内燃機関の排気浄化装置
【課題】過昇温発現位置の残存パティキュレート量の変化に応じて、再生温度を変化させるという手法をとることで、燃費が悪化することなく、フィルタ強制再生を行える内燃機関の排気浄化装置を提供することにある。
【解決手段】内燃機関1の排気系のパティキュレートを捕集するフィルタ22と、フィルタの上流側の排気系に炭化水素を供給するHC供給手段MFと、HC供給手段によるHC供給量制御によりフィルタ温度を目標値に上昇させて該フィルタに捕集されたパティキュレートを燃焼除去するフィルタ再生手段123と、フィルタの再生中の残存パティキュレート量を演算する残存パティキュレート量演算手段123−4と、フィルタ温度目標値を残存パティキュレート量に基づいて設定するフィルタ温度目標値設定手段123−6と、を備えた。
【解決手段】内燃機関1の排気系のパティキュレートを捕集するフィルタ22と、フィルタの上流側の排気系に炭化水素を供給するHC供給手段MFと、HC供給手段によるHC供給量制御によりフィルタ温度を目標値に上昇させて該フィルタに捕集されたパティキュレートを燃焼除去するフィルタ再生手段123と、フィルタの再生中の残存パティキュレート量を演算する残存パティキュレート量演算手段123−4と、フィルタ温度目標値を残存パティキュレート量に基づいて設定するフィルタ温度目標値設定手段123−6と、を備えた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気ガス中に含まれる有害成分を除去する排気後処理装置を備えた内燃機関の排気浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関(以下、エンジンという)はその排気系に排気浄化装置を配備し、排ガスの無害化を図っている。この種の排気浄化装置で用いる排気後処理装置としては、排出HC抑制の手段として三元触媒や酸化触媒、特に、ディーゼルエンジンの場合、リーン運転域で排出され易いNOxを浄化するNOx触媒や排出される微粒子状物質であるパティキュレートを除去するための細孔が設けられた濾過壁を有するウオール・フロー型のディーゼルパティキュレートフィルタ(以後単にフィルタと記す)が採用されている。
【0003】
当該フィルタを備えた排気浄化装置では、通常エンジンの排気系の上流側に酸化触媒を設け、下流側にフィルタを設け、排ガス中のパティキュレートをフィルタに捕集する。この運転中において、排ガス温度が比較的高い運転状態にあると、酸化触媒の作用により排ガス中のNOからNO2を生成し、このNO2を酸化剤として利用してフィルタに捕集されたパティキュレートを焼却除去し、フィルタの連続再生を行っている。
【0004】
ところが、ディーゼル機関は排気温度が比較的低い運転域が多く、この連続再生作用が得られない運転状態が継続されて、パティキュレート堆積量が許容量を越える場合がある。このような場合、排圧が過度に上がり、この圧力損失の過増は燃費の悪化要因ともなる。また、許容値を超えた最悪の場合には、エンジン始動不可という状態に到達する。そこでフィルタに所定量のパティキュレートが堆積した際には、強制的にパティキュレートを除去する必要がある。このフィルタからパティキュレートを除去する手段の一つとして、運転中にフィルタへ高温ガスを流入させ、パティキュレートを燃焼除去する方法がある。
【0005】
しかし、ディーセルエンジンにおいてパティキュレート燃焼が可能となる高温ガス(600℃以上)を適時にフィルタに流入させることは困難である。そこでフィルタの上流に酸化触媒を設置し、そこへ未燃燃料(HC)を供給して燃焼させ、その反応熱を利用してフィルタへ高温ガスを流入させる手法がある。以下、本手法をフィルタ強制再生と呼ぶ。 従来のフィルタ強制再生では酸化触媒への未燃燃料供給量をフィードバック(F/B)し、フィルタに流入する「入口ガス温度」が目標焼却温度となるように、計測もしくは推定しながら制御する手法がとられている。
【0006】
パティキュレートを除去する手段の一つとして、例えばポスト噴射により膨張行程或いは排気行程で追加燃料を噴射し、追加燃料中のHCを燃焼させて、フィルタへ高温ガス(約600℃以上)を流入させ、フィルタ上のパティキュレートを強制的に焼却除去し、フィルタ強制再生を行っている。
ところで、特開2006−90147号公報(特許文献1)に開示の内燃機関の排気浄化装置では、ディーゼルエンジンの運転状態に応じて設定する燃料添加量を含む燃料が排気系中に添加され、強制再生がなされた場合において、フィルタの上流と下流の間の差圧に応じて推定される量のパティキュレートがフィルタに堆積すると見做す。その上で、堆積パティキュレートが燃焼した際のフィルタの温度を予め推定し、推定されたフィルタの温度が予め設定された目標温度履歴をたどるようにポスト噴射量を逐次補正する。これにより、フィルタの過昇温に起因する溶損や破損を回避しながら、フィルタの再生処理を実行するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−90147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、フィルタ強制再生において、フィルタの入口の流入ガス温度を制御するという従来の一般的な手法では、図11に示すように、ポスト噴射開始時taよりフィルタ入口温度(フィルタ.in)が、続いてフィルタ内部温度(フィルタ.bed)が上昇し、時点tbでアイドル運転(IDLE)に切り換わるとフィルタ入口温度(破線で示す)は低下するが、フィルタ内部温度(実線で示す)は堆積パティキュレートの燃焼が急速に進んで過昇温状態を招き易く、フィルタ強制再生時のフィルタ溶損リスクが高いものとなっている。また、従来のフィルタ強制再生のように流入ガス温度を一定(もしくは二段階)の目標温度で温度制御するものでは、再生に伴う燃費悪化抑制に対して最適値を得ることができない。
【0009】
次に、本発明者が本発明を推考するに至った理由を(1)〜(4)に沿って順説明する。
(1)フィルタ強制再生は、パティキュレート堆積が強制再生時を判定するパティキュレート堆積所定量に達した時点で実施される。
(2)このパティキュレート堆積所定量は予め実験等で決定される。ここでのパティキュレート堆積所定量はそれより強制再生が成され、運転域をIDLEに移行させた際にフィルタ内部温度が急上昇するが、その急上昇するフィルタ内部温度が所定温度以下に抑制されるような量として設定される。
(3)ここで強制再生中のIDLE移行時のフィルタ内部昇温量は、lDLE移行時の過昇温発現位置の「残存パティキュレート量」と「温度」の影響を受ける。しかし、過昇温発生位置の「温度」は、パティキュレート燃焼速度に比例して、フィルタ入口温度に対して上昇することが明らかである。
【0010】
ここでパティキュレート燃焼速度はパティキュレート堆積密度および温度に比例するため、結果的にパティキュレート堆積量に比例してフィルタ入口温度が上昇する。すなわち、フィルタ入口温度のみに基づいて再生制御した場合には、実際にはパティキュレート堆積量に応じて入口温度に対して高温化しており、それにより過昇温に伴う溶損リスクが相対的に高くなっている。
(4)このため、本来は強制再生の進行に伴う過昇温発現位置の「残存パティキュレート量」の変化に応じて、再生温度を変化させるべきである。
【0011】
即ち、過昇温が発生しやすいパティキュレート堆積多量時には相対的に低温で発生し、パティキュレート堆積量の減少に伴い再生温度を連続的に相対的に高温側に変化させるべきであり、その状態が最も燃比悪化を抑制できると見做される。
しかし、現行はパティキュレート堆積量の変化に因らず、再生温度を一定(もしくは2段階)として再生が実施されている。この点は、引用文献1の技術でも同様である。
更に、この場合、基本的に再生温度が高い方が燃費悪化に対するパティキュレート燃焼効率が高い。しかし溶損を回避するとの判断で、相対的に低温かつ長時間の再生が成され、再生に要する燃費が悪化することとなっている。
【0012】
本発明は以上のような課題に基づきなされたもので、目的とするところは、過昇温発現位置の残存パティキュレート量の変化に応じて、再生温度を変化させるという手法をとることで、燃費が悪化することなく、フィルタ強制再生を行える内燃機関の排気浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願請求項1の発明は、内燃機関の排気系のパティキュレートを捕集するフィルタと、前記フィルタの上流側の排気系に炭化水素を供給するHC供給手段と、前記HC供給手段によるHC供給量制御により前記フィルタ温度を目標値に上昇させて該フィルタに捕集されたパティキュレートを燃焼除去するフィルタ再生手段と、前記フィルタの再生中の残存パティキュレート量を演算する残存パティキュレート量演算手段と、前記フィルタ温度目標値を前記残存パティキュレート量に基づいて設定するフィルタ温度目標値設定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
