説明

内燃機関

【課題】ガソリンのみならず、アルコールのような含酸素燃料、あるいはガソリンとアルコールのような含酸素燃料とを混合した燃料を使用できる内燃機関において、暖機完了後における空燃比制御の自由度を向上すること。
【解決手段】内燃機関の暖機が完了していない場合(ステップS102:No)、ステップS103で取得されたアルコール濃度Ceに基づいて設定された目標オイル圧力Ptと、ステップS105において取得された現オイル圧力Pnとを比較する(ステップS106)。Pn>Ptである場合、Pn=Ptとなるように内燃機関のオイル圧力を制御する。これによって、オイルパンへ戻るオイルの量が増加するので、オイルパン内のオイルの攪拌が促進される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガソリンのみならず、アルコールのような含酸素燃料、あるいはガソリンとアルコールのような含酸素燃料とを混合した燃料を使用可能な内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
近年において、石油を中心とした化石燃料の消費抑制を視野に入れたエネルギの多様化へ対応する観点から、ガソリンの他にも、ガソリンにアルコールのような含酸素燃料を混合した燃料や、含酸素燃料のみを使用できる内燃機関が実用化されつつある。このような内燃機関においても、これまでの内燃機関と同様に、摺動部を潤滑するためにオイルが用いられる。摺動部に供給されてこれを潤滑した後のオイルは、内燃機関のオイル溜めに集められた後、オイルポンプによって再び摺動部へ供給される。特許文献1には、オイルポンプ又はオイルポンプとメインギャラリとの間のオイル通路に連通されるとともに、内燃機関が極低温であるときにのみ開放するリリーフ弁を有する潤滑装置が開示されている。
【0003】
【特許文献1】実開昭55−135112号公報、1ページ、図1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、レシプロ式の内燃機関では、ピストンリングの隙間から漏れた未燃の混合気がオイルパンのオイルに混入し、オイルが希釈されることがある。そして、PCV(Positive Crankcase Ventilation)のようなブローバイガス還元装置を備える内燃機関では、内燃機関を冷間始動した場合、暖機完了後にオイルへ混入した燃料が急激に蒸発して吸気側へ戻される。これによって空燃比が狂うので、これを補正するために燃料の噴射量を調整するが、アイドリング運転時のように燃料噴射弁の噴射量が小さい領域で燃料を噴射する場合には燃料噴射量の制御が困難になり、空燃比制御の自由度が低下する。
【0005】
ここで、アルコールのような含酸素燃料は、ガソリンと比較して蒸発しにくいため、含酸素燃料や含酸素燃料とガソリンとの混合燃料を用いる場合、空燃比制御の自由度はより低下する。特許文献1に開示されている技術は、かかる点については開示されておらず、ガソリンのみならず、アルコールのような含酸素燃料、あるいはガソリンとアルコールのような含酸素燃料とを混合した燃料を使用できる内燃機関に対しては改善の余地がある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、ガソリンのみならず、アルコールのような含酸素燃料、あるいはガソリンとアルコールのような含酸素燃料とを混合した燃料を使用できる内燃機関において、暖機完了後における空燃比制御の自由度を向上できる内燃機関を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するために、本発明に係る内燃機関は、オイル供給手段から供給され、内燃機関の摺動部を潤滑したオイルを溜めるオイル溜めと、前記内燃機関に供給される燃料のアルコール濃度が高くなるにしたがって、前記オイル溜めのオイルを攪拌する強さを増加させるオイル攪拌手段と、を含むことを特徴とする。
【0008】
このような構成により、内燃機関の暖機完了後において、ブローバイガス戻し通路を介して吸気通路へ戻される燃料蒸気の急激な増加を抑制するとともに、アルコールを多く含み蒸発しにくい燃料であっても、オイルから燃料を確実に蒸発させることができる。その結果、ガソリンのみならず、アルコールのような含酸素燃料、あるいはガソリンとアルコールのような含酸素燃料とを混合した燃料を使用できる内燃機関において、暖機完了後において燃料噴射量をより確実に制御できるので、暖機完了後のアイドリング運転時における空燃比制御の自由度を向上できる。
【0009】
本発明の望ましい態様としては、前記内燃機関において、前記オイル攪拌手段は、前記内燃機関の前記摺動部へオイルを分配するオイル通路から前記オイル溜めに前記オイルを戻すことにより、前記オイルを攪拌することが好ましい。
【0010】
本発明の望ましい態様としては、前記内燃機関において、前記オイル攪拌手段は、前記内燃機関に供給される燃料のアルコール濃度が高くなるにしたがって、前記オイル溜めに戻される前記オイルの量を増加させることが好ましい。
【0011】
本発明の望ましい態様としては、前記内燃機関において、前記オイル攪拌手段は、前記オイル通路と前記オイル溜めとの間に設けられる弁装置であり、この弁装置の開弁時間を変更することにより前記オイル溜めに戻される前記オイルの量を変更することが好ましい。
【0012】
本発明の望ましい態様としては、前記内燃機関において、前記弁装置は、前記内燃機関に供給される燃料のアルコール濃度が高くなるにしたがって、開弁時間の割合を大きくすることが好ましい。
【0013】
本発明の望ましい態様としては、前記内燃機関において、前記オイル攪拌手段は、前記オイルの温度に基づいて、前記オイル溜めに戻される前記オイルの量を変更することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、ガソリンのみならず、アルコールのような含酸素燃料、あるいはガソリンとアルコールのような含酸素燃料とを混合した燃料を使用できる内燃機関において、暖機完了後における空燃比制御の自由度を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。本発明は、乗用車、トラック、バスその他の車両に搭載される内燃機関に対して好適であるが、本発明の適用対象はこのような車両に限定されるものではない。また、内燃機関の潤滑方式は、いわゆるウェットサンプ、ドライサンプを問わない。
