説明

内燃機関の排気還流制御装置

【課題】低圧EGR及び高圧EGRの併用領域において、燃焼室22に供給される外部EGR量の調節精度の低下を回避すること。
【解決手段】高圧合流後通路12aにおけるEGR率(以下、EGR率)の目標値と、低圧合流後通路12bにおけるEGR率(以下、低圧EGR率)の目標値を設定する。そして、都度のEGR率をEGR率の目標値にフィードバック制御すべく高圧EGRアクチュエータ48aを通電操作するとともに、都度の低圧EGR率を低圧EGR率の目標値にフィードバック制御すべく低圧EGRアクチュエータ52aを通電操作する高低圧協調EGR制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に供給される吸気を過給する過給機と、内燃機関に接続される排気通路のうち前記過給機の排気タービンよりも上流側と前記内燃機関に接続される吸気通路のうち前記過給機のコンプレッサよりも下流側とを接続する高圧EGR通路と、前記排気通路のうち前記排気タービンよりも下流側と前記吸気通路のうち前記コンプレッサよりも上流側とを接続する低圧EGR通路と、前記高圧EGR通路・低圧EGR通路を介して前記吸気通路に還流される高圧EGR・低圧EGRの流量を調節すべく通電操作される高圧EGR手段・低圧EGR手段とを備える内燃機関の燃焼制御システムに適用される内燃機関の排気還流制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の制御装置としては、下記特許文献1に見られるように、高圧EGR通路及び低圧EGR通路のそれぞれを介して、内燃機関から排出される排気の一部を高圧EGR及び低圧EGRのそれぞれとして吸気通路に還流させる外部EGR制御を行うものが知られている。
【0003】
詳しくは、この制御装置は、高圧EGR及び低圧EGRを併用する領域において、内燃機関の負荷にかかわらず低圧EGRの流量(以下、低圧EGR量)が略一定となるように、低圧EGR量を調節する低圧EGRバルブ開度をフィードフォワード制御する。これとともに、排気中の酸素濃度が一定になるように、高圧EGRの流量(以下、高圧EGR量)を調節する高圧EGRバルブ開度をその目標値にフィードバック制御する。
【0004】
しかしながら、上記制御装置では、燃焼室への供給が要求される総EGR量(低圧EGR量及び高圧EGR量の加算値)に対して実際の総EGR量が不足する事態が生じることがある。このような事態は例えば、上記要求される総EGR量が増大する状況下、総EGR量の不足分に応じて高圧EGRバルブ開度がフィードバック制御されて最大開度になるにもかかわらず、フィードフォワード制御される低圧EGRバルブ開度が最大開度とはなっていない状況で生じ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−315371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
こうした問題を解決すべく、本発明者は、高圧EGR及び低圧EGRを併用する領域において、総EGR量をその目標値にフィードバック制御すべく、高圧EGRバルブ及び低圧EGRバルブのそれぞれの開度を調節することを考えた。しかしながら、これには以下に説明する技術的な課題がある。
【0007】
低圧EGR通路が通常、高圧EGR通路よりも長いこと等に起因して、高圧EGRバルブ開度が変更されてからその影響が燃焼室に供給される吸気に現れるまでの時間よりも、低圧EGRバルブ開度が変更されてから、その影響が燃焼室に供給される吸気に現れるまでの時間のほうが長くなる現象(低圧EGRの応答遅れ)が発生する。そして、この低圧EGRの応答遅れに起因して、総EGR量がその目標値まわりで周期的に大きく変動するいわゆるハンチングが発生し、外部EGRの調節精度が低下するおそれがある。
【0008】
このハンチングの発生要因について説明すると、まず、総EGR量が目標値よりも小さい状況下においては、高圧EGR量及び低圧EGR量を増大させるように高圧EGRバルブ及び低圧EGRバルブのそれぞれの開度が調節される。すると、高圧EGR量の増大の影響が先に現れて総EGR量が目標値まで上昇するものの、その後、上述した低圧EGRの応答遅れによって、低圧EGR量の増大の影響が遅れて現れる。これにより、総EGR量が目標値を上回るいわゆるオーバーシュートが発生する。
【0009】
すると、今度は高圧EGR量及び低圧EGR量を減少させるように高圧EGRバルブ及び低圧EGRバルブのそれぞれの開度が調節される。この調節により、高圧EGR量の減少の影響が先に現れて総EGR量が目標値まで低下するものの、その後、低圧EGRの応答遅れによって低圧EGR量の減少の影響が遅れて現れる。これにより、総EGR量が目標値を下回るいわゆるアンダーシュートが発生する。こうしたオーバーシュートやアンダーシュートが繰り返されることで、ハンチングが発生する。
【0010】
そして、ハンチングの発生によって外部EGRの調節精度が低下すると、内燃機関の燃焼状態を適切なものとすることができず、内燃機関の排気特性や生成トルクを適切なものとすることができなくなるおそれがある。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、低圧EGR及び高圧EGRの併用領域において、燃焼室に供給される外部EGR量の調節精度の低下を好適に回避することのできる内燃機関の排気還流制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0013】
請求項1記載の発明は、内燃機関に接続された吸気通路及び排気通路の間に設けられて且つ、前記内燃機関に供給される吸気を過給する過給機と、前記排気通路のうち前記過給機の排気タービンよりも上流側と前記吸気通路のうち前記過給機のコンプレッサよりも下流側とを接続する高圧EGR通路と、前記排気通路のうち前記排気タービンよりも下流側と前記吸気通路のうち前記コンプレッサよりも上流側とを接続する低圧EGR通路と、前記高圧EGR通路を介して前記吸気通路に還流される高圧EGRの流量を調節すべく通電操作される高圧EGR手段と、前記低圧EGR通路を介して前記吸気通路に還流される低圧EGRの流量を調節すべく通電操作される低圧EGR手段とを備える内燃機関の燃焼制御システムに適用され、前記吸気通路のうち前記高圧EGR通路との接続部よりも下流側を高圧合流後通路と定義し、前記吸気通路のうち前記低圧EGR通路との接続部よりも下流側であって且つ前記高圧EGR通路との接続部よりも上流側を低圧合流後通路と定義し、吸気中の酸素濃度又はEGR率を吸気パラメータと定義したときに、前記内燃機関の運転状態に基づき、前記高圧合流後通路及び前記低圧合流後通路のそれぞれにおける前記吸気パラメータの目標値として、高圧合流後目標値及び低圧合流後目標値のそれぞれを設定する目標値設定手段と、前記高圧合流後通路及び前記低圧合流後通路のそれぞれにおける前記吸気パラメータの都度の値として、高圧合流後制御値及び低圧合流後制御値のそれぞれを算出する都度制御値算出手段と、前記高圧合流後制御値を前記高圧合流後目標値にフィードバック制御すべく前記高圧EGR手段を通電操作するとともに、前記低圧合流後制御値を前記低圧合流後目標値にフィードバック制御すべく前記低圧EGR手段を通電操作することで、前記吸気通路に前記高圧EGR及び前記低圧EGRの双方を還流させる制御手段とを備えることを特徴とする。
