説明

免震装置

【課題】積層体の内部温度の上昇を抑え、積層体の力学的特性の低下を抑制することができる免震装置を提供することを目的とする。
【解決手段】軟質板40と硬質板41を交互に積層したせん断変形可能な積層体4が、その積層方向の両側にそれぞれ配設された一対の端板2、3の間に介在されている免震装置1において、積層体4に、複数の軟質板40及び硬質板41をそれぞれ貫通して積層方向に延在する孔部43が形成されており、孔部43の少なくとも一端部が、積層体4の積層方向の一端面において開口されており、孔部43の内側に、流動性を有する熱媒体5が充填されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体を備えた免震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の免震装置として、従来、例えば下記特許文献1に記載されているような、高減衰ゴムを用いた積層体(積層ゴム)を備えた免震装置が知られている。上記した積層体は、高減衰ゴムからなる軟質板と鋼板などの硬質板とを交互に積層した構成からなる。高減衰ゴムは、ゴム材料に樹脂やカーボン等を混合して減衰性能を向上させたゴム体である。また、上記した積層体は、その積層方向の両側にそれぞれ配設された一対の端板の間に介在されている。そして、これら一対の端板のうちの下側の端板を基礎等の下部構造に固定させると共に上側の端板を建物等の上部構造に固定させることで、下部構造と上部構造との間に免震装置が介装される。
【0003】
上記した免震装置では、積層体の鉛直剛性が大きいため、上部構造の荷重を受けても積層体の沈み込みが小さく抑えられ、上部構造を長期的に安定支持することができる。また、地震動が入力されると、積層体が水平方向にせん断変形するため、上部構造の固有周期が長くなり、上部構造が受ける地震応力が緩和される。またこのとき、上記した高減衰ゴムからなる積層体の軟質板によって、地震動に対する上部構造の応答振動を減衰させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−1820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した従来の免震装置では、長周期地震動によって、積層体が長時間に亘って比較的に大きく繰り返し変形すると、吸収エネルギーにより上記した軟質板の内部が発熱する場合がある。特に、上記した高減衰ゴムを用いた積層体では、高減衰ゴムからなる軟質板に内部発熱が発生しやすい。一般的にゴムは熱伝導率が低いため、軟質板において発生した熱は、上部構造や下部構造まで伝達されずに積層体の内部に留まる。その結果、積層体の内部温度が上昇して積層体のばね性能や減衰性能などの力学的特性が低下するという問題がある。
【0006】
本発明は、上記した従来の問題が考慮されたものであり、積層体の内部温度の上昇を抑え、積層体の力学的特性の低下を抑制することができる免震装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る免震装置は、軟質板と硬質板を交互に積層したせん断変形可能な積層体が、その積層方向の両側にそれぞれ配設された一対の端板の間に介在されている免震装置において、前記積層体に、複数の前記軟質板及び前記硬質板をそれぞれ貫通して前記積層方向に延在する孔部が形成されており、該孔部の少なくとも一端部が、前記積層体の積層方向の一端面において開口されており、前記孔部の内側に、流動性を有する熱媒体が充填されていることを特徴としている。
【0008】
このような特徴により、一方の端板を下部構造に固定すると共に他方の端板を上部構造に固定することで、上記した免震装置が下部構造と上部構造との間に介装される。そして、地震動等の外力が入力されると、積層体が積層方向に直交する方向にせん断変形し、これにより、上部構造の固有周期が長くなり、上部構造が受ける地震応力が緩和される。このとき、孔部の内側に充填された熱媒体は流動性を有しているので、熱媒体が孔部内で流動しながら積層体のせん断変形に追随し、積層体のせん断変形が阻害されない。
【0009】
また、上記した積層体のせん断変形に伴い積層体の内部が発熱すると、その熱が、熱媒体を介して端板に伝達され、端板から免震装置の外部に放出される。すなわち、積層体のせん断変形に伴い軟質板において発熱が生じると、その熱は積層体の孔部内の熱媒体に伝達される。これにより、熱媒体の一部が熱せられて熱媒体の温度分布が不均一となり、孔部内において熱媒体の対流が生じる。また、積層体のせん断変形に伴う攪拌作用によって孔部内の熱媒体に回流が生じる。これら熱媒体の対流や回流に伴い孔部の開口端まで熱輸送され、その開口端の位置で熱媒体から端板に熱が伝達され、さらに、その端板に伝達された熱が上部構造や下部構造に伝達される。
