説明

内燃機関の軸受

【課題】メインベアリング、コンロッドベアリングに対して無駄に多くの潤滑油を流すことなく、潤滑油ポンプを無駄に多く回す必要がなく、結果として燃費をよくすることができるディーゼル機関の軸受を提供する。
【解決手段】メインベアリング5に対する荷重の低い側の内径を荷重の高い側の内径より小さく形成し、コンロッドベアリング2に対する荷重の低い側の内径を荷重の高い側の内径より小さく形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的なディーゼル機関等の内燃機関は、図8に示すような構造となっている。A部には図9に示すようなコンロッドベアリング2aが用いられ、B部には図10に示すようなメインベアリング5aが用いられている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−222119号公報
【特許文献2】特開2009−167805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ディーゼル機関においては、最高回転数が低いため、コンロッドベアリング2a及びメインベアリング5aへの荷重は燃焼圧によるものが大きく、慣性力によるものは小さい。そのためコンロッドベアリング2aでは上側の荷重が大きく、メインベアリング5aでは下側の荷重が大きい。本来は荷重の大きい方に潤滑油を多く流し,荷重による面圧の高い部分において潤滑油膜を確実に形成し、十分に冷却を行うのが望ましい。
【0005】
しかしながら、従来はコンロッドベアリング2a及びメインベアリング5aのいずれも上下の内径は同一であるため、荷重が低く潤滑油量が少なくてもよい方にも多量の潤滑油が流れることになる。すなわち荷重の高い方に十分な潤滑油を流すために、荷重の低い方へも無駄に多くの潤滑油を流していた。そのため無駄に多く潤滑油ポンプを回さなければならず、その結果燃費を悪化させていた。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、メインベアリング、コンロッドベアリングに対して無駄に多くの潤滑油を流すことなく、潤滑油ポンプを無駄に多く回す必要がなく、結果として燃費をよくすることができる内燃機関の軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために本発明の内燃機関の軸受は、シリンダブロックのクランクジャーナル支持隔壁の下面部とこれに一体的に取り付けられたベアリングキャップとによって形成されるクランクジャーナル部の軸受穴にメインベアリングを取り付け、コンロッド大端部に形成されるクランクピンの軸受穴にコンロッドベアリングを取り付けてなる内燃機関の軸受において、前記メインベアリングの燃焼圧による荷重の低い側の内径を前記荷重の高い側の内径より小さく形成し、前記コンロッドベアリングの前記荷重の低い側の内径を前記荷重の高い側の内径より小さく形成したことを特徴とする。
【0008】
また前記メインベアリングが前記荷重の低い上側メインベアリングと前記荷重の高い下側メインベアリングとからなり、前記上側メインベアリングの内径と前記クランクジャーナル部の外径との差が、前記下側メインベアリングの内径と前記クランクジャーナル部の外径との差の1/2であるのが好ましい。
【0009】
また前記コンロッドベアリングが前記荷重の低い下側コンロッドベアリングと前記荷重の高い上側コンロッドベアリングとからなり、前記下側コンロッドベアリングの内径と前記クランクピンの外径との差が、前記上側コンロッドベアリングの内径と前記クランクピンの外径との差の1/2であるのが好ましい。
【0010】
上記構成によれば、上側の荷重が低いメインベアリングでは、クランクジャーナルと上側メインベアリングとの隙間が小さくなって潤滑油量を減らすことができ、下側の荷重が低いコンロッドベアリングでは、クランクピンと下側コンロッドベアリングとの隙間が小さくなって潤滑油量を減らすことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、メインベアリング、コンロッドベアリングに対して無駄に多くの潤滑油を流すことなく、潤滑油ポンプを無駄に多く回す必要がなく、結果として燃費をよくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係るメインベアリングとコンロッドベアリングを組み込んだディーゼル機関のエンジンの断面図である。
【図2】図2は、クランクシャフトの一部とメインベアリング及びコンロッドベアリングとの関係を示す概略図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態に係るメインベアリングとクランクジャーナル部との関係を示す概略断面図である。
【図4】図4は、本発明の実施形態に係るコンロッドベアリングとコンロッド大端部及びクランクピンとの関係を示す概略断面図である。
【図5】図5は、コンロッドベアリングにおけるクランクピン軸心の挙動を示す図である。
【図6】図6は、メインベアリングにおけるクランクジャーナル軸心の挙動を示す図である。
【図7】図7は、ベアリングのレモン形のイメージを示す図である。
【図8】図8は、一般的なディーゼル機関のエンジンの断面図である。
【図9】図9は、一般的なコンロッドベアリングを示す図で、(A)は正面図で、(B)は内側から見た平面図である。
