説明

内燃機関の制御装置

【課題】内燃機関の制御装置において、気筒間のEGRガス量のばらつきを考慮して内燃機関を制御することができる技術を提供する。
【解決手段】複数の気筒を有する内燃機関の排気通路と吸気通路とを接続するEGR通路を備えた内燃機関の制御装置において、複数の気筒の夫々に導入されるEGRガス量を推定する推定手段と、推定手段により推定されるEGRガス量に応じて各気筒への燃料噴射量または各気筒のスワール比を決定する決定手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
吸気脈動を考慮しつつ各気筒への充填空気量または該充填空気量の気筒間ばらつきを補正する技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、機関負荷や機関回転数等の変化によって各気筒に導入されるEGRガス量がばらつくため、気筒間の充填空気量のばらつきは一定とは限らない。このことを考慮すれば、より適正な内燃機関の制御が可能となる。
【特許文献1】特開2006−257989号公報
【特許文献2】実開平7−4863号公報
【特許文献3】特開2008−38681号公報
【特許文献4】特開平7−49034号公報
【特許文献5】特開2008−38601号公報
【特許文献6】特開2006−29292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記したような問題点に鑑みてなされたものであり、内燃機関の制御装置において、気筒間のEGRガス量のばらつきを考慮して内燃機関を制御することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を達成するために本発明による内燃機関の制御装置は、以下の手段を採用した。すなわち、本発明による内燃機関の制御装置は、
複数の気筒を有する内燃機関の排気通路と吸気通路とを接続するEGR通路を備えた内燃機関の制御装置において、
前記複数の気筒の夫々に導入されるEGRガス量を推定する推定手段と、
前記推定手段により推定されるEGRガス量に応じて各気筒への燃料噴射量または各気筒のスワール比を決定する決定手段と、
を備えることを特徴とする。
【0005】
ここで、EGRガス量は、EGR率としても良い。EGR率は、気筒内の全ガス量に占めるEGRガス量の割合である。EGRガス量に応じて気筒内の酸素濃度や温度が変わるため、燃焼状態が変わる。例えばEGRガスが過度に多い場合には、燃焼状態が不安定となりスモーク等が発生する。一方、EGRガス量が少ないと、NOxが発生し易くなる。
これに対し、各気筒のEGRガス量に応じて燃料噴射量を決定すれば、EGRガス量の多い気筒ではスモークの発生を抑制し、EGRガスの少ない気筒ではより多くの燃料を供給することで出力の向上を図ることができる。
【0006】
また、スワール比を大きくすると、燃焼状態をより良好なものとすることが可能となる。つまり、仮にEGRガス量が多い気筒であっても、スワール比を大きくすることで燃焼状態の悪化を抑制できるため、スモークの発生を抑制し得る。一方で、スワール比が過度に大きくなると、気筒内に導入される空気量が少なくなったり、冷却損失が大きくなったりする。つまり、各気筒のEGRガス量に応じてスワール比を決定すれば、燃焼状態の悪化を抑制しつつ、冷却損失を減少させることができる。
【0007】
なお、EGRガス量に代えて、夫々の気筒内の新気量に応じて夫々の気筒への燃料噴射量またはスワール比を決定しても良い。夫々の気筒の充填効率に応じて夫々の気筒への燃料噴射量またはスワール比を決定しても良い。つまり、新気量の多い気筒ほど、燃料噴射量を増加させても良い。新気量が多ければ、より多くの燃料を燃焼させることができるため、スモークの発生が抑制される。
【0008】
本発明においては、前記推定手段により推定されるEGRガス量が多い気筒ほど、燃料噴射量を減少させることができる。
【0009】
つまり、EGRガス量が多い気筒ほど酸素濃度が低くなるため、燃焼可能な燃料量が少なくなる。燃料噴射量を減少させることにより、気筒内の酸素濃度に見合った量の燃料を供給することが可能となるため、スモークの発生を抑制できる。また、EGRガス量の少ない気筒では、燃料噴射量を増加させることができる。このような気筒では、スモークの発生量が少ないため、燃料噴射量を増加させることにより、出力の向上を図ることができる。
