説明

光検出器、この光検出器を備える光ピックアップ装置、および光検出器の製造方法

【課題】フォトダイオードを覆う合成樹脂材料の透光性樹脂が光化学反応によって透過特性が悪化するのを防止する。
【解決手段】フォトダイオードPが合成樹脂材料の透光性樹脂16にて被覆された光検出器において、前記透光性樹脂16に紫外線を照射することによって青紫色レーザー光の累積照射に伴う前記透光性樹脂16の青紫色レーザー光の透過率の変化度合を前記紫外線照射前に比べて小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ディスクに記録されている信号の読み出し動作や光ディスクに信号の記録動作を行う光ピックアップ装置に組み込まれて使用される光検出器、この光検出器を備える光ピックアップ装置、および光検出器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ピックアップ装置から照射されるレーザー光を光ディスクの信号記録層に照射することによって信号の読み出し動作や信号の記録動作を行うことが出来る光ディスク装置が普及している。
【0003】
光ディスク装置としては、CDやDVDと呼ばれる光ディスクを使用するものが一般に普及しているが、最近では記録密度を向上させた光ディスク、即ちBlu−ray規格やHD DVD(High Density Digital Versatile Disk)規格の光ディスクを使用するものが開発されている。
【0004】
CD規格の光ディスクに記録されている信号の読み出し動作を行うレーザー光としては、波長が780nmである赤外光が使用され、DVD規格の光ディスクに記録されている信号の読み出し動作行うレーザー光としては、波長が650nmの赤色光が使用されている。
【0005】
斯かるCD規格及びDVD規格の光ディスクに対して、Blu−ray規格やHD DVD規格の光ディスクに記録されている信号の読み出し動作を行うレーザー光としては、波長が短いレーザー光、例えば波長が405nmの青紫色光が使用されている。
【0006】
Blu−ray規格の光ディスクにおける信号記録層の上面に設けられている保護層の厚さは、0.1mmであり、この信号記録層から信号の読み出し動作を行うために使用される対物レンズの開口数は、0.85と設定されている。
【0007】
一方、HD−DVD規格の光ディスクにおける信号記録層の上面に設けられている保護層の厚さは、0.6mmであり、この信号記録層から信号の読み出し動作を行うために使用される対物レンズの開口数は、0.65と設定されている。
【0008】
前述したようにBlu−ray規格やHD DVD規格の光ディスクに記録されている信号の読み出し動作を行うためのレーザー光としては、波長が405nmの青紫色光を使用することが出来るので、レーザーダイオードを兼用することによって両規格の光ディスクから信号の読み出し動作を行うことが出来る光ピックアップ装置を作ることが出来る。
【0009】
光ピックアップ装置は、光ディスクに記録されている信号を読み出すために適したレーザー出力や光ディスクに信号を記録するために適したレーザー出力が得られるようにレーザーダイオードへ供給される駆動電流を制御することが出来るように構成されている。
【0010】
また、光ピックアップ装置から照射されるレーザー光のスポットを光ディスク上の信号記録層に合焦させる制御動作、即ちフォーカシング制御動作や信号トラックにレーザー光のスポットを追従させる制御動作、即ちトラッキング制御動作を行うことが出来るように構成されている。
【0011】
光ピックアップ装置には、前述したレーザー出力の制御動作、フォーカス制御動作及びトラッキング制御動作を行うための手段として光検出器が組み込まれている。斯かる光検出器は、一般にフォトダイオードのような受光素子を透光性樹脂によって被覆するようにして構成されている。(特許文献1参照。)
