説明

光触媒ガラスおよびその製造方法

【課題】優れた光触媒活性を有するとともに、耐久性にも優れた光触媒機能性素材を提供する。
【解決手段】 TiO成分、WO成分、ZnO成分、Nb成分、及びTa成分からなる群より選択される1種以上の成分を、酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、10〜75%含有し、光触媒活性を有する光触媒ガラスが提供される。この光触媒ガラスは、透明性を有しており、ファイバー状、ビーズ状、基材との複合体、粉粒体、スラリー等の形態で提供され、特に窓ガラス、ミラーなどの用途に好ましく利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒ガラスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンや酸化タングステン等の金属酸化物は、高い光触媒活性を有することが知られている。これら光触媒活性を有する化合物(以下、単に「光触媒」と記すことがある)は、バンドギャップエネルギー以上のエネルギーの光が照射されると、電子や正孔を生成するため、光触媒を含む成形体の表面近傍において、酸化還元反応が強く促進される。また、光触媒を含む成形体の表面は、水に濡れ易い親水性を呈するため、雨等の水滴で洗浄される、いわゆるセルフクリーニング作用を有することが知られている。
【0003】
ところで、光触媒を基材に担持させる手法として、基材の表面に光触媒を含む膜を成膜する技術や、光触媒を基材中に含ませる技術などが検討されている。基材の表面に光触媒を含む膜を成膜する方法としては、塗布によって塗布膜を形成する塗布法のほか、スパッタリング、蒸着、ゾルゲル、CVD(化学気相成長)等の方法が知られている。例えば、特許文献1では、合成樹脂を分散相とする水性エマルジョンに高濃度の無機チタン化合物を含有する光触媒性塗布剤が提案されている。また、特許文献2では、基材の表面に金属タングステンを酸素雰囲気でスパッタリングして酸化タングステン膜を成膜する方法が提案されている。
【0004】
一方、光触媒を基材中に含ませる技術として、酸化チタンに関するものであるが、例えば特許文献3では、SiO、Al、CaO、MgO、B、ZrO、及びTiOの各成分を所定量含有する光触媒用ガラスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−81712号公報
【特許文献2】特開2001−152130号公報
【特許文献3】特開平9−315837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のとおり、多くの従来技術では、基材の表面に光触媒を含む膜を成膜することによって、光触媒を担持させるという考え方を採用している。しかし、このような考え方に立脚する手法に共通の課題として、基材と光触媒を含む膜との密着性および膜自体の耐久性を確保することが難しい点が挙げられる。つまり、これらの手法で製造された光触媒機能性製品は、光触媒を含む膜が基材から剥離したり、膜が劣化して光触媒機能が損なわれたりするおそれがある。例えば特許文献1のように、塗料を用いて塗布膜を形成した場合、塗布膜に残留している樹脂や有機バインダーが、紫外線等によって分解されたり、光触媒の触媒作用で酸化還元されたりする結果、塗布膜が経時的に劣化しやすく、耐久性が十分ではないという問題があった。また、膜中に担持させた光触媒の活性を十分に引き出すためには、光触媒をナノサイズの超微粒子に加工する必要があるが、ナノサイズの超微粒子は作製コストが高くなるとともに、表面エネルギーの増大によって凝集しやすくなり、取り扱いが難しいという問題点があった。
【0007】
特許文献2のようにスパッタリングによって光触媒膜を形成する場合、微粒子化は必要でなく、基材と光触媒膜との密着性も多少改善されるが、成膜速度が遅いこと、スパッタリング装置などの大掛かりな設備が必要になること、適用できる基材の材質や形状が限定されること、などの問題があった。
【0008】
一方、特許文献3で開示される光触媒用ガラスは、ガラス中に酸化チタンを含有させている点で他の従来技術とは考え方を異にしている。特許文献3の技術では、光触媒活性を付与するための成分として酸化チタンのみを利用しているが、単独で十分な光触媒活性を発揮させるには酸化チタンの含有量が十分でなく、また、酸化チタンの光触媒活性を十分に引き出すための他の成分との組み合わせについても考慮されていないため、その光触媒活性が弱く、不充分であった。
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、優れた光触媒活性を有するとともに、耐久性にも優れた光触媒機能性素材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ガラス中にTiO成分、WO成分、ZnO成分、Nb成分、及びTa成分からなる群より選ばれる1種以上の成分を含有させることにより、優れた光触媒機能を有する素材および製品を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の(1)〜(20)に存する。
【0011】
(1)TiO成分、WO成分、ZnO成分、Nb成分、及びTa成分からなる群より選択される1種以上の成分を、酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、10〜75%含有し、光触媒活性を有する光触媒ガラス。
【0012】
(2)酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、SiO成分、GeO成分、B成分、及びP成分からなる群より選択される1種以上の成分を25〜75%を、さらに含有する上記(1)に記載の光触媒ガラス。
【0013】
(3)酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
LiO成分 0〜30%、及び/又は
NaO成分 0〜30%、及び/又は
O成分 0〜30%、及び/又は
RbO成分 0〜20%、及び/又は
CsO成分 0〜20%
の各成分をさらに含有する上記(1)〜(2)のいずれかに記載の光触媒ガラス。
【0014】
(4)酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
MgO成分 0〜30%、及び/又は
CaO成分 0〜30%、及び/又は
SrO成分 0〜30%、及び/又は
BaO成分 0〜30%
の各成分をさらに含有する上記(1)〜(3)のいずれかに記載の光触媒ガラス。
【0015】
(5)酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
Al成分 0〜35%、及び/又は
Ga成分 0〜35%、及び/又は
In成分 0〜10%
の各成分をさらに含有する上記(1)〜(4)のいずれかに記載の光触媒ガラス。
【0016】
(6)酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
ZrO成分 0〜20%、及び/又は
SnO成分 0〜10%
の各成分をさらに含有する上記(1)〜(5)のいずれかに記載の光触媒ガラス。
【0017】
(7)酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
Bi成分 0〜20%、及び/又は
TeO成分 0〜20%、及び/又は
Ln成分(式中、LnはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuからなる群より選択される1種以上とする) 合計で0〜10%、及び/又は
成分(式中、MはV、Cr、Mn、Fe、Co、Niからなる群より選択される1種以上とし、x及びyは、それぞれx:y=2:Mの価数、を満たす最小の自然数とする) 合計で0〜5%、及び/又は
As成分及び/又はSb成分 合計で0〜5%
の各成分をさらに含有する上記(1)〜(6)のいずれかに記載の光触媒ガラス。
【0018】
(8)F成分又はCl成分が、全質量に対する外割り質量比で20%以下含まれている上記(1)〜(7)のいずれかに記載の光触媒ガラス。
【0019】
(9)Cu、Ag、Au、Pd、及びPtからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属粒子が、全質量に対する外割り質量比で5%以下含まれている上記(1)〜(8)のいずれかに記載の光触媒ガラス。
【0020】
(10)紫外領域から可視領域までの波長の光によって触媒活性が発現される上記(1)〜(9)のいずれかに記載の光触媒ガラス。
【0021】
(11)紫外領域から可視領域までの波長の光を照射した表面と水滴との接触角が30°以下である上記(1)〜(10)のいずれかに記載の光触媒ガラス。
【0022】
(12)上記(10)又は(11)に記載の光触媒ガラスを含む光触媒部材。
【0023】
(13)ファイバー状又はビーズ状の形態を有する上記(12)に記載の光触媒部材。
【0024】
(14)上記(1)〜(11)のいずれかに記載の光触媒ガラスを含む窓ガラス。
【0025】
(15)上記(1)〜(11)のいずれかに記載の光触媒ガラスを含むミラー。