【0010】
本発明においては、前記複数の気筒の夫々に導入される新気量を推定する新気量推定手段と、
各気筒のEGRガス量を調節するEGRガス量調節手段と、
を備え、
前記新気量推定手段により推定される新気量が少ない気筒ほどEGRガス量を減少させることができる。
【0011】
新気量が少ないと判定される気筒のEGRガス量を減少させれば、スモークの発生を抑制できる。一方、新気量が多いと判定される気筒のEGRガス量を増加させてもスモークの発生は抑制され、しかも、NOxの発生を抑制することができる。
【0012】
本発明においては、各気筒のスワール比を調節するスワール比調節手段を備え、
前記推定手段により推定されるEGRガス量が多い気筒ほど、スワール比を増加させることができる。
【0013】
つまり、EGRガス量が多くても、その分スワール比を大きくすれば、燃焼状態の悪化を抑制できる。これにより、スモークの発生を抑制できる。一方、EGRガス量が少ない気筒では、スワール比を減少させることにより、冷却損失を減少させることができる。
【0014】
本発明においては、内燃機関の運転状態を取得する取得手段と、
内燃機関の運転状態と、EGR率と、スワール比の目標値と、の関係を予め記憶しておき、内燃機関の運転状態及びEGR率に応じてスワール比の目標値を決定する目標値決定手段と、
を備えることができる。
【0015】
内燃機関の運転状態には、例えば機関回転数、機関負荷(燃料噴射量としても良い)を挙げることができる。平均有効圧としても良いし、これらを組み合わせても良い。ここで、内燃機関の運転状態が変わると、気筒間のEGR率のばらつきが変化することがある。つまり、気筒毎にスワール比を固定値とすると、内燃機関の運転状態によっては、スワール比とEGR率との関係が不適切となり、スモークが発生したり、冷却損失が大きくなったりする虞がある。これに対し、内燃機関の運転状態と、EGR率と、スワール比の目標値と、の関係を予め記憶しておけば、常に最適なスワール比を設定することができる。
【0016】
本発明においては、各気筒内へ燃料を噴射する燃料噴射弁の噴孔の径または噴孔の数の
少なくとも一方を、各気筒のスワール比に応じて決定することができる。
【0017】
ここで、燃料噴射弁の噴孔の径を変えると、燃料の到達距離が変わる。例えば、噴孔の径を大きくすると燃料の貫徹力が大きくなるため、より遠くまで燃料が到達するようになる。そのため、例えばスワール比が大きくても流れに流され難くなる。また、例えばスワール比が小さいときには噴孔の径を小さくすることで燃料の貫徹力を小さくすれば、燃料が気筒壁面に付着することを抑制できる。一方、噴孔の数を変えると、気筒内の燃料の噴霧の分布が変わる。これにより、気筒内の空燃比の分布も変えることができる。例えばスワール比が大きな場合には、燃料がスワールに流され易くなる。そのため、噴孔の数が多いと隣同士の噴孔から噴射された燃料が重なり合って、一部で空燃比が過度に低くなる。また、隣り合った噴孔から噴射された燃料が燃焼することで酸素濃度が低下したガス中に燃料が到達しても、燃料が完全に燃焼せずにスモークが発生する虞がある。一方、スワール比が小さい場合には、噴孔の数を多くすれば、スワールによらずとも燃料を広範囲に拡散させることができる。
【0018】
このように、本発明においては、スワール比の大きい気筒ほど燃料噴射弁の噴孔の径を大きくすることができる。スワール比の小さい気筒ほど燃料噴射弁の噴孔の径を小さくすることもできる。
【0019】
また、本発明においては、スワール比の大きい気筒ほど燃料噴射弁の噴孔の数を少なくすることができる。スワール比の小さい気筒ほど燃料噴射弁の噴孔の数を多くすることもできる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る内燃機関の制御装置によれば、気筒間のEGRガス量のばらつきを考慮して内燃機関を制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る内燃機関の制御装置の具体的な実施態様について図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0022】