【図10】図10は、一般的なメインベアリングを示す図で、(A)は正面図で、(B)は内側から見た平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0014】
図1に示すようにディーゼル機関等の内燃機関は、エンジンの爆発圧力により生じたピストン13の直線往復運動をコンロッド3を介してクランクシャフト4(図2参照)の回転運動に変え、連続した動力を発生するようになっている。なお、図1において、1はシリンダブロック、12はシリンダヘッド、14はピストンピン、15はウォータージャケット、16は吸気ポート、17は吸気バルブ、18はオイルパンである。
【0015】
図2に示すようにクランクシャフト4は、クランクジャーナル部41とクランクピン40とがクランクアーム42、バランスウェイト43を介して直列に接続されており、クランクジャーナル部41がメインベアリング5で支持され、クランクピン40がコンロッドベアリング2で支持されている。メインベアリング5とコンロッドベアリング2は、すべり軸受からなる。
【0016】
図3に示すように、シリンダブロック1のクランクジャーナル支持隔壁10の下面部に半円状のベアリングキャップ19をボルト(図示せず)で結合して、クランクジャーナル部41の軸受穴45が、クランクジャーナル支持隔壁10の湾曲面10aとベアリングキャップ19の湾曲面19aとで形成されている。
【0017】
メインベアリング5は、半割円筒状の上側メインベアリング50と半割円筒状の下側メインベアリング51とを突き合わせて構成される。上側メインベアリング50がクランクジャーナル支持隔壁10の湾曲面10aに一体的に取り付けられ、下側メインベアリング51がベアリングキャップ19の湾曲面19aに一体的に取り付けられて、クランクジャーナル部41がメインベアリング5によって回転自在に支持されている。上側メインベアリング50には、径方向にオイル供給穴52が開けられると共に内側に環状のオイル溝53が形成されている。
【0018】
図4に示すように、コンロッド大端部30の半円部に半円状のベアリングキャップ31をボルト32、ナット33で結合して、クランクピン40の軸受穴46が、コンロッド大端部30の湾曲面30aとベアリングキャップ31の湾曲面31aとで形成されている。
【0019】
コンロッドベアリング2も、半割円筒状の上側コンロッドベアリング20と半割円筒状の下側コンロッドベアリング21とを突き合わせて構成される。上側コンロッドベアリング20がコンロッド大端部30の湾曲面30aに一体的に取り付けられ、下側コンロッドベアリング21がベアリングキャップ31の湾曲面31aに一体的に取り付けられて、クランクピン40がコンロッドベアリング2によって回転自在に支持されている。
【0020】
図3に示すように、メインベアリング5は、上側メインベアリング50の内径が下側メインベアリング51の内径より小さく形成されている。また図4に示すように、コンロッドベアリング2は、下側コンロッドベアリング21の内径が上側コンロッドベアリング20の内径より小さく形成されている。図3及び図4では、互いの内径の差を説明の便宜のため極端に実際より大きくしている。
【0021】
また図2に示すようにクランクシャフト4には、その内部にクランクジャーナル部41の径方向に延びるオイル穴41aが形成され、このオイル穴41aよりクランクピン40に向けて斜めに延びるオイル穴44が形成されている。図示しないオイルギャラリーからクランクジャーナル支持隔壁10に形成されたオイル通路11より潤滑油が上側メインベアリング50のオイル供給穴52及びオイル溝53を介してメインベアリング5とクランクジャーナル部41との間に供給され、さらに潤滑油がオイル穴44を介してコンロッドベアリング2とクランクピン40との間に供給され、油膜が形成される。
【0022】
ところで、ベアリングへの潤滑油流入量(=潤滑油流出量)Qは、軸とベアリングの隙間面積に比例するので、上側ベアリング若しくは下側ベアリングからの潤滑油流出量Qは、次式のようになる。
Q=K×π×D1×{(D2―D1)/2}
ここでK;比例定数
π;円周率
D1;軸外径(単位mm、以下同じ)
D2;ベアリング内径(単位mm、以下同じ)
【0023】
軸外径D1は一定なので、ベアリング内径D2を上下のベアリングで変えれば、ベアリングへの潤滑油流入量(=潤滑油流出量)Qを、上下のベアリングで変えることができる。
【0024】
そこで荷重の低い側の下側コンロッドベアリング21の内径D2を、荷重の高い側の上側コンロッドベアリング20の内径D2より小さくすることで、荷重の低い側の潤滑油量を減らすことができる。また荷重の低い側の上側メインベアリング50の内径D2を、荷重の高い側の下側メインベアリング51の内径D2より小さくすることで、荷重の低い側の潤滑油量を減らすことができる。
【0025】
なお、従来は隙間が
ベアリング内径D2−軸外径D1≒軸外径D1/1000
となっている。
【0026】