【0014】
上記発明では、高圧EGR及び低圧EGRの併用領域において、高圧合流後通路における高圧合流後目標値とともに、吸気通路のうち高圧合流後通路よりも上流側の低圧合流後通路における低圧合流後目標値を設定する。そして、高圧合流後制御値を高圧合流後目標値にフィードバック制御するとともに、低圧合流後制御値を低圧合流後目標値にフィードバック制御する。
【0015】
このため、例えばフィードバック制御の対象を高圧合流後制御値のみとして低圧EGR手段及び高圧EGR手段の双方を通電操作する場合と比較して、低圧EGR手段及び高圧EGR手段のそれぞれによって低圧EGR及び高圧EGRのそれぞれの流量が変更されてから、流量変更の影響がこれらEGR手段のそれぞれのフィードバック制御の対象に現れるまでの時間を短縮することができる。これにより、高圧EGR手段及び低圧EGR手段のうちいずれか一方によるEGRの流量の変更が他方の流量の調節に及ぼす影響を抑制することができ、ひいては内燃機関に供給される外部EGRの調節精度の低下を好適に回避することができる。
【0016】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記高圧合流後制御値を前記高圧合流後目標値とするために要求されるEGRの流量を、前記高圧EGR及び前記低圧EGRのそれぞれに割り振る割振手段を更に備え、前記目標値設定手段は、前記割振手段によって割り振られた高圧EGRの流量及び低圧EGRの流量に基づき、前記高圧合流後目標値及び前記低圧合流後目標値のそれぞれを設定することを特徴とする。
【0017】
上記発明では、割振手段を備えることで、高圧合流後制御値を高圧合流後目標値とするための適切な高圧合流後目標値及び低圧合流後目標値を設定することができる。
【0018】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記内燃機関の運転状態に基づき、前記高圧EGRの流量の上限値である高圧上限値を可変設定する高圧上限値設定手段を更に備え、前記割振手段は、前記設定された高圧上限値以下の値として前記高圧EGRの流量を割り振るとともに、前記高圧合流後制御値を前記高圧合流後目標値とするために要求されるEGRの流量から前記割り振られる高圧EGRの流量を差し引いた値に基づき、前記低圧EGRの流量を設定することを特徴とする。
【0019】
高圧EGRの流量を増大させると、排気タービンを通過する排気の流量が低下することで、吸気を過給するための排気エネルギが低下する。排気エネルギが低下すると、過給機による吸気の過給度合いが低下することで内燃機関に充填される新気量が低下し、内燃機関の生成トルクが低下するおそれがある。
【0020】
この点、上記発明では、上記高圧上限値以下の値として高圧EGRの流量を割り振る。このため、外部EGR量を吸気通路に還流させつつ、内燃機関の生成トルクの低下を好適に抑制することができる。
【0021】
さらに、高圧合流後制御値を高圧合流後目標値とするために要求されるEGRの流量から高圧EGRの流量を差し引いた値に基づき、低圧EGRの流量を設定する。このため、高圧EGRの流量が高圧上限値によって制限される場合であっても、高圧合流後制御値を高圧合流後目標値に制御するために必要な外部EGRを極力確保することができる。
【0022】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記内燃機関の運転状態に基づき、前記低圧EGRの流量の上限値である低圧上限値を可変設定する低圧上限値設定手段を更に備え、前記割振手段によって割り振られる高圧EGRの流量及び低圧EGRの流量の和が前記高圧上限値及び前記低圧上限値の和となって且つ、前記高圧合流後制御値を前記高圧合流後目標値とするために要求されるEGRの流量が前記高圧上限値及び前記低圧上限値の和を上回ると判断された場合、前記高圧合流後目標値を、前記高圧上限値及び前記低圧上限値の和によって実現可能な前記高圧合流後制御値として再設定する再設定手段を更に備えることを特徴とする。
【0023】
吸気通路に還流可能な低圧EGRの流量には通常、上限値が存在する。ここで高圧EGRの流量が高圧上限値によって制限される状況下において、低圧EGRの流量が低圧上限値によって制限される場合、高圧合流後制御値を高圧合流後目標値とするために要求されるEGRの流量を高圧EGR及び低圧EGRによって確保することができない。
【0024】
このため、上記発明では、高圧合流後制御値を高圧合流後目標値とするために要求されるEGRの流量が高圧上限値及び低圧上限値の和を上回ると判断された場合、高圧合流後目標値を、高圧上限値及び低圧上限値の和によって実現可能な高圧合流後制御値として再設定する。
【0025】
請求項5記載の発明は、請求項3又は4記載の発明において、前記高圧上限値設定手段は、前記内燃機関の要求トルクが急増すると判断された場合、前記高圧上限値を低く設定することを特徴とする。
【0026】
内燃機関の要求トルクの増大に対しては通常、過給機による吸気の過給度合いを大きくし、燃焼室の充填新気量を多くすることで対応する。ここで上記発明では、吸気の過給度合いを大きくすることが要求される状況下において、高圧上限値を低く設定する。このため、排気タービンに供給すべき排気を適切に確保することができ、内燃機関の生成トルクの低下を好適に抑制することができる。
【0027】
請求項6記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の発明において、前記高圧EGR手段は、前記高圧EGR通路に設けられて且つこの通路の面積を調節する電子制御式の弁体であり、前記低圧EGR手段は、前記低圧EGR通路に設けられて且つこの通路の面積を調節する電子制御式の弁体であることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】第1の実施形態にかかるシステム構成図。
【図2】同実施形態にかかる高低圧協調EGR制御の手順を示すフローチャート。
