説明

冷却システム、およびその冷媒の充填方法並びに排出方法

【課題】サーモスタット側方の冷媒路内に空気溜りが生じ難い冷却システム、およびこの冷却システムにおける冷媒の充填方法並びに排出方法を提供する。
【解決手段】冷却システムは、被冷却体とラジエータとの間の冷媒路に設けられ、冷媒の温度に応じて弁体が開閉して冷媒の循環を制御するサーモスタットを備えた冷却システムであって、サーモスタット10は、ジグルバルブ22を有しており、冷媒の充填時にジグルバルブ22を通じて空気が抜ける側となる、ジグルバルブ22側方の冷媒路壁には、ジグルバルブ22よりも高い位置に空気溜り部12が形成されており、空気溜り部12には、冷媒の充填時に溜まった空気を排出するための空気抜き孔13が設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却システム、およびその冷媒の充填方法並びに排出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、水素(燃料ガス、反応ガス)がアノードに、酸素を含む空気(酸化剤ガス、反応ガス)がカソードに、それぞれ供給されることで発電する固体高分子型燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell:PEFC)等の燃料電池の開発が盛んである。このような燃料電池を用いたシステムでは、燃料電池スタックを冷却するためにラジエータを用いた冷却システムが用いられている(例えば、特許文献1参照)。
この冷却システムでは、燃料電池スタックに導入する冷媒としての冷却水の温度を制御できるように、冷却水が通流する冷媒路中にサーモスタットが設けられており、燃料電池スタックの温度が低い状態では、サーモスタットのバルブが閉じられることによって、冷却水がラジエータを経由せずにバイパス通路を介して循環されるように制御され、また、冷却水の温度が高くなった場合には、サーモスタットのバルブが開いて、冷却水がラジエータを通して循環されることで、冷却水の温度を所望の状態に制御することができるようになっている。
【0003】
ところで、このようなサーモスタットを備えた冷却システムにおいて、サーモスタットのバルブと並列にジグルバルブが設けられたものが知られている。ジグルバルブは、冷却水の充填時に冷媒路に溜まった空気を抜くためのものであり、一般的に、開閉弁の取付フランジ部に設けられた空気抜き用の通路を開閉するように設けられている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2006−342767号公報
【特許文献2】特開平11−229877号公報
【特許文献3】特開平9−13967号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記した従来の冷却システムでは、ジグルバルブを用いて冷媒路に溜まった空気を抜くようにしている。しかしながら、ジグルバルブは、一般的にバルブの取付フランジ部に設けられているため、冷媒路のレイアウト等や冷媒路に対するサーモスタットの取付姿勢(取付態様)によっては、ジグルバルブを通じて抜けた空気が、サーモスタット側方の冷媒路内に溜まって空気溜りを生じることがあり、そのような場合には、溜まった空気を充填時に完全に抜くことができないという難点があった。
【0006】
また、冷却システムにおいて冷媒を排出する際に、効率よく排出することのできる技術の提供が望まれていた。
【0007】
そこで、本発明は、サーモスタット側方の冷媒路内に空気溜りが生じ難い冷却システム、およびこの冷却システムにおける冷媒の充填方法並びに排出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の冷却システムは、被冷却体とラジエータとの間の冷媒路に設けられ、冷媒の温度に応じて弁体が開閉して冷媒の循環を制御するサーモスタットを備えた冷却システムであって、前記サーモスタットは、ジグルバルブを有しており、冷媒の充填時に前記ジグルバルブを通じて空気が抜ける側となる、前記ジグルバルブ側方の冷媒路壁には、前記ジグルバルブよりも高い位置に空気溜り部が形成されており、前記空気溜り部には、冷媒の充填時に溜まった空気を排出するための空気抜き孔が設けられていることを特徴とする。
【0009】
