説明

光配向膜用及び光学異方性フィルム用組成物

【課題】材料選択の自由度が非常に高い光反応性化合物を含む光配向膜用又は光学異方性フィルム用組成物を提供する。
【解決手段】一般式(I)


〔式中,Mはホモポリマー又はコポリマーの主鎖を形成するモノマー単位であり,SPCRはスぺーサー単位であり,環Aは非置換若しくは置換脂環式炭化水素又は非置換若しくは置換芳香環であり,環Bは非置換若しくは置換芳香環であり,Zはアルキル基,アルコキシ基,シアノ基,ニトロ基,ハロゲン原子,−CH=CHZ,−C≡CZ(但し,Zはアルキル基,アルコキシ基,アルコキシカルボニル基,アルコキシスルホニル基,シアノ基,ニトロ基又はハロゲン原子である。),−COOZ,又は−SO(但し,Zはアルキル基である。)である。〕で示される繰り返し単位を有する光反応性ポリマーを含んでなる,光配向膜用組成物又は光学異方性フィルム用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,新規な光配向膜用組成物及び光学異方性フィルム用組成物に関し,更には該組成物を使用して得られる各種の光学異方性フィルム,光学材料,及び液晶セルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年,ディスプレー(液晶ディスプレーの他,フレキシブルディスプレーなども含む)分野では,位相差フィルム,視野角向上フィルム,輝度向上フィルム,偏光フィルムなどの各種光学異方性フィルム,導電性材料,非線形光学材料,光反応性アクチュエーターなどの各種光学材料が様々な形で利用されている。かかる光学異方性フィルムや光学材料は,配向能を有する層(膜,基板表面など)の上に,液晶性化合物,色素,導電性化合物等を配向させて製造されるが,従来,該配向層を提供する方法として,表面を化学的あるいは物理的に処理する方法が知られている。このような方法として,例えば,基板表面に被覆したポリイミドなどの高分子樹脂膜を一方向に布などで擦るラビング処理が知られており,液晶表示装置用配向膜等の形成に用いられている。
しかしながら,かかる方法においては,微細な埃の発生による液晶製造ラインの汚染や,静電気によるTFT(薄膜トランジスタ)素子の破壊などが,液晶パネルの製造工程における歩留まりの低下を引き起こす原因となることや,定量的な配向制御が困難であることなどの問題があった。
そこで,ラビング処理に代わり,光反応性化合物(光照射により光異性化,光二量化,光分解などを起こす化合物)を用いて,液晶等の配向能を有する光配向膜を製造することが種々検討されている。例えば,光異性化を起こす化合物として,アゾ基を有するアゾベンゼン化合物(非特許文献1)など,光二量化を起こす化合物として,シンナモイル基を有する桂皮酸誘導体(非特許文献2),クマリン基を有するクマリン誘導体(非特許文献3),カルコン基を有するカルコン誘導体(非特許文献4)など,光分解を起こす化合物として,光分解性ポリイミド(非特許文献5)などが知られている。
しかし,このように光異性化,二量化あるは光分解を発現する骨格は限られているため,光配向膜の製造において,材料選択の自由度が低いという問題があった。
【0003】
フリース転移とは,フェノールエステルからオルト−及び/又はパラ−フェノールケトンを生成する転移反応であって,ルイス酸によって触媒される(非特許文献6)。フリース転移のうち,光によって進行するものを,特に光フリース転移という。光フリース転移の反応メカニズムは,ラジカルを介する以下の如きものと考えられている。
【0004】
【化1】

【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】K.Ichimura et al., Langmuir, vol.4, page 1214(1988)
【非特許文献2】M. Schadt et al., J.Appl. Phys., vol.31, No.7, page 2155(1992)
【非特許文献3】M.Schadt et al., Nature., vol.381, page 212(1996)
【非特許文献4】小川俊博他,液晶討論会講演予稿集,2AB03(1997)
【非特許文献5】第22回液晶討論会講演予稿集,1672頁A17(1996)
【非特許文献6】THE MERCK INDEX FOURTEENTH EDITION, Organic Name Reactions 150
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記背景において,本発明は,材料選択の自由度が非常に高い光反応性化合物を含む光配向膜用組成物を提供するものである。また,本発明は,該光配向膜用組成物を用いた光配向膜を提供するものである。さらに,本発明は,該光配向膜を使用した位相差フィルム,視野角向上フィルム,輝度向上フィルム,偏光フィルムなどの各種光学異方性フィルム及び導電性材料,非線形光学材料,光反応性アクチュエーターなどの各種光学材料,並びに,該光配向膜を使用した液晶セルを提供するものである。
加えて,本発明は,該光反応性化合物を含む光学異方性フィルム用組成物,及び該組成物を用いた光学異方性フィルムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは,鋭意研究を行った結果,光反応性化合物として,ポリマーの側鎖の末端に下式で示される,フェノール性エステル基を有する光反応性基が結合した光反応性ポリマーを用いれば,上記課題を解決できることを見出し,さらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0008】
【化2】

【0009】
(式中,環Aは非置換若しくは置換脂環式炭化水素又は非置換若しくは置換芳香環であり,環Bは非置換若しくは置換芳香環である。)
【0010】
本発明の光反応性ポリマーは,その側鎖中のフェノール性エステル基が,光の照射を受けて,光解裂によりラジカルを経由して分解物となる。さらに,環Bのフェノール性水酸基のオルト位(又はパラ位)が非置換の場合には,これらラジカルの一部が光フリース転移を起こし,オルト−フェノールケトン(又はパラ−フェノールケトン)を生成する。したがって,該光反応性ポリマーを含む光配向膜用又は光学異方性フィルム用組成物を基材に塗布したものを準備し,これに光を照射する場合において,これら一連の反応を惹起する光として直線偏光を用いると,該直線偏光の偏光軸に対して同軸に存在するフェノール性エステル基のみが該偏光軸選択的に光解裂,又は,光解裂及び光フリース転移を起こすので,これにより,液晶等の配向能が付与された光配向膜又は光学異方性フィルムを製造することができる。本発明は,かかる知見に基づき完成されたものである。
【0011】
【化3】