【図3】第2の実施形態にかかる高低圧協調EGR制御の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(第1の実施形態)
以下、本発明にかかる車載制御装置を具体化した第1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0030】
図1に、本実施形態にかかるシステム構成図を示す。
【0031】
図示されるエンジン10は、圧縮点火式内燃機関(ディーゼルエンジン)である。エンジン10の吸気通路12には、上流側から順に、吸入される空気量(新気量)を検出するエアフローメータ14、後述するターボチャージャ16によって過給された吸気を冷却するインタークーラ18、更にはDCモータ等のアクチュエータ(吸気側アクチュエータ20a)によって開度が調節される吸気絞り弁20が設けられている。なお、吸気側アクチュエータ20aは、吸気絞り弁20の開度を検出する機能を有している。
【0032】
吸気通路12のうち吸気絞り弁20の下流側は、エンジン10の各気筒の燃焼室22と接続されている。なお、吸気通路12のうち吸気絞り弁20の下流側には、吸気通路12を流れる吸気の圧力(過給圧)を検出する吸気圧センサ24と、吸気通路12(吸気マニホールド)を流れる吸気の温度を検出する吸気温センサ26とが設けられている。
【0033】
エンジン10の各気筒の燃焼室22には、燃焼室22に突出して電磁駆動式の燃料噴射弁28が設けられている。燃料噴射弁28には、図示しない蓄圧容器(コモンレール)から高圧の燃料(軽油)が供給され、燃料噴射弁28から燃焼室22に高圧の燃料が噴射供給される。
【0034】
エンジン10の各気筒の吸気ポート及び排気ポートのそれぞれは、吸気バルブ30及び排気バルブ32のそれぞれにより開閉される。ここでは、吸気バルブ30の開弁によってインタークーラ18で冷却された吸気等が燃焼室22に導入され、導入された吸気と、燃料噴射弁28から噴射供給された燃料とが燃焼に供される。なお、燃焼に供された吸気及び燃料は、排気バルブ32の開弁によって排気として排気通路34に排出される。また、エンジン10の出力軸(クランク軸36)付近には、クランク軸36の回転角度を検出するクランク角度センサ38が設けられている。
【0035】
吸気通路12と排気通路34との間には、ターボチャージャ16が設けられている。ターボチャージャ16は、吸気通路12に設けられた吸気コンプレッサ16aと、排気通路34に設けられた排気タービン16bと、これらを連結する回転軸16cとを備えて構成されている。詳しくは、排気通路34を流れる排気のエネルギによって排気タービン16bが回転し、その回転エネルギが回転軸16cを介して吸気コンプレッサ16aに伝達され、吸気コンプレッサ16aによって吸気が圧縮される。すなわち、ターボチャージャ16によって吸気が過給される。なお本実施形態では、ターボチャージャ16として、吸気の過給圧を調節可能なものを想定しており、具体的には例えば、ターボチャージャ16の有する図示しない可変ベーンの開度の調節によって過給圧が調節可能なものを想定している。
【0036】
上記排気通路34のうち、ターボチャージャ16(排気タービン16b)の下流側には、上流側から順に、排気を浄化する浄化装置40、及び排気中の酸素濃度を検出するA/Fセンサ42が設けられている。本実施形態では、浄化装置40として、排気中のPM(スモーク)を捕集するDPF(ディーゼルパティキュレートフィルタ)、排気中のNOxを浄化するNOx触媒、及び排気中のHCやCOを浄化する酸化触媒等を想定している。
【0037】
排気通路34に排出される排気の一部は、排気還流通路としての高圧EGR通路44や、低圧EGR通路46を介して吸気通路12に還流される。詳しくは、排気通路34のうち、排気タービン16bの上流側は、高圧EGR通路44を介して吸気通路12の吸気絞り弁20の下流側(吸気圧センサ24の上流側)に接続されている。高圧EGR通路44には、同通路の流路面積を調節する高圧EGRバルブ48が設けられている。具体的には、高圧EGRバルブ48は、高圧EGR通路44のうち吸気通路12との接続部付近に設けられており、DCモータ等のアクチュエータ(高圧EGRアクチュエータ48a)によってその開度(高圧EGR開度)が調節される電子制御式の弁体である。高圧EGR開度に応じて、排気通路34に排出された排気の一部が、高圧EGRクーラ50によって冷却された後に、外部EGR(高圧EGR)として吸気通路12に供給される。なお、高圧EGRアクチュエータ48aは、高圧EGR開度を検出する機能を有している。また、排気通路34のうち高圧EGR通路44との接続部よりも上流側には、排気の圧力を検出する排気圧センサ51が設けられている。
【0038】
一方、排気通路34のうち、排気タービン16bの下流側は、低圧EGR通路46を介して、吸気通路12のうち吸気コンプレッサ16aの上流側に接続されている。低圧EGR通路46には、同通路の流路面積を調節する低圧EGRバルブ52が設けられている。具体的には、低圧EGRバルブ52は、低圧EGR通路46のうち吸気通路12との接続部付近に設けられており、DCモータ等のアクチュエータ(低圧EGRアクチュエータ52a)によってその開度(低圧EGR開度)が調節される電子制御式の弁体である。低圧EGR開度に応じて、排気通路34に排出された排気の一部が、低圧EGRクーラ54によって冷却された後に、外部EGR(低圧EGR)として吸気通路12に供給される。なお、低圧EGRアクチュエータ52aは、低圧EGR開度を検出する機能を有している。また、低圧EGR通路46には、低圧EGRバルブ52の前後差圧を検出する差圧センサ53が設けられている。
【0039】
排気通路34のうち、この通路と低圧EGR通路46との接続部の下流側には、排気通路34の流路面積を調節する排気絞り弁56が設けられている。排気絞り弁56は、DCモータ等のアクチュエータ(排気側アクチュエータ56a)によってその開度が調節される電子制御式の弁体である。なお、排気側アクチュエータ56aは、排気絞り弁56の開度を検出する機能を有している。
【0040】
なお本実施形態において、吸気通路12(吸気マニホールドを含む)のうち高圧EGR通路44との接続部よりも下流側を高圧合流後通路12aと称し、吸気通路12のうち低圧EGR通路46との接続部よりも下流側であって且つ高圧EGR通路44との接続部よりも上流側を低圧合流後通路12bと称すこととする。また、吸気とは、新気及び外部EGRを含むガスのことをいう。
【0041】
