説明

円筒管内周面へのフッ素樹脂被膜の形成方法及び該方法により得られる内周面フッ素樹脂被覆円筒管

【課題】 種々の径の円筒管の内周面へフッ素樹脂被膜を均一且つ容易に形成することができるとともに、被膜形成対象となる円筒管の回転を不要とするフッ素樹脂被膜の形成方法及び該方法により得られる内周面フッ素樹脂被覆円筒管を提供すること。
【解決手段】 円筒管内周面にフッ素樹脂被膜を形成する方法であって、フッ素樹脂からなる熱膨張性チューブをその両端が該円筒管から突出するように該円筒管に挿通し、前記熱膨張性チューブが挿通された該円筒管の両端を被覆体で被覆して前記フッ素樹脂の融点未満の温度で加熱し、冷却した後に前記被覆体を取り外し、更に前記融点以上の温度で加熱し、該チューブを前記円筒管内周面に融着固定して被膜形成することを特徴とする円筒管内周面へのフッ素樹脂被膜の形成方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒管内周面へのフッ素樹脂被膜の形成方法及び該方法により得られる内周面フッ素樹脂被覆円筒管に関し、より詳しくは、フッ素樹脂からなる熱膨張性チューブを円筒管内周面に融着固定させて被膜とする被膜形成方法及びこの方法により得られる内周面フッ素樹脂被覆円筒管に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、酸やアルカリ等の腐食性流体と接触する配管やタンク等の収容体、反応器等には、その接触面に耐食性を付与するためにフッ素樹脂コーティングが施される。
高い耐食性と強度が要求される配管、特に、ステンレス鋼等の金属製の配管において、その配管の内周面に対してフッ素樹脂被膜を形成する方法が多く検討されており、下記特許文献にその技術が開示されている。
【0003】
特許文献1には、金属管内に合成樹脂被膜を形成する方法であって、熱膨張性の合成樹脂管を被膜形成対象となる金属管内に挿通し、加熱することで合成樹脂管を軟化させて金属管内周面に密着固定する技術が開示されている。
【0004】
この技術は、両端部が閉塞された合成樹脂管を金属管に挿通して加熱し、合成樹脂管内に存在する空気の熱膨張を利用して合成樹脂管を膨張させ、金属管内周面に合成樹脂管を密着固定しようとするものである。使用される合成樹脂管の外周面には予め接着剤が塗布されており、これにより金属管との密着性を高めようとするものである。
【0005】
しかしながらこの方法は、金属管への挿通前に合成樹脂管の両端部を閉塞する工程や合成樹脂管の外周面に接着剤を塗布する工程が必須となるため、効率的ではなかった。また、合成樹脂管の外周面への接着剤塗布工程において、均一に接着剤が塗布されなければ高い密着性を得ることはできないという問題があった。
【0006】
特許文献2には、接着剤を使用せずに金属管の内周面にフッ素樹脂被膜を形成する方法が開示されている。特許文献2に記載される方法は、フッ素樹脂の熱融着性と熱膨張性を利用して円筒管の内周面にフッ素樹脂被膜を形成するものである。具体的には、フッ素樹脂からなるチューブを金属管に挿通した後に加熱し、フッ素樹脂を融着して被膜とするものである。
【0007】
特許文献2の開示技術では、被膜形成対象となる金属管と略同じ長さのフッ素樹脂チューブが用いられる。また、このチューブの外径と金属管の内径は略同じとされ、金属管の内周面にフッ素樹脂チューブを予め密着させた状態で融点以上の温度で加熱処理が施される。この加熱処理時のフッ素樹脂の熱膨張を利用して金属管の内周面にフッ素樹脂チューブを圧着し、強度の高いフッ素樹脂被膜を得ようとするものである。
【0008】
しかしこの方法では、金属管の長さと金属管に挿通されるフッ素樹脂チューブの長さが略同じであるため、加熱によりフッ素樹脂が長さ方向に収縮して金属管の端部まで被膜形成することができず、金属管全体に亘って均一な膜厚の被膜を形成することができなかった。