本願請求項2の発明は、請求項1記載の内燃機関の排気浄化装置において、前記フィルタの内部の温度を演算するフィルタ内部温度演算手段を備え、前記フィルタ再生手段は、前記フィルタの内部温度が前記フィルタ温度目標値となるようHC供給量を制御することを特徴とする。
【0015】
本願請求項3の発明は、請求項1または2記載の内燃機関の排気浄化装置において、前記フィルタを通過する排気ガス温度に応じたパティキュレートの燃焼速度を演算するパティキュレート燃焼速度演算手段と、前記パティキュレート燃焼速度相当のパティキュレート燃焼量を演算するパティキュレート燃焼量演算手段を備え、前記残存パティキュレート量演算手段は、前記フィルタの前回の残存パティキュレート量と前記パティキュレート燃焼量とから今回の残存パティキュレート量を演算することを特徴とする。
【0016】
本願請求項4の発明は、請求項1〜3の何れか一項に記載の内燃機関の排気浄化装置において、前記フィルタ温度目標値を前記残存パティキュレート量の増加に応じて低くなるように設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明は、再生中の残存パティキュレート量に基づいたフィルタ温度目標値を設定し、同フィルタ温度目標値となるようにHC供給量を制御してフィルタの温度を調整するので、フィルタ再生に伴う燃費悪化を抑制できるとともに、フィルタ内に過昇温発生部が発生することを的確に回避でき、フィルタの溶損を確実に防止できる。
【0018】
請求項2の発明は、フィルタ再生手段が、フィルタの内部の温度がフィルタ温度目標値となるようにHC供給量を制御してフィルタの内部温度を調整するので、最も過昇温を発生しやすいフィルタ内部に過昇温が発生することを的確に回避できる。
【0019】
請求項3の発明は、パティキュレートの燃焼速度及び燃焼量に基づいて残存パティキュレート量を演算するので、再生中であってもパティキュレート堆積量の変化を正確に演算することができる。
【0020】
請求項4の発明は、フィルタ温度目標値が残存パティキュレート量の増加に応じて低くなるように設定されるので、残存パティキュレート量が多いときにはパティキュレートの燃焼温度を比較的低くして過昇温発生を抑え、残存パティキュレート量が比較的少なくなるとパティキュレートの燃焼温度を比較的高めて速やかな焼却を図ることで、燃費悪化を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態としての内燃機関の排気浄化装置の全体構成図である。
【図2】図1の内燃機関の排気浄化装置で用いるHC供給手段がインジェクタを通常噴射モードで駆動する場合の説明図で、(a)は駆動信号を、(b)は噴射量を示す。
【図3】図1の内燃機関の排気浄化装置で用いるHC供給手段がインジェクタを再生噴射モードで駆動する場合の説明図で、(a)は駆動信号を、(b)は噴射量を示す。
【図4】図1の内燃機関の排気浄化装置の再生噴射モードでの制御で用いるフィルタ流入O2モル量を用いたパティキュレート燃焼速度算出マップm−1の説明図である。
【図5】図1の内燃機関の排気浄化装置の再生噴射モードでの制御で用いるO2流入速度を用いたパティキュレート燃焼速度算出マップm−1’の説明図である。
【図6】図1の内燃機関の排気浄化装置の再生噴射モードでの制御で用いる昇温量算出マップm−2の説明図である。
【図7】図1の内燃機関の排気浄化装置の再生噴射モードでの制御で用いる目標値であるフィルタ入口制御温度を設定する制御テーブルm−3の説明図である。
【図8】図1の内燃機関の排気浄化装置の再生噴射モードでの制御で用いるフィルタ内部温度(ピーク温度)に関連した入口温度(縦軸)とパティキュレート堆積量とを関連させるピーク温度設定マップm−4の説明図である。
【図9】図1の内燃機関の排気浄化装置の再生噴射モードでの制御でフィルタのパティキュレート堆積量が経時的に焼却により低減する際の目標値の変化特性線図である。
【図10】図1の内燃機関の排気浄化装置が行うフィルタ強制再生制御ルーチンの制御フローチャートである。
【図11】従来のフィルタに堆積するパティキュレートの再生処理中におけるアイドル切換えにより生じる過昇温の変化特性線図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態としての内燃機関の排気浄化装置を装着するディーゼルエンジン(以後単にエンジンと記す)1を図1に沿って説明する。
エンジン1は直列に4つの燃焼室3を配備し、各燃焼室3には直接燃料を噴射する燃料噴射弁8が設けられ、各燃料噴射弁8はコモンレール15(蓄圧室)に接続され、コモンレール15には燃料タンク14の燃料(軽油)が高圧燃料噴射ポンプ13によって加圧供給されており、これらが燃料供給装置MFを構成する。
【0023】
燃料供給装置MFはエンジン駆動の高圧燃料ポンプ13の高圧燃料をECU12内の燃圧制御手段121により制御される燃圧調整部141で定圧化した上でコモンレール15に導き、コモンレール15より分岐して延出する噴射管16を介し各インジェクタ8に供給している。なお、燃料供給装置MFは本発明において、HC供給手段としての機能を備える。
【0024】
ここでのインジェクタ8はエンジンコントロールユニット(以下、ECUと記す)12から出力される燃料制御信号に応じて制御される。即ち、インジェクタ8の電磁バルブ17はインジェクタドライバ10を介して噴射制御部122に接続される。同噴射制御部122は演算された燃料噴射量、噴射時期に応じた出力Dj信号を電磁バルブ17に出力し、インジェクタ8を噴射制御する。
【0025】
ここで噴射制御部122はエンジン回転数Neとアクセルペダル踏込量θaに応じた燃料噴射量Ufを求める。更に噴射時期は、周知の基本進角値に運転条件に応じた補正を加えて導出される。その上で、図2、3に示すように、演算された燃料噴射量(図2、3ではQp+Qm、Qfp+Qfm+Qfa)に応じて、通常噴射モードM1時には、パイロット噴射Qp(時間幅Tm)、主噴射Qm(時間幅Tp)を、HC添加噴射モードM2時には、パイロット噴射Qfp(時間幅Tm)、主噴射Qfm(時間幅Tp)及びポスト噴射Qfa(時間幅Ta:排気行程での噴射)を行う。
【0026】
各燃焼室3の他側より延びる不図示の排気ポートは排気マニホールド4に連通し、同排気マニホールド4には排気路Rが接続される。排気路Rは排気マニホールド4に接続された排気管5と、酸化触媒装置21と、パティキュレート除去用のフィルタ(フィルタ)22と、その下流の図示しないマフラーとを備える。
各燃焼室3の一側より延びる不図示の吸気ポートは吸気マニホールド901に連通し、同吸気マニホールド901が吸気路Iを形成する吸気管9に接続される。この吸気管9はエアクリーナ11よりの吸気の量を吸気絞り弁である吸気スロットル弁33で調整してから吸気マニホールド901に導入している。なお、吸気スロットル弁33のアクチュエータ331はECU12により駆動制御される。
【0027】
次に、ここでの排気後処理装置は排気マニホールド4、排気管5を経て排気ガスが順次流入する前段の酸化触媒装置21とフィルタ装置22とを備える。酸化触媒装置21はケーシング211内に配備された触媒担持体19に酸化触媒2を担持し、排ガス中のHCの燃焼を促進する。しかも、この酸化触媒2は、エンジン1から排出される排気中の一酸化窒素(NO)を酸素O2で酸化して高活性の二酸化窒素(NO2)に生成し、すなわち、「2NO+O2→2NO2」の反応を促進させるもので、ここではプラチナ系酸化触媒が採用される。
酸化触媒装置21の下流のパティキュレート除去用のフィルタ装置22は、細孔が設けられた濾過壁を有するウオール・フロー型のディーゼルパティキュレートフィルタであり、ディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれるカーボン等の排気微粒子(パティキュレート)を捕集し、大気に放出しないよう排気通路Rに配設される。
【0028】
フィルタ装置であるフィルタ22はその内部に触媒担持体19を収容する。この触媒担持体19はセラミック製、例えば、Mg、Al、Siを主成分とするコージェライトから成り、多数の排ガス通路r2を排気路Rの方向に向けて並列状に積層してなるハニカム構造体として形成される。
ここで互いに隣り合う各排ガス通路r2は交互に排気路R上流側と下流側のいずれか一方が端部23で閉鎖されるように形成される。これにより上流側に流入した排ガスは各排ガス通路r2−1の通路対向壁bの細孔を通過して排気路R下流側に出口を形成された各排ガス通路r2−2に達し、排出され、その際、排ガス中のパティキュレートが通路対向壁bによって捕集され、このパティキュレートは所定温度(500〜600℃)を上回る高温排気ガスが流入した際に焼却除去される。