【0016】
本実施形態は、内燃機関に供給される燃料のアルコール濃度が高くなるにしたがって、内燃機関の摺動部を潤滑したオイルを溜めるオイル溜めのオイルを攪拌する強さを増加させ、希釈オイルからの燃料の蒸発を促進させる点に特徴がある。ここで、希釈オイルとは、内燃機関の燃料によって希釈されたオイルであり、例えば、内燃機関の気筒内燃焼空間からピストンとシリンダとの隙間を通ってクランク室へ吹き抜ける未燃ガスが、クランク室に設けられるオイルパンに集められたオイルへ混入することにより発生する。また、本実施形態において、オイル希釈抑制制御とは、希釈オイルからの燃料の蒸発を促進するための制御をいう。次に、本実施形態に係る内燃機関について説明する。
【0017】
図1は、本実施形態に係る内燃機関の構成を示す概略構成図である。この内燃機関1は、燃料供給装置2と、気筒30を備えた内燃機関本体3と、内燃機関本体3に接続される吸気経路5と、この内燃機関本体3に接続される排気経路6とを備える。内燃機関1の運転は、制御装置である機関ECU(Electronic Control Unit)7によって制御される。
【0018】
この内燃機関1は、燃料供給装置2により燃料タンク22内に貯留されている燃料Fが気筒30に供給される。本実施形態において、燃料Fは、例えば、ガソリンとアルコール(例えばエタノール)との混合燃料が用いられる。燃料供給装置2は、燃料噴射弁21と、燃料タンク22と、低圧燃料ポンプ23と、高圧燃料ポンプ24と、燃料供給配管26〜28と、燃料分配管(いわゆる燃料デリバリパイプ)25とを含んでいる。
【0019】
燃料供給装置2を構成する燃料噴射弁21は、内燃機関本体3のシリンダヘッド32Hに取り付けられるとともに、後述する気筒内燃焼空間30B内に燃料噴射口が開口する。そして、気筒内燃焼空間30B内に開口した燃料噴射弁21の燃料噴射口から内燃機関1の気筒内燃焼空間30B内へ直接燃料Fが噴射され、気筒内燃焼空間30B内に燃料噴霧Fmが形成される。このように、本実施形態に係る内燃機関1は、いわゆる直噴方式によって燃料Fが供給される。燃料噴射弁21の燃料噴射量(内燃機関1に供給する燃料Fの燃料供給量)や噴射タイミング等に関する燃料噴射制御は、制御装置である機関ECU7が実行する。なお、本実施形態において、燃料Fの供給方式は直噴方式に限定されるものではなく、吸気ポート37へ燃料を噴射するポート噴射方式を用いてもよいし、直噴方式及びポート噴射方式の両方を用いてもよい。
【0020】
燃料タンク22中の燃料Fは、低圧燃料ポンプ23によって燃料圧送手段である高圧燃料ポンプ24へ送られ、高圧燃料ポンプ24から燃料分配管25へ圧送される。燃料分配管25内における燃料Fの圧力は、例えば十数MPaに設定される。燃料分配管25にはアルコール濃度センサ29が取り付けられている。アルコール濃度センサ29は、燃料分配管25内に満たされている燃料Fのアルコール濃度を測定する。アルコール濃度センサ29によって測定された燃料Fのアルコール濃度は、機関ECU7に取り込まれ、本実施形態に係るオイル希釈抑制制御に用いられる。燃料分配管25にアルコール濃度センサ29を取り付けることにより、燃料噴射弁21から気筒内燃焼空間30Bへ噴射される直前における燃料のアルコール濃度を測定できるので、オイル希釈抑制制御の精度が向上する。
【0021】
内燃機関1の内燃機関本体3は、シリンダブロック31と、シリンダブロック31に締結して一体化されたシリンダヘッド32Hと、シリンダブロック31に締結して一体化されたクランクケース32Cと、気筒30に設けられるピストン33及びコネクティングロッド34と、クランク軸35と、気筒30に設けられる点火プラグ36と、弁装置4とを備える。
【0022】
内燃機関本体3が備える気筒30には、ピストン33と、シリンダブロック31と、シリンダヘッド32Hとにより囲まれた気筒内燃焼空間30Bが形成される。気筒30の気筒内燃焼空間30Bには、吸気経路5に接続する吸気ポート37と、排気経路6に接続する排気ポート38とが形成される。なお、吸気ポート37と排気ポート38とは、シリンダヘッド32Hに形成される。
【0023】
ピストン33は、コネクティングロッド34に回転自在に取り付けられ、また、コネクティングロッド34は、クランク軸35に回転自在に取り付けられる。このように、ピストン33は、コネクティングロッド34を介してクランク軸35と連結される。内燃機関本体3においては、気筒30の気筒内燃焼空間30B内で空気Aと燃料Fとの混合気を燃焼させることによりピストン33をシリンダブロック31内で往復運動させ、この往復運動をクランク軸35によって回転運動に変換して出力する。
【0024】
内燃機関本体3は、内燃機関本体3が備えるクランク軸35の回転数(機関回転数)を検出する手段及びクランク軸35の角度を検出する手段として機能するクランク角度センサ39を備える。クランク角度センサ39は、クランク軸35の角度であるクランク角度(CA)を検出して機関ECU7に出力する。なお、機関ECU7は、このクランク角度センサ39により検出されたクランク角度から内燃機関1の回転数(単位時間あたりの回転数であり機関回転数ともいう)を算出したり、気筒30の行程(例えば、吸気行程であるか、圧縮行程であるか、膨張行程であるか、排気行程であるか)を判定したりする。
【0025】
内燃機関1は、クランク軸35の軸受(クランクジャーナル)やクランク軸35とコネクティングロッド34との連結部等といった、内燃機関1の摺動部を潤滑する必要がある。このために、オイルが用いられる。オイルは、クランク軸35の出力によって駆動されるオイル供給手段であるオイルポンプ81によって吐出され、内燃機関1の内部に設けられ、摺動部へオイルを分配するオイル通路であるメインオイルホール84へ送られる。メインオイルホール84へ送られたオイルは、クランクジャーナルやカムジャーナルといった摺動部等へ分配される。