【特許文献1】特開昭63−830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の光ピックアップ装置に組み込まれている光検出器について図7及び図8を参照して説明する。図7及び図8は、各々従来の光検出器を示す断面図及び平面図であり、基板1上に受光するレーザー光の光量に応じた信号を出力するフォトダイオード2が固定されているとともに使用されるレーザー波長に対する光の透過率が高い透光性樹脂3にて前記フォトダイオード2は被覆されている。また、前記フォトダイオード2から生成される信号の取り出しはワイヤーボンディングにて行われるが、斯かるワイヤーの固定保護は、一般に前記透光性樹脂3にて行われている。
【0013】
DVD方式の光ディスクに使用されるレーザー光、即ち赤色レーザー光の波長は650nmであるが、Blu−ray規格やHD DVD規格の光ディスクに使用されるレーザー光、即ち青紫色レーザー光の波長は405nmと短くなる。
【0014】
レーザー光のエネルギーと波長との関係は、エネルギーをE、プランク定数をh、振動数をν、光速をc、波長をλとすると、E=hν=h×c/λと表される。斯かる関係式より明らかなようにレーザー光の波長が短いほど光エネルギーが高くなるという特性がある。
【0015】
レーザー光を放射するレーザーダイオードが組み込まれている光ピックアップ装置において、レーザー出力の制御動作やフォーカス制御動作等は、光検出器から得られる信号を利用して行われるが、光検出器によるレーザー光の光量検出動作は、フォトダイオード2を被覆する透光性樹脂3を通して照射されるレーザー光に基づいて行われる。
【0016】
透光性樹脂3の材料としては、性能やコスト面からエポキシ樹脂が一般に使用されているが、樹脂を使用した場合、光化学反応による透過率の低下が進むため、レーザー光の光量検出動作が正確に行えないという問題がある。
【0017】
斯かる問題を解決する方法として図7及び図8に示すようにレーザー光の入射面に透孔3aを形成する方法が採用されているが、レーザー光の光束が透過する領域に孔を正確に形成する必要があるので、成形加工単価が高くなるという問題がある。
【0018】
斯かる成形加工単価を下げるために、透光性樹脂として透過率の高い樹脂を使用することによってレーザー光の入射面側に透孔3aを形成しない構成の光検出器が採用されている。
【0019】
フォトダイオードを覆う透光性樹脂は、使用するレーザー光の波長によって透過特性が変化するという特性がある。例えば、DVD規格に対応したレーザー光、即ち波長が650nmの赤色であるレーザー光を集光させるための対物レンズに使用される合成樹脂材料を使用してBlu−ray規格やHD DVD規格に対応したレーザー光、即ち波長が405nmの青紫色のレーザー光を集光させるための対物レンズを製造した場合には、青紫色のレーザー光によって対物レンズの透過率が大きく低下するという特性がある。
【0020】
図6は赤色レーザー光に適した特性を有する合成樹脂材料、例えば三井化学社製のアペ
ル5014DPと呼ばれる合成樹脂材料を透光性樹脂として使用した場合における青紫色レーザー光の時間に対する透過率の変化を示す特性図であり、波長が405nmの青紫色のレーザー光を1000時間照射した場合に2%以上透過率が低下することが実験的に確認出来た。このようにフォトダイオードを覆う透光性樹脂の透過率が低下するとフォトダイオードに照射されるレーザー光の強度が小さくなり、光検出器としての検出特性が悪化することになる。
【0021】
ここで、透光性樹脂の仕様は、例えばレーザー光を1000時間照射した場合の透過率の変化度合が2%以内になることが使用可能な目安として設定されるが、この透光性樹脂の仕様から外れるような透光性樹脂の透過率の変化度合は光検出器に照射されるレーザー光の強度に対する光検出器からの出力信号強度の変化が許容不可の大きさとなる。
【0022】
斯かる問題を解決するためにフォトダイオードを覆う透光性樹脂の材料として青紫色のレーザー光による影響を無視できる合成樹脂材料、例えば日本ゼオン社製のゼオネックス340Rと呼ばれる合成樹脂材料を使用する方法があるが、斯かる合成樹脂材料はDVD用の光検出器に一般に使用される合成樹脂材料と比較して高価であり、光ピックアップ装置の価格を下げることが出来ないという問題がある。