図1及び図2は、本実施例に係る内燃機関1の概略構成を表す図である。図1は内燃機関1を縦方向に切断したときの図であり、図2は内燃機関1を横方向に切断したときの図である。なお、本実施例においては、内燃機関1を簡潔に表示するため、一部の構成要素の表示を省略している。内燃機関1は4つの気筒2を備えているが、図1では1気筒のみを表している。図2の左側から順に、1番気筒、2番気筒、3番気筒、4番気筒が備わる。
【0023】
内燃機関1のシリンダヘッド10には、吸気枝管41が接続されている。この吸気枝管41は、各気筒に2本ずつ接続されており、夫々が吸気ポート3を介して各気筒2の燃焼室と通じている。気筒2への吸気の流入は吸気弁5によって制御される。この吸気弁5は、各気筒2に2本ずつ備わる。
【0024】
前記吸気枝管41は、サージタンク42に接続され、該サージタンク42で集合している。サージタンク42には、吸気管43が接続されている。なお、本実施例では、吸気ポート3、吸気枝管41、サージタンク42、吸気管43を合わせて吸気通路4と称する。
【0025】
また、吸気管43の途中には、該吸気管43を流れる吸気の量を調節するスロットル16が備えられている。スロットル16よりも上流の吸気管43には、該吸気管内を流れる
空気の量に応じた信号を出力するエアフローメータ95が取り付けられている。このエアフローメータ95により内燃機関1の吸入空気量(新気量)が検出される。
【0026】
各気筒2の一方の吸気枝管41には、該吸気枝管41を流れる吸気の量を調節する吸気制御弁17が夫々備えられている。この吸気制御弁17は、全閉としても少量の吸気が流通できるように、吸気制御弁17と吸気枝管41との間に隙間を設けておいても良い。各気筒に設けられる吸気制御弁17の開度を小さくすることにより、各気筒のスワール比を大きくすることができる。
【0027】
一方、内燃機関1には、排気通路8が接続されている。排気通路8は、シリンダヘッド10に設けられた排気ポート7を介して各気筒2の燃焼室と通じている。そして、気筒2外へのガスの排出は排気弁9によって制御される。各気筒2には、夫々2本の排気弁9が備わる。各気筒2に接続される排気通路8は、1つに集合している。各気筒から1つに集合するまでの排気通路8の途中には、該排気通路8内を流れる排気の空燃比に応じた信号を出力する空燃比センサ93が夫々の気筒毎に取り付けられている。
【0028】
また、内燃機関1には、排気通路8内を流通する排気の一部(以下、EGRガスという。)を吸気通路4へ再循環させるEGR装置30が備えられている。このEGR装置30は、EGR通路31、EGR弁32を備えて構成されている。EGR通路31は、排気通路8と、サージタンク42と、を接続している。このEGR通路31を通って、EGRガスが再循環される。また、EGR弁32は、EGR通路31の通路断面積を調整することにより、該EGR通路31を流れるEGRガスの量を調整する。なお、EGR通路31は、スロットル16よりも下流で且つ吸気制御弁17よりも上流の吸気通路4であれば、吸気管43または吸気枝管41に接続されていても良い。
【0029】
また、内燃機関1には、気筒2内へ燃料を噴射する燃料噴射弁82が取り付けられている。そして、内燃機関1には、クランクシャフト13が備わり、該クランクシャフト13にコンロッド14を介して連結されたピストン15が、気筒2内で往復運動を行う。
【0030】
さらに、内燃機関1には、該内燃機関1を制御するための電子制御ユニットであるECU90が併設されている。このECU90は、CPUの他、各種のプログラム及びマップを記憶するROM、RAM等を備えており、内燃機関1の運転条件や運転者の要求に応じて内燃機関1の運転状態等を制御するユニットである。
【0031】
上記各種センサの他、アクセル開度センサ91およびクランクポジションセンサ92がECU90と電気的に接続されている。ECU90はアクセル開度センサ91からアクセル開度に応じた信号を受け取り、この信号に応じて内燃機関1に要求される機関負荷等を算出する。また、ECU90はクランクポジションセンサ92から内燃機関1の出力軸の回転角に応じた信号を受け取り、内燃機関1の機関回転速度を算出する。
【0032】
一方、ECU90には、スロットル16、吸気制御弁17、EGR弁32、燃料噴射弁82が電気配線を介して接続されており、該ECU90によりこれらの開閉時期が制御される。