エンジンシステムを操作対象とする電子制御装置(ECU58)は、周知のCPU、ROM、RAM等よりなるマイクロコンピュータを主体として構成されている。ECU58には、ドライバのアクセル操作量(踏み込み量)を検出するアクセルセンサ60や、エアフローメータ14、吸気圧センサ24、吸気温センサ26、クランク角度センサ38、A/Fセンサ42、排気圧センサ51、吸気側アクチュエータ20a、高圧EGRアクチュエータ48a、低圧EGRアクチュエータ52a、差圧センサ53、更には排気側アクチュエータ56aの出力信号等が逐次入力される。ECU58は、上記各センサからの入力信号に基づき、ROMに記憶された各種の制御プログラムを実行することで、燃料噴射弁28による燃料噴射制御や、ターボチャージャ16による過給圧制御等、エンジン10の燃焼制御を行う。
【0042】
上記燃料噴射制御について説明すると、まず、クランク角度センサ38の出力値に基づくエンジン回転速度と、アクセルセンサ60の出力値に基づくアクセル操作量とから、エンジン10の要求トルク(以下、エンジン要求トルク)を算出する。ここでは通常、アクセル操作量が大きいほど、エンジン要求トルクを大きく設定する。そして、設定されたエンジン要求トルクに基づき燃料噴射弁28の指令値を算出し、この指令値に基づき燃料噴射弁28を通電操作する。これにより、上記指令値に相当する量の燃料が燃料噴射弁28から噴射される。
【0043】
また、上記過給圧制御は、吸気圧センサ24の出力値に基づく過給圧をその目標値に制御すべく、ターボチャージャ16を通電操作するものとなる。ここで過給圧の目標値は、燃焼室22に供給すべき吸気量に基づき予め設定される値である。具体的には例えば、エンジン要求トルクが大きいほど、過給圧が高く設定される。
【0044】
特にECU58は、上記燃焼制御として、低圧EGRの流量(以下、低圧EGR量)や高圧EGRの流量(以下、高圧EGR量)を調節すべく、高圧EGRアクチュエータ48a等を通電操作する排気還流制御(外部EGR制御)を行う。外部EGR制御は、エンジン10から排出される排気中の窒素酸化物(NOx)等を低減させることを目的として行われるものである。
【0045】
本実施形態では、外部EGR制御として、エンジン10の運転状態(エンジン回転速度NE及びエンジン要求トルクTrq)に基づき、高圧EGRのみを吸気通路12に還流させる高圧EGR制御(図中HPLと表記)、高圧EGR及び低圧EGRの双方を還流させる高低圧協調EGR制御(図中HPL&LPLと表記)、及び低圧EGRのみを還流させる低圧EGR制御(図中LPLと表記)のいずれかを選択して実行する。
【0046】
より具体的には、エンジン要求トルクTrqが第1の規定トルクTr1以下の低負荷領域であると判断された場合に高圧EGR制御を行い、エンジン要求トルクTrqが第1の規定トルクTr1を上回って且つ、第1の規定トルクTr1よりも大きい第2の規定トルクTr2以下の中負荷領域であると判断された場合に高低圧協調EGR制御を行う。更に、エンジン要求トルクTrqが第2の規定トルクTr2を上回る高負荷領域であると判断された場合には、低圧EGR制御を行う。
【0047】
ここで高圧EGR制御、高低圧協調EGR制御及び低圧EGR制御のうちいずれかを選択する手法を採用するのは、NOx等の低減のために吸気通路12に還流させる外部EGRを適切に確保しつつ、エンジン10の生成トルクの低下を回避するためである。
【0048】
つまり、高負荷領域においては、エンジン要求トルクが大きくなることから、燃焼室22に充填される新気量を多くすべく過給圧を高くすることが要求される。ここで高圧EGR量を多くすると、排気タービン16bに供給される排気量が少なくなることで、過給圧を高くすることができなくなり、エンジン10の生成トルクが低下する。このような問題を回避するために、高負荷領域においては、排気タービン16bの下流側の排気の一部を低圧EGRとして還流させる低圧EGR制御を行う。
【0049】
また、中負荷領域においては、排気タービン16bに供給すべき排気量が通常、高負荷領域よりも少ない。このため、低圧EGRとともに高圧EGRを還流させることで外部EGRを確保すべく、高低圧協調EGR制御を行う。
【0050】
更に、低負荷領域においては、低圧EGRクーラ54及びインタークーラ18の双方で低圧EGRが冷却されることで低圧EGRの温度が低く、低圧EGRの供給によって燃焼状態が悪化する。また、低圧EGR通路46の出入口の前後差圧が小さいことから、低圧EGR量を確保できない。これらに鑑み、高圧EGR制御を行う。
【0051】
次に、本実施形態にかかる高低圧協調EGR制御について詳述する。
【0052】
本実施形態では、まず、高圧合流後目標値として高圧合流後通路12aにおけるEGR率(以下、EGR率)の目標値(以下、目標EGR率)を設定し(図1のβ部参照)、低圧合流後目標値として低圧合流後通路12bにおけるEGR率(以下、低圧EGR率)の目標値(以下、目標低圧EGR率)を設定する(同図のα部参照)。ここでEGR率とは、燃焼室22に供給される吸気量(充填吸気量)に対する高圧EGR量及び低圧EGR量の加算値(総EGR量)の割合(百分率)である。詳しくは、低圧EGR量をMegrlpとし、高圧EGR量をMegrhpとし、新気量をMairとすると、EGR率は下式(c1)で定義される。
EGR率=(Megrlp+Megrhp)
/(Mair+Megrlp+Megrhp)×100 …(c1)
また、低圧EGR率とは、新気量及び低圧EGR量の加算値に対する低圧EGR量の割合(百分率)であり、詳しくは、下式(c2)で定義される。
低圧EGR率=Megrlp/(Mair+Megrlp)×100 …(c2)
そして、高圧合流後制御値としてのEGR率の都度の値(実EGR率)を目標EGR率にフィードバック制御すべく高圧EGRアクチュエータ48aを通電操作するとともに、低圧合流後制御値としての低圧EGR率の都度の値(実低圧EGR率)を目標低圧EGR率にフィードバック制御すべく低圧EGRアクチュエータ52aを通電操作する。高低圧協調EGR制御として、こうした制御手法を採用するのは、低圧EGRの応答遅れに起因した外部EGR量の調節精度の低下を回避するためである。
【0053】
ここで上記低圧EGRの応答遅れとは、低圧EGR通路46が高圧EGR通路44よりも長いこと、及び吸気通路12と低圧EGR通路46との接続点から燃焼室22までの距離が、吸気通路12と高圧EGR通路44との接続点から燃焼室22までの距離よりも長いこと等に起因して、高圧EGR開度が変更されてからその影響が燃焼室22に供給される吸気に現れるまでの時間よりも、低圧EGR開度が変更されてから、その影響が燃焼室22に供給される吸気に現れるまでの時間のほうが長くなる現象のことをいう。
【0054】