【0023】
本発明は、斯かる問題を解決する光検出器、この光検出器を備える光ピックアップ装置、および光検出器の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、レーザーダイオードから放射されるレーザー光を光ディスクの信号記録層に照射するとともに該信号記録層から反射されるレーザー光が照射され、該レーザー光の光量に応じた信号を出力するフォトダイオードが合成樹脂材料の透光性樹脂にて被覆され光検出器において、前記透光性樹脂に紫外線を照射することによって青紫色レーザー光の累積照射に伴う前記透光性樹脂の青紫色レーザー光の透過率の変化度合を前記紫外線照射前に比べて小さくするようにしている。。
【0025】
また、本発明は、光検出器を非点収差法によるフォーカスエラー信号を生成する検出器として使用するとき、フォトダイオードに対してレーザー光の入射方向に設けられる透光性樹脂の厚さをフォーカスエラー信号の生成動作に伴って変位する合焦点から入射方向への移動距離より薄くするように構成されている。
【0026】
そして、本発明は、レーザーダイオードから放射されるレーザー光が照射され、該レーザー光の光量に応じて前記レーザーダイオードのレーザー出力の制御動作を行わせる信号を発生するフォトダイオードが合成樹脂材料の透光性樹脂にて被覆されたレーザー出力制御用の光検出器において、前記透光性樹脂に紫外線を照射することによって青紫色レーザー光の累積照射に伴う前記透光性樹脂の青紫色レーザー光の透過率の変化度合を前記紫外線照射前に比べて小さくするようにしている。
【0027】
また、本発明は、紫外線照射器から発生される紫外線を照射して透光性樹脂の青紫色のレーザー光に対する透過率の変化度合を所定範囲内に設定するように構成されている。
【発明の効果】
【0028】
本発明の光検出器は、フォトダイオードを覆うべく設けられている合成樹脂材料の透光性樹脂に紫外線を所定時間照射させることによって該透光性樹脂の青紫色のレーザー光に対する透過率の変化度合が所定範囲内に設定されているので、青紫色のレーザー光を受光する光検出器の透光性樹脂として青紫色レーザー光の累積照射に伴う前記透光性樹脂の青紫色レーザー光の透過率の変化度合が仕様を満たさない大きさで使用不可であった安価な
合成樹脂が使用可能となり、光ピックアップ装置の価格低下に対して非常に大きな効果を奏するものである。
【実施例】
【0029】
図1は本発明に係る光検出器の一実施例を示す断面図、図2は本発明に係る光ピックアップ装置の要部構成図、図3は本発明を説明するための概略図、図4は本発明に係る透光性樹脂の透過特性を示す特性図、図5は本発明に係る光検出器の製造方法を説明するための特性図である。
【0030】
まず、本発明の光検出器が組み込まれる光ピックアップ装置の構成について図2を参照して説明する。図2において、4は青紫色のレーザー光を放射するレーザーダイオード、5は前記レーザーダイオード4から放射されるレーザー光が入射される回折格子であり、レーザー光を0次光、+1次回折光及び−1次回折光に分離する作用を有している。
【0031】
6は前記回折格子5から出射されるレーザー光が入射されるとともに後述する光ディスクDからの反射光が入射される偏光ビームスプリッタであり、入射されるレーザー光を透過させたり反射させる制御膜6aが設けられている。7は前記偏光ビームスプリッタ6から反射されたレーザー光が入射されるコリメートレンズであり、入射されたレーザー光を平行光にする作用を成すものである。
【0032】
8は前記コリメートレンズ7にて平行光にされたレーザー光が入射されるとともに入射されたレーザー光の位相を選択的に1/2λ(λは波長を示す)変更する位相変更部材であり、例えば液晶を使用し、電源の供給動作を制御することによる液晶分子の配列方向を変化させることによって位相を変更するように構成することが出来る。前記位相変更部材8は、前記レーザーダイオード4から放射されるレーザー光の位相を変更することによって入射されるP偏光光をS偏光光に変換する作用を成すだけでなくレーザー光の有効光束径を設定するように構成されている。
【0033】