更に、流動性の増加したフッ素樹脂が自重によって金属管の下方に垂れるため、フッ素樹脂からなるチューブを挿通した金属管を回転させながら加熱処理を施す必要があり、回転のための大掛かりな装置を要するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−99495号公報
【特許文献2】特開2001−121606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記した問題点を解決するためになされたものであって、種々の径の円筒管の内周面へフッ素樹脂被膜を均一且つ容易に形成することができるとともに、被膜形成対象となる円筒管の回転を不要とするフッ素樹脂被膜の形成方法及び該方法により得られる内周面フッ素樹脂被覆円筒管の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、円筒管内周面にフッ素樹脂被膜を形成する方法であって、フッ素樹脂からなる熱膨張性チューブをその両端が該円筒管から突出するように該円筒管に挿通し、前記熱膨張性チューブが挿通された該円筒管の両端を被覆体で被覆して前記フッ素樹脂の融点未満の温度で加熱し、冷却した後に前記被覆体を取り外し、更に前記融点以上の温度で加熱し、該チューブを前記円筒管内周面に融着固定して被膜形成することを特徴とする円筒管内周面へのフッ素樹脂被膜の形成方法に関する。
【0012】
請求項2に係る発明は、前記熱膨張性チューブの厚みが前記円筒管内径に対して1.65〜3.2%であることを特徴とする請求項1記載の円筒管内周面へのフッ素樹脂被膜の形成方法に関する。
【0013】
請求項3に係る発明は、前記円筒管及び前記被覆体が同じ材質からなることを特徴とする請求項1又は2記載の円筒管内周面へのフッ素樹脂被膜の形成方法に関する。
【0014】
請求項4に係る発明は、前記熱膨張性チューブを前記円筒管に挿通する前に、該円筒管内周面にプライマー層を形成することを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載の円筒管内周面へのフッ素樹脂被膜の形成方法に関する。
【0015】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4いずれかに記載のフッ素樹脂被膜の形成方法により得られることを特徴とする内周面フッ素樹脂被覆円筒管に関する。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明によれば、フッ素樹脂からなる熱膨張性チューブをその両端が円筒管から突出するように挿通し、熱膨張性チューブが挿通された円筒管の両端を被覆体で被覆してフッ素樹脂の融点未満の温度で加熱するため、熱膨張性チューブへの熱伝導を全長に亘って均等にすることができる。従って、円筒管内周面へ均一に熱膨張性チューブを膨張させることができる。熱膨張性チューブを膨張させた後に冷却し、被覆体を取り外し、更にフッ素樹脂の融点以上の温度で加熱することにより、円筒管内周面全体に亘って均一な膜厚で且つ強固なフッ素樹脂被膜を形成することが可能となる。
【0017】
請求項2に係る発明によれば、熱膨張性チューブの厚みが円筒管内径に対して1.65〜3.2%であるため、加熱時において流動性の増したフッ素樹脂の自重による垂れ下がりを防ぐことができる。そのため、被膜形成対象である円筒管を回転させることなく、種々の径の円筒管において、その内周面に均一な膜厚のフッ素樹脂被膜を形成することができる。
【0018】
請求項3に係る発明によれば、円筒管と被覆体が同じ材質からなるため、熱膨張性チューブへのより均等な熱伝導が可能となる。
【0019】
請求項4に係る発明によれば、熱膨張性チューブを円筒管に挿通する前に円筒管内周面にプライマー層が形成され、熱膨張性チューブが融着固定されるため、より強固に円筒管と熱膨張性チューブとを固定することができ、強度の高いフッ素樹脂被膜とすることができる。