【0033】
なお、ECU90は、各気筒の吸入空気量、EGR率、EGR量を推定する。例えば、空燃比センサ93により各気筒の空燃比が分かるため、燃料噴射量を考慮することにより、各気筒2の吸入空気量を算出することができる。また、前記エアフローメータ95を夫々の吸気枝管41に設置して、各気筒2の吸入空気量を測定することもできる。さらに、内燃機関1の運転状態に応じて予め各気筒の吸入空気量を測定しておいても良い。なお、EGRガス量またはEGR率も同じように測定できる。また、内燃機関1の運転状態に応
じてEGRガス量またはEGR率を予め実験等により求めておいても良い。なお、本実施例では各気筒2の吸入空気量を算出するECU90が、本発明における新気量推定手段に相当する。また、本実施例ではEGR量を推定するECU90が、本発明における推定手段に相当する。
【0034】
そして、本実施例では、各気筒間のEGR率のバラツキを考慮して、吸入空気量が多い気筒2ほど、燃料噴射弁82からの燃料噴射量を多くする。これは、EGR率が低い気筒2ほど、又はEGRガス量が少ない気筒2ほど、燃料噴射弁82からの燃料噴射量を多くするとしても良い。
【0035】
ここで、図3は、機関回転数Neと平均有効圧Pmeと各気筒のEGR率のバラツキとの関係を示した図である。平均有効圧Pmeは、トルク又は燃料噴射量としても良い。図3中の数字は、各気筒間のEGR率のバラツキを示しており、このばらつきは、以下の式により求めている。
EGR率のバラツキ=(最大EGR率−最小EGR率)/4気筒平均EGR率×100
【0036】
このように、運転条件が変わると各気筒間のEGR率のバラツキがかわるため、例えばEGR率を一定として燃料噴射量を決定すると、内燃機関1の運転状態によっては適正な燃料量が得られなくなる虞がある。
【0037】
また、図4は、各気筒のEGR率を示した図である。図4(A)は700(rpm)/0(Nm)のときの値を示し、図4(B)は2400(rpm)/126(Nm)のときの値を示している。図4(A)の場合では、2番気筒のEGR率が最も高くなっているが、図4(B)の場合では、2番気筒のEGR率が最も低くなっている。つまり、EGR率の高くなる気筒や低くなる気筒は同じではなく、運転条件により変わり得る。
【0038】
これに対し、吸入空気量が多い気筒ほど燃料噴射量を多くし、吸入空気量が少ない気筒ほど燃料噴射量を少なくすれば、スモークの発生量を低減しつつ出力を向上させることができる。なお、EGR率が低い気筒(EGRガス量が少ない気筒)ほど燃料噴射量を多くし、EGR率が高い気筒(EGRガス量が多い気筒)ほど燃料噴射量を少なくしても良い。
【0039】
ここで、各気筒における吸入空気量又はEGR率は、予め実験等により求めておく。上述のように、機関条件が変わるとEGR率や吸入空気量が変わるため、複数の運転領域毎に吸入空気量又はEGR率を求めておく。また、例えば、吸気枝管41毎に吸入空気量を測定しても良い。また、空燃比センサ93から得られる空燃比に基づいて吸入空気量を推定しても良い。
【0040】
また、各気筒の吸入空気量を求めるときには、EGR装置30によるEGRガスの供給が停止されているときに行っても良い。ここで、各気筒ではEGRガス量にもバラツキがある。そのためEGRガスが導入されると、吸入空気量がEGRガス量のバラツキの影響を受けるので、該吸入空気量を正確に求めることが困難となる虞がある。つまり、EGRガスの供給が停止されているときに吸入空気量を測定すれば、より正確に吸入空気量を求めることができる。
【0041】
図5は、本実施例における制御フローを示したフローチャートである。本ルーチンは所定の時間毎に繰り返し実行される。
【0042】
ステップS101では、各気筒のEGRガス量が測定される。
【0043】
ステップS102では、各気筒のEGRガス量に応じて各気筒の燃料噴射弁82の開弁時間を決定する。つまり、各気筒の燃料噴射量を決定する。なお、本実施例においてはステップS102を実行するECU90が、本発明における決定手段に相当する。
【0044】
ステップS103では、各気筒で個別に燃料噴射弁82の開弁時間が変更される。
【0045】
このようにして、各気筒のEGRガス量に応じて燃料噴射量を変更することができる。
【0046】
また、吸入空気量が多いと判定された気筒ほど、EGRガス量を多くしてNOxの発生
