内燃機関の制御装置
【課題】 スロットル弁を備える機関の吸気系をより適切にモデル化するとともに、得られたモデルのモデル化誤差を適切に補正することにより、吸入空気量に関連する制御パラメータを高い精度で算出することができる内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】 スロットル弁開度と該スロットル弁を通過する空気の流量との関係をモデル化した弁通過空気流量モデル式に検出スロットル弁開度を適用して、推定吸入空気流量が算出され、弁通過空気流量モデル式のモデル化誤差を示すモデル化誤差係数KTHERR及びKTHERRSが、検出される吸入空気流量を用いて算出される。モデル化誤差係数KTHERRS及びKTHERRを用いてモデル補正係数KMDLS及びKMDLLが算出され、モデル補正係数KMDLS及びKMDLLにより推定吸入空気流量が補正され、補正された推定吸入空気流量が機関制御パラメータの算出に適用される。
【解決手段】 スロットル弁開度と該スロットル弁を通過する空気の流量との関係をモデル化した弁通過空気流量モデル式に検出スロットル弁開度を適用して、推定吸入空気流量が算出され、弁通過空気流量モデル式のモデル化誤差を示すモデル化誤差係数KTHERR及びKTHERRSが、検出される吸入空気流量を用いて算出される。モデル化誤差係数KTHERRS及びKTHERRを用いてモデル補正係数KMDLS及びKMDLLが算出され、モデル補正係数KMDLS及びKMDLLにより推定吸入空気流量が補正され、補正された推定吸入空気流量が機関制御パラメータの算出に適用される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関し、特に機関吸気系をモデル化した吸気系モデルを用いて機関の吸入空気量に関連する制御パラメータ(スロットル弁の目標開度、燃料供給量、点火時期)を算出する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、アクセルペダル操作量に応じて機関の目標吸入空気量を算出し、目標吸入空気量を吸気系モデルを用いて目標吸気圧に変換し、得られた目標吸気圧に基づいて機関の吸入空気量を制御する制御装置が示されている。この制御装置において使用される吸気系モデルは、気体状態方程式に基づく数式で定義されており、このモデル定義式は、学習値Knを乗算係数として含む。学習値Knは、ベース値Knbaseを平均化することにより算出され、ベース値Knbaseは、実吸気圧Pactと実吸入空気量Gactとの比(Pact/Gact)に基づいて、モデル化誤差を補正するように算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−309993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
機関の吸気圧は、吸気管に設けられるスロットル弁の下流側の圧力であり、スロットル弁開度が変化することにより変化するパラメータである。ところが、特許文献1に示された制御装置では、スロットル弁開度を含まない吸気系モデル式を用いているため、スロットル弁開度変化の影響が適切に反映されず、目標吸気圧の算出精度が低いという課題がある。特に、機関の過渡運転状態のようにスロットル弁開度が変化する運転状態では、算出精度の低下度合がより大きくなる。
【0005】
本発明はこの点に着目してなされたものであり、スロットル弁を備える機関の吸気系をより適切にモデル化するとともに、得られたモデルのモデル化誤差を適切に補正することにより、吸入空気量に関連する制御パラメータを高い精度で算出することができる内燃機関の制御装置を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、内燃機関の吸気管(2)に設けられたスロットル弁(3)の開度(TH)を検出するスロットル弁開度検出手段(4)と、前記スロットル弁を通過する空気の流量である吸入空気流量(GAIR)を検出する吸入空気流量検出手段(13)とを備える内燃機関の制御装置において、前記スロットル弁の開度と該スロットル弁を通過する空気の流量との関係をモデル化した弁通過空気流量モデル式に前記スロットル弁開度(TH)を適用して、前記吸入空気流量の推定値である推定吸入空気流量(HGAIR)を算出する吸入空気流量推定手段と、前記弁通過空気流量モデル式のモデル化誤差を示す誤差パラメータ(KTHERR,KTHERRS)を、検出される吸入空気流量(GAIR)を用いて算出する誤差パラメータ算出手段と、前記誤差パラメータ(KTHERRS)を平均化することにより、前記モデル化誤差を補正するための第1誤差補正値(KMDLS)を算出する第1誤差補正値算出手段と、前記誤差パラメータ(KTHERR)と前記スロットル弁開度(TH)との相関関係を用いて、前記モデル化誤差を補正するための第2誤差補正値(KMDLL)を算出する第2誤差補正値算出手段と、前記第1及び第2誤差補正値(KMDLS,KMDLL)を用いて前記推定吸入空気流量(HGAIR)を補正し、補正推定吸入空気流量(HGAIRLS)を算出する補正手段とを備え、前記補正推定吸入空気流量(HGAIRLS)を前記機関の制御パラメータの算出に適用することを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の制御装置において、前記誤差パラメータは、検出される吸入空気流量(GAIR)と前記推定吸入空気流量(HGAIR)との比率を示すパラメータであることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の制御装置において、前記誤差パラメータ算出手段は、前記第2誤差補正値(KMDLL)を用いて前記推定吸入空気流量(HGAIR)を補正し、誤差補正推定吸入空気流量(HGAIRL)を算出する誤差補正推定吸入空気流量算出手段と、検出される吸入空気流量(GAIR)と前記誤差補正推定吸入空気流量(HGAIRL)との比率を示す第1誤差パラメータ(KTHERRS)を算出する第1誤差パラメータ算出手段と、検出される吸入空気流量(GAIR)と前記推定吸入空気流量(HGAIR)との比率を示す第2誤差パラメータ(KTHERR)を算出する第2誤差パラメータ算出手段とを有し、前記第1誤差補正値算出手段は、前記第1誤差パラメータ(KTHERRS)を用いて前記第1誤差補正値(KMDLS)を算出し、前記第2誤差補正値算出手段は、前記第2誤差パラメータ(KTHERR)を用いて前記第2誤差補正値(KMDLL)を算出することを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の内燃機関の制御装置において、前記吸入空気流量検出手段(13)をモデル化した流量センサモデル式に、前記推定吸入空気流量(HGAIR)を適用して、遅れ補正推定吸入空気流量(HGAIRAFM)を算出する検出遅れ補正手段を備え、前記誤差パラメータ算出手段は、前記遅れ補正推定吸入空気流量(HGAIRAFM)を用いて前記誤差パラメータ(KTHERR)を算出することを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の制御装置において、前記誤差パラメータ算出手段は、前記弁通過空気流量モデル式に含まれる開口面積流量関数値を示す第1モデルパラメータ値(KTH(TH))を、前記スロットル弁開度(TH)に応じて算出する第1モデルパラメータ値算出手段と、前記弁通過空気流量モデル式に検出吸入空気流量(GAIR)を適用することにより、前記開口面積流量関数値を示す第2モデルパラメータ値(KTHGAIR)を算出する第2モデルパラメータ値算出手段とを有し、前記誤差パラメータ(KTHERR)は、前記第1モデルパラメータ値(KTH(TH))と第2モデルパラメータ値(KTHGAIR)の比率を示すパラメータであることを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項1から5の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置において、前記第2誤差補正値(KMDLL)の更新周期は、前記第1誤差補正値(KMDLS)の更新周期より長いことを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載の発明は、請求項1から6の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置において、前記第2誤差補正値算出手段は、前記相関関係を定義する誤差モデル式のモデルパラメータ(A)を同定する同定手段を有し、同定されたモデルパラメータ(A)及び前記誤差モデル式を用いて前記第2誤差補正値(KMDLL)を算出することを特徴とする。
【0013】
請求項8に記載の発明は、請求項1から7の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置において、前記吸入空気流量の目標値である目標吸入空気流量(GAIRCMD)を算出する目標吸入空気流量算出手段と、前記第1及び第2誤差補正値(KMDLS,KMDLL)を用いて前記目標吸入空気流量を補正し、補正目標吸入空気流量(GAIRCMDC)を算出する補正目標吸入空気流量算出手段と、前記弁通過空気流量モデル式の逆モデル式に前記補正目標吸入空気流量(GAIRCMDC)を適用して前記スロットル弁の目標開度(THCMD)を算出する目標開度算出手段とを備え、前記目標開度(THCMD)に応じて前記スロットル弁の開度を制御することを特徴とする。
【0014】
請求項9に記載の発明は、内燃機関の吸気管(2)に設けられたスロットル弁(3)の開度(TH)を検出するスロットル弁開度検出手段(4)と、前記スロットル弁を通過する空気の流量である吸入空気流量(GAIR)を検出する吸入空気流量検出手段(13)とを備える内燃機関の制御装置において、前記吸入空気流量の目標値である目標吸入空気流量(GAIRCMD)を算出する目標吸入空気流量算出手段と、前記スロットル弁の開度と該スロットル弁を通過する空気の流量との関係をモデル化した弁通過空気流量モデル式の逆モデル式を用いて、前記スロットル弁の目標開度(THCMD)を算出する目標開度算出手段と、前記目標開度(THCMD)に応じて前記スロットル弁の開度を制御するスロットル弁開度制御手段と、前記弁通過空気流量モデル式に含まれる開口面積流量関数値を示す第1モデルパラメータ値(KTH(TH))を、前記スロットル弁開度(TH)に応じて算出する第1モデルパラメータ値算出手段と、前記弁通過空気流量モデル式に検出吸入空気流量(GAIR)を適用することにより、前記開口面積流量関数値を示す第2モデルパラメータ値(KTHGAIR)を算出する第2モデルパラメータ値算出手段と、前記第1モデルパラメータ値(KTH(TH))と第2モデルパラメータ値(KTHGAIR)との比率を示す誤差パラメータ(KTHERR)と、前記スロットル弁の開度(TH)との相関関係を用いて、前記弁通過空気流量モデル式のモデル化誤差を補正する誤差補正値(KMDLL)を算出する誤差補正値算出手段と、前記目標吸入空気流量(GAIRCMD)を前記誤差補正値(KMDLL)により補正し、補正目標吸入空気流量(GAIRCMDC)を算出する補正目標吸入空気流量算出手段とを備え、前記目標開度算出手段は、前記補正目標吸入空気流量(GAIRCMDC)を前記逆モデル式に適用して、前記目標開度(THCMD)を算出することを特徴とする。
【0015】
請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の内燃機関の制御装置において、前記誤差補正値算出手段は、前記誤差パラメータとスロットル弁開度との相関関係を定義する誤差モデル式のモデルパラメータ(A)を同定する同定手段を有し、同定されたモデルパラメータ(A)及び前記誤差モデル式を用いて前記誤差補正値(KMDLL)を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明によれば、スロットル弁の開度と該スロットル弁を通過する空気の流量との関係をモデル化した弁通過空気流量モデル式に検出されるスロットル弁開度を適用して、推定吸入空気流量が算出され、弁通過空気流量モデル式のモデル化誤差を示す誤差パラメータが、検出される吸入空気流量を用いて算出される。さらに誤差パラメータを平均化することにより、モデル化誤差を補正するための第1誤差補正値が算出されるとともに、誤差パラメータと検出スロットル弁開度との相関関係を用いて、モデル化誤差を補正するための第2誤差補正値が算出される。第1及び第2誤差補正値を用いて推定吸入空気流量を補正して補正推定吸入空気流量が算出され、補正推定吸入空気流量が機関の制御パラメータの算出に適用される。したがって、スロットル弁の特性ばらつきや経時変化、有効吸気管断面積の減少、運転環境の変化、あるいはセンサの温度特性などに起因する弁通過空気流量モデルのモデル化誤差を抑制し、良好な制御性能を得ることができる。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、検出される吸入空気流量と推定吸入空気流量との比率を示すパラメータが誤差パラメータとして使用されるので、弁通過空気流量モデル式のモデル化誤差を誤差パラメータにより直接的に把握し、第1及び第2誤差補正値に反映させることができる。
【0018】
請求項3に記載の発明によれば、第2誤差補正値を用いて推定吸入空気流量を補正して誤差補正推定吸入空気流量が算出され、検出される吸入空気流量と誤差補正推定吸入空気流量との比率を示す第1誤差パラメータが算出されるとともに、検出される吸入空気流量と推定吸入空気流量との比率を示す第2誤差パラメータが算出される。第1誤差補正値は第1誤差パラメータを用いて算出され、第2誤差補正値は第2誤差パラメータを用いて算出される。第2誤差補正値には、スロットル弁開度とモデル化誤差との相関関係が反映されるので、スロットル弁開度に依存して変化するモデル化誤差(比較的長期間の経時変化)を第2誤差補正値によって補正することができる。したがって、第2誤差補正値によって補正された誤差補正推定吸入空気流量を用いて第1誤差パラメータを算出し、第1誤差パラメータを用いて第1誤差補正値を算出することにより、スロットル弁開度に依存するモデル化誤差の影響を除いたモデル化誤差を、第1誤差補正値によって補正することができる。
【0019】
請求項4に記載の発明によれば、吸入空気流量検出手段をモデル化した流量センサモデル式に、推定吸入空気流量を適用して、遅れ補正推定吸入空気流量が算出され、遅れ補正推定吸入空気流量を用いて誤差パラメータが算出されるので、吸入空気流量検出手段における検出遅れの影響を排除して、正確な誤差パラメータ、ひいては正確な誤差補正値を得ることができる。
【0020】
請求項5に記載の発明によれば、弁通過空気流量モデル式に含まれる開口面積流量関数値を示す第1モデルパラメータ値が、スロットル弁開度に応じて算出されるとともに、弁通過空気流量モデル式に検出吸入空気流量を適用することにより、開口面積流量関数値を示す第2モデルパラメータ値が算出され、誤差パラメータが、第1モデルパラメータ値と第2モデルパラメータ値の比率を示すパラメータとして算出される。弁通過空気流量モデル式のモデル化誤差は、主としてスロットル弁開度を有効開口面積に変換する開口面積流量関数の設定誤差と考えられるので、第1モデルパラメータ値と第2モデルパラメータ値との比率は、モデル化誤差を示す誤差パラメータとして使用することができる。
【0021】
請求項6に記載の発明によれば、第2誤差補正値の更新周期は、第1誤差補正値の更新周期より長く設定される。弁通過空気流量モデル式のモデル化誤差をスロットル弁開度の関数として正確に把握するためには、比較的長い学習期間を必要とする。したがって、第2誤差補正値の更新周期を第1誤差補正値の更新周期より長く設定することにより、第2誤差補正値の算出精度を高めることができる。
【0022】
請求項7に記載の発明によれば、誤差パラメータとスロットル弁開度との相関関係を定義する誤差モデル式のモデルパラメータが機関制御実行中に同定され、同定されたモデルパラメータ及び誤差モデル式を用いて第2誤差補正値が算出される。したがって、経時変化する相関関係を精度よく把握し、スロットル弁の全開度範囲に亘って正確な第2誤差補正値を得ることができる。
【0023】
請求項8に記載の発明によれば、第1及び第2誤差補正値を用いて目標吸入空気流量を補正して補正目標吸入空気流量が算出され、弁通過空気流量モデル式の逆モデル式に補正目標吸入空気流量を適用してスロットル弁の目標開度が算出され、目標開度に応じてスロットル弁の開度が制御される。したがって、弁通過空気流量モデル式のモデル化誤差の影響を排除して、必要な吸入空気流量を得るための目標開度を精度良く算出することができる。
【0024】
請求項9に記載の発明によれば、弁通過空気流量モデル式に含まれる開口面積流量関数値を示す第1モデルパラメータ値が、スロットル弁開度に応じて算出され、弁通過空気流量モデル式に検出吸入空気流量を適用することにより、開口面積流量関数値を示す第2モデルパラメータ値が算出され、第1モデルパラメータ値と第2モデルパラメータ値の比率を示す誤差パラメータと、スロットル弁開度との相関関係を用いて、弁通過空気流量モデル式のモデル化誤差を補正する誤差補正値が算出される。さらに目標吸入空気流量を誤差補正値により補正して、補正目標吸入空気流量が算出され、補正目標吸入空気流量を弁通過空気流量モデル式の逆モデル式に適用してスロットル弁の目標開度が算出される。したがって、スロットル弁の特性ばらつきや経時変化、有効吸気管断面積の減少、運転環境の変化、あるいはセンサの温度特性などに起因する弁通過空気流量モデルのモデル化誤差を抑制して、正確な目標開度を得、良好な吸入空気量制御性能を得ることができる。
【0025】
請求項10に記載の発明によれば、誤差パラメータとスロットル弁開度との相関関係を定義する誤差モデル式のモデルパラメータが機関制御実行中に同定され、同定されたモデルパラメータ及び誤差モデル式を用いて誤差補正値が算出される。したがって、経時変化する相関関係を精度よく把握し、スロットル弁の全開度範囲に亘って正確な誤差補正値を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態にかかる内燃機関及びその制御装置の構成を示す図である。
【図2】予測気筒吸入空気量(GAIRCYLP)及びスロットル弁の目標開度(THCMD)を算出するモジュールの構成を示す図である。
【図3】図1に示す内燃機関の構成を模式的に示す図である。
【図4】予測気筒吸入空気量(GAIRCYLP)の算出手法を説明するためのタイムチャートである。
【図5】スロットル弁開度(TH)と、モデルを用いて算出されるスロットル弁通過空気流量の誤差を示すパラメータ(KTHERR)との関係を示す図である。
【図6】推定スロットル弁通過空気流量(HGAIRTH)を算出する処理のフローチャートである。
【図7】図6の処理で参照されるテーブルを示す図である。
【図8】予測気筒吸入空気量(GAIRCYLP)を算出する処理のフローチャートである。
【図9】弁通過空気流量モデルのモデル化誤差を補正する係数(KMDLL,KMDLS)を算出する処理のフローチャートである。
【図10】図9の処理で参照されるテーブルを示す図である。
【図11】弁通過空気流量モデルのモデル化誤差を示す係数(KTHERR)と、スロットル弁開度(TH)との相関関係を示すモデルパラメータを算出する処理のフローチャートである。
【図12】図11の処理で実行される同定演算を行う処理のフローチャートである。
【図13】目標開度(THCMD)を算出する処理のフローチャートである。
【図14】図13の処理で実行されるリミット処理のフローチャートである。
【図15】本発明の第3の実施形態で使用されるテーブルを示す図である。
【図16】図15に示すテーブルを更新する処理のフローチャートである。
【図17】図16の処理で実行される設定更新処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
[第1の実施形態]
図1は、本発明の一実施形態にかかる内燃機関とその制御装置の構成を示す図であり、図1において、例えば4気筒を有する内燃機関(以下単に「エンジン」という)1は、吸気弁の作動位相を連続的に変更する弁作動特性可変機構40を備えている。
【0028】
エンジン1の吸気管2の途中にはスロットル弁3が配置されている。また、スロットル弁3にはその開度THを検出するスロットル弁開度センサ4が連結されており、スロットル弁開度THに応じた電気信号を出力して電子制御ユニット(以下(ECU)という)5に供給する。スロットル弁3には、スロットル弁3を駆動するアクチュエータ7が接続されており、アクチュエータ7は、ECU5によりその作動が制御される。
【0029】
吸気管2には、スロットル弁3を介してエンジン1に吸入される空気(新気)の流量である吸入空気流量GAIRを検出する吸入空気流量センサ13が設けられ、さらにスロットル弁3の上流側に吸気温TAを検出する吸気温センサ9が設けられている。これらのセンサ13及び9の検出信号は、ECU5に供給される。
【0030】
燃料噴射弁6はエンジン1とスロットル弁3との間かつ吸気管2の図示しない吸気弁の少し上流側に各気筒毎に設けられており、各噴射弁は図示しない燃料ポンプに接続されていると共にECU5に電気的に接続されて当該ECU5からの信号により燃料噴射弁6の開弁時間が制御される。
【0031】
エンジン1の各気筒の点火プラグ12は、ECU5に接続されており、ECU5は点火プラグ12に点火信号を供給し、点火時期制御を行う。
スロットル弁3の下流には吸気圧PBAを検出する吸気圧センサ8が取付けられている。またエンジン1の本体には、エンジン冷却水温TWを検出するエンジン冷却水温センサ10が取り付けられている。これらのセンサ8及び10の検出信号は、ECU5に供給される。
【0032】