【0020】
請求項5に係る発明によれば、内周面フッ素樹脂被覆円筒管が請求項1乃至4いずれかに記載のフッ素樹脂被膜の形成方法によって得られるため、円筒管の内周面全体に亘って均一な膜厚のフッ素樹脂被膜を有する円筒管とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る被膜形成方法に用いられる円筒管、熱膨張性チューブ、被覆体の被膜形成前の概略断面図である。
【図2】本発明に係る被膜形成方法に用いられる円筒管、熱膨張性チューブ、被覆体の被膜形成後の概略断面図である。
【図3】本発明に係る被膜形成方法によって得られるフッ素樹脂被膜が形成された円筒管の概略断面図であって、(a)は円筒管長さ方向の断面図であり、(b)は円筒管径方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係るフッ素樹脂被膜の形成方法について詳述する。
図1は、本発明に係る被膜形成方法に用いられる円筒管、熱膨張性チューブ、被覆体の被膜形成前の概略断面図である。
本発明に係るフッ素樹脂被膜の形成方法には、被膜形成対象となる円筒管(1)と、フッ素樹脂被膜を形成するフッ素樹脂からなる熱膨張性チューブ(2)と、被膜形成の際の加熱時に円筒管(1)と熱膨張性チューブ(2)の両端部を被覆する被覆体(3)とが用いられる。
【0023】
本発明に係るフッ素樹脂被膜の形成方法では、先ず円筒管(1)に熱膨張性チューブ(2)をその両端が突出するように挿通し、被覆体(3)を用いて円筒管(1)と熱膨張性チューブ(2)の両端部を被覆する(図1参照)。
被覆体(3)は一端が開放しており、他端が閉塞した円筒管である。
次いで、被覆体(3)を用いて円筒管(1)と熱膨張性チューブ(2)の両端部を被覆した状態(図1参照)で加熱手段(図示略)を用いてフッ素樹脂の融点未満の温度で全体を加熱する。加熱手段は特に限定されないが、加熱炉(例えば電気炉やガス炉)が使用される。
加熱することで熱膨張性チューブ(2)を構成するフッ素樹脂の熱膨張性チューブ(2)はチューブの径方向に膨張し、長さ方向に収縮する(図2参照)。チューブの径方向に膨張することで熱膨張性チューブ(2)の外周面が円筒管(1)の内周面に押し付けられて密着することとなる。円筒管(1)の内周面に熱膨張性チューブ(2)を密着させた後に冷却して被覆体(3)を取り外し、更に円筒管(1)及び熱膨張性チューブ(2)を前記融点以上に加熱すると熱膨張性チューブ(2)が円筒管(1)の内周面に融着され、円筒管(1)の内周面にフッ素樹脂被膜が形成される。
【0024】
ここで、円筒管(1)の全長をLとし、外径をL1OD、内径をL1IDとすると、円筒管(1)及び熱膨張性チューブ(2)を被覆する被覆体(3)の外径(L2OD)及び内径(L2ID)は下式(数1)で表される。
【0025】
【数1】

【0026】
被覆体(3)の内径(L2ID)は円筒管(1)の外径(L1OD)よりも大きければ(L1OD<L2ID)特に限定されないが、円筒管(1)の外径(L1OD)に対してL1OD<L2ID≦L1OD×1.05の範囲であることが望ましい。
被覆体(3)の内径(L2ID)を円筒管(1)の外径(L1OD)の1.05倍以下とすることで、加熱の際の熱を逃がすことなく、効率的に円筒管(1)と熱膨張性チューブ(2)を加熱することができ、熱膨張性チューブ(2)の不均等な膨張を防ぐことができ円筒管(1)内周面への密着性を高めることができるが、1.05倍を超える径であると効率的な加熱が困難となり、熱膨張性チューブ(2)が不均等に膨張するとともに、円筒管(1)内周面への十分な密着性を得ることができないため好ましくない。
【0027】
また、長さLの被覆体(3)が被覆する部分の円筒管(1)の長さをα、円筒管(1)及び熱膨張性チューブ(2)の両端を被覆した際の全体の長さをLとすると、下式(数2)の関係となる。