なお、続いて高低圧協調EGR制御処理の手順を説明する前に、この処理の演算で必要となる各種パラメータの値の算出処理(流量濃度算出処理)を説明する。本実施形態では、上記パラメータの値として、図1に表記されるように、高圧EGR量Megrhp、低圧EGR量Megrlp、低圧合流後通路12bを流れる吸気量(低圧合流後吸気量Mdth)、充填吸気量Mcld、高圧EGR中の酸素濃度(高圧出口O2濃度Cegrhp)、低圧EGR中の酸素濃度(低圧出口O2濃度Cegrlp)、低圧合流後通路12bを流れる吸気中の酸素濃度(低圧合流後O2濃度)、燃焼室22に供給される吸気中の酸素濃度(吸気O2濃度)及び燃焼室22から排出される排気中の酸素濃度(排気O2濃度)を想定している。
【0055】
これらの値のうち流量の算出手法について説明すると、具体的には例えば、高圧EGR量Megrhpを、高圧EGR通路44の出入口差圧及び高圧EGR開度(高圧EGR通路44の流路面積)に基づき算出すればよい。ここで上記出入口差圧は、排気圧センサ51の出力値から算出される排気圧と、過給圧との差分として算出すればよい。また、低圧EGR量Megrlpを、差圧センサ53の出力値から算出される低圧EGRバルブ52の前後差圧と、低圧EGR開度(低圧EGR通路46の流路面積)とに基づき算出すればよい。そして、充填吸気量Mcldを、過給圧及び吸気温センサ26の出力値から算出される吸気温に基づき算出すればよい。
【0056】
なおここでは、低圧合流後吸気量Mdthが、新気量Mair及び低圧EGR量Megrlpの加算値と等しくなり、低圧合流後吸気量Mdth及び高圧EGR量Megrhpの加算値が充填吸気量Mcldと等しくなるとしている。ここで新気量Mairは、エアフローメータ14の出力値に基づき算出すればよい。
【0057】
続いてO2濃度の算出手法について説明すると、高圧出口O2濃度Cegrhp、低圧出口O2濃度Cegrlp、低圧合流後O2濃度、吸気O2濃度及び排気O2濃度を、これら各パラメータの値を推定するための所定のモデルによって都度推定する。
【0058】
具体的には例えば、充填吸気量Mcld、燃料噴射弁28からの燃料噴射量(又はエンジン要求トルク)及び吸気O2濃度等に基づき排気O2濃度を推定する処理と、排気O2濃度及び高圧EGR量Megrhp等に基づき高圧出口O2濃度Cegrhpを推定する処理と、排気O2濃度及び低圧EGR量Megrlp等に基づき低圧出口O2濃度Cegrlpを推定する処理と、高圧EGR量Megrhp、高圧出口O2濃度Cegrhp、低圧合流後吸気量Mdth及び低圧合流後O2濃度等に基づき吸気O2濃度を推定する処理と、低圧EGR量Megrlp、低圧出口O2濃度Cegrlp、新気量Mair及び新気中の酸素濃度Cair等に基づき低圧合流後O2濃度を推定する処理とによって、上記各O2濃度を算出する。ここで、新気中の酸素濃度Cairは、例えば予め設定された固定値としてもよいし、酸素濃度を検出するセンサの検出値としてもよい。こうした算出手法によれば、燃焼室22から排出された排気が高圧EGR通路44や低圧EGR通路46を介して吸気通路12に戻される影響を取り入れつつ、上記各O2濃度を都度算出することが可能となる。
【0059】
そして、上記流量やO2濃度を用いて、実EGR率及び実低圧EGR率を算出する。
【0060】
図2に、本実施形態にかかる高低圧協調EGR制御処理の手順を示す。この処理は、ECU58によって、例えば所定周期で実行される。
【0061】
この一連の処理では、ステップS10において、エンジン回転速度NE及び燃料噴射量Q(又はエンジン要求トルクTrq)に基づき、目標EGR率(0%≦目標EGR率≦100%)を可変設定する。なお、目標EGR率は、エンジン回転速度NE及び燃料噴射量Qと関係付けられた目標EGR率が規定されるマップを用いて設定すればよい。ここで上記マップの目標EGR率は、燃焼制御のための各種アクチュエータの制御量が固定されて十分な時間が経過した状態(定常状態)において、スモークやNOxの排出量を規定量以下にする等、エンジン10の燃焼状態を良好なものとするEGR率として予め実験等により適合されるものである。
【0062】
続くステップS12では、充填吸気量Mcldを算出する。そしてステップS14では、目標EGR率及び充填吸気量Mcldに基づき、燃焼室22に供給される総EGR量の目標値(目標総EGR量)を算出する。ここで目標総EGR量は、実EGR率(高圧合流後制御値)を目標EGR率(高圧合流後目標値)とするために要求される総EGR量であり、具体的には、下式(c3)によって算出される。
目標総EGR量=(目標EGR率/100)×Mcld …(c3)
続くステップS16では、エンジン回転速度NE及び燃料噴射弁28からの燃料噴射量Qに基づき、高圧EGR量Megrhpの目標値(目標高圧EGR量)を可変設定する。ここで目標高圧EGR量は、目標総EGR量の一部が割り振られたものであり、エンジン回転速度NE及び燃料噴射量Qと関係づけられた目標高圧EGR量が規定されるマップを用いて設定する。なお、目標高圧EGR量は、例えばエンジン要求トルクTrqが大きくなるほど少なく設定すればよい。
【0063】
続くステップS18では、高圧EGR量の上限値(高圧上限値≧0)を可変設定する。この処理は、後述するステップS20、S22の処理と合わせて、エンジン10の生成トルクの低下を回避するための処理である。つまり、高圧EGR量を増大させると、排気タービン16bに供給される排気量が減少するため、過給圧が低下するおそれがある。この場合、エンジン10の生成トルクが低下することで、ドライバビリティが低下するおそれがある。このため、上記高圧上限値を設定することで、過給圧の低下を回避し、エンジン10の生成トルクの低下を回避する。ここで高圧上限値は、具体的には例えば、エンジン回転速度NE及び燃料噴射量Qと関連付けられた高圧上限値が規定されるマップを用いて設定すればよい。
【0064】
ここで本実施形態では、エンジン要求トルクTrqが急増した(車両の加速時である)と判断された場合、高圧上限値を低く設定する要求トルク急増時設定を行う。これは、急変時におけるエンジン10の生成トルクの低下を抑制するための設定である。つまり、高圧上限値が定常状態で定められるため、エンジン要求トルク急増時のような過渡状態においては、上記ステップS18で設定された高圧上限値が適切な値でない場合が生じる。このため、要求トルク急変時設定によれば、エンジン要求トルクの急増時において、排気タービン16bに供給すべき排気を適切に確保する。ここでエンジン要求トルクが急増したか否かは、例えばアクセル操作量(又は燃料噴射量Qの指令値)の上昇速度が規定速度(>0)以上になるか否かで判断すればよい。
【0065】