【0029】
一方、本発明の内燃機関の排気浄化装置で用いるECU12は、その入出力回路に多数のポートを有し、吸入空気量Qaを検出するエアフローセンサ7と、エンジン1のアクセルペダル開度θaを検出するアクセルペダル開度センサ24と、クランク角情報Δθを検出するクランク角センサ25と、フィルタ22の入口の排気ガス温度(以後、入口ガス温度と記す)フィルタinTを検出する排気温度検出手段である排気温度センサ26と、エンジン1の水温wtを検出する水温センサ27と、大気圧Paを出力する大気圧センサ28と、フィルタ22の前後差圧dPを出力する差圧センサ29と、排気中のO2濃度を検出するO2濃度センサ(A/Fセンサ)49とが接続される。なお、クランク角情報ΔθはECU12においてエンジン回転数Neの導出に用いられると共に燃料噴射時期(tp、tm、ta:図2、3参照)制御に使用される。
【0030】
ECU12は各センサ24、25、26、27、28、29等よりの検出信号を採り込み、制御手段として機能する。即ち、ECU12は周知のエンジン制御処理機能に加え、特に、燃圧制御部121、噴射制御部122及び再生噴射制御部123としての機能を備える。ここで、再生噴射制御部123はパティキュレートを燃焼除去するフィルタ再生手段としての機能を備える。
ここで、噴射制御部122はECU12からの制御信号に応じてインジェクタ8を通常噴射モードM1(図2参照)で制御する。
【0031】
一方、再生噴射制御部123はECU12からの制御信号に応じてインジェクタ8を再生噴射モードM2(図3参照)で制御する。
ここで、再生噴射制御部123は、再生前の当初の堆積パティキュレート量を演算するフィルタ堆積パティキュレート量演算手段123−1と、パティキュレート燃焼速度演算手段123−2と、パティキュレート燃焼量演算手段123−3と、フィルタ残存パティキュレート量演算手段123−4と、フィルタ内部温度演算手段123−5と、フィルタ再生目標温度演算手段123−6と、フィルタ昇温制御手段123−7としての機能を有する。
【0032】
フィルタ堆積パティキュレート量演算手段123−1は、運転情報であるエンジン回転数Neと、フィルタの前後差圧dPより現在のフィルタに堆積する堆積パティキュレート量を演算する。ここでのフィルタの堆積パティキュレート量は、後述するように、再生開始の条件が満たされた際に、パティキュレート堆積初期量として用いられ、これが再生処理に入ると焼却により順次減算されることとなる。
【0033】
パティキュレート燃焼速度演算手段123−2は、予め、排気温度センサ26からのフィルタ22の流入ガス温度である入口ガス温度フィルタinTと、流入O2モル量(O2濃度センサ49からのデータ)f(λ)と、フィルタの堆積パティキュレート量(フィルタ残存パティキュレート量)(n−1)を引数とした、例えば図4に示す3Dマップm−1を作成しておく。このマップはフィルタ堆積パティキュレート量(Z軸の量)の変化に対応し複数用意される。その上で、今回のフィルタの堆積パティキュレート量に対応するマップm−1を選択し、これより今回の入口ガス温度フィルタinTと流入O2モル量(O2濃度センサ49からのデータ)f(λ)とから、今回のパティキュレート燃焼速度パティキュレートbv(g/sec)を演算する。
【0034】
なお、ここでは図4に示す3Dマップm−1の変形例マップm−1’を更に説明する。図5に示すマップm−1’においては、O2流入速度(g/sec)を横軸に、入口ガス温度フィルタinTを縦軸にとり、パティキュレート燃焼速度パティキュレートbv(g/sec)(大小複数配列されたパティキュレートbv毎の速度線L1、L2、L3に応じて演算)を演算できる。ここで、O2流入速度(g/sec)は新気量である吸入空気量AFSAVと流入O2モル量(O2濃度センサ49からのA/Fデータ)f(λ)とゲインKとの乗算値(∝AFSAV×f(λ)×K)に比例する値として演算される。
【0035】
パティキュレート燃焼量演算手段123−3は、今回のパティキュレート燃焼量[g]を今回のパティキュレート燃焼速度パティキュレートbv(g/sec)に制御周期及びグラム変換の補正のための補正値Δt/1000を乗算して演算する。
次に、フィルタ残存パティキュレート量演算手段123−4は、今回のフィルタの堆積パティキュレート量(フィルタ残存パティキュレート量)を、前回のフィルタの堆積パティキュレート量(フィルタ残存パティキュレート量)(n―1)から今回のパティキュレート燃焼量[g]を減算して演算する。なお、初回のフィルタ堆積パティキュレート量(0)は、フィルタ堆積パティキュレート量演算手段123−1で求めた、フィルタ再生処理に入る直前のフィルタのパティキュレート堆積量となる。
【0036】
次に、フィルタ内部温度演算手段123−5は、今回のフィルタ内部温度(n)をフィルタ22の入口ガス温度フィルタinTに昇温量ΔT(n)を加算して求める。ここで昇温量ΔT(n)は、吸入空気量及び燃料噴射量に応じたフィルタ入口ガス流量(n)とパティキュレート燃焼速度(n)を引数としたマップm−2(図6参照)を予め作成しておく。マップm−2において、昇温量ΔT(n)はフィルタの入口ガス流量が高く、パティキュレート燃焼速度(n)が小さくほど小さく設定され、入口ガス温度フィルタinTが低くパティキュレート燃焼速度(n)が大きいほど大きく設定され、フィルタ22の後段内部(図1中に符号Eで示す領域)の内部温度の特性に適合するように設定されている。
【0037】
次に、フィルタ再生目標温度演算手段123−6はフィルタ温度目標値設定手段を成し、フィルタの堆積パティキュレート量(フィルタ残存パティキュレート量)を引数に、フィルタ再生目標温度(n)としての入口制御温度を制御テーブルm−3で検索する。ここで、制御テーブルm−3は次のように作成された。
【0038】
まず、フィルタ22内での堆積パティキュレートの異常燃焼は、再生時に運転域がIDLEに切り替わった際に生じるという点にある。その異常燃焼発生時の変化要因は、フィルタ22の過昇温発生部のフィルタ内部温度(n)と、その過昇温発生部に堆積していたフィルタ堆積パティキュレート量(堆積Soot量)となる。ここで、フィルタ内部温度(n)は入口ガス温度フィルタinT及びフィルタパティキュレート燃焼速度(n)と関連すると見做される。
【0039】
そこで、図8に示すピーク温度マップm−4を作成した。ここで、フィルタ22のフィルタの堆積パティキュレート量(横軸に記載:パティキュレート堆積量)を複数変化させ、再生前のフィルタ内部温度フィルタbed.T(℃)(縦軸記載:入口ガス温度フィルタinTとフィルタパティキュレート燃焼速度(n)に関連する値)を増減複数変化させ、各再生前のフィルタ内部温度フィルタbed.T(入口ガス温度フィルタinTから増加変動する)に対する過昇温発生時の昇温変化値をフィルタ内部温度フィルタbed.T(マップ内の○位置での小文字で表示)としてデータを求め、これらのデータに基づき、ピーク温度マップm−4を作成した。
【0040】
このピーク温度マップm−4において、実線aはフィルタ22の溶損に対する安全率を考慮したピーク温度限界ライン、即ち、フィルタ内部温度フィルタbed.Tが900℃以下の領域を示すしきい線である。
このようなピーク温度マップm−4を用い、このピーク温度マップm−4の横軸の各フィルタのパティキュレート堆積量に対する縦軸の各再生前のフィルタ内部温度フィルタbed.T(即ち、入口ガス温度フィルタinT)を過昇温発生時に溶損を防止できるような値となるものを特定し、これをDPF入口制御目標温度(フィルタ温度目標値M1〜M9)として上述の制御テーブルm−3を作成した。
【0041】
なお、ピーク温度マップm−4の作成にあたり、各フィルタ堆積パティキュレート量とフィルタ温度目標値毎に、図11に示すような従来の一般的な再生を行い、途中IDLEへ移行させた際のフィルタ内最高温度がピーク温度マップm−4の作成に採取された。
次に、フィルタ昇温制御手段123−7は、今回検出したフィルタの入口ガス温度フィルタinTがHC供給量手段によるHC供給量を制御することで、即ち、燃料供給装置MFを用い、図3に示す再生噴射モードM2(参照)でのポスト噴射Qfa(時間幅Ta:排気行程での噴射)の量を調整することで、DFP入口制御目標温度(フィルタ温度目標値)を保持するようにフィードバック制御する。
【0042】
次に、ECU12が不図示のメインルーチンの途中の所定の時点で行うフィルタ強制再生制御処理を図10の再生制御ルーチンに沿って説明する。
この再生制御ルーチンに先立ち不図示のメインルーチンでは各種の運転情報データを取り込み、所定の格納エリアにストアしている。しかも、エンジン1が通常運転中にあると、燃圧制御部121や噴射制御部122がインジェクタ8を通常噴射モードM1で制御している。