【0028】
【数2】

【0029】
更に、被覆体(3)によって被覆される部分の円筒管(1)の長さ(α)は、L1OD×2≦α≦L/2であることが望ましい。被覆体(3)によって被覆される円筒管(1)の長さを上記した範囲とすることで、加熱途中で被覆体(3)が脱落することなく熱膨張性チューブ(2)の突出部分と円筒管(1)内にある部分との熱伝導を均等に保ちながら熱膨張性チューブ(2)を加熱することが可能となる。
被覆される部分の円筒管(1)の長さ(α)がL1OD×2より短いと加熱途中で被覆体(3)が脱落する虞があるため好ましくない。一方、円筒管(1)の長さはLであるので、被覆される部分の長さ(α)はL/2を超えることがない。
【0030】
また、被覆体(3)の厚さ(β)は、円筒管(1)と略同じかもしくは厚くすることが好ましい。厚さ(β)が薄すぎると、被覆体(3)の強度が低下するとともに、熱膨張性チューブ(2)の突出部分への熱伝導が大きくなり、円筒管(1)内の部分よりも先に径方向に膨張することとなる。そのため、熱膨張性チューブ(2)の長さ方向への収縮の妨げとなり、均一に熱膨張性チューブ(2)を膨張させることができないため好ましくない。
【0031】
本発明において、熱膨張性チューブ(2)の長さは適宜調節されるが、フッ素樹脂被膜の形成対象である円筒管(1)よりも長く、円筒管(1)に挿通した際に両端が円筒管(1)から突出する長さである。
加熱時において、熱膨張性チューブ(2)は径方向に膨張し、長さ方向に収縮する。従って、熱膨張性チューブ(2)の長さが円筒管(1)の長さと同じかそれよりも短いと熱膨張性チューブ(2)の長さ方向の収縮により、円筒管(1)の内周面全体に亘ってフッ素樹脂被膜を形成することができず、一方、円筒管(1)よりも極端に長いと円筒管(1)の内周面全体に亘って被膜形成が可能となるが、被膜形成に供されないフッ素樹脂が多くなり被膜形成後における切断、研削、研磨等の作業効率が低下するため、いずれの場合も好ましくない。
従って、熱膨張性チューブ(2)の長さをLとすると、L×1.5≦L≦L×1.75の長さの範囲であることが好ましい。
【0032】
また、加熱処理を施す前の熱膨張性チューブ(2)の外径は円筒管(1)の内径(L1ID)に対して70〜95%であることが好ましく、80〜90%であることがより好ましい。
外径が70%未満であると、熱膨張性チューブ(2)が膨張した際に、その外周面が円筒管(1)の内周面に十分に密着させることができず、熱膨張性チューブ(2)を円筒管(1)の内周面に融着させたとしても被膜としての強度を得ることができず、一方、95%を超えてもそれ以上の強度は得られず、円筒管(1)への挿通が困難となるためいずれの場合も好ましくない。
【0033】
更に、熱膨張性チューブ(2)の厚みは、円筒管(1)の内径(L1ID)に対して、1.65〜3.2%の厚さであることが好ましく、2〜3%であることがより好ましい。熱膨張性チューブ(2)の厚みを上記した範囲の厚さとすることで、加熱時に円筒管(1)を回転させることなく、十分な厚さで且つ均一なフッ素樹脂被膜を形成することができる。
1.65%未満であると、円筒管(1)内周面に熱膨張性チューブ(2)を十分に密着させることが困難となり、3.2%を超えると、加熱膨張時に熱膨張性チューブ(2)が発泡する虞がある。また、流動性の増したフッ素樹脂が自重によって垂れる虞があり、円筒管(1)を回転させなければ円筒管(1)内周面に被膜を形成することが困難となるため、いずれの場合も好ましくない。
【0034】
本発明に係るフッ素樹脂被膜の形成方法において、被膜の形成対象である円筒管(1)は、円筒状であれば特に限定されず、その材質はステンレス鋼や炭素鋼等の金属、ガラス、合成樹脂等が挙げられ、いずれの材質においてもフッ素樹脂被膜を形成することができ、特に、ステンレス鋼等の金属が好適である。フッ素樹脂被膜を形成することで上記した材質の円筒管に耐食性、耐熱性、防汚性等の特性を付与することができる。