9は前記位相変更部材8を透過したレーザー光の向きをディスクDの信号面方向へ変更する反射ミラーであり、該ディスクDから反射されてくる反射光を前記位相変更部材8の方向へ反射させる作用も有している。10は前記反射ミラー9にて反射されたレーザー光が入射されるとともに入射されるレーザー光の位相に応じてレーザー光を回折させるホログラム素子であり、入射されるレーザー光がP偏光光の場合にはそのまま透過させ、S偏光光の場合には回折させるように構成されている。
【0034】
11は前記ホログラム素子10を透過したレーザー光が入射される対物レンズであり、入射されるレーザー光を光ディスクDの信号記録層に合焦させる作用を有している。斯かる構成において、前記位相変更部材8にて有効光束径が設定されたP偏光光のレーザー光が前記ホログラム素子10に入射された場合には、対物レンズ11の開口数が0.85になり、前記位相変更部材8にて有効光束径が設定されたS偏光光のレーザー光が前記ホログラム素子10に入射された場合には、対物レンズ11の開口数が0.65になるように構成されている。
【0035】
従って、光ディスクDがBlu−ray規格の光ディスクの場合には、レーザーダイオード4から放射されるレーザー光を位相変更部材8にて有効光束径が設定されたP偏光光のレーザー光としてホログラム素子10に導き、対物レンズ11の開口数が0.85になるようにすることによって光ディスクDに記録されている信号の読み出し動作を行うことが出来る。
【0036】
また、光ディスクDがHD DVD規格の光ディスクの場合には、レーザーダイオード
4から放射されるレーザー光の位相を位相変更部材8にて変更させ有効光束径が設定されたS偏光光のレーザー光としてホログラム素子10に導き、対物レンズ11の開口数が0.65になるようにすることによって光ディスクDに記録されている信号の読み出し動作を行うことが出来る。
【0037】
光ピックアップ装置における信号の読み出し動作は前述したように行われるが、次にレーザー出力の制御動作や光ピックアップ装置におけるフォーカシング制御動作及びトラッキング制御動作に使用される光検出器について説明する。
【0038】
図2において、12は前記レーザーダイオード4から放射されるレーザー光の一部が前記偏光ビームスプリッタ6に設けられている制御膜6aを透過して入射される位置に設けられているレーザー出力制御用光検出器であり、内部にフォトダイオードが組み込まれている。斯かるレーザー出力制御用光検出器12は入射されるレーザー光の光量に応じた信号を生成するように構成されており、このようにして得られる信号をレーザー駆動回路に帰還させることによってレーザー出力の制御動作、即ちレーザーサーボ動作を行うことが出来る。
【0039】
前述した光ピックアップ装置において、光ディスクDから反射されるレーザー光は、対物レンズ11、ホログラム素子10、反射ミラー9、位相変更部材8及びコリメートレンズ7を通して偏光ビームスプリッタ6に入射されるが、斯かるレーザー光は制御膜6aにて反射されることなくそのまま透過するように構成されている。
【0040】
13は前記偏光ビームスプリッタ6を透過した光ディスクDからの反射光が入射される位置に設けられているセンサーレンズであり、非点収差法によるフォーカシング制御動作を行うために非点収差を発生させるとともに光検出器14にレーザー光を導く作用を成すものである。前記光検出器14は、前記センサーレンズ13にて集光されるレーザー光が照射されるフォトダイオードPが組み込まれており、斯かるフォトダイオードPは図3に示すように4分割センサーと呼ばれる4つの受光部A、B、C、Dにて構成されている。そして、斯かる構成の光検出器14は集積回路化されており、一般にはPDICと呼ばれている。
【0041】
本発明は、前述した構成の光ピックアップ装置に組み込まれている光検出器14に実施した場合に大きな効果を奏するものであり、図1、図3及び図4を参照して説明する。
【0042】