ステップS20では、目標高圧EGR量が高圧上限値以下であるか否かを判断する。そしてステップS20において目標高圧EGR量が高圧上限値を上回ると判断された場合には、ステップS22に進み、目標高圧EGR量を高圧上限値によって制限する。すなわち、目標高圧EGR量を高圧上限値とする。
【0066】
上記ステップS20において肯定判断された場合や、ステップS22の処理が完了した場合には、ステップS24に進み、目標総EGR量及び目標高圧EGR量に基づき、低圧EGR量の目標値(目標低圧EGR量)を設定する。この処理は、目標総EGR量のうち目標高圧EGR量に割り振る分以外の量を、目標低圧EGR量に割り振るための処理である。本実施形態では、目標総EGR量から目標高圧EGR量を差し引いた値として目標低圧EGR量を設定する。
【0067】
続くステップS26では、吸気通路12に供給可能な低圧EGRの上限値(低圧上限値>0)を設定する。ここで低圧上限値は、エンジン回転速度NE及び燃料噴射量Qと関連付けられた低圧上限値が規定されるマップを用いて設定すればよい。
【0068】
続くステップS28では、目標低圧EGR量が低圧上限値以下であるか否かを判断する。そしてステップS28において目標低圧EGR量が低圧上限値を上回ると判断された場合には、ステップS30に進み、目標低圧EGR量を低圧上限値によって制限する。すなわち、目標低圧EGR量を低圧上限値とする。
【0069】
上記ステップS28において肯定判断された場合や、ステップS30の処理が完了した場合には、ステップS32において、上式(c2)を用いて目標低圧EGR率を設定する。これにより、目標高圧EGR量が高圧上限値を上回る分の少なくとも一部又は全部が低圧EGRによって補償されることとなる。
【0070】
なお、上記ステップS30において目標低圧EGR量が低圧上限値によって制限された場合、目標低圧EGR量が当初の値から変更される。このため、目標EGR率を、高圧EGR量及び低圧EGR量の和を高圧上限値及び低圧上限値の和としたときに実現可能な目標EGR率に再設定する。具体的には、上式(c1)を用いて目標EGR率を再設定する。
【0071】
続くステップS34では、実低圧EGR率を目標低圧EGR率にフィードバック制御すべく低圧EGRアクチュエータ52aを通電操作し、実EGR率を目標EGR率にフィードバック制御すべく高圧EGRアクチュエータ48aを通電操作する。具体的には例えば、これら制御量に基づく比例積分制御によってこれらアクチュエータのフィードバック操作量を算出し、算出されたフィードバック操作量に基づきアクチュエータを通電操作する。これにより、実EGR率が目標EGR率よりも高い場合、高圧EGR開度が小さくされて高圧EGR量が減少し、実低圧EGR率が目標低圧EGR率よりも高い場合、低圧EGR開度が小さくされて低圧EGR量が減少する。
【0072】
なお、ステップS34の処理が完了する場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0073】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0074】
(1)総目標EGR量から目標高圧EGR量を差し引いた値を目標低圧EGR量として設定した。このため、実EGR率を目標EGR率とするために要求される上記目標総EGR量を、目標高圧EGR量及び目標低圧EGR量のそれぞれに適切に割り振ることができる。
【0075】
(2)高圧EGR及び低圧EGRの併用領域において、実EGR率を目標EGR率にフィードバック制御すべく、高圧EGRアクチュエータ48aを通電操作するとともに、実低圧EGR率を目標低圧EGR率にフィードバック制御すべく、低圧EGRアクチュエータ52aを通電操作する高低圧協調EGR制御を行った。これにより、エンジン10に供給される外部EGRの調節精度の低下を好適に回避することができる。
【0076】
(3)目標高圧EGR量が高圧上限値を上回ると判断された場合、目標高圧EGR量を高圧上限値とした。これにより、外部EGR量を吸気通路12に還流させつつ、エンジン10の生成トルクの低下を好適に抑制することができる。
【0077】
しかも、高圧上限値を、高圧EGR開度の上限値よりも小さい開度に対応する値とするならば、低圧EGR及び高圧EGRの併用領域において高圧EGR開度がその上限値に飽和することを回避することもできる。
【0078】
(4)エンジン要求トルクが急増したと判断された場合、高圧上限値を低く設定する要求トルク急増時設定を行った。これにより、過給圧を高くすることが要求される状況下において、排気タービン16bに供給すべき排気を適切に確保することができ、エンジン10の生成トルクの低下をより好適に回避することができる。
【0079】
(5)目標高圧EGR量が高圧上限値を上回ると判断されて且つ、目標低圧EGR量が低圧上限値を上回ると判断された場合、目標EGR率を、目標高圧EGR量及び目標低圧EGR量の和を高圧上限値及び低圧上限値の和としたときに実現可能な目標EGR率に再設定した。このため、燃焼室22に実際に供給可能な総EGR量の変化に応じて目標EGR率を適宜設定することができる。
【0080】
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0081】
本実施形態では、高圧合流後目標値として吸気O2濃度を採用し、低圧合流後目標値として低圧合流後O2濃度を採用する(先の図1のα,β部参照)。そして、高圧合流後制御値として吸気O2濃度の都度の値(実吸気O2濃度)を採用し、低圧合流後制御値として低圧合流後O2濃度の都度の値(実低圧合流後O2濃度)を採用する。ここで、吸気O2濃度を採用するのは、この濃度がエンジン10のNOx排出量と強い相関を示すことに鑑み、NOx排出量を高精度に制御するためである。
【0082】
図3に、本実施形態にかかる高低圧協調EGR制御処理を含む外部EGR制御処理の手順を示す。この処理は、ECU58によって、例えば所定周期で実行される。なお、図3において、先の図2に示した処理と同一の処理については、便宜上同一のステップ番号を付している。
【0083】
この一連の処理では、ステップS10aにおいて、エンジン回転速度NE及び燃料噴射量Q(又はエンジン要求トルクTrq)に基づき、吸気O2濃度の目標値(目標吸気O2濃度)を可変設定する処理を行う。ここで目標吸気O2濃度は、エンジン回転速度NE及び燃料噴射量Qと関係付けられた目標吸気O2濃度が規定されたマップを用いて設定すればよい。ここで上記マップの目標吸気O2濃度は、先の図2のステップS10における手法と同様の手法によって適合すればよい。
【0084】