【0026】
内燃機関1の摺動部を潤滑等したオイルは、クランクケース32Cの内部へ戻された後、クランクケース32Cの底部に設けられるオイル溜め、すなわちオイルパン80へ一時的に溜められる。オイルパン80のオイルLは、オイルストレーナー86によって集められた後、オイル吸引通路87を通ってオイルポンプ81に吸引される。オイルポンプ81から吐出されたオイルは、オイルフィルタ82で塵が除去された後、オイル吐出通路83を通ってメインオイルホール84へ送られる。
【0027】
内燃機関本体3のシリンダヘッド32Hには、点火プラグ36が取り付けられている。点火プラグ36の電極36Sは、気筒30の気筒内燃焼空間30Bへ突き出している。また、点火プラグ36には、ダイレクトイグニッション36DIが取り付けられている。ダイレクトイグニッション36DIは、点火時期調整手段として機能する機関ECU7からの点火信号によって点火プラグ36を放電させ、気筒30の気筒内燃焼空間30B内の混合気に着火する。これによって、混合気は燃焼して高温、高圧の燃焼ガスとなり、ピストン33を駆動する。ここで、点火プラグ36の放電タイミング等に関する点火動作は、制御装置である機関ECU7が制御する。
【0028】
内燃機関本体3は、吸気弁41と排気弁42とを開閉させるための弁装置4を備える。弁装置4は、気筒30に設けられる吸気弁41及び排気弁42と、吸気カムシャフト43と、排気カムシャフト44と、吸気弁タイミング変更機構45と、排気弁タイミング変更機構47とを含んで構成される。弁装置4は、内燃機関1のシリンダヘッド32Hへ取り付けられるシリンダヘッドカバー11によって保護される。
【0029】
弁装置4を構成する吸気弁41は、吸気ポート37と気筒内燃焼空間30Bとの間の開口部分に配置され、吸気カムシャフト43が回転することにより開閉する。また、弁装置4を構成する排気弁42は、排気ポート38と気筒内燃焼空間30Bとの間の開口部分に配置され、排気カムシャフト44が回転することにより開閉する。
【0030】
弁装置4の吸気カムシャフト43及び排気カムシャフト44は、タイミングチェーンやタイミングベルトを介して、クランク軸35の回転に連動して回転する。弁装置4の吸気弁タイミング変更機構45は、吸気カムシャフト43とクランク軸35との間に配置されている。
【0031】
吸気弁タイミング変更機構45及び排気弁タイミング変更機構47は、可変動弁機構であり、吸気弁タイミング変更機構45が吸気カムシャフト43の位相を連続的に変化させ、排気弁タイミング変更機構47が排気カムシャフト44の位相を連続的に変化させる。これによって、吸気弁タイミング変更機構45及び排気弁タイミング変更機構47は、吸気弁41の開閉時期と排気弁42の開閉時期とを連続的に変化させることができるので、内燃機関1の運転状態に応じて吸気弁41の開閉時期と排気弁42の開閉時期とを最適なタイミングに制御できる。
【0032】
吸気カムシャフト43には吸気カム43Cが取り付けられており、排気カムシャフト44には排気カム44Cが取り付けられている。弁装置4は、吸気側ラッシュアジャスタ12及び排気側ラッシュアジャスタ14を備える。吸気側ラッシュアジャスタ12及び排気側ラッシュアジャスタ14は、吸気カム43Cと吸気弁41との間の隙間、及び排気カム44Cと排気弁42との間の隙間を常に0にするものであり、内燃機関1の摺動部を潤滑するためのオイルによって動作する。
【0033】
内燃機関本体3の吸気経路5は、大気中の空気Aを吸気し、この吸入された空気Aを内燃機関本体3の気筒30の気筒内燃焼空間30Bに導入する。吸気経路5は、エアクリーナ51と、エアフローメーター52と、スロットル弁53と、エアクリーナ51から気筒30の吸気ポート37までを連通する吸気通路54とを有する。吸気経路5は、エアクリーナ51によってごみや塵等が除去された空気Aを、吸気通路54及び吸気ポート37を介して、それぞれの気筒30の気筒内燃焼空間30Bに導入する。吸気経路5に設けられるエアフローメーター52は吸入空気量検出手段であり、吸気経路5から吸入されて気筒30に導入される吸入空気量を検出し、機関ECU7に出力する。
【0034】
吸気経路5には、気筒内燃焼空間30Bに供給する吸入空気量を調整制御する吸入空気量調整手段として機能するスロットル弁53が設けられる。スロットル弁53は、気筒30の気筒内燃焼空間30Bに導入する吸入空気量を調整する。スロットル弁53は、ステッピングモータ等のアクチュエータ53aにより開閉される。吸入空気量調整手段として機能するスロットル弁53のバルブ開度、すなわちスロットル弁53の開度は、機関ECU7がアクチュエータ53aによってスロットル弁53の開度を調整することにより制御される。
【0035】
シリンダヘッド32Hとシリンダヘッドカバー11とで囲まれる空間(以下ヘッドカバー内空間という)は、ブローバイガス戻し通路110によって吸気通路54と接続される。ブローバイガス戻し通路110には、PCVバルブ111が設けられている。ピストン33と気筒内壁30twとの間を通ってクランクケース32C内へ漏れる未燃の混合気をブローバイガスという。ブローバイガスは、クランクケース32Cの内部からヘッドカバー内空間へ導かれた後、ブローバイガス戻し通路110及びPCVバルブ111を介して吸気通路54へ戻される。吸気通路54へ戻されたブローバイガスは、新しい空気Aとともに吸気通路54から気筒内燃焼空間30B内へ導入されて、燃焼する。
【0036】
内燃機関本体3に接続される排気経路6には、気筒30の気筒内燃焼空間30Bで燃焼してピストン33を駆動した後の燃焼ガスが、排ガスとして排出される。排気経路6は、排ガス通路62と、排ガス通路62に設けられる排ガス浄化触媒61とを含んで構成される。排気経路6に設けられる排ガス浄化触媒61は、排ガス通路62から送られる排ガスExに含まれる窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)を浄化するものである。排ガス浄化触媒61で浄化された後の排ガスは、消音装置を通って大気中に排気される。