図1は本発明に係る光検出器の一実施例を示す断面図、図3は本発明に係る光ピックアップ装置の要部の概略図である。本発明に係る光検出器は、図示したように基板15上に受光するレーザー光の光量に応じた信号を出力するフォトダイオードPが固定されているとともに使用されるレーザー波長に対する光の透過率が高い透光性樹脂16にて前記フォトダイオードPは被覆されている。また、前記フォトダイオードPから生成される信号の取り出しはワイヤーボンディング(図示せず)にて行われるが、斯かるワイヤーの保護及び固定動作は、前記透光性樹脂16にて行われている。
【0043】
本発明の光検出器14に係る透光性樹脂16は、合成樹脂材料、例えば前述したアペル5014DPのような環状オレフィン系ポリマー樹脂にて製造されるが、斯かる材料は、例えばDVD規格の光ディスクに対応した波長が650nmである赤色のレーザー光の集光動作を行うための対物レンズに使用されるものと同じ材料である。
【0044】
斯かる合成樹脂材料にて製造された光検出器14の透光性樹脂16は、全体またはレーザー光の入射面に対して紫外線照射器例えば水銀キセノンランプから放射される360nmの波長の紫外線が照射される。前記透光性樹脂16に対する紫外線の照射時間は、例え
ば50分程度であり、斯かる照射動作を行うと青紫色のレーザー光、即ち波長が405nmのレーザー光に対する透光性樹脂16の初期透過率が95.7%程度に低下することが確かめられた。
【0045】
図4は、前述した方法、即ち水銀キセノンランプから放射される波長が360nmの紫外線の照射によって透過率が95.7%程度に低下設定された透光性樹脂16に青紫色のレーザー光、即ち波長が405nmのレーザー光を照射させた場合における照射時間と透過率との関係を示すものである。斯かる特性図より明らかなように約40時間経過した時点で透過率が95.3%と安定し、透過率の変化の範囲を略1%以内に抑えることが出来ることが実験的に確かめられた。すなわち、紫外線照射器からの紫外線の照射後において、前記透光性樹脂16における青紫色のレーザー光に対する透過率の経時的変化の割合を大幅に縮小することができる。
【0046】
従って、DVD規格の光ディスクに対応した波長が650nmである赤色のレーザー光の集光動作を行うための対物レンズに使用されるものと同じ合成樹脂材料にて製造された透光性樹脂16に紫外線を照射させることによってBlu−ray規格の光ディスクDに記録されている信号の再生動作や記録動作を行うために使用される青紫色のレーザー光、即ち波長が405nmのレーザー光をフォトダイオードPに照射させる透光性樹脂16として支障なく使用することが出来ることになる。
【0047】
図5に示す特性図は水銀キセノンランプから放射される紫外線の照射時間が異なる透光性樹脂16に波長が405nmの青紫色レーザー光を照射させた場合における照射時間と透過率との関係を示すものである。同図において、100%の透過率とは、波長が650nmである赤色のレーザー光の集光動作を行うための対物レンズに使用されるものと同じ材料の合成樹脂材料にて製造された透光性樹脂16に紫外線を照射させない場合における波長が405nmである青紫色レーザー光の透過率である。
【0048】
図5において、実線で示す特性は、前述したように水銀キセノンランプから放射される波長が360nmの紫外線を50分程度照射させた透光性樹脂16の透過率の変化を示すものである。この特性から紫外線の照射によって透光性樹脂16の初期透過率が95.7%程度の値に低下設定され、青紫色レーザー光の照射時間が40時間経過した時点で透光性樹脂16の透過率が95.3%まで低下して安定していることが分かる。
【0049】
また、同図において、破線で示す特性は、水銀キセノンランプから放射される波長が360nmの紫外線を7分程度照射させた透光性樹脂16の透過率の変化を示すものである。この特性から紫外線の照射によって透光性樹脂16の初期透過率が95%程度の値に低下設定され、青紫色レーザー光の照射時間が15時間経過した時点で透光性樹脂16の透過率が97%まで上昇していることが分かる。即ち、7分程度紫外線を照射させた透光性樹脂16は、青紫色レーザー光の照射時間に応じて2%以上透過率が変化するため、光ピックアップ装置の透光性樹脂16として使用するには問題があると言える。
