)、および/または
コージェライト固溶体(MgAlSi18固溶体)、および/または
スピネル、および/または
スピネル固溶体、および/または
エンスタタイト(MgSiO)、および/または
エンスタタイト固溶体(MgSiO固溶体)、および/または
β−石英(β−SiO)、および/または
β−石英固溶体(β−SiO固溶体)、および/または
チタン酸マグネシウム(MgTi)、および/または
チタン酸マグネシウム固溶体(MgTi固溶体)
をガラス相中に含ませると、−50〜+70℃における平均線膨張係数は+30×10−7/℃〜+65×10−7/℃の範囲内とすることができる。
【0034】
上記の結晶を含ませるにはガラス原料が酸化物基準の質量百分率で、
SiO 40 〜60%、
MgO 10 〜18%、
Al 10 〜20%未満、
0 〜 4%、
0 〜 4%、
CaO 0.5〜 4%、
SrO 0 〜 2%、
BaO 0 〜 5%、
ZrO 0 〜 5%、
TiO 2.5〜12%、
Bi 0 〜 6%、
Sb 0 〜 1%、
As 0 〜 1%、
Fe 0 〜 2%、
の範囲の各成分を含有することが好ましい。
【0035】
エンスタタイト(MgSiO)、および/または
エンスタタイト固溶体(MgSiO固溶体)、および/または
チタン酸マグネシウム(MgTi)、および/または
チタン酸マグネシウム固溶体(MgTi固溶体)、および/または
スピネル、および/または
スピネル固溶体、
をガラス相中に含ませると、−50〜+70℃における平均線膨張係数は+40×10−7/℃〜+60×10−7/℃の範囲内、平均結晶粒子径は0.05μm〜0.30μmの範囲内とすることができる。
【0036】
上記の結晶を含ませるにはガラス原料が酸化物基準の質量百分率で、
SiO 40〜60%、
MgO 10〜20%、
Al 10〜20%未満、
CaO 0.5〜4%、
SrO 0.5〜4%、
BaO 0〜5%、
ZrO 0〜5%、
TiO 8%を越え12%まで、
Bi 0〜6%、
Sb 0〜1%、
As 0〜1%、
の範囲の各成分を含有することが好ましい。
【0037】
β−石英(β−SiO)、および/または
β−石英固溶体(β−SiO固溶体)、および/または
エンスタタイト(MgSiO)、および/または
エンスタタイト固溶体(MgSiO固溶体)および/または
フォルステライト、および/または
フォルステライト固溶体
をガラス相中に含ませると平均結晶粒子径は0.05μm〜0.30μmの範囲内とすることができる。
【0038】
上記の結晶を含ませるにはガラス原料が酸化物基準の質量百分率で、
SiO 40 〜60%、
MgO 10 〜20%、
Al 10 〜20%未満、
0.5〜 2.5%、
1 〜 4%、
LiO 0.5〜 4%、
CaO 0.5〜 4%、
ZrO 0.5〜 5%、
TiO 2.5〜 8%、
Sb 0.01〜0.5%、
As 0 〜 0.5%、
SnO 0 〜 5%、
MoO 0 〜 3%、
CeO 0 〜 5%、
Fe 0 〜 5%、
の範囲の各成分を含有することが好ましい。
【0039】
β−石英(β−SiO)、および/または
β−石英固溶体(β−SiO固溶体)、および/または
β−スポジューメン(β−LiO・Al・SiO)、および/または
β−スポジューメン固溶体(β−LiO・Al・SiO固溶体)、および/または
β−ユークリプタイト(β−LiO・Al・2SiO、但しLi2Oの一部はMgOおよび/またはZnOとの置換可能)、および/または
β−ユークリプタイト固溶体(β−LiO・Al・2SiO固溶体、但しLi2Oの一部はMgOおよび/またはZnOとの置換可能)および/または
をガラス相中に含ませると、−50〜+600℃における平均線膨張係数は−10×10−7/℃〜+35×10−7/℃の範囲内、平均結晶粒子径は5nm〜0.10μmの範囲内とすることができる。
【0040】
上記の結晶を含ませるにはガラス原料が酸化物基準の質量百分率で、
SiO 50〜65%、
0〜10%、
Al 22〜30%、
LiO 1.5〜 5%、
MgO 0.5〜2%、
ZnO 0.2〜15%、
CaO 0.3〜4%、
BaO 0.5〜5%、
TiO 1〜4%、
ZrO 1〜5%、
Nb 0〜5%、
La 0〜5%、
0〜5%、
As+Sb 0〜4%、
の範囲の各成分を含有しながらも、PbO、NaO、KOを実質的に含まないことが好ましい。
【0041】
スピネル型結晶(好ましくはガーナイト(ZnAl))および/または
スピネル型結晶の固溶体(好ましくはガーナイト固溶体(ZnAl固溶体))
をガラス相中に含ませると、−50〜+600℃における平均線膨張係数は+35×10−7/℃〜+65×10−7/℃の範囲内とすることができる。
【0042】
上記の結晶を含ませるにはガラス原料が酸化物基準の質量百分率で、
SiO 30〜65%、
Al 5〜35%、
ZnO 5〜35%、