【0037】
排ガス通路62には、A/Fセンサ63と、O2センサ64とが設けられている。空燃比検出手段であるA/Fセンサ63は、排ガスExの空燃比にほぼ比例する出力特性を有するセンサである。A/Fセンサ63は、排ガス通路62のうち排ガス浄化触媒61の上流側、すなわち、内燃機関1の排気ポート38と排ガス浄化触媒61との間に配置される。A/Fセンサ63は、気筒内燃焼空間30Bから排気経路6に排気された排ガスExのうち、排ガス浄化触媒61に吸入される前における排ガスExの排ガス空燃比を検出し、機関ECU7に出力する。なお、A/Fセンサ63は、O2センサで構成してもよい。
【0038】
また、機関ECU7は、A/Fセンサ63によって検出された排ガス空燃比に基づいて、吸入された空気A及び燃料Fからなる混合気の空燃比、すなわち内燃機関1の空燃比を算出する。排気経路6に設けられるO2センサ64は、排ガスEx中の酸素濃度を検出するセンサであり、酸素濃度検出手段として機能する。O2センサ64は、排ガス通路62のうち排ガス浄化触媒61の下流側、すなわち、排ガス浄化触媒61の出口側に配置される。このO2センサ64は、気筒内燃焼空間30Bから排気経路6に排気された排ガスExのうち、排ガス浄化触媒61を通過した後における排ガスExの酸素濃度を検出し、機関ECU7に出力する。
【0039】
上述したように、機関ECU7には、内燃機関1を制御して運転するために車両の各所に取り付けられたセンサから、各種入力信号が入力される。機関ECU7に入力される入力信号には、例えば、クランク軸35に取り付けられたクランク角度センサ39によって検出されたクランク角度、エアフローメーター52により検出された吸入空気量、アクセル開度センサ55により検出されるアクセル55Pの開度(アクセル開度)、A/Fセンサ63により検出された排ガス空燃比、O2センサ64により検出された酸素濃度、内燃機関1を冷却する冷却水の温度を検出する冷却水温度センサ65から出力された信号等がある。
【0040】
機関ECU7は、内燃機関1の運転を制御するため、上述した入力信号及び記憶部73に格納されている燃料噴射量が記述されたマップや点火時期が記述されたマップ等の各種マップに基づいて、制御対象である燃料噴射弁21やダイレクトイグニッション36DI等に対して、制御信号を出力する。機関ECU7が内燃機関1の運転制御を実行するために出力する制御信号には、例えば、燃料噴射弁21の燃料噴射を制御する燃料噴射信号、点火プラグ36の点火を制御する点火信号、スロットル弁53の弁開度を制御する弁開度信号等がある。
【0041】
機関ECU7は、上述した入力信号や出力信号の入出力を行う入出力部(I/O)71と、処理部72と、燃料噴射量マップなどの各種マップなどを格納する記憶部73とを有する。処理部72は、例えば、メモリ及びCPU(Central Processing Unit:中央演算装置)により構成されている。処理部72は、制御条件判定部74と、オイルパン80内のオイルの攪拌量を設定する手段であるオイル圧力設定部75と、オイルパン80内のオイルの攪拌を実行する手段であるオイル戻し制御部76とを含んでいる。これらが本実施形態に係るオイル希釈抑制制御を実行する。
【0042】
このように、機関ECU7は、本実施形態に係るオイル希釈抑制制御を実行する手段を含んで構成されているので、機関ECU7は、本実施形態に係るオイル希釈抑制制御装置として機能する。また、記憶部73は、フラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ、ROM(Read Only Memory)のような読み出しのみが可能なメモリ、あるいはRAM(Random Access Memory)のような読み書きが可能なメモリ、あるいはこれらの組み合わせにより構成できる。
【0043】
図2は、本実施形態に係る内燃機関の潤滑装置を示す模式図である。本実施形態に係る内燃機関の潤滑装置8は、図1に示す内燃機関1に設けられて、内燃機関1を構成する。内燃機関の潤滑装置8は、オイル溜めであるオイルパン80と、オイル吐出手段であるオイルポンプ81と、オイルの通路であるメインオイルホール84と、メインオイルホールの出口に設けられてオイル攪拌手段として機能する弁装置(以下リリーフ弁という)85と、を含んで構成される。
【0044】
オイルパン80へ集められたオイルLは、オイルストレーナー86によって集められた後、オイルポンプ81へ吸引されてからオイルフィルタ82を介してメインオイルホール84へ吐出される。メインオイルホール84へ吐出されたオイルLは、シリンダブロック31側の潤滑対象箇所及びシリンダヘッド32H側の潤滑対象箇所へ分配される。シリンダブロック31側の潤滑対象箇所には、クランクジャーナルCJ、クランクピンCP、コネクティングロッド34がある。シリンダヘッド32H側の潤滑対象箇所には、カムジャーナル(図1に示す吸気カムシャフト43や排気カムシャフト44の軸受)CSJがある。
【0045】
また、潤滑が必要な箇所の他、オイルLはオイルジェットOJから図1に示す内燃機関1が備えるピストン33の内側へ噴射され、ピストン33を冷却したりピストン33を潤滑したりする。また、図1に示す内燃機関1は、油圧を利用して動作する装置がある。例えば、吸気側ラッシュアジャスタ12及び排気側ラッシュアジャスタ14、チェーンテンショナーCT、オイルコントロールバルブOCVからオイルが供給される吸気弁タイミング変更機構45及び排気弁タイミング変更機構47が油圧を利用して動作する装置である。
【0046】
図1に示す内燃機関1の潤滑対象箇所を潤滑したオイルLや、内燃機関1が備える油圧を利用して動作する装置を動作させたオイルLは、オイルパン80へ集められ、オイルポンプ81によって再びメインオイルホール84へ吐出される。本実施形態に係る内燃機関の潤滑装置8は、メインオイルホール84の出口にリリーフ弁85が設けられる。リリーフ弁85は、例えば電磁力によって開閉する電磁リリーフ弁であり、機関ECU7によって開弁動作が制御される。また、メインオイルホール84には、メインオイルホール84内におけるオイルLの圧力を検出するためのオイル圧力センサ89が設けられる。オイル圧力センサ89の検出値は機関ECU7が取得し、本実施形態に係るオイル希釈抑制制御に用いる。
