説明

内燃機関の制御装置

【課題】内燃機関の燃焼状態の異常を好適に検出する。
【解決手段】エンジン11の排気管14にはPMセンサ17が設けられている。PMセンサ17は、ガス中に含まれるPM(導電性粒子状物質)を付着させる被付着部と、被付着部に互いに離間して設けられる一対の対向電極とを有し、一対の対向電極間の抵抗値に応じたセンサ検出信号を出力する。マイコン44は、エンジン11の運転状態に基づいて、エンジン11から排出されるPM量を推定排出量として算出し、その推定算出量とセンサ検出信号とに基づいて、エンジン11の燃焼状態の異常診断を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子状物質検出センサの検出信号に基づいて、排気に含まれる粒子状物質(PM:Particulate Matter)の量を算出する内燃機関の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関から排出される排気に含まれるPMの量を検出するPMセンサ(粒子状物質検出センサ)が各種提案されている。例えば、特許文献1のPMセンサでは、絶縁基板上に一対の対向電極を設けておき、その一対の対向電極間にPMが堆積すると電極間抵抗が変化することを利用し、電極間抵抗を計測することでPM量を検出する構成としている。この場合、センサ素子に接続される検出回路としては、一対の対向電極間の抵抗分である電極間抵抗と所定のシャント抵抗とにより分圧回路を構成し、分圧回路の中間点電圧をセンサ検出信号として出力するようにしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭59−196453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、内燃機関では、内燃機関の燃焼に係る各種アクチュエータの故障や、内燃機関の燃焼状態を制御するための各種パラメータにおいて適合値のずれ等が生じると、PM排出過多の状態になり、エミッションが悪化することが想定される。この場合、環境の悪化を招くことから、何らかの対策を講じるべく、その異常を検出する必要がある。
【0005】
本発明は、内燃機関の燃焼状態の異常を好適に検出することができる内燃機関の制御装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について説明する。
【0007】
本発明は、排気に含まれる導電性の粒子状物質の量を検出する粒子状物質検出センサが排気通路に設けられた内燃機関に適用され、前記粒子状物質検出センサのセンサ検出信号に基づいて排気中の前記粒子状物質の量を算出する内燃機関の制御装置に関するものである。そして、請求項1に記載の発明は、前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記内燃機関から排出される前記粒子状物質の量を推定排出量として算出する推定量算出手段と、前記推定量算出手段により算出した推定排出量と前記センサ検出信号とに基づいて、前記内燃機関の燃焼状態の異常診断を実施する異常診断手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
粒子状物質検出センサでは、排気中の粒子状物質の量に応じてセンサ検出信号が変動する。また、排気中の粒子状物質の量は内燃機関の運転状態に応じて変化するが、その運転状態と粒子状物質の量との関係を予め把握しておくことは可能である。本発明は、内燃機関の燃焼状態に異常が生じていると、内燃機関の運転状態に基づき算出される排気中の粒子状物質の量(推定排出量)と、実際に粒子状物質検出センサにより検出される排気中の粒子状物質の量(実排出量)とが相違することに着目し、推定排出量とセンサ検出信号とをパラメータにして内燃機関の異常診断を実施するものである。この場合、内燃機関の燃焼状態に異常が生じ、粒子状物質の排出過多が生じている場合にも、その排出過多の状態を粒子状物質検出センサのセンサ検出信号によって把握できる。したがって、内燃機関の異常の有無を検出することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明では、前記異常診断手段は、前記推定排出量がゼロ又は略ゼロとなる期間において、前記センサ検出信号の変化に基づいて前記異常診断を実施する。
【0010】
例えばアイドル運転時や低負荷運転時、燃料カット時では、内燃機関の燃焼状態が正常であれば、内燃機関から排出される粒子状物質がゼロか又は略ゼロとなる。このような粒子状物質の排出量が少ない状態であれば、推定排出量と実排出量とのずれを検出しやすく、その結果、内燃機関の異常の有無を精度良く検出できる。