ECU5には、エンジン1のクランク軸(図示せず)の回転角度を検出するクランク角度位置センサ11が接続されており、クランク軸の回転角度に応じた信号がECU5に供給される。クランク角度位置センサ11は、エンジン1の特定の気筒の所定クランク角度位置でパルス(以下「CYLパルス」という)を出力する気筒判別センサ、各気筒の吸入行程開始時の上死点(TDC)に関し所定クランク角度前のクランク角度位置で(4気筒エンジンではクランク角180度毎に)TDCパルスを出力するTDCセンサ及びTDCパルスより短い一定クランク角周期(例えば6度周期)で1パルス(以下「CRKパルス」という)を発生するCRKセンサから成り、CYLパルス、TDCパルス及びCRKパルスがECU5に供給される。これらのパルスは、燃料噴射時期、点火時期等の各種タイミング制御、エンジン回転数(エンジン回転速度)NEの検出に使用される。
【0033】
ECU5には、エンジン1によって駆動される車両のアクセルペダルの踏み込み量(以下「アクセルペダル操作量」という)APを検出するアクセルセンサ31、エンジン1により駆動される車両の走行速度(車速)VPを検出する車速センサ32、及び大気圧PAを検出する大気圧センサ33が接続されている。これらのセンサの検出信号は、ECU5に供給される。
【0034】
またエンジン1は排気還流機構(図示せず)を備えており、エンジン1の排気が吸気管2のスロットル弁3の下流側に還流される。
【0035】
ECU5は各種センサからの入力信号波形を整形し、電圧レベルを所定レベルに修正し、アナログ信号値をデジタル信号値に変換する等の機能を有する入力回路、中央演算処理ユニット(以下「CPU」という)、CPUで実行される演算プログラム及び演算結果等を記憶する記憶回路のほか、アクチュエータ7、燃料噴射弁6、点火プラグ12、弁作動特性可変機構40に駆動信号を供給する出力回路等から構成される。
【0036】
ECU5のCPUは、上記センサの検出信号に応じて、スロットル弁3の開度制御、エンジン1に供給する燃料量(燃料噴射弁6の開弁時間)の制御、点火時期制御、及び吸気弁の作動位相制御を行う。
【0037】
またECU5のCPUは、スロットル弁3を通過する空気流量の推定値(以下「推定スロットル弁通過空気流量」という)HGAIRTHを算出するとともに、推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTH、吸気圧PBA、及び吸気温TAに基づいてエンジン1の気筒に吸入される新気量である気筒吸入空気量GAIRCYLN[g/TDC](1TDC期間、すなわち4気筒エンジンであればエンジン1のクランク軸が180度回転するのに要する時間当たりの空気量)を算出する。
【0038】
さらにECU5のCPUは、スロットル弁3を通過する空気流量の1行程期間後の予測値(以下「予測スロットル弁通過空気流量」という)HGAIRTHPを算出するとともに、予測スロットル弁通過空気流量HGAIRTHP及び気筒吸入空気量GAIRCYLNを用いて、気筒吸入空気量GAIRCYLNの1行程期間後の予測値(以下「予測気筒吸入空気量」という)GAIRCYLPを算出する。算出した予測気筒吸入空気量GAIRCYLPは、燃料供給量や点火時期の制御に適用される。
【0039】
また、ECU5のCPUは、エンジン1の要求出力に応じた目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDを算出し、実際の気筒吸入空気量を目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDに制御するためのスロットル弁3の目標開度THCMDを算出し、検出されるスロットル弁開度THが目標開度THCMDと一致するように、アクチュエータ7の駆動制御を行う。
【0040】
図2は、予測気筒吸入空気量GAIRCYLP及び目標開度THCMDを算出するモジュールの構成を示すブロック図である。図2に示す各ブロックの機能は、ECU5のCPUによる演算処理により実現される。
【0041】
図2に示す演算モジュールは、スロットル弁通過空気流量算出部51と、予測気筒吸入空気量算出部52と、モデル補正係数算出部53と、目標気筒吸入空気量算出部54と、リミット処理部55と、目標スロットル弁通過空気流量算出部56と、目標開度算出部57とを備えている。
【0042】
スロットル弁通過空気流量算出部51は、検出されるスロットル弁開度THを、弁通過空気流量モデル式に適用して、推定吸入空気流量HGAIR[g/sec]を算出し、後述する長期モデル補正係数KMDLLを用いて推定吸入空気流量HGAIRを補正することにより、第1補正推定吸入空気流量HGAIRLを算出する。弁通過空気流量モデル式は、スロットル弁開度THと、スロットル弁3を通過する空気の流量との関係をモデル化したものである。
【0043】
スロットル弁通過空気流量算出部51は、さらに後述する短期モデル補正係数KMDLSを用いて第1補正推定吸入空気流量HGAIRLを補正することにより、第2補正推定吸入空気流量HGAIRLSを算出し、第2補正推定吸入空気流量HGAIRLS[g/sec]の単位変換を行って、推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTH[g/TDC]を算出する。
【0044】
予測気筒吸入空気量算出部52は、吸気管2(より具体的には吸気管2のスロットル弁下流側)をモデル化した吸気管モデル式に、推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTHを適用して、気筒吸入空気量GAIRCYLNを算出するとともに、推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTHを用いて予測スロットル弁通過空気流量HGAIRTHPを算出し、気筒吸入空気量GAIRCYLN及び予測スロットル弁通過空気流量HGAIRTHPを用いて、予測気筒吸入空気量GAIRCYLPを算出する。また、予測気筒吸入空気量算出部52は、吸気管モデル式のモデルパラメータの1つであるエンジン1の体積効率ηvを算出し、気筒吸入空気量GAIRCYLNの算出に適用する。算出される体積効率ηvは、目標スロットル弁通過空気流量算出部56における演算にも適用される。
【0045】
モデル補正係数算出部53は、検出される吸入空気流量GAIR、推定吸入空気流量HGAIR、及び第1補正推定吸入空気流量HGAIRLに基づいて、弁通過空気流量モデルのモデル化誤差を補正するための長期モデル補正係数KMDLL及び短期モデル補正係数KMDLSを算出する。長期モデル補正係数KMDLLは、スロットル弁3の特性ばらつき及び経時変化に起因する、弁通過空気流量モデルのモデル化誤差を補正するための補正係数であり、短期モデル補正係数KMDLSは、環境(例えば気温や大気圧など)の変化に起因する、弁通過空気流量モデルのモデル化誤差を補正するための補正係数である。
【0046】
目標気筒吸入空気量算出部54は、アクセルペダル操作量AP及びエンジン回転数NEに応じて、目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDを算出する。
【0047】
リミット処理部55は、スロットル弁開度の1制御周期で変更可能なスロットル弁開度変化量(最大変化量)DTHLMTと、検出されるスロットル弁開度TH(現在値)とに応じて、開き側限界値THOFH及び閉じ側限界値THOFLを算出し、スロットル弁開度を開き側限界値THOFH及び閉じ側限界値THOFLに設定したときのスロットル弁通過空気流量に相当する上限スロットル弁通過空気流量GAIRTHLMH及び下限スロットル弁通過空気流量GAIRTHLMLを算出する。この演算には、弁通過空気流量モデル式が適用され、長期モデル補正係数KMDLL及び短期モデル補正係数KMDLSが使用される。
【0048】
リミット処理部55は、さらに上限スロットル弁通過空気流量GAIRTHLMH及び下限スロットル弁通過空気流量GAIRTHLMLに対応する上限気筒吸入空気量GAIRCYLHMH及び下限気筒吸入空気量GAIRCYLHMLを算出し、目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDが上限気筒吸入空気量GAIRCYLHMH及び下限気筒吸入空気量GAIRCYLHMLで定義される制限範囲内の値をとるようにリミット処理を行う。
【0049】
目標スロットル弁通過空気流量算出部56は、リミット処理後の目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDを吸気管モデル式の逆モデル式に適用し、目標スロットル弁通過空気流量GAIRTHCMDを算出する。
【0050】
目標開度算出部57は、目標スロットル弁通過空気流量GAIRTHCMDを弁通過空気流量モデル式の逆モデル式に適用し、目標開度THCMDを算出する。この演算には、長期モデル補正係数KMDLL及び短期モデル補正係数KMDLSが適用される。
【0051】
次に、スロットル弁通過空気流量算出部51における推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTHの算出手法と、予測気筒吸入空気量算出部52における予測スロットル弁通過空気流量HGAIRTHP、気筒吸入空気量GAIRCYLN、及び予測気筒吸入空気量GAIRCYLPの算出手法とを詳細に説明する。
【0052】
図3はエンジン1を模式的に示す図であり、スロットル弁3,吸気弁21、排気弁22、及び気筒1aが示されている。
スロットル弁3の開度THと、スロットル弁通過空気流量(吸入空気流量GAIR)の推定値HGAIR[g/sec]との関係は、弁通過空気流量モデルを定義する下記式(1)で表すことができる。式(1)のKCは流量の単位を[g/sec]とするための変換定数であり、KTH(TH)はスロットル弁開度THに応じて算出される開口面積流量関数であり、Ψ(RP)は、スロットル弁3の上流側圧力である大気圧PAと、下流側圧力である吸気圧PBAとの比率RP(=PBA/PA)に応じて算出される圧力比流量関数であり、Rは気体定数である。開口面積流量関数KTH(TH)の値は、予め実験的に求められた図7(a)に示すKTHテーブルを用いて算出される。
【0053】
また圧力比流量関数Ψは、下記式(2)で与えられる。式(2)の「κ」は空気の比熱比である。ただし、空気流速が音速を超えると、圧力比流量関数Ψは圧力比に拘わらず極大値をとるので、実際の演算処理では、圧力比流量関数Ψ(RP)の値も予め設定されたΨ(RP)テーブル(図7(b))を用いて算出される。
【0054】
【数1】
【0055】
本実施形態では、弁通過空気流量モデルのモデル化誤差を補正する長期モデル補正係数KMDLL及び短期モデル補正係数KMDLSを下記式(3)に適用し、第2補正推定吸入空気流量HGAIRLSを算出し、式(3)により算出される第2補正推定吸入空気流量HGAIRLSを、エンジン回転数NEを用いて1TDC期間当たりの流量に変換することにより、推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTH[g/TDC]が算出される。
HGAIRLS=HGAIR×KMDLL×KMDLS (3)
【0056】
一方吸気管2のスロットル弁下流側部分2a内の空気量の変化量DGAIRINは、下記式(11)で与えられる。式(11)のVinはスロットル弁下流側部分2aの吸気管容積、TAKは絶対温度に変換した吸気温TA、Rは気体定数、DPBAは吸気圧PBAの変化量(PBA(k)−PBA(k-1))である。また「k」は1行程に相当する期間で離散化した離散化時刻である。
DGAIRIN=Vin×DPBA/(R×TAK) (11)
【0057】
したがって、推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTH[g/TDC]と、気筒吸入空気量GAIRCYLN[g/TDC]の差は、下記式(12)で示されるように上記変化量DGAIRINと等しくなる。
DGAIRIN=HGAIRTH(k)−GAIRCYLN(k-1) (12)
【0058】
一方、気筒吸入空気量GAIRCYLNは、下記式(13)で与えられる。式(13)のVcylは気筒容積であり、ηvは体積効率である。
GAIRCYLN=Vcyl×ηv×PBA/(R×TAK) (13)
【0059】
式(13)を用いると、吸気圧変化量DPBAは、下記式(14)で与えられる。式(14)で与えられるDPBA及び式(12)の関係を式(11)に適用することにより、下記の式(15)(吸気管モデルの定義式)が得られる。
【数2】
【0060】
したがって、遅れ係数CGACYLを下記式(16)で定義すると、式(15)は下記式(15a)で示され、気筒吸入空気量GAIRCYLNは、推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTHを入力とする一次遅れモデルの式を用いて算出することができる。
CGACYL=Vcyl×ηv/Vin (16)
GAIRCYLN(k)=(1−CGACYL)×GAIRCYLN(k-1)
+CGACYL×HGAIRTH(k) (15a)
【0061】
式(16)により遅れ係数CGACYLを算出するためには、体積効率ηvを算出することが必要である。体積効率ηvは、エンジン運転状態(エンジン回転数NE,吸気圧PBA)、吸気弁の作動位相、排気還流率などに依存して変化するものであるため、本実施形態では、下記式(17)により、気筒吸入空気量GAIRCYLN(k)の算出に用いる体積効率ηvを算出するようにしている。
ηv=GAIRCYLN(k-1)/GAIRSTD(k) (17)
【0062】
式(17)のGAIRSTD(k)は下記式(18)により算出される理論気筒吸入空気量である。
GAIRSTD(k)=PBA(k)×Vcyl/(R×TAK) (18)
【0063】
式(17)を用いることにより、マップやテーブルを用いることなく体積効率ηvを算出することが可能となり、常に更新されるのでエンジン特性の経時変化の影響を受けることなく最適な値を得ることできる。
【0064】
図4は、本実施形態における予測気筒吸入空気量GAIRCYLPの算出手法を説明するためのタイムチャートである。
一点鎖線及び細い実線は、それぞれ推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTH及び予測スロットル弁通過空気流量HGAIRTHPの推移を示し、破線及び太い実線は、それぞれ気筒吸入空気量GAIRCYLN及び予測気筒吸入空気量GAIRCYLPの推移を示す。
【0065】
本実施形態では、推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTHに基づいて予測スロットル弁通過空気流量HGAIRTHPが算出され、時刻kにおける予測スロットル弁通過空気流量HGAIRTHP(k)と、時刻kにおける気筒吸入空気量GAIRCYLN(k)とを用いて、時刻kにおける予測気筒吸入空気量GAIRCYLP(k)が算出される。予測気筒吸入空気量GAIRCYLP(k)は、時刻(k+1)における気筒吸入空気量の予測値を示す。
【0066】
したがって、予測気筒吸入空気量GAIRCYLPの前回値(図の点PPに相当する値)を用いて予測気筒吸入空気量GAIRCYLP(k)を算出する従来手法では、前回値GAIRCYLP(k-1)が予測誤差ERRPを含むのに対し、本実施形態では予測誤差ERRPを含まない気筒吸入空気量GAIRCYLN(k)を用いて予測気筒吸入空気量GAIRCYLP(k)が算出されるので、予測気筒吸入空気量GAIRCYLP(k)の算出精度を向上させることができる。
【0067】
図4に示すように燃料噴射が吸気行程で実行されるため、燃料噴射量を予測気筒吸入空気量GAIRCYLP(k)に基づいて算出することにより、実際の気筒吸入空気量(GAIRCYLN(k+1)とほぼ等しいと推定される空気量)に適した量の燃料を供給することができ、過渡運転状態での空燃比制御精度を向上させることができる。時刻kにおいて算出される気筒吸入空気量GAIRCYLN(k)は、その直前の1行程期間に吸入される空気量を示すため、図示される加速状態では、実際の吸入空気量より小さな値となる。
【0068】
次に弁通過空気流量モデルの逆モデル、及び吸気管モデルの逆モデルを定義する式について説明する。
弁通過空気流量モデルを定義する式(1)を変形すると下記式(21)が得られる。したがって、弁通過空気流量モデルの逆モデルは、下記式(22)で定義される。
【数3】
【0069】
一方、吸気管モデルを定義する式(15a)を変形すると、下記式(23)が得られる。したがって、吸気管モデルの逆モデルは、式(23)で定義される。
HGAIRTH(k)=
(GAIRCYLN(k)−GAIRCYLN(k-1))/CGACYL
+GAIRCYLN(k-1) (23)
【0070】
目標スロットル弁通過空気流量算出部56では、目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDから目標スロットル弁通過空気流量GAIRTHCMDが算出されるので、式(23)のHGAIRTH及びGAIRCYLNを、それぞれGAIRTHCMD及びGAIRCYLCMDに置換した下記式(24)を用いて、目標スロットル弁通過空気流量GAIRTHCMDが算出される。
GAIRTHCMD(k)=
(GAIRCYLCMD(k)−GAIRCYLCMD(k-1))/CGACYL
+GAIRCYLCMD(k-1) (24)
【0071】
また目標開度算出部57では、目標スロットル弁通過空気流量GAIRTHCMD[g/TDC]を単位時間当たりの流量[g/sec]に変換することにより、目標吸入空気流量GAIRCMDが算出され、目標吸入空気流量GAIRCMD、長期モデル補正係数KMDLL、及び短期モデル補正係数KMDLSを下記式(25)に適用して、補正目標吸入空気流量GAIRCMDCが算出される。
GAIRCMDC=GAIRCMD/(KMDLL×KMDLS) (25)
【0072】
さらに、補正目標吸入空気流量GAIRCMDCを下記式(26)に適用して目標開度THCMDが算出される。式(26)は、式(22)のHGAIRをGAIRCMDCに置換したものである。なお、式(26)の演算は、図7(a)に示すKTHテーブルを逆検索することにより行われる。
【数4】
【0073】
次に弁通過空気流量モデルのモデル化誤差を補正するための長期モデル補正係数KMDLL及び短期モデル補正係数KMDLSの算出手法の概要を説明する。モデル化誤差は、基本的には吸入空気流量センサ13により検出される吸入空気流量GAIRと、推定吸入空気流量HGAIRとのずれに相当するものであるが、本実施形態では吸入空気流量センサ13の検出遅れを考慮し、推定吸入空気流量HGAIRについて検出遅れ補正を行って、遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRAFMを算出し、モデル化誤差を示すパラメータとして、モデル化誤差係数KTHERRを下記式(31)で定義する。
KTHERR=GAIR/HGAIRAFM (31)
【0074】
モデル化誤差がなければ、モデル化誤差係数KTHERRは「1.0」となり、「1.0」との差が大きくなるほど、モデル化誤差が大きいことを示す。そこで、本実施形態では、モデル化誤差係数KTHERRに基づいて長期モデル補正係数KMDLLを算出する。
【0075】
一方短期モデル補正係数KMDLSは、以下のようにして算出する。推定吸入空気流量HGAIRを長期モデル補正係数KMDLLで補正した第1補正推定吸入空気流量HGAIRLについて検出遅れ補正を行って遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRLAFMを算出し、これを下記式(32)に適用して補正モデル化誤差係数KTHERRSを算出する。そして、補正モデル化誤差係数KTHERRSを下記式(33)に適用してなまし演算を行うことにより、短期モデル補正係数KMDLSを算出する。式(33)のCSは、例えば「0.02」に設定されるなまし係数である。jは演算周期TS(例えば1TDC期間に設定される)で離散化した離散化時刻である。
KTHERRS=GAIR/HGAIRLAFM (32)
KMDLS(j)=CS×(1/KTHERRS)+(1−CS)×KMDLS(j-1)
(33)
【0076】
なお、検出吸入空気流量GAIRが脈動しているとき、及び圧力比流量関数Ψに適用される圧力比RPが上限値に到達しているときは、なまし係数CSが「0」に設定され、短期モデル補正係数KMDLSは前回値に維持される。
【0077】
遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRAFM(HGAIRLAFM)を算出するために、吸入空気流量センサ13をモデル化した吸入空気流量センサモデル(以下「AFMモデル」という)が使用される。AFMモデルは、むだ時間要素と一次遅れ要素の結合で近似することができるので、本実施形態では、下記式(34)により、AFMモデルを定義する。式(34)のjTNはむだ時間TNを演算周期TSで離散化した離散化むだ時間であり、CTDは下記式(35)で与えられる遅れ定数である。遅れ定数CTDは「0」より大きく「1」より小さい値をとる。式(35)のTDは一次遅れ要素の遅れ時定数である。遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRLAFMは、下記式(34a)で与えられる。
HGAIRAFM(j)=CTD×HGAIR(j-jTN)
+(1−CTD)×HGAIRAFM(j-1) (34)
CTD=1−e-(TS/TD) (35)
HGAIRLAFM(j)=CTD×HGAIRL(j-jTN)
+(1−CTD)×HGAIRLAFM(j-1) (34a)
【0078】