【0047】
図1に示す本実施形態に係る内燃機関1は、いわゆる直噴方式によって燃料が供給される。燃料噴射弁21から気筒内燃焼空間30Bへ噴射された燃料Fは、図1に示す気筒内壁30twへ付着し、ピストン33の外周部に設けられるピストンリングを介してオイルパン80へ混入する。特に、内燃機関1の冷間運転時、すなわち暖機完了前においては、オイル中に混入した燃料の蒸発が遅れ、内燃機関1の暖機が完了した後に燃料の蒸発が促進される。その結果、内燃機関1の暖機が完了した直後においては、内燃機関1のアイドリング運転時における空燃比の制御の自由度が低下するおそれがある。これは次の理由による。
【0048】
内燃機関1の冷間運転時にはオイルの温度が低いため、オイル中に混入した燃料は蒸発しにくくなる。内燃機関1の暖機が進むとオイルの温度も上昇し、暖機完了後にはオイルの温度上昇によってオイル中に混入した燃料は急激に蒸発が始まる。燃料の蒸気はクランクケース32Cの内部からヘッドカバー内空間へ導かれた後、ブローバイガス戻し通路110及びPCVバルブ111を介して吸気通路54へ戻される。すなわち、内燃機関1の暖機中は、オイルに混入した燃料の蒸発が遅れて、暖機完了後に燃料の蒸発が促進される結果、暖機完了後には、急激に燃料蒸気が吸気通路54へ導入される。
【0049】
ここで、内燃機関1のアイドリング運転時においては、燃料噴射弁21の最低噴射量近傍での微少な燃料噴射量の制御が要求される。また、暖機完了後においては、冷間時における燃料の増量は中止されるので、冷間時よりも燃料噴射量は少なくなる。このような状態で、オイルから蒸発した燃料の蒸気を多く含むブローバイガスが吸気通路54へ戻されると、内燃機関1の気筒内燃焼空間30Bへ導入される燃料の量が急激に増加するので、内燃機関1のアイドリング運転時における空燃比の制御の精度が低下したり、空燃比の制御自体が困難になったりする。特に、アルコールはガソリンに比べて蒸発しにくいため、ガソリンにアルコールを混合させた燃料を用いる場合には、上記の問題が顕著になる。
【0050】
そこで、本実施形態では、内燃機関1の冷間運転時、すなわち暖機完了前においては、オイルパン80に溜められるオイルを攪拌することにより、オイルに混合した燃料の蒸発を促進させる。これによって、内燃機関1の暖機完了後におけるオイルからの燃料の急激な蒸発を抑制して、吸気通路54から気筒内燃焼空間30Bへ導入される燃料を抑制する。そして、内燃機関1のアイドリング運転時における空燃比制御の自由度を向上させる。ここで、本実施形態に係る内燃機関の潤滑装置8において、オイルパン80に溜められるオイルを攪拌する手法を説明する。
【0051】
リリーフ弁85を開弁するとメインオイルホール84内からオイルパン80へオイルLが戻る。これによって、オイルパン80に溜められているオイルLを攪拌できる。このように、本実施形態では、内燃機関1の摺動部を潤滑したオイルLがオイルパン80に戻る以外に、メインオイルホール84からオイルパン80へ積極的にオイルLを戻すことによって、オイルパン80のオイルLを攪拌する。
【0052】
本実施形態では、リリーフ弁85の開弁時間と閉弁時間との比率を調整することにより、メインオイルホール84内からオイルパン80へ戻るオイルLの量を変化させることができる。これによって、オイルパン80に溜められているオイルLを攪拌する強さを変更できる。例えば、メインオイルホール84内からオイルパン80へ戻るオイルLの量を増加させると、オイルパン80に溜められているオイルLを攪拌する強さを増加させることができる。このように、リリーフ弁85は、オイル攪拌手段として機能する。
【0053】
リリーフ弁85をオイル攪拌手段として用いることにより、簡単な構成でオイルパン80に溜められているオイルLを攪拌できる。また、リリーフ弁85を用いれば、開弁時間と閉弁時間との比率を調整することによりオイルLを攪拌する強さを変更できるので、攪拌の制御が容易になる。なお、リリーフ弁85は、オイルが流れるか流れないかを切り替える開閉弁であるが、オイルLの流量を調整できる流量調整弁を用いてもよい。この場合、流量調整弁を流れるオイルLの流量を調整することにより、オイルLを攪拌する強さを変更できる。
【0054】
オイルパン80に溜められているオイルLを攪拌すると、オイルパン80の底に滞留したオイル中の燃料を空気に接触させることができる。また、オイルに含まれた燃料が空気に接触する機会を増加させることができる。これらの作用により、図1に示す内燃機関1が冷間で運転されている場合であっても、オイル中に含まれる燃料を早期に蒸発させることができる。その結果、内燃機関1の暖機完了後におけるオイルからの燃料の急激な蒸発を抑制して、吸気通路54から気筒内燃焼空間30Bへ導入される燃料を抑制できるので、内燃機関1のアイドリング運転時における空燃比制御の自由度を向上できる。次に、本実施形態に係るオイル希釈抑制制御をより詳細に説明する。
【0055】
上述したように、本実施形態においては、オイルパン80へ戻すオイルの量を調整することにより、オイルパン80に溜められているオイルLを攪拌する強さを変更する。このとき、燃料に含まれるアルコールの濃度に基づいて、オイルパン80に溜められているオイルLを攪拌する強さを変更する。上述したように、アルコールはガソリンに比べて蒸発しにくいため、燃料に含まれるアルコールの濃度が高くなるほど、内燃機関1の暖機完了後における内燃機関1のアイドリング運転時に空燃比制御の自由度が低下する問題は顕著になる。
【0056】