【0011】
具体的には、推定排出量がゼロ又は略ゼロとなる期間において、その期間におけるセンサ検出信号又はセンサ検出信号に基づき算出される実排出量の変化量を算出し、その変化量と予め定めた正常状態の変化量とを比較することにより異常診断を実施する。または、上記期間において、その期間におけるセンサ検出信号又は実排出量の変化速度を算出し、その算出した変化速度と予め定めた正常状態の変化速度とを比較することにより異常診断を実施してもよい。
【0012】
請求項3に記載の発明では、前記粒子状物質検出センサは、ガス中に含まれる前記粒子状物質を付着させる被付着部と、前記被付着部に互いに離間して設けられる一対の対向電極とを備え、前記一対の対向電極間の抵抗値に応じたセンサ検出信号を出力するものである。また、前記被付着部に付着している前記粒子状物質を除去する除去手段と、前記被付着部の前記粒子状物質を除去してから、前記一対の対向電極の抵抗値の減少変化に伴い前記センサ検出信号が変化するまでの不感帯の時間である不感帯時間を算出する不感帯時間算出手段と、前記推定量算出手段により算出した推定排出量に基づいて前記不感帯の期間内で前記内燃機関から排出される前記粒子状物質の総量を算出する不感帯排出量算出手段と、を備え、前記異常診断手段は、前記不感帯時間算出手段により算出した不感帯時間と、前記不感帯排出量算出手段により算出した前記粒子状物質の総量とに基づいて、前記異常診断を実施する。
【0013】
粒子状物質検出センサでは、被付着部に付着した粒子状物質に応じて一対の対向電極間の抵抗値が変わり、それに伴いセンサ検出信号が変動する。このとき、対向電極間が粒子状物質を介して繋がった状態になるまではセンサ検出信号は変動せず、付着量0に相当する値で一定に保持される(不感帯)。ところが、内燃機関の燃焼状態の異常が生じ、粒子状物質が排出過多の状態になると、センサ検出信号が、正常時に比べて早い時点で付着量0に相当する値から変動する。
【0014】
その点に着目し、本発明では、被付着部の粒子状物質を除去してからセンサ検出信号が変動するまでの実際の不感帯時間と、不感帯の期間内で内燃機関から排出される粒子状物質の総量との比較により内燃機関の異常の有無を検出する。具体的には、内燃機関から排出される粒子状物質の総量に基づいてしきい値を算出し、実際の不感帯時間としきい値とを比較することにより異常診断を実施する。これにより、内燃機関の燃焼状態に異常が生じ、粒子状物質の排出過多が生じている場合にも、その排出過多の状態を把握できる。特に、内燃機関の高負荷時や負荷上昇時などのように内燃機関から排出される粒子状物質の量が上昇変化する場合に異常検出を精度良く実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】発明の実施の形態におけるエンジン制御システムの概略を示す構成図。
【図2】センサ素子の要部構成を分解して示す分解斜視図。
【図3】PMセンサに関する電気的構成を示す図。
【図4】第1の実施形態における異常診断処理を示すフローチャート。
【図5】第1の実施形態の異常診断処理をより具体的に説明するためのタイムチャート。
【図6】PMセンサの不感帯を説明するための図。
【図7】第2の実施形態における異常診断処理を示すフローチャート。
【図8】異常判定値設定用マップの一例を示す図。
【図9】第2の実施形態の異常診断処理をより具体的に説明するためのタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した第1の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、車載エンジンを備える車両エンジンシステムにおいて、同エンジンから排出される排気中のPM量(導電性粒子状物質の量)を監視するものである。特に、エンジン排気管にPMセンサを設け、そのPMセンサでのPM付着量に基づいてPM量を監視するものとしている。図1は、本システムの概略構成を示す構成図である。
【0017】
図1において、エンジン11は直噴式ガソリンエンジンであり、同エンジン11の運転に関わるアクチュエータとして燃料噴射弁12や点火装置13等が設けられている。エンジン11の排気管14には排気浄化装置としての三元触媒15が設けられており、その三元触媒15の上流側にはA/Fセンサ16が設けられ、下流側には粒子状物質検出センサとしてのPMセンサ17が設けられている。その他、本システムでは、エンジン回転速度を検出するための回転センサ18や、吸気管圧力を検出するための圧力センサ19等が設けられている。
【0018】