本発明においては熱膨張性チューブ(2)の厚さを1.65〜3.2%に設定することにより、上述した加熱工程において、円筒管(1)を回転させる操作が不要となる。
【0035】
熱膨張性チューブ(2)に用いられるフッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)等が挙げられる。
【0036】
熱膨張性チューブ(2)の径方向の膨張率は、加熱前の熱膨張性チューブ(2)の外径に対して105〜150%であることが望ましい。径方向の膨張率が上記した範囲であると、円筒管(1)の内周面へのフッ素樹脂被膜の形成において十分な径方向の熱膨張性と流動性を得ることができ、クラック等の欠陥を生じることなく被膜形成されることとなる。
本発明においては、上記したフッ素樹脂の中でも特にETFEが好適に用いられる。
【0037】
円筒管(1)と熱膨張性チューブ(2)の両端部を被覆した状態での加熱温度(T)は使用するフ素樹脂の融点(M)未満であることが望ましく、好ましくはM−100℃<T≦Mの温度範囲である。
加熱温度(T)がM−100℃未満であると、熱膨張性チューブ(2)を十分に膨張させて円筒管(1)の内周面に密着させることができず、一方、加熱温度(T)が融点(M)を超えると熱膨張性チューブ(2)を十分に膨張させることができるが、
流動性が高くなりすぎるため、この場合も円筒管(1)の内周面に密着させることができず、いずれの場合も好ましくない。
【0038】
被覆体(3)に用いられる材質は、特に限定されず、ステンレス鋼や炭素鋼等の金属、ガラス、合成樹脂等が挙げられるが、円筒管(1)と同じ材質であることが好ましい。そうすることで、熱膨張性チューブ(2)の被覆体(3)により被覆された円筒管(1)から突出した部分と円筒管(1)内部の部分との熱伝導を等しくすることが可能となる。
【0039】
熱膨張性チューブ(2)を加熱により膨張させて円筒管(1)の内周面に密着させ、冷却した後に被覆体(3)が取り外される。
被覆体(3)を取り外した後に、更に円筒管(1)及び熱膨張性チューブ(2)は、使用するフッ素樹脂の融点(M)以上の温度で加熱されて、密着状態の熱膨張性チューブ(2)が円筒管(1)の内周面に融着されてフッ素樹脂被膜が形成される(図3参照)。
【0040】
被覆体(3)を取り外した状態での加熱温度(T)は、上記したように使用するフッ素樹脂の融点(M)以上であることが望ましく、好ましくはM≦T<M+100℃の温度範囲である。
加熱温度(T)が融点(M)未満であると、熱膨張性チューブ(2)を円筒管(1)の内周面に十分に融着させることができず、一方、加熱温度(T)がM+100℃を超えるとフッ素樹脂が融解して自重で垂れて被膜が形成されない虞があり、いずれの場合も好ましくない。
【0041】
円筒管(1)内周面への被膜形成後、円筒管(1)の両端から突出して残存する熱膨張性チューブ(2)は切断、研削、研磨等の処理を施して除去する。
この除去作業は、被覆体(3)を取り外して熱膨張性チューブ(2)を円筒管(1)の内周面に加熱融着する前にも行ってもよいが、熱膨張性チューブ(2)の端部を例えば2〜2.5cm程度突出して残るように切断することが好ましい。そうすることで加熱融着の際に、円筒管(1)の端部まで均一な被膜を形成することができるとともに、被膜形成後における突出して残存する熱膨張性チューブ(2)の除去(切断、研削、研磨等)作業を簡便にすることができる。
【0042】
本発明において、熱膨張性チューブ(2)を円筒管(1)に挿通する前に、円筒管(1)の内周面に予めプライマー層を形成してもよい(図示せず)。プライマー層を円筒管(1)内周面に形成した後に熱膨張性チューブ(2)を円筒管(1)に挿通し、熱膨張性チューブ(2)が挿通された円筒管(1)の両端を被覆体(3)で被覆し加熱することで、より強固に円筒管(1)の内周面と熱膨張性チューブ(2)とを固定することができる。