【0012】
すなわち,本発明は,
〔1〕一般式(I)
【0013】
【化4】

【0014】
〔式中,Mはホモポリマー又はコポリマーの主鎖を形成するモノマー単位であり,SPCRはスぺーサー単位であり,環Aは非置換若しくは置換脂環式炭化水素又は非置換若しくは置換芳香環であり,環Bは非置換若しくは置換芳香環であり,Zはアルキル基,アルコキシ基,シアノ基,ニトロ基,ハロゲン原子,−CH=CHZ,−C≡CZ(但し,Zはアルキル基,アルコキシ基,アルコキシカルボニル基,アルコキシスルホニル基,シアノ基,ニトロ基又はハロゲン原子である。),−COOZ,又は−SO(但し,Zはアルキル基である。)である。〕
で示される繰り返し単位を有する光反応性ポリマーを含んでなる,光配向膜用組成物,
〔2〕環Aの置換基及び環Bの置換基が,それぞれ独立に,アルキル基,アルコキシ基,シアノ基,ニトロ基及びハロゲン原子から選ばれる1又は2以上の基である,上記〔1〕の光配向膜用組成物,
〔3〕Mが,アクリレート,メタクリレート,2−クロロアクリレート,2−フェニルアクリレート,アクリロイルフェニレン,アクリルアミド,メタクリアミド,2−クロロアクリルアミド,2−フェニルアクリルアミド,ビニルエーテル,スチレン誘導体,ビニルエステル,マレイン酸誘導体,フマル酸誘導体,シロキサン,エポキシドからなる群から選ばれる1又は2種以上のモノマー単位であり,
SPCRが,−(CH)p−(但し,pは1〜12のいずれかの整数である。),1,2−プロピレン,1,3−ブチレン,シクロペンタン−1,2−ジイル,シクロペンタン−1,3−ジイル,シクロヘキサン−1,3−ジイル,シクロヘキサン−1,4−ジイル,ピペリジン−1,4−ジイル,ピペラジン−1,4−ジイル,1,2−フェニレン,1,3−フェニレン,1,4−フェニレンからなる群から選ばれるスペーサー単位であり,
環Aが,
【0015】
【化5】

【0016】
〔但し,X1A〜X42Aは,それぞれ独立して,水素原子,アルキル基,アルコキシ基,ハロゲン原子又はシアノ基である。〕
で示されるいずれかの基であり,
環Bが,
【0017】
【化6】

【0018】
〔但し,X1B〜X40Bは,それぞれ独立して,水素原子,アルキル基,アルコキシ基,ハロゲン原子又はシアノ基であり,Xは,窒素原子,酸素原子,硫黄原子である。〕
で示されるいずれかの基である,上記〔1〕の光配向膜用組成物,
〔4〕X1BとX4Bの少なくとも一方,X5BとX12Bの少なくとも一方,X13BとX24Bの少なくとも一方,X25BとX30Bの少なくとも一方,X31BとX38Bの少なくとも一方,及び,X39Bが水素原子である,上記〔3〕の光配向膜用組成物,
〔5〕一般式(I−a)
【0019】
【化7】

【0020】
〔式中,Rは,水素原子,メチル基,フェニル基又は塩素原子であり,X1A〜X4A及びX1B〜X4Bの各々は,それぞれ独立して,水素原子,アルキル基,アルコキシ基,ハロゲン原子又はシアノ基であり,Zは,アルキル基,アルコキシ基,シアノ基,ニトロ基,ハロゲン原子,−CH=CHZ,−C≡CZ(但し,Zはアルキル基,アルコキシ基,アルコキシカルボニル基,アルコキシスルホニル基,シアノ基,ニトロ基又はハロゲン原子である。),−COOZ,又は−SO(但し,Zはアルキル基である。)であり,pは,1〜12のいずれかの整数である。〕
で示される繰り返し単位を有する光反応性ポリマーを含んでなる,光配向膜用組成物,
〔6〕X1BとX4Bの少なくとも一方が水素原子である,上記〔5〕の光配向膜用組成物,
〔7〕上記〔1〕〜〔6〕のいずれかの光配向膜用組成物を基材表面に塗布したものを準備し,これに直線偏光を照射してなる,光配向膜,
〔8〕上記〔7〕の光配向膜に,液晶性化合物,色素又は導電性化合物を配向させてなる,光学異方性フィルム又は光学材料,
〔9〕上記〔7〕の光配向膜2枚を,一方の光配向膜における直線偏光照射時の偏光軸の方向と,他方の光配向膜における直線偏光照射時の偏光軸の方向が,互いに所定の角度をなすように対向させ,該対向させた光配向膜の間に液晶性化合物を充填してなる,液晶セル,
〔10〕一般式(I)
【0021】
【化8】

【0022】
〔式中,Mはホモポリマー又はコポリマーの主鎖を形成するモノマー単位であり,SPCRはスぺーサー単位であり,環Aは非置換若しくは置換脂環式炭化水素又は非置換若しくは置換芳香環であり,環Bは非置換若しくは置換芳香環であり,Zはアルキル基,アルコキシ基,シアノ基,ニトロ基,ハロゲン原子,−CH=CHZ,−C≡CZ(但し,Zはアルキル基,アルコキシ基,アルコキシカルボニル基,アルコキシスルホニル基,シアノ基,ニトロ基又はハロゲン原子である。),−COOZ,又は−SO(但し,Zはアルキル基である。)である。〕
で示される繰り返し単位を有する光反応性ポリマーを含んでなる,光学異方性フィルム用組成物,
〔11〕上記〔10〕の光学異方性フィルム用組成物を基材表面に塗布したものを準備し,これに直線偏光を照射した後,該光学異方性フィルム用組成物に含まれる液晶性化合物が液晶状態を示す温度以上に加熱し,更に該液晶性化合物が液晶状態を示す温度未満に冷却してなる,光学異方性フィルム,
に関する。
【発明の効果】
【0023】
本発明は,光解裂及び光フリース転移という新たな生成メカニズムを利用した光配向膜用組成物及び光学異方性フィルム用組成物を提供するものであり,従来の光配向性基(例えば,アゾ基,シンナモイル基,カルコン基,クマリン基など)によらず,より簡単な構造であるフェノール性エステル基を光配向性基として用いるため,光反応性ポリマーを設計するに際しての,材料選択性の自由度が格段に向上するという特長を有する。
また,本発明の光学異方性フィルム用組成物は,別に配向膜を設ける必要がないため,簡便に,引いては低コストで,光学異方性フィルムを得ることができるという特長を有する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例1の光配向膜用組成物1からなる薄膜に、直線偏光を照射した際の該薄膜の変化を、偏光顕微赤外分光法により観察した結果を示したものである。
【図2】実施例1の光反応性ポリマーについて、1260cm-1と1196cm-1の吸収ピークがベンゾエート骨格のオキシ基に関するものであること,1727cm-1の吸収ピークがカルボニル基に関するものであることを示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に係る光反応性ポリマー(I)において,好ましい具体例を以下に示す。
一般式(I−a)
【0026】
【化9】

