説明

全地層検層方法及び装置

【課題】 分解能に優れており全地層にわたって構成元素の種類や含有量を確実に且つ微量の元素や多数の元素が混在していても測定することを可能とし、安全で操作性に優れたな検層方法及び装置を提供する。
【解決手段】 地中1に穿孔したボーリング孔2内においてパルス状中性子を中性子発生器9により発生させてボーリング孔2から地層に中性子を照射し、地層において核反応により発生した各元素から放射されるガンマ線のエネルギースペクトルにおけるエネルギー分布と強度をゲルマニウム検出器11により測定することによりボーリング孔2周壁地層に含まれる元素の種類と含有量とを測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検層、即ち、地中に穿孔したボーリング孔内において、測定用のプローブ(ゾンデ)をケーブルにより昇降させて、物理的,化学的諸量を利用することにより間接的或いは直接的に地質状況や坑井性状などを解明するために行う測定に用いる方法及び装置に関するものであり、特に、全地層にわたって構成元素の種類や含有量を測定することが可能な検層方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保全を目的とした地中に存在する微量な有害元素の分布状況や、地球科学調査において、地球の深部を構成する物質や金属・エネルギー資源の解明などが求められており、例えば、特開平10−227868号公報、特表平11−511845号公報などに地表下の密度や多孔度を測定するもの等が提示されている。
【0003】
また、図4に示すように、地中1に穿孔したボーリング孔2内において、測定用のプローブ3をケーブル4により昇降させて、地中1内に孔したボーリング孔2内において中性子を照射し、核反応により発生したガンマ線のエネルギースペクトルを測定することで地層内の特定元素の有無や含有量などを分析する方法(中性子・ガンマ線検層)が知られている。
【0004】
この中性子・ガンマ線検層は、元素に中性子を照射したときに生じる中性子捕獲反応及び中性子非弾性散乱反応により瞬間的に放出される元素毎に特有のエネルギーを有している即発ガンマ線を測定することにより元素を特定し、また、その際のガンマ線の強度から元素の含有量を測定するものである。
【0005】
図5は従来の中性子・ガンマ線検層に用いられている検層装置を示すものであり、測定用のプローブ3の先端から基端にわたって中性子発生源5、遮蔽材6、ガンマ線検出器7、各種の電子回路8が順に収容したもので、基端に設けたケーブル4により、前記図4に示したように一定の速度で地中1内に穿孔したボーリング孔2内を降下させ、所望のサンプリング間隔で中性子発生源5からの中性子により生じたガンマ線エネルギーに応じたパルスをガンマ線検出器7により測定し、これを適宜のデータ処理回路及びアルゴリズムを使用して分析結果を得るものである。
【0006】
ところが、前記従来の中性子・ガンマ線検層装置に用いられている中性子発生源5は、137Cs、252Cf、Am−Be等の同位体源などの中性子線源が必要であり、このような放射線源は、穿孔内において操作することから搬送および格納期間を含め管理上の問題があったり、特に、測定時には必然的な被爆という問題もあり、特に大きなエネルギー(多くの中性子)を必要とする測定に用いる場合には重要である。更に、このような放射線発生源は放射線を連続的に且つ等方位に放出するので計時的な使用や集束的な使用をするための困難性がある。
【0007】
また、前記従来の中性子・ガンマ線検層装置に用いられているガンマ線検出器7は、例えば電気信号をパルスに変換する典型的にはNaIやBGO(Bi14Ge312)等のシンチレーションカウンターが用いられていたが、地中に穿孔した口径が10cm程度と限られた測定空間であるボーリング孔内において前記シンチレーションカウンターと前記放射線源からの中性子とを用いた組み合わせでは分解能が低く、微量な元素や中性子励起即発ガンマ線反応が顕著でない元素の検出は困難で、特に、多くの元素が混在する場合には中性子により生じたガンマ線エネルギー値が近接している元素同士の測定値が重なり合うことから同定はできない。
【0008】
そのため、資源調査と異なり、土壌汚染物質の分析や石炭に含まれる微量元素など環境影響物質のような例えばppm単位の含有量を要する地殻構成物質調査などの測定には向かない。
【0009】
そこで、分解能を上げるための1つの手段として、即発ガンマ線を検出するガンマ線検出器として、ゲルマニウム検出器によるガンマー線の検出手段が特開平8−292269号公報、特開平9−101371号公報などに提示されているが、ゲルマニウム検出器においては熱によって誘起される漏れ伝量を低減する目的でゲルマニウム結晶を冷却する必要があり、その冷却手段として一般的に液体窒素が用いられており検層装置に利用することは不可能といってもよい。