【0026】
(16)基材と、この基材上に設けられた光触媒ガラス層とを有する光触媒ガラス複合体であって、
前記光触媒ガラス層が、上記(1)〜(11)のいずれかに記載の光触媒ガラスを含むことを特徴とする光触媒ガラス複合体。
【0027】
(17)上記(1)〜(11)のいずれかに記載の光触媒ガラスを含み、粉粒状をなす光触媒ガラス粉粒体。
【0028】
(18)上記(17)に記載の光触媒ガラス粉粒体を含有するスラリー状混合物。
【0029】
(19)水、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール、酢酸、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、及びアセトンからなる群より選ばれる1種以上の溶媒を含む上記(18)に記載のスラリー状混合物。
【0030】
(20)さらに、無機バインダー、及び有機バインダーンダー選ばれる1つ以上のバインダーを含有する上記(18)又は(19)に記載のスラリー状混合物。
【発明の効果】
【0031】
本発明の光触媒ガラスは、ガラス中にTiO成分、WO成分、ZnO成分、Nb成分及びTa成分からなる群より選ばれる1種以上の成分を含有させることにより、優れた光触媒活性を有する。また、仮に表面が削られても性能の低下が少なく、極めて耐久性に優れたものである。また、本発明の光触媒ガラスは、透明性を有しており、大きさや形状などを加工する場合の自由度が高く、光触媒機能が要求される様々な物品に利用できる。従って、本発明の光触媒ガラスは、光触媒機能性素材として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施例1〜6の光触媒ガラス及び比較例のガラスに関する親水性の試験結果を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例7〜11の光触媒ガラス及び比較例のガラスに関する親水性の試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
[光触媒ガラス]
本発明の光触媒ガラスは、酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、TiO成分、WO成分、ZnO成分、Nb成分、及びTa成分からなる群より選ばれる1種以上の成分を10〜75%含有している。この光触媒ガラスは、上記成分を含有することによって、強い光触媒活性を有するものである。以下、本明細書において、上記成分を「光触媒活性を付与する成分」という。また、本発明の光触媒ガラスは、透明であるため、通常のガラスとほぼ同様の用途に利用できる。なお、本発明の光触媒ガラスは、特定波長の光を吸収する色付きの透明ガラスであってもよい。
【0034】
次に、本発明の光触媒ガラスの成分及び物性について説明する。なお、本明細書中において、光触媒ガラスを構成する各成分の含有量は特に断りがない場合は、全て酸化物換算組成の全物質量に対するモル%で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」とは、本発明の光触媒ガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が溶融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総物質量を100モル%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0035】
TiO成分は、ガラスに光触媒活性を付与する成分であり、本発明の光触媒ガラスにおける任意成分である。しかし、TiO成分の含有量が10%未満であると、光触媒活性を付与する成分のうちTiOを単独で配合する場合に十分な光触媒活性が得られず、75%を超えるとガラス化が非常に難しくなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するTiO成分の含有量の下限は、10%、より好ましくは15%、最も好ましくは20%とし、上限は、75%、好ましくは70%、より好ましくは65%、最も好ましくは60%とする。TiO成分は、原料として例えばTiO等を用いてガラス内に導入することができる。
【0036】
WO成分は、ガラスの溶融性と安定性を高める成分であり、且つガラスに光触媒活性を付与する成分であり、本発明の光触媒ガラスにおける任意成分である。しかし、WO成分の含有量が10%未満であると、光触媒活性を付与する成分のうちWOを単独で配合する場合に十分な光触媒活性が得られず、75%を超えるとガラスの安定性が著しく悪くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するWO成分の含有量は、好ましくは10%、より好ましくは12%、最も好ましくは15%を下限とし、好ましくは75%、より好ましくは70%、最も好ましくは65%を上限とする。WO成分は、原料として例えばWO等を用いてガラス内に導入することができる。
【0037】
ZnO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させる成分であり、且つガラスに光触媒活性を付与する成分であり、本発明の光触媒ガラスにおける任意成分である。しかし、ZnO成分の含有量の含有量が10%未満であると、光触媒活性を付与する成分のうちZnOを単独で配合する場合に十分な光触媒活性が得られず、75%を超えるとガラスの安定性が著しく悪くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するZnO成分の含有量は、好ましくは10%、より好ましくは15%、最も好ましくは20%を下限とし、好ましくは75%、より好ましくは70%、最も好ましくは60%を上限とする。ZnO成分は、原料として例えばZnO、ZnF等を用いてガラス内に導入することができる。
【0038】
Nb成分は、ガラスの溶融性と安定性を高める成分であり、且つガラスに光触媒活性を付与する成分であり、本発明の光触媒ガラスにおける任意成分である。しかし、Nb成分の含有量が10%未満であると、光触媒活性を付与する成分のうちNbを単独で配合する場合に十分な光触媒活性が得られず、75%を超えるとガラスの安定性が著しく悪くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するNb成分の含有量は、好ましくは10%、より好ましくは12%、最も好ましくは15%を下限とし、好ましくは75%、より好ましくは65%、最も好ましくは55%を上限とする。Nb成分は、原料として例えばNb等を用いてガラスに導入することができる。
【0039】
Ta成分は、ガラスの安定性を高める成分であり、且つガラスに光触媒活性を付与する成分であり、本発明の光触媒ガラスにおける任意成分である。しかし、Ta成分の含有量が10%未満であると、光触媒活性を付与する成分のうちTaを単独で配合する場合に十分な光触媒活性が得られず、75%を超えるとガラスの安定性が著しく悪くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するTa成分の含有量は、好ましくは10%、より好ましくは12%、最も好ましくは15%を下限とし、好ましくは75%、より好ましくは65%、最も好ましくは55%を上限とする。Ta成分は、原料として例えばTa等を用いてガラス内に導入することができる。
【0040】
本発明の光触媒ガラスは、酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、TiO成分、WO成分、ZnO成分、Nb成分、及びTa成分からなる群より選ばれる1種以上の成分を合計で10%以上75%以下の範囲内で含有することが好ましい。特に、TiO成分、WO成分、ZnO成分、Nb成分、及びTa成分の合計量を10%以上にすることで、優れた光触媒活性を有する光触媒ガラスが得られる。一方で、TiO成分、WO成分、ZnO成分、Nb成分、及びTa成分の合計量を75%以下にすることで、ガラスの安定性が向上する。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する合計量(TiO+WO+ZnO+Nb+Ta)は、好ましくは10%、より好ましくは15%、最も好ましくは20%を下限とし、好ましくは75%、より好ましくは70%、最も好ましくは65%を上限とする。TiO成分、WO成分、ZnO成分、Nb成分、及びTa成分はそれぞれ単独で、または2種以上を組み合わせてガラス中に導入することができる。
【0041】
SiO成分は、ガラスの網目構造を構成し、ガラスの安定性と化学的耐久性を高めるので、任意に添加できる成分である。これらの効果を引き出す目的で、酸化物換算組成の全物質量に対するSiO成分の含有量は、好ましくは0.5%、より好ましくは1%を下限とし、好ましくは75%、より好ましくは70%を上限とすることができる。SiO成分は、原料として例えばSiO、KSiF、NaSiF等を用いてガラス内に導入することができる。
【0042】
