説明

内燃機関のピストン

【課題】クーリングチャンネルに本来流れるべきオイル流量を十分確保することができ、簡便に均一にピストンを冷やし、その分エンジンの出力を上げるようにした内燃機関のピストンを提供する。
【解決手段】ピストン1のクラウン部内部にその周方向に沿って環状の塩中子によって形成される環状のクーリングチャンネル3と、クラウン部に環状の塩中子を支える中子支えによって形成される中子支えの穴6と、中子支えの穴を埋めるピンプラグ7とを備えた内燃機関のピストンであって、ピンプラグが中子支えの穴全体を埋めるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のピストンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図6、図7に示すようにターボ付ディーゼルエンジンの場合、燃焼室の亀裂防止やピストンリング溝底2a〜2cの温度低減・燃焼室口元の温度低減のために、ピストン1a内部にはオイル冷却を行うようにしたクーリングチャンネル3が設けられている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
クーリングチャンネル3は、ピストン1a全周に亘って一定高さ位置に設けられ、ピストン1aに貫通形成されたオイル導入口30よりオイルを導入し、ピストン1aを内部から冷却し、オイル排出口31から流出するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−13962号公報
【特許文献2】特開2006−226152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、クーリングチャンネル3は、塩中子で成形されるが、図8、図9に示すようにクーリングチャンネル3の途中に中子支えの穴6が残る。この中子支えの穴6は、ピンプラグ7を挿入してこれを塞いでいる。
【0006】
しかしながら、クーリングチャンネル3の途中に中子支えの穴6があるため、その穴が障害となり、本来流れるべきオイル流量が確保できないということがある。すなわち、中子支えの穴6でオイルが渦を巻き、抵抗となってオイル流量をかせげないことになる。そのため図6に示すピストン1a頂部のリップC部分の温度が高くなり、最悪の場合はエンジン出力に制限が生じる虞がある。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、クーリングチャンネルに本来流れるべきオイル流量を十分確保することができ、簡便に均一にピストンを冷やし、その分エンジンの出力を上げるようにした内燃機関のピストンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために本発明の内燃機関のピストンは、ピストンのクラウン部内部にその周方向に沿って環状の塩中子によって形成される環状のクーリングチャンネルと、前記クラウン部に前記環状の塩中子を支える中子支えによって形成される中子支えの穴と、該中子支えの穴を埋めるピンプラグとを備えた内燃機関のピストンであって、前記ピンプラグが前記中子支えの穴全体を埋めていることを特徴とする。
【0009】
また前記ピンプラグの上面が、前記クーリングチャンネルの底面と同一平面であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の内燃機関のピストンによれば、クーリングチャンネルに本来流れるべきオイル流量を十分確保することができ、簡便に均一にピストンを冷やし、その分エンジンの出力を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、ピストンの正面断面図である。
【図2】図2は、図1の底面図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態に係るクーリングチャンネルを有するピストンの一部分を示す図で、図2のA−A断面図である。
【図4】図4は、本発明の一実施形態に係るクーリングチャンネルと中子支えの穴との関係を示す模式図で、中子支えの穴を埋設した状態を示す。
【図5】図5は、ピストンの鋳造状態を説明する概略図である。
【図6】図6は、従来のピストンの正面断面図である。
【図7】図7は、図6の底面図である。
【図8】図8は、従来のクーリングチャンネルを有するピストンの一部分を示す図で、図7のB−B断面図である。
【図9】図9は、従来のクーリングチャンネルと中子支えの穴との関係を示す模式図で、中子支えの穴の一端をピンプラグで塞いだ状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0013】
図1、図2に内燃機関のピストンを示し、図3に本発明の一実施形態に係るクーリングチャンネルを有するピストンの一部分を示す。なお図6〜図9に示した従来例と同様の機能を有する部分については同一の符号を付して説明する。
【0014】
ピストン1はターボ付ディーゼルエンジン用で、アルミニウム等で鋳造され、クラウン部10の頂部には燃焼室の一部をなすキャビティ11が凹設されている。キャビティ11は、ピストン1と同心に配置されると共に、その底壁は断面山形状に隆起されている。ピストン1の内側には下方に開放された凹部12が形成されると共に一対のピストンピンボス13が形成されている。ピストンピンボス13にはピストンピン(図示せず)が挿入されるピストンピン穴14が形成されている。ピストンピンはエンジンのクランク軸(図示せず)と平行している。
【0015】
ピストン1のクラウン部10側面には複数のピストンリング溝2a〜2cが設けられている。ピストンリング溝2a〜2cは上から順にトップリング溝2a、セカンドリング溝2b及びオイルリング溝2cの三本からなる。これらのピストンリング溝2a〜2cには、図示しないトップリング、セカンドリング、オイルリングが順に装着される。