このため、本実施形態では、燃料に含まれるアルコールの濃度が高くなるにしたがって、オイルパン80に溜められているオイルLを攪拌する強さを増加させる。これによって、燃料に含まれるアルコールの濃度が高い場合には、オイルパン80に溜められているオイルLをより強く攪拌できるので、オイル中に含まれる燃料の蒸発を促進できる。その結果、燃料に含まれるアルコールの濃度が高い場合でもオイルからの燃料の急激な蒸発を抑制できるので、内燃機関1の暖機完了後のアイドリング運転時における空燃比制御の自由度を向上させることができる。
【0057】
本実施形態に係るオイル希釈抑制制御では、燃料のアルコール濃度に応じてリリーフ弁85の開弁圧力を変更することにより、燃料のアルコール濃度に基づいてオイルパン80へ戻すオイルの量を調整する。これによって、オイルパン80に溜められているオイルLを攪拌する強さを変更する。より具体的には、燃料のアルコール濃度が高くなるにしたがってリリーフ弁85の開弁圧力を低くする。リリーフ弁85の開弁圧力を低くすると、リリーフ弁85の開弁時間が長くなり、それだけ多くのオイルがメインオイルホール84内からオイルパン80へ戻る。これによって、燃料のアルコール濃度が高くなるにしたがって、オイルパン80に溜められているオイルLを攪拌する強さを増加させることができる。
【0058】
また、本実施形態に係るオイル希釈抑制制御では、オイルの温度に基づいて、メインオイルホール84内からオイルパン80へ戻るオイルの量を変更する。これは、オイルの温度によって適切な攪拌の強さが異なること、及び、図1に示す内燃機関1の暖機の進行に応じて、オイルパン80へ戻すオイルの量は異なることによる。
【0059】
図3は、本実施形態に係るオイル希釈抑制制御に用いる目標オイル圧力設定マップを示す説明図である。図3に示す目標オイル圧力設定マップ90は、図1に示す機関ECU7の記憶部73に格納されている。目標オイル圧力設定マップ90は、燃料のアルコール濃度Ceが増加するとリリーフ弁85の開弁圧力が低くなるように、リリーフ弁85の目標とする開弁圧力(以下目標オイル圧力という)Ptが設定される。図3に示す目標オイル圧力設定マップ90では、燃料のアルコール濃度Ceが、Ce1、Ce2、Ce3の順に小さくなる。そして、目標オイル圧力設定マップ90は、内燃機関1を冷却する冷却水の温度(以下冷却水温度という)Twが同じ温度で比較すれば、燃料のアルコール濃度Ceが高くなるにしたがって目標オイル圧力Ptが低くなるように記述される。
【0060】
また、オイルの温度に基づいてメインオイルホール84内からオイルパン80へ戻るオイルの量を変更するため、図3に示す目標オイル圧力設定マップ90は、内燃機関1を冷却する冷却水の温度(以下冷却水温度という)Twの上昇とともに、リリーフ弁85の開弁圧力が低くなるように、目標オイル圧力Ptが設定される。これによって、オイルパン80に戻されたオイルを、オイルの温度に応じて適切に攪拌できる。その結果、内燃機関1の暖機完了後におけるオイルからの燃料の急激な蒸発を抑制できるので、アイドリング運転時における空燃比制御の自由度をより効果的に向上させることができる。なお、内燃機関1のオイルの温度と冷却水温度Twとは相関があるため、本実施形態では、冷却水温度Twをオイルの温度として用いるが、オイルの温度を直接測定し、これをオイル希釈抑制制御に用いてもよい。次に、本実施形態に係るオイル希釈抑制制御の手順を説明する。
【0061】
図4は、本実施形態に係るオイル希釈抑制制御の手順を示すフローチャートである。本実施形態に係るオイル希釈抑制制御を実行するにあたり、ステップS101において、図1に示す機関ECU7の制御条件判定部74は、図1に示す内燃機関1に取り付けられる冷却水温度センサ65から、現時点における冷却水温度Twを取得する。次に、ステップS102において、制御条件判定部74は、内燃機関1の暖機が完了したか否かを判定する。内燃機関1の暖機が完了したか否かは、例えば、内燃機関1の冷却水温度Twが、予め定めた暖機完了温度Twfよりも大きくなったか否かで判断できる。
【0062】
ステップS102でYesと判定された場合、すなわち、制御条件判定部74が、内燃機関1の暖機は完了したと判定した場合、本実施形態に係るオイル希釈抑制制御は終了する。内燃機関1の暖機が完了すれば、内燃機関1のオイルの温度は燃料の沸点よりも高くなるので、オイルに混入した燃料の蒸発が遅くなることに起因する、暖機完了後のアイドリング運転時における空燃比制御の自由度低下は回避できるからである。
【0063】
ステップS102でNoと判定された場合、すなわち、制御条件判定部74が、内燃機関1の暖機は完了していないと判定した場合、ステップS103において、図1に示す機関ECU7のオイル圧力設定部75は、図1に示す内燃機関1の燃料分配管25に取り付けられるアルコール濃度センサ29から、燃料Fのアルコール濃度Ceを取得する。そして、ステップS104において、オイル圧力設定部75は、目標オイル圧力Ptを設定する。
【0064】
目標オイル圧力Ptを設定するにあたって、オイル圧力設定部75は、ステップS101で制御条件判定部74が取得した冷却水温度TwとステップS103で取得したアルコール濃度Ceとを図3に示す目標オイル圧力設定マップ90へ与え、対応する目標オイル圧力Ptを取得する。例えば、図3において、冷却水温度がTw1であり、アルコール濃度がCe1である場合、目標オイル圧力はPt1となる。
【0065】
目標オイル圧力Ptが設定されたら、ステップS105において、制御条件判定部74は、現在のオイルの圧力(現オイル圧力)Pnを取得する。そして、ステップS106において、制御条件判定部74は、現オイル圧力Pnと、ステップS104で設定された目標オイル圧力Ptとを比較する。比較の結果、制御条件判定部74がPn>Ptであると判定した場合、すなわちステップS106でNoと判定された場合、メインオイルホール84内からオイルパン80へ戻るオイルの量が少なく、オイルパン80に溜められたオイルの攪拌が不十分であると判断できる。
【0066】