ECU20は、周知のCPU、ROM、RAM等よりなるマイクロコンピュータ(マイコン)を主体として構成されており、ROMに記憶された各種の制御プログラムを実行することで、都度のエンジン運転状態に応じてエンジン11の各種制御を実施する。すなわち、ECU20は、上記各種センサ等から各々信号を入力し、それらの各種信号に基づいて燃料噴射量や点火時期を演算して燃料噴射弁12や点火装置13の駆動を制御する。
【0019】
また、ECU20は、PMセンサ17の検出信号に基づいてエンジン11の実際のPM排出量(実PM排出量)を算出し、その実PM排出量に基づいてエンジン11の燃焼状態を診断する。具体的には、実PM排出量が所定の異常判定値を超えていれば、PM排出過多の状態であり、エンジン異常であると判定する。
【0020】
その他、ECU20は、PMセンサ17の検出結果から算出される実PM排出量に基づいて、エンジン11の制御態様を可変に制御する構成であってもよい。例えば、実PM排出量に基づいて燃料噴射量を制御したり、燃料噴射時期を制御したり、点火時期を制御したりすることが可能である。
【0021】
次に、PMセンサ17の構成、及びそのPMセンサ17に関する電気的構成を図2及び図3を用いて説明する。図2は、PMセンサ17を構成するセンサ素子31の要部構成を分解して示す分解斜視図であり、図3は、PMセンサ17に関する電気的構成図である。
【0022】
図2に示すように、センサ素子31は、長尺板状をなす2枚の絶縁基板32,33を有しており、一方の絶縁基板32にはPM量を検出するためのPM検出部34が設けられ、他方の絶縁基板33にはセンサ素子31を加熱するためのヒータ部35が設けられている。センサ素子31は、絶縁基板32,33が二層に積層されることで構成されている。絶縁基板32が被付着部に相当する。
【0023】
絶縁基板32には、他方の絶縁基板33とは反対側の基板表面に、互いに離間して設けられる一対の検出電極36a,36bが設けられており、この一対の検出電極36a,36bによりPM検出部34が構成されている。検出電極36a,36bは、各々複数の櫛歯を有する櫛歯形状をなしており、各検出電極36a,36bの櫛歯同士が互い違いとなるようして所定間隔をあけて対向配置されている。また、ヒータ部35は例えば電熱線からなる発熱体により構成されている。
【0024】
ただし、一対の検出電極36a,36bの形状は上記に限定されず、曲線状をなす形状で設けられているものや、各1本の線からなる一対の電極部が所定距離を隔てて平行に対向配置されているものであってもよい。
【0025】
なお、図示は省略するが、PMセンサ17は、センサ素子31を保持するための保持部を有しており、センサ素子31はその一端側が保持部により保持された状態で排気管に固定されるようになっている。この場合、少なくともPM検出部34及びヒータ部35を含む部位が排気管内に位置するように配されるとともに、センサ素子31において絶縁基板32(PM被付着部)が排気上流側を向くようにして、PMセンサ17が排気管に取り付けられる構成となっている。これにより、PMを含む排気が排気管内を流れる際、そのPMが絶縁基板32において検出電極36a,36b及びその周辺に付着し堆積する。また、PMセンサ17は、センサ素子31の突出部分を覆う保護カバーを有している。
【0026】
上記構成のPMセンサ17は、排気中のPMがセンサ素子31の絶縁基板32に付着し堆積すると、それによりPM検出部34の抵抗値(すなわち一対の検出電極36a,36b間の抵抗値)が変化すること、及びその抵抗値の変化がPM堆積量に対応していることから、その抵抗値の変化を利用してPM量を検出するものである。
【0027】
図3に示すように、PMセンサ17に関する電気的構成として、PMセンサ17のPM検出部34の一端側にはセンサ電源41が接続され、他端側にはシャント抵抗42が接続されている。センサ電源41は、例えば定電圧回路により構成されており、定電圧Vccが5Vとなっている。この場合、PM検出部34とシャント抵抗42とにより分圧回路40が形成されており、それらの中間点電圧がPM検出電圧Vpm(センサ検出値)としてECU20に入力されるようになっている。つまり、PM検出部34ではPM堆積量に応じて抵抗値Rpmが変化し、その抵抗値Rpmとシャント抵抗42の抵抗値RsとによりPM検出電圧Vpmが変化する。そして、そのPM検出電圧VpmがA/D変換器43を介してマイコン44に入力される。
【0028】
ここで、Vcc=5V、Rs=100kΩとすると、PM検出電圧Vpmは次の(1)式で求められる。
Vpm=5V×100kΩ/(100kΩ+Rpm) …(1)