次に長期モデル補正係数KMDLLの算出手法を詳細に説明する。図5は、スロットル弁開度THと、モデル化誤差係数KTHERRとの関係を示す図であり、この図に示す黒丸はモデル化誤差が存在する状態における実験データを示し、実線L1は実験データからスロットル弁開度THとモデル化誤差係数KTHERRとの関係を近似するための曲線を示す。この図から明らかなように、スロットル弁開度THが所定開度THBより大きい範囲では、モデル化誤差係数KTHERRは「1.0」とほぼ等しくなる。そこで、本実施形態では、曲線L1(TH≦THBの範囲)を2次曲線で近似することとし、下記式(36)で誤差モデルを定義する。式(36)のKTHERRCORを以下「誤差パラメータ」という。
KTHERRCOR=KTHERR−1=A×(TH−THB)2 (36)
【0079】
式(36)は、図5に示す破線L2を示す数式に相当し、「A」はモデルパラメータである。式(36)を用いることにより、誤差パラメータKTHERRCORを算出するために必要なモデルパラメータが1つとなり(一般的な2次式では、モデルパラメータは3つである)、モデルパラメータの同定演算を簡単化することができる。
【0080】
モデルパラメータAは、最小二乗法を用いる場合、下記式(37)で与えられる。
【数5】
【0081】
同定されたモデルパラメータA及びスロットル弁開度THを式(36)に適用して、誤差パラメータKTHERRCORを算出し、その誤差パラメータKTHERRCORを下記式(38)に適用することにより、長期モデル補正係数KMDLLが得られる。
KMDLL=1/KTHERR=1/(KTHERRCOR+1) (38)
【0082】
このように長期モデル補正係数KMDLLは、短期モデル補正係数KMDLSに比べて、より長い期間における検出データ(TH,GAIR)を統計処理することにより算出されるモデルパラメータAを用いて算出される。弁通過空気流量モデルのモデル化誤差は、スロットル弁の特性ばらつきや経時変化、有効吸気管断面積の減少などに起因するので、モデルを補正するための補正係数の正確な値を得るためには、比較的長い期間に得られる検出データに基づく演算を行う必要がある。したがって、長期モデル補正係数KMDLLを用いることにより、モデル化誤差をより高い精度で補正することが可能となる。
【0083】
図6は、スロットル弁通過空気流量算出部51における演算処理のフローチャートである。
ステップS11では、スロットル弁開度THに応じて図7(a)に示す開口面積流量関数テーブルを検索し、開口面積流量関数値KTH(TH)を算出する。ステップS12では、圧力比RP(=PBA/PA)に応じて図7(b)に示す圧力比流量関数テーブルを検索し、圧力比流量関数値Ψ(RP)を算出する。
【0084】
ステップS13では、開口面積流量関数値KTH(TH)、圧力比流量関数値Ψ(RP)、及び吸気温TAを前記式(1)に適用し、推定吸入空気流量HGAIRを算出する。ステップS14では、推定吸入空気流量HGAIR及び長期モデル補正係数KMDLLを下記式(41)に適用して、第1補正推定吸入空気流量HGAIRLを算出し、さらに第1補正推定吸入空気流量HGAIRL及び短期モデル補正係数KMDLSを下記式(42)に適用して、第2補正推定吸入空気流量HGAIRLSを算出する。
HGAIRL=HGAIR×KMDLL (41)
HGAIRLS=HGAIRL×KMDLS (42)
【0085】
ステップS15では、第2補正推定吸入空気流量HGAIRLS[g/sec]及びエンジン回転数NEを下記式(43)に適用し、1TDC期間当たりの吸入空気量である推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTH[g/TDC]を算出する。式(43)のKCVは変換係数である。
HGAIRTH=HGAIRLS×KCV/NE (43)
【0086】
図8は、予測気筒吸入空気量算出部52における演算処理のフローチャートである。
ステップS21では前記式(17)を用いて体積効率ηvを算出する。なお、この算出には、気筒吸入空気量GAIRCYLNの前回値を用いるため、気筒吸入空気量GAIRCYLNの初期値GAIRCYLNINIの設定が必要である。本実施形態では、初期値GAIRCYLNINIは、下記式(45)により、理論気筒吸入空気量GAIRSTDに設定される。よって体積効率ηvの初期値は「1」となる(式(17)参照)。
GAIRCYLNINI=GAIRSTD
=PBA×Vcyl/(R×TAK) (45)
【0087】
ステップS22では、算出された体積効率ηvを前記式(16)に適用し、遅れ係数CGACYLを算出する。ステップS23では、算出された遅れ係数CGACYLを前記式(15a)に適用し、気筒吸入空気量GAIRCYLN(k)を算出する。
【0088】
ステップS24では、下記式(46)により予測スロットル弁通過空気流量HGAIRTHP(k)を算出する。式(46)のKPは、実験により設定される所定予測ゲインである。
HGAIRTHP(k)=HGAIRTH(k)
+{HGAIRTH(k)−HGAIRTH(k-1)}×KP (46)
【0089】
ステップS25では、下記式(47)により予測気筒吸入空気量GAIRCYLP(k)を算出する。式(47)は、式(15a)と同形式の吸気管モデル式であり、式(15a)のGAIRCYLN(k-1)及びHGAIRTH(k)を、それぞれGAIRCYLN(k)及びHGAIRTHP(k)に代えたものである。
GAIRCYLP(k)=(1−CGACYL)×GAIRCYLN(k)
+CGACYL×HGAIRTHP(k) (47)
【0090】
図9は、図2のモデル補正係数算出部53において、短期モデル補正係数KMDLS及び長期モデル補正係数KMDLLを算出する処理のフローチャートである。この処理は、ECU5のCPUで、演算周期TSで実行される。
ステップS101では、前記式(1)を用いて推定吸入空気流量HGAIRを算出する。ステップS102では、推定吸入空気流量HGAIRに応じて図10(a)に示すTNテーブルを検索し、無駄時間TNを算出するとともに、推定吸入空気流量HGAIRに応じて図10(b)に示すTDテーブルを検索し、遅れ時定数TDを算出する。なお、無駄時間TN及び遅れ時定数TDは、検出される吸入空気流量GAIRに応じて算出するようにしてもよい。
【0091】
ステップS103では、スロットル弁開度THを式(36)に適用して、誤差パラメータKTHERRCORを算出し、その誤差パラメータKTHERRCORを式(38)に適用することにより、長期モデル補正係数KMDLLを算出する。
【0092】
ステップS104では、長期モデル補正係数KMDLL及び推定吸入空気流量HGAIRを式(41)に適用し、第1補正推定吸入空気流量HGAIRLを算出する。ステップS105では、第1補正推定吸入空気流量HGAIRLを式(34a)に適用して、遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRLAFMを算出し、ステップS106では、遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRLAFMを式(32)に適用して、補正モデル化誤差係数KTHERRSを算出し、ステップS107では、補正モデル化誤差係数KTHERRSを式(33)に適用して、短期モデル補正係数KMDLSを算出する。
【0093】
図11は、モデルパラメータAを算出する学習処理のフローチャートである。この処理は、ECU5のCPUで、演算周期TSで実行される。
ステップS110では、学習実行フラグFLEARNが「1」であるか否かを判別する。学習実行フラグFLEARNは、エンジン1の今回の運転開始(エンジン始動)時点からの走行距離DISTが所定値DLEARN未満であるとき「1」に設定される。
【0094】
ステップS110の答が否定(NO)であるときは、直ちに処理を終了する。学習実行フラグFLEARNが「1」であるときは、ステップS111〜S116の学習処理を実行する。ステップS111及びS112における演算は、図9のステップS101及びS102における演算と同一である。
【0095】
ステップS113では、式(34)により遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRAFMを算出し、算出した遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRAFM及び検出吸入空気流量GAIRを式(31)に適用して、モデル化誤差係数KTHERRを算出する(ステップS114)。
【0096】
ステップS115では、スロットル弁開度THが所定開度THBより小さいか否かを判別し、その答が肯定(YES)であるときは図12に示す同定演算を実行し(ステップS116)、スロットル弁開度THが所定開度THB以上であるときは直ちに処理を終了する。
【0097】
図12は図11のステップS116で実行される同定演算処理のフローチャートである。
ステップS140では、モデル化誤差係数KTHERRから「1」を減算して、誤差パラメータKTHERRCORを算出する。S141〜S143では、スロットル弁開度THが、所定開度TH1〜TH3(TH1<TH2<TH3)によって定義される第1〜第4領域のいずれにあるかを判別し、スロットル弁開度THが第1領域(TH<TH1)にあるときは領域パラメータnを「1」に設定し(ステップS144)、スロットル弁開度THが第2領域(TH1≦TH<TH2)にあるときは領域パラメータnを「2」に設定し(ステップS145)、スロットル弁開度THが第3領域(TH2≦TH<TH3)にあるときは領域パラメータnを「3」に設定し(ステップS146)、スロットル弁開度THが第4領域(TH3≦TH)にあるときは領域パラメータnを「4」に設定する(ステップS147)。
【0098】
ステップS148では、下記式(61)により第n領域の分母積算値XXXX[n]を算出する。分母積算値XXXX[n]は、式(37)の分母に対応するものであり、式(61)のXXXX[n]zは、分母積算値XXXX[n]の前回算出値である。
XXXX[n]=XXXX[n]z+(TH−THB)4 (61)
【0099】
ステップS149では、分子積算値XXY[n]を下記式(62)により算出する。分子積算値XXY[n]は、式(37)の分子に対応するものであり、式(62)のXXY[n]zは、分子積算値XXY[n]の前回算出値である。
XXY[n]=XXY[n]z+KTHERRCOR×(TH−THB)2 (62)
【0100】
ステップS150では、第n領域のサンプリング数NSAMPL[n]を「1」だけインクリメントする(前回値NSAMPL[n]zに「1」を加算する)。ステップS151では、下記式(63)により、分母加重平均値XXXXTTLを算出する。式(63)によれば、4つの領域毎に算出される分母平均値を、均等の重み付けで加算することにより、分母加重平均値XXXXTTLが算出される。
【数6】
【0101】
ステップS152では、下記式(64)により、分子加重平均値XXYTTLを算出する。式(64)によれば、4つの領域毎に算出される分子平均値を、均等の重み付けで加算することにより、分子加重平均値XXYTTLが算出される。
【数7】
【0102】
ステップS153では、分子加重平均値XXYTTLを分母加重平均値XXXXTTLで除算することにより、モデルパラメータAを算出する。
【0103】
図12に示す処理によれば、スロットル弁開度THの変化範囲が4つの領域に分割され、各領域毎の分子平均値を、均等の重み付けで加算することにより、分子加重平均値XXYTTLが算出されるとともに、各領域毎の分母平均値を、均等の重み付けで加算することにより、分母加重平均値XXXXTTLが算出され、分子加重平均値XXYTTLを分母加重平均値XXXXTTLで除算してモデルパラメータAが算出される。これにより、サンプリングされるスロットル弁開度THの値に偏りがある場合でも、高い精度を確保することができる。
【0104】
図12の処理により算出されるモデルパラメータAは、エンジン運転期間(エンジン始動時点からイグニッションスイッチがオフされるまでの期間)の終了時点でメモリに格納され、次のエンジン運転期間において式(36)の演算に適用される。
【0105】
図13は、図2の目標気筒吸入空気量算出部54、リミット処理部55、目標スロットル弁通過空気流量算出部56、及び目標開度算出部57における処理のフローチャートである。
【0106】
ステップS31では、アクセルペダル操作量AP及びエンジン回転数NEに応じて目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDを算出する。ステップS32では、図14に示すリミット処理を実行し、目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDを、上限値GAIRCYLLMH及び下限値GAIRCYLLMLの範囲内の値に制限する。
【0107】
ステップS33では、吸気管モデル式の逆モデル式(式(24))にリミット処理後の目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMD(k)及びGAIRCYLCMD(k-1)を適用し、目標スロットル弁通過空気流量GAIRTHCMD(k)を算出する。
【0108】
ステップS34では、目標スロットル弁通過空気流量GAIRTHCMD(k)[g/TDC]を下記式(65)に適用し、目標吸入空気流量GAIRCMD(k)[g/sec]に変換する。
GAIRCMD(k)=GAIRTHCMD(k)×NE/KCV (65)
【0109】
ステップS35では、目標吸入空気流量GAIRCMD(k)を前記式(25)に適用し、補正目標吸入空気流量GAIRCMDC(k)を算出する。ステップS36では、式(21)の「HGAIR」として補正目標吸入空気流量GAIRCMDC(k)を適用し、開口面積流量関数値KTH(TH)を算出する。ステップS37では、ステップS36で算出した開口面積流量関数値KTH(TH)に応じて、図7(a)に示す開口面積流量関数テーブルを逆検索し、目標開度THCMD(k)を算出する(式(26)の演算を行う)。
【0110】
図14は、図13のステップS32におけるリミット処理のフローチャートである。
ステップS41では、スロットル弁3を駆動するアクチュエータ7の電源電圧VBDBWに応じて、スロットル弁開度の単位時間当たりの最大変化量DTHlmt[deg/ms]を算出し、スロットル弁3の制御周期TCTL(例えば2ms)当たりの最大変化量DTHLMT[deg/TCTL]に変換する。なお、最大変化量DTHLMTは、予め設定した値を用いてもよい。
【0111】
ステップS42では、検出スロットル弁開度TH及び最大変化量DTHLMTを下記式(66)に適用し、基本開き側限界値THOFHBを算出する。式(66)は、THMAXと(TH+DTHLMT)の小さい方を選択する演算を行うものであり、THMAXは所定最大開度(例えば85deg)である。
THOFHB=Min(THMAX,TH+DTHLMT) (66)
【0112】
ステップS43では、検出スロットル弁開度TH及び最大変化量DTHLMTを下記式(67)に適用し、基本閉じ側限界値THOFLBを算出する。式(67)は、THMINと(TH−DTHLMT)の大きい方を選択する演算を行うものであり、THMINは所定最小開度(例えば0.5deg)である。
THOFLB=Max(THMIN,TH−DTHLMT) (67)
【0113】
ステップS44では、検出スロットル弁開度TH及び基本開き側限界値THOFHBを下記式(68)に適用し、開き側限界値THOFHを算出する。式(68)のCTHADDは、0から1の間の値に設定される開き側なまし係数である。
THOFH=TH+CTHADD×(THOFHB−TH) (68)
【0114】
ステップS45では、検出スロットル弁開度TH及び基本閉じ側限界値THOFLBを下記式(69)に適用し、閉じ側限界値THOFLを算出する。式(69)のCTHDECは、0から1の間の値に設定される閉じ側なまし係数である。
THOFL=TH+CTHDEC×(THOFLB−TH) (69)
【0115】
閉じ側なまし係数CTHDECは、開き側なまし係数CTHADDより大きな値に設定され、かつなまし係数CTHDEC及びCTHADDは、ともに制御周期TCTLが長くなるほどより大きな値をとるように設定される。
【0116】
ステップS46では、開き側限界値THOFH及び閉じ側限界値THOFLを、弁通過空気流量モデル式(式(1))に適用し、対応する上限吸入空気流量GAIRLMH[g/sec]及び下限吸入空気流量GAIRLML[g/sec]を算出する。さらに上限吸入空気流量GAIRLMH及び下限吸入空気流量GAIRLMLを下記式(70)及び(71)に適用し、補正上限吸入空気流量GAIRLMHLS及び補正下限吸入空気流量GAIRLMLLSを算出する。
GAIRLMHLS=GAIRLMH×KMDLL×KMDLS (70)
GAIRLMLLS=GAIRLML×KMDLL×KMDLS (71)
【0117】
ステップS47では、補正上限吸入空気流量GAIRLMHLS[g/sec]及び補正下限吸入空気流量GAIRLMLLS[g/sec]に(KCV/NE)を乗算して、上限スロットル弁通過空気流量GAIRTHLMH[g/TDC]及び下限スロットル弁通過空気流量GAIRTHLML[g/TDC]を算出する。
【0118】
ステップS48では、上限スロットル弁通過空気流量GAIRTHLMH及び下限スロットル弁通過空気流量GAIRTHLMLを吸気管モデル式(式(15a))に適用し、上限気筒吸入空気量GAIRCYLLMH及び下限気筒吸入空気量GAIRCYLLMLを算出する。
【0119】
ステップS49では、目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDが上限気筒吸入空気量GAIRCYLLMHより大きいか否かを判別し、その答が肯定(YES)であるときは、目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDを上限気筒吸入空気量GAIRCYLLMHに設定し(ステップS50)、ステップS51に進む。ステップS49の答が否定(NO)であるときは直ちにステップS51に進む。
【0120】
ステップS51では、目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDが下限気筒吸入空気量GAIRCYLLMLより小さいか否かを判別し、その答が肯定(YES)であるときは、目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDを下限気筒吸入空気量GAIRCYLLMLに設定し(ステップS52)、処理を終了する。ステップS51の答が否定(NO)であるときは直ちに処理を終了する。
【0121】
以上のように本実施形態では、スロットル弁開度と該スロットル弁を通過する空気の流量との関係をモデル化した弁通過空気流量モデル式(1)に検出されるスロットル弁開度THを適用して、推定吸入空気流量HGAIRが算出され、弁通過空気流量モデル式(1)のモデル化誤差を示すモデル化誤差係数KTHERR及び補正モデル化誤差係数KTHERRSが、検出される吸入空気流量GAIRを用いて算出される。さらに補正モデル化誤差係数KTHERRSの逆数を平均化することにより、短期モデル補正係数KMDLSが算出されるとともに、モデル化誤差係数KTHERRRと検出スロットル弁開度THとの相関関係を用いて、長期モデル補正係数KMDLLが算出される。さらに短期モデル補正係数KMDLS及び長期モデル補正係数KMDLLを用いて推定吸入空気流量HGAIRを補正して第2補正推定吸入空気流量HGAIRLSが算出され、第2補正推定吸入空気流量HGAIRLSが、予測気筒吸入空気量GAIRCYLPの算出、ひいては燃料噴射量及び点火時期の算出に適用される。したがって、スロットル弁の特性ばらつきや経時変化、有効吸気管断面積の減少、運転環境の変化、あるいはセンサの温度特性などに起因する弁通過空気流量モデルのモデル化誤差を抑制し、良好な制御性能を得ることができる。
【0122】
また検出吸入空気流量GAIRと、遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRAFMとの比率を示すパラメータとして、モデル化誤差係数KTHERRが定義されるとともに、検出吸入空気流量GAIRと、遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRLAFMとの比率を示すパラメータとして、補正モデル化誤差係数KTHERRSが定義されるので、弁通過空気流量モデル式のモデル化誤差をモデル化誤差係数KTHERR及び補正モデル化誤差係数KTHERRSにより直接的に把握し、長期モデル補正係数KMDLL及び短期モデル補正係数KMDLSに反映させることができる。
【0123】
また長期モデル補正係数KMDLLを用いて推定吸入空気流量HGAIRを補正して第1補正推定吸入空気流量HGAIRLが算出され、さらに第1補正推定吸入空気流量HGAIRLについて吸入空気流量センサの検出遅れ補正を行って遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRLAFMが算出され、検出される吸入空気流量GAIRと遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRLAFMとの比率を示す補正モデル化誤差係数KTHERRSが算出される。長期モデル補正係数KMDLLには、スロットル弁開度THとモデル化誤差との相関関係が反映されるので、スロットル弁開度THに依存して変化するモデル化誤差(比較的長期間の経時変化)を長期モデル補正係数KMDLLによって補正することができる。したがって、長期モデル補正係数KMDLLによって補正された第1補正推定吸入空気流量HGAIRLを用いて補正モデル化誤差係数KTHERRSを算出し、補正モデル化誤差係数KTHERRSを用いて短期モデル補正係数KMDLSを算出することにより、スロットル弁開度THに依存する長期的なモデル化誤差の影響を除いたモデル化誤差を、短期モデル補正係数KMDLSによって補正することができる。