【0027】
〔式中,記号は前記と同一意味を有する。〕
で示される繰り返し単位を有する光反応性ポリマー。
【0028】
一般式(I)(一般式(I−a)にも当てはまる場合には,一般式(I−a)も含む。以下同様。)において,Mは,ホモポリマー又はコポリマーの主鎖を形成するモノマー単位であり,通常,この分野で使用されるモノマー単位であれば,いずれも好適に使用することができる。そのようなモノマー単位としては,例えば,アクリレート,メタクリレート,2−クロロアクリレート,2−フェニルアクリレート,アクリルアミド,メタクリアミド,2−クロロアクリルアミド,2−フェニルアクリルアミド,ビニルエーテル,スチレン誘導体(例えば,α-メチルスチレン,p-スチレンスルホネート),マレイン酸誘導体(例えば,マレイン酸エステル,フェニルマレイミド,シクロヘキシルマレイミド),フマル酸誘導体(例えば,フマル酸エステル),シロキサン,エポキシドからなる群から選ばれる1又は2種以上のモノマー単位が挙げられる。Mが1種のモノマー単位からなる場合,一般式(I)の光反応性ポリマーはホモポリマーであり,Mが2種以上のモノマー単位からなる場合,一般式(I)の光反応性ポリマーはコポリマーである。本発明に係る光反応性ポリマーがコポリマーの場合,かかるコポリマーは,交互型,ランダム型,グラフト型などのいずれをも含むものである。これらモノマー単位のうち,アクリレート,メタクリレートが好ましい。
【0029】
SPCRは,モノマー単位と光反応性基とを繋ぐスペーサー単位であり,通常,この分野で使用されるものであれば,いずれも好適に使用することができる。そのようなスペーサー単位としては,例えば,−(CH)p−(但し,pは1〜12のいずれかの整数である。),1,2−プロピレン,1,3−ブチレン,シクロペンタン−1,2−ジイル,シクロペンタン−1,3−ジイル,シクロヘキサン−1,3−ジイル,シクロヘキサン−1,4−ジイル,ピペリジン−1,4−ジイル,ピペラジン−1,4−ジイル,1,2−フェニレン,1,3−フェニレン,又は1,4−フェニレンなどが挙げられる。これらスペーサー単位のうち,−(CH)p−(但し,pは1〜12のいずれかの整数である。)が好ましい。pとしては,3〜9のいずれかの整数が好ましく,このうち5〜7のいずれかの整数がより好ましく,6が最も好ましい。
【0030】
環Aは非置換若しくは置換脂環式炭化水素又は非置換若しくは置換芳香環であり,このうち,非置若しくは置換芳香環が好ましく,非置換芳香環がより好ましい。環Bは非置換若しくは置換芳香環であり,このうち,非置換芳香環が好ましい。環A及び環Bは,いずれも,一般式(I)で示されるとおり2価基であるが,本明細書において,環A又は環Bが「非置換」とは,これら2価基を形成する結合手以外の結合手において「非置換」であることを意味する。また,本明細書において,環A及び環Bを構造式によって例示する場合,2価基を形成するこれら結合手については,主鎖側の結合手が左側に,側鎖末端側の結合手が右側にくるように記載するものとする。環Aの置換基(X1A〜X42A)及び環Bの置換基(X1B〜X40B)は,それぞれ独立に,アルキル基,アルコキシ基,シアノ基,ニトロ基及びハロゲン原子から選ばれる基であり,このうち,アルコキシ基が好ましい。環A又は環B全体としては,それぞれ,1又は2以上の置換基を有する。環A又は環Bの好ましい置換基の数としては,1である。
【0031】
Zとしては,アルキル基,アルコキシ基,シアノ基,ニトロ基,ハロゲン原子,−CH=CHZ,−C≡CZ(但し,Zはアルキル基,アルコキシ基,アルコキシカルボニル基,アルコキシスルホニル基,シアノ基,ニトロ基又はハロゲン原子である。),−COOZ2,又は−SO2(但し,Zはアルキル基である。)が挙げられ,このうち,アルコキシ基が好ましい。Zとしては,上記のうち,アルコキシ基が好ましい。
Rとしては,水素原子,メチル基,フェニル基,塩素原子が挙げられるが,このうち,水素原子,メチル基が好ましい。
本明細書において,アルキル基としては,炭素数1〜12のアルキル基が挙げられ,このうち,好ましくは炭素数1〜6のものが,更に好ましくは炭素数1〜4のものが,最も好ましくはメチル基が挙げられる。アルコキシ基としては,炭素数1〜12のアルコキシ基が挙げられ,このうち,好ましくは炭素数1〜6のものが,更に好ましくは炭素数1〜4のものが,最も好ましくはメトキシ基が挙げられる。ハロゲン原子としては,フッ素原子,塩素原子,臭素原子,ヨウ素原子が挙げられ,このうち,フッ素原子が好ましい。
本発明に係る光反応性ポリマー(I)は,一般式(II)
【0032】
【化10】