GeO成分は、上記のSiOと相似な働きを有する成分であり、任意に添加できる成分である。酸化物換算組成の全物質量に対するGeO成分の含有量は、好ましくは0.5%、より好ましくは1%を下限とし、好ましくは75%、より好ましくは70%、最も好ましくは60%を上限とする。GeO成分は、原料として例えばGeO等を用いてガラス内に導入することができる。
【0043】
成分は、ガラスの網目構造を構成し、ガラスの溶融性と安定性を高めるので、任意に添加できる成分である。酸化物換算組成の全物質量に対するB成分の含有量は、好ましくは0.5%、より好ましくは1%を下限とし、好ましくは75%、より好ましくは70%、最も好ましくは65%を上限とする。B成分は、原料として例えばHBO、Na、Na・10HO、BPO等を用いてガラス内に導入することができる。
【0044】
成分は、ガラスの網目構造を構成する成分であり、TiOやWOなどの成分をより多く取り込ませる効果があるので、任意に添加できる成分である。P成分を添加する場合、酸化物換算組成の全物質量に対するP成分の含有量は、好ましくは0.5%、より好ましくは1%を下限とし、好ましくは75%、より好ましくは65%、最も好ましくは60%を上限とする。P成分は、原料として例えばAl(PO、Ca(PO、Ba(PO、NaPO、BPO、HPO、NHPO等を用いてガラス内に導入することができる。
【0045】
本発明の光触媒ガラスは、SiO成分、GeO成分、B成分、及びP成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分を25%以上75%以下の範囲内で含有することが好ましい。これらの成分の合計量を25%以上75%以下にすることで、ガラスの溶融性、安定性及び化学耐久性が向上するとともに、光触媒特性の高いガラスが簡単に得られる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する合計量(SiO+GeO+B+P)は、好ましくは25%、より好ましくは26%、最も好ましくは27%を下限とし、好ましくは75%、より好ましくは70%、最も好ましくは65%を上限とする。
【0046】
LiO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、LiO成分の含有量が30%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するLiO成分の含有量は、好ましくは30%、より好ましくは28%、最も好ましくは25%を上限とする。LiO成分は、原料として例えばLiCO、LiNO、LiF等を用いてガラス内に導入することができる。
【0047】
NaO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、NaO成分の含有量が30%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するNaO成分の含有量は、好ましくは30%、より好ましくは28%、最も好ましくは25%を上限とする。NaO成分は、原料として例えばNaO、NaCO、NaNO、NaF、NaS、NaSiF等を用いてガラス内に導入することができる。
【0048】
O成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、KO成分の含有量が30%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するKO成分の含有量は、好ましくは30%、より好ましくは28%、最も好ましくは25%を上限とする。KO成分は、原料として例えばKCO、KNO、KF、KHF、KSiF等を用いてガラス内に導入することができる。
【0049】
RbO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、RbO成分の含有量が20%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するRbO成分の含有量は、好ましくは20%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限とする。RbO成分は、原料として例えばRbCO、RbNO等を用いてガラス内に導入することができる。
【0050】
CsO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、CsO成分の含有量が20%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するCsO成分の含有量は、好ましくは20%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限とする。CsO成分は、原料として例えばCsCO、CsNO等を用いてガラス内に導入することができる。
【0051】
本発明の光触媒ガラスは、RnO(式中、RnはLi、Na、K、RbおよびCsからなる群より選択される1種以上)成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分を40%以下含有することが好ましい。特に、RnO成分の合計量を40%以下にすることで、ガラスの安定性が向上する。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する、RnO成分の合計量は、好ましくは40%、より好ましくは35%、最も好ましくは30%を上限とする。
【0052】
MgO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、MgO成分の含有量が30%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するMgO成分の含有量は、好ましくは30%、より好ましくは25%、最も好ましくは20%を上限とする。MgO成分は、原料として例えばMgCO、MgF等を用いてガラス内に導入することができる。
【0053】
CaO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、CaO成分の含有量が30%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するCaO成分の含有量は、好ましくは30%、より好ましくは25%、最も好ましくは20%を上限とする。CaO成分は、原料として例えばCaCO、CaF等を用いてガラス内に導入することができる。
【0054】
SrO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、SrO成分の含有量が30%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するSrO成分の含有量は、好ましくは30%、より好ましくは25%、最も好ましくは20%を上限とする。SrO成分は、原料として例えばSr(NO、SrF等を用いてガラス内に導入することができる。
【0055】
BaO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、BaO成分の含有量が30%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するBaO成分の含有量は、好ましくは30%、より好ましくは25%、最も好ましくは20%を上限とする。BaO成分は、原料として例えばBaCO、Ba(NO、BaF等を用いてガラス内に導入することができる。
【0056】
本発明の光触媒ガラスは、RO(式中、RはMg、Ca、SrおよびBaからなる群より選択される1種以上)成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分を40%以下含有することが好ましい。特に、RO成分の合計量を40%以下にすることで、ガラスの安定性が向上する。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する、RO成分の合計量は、好ましくは40%、より好ましくは35%、最も好ましくは30%を上限とする。
【0057】
また、本発明の光触媒ガラスは、RO(式中、RはMg、Ca、SrおよびBaからなる群より選択される1種以上)成分及びRnO(式中、RnはLi、Na、K、Rb、Csからなる群より選択される1種以上)成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分を50%以下含有することが好ましい。特に、RO成分及びRnO成分の合計量を50%以下にすることで、ガラスの溶融性と安定性の高いガラスがより容易に得られる。一方で、RO成分及びRnO成分の合計量が50%より多いと、ガラスの安定性が悪くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する合計量(RO+RnO)は、好ましくは50%、より好ましくは40%、最も好ましくは35%を上限とする。
【0058】
ここで、本発明の光触媒ガラスは、RO(式中、RはMg、Ca、SrおよびBaからなる群より選択される1種以上)成分及びRnO(式中、RnはLi、Na、K、Rb、Csからなる群より選択される1種以上)成分から選ばれる成分のうち2種類以上を含有することにより、ガラスの安定性が大幅に向上し、ガラスの機械強度がより高くなる。従って、本発明の光触媒ガラスは、RO成分及びRnO成分から選ばれる成分のうち2種類以上を含有することが好ましい。