このメインルーチンの各制御周期dt毎にその制御処理の途中で再生制御ルーチンのステップs1に達すると、ここでは、フィルタ堆積パティキュレート量演算処理を行う。ここではエンジン回転数Neが判定基準値内にあるとの判断の上で、フィルタの前後差圧dPを求め、これより現在のフィルタの堆積パティキュレート量(n)を演算する。
【0043】
次いで、ステップs2では現在のフィルタの堆積パティキュレート量(n)が所定の再生開始判定値を上回るか否か判断し、満たない間はメインルーチンにリターンし、満たすと強制再生開始時と判断し、ステップs3に進む。なお、図9中には再生開始時点t1を示した。
ステップs3ではステップs1で求めた現在のフィルタのパティキュレート堆積量をフィルタの強制再生開始時のパティキュレート堆積量(後述の残存パティキュレート量(n))の初期値としてメモリにストアする。
【0044】
次いで、ステップs4に達すると、ここではパティキュレート燃焼速度を演算する。ここでは今回のフィルタ堆積パティキュレート量(Z軸の量)に対応するマップm−1(図4に示す)を選択し、更に、排気温度センサ26よりの最新の入口ガス温度フィルタinT(n)を取り込み、O2濃度センサ49から流入O2モル量f(λ)(n)を取り込む。これらデータに応じた今回のパティキュレート燃焼速度パティキュレートbv(g/sec)をマップm−1より演算する。
【0045】
次いで、ステップs5ではパティキュレート燃焼量[g]を演算する。ここでは、前ステップs4で求めたパティキュレート燃焼速度パティキュレートbv(g/sec)に補正値Δt/1000を乗算して今回のパティキュレート燃焼量(n)[g]を演算する。
【0046】
次いで、ステップs6では今回のフィルタ残存パティキュレート量(n)を、前回のフィルタ堆積パティキュレート量(フィルタ残存パティキュレート量)(n―1)から前ステップs5で求めたパティキュレート燃焼量(n)[g]を減算して演算する。なお、初回時におけるフィルタ残存パティキュレート量(0)はステップs1で求めた、初回のフィルタ堆積初期量となる。
【0047】
次いで、ステップs7では今回のフィルタ残存パティキュレート量(n)が、再生完了と見做すに相当する残存量(ゼロでも良い)に達しているか判断し、達していると今回の再生処理を停止し、メインルーチンにリターンし、そうでないと、ステップs8に進む。 ステップs8では、フィルタ内部温度(n)を今回の昇温量ΔT(n)を入口ガス温度フィルタinTに加算して求める。なお、今回の昇温量ΔT(n)はマップm−2(図6参照)を用い、入口ガス温度フィルタinTとパティキュレート燃焼速度(n)に基づき演算する。
【0048】
次いで、ステップs9では、前ステップs6で求めた今回のフィルタ残存パティキュレート量(n)より今回のフィルタ再生目標温度(n)を図7の制御テーブルm−3で検索して、設定する。
【0049】
次いで、ステップs10に達すると、ここでは、今回検出したフィルタの入口ガス温度フィルタinTを今回のフィルタ再生目標温度(n)に修正するように、図3に示す再生噴射モードM2でのポスト噴射Qfa(時間幅Ta:排気行程での噴射)の量を増減調整して、噴射量をフィードバック制御する。図9中には再生開始時点t1後に経時的に順次フィルタ再生目標温度(n)を順次変更する制御モードを示した。
【0050】
このステップs10の制御処理の後、ステップs4に戻り、再度、パティキュレート燃焼速度を演算する。ここでは今回のフィルタ堆積パティキュレート量としての前回のフィルタ残存パティキュレート量(n)に対応するマップm−1(図4に示す)を再度選択し、更に、排気温度センサ26よりの最新の入口ガス温度フィルタinT(n)を再度取り込み、O2濃度センサ49から流入O2モル量f(λ)(n)を再度取り込む。これらデータに応じた再度のパティキュレート燃焼速度パティキュレートbv(g/sec)をマップm−1より演算する。以下ステップs5〜s10を繰り返し、やがて、ステップs7においてフィルタ残存パティキュレート量(n)が、再生完了と見做す残存量(ゼロでも良い)に達していると判断した際に(図9中の時点t2参照)、上で再生処理を停止し、メインルーチンにリターンする。
【0051】
このように、図1の内燃機関の排気浄化装置では、ステップs9で今回のフィルタの残存パティキュレート量(n)より過昇温を抑制できるフィルタ温度目標値(n)を制御テーブルm−3(マップ)を用いて設定する。これに先立ち、ステップs8において、フィルタ22の入口ガス温度フィルタinTに昇温量ΔT(n)を加算して今回のフィルタ内部温度(n)を求めておく。その上で、フィルタ22の入口ガス温度フィルタinTがフィルタ温度目標値(n)となるようにHC供給量を、即ち、図3に示す再生噴射モードM2でのポスト噴射Qfa(時間幅Ta:排気行程での噴射)の量を増減調整して、噴射量をフィードバック制御する。
【0052】
このため、フィルタ22の入口ガス温度フィルタinTをフィルタ温度目標値(n)に制御することで、フィルタ内部に過昇温発生部が発生することを的確に回避でき、フィルタ内部温度(n)が過度に上昇してフィルタ22の溶損を招くことを的確に防止できる。
更に、ここでは、ステップs4からステップs10を繰り返すことで、堆積パティキュレート量である残存パティキュレート量が徐々に低減するのに応じて、制御テーブルm−3(マップ)が入口ガス温度フィルタinTである目標温度を増加して設定しており、即ち、残存パティキュレート量が多いときにはパティキュレートの燃焼温度を比較的低くして過昇温発生を抑え、残存パティキュレート量が比較的少なくなるとパティキュレートの燃焼温度を比較的高めて速やかな焼却を図ることで、経時的に目標温度である入口ガス温度フィルタinTが増加し、残存パティキュレート量が比較的少なくなる時点t3(図9参照)以降は目標温度が650℃にクリップされ、残存パティキュレート量の焼却完了を待つように制御される。
【0053】
特に、ステップs8で、フィルタ22の入口ガス温度フィルタinTに昇温量ΔT(n)を加算して今回のフィルタ内部温度(n)を求めており、入口ガス温度フィルタinT相当のフィルタ内部温度(n)が明らかであるので、制御テーブルm−3が入口ガス温度フィルタinTを用いることが実質的にフィルタ内部温度(n)を用い、これを目標値となるようにHC供給量を制御してフィルタの内部温度を調整することとなるので、フィルタの最も過昇温を発生しやすいフィルタ内部が過昇温を発生し、フィルタ22が溶損することを確実に防止できる。
【符号の説明】
【0054】
1 エンジン(内燃機関)
2 酸化触媒
8 インジェクタ
12 制御手段(ECU)
122 噴射制御部
123 再生噴射制御部
123−1 フィルタ堆積パティキュレート量演算手段
123−2 パティキュレート燃焼速度演算手段
123−3 パティキュレート燃焼量演算手段
123−4 フィルタ残存パティキュレート量演算手段
123−5 フィルタ内部温度演算手段
123−6 フィルタ再生目標温度演算手段
123−7 フィルタ昇温制御手段
22 フィルタ
29 差圧センサ
dP 前後差圧
m−3 制御テーブル(マップ)
フィルタinT 入口ガス温度
M1 通常噴射モード
M2 再生噴射モード
MF HC供給手段
Qfa ポスト噴射
R 排気系
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気ガス中に含まれる有害成分を除去する排気後処理装置を備えた内燃機関の排気浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関(以下、エンジンという)はその排気系に排気浄化装置を配備し、排ガスの無害化を図っている。この種の排気浄化装置で用いる排気後処理装置としては、排出HC抑制の手段として三元触媒や酸化触媒、特に、ディーゼルエンジンの場合、リーン運転域で排出され易いNOxを浄化するNOx触媒や排出される微粒子状物質であるパティキュレートを除去するための細孔が設けられた濾過壁を有するウオール・フロー型のディーゼルパティキュレートフィルタ(以後単にフィルタと記す)が採用されている。
【0003】
当該フィルタを備えた排気浄化装置では、通常エンジンの排気系の上流側に酸化触媒を設け、下流側にフィルタを設け、排ガス中のパティキュレートをフィルタに捕集する。この運転中において、排ガス温度が比較的高い運転状態にあると、酸化触媒の作用により排ガス中のNOからNO2を生成し、このNO2を酸化剤として利用してフィルタに捕集されたパティキュレートを焼却除去し、フィルタの連続再生を行っている。
【0004】