を抑制し、吸入空気量が少ないと判定された気筒ほど、EGRガス量を少なくしてスモークの発生を抑制しても良い。この場合、各気筒間の空燃比が等しくなるようにEGRガス量を調節しても良い。
【0047】
ここで図6は、気筒毎にEGRガス量を調節するためのEGR装置300の構成を示した図である。このEGR装置300は、EGR通路301、EGR弁302を備えて構成されている。EGR通路301は、一端は排気通路8に接続され、他端は分岐して夫々の吸気枝管41に接続されている。また、EGR弁302は、分岐したEGR通路301の夫々に設けられており、ECU90により制御される。図6では、吸気枝管41が各気筒に1つ接続されているが、図2のように各気筒に2本の吸気枝管41が接続されている場合には、吸気制御弁17が設けられていない側の吸気枝管41へEGR通路301を接続する。なお、本実施例においてはEGR弁302が、本発明におけるEGRガス量調節手段に相当する。
【0048】
このようにすることで、各気筒へ供給するEGRガス量を個別に調節することができるため、各気筒のEGR率を個別に変更することができる。そして、各気筒の吸入空気量に応じたEGR率とすることができる。
【0049】
また、吸入空気量が少ないと判定された気筒においてEGRガス量を減少させるときには、該気筒の吸入酸素質量が基準値以上となるようにしても良い。一方、吸入空気量が多いと判定された気筒においてEGRガス量を増加させるときには、該気筒の吸入酸素濃度が規定値以下となるようにしても良い。ここで、スモークが発生するか否かは酸素質量によって決まり、NOxの発生量は酸素濃度によって決まる。つまり、吸入酸素質量が基準
値以上となるようにしてスモークの発生を抑制する。この基準値は、スモークの発生を抑制し得る値として予め実験等により求めておく。また、吸入酸素濃度が規定値以下となるようにしてNOxの発生量が許容値以下となるようにする。この規定値は、NOxの発生量が許容値以下となり得る値として予め実験等により求めておく。
【0050】
以上説明したように本実施例によれば、気筒間の吸入空気量(EGR率、EGRガス量としても良い。)のばらつきに応じて燃料噴射量を調節するため、各気筒において燃料噴射量を適正な値とすることができる。また、内燃機関1の運転領域に応じて吸入空気量(EGR率、EGRガス量としても良い。)の気筒間ばらつきの態様が変化したとしても各気筒に適正量の燃料を供給することができる。これにより、スモークの発生及びNOxの
発生を抑制することができる。また、スモークの発生を抑制しつつ燃料噴射量を可及的に多くすることもできるため、出力を向上させることができる。
【実施例2】
【0051】
本実施例では、気筒間のEGRガス量(EGR率としても良い。)のばらつきに応じて各気筒のスワール比を調節する。スワール比の調節は、吸気制御弁17により行う。ここで、吸気制御弁17の開度を小さくするほど、スワール比が大きくなる。また、吸気制御弁17を全閉としてスワール比を大きくしても良い。他の装置については実施例1と同じ
ため説明を省略する。なお、本実施例は他の実施例と組み合わせて実行することができる。なお、本実施例においては吸気制御弁17が、本発明におけるスワール比調節手段に相当する。
【0052】
ここで、多気筒機関では、各気筒に供給されるEGRガス量にばらつきが生じる。つまり、各気筒でEGR率が異なる。そして、EGR率の高い気筒ではスモークが発生し易くなり、EGR率の低い気筒ではNOxが発生し易くなる。
【0053】
一方、スワール比を大きくすることにより、スモークの発生量を減少させることができる。しかし、スワール比を大きくしすぎると、気筒内のガスの流れが速くなり冷却損失が大きくなったり、吸入空気量が減少したりするため、機関性能が低下する虞がある。つまり、スワール比には適正値があり、この適正値がEGR率等によって変わる。
【0054】
そこで本実施例では、EGR率の高い気筒のみスワール比を大きくしてスモークの発生を抑制する。EGR率の高い気筒は、EGR率が閾値よりも高い気筒としても良い。この閾値は、スモークの発生量が許容値以下となるEGR率とする。また、EGR率が高くなるほど、スワール比を大きくしても良い。この場合、EGR率が高くなるに応じてスワール比を段階的に大きくしても良い。このように、EGR率の高い気筒のみスワール比を大きくすることで、EGR率の低い気筒での冷却損失の増大を抑制しつつ、EGR率の高い気筒でスモークが発生することを抑制できる。