【0016】
ピストンリング溝2a〜2cの内側の部分には、ピストン1を内部から積極的に冷却するため、クーリングチャンネル3が形成されている。クーリングチャンネル3は、ピストン1と同心で且つピストン1全周にわたって環状に形成される。なお、クーリングチャンネル3は、図1に示すように全周同一(一定)高さとなっていてもよく、あるいは全体で略蛇行形状とされ、各周方向箇所で高さ位置が異なっていてもよい。
【0017】
このクーリングチャンネル3には冷却媒体としてのオイルが流通ないし循環される。クーリングチャンネル3の所定位置には、ピストン1下方へ向けて延びるオイル導入口30とオイル排出口31(図2参照)とがクーリングチャンネル3と直交して設けられている。さらにオイル導入口30には、例えばシリンダブロック4の下部に設けたオイルジェット5が指向されており、オイルジェット5から矢印のごとく噴出されたオイルがオイル導入口30からクーリングチャンネル3内に導入され、クーリングチャンネル3内を流れた後、オイル排出口31からクランクケースなどに排出されることで、ピストン1を冷却するようになっている。
【0018】
また、ピストン1には、図3、図4に示すように中子支えの穴6が形成されている。この中子支えの穴6は、その全体がピンプラグ7で埋設されて、ピンプラグ7の上面7aがクーリングチャンネル3の底面3aと同一平面となっている。中子支えの穴6は、ピストン1を鋳造するときに形成される。
【0019】
ここで、ピストン1を鋳造する場合には、例えば図5に示すようにクーリングチャンネル3に相当する塩中子20がクラウン部10内に一体的に鋳込まれるものである。塩中子20は、例えばNaCl(塩化ナトリウム)を主成分としており、ピストン1内のクーリングチャンネル3と同じように環状に形成されている。塩中子20は、その3箇所を中子支え21で支持された状態で、ピストン1の凹部12を形成する中子型22にセットする。この中子型22を、外型24と上部押え型23の内側に設置することで、塩中子20はクーリングチャンネル3に相当する箇所に配置される。外型24の注湯口25から溶融したアルミ合金を注湯することによって、図1に示すようなピストン1が鋳造される。クーリングチャンネル3の部分は、鋳造時には塩中子20によって埋められている。
【0020】
鋳造されたピストン1内の塩中子20は、鋳造後に水で溶かして洗い流され、クーリングチャンネル3となる。また3箇所の中子支え21も洗い流され、中子支えの穴6として残る。このうち、2箇所の中子支えの穴6は、オイル導入口30及びオイル排出口31として使用されるが、残りの中子支えの穴6にピンプラグ7を穴6の下方から入れて埋設する。ピンプラグ7は、例えばピストン1と同じ材質のアルミ合金等で中子支えの穴6の大きさと同じ大きさに形成し、ピンプラグ7を中子支えの穴6に入れて溶接等で固定する。あるいは中子支えの穴6にメネジを螺設し、雄ネジを有するピンプラグ7をねじ込んで中子支えの穴6を完全に埋めるようにしてもよい。
【0021】
ピンプラグ7を中子支えの穴6に入れて中子支えの穴6を完全に埋めることによって、図4に示すようにピンプラグ7の上面7aが、クーリングチャンネル3の底面3aと同一平面となる。
【0022】
次に、このように構成されたピストンの作用を述べる。
【0023】
シリンダブロック4のシリンダボア4a内をピストン1が上下に往復動すると、オイルジェト5よりオイルがオイル導入孔30に噴射される。このオイル導入孔30より流入したオイルはピストン1内のクーリングチャンネル3内に導びかれ、ピストン1のクラウン部10及びピストンリング溝2a〜2cを冷却し、オイル排出口31からクランクケースなどに排出される。
【0024】
クーリングチャンネル3には、中子支えの穴6全体にピンプラグ7が埋設されており、ピンプラグ7の上面7aがクーリングチャンネル3の底面3aと同一平面となっている。従来のように中子支えの穴6が障害となることがないので、オイルが十分にクーリングチャンネル3内を循環し、ピストン1を内部から冷却する。
【0025】
このように本発明によれば、クーリングチャンネル3に障害物がないので、本来流れるべき流量のオイルがクーリングチャンネル3内を流れることになり、簡便にきちんと均一にピストン1を冷やすことができ、その分エンジンの出力を上げることができる。
【符号の説明】
【0026】
1 ピストン
2a トップリング溝
2b セカンドリング溝
2c オイルリング溝
3 クーリングチャンネル
4 シリンダブロック
4a シリンダボア
5 オイルジェット
6 中子支えの穴
7 ピンプラグ
10 クラウン部
11 キャビティ
12 凹部
13 ピストンピンボス
14 ピストンピン穴
20 塩中子
21 中子支え
30 オイル導入口
31 オイル排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンのクラウン部内部にその周方向に沿って環状の塩中子によって形成される環状のクーリングチャンネルと、前記クラウン部に前記環状の塩中子を支える中子支えによって形成される中子支えの穴と、該中子支えの穴を埋めるピンプラグとを備えた内燃機関のピストンであって、
前記ピンプラグが前記中子支えの穴全体を埋めていることを特徴とする内燃機関のピストン。
【請求項2】
前記ピンプラグの上面が、前記クーリングチャンネルの底面と同一平面である請求項1記載の内燃機関のピストン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−153602(P2011−153602A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16993(P2010−16993)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】