ところが、ディーゼル機関は排気温度が比較的低い運転域が多く、この連続再生作用が得られない運転状態が継続されて、パティキュレート堆積量が許容量を越える場合がある。このような場合、排圧が過度に上がり、この圧力損失の過増は燃費の悪化要因ともなる。また、許容値を超えた最悪の場合には、エンジン始動不可という状態に到達する。そこでフィルタに所定量のパティキュレートが堆積した際には、強制的にパティキュレートを除去する必要がある。このフィルタからパティキュレートを除去する手段の一つとして、運転中にフィルタへ高温ガスを流入させ、パティキュレートを燃焼除去する方法がある。
【0005】
しかし、ディーセルエンジンにおいてパティキュレート燃焼が可能となる高温ガス(600℃以上)を適時にフィルタに流入させることは困難である。そこでフィルタの上流に酸化触媒を設置し、そこへ未燃燃料(HC)を供給して燃焼させ、その反応熱を利用してフィルタへ高温ガスを流入させる手法がある。以下、本手法をフィルタ強制再生と呼ぶ。 従来のフィルタ強制再生では酸化触媒への未燃燃料供給量をフィードバック(F/B)し、フィルタに流入する「入口ガス温度」が目標焼却温度となるように、計測もしくは推定しながら制御する手法がとられている。
【0006】
パティキュレートを除去する手段の一つとして、例えばポスト噴射により膨張行程或いは排気行程で追加燃料を噴射し、追加燃料中のHCを燃焼させて、フィルタへ高温ガス(約600℃以上)を流入させ、フィルタ上のパティキュレートを強制的に焼却除去し、フィルタ強制再生を行っている。
ところで、特開2006−90147号公報(特許文献1)に開示の内燃機関の排気浄化装置では、ディーゼルエンジンの運転状態に応じて設定する燃料添加量を含む燃料が排気系中に添加され、強制再生がなされた場合において、フィルタの上流と下流の間の差圧に応じて推定される量のパティキュレートがフィルタに堆積すると見做す。その上で、堆積パティキュレートが燃焼した際のフィルタの温度を予め推定し、推定されたフィルタの温度が予め設定された目標温度履歴をたどるようにポスト噴射量を逐次補正する。これにより、フィルタの過昇温に起因する溶損や破損を回避しながら、フィルタの再生処理を実行するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−90147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、フィルタ強制再生において、フィルタの入口の流入ガス温度を制御するという従来の一般的な手法では、図11に示すように、ポスト噴射開始時taよりフィルタ入口温度(フィルタ.in)が、続いてフィルタ内部温度(フィルタ.bed)が上昇し、時点tbでアイドル運転(IDLE)に切り換わるとフィルタ入口温度(破線で示す)は低下するが、フィルタ内部温度(実線で示す)は堆積パティキュレートの燃焼が急速に進んで過昇温状態を招き易く、フィルタ強制再生時のフィルタ溶損リスクが高いものとなっている。また、従来のフィルタ強制再生のように流入ガス温度を一定(もしくは二段階)の目標温度で温度制御するものでは、再生に伴う燃費悪化抑制に対して最適値を得ることができない。
【0009】
次に、本発明者が本発明を推考するに至った理由を(1)〜(4)に沿って順説明する。
(1)フィルタ強制再生は、パティキュレート堆積が強制再生時を判定するパティキュレート堆積所定量に達した時点で実施される。
(2)このパティキュレート堆積所定量は予め実験等で決定される。ここでのパティキュレート堆積所定量はそれより強制再生が成され、運転域をIDLEに移行させた際にフィルタ内部温度が急上昇するが、その急上昇するフィルタ内部温度が所定温度以下に抑制されるような量として設定される。
(3)ここで強制再生中のIDLE移行時のフィルタ内部昇温量は、lDLE移行時の過昇温発現位置の「残存パティキュレート量」と「温度」の影響を受ける。しかし、過昇温発生位置の「温度」は、パティキュレート燃焼速度に比例して、フィルタ入口温度に対して上昇することが明らかである。
【0010】
ここでパティキュレート燃焼速度はパティキュレート堆積密度および温度に比例するため、結果的にパティキュレート堆積量に比例してフィルタ入口温度が上昇する。すなわち、フィルタ入口温度のみに基づいて再生制御した場合には、実際にはパティキュレート堆積量に応じて入口温度に対して高温化しており、それにより過昇温に伴う溶損リスクが相対的に高くなっている。
(4)このため、本来は強制再生の進行に伴う過昇温発現位置の「残存パティキュレート量」の変化に応じて、再生温度を変化させるべきである。
【0011】
即ち、過昇温が発生しやすいパティキュレート堆積多量時には相対的に低温で発生し、パティキュレート堆積量の減少に伴い再生温度を連続的に相対的に高温側に変化させるべきであり、その状態が最も燃比悪化を抑制できると見做される。
しかし、現行はパティキュレート堆積量の変化に因らず、再生温度を一定(もしくは2段階)として再生が実施されている。この点は、引用文献1の技術でも同様である。
更に、この場合、基本的に再生温度が高い方が燃費悪化に対するパティキュレート燃焼効率が高い。しかし溶損を回避するとの判断で、相対的に低温かつ長時間の再生が成され、再生に要する燃費が悪化することとなっている。
【0012】
本発明は以上のような課題に基づきなされたもので、目的とするところは、過昇温発現位置の残存パティキュレート量の変化に応じて、再生温度を変化させるという手法をとることで、燃費が悪化することなく、フィルタ強制再生を行える内燃機関の排気浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願請求項1の発明は、内燃機関の排気系のパティキュレートを捕集するフィルタと、前記フィルタの上流側の排気系に炭化水素を供給するHC供給手段と、前記HC供給手段によるHC供給量制御により前記フィルタ温度を目標値に上昇させて該フィルタに捕集されたパティキュレートを燃焼除去するフィルタ再生手段と、前記フィルタの再生中の残存パティキュレート量を演算する残存パティキュレート量演算手段と、前記フィルタ温度目標値を前記残存パティキュレート量に基づいて設定するフィルタ温度目標値設定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
本願請求項2の発明は、請求項1記載の内燃機関の排気浄化装置において、前記フィルタの内部の温度を演算するフィルタ内部温度演算手段を備え、前記フィルタ再生手段は、前記フィルタの内部温度が前記フィルタ温度目標値となるようHC供給量を制御することを特徴とする。
【0015】
本願請求項3の発明は、請求項1または2記載の内燃機関の排気浄化装置において、前記フィルタを通過する排気ガス温度に応じたパティキュレートの燃焼速度を演算するパティキュレート燃焼速度演算手段と、前記パティキュレート燃焼速度相当のパティキュレート燃焼量を演算するパティキュレート燃焼量演算手段を備え、前記残存パティキュレート量演算手段は、前記フィルタの前回の残存パティキュレート量と前記パティキュレート燃焼量とから今回の残存パティキュレート量を演算することを特徴とする。
【0016】
本願請求項4の発明は、請求項1〜3の何れか一項に記載の内燃機関の排気浄化装置において、前記フィルタ温度目標値を前記残存パティキュレート量の増加に応じて低くなるように設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明は、再生中の残存パティキュレート量に基づいたフィルタ温度目標値を設定し、同フィルタ温度目標値となるようにHC供給量を制御してフィルタの温度を調整するので、フィルタ再生に伴う燃費悪化を抑制できるとともに、フィルタ内に過昇温発生部が発生することを的確に回避でき、フィルタの溶損を確実に防止できる。
【0018】
請求項2の発明は、フィルタ再生手段が、フィルタの内部の温度がフィルタ温度目標値となるようにHC供給量を制御してフィルタの内部温度を調整するので、最も過昇温を発生しやすいフィルタ内部に過昇温が発生することを的確に回避できる。
【0019】
請求項3の発明は、パティキュレートの燃焼速度及び燃焼量に基づいて残存パティキュレート量を演算するので、再生中であってもパティキュレート堆積量の変化を正確に演算することができる。
【0020】
請求項4の発明は、フィルタ温度目標値が残存パティキュレート量の増加に応じて低くなるように設定されるので、残存パティキュレート量が多いときにはパティキュレートの燃焼温度を比較的低くして過昇温発生を抑え、残存パティキュレート量が比較的少なくなるとパティキュレートの燃焼温度を比較的高めて速やかな焼却を図ることで、燃費悪化を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態としての内燃機関の排気浄化装置の全体構成図である。
【図2】図1の内燃機関の排気浄化装置で用いるHC供給手段がインジェクタを通常噴射モードで駆動する場合の説明図で、(a)は駆動信号を、(b)は噴射量を示す。