【0055】
一方、EGR率の低い気筒のみスワール比を小さくしても良い。つまり、EGR率が低い気筒では、スワール比を大きくする必要はなく、また、スワール比を小さくすることで冷却損失を低減することができる。EGR率の低い気筒は、EGR率が閾値よりも低い気筒としても良い。この閾値は、スワール比を小さくしたとしても、スモークの発生量が許容値以下となるEGR率とする。また、EGR率が低くなるほど、スワール比を小さくしても良い。この場合、EGR率が低くなるに応じてスワール比を段階的に小さくしても良い。このように、EGR率の低い気筒のみスワール比を小さくすることで、EGR率の低い気筒での冷却損失を低減できる。
【0056】
図7は、本実施例における制御フローを示したフローチャートである。本ルーチンは所定の時間毎に繰り返し実行される。
【0057】
ステップS201では、各気筒のEGR率が測定される。
【0058】
ステップS202では、各気筒のEGR率に応じて各気筒の吸気制御弁17の開度を算出する。つまり、各気筒のスワール比を決定する。なお、本実施例においてはステップS202を実行するECU90が、本発明における決定手段に相当する。
【0059】
ステップS203では、各気筒で個別に吸気制御弁17の開度が変更される。
【0060】
このようにして、各気筒のEGR率に応じてスワール比を変更することができる。
【0061】
なお、EGR率に応じてスワール比を決定するのではなく、各気筒のEGR率に対する最適なスワール比を予め求めておき、このスワール比となるように、吸気通路4を形成しても良い。
【0062】
また、運転条件(例えば機関回転数及び機関負荷)毎に各気筒のEGR率と最適スワール比との関係を予め実験等により求めておき、各運転条件で各気筒の実際のスワール比が最適スワール比となるように、気筒毎に吸気制御弁17の開度を設定しても良い。なお、
本実施例ではアクセル開度センサ91及びクランクポジションセンサ92が、本発明における取得手段に相当する。
【0063】
ここで図8は、EGR率と最適スワール比との関係を示した図である。実線、破線、一点鎖線では、夫々運転条件が異なる。このように、運転条件毎にEGR率と最適スワール比との関係を予め求めておく。例えば、機関回転数又は機関負荷に応じてEGR率と最適スワール比との関係を設定しても良い。なお、本実施例では予め求められた関係からスワール比を決定するECU90が、本発明における目標値決定手段に相当する。
【0064】
一方、運転条件によらず、各気筒で最適スワール比となるような吸気制御弁17の開度を気筒毎に求めておき、吸気制御弁17を使用する際に予め設定してある開度となるようにしても良い。
【0065】
以上説明したように本実施例によれば、気筒間のEGR率またはEGR量に応じて気筒毎にスワール比を設定するので、EGR率に応じた最適な燃焼を行うことができる。つまり、EGR率の高い気筒においてスモークが発生することを抑制できる。また、EGR率の低い気筒においてNOxが発生することを抑制できる。さらに、気筒毎に最適スワール
比が設定されるため、冷却損失を低減することができる。
【実施例3】
【0066】
本実施例では、気筒間のスワール比のばらつきに応じて燃料噴射弁82の噴孔数および噴孔径を設定する。夫々の気筒のスワール比は、吸気通路4を装着した状態で予め実験等により求めておく。他の装置については実施例1と同じため説明を省略する。なお、本実施例は他の実施例と組み合わせて実行することができる。
【0067】
ここで、気筒間にスワール比のばらつきがある場合には、各気筒で同じ燃料噴射弁82を使用したとしても、燃焼状態は同じにならない。つまり、スワール比の大きい気筒では、燃料の噴霧が流され易くなるため、他の噴孔からの燃料の噴霧と重なり合って局所的に空燃比が低くなる虞がある。また、気筒壁面付近の空気を有効に使うことができなくなる虞がある。一方、スワール比の小さい気筒では、燃料が気筒壁面に付着し易くなる。これらは、スワールにより燃料がどれだけ流されるのかにより決まる。
【0068】