このとき、PM堆積量が0(又は略0)であれば、PM検出部34の抵抗値Rpmは無限大になることから、Vpm=0Vとなる。また、PM検出部34でのPM堆積によりPM検出部34の抵抗値Rpmが例えば1kΩまで低下すると、Vpm=4.95Vとなる。こうしてPM検出部34でのPM堆積量に応じてPM検出電圧Vpmが変化する。マイコン44は、PM検出電圧Vpmに応じてPM堆積量を算出する。
【0029】
分圧回路40により信号出力回路が構成されており、この分圧回路40によって0〜5Vを出力範囲としてPM検出電圧Vpmが変化可能となっている。この場合、PM検出電圧Vpmの出力上限値は5Vであり、より厳密には5Vよりも若干低い電圧値となっている。
【0030】
また、PMセンサ17のヒータ部35には、ヒータ電源45が接続されている。ヒータ電源45は例えば車載バッテリであり、車載バッテリからの給電によりヒータ部35が加熱される。この場合、ヒータ部35のローサイドにはスイッチング素子としてのトランジスタ46が接続されており、マイコン44によりトランジスタ46がオン/オフされることでヒータ部35の加熱制御が行われる。
【0031】
絶縁基板32上にPMが堆積した状態でヒータ部35の通電を開始すると、堆積PMの温度が上昇し、それに伴い堆積PMが強制燃焼される。こうした強制燃焼により、絶縁基板32に堆積したPMが燃焼除去される。マイコン44は、例えば、エンジン始動時や運転終了時に、又はPM堆積量が所定量になったと判定された時や、前回のPM強制燃焼からのエンジン運転時間や車両走行距離が所定値になったと判定された時に、PMの強制燃焼要求が生じたとしてヒータ部35による加熱制御を実施する。
【0032】
その他、ECU20には、各種の学習値や異常診断値(ダイアグデータ)等を記憶するためのバックアップ用メモリとしてのEEPROM47が設けられている。
【0033】
さて、本実施形態では、エンジン11の運転状態に基づいて、エンジン11から排出されるPM量を推定PM排出量として算出し、その算出した推定PM排出量を、PMセンサ17の検出信号に基づき算出されるエンジン11の実際のPM排出量(実PM排出量)と比較することにより、エンジン11の燃焼状態の異常診断を実施することとしている。以下、その異常診断処理について詳しく説明する。
【0034】
図4は、エンジン11の異常診断処理を示すフローチャートである。本処理は、マイコン44により所定時間ごとに繰り返し実行される。
【0035】
図4において、ステップS11では、エンジン11の運転に係るアクチュエータの駆動状態が正常であるか否かを判定する。エンジン運転に係るアクチュエータとしては、例えば、燃料噴射弁12や点火装置13、スロットルバルブ(図示略)等が挙げられる。これらのアクチュエータが正常に駆動することの判定は、図示しない別のルーチンにより実行される各種アクチュエータの異常診断の結果を入力することで行う。
【0036】
エンジン11の運転に係るアクチュエータが正常に駆動する場合にはステップS12へ進み、PMセンサ17において有効なPM検出電圧Vpmを取得可能な状態であるか否かを判定する。ここでは、エンジン11の暖機が完了した後であればYESと判定される。
【0037】
すなわち、本実施形態では、エンジン始動時には、強制燃焼要求が生じたとしてヒータ部35による絶縁基板32の加熱を行い、その強制燃焼により、絶縁基板32に堆積したPMを除去する。その後、有効なPM検出電圧Vpmを取得可能であるとして、PM検出電圧Vpmに基づくエンジン11の制御を開始する。ところが、冷間始動の場合では、排気通路において水が生じやすく、その水がセンサ素子31に付着した状態でヒータ加熱を行うと、センサ素子31の破損を招くおそれがある。そこで、エンジン始動時では、所定の始動期間が経過した後(エンジン11の暖機後)にPM強制燃焼を実施することとしており、その始動期間において、PM検出電圧Vpmを用いた制御を禁止することとしている。
【0038】
有効なPM検出電圧Vpmを取得可能であればステップS13へ進み、エンジン11の運転状態に基づいて排気中のPM量を算出し、その算出したPM量を推定PM排出量Wrとして記憶する。ここで算出される推定PM排出量Wrは、現在のエンジン運転状態においてエンジン11から排出されるPM量の瞬時値である。ステップS13では、エンジン回転速度や吸入空気量、燃料噴射量、燃料噴射タイミング、空燃比、エンジン冷却水温、点火時期、バルブタイミング、燃圧等といったエンジン運転状態に関するパラメータと、エンジン11から排出されるPM量との関係を適合マップとして予め定めて記憶してあり、その適合マップを用いて、今現在のエンジン運転状態での推定PM排出量を算出する。なお、エンジン11の排気を吸気系に還流するためのEGR装置を備えるエンジンであれば、上記のパラメータに更にEGR率を加えても良い。