【特許文献1】特開平10−227868号公報
【特許文献2】特表平11−511845号公報
【特許文献3】特開2004−178258号公報
【特許文献4】特開平8−292269号公報
【特許文献5】特開平9−101371号公報公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は前記の実情に鑑みてなされたものであり、分解能に優れており全地層にわたって構成元素の種類や含有量を確実に且つ微量の元素や多数の元素が混在していても測定することが可能であるばかりか、安全で操作性に優れたな検層方法及び装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明である全地層検層方法は、地中に穿孔したボーリング孔内においてパルス状中性子を中性子発生器により発生させてボーリング孔から地層に中性子を照射し、地層において核反応により発生した各元素から放射されるガンマ線のエネルギースペクトルにおけるエネルギー分布と強度をゲルマニウム検出器により測定することによりボーリング孔周壁地層に含まれる元素の種類と量とを測定することを特徴とする。
【0012】
また、本発明である全地層検層装置は、地中に穿孔したボーリング孔の所定位置に挿入配置されるプローブ内に、少なくとも中性子発生器、遮蔽材、ゲルマニウム検出器、電気式冷却器を先端から基端にわたって順に収納したことを特徴とする。
【0013】
更に、前記全地層検層装置において、電気式冷却器がスターリング式冷却器である場合や、前記中性子発生器に円筒形の減速材を着脱自在に被着させた場合は好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、中性子発生器により発生させたパルス状中性子を地表下に照射して発生するガンマ線のエネルギースペクトルにおけるエネルギー分布と強度をゲルマニウム検出器により測定することにしたこととにより、きわめて分解能のよい測定結果が得られることから、微量な元素や中性子励起即発ガンマ線反応が顕著でない元素の検出も可能となり、測定精度を要求される地殻構成物質調査などの測定もできる。
【0015】
また、照射する中性子を発生させる手段として放射線源に代わって大きなエネルギーを商社可能な中性子発生器を用いたこととにより微量な元素や中性子励起即発ガンマ線反応が顕著でない元素の検出も可能であることは勿論のこと、と取り扱い上も安全で紛失などの心配をする必要がなく、必要なときに必要な量の中性子を必要な箇所へ照射させることが可能となった。
【0016】
加えて、地層において核反応により発生した各元素から放射されるガンマ線のエネルギースペクトルにおけるエネルギー分布と強度とを測定するゲルマニウム検出器を電気式冷却器、特に、スターリング式冷却器を用いることにより、小型化と液体窒素の場合のような困難性や煩わしさを解消した。
【0017】
更に、中性子発生装置の基端側に反射部材を配置することにより、中性子発生装置で発生させたパルス中性子を効率よく地層に入射させて効率並びに精度に優れた分析を可能にしている。
【0018】
更にまた、中性子発生器の基端側にゲルマニウム検出器を配置したことにより、中性子発生装置から生じる雑音等により検出妨害を生じる心配もない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0020】
図1は本発明に用いられる検層装置及びその概略を示すものであり、測定用のプローブ3の先端から基端にわたって、中性子発生器9、中性子発生器用電子回路10、遮蔽材6、ゲルマニウム検出器11、電気式冷却器13およびデジタル通信ユニット14の順に収容されており、基端にケーブル4が接続されている。
【0021】
また、必要な場合には、中性子発生器9に例えばアクリル樹脂製で円筒形の減速材を着脱自在に被着させることにより(図示せず)、高速中性子を低速中性子に減速させることが可能であり、このように照射させる中性子の性質を変化させて各種の測定をすることもできる。
【0022】
そして、中性子発生器9は、中性子をパルス状に発生させることができるものが好ましく、例えば、中性子発生管にプラズマ状態の重水素(D)イオンの加速によるD−D或いはD−Tの核融合反応により中性子を発生させるタイプのものがを使用することが可能である(D−T反応で14Mev、D−D反応で2〜4Mev)。中性子発生器9は中性子発生器用電子回路10により中性子出力、パルス周期、パルス幅などを適宜調節して所望の値に制御して使用する。特に、中性子をパルス状に発生させることにより、高速中性子による非弾性散乱から熱中性子による中性子捕獲反応まで様々なエネルギーレベルの中性子を効率よく測定することができる。
【0023】
遮蔽材6は中性子発生器9により発生させた中性子が直接、ゲルマニウム検出器11に作用して測定に影響を与えるのを防止するものであり、従来のものと同様に、ポリエチレン樹脂やPb(鉛)層により形成される。