【0010】
また、本発明に係る免震装置は、前記硬質板から前記熱媒体へ流出する熱量が、前記硬質板から前記軟質板へ流出する熱量よりも大きいことが好ましい。
これにより、積層体の内部で発生した熱が熱媒体に伝達されやすくなる。すなわち、積層体のせん断変形に伴い軟質板において発生した熱が、その軟質板に積層された硬質板に伝達されたとき、その硬質板に伝達された熱が、その硬質板に積層された軟質板に伝達されずに孔部内の熱媒体に伝達される。
【0011】
また、本発明に係る免震装置は、前記孔部の内側に前記硬質板の一部が突出されていることが好ましい。
これにより、孔部内の熱媒体に接触する硬質板の面積が大きくなり、硬質板から熱媒体に熱が伝達されやすくなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る免震装置によれば、積層体のせん断変形に伴い積層体の内部に発生した熱が熱媒体を介して端板に伝達され、端板から免震装置の外部に放出されるので、積層体の内部の熱が外部に放出されやすい。これにより、積層体の内部温度の上昇を抑えることができ、積層体の力学的特性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態を説明するための免震装置の縦断面図である。
【図2】図1に示すA−A間の断面図である。
【図3】本発明の実施の形態を説明するための積層体の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る免震装置の実施の形態について、図面に基いて説明する。
なお、本実施の形態では、後述する積層体4の中心軸線を「軸線O」とし、その軸線Oに沿った方向を「軸方向」とし、軸線Oに直交する方向を「径方向」とし、軸線O周りの方向を「周方向」とする。また、上記した「軸方向」は、本発明における「積層方向」に相当する。また、軸方向の一方側(図1における上側)を「上方」とし、軸方向の他方側(図1における下側) を「下方」とする。
【0015】
図1に示す免震装置1は、基礎等の下部構造10と建物本体等の上部構造11との間に介装され、上部構造11を下部構造10に対して相対的に水平移動可能に支持する装置である。この免震装置1の概略構成としては、下部構造10に固定される下側端板2(本発明の端板に相当する。)と、上部構造11に固定される上側端板3(本発明の端板に相当する。)と、下側端板2と上側端板3の間に介在された積層体4と、を備えている。
【0016】
下側端板2及び上側端板3は、例えば平面視円形の鋼板であり、上下に対向して配置されている。また、下側端板2及び上側端板3は、それぞれ積層体4の断面形状よりも大径に形成されていると共に、積層体4の軸方向両側にそれぞれ配設されており、これら下側端板2及び上側端板3の各外周部は、全周に亘って積層体4の径方向外側に向けて突出されている。また、下側端板2及び上側端板3は、例えばアンカーボルト等を介して下部構造や上部構造に固定されるプレートであり、下側端板2及び上側端板3の各外周部には、周方向に間隔をあけて複数のボルト孔20、30が形成されている。
【0017】
積層体4は、複数の軟質板40と硬質板41とが交互に積層された積層構造の柱状体であり、水平方向にせん断変形可能な略円柱形状の積層体である。この積層体4の外周部には、上記した軟質板40及び硬質板41の外周を被覆する被覆ゴム42が全周に亘って形成されている。軟質板40と被覆ゴム42とは、一体に形成された弾性変形可能な加硫ゴムからなり、上記した複数の硬質板41と共に未加硫の軟質板40及び被覆ゴム42を加硫させることで、軟質板40及び被覆ゴム42と複数の硬質板41とが加硫接着されている。また、上記した軟質板40及び被覆ゴム42は、ゴム材料に樹脂やカーボン等を混合して減衰性能を向上させた高減衰ゴムからなる。上記した構成の積層体4は、鉛直剛性が高くて鉛直方向に沈みにくく、且つ水平剛性が低くて水平方向にせん断変形しやすい。
なお、上記した軟質板40及び被覆部42は高減衰ゴム以外であってもよく、例えばカーボン等が混合されない通常のゴムや軟質樹脂で形成することも可能である。また、上記した硬質板41は、鋼板以外であってもよく、例えば硬質樹脂からなる板材であってもよい。
【0018】