【0033】
〔式中,記号は前記と同一意味を有する。〕
で示されるモノマーを,無溶媒又は溶媒中で,重合させることにより製造することができる。Mが1種のモノマー単位を表す場合,これを重合して得られる一般式(I)の光反応性ポリマーはホモポリマーとなり,一方,Mが2種以上のモノマー単位を表す場合,一般式(I)の光反応性ポリマーは,それら複数種のモノマー単位が重合したコポリマーとなる。重合は,光又は熱を用いて実施することができる。重合工程において,該モノマーや溶媒等を仕込む方法は特に限定されず,重合前に反応容器へ予め全材料を投入した後に重合を開始してもよいし,該モノマーや溶媒等の一部について重合開始した後に,残りを滴下又は分割投入などの方法により段階的に追加してもよい。
【0034】
また,モノマー(II)の重合に際して,必須ではないが,他のモノマーを含有させてもよく,そのようなモノマーは,重合性の不飽和結合(例えば,エチレン性不飽和結合)を有する化合物である限り,それ以外の点では特に限定されず,液晶性を有する化合物であっても,又は液晶性を有さない化合物であってもよい。
【0035】
そのようなモノマーとしては,例えば,メチル(メタ)アクリレート,t−ブチル(メタ)アクリレート,ステアリル(メタ)アクリレート,シクロヘキシル(メタ)アクリレート,エトキシエチル(メタ)アクリレート,ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート,フェニル(メタ)アクリレート,N,N−ジメチルアクリルアミドなどの(メタ)アクリルモノマー,スチレン,α-メチルスチレン,p-スチレンスルホン酸,エチルビニルエーテル,N−ビニルイミダゾール,ビニルアセテート,ビニルピリジン,2−ビニルナフタレン,塩化ビニル,フッ化ビニル,N−ビニルカルバゾール,ビニルアミン,ビニルフェノール,N−ビニル−2−ピロリドンなどのビニル系モノマー,4−アリル−1,2−ジメトキシベンゼン,4−アリルフェノール,4−メトキシアリルベンゼンなどのアリル系モノマー,フェニルマレイミド,シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド類が挙げられる。これらモノマーは,いずれかを単独で用いてもよく,2種以上を併せて用いてもよい。
【0036】
溶液中で重合する場合には,汎用の有機溶媒を特に限定なく用いることができる。溶媒の具体例としては,エタノール,プロパノール,ブタノール等のアルコール系溶媒,アセトン,メチルエチルケトン,メチルイソブチルケトン,シクロヘキサノン,シクロペンタノン等のケトン系溶媒,酢酸エチル,ブチルアセテート,プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶媒,ジエチルエーテル,ジグリム等のエーテル系溶媒,ヘキサン,シクロヘキサン,メチルシクロヘキサン,トルエン,キシレン等の炭化水素系溶媒,アセトニトリル等のニトリル系溶媒,N−メチルピロリドン,ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒等が挙げられる。これら溶媒は,いずれかを単独で用いてもよく,2種以上を併せて用いてもよい。
【0037】
上記の重合に際しては,光重合開始剤を用いることができる。光重合開始剤としては,少量の光照射により均一な膜を形成させるために一般に知られている汎用の光重合剤をいずれも用いることができる。具体例としては,例えば,2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN),2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾニトリル系光重合開始剤,イルガキュア907(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製),イルガキュア369(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)等のα−アミノケトン系光重合開始剤,4−フェノキシジクロロアセトフェノン,4−t−ブチル−ジクロロアセトフェノン,ジエトキシアセトフェノン,1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン,1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン,2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン等のアセトフェノン系光重合開始剤,ベンゾイン,ベンゾインメチルエーテル,ベンゾインエチルエーテル,ベンゾインイソプロピルエーテル,ベンジルジメチルケタール等のベンゾイン系光重合開始剤,ベンゾフェノン,ベンゾイル安息香酸,ベンゾイル安息香酸メチル,4−フェニルベンゾフェノン,ヒドロキシベンゾフェノン,アクリル化ベンゾフェノン,4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド等のベンゾフェノン系光重合開始剤,2−クロルチオキサンソン,2−メチルチオキサンソン,イソプロピルチオキサンソン,2,4−ジイソプロピルチオキサンソン等のチオキサンソン系光重合開始剤,2,4,6−トリクロロ−s−トリアジン,2−フェニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン,2−(p−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン,2−(p−トリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン,2−ピペロニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン,2,4−−ビス(トリクロロメチル)−6−スチリル−s−トリアジン,2−(ナフト−1−イル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン,2−(4−メトキシ−ナフト−1−イル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン,2,4−トリクロロメチル−(ピペロニル)−6−トリアジン,2,4−トリクロロメチル(4’−メトキシスチリル)−6−トリアジン等のトリアジン系光重合開始剤,カルバゾール系光重合開始剤,イミダゾール系光重合開始剤等;更には,α−アシロキシエステル,アシルフォスフィンオキサイド,メチルフェニルグリオキシレート,ベンジル,9,10−フェナンスレンキノン,カンファーキノン,エチルアンスラキノン,4,4’−ジエチルイソフタロフェノン,3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン,4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノン,チオキサンソン等の光重合開始剤が挙げられる。光重合開始剤は,何れかを単独で用いてもよいし,2種以上を併せて用いてもよい。
【0038】
上記重合の際の温度は,モノマー(II)の種類,重合溶媒種,開始剤種などにより異なるが,好ましくは40〜150℃,より好ましくは50〜120℃の範囲である。
【0039】
このようにして得られた本発明に係る光反応性ポリマー(I)は,光重合開始剤,界面活性剤,溶媒等の他,光及び熱により重合を起こさせる重合性組成物に通常含まれる成分を適宜添加し,光配向膜用組成物とすることができる。これら任意成分の含有量は特に限定されないが,通常,ポリマー(I)の総重量に対し,光重合開始剤は約1〜約10重量%,界面活性剤は約0.1〜約5重量%,溶媒は約70〜約99重量%含まれていることが好ましい。
【0040】
光重合開始剤としては,前記のものを同様に使用することができる。
界面活性剤としては,均一な膜を形成させるために一般に用いられている界面活性剤をいずれも用いることができる。具体例としては,例えば,ラウリル硫酸ソーダ,ラウリル硫酸アンモニウム,ラウリル硫酸トリエタノールアミン,ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩,アルキルエーテルホスフェート,ナトリウムオレイルスクシネート,ミリスチン酸カリウム,ヤシ油脂肪酸カリウム,ナトリウムラウロイルサルコシネート等のアニオン性界面活性剤;ポリエチレングリコールモノラウレート,ステアリン酸ソルビタン,ミリスチン酸グリセリル,ジオレイン酸グリセリル,ソルビタンステアレート,ソルビタンオレエート等のノニオン性界面活性剤;ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド,塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム,塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム,セチルトリメチルアンモニウムクロリド等のカオチン性界面活性剤;ラウリルベタイン,アルキルスルホベタイン,コカミドプロピルベタイン,アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン等のアルキルベタイン,アルキルイミダゾリン,ラウロイルサルコシンナトリウム,ココアンホ酢酸ナトリウム等の両性界面活性剤;更には,BYK−361,BYK−306,BYK−307(ビックケミージャパン社製),フロラードFC430(住友スリーエム社製),メガファックF171,R08(大日本インキ化学工業社製)等の界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤は,何れかを単独で用いてもよいし,2種以上を併用することもできる。