【0039】
続くステップS14では、推定PM排出量Wrがゼロか又はゼロ近傍の値であるか否かを判定する。このステップS14は、今現在のエンジン11の運転状態が、エンジン11からのPM排出量=0とみなすことができる状態であることを判定するための処理でもある。このようなエンジン運転状態としては、アイドル運転時、低負荷走行時、燃料カット時などが挙げられる。ステップS14がNOの場合、ステップS15以降の異常診断処理を実行せずに本処理を終了する。
【0040】
なお、ステップS13では、瞬時値としての推定PM排出量Wrが0又は略0か否かを判定したが、これに代えて、推定PM排出量Wrの積算値の変化の速さ(変化の傾き)が0又は略0か否かを判定してもよい。
【0041】
ステップS14がYESの場合にはステップS15へ進み、PM排出量診断カウンタCpmを1インクリメントする。PM排出量診断カウンタは、推定PM排出量Wrが0又は略0となった時を起点としてそのWr≒0となった時点からの経過時間を計測するためのカウンタである。また、ステップS15では、Wr≒0となった時点でのPM検出電圧Vpmを取得し、これを記憶する。
【0042】
続くステップS16では、PM排出量診断カウンタCpmのカウンタ値が所定の判定値K1以上であるか否かを判定する。カウンタ値≧K1の場合にはステップS17に進み、PM検出電圧Vpmを取得し、Wr≒0となった時点からのPM検出電圧Vpmの変化量ΔVpmを算出する。ここでは、今現在のPM検出電圧Vpmと、Wr≒0となった時点でのPM検出電圧との差を変化量ΔVpmとして算出する。
【0043】
ステップS18では、変化量ΔVpmが異常判定値KE1以上であるか否かを判定する。ΔVpm≧KE1である場合、ステップS20に進んでエンジン11の燃焼状態に異常が生じていると判定する。このとき、エンジン11の燃焼異常を表す異常診断データ(ダイアグデータ)をEEPROM47に記憶する。
【0044】
なお、ステップS18では、変化量ΔVpmと異常判定値KE1との比較に代えて、Wr≒0の期間においてPM検出電圧Vpmの変化の速さ(変化の傾き)を算出し、その算出した変化の早さと異常判定値とを比較することにより異常診断を行ってもよい。変化の速さは、今現在のPM検出電圧VpmとWr≒0の開始時点でのPM検出電圧Vpmとの差を、PM排出量診断カウンタCpmの値で割ることにより、PM検出電圧Vpmの変化時における平均速度として算出する。また、PM排出量診断カウンタCpm及び変化量ΔVpmについては、例えば、ステップS11,S12及びS14の少なくともいずれかの処理でNOと判定されたときにリセットしてもよいし、あるいは、本ルーチンによる異常診断処理が終了した後にリセットしてもよい。
【0045】
図5は、PM検出電圧Vpmによるエンジン11の異常判定処理をより具体的に説明するためのタイムチャートである。図5では、エンジン始動時を想定している。
【0046】
図5において、タイミングt11では、エンジン始動要求が生じエンジン11の燃焼が開始されることにより、エンジン回転速度が上昇し、推定PM排出量Wrが増加する側に変動する。タイミングt12では、PM強制燃焼フラグがセットされる。これにより、ヒータ通電がオンされ、堆積PMの強制燃焼が開始される。
【0047】
なお、ヒータ部35の通電開始に伴いPM検出電圧Vpmが上昇するのは、PMセンサ17(絶縁基板32)に堆積している堆積PMの温度が上昇することにより電極間抵抗が小さくなったことに起因するものである。つまり、PMは、温度上昇により抵抗値が下がる温度特性を有しており、抵抗値が下がることでPM検出電圧Vpmが上昇し、Vpmが出力上限値に張り付いた状態になる。その後、強制燃焼により堆積PMが除去されると、抵抗値が上がることでPM検出電圧Vpmが減少し、Vpmが略0の状態になる。
【0048】
PM検出電圧Vpmが減少する側に変動すると、強制燃焼処理が終了したとしてヒータ通電がオフされ、PM強制燃焼フラグがリセットされる。また、PM計測許可フラグがセットされる。なお、PM検出電圧Vpmが略0になった後にヒータ通電がオフされてもよい。
【0049】
PM計測許可フラグがセットされ、有効なPM検出電圧Vpmを取得可能となった後、エンジン11がアイドル運転状態になった場合(推定PM排出量Wr≒0又はその積算値の変化速度≒0の場合)を考える。この場合、タイミングt13で、PM排出量診断カウンタのカウントアップが開始される。また、そのカウンタ値が判定値K1以上になると、異常診断が開始される。このとき、変化量ΔVpmが異常判定値KE1以上の場合にエンジン11の燃焼状態が異常であると判定される。