また、上記した積層体4には、複数の軟質板40及び硬質板41をそれぞれ貫通して軸方向に延在する複数の孔部43が形成されている。この孔部43は、積層体4の全長に亘って延在して積層体4の上端面および下端面においてそれぞれ開口された貫通孔であり、孔部43の下端は下側端板2で閉塞され、孔部43の上端は上側端板3で閉塞されている。また、図2に示すように、複数の孔部43は、積層体4の中央部分に均等に配設されている。具体的に説明すると、孔部43は、積層体4の軸線O上に配設されていると共に軸線Oの周りに等間隔に複数配設されている。
【0019】
また、図3に示すように、上記した孔部43の内側には、複数の硬質板41の一部がそれぞれ突出されている。つまり、後述する硬質板孔43bの円環状の外周部分(円環部41a)が孔部43の内側に軸方向に並設されており、これら複数の円環部41aが孔部43内においてフィン状に形成されている。詳しく説明すると、孔部43は、複数の軟質板40にそれぞれ形成された孔(軟質板孔43a)と、複数の硬質板41にそれぞれ形成された孔(硬質板孔43b)と、が軸方向に連設された構成からなる。そして、上記した硬質板孔43bの内径D2が軟質板孔43aの内径D1よりも小径であり、硬質板41の硬質板孔43bの外周部分(円環部41a)が全周に亘って軟質板孔43aの内周面の径方向内側に突出されている。
【0020】
図1〜図3に示すように、上記した複数の孔部43の内側には、流動性を有する熱媒体5が充填されている。この熱媒体5は、液体、気体または半固体の流体であり、例えばシリコーンオイル等を用いることができる。また、硬質板41から熱媒体5へ流出する熱量が、硬質板41から軟質板40へ流出する熱量よりも大きくなっている。
なお、下側端板2及び上側端板3のうちの何れか一方に、孔部43内に熱媒体5を注入するための図示せぬ注入口が形成されており、この注入口は、熱媒体5の注入後に図示せぬ栓体等で閉塞される。なお、積層体4(軟質板40及び被覆ゴム42)に注入口を形成することも可能である。
【0021】
次に、上記した構成からなる免震装置1の作用について説明する。
【0022】
上記した構成の免震装置1は、下側端板2を下部構造10に固定すると共に、上側端板3を上部構造11に固定することで、下部構造10と上部構造11との間に介装され、上部構造11が免震装置1を介して下部構造10上に支持される。このとき、積層体4の鉛直剛性が大きいため、上部構造11の荷重を受けても積層体4の沈み込みが小さく抑えられ、上部構造11を長期的に安定支持することができる。
【0023】
そして、上記した下部構造10に地震動が入力されると、積層体4が水平方向にせん断変形する。これにより、上部構造11の固有周期が長くなり、上部構造11が受ける地震応力が緩和される。このとき、孔部43の内側に充填された熱媒体5は流動性を有しているので、熱媒体5が孔部43内で流動しながら積層体4のせん断変形に追随する、したがって、熱媒体5が積層体4のせん断変形を阻害することはない。
【0024】
また、上述しように積層体4がせん断変形すると、積層体4の内部の軟質板40で発熱が生じる場合がある。特に、上記した積層体4の軟質板40が高減衰ゴムからなるので、積層体4のせん断変形に伴う発熱が生じやすい。この場合、図3に示すように、積層体4の内部の軟質板40で発生した熱は、まず、その軟質板40に積層された直上及び直下の硬質板41に伝達される。ここで、硬質板41から熱媒体5へ流出する熱量が、硬質板41から軟質板40へ流出する熱量よりも大きくなっているので、熱伝導率の高い硬質板41に伝達された熱は、硬質板41の硬質板孔43bから孔部43内の熱媒体5に伝達される。このとき、硬質板41の円環部41a(硬質板孔43bの外周部分)が孔部43の内側に突出されているので、孔部43内の熱媒体5に接触する硬質板41の面積が大きく、硬質板41から熱媒体5に熱が伝達されやすい。
【0025】
また、上述したように硬質板41から熱媒体5に熱が伝達されると、孔部43内の熱媒体5の一部が熱せられて熱媒体5の温度分布が不均一となり、その結果、孔部43内において熱媒体5の対流が生じる。また、積層体4のせん断変形に伴う攪拌作用によって孔部43内の熱媒体5に回流が生じる。これにより、硬質板41から熱媒体5に伝達された熱は、上記した熱媒体5の対流や回流に乗って孔部43の上下端(開口端)まで熱輸送され、その上下端の位置で熱媒体5から下側端板2や上側端板3に伝達される。そして、その熱は、下側端板2を介して下部構造10に伝達されたり、上側端板3を介して上部構造11に伝達されたりし、免震装置1の外部に放出される。
【0026】