【0059】
Al成分は、ガラスの化学的耐久性を高め、光触媒特性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、その含有量が35%を超えると、溶解温度が著しく上昇し、ガラス化し難くなる。従って、Al成分を添加する場合、酸化物換算組成の全物質量に対するAl成分の含有量は、好ましくは35%、より好ましくは25%、最も好ましくは20%を上限とする。Al成分は、原料として例えばAl、Al(OH)、AlF等を用いてガラス内に導入することができる。
【0060】
Ga成分は、ガラスの安定性を高め、光触媒特性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、その含有量が35%を超えると、溶解温度が著しく上昇し、ガラス化し難くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するGa成分の含有量は、好ましくは35%、より好ましくは20%、最も好ましくは10%を上限とする。Ga成分は、原料として例えばGa、GaF等を用いてガラス内に導入することができる。
【0061】
In成分は、上記のAl及びGaと相似な効果がある成分であり、任意に添加できる成分である。In成分は高価なため、その含有量の上限は10%にすることが好ましく、5%にすることがより好ましく、3%にすることが最も好ましい。In成分は、原料として例えばIn、InF等を用いてガラス内に導入することができる。
【0062】
本発明の光触媒ガラスは、Al成分、Ga成分、及びIn成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分を35%以下含有することが好ましい。安定性なガラスを得るために、酸化物換算組成の全物質量に対する合計量(Al+Ga+In)は、好ましくは35%、より好ましくは30%、最も好ましくは20%を上限とする。なお、Al成分、Ga成分、及びIn成分は、いずれも含有しなくとも高い光触媒特性を有するガラスを得ることは可能であるが、これらの成分の合計量を0.5%以上にすることで、ガラスの光触媒特性のさらなる向上に寄与することができる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する合計量(Al+Ga+In)は、好ましくは0.5%、より好ましくは1%、最も好ましくは3%を下限とする。
【0063】
ZrO成分は、ガラスの化学的耐久性を高め、光触媒特性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、ZrO成分の含有量が20%を超えると、ガラス化し難くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するZrO成分の含有量は、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。ZrO成分は、原料として例えばZrO、ZrF等を用いてガラスに導入することができる。
【0064】
SnO成分は、光触媒特性の向上に効果がある成分であり、光触媒活性を高める作用のある後述のAgやAuやPtイオンと一緒に添加する場合は還元剤の役割を果たし、間接的に光触媒の活性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、これらの成分の含有量が10%を超えると、ガラスの安定性が悪くなり、光触媒特性も低下し易くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するSnO成分の含有量は、好ましくは10%、より好ましくは5%、最も好ましくは3%を上限とする。SnO成分は、原料として例えばSnO、SnO、SnO等を用いてガラス内に導入することができる。
【0065】
本発明の光触媒ガラスは、ZrO成分又はSnO成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分を20%以下含有することが好ましい。特に、これらの成分の合計量を20%以下にすることで、ガラスの安定性が確保され、良好なガラスを形成することができる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する合計量(ZrO+SnO)は、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。なお、ZrO成分、SnO成分は、いずれも含有しなくとも高い光触媒特性を有するガラスを得ることは可能であるが、これらの成分の合計量を0.5%以上にすることで、ガラスの光触媒特性をさらに向上させることができる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する合計量(ZrO+SnO)は、好ましくは0.5%、より好ましくは1%、最も好ましくは3%を下限とする。
【0066】
Bi成分は、ガラスの溶融性と安定性を高める成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、Bi成分の含有量が20%を超えると、ガラスの安定性が悪くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するBi成分の含有量は、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。Bi成分は、原料として例えばBi等を用いてガラス内に導入することができる。
【0067】
TeO成分は、ガラスの溶融性と安定性を高める成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、TeO成分の含有量が20%を超えると、ガラスの安定性が悪くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するTeO成分の含有量は、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。TeO成分は、原料として例えばTeO等を用いてガラス内に導入することができる。
【0068】
Ln成分(式中、LnはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuからなる群より選択される1種以上とする)は、ガラスの化学的耐久性を高める成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、Ln成分の含有量の合計が10%を超えると、ガラスの安定性が著しく悪くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する、Ln成分の合計量は、好ましくは10%、より好ましくは5%、最も好ましくは3%を上限とする。Ln成分は、原料として例えばLa、La(NO・XHO(Xは任意の整数)、Gd、GdF、Y、YF、CeO、CeF、Nd、Dy、Yb、Lu等を用いてガラス内に導入することができる。
【0069】
成分(式中、MはV、Cr、Mn、Fe、Co、Niからなる群より選択される1種以上とし、x及びyはそれぞれx:y=2:Mの価数、を満たす最小の自然数とする)は、光触媒特性の向上に寄与し、且つ一部の波長の可視光を吸収してガラスに外観色を付与する成分であり、本発明の光触媒ガラス中の任意成分である。特に、M成分の合計量を5%以下にすることで、ガラスの安定性を高め、ガラスの外観の色を容易に調節することができる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する、M成分の合計量は、好ましくは5%、より好ましくは4%、最も好ましくは3%を上限とする。
【0070】
As成分及び/又はSb成分は、ガラスを清澄させ、脱泡させる成分であり、また、光触媒活性を高める作用のある後述のAgやAuやPtイオンと一緒に添加する場合は、還元剤の役割を果たすので、間接的に光触媒活性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、これらの成分の含有量が合計で5%を超えると、ガラスの安定性が悪くなり、光触媒特性も低下し易くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するAs成分及び/又はSb成分の含有量の合計は、好ましくは5%、より好ましくは3%、最も好ましくは1%を上限とする。As成分及びSb成分は、原料として例えばAs、As、Sb、Sb、NaSb・5HO等を用いてガラス内に導入することができる。
【0071】
なお、ガラスを清澄させ、脱泡させる成分は、上記のAs成分及びSb成分に限定されるものではなく、例えばCeO成分やTeO成分等のような、ガラス製造の分野における公知の清澄剤や脱泡剤、或いはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0072】