図5は、コンロッドベアリングにおけるクランクピン軸心の挙動を示している。図において、円の中心の交点がコンロッドベアリング2の軸心とクランクピン40の軸心とが一致していることを示し、外側の円と内側の挙動を示す太線との間Sが軸受隙間(油膜厚さ)である。コンロッド3がエンジンの燃焼圧で下方へ押されてコンロッドベアリング2も押されることにより、上側の油膜厚さ(クランクピン40と上側コンロッドベアリング20との間の油膜厚さ)が、下側の油膜厚さ(クランクピン40と下側コンロッドベアリング21との間の油膜厚さ)に比べて1/2だけ薄くなる。図6は、図5と同様にメインベアリングにおけるクランクジャーナル軸心の挙動を示しており、コンロッド3が下方へ押されることによりクランクピン40と共にクランクジャーナル部41が下方へ押されるので、下側の油膜厚さ(クランクジャーナル部41と下側メインベアリング51との間の油膜厚さ)が、上側の油膜厚さ(クランクジャーナル部41と上側メインベアリング50との間の油膜厚さ)に比べて1/2だけ薄くなる。図5、図6により、荷重の低い側のベアリング内径D2―軸外径D1を、荷重の高い側のベアリング内径D2―軸外径D1の1/2にするのがよいと判断できる。
【0027】
このため本実施形態では、荷重の低い上側メインベアリング50の内径とクランクジャーナル部41の外径との差を、荷重の高い下側メインベアリング51の内径とクランクジャーナル部41の外径との差の1/2にして荷重の低い側の潤滑油量を減らすようにしている。また荷重の低い下側コンロッドベアリング21の内径とクランクピン40の外径との差を、荷重の高い上側コンロッドベアリング20の内径とクランクピン40の外径との差の1/2にして荷重の低い側の潤滑油量を減らすようにしている。
【0028】
なお、上下で内径が異なると、境目の段差が気になるところであるが、実際のベアリングの内径は真円ではなく、図7に示すようにレモン形になっている。すなわち、上側ベアリング8aと下側ベアリング8bとで形成されるベアリング穴8cは、軸8dとの間隙が、軸8dの中心軸線X上から上側ベアリング8a、下側ベアリング8bの合わせ面Yにかけて次第に大きくなるようなレモン形の形状とされる。これはそもそも同一内径でも組み付けばらつきで境目に段差を生じるので、それによる悪影響を避けるためである。このため、ベアリングの内径を上下で変えても問題はない。
【0029】
このように本発明によれば、メインベアリング5の燃焼圧による荷重の低い側の上側メインベアリング50の内径を荷重の高い側の下側メインベアリング51の内径より小さく形成し、上側メインベアリング50とクランクジャーナル部41との隙間S1を下側メインベアリング51とクランクジャーナル部41との隙間S2より小さくして、上側メインベアリング50に流れる潤滑油量を減らすことができる。同様にコンロッドベアリング2の燃焼圧による荷重の低い側の下側コンロッドベアリング21の内径を荷重の高い上側コンロッドベアリング20の内径より小さく形成し、下側コンロッドベアリング21とクランクピン40との隙間S4を上側コンロッドベアリング20とクランクピン40との隙間S3より小さくして、下側コンロッドベアリング21に流れる潤滑油量を減らすことができる。
【0030】
以上、本発明によればごく簡単に、しかも信頼性上も問題なく、すべり軸受(コンロッドベアリング、メインベアリング)への潤滑油量を減らすことができる。これにより潤滑油ポンプを無駄に多く回す必要がなくなり、結果として燃費をよくすることができる。
【符号の説明】
【0031】
1 シリンダブロック
2 コンロッドベアリング
3 コンロッド
4 クランクシャフト
5 メインベアリング
10 クランクジャーナル支持隔壁
19 ベアリングキャップ
10a,19a 湾曲面
20 上側コンロッドベアリング
21 下側コンロッドベアリング
30 コンロッド大端部
30a 湾曲面
31 ベアリングキャップ
31a 湾曲面
40 クランクピン
41 クランクジャーナル部
45,46 軸受穴
50 上側メインベアリング
51 下側メインベアリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダブロックのクランクジャーナル支持隔壁の下面部とこれに一体的に取り付けられたベアリングキャップとによって形成されるクランクジャーナル部の軸受穴にメインベアリングを取り付け、コンロッド大端部に形成されるクランクピンの軸受穴にコンロッドベアリングを取り付けてなる内燃機関の軸受において、前記メインベアリングの燃焼圧による荷重の低い側の内径を前記荷重の高い側の内径より小さく形成し、前記コンロッドベアリングの前記荷重の低い側の内径を前記荷重の高い側の内径より小さく形成したことを特徴とする内燃機関の軸受。
【請求項2】
前記メインベアリングが前記荷重の低い上側メインベアリングと前記荷重の高い下側メインベアリングとからなり、前記上側メインベアリングの内径と前記クランクジャーナル部の外径との差が、前記下側メインベアリングの内径と前記クランクジャーナル部の外径との差の1/2である請求項1記載の内燃機関の軸受。
【請求項3】
前記コンロッドベアリングが前記荷重の低い下側コンロッドベアリングと前記荷重の高い上側コンロッドベアリングとからなり、前記下側コンロッドベアリングの内径と前記クランクピンの外径との差が、前記上側コンロッドベアリングの内径と前記クランクピンの外径との差の1/2である請求項1記載の内燃機関の軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−163213(P2011−163213A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26852(P2010−26852)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】