上記した免震装置1によれば、積層体4のせん断変形に伴い積層体4の内部に発生した熱が熱媒体5を介して下側端板2や上側端板3に伝達され、下側端板2や上側端板3から免震装置1の外部に放出されるので、積層体4の内部の熱が外部に放出されやすい。これにより、積層体4の内部温度の上昇を抑え、積層体4の力学的特性の低下を抑制することができる。
【0027】
また、硬質板41から熱媒体5へ流出する熱量が、硬質板41から軟質板40へ流出する熱量よりも大きくなっており、積層体4の内部の熱が熱媒体5に伝達されやすいので、積層体4の内部温度の上昇を効率的に抑えることができ、積層体4の力学的特性の低下を確実に抑制することができる。
【0028】
さらに、孔部43の内側に硬質板41の一部(円環部41a)が突出されており、硬質板41から熱媒体5に熱が伝達されやすいので、積層体4の内部温度の上昇を特に効率的に抑えることができ、積層体4の力学的特性の低下をより確実に抑制することができる。
【0029】
以上、本発明に係る免震装置の実施の形態について説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記した実施の形態では、孔部43が積層体4の上端面から下端面まで延在する貫通孔となっているが、本発明は、非貫通の孔部であってもよい。すなわち、孔部の一端が積層体4の何れか一方の端面において開口され、他端が軟質板40や硬質板41などによって閉塞された構成であってもよい。
【0030】
また、上記した実施の形態では、孔部43が積層体4の軸方向に沿って延設されているが、本発明は、孔部が積層体4の軸線Oに対して斜めに延在されていてもよい。
また、本発明は、孔部の位置や数、断面形状は適宜変更可能であり、例えば、孔部を積層体4の中心部分(軸線O上)に1つだけ形成してもよく、或いは、断面形状楕円形や矩形の孔部を形成してもよい。
【0031】
また、上記した実施の形態では、硬質板41の一部(円環部41a)が孔部43の全周に亘って孔部43の内側に向けて突出されており、孔部43内に突出した硬質板41の一部(円環部41a)が平面視円環形状に形成されているが、本発明は、硬質板41の一部が孔部43の全周に亘って突出されていなくてもよく、孔部43の内周面の周方向の一部分に硬質板41の一部が突設された構成であってもよく、孔部43内に突出した硬質板41の一部が円環形状以外の形状に形成されていてもよい。例えば、孔部のうちの軟質板孔が楕円形状に形成され、孔部のうちの硬質板孔が真円形状(径が軟質板孔の短径よりも大きくて軟質板孔の長径よりも小さい円)に形成されることで、孔部43内に突出した硬質板41の一部が平面視三日月形状に形成される。
さらに、本発明は、硬質板41の一部が孔部43の内側に向けて突出されていない構成にすることも可能であり、全長に亘って直筒形状の孔部であってもよい。
【0032】
また、本発明は、積層体が斜めに傾けて設置され、積層体が水平面に対して傾斜した方向にせん断変形する構成であってもよい。
その他、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 免震装置
2 下側端板(端板)
3 上側端板(端板)
4 積層体
5 熱媒体
40 軟質板
41 硬質板
43 孔部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟質板と硬質板を交互に積層したせん断変形可能な積層体が、その積層方向の両側にそれぞれ配設された一対の端板の間に介在されている免震装置において、
前記積層体に、複数の前記軟質板及び前記硬質板をそれぞれ貫通して前記積層方向に延在する孔部が形成されており、
該孔部の少なくとも一端部が、前記積層体の積層方向の一端面において開口されており、
前記孔部の内側に、流動性を有する熱媒体が充填されていることを特徴とする免震装置。
【請求項2】
請求項1に記載の免震装置において、
前記硬質板から前記熱媒体へ流出する熱量が、前記硬質板から前記軟質板へ流出する熱量よりも大きいことを特徴とする免震装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の免震装置において、
前記孔部の内側に前記硬質板の一部が突出されていることを特徴とする免震装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−141002(P2011−141002A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2828(P2010−2828)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】