【図3】図1の内燃機関の排気浄化装置で用いるHC供給手段がインジェクタを再生噴射モードで駆動する場合の説明図で、(a)は駆動信号を、(b)は噴射量を示す。
【図4】図1の内燃機関の排気浄化装置の再生噴射モードでの制御で用いるフィルタ流入O2モル量を用いたパティキュレート燃焼速度算出マップm−1の説明図である。
【図5】図1の内燃機関の排気浄化装置の再生噴射モードでの制御で用いるO2流入速度を用いたパティキュレート燃焼速度算出マップm−1’の説明図である。
【図6】図1の内燃機関の排気浄化装置の再生噴射モードでの制御で用いる昇温量算出マップm−2の説明図である。
【図7】図1の内燃機関の排気浄化装置の再生噴射モードでの制御で用いる目標値であるフィルタ入口制御温度を設定する制御テーブルm−3の説明図である。
【図8】図1の内燃機関の排気浄化装置の再生噴射モードでの制御で用いるフィルタ内部温度(ピーク温度)に関連した入口温度(縦軸)とパティキュレート堆積量とを関連させるピーク温度設定マップm−4の説明図である。
【図9】図1の内燃機関の排気浄化装置の再生噴射モードでの制御でフィルタのパティキュレート堆積量が経時的に焼却により低減する際の目標値の変化特性線図である。
【図10】図1の内燃機関の排気浄化装置が行うフィルタ強制再生制御ルーチンの制御フローチャートである。
【図11】従来のフィルタに堆積するパティキュレートの再生処理中におけるアイドル切換えにより生じる過昇温の変化特性線図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態としての内燃機関の排気浄化装置を装着するディーゼルエンジン(以後単にエンジンと記す)1を図1に沿って説明する。
エンジン1は直列に4つの燃焼室3を配備し、各燃焼室3には直接燃料を噴射する燃料噴射弁8が設けられ、各燃料噴射弁8はコモンレール15(蓄圧室)に接続され、コモンレール15には燃料タンク14の燃料(軽油)が高圧燃料噴射ポンプ13によって加圧供給されており、これらが燃料供給装置MFを構成する。
【0023】
燃料供給装置MFはエンジン駆動の高圧燃料ポンプ13の高圧燃料をECU12内の燃圧制御手段121により制御される燃圧調整部141で定圧化した上でコモンレール15に導き、コモンレール15より分岐して延出する噴射管16を介し各インジェクタ8に供給している。なお、燃料供給装置MFは本発明において、HC供給手段としての機能を備える。
【0024】
ここでのインジェクタ8はエンジンコントロールユニット(以下、ECUと記す)12から出力される燃料制御信号に応じて制御される。即ち、インジェクタ8の電磁バルブ17はインジェクタドライバ10を介して噴射制御部122に接続される。同噴射制御部122は演算された燃料噴射量、噴射時期に応じた出力Dj信号を電磁バルブ17に出力し、インジェクタ8を噴射制御する。
【0025】
ここで噴射制御部122はエンジン回転数Neとアクセルペダル踏込量θaに応じた燃料噴射量Ufを求める。更に噴射時期は、周知の基本進角値に運転条件に応じた補正を加えて導出される。その上で、図2、3に示すように、演算された燃料噴射量(図2、3ではQp+Qm、Qfp+Qfm+Qfa)に応じて、通常噴射モードM1時には、パイロット噴射Qp(時間幅Tm)、主噴射Qm(時間幅Tp)を、HC添加噴射モードM2時には、パイロット噴射Qfp(時間幅Tm)、主噴射Qfm(時間幅Tp)及びポスト噴射Qfa(時間幅Ta:排気行程での噴射)を行う。
【0026】
各燃焼室3の他側より延びる不図示の排気ポートは排気マニホールド4に連通し、同排気マニホールド4には排気路Rが接続される。排気路Rは排気マニホールド4に接続された排気管5と、酸化触媒装置21と、パティキュレート除去用のフィルタ(フィルタ)22と、その下流の図示しないマフラーとを備える。
各燃焼室3の一側より延びる不図示の吸気ポートは吸気マニホールド901に連通し、同吸気マニホールド901が吸気路Iを形成する吸気管9に接続される。この吸気管9はエアクリーナ11よりの吸気の量を吸気絞り弁である吸気スロットル弁33で調整してから吸気マニホールド901に導入している。なお、吸気スロットル弁33のアクチュエータ331はECU12により駆動制御される。
【0027】
次に、ここでの排気後処理装置は排気マニホールド4、排気管5を経て排気ガスが順次流入する前段の酸化触媒装置21とフィルタ装置22とを備える。酸化触媒装置21はケーシング211内に配備された触媒担持体19に酸化触媒2を担持し、排ガス中のHCの燃焼を促進する。しかも、この酸化触媒2は、エンジン1から排出される排気中の一酸化窒素(NO)を酸素O2で酸化して高活性の二酸化窒素(NO2)に生成し、すなわち、「2NO+O2→2NO2」の反応を促進させるもので、ここではプラチナ系酸化触媒が採用される。
酸化触媒装置21の下流のパティキュレート除去用のフィルタ装置22は、細孔が設けられた濾過壁を有するウオール・フロー型のディーゼルパティキュレートフィルタであり、ディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれるカーボン等の排気微粒子(パティキュレート)を捕集し、大気に放出しないよう排気通路Rに配設される。
【0028】
フィルタ装置であるフィルタ22はその内部に触媒担持体19を収容する。この触媒担持体19はセラミック製、例えば、Mg、Al、Siを主成分とするコージェライトから成り、多数の排ガス通路r2を排気路Rの方向に向けて並列状に積層してなるハニカム構造体として形成される。
ここで互いに隣り合う各排ガス通路r2は交互に排気路R上流側と下流側のいずれか一方が端部23で閉鎖されるように形成される。これにより上流側に流入した排ガスは各排ガス通路r2−1の通路対向壁bの細孔を通過して排気路R下流側に出口を形成された各排ガス通路r2−2に達し、排出され、その際、排ガス中のパティキュレートが通路対向壁bによって捕集され、このパティキュレートは所定温度(500〜600℃)を上回る高温排気ガスが流入した際に焼却除去される。
【0029】
一方、本発明の内燃機関の排気浄化装置で用いるECU12は、その入出力回路に多数のポートを有し、吸入空気量Qaを検出するエアフローセンサ7と、エンジン1のアクセルペダル開度θaを検出するアクセルペダル開度センサ24と、クランク角情報Δθを検出するクランク角センサ25と、フィルタ22の入口の排気ガス温度(以後、入口ガス温度と記す)フィルタinTを検出する排気温度検出手段である排気温度センサ26と、エンジン1の水温wtを検出する水温センサ27と、大気圧Paを出力する大気圧センサ28と、フィルタ22の前後差圧dPを出力する差圧センサ29と、排気中のO2濃度を検出するO2濃度センサ(A/Fセンサ)49とが接続される。なお、クランク角情報ΔθはECU12においてエンジン回転数Neの導出に用いられると共に燃料噴射時期(tp、tm、ta:図2、3参照)制御に使用される。
【0030】
ECU12は各センサ24、25、26、27、28、29等よりの検出信号を採り込み、制御手段として機能する。即ち、ECU12は周知のエンジン制御処理機能に加え、特に、燃圧制御部121、噴射制御部122及び再生噴射制御部123としての機能を備える。ここで、再生噴射制御部123はパティキュレートを燃焼除去するフィルタ再生手段としての機能を備える。
ここで、噴射制御部122はECU12からの制御信号に応じてインジェクタ8を通常噴射モードM1(図2参照)で制御する。
【0031】
一方、再生噴射制御部123はECU12からの制御信号に応じてインジェクタ8を再生噴射モードM2(図3参照)で制御する。
ここで、再生噴射制御部123は、再生前の当初の堆積パティキュレート量を演算するフィルタ堆積パティキュレート量演算手段123−1と、パティキュレート燃焼速度演算手段123−2と、パティキュレート燃焼量演算手段123−3と、フィルタ残存パティキュレート量演算手段123−4と、フィルタ内部温度演算手段123−5と、フィルタ再生目標温度演算手段123−6と、フィルタ昇温制御手段123−7としての機能を有する。
【0032】
フィルタ堆積パティキュレート量演算手段123−1は、運転情報であるエンジン回転数Neと、フィルタの前後差圧dPより現在のフィルタに堆積する堆積パティキュレート量を演算する。ここでのフィルタの堆積パティキュレート量は、後述するように、再生開始の条件が満たされた際に、パティキュレート堆積初期量として用いられ、これが再生処理に入ると焼却により順次減算されることとなる。
【0033】