そして、燃料噴射弁82の噴孔径を大きくするほど、燃料の貫徹力が強くなるため、スワールの流れに流され難くなる。これにより、燃料をより遠くへ到達させることができるため、気筒内の空燃比をより均一に近づけることができる。この場合には、噴孔数を少なくすることにより、単位時間当たりの燃料噴射量の増加を抑制できる。また、噴孔数を少なくすることで、隣り合う噴孔からの燃料の噴霧と重なることが抑制されるので、一部の空燃比が低くなりすぎることを抑制できる。ここで、噴孔は等間隔に設けられているものとし、噴孔数を少なくするということは、噴孔の間隔が広くなることを意味する。
【0069】
一方、スワール比が小さい場合には、噴孔径を小さくすることで燃料の貫徹力を弱めることができるため、気筒壁面への燃料の付着を抑制できる。この場合、噴孔数を多くすることにより、単位時間当たりの燃料噴射量の減少を抑制できる。また、噴孔数を多くすることにより、広範囲に燃料を噴射することができるため、スワール比が小さくても気筒内の空燃比をより均一に近づけることができる。
【0070】
ここで、スワール比の大きい気筒に備わる燃料噴射弁82の噴孔径は、基準値よりも大きくする。スワール比の大きい気筒とは、燃料噴射弁82の噴孔径が基準値の場合に、隣り合う噴孔からの燃料の噴霧の影響を受けて燃焼状態が悪化する虞のある気筒、若しくは燃焼状態が悪化する気筒とすることができる。また、燃料の到達距離に着目し、スワール
比の大きい気筒とは、燃料噴射弁82の噴孔径が基準値の場合に、燃料の到達距離が許容範囲よりも短い気筒としても良い。
【0071】
また、噴孔径の基準値とは、平均的なスワール比のときに燃焼状態が良好であり且つ気筒壁面への燃料の付着量が許容範囲内となる噴孔径である。なお、スワール比が大きくなるほど、燃料噴射弁82の噴孔径を大きくしても良い。
【0072】
一方、スワール比の小さい気筒に備わる燃料噴射弁82の噴孔径は、基準値よりも小さくする。スワール比の小さい気筒とは、燃料噴射弁82の噴孔径が基準値の場合には、燃料噴霧が気筒壁面に付着する気筒、若しくは付着する虞のある気筒とすることができる。なお、スワール比が小さくなるほど、燃料噴射弁82の噴孔径を小さくしても良い。
【0073】
このようにすることで、燃料の貫徹力が小さくなる。そのため、スワールの影響が小さい場合でも、燃料の到達距離を短くすることができるので、気筒壁面に燃料が付着することを抑制できる。
【0074】
また、全気筒のスワール比の平均値を算出し、スワール比が平均値よりも大きな気筒の噴孔径をより大きくし、平均値よりも小さな気筒の噴孔径をより小さくしてもよい。
【0075】
一方、スワール比の大きい気筒に備わる燃料噴射弁82の噴孔数は、基準値よりも少なくしても良い。噴孔数の基準値とは、平均的なスワール比のときに燃焼状態が良好であり且つ燃料の拡散度合いが許容範囲内となる噴孔数である。噴孔数が多いと、隣り合う噴孔から噴射された燃料により酸素が消費されてしまい、夫々の噴孔から噴射される燃料に必要となる酸素が確保できなくなる虞がある。しかも、スワール比が大きいと、隣り合う噴孔から噴射された燃料が燃焼した後のガスが流されてくるため、燃料に着火し難くなる。これに対し、スワール比の大きい気筒の噴孔数を基準値よりも少なくすれば、隣り合う噴孔との距離が離れるため、互いの干渉を抑制することができるので、燃焼状態が悪化することを抑制できる。なお、スワール比が大きくなるほど、噴孔数を少なくしても良い。
【0076】
また、スワール比の小さい気筒に備わる燃料噴射弁82の噴孔数は、基準値よりも多くしても良い。ここで、スワール比の小さい気筒において、燃料噴射弁82の噴孔数が少ないと、燃料の拡散が不十分となる虞がある。つまり、スワール比が大きければ燃料の拡散が促進されるが、スワール比が小さければ燃料の拡散が不十分となる虞がある。これに対し本実施例では、スワール比の小さい気筒で噴孔数を多くしている。つまり、噴孔数を多くすることで、より広い範囲へ燃料を噴射することができるため、スワール比が小さい場合であっても燃料の拡散を促進させることができる。これにより、良好な燃焼状態を保つことができる。なお、スワール比が小さくなるほど、噴孔数を多くしても良い。
【0077】
また、全気筒のスワール比の平均値を算出し、スワール比が平均値よりも大きな気筒の噴孔数をより少なくし、平均値よりも小さな気筒の噴孔数をより多くしてもよい。
【0078】