この場合、ステップS107において、図1に示す機関ECU7のオイル戻し制御部76は、図2に示すリリーフ弁85を開き、メインオイルホール84内からオイルパン80へオイルを戻す。そして、Pn=Ptとなるようにオイル圧力を制御する。この制御は、リリーフ弁85の開弁時間と閉弁時間との比率を変更することによって実現できる。これによって、メインオイルホール84内からオイルパン80へオイルを戻すことによりオイルパン80内のオイルを攪拌して、オイルに混入した燃料の蒸発を促進できる。その結果、オイルからの燃料の蒸発が遅くなることに起因する、暖機完了後のアイドリング運転時における空燃比制御の自由度低下を回避できる。
【0067】
ステップS106において、制御条件判定部74がPn≦Ptであると判定した場合、すなわちステップS106でYesと判定された場合、メインオイルホール84内からオイルパン80へは十分にオイルが戻っており、オイルパン80に溜められたオイルが十分に攪拌されていると判断できる。この場合、本実施形態に係るオイル希釈抑制制御は終了する。
【0068】
(変形例)
図5は、本実施形態の変形例に係るオイル攪拌手段を示す模式図である。オイルパン80にオイル攪拌手段として電動機101によって駆動されるプロペラ100を備え、プロペラ100をオイルパン80内で回転させることにより、オイルパン80内のオイルLを攪拌する点に特徴がある。プロペラ100は、図1に示す内燃機関1のオイルパン80に取り付けられる。プロペラ100を駆動する電動機101は、機関ECU7の処理部72が備える攪拌手段駆動条件設定部77により駆動条件が設定され、攪拌手段駆動制御部78により駆動制御される。なお、機関ECU7の処理部72は、オイル希釈抑制制御の制御条件を判定する制御条件判定部74を備えている。そして、機関ECU7の処理部72は、アルコール濃度センサ29、冷却水温度センサ65からオイル希釈抑制制御に必要な情報を取得し、オイル希釈抑制制御を実行する。ここで、攪拌手段駆動条件設定部77がオイルパン80内のオイルLの攪拌量を設定する手段に相当し、攪拌手段駆動制御部78がオイルパン80内のオイルLの攪拌を実行する手段に相当する。
【0069】
本変形例においては、プロペラ100の回転数(プロペラ回転数、単位時間あたりの回転数)Npを変更することによって、オイルパン80内のオイルを攪拌する強さを変更できる。本変形例においては、燃料のアルコール濃度に基づいて、オイルを攪拌する強さを変更する。より具体的には、燃料のアルコール濃度が高くなるにしたがって、オイルを攪拌する強さを増加させる。これによって、燃料のアルコール濃度が高い場合でも、確実にオイルから燃料を蒸発させることができる。また、本変形例では、燃料のアルコール濃度に基づいて、プロペラ100の駆動を開始する冷却水温度を変更する。より具体的には、燃料のアルコール濃度が高くなるにしたがって、プロペラ100の駆動を開始する冷却水温度を低くする。燃料のアルコール濃度が低い場合には、ある程度冷却水温度が高くなってからプロペラ100を駆動しても、オイルに混入した燃料の蒸発を促進できるので、燃料のアルコール濃度が低い場合にはプロペラ100の駆動時間を短縮して、エネルギ消費を抑制できる。また、燃料のアルコール濃度が高い場合には、より早い時期からプロペラ100を駆動できるので、早い時期から燃料の蒸発を促進できる。
【0070】
図6−1は、本実施形態の変形例に係るオイル希釈抑制制御で用いる駆動開始温度マップである。図6−2は、本実施形態の変形例に係るオイル希釈抑制制御で用いる目標プロペラ回転数マップである。駆動開始温度設定マップ91及び目標プロペラ回転数設定マップ92は、機関ECU7の記憶部(図5では省略)に格納される。
【0071】
図6−1に示す駆動開始温度設定マップ91は、図5に示すプロペラ100の駆動を開始するときの冷却水温度(駆動開始温度)Twsと、燃料のアルコール濃度Ceとの関係が記述してある。駆動開始温度設定マップ91では、燃料のアルコール濃度Ceが高くなるにしたがって、駆動開始温度Twsが低くなるように記述される。また、図6−2に示す目標プロペラ回転数設定マップ92は、図5に示すプロペラ100の目標とする回転数(目標プロペラ回転数、単位時間あたりの回転数)Nptと、燃料のアルコール濃度Ceとの関係が記述してある。目標プロペラ回転数設定マップ92では、燃料のアルコール濃度Ceが高くなるにしたがって、目標プロペラ回転数Nptが高くなるように記述される。次に、本変形例に係るオイル希釈抑制制御の手順を説明する。
【0072】
図7は、本変形例に係るオイル希釈抑制制御の手順を示すフローチャートである。本変形例に係るオイル希釈抑制制御は、図5に示す機関ECU7によって実現できる。本変形例に係るオイル希釈抑制制御のステップS201〜ステップS203は、上述した実施形態に係るオイル希釈抑制制御のステップS101〜ステップS103と同様なので、説明を省略する。ステップS204において、図5に示す機関ECU7の攪拌手段駆動条件設定部77は、ステップS203で取得されたアルコール濃度Ceを駆動開始温度設定マップ91及び目標プロペラ回転数設定マップ92に与え、前者によって駆動開始温度Twsを設定し、後者によって目標プロペラ回転数Nptを設定する。
【0073】
駆動開始温度Tws及び目標プロペラ回転数Nptが設定されたら、ステップS205において、図5に示す機関ECU7の制御条件判定部74は、ステップS201で取得した現在の冷却水温度Twと、ステップS204で設定された駆動開始温度Twsとを比較する。比較の結果、制御条件判定部74がTws≦Twであると判定した場合、すなわちステップS205でYesと判定された場合、現在の冷却水温度Twは、図5のプロペラ100を駆動してオイルパン80内のオイルを攪拌する駆動開始温度Tws以上となっている。
【0074】
この場合、ステップS206において、図5の機関ECU7が備える攪拌手段駆動制御部78は、図5に示す電動機101を駆動することによりプロペラ100を駆動して、オイルパン80内のオイルを攪拌する。このとき、攪拌手段駆動制御部78は、プロペラ100の回転数Npが、ステップS204で設定した目標プロペラ回転数Nptとなるように電動機101を制御する。これによって、オイルパン80内のオイルを攪拌して、オイルに混入した燃料の蒸発を促進できる。その結果、オイルからの燃料の蒸発が遅くなることに起因する、暖機完了後のアイドリング運転時における空燃比制御の自由度低下を回避できる。また、目標プロペラ回転数Nptは燃料のアルコール濃度Ceに基づいて設定されるので、プロペラ100の回転不足による蒸発促進の不良や、プロペラ100の過回転による無駄なエネルギ消費を抑制できる。