この冷却システムによれば、サーモスタットの側方部位における冷媒路壁には、ジグルバルブよりも高い位置に空気溜り部が形成されているので、例えば、冷媒としての冷却水等の充填時にジグルバルブを通じて抜けた空気をこの空気溜り部に溜めることができ、ジグルバルブを通じて確実な空気抜きを行うことができる。そして、空気溜り部には、充填時に溜まった空気を排出するための空気抜き孔が設けられているので、この空気抜き孔を通じて空気溜り部に溜まった空気を排出することができ、サーモスタットの周りにおける冷媒路に空気が残留するのを確実に阻止することができる。
これにより、冷却水の変動量を減少することができ、冷却水を貯留するリザーブタンクの小型化も可能になる。
【0010】
したがって、このような冷却システムを、燃料電池システムの冷却系に用いた場合には、冷媒としての冷却水等の充填時にサーモスタットの周りに設けられる冷媒路内の空気を好適に排出することができるようになり、そのことによって燃料電池の好適な冷却が実現されて、耐久性、信頼性に優れた燃料電池システムが得られる。
【0011】
また、前記空気溜り部は、前記サーモスタットを収容する収容ケースの一部を上方へ膨出形成することによって設けられている構成とするのがよい。このように構成することによって、サーモスタットの側方部位に空気溜り部を容易に配置することができる。
【0012】
また、前記空気抜き孔は、前記空気溜り部の最上部に位置している構成とするのがよい。このような構成とすることによって、空気溜り部に溜まった空気をスムーズに排出することができ、より一層確実な空気抜きを行うことができる。
【0013】
また、前記空気抜き孔には、大気側に通じる空気抜き管が接続されている構成とするのがよい。このような構成とすることによって、空気抜き管を通じ、大気側にスムーズに空気を排出することができる。ところで、空気抜きを行う際には、空気抜き管内が冷媒で満たされるように、つまり、空気抜き管を通じて冷媒が排出されるようにすることで、空気抜き管を通じた空気の排出を確実に行うことができる。
【0014】
また、前記空気抜き管は、その管路に空気抜き弁を備える構成とするのがよい。このような構成とすることによって、空気抜き管の管路を空気抜き弁によって開閉することができ、開弁状態にすることによって管路を大気側へ連通することができる。これにより、空気や冷媒を容易に排出することができる。また、閉弁状態にすることによって、大気側への連通を遮断することができ、空気抜き後に、空気抜き管を通じて冷媒路に空気が混入するのを容易に阻止することができる。
【0015】
また、本発明の冷却システムにおける冷媒の充填方法は、前記空気抜き孔に、大気側に通じる空気抜き管が接続された冷却システム、または、空気抜き管の管路に空気抜き弁を備える冷却システムにおいて、前記冷媒路に冷媒を充填しながら、前記ジグルバルブを通じて前記空気溜り部側に空気を抜くステップと、前記空気溜り部に溜まった空気を前記空気抜き孔から前記空気抜き管を通じて抜きつつ、前記空気抜き管内を冷媒で満たすステップと、を備えたことを特徴とする。
【0016】
この冷媒の充填方法によれば、空気を抜くステップにより、冷媒路に冷媒を充填しながら、ジグルバルブを通じて空気溜り部側に空気が抜かれ、冷媒で満たすステップにより、空気溜り部に溜まった空気が空気抜き孔から空気抜き管を通じて排出され、空気抜き管内が冷媒で満たされる。つまり、冷媒の充填時には、冷媒を充填しながら空気抜き管を通じて冷媒路内の空気を好適に抜くことができ、空気抜き管から冷媒が出てきて空気抜き管が冷媒で満たされる状態となったら、空気抜きが完了して冷媒路が冷媒で満たされ、冷媒の充填が完了したことを確認することができる。
したがって、冷媒路が冷媒で満たされたことを容易に確認することができ、空気抜きを伴う冷媒の充填作業を容易に行うことができる。
また、空気抜き管の管路に空気抜き弁を備える冷却システムにおいては、冷媒の充填時に、開弁状態にすることによって、冷媒路内の空気を空気抜き管を通じて好適に抜くことができる。また、空気抜き管から冷媒が出てきて空気抜き管が冷媒で満たされる状態となったら、閉弁状態にすることによって、空気抜き管を大気側から遮断しつつ冷媒路に空気が混入するのを好適に防止することができる。
【0017】
したがって、このような冷媒の充填方法により、燃料電池システムの冷却系に冷媒としての冷却水等を充填した場合には、冷却水の充填時にサーモスタットの周りに設けられる冷媒路内の空気を好適に排出することができるようになり、燃料電池の好適な冷却が実現されて、耐久性、信頼性に優れた燃料電池システムが得られる。