パティキュレート燃焼速度演算手段123−2は、予め、排気温度センサ26からのフィルタ22の流入ガス温度である入口ガス温度フィルタinTと、流入O2モル量(O2濃度センサ49からのデータ)f(λ)と、フィルタの堆積パティキュレート量(フィルタ残存パティキュレート量)(n−1)を引数とした、例えば図4に示す3Dマップm−1を作成しておく。このマップはフィルタ堆積パティキュレート量(Z軸の量)の変化に対応し複数用意される。その上で、今回のフィルタの堆積パティキュレート量に対応するマップm−1を選択し、これより今回の入口ガス温度フィルタinTと流入O2モル量(O2濃度センサ49からのデータ)f(λ)とから、今回のパティキュレート燃焼速度パティキュレートbv(g/sec)を演算する。
【0034】
なお、ここでは図4に示す3Dマップm−1の変形例マップm−1’を更に説明する。図5に示すマップm−1’においては、O2流入速度(g/sec)を横軸に、入口ガス温度フィルタinTを縦軸にとり、パティキュレート燃焼速度パティキュレートbv(g/sec)(大小複数配列されたパティキュレートbv毎の速度線L1、L2、L3に応じて演算)を演算できる。ここで、O2流入速度(g/sec)は新気量である吸入空気量AFSAVと流入O2モル量(O2濃度センサ49からのA/Fデータ)f(λ)とゲインKとの乗算値(∝AFSAV×f(λ)×K)に比例する値として演算される。
【0035】
パティキュレート燃焼量演算手段123−3は、今回のパティキュレート燃焼量[g]を今回のパティキュレート燃焼速度パティキュレートbv(g/sec)に制御周期及びグラム変換の補正のための補正値Δt/1000を乗算して演算する。
次に、フィルタ残存パティキュレート量演算手段123−4は、今回のフィルタの堆積パティキュレート量(フィルタ残存パティキュレート量)を、前回のフィルタの堆積パティキュレート量(フィルタ残存パティキュレート量)(n―1)から今回のパティキュレート燃焼量[g]を減算して演算する。なお、初回のフィルタ堆積パティキュレート量(0)は、フィルタ堆積パティキュレート量演算手段123−1で求めた、フィルタ再生処理に入る直前のフィルタのパティキュレート堆積量となる。
【0036】
次に、フィルタ内部温度演算手段123−5は、今回のフィルタ内部温度(n)をフィルタ22の入口ガス温度フィルタinTに昇温量ΔT(n)を加算して求める。ここで昇温量ΔT(n)は、吸入空気量及び燃料噴射量に応じたフィルタ入口ガス流量(n)とパティキュレート燃焼速度(n)を引数としたマップm−2(図6参照)を予め作成しておく。マップm−2において、昇温量ΔT(n)はフィルタの入口ガス流量が高く、パティキュレート燃焼速度(n)が小さくほど小さく設定され、入口ガス温度フィルタinTが低くパティキュレート燃焼速度(n)が大きいほど大きく設定され、フィルタ22の後段内部(図1中に符号Eで示す領域)の内部温度の特性に適合するように設定されている。
【0037】
次に、フィルタ再生目標温度演算手段123−6はフィルタ温度目標値設定手段を成し、フィルタの堆積パティキュレート量(フィルタ残存パティキュレート量)を引数に、フィルタ再生目標温度(n)としての入口制御温度を制御テーブルm−3で検索する。ここで、制御テーブルm−3は次のように作成された。
【0038】
まず、フィルタ22内での堆積パティキュレートの異常燃焼は、再生時に運転域がIDLEに切り替わった際に生じるという点にある。その異常燃焼発生時の変化要因は、フィルタ22の過昇温発生部のフィルタ内部温度(n)と、その過昇温発生部に堆積していたフィルタ堆積パティキュレート量(堆積Soot量)となる。ここで、フィルタ内部温度(n)は入口ガス温度フィルタinT及びフィルタパティキュレート燃焼速度(n)と関連すると見做される。
【0039】
そこで、図8に示すピーク温度マップm−4を作成した。ここで、フィルタ22のフィルタの堆積パティキュレート量(横軸に記載:パティキュレート堆積量)を複数変化させ、再生前のフィルタ内部温度フィルタbed.T(℃)(縦軸記載:入口ガス温度フィルタinTとフィルタパティキュレート燃焼速度(n)に関連する値)を増減複数変化させ、各再生前のフィルタ内部温度フィルタbed.T(入口ガス温度フィルタinTから増加変動する)に対する過昇温発生時の昇温変化値をフィルタ内部温度フィルタbed.T(マップ内の○位置での小文字で表示)としてデータを求め、これらのデータに基づき、ピーク温度マップm−4を作成した。
【0040】
このピーク温度マップm−4において、実線aはフィルタ22の溶損に対する安全率を考慮したピーク温度限界ライン、即ち、フィルタ内部温度フィルタbed.Tが900℃以下の領域を示すしきい線である。
このようなピーク温度マップm−4を用い、このピーク温度マップm−4の横軸の各フィルタのパティキュレート堆積量に対する縦軸の各再生前のフィルタ内部温度フィルタbed.T(即ち、入口ガス温度フィルタinT)を過昇温発生時に溶損を防止できるような値となるものを特定し、これをDPF入口制御目標温度(フィルタ温度目標値M1〜M9)として上述の制御テーブルm−3を作成した。
【0041】
なお、ピーク温度マップm−4の作成にあたり、各フィルタ堆積パティキュレート量とフィルタ温度目標値毎に、図11に示すような従来の一般的な再生を行い、途中IDLEへ移行させた際のフィルタ内最高温度がピーク温度マップm−4の作成に採取された。
次に、フィルタ昇温制御手段123−7は、今回検出したフィルタの入口ガス温度フィルタinTがHC供給量手段によるHC供給量を制御することで、即ち、燃料供給装置MFを用い、図3に示す再生噴射モードM2(参照)でのポスト噴射Qfa(時間幅Ta:排気行程での噴射)の量を調整することで、DFP入口制御目標温度(フィルタ温度目標値)を保持するようにフィードバック制御する。
【0042】
次に、ECU12が不図示のメインルーチンの途中の所定の時点で行うフィルタ強制再生制御処理を図10の再生制御ルーチンに沿って説明する。
この再生制御ルーチンに先立ち不図示のメインルーチンでは各種の運転情報データを取り込み、所定の格納エリアにストアしている。しかも、エンジン1が通常運転中にあると、燃圧制御部121や噴射制御部122がインジェクタ8を通常噴射モードM1で制御している。
このメインルーチンの各制御周期dt毎にその制御処理の途中で再生制御ルーチンのステップs1に達すると、ここでは、フィルタ堆積パティキュレート量演算処理を行う。ここではエンジン回転数Neが判定基準値内にあるとの判断の上で、フィルタの前後差圧dPを求め、これより現在のフィルタの堆積パティキュレート量(n)を演算する。
【0043】
次いで、ステップs2では現在のフィルタの堆積パティキュレート量(n)が所定の再生開始判定値を上回るか否か判断し、満たない間はメインルーチンにリターンし、満たすと強制再生開始時と判断し、ステップs3に進む。なお、図9中には再生開始時点t1を示した。
ステップs3ではステップs1で求めた現在のフィルタのパティキュレート堆積量をフィルタの強制再生開始時のパティキュレート堆積量(後述の残存パティキュレート量(n))の初期値としてメモリにストアする。
【0044】
次いで、ステップs4に達すると、ここではパティキュレート燃焼速度を演算する。ここでは今回のフィルタ堆積パティキュレート量(Z軸の量)に対応するマップm−1(図4に示す)を選択し、更に、排気温度センサ26よりの最新の入口ガス温度フィルタinT(n)を取り込み、O2濃度センサ49から流入O2モル量f(λ)(n)を取り込む。これらデータに応じた今回のパティキュレート燃焼速度パティキュレートbv(g/sec)をマップm−1より演算する。
【0045】
次いで、ステップs5ではパティキュレート燃焼量[g]を演算する。ここでは、前ステップs4で求めたパティキュレート燃焼速度パティキュレートbv(g/sec)に補正値Δt/1000を乗算して今回のパティキュレート燃焼量(n)[g]を演算する。
【0046】
次いで、ステップs6では今回のフィルタ残存パティキュレート量(n)を、前回のフィルタ堆積パティキュレート量(フィルタ残存パティキュレート量)(n―1)から前ステップs5で求めたパティキュレート燃焼量(n)[g]を減算して演算する。なお、初回時におけるフィルタ残存パティキュレート量(0)はステップs1で求めた、初回のフィルタ堆積初期量となる。
【0047】
次いで、ステップs7では今回のフィルタ残存パティキュレート量(n)が、再生完了と見做すに相当する残存量(ゼロでも良い)に達しているか判断し、達していると今回の再生処理を停止し、メインルーチンにリターンし、そうでないと、ステップs8に進む。 ステップs8では、フィルタ内部温度(n)を今回の昇温量ΔT(n)を入口ガス温度フィルタinTに加算して求める。なお、今回の昇温量ΔT(n)はマップm−2(図6参照)を用い、入口ガス温度フィルタinTとパティキュレート燃焼速度(n)に基づき演算する。
【0048】
次いで、ステップs9では、前ステップs6で求めた今回のフィルタ残存パティキュレート量(n)より今回のフィルタ再生目標温度(n)を図7の制御テーブルm−3で検索して、設定する。