【0041】
溶媒としては,この分野で通常使用される溶媒をいずれも用いることができ,そのような溶媒の具体例としては,トルエン,エチルベンゼン,エチレングリコールモノメチルエーテル,エチレングリコールジメチルエーテル,プロピレングリコールメチルエーテル,ジブチルエーテル,アセトン,メチルエチルケトン,エタノール,プロパノール,シクロヘキサン,シクロペンタノン,メチルシクロヘキサン,テトラヒドロフラン,ジオキサン,シクロヘキサノン,n−ヘキサン,酢酸エチル,酢酸ブチル,プロピレングリコールメチルエーテルアセテート,メトキシブチルアセテート,N−メチルピロリドン,ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。これらは何れかを単独で用いることもでき,2種以上を併用することもできる。
【0042】
このようにして得られる本発明の光配向膜用組成物を基板に塗布し,必要に応じ溶媒を留去した後,これに,直線偏光を照射することにより,光配向膜とすることができる。
基板を構成する基材としては,例えば,石英ガラス,アルカリガラス,無アルカリガラスなどのガラス基材,ポリイミド,ポリアミド,アクリル樹脂,ポリビニルアルコール,トリアセチルセルロース,ポリエチレンテレフタレート,シクロオレフィンポリマー,ポリエチレン,ポリカーボネート,ポリスチレン,ポリ三フッ化塩化エチレンなどの樹脂基材,鉄,アルミニウム,銅などの金属基材などが挙げられ,ガラス基材がより好ましい。
光配向膜用組成物の塗布方法としては,当該分野において一般的に知られている何れの方法でもよく,例えば,スピンコート法,バーコート法,ダイコーター法,スクリーン印刷法,スプレーコーター法などがある。
乾燥工程はこの分野で通常用いられている何れの方法で実施してもよく,樹脂層の膜が形成される限り,特に限定はない。
【0043】
直線偏光は,該膜に対して垂直方向から又は斜めの方向からのいずれからも照射することができるが,垂直な方向から照射するのが好ましい。
本発明において,直線偏光とは,電場(又は磁場)の振動方向を含む面が一つに特定される光である。直線偏光は,光源からの光に,偏光フィルタや偏光プリズムを用いることで得るこができる。照射する光は,赤外線,可視光線,紫外線(近紫外線,遠紫外線など),X線,荷電粒子線(例えば,電子電など)など,照射により化学反応を生じさせることができる照射線であれば,特に限定されないが,通常,照射線は200nm〜500nmの波長を有する場合が多く,効率性の観点からは,350nmから450nmの近紫外線が好ましい。光源としては例えば,キセノンランプ,高圧水銀ランプ,超高圧水銀ランプ,メタルハライドランプなどが挙げられる。このような光源から得た紫外光や可視光は,干渉フィルタや色フィルタなどを用いて,照射する波長範囲を制限してもよい。
照射エネルギーは,光反応性ポリマー(I)の種類や膜厚などに応じて異なるが,通常,約10mJ/cm〜5000mJ/cm2である。例えば,実施例1で合成したポリ[1−[6−[4−[4−(メトキシ)フェノキシカルボニル]フェノキシ]ヘキシルオキシカルボニル]−1−メチルエチレン]を含んでなる約100nmの厚みの薄膜の場合,約250〜4000mJ/cm2である。
【0044】
また,直線偏光を照射する際に,フォトマスクを使用すれば,光配向膜に,2以上の異なった方向にパターン状に,液晶等の配向能を生じさせることができる。具体的には,本発明の光配向膜用組成物を塗布,乾燥した後に,その上にフォトマスクを被せて直線偏光を照射し,露光部分にのみ配向能を与え,必要に応じて,方向を変えてこれを複数回繰り返すことにより,複数方向にパターン状に配向能を生じさせることができる。
本発明の光配向膜について,その膜厚は,約10〜約500nmであることが好ましく,より好ましくは,約100〜約500nm,更に好ましくは約100〜約200nmの範囲である。
【0045】
このようにして得られる光配向膜上に,液晶性化合物(色素である液晶性化合物や,導電性化合物である液晶性化合物を含む)を塗布したものを準備し,これを該液晶性化合物が液晶状態を示す温度以上に加熱することにより該液晶性化合物を配向させた後,更に,該液晶性化合物が液晶状態を示す温度未満に冷却することにより液晶性化合物の該配向状態を固定して,該液晶性化合物からなる位相差フィルム,視野角向上フィルム,輝度向上フィルム,偏光フィルムなどの各種光学異方性フィルムや導電性材料,非線形光学材料,光反応性アクチュエーターなどの各種光学材料を作製することができる。液晶性化合物を塗布する場合には,所望により,溶媒に溶解して塗布してもよい。このような溶媒としては,この分野で通常使用される溶媒をいずれも用いることができる。具体的には,前記したもの,すなわち,トルエン,エチルベンゼン,エチレングリコールモノメチルエーテル,エチレングリコールジメチルエーテル,プロピレングリコールメチルエーテル,ジブチルエーテル,アセトン,メチルエチルケトン,エタノール,プロパノール,シクロヘキサン,シクロペンタノン,メチルシクロヘキサン,テトラヒドロフラン,ジオキサン,シクロヘキサノン,n−ヘキサン,酢酸エチル,酢酸ブチル,プロピレングリコールメチルエーテルアセテート,メトキシブチルアセテート,N−メチルピロリドン,ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。これらは何れかを単独で用いることもでき,2種以上を併用することもできる。
【0046】
また,液晶性化合物でない色素や導電性化合物の場合には,これら色素又は導電性化合物を液晶化合物と混合して上記と同様に処理するか,あるいは,これら色素や導電性化合物を溶媒に溶解し,これを光配向膜上に塗布し,乾燥させることによっても,各種光学異方性フィルムや光学材料を作製することができる。
ここで,液晶性化合物,色素,導電性化合物としては,この分野で通常使用されるものをいずれも好適に使用することができる。例えば,液晶性化合物としては,シアノビフェニル型ネマチック液晶などが挙げられる。色素としては,例えば,アゾ系色素(ポリアゾ系色素,ジスアゾ系色素など),アントラキノン系などの二色性色素などが挙げられる。導電性化合物としては,例えば,オリゴチオフェン,ポリチオフェンなどが挙げられる。また,溶媒としては,液晶性化合物を塗布する際の溶媒として挙げた上記のものを同様に使用することができる。
このようにして得られる本発明の光学異方性フィルム及び光学材料について,その厚さは用途などに応じて異なるが,一般には,0.1〜20.0μmの範囲が好ましく,1.0〜5.0μmの範囲が更に好ましい。
【0047】
また,本発明の光配向膜を用いれば,該光配向膜を含んでなる液晶セルを作成することができる。例えば,該光配向膜2枚を,一方の光配光膜における直線偏光照射時の偏光軸の方向と,他方の光配光膜における直線偏光照射時の偏光軸の方向が,互いに所定の角度(例えば,90°,180°〜270°のいずれかの角度など)をなすように対向させ,該対向させた光配向膜の間に液晶性化合物を充填することにより,液晶セルを作製することができる。
【0048】
本発明に係る光反応性ポリマー(I)は,光重合開始剤,界面活性剤,溶媒等の他,光及び熱により重合を起こさせる重合性組成物に通常含まれる成分を適宜添加し,光学異方性フィルム用組成物とすることができる。これら任意成分の含有量は特に限定されないが,通常,ポリマー(I)の総重量に対し,光重合開始剤は約1〜約5重量%,界面活性剤は約0.1〜約1重量%,溶媒は約50〜約80重量%含まれていることが好ましい。光重合開始剤,界面活性剤,溶媒などの任意成分は,上記光配向膜用組成物について挙げたものを同様に使用することができる。但し,光反応性ポリマー(I)は,通常,液晶性化合物であるが,その製造に際して,モノマー(II)の重合時に添加される他のモノマーが液晶性を示さない化合物である場合,該他のモノマーの添加量などによっては,ポリマー(I)が液晶性を示さない化合物となり得る。このようにポリマー(I)が液晶性を示さない化合物である場合には,本光学異方性フィルム用組成物の調製に際し,該ポリマー(I)の一部を液晶性化合物に置き換え,該光学異方性フィルム用組成物全体として液晶性を示すようにする。このように添加される液晶性化合物としては,この分野で通常使用されるものをいずれも用いることができるが,例えば,棒状の分子からなる液晶性化合物が好ましく,あるいは,ネマティック液晶などが好ましい。
【0049】
こうして得られる本発明の光学異方性フィルム用組成物を基板に塗布したものを準備し,これに直線偏光を照射した後,該光学異方性フィルム用組成物に含まれる液晶性化合物が液晶状態を示す温度以上に加熱することにより該液晶性化合物を配向させ,更に,該液晶性化合物が液晶状態を示す温度未満に冷却することにより該配向状態を固定して,光学異方性フィルムを作製することができる。
基板を構成する基材,塗布方法,直線偏光の照射などはいずれも,上記光配向膜の作製と同様である。また,得られる光学異方性フィルムの厚さの範囲は,上記光学異方性フィルムについて例示したものと同様である。
以下,実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが,本発明は,もとより下記実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0050】
1. 4−(6−ヒドロキシヘキシルオキシ)安息香酸の合成
【0051】
【化11】