本発明の光触媒ガラスには、F成分又はCl成分からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の非金属元素成分が含まれていてもよい。これらの成分は、光触媒特性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、これらの成分の含有量が合計で20%を超えると、ガラスの安定性が著しく悪くなり、光触媒特性も低下し易くなる。従って、良好な特性を確保するために、酸化物換算組成の全質量に対する非金属元素成分の含有量の外割り質量比の合計は、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。これらの非金属元素成分は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のフッ化物、塩化物等の形でガラス内に導入するのが好ましい。なお、本明細書における非金属元素成分の含有量は、光触媒ガラスを構成するカチオン成分全てが電荷の釣り合うだけの酸素と結合した酸化物でできていると仮定し、それら酸化物でできた光触媒ガラス全体の質量を100%として、非金属元素成分の質量を質量%で表したもの(酸化物基準の質量に対する外割り質量%)である。非金属元素成分の原料は特に限定されないが、例えば、F成分の原料としてZrF、AlF、NaF、CaF等、Cl成分の原料としてNaCl、AgCl等を用いることで、ガラス内に導入することができる。なお、これらの原料は、2種以上を組み合わせて添加してもよいし、単独で添加してもよい。
【0073】
本発明の光触媒ガラスには、Cu成分、Ag成分、Au成分、Pd成分、及びPt成分から選ばれる少なくとも1種の金属元素成分が含まれていてもよい。これらの金属元素成分は、光触媒活性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、これらの金属元素成分の含有量の合計が5%を超えるとガラスの安定性が著しく悪くなり、光触媒特性がかえって低下し易くなる。従って、酸化物換算組成の全質量に対する上記金属元素成分の含有量の外割り質量比合計は、好ましくは5%、より好ましくは3%、最も好ましくは1%を上限とする。これらの金属元素成分は、原料として例えばCuO、CuO、AgO、AuCl、PtCl、PtCl、HPtCl、PdCl等を用いてガラス内に導入することができる。なお、本明細書における金属元素成分の含有量は、光触媒ガラスを構成するカチオン成分全てが電荷の釣り合うだけの酸素と結合した酸化物でできていると仮定し、それら酸化物でできた光触媒ガラス全体の質量を100%として、金属元素成分の質量を質量%で表したもの(酸化物基準の質量に対する外割り質量%)である。
【0074】
本発明の光触媒ガラスには、上記成分以外の成分をガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。但し、PbO等の鉛化合物、Th、Cd、Tl、Os、Se、Hgの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあり、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には、不可避な混入を除き、これらを実質的に含有しないことが好ましい。これにより、ガラスに環境を汚染する物質が実質的に含まれなくなる。そのため、特別な環境対策上の措置を講じなくとも、このガラスを製造し、加工し、及び廃棄することができる。
【0075】
本発明の光触媒ガラスは、その組成が酸化物換算組成の全物質量に対するモル%で表されているため直接的に質量%の記載に表せるものではないが、本発明において要求される諸特性を満たす組成物中に存在する各成分の質量%表示による組成は、酸化物換算組成で概ね以下の値をとる。
TiO成分 0〜70質量%及び/又は
WO成分 0〜90質量%及び/又は
ZnO成分 0〜70質量%及び/又は
Nb成分 0〜80質量%及び/又は
Ta成分 0〜90質量%及び/又は
SiO成分 0〜60質量%及び/又は
GeO成分 0〜60質量%及び/又は
成分 0〜60質量%及び/又は
成分 0〜60質量%及び/又は
LiO成分 0〜25質量%及び/又は
NaO成分 0〜25質量%及び/又は
O成分 0〜30質量%及び/又は
RbO成分 0〜20質量%及び/又は
CsO成分 0〜20質量%及び/又は
MgO成分 0〜30質量%及び/又は
CaO成分 0〜40質量%及び/又は
SrO成分 0〜40質量%及び/又は
BaO成分 0〜40質量%及び/又は
Al成分 0〜35質量%及び/又は
Ga成分 0〜35質量%及び/又は
In成分 0〜35質量%及び/又は
ZrO成分 0〜25質量%及び/又は
SnO成分 0〜20質量%及び/又は
Bi成分 0〜30質量%及び/又は
TeO成分 0〜30質量%及び/又は
Ln成分 合計で0〜20質量%及び/又は
成分 合計で0〜10質量%及び/又は
As成分及び/又はSb成分 合計で0〜5質量%
さらに、
前記酸化物換算組成の全質量100%に対して、
F成分又はCl成分からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の非金属元素成分0〜20質量%及び/又は
Cu成分、Ag成分、Au成分、Pd成分、及びPt成分からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素成分 0〜5質量%
【0076】
本発明の光触媒ガラスは、紫外領域から可視領域までの波長の光によって触媒活性が発現されることが好ましい。ここで、本発明でいう紫外領域の波長の光は、波長が可視光線より短く軟X線よりも長い不可視光線の電磁波のことであり、その波長はおよそ10〜400nmの範囲にある。また、本発明でいう可視領域の波長の光は、電磁波のうち、ヒトの目で見える波長の電磁波のことであり、その波長はおよそ400nm〜700nmの範囲にある。これら紫外領域から可視領域までのいずれかの波長の光、またはそれらが複合した波長の光がガラスの表面に照射されたときに触媒活性が発現されることにより、ガラスの表面に付着した汚れ物質や細菌等が酸化又は還元反応により分解されるため、ガラスを防汚用途や抗菌用途等に用いることができる。
【0077】
また、本発明の光触媒ガラスは、紫外領域から可視領域までの波長の光を照射した表面と水滴との接触角が30°以下であることが好ましい。これにより、ガラスの表面が親水性を呈し、セルフクリーニング作用を有するため、ガラスの表面を水で容易に洗浄することができ、汚れによる光触媒特性の低下を抑制することができる。光を照射したガラス表面と水滴との接触角は、30°以下が好ましく、25°以下がより好ましく、20°以下が最も好ましい。
【0078】
以上のように、本発明の光触媒ガラスは、ガラス中にTiO成分、WO成分、ZnO成分、Nb成分及びTa成分からなる群より選ばれる1種以上の成分を含有させることにより、優れた光触媒活性を有するとともに、耐久性にも優れている。従って、基材の表面にのみ光触媒層が設けられている従来技術の光触媒機能性部材のように、光触媒層が剥離して光触媒活性が失われる、ということがない。また、仮に表面が削られても内部にTiO成分、WO成分、ZnO成分、Nb成分及びTa成分からなる群より選ばれる1種以上の成分を含有させているため、光触媒活性が維持される。また、本発明の光触媒ガラスは、溶融ガラスの形態から製造できるので、大きさや形状などを加工する場合の自由度が高く、光触媒機能が要求される様々な物品に加工できる。
【0079】
[光触媒ガラスの製造方法]
本発明の光触媒ガラスの製造方法は、原料の混合物を1100℃以上の温度に保持して溶融し、その後冷却して固化させることにより行うことができる。ここで、溶融液は、2以上の種類の化合物が加わることによる溶融液の生成温度の低下も考慮することができる。従って、保持する温度は、混合する原料の種類及び量により適宜変更することが好ましいが、一般に1100℃以上が好ましく、1200℃以上がより好ましく、1250℃以上が最も好ましい。
【0080】
より具体的には、所定の出発原料を均一に混合して白金又は耐火物などからなる容器に入れて、電気炉で1100℃以上の所定温度で加熱し保持して、溶融液を作製する。その後、溶融液を金型に流し込み固化させて、目的の光触媒ガラスを得る。
【0081】
[光触媒]
以上のようにして製造される光触媒ガラスは、そのまま、あるいは任意の形状に加工して光触媒として用いることができる。ここで「光触媒」は、例えば、バルクの状態、粉末状などその形状は問わない。また、光触媒は、紫外線等の光によって有機物を分解する作用と、水に対する接触角を小さくして親水性を付与する作用と、のいずれか片方または両方の活性を有するものであればよい。この光触媒は、透明性を有するため、例えば、光触媒材料、光触媒部材、親水性材料、親水性部材等として通常のガラスと同様の広範囲の用途に利用できる。より具体的には、この光触媒は、例えば水の浄化材、空気浄化材、窓ガラス、ミラー、パネル、タイルなどの用途に適している。さらに、例えば液晶表示装置やプラズマディスプレイなどのFPD(フラットパネルディスプレイ)用のガラス基板として、各種電子部品にも利用可能であり、例えば液晶表示装置のガラス基板として利用することによって表示画面の防汚性を高めることができる。
【0082】