【0050】
以上詳述した本実施形態によれば、次の優れた効果が得られる。
【0051】
エンジン11の運転状態に基づいて、エンジン11から排出されるPM量を推定PM排出量Wrとして算出し、その算出した推定PM排出量WrとPM検出電圧Vpmとに基づいてエンジン11の燃焼状態の異常診断を実施する構成としたため、エンジン11の燃焼状態に異常が生じ、PM排出過多となっている場合にも、その排出過多の状態をPMセンサのセンサ検出信号によって把握できる。したがって、エンジン11の燃焼状態の異常の有無を検出することができる。
【0052】
推定PM排出量Wrがゼロか又は略ゼロとなる期間においてPM検出電圧Vpmの変化に基づいて異常診断を実施する構成としたため、本来であればエンジン11からPMが排出されない状態においてPM検出電圧Vpmの変化を検出することにより、エンジン11の燃焼状態の異常を精度良く検出することができる。
【0053】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について、上記の第1の実施形態との相違点を中心に説明する。上記第1の実施形態では、エンジン運転状態に基づき算出される推定PM排出量Wrがゼロ又は略ゼロとなる期間においてエンジン11の異常診断を実施したが、本実施形態では、推定PM排出量Wrが増加する側に変動する期間においてエンジン11の異常診断を実施する。
【0054】
PMセンサ17では、排気中のPMが絶縁基板32に付着し、その付着したPMを介して一対の検出電極36a,36b間が繋がることにより検出電極36a,36b間の抵抗値(PM検出部34の抵抗値)が変化する。そのため、PMセンサ17では、PMの付着により一対の検出電極36a,36b間が繋がるまでの期間では、PM堆積量≠0であってもPM検出電圧Vpmは上昇せず、Vpm=0となる状態が継続する不感帯となる。
【0055】
図6は、PMセンサ17の不感帯を説明するための図である。排気中にPMが含まれていれば、時間の経過に伴いPM検出電圧Vpmが大きくなる。このとき、時間とVpmとの関係は、本来は破線で示すように、時間=0でVpm=0となり、その後は時間の経過に伴いVpmが大きくなる。ところが、PMセンサ17により堆積PM量を検出しようとすると、実線で示すように、時間0〜t1までの期間においてPM検出電圧Vpmは0となり、t1でVpmが増加側へ変化し始める。この時間0〜t1までの期間が不感帯である。
【0056】
ところで、エンジン11の燃焼状態の異常に伴いPM排出過多となっている状態では、今現在のエンジン運転状態に基づき算出されるエンジン11のPM排出量(推定PM排出量Wr)と、PM検出電圧Vpmに基づいて算出される実PM排出量Wpmとにずれが生じ、実際のPM排出量(実PM排出量Wpm)は、推定PM排出量Wrの積算値として算出される値よりも大きくなる。この場合、PM燃焼除去後において、推定PM排出量Wrと実PM排出量Wpmとのずれが不感帯時間の相違として現れ、今現在のエンジン運転状態によればPM排出量はPMセンサ17の不感帯に相当する程度であると判定される場合であっても、実際には不感帯に相当する量よりも多いPMがエンジン11から排出されていることがある。
【0057】
この点に着目し、本実施形態では、絶縁基板32上のPMを燃焼除去してから、PM検出電圧Vpmが上昇に転じるまでの不感帯時間と、その不感帯の期間内でエンジン11から排出される推定PM排出量Wrの総量とを比較し、その比較結果に基づいてエンジン11の燃焼状態の異常を診断する。
【0058】
図7は、エンジン11の異常診断処理を示すフローチャートである。本処理は、マイコン44により所定時間ごとに繰り返し実行される。なお、上記図4と同様の処理については、図4と同じステップ番号を付してその説明を省略する。
【0059】
図7において、ステップS31及びS32では、図4のステップS11及びS12と同じ処理を実施し、ステップS32がYESの場合にはステップS33へ進む。
【0060】
ステップS33では、PM強制燃焼処理を終了した直後であるか否かを判定し、YESの場合にはステップS35へ進み、PM除去後カウンタCfのカウントアップを開始する。PM除去後カウンタCfは、PMの強制燃焼処理の終了時(例えばヒータオフ時)を起点としてその時点からの経過時間を計測するためのカウンタである。
【0061】
ステップS33がNOの場合にはステップS34へ進み、本ルーチンにおける異常診断の実施中か否かを判定し、異常診断の実施中であればステップS35へ進む。ステップS34では、PM除去後カウンタCf≠0でない場合にYESと判定される。
【0062】