ステップS10aの処理の完了後、ステップS12の処理を経由して、ステップS16において目標高圧EGR量を可変設定する。本実施形態では、低圧合流後O2濃度、高圧出口O2濃度Cegrhp、高圧EGR量Megrhp及び低圧合流後吸気量Mdthを入力とした上記流量濃度算出処理によって算出される実吸気O2濃度を目標吸気O2濃度とするために要求される目標総EGR量の一部として目標高圧EGR量を設定する。すなわち、この目標高圧EGR量は、実吸気O2濃度を目標吸気O2濃度とするために要求される総EGR量の一部が割り振られたものである。
【0085】
その後、ステップS18を経由して、ステップS20において肯定判断された場合や、ステップS22の処理が完了した場合には、ステップS36に進み、充填吸気量Mcld及び目標高圧EGR量に基づき、低圧合流後吸気量Mdthの目標値(目標低圧合流後吸気量)を算出する。具体的には、充填吸気量Mcldから目標高圧EGR量を差し引いた値として目標低圧合流後吸気量を算出する。
【0086】
続くステップS38では、充填吸気量Mcld、目標吸気O2濃度、目標高圧EGR量、高圧出口O2濃度Cegrhp及び目標低圧合流後吸気量に基づき、目標低圧合流後O2濃度を設定する。なお、目標低圧合流後O2濃度は、上記流量濃度算出処理と同様の手法によって設定される。
【0087】
続くステップS24aでは、目標低圧EGR量を設定する。詳しくは、低圧EGR量Megrlp、低圧出口O2濃度Cegrlp、新気量Mair及び新気中の酸素濃度Cairに基づき、低圧合流後O2濃度を目標低圧合流後O2濃度とするために要求される低圧EGR量を、目標低圧EGR量として設定する。目標低圧合流後O2濃度が目標吸気O2濃度を用いて設定されることに鑑みれば、目標低圧EGR量は、実吸気O2濃度を目標吸気O2濃度とするために要求される総EGR量のうち目標高圧EGR量に割り振る分以外の量となる。
【0088】
ステップS24aの処理が完了した場合、ステップS26〜S30の処理を経由して、ステップS32aにおいて、上記ステップS22やステップS30において目標高圧EGR量や目標低圧EGR量が変更された場合、目標低圧合流後O2濃度や目標吸気O2濃度を再設定する。具体的には、目標低圧EGR量、低圧出口O2濃度Cegrlp、新気量Mair及び新気中の酸素濃度に基づき目標低圧合流後O2濃度を再設定する。また、目標低圧合流後O2濃度、高圧出口O2濃度Cegrhp、目標高圧EGR量及び目標低圧合流後吸気量に基づき、目標吸気O2濃度を再設定する。
【0089】
続くステップS34aでは、実吸気O2濃度を目標吸気O2濃度にフィードバック制御すべく高圧EGRアクチュエータ48aを通電操作し、実低圧合流後O2濃度を目標低圧合流後O2濃度にフィードバック制御すべく低圧EGRアクチュエータ52aを通電操作する。具体的には、実吸気O2濃度が目標吸気O2濃度よりも高くて且つ、高圧出口O2濃度Cegrhpが低圧合流後O2濃度よりも低い場合、高圧EGR開度が大きくされて高圧EGR量が増大し、実低圧合流後O2濃度が目標低圧合流後O2濃度よりも高い場合、低圧EGR開度が大きくされて低圧EGR量が増大する。
【0090】
なお、ステップS34aの処理が完了する場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0091】
このように、本実施形態では、吸気O2濃度及び低圧合流後O2濃度を制御量として、外部EGR量を調節することができる。
【0092】
(その他の実施形態)
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0093】
・上記第1の実施形態において、目標高圧EGR量が高圧上限値を上回ると判断された場合、この上回る分が大きいほど低圧上限値を大きく設定する処理を行ってもよい。これにより、低圧EGR量を増大させる余裕があるなら、高圧EGR量の不足分を低圧EGRによって適切に補償することができる。
【0094】
・高圧EGRバルブ48及び低圧EGRバルブ52の設置位置としては、上記各実施形態に例示したものに限らない。例えば、高圧EGRバルブ48を、高圧EGR通路44のうち、排気通路34付近に設けたり、高圧EGR通路44の中間に設けたりしてもよい。また例えば、高圧EGR通路44のうち、吸気通路12付近及び排気通路34付近の双方に設けてもよい。なお、低圧EGRバルブ52についても、高圧EGRバルブ48の上述した種々の設置態様と同様である。
【0095】
・低圧EGR量Megrlp及び高圧EGR量Megrhpの算出手法としては、上記各実施形態に例示したものに限らない。例えば、高圧EGR通路44において高圧EGRバルブ48の前後差圧を検出するセンサを備え、低圧EGR量Megrlpの算出手法と同様の手法によって算出してもよい。また例えば、低圧EGR量Megrlpについて、上記各実施形態で例示した高圧EGR量Megrhpの算出手法と同様に、2つの圧力センサの検出値を用いて算出してもよい。
【0096】
・上記各実施形態では、高圧出口O2濃度Cegrhp、低圧出口O2濃度Cegrlp、低圧合流後O2濃度、吸気O2濃度及び排気O2濃度の酸素濃度パラメータの値を流量濃度算出処理によって算出したがこれに限らない。例えば、これら各パラメータの値を検出するセンサを備え、これらセンサによって検出する処理によって算出してもよい。
【0097】
・高圧EGR量Megrhp、低圧EGR量Megrlp及び低圧合流後吸気量Mdthを把握する手法としては、上記各実施形態に例示したものに限らない。例えば、これら流量を直接検出する流量センサを備え、流量センサの検出値に基づき把握してもよい。
【0098】
・上記各実施形態において、高圧上限値を、低負荷領域において目標総EGR量以上の値に設定するとともに高負荷領域において0に設定して且つ、低負荷領域から中負荷領域、及び中負荷領域から高負荷領域に移行するに伴い連続的に低減させるならば、高圧EGR制御から高低圧協調EGR制御への切替時や、高低圧協調EGR制御から低圧EGR制御への切替時における総EGR量の変化を滑らかにすることが期待できる。
【0099】
・上記各実施形態では、高圧EGR量及び低圧EGR量のそれぞれを、高圧EGRバルブ48及び低圧EGRバルブ52のそれぞれのみによって調節したがこれに限らない。例えば、これらEGRバルブに加えて、排気絞り弁56及び吸気絞り弁20のうち少なくとも1つによって調節してもよい。
【0100】
具体的には、排気側アクチュエータ56aの通電操作によって排気絞り弁56の開度が小さくなるほど、排気通路34のうち、排気絞り弁56の上流側の圧力が上昇し、低圧EGR通路46や高圧EGR通路44を介して吸気通路12に供給される低圧EGR量や高圧EGR量が多くなる。また、吸気側アクチュエータ20aの通電操作によって吸気絞り弁20の開度が小さくなるほど、吸気通路12のうち吸気絞り弁20下流側の圧力が低下し、高圧EGR通路44を介して吸気通路12に供給される高圧EGR量が多くなる。