【0052】
4−ヒドロキシ安息香酸100.0g(0.7モル),水酸化カリウム105.1g(1.6モル)を水400.0gに溶解した。この溶液に6−クロロヘキサノール108.8g(0.8モル)を一時間かけて滴下した。次いで,100℃で加熱還流を行った。20時間後反応液を冷却し,激しく攪拌しつつ,35%塩酸344.6g(1.7モル)を室温で滴下した。析出した固体を濾取し,テトラヒドロフラン(THF)400gで再結晶して,4−(6−ヒドロキシヘキシルオキシ)安息香酸120.0g(0.5モル)を白色結晶として得た。
収率69.5%,融点135〜140℃。
2. 4−[6−(2−メチルアクリロイルオキシ)ヘキシルオキシ]安息香酸の合成
【0053】
【化12】

【0054】
4−(6−ヒドロキシヘキシルオキシ)安息香酸120.0g(0.5モル),トリエチルアミン81.5g(0.8モル)をTHF480.0gに溶解した。この溶液に,メタクリル酸クロリド84.2g(0.8モル)を一時間かけて滴下した。次いで,40℃に加熱した。4時間後反応液を冷却し,水240.0gを加えた。分離した有機層に,10%塩酸367.2g(1モル)を加え,攪拌した。分離した有機層を濃縮し,残渣をトルエン400.0gで再結晶して,4−[6−(2−メチルアクリロイルオキシ)ヘキシルオキシ]安息香酸96.0g(0.3モル)を,白色結晶として得た。
収率62.2%,融点81℃。
3. 4−[6−(2−メチルアクリロイルオキシ)ヘキシルオキシ]安息香酸4−(メトキシ)フェニルエステルの合成
【0055】
【化13】