また、本発明の光触媒ガラス成形体は、用途に応じて、種々の形態に加工することができる。特に、例えばガラスビーズやガラス繊維(ガラスファイバー)の形態を採用することにより、表面積が増えるため、光触媒ガラス成形体の光触媒活性をより高めることができる。以下、光触媒ガラスの代表的な加工形態として、ガラスビーズ、ガラス繊維、ガラス複合体、ガラス粉粒体およびスラリー状混合物を例に挙げて説明する。
【0083】
[光触媒ガラスビーズ]
本発明における光触媒ガラスビーズは、装飾用、手芸用のビーズではなく、工業用のビーズに関する。工業用のビーズは、耐久性などの利点から、主にガラスを用いて作られており、一般にガラス製の微小球(直径数μmから数mm)をガラスビーズと呼んでいる。代表的な用途として例えば道路の標識板、路面表示ラインに使われる塗料、反射クロス、濾過材、ブラスト研磨材などがある。道路標識塗料、反射クロス等にガラスビーズを混入、分散させると、夜間、車のライト等から出た光がビーズを介して元のところへ反射(再帰反射)し、視認性が高くなる。ガラスビーズのこのような機能は、ジョギング用ウエアー、工事用チョッキ、バイクドライバー用ベスト等にも使用されている。塗料に本発明の光触媒ガラスビーズを混入すると、光触媒機能により、標識板やラインに付着した汚れが分解されたり、セルフクリーニング作用によって流れ落ち易くなるので、常に清潔な状態を維持でき、メンテナンスの手間を大幅に減少できる。なお、より再帰反射性の高いガラスビーズを得るためには、該ビーズを構成するガラスの屈折率が1.8〜2.1の範囲内であることが好ましく、特に1.9前後がより好ましい。
【0084】
その他の用途として、工業用のガラスビーズは、濾過材として利用されている。ガラスビーズは砂や石等と異なり、すべて球形であるため充填率が高く間隙率も計算できるので、単独または、他の濾過材と組み合わせて、広く使用されている。本発明の光触媒ガラスビーズは、このようなガラスビーズ本来の機能に加え、光触媒機能を合わせ持つものである。特に、膜やコーティング層などを有さず、単体で光触媒特性を呈するので、剥離による触媒活性劣化がなく、交換やメンテナンスの手間が省け、例えばフィルタ及び浄化装置に好適に用いられる。また、光触媒機能を利用したフィルタ部材及び浄化部材は装置内で光源となる部材に隣接した構成である場合が多いが、光触媒ガラスのビーズは、装置内の容器などに簡単に納められるので好適に利用できる。
【0085】
本発明の光触媒ガラスビーズの粒径は、その用途に応じて適宜決めることができる。例えば、塗料に配合する場合は、100〜2500μm、好ましくは100〜2000μmの粒径とすることができる。反射クロスに使用する場合は、20〜100μm、好ましくは20〜50μmの粒径とすることができる。濾過材に使用する場合は、30〜8000μm、好ましくは50〜5000μmの粒径とすることができる。
【0086】
次に、本発明の光触媒ガラスビーズの製造方法について説明する。本発明の光触媒ガラスビーズの製造方法は、原料を混合してその融液を得る溶融工程と、融液または融液から得られるガラスを用いてビーズ体に成形する成形工程と、を含むことができる。なお、光触媒ガラスの一般的な製造方法も矛盾しない範囲でこの具体例に適用できるため、それらを適宜援用して重複する記載を省略する。
【0087】
(溶融工程)
上記光触媒ガラスの製造方法と同様に実施できる。
【0088】
(成形工程)
その後、溶融工程で得られた融液から微粒状のビーズ体へ成形する。ビーズ体の成形方法には様々なものがあり、適宜選択すれば良いが、一般的に、ガラス融液又はガラス→粉砕→粒度調整→球状化のプロセスを辿って作ることができる。粉砕工程においては、冷却固化したガラスを粉砕したり、融液状のガラスを水に流し入れ水砕したり、さらにボールミルにて粉砕するなどして粒状ガラスを得る。その後篩等を使って粒度を調整し、再加熱して表面張力にて球状に成形したり、黒鉛などの粉末材料と一緒にドラムに入れ、回転させながら物理力で球状に成形する、などの方法がある。または、粉砕工程を経ることなく溶融ガラスから直接球状化させる方法を取ることもできる。例えば溶融ガラスを空気中に噴射して表面張力にて球状化する、流出ノズルから出る溶融ガラスを回転する刃物のような部材で細かく切り飛ばして球状化する、流体の中に滴下して落下中に球状化させる、などの方法がある。通常、成形後のビーズは再度粒度を調整した後に製品化される。成形温度におけるガラスの粘性や失透し易さなどを考慮し、これらの方法から最適なものを選べば良い。
【0089】
光触媒ガラスビーズは、そのままの状態でも高い光触媒特性を奏することが可能であるが、この光触媒ガラスビーズに対してエッチング工程を行うことにより、比表面積が大きくなるため、光触媒ガラスビーズの光触媒特性をより高めることが可能である。また、エッチング工程に用いる溶液やエッチング時間をコントロールすることにより、多孔質体ビーズを得ることが可能である。エッチング工程は、上記と同様に実施できる。
【0090】
[光触媒ガラス繊維]
本発明の光触媒ガラス繊維は、ガラス繊維の一般的な性質を有する。すなわち、通常の繊維に比べ引っ張り強度・比強度が大きい、弾性率・比弾性率が大きい、寸法安定性が良い、耐熱性が大きい、不燃性である、耐化学性が良いなどの物性上のメリットを有し、これらを活かした様々な用途に利用できる。また、繊維の内部及び表面に光触媒成分を有するので、前述したメリットに加え光触媒特性を有し、さらに幅広い分野に応用できる繊維構造体を提供できる。ここで繊維構造体とは、繊維が、織物、編制物、積層物、又はそれらの複合体として形成された三次元の構造体をいい、例えば不織布を挙げられる。
【0091】
光触媒ガラス繊維の、耐熱性、不燃性を活かした用途としてカーテン、シート、壁貼クロス、防虫網、衣服類、又は断熱材等があるが、本発明の光触媒ガラス繊維を用いると、さらに前記用途における物品に光触媒作用による、消臭機能、汚れ分解機能、清浄化機能などを与え、掃除やメンテナンスの手間を大幅に減らすことができる。
【0092】
また、光触媒ガラス繊維はその耐化学性から濾過材として用いられることが多いが、本発明の光触媒ガラス繊維は、単に濾過するだけでなく、光触媒反応によって被処理物中の悪臭物質、汚れ、菌などを分解するので、より積極的な浄化機能を有する浄化装置及びフィルタを提供できる。また、光触媒のセルフクリーニング作用によって汚れなどの付着も防止できるため、メンテナンスの手間と回数を削減できる。さらには、光触媒層の剥離・離脱による特性の劣化がほとんど生じないので、これらの製品の長寿命化に貢献する。
【0093】
次に、本発明の光触媒ガラス繊維の製造方法について説明する。本発明の光触媒ガラス繊維の製造方法は、原料を混合してその融液を得る溶融工程と、融液または融液から得られるガラスを用いて繊維状に成形する紡糸工程と、を含むことができる。なお、上記光触媒ガラスの一般的な製造方法も矛盾しない範囲でこの具体例に適用できるため、それらを適宜援用して重複する記載を省略する。
【0094】
(溶融工程)
上記と光触媒ガラスの製造方法と同様に実施できる。
【0095】
(紡糸工程)
次に、溶融工程で得られた融液から光触媒ガラス繊維へ成形する。繊維体の成形方法は特に限定されず、公知の手法を用いて成形すれば良い。巻き取り機に連続的に巻き取れるタイプの繊維(長繊維)に成形する場合は、公知のDM法(ダイレクトメルト法)またはMM法(マーブルメルト法)で紡糸すれば良く、繊維長数十cm程度の短繊維に成形する場合は、遠心法を用いたり、もしくは前記長繊維をカットしても良い。繊維径は、用途によって適宜選択すれば良い。ただ、細いほど可撓性が高く、風合いの良い織物になるが、紡糸の生産効率が悪くなりコスト高になり、逆に太すぎると紡糸生産性は良くなるが、加工性や取り扱い性が悪くなる。織物などの繊維製品にする場合、繊維径を3〜24μmの範囲にすることが好ましく、浄化装置、フィルタなどの用途に適した積層構造体などにする場合は繊維径を9μm以上にすることが好ましい。その後、用途に応じて綿状にしたり、ロービング、クロスなどの繊維構造体を作ることができる。
【0096】
光触媒ガラス繊維は、そのままの状態でも高い光触媒特性を奏することが可能であるが、この光触媒ガラス繊維に対してエッチング工程を行うことにより、比表面積が大きくなるため、光触媒ガラス繊維の光触媒特性をより高めることが可能である。また、エッチング工程に用いる溶液やエッチング時間をコントロールすることにより、多孔質体繊維を得ることが可能である。エッチング工程は、上記と同様に実施できる。
【0097】
[光触媒ガラス複合体]
本発明において、光触媒ガラス複合体(以下「複合体」と記すことがある)とは、ガラス中にTiO成分、WO成分、ZnO成分、Nb成分及びTa成分から選ばれる1種以上の成分を含有させることにより得られる光触媒ガラス層と基材とを備えたものである。
【0098】
<光触媒ガラス複合体の製造方法>
本発明に係る光触媒ガラス複合体の製造方法は、原料組成物から得られたガラス体を基材上に配置して、光触媒ガラス層を形成する工程を有する。本発明方法における好ましい態様では、原料組成物を溶融しガラス化することでガラス体を作成するガラス化工程、及びガラス体を基材上に配置することにより光触媒ガラス層を形成する工程を含むことができる。ここで、ガラス層を形成する工程では、ガラス体を粉砕して粉砕ガラスにしてから基材上に配置しても良い。