MgO 1〜20%、
TiO 1〜15%、
CaO+SrO+BaO+B+La+Y+Gd+Ta+Nb+WO+Bi 0.5〜20%、
但し、B 0〜10%、
Ta+Nb+WO+Bi 0〜10%、
ZrO 0〜2%未満、
0〜5%、
SnO 0〜2%、
但し、ZrO+P+SnO 0〜7%、
As+Sb 0〜4%、
の範囲の各成分を含有することが好ましい。
【0043】
β−ユークリプタイト、および/または、
β−ユークリプタイト固溶体、および/または、
β−石英(β−SiO2)および/または、
β−石英固溶体(β−SiO2固溶体)および/または、
をガラス相中に含ませると、−40℃〜+80℃における平均線膨張係数は−25×10−7/℃〜−15×10−7/℃の範囲内、ヤング率は60GPa以上とすることができる。
【0044】
上記の結晶を含ませるにはガラス原料が酸化物基準の質量百分率で、
SiO2 40〜59%、
Al23 10〜30%、
Li2O 1〜5.4%、
を含有し、且つSiO2/(Al23+Li2O)≧1.5、
ZnO 3〜10%、
BaO+SrO 0.5〜6%、
TiO2+ZrO2 1.0〜5.0%、
23 0〜5%、
BaO 0〜4%、
SrO 0〜4%、
CaO 0〜2%、
ZrO2 0.5〜3%、
TiO2 0.5〜3%、
HfO2 0〜3%、
As23+Sb23 0〜2%、
の範囲の各成分を含有しつつも、P25含有量が4質量%未満であり、MgO、PbO、Na2OおよびK2Oを実質的に含有しないことが好ましい。
【0045】
Li1+x+yAlTi2−xSi3−y(0≦x≦1、0≦y≦1)で表わされる結晶をガラス相中に含ませると100℃〜300℃における平均線膨張係数は+60×10−7/℃〜+300×10−7/℃の範囲内平均結晶粒子径は0.1μm〜2μmの範囲内とすることができる。
【0046】
上記の結晶を含ませるにはガラス原料が酸化物基準のmol%で
LiO 12〜18%、
Al+Ga 5〜10%、
TiO+GeO 35〜45%、
SiO 1〜10%、
30〜40%、
の範囲の各成分を含有することが好ましい。
【0047】
その他、ガラス相中に含ませることができる結晶はα―トリジマイト、ぺタライト、AlTiO、コージェライト系スピネル型結晶、フォルステライト、ウォラストナイト、ディオプサイト、ネフェリン、クリノエンスタタイト、アノーサイト、セルシアン、ゲーレナイト、フェルスパー、ウィレマイト、ムライト、コランダム、ランキナイト、ラルナイト、およびこれらの固溶体等である。
【0048】
本発明の光拡散部材はガラス相中に含まれる結晶により高い剛性を実現することが可能であり、ヤング率は70GPa〜160GPaの範囲とすることができる。
高い寸法安定性のためには60GPa以上とすることが好ましく、70GPa以上とすることがより好ましく、80GPa以上とすることが最も好ましい。
【0049】
本発明の光拡散部材は高い耐熱性を有する。本発明の光拡散部材が軟化せず、室温状態とほぼ同等の形状、強度等を保つ温度の上限はおおよそ400℃〜1000℃の間となる。
【0050】
本発明の光拡散部材は、ガラス原料を溶解し、熱間成形又は冷間加工を行った後に徐冷し、その後第1の熱処理を行いガラス相中に結晶核を形成し、続いて第2の熱処理によって結晶化することにより製造される。さらに第2の熱処理後室温まで冷却された後、再度第3の熱処理を施し再度結晶化させてもよい。
このとき、ガラス原料の溶解温度は1000℃〜1800℃の範囲が好ましく、1100℃〜1700℃の範囲がより好ましく、1200℃〜1600℃の範囲が最も好ましい。
第1の熱処理の温度は400℃〜900℃の範囲が好ましく、450℃〜850℃の範囲がより好ましく、500℃〜800℃の範囲が最も好ましい。この時の加熱時間は0.1〜100時間が好ましく、1〜100時間がより好ましい。
第2の熱処理の温度は550℃〜1200℃の範囲が好ましく、600℃〜1150℃の範囲がより好ましく、650℃〜1100℃の範囲が最も好ましい。この時の加熱時間は0.1〜100時間が好ましく、1〜100時間がより好ましい。
第3の熱処理の温度は550℃〜1250℃の範囲が好ましく、600℃〜1200℃の範囲がより好ましく、650℃〜1150℃の範囲が最も好ましい。この時の加熱時間は0.1〜100時間が好ましく、0.5〜100時間がより好ましい。
【0051】
本発明の光拡散部材は、その表面がフレネルレンズ形状やシリンドリカルレンズ形状等の表面形状を有するものであってもよく、またかかる形状を別途他の材料によって積層した積層板とすることも可能である。本発明の光拡散部材は、直接フレネルレンズ形状やシリンドリカルレンズ形状を付与する場合、これらの形状の金型に溶融ガラスをキャストして成型することができる。
【0052】
また、本発明に係る光拡散部材は、光源からの光の反射を防止するため各種の光反射防止膜等各種成膜をすることができる。