ステップS36では、PM検出電圧Vpmが0から上昇に転じたか否かを判定する。Vpm=0の場合、PMセンサ17の不感帯の期間であるとしてそのまま本ルーチンを終了する。一方、PM検出電圧Vpmが0から0よりも大きい値に変化した場合にはステップS37に進む。なお、PM強制除去の終了からステップS36がYESとなるまでの期間がPMセンサ17における不感帯の期間であり、ステップS36がYESになった時点でのPM除去後カウンタCfが不感帯時間となる。
【0063】
ステップS37では、エンジン11の運転状態に基づいて算出した推定PM排出量Wrを用いて、不感帯期間内でエンジン11から排出されたPM排出量の総量として推定PM積算値ΣWrを算出する。また、ステップS38では、予め定めた異常判定値設定用マップを用いて、推定PM積算値ΣWrに基づいて異常判定値KE2を算出する。
【0064】
図8は、異常判定値設定用マップの一例を示す図である。図8によれば、推定PM積算値ΣWrが多いほど(エンジン11のPM排出量が多いほど)、異常判定値KE2が小さい値になっている。
【0065】
ステップS39では、PM除去後カウンタCfが異常判定値KE2未満であるか否かを判定する。つまり、ステップS39は、エンジン運転状態を基に算出される不感帯時間と、PM検出電圧Vpmを基に算出される実際の不感帯時間とを比較する処理であり、後者が前者よりも短い場合にYESと判定される。Cf<KE2である場合、ステップS41に進んでエンジン11の燃焼状態に異常が生じていると判定する。このとき、エンジン11の燃焼異常を表す異常診断データ(ダイアグデータ)をEEPROM47に記憶する。
【0066】
図9は、本実施形態のエンジン11の異常診断処理をより具体的に説明するためのタイムチャートである。なお、図中、実線はエンジン11の正常時を示し、一点鎖線はエンジン11の異常時を示している。
【0067】
図9において、タイミングt21では、PM強制燃焼処理の終了に伴いPM除去後カウンタCfのカウントアップが開始される。また、タイミングt21では、エンジン11は高負荷運転状態であり、推定PM積算値ΣWrが増加する。
【0068】
タイミングt21以降ではエンジン高負荷運転状態が継続されており、このPM排出量の増加期間においてエンジン11の異常診断処理が実施される。
【0069】
このとき、エンジン11の燃焼状態が正常であれば、実線で示すように、タイミングt23でPM検出電圧Vpmが上昇する。このとき、タイミングt21からPM検出電圧Vpmの上昇タイミング(t23)までの不感帯時間(Cfのカウンタ値)は、その上昇タイミング(t23)での推定PM積算値ΣWrに基づき算出される異常判定値KE2以上となる。これに対し、エンジン11の燃焼状態に異常が生じていると、一点鎖線で示すように、タイミングt22でPM検出電圧Vpmが上昇する。このとき、Cf<KE2であり、エンジン11の燃焼状態が異常であると判定される。
【0070】
以上詳述した本実施形態によれば、次の優れた効果が得られる。
【0071】
絶縁基板32上のPMを除去してからPM検出電圧Vpmが上昇に転じるまでの実際の不感帯時間と、その不感帯の期間内での推定PM積算値ΣWrとに基づいて、具体的には、推定PM積算値ΣWrに基づき算出される異常判定値KE2と実際の不感帯時間との比較により、エンジン11の燃焼状態の異常を診断する構成としたため、エンジン11の燃焼状態に異常が生じ、PM排出過多となっている場合にも、その排出過多の状態を把握できる。特に、エンジン11の高負荷時や負荷上昇時などのようにエンジン11から排出されるPM量が上昇変化する場合において、異常検出を精度良く実施できる。
【0072】
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施されてもよい。
【0073】
・エンジン運転状態に基づいて算出した推定PM排出量Wr(瞬時値)の所定時間での積算値と、その所定時間でのPM検出電圧Vpmの増加量(センサ17の絶縁基板32上のPM堆積量)との比較により、エンジン11の燃焼状態の異常診断を実施する。この場合、PM検出電圧Vpmに基づき算出したPM堆積量が、エンジン運転状態に基づき算出した推定PM排出量Wrの積算値よりも多い場合に、エンジン11の燃焼状態の異常有りと判定する。
【0074】
・推定PM排出量Wrの所定時間におけるPM積算量の変化の速度と、PMセンサ17の絶縁基板32上に堆積したPM堆積量の変化の速度との比較により、エンジン11の燃焼状態の異常診断を実施する。この場合、後者の上昇変化が前者の上昇変化よりも速い場合に、エンジン11の燃焼状態の異常有りと判定する。
【0075】