【0124】
また吸入空気流量センサ13をモデル化したAFMモデルを定義する式(34)に、推定吸入空気流量HGAIRを適用して、遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRAFM及びHGAIRLAFMが算出され、遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRAFM及びHGAIRLAFMを用いてモデル化誤差係数KTHERR及びKTHERRSが算出されるので、吸入空気流量センサ13における検出遅れの影響を排除して、正確なモデル化誤差係数KTHERR及びKTHERRSを得、ひいては正確なモデル補正係数KMDLL及びKMDLSを得ることができる。
【0125】
また長期モデル補正係数KMDLLは、前回のエンジン運転期間中に同定されたモデルパラメータAを用いて算出されるので、短期モデル補正係数KMDLSに比べて更新周期が長くなる。弁通過空気流量モデル式のモデル化誤差をスロットル弁開度の関数として正確に把握するためには、比較的長い学習期間を必要とするので、長期モデル補正係数KMDLLの更新周期を短期モデル補正係数KMDLSの更新周期より長く設定することにより、長期モデル補正係数KMDLLの算出精度を高めることができる。
【0126】
またモデル化誤差係数KTHERRとスロットル弁開度THとの相関関係を定義する誤差モデル式(36)のモデルパラメータAがエンジン制御実行中に同定され、同定されたモデルパラメータA及び誤差モデル式(36)を用いて長期モデル補正係数KMDLLが算出されるので、経時変化する相関関係を精度よく把握し、スロットル弁の全開度範囲に亘って正確な長期モデル補正係数KMDLLを得ることができる。
【0127】
また短期モデル補正係数KMDLS及び長期モデル補正係数KMDLLを用いて目標吸入空気流量GAIRCMDを補正して補正目標吸入空気流量GAIRCMDCが算出され、弁通過空気流量モデル式の逆モデル式(22)に補正目標吸入空気流量GAIRCMDCを適用してスロットル弁の目標開度THCMDが算出され、目標開度THCMDに応じてスロットル弁の開度THが制御される。したがって、弁通過空気流量モデル式のモデル化誤差の影響を排除して、必要な吸入空気流量を得るための目標開度THCMDを精度良く算出することができる。
【0128】
本実施形態では、スロットル弁開度センサ4及び吸入空気流量センサ13がそれぞれスロットル弁開度検出手段及び吸入空気流量検出手段に相当し、ECU5が吸入空気流量推定手段、誤差パラメータ算出手段、第1誤差補正値算出手段、第2誤差補正値算出手段、補正手段、誤差補正推定吸入空気流量算出手段、第1誤差パラメータ算出手段、第2誤差パラメータ算出手段、検出遅れ補正手段、第1モデルパラメータ値算出手段、第2モデルパラメータ値算出手段、同定手段、目標吸入空気流量算出手段、補正目標吸入空気流量算出手段、目標開度算出手段、スロットル弁開度制御手段、及び誤差補正値算出手段を構成する。
【0129】
具体的には、図6のステップS13が吸入空気流量推定手段に相当し、図9のステップS106が第1誤差パラメータ算出手段に相当し、図11のステップS111〜S114が第2誤差パラメータ算出手段に相当し、図9のステップSS107が第1誤差補正値算出手段に相当し、図9のステップS103が第2誤差補正値算出手段(誤差補正値算出手段)に相当し、図6のステップS14が補正手段及び誤差補正推定吸入空気流量算出手段に相当する。また、図9のステップS102及びS105、並びに図11のステップS112及びS113が検出遅れ補正手段に相当し、図12の処理が同定手段に相当し、図13のステップS31〜S34が目標吸入空気流量算出手段に相当し、ステップS35が補正目標吸入空気流量算出手段に相当し、ステップS36及びS37が目標開度算出手段に相当する。
【0130】
[変形例1]
上述した実施形態では、長期モデル補正係数KMDLLの算出に適用するモデル化誤差係数KTHERRを、遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRAFMを用いて算出するようにしたが(式(31))、定常的なエンジン運転状態においてモデルパラメータAの学習を行うことにより、吸入空気流量センサ13の検出遅れの影響を排除することができる。したがって、遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRAFMに代えて、検出遅れ補正を行わない推定吸入空気流量HGAIRを用いてモデル化誤差係数KTHERRを算出するようにしてもよい。
【0131】
[変形例2]
上述した実施形態では、モデルパラメータAの算出に適用される分母加重平均値XXXTTL及び分子加重平均値XXYTTLを、それぞれ式(63)及び(64)により算出するようにしたが、これらの数式に代えて、下記式(63a)及び(64a)を用いて算出するようにしてもよい。
【0132】
【数8】
【数9】
【0133】
式(63a)及び(64a)のKG1〜KG4は、重み係数であり下記式(72)及び(73)を満たすように設定される。
KG1>KG2>KG3>KG4 (72)
KG1+KG2+KG3+KG4=1 (73)
【0134】
弁通過空気流量モデル式のモデル化誤差は、図5に示したように、スロットル弁開度THが低下するほど増加する傾向がある。したがって、式(72)を満たすように設定される重み係数KG1〜KG4を用いることにより、モデルパラメータAの同定演算に上記傾向を適切に反映させ、長期モデル補正係数KMDLLの算出精度を高めることができる。
なお、重み係数KG1〜KG4は、これらのうちいずれかが同じ値となるように設定してもよい。
【0135】
[変形例3]
上述した実施形態では、補正モデル化誤差係数KTHERRSを式(33)に適用して、短期モデル補正係数KMDLSを算出するようにしたが、これに代えて補正モデル化誤差係数KTHERRSを下記式(33a)に適用して、なまし演算を行うことにより、平均化誤差係数KTHERRSAVを算出し、平均化誤差係数KTHERRSAVの逆数を短期モデル補正係数KMDLSをして算出するようにしてもよい(式(33b))。
KTHERRSAV(j)=CS×KTHERRS
+(1−CS)×KTHERRSAV(j-1) (33a)
KMDLS=1/KTHERRSAV(j) (33b)
なお、式(33)及び(33a)によるなまし演算は、補正モデル化誤差係数KTHERRSの最新の所定数の算出値を用いた移動平均化演算に代えてもよい。
【0136】
[変形例4]
上述した実施形態では、短期モデル補正係数KMLDSの算出に適用されるモデル化誤差補正係数KTHERRSを、遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRLAFMを用いて算出するようにしたが(式(32))、定常的なエンジン運転状態において短期モデル補正係数KMLDSの更新を行うことにより、吸入空気流量センサ13の検出遅れの影響を排除することができる。したがって、遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRLAFMに代えて、検出遅れ補正を行わない第1補正推定吸入空気流量HGAIRLを用いて補正モデル化誤差係数KTHERRSを算出するようにしてもよい。
【0137】
[変形例5]
上述した実施形態では、式(31)及び(32)を用いて検出値(GAIR)を推定値(HGAIRAFM,HGAIRLAFM)で除算する形式でモデル化誤差係数KTHERR及び補正モデル化誤差係数KTHERRSを定義したが、逆に推定値を検出値で除算する形式で定義するようにしてもよい。その場合には、短期モデル補正係数KMDLSは、変形例3における平均化誤差係数KTHERRSAVと等しくなり、長期モデル補正係数KMDLLはモデル化誤差係数KTHERRと等しくなる。
【0138】
[第2の実施形態]
本実施形態は、第1の実施形態におけるモデル化誤差係数KTHERRの算出手法を変更したものである。以下に説明する点以外は、第1の実施形態と同一である。
【0139】
モデル化誤差係数KTHERRは、第1の実施形態の変形例1に示したように吸入空気流量センサ13の検出遅れ補正を行わない場合には、下記式(31a)で定義される。
KTHERR=GAIR/HGAIR (31a)
式(31a)に弁通過空気流量モデル式(1)を適用すると、下記式(81)が得られる。
【数10】
【0140】
式(81)の分子は、式(1)を下記式(1a)に変形し、「HGAIR」に代えて検出吸入空気流量GAIRを適用したものに相当する。
【数11】
【0141】
そこで、本実施形態では、式(81)の分母、すなわちスロットル弁開度THに応じてKTHテーブル(図7(a))を検索することにより算出される開口面積流量関数値KTH(TH)を「第1モデルパラメータ値KTH(TH)」と定義し、式(81)の分子、すなわち式(1a)に検出吸入空気流量GAIRを適用して算出される開口面積流量関数値を「第2モデルパラメータ値KTHGAIR」と定義する。これにより、モデル化誤差係数KTHERRは、下記式(82)により第1モデルパラメータ値KTH(TH)と、第2モデルパラメータ値KTHGAIRとの比率で定義される。
KTHERR=KTHGAIR/KTH(TH) (82)
【0142】
本実施形態によれば、推定吸入空気流量HGAIRを算出することなく、モデル化誤差係数KTHERRを算出することができ、したがって長期モデル補正係数KMDLLを算出することができる。
【0143】
本実施形態におけるECU5が第1モデルパラメータ値算出手段及び第2モデルパラメータ値算出手段を構成する。
【0144】
[変形例]
第2の実施形態において、短期モデル補正係数KMDLSを使用しないようにしてもよい(演算式中の「KMDLS」をすべて「1」とする)。その場合、目標開度THCMDの算出に適用する補正目標吸入空気流量GAIRCMDCは、下記式(83)で与えられる。
GAIRCMDC=GAIRCMD/KMDLL (83)
【0145】
したがって、本変形例によれば、推定吸入空気流量HGAIRを算出することなく、スロットル弁の目標開度THCMDを算出することが可能となる。
[第3の実施形態]
本実施形態は、第1の実施形態における長期モデル補正係数KMDLLの算出手法を変更したものである。以下に説明する点以外は第1の実施形態と同一である。
第1の実施形態では、スロットル弁開度THを式(36)に適用して誤差パラメータKTHERRCORを算出したが、本実施形態では、式(36)で示される関係をKTHERRCORテーブルとして設定し、テーブル検索により誤差パラメータKTHERRCORを算出するようにしたものである。
【0146】
図15は、KTHERRCORテーブルを表形式で示す図である。KTHERRCORテーブルには、スロットル弁開度THについて1[deg]から(THB−1)[deg]に対応して、テーブル設定値KTHERRCOR[1],KTHERRCOR[2],…,KTHERRCOR[THB-1](KTHERRCOR[p],p=1〜(THB−1))が設定され、所定開度THBに対応して「1」が設定されている。
【0147】
図16は、KTHERRCORテーブルを更新する処理のフローチャートである。この処理は、ECU5のCPUで演算周期TSで実行される。
ステップS161〜S165は、図11のステップS111〜S115と同一である。
ステップS166では、図17に示す設定値更新処理を実行し、テーブル設定値KTHERRCOR[p](p=1〜(THB−1))の更新を行う。
【0148】
図17のステップS171では、図16のステップS164で算出されたモデル化誤差係数KTHERRから「1」を減算して誤差パラメータKTHERRCORを算出する。ステップS172では、スロットル弁開度THに応じて更新すべきテーブル設定値KTHERRCOR[pS]を選択する。例えばスロットル弁開度THが0.3[deg]であるときは、テーブル設定値KTHERRCOR[1](pS=1)が選択され、スロットル弁開度THが1.8[deg]であるときは、テーブル設定値KTHERRCOR[2](pS=2)が選択される。
【0149】
ステップS173では、更新すべきテーブル設定値KTHERRCOR[pS]の算出に適用されたデータ数NDATA[pS]を「1」だけインクリメントする。NDATA[pS]zは、前回更新時のデータ数である。ステップS174では、ステップS171で算出した誤差パラメータKTHERRCORを下記式(101)に適用し、テーブル設定値KTHERRCOR[pS]の更新を行う。式(101)のKTHERRCOR[pS]zは、更新前のテーブル設定値である。
【数12】
【0150】
図17の処理により、テーブル設定値KTHERRCOR[p]の更新を行うことにより、スロットル弁開度THの1[deg]から(THB−1)[deg]までの範囲において、テーブルの設定格子点(TH=1,2,…,(THB−1))毎に設定値の更新が行われ、更新回数が増加するほど各格子点におけるテーブル設定値KTHERRCOR[p]の精度を高め、長期モデル補正係数KMDLLの算出精度を高めることができる。
【0151】
[変形例]
第4の実施形態では、誤差パラメータKTHERRCORが設定されたKTHERRCORテーブルを使用するようにしたが、誤差パラメータKTHERRCORに代えて長期モデル補正係数KMDLLが設定されたKMDLLテーブルを使用し、KMDLLテーブルの設定値を更新するようにしてもよい。
【0152】
また、KTHERRCORテーブルにおけるスロットル弁開度THの格子点は1[deg]間隔で設定したが、これに限るものではなく、1[deg]より大きい間隔または小さい間隔で設定するようにしてもよい。
【0153】
なお本発明は上述した第1〜第3実施形態に限るものではなく、種々の他の変形が可能である。例えば、上述した実施形態では、上限気筒吸入空気量GAIRCYLLMH及び下限気筒吸入空気量GAIRCYLLMLを用いてリミット処理を行うようにしたが、例えばエンジンの加速時は上限気筒吸入空気量GAIRCYLLMHのみを用いてリミット処理を行い、減速時は下限気筒吸入空気量GAIRCYLLMLのみを用いてリミット処理を行うようにしてもよい。
【0154】
また上述した実施形態では、気筒吸入空気量GAIRCYLN及び予測気筒吸入空気量GAIRCYLPの算出には、推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTHを使用したが、吸入空気流量センサ13により検出される吸入空気流量GAIR[g/sec]を1TDC期間毎の流量に変換した検出スロットル弁通過空気流量GAIRTHを使用するようにしてもよい。
【0155】
また、上述した実施形態では大気圧センサ33により検出した大気圧PAを用いて推定吸入空気流量HGAIRを算出するようにしたが、公知の大気圧推定手法(例えば米国特許第6016460号公報参照)を用いて算出した推定大気圧HPAを用いて推定吸入空気流量HGAIRを算出するようにしてもよい。
【0156】
また上述した実施形態では、本発明をガソリン内燃エンジンに適用した例を示したが、本発明はディーゼル内燃エンジンにも適用可能である。また本発明は、クランク軸を鉛直方向とした船外機などのような船舶推進機用エンジンなどにも適用が可能である。
【符号の説明】
【0157】
1 内燃機関
2 吸気管
3 スロットル弁
4 スロットル弁開度センサ(スロットル弁開度検出手段)
5 電子制御ユニット(吸入空気流量推定手段、誤差パラメータ算出手段、第1誤差補正値算出手段、第2誤差補正値算出手段、補正手段、誤差補正推定吸入空気流量算出手段、第1誤差パラメータ算出手段、第2誤差パラメータ算出手段、検出遅れ補正手段、第1モデルパラメータ値算出手段、第2モデルパラメータ値算出手段、同定手段、目標吸入空気流量算出手段、補正目標吸入空気流量算出手段、目標開度算出手段、スロットル弁開度制御手段、誤差補正値算出手段)
13 吸入空気流量センサ(吸入空気流量検出手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関し、特に機関吸気系をモデル化した吸気系モデルを用いて機関の吸入空気量に関連する制御パラメータ(スロットル弁の目標開度、燃料供給量、点火時期)を算出する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、アクセルペダル操作量に応じて機関の目標吸入空気量を算出し、目標吸入空気量を吸気系モデルを用いて目標吸気圧に変換し、得られた目標吸気圧に基づいて機関の吸入空気量を制御する制御装置が示されている。この制御装置において使用される吸気系モデルは、気体状態方程式に基づく数式で定義されており、このモデル定義式は、学習値Knを乗算係数として含む。学習値Knは、ベース値Knbaseを平均化することにより算出され、ベース値Knbaseは、実吸気圧Pactと実吸入空気量Gactとの比(Pact/Gact)に基づいて、モデル化誤差を補正するように算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−309993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
機関の吸気圧は、吸気管に設けられるスロットル弁の下流側の圧力であり、スロットル弁開度が変化することにより変化するパラメータである。ところが、特許文献1に示された制御装置では、スロットル弁開度を含まない吸気系モデル式を用いているため、スロットル弁開度変化の影響が適切に反映されず、目標吸気圧の算出精度が低いという課題がある。特に、機関の過渡運転状態のようにスロットル弁開度が変化する運転状態では、算出精度の低下度合がより大きくなる。
【0005】
本発明はこの点に着目してなされたものであり、スロットル弁を備える機関の吸気系をより適切にモデル化するとともに、得られたモデルのモデル化誤差を適切に補正することにより、吸入空気量に関連する制御パラメータを高い精度で算出することができる内燃機関の制御装置を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、内燃機関の吸気管(2)に設けられたスロットル弁(3)の開度(TH)を検出するスロットル弁開度検出手段(4)と、前記スロットル弁を通過する空気の流量である吸入空気流量(GAIR)を検出する吸入空気流量検出手段(13)とを備える内燃機関の制御装置において、前記スロットル弁の開度と該スロットル弁を通過する空気の流量との関係をモデル化した弁通過空気流量モデル式に前記スロットル弁開度(TH)を適用して、前記吸入空気流量の推定値である推定吸入空気流量(HGAIR)を算出する吸入空気流量推定手段と、前記弁通過空気流量モデル式のモデル化誤差を示す誤差パラメータ(KTHERR,KTHERRS)を、検出される吸入空気流量(GAIR)を用いて算出する誤差パラメータ算出手段と、前記誤差パラメータ(KTHERRS)を平均化することにより、前記モデル化誤差を補正するための第1誤差補正値(KMDLS)を算出する第1誤差補正値算出手段と、前記誤差パラメータ(KTHERR)と前記スロットル弁開度(TH)との相関関係を用いて、前記モデル化誤差を補正するための第2誤差補正値(KMDLL)を算出する第2誤差補正値算出手段と、前記第1及び第2誤差補正値(KMDLS,KMDLL)を用いて前記推定吸入空気流量(HGAIR)を補正し、補正推定吸入空気流量(HGAIRLS)を算出する補正手段とを備え、前記補正推定吸入空気流量(HGAIRLS)を前記機関の制御パラメータの算出に適用することを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の制御装置において、前記誤差パラメータは、検出される吸入空気流量(GAIR)と前記推定吸入空気流量(HGAIR)との比率を示すパラメータであることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の制御装置において、前記誤差パラメータ算出手段は、前記第2誤差補正値(KMDLL)を用いて前記推定吸入空気流量(HGAIR)を補正し、誤差補正推定吸入空気流量(HGAIRL)を算出する誤差補正推定吸入空気流量算出手段と、検出される吸入空気流量(GAIR)と前記誤差補正推定吸入空気流量(HGAIRL)との比率を示す第1誤差パラメータ(KTHERRS)を算出する第1誤差パラメータ算出手段と、検出される吸入空気流量(GAIR)と前記推定吸入空気流量(HGAIR)との比率を示す第2誤差パラメータ(KTHERR)を算出する第2誤差パラメータ算出手段とを有し、前記第1誤差補正値算出手段は、前記第1誤差パラメータ(KTHERRS)を用いて前記第1誤差補正値(KMDLS)を算出し、前記第2誤差補正値算出手段は、前記第2誤差パラメータ(KTHERR)を用いて前記第2誤差補正値(KMDLL)を算出することを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の内燃機関の制御装置において、前記吸入空気流量検出手段(13)をモデル化した流量センサモデル式に、前記推定吸入空気流量(HGAIR)を適用して、遅れ補正推定吸入空気流量(HGAIRAFM)を算出する検出遅れ補正手段を備え、前記誤差パラメータ算出手段は、前記遅れ補正推定吸入空気流量(HGAIRAFM)を用いて前記誤差パラメータ(KTHERR)を算出することを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の制御装置において、前記誤差パラメータ算出手段は、前記弁通過空気流量モデル式に含まれる開口面積流量関数値を示す第1モデルパラメータ値(KTH(TH))を、前記スロットル弁開度(TH)に応じて算出する第1モデルパラメータ値算出手段と、前記弁通過空気流量モデル式に検出吸入空気流量(GAIR)を適用することにより、前記開口面積流量関数値を示す第2モデルパラメータ値(KTHGAIR)を算出する第2モデルパラメータ値算出手段とを有し、前記誤差パラメータ(KTHERR)は、前記第1モデルパラメータ値(KTH(TH))と第2モデルパラメータ値(KTHGAIR)の比率を示すパラメータであることを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項1から5の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置において、前記第2誤差補正値(KMDLL)の更新周期は、前記第1誤差補正値(KMDLS)の更新周期より長いことを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載の発明は、請求項1から6の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置において、前記第2誤差補正値算出手段は、前記相関関係を定義する誤差モデル式のモデルパラメータ(A)を同定する同定手段を有し、同定されたモデルパラメータ(A)及び前記誤差モデル式を用いて前記第2誤差補正値(KMDLL)を算出することを特徴とする。