前記成膜は蒸着(物理蒸着、化学蒸着等)、メッキ(電気メッキ、無電解メッキ、溶融メッキ等)、塗装、コーティング、印刷等の手段で表層上に新たな層を形成させることを言う。表面に金属層又は金属酸化物層を積層する方法としては、例えば、物理蒸着法、化学蒸着法、溶射法及びメッキ法が挙げられる。物理蒸着法としては、真空蒸着法、スパッタリング及びイオンプレーティングなどが適用でき、化学蒸着(CVD)法としては、熱CVD法、プラズマCVD法及び光CVD法等が適用できる。また、溶射法としては、大気圧プラズマ溶射法及び減圧プラズマ溶射法等が適用できる。メッキ法としては、無電解メッキ(化学メッキ)法、溶融メッキ及び電気メッキ法等が挙げられ、電気メッキ法においてはレーザーメッキ法を用いることができる。
【発明の効果】
【0053】
本発明の光拡散部材はガラス相中に均一に分散した結晶によって、拡散光の均一性が高く、すぐれた光拡散性を有する。
本発明によって、良好な光拡散性を有し、また、広範囲で平均線膨張係数を調整でき、耐熱性に優れており、高い剛性を有し寸法安定性に優れた光拡散部材、およびそれらの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
本発明の好適な態様について説明する。なお、本発明はこれらの態様に限定するものではない。
【実施例】
【0055】
本発明の実施例を表1に表わす。
表1の組成のガラス原料を1300〜1600℃で溶融し、100mm角の大きさに成形、徐冷した後600〜800℃で5〜100時間核形成、650〜900℃で1〜100時間結晶化した後、研削、研磨して板状体の光拡散部材を得た。個々の実施例の結晶化条件の詳細については表1に示す。
得られた光拡散部材の主結晶相、0℃〜50℃における平均線膨張係数、主結晶相の平均結晶粒子径、厚さが0.1mmの時のC光に対する全光線透過率、波長200〜2500nmの光線反射率、ヤング率、厚さが0.1mmの時のC光に対するヘイズ値をそれぞれ表1に記載した。


















【0056】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の光拡散部材は表示装置の光拡散板、各種測定装置の光拡散板、電灯カバー、メーター、看板、画像読取装置、車輌用屋根材、船舶用屋根材、住宅用屋根材及び太陽電池カバー等に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス相中に結晶を含み、厚さが0.1mmの時のC光に対するヘイズ値が0.1%以上であることを特徴とする光拡散部材。
【請求項2】
ガラス相中に含まれる結晶はSi、Al、P、B、Li、Na、K、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cu、Ni、Co、Moの中から選ばれる少なくとも2成分以上を含有する事を特徴とする請求項1に記載の光拡散部材。
【請求項3】
厚さが0.1mmの時のC光に対する全光線透過率が5%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の光拡散部材。
【請求項4】
波長200〜2500nmの光線反射率が1%以上であることを特徴とする請求項1から3に記載の光拡散部材。
【請求項5】
平均線膨張係数が0〜50℃の温度範囲で+200×10−7/℃以下であることを特徴とする請求項1から4に記載の光拡散部材。
【請求項6】
平均線膨張係数が0〜50℃の温度範囲で−100×10−7/℃〜+200×10−7/℃の範囲であることを特徴とする請求項1から5に記載の光拡散部材。
【請求項7】
平均結晶粒子径が5nm以上であることを特徴とする請求項1から6に記載の光拡散部材。
【請求項8】
平均結晶粒子径が5nm〜2000nmの範囲であることを特徴とする1から7に記載の光拡散部材。
【請求項9】
ガラス相中に含まれる結晶は質量%で、
SiO2 5%〜90%、
Li2O3 0%〜50%、
Al2O3 0%〜50%、
の各成分を含むことを特徴とする請求項1から8に記載の光拡散部材。
【請求項10】
ガラス相中に含まれる結晶はモル%で、
SiO2 3%〜95%、
Li2O3 0%〜90%、
Al2O3 0%〜50%、
の各成分を含むことを特徴とする請求項1から8に記載の光拡散部材。
【請求項11】
ガラス原料を溶融する工程と、溶融したガラスを成形する工程と、成形したガラスを徐冷する工程と、徐冷後加熱処理をする工程とを含むことを特徴とする光拡散部材の製造方法。

【公開番号】特開2006−208985(P2006−208985A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−23765(P2005−23765)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】