【0099】
なお、本発明において「粉砕ガラス」とは、原料組成物から得られたガラス体を粉砕することにより得られるものであり、非晶質状態のガラスの粉砕物を意味する。
【0100】
以下、各工程の詳細を説明する。
(ガラス化工程)
ガラス化工程では、所定の原料組成物を溶融し、固化させてガラス化することで、ガラス体を作製する。具体的には、白金又は耐火物からなる容器に原料組成物を投入し、原料組成物を高温に加熱することで溶融する。これにより得られる溶融ガラスを流出させ、適宜冷却することで、ガラス化されたガラス体を形成する。溶融及びガラス化の条件は、特に限定されず、原料組成物の組成及び量等に応じて、適宜設定することができる。また、ガラス体の形状は、特に限定されず、例えば板状、粒状等であってもよい。溶融する温度と時間は、ガラスの組成により異なるが、それぞれ例えば1250〜1600℃、1〜24時間の範囲であることが好ましい。
【0101】
(光触媒ガラス層を形成する工程)
本発明の製造方法では、ガラス体を基材上に配置することにより光触媒ガラス層を形成する。これにより、より幅広い基材に対して、光触媒特性及び親水性を付与することができる。ここで用いられる基材の材質は特に限定されないが、例えば、ガラス、セラミックス等の無機材料や金属等を用いることが好ましい。また、基材へ配置する場合には、ガラス体を、例えば板ガラスの形態、粉砕した粉砕ガラスの形態等の任意の形態で配置できる。
【0102】
基材へ配置するガラス体として、例えば板ガラスを用いる場合には、ガラス体を任意の厚みの板状に成形した後、基材上に配置して貼り合わせることができる。また、基材へ配置するガラス体として、粉砕ガラスを用いる場合は、粉砕工程を含むことができる。この場合の粉砕工程は、ガラス体を粉砕して粉砕ガラスを作製する任意工程である。粉砕ガラスを作製することにより、ガラス体が比較的に小粒径化されるため、基材上への適用が容易になる。また、粉砕ガラスとすることで他の成分を混合することが容易になる。粉砕ガラスの粒子径や形状は、基材の種類及び複合体に要される表面特性等に応じて適宜設定することができる。具体的には、粉砕ガラスの平均粒子径が大きすぎると基材上に所望形状のガラス層を形成するのが困難になるので、平均粒子径は出来るだけ小さい方が好ましい。そこで、粉砕ガラスの平均粒子径の上限は、好ましくは100μm、より好ましくは50μm、最も好ましくは10μmである。なお、粉砕ガラスの平均粒子径は、例えばレーザー回折散乱法によって測定した時のD50(累積50%径)の値を使用できる。具体的には日機装株式会社の粒度分布測定装置MICROTRAC(MT3300EXII)よって測定した値を用いることができる。
【0103】
なお、ガラス体の粉砕方法は、特に限定されないが、例えばボールミル、ジェットミル等を用いて行うことができる。
【0104】
粉砕ガラスを基材上に配置する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、粉砕ガラスの粉末を基材に直接載せてもよいし、粉砕ガラスをスラリーの状態にして基材上に塗布してもよい。また、粉砕ガラスを有機または無機バインダー成分と混合して、あるいはバインダー層を基材との間に介在させて配置することもできる。この場合、光触媒作用に対する耐久性の面で、無機バインダーを用いることが好ましい。
【0105】
粉砕ガラスを含有するスラリーの形態で基材上に適用する場合、該スラリーを所定の厚み・寸法で基材上に配置することが好ましい。これにより、光触媒特性を有するガラス層を容易に基材上に形成することができる。ここで、形成される光触媒ガラス層の厚さは、複合体の用途に応じて適宜設定できる。光触媒ガラス層の厚みを広範囲に設定できることも、本発明の特長の一つである。ガラス層が剥がれないように十分な耐久性を持たせる観点から、その厚みは例えば、500μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることが最も好ましい。スラリーを基材上に配置する方法としては、例えばドクターブレード法やカレンダ法、スピンコートやディップコーティング等の塗布法、インクジェット、バブルジェット(登録商標)、オフセット等の印刷法、ダイコーター法、スプレー法、射出成型法、押し出し成形法、圧延法、プレス成形法、ロール成型法等が挙げられる。
【0106】
[光触媒ガラス粉粒体]
本発明に係る光触媒ガラス粉粒体は、原料組成物から得られた光触媒ガラスを粉砕することにより得られるものであり、光触媒特性を有するものである。光触媒ガラス粉粒体の製造方法は、特に限定されるものではないが、原料組成物を溶融しガラス化することで、ガラス体を作製するガラス化工程と、ガラス体を粉砕してガラス粉粒体を作製する粉砕工程と、を有することができる。なお、本発明の光触媒ガラス粉粒体の製造方法は、以下に説明する工程以外の任意の工程を含むことができる。
【0107】
(ガラス化工程)
ガラス化工程では、所定の原料組成物を溶融し、固化させてガラス化することで、ガラス体を作製する。ガラス化工程は、上記光触媒ガラス複合体の製造方法のガラス化工程と同様に実施できる。
【0108】
(粉砕工程)
粉砕工程では、ガラス体を粉砕してガラス粉粒体を作製する。粉砕工程は、上記光触媒ガラス複合体の製造方法で粉砕ガラスを用いる場合の粉砕工程と同様に実施できる。
【0109】
[スラリー状混合物]
以上のようにして得られる本発明の光触媒ガラス粉粒体を、任意の溶媒等と混合することによってスラリー状混合物を調製できる。これにより、例えば基材上への塗布等が容易になる。具体的には、光触媒ガラス粉粒体に、好ましくは無機もしくは有機バインダー及び/又は溶媒を添加することによりスラリーを調製できる。
【0110】
無機バインダーとしては、特に限定されるものではないが、紫外線や可視光線を透過する性質のものが好ましく、例えば、珪酸塩系バインダー、リン酸塩系バインダー、無機コロイド系バインダー、アルミナ、シリカ、ジルコニア等の微粒子等を挙げることができる。
【0111】
有機バインダーとしては、例えば、プレス成形やラバープレス、押出成形、射出成形用の成形助剤として汎用されている市販のバインダーが使用できる。具体的には、例えば、アクリル樹脂、エチルセルロース、ポリビニルブチラール、メタクリル樹脂、ウレタン樹脂、ブチルメタアクリレート、ビニル系の共重合物等が挙げられる。
【0112】
溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、酢酸、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトン等の公知の溶媒が使用できるが、環境負荷を軽減できる点でアルコール又は水が好ましい。
【0113】
また、スラリーの均質化を図るために、適量の分散剤を併用してもよい。分散剤としては、特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類、セロソルブ、カルビトール、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキソラン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸−n−ブチル、酢酸アミル等のエステル類等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0114】
本発明のスラリー状混合物には、その用途に応じて、上記成分以外に例えば硬化速度、比重を調節するための添加剤成分等を配合することができる。
【0115】
本発明のスラリー状混合物における光触媒ガラス粉粒体の含有量は、その用途に応じて適宜設定できる。従って、スラリー状混合物における光触媒ガラス粉粒体の含有量は、特に限定されるものではないが、一例を挙げれば、十分な光触媒特性を発揮させる観点から、好ましくは2質量%、より好ましくは3質量%、最も好ましくは5質量%を下限とし、スラリーとしての流動性と機能性を確保する観点から、好ましくは80質量%、より好ましくは70質量%、最も好ましくは65質量%を上限とすることができる。
【0116】
<スラリー状混合物の製造方法>
本発明のスラリー状混合物は、光触媒ガラス粉粒体を溶媒に分散させることによって製造できる。すなわち、本発明の製造方法は、光触媒ガラス粉粒体と溶媒とを含有するスラリー状混合物を製造する方法であり、原料組成物を溶融しガラス化することで、ガラス体を作製するガラス化工程と、ガラス体を粉砕して光触媒ガラス粉粒体を作製する粉砕工程と、光触媒ガラス粉粒体を溶媒に分散させる混合工程と、を有することができる。ここで、ガラス化工程と粉砕工程は、上記光触媒ガラス複合体の製造方法で粉砕ガラスを用いる場合と同様に実施できるので、各工程の詳細は説明を省略する。混合工程は、光触媒ガラス粉粒体を上記溶媒に分散させることにより行うことができる。
【0117】
(凝集体除去工程)