【0050】
前述したように透光性樹脂16の青紫色レーザー光に対する透過率は紫外線の照射条件によって変化せしめられるが、透過率の初期設定値及び変化特性は、紫外線の照射時間を調整することによって種々な値に設定することが出来る。即ち、前述した実施例は、紫外線の照射時間を50分程度に設定し、波長が405nmのレーザー光に対する透光性樹脂16の初期透過率を95.7%程度に設定したものである。そして、前述した実施例では、水銀キセノンランプから放射される紫外線を透光性樹脂16に照射させることによって透過率の設定動作を行うようにしたが、斯かる水銀キセノンランプは紫外領域におけるスペクトル強度と幅が大きく、広いスペクトル輝線群を有するという特性を有している。その為、精度の高い透光性樹脂16を得るためには照射作業を精度良く行なう必要がある。
【0051】
以上に説明したように水銀キセノンランプから生成される波長が360nmの紫外線を透光性樹脂16に照射させた場合の透過特性の設定動作は行われる。
【0052】
図3はフォーカス制御動作を行うために光ディスクDの信号面に対して対物レンズ11を垂直方向へ変位させた場合において、光検出器14に組み込まれている4つの受光部A、B、C、D上に照射されるレーザースポットの形状変化を示すものである。
【0053】
同図において、(イ)は前ピンと呼ばれる位置にレーザー光が集光された状態における受光部A、B、C、D上に照射されるレーザースポットの形状、(ロ)はレーザー光が光ディスクDの信号記録層に集光された状態、即ち合焦状態における受光部A、B、C、D上に照射されるレーザースポットの形状、そして(ハ)は後ピンと呼ばれる位置にレーザー光が集光された状態における受光部A、B、C、D上に照射されるレーザースポットの形状を示すものである。
【0054】
対物レンズ11を光ディスクDの信号面に対してフォーカス制御方向へ移動させると、前述したように受光部A、B、C、D上に照射されるレーザースポットが(イ)から(ハ)、また(ハ)から(イ)へと変化することになる。従って、受光部A及びCより得られる信号を加算して信号Eを得るとともに受光部B及びDより得られる信号を加算して信号Fを得、このようにして得られた信号Eから信号Fを差し引くことによってフォーカスエラー信号FEを得ることが出来る。
【0055】
このようにして得られるフォーカスエラー信号FEの値が零になるような制御信号を対物レンズ11の位置を制御するフォーカスコイルに供給することによって対物レンズ11の変位位置を制御することが出来るので、対物レンズ11の集光動作によって生成されるレーザースポットを光ディスクDの信号記録層に集光させる動作、即ちフォーカス制御動作を行うことが出来る。斯かるフォーカス制御動作は、一般に周知であり、その説明は省略する。
【0056】
前述したように対物レンズ11のフォーカス方向への変位動作によって受光部A、B、C、D上に照射されるレーザースポットが(イ)から(ハ)まで変化するが、この場合においてセンサーレンズ13にて集光されるレーザー光は、図3のa、b、cで示す位置に集光されることになる。即ち、対物レンズ11の変位に伴ってセンサーレンズ13にて集光されるレーザー光の集光点はa点からc点まで移動することになる。
【0057】
センサーレンズ13にて集光されるレーザー光の集光点は、前述したようにa点からc点まで移動するが、各集光点における光の強度を比較するとa点とc点における強度が最大となり、b点における強度が最も小さくなる。フォーカス制御動作に使用されるレーザー光は、透光性樹脂16を通してフォトダイオードPに照射されることになる。従って、レーザー光の入射方向に設けられる透光性樹脂16の厚みがa点と合焦位置であるb点との間の距離よりも厚い場合には、透光性樹脂16が受ける光強度がa点において大きくなる。
【0058】
その結果、透光性樹脂16がレーザー光から受ける影響が大きくなり、透過特性が悪化するという問題がある。それ故、本発明では、レーザー光の入射方向に設けられる透光性樹脂16の厚みをa点と合焦位置であるb点との間の距離よりも薄くなるように設定されている。このように構成することによって、透光性樹脂16がレーザー光から受ける影響が小さくなり、透過特性の悪化を抑制することが出来る。