【0056】
4−[6−(2−メチルアクリロイルオキシ)ヘキシルオキシ]安息香酸96.0g(0.3モル),メトキシハイドロキノン38.9g(0.3モル)及びN,N−ジメチルアミノピリジン7.7g(0.1モル)をジクロロメタン960gに溶解した。この溶液に,ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)71.1g(0.3モル)を加えた。室温で二時間反応後,水288gを加えた。分離した有機層を濃縮し,残渣をトルエン100gから再結晶して,4−[6−(2−メチルアクリロイルオキシ)ヘキシルオキシ]安息香酸4−(メトキシ)フェニルエステル103g(0.2モル)を白色結晶として得た。
収率79.6%,融点52℃。
4. ポリ[1−[6−[4−[4−(メトキシ)フェノキシカルボニル]フェノキシ]ヘキシルオキシカルボニル]−1−メチルエチレン]の合成
【0057】
【化14】

【0058】
4−[6−(2−メチルアクリロイルオキシ)ヘキシルオキシ]安息香酸4−(メトキシ)フェニルエステル103g(0.2モル),AIBN0.8g(5ミリモル)をシクロヘキサノン412gに溶解した。この溶液に,窒素を1時間通気した。次いで,80℃に加熱した。10時間後反応液を冷却し,激しく攪拌しつつ,ノルマルヘキサン346gに,室温で滴下した。分離した重合体を濾取し,減圧下,50℃で乾燥することにより,標記ポリマー83.4g得た。収率81%
(重量平均分子量(MW)の測定)
上記で得られたポリマーの重量平均分子量(MW)を,ゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した。得られた重量平均分子量(MW)は,31000であった。
(相転移温度の測定)
上記で得られたポリマーの相転移温度を,示差走査熱量測定(DSC)を用いて測定したところ,70〜130℃であった。
【0059】
5.光配向膜用組成物の調製
上記で得られたポリマー5gを,THF95gに溶解し,光配向膜用組成物1とした。
【0060】
6.光配向膜の製造
上記で得られた光配向膜用組成物1を,石英ガラス基板上に,スピンコーターを用いて約100nmの厚みの薄膜になるように塗布し,乾燥した。得られた基板に,グランテーラープリズムを用いて直線偏光に変換した紫外線(10mW/cm2)を,基板に対し垂直方向から200秒照射し,基板上に光配向膜を製造した。
(ベンゾエート骨格の光解裂等の確認)
直線偏光照射により,ベンゾエート(エステル)骨格の光解裂,引いては光フリース転移が生じていることを確認するため,上記と同様にして直線偏光を照射した際の薄膜の変化を,偏光顕微赤外分光法により観察した。結果は,図1のチャートに示すとおりである。同チャートは,照射した直線偏光紫外線の偏光軸に対して,同軸方向の吸収(同軸スペクトル:Abs1)と垂直軸方向の吸収(垂直軸スペクトル:Abs2)を測定し,前者を実線で,後者を点線で表したものである。さらに,比較のため,Abs1からAbs2を差し引いた値を5倍した値(差分スペクトル:Abs1−Abs2(×5))を併せて表示している。差分スペクトルによれば,照射した直線偏光紫外線の変更軸に対して同軸方向において,1260cm-1と1196cm-1付近のピークが減少し,1727cm-1付近のピークが増加していることがわかる。該減少に係るピークはベンゾエート骨格のオキシ基による吸収ピークであり,該増加に係るピークはカルボニル基による吸収ピークである(図2)。したがって,該吸収ピークの減少から,直線偏光紫外線の偏光軸に対して同軸に存在するベンゾエート骨格が,光解裂を起こして一部消失したことが読み取れる。また,該吸収ピークの増加から,直線偏光紫外線の偏光軸に対して同軸に存在するエステル(ベンゾエート)のカルボニル基が,光解裂や光フリース転移を経て,ケトンのカルボニル基に変換したことが読み取れる。
【0061】
(光配向性の評価)
上記で得た,光配向膜が形成された基板2枚を,直線偏光紫外線を照射したときの偏光軸が平行になるように対向させて液晶セルを作製し,この液晶セルに,二色性色素Disperse Blue14(アルドリッチ社製)を分散させた液晶E7(メルクジャパン社製)を充填し,80℃まで加熱して液晶を等方相としたのち,室温まで冷却した。
偏光顕微鏡でこの液晶セルを観察したところ,液晶が,照射した直線偏光の偏光軸と垂直方向に配向していることが確認された。
【0062】
7.液晶セルの製造
上記6で得た,光配向膜が形成された基板2枚を,直線偏光紫外線を照射したときの偏光軸が直交するように対向させて液晶セルを作製し,この液晶セルに,液晶E7を充填し,TN型液晶セルを作製した。
このTN型液晶セルの両基板間へ電圧を印加することにより,該液晶セルが正しく駆動することが確認された。
【0063】
8.光学異方性フィルム用組成物の調製
上記4で得られたポリマー5gを,THF15gに溶解し,光学異方性フィルム用組成物1とした。
【0064】
9.光学異方性フィルムの製造
光学異方性フィルム用組成物1を,ガラス基板上に,スピンコーターを用いて,約1.2μmの厚みになるように塗布し,乾燥した。得られた基板に,グランテーラープリズムを用いて直線偏光に変換した紫外線(10mW/cm2)を,基板に対し垂直方向から200秒照射した。この基板を,80℃で20分間加熱したのち,室温まで冷却した。
基板上に形成した膜を,偏光顕微鏡で観察したところ,明暗が観察され,光学異方性フィルムが作製できていることが確認できた。作製した光学異方性フィルムの複屈折を,偏光解析装置OPTIPRO(シンテック株式会社製)を用いて測定した所,Δn=0.105,Re=126nmの値を示し,位相差フィルムとして使用可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の光配向膜用及び光学異方性フィルム用ポリマー組成物は,これを用いて製造する光配向膜や光学異方性フィルム,さらには該光配向膜に液晶性化合物等を配向させてなる位相差フィルム,視野角向上フィルム,輝度向上フィルム,偏光フィルムなどの各種光学異方性フィルムや,導電性材料,非線形光学材料,光反応性アクチュエーターなどの各種光学材料の原料として有用であり,また,こうして得られる光学異方性フィルムや光学材料は,各種光学素子として,特に,コンピュータやファクシミリなどのOA機器,携帯電話,電子手帳,液晶テレビ,ビデオカメラなどの表示装置に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