プライマー層としては例えば、フッ素樹脂と有機チタネートとを含有するものやシ
ランカップリング剤等が挙げられる。
【0043】
本発明に係るフッ素樹脂被膜の形成方法により被膜が施された円筒管は、耐食性、耐熱性を有しているため、酸やアルカリ等の腐食性流体が流通する配管、例えば腐食性流体を処理する熱交換器の配管等に好適に利用される。
【実施例】
【0044】
以下、本発明に係るフッ素樹脂被膜の形成方法に関する実施例及び比較例を示すことにより、本発明の効果をより明確なものとする。
但し、本発明は下記実施例には限定されない。
【0045】
<フッ素樹脂被膜の円筒管内周面への形成>
円筒管の内周面をアセトンにて脱脂した後、プライマーを3回流し込んだ後に、ガス炉にて150℃、30分乾燥処理を施した。
乾燥後、円筒管に熱膨張性チューブ(ETFE)を挿通し、その両端を被覆体(SUS304製)で被覆した。被覆体によって被覆した円筒管及び熱膨張性チューブをガス炉にて200℃で加熱した。
冷却した後、被覆体を取り外し、突出している熱膨張性チューブの両端を2〜2.5cm残して切除し、更にガス炉にて280℃、60分加熱処理を施した。加熱処理の後、冷却して突出して残存する熱膨張性チューブの両端を切除してフッ素樹脂被膜が内周面に形成された円筒管を得た。
円筒管は、(A)SUS304TPパイプ,内径25.4mm,厚さ1.2mmと、(B)SUS304TPパイプ,内径25.4mm,厚さ1.6mmの2種類を使用した。パイプの長さは、(A)、(B)夫々において700mm及び1200mmのものを使用した。
また熱膨張性チューブは、(a)外径19.9〜20.0mmと、(b)外径19.0〜19.3mmの2種類を使用した。熱膨張性チューブの長さは、(a)、(b)夫々において1000mm及び1800mmのものを使用した。
以下に示す組み合わせで円筒管内周面にフッ素樹脂被膜を形成した。
【0046】
【表1】

【0047】
また、表1に示す組み合わせにおいて、被覆体で円筒管及び熱膨張性チューブの両端を被覆せずに加熱処理を施したものについても評価した。
(A)を使用した場合の被膜の評価を表2に、(B)を使用した場合の被膜の評価を表3に示す。
尚、評価は形成された被膜を目視観察し、以下の基準で判定した。
○:被膜の浮き、クラック、発泡痕のいずれも見られない。
△:被膜の浮き、クラック、発泡痕のいずれかがごく僅か見られる。
×:被膜の浮き、クラック、発泡痕のいずれかもしくは複数が見られる。
【0048】
【表2】

<内周面フッ素樹脂被覆円筒管の評価1>
【0049】
円筒管長さが700mmの場合、加熱処理時に被覆体を使用したものについては、円筒管内径に対するチューブの厚みが1.43%のもので若干被膜の浮きが見られたが、その他は円筒管内周面からの被膜の浮き上がりもなく、またクラックや発泡痕の生じない良好な被膜が得られた。一方、被覆体を使用しなかったものについては、チューブの厚みが薄いもので被膜の浮きが確認され、チューブの厚みが厚いもので被膜にクラックの発生が確認された。
また、円筒管長さが1200mmの場合、加熱処理時に被覆体を使用したものについては、チューブの厚みが薄いもの(1.43%)と、厚いもの(3.65%、4.00%、4.57%)とで被膜形成が困難であったが、この他は被膜の浮き、クラック、発泡痕のいずれも発生しない良好な被膜を得ることができた。これに対して、被覆体を使用しなかったものについては、被覆体を使用した場合に良好な被膜を得ることができたチューブ厚み(2.17%、2.39%、2.74%)であっても、被膜の形成が困難であった。
【0050】
【表3】

<内周面フッ素樹脂被覆円筒管の評価2>
【0051】