【0013】
請求項8に記載の発明は、請求項1から7の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置において、前記吸入空気流量の目標値である目標吸入空気流量(GAIRCMD)を算出する目標吸入空気流量算出手段と、前記第1及び第2誤差補正値(KMDLS,KMDLL)を用いて前記目標吸入空気流量を補正し、補正目標吸入空気流量(GAIRCMDC)を算出する補正目標吸入空気流量算出手段と、前記弁通過空気流量モデル式の逆モデル式に前記補正目標吸入空気流量(GAIRCMDC)を適用して前記スロットル弁の目標開度(THCMD)を算出する目標開度算出手段とを備え、前記目標開度(THCMD)に応じて前記スロットル弁の開度を制御することを特徴とする。
【0014】
請求項9に記載の発明は、内燃機関の吸気管(2)に設けられたスロットル弁(3)の開度(TH)を検出するスロットル弁開度検出手段(4)と、前記スロットル弁を通過する空気の流量である吸入空気流量(GAIR)を検出する吸入空気流量検出手段(13)とを備える内燃機関の制御装置において、前記吸入空気流量の目標値である目標吸入空気流量(GAIRCMD)を算出する目標吸入空気流量算出手段と、前記スロットル弁の開度と該スロットル弁を通過する空気の流量との関係をモデル化した弁通過空気流量モデル式の逆モデル式を用いて、前記スロットル弁の目標開度(THCMD)を算出する目標開度算出手段と、前記目標開度(THCMD)に応じて前記スロットル弁の開度を制御するスロットル弁開度制御手段と、前記弁通過空気流量モデル式に含まれる開口面積流量関数値を示す第1モデルパラメータ値(KTH(TH))を、前記スロットル弁開度(TH)に応じて算出する第1モデルパラメータ値算出手段と、前記弁通過空気流量モデル式に検出吸入空気流量(GAIR)を適用することにより、前記開口面積流量関数値を示す第2モデルパラメータ値(KTHGAIR)を算出する第2モデルパラメータ値算出手段と、前記第1モデルパラメータ値(KTH(TH))と第2モデルパラメータ値(KTHGAIR)との比率を示す誤差パラメータ(KTHERR)と、前記スロットル弁の開度(TH)との相関関係を用いて、前記弁通過空気流量モデル式のモデル化誤差を補正する誤差補正値(KMDLL)を算出する誤差補正値算出手段と、前記目標吸入空気流量(GAIRCMD)を前記誤差補正値(KMDLL)により補正し、補正目標吸入空気流量(GAIRCMDC)を算出する補正目標吸入空気流量算出手段とを備え、前記目標開度算出手段は、前記補正目標吸入空気流量(GAIRCMDC)を前記逆モデル式に適用して、前記目標開度(THCMD)を算出することを特徴とする。
【0015】
請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の内燃機関の制御装置において、前記誤差補正値算出手段は、前記誤差パラメータとスロットル弁開度との相関関係を定義する誤差モデル式のモデルパラメータ(A)を同定する同定手段を有し、同定されたモデルパラメータ(A)及び前記誤差モデル式を用いて前記誤差補正値(KMDLL)を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明によれば、スロットル弁の開度と該スロットル弁を通過する空気の流量との関係をモデル化した弁通過空気流量モデル式に検出されるスロットル弁開度を適用して、推定吸入空気流量が算出され、弁通過空気流量モデル式のモデル化誤差を示す誤差パラメータが、検出される吸入空気流量を用いて算出される。さらに誤差パラメータを平均化することにより、モデル化誤差を補正するための第1誤差補正値が算出されるとともに、誤差パラメータと検出スロットル弁開度との相関関係を用いて、モデル化誤差を補正するための第2誤差補正値が算出される。第1及び第2誤差補正値を用いて推定吸入空気流量を補正して補正推定吸入空気流量が算出され、補正推定吸入空気流量が機関の制御パラメータの算出に適用される。したがって、スロットル弁の特性ばらつきや経時変化、有効吸気管断面積の減少、運転環境の変化、あるいはセンサの温度特性などに起因する弁通過空気流量モデルのモデル化誤差を抑制し、良好な制御性能を得ることができる。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、検出される吸入空気流量と推定吸入空気流量との比率を示すパラメータが誤差パラメータとして使用されるので、弁通過空気流量モデル式のモデル化誤差を誤差パラメータにより直接的に把握し、第1及び第2誤差補正値に反映させることができる。
【0018】
請求項3に記載の発明によれば、第2誤差補正値を用いて推定吸入空気流量を補正して誤差補正推定吸入空気流量が算出され、検出される吸入空気流量と誤差補正推定吸入空気流量との比率を示す第1誤差パラメータが算出されるとともに、検出される吸入空気流量と推定吸入空気流量との比率を示す第2誤差パラメータが算出される。第1誤差補正値は第1誤差パラメータを用いて算出され、第2誤差補正値は第2誤差パラメータを用いて算出される。第2誤差補正値には、スロットル弁開度とモデル化誤差との相関関係が反映されるので、スロットル弁開度に依存して変化するモデル化誤差(比較的長期間の経時変化)を第2誤差補正値によって補正することができる。したがって、第2誤差補正値によって補正された誤差補正推定吸入空気流量を用いて第1誤差パラメータを算出し、第1誤差パラメータを用いて第1誤差補正値を算出することにより、スロットル弁開度に依存するモデル化誤差の影響を除いたモデル化誤差を、第1誤差補正値によって補正することができる。
【0019】
請求項4に記載の発明によれば、吸入空気流量検出手段をモデル化した流量センサモデル式に、推定吸入空気流量を適用して、遅れ補正推定吸入空気流量が算出され、遅れ補正推定吸入空気流量を用いて誤差パラメータが算出されるので、吸入空気流量検出手段における検出遅れの影響を排除して、正確な誤差パラメータ、ひいては正確な誤差補正値を得ることができる。
【0020】
請求項5に記載の発明によれば、弁通過空気流量モデル式に含まれる開口面積流量関数値を示す第1モデルパラメータ値が、スロットル弁開度に応じて算出されるとともに、弁通過空気流量モデル式に検出吸入空気流量を適用することにより、開口面積流量関数値を示す第2モデルパラメータ値が算出され、誤差パラメータが、第1モデルパラメータ値と第2モデルパラメータ値の比率を示すパラメータとして算出される。弁通過空気流量モデル式のモデル化誤差は、主としてスロットル弁開度を有効開口面積に変換する開口面積流量関数の設定誤差と考えられるので、第1モデルパラメータ値と第2モデルパラメータ値との比率は、モデル化誤差を示す誤差パラメータとして使用することができる。
【0021】
請求項6に記載の発明によれば、第2誤差補正値の更新周期は、第1誤差補正値の更新周期より長く設定される。弁通過空気流量モデル式のモデル化誤差をスロットル弁開度の関数として正確に把握するためには、比較的長い学習期間を必要とする。したがって、第2誤差補正値の更新周期を第1誤差補正値の更新周期より長く設定することにより、第2誤差補正値の算出精度を高めることができる。
【0022】
請求項7に記載の発明によれば、誤差パラメータとスロットル弁開度との相関関係を定義する誤差モデル式のモデルパラメータが機関制御実行中に同定され、同定されたモデルパラメータ及び誤差モデル式を用いて第2誤差補正値が算出される。したがって、経時変化する相関関係を精度よく把握し、スロットル弁の全開度範囲に亘って正確な第2誤差補正値を得ることができる。
【0023】
請求項8に記載の発明によれば、第1及び第2誤差補正値を用いて目標吸入空気流量を補正して補正目標吸入空気流量が算出され、弁通過空気流量モデル式の逆モデル式に補正目標吸入空気流量を適用してスロットル弁の目標開度が算出され、目標開度に応じてスロットル弁の開度が制御される。したがって、弁通過空気流量モデル式のモデル化誤差の影響を排除して、必要な吸入空気流量を得るための目標開度を精度良く算出することができる。
【0024】
請求項9に記載の発明によれば、弁通過空気流量モデル式に含まれる開口面積流量関数値を示す第1モデルパラメータ値が、スロットル弁開度に応じて算出され、弁通過空気流量モデル式に検出吸入空気流量を適用することにより、開口面積流量関数値を示す第2モデルパラメータ値が算出され、第1モデルパラメータ値と第2モデルパラメータ値の比率を示す誤差パラメータと、スロットル弁開度との相関関係を用いて、弁通過空気流量モデル式のモデル化誤差を補正する誤差補正値が算出される。さらに目標吸入空気流量を誤差補正値により補正して、補正目標吸入空気流量が算出され、補正目標吸入空気流量を弁通過空気流量モデル式の逆モデル式に適用してスロットル弁の目標開度が算出される。したがって、スロットル弁の特性ばらつきや経時変化、有効吸気管断面積の減少、運転環境の変化、あるいはセンサの温度特性などに起因する弁通過空気流量モデルのモデル化誤差を抑制して、正確な目標開度を得、良好な吸入空気量制御性能を得ることができる。
【0025】
請求項10に記載の発明によれば、誤差パラメータとスロットル弁開度との相関関係を定義する誤差モデル式のモデルパラメータが機関制御実行中に同定され、同定されたモデルパラメータ及び誤差モデル式を用いて誤差補正値が算出される。したがって、経時変化する相関関係を精度よく把握し、スロットル弁の全開度範囲に亘って正確な誤差補正値を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態にかかる内燃機関及びその制御装置の構成を示す図である。
【図2】予測気筒吸入空気量(GAIRCYLP)及びスロットル弁の目標開度(THCMD)を算出するモジュールの構成を示す図である。
【図3】図1に示す内燃機関の構成を模式的に示す図である。
【図4】予測気筒吸入空気量(GAIRCYLP)の算出手法を説明するためのタイムチャートである。
【図5】スロットル弁開度(TH)と、モデルを用いて算出されるスロットル弁通過空気流量の誤差を示すパラメータ(KTHERR)との関係を示す図である。
【図6】推定スロットル弁通過空気流量(HGAIRTH)を算出する処理のフローチャートである。
【図7】図6の処理で参照されるテーブルを示す図である。
【図8】予測気筒吸入空気量(GAIRCYLP)を算出する処理のフローチャートである。
【図9】弁通過空気流量モデルのモデル化誤差を補正する係数(KMDLL,KMDLS)を算出する処理のフローチャートである。
【図10】図9の処理で参照されるテーブルを示す図である。
【図11】弁通過空気流量モデルのモデル化誤差を示す係数(KTHERR)と、スロットル弁開度(TH)との相関関係を示すモデルパラメータを算出する処理のフローチャートである。
【図12】図11の処理で実行される同定演算を行う処理のフローチャートである。
【図13】目標開度(THCMD)を算出する処理のフローチャートである。
【図14】図13の処理で実行されるリミット処理のフローチャートである。
【図15】本発明の第3の実施形態で使用されるテーブルを示す図である。
【図16】図15に示すテーブルを更新する処理のフローチャートである。
【図17】図16の処理で実行される設定更新処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
[第1の実施形態]
図1は、本発明の一実施形態にかかる内燃機関とその制御装置の構成を示す図であり、図1において、例えば4気筒を有する内燃機関(以下単に「エンジン」という)1は、吸気弁の作動位相を連続的に変更する弁作動特性可変機構40を備えている。
【0028】
エンジン1の吸気管2の途中にはスロットル弁3が配置されている。また、スロットル弁3にはその開度THを検出するスロットル弁開度センサ4が連結されており、スロットル弁開度THに応じた電気信号を出力して電子制御ユニット(以下(ECU)という)5に供給する。スロットル弁3には、スロットル弁3を駆動するアクチュエータ7が接続されており、アクチュエータ7は、ECU5によりその作動が制御される。
【0029】
吸気管2には、スロットル弁3を介してエンジン1に吸入される空気(新気)の流量である吸入空気流量GAIRを検出する吸入空気流量センサ13が設けられ、さらにスロットル弁3の上流側に吸気温TAを検出する吸気温センサ9が設けられている。これらのセンサ13及び9の検出信号は、ECU5に供給される。
【0030】
燃料噴射弁6はエンジン1とスロットル弁3との間かつ吸気管2の図示しない吸気弁の少し上流側に各気筒毎に設けられており、各噴射弁は図示しない燃料ポンプに接続されていると共にECU5に電気的に接続されて当該ECU5からの信号により燃料噴射弁6の開弁時間が制御される。
【0031】
エンジン1の各気筒の点火プラグ12は、ECU5に接続されており、ECU5は点火プラグ12に点火信号を供給し、点火時期制御を行う。
スロットル弁3の下流には吸気圧PBAを検出する吸気圧センサ8が取付けられている。またエンジン1の本体には、エンジン冷却水温TWを検出するエンジン冷却水温センサ10が取り付けられている。これらのセンサ8及び10の検出信号は、ECU5に供給される。
【0032】
ECU5には、エンジン1のクランク軸(図示せず)の回転角度を検出するクランク角度位置センサ11が接続されており、クランク軸の回転角度に応じた信号がECU5に供給される。クランク角度位置センサ11は、エンジン1の特定の気筒の所定クランク角度位置でパルス(以下「CYLパルス」という)を出力する気筒判別センサ、各気筒の吸入行程開始時の上死点(TDC)に関し所定クランク角度前のクランク角度位置で(4気筒エンジンではクランク角180度毎に)TDCパルスを出力するTDCセンサ及びTDCパルスより短い一定クランク角周期(例えば6度周期)で1パルス(以下「CRKパルス」という)を発生するCRKセンサから成り、CYLパルス、TDCパルス及びCRKパルスがECU5に供給される。これらのパルスは、燃料噴射時期、点火時期等の各種タイミング制御、エンジン回転数(エンジン回転速度)NEの検出に使用される。
【0033】
ECU5には、エンジン1によって駆動される車両のアクセルペダルの踏み込み量(以下「アクセルペダル操作量」という)APを検出するアクセルセンサ31、エンジン1により駆動される車両の走行速度(車速)VPを検出する車速センサ32、及び大気圧PAを検出する大気圧センサ33が接続されている。これらのセンサの検出信号は、ECU5に供給される。
【0034】
またエンジン1は排気還流機構(図示せず)を備えており、エンジン1の排気が吸気管2のスロットル弁3の下流側に還流される。
【0035】
ECU5は各種センサからの入力信号波形を整形し、電圧レベルを所定レベルに修正し、アナログ信号値をデジタル信号値に変換する等の機能を有する入力回路、中央演算処理ユニット(以下「CPU」という)、CPUで実行される演算プログラム及び演算結果等を記憶する記憶回路のほか、アクチュエータ7、燃料噴射弁6、点火プラグ12、弁作動特性可変機構40に駆動信号を供給する出力回路等から構成される。
【0036】
ECU5のCPUは、上記センサの検出信号に応じて、スロットル弁3の開度制御、エンジン1に供給する燃料量(燃料噴射弁6の開弁時間)の制御、点火時期制御、及び吸気弁の作動位相制御を行う。
【0037】
またECU5のCPUは、スロットル弁3を通過する空気流量の推定値(以下「推定スロットル弁通過空気流量」という)HGAIRTHを算出するとともに、推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTH、吸気圧PBA、及び吸気温TAに基づいてエンジン1の気筒に吸入される新気量である気筒吸入空気量GAIRCYLN[g/TDC](1TDC期間、すなわち4気筒エンジンであればエンジン1のクランク軸が180度回転するのに要する時間当たりの空気量)を算出する。
【0038】
さらにECU5のCPUは、スロットル弁3を通過する空気流量の1行程期間後の予測値(以下「予測スロットル弁通過空気流量」という)HGAIRTHPを算出するとともに、予測スロットル弁通過空気流量HGAIRTHP及び気筒吸入空気量GAIRCYLNを用いて、気筒吸入空気量GAIRCYLNの1行程期間後の予測値(以下「予測気筒吸入空気量」という)GAIRCYLPを算出する。算出した予測気筒吸入空気量GAIRCYLPは、燃料供給量や点火時期の制御に適用される。
【0039】
また、ECU5のCPUは、エンジン1の要求出力に応じた目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDを算出し、実際の気筒吸入空気量を目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDに制御するためのスロットル弁3の目標開度THCMDを算出し、検出されるスロットル弁開度THが目標開度THCMDと一致するように、アクチュエータ7の駆動制御を行う。
【0040】
図2は、予測気筒吸入空気量GAIRCYLP及び目標開度THCMDを算出するモジュールの構成を示すブロック図である。図2に示す各ブロックの機能は、ECU5のCPUによる演算処理により実現される。
【0041】
図2に示す演算モジュールは、スロットル弁通過空気流量算出部51と、予測気筒吸入空気量算出部52と、モデル補正係数算出部53と、目標気筒吸入空気量算出部54と、リミット処理部55と、目標スロットル弁通過空気流量算出部56と、目標開度算出部57とを備えている。
【0042】
スロットル弁通過空気流量算出部51は、検出されるスロットル弁開度THを、弁通過空気流量モデル式に適用して、推定吸入空気流量HGAIR[g/sec]を算出し、後述する長期モデル補正係数KMDLLを用いて推定吸入空気流量HGAIRを補正することにより、第1補正推定吸入空気流量HGAIRLを算出する。弁通過空気流量モデル式は、スロットル弁開度THと、スロットル弁3を通過する空気の流量との関係をモデル化したものである。
【0043】
スロットル弁通過空気流量算出部51は、さらに後述する短期モデル補正係数KMDLSを用いて第1補正推定吸入空気流量HGAIRLを補正することにより、第2補正推定吸入空気流量HGAIRLSを算出し、第2補正推定吸入空気流量HGAIRLS[g/sec]の単位変換を行って、推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTH[g/TDC]を算出する。
【0044】
予測気筒吸入空気量算出部52は、吸気管2(より具体的には吸気管2のスロットル弁下流側)をモデル化した吸気管モデル式に、推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTHを適用して、気筒吸入空気量GAIRCYLNを算出するとともに、推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTHを用いて予測スロットル弁通過空気流量HGAIRTHPを算出し、気筒吸入空気量GAIRCYLN及び予測スロットル弁通過空気流量HGAIRTHPを用いて、予測気筒吸入空気量GAIRCYLPを算出する。また、予測気筒吸入空気量算出部52は、吸気管モデル式のモデルパラメータの1つであるエンジン1の体積効率ηvを算出し、気筒吸入空気量GAIRCYLNの算出に適用する。算出される体積効率ηvは、目標スロットル弁通過空気流量算出部56における演算にも適用される。
【0045】
モデル補正係数算出部53は、検出される吸入空気流量GAIR、推定吸入空気流量HGAIR、及び第1補正推定吸入空気流量HGAIRLに基づいて、弁通過空気流量モデルのモデル化誤差を補正するための長期モデル補正係数KMDLL及び短期モデル補正係数KMDLSを算出する。長期モデル補正係数KMDLLは、スロットル弁3の特性ばらつき及び経時変化に起因する、弁通過空気流量モデルのモデル化誤差を補正するための補正係数であり、短期モデル補正係数KMDLSは、環境(例えば気温や大気圧など)の変化に起因する、弁通過空気流量モデルのモデル化誤差を補正するための補正係数である。
【0046】
目標気筒吸入空気量算出部54は、アクセルペダル操作量AP及びエンジン回転数NEに応じて、目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDを算出する。
【0047】
リミット処理部55は、スロットル弁開度の1制御周期で変更可能なスロットル弁開度変化量(最大変化量)DTHLMTと、検出されるスロットル弁開度TH(現在値)とに応じて、開き側限界値THOFH及び閉じ側限界値THOFLを算出し、スロットル弁開度を開き側限界値THOFH及び閉じ側限界値THOFLに設定したときのスロットル弁通過空気流量に相当する上限スロットル弁通過空気流量GAIRTHLMH及び下限スロットル弁通過空気流量GAIRTHLMLを算出する。この演算には、弁通過空気流量モデル式が適用され、長期モデル補正係数KMDLL及び短期モデル補正係数KMDLSが使用される。