【0049】
次いで、ステップs10に達すると、ここでは、今回検出したフィルタの入口ガス温度フィルタinTを今回のフィルタ再生目標温度(n)に修正するように、図3に示す再生噴射モードM2でのポスト噴射Qfa(時間幅Ta:排気行程での噴射)の量を増減調整して、噴射量をフィードバック制御する。図9中には再生開始時点t1後に経時的に順次フィルタ再生目標温度(n)を順次変更する制御モードを示した。
【0050】
このステップs10の制御処理の後、ステップs4に戻り、再度、パティキュレート燃焼速度を演算する。ここでは今回のフィルタ堆積パティキュレート量としての前回のフィルタ残存パティキュレート量(n)に対応するマップm−1(図4に示す)を再度選択し、更に、排気温度センサ26よりの最新の入口ガス温度フィルタinT(n)を再度取り込み、O2濃度センサ49から流入O2モル量f(λ)(n)を再度取り込む。これらデータに応じた再度のパティキュレート燃焼速度パティキュレートbv(g/sec)をマップm−1より演算する。以下ステップs5〜s10を繰り返し、やがて、ステップs7においてフィルタ残存パティキュレート量(n)が、再生完了と見做す残存量(ゼロでも良い)に達していると判断した際に(図9中の時点t2参照)、上で再生処理を停止し、メインルーチンにリターンする。
【0051】
このように、図1の内燃機関の排気浄化装置では、ステップs9で今回のフィルタの残存パティキュレート量(n)より過昇温を抑制できるフィルタ温度目標値(n)を制御テーブルm−3(マップ)を用いて設定する。これに先立ち、ステップs8において、フィルタ22の入口ガス温度フィルタinTに昇温量ΔT(n)を加算して今回のフィルタ内部温度(n)を求めておく。その上で、フィルタ22の入口ガス温度フィルタinTがフィルタ温度目標値(n)となるようにHC供給量を、即ち、図3に示す再生噴射モードM2でのポスト噴射Qfa(時間幅Ta:排気行程での噴射)の量を増減調整して、噴射量をフィードバック制御する。
【0052】
このため、フィルタ22の入口ガス温度フィルタinTをフィルタ温度目標値(n)に制御することで、フィルタ内部に過昇温発生部が発生することを的確に回避でき、フィルタ内部温度(n)が過度に上昇してフィルタ22の溶損を招くことを的確に防止できる。
更に、ここでは、ステップs4からステップs10を繰り返すことで、堆積パティキュレート量である残存パティキュレート量が徐々に低減するのに応じて、制御テーブルm−3(マップ)が入口ガス温度フィルタinTである目標温度を増加して設定しており、即ち、残存パティキュレート量が多いときにはパティキュレートの燃焼温度を比較的低くして過昇温発生を抑え、残存パティキュレート量が比較的少なくなるとパティキュレートの燃焼温度を比較的高めて速やかな焼却を図ることで、経時的に目標温度である入口ガス温度フィルタinTが増加し、残存パティキュレート量が比較的少なくなる時点t3(図9参照)以降は目標温度が650℃にクリップされ、残存パティキュレート量の焼却完了を待つように制御される。
【0053】
特に、ステップs8で、フィルタ22の入口ガス温度フィルタinTに昇温量ΔT(n)を加算して今回のフィルタ内部温度(n)を求めており、入口ガス温度フィルタinT相当のフィルタ内部温度(n)が明らかであるので、制御テーブルm−3が入口ガス温度フィルタinTを用いることが実質的にフィルタ内部温度(n)を用い、これを目標値となるようにHC供給量を制御してフィルタの内部温度を調整することとなるので、フィルタの最も過昇温を発生しやすいフィルタ内部が過昇温を発生し、フィルタ22が溶損することを確実に防止できる。
【符号の説明】
【0054】
1 エンジン(内燃機関)
2 酸化触媒
8 インジェクタ
12 制御手段(ECU)
122 噴射制御部
123 再生噴射制御部
123−1 フィルタ堆積パティキュレート量演算手段
123−2 パティキュレート燃焼速度演算手段
123−3 パティキュレート燃焼量演算手段
123−4 フィルタ残存パティキュレート量演算手段
123−5 フィルタ内部温度演算手段
123−6 フィルタ再生目標温度演算手段
123−7 フィルタ昇温制御手段
22 フィルタ
29 差圧センサ
dP 前後差圧
m−3 制御テーブル(マップ)
フィルタinT 入口ガス温度
M1 通常噴射モード
M2 再生噴射モード
MF HC供給手段
Qfa ポスト噴射
R 排気系
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気系のパティキュレートを捕集するフィルタと、
前記フィルタの上流側の排気系に炭化水素を供給するHC供給手段と、
前記HC供給手段によるHC供給量制御により前記フィルタ温度を目標値に上昇させて該フィルタに捕集されたパティキュレートを燃焼除去するフィルタ再生手段と、
前記フィルタの再生中の残存パティキュレート量を演算する残存パティキュレート量演算手段と、
前記フィルタ温度目標値を前記残存パティキュレート量に基づいて設定するフィルタ温度目標値設定手段と、
を備えた内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
請求項1記載の内燃機関の排気浄化装置において、
前記フィルタの内部の温度を演算するフィルタ内部温度演算手段を備え、
前記フィルタ再生手段は、前記フィルタの内部温度が前記フィルタ温度目標値となるようHC供給量を制御することを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の内燃機関の排気浄化装置において、
前記フィルタを通過する排気ガス温度に応じたパティキュレートの燃焼速度を演算するパティキュレート燃焼速度演算手段と、
前記パティキュレート燃焼速度相当のパティキュレート燃焼量を演算するパティキュレート燃焼量演算手段を備え、
前記残存パティキュレート量演算手段は、前記フィルタの前回の残存パティキュレート量と前記パティキュレート燃焼量とから今回の残存パティキュレート量を演算することを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の内燃機関の排気浄化装置において、
前記フィルタ温度目標値を前記残存パティキュレート量の増加に応じて低くなるように設定することを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項1】
内燃機関の排気系のパティキュレートを捕集するフィルタと、
前記フィルタの上流側の排気系に炭化水素を供給するHC供給手段と、
前記HC供給手段によるHC供給量制御により前記フィルタ温度を目標値に上昇させて該フィルタに捕集されたパティキュレートを燃焼除去するフィルタ再生手段と、
前記フィルタの再生中の残存パティキュレート量を演算する残存パティキュレート量演算手段と、
前記フィルタ温度目標値を前記残存パティキュレート量に基づいて設定するフィルタ温度目標値設定手段と、
を備えた内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
請求項1記載の内燃機関の排気浄化装置において、
前記フィルタの内部の温度を演算するフィルタ内部温度演算手段を備え、
前記フィルタ再生手段は、前記フィルタの内部温度が前記フィルタ温度目標値となるようHC供給量を制御することを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の内燃機関の排気浄化装置において、
前記フィルタを通過する排気ガス温度に応じたパティキュレートの燃焼速度を演算するパティキュレート燃焼速度演算手段と、
前記パティキュレート燃焼速度相当のパティキュレート燃焼量を演算するパティキュレート燃焼量演算手段を備え、
前記残存パティキュレート量演算手段は、前記フィルタの前回の残存パティキュレート量と前記パティキュレート燃焼量とから今回の残存パティキュレート量を演算することを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の内燃機関の排気浄化装置において、
前記フィルタ温度目標値を前記残存パティキュレート量の増加に応じて低くなるように設定することを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−265844(P2010−265844A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−119097(P2009−119097)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】
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