【0075】
ステップS205でNoと判定された場合、すなわち、制御条件判定部74がTws>Twであると判定した場合、現在の冷却水温度Twは、図5のプロペラ100を駆動してオイルパン80内のオイルを攪拌する駆動開始温度Twsよりも低い。この場合、プロペラ100を駆動する必要はないので、本変形例に係るオイル希釈抑制制御は終了する。このようにすることで、無駄なプロペラ100の駆動を回避してエネルギ消費を抑制できる。
【0076】
以上、本実施形態及びその変形例では、内燃機関に供給される燃料のアルコール濃度が高くなるにしたがって、内燃機関の摺動部を潤滑したオイルを溜めるオイル溜めのオイルを攪拌する強さを増加させ、希釈オイルからの燃料の蒸発を促進させる。これによって、内燃機関の暖機完了後において、ブローバイガス戻し通路を介して吸気通路へ戻される燃料蒸気の急激な増加を抑制できる。また、アルコール濃度の上昇とともにオイルを攪拌する強さを増加させるので、アルコールを多く含み蒸発しにくい燃料であっても、オイルから燃料を確実に蒸発させることができる。その結果、ガソリンのみならず、アルコールのような含酸素燃料、あるいはガソリンとアルコールのような含酸素燃料とを混合した燃料を使用できる内燃機関において、暖機完了後において燃料噴射量をより確実に制御できるので、暖機完了後のアイドリング運転時における空燃比制御の自由度を向上できる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
以上のように、本発明に係る内燃機関は、ブローバイガスを吸気通路へ戻す機構を備える内燃機関に有用であり、特に、アルコールやアルコールを含む燃料を用いる内燃機関に適している。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本実施形態に係る内燃機関の構成を示す概略構成図である。
【図2】本実施形態に係る内燃機関の潤滑装置を示す模式図である。
【図3】本実施形態に係るオイル希釈抑制制御に用いる目標オイル圧力設定マップを示す説明図である。
【図4】本実施形態に係るオイル希釈抑制制御の手順を示すフローチャートである。
【図5】本実施形態の変形例に係るオイル攪拌手段を示す模式図である。
【図6−1】本実施形態の変形例に係るオイル希釈抑制制御で用いる駆動開始温度マップである。
【図6−2】本実施形態の変形例に係るオイル希釈抑制制御で用いる目標プロペラ回転数マップである。
【図7】本変形例に係るオイル希釈抑制制御の手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0079】
1 内燃機関
2 燃料供給装置
3 内燃機関本体
4 弁装置
5 吸気経路
6 排気経路
7 機関ECU
8 内燃機関の潤滑装置
11 シリンダヘッドカバー
29 アルコール濃度センサ
30 気筒
30B 気筒内燃焼空間
31 シリンダブロック
32C クランクケース
32H シリンダヘッド
33 ピストン
34 コネクティングロッド
35 クランク軸
36 点火プラグ
65 冷却水温度センサ
72 処理部
73 記憶部
74 制御条件判定部
75 オイル圧力設定部
76 オイル戻し制御部
77 攪拌手段駆動条件設定部
78 攪拌手段駆動制御部
80 オイルパン
81 オイルポンプ
84 メインオイルホール
85 リリーフ弁
86 オイルストレーナー
89 オイル圧力センサ
90 目標オイル圧力設定マップ
91 駆動開始温度設定マップ
92 目標プロペラ回転数設定マップ
100 プロペラ
101 電動機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイル供給手段から供給され、内燃機関の摺動部を潤滑したオイルを溜めるオイル溜めと、
前記内燃機関に供給される燃料のアルコール濃度が高くなるにしたがって、前記オイル溜めのオイルを攪拌する強さを増加させるオイル攪拌手段と、
を含むことを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
前記オイル攪拌手段は、前記内燃機関の前記摺動部へオイルを分配するオイル通路から前記オイル溜めに前記オイルを戻すことにより、前記オイルを攪拌することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記オイル攪拌手段は、前記内燃機関に供給される燃料のアルコール濃度が高くなるにしたがって、前記オイル溜めに戻される前記オイルの量を増加させることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関。
【請求項4】
前記オイル攪拌手段は、前記オイル通路と前記オイル溜めとの間に設けられる弁装置であり、この弁装置の開弁時間を変更することにより前記オイル溜めに戻される前記オイルの量を変更することを特徴とする請求項2又は3に記載の内燃機関。
【請求項5】
前記弁装置は、前記内燃機関に供給される燃料のアルコール濃度が高くなるにしたがって、開弁時間の割合を大きくすることを特徴とする請求項4に記載の内燃機関。
【請求項6】
前記オイル攪拌手段は、前記オイルの温度に基づいて、前記オイル溜めに戻される前記オイルの量を変更することを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載の内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−30447(P2009−30447A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−192304(P2007−192304)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】