【0048】
リミット処理部55は、さらに上限スロットル弁通過空気流量GAIRTHLMH及び下限スロットル弁通過空気流量GAIRTHLMLに対応する上限気筒吸入空気量GAIRCYLHMH及び下限気筒吸入空気量GAIRCYLHMLを算出し、目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDが上限気筒吸入空気量GAIRCYLHMH及び下限気筒吸入空気量GAIRCYLHMLで定義される制限範囲内の値をとるようにリミット処理を行う。
【0049】
目標スロットル弁通過空気流量算出部56は、リミット処理後の目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDを吸気管モデル式の逆モデル式に適用し、目標スロットル弁通過空気流量GAIRTHCMDを算出する。
【0050】
目標開度算出部57は、目標スロットル弁通過空気流量GAIRTHCMDを弁通過空気流量モデル式の逆モデル式に適用し、目標開度THCMDを算出する。この演算には、長期モデル補正係数KMDLL及び短期モデル補正係数KMDLSが適用される。
【0051】
次に、スロットル弁通過空気流量算出部51における推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTHの算出手法と、予測気筒吸入空気量算出部52における予測スロットル弁通過空気流量HGAIRTHP、気筒吸入空気量GAIRCYLN、及び予測気筒吸入空気量GAIRCYLPの算出手法とを詳細に説明する。
【0052】
図3はエンジン1を模式的に示す図であり、スロットル弁3,吸気弁21、排気弁22、及び気筒1aが示されている。
スロットル弁3の開度THと、スロットル弁通過空気流量(吸入空気流量GAIR)の推定値HGAIR[g/sec]との関係は、弁通過空気流量モデルを定義する下記式(1)で表すことができる。式(1)のKCは流量の単位を[g/sec]とするための変換定数であり、KTH(TH)はスロットル弁開度THに応じて算出される開口面積流量関数であり、Ψ(RP)は、スロットル弁3の上流側圧力である大気圧PAと、下流側圧力である吸気圧PBAとの比率RP(=PBA/PA)に応じて算出される圧力比流量関数であり、Rは気体定数である。開口面積流量関数KTH(TH)の値は、予め実験的に求められた図7(a)に示すKTHテーブルを用いて算出される。
【0053】
また圧力比流量関数Ψは、下記式(2)で与えられる。式(2)の「κ」は空気の比熱比である。ただし、空気流速が音速を超えると、圧力比流量関数Ψは圧力比に拘わらず極大値をとるので、実際の演算処理では、圧力比流量関数Ψ(RP)の値も予め設定されたΨ(RP)テーブル(図7(b))を用いて算出される。
【0054】
【数1】
【0055】
本実施形態では、弁通過空気流量モデルのモデル化誤差を補正する長期モデル補正係数KMDLL及び短期モデル補正係数KMDLSを下記式(3)に適用し、第2補正推定吸入空気流量HGAIRLSを算出し、式(3)により算出される第2補正推定吸入空気流量HGAIRLSを、エンジン回転数NEを用いて1TDC期間当たりの流量に変換することにより、推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTH[g/TDC]が算出される。
HGAIRLS=HGAIR×KMDLL×KMDLS (3)
【0056】
一方吸気管2のスロットル弁下流側部分2a内の空気量の変化量DGAIRINは、下記式(11)で与えられる。式(11)のVinはスロットル弁下流側部分2aの吸気管容積、TAKは絶対温度に変換した吸気温TA、Rは気体定数、DPBAは吸気圧PBAの変化量(PBA(k)−PBA(k-1))である。また「k」は1行程に相当する期間で離散化した離散化時刻である。
DGAIRIN=Vin×DPBA/(R×TAK) (11)
【0057】
したがって、推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTH[g/TDC]と、気筒吸入空気量GAIRCYLN[g/TDC]の差は、下記式(12)で示されるように上記変化量DGAIRINと等しくなる。
DGAIRIN=HGAIRTH(k)−GAIRCYLN(k-1) (12)
【0058】
一方、気筒吸入空気量GAIRCYLNは、下記式(13)で与えられる。式(13)のVcylは気筒容積であり、ηvは体積効率である。
GAIRCYLN=Vcyl×ηv×PBA/(R×TAK) (13)
【0059】
式(13)を用いると、吸気圧変化量DPBAは、下記式(14)で与えられる。式(14)で与えられるDPBA及び式(12)の関係を式(11)に適用することにより、下記の式(15)(吸気管モデルの定義式)が得られる。
【数2】
【0060】
したがって、遅れ係数CGACYLを下記式(16)で定義すると、式(15)は下記式(15a)で示され、気筒吸入空気量GAIRCYLNは、推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTHを入力とする一次遅れモデルの式を用いて算出することができる。
CGACYL=Vcyl×ηv/Vin (16)
GAIRCYLN(k)=(1−CGACYL)×GAIRCYLN(k-1)
+CGACYL×HGAIRTH(k) (15a)
【0061】
式(16)により遅れ係数CGACYLを算出するためには、体積効率ηvを算出することが必要である。体積効率ηvは、エンジン運転状態(エンジン回転数NE,吸気圧PBA)、吸気弁の作動位相、排気還流率などに依存して変化するものであるため、本実施形態では、下記式(17)により、気筒吸入空気量GAIRCYLN(k)の算出に用いる体積効率ηvを算出するようにしている。
ηv=GAIRCYLN(k-1)/GAIRSTD(k) (17)
【0062】
式(17)のGAIRSTD(k)は下記式(18)により算出される理論気筒吸入空気量である。
GAIRSTD(k)=PBA(k)×Vcyl/(R×TAK) (18)
【0063】
式(17)を用いることにより、マップやテーブルを用いることなく体積効率ηvを算出することが可能となり、常に更新されるのでエンジン特性の経時変化の影響を受けることなく最適な値を得ることできる。
【0064】
図4は、本実施形態における予測気筒吸入空気量GAIRCYLPの算出手法を説明するためのタイムチャートである。
一点鎖線及び細い実線は、それぞれ推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTH及び予測スロットル弁通過空気流量HGAIRTHPの推移を示し、破線及び太い実線は、それぞれ気筒吸入空気量GAIRCYLN及び予測気筒吸入空気量GAIRCYLPの推移を示す。
【0065】
本実施形態では、推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTHに基づいて予測スロットル弁通過空気流量HGAIRTHPが算出され、時刻kにおける予測スロットル弁通過空気流量HGAIRTHP(k)と、時刻kにおける気筒吸入空気量GAIRCYLN(k)とを用いて、時刻kにおける予測気筒吸入空気量GAIRCYLP(k)が算出される。予測気筒吸入空気量GAIRCYLP(k)は、時刻(k+1)における気筒吸入空気量の予測値を示す。
【0066】
したがって、予測気筒吸入空気量GAIRCYLPの前回値(図の点PPに相当する値)を用いて予測気筒吸入空気量GAIRCYLP(k)を算出する従来手法では、前回値GAIRCYLP(k-1)が予測誤差ERRPを含むのに対し、本実施形態では予測誤差ERRPを含まない気筒吸入空気量GAIRCYLN(k)を用いて予測気筒吸入空気量GAIRCYLP(k)が算出されるので、予測気筒吸入空気量GAIRCYLP(k)の算出精度を向上させることができる。
【0067】
図4に示すように燃料噴射が吸気行程で実行されるため、燃料噴射量を予測気筒吸入空気量GAIRCYLP(k)に基づいて算出することにより、実際の気筒吸入空気量(GAIRCYLN(k+1)とほぼ等しいと推定される空気量)に適した量の燃料を供給することができ、過渡運転状態での空燃比制御精度を向上させることができる。時刻kにおいて算出される気筒吸入空気量GAIRCYLN(k)は、その直前の1行程期間に吸入される空気量を示すため、図示される加速状態では、実際の吸入空気量より小さな値となる。
【0068】
次に弁通過空気流量モデルの逆モデル、及び吸気管モデルの逆モデルを定義する式について説明する。
弁通過空気流量モデルを定義する式(1)を変形すると下記式(21)が得られる。したがって、弁通過空気流量モデルの逆モデルは、下記式(22)で定義される。
【数3】
【0069】
一方、吸気管モデルを定義する式(15a)を変形すると、下記式(23)が得られる。したがって、吸気管モデルの逆モデルは、式(23)で定義される。
HGAIRTH(k)=
(GAIRCYLN(k)−GAIRCYLN(k-1))/CGACYL
+GAIRCYLN(k-1) (23)
【0070】
目標スロットル弁通過空気流量算出部56では、目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDから目標スロットル弁通過空気流量GAIRTHCMDが算出されるので、式(23)のHGAIRTH及びGAIRCYLNを、それぞれGAIRTHCMD及びGAIRCYLCMDに置換した下記式(24)を用いて、目標スロットル弁通過空気流量GAIRTHCMDが算出される。
GAIRTHCMD(k)=
(GAIRCYLCMD(k)−GAIRCYLCMD(k-1))/CGACYL
+GAIRCYLCMD(k-1) (24)
【0071】
また目標開度算出部57では、目標スロットル弁通過空気流量GAIRTHCMD[g/TDC]を単位時間当たりの流量[g/sec]に変換することにより、目標吸入空気流量GAIRCMDが算出され、目標吸入空気流量GAIRCMD、長期モデル補正係数KMDLL、及び短期モデル補正係数KMDLSを下記式(25)に適用して、補正目標吸入空気流量GAIRCMDCが算出される。
GAIRCMDC=GAIRCMD/(KMDLL×KMDLS) (25)
【0072】
さらに、補正目標吸入空気流量GAIRCMDCを下記式(26)に適用して目標開度THCMDが算出される。式(26)は、式(22)のHGAIRをGAIRCMDCに置換したものである。なお、式(26)の演算は、図7(a)に示すKTHテーブルを逆検索することにより行われる。
【数4】
【0073】
次に弁通過空気流量モデルのモデル化誤差を補正するための長期モデル補正係数KMDLL及び短期モデル補正係数KMDLSの算出手法の概要を説明する。モデル化誤差は、基本的には吸入空気流量センサ13により検出される吸入空気流量GAIRと、推定吸入空気流量HGAIRとのずれに相当するものであるが、本実施形態では吸入空気流量センサ13の検出遅れを考慮し、推定吸入空気流量HGAIRについて検出遅れ補正を行って、遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRAFMを算出し、モデル化誤差を示すパラメータとして、モデル化誤差係数KTHERRを下記式(31)で定義する。
KTHERR=GAIR/HGAIRAFM (31)
【0074】
モデル化誤差がなければ、モデル化誤差係数KTHERRは「1.0」となり、「1.0」との差が大きくなるほど、モデル化誤差が大きいことを示す。そこで、本実施形態では、モデル化誤差係数KTHERRに基づいて長期モデル補正係数KMDLLを算出する。
【0075】
一方短期モデル補正係数KMDLSは、以下のようにして算出する。推定吸入空気流量HGAIRを長期モデル補正係数KMDLLで補正した第1補正推定吸入空気流量HGAIRLについて検出遅れ補正を行って遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRLAFMを算出し、これを下記式(32)に適用して補正モデル化誤差係数KTHERRSを算出する。そして、補正モデル化誤差係数KTHERRSを下記式(33)に適用してなまし演算を行うことにより、短期モデル補正係数KMDLSを算出する。式(33)のCSは、例えば「0.02」に設定されるなまし係数である。jは演算周期TS(例えば1TDC期間に設定される)で離散化した離散化時刻である。
KTHERRS=GAIR/HGAIRLAFM (32)
KMDLS(j)=CS×(1/KTHERRS)+(1−CS)×KMDLS(j-1)
(33)
【0076】
なお、検出吸入空気流量GAIRが脈動しているとき、及び圧力比流量関数Ψに適用される圧力比RPが上限値に到達しているときは、なまし係数CSが「0」に設定され、短期モデル補正係数KMDLSは前回値に維持される。
【0077】
遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRAFM(HGAIRLAFM)を算出するために、吸入空気流量センサ13をモデル化した吸入空気流量センサモデル(以下「AFMモデル」という)が使用される。AFMモデルは、むだ時間要素と一次遅れ要素の結合で近似することができるので、本実施形態では、下記式(34)により、AFMモデルを定義する。式(34)のjTNはむだ時間TNを演算周期TSで離散化した離散化むだ時間であり、CTDは下記式(35)で与えられる遅れ定数である。遅れ定数CTDは「0」より大きく「1」より小さい値をとる。式(35)のTDは一次遅れ要素の遅れ時定数である。遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRLAFMは、下記式(34a)で与えられる。
HGAIRAFM(j)=CTD×HGAIR(j-jTN)
+(1−CTD)×HGAIRAFM(j-1) (34)
CTD=1−e-(TS/TD) (35)
HGAIRLAFM(j)=CTD×HGAIRL(j-jTN)
+(1−CTD)×HGAIRLAFM(j-1) (34a)
【0078】
次に長期モデル補正係数KMDLLの算出手法を詳細に説明する。図5は、スロットル弁開度THと、モデル化誤差係数KTHERRとの関係を示す図であり、この図に示す黒丸はモデル化誤差が存在する状態における実験データを示し、実線L1は実験データからスロットル弁開度THとモデル化誤差係数KTHERRとの関係を近似するための曲線を示す。この図から明らかなように、スロットル弁開度THが所定開度THBより大きい範囲では、モデル化誤差係数KTHERRは「1.0」とほぼ等しくなる。そこで、本実施形態では、曲線L1(TH≦THBの範囲)を2次曲線で近似することとし、下記式(36)で誤差モデルを定義する。式(36)のKTHERRCORを以下「誤差パラメータ」という。
KTHERRCOR=KTHERR−1=A×(TH−THB)2 (36)
【0079】
式(36)は、図5に示す破線L2を示す数式に相当し、「A」はモデルパラメータである。式(36)を用いることにより、誤差パラメータKTHERRCORを算出するために必要なモデルパラメータが1つとなり(一般的な2次式では、モデルパラメータは3つである)、モデルパラメータの同定演算を簡単化することができる。
【0080】
モデルパラメータAは、最小二乗法を用いる場合、下記式(37)で与えられる。
【数5】
【0081】
同定されたモデルパラメータA及びスロットル弁開度THを式(36)に適用して、誤差パラメータKTHERRCORを算出し、その誤差パラメータKTHERRCORを下記式(38)に適用することにより、長期モデル補正係数KMDLLが得られる。
KMDLL=1/KTHERR=1/(KTHERRCOR+1) (38)
【0082】
このように長期モデル補正係数KMDLLは、短期モデル補正係数KMDLSに比べて、より長い期間における検出データ(TH,GAIR)を統計処理することにより算出されるモデルパラメータAを用いて算出される。弁通過空気流量モデルのモデル化誤差は、スロットル弁の特性ばらつきや経時変化、有効吸気管断面積の減少などに起因するので、モデルを補正するための補正係数の正確な値を得るためには、比較的長い期間に得られる検出データに基づく演算を行う必要がある。したがって、長期モデル補正係数KMDLLを用いることにより、モデル化誤差をより高い精度で補正することが可能となる。
【0083】
図6は、スロットル弁通過空気流量算出部51における演算処理のフローチャートである。
ステップS11では、スロットル弁開度THに応じて図7(a)に示す開口面積流量関数テーブルを検索し、開口面積流量関数値KTH(TH)を算出する。ステップS12では、圧力比RP(=PBA/PA)に応じて図7(b)に示す圧力比流量関数テーブルを検索し、圧力比流量関数値Ψ(RP)を算出する。
【0084】
ステップS13では、開口面積流量関数値KTH(TH)、圧力比流量関数値Ψ(RP)、及び吸気温TAを前記式(1)に適用し、推定吸入空気流量HGAIRを算出する。ステップS14では、推定吸入空気流量HGAIR及び長期モデル補正係数KMDLLを下記式(41)に適用して、第1補正推定吸入空気流量HGAIRLを算出し、さらに第1補正推定吸入空気流量HGAIRL及び短期モデル補正係数KMDLSを下記式(42)に適用して、第2補正推定吸入空気流量HGAIRLSを算出する。
HGAIRL=HGAIR×KMDLL (41)
HGAIRLS=HGAIRL×KMDLS (42)
【0085】
ステップS15では、第2補正推定吸入空気流量HGAIRLS[g/sec]及びエンジン回転数NEを下記式(43)に適用し、1TDC期間当たりの吸入空気量である推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTH[g/TDC]を算出する。式(43)のKCVは変換係数である。
HGAIRTH=HGAIRLS×KCV/NE (43)
【0086】
図8は、予測気筒吸入空気量算出部52における演算処理のフローチャートである。
ステップS21では前記式(17)を用いて体積効率ηvを算出する。なお、この算出には、気筒吸入空気量GAIRCYLNの前回値を用いるため、気筒吸入空気量GAIRCYLNの初期値GAIRCYLNINIの設定が必要である。本実施形態では、初期値GAIRCYLNINIは、下記式(45)により、理論気筒吸入空気量GAIRSTDに設定される。よって体積効率ηvの初期値は「1」となる(式(17)参照)。
GAIRCYLNINI=GAIRSTD
=PBA×Vcyl/(R×TAK) (45)
【0087】
ステップS22では、算出された体積効率ηvを前記式(16)に適用し、遅れ係数CGACYLを算出する。ステップS23では、算出された遅れ係数CGACYLを前記式(15a)に適用し、気筒吸入空気量GAIRCYLN(k)を算出する。
【0088】
ステップS24では、下記式(46)により予測スロットル弁通過空気流量HGAIRTHP(k)を算出する。式(46)のKPは、実験により設定される所定予測ゲインである。
HGAIRTHP(k)=HGAIRTH(k)
+{HGAIRTH(k)−HGAIRTH(k-1)}×KP (46)
【0089】
ステップS25では、下記式(47)により予測気筒吸入空気量GAIRCYLP(k)を算出する。式(47)は、式(15a)と同形式の吸気管モデル式であり、式(15a)のGAIRCYLN(k-1)及びHGAIRTH(k)を、それぞれGAIRCYLN(k)及びHGAIRTHP(k)に代えたものである。
GAIRCYLP(k)=(1−CGACYL)×GAIRCYLN(k)
+CGACYL×HGAIRTHP(k) (47)
【0090】
図9は、図2のモデル補正係数算出部53において、短期モデル補正係数KMDLS及び長期モデル補正係数KMDLLを算出する処理のフローチャートである。この処理は、ECU5のCPUで、演算周期TSで実行される。
ステップS101では、前記式(1)を用いて推定吸入空気流量HGAIRを算出する。ステップS102では、推定吸入空気流量HGAIRに応じて図10(a)に示すTNテーブルを検索し、無駄時間TNを算出するとともに、推定吸入空気流量HGAIRに応じて図10(b)に示すTDテーブルを検索し、遅れ時定数TDを算出する。なお、無駄時間TN及び遅れ時定数TDは、検出される吸入空気流量GAIRに応じて算出するようにしてもよい。
【0091】
ステップS103では、スロットル弁開度THを式(36)に適用して、誤差パラメータKTHERRCORを算出し、その誤差パラメータKTHERRCORを式(38)に適用することにより、長期モデル補正係数KMDLLを算出する。
【0092】
ステップS104では、長期モデル補正係数KMDLL及び推定吸入空気流量HGAIRを式(41)に適用し、第1補正推定吸入空気流量HGAIRLを算出する。ステップS105では、第1補正推定吸入空気流量HGAIRLを式(34a)に適用して、遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRLAFMを算出し、ステップS106では、遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRLAFMを式(32)に適用して、補正モデル化誤差係数KTHERRSを算出し、ステップS107では、補正モデル化誤差係数KTHERRSを式(33)に適用して、短期モデル補正係数KMDLSを算出する。
【0093】
図11は、モデルパラメータAを算出する学習処理のフローチャートである。この処理は、ECU5のCPUで、演算周期TSで実行される。
ステップS110では、学習実行フラグFLEARNが「1」であるか否かを判別する。学習実行フラグFLEARNは、エンジン1の今回の運転開始(エンジン始動)時点からの走行距離DISTが所定値DLEARN未満であるとき「1」に設定される。