本発明のスラリー状混合物の製造方法は、さらに、光触媒ガラス粉粒体の凝集体を除去する工程を有することができる。光触媒ガラス粉粒体は、その粒径が小さくなるに従い、表面エネルギーが大きくなって凝集しやすくなる傾向がある。光触媒ガラス粉粒体が凝集していると、スラリー状混合物中での均一な分散ができず、所望の光触媒活性が得られないことがある。そのため、光触媒ガラス粉粒体の凝集体を除去する工程を設けることが好ましい。凝集体の除去は、例えば、スラリー状混合物を濾過することにより実施できる。スラリー状混合物の濾過は、例えば所定の目開きのメッシュなどの濾過材を用いて行うことができる。
【0118】
なお、本発明のスラリー状混合物の製造方法は、上記工程以外の任意の工程を含むことができる。また、上述したエッチング工程などの表面処理工程も含めることができる。
【0119】
以上の方法で得られる本発明の光触媒ガラス粉粒体及びこれを含有するスラリー状混合物は、光触媒機能性素材として、例えば塗料、成形/固化が可能な混練物などに配合して使用することができる。
【実施例】
【0120】
次に、実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、以下の実施例に制約されるものではない。
【0121】
実施例1〜11:
表1に、本発明の実施例1〜11の光触媒ガラスの組成を示した。実施例1〜11のガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、塩化物、メタ燐酸化合物等の通常のガラスに使用される高純度の原料を選定して用いた。これらの原料を、表1に示した各実施例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入し、ガラス組成の溶融難易度に応じて電気炉で1250℃〜1600℃の温度範囲で1〜24時間溶解し、攪拌均質化して泡切れ等を行った。その後、1500℃以下に温度を下げて攪拌均質化してから金型に鋳込み、徐冷して光触媒ガラスを作製した。なお、表1には、比較例1の組成も併記した。
【0122】
【表1】

【0123】
また、実施例1〜11の光触媒ガラスの親水性についてθ/2法によりサンプル表面と水滴との接触角を測定することにより評価した。すなわち、紫外線照射前および照射後のガラスの表面にそれぞれ水を滴下し、ガラスの表面から水滴の頂点までの高さhと、水滴の試験片に接している面の半径rと、を協和界面科学社製の接触角計(DM501)を用いて測定し、θ=2tan−1(h/r)の関係式より、水との接触角θを求めた。なお、紫外線照射は、水銀ランプを用い、照度10mW/cm、照射時間0〜4時間で行った。
【0124】
実施例1〜11のガラスについて親水性を評価したところ、図1、2に示すように、3〜4時間の紫外線の照射によって水との接触角が30°以下となることが確認された。一方、比較例1のガラスは、紫外線照射を続けても、水との接触角に有意な変化は認められなかった。これにより、本発明の実施例の光触媒ガラスは、高い親水性を有することが明らかになった。
【0125】
以上の実験結果が示すように、TiO成分、WO成分、ZnO成分、Nb成分及びTa成分からなる群より選択される1種以上の成分を、酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、10〜75%含有する実施例1〜11の光触媒ガラスは、光触媒活性として強い親水性を有していた。しかも、ガラス中に上記光触媒活性成分が均一に分散しているため、剥離による光触媒機能の損失がなく、耐久性に優れた光触媒機能性素材として利用できることが確認された。
【0126】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。当業者は本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を成し得、それらも本発明の範囲内に含まれる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
TiO成分、WO成分、ZnO成分、Nb成分及びTa成分からなる群より選択される1種以上の成分を、酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、10〜75%含有し、光触媒活性を有する光触媒ガラス。
【請求項2】
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、SiO成分、GeO成分、B成分、及びP成分からなる群より選択される1種以上の成分25〜75%を、さらに含有する請求項1に記載の光触媒ガラス。
【請求項3】
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
LiO成分 0〜30%、及び/又は
NaO成分 0〜30%、及び/又は
O成分 0〜30%、及び/又は
RbO成分 0〜20%、及び/又は
CsO成分 0〜20%
の各成分をさらに含有する請求項1又は2に記載の光触媒ガラス。
【請求項4】
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
MgO成分 0〜30%、及び/又は
CaO成分 0〜30%、及び/又は
SrO成分 0〜30%、及び/又は
BaO成分 0〜30%
の各成分をさらに含有する請求項1から3のいずれかに記載の光触媒ガラス。
【請求項5】
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
Al成分 0〜35%、及び/又は
Ga成分 0〜35%、及び/又は
In成分 0〜10%
の各成分をさらに含有する請求項1から4のいずれかに記載の光触媒ガラス。
【請求項6】
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
ZrO成分 0〜20%、及び/又は
SnO成分 0〜10%
の各成分をさらに含有する請求項1から5のいずれかに記載の光触媒ガラス。
【請求項7】
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
Bi成分 0〜20%、及び/又は
TeO成分 0〜20%、及び/又は
Ln成分(式中、LnはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuからなる群より選択される1種以上とする) 合計で0〜10%、及び/又は
成分(式中、MはV、Cr、Mn、Fe、Co、Niからなる群より選択される1種以上とし、x及びyは、それぞれx:y=2:Mの価数、を満たす最小の自然数とする) 合計で0〜5%、及び/又は
As成分及び/又はSb成分 合計で0〜5%
の各成分をさらに含有する請求項1から6のいずれかに記載の光触媒ガラス。
【請求項8】
F成分又はCl成分が、ガラス全質量に対する外割り質量比で20%以下含まれている請求項1から7のいずれかに記載の光触媒ガラス。
【請求項9】
Cu、Ag、Au、Pd、及びPtからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属粒子が、ガラス全質量に対する外割り質量比で5%以下含まれている請求項1から8のいずれかに記載の光触媒ガラス。
【請求項10】
紫外領域から可視領域までの波長の光によって触媒活性が発現される請求項1から9のいずれかに記載の光触媒ガラス。
【請求項11】
紫外領域から可視領域までの波長の光を照射した表面と水滴との接触角が30°以下である請求項1から10のいずれかに記載の光触媒ガラス。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の光触媒ガラスを含む光触媒部材。
【請求項13】
ファイバー状又はビーズ状の形態を有する請求項12に記載の光触媒部材。
【請求項14】
請求項1から11のいずれかに記載の光触媒ガラスを含む窓ガラス。
【請求項15】
請求項1から11のいずれかに記載の光触媒ガラスを含むミラー。
【請求項16】
基材と、この基材上に設けられた光触媒ガラス層とを有する光触媒ガラス複合体であって、
前記光触媒ガラス層が、請求項1から11のいずれかに記載の光触媒ガラスを含むことを特徴とする光触媒ガラス複合体。
【請求項17】
請求項1から11のいずれかに記載の光触媒ガラスを含み、粉粒状をなす光触媒ガラス粉粒体。
【請求項18】
請求項17に記載の光触媒ガラス粉粒体を含有するスラリー状混合物。
【請求項19】
水、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール、酢酸、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、及びアセトンからなる群より選ばれる1種以上の溶媒を含む請求項18に記載のスラリー状混合物。
【請求項20】
さらに、無機バインダー、及び有機バインダーから選ばれる1つ以上のバインダーを含有する請求項18又は19に記載のスラリー状混合物。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−178597(P2011−178597A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43627(P2010−43627)
【出願日】平成22年2月27日(2010.2.27)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】