【0059】
前述したように透光性樹脂16の厚みは設定されるが、具体的には、a点とb点との間
の距離が約0.6mm程度になるように設計される光ピックアップ装置が多いので、透光性樹脂16の厚みは、0.1〜0.2mmに設定されることになる。
【0060】
前述したように紫外線照射器から放射される紫外線を合成樹脂にて形成された透光性樹脂16に所定時間照射することによって透光性樹脂16の初期透過率を所望の値に設定することが出来るが、初期透過率は紫外線の強度と照射時間に基づいて設定することが出来る。即ち、透光性樹脂16に対する紫外線の照射熱量によって照射時間が大きく変化するので、紫外線の強度と照射時間とを適切に設定することにより紫外線照射器からの紫外線の照射後において、前記透光性樹脂16における青紫色のレーザー光に対する透過率の経時変化の割合が大幅に縮小され、前記透光性樹脂16の透過率度合を透光性樹脂16の仕様に基づく所定範囲内に設定することが出来る。
【0061】
尚、本実施例では、光検出器としてフォーカス制御動作に使用される光検出器14に実施した場合について説明したが、レーザー光の出力を制御するために使用されるレーザー出力制御用光検出器12に実施することも出来、この場合、レーザー出力制御用光検出器12のフォトダイオードを覆う透光性樹脂として赤色レーザー光に適した特性を有する合成樹脂材料、例えば三井化学社製のアペル5014DPを使用し、前記透光性樹脂に紫外線照射器からの紫外線を照射して青紫色のレーザー光に対する前記透光性樹脂の透過率の変化度合を所定範囲内に設定する。
【0062】
因みに、本実施例の光検出器14のフォトダイオードPを覆う透光性樹脂16の材料として使用したアペル5014DPの屈折率は、d線(Naランプ光源の輝線である波長が587.6nmのレーザー光)に対する25℃において1.5434であり、青紫色である波長が405nmのレーザー光に対する前記アペル5014DPの屈折率は、1.5575である。
【0063】
一方、青紫色レーザー光の累積照射に伴う青紫色レーザー光の透過率の変化度合の光学特性で青紫色レーザー光に適した合成樹脂材料であるゼオネックス340Rの屈折率は、d線に対する25℃において1.509であり、青紫色である波長が405nmのレーザー光に対する前記ゼオネックス340Rの屈折率は、1.5215である。すなわち、アペル5014DPは、ゼオネックス340Rに比べて屈折率が大きいので、光検出器のフォトダイオードを覆う透光性樹脂にレンズ作用を持たせる場合にレンズの曲率半径を大きくすることができる点で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明に係る光検出器の一実施例を示す断面図である。
【図2】本発明に係る光ピックアップ装置の要部構成図である。
【図3】本発明に係る光ピックアップ装置を説明するための概略図である。
【図4】本発明に係る透光性樹脂の透過率と照射時間との関係を示す特性図である。
【図5】本発明に係る光検出器の製造方法を説明するための特性図である。
【図6】従来の透光性樹脂の透過率と照射時間との関係を示す特性図である。
【図7】従来の光検出器の一実施例を示す断面図である。
【図8】従来の光検出器の一実施例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0065】
4 レーザーダイオード
6 偏光ビームスプリッタ
11 対物レンズ
12 レーザー出力制御用光検出器
13 センサーレンズ
14 光検出器
16 透光性樹脂
P フォトダイオード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザーダイオードから放射されるレーザー光を光ディスクの信号記録層に照射するとともに該信号記録層から反射されるレーザー光が照射され、該レーザー光の光量に応じた信号を出力するフォトダイオードが合成樹脂材料の透光性樹脂にて被覆された光検出器であり、前記透光性樹脂に紫外線を照射することによって青紫色レーザー光の累積照射に伴う前記透光性樹脂の青紫色レーザー光の透過率の変化度合を前記紫外線照射前に比べて小さくしたことを特徴とする光検出器。