・推定PM排出量WrとPM検出電圧Vpmとに基づいて、エンジン11の燃焼状態に係るアクチュエータの異常の有無を検出する構成としてもよい。
【0076】
・上記実施形態では、信号出力回路として図3に示す分圧回路40を用いたが、これを変更してもよい。例えば、分圧回路を構成するPM検出部34とシャント抵抗42との接続を逆にし、PM検出部34をローサイド、シャント抵抗42をハイサイドに設ける構成としてもよい。本構成では、PM検出電圧Vpmは次の(2)式で求められることとなる。
Vpm=5V×Rpm/(Rs+Rpm) …(2)
なお、RpmはPM検出部34の抵抗値、Rsはシャント抵抗42の抵抗値(例えば5kΩ)である。
【0077】
・上記実施形態では、PM強制燃焼のための加熱手段として、絶縁基板32と一体にヒータ部35を設ける構成としたが、PMセンサ17の周囲ガスの温度(例えば、エンジン排気管内の温度)をPMの燃焼温度まで上昇させる構成としてもよい。この場合、例えば、エンジンの燃焼制御により排気温度を上昇させる構成や、ヒータ部35とは別の加熱手段(ヒータ等)を排気管に設ける構成とする。
【0078】
・エンジン排気管にPMを捕集するためのPMフィルタを設け、その下流側又は上流側の少なくともいずれかにPMセンサを設けた構成において、PMセンサの検出値に基づいてPMフィルタの再生タイミングを制御する構成としてもよい。また、PMセンサの検出値に基づいて、PMフィルタの故障診断を実施する構成としてもよい。
【0079】
・上記実施形態では、直噴式ガソリンエンジンについての適用を例示したが、他の形式のエンジンにも適用できる。例えば、ディーゼルエンジン(特に、直噴式ディーゼルエンジン)に適用することとし、ディーゼルエンジンの排気管に設けられたPMセンサについて本発明を用いることも可能である。また、エンジンの排気以外のガスを対象としてPM量を検出するものであってもよい。
【符号の説明】
【0080】
11…エンジン、17…PMセンサ(粒子状物質検出センサ)、20…ECU、32…絶縁基板(被付着部)、34…PM検出部、35…ヒータ部(加熱手段)、36a,36b…検出電極(対向電極)、40…分圧回路、44…マイコン(推定量算出手段、異常診断手段、除去手段、不感帯時間手段、総量算出手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気に含まれる導電性の粒子状物質の量を検出する粒子状物質検出センサが排気通路に設けられた内燃機関に適用され、前記粒子状物質検出センサのセンサ検出信号に基づいて排気中の前記粒子状物質の量を算出する内燃機関の制御装置において、
前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記内燃機関から排出される前記粒子状物質の量を推定排出量として算出する推定量算出手段と、
前記推定量算出手段により算出した推定排出量と前記センサ検出信号とに基づいて、前記内燃機関の燃焼状態の異常診断を実施する異常診断手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記異常診断手段は、前記推定排出量がゼロ又は略ゼロとなる期間において、前記センサ検出信号の変化に基づいて前記異常診断を実施する請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記粒子状物質検出センサは、ガス中に含まれる前記粒子状物質を付着させる被付着部と、前記被付着部に互いに離間して設けられる一対の対向電極とを備え、前記一対の対向電極間の抵抗値に応じたセンサ検出信号を出力するものであり、
前記被付着部に付着している前記粒子状物質を除去する除去手段と、
前記被付着部の前記粒子状物質を除去してから、前記一対の対向電極の抵抗値の減少変化に伴い前記センサ検出信号が変化するまでの不感帯の時間である不感帯時間を算出する不感帯時間算出手段と、
前記推定量算出手段により算出した推定排出量に基づいて前記不感帯の期間内で前記内燃機関から排出される前記粒子状物質の総量を算出する不感帯排出量算出手段と、を備え、
前記異常診断手段は、前記不感帯時間算出手段により算出した不感帯時間と、前記不感帯排出量算出手段により算出した前記粒子状物質の総量とに基づいて、前記異常診断を実施する請求項1に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−36816(P2012−36816A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177513(P2010−177513)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】