円筒管長さが700mmの場合、加熱処理時に被覆体を使用したものについては、全てのチューブ厚みにおいて良好な被膜を得ることができ、円筒管内周面からの被膜の浮き上がりやクラック、発泡痕が発生しないことが確認された。一方、被覆体を使用しなかったものについては、特定の一部の厚みで被膜形成が可能なことが確認されたものの、殆どの厚みで被膜の浮きが確認され、被膜形成が困難であることがわかった。
また、円筒管長さが1200mmの場合、加熱処理時に被覆体を使用したものについては、チューブの厚みが薄いもの(1.53%)と、厚いもの(3.69%、4.28%、4.73%)とで被膜形成が困難であったが、この他は被膜の浮き、クラック、発泡痕のいずれも発生しない良好な被膜を得ることができた。これに対して、被覆体を使用しなかったものについては、被覆体を使用した場合に良好な被膜を得ることができたチューブ厚み(2.21%、2.39%、2.84%)であっても、被膜の形成が困難であった。
【0052】
表2及び3の結果より、加熱処理時に被覆体を使用すると円筒管長さが短いものについては、チューブの厚みに関わらず良好な被膜を形成でき、円筒管長さが長いものについては特定のチューブの厚みの時に良好な被膜を形成できることがわかった。一方、被覆体を使用せずに加熱処理を施すと、円筒管の長さが短いものについては特定のチューブの厚みでのみ良好な被膜を形成できるが、円筒管の長さが長くなると被膜形成が困難となることが明らかとなった。
また、円筒管の長さが長く(1200mm)なると、被覆体を使用し且つチューブの厚みが特定の範囲(1.65〜3.2%)である場合のみ、良好な被膜が得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明に係るフッ素樹脂被膜の形成方法は、腐食性流体が流通する配管内面へのフッ素樹脂被膜の形成に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 円筒管
2 熱膨張性チューブ
21 フッ素樹脂被膜
3 被覆体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒管内周面にフッ素樹脂被膜を形成する方法であって、フッ素樹脂からなる熱膨張性チューブをその両端が該円筒管から突出するように該円筒管に挿通し、前記熱膨張性チューブが挿通された該円筒管の両端を被覆体で被覆して前記フッ素樹脂の融点未満の温度で加熱し、冷却した後に前記被覆体を取り外し、更に前記融点以上の温度で加熱し、該チューブを前記円筒管内周面に融着固定して被膜形成することを特徴とする円筒管内周面へのフッ素樹脂被膜の形成方法。
【請求項2】
前記熱膨張性チューブの厚みが前記円筒管内径に対して1.65〜3.2%であることを特徴とする請求項1記載の円筒管内周面へのフッ素樹脂被膜の形成方法。
【請求項3】
前記円筒管及び前記被覆体が同じ材質からなることを特徴とする請求項1又は2記載の円筒管内周面へのフッ素樹脂被膜の形成方法。
【請求項4】
前記熱膨張性チューブを前記円筒管に挿通する前に、該円筒管内周面にプライマー層を形成することを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の円筒管内周面へのフッ素樹脂被膜の形成方法。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれかに記載のフッ素樹脂被膜の形成方法により得られることを特徴とする内周面フッ素樹脂被覆円筒管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−104822(P2011−104822A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260504(P2009−260504)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(391065448)日本フッソ工業株式会社 (17)
【Fターム(参考)】