【請求項2】
光検出器を非点収差法によるフォーカスエラー信号を生成する検出器として使用するとき、フォトダイオードに対してレーザー光の入射方向に設けられる透光性樹脂の厚さをフォーカスエラー信号の生成動作に伴って変位する合焦点から入射方向への移動距離より薄くしたことを特徴とする請求項1に記載の光検出器。
【請求項3】
前記透光性樹脂の青紫色のレーザー光に対する透過率の変化度合を所定範囲内に設定するように紫外線照射器から発生される紫外線を照射することを特徴とする請求項1に記載の光検出器。
【請求項4】
レーザーダイオードから放射されるレーザー光が照射され、該レーザー光の光量に応じて前記レーザーダイオードのレーザー出力の制御動作を行わせる信号を発生するフォトダイオードが合成樹脂材料の透光性樹脂にて被覆されたレーザー出力制御用の光検出器であり、前記透光性樹脂に紫外線を照射することによって青紫色レーザー光の累積照射に伴う前記透光性樹脂の青紫色レーザー光の透過率の変化度合を前記紫外線照射前に比べて小さくしたことを特徴とする光検出器。
【請求項5】
前記透光性樹脂の青紫色のレーザー光に対する透過率の変化度合を所定範囲内に設定するように紫外線照射器から発生される紫外線を照射することを特徴とする請求項4に記載の光検出器。
【請求項6】
前記透光性樹脂として青紫色のレーザー光に対する透過率の劣化が赤色のレーザー光に対する透過率の劣化より大きい特性を備えた合成樹脂材料を使用したことを特徴とする請求項1または請求項4に記載の光検出器。
【請求項7】
前記透光性樹脂として25℃環境下でのd線に対する屈折率が1.52以上である合成樹脂材料を用いたことを特徴とする請求項1または請求項4に記載の光検出器。
【請求項8】
請求項1〜7までに記載のいずれか1項の光検出器を備える光ピックアップ装置。
【請求項9】
レーザーダイオードから放射されるレーザー光を光ディスクの信号記録層に照射するとともに該信号記録層から反射されるレーザー光が照射され、該レーザー光の光量に応じた信号を出力するフォトダイオードが合成樹脂材料の透光性樹脂にて被覆された光検出器を製造する光検出器の製造方法であって、青紫色レーザー光の累積照射に伴う前記透光性樹脂の青紫色レーザー光の透過率の変化度合を前記紫外線照射前に比べて小さくするように前記透光性樹脂に紫外線を照射することを特徴とする光検出器の製造方法。
【請求項10】
レーザーダイオードから放射されるレーザー光が照射され、該レーザー光の光量に応じて前記レーザーダイオードのレーザー出力の制御動作を行わせる信号を発生するフォトダイオードが合成樹脂材料の透光性樹脂にて被覆されたレーザー出力制御用の光検出器を製造する光検出器の製造方法であって、青紫色レーザー光の累積照射に伴う前記透光性樹脂の青紫色レーザー光の透過率の変化度合を前記紫外線照射前に比べて小さくするように前
記透光性樹脂に紫外線を照射することを特徴とする光検出器の製造方法。
【請求項11】
前記透光性樹脂として青紫色のレーザー光に対する透過率の劣化が赤色のレーザー光に対する透過率の劣化より大きい特性を備えた合成樹脂材料を使用したことを特徴とする請求項9または請求項10に記載の光検出器の製造方法。
【請求項12】
前記透光性樹脂の青紫色のレーザー光に対する透過率の変化度合を所定範囲内に設定するように紫外線照射器から発生される紫外線を照射することを特徴とする請求項9または請求項10に記載の光検出器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−54271(P2009−54271A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−185517(P2008−185517)
【出願日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(504464070)三洋オプテックデザイン株式会社 (315)
【Fターム(参考)】