〔式中,Mはホモポリマー又はコポリマーの主鎖を形成するモノマー単位であり,SPCRはスぺーサー単位であり,環Aは非置換若しくは置換脂環式炭化水素又は非置換若しくは置換芳香環であり,環Bは非置換若しくは置換芳香環であり,Zはアルキル基,アルコキシ基,シアノ基,ニトロ基,ハロゲン原子,−CH=CHZ,−C≡CZ(但し,Zはアルキル基,アルコキシ基,アルコキシカルボニル基,アルコキシスルホニル基,シアノ基,ニトロ基又はハロゲン原子である。),−COOZ,又は−SO(但し,Zはアルキル基である。)である。〕
で示される繰り返し単位を有する光反応性ポリマーを含んでなる,光配向膜用組成物。
【請求項2】
環Aの置換基及び環Bの置換基が,それぞれ独立に,アルキル基,アルコキシ基,シアノ基,ニトロ基及びハロゲン原子から選ばれる1又は2以上の基である,請求項1の光配向膜用組成物。
【請求項3】
Mが,アクリレート,メタクリレート,2−クロロアクリレート,2−フェニルアクリレート,アクリロイルフェニレン,アクリルアミド,メタクリアミド,2−クロロアクリルアミド,2−フェニルアクリルアミド,ビニルエーテル,スチレン誘導体,ビニルエステル,マレイン酸誘導体,フマル酸誘導体,シロキサン,エポキシドからなる群から選ばれる1又は2種以上のモノマー単位であり,
SPCRが,−(CH)p−(但し,pは1〜12のいずれかの整数である。),1,2−プロピレン,1,3−ブチレン,シクロペンタン−1,2−ジイル,シクロペンタン−1,3−ジイル,シクロヘキサン−1,3−ジイル,シクロヘキサン−1,4−ジイル,ピペリジン−1,4−ジイル,ピペラジン−1,4−ジイル,1,2−フェニレン,1,3−フェニレン,1,4−フェニレンからなる群から選ばれるスペーサー単位であり,
環Aが,
【化2】

〔但し,X1A〜X42Aは,それぞれ独立して,水素原子,アルキル基,アルコキシ基,ハロゲン原子又はシアノ基である。〕
で示されるいずれかの基であり,
環Bが,
【化3】

〔但し,X1B〜X40Bは,それぞれ独立して,水素原子,アルキル基,アルコキシ基,ハロゲン原子又はシアノ基であり,Xは,窒素原子,酸素原子,硫黄原子である。〕
で示されるいずれかの基である,請求項1の光配向膜用組成物。
【請求項4】
1BとX4Bの少なくとも一方,X5BとX12Bの少なくとも一方,X13BとX24Bの少なくとも一方,X25BとX30Bの少なくとも一方,X31BとX38Bの少なくとも一方,及び,X39Bが水素原子である,請求項3の光配向膜用組成物。
【請求項5】
一般式(I−a)
【化4】

〔式中,Rは,水素原子,メチル基,フェニル基又は塩素原子であり,X1A〜X4A及びX1B〜X4Bの各々は,それぞれ独立して,水素原子,アルキル基,アルコキシ基,ハロゲン原子又はシアノ基であり,Zは,アルキル基,アルコキシ基,シアノ基,ニトロ基,ハロゲン原子,−CH=CHZ,−C≡CZ(但し,Zはアルキル基,アルコキシ基,アルコキシカルボニル基,アルコキシスルホニル基,シアノ基,ニトロ基又はハロゲン原子である。),−COOZ,又は−SO(但し,Zはアルキル基である。)であり,pは,1〜12のいずれかの整数である。〕
で示される繰り返し単位を有する光反応性ポリマーを含んでなる,光配向膜用組成物。
【請求項6】
1BとX4Bの少なくとも一方が水素原子である,請求項5の光配向膜用組成物。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれかの光配向膜用組成物を基材表面に塗布したものを準備し,これに直線偏光を照射してなる,光配向膜。
【請求項8】
請求項7の光配向膜に,液晶性化合物,色素又は導電性化合物を配向させてなる,光学異方性フィルム又は光学材料。
【請求項9】
請求項7の光配向膜2枚を,一方の光配向膜における直線偏光照射時の偏光軸の方向と,他方の光配向膜における直線偏光照射時の偏光軸の方向が,互いに所定の角度をなすように対向させ,該対向させた光配向膜の間に液晶性化合物を充填してなる,液晶セル。
【請求項10】
一般式(I)
【化5】

〔式中,Mはホモポリマー又はコポリマーの主鎖を形成するモノマー単位であり,SPCRはスぺーサー単位であり,環Aは非置換若しくは置換脂環式炭化水素又は非置換若しくは置換芳香環であり,環Bは非置換若しくは置換芳香環であり,Zはアルキル基,アルコキシ基,シアノ基,ニトロ基,ハロゲン原子,−CH=CHZ,−C≡CZ(但し,Zはアルキル基,アルコキシ基,アルコキシカルボニル基,アルコキシスルホニル基,シアノ基,ニトロ基又はハロゲン原子である。),−COOZ,又は−SO(但し,Zはアルキル基である。)である。〕
で示される繰り返し単位を有する光反応性ポリマーを含んでなる,光学異方性フィルム用組成物。
【請求項11】
請求項10の光学異方性フィルム用組成物を基材表面に塗布したものを準備し,これに直線偏光を照射した後,該光学異方性フィルム用組成物に含まれる液晶性化合物が液晶状態を示す温度以上に加熱し,更に該液晶性化合物が液晶状態を示す温度未満に冷却してなる,光学異方性フィルム。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−145660(P2012−145660A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2543(P2011−2543)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000205638)大阪有機化学工業株式会社 (101)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【Fターム(参考)】