以上説明したように本実施例によれば、スワール比に応じて各気筒の燃料噴射弁82の噴孔数または噴孔径を設定するため、燃焼状態を良好なものとすることができる。また、気筒壁面への燃料の付着を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】実施例に係る内燃機関の概略構成を表す縦方向の断面図である。
【図2】実施例に係る内燃機関の概略構成を表す横方向の断面図である。
【図3】機関回転数Neと平均有効圧Pmeと各気筒のEGR率のバラツキとの関係を示した図である。
【図4】各気筒のEGR率を示した図である。
【図5】実施例1における制御フローを示したフローチャートである。
【図6】気筒毎にEGRガス量を調節するためのEGR装置の構成を示した図である。
【図7】実施例2における制御フローを示したフローチャートである。
【図8】EGR率と最適スワール比との関係を示した図である。
【符号の説明】
【0080】
1 内燃機関
2 気筒
3 吸気ポート
4 吸気通路
5 吸気弁
7 排気ポート
8 排気通路
9 排気弁
10 シリンダヘッド
13 クランクシャフト
14 コンロッド
15 ピストン
16 スロットル
17 吸気制御弁
30 EGR装置
31 EGR通路
32 EGR弁
41 吸気枝管
42 サージタンク
43 吸気管
82 燃料噴射弁
90 ECU
91 アクセル開度センサ
92 クランクポジションセンサ
93 空燃比センサ
95 エアフローメータ
300 EGR装置
301 EGR通路
302 EGR弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒を有する内燃機関の排気通路と吸気通路とを接続するEGR通路を備えた内燃機関の制御装置において、
前記複数の気筒の夫々に導入されるEGRガス量を推定する推定手段と、
前記推定手段により推定されるEGRガス量に応じて各気筒への燃料噴射量または各気筒のスワール比を決定する決定手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記推定手段により推定されるEGRガス量が多い気筒ほど、燃料噴射量を減少させることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記複数の気筒の夫々に導入される新気量を推定する新気量推定手段と、
各気筒のEGRガス量を調節するEGRガス量調節手段と、
を備え、
前記新気量推定手段により推定される新気量が少ない気筒ほどEGRガス量を減少させることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
各気筒のスワール比を調節するスワール比調節手段を備え、
前記推定手段により推定されるEGRガス量が多い気筒ほど、スワール比を増加させることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
内燃機関の運転状態を取得する取得手段と、
内燃機関の運転状態と、EGR率と、スワール比の目標値と、の関係を予め記憶しておき、内燃機関の運転状態及びEGR率に応じてスワール比の目標値を決定する目標値決定手段と、
を備えることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
各気筒内へ燃料を噴射する燃料噴射弁の噴孔の径または噴孔の数の少なくとも一方を、各気筒のスワール比に応じて決定することを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
スワール比の大きい気筒ほど燃料噴射弁の噴孔の径を大きくすることを特徴とする請求項6に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項8】
スワール比の大きい気筒ほど燃料噴射弁の噴孔の数を少なくすることを特徴とする請求項6または7に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−38050(P2010−38050A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−202692(P2008−202692)
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】