【0024】
更に、ゲルマニウム検出器11は、n+の厚いリチウムコンタクトが結晶の外側表面に付けられたP型とp+の薄いイオン注入型コンタクトが結晶の外側表面に付けられたN型とがあり、更に片側を閉じた他円柱形の「同軸型」とディスすク形の「プレナ型」とがあり、何れも使用可能ですが、特に、例えばP型の 「同軸型」 にあっては分解能に優れているので本発明に向いているものと考えられる。尚、特開平9−101371号に記載されているように分割型のゲルマニウム検出器などガンマ線に対するエネルギー分解能が高いものを使用すると更に好ましい。
【0025】
また、ゲルマニウム検出器11を冷却するための電気式冷却器13は。小型のスターリング冷凍機131と熱交換機132とから構成されるスターリング式冷却器を用いることにより、少ないスペースで効率よくゲルマニウム検出器11を冷却することができる。尚、スターリング式冷却器の具体的な手段については、特開平8−028981号公報、特開2002−315285号公報、特開2003−365767号公報などに記載されている。特に、スターリング式冷却器の採用は、小型で効率がよく、取り扱いが容易であるだけでなく、通常の電気式冷却器において振動雑音により発生するマイクロフォニック雑音が放射線検出器のエネルギー分解能の劣化の原因となるのに対して、発生するマイクロフォニック雑音の周波数が低いので放射線検出器のエネルギー分解能に影響がない等の利点も有している。
【0026】
以上の構成を有する本実施の形態は図2および前記図4に示した従来例の場合と同様に、地中1に穿孔したボーリング孔2内において、測定用のプローブ3をケーブル4により昇降させて、地中1内に穿孔したボーリング孔2内において中性子発生器9により中性子を照射し、地中で元素に衝って中性子捕獲反応により発生した元素特有のガンマ線のエネルギースペクトルをゲルマニウム検出器11により検出し、これをゲルマニウム検出器用電子回路(図示せず)において適宜のデータ処理回路及びアルゴリズムを使用して元素の種類と含有量を測定するものである。
【0027】
図3に示す測定曲線Aは本実施の形態を用いて実際に測定した際の測定値を示すものであり、前記図5に示した従来の検層装置を用いて同様に測定した測定曲線Bが、元素特有のガンマ線のエネルギースペクトルが近似している元素についてはそれらが重なって1つの大きな山形を呈しているのに対して、それぞれ核元素毎に明確に区別して現れ、即ち、きわめて高い分解能を示し、同定は勿論のこと核元素毎の測定量も明確であり、含有良も明確に測定することが可能なことが実証された。
【0028】
尚、本実施の形態は本発明の一例を示すものであり、これらの具体的な構成に限るものでないことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の好ましい実施の形態を示す一部を切截した側面図。
【図2】図1に示した実施の形態の使用状態の概略図。
【図3】図1に示した実施の形態による測定結果を比較例とともに示した測定図。
【図4】従来例を示す概略図。
【図5】従来例および図1に示した実施の形態についての使用状態を示す説明図。
【符号の説明】
【0030】
1 地中、 2 ボーリング孔、 3 プローブ、 4 ケーブル、 6 遮蔽材、 9 中性子発生器、 11 ゲルマニウム検出器、 13 電気式冷却器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に穿孔したボーリング孔内においてパルス状中性子を中性子発生器により発生させてボーリング孔から地層に中性子を照射し、地層において核反応により発生した各元素から放射されるガンマ線のエネルギースペクトルにおけるエネルギー分布と強度をゲルマニウム検出器により測定することによりボーリング孔周壁地層に含まれる元素の種類と量とを測定することを特徴とする全地層検層方法。
【請求項2】
地中に穿孔したボーリング孔の所定位置に挿入配置されるプローブ内に、少なくとも中性子発生器、遮蔽材、ゲルマニウム検出器、電気式冷却器を先端から基端にわたって順に収納したことを特徴とする全地層検層装置。
【請求項3】
前記電気式冷却器がスターリング式冷却器である請求項2記載の全地層検層装置。
【請求項4】
前記中性子発生器に円筒状の減速材を着脱自在に被着させた請求項2または3記載の全地層検層装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−300555(P2006−300555A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−118674(P2005−118674)
【出願日】平成17年4月15日(2005.4.15)
【出願人】(597024522)サンコーコンサルタント株式会社 (14)
【Fターム(参考)】