【0094】
ステップS110の答が否定(NO)であるときは、直ちに処理を終了する。学習実行フラグFLEARNが「1」であるときは、ステップS111〜S116の学習処理を実行する。ステップS111及びS112における演算は、図9のステップS101及びS102における演算と同一である。
【0095】
ステップS113では、式(34)により遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRAFMを算出し、算出した遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRAFM及び検出吸入空気流量GAIRを式(31)に適用して、モデル化誤差係数KTHERRを算出する(ステップS114)。
【0096】
ステップS115では、スロットル弁開度THが所定開度THBより小さいか否かを判別し、その答が肯定(YES)であるときは図12に示す同定演算を実行し(ステップS116)、スロットル弁開度THが所定開度THB以上であるときは直ちに処理を終了する。
【0097】
図12は図11のステップS116で実行される同定演算処理のフローチャートである。
ステップS140では、モデル化誤差係数KTHERRから「1」を減算して、誤差パラメータKTHERRCORを算出する。S141〜S143では、スロットル弁開度THが、所定開度TH1〜TH3(TH1<TH2<TH3)によって定義される第1〜第4領域のいずれにあるかを判別し、スロットル弁開度THが第1領域(TH<TH1)にあるときは領域パラメータnを「1」に設定し(ステップS144)、スロットル弁開度THが第2領域(TH1≦TH<TH2)にあるときは領域パラメータnを「2」に設定し(ステップS145)、スロットル弁開度THが第3領域(TH2≦TH<TH3)にあるときは領域パラメータnを「3」に設定し(ステップS146)、スロットル弁開度THが第4領域(TH3≦TH)にあるときは領域パラメータnを「4」に設定する(ステップS147)。
【0098】
ステップS148では、下記式(61)により第n領域の分母積算値XXXX[n]を算出する。分母積算値XXXX[n]は、式(37)の分母に対応するものであり、式(61)のXXXX[n]zは、分母積算値XXXX[n]の前回算出値である。
XXXX[n]=XXXX[n]z+(TH−THB)4 (61)
【0099】
ステップS149では、分子積算値XXY[n]を下記式(62)により算出する。分子積算値XXY[n]は、式(37)の分子に対応するものであり、式(62)のXXY[n]zは、分子積算値XXY[n]の前回算出値である。
XXY[n]=XXY[n]z+KTHERRCOR×(TH−THB)2 (62)
【0100】
ステップS150では、第n領域のサンプリング数NSAMPL[n]を「1」だけインクリメントする(前回値NSAMPL[n]zに「1」を加算する)。ステップS151では、下記式(63)により、分母加重平均値XXXXTTLを算出する。式(63)によれば、4つの領域毎に算出される分母平均値を、均等の重み付けで加算することにより、分母加重平均値XXXXTTLが算出される。
【数6】
【0101】
ステップS152では、下記式(64)により、分子加重平均値XXYTTLを算出する。式(64)によれば、4つの領域毎に算出される分子平均値を、均等の重み付けで加算することにより、分子加重平均値XXYTTLが算出される。
【数7】
【0102】
ステップS153では、分子加重平均値XXYTTLを分母加重平均値XXXXTTLで除算することにより、モデルパラメータAを算出する。
【0103】
図12に示す処理によれば、スロットル弁開度THの変化範囲が4つの領域に分割され、各領域毎の分子平均値を、均等の重み付けで加算することにより、分子加重平均値XXYTTLが算出されるとともに、各領域毎の分母平均値を、均等の重み付けで加算することにより、分母加重平均値XXXXTTLが算出され、分子加重平均値XXYTTLを分母加重平均値XXXXTTLで除算してモデルパラメータAが算出される。これにより、サンプリングされるスロットル弁開度THの値に偏りがある場合でも、高い精度を確保することができる。
【0104】
図12の処理により算出されるモデルパラメータAは、エンジン運転期間(エンジン始動時点からイグニッションスイッチがオフされるまでの期間)の終了時点でメモリに格納され、次のエンジン運転期間において式(36)の演算に適用される。
【0105】
図13は、図2の目標気筒吸入空気量算出部54、リミット処理部55、目標スロットル弁通過空気流量算出部56、及び目標開度算出部57における処理のフローチャートである。
【0106】
ステップS31では、アクセルペダル操作量AP及びエンジン回転数NEに応じて目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDを算出する。ステップS32では、図14に示すリミット処理を実行し、目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDを、上限値GAIRCYLLMH及び下限値GAIRCYLLMLの範囲内の値に制限する。
【0107】
ステップS33では、吸気管モデル式の逆モデル式(式(24))にリミット処理後の目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMD(k)及びGAIRCYLCMD(k-1)を適用し、目標スロットル弁通過空気流量GAIRTHCMD(k)を算出する。
【0108】
ステップS34では、目標スロットル弁通過空気流量GAIRTHCMD(k)[g/TDC]を下記式(65)に適用し、目標吸入空気流量GAIRCMD(k)[g/sec]に変換する。
GAIRCMD(k)=GAIRTHCMD(k)×NE/KCV (65)
【0109】
ステップS35では、目標吸入空気流量GAIRCMD(k)を前記式(25)に適用し、補正目標吸入空気流量GAIRCMDC(k)を算出する。ステップS36では、式(21)の「HGAIR」として補正目標吸入空気流量GAIRCMDC(k)を適用し、開口面積流量関数値KTH(TH)を算出する。ステップS37では、ステップS36で算出した開口面積流量関数値KTH(TH)に応じて、図7(a)に示す開口面積流量関数テーブルを逆検索し、目標開度THCMD(k)を算出する(式(26)の演算を行う)。
【0110】
図14は、図13のステップS32におけるリミット処理のフローチャートである。
ステップS41では、スロットル弁3を駆動するアクチュエータ7の電源電圧VBDBWに応じて、スロットル弁開度の単位時間当たりの最大変化量DTHlmt[deg/ms]を算出し、スロットル弁3の制御周期TCTL(例えば2ms)当たりの最大変化量DTHLMT[deg/TCTL]に変換する。なお、最大変化量DTHLMTは、予め設定した値を用いてもよい。
【0111】
ステップS42では、検出スロットル弁開度TH及び最大変化量DTHLMTを下記式(66)に適用し、基本開き側限界値THOFHBを算出する。式(66)は、THMAXと(TH+DTHLMT)の小さい方を選択する演算を行うものであり、THMAXは所定最大開度(例えば85deg)である。
THOFHB=Min(THMAX,TH+DTHLMT) (66)
【0112】
ステップS43では、検出スロットル弁開度TH及び最大変化量DTHLMTを下記式(67)に適用し、基本閉じ側限界値THOFLBを算出する。式(67)は、THMINと(TH−DTHLMT)の大きい方を選択する演算を行うものであり、THMINは所定最小開度(例えば0.5deg)である。
THOFLB=Max(THMIN,TH−DTHLMT) (67)
【0113】
ステップS44では、検出スロットル弁開度TH及び基本開き側限界値THOFHBを下記式(68)に適用し、開き側限界値THOFHを算出する。式(68)のCTHADDは、0から1の間の値に設定される開き側なまし係数である。
THOFH=TH+CTHADD×(THOFHB−TH) (68)
【0114】
ステップS45では、検出スロットル弁開度TH及び基本閉じ側限界値THOFLBを下記式(69)に適用し、閉じ側限界値THOFLを算出する。式(69)のCTHDECは、0から1の間の値に設定される閉じ側なまし係数である。
THOFL=TH+CTHDEC×(THOFLB−TH) (69)
【0115】
閉じ側なまし係数CTHDECは、開き側なまし係数CTHADDより大きな値に設定され、かつなまし係数CTHDEC及びCTHADDは、ともに制御周期TCTLが長くなるほどより大きな値をとるように設定される。
【0116】
ステップS46では、開き側限界値THOFH及び閉じ側限界値THOFLを、弁通過空気流量モデル式(式(1))に適用し、対応する上限吸入空気流量GAIRLMH[g/sec]及び下限吸入空気流量GAIRLML[g/sec]を算出する。さらに上限吸入空気流量GAIRLMH及び下限吸入空気流量GAIRLMLを下記式(70)及び(71)に適用し、補正上限吸入空気流量GAIRLMHLS及び補正下限吸入空気流量GAIRLMLLSを算出する。
GAIRLMHLS=GAIRLMH×KMDLL×KMDLS (70)
GAIRLMLLS=GAIRLML×KMDLL×KMDLS (71)
【0117】
ステップS47では、補正上限吸入空気流量GAIRLMHLS[g/sec]及び補正下限吸入空気流量GAIRLMLLS[g/sec]に(KCV/NE)を乗算して、上限スロットル弁通過空気流量GAIRTHLMH[g/TDC]及び下限スロットル弁通過空気流量GAIRTHLML[g/TDC]を算出する。
【0118】
ステップS48では、上限スロットル弁通過空気流量GAIRTHLMH及び下限スロットル弁通過空気流量GAIRTHLMLを吸気管モデル式(式(15a))に適用し、上限気筒吸入空気量GAIRCYLLMH及び下限気筒吸入空気量GAIRCYLLMLを算出する。
【0119】
ステップS49では、目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDが上限気筒吸入空気量GAIRCYLLMHより大きいか否かを判別し、その答が肯定(YES)であるときは、目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDを上限気筒吸入空気量GAIRCYLLMHに設定し(ステップS50)、ステップS51に進む。ステップS49の答が否定(NO)であるときは直ちにステップS51に進む。
【0120】
ステップS51では、目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDが下限気筒吸入空気量GAIRCYLLMLより小さいか否かを判別し、その答が肯定(YES)であるときは、目標気筒吸入空気量GAIRCYLCMDを下限気筒吸入空気量GAIRCYLLMLに設定し(ステップS52)、処理を終了する。ステップS51の答が否定(NO)であるときは直ちに処理を終了する。
【0121】
以上のように本実施形態では、スロットル弁開度と該スロットル弁を通過する空気の流量との関係をモデル化した弁通過空気流量モデル式(1)に検出されるスロットル弁開度THを適用して、推定吸入空気流量HGAIRが算出され、弁通過空気流量モデル式(1)のモデル化誤差を示すモデル化誤差係数KTHERR及び補正モデル化誤差係数KTHERRSが、検出される吸入空気流量GAIRを用いて算出される。さらに補正モデル化誤差係数KTHERRSの逆数を平均化することにより、短期モデル補正係数KMDLSが算出されるとともに、モデル化誤差係数KTHERRRと検出スロットル弁開度THとの相関関係を用いて、長期モデル補正係数KMDLLが算出される。さらに短期モデル補正係数KMDLS及び長期モデル補正係数KMDLLを用いて推定吸入空気流量HGAIRを補正して第2補正推定吸入空気流量HGAIRLSが算出され、第2補正推定吸入空気流量HGAIRLSが、予測気筒吸入空気量GAIRCYLPの算出、ひいては燃料噴射量及び点火時期の算出に適用される。したがって、スロットル弁の特性ばらつきや経時変化、有効吸気管断面積の減少、運転環境の変化、あるいはセンサの温度特性などに起因する弁通過空気流量モデルのモデル化誤差を抑制し、良好な制御性能を得ることができる。
【0122】
また検出吸入空気流量GAIRと、遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRAFMとの比率を示すパラメータとして、モデル化誤差係数KTHERRが定義されるとともに、検出吸入空気流量GAIRと、遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRLAFMとの比率を示すパラメータとして、補正モデル化誤差係数KTHERRSが定義されるので、弁通過空気流量モデル式のモデル化誤差をモデル化誤差係数KTHERR及び補正モデル化誤差係数KTHERRSにより直接的に把握し、長期モデル補正係数KMDLL及び短期モデル補正係数KMDLSに反映させることができる。
【0123】
また長期モデル補正係数KMDLLを用いて推定吸入空気流量HGAIRを補正して第1補正推定吸入空気流量HGAIRLが算出され、さらに第1補正推定吸入空気流量HGAIRLについて吸入空気流量センサの検出遅れ補正を行って遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRLAFMが算出され、検出される吸入空気流量GAIRと遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRLAFMとの比率を示す補正モデル化誤差係数KTHERRSが算出される。長期モデル補正係数KMDLLには、スロットル弁開度THとモデル化誤差との相関関係が反映されるので、スロットル弁開度THに依存して変化するモデル化誤差(比較的長期間の経時変化)を長期モデル補正係数KMDLLによって補正することができる。したがって、長期モデル補正係数KMDLLによって補正された第1補正推定吸入空気流量HGAIRLを用いて補正モデル化誤差係数KTHERRSを算出し、補正モデル化誤差係数KTHERRSを用いて短期モデル補正係数KMDLSを算出することにより、スロットル弁開度THに依存する長期的なモデル化誤差の影響を除いたモデル化誤差を、短期モデル補正係数KMDLSによって補正することができる。
【0124】
また吸入空気流量センサ13をモデル化したAFMモデルを定義する式(34)に、推定吸入空気流量HGAIRを適用して、遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRAFM及びHGAIRLAFMが算出され、遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRAFM及びHGAIRLAFMを用いてモデル化誤差係数KTHERR及びKTHERRSが算出されるので、吸入空気流量センサ13における検出遅れの影響を排除して、正確なモデル化誤差係数KTHERR及びKTHERRSを得、ひいては正確なモデル補正係数KMDLL及びKMDLSを得ることができる。
【0125】
また長期モデル補正係数KMDLLは、前回のエンジン運転期間中に同定されたモデルパラメータAを用いて算出されるので、短期モデル補正係数KMDLSに比べて更新周期が長くなる。弁通過空気流量モデル式のモデル化誤差をスロットル弁開度の関数として正確に把握するためには、比較的長い学習期間を必要とするので、長期モデル補正係数KMDLLの更新周期を短期モデル補正係数KMDLSの更新周期より長く設定することにより、長期モデル補正係数KMDLLの算出精度を高めることができる。
【0126】
またモデル化誤差係数KTHERRとスロットル弁開度THとの相関関係を定義する誤差モデル式(36)のモデルパラメータAがエンジン制御実行中に同定され、同定されたモデルパラメータA及び誤差モデル式(36)を用いて長期モデル補正係数KMDLLが算出されるので、経時変化する相関関係を精度よく把握し、スロットル弁の全開度範囲に亘って正確な長期モデル補正係数KMDLLを得ることができる。
【0127】
また短期モデル補正係数KMDLS及び長期モデル補正係数KMDLLを用いて目標吸入空気流量GAIRCMDを補正して補正目標吸入空気流量GAIRCMDCが算出され、弁通過空気流量モデル式の逆モデル式(22)に補正目標吸入空気流量GAIRCMDCを適用してスロットル弁の目標開度THCMDが算出され、目標開度THCMDに応じてスロットル弁の開度THが制御される。したがって、弁通過空気流量モデル式のモデル化誤差の影響を排除して、必要な吸入空気流量を得るための目標開度THCMDを精度良く算出することができる。
【0128】
本実施形態では、スロットル弁開度センサ4及び吸入空気流量センサ13がそれぞれスロットル弁開度検出手段及び吸入空気流量検出手段に相当し、ECU5が吸入空気流量推定手段、誤差パラメータ算出手段、第1誤差補正値算出手段、第2誤差補正値算出手段、補正手段、誤差補正推定吸入空気流量算出手段、第1誤差パラメータ算出手段、第2誤差パラメータ算出手段、検出遅れ補正手段、第1モデルパラメータ値算出手段、第2モデルパラメータ値算出手段、同定手段、目標吸入空気流量算出手段、補正目標吸入空気流量算出手段、目標開度算出手段、スロットル弁開度制御手段、及び誤差補正値算出手段を構成する。
【0129】
具体的には、図6のステップS13が吸入空気流量推定手段に相当し、図9のステップS106が第1誤差パラメータ算出手段に相当し、図11のステップS111〜S114が第2誤差パラメータ算出手段に相当し、図9のステップSS107が第1誤差補正値算出手段に相当し、図9のステップS103が第2誤差補正値算出手段(誤差補正値算出手段)に相当し、図6のステップS14が補正手段及び誤差補正推定吸入空気流量算出手段に相当する。また、図9のステップS102及びS105、並びに図11のステップS112及びS113が検出遅れ補正手段に相当し、図12の処理が同定手段に相当し、図13のステップS31〜S34が目標吸入空気流量算出手段に相当し、ステップS35が補正目標吸入空気流量算出手段に相当し、ステップS36及びS37が目標開度算出手段に相当する。
【0130】
[変形例1]
上述した実施形態では、長期モデル補正係数KMDLLの算出に適用するモデル化誤差係数KTHERRを、遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRAFMを用いて算出するようにしたが(式(31))、定常的なエンジン運転状態においてモデルパラメータAの学習を行うことにより、吸入空気流量センサ13の検出遅れの影響を排除することができる。したがって、遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRAFMに代えて、検出遅れ補正を行わない推定吸入空気流量HGAIRを用いてモデル化誤差係数KTHERRを算出するようにしてもよい。
【0131】
[変形例2]
上述した実施形態では、モデルパラメータAの算出に適用される分母加重平均値XXXTTL及び分子加重平均値XXYTTLを、それぞれ式(63)及び(64)により算出するようにしたが、これらの数式に代えて、下記式(63a)及び(64a)を用いて算出するようにしてもよい。
【0132】
【数8】
【数9】
【0133】
式(63a)及び(64a)のKG1〜KG4は、重み係数であり下記式(72)及び(73)を満たすように設定される。
KG1>KG2>KG3>KG4 (72)
KG1+KG2+KG3+KG4=1 (73)
【0134】
弁通過空気流量モデル式のモデル化誤差は、図5に示したように、スロットル弁開度THが低下するほど増加する傾向がある。したがって、式(72)を満たすように設定される重み係数KG1〜KG4を用いることにより、モデルパラメータAの同定演算に上記傾向を適切に反映させ、長期モデル補正係数KMDLLの算出精度を高めることができる。
なお、重み係数KG1〜KG4は、これらのうちいずれかが同じ値となるように設定してもよい。
【0135】
[変形例3]
上述した実施形態では、補正モデル化誤差係数KTHERRSを式(33)に適用して、短期モデル補正係数KMDLSを算出するようにしたが、これに代えて補正モデル化誤差係数KTHERRSを下記式(33a)に適用して、なまし演算を行うことにより、平均化誤差係数KTHERRSAVを算出し、平均化誤差係数KTHERRSAVの逆数を短期モデル補正係数KMDLSをして算出するようにしてもよい(式(33b))。
KTHERRSAV(j)=CS×KTHERRS
+(1−CS)×KTHERRSAV(j-1) (33a)
KMDLS=1/KTHERRSAV(j) (33b)
なお、式(33)及び(33a)によるなまし演算は、補正モデル化誤差係数KTHERRSの最新の所定数の算出値を用いた移動平均化演算に代えてもよい。
【0136】
[変形例4]
上述した実施形態では、短期モデル補正係数KMLDSの算出に適用されるモデル化誤差補正係数KTHERRSを、遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRLAFMを用いて算出するようにしたが(式(32))、定常的なエンジン運転状態において短期モデル補正係数KMLDSの更新を行うことにより、吸入空気流量センサ13の検出遅れの影響を排除することができる。したがって、遅れ補正推定吸入空気流量HGAIRLAFMに代えて、検出遅れ補正を行わない第1補正推定吸入空気流量HGAIRLを用いて補正モデル化誤差係数KTHERRSを算出するようにしてもよい。
【0137】
[変形例5]