【0101】
・上記各実施形態において、フィードバック制御のみによって低圧及び高圧EGRアクチュエータを通電操作したがこれに限らない。例えば、フィードフォワード制御を加味して操作してもよい。具体的には、エンジン回転速度及び燃料噴射量に基づきフィードフォワード操作量を算出し、算出されたフィードフォワード操作量に基づき通電操作すればよい。この場合であっても、フィードフォード操作量に対するフィードバック操作量の寄与の度合いが大きいなら、実EGR率(実吸気O2濃度)が目標EGR率(目標吸気O2濃度)まわりで周期的に大きく変動する現象(ハンチング)の発生を回避することができるため、本願発明の適用が有効である。
【0102】
・上記各実施形態では、高圧合流後制御値を高圧合流後目標値にするために要求される総EGR量を、高圧EGR量及び低圧EGR量のそれぞれに割り振り、その後高圧EGR量が高圧上限値を上回ると判断された場合、高圧EGR量のうち高圧上限値を上回る分を低圧EGRにて補償する制御ロジックを採用したがこれに限らない。例えば、上記総EGR量を、原則、高圧EGRによって賄うこととし、その後高圧EGR量が高圧上限値を上回ると判断された場合にのみ、高圧EGR量のうち高圧上限値を上回る分を低圧EGRにて補償する制御ロジックを採用してもよい。
【0103】
・内燃機関としては、圧縮点火式内燃機関に限らず、例えば筒内直噴式ガソリンエンジン等の火花点火式内燃機関であってもよい。
【符号の説明】
【0104】
10…エンジン、12…吸気通路、12a…高圧合流後通路、12b…低圧合流後通路、16…ターボチャージャ、16a…吸気コンプレッサ、16b…排気タービン、22…燃焼室、34…排気通路、44…高圧EGR通路、46…低圧EGR通路、48a…高圧EGRアクチュエータ、52a…低圧EGRアクチュエータ、58…ECU(内燃機関の排気還流制御装置の一実施形態)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に接続された吸気通路及び排気通路の間に設けられて且つ、前記内燃機関に供給される吸気を過給する過給機と、前記排気通路のうち前記過給機の排気タービンよりも上流側と前記吸気通路のうち前記過給機のコンプレッサよりも下流側とを接続する高圧EGR通路と、前記排気通路のうち前記排気タービンよりも下流側と前記吸気通路のうち前記コンプレッサよりも上流側とを接続する低圧EGR通路と、前記高圧EGR通路を介して前記吸気通路に還流される高圧EGRの流量を調節すべく通電操作される高圧EGR手段と、前記低圧EGR通路を介して前記吸気通路に還流される低圧EGRの流量を調節すべく通電操作される低圧EGR手段とを備える内燃機関の燃焼制御システムに適用され、
前記吸気通路のうち前記高圧EGR通路との接続部よりも下流側を高圧合流後通路と定義し、前記吸気通路のうち前記低圧EGR通路との接続部よりも下流側であって且つ前記高圧EGR通路との接続部よりも上流側を低圧合流後通路と定義し、吸気中の酸素濃度又はEGR率を吸気パラメータと定義したときに、前記内燃機関の運転状態に基づき、前記高圧合流後通路及び前記低圧合流後通路のそれぞれにおける前記吸気パラメータの目標値として、高圧合流後目標値及び低圧合流後目標値のそれぞれを設定する目標値設定手段と、
前記高圧合流後通路及び前記低圧合流後通路のそれぞれにおける前記吸気パラメータの都度の値として、高圧合流後制御値及び低圧合流後制御値のそれぞれを算出する都度制御値算出手段と、
前記高圧合流後制御値を前記高圧合流後目標値にフィードバック制御すべく前記高圧EGR手段を通電操作するとともに、前記低圧合流後制御値を前記低圧合流後目標値にフィードバック制御すべく前記低圧EGR手段を通電操作することで、前記吸気通路に前記高圧EGR及び前記低圧EGRの双方を還流させる制御手段とを備えることを特徴とする内燃機関の排気還流制御装置。
【請求項2】
前記高圧合流後制御値を前記高圧合流後目標値とするために要求されるEGRの流量を、前記高圧EGR及び前記低圧EGRのそれぞれに割り振る割振手段を更に備え、
前記目標値設定手段は、前記割振手段によって割り振られた高圧EGRの流量及び低圧EGRの流量に基づき、前記高圧合流後目標値及び前記低圧合流後目標値のそれぞれを設定することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の排気還流制御装置。
【請求項3】
前記内燃機関の運転状態に基づき、前記高圧EGRの流量の上限値である高圧上限値を可変設定する高圧上限値設定手段を更に備え、
前記割振手段は、前記設定された高圧上限値以下の値として前記高圧EGRの流量を割り振るとともに、前記高圧合流後制御値を前記高圧合流後目標値とするために要求されるEGRの流量から前記割り振られる高圧EGRの流量を差し引いた値に基づき、前記低圧EGRの流量を設定することを特徴とする請求項2記載の内燃機関の排気還流制御装置。
【請求項4】
前記内燃機関の運転状態に基づき、前記低圧EGRの流量の上限値である低圧上限値を可変設定する低圧上限値設定手段を更に備え、
前記割振手段によって割り振られる高圧EGRの流量及び低圧EGRの流量の和が前記高圧上限値及び前記低圧上限値の和となって且つ、前記高圧合流後制御値を前記高圧合流後目標値とするために要求されるEGRの流量が前記高圧上限値及び前記低圧上限値の和を上回ると判断された場合、前記高圧合流後目標値を、前記高圧上限値及び前記低圧上限値の和によって実現可能な前記高圧合流後制御値として再設定する再設定手段を更に備えることを特徴とする請求項3記載の内燃機関の排気還流制御装置。
【請求項5】
前記高圧上限値設定手段は、前記内燃機関の要求トルクが急増すると判断された場合、前記高圧上限値を低く設定することを特徴とする請求項3又は4記載の内燃機関の排気還流制御装置。
【請求項6】
前記高圧EGR手段は、前記高圧EGR通路に設けられて且つこの通路の面積を調節する電子制御式の弁体であり、
前記低圧EGR手段は、前記低圧EGR通路に設けられて且つこの通路の面積を調節する電子制御式の弁体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の内燃機関の排気還流制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−237290(P2012−237290A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108394(P2011−108394)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】