上述した実施形態では、式(31)及び(32)を用いて検出値(GAIR)を推定値(HGAIRAFM,HGAIRLAFM)で除算する形式でモデル化誤差係数KTHERR及び補正モデル化誤差係数KTHERRSを定義したが、逆に推定値を検出値で除算する形式で定義するようにしてもよい。その場合には、短期モデル補正係数KMDLSは、変形例3における平均化誤差係数KTHERRSAVと等しくなり、長期モデル補正係数KMDLLはモデル化誤差係数KTHERRと等しくなる。
【0138】
[第2の実施形態]
本実施形態は、第1の実施形態におけるモデル化誤差係数KTHERRの算出手法を変更したものである。以下に説明する点以外は、第1の実施形態と同一である。
【0139】
モデル化誤差係数KTHERRは、第1の実施形態の変形例1に示したように吸入空気流量センサ13の検出遅れ補正を行わない場合には、下記式(31a)で定義される。
KTHERR=GAIR/HGAIR (31a)
式(31a)に弁通過空気流量モデル式(1)を適用すると、下記式(81)が得られる。
【数10】
【0140】
式(81)の分子は、式(1)を下記式(1a)に変形し、「HGAIR」に代えて検出吸入空気流量GAIRを適用したものに相当する。
【数11】
【0141】
そこで、本実施形態では、式(81)の分母、すなわちスロットル弁開度THに応じてKTHテーブル(図7(a))を検索することにより算出される開口面積流量関数値KTH(TH)を「第1モデルパラメータ値KTH(TH)」と定義し、式(81)の分子、すなわち式(1a)に検出吸入空気流量GAIRを適用して算出される開口面積流量関数値を「第2モデルパラメータ値KTHGAIR」と定義する。これにより、モデル化誤差係数KTHERRは、下記式(82)により第1モデルパラメータ値KTH(TH)と、第2モデルパラメータ値KTHGAIRとの比率で定義される。
KTHERR=KTHGAIR/KTH(TH) (82)
【0142】
本実施形態によれば、推定吸入空気流量HGAIRを算出することなく、モデル化誤差係数KTHERRを算出することができ、したがって長期モデル補正係数KMDLLを算出することができる。
【0143】
本実施形態におけるECU5が第1モデルパラメータ値算出手段及び第2モデルパラメータ値算出手段を構成する。
【0144】
[変形例]
第2の実施形態において、短期モデル補正係数KMDLSを使用しないようにしてもよい(演算式中の「KMDLS」をすべて「1」とする)。その場合、目標開度THCMDの算出に適用する補正目標吸入空気流量GAIRCMDCは、下記式(83)で与えられる。
GAIRCMDC=GAIRCMD/KMDLL (83)
【0145】
したがって、本変形例によれば、推定吸入空気流量HGAIRを算出することなく、スロットル弁の目標開度THCMDを算出することが可能となる。
[第3の実施形態]
本実施形態は、第1の実施形態における長期モデル補正係数KMDLLの算出手法を変更したものである。以下に説明する点以外は第1の実施形態と同一である。
第1の実施形態では、スロットル弁開度THを式(36)に適用して誤差パラメータKTHERRCORを算出したが、本実施形態では、式(36)で示される関係をKTHERRCORテーブルとして設定し、テーブル検索により誤差パラメータKTHERRCORを算出するようにしたものである。
【0146】
図15は、KTHERRCORテーブルを表形式で示す図である。KTHERRCORテーブルには、スロットル弁開度THについて1[deg]から(THB−1)[deg]に対応して、テーブル設定値KTHERRCOR[1],KTHERRCOR[2],…,KTHERRCOR[THB-1](KTHERRCOR[p],p=1〜(THB−1))が設定され、所定開度THBに対応して「1」が設定されている。
【0147】
図16は、KTHERRCORテーブルを更新する処理のフローチャートである。この処理は、ECU5のCPUで演算周期TSで実行される。
ステップS161〜S165は、図11のステップS111〜S115と同一である。
ステップS166では、図17に示す設定値更新処理を実行し、テーブル設定値KTHERRCOR[p](p=1〜(THB−1))の更新を行う。
【0148】
図17のステップS171では、図16のステップS164で算出されたモデル化誤差係数KTHERRから「1」を減算して誤差パラメータKTHERRCORを算出する。ステップS172では、スロットル弁開度THに応じて更新すべきテーブル設定値KTHERRCOR[pS]を選択する。例えばスロットル弁開度THが0.3[deg]であるときは、テーブル設定値KTHERRCOR[1](pS=1)が選択され、スロットル弁開度THが1.8[deg]であるときは、テーブル設定値KTHERRCOR[2](pS=2)が選択される。
【0149】
ステップS173では、更新すべきテーブル設定値KTHERRCOR[pS]の算出に適用されたデータ数NDATA[pS]を「1」だけインクリメントする。NDATA[pS]zは、前回更新時のデータ数である。ステップS174では、ステップS171で算出した誤差パラメータKTHERRCORを下記式(101)に適用し、テーブル設定値KTHERRCOR[pS]の更新を行う。式(101)のKTHERRCOR[pS]zは、更新前のテーブル設定値である。
【数12】
【0150】
図17の処理により、テーブル設定値KTHERRCOR[p]の更新を行うことにより、スロットル弁開度THの1[deg]から(THB−1)[deg]までの範囲において、テーブルの設定格子点(TH=1,2,…,(THB−1))毎に設定値の更新が行われ、更新回数が増加するほど各格子点におけるテーブル設定値KTHERRCOR[p]の精度を高め、長期モデル補正係数KMDLLの算出精度を高めることができる。
【0151】
[変形例]
第4の実施形態では、誤差パラメータKTHERRCORが設定されたKTHERRCORテーブルを使用するようにしたが、誤差パラメータKTHERRCORに代えて長期モデル補正係数KMDLLが設定されたKMDLLテーブルを使用し、KMDLLテーブルの設定値を更新するようにしてもよい。
【0152】
また、KTHERRCORテーブルにおけるスロットル弁開度THの格子点は1[deg]間隔で設定したが、これに限るものではなく、1[deg]より大きい間隔または小さい間隔で設定するようにしてもよい。
【0153】
なお本発明は上述した第1〜第3実施形態に限るものではなく、種々の他の変形が可能である。例えば、上述した実施形態では、上限気筒吸入空気量GAIRCYLLMH及び下限気筒吸入空気量GAIRCYLLMLを用いてリミット処理を行うようにしたが、例えばエンジンの加速時は上限気筒吸入空気量GAIRCYLLMHのみを用いてリミット処理を行い、減速時は下限気筒吸入空気量GAIRCYLLMLのみを用いてリミット処理を行うようにしてもよい。
【0154】
また上述した実施形態では、気筒吸入空気量GAIRCYLN及び予測気筒吸入空気量GAIRCYLPの算出には、推定スロットル弁通過空気流量HGAIRTHを使用したが、吸入空気流量センサ13により検出される吸入空気流量GAIR[g/sec]を1TDC期間毎の流量に変換した検出スロットル弁通過空気流量GAIRTHを使用するようにしてもよい。
【0155】
また、上述した実施形態では大気圧センサ33により検出した大気圧PAを用いて推定吸入空気流量HGAIRを算出するようにしたが、公知の大気圧推定手法(例えば米国特許第6016460号公報参照)を用いて算出した推定大気圧HPAを用いて推定吸入空気流量HGAIRを算出するようにしてもよい。
【0156】
また上述した実施形態では、本発明をガソリン内燃エンジンに適用した例を示したが、本発明はディーゼル内燃エンジンにも適用可能である。また本発明は、クランク軸を鉛直方向とした船外機などのような船舶推進機用エンジンなどにも適用が可能である。
【符号の説明】
【0157】
1 内燃機関
2 吸気管
3 スロットル弁
4 スロットル弁開度センサ(スロットル弁開度検出手段)
5 電子制御ユニット(吸入空気流量推定手段、誤差パラメータ算出手段、第1誤差補正値算出手段、第2誤差補正値算出手段、補正手段、誤差補正推定吸入空気流量算出手段、第1誤差パラメータ算出手段、第2誤差パラメータ算出手段、検出遅れ補正手段、第1モデルパラメータ値算出手段、第2モデルパラメータ値算出手段、同定手段、目標吸入空気流量算出手段、補正目標吸入空気流量算出手段、目標開度算出手段、スロットル弁開度制御手段、誤差補正値算出手段)
13 吸入空気流量センサ(吸入空気流量検出手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の吸気管に設けられたスロットル弁の開度を検出するスロットル弁開度検出手段と、前記スロットル弁を通過する空気の流量である吸入空気流量を検出する吸入空気流量検出手段とを備える内燃機関の制御装置において、
前記スロットル弁の開度と該スロットル弁を通過する空気の流量との関係をモデル化した弁通過空気流量モデル式に前記スロットル弁開度を適用して、前記吸入空気流量の推定値である推定吸入空気流量を算出する吸入空気流量推定手段と、
前記弁通過空気流量モデル式のモデル化誤差を示す誤差パラメータを、検出される吸入空気流量を用いて算出する誤差パラメータ算出手段と、
前記誤差パラメータを平均化することにより、前記モデル化誤差を補正するための第1誤差補正値を算出する第1誤差補正値算出手段と、
前記誤差パラメータと前記スロットル弁開度との相関関係を用いて、前記モデル化誤差を補正するための第2誤差補正値を算出する第2誤差補正値算出手段と、
前記第1及び第2誤差補正値を用いて前記推定吸入空気流量を補正し、補正推定吸入空気流量を算出する補正手段とを備え、
前記補正推定吸入空気流量を前記機関の制御パラメータの算出に適用することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記誤差パラメータは、検出される吸入空気流量と前記推定吸入空気流量との比率を示すパラメータであることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記誤差パラメータ算出手段は、
前記第2誤差補正値を用いて前記推定吸入空気流量を補正し、誤差補正推定吸入空気流量を算出する誤差補正推定吸入空気流量算出手段と、
検出される吸入空気流量と前記誤差補正推定吸入空気流量との比率を示す第1誤差パラメータを算出する第1誤差パラメータ算出手段と、
検出される吸入空気流量と前記推定吸入空気流量との比率を示す第2誤差パラメータを算出する第2誤差パラメータ算出手段とを有し、
前記第1誤差補正値算出手段は、前記第1誤差パラメータを用いて前記第1誤差補正値を算出し、
前記第2誤差補正値算出手段は、前記第2誤差パラメータを用いて前記第2誤差補正値を算出することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記吸入空気流量検出手段をモデル化した流量センサモデル式に、前記推定吸入空気流量を適用して、遅れ補正推定吸入空気流量を算出する検出遅れ補正手段を備え、
前記誤差パラメータ算出手段は、前記遅れ補正推定吸入空気流量を用いて前記誤差パラメータを算出することを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記誤差パラメータ算出手段は、
前記弁通過空気流量モデル式に含まれる開口面積流量関数値を示す第1モデルパラメータ値を、前記スロットル弁開度に応じて算出する第1モデルパラメータ値算出手段と、
前記弁通過空気流量モデル式に検出吸入空気流量を適用することにより、前記開口面積流量関数値を示す第2モデルパラメータ値を算出する第2モデルパラメータ値算出手段とを有し、
前記誤差パラメータは、前記第1モデルパラメータ値と第2モデルパラメータ値の比率を示すパラメータであることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記第2誤差補正値の更新周期は、前記第1誤差補正値の更新周期より長いことを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記第2誤差補正値算出手段は、前記相関関係を定義する誤差モデル式のモデルパラメータを同定する同定手段を有し、
同定されたモデルパラメータ及び前記誤差モデル式を用いて前記第2誤差補正値を算出することを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項8】
前記吸入空気流量の目標値である目標吸入空気流量を算出する目標吸入空気流量算出手段と、
前記第1及び第2誤差補正値を用いて前記目標吸入空気流量を補正し、補正目標吸入空気流量を算出する補正目標吸入空気流量算出手段と、
前記弁通過空気流量モデル式の逆モデル式に前記補正目標吸入空気流量を適用して前記スロットル弁の目標開度を算出する目標開度算出手段とを備え、
前記目標開度に応じて前記スロットル弁の開度を制御することを特徴とする請求項1から7の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項9】
内燃機関の吸気管に設けられたスロットル弁の開度を検出するスロットル弁開度検出手段と、前記スロットル弁を通過する空気の流量である吸入空気流量を検出する吸入空気流量検出手段とを備える内燃機関の制御装置において、
前記吸入空気流量の目標値である目標吸入空気流量を算出する目標吸入空気流量算出手段と、
前記スロットル弁の開度と該スロットル弁を通過する空気の流量との関係をモデル化した弁通過空気流量モデル式の逆モデル式を用いて、前記スロットル弁の目標開度を算出する目標開度算出手段と、
前記目標開度に応じて前記スロットル弁の開度を制御するスロットル弁開度制御手段と、
前記弁通過空気流量モデル式に含まれる開口面積流量関数値を示す第1モデルパラメータ値を、前記スロットル弁開度に応じて算出する第1モデルパラメータ値算出手段と、
前記弁通過空気流量モデル式に検出吸入空気流量を適用することにより、前記開口面積流量関数値を示す第2モデルパラメータ値を算出する第2モデルパラメータ値算出手段と、
前記第1モデルパラメータ値と第2モデルパラメータ値との比率を示す誤差パラメータと、前記スロットル弁の開度との相関関係を用いて、前記弁通過空気流量モデル式のモデル化誤差を補正する誤差補正値を算出する誤差補正値算出手段と、
前記目標吸入空気流量を前記誤差補正値により補正し、補正目標吸入空気流量を算出する補正目標吸入空気流量算出手段とを備え、
前記目標開度算出手段は、前記補正目標吸入空気流量を前記逆モデル式に適用して、前記目標開度を算出することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項10】
前記誤差補正値算出手段は、前記誤差パラメータとスロットル弁開度との相関関係を定義する誤差モデル式のモデルパラメータを同定する同定手段を有し、
同定されたモデルパラメータ及び前記誤差モデル式を用いて前記誤差補正値を算出することを特徴とする請求項9に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項1】
内燃機関の吸気管に設けられたスロットル弁の開度を検出するスロットル弁開度検出手段と、前記スロットル弁を通過する空気の流量である吸入空気流量を検出する吸入空気流量検出手段とを備える内燃機関の制御装置において、
前記スロットル弁の開度と該スロットル弁を通過する空気の流量との関係をモデル化した弁通過空気流量モデル式に前記スロットル弁開度を適用して、前記吸入空気流量の推定値である推定吸入空気流量を算出する吸入空気流量推定手段と、
前記弁通過空気流量モデル式のモデル化誤差を示す誤差パラメータを、検出される吸入空気流量を用いて算出する誤差パラメータ算出手段と、
前記誤差パラメータを平均化することにより、前記モデル化誤差を補正するための第1誤差補正値を算出する第1誤差補正値算出手段と、
前記誤差パラメータと前記スロットル弁開度との相関関係を用いて、前記モデル化誤差を補正するための第2誤差補正値を算出する第2誤差補正値算出手段と、
前記第1及び第2誤差補正値を用いて前記推定吸入空気流量を補正し、補正推定吸入空気流量を算出する補正手段とを備え、
前記補正推定吸入空気流量を前記機関の制御パラメータの算出に適用することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記誤差パラメータは、検出される吸入空気流量と前記推定吸入空気流量との比率を示すパラメータであることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記誤差パラメータ算出手段は、
前記第2誤差補正値を用いて前記推定吸入空気流量を補正し、誤差補正推定吸入空気流量を算出する誤差補正推定吸入空気流量算出手段と、
検出される吸入空気流量と前記誤差補正推定吸入空気流量との比率を示す第1誤差パラメータを算出する第1誤差パラメータ算出手段と、
検出される吸入空気流量と前記推定吸入空気流量との比率を示す第2誤差パラメータを算出する第2誤差パラメータ算出手段とを有し、
前記第1誤差補正値算出手段は、前記第1誤差パラメータを用いて前記第1誤差補正値を算出し、
前記第2誤差補正値算出手段は、前記第2誤差パラメータを用いて前記第2誤差補正値を算出することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記吸入空気流量検出手段をモデル化した流量センサモデル式に、前記推定吸入空気流量を適用して、遅れ補正推定吸入空気流量を算出する検出遅れ補正手段を備え、
前記誤差パラメータ算出手段は、前記遅れ補正推定吸入空気流量を用いて前記誤差パラメータを算出することを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記誤差パラメータ算出手段は、
前記弁通過空気流量モデル式に含まれる開口面積流量関数値を示す第1モデルパラメータ値を、前記スロットル弁開度に応じて算出する第1モデルパラメータ値算出手段と、
前記弁通過空気流量モデル式に検出吸入空気流量を適用することにより、前記開口面積流量関数値を示す第2モデルパラメータ値を算出する第2モデルパラメータ値算出手段とを有し、
前記誤差パラメータは、前記第1モデルパラメータ値と第2モデルパラメータ値の比率を示すパラメータであることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記第2誤差補正値の更新周期は、前記第1誤差補正値の更新周期より長いことを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記第2誤差補正値算出手段は、前記相関関係を定義する誤差モデル式のモデルパラメータを同定する同定手段を有し、
同定されたモデルパラメータ及び前記誤差モデル式を用いて前記第2誤差補正値を算出することを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項8】
前記吸入空気流量の目標値である目標吸入空気流量を算出する目標吸入空気流量算出手段と、
前記第1及び第2誤差補正値を用いて前記目標吸入空気流量を補正し、補正目標吸入空気流量を算出する補正目標吸入空気流量算出手段と、
前記弁通過空気流量モデル式の逆モデル式に前記補正目標吸入空気流量を適用して前記スロットル弁の目標開度を算出する目標開度算出手段とを備え、
前記目標開度に応じて前記スロットル弁の開度を制御することを特徴とする請求項1から7の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項9】
内燃機関の吸気管に設けられたスロットル弁の開度を検出するスロットル弁開度検出手段と、前記スロットル弁を通過する空気の流量である吸入空気流量を検出する吸入空気流量検出手段とを備える内燃機関の制御装置において、
前記吸入空気流量の目標値である目標吸入空気流量を算出する目標吸入空気流量算出手段と、
前記スロットル弁の開度と該スロットル弁を通過する空気の流量との関係をモデル化した弁通過空気流量モデル式の逆モデル式を用いて、前記スロットル弁の目標開度を算出する目標開度算出手段と、
前記目標開度に応じて前記スロットル弁の開度を制御するスロットル弁開度制御手段と、
前記弁通過空気流量モデル式に含まれる開口面積流量関数値を示す第1モデルパラメータ値を、前記スロットル弁開度に応じて算出する第1モデルパラメータ値算出手段と、
前記弁通過空気流量モデル式に検出吸入空気流量を適用することにより、前記開口面積流量関数値を示す第2モデルパラメータ値を算出する第2モデルパラメータ値算出手段と、
前記第1モデルパラメータ値と第2モデルパラメータ値との比率を示す誤差パラメータと、前記スロットル弁の開度との相関関係を用いて、前記弁通過空気流量モデル式のモデル化誤差を補正する誤差補正値を算出する誤差補正値算出手段と、
前記目標吸入空気流量を前記誤差補正値により補正し、補正目標吸入空気流量を算出する補正目標吸入空気流量算出手段とを備え、
前記目標開度算出手段は、前記補正目標吸入空気流量を前記逆モデル式に適用して、前記目標開度を算出することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項10】
前記誤差補正値算出手段は、前記誤差パラメータとスロットル弁開度との相関関係を定義する誤差モデル式のモデルパラメータを同定する同定手段を有し、
同定されたモデルパラメータ及び前記誤差モデル式を用いて前記誤差補正値を算出することを特徴とする請求項9に記載の内燃機関の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−154288(P2012−154288A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15936(P2011−15936)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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