【0018】
また、本発明の冷却システムにおける冷媒の排出方法は、前記空気抜き管の管路に空気抜き弁を備える冷却システムにおいて、前記冷媒路は、当該冷媒路内に充填された冷媒を抜くためのドレン弁を備えており、前記ドレン弁を開弁して冷媒を排出する際に、前記空気抜き弁を開弁することを特徴とする。
【0019】
この冷媒の排出方法によれば、ドレン弁を開弁して冷媒を排出する際に、空気抜き弁を開弁することで、空気抜き弁を通じて空気抜き管から冷媒路に大気圧が作用するようになり、その結果、ドレン弁を通じて冷媒が好適に排出されるようになる。つまり、冷媒の排出時には、大気圧を利用した冷媒の排出が可能となり、冷媒のスムーズな排出を実現することができる。
したがって、冷媒の排出作業が容易であり、また、冷媒排出の作業時間の短縮を図ることも可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、サーモスタット側方の冷媒路内に空気溜りが生じ難い冷却システム、およびこの冷却システムにおける冷媒の充填方法並びに排出方法が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を適宜図面を参照しながら説明する。
以下では、燃料電池システムに適用される冷却システム、およびその冷媒の充填方法並びに排出方法について説明するが、冷却システムおよびその冷媒の充填方法並びに排出方法が適用される装置等を限定する趣旨ではない。
【0022】
(第1実施形態)
はじめに本実施形態の冷却システムが適用される燃料電池システムについて説明する。
図1において、本実施形態の冷却システムが適用される燃料電池システム1は、図示しない燃料電池自動車(移動体)に搭載されている。燃料電池システム1は、被冷却体としての燃料電池スタック2と、燃料電池スタック2のアノードに対して水素(燃料ガス、反応ガス)を給排するアノード系と、燃料電池スタック2のカソードに対して酸素を含む空気(酸化剤ガス、反応ガス)を給排するカソード系と、を備えている。
【0023】
燃料電池スタック2は、複数(例えば200〜400枚)の固体高分子型の単セルが積層されることで構成されたスタックであり、複数の単セルは電気的に直列で接続されている。単セルは、MEA(Membrane Electrode Assembly:膜電極接合体)と、これを挟み2枚の導電性を有するアノードセパレータおよびカソードセパレータと、を備えている。
このような燃料電池スタック2には駆動用のモータMが接続されている。
【0024】
燃料電池スタック2の内部には冷媒としての冷却水が流れる冷媒通路2aが形成され、この冷媒通路2aには、燃料電池スタック2に冷却水を循環させながら供給する冷媒循環手段3が接続される。なお、冷却水としては、例えば、ロングライフクーラント等の冷却水を使用することができる。なお、以下の説明で「上流」、「下流」というときは、冷却水の流れる方向を基準としている。
【0025】
冷媒循環手段3は、冷却水を燃料電池スタック2に向けて圧送する冷却水ポンプ4と、冷却水の温度によって後記するように冷却水の流れる方向を制御するサーモスタット10と、冷却水を冷却するためのラジエータ5とを備えている。つまり、冷却水ポンプ4の下流側には、配管3aを通じて燃料電池スタック2が接続され、燃料電池スタック2の下流側には、配管3bを通じてラジエータ5が接続され、ラジエータ5の下流側には、配管3cを通じてサーモスタット10が接続され、さらに、サーモスタット10の下流側には、配管3dを通じて冷却水ポンプ4が接続されている。
【0026】
また、燃料電池スタック2の下流側の配管3bとサーモスタット10との間には、バイパス配管3eが接続されている。つまり、ラジエータ5の上流側と下流側との間、より詳しくは、燃料電池スタック2の下流側でラジエータ5の上流側と、ラジエータ5の下流側で冷却水ポンプ4の上流側との間が、バイパス配管3eおよびサーモスタット10によって接続される。すなわち、バイパス配管3eは、配管3bから分岐されてラジエータ5をバイパスし、サーモスタット10を介して配管3dに合流される。
【0027】
冷却水ポンプ4は、冷却水を図1中の右回り方向に、つまり、配管3aを通じて燃料電池スタック2の冷媒通路2aに、冷却水を圧送するものであり、図示しない制御装置の指令によって駆動する。
また、ラジエータ5は、配管3bを通じて通流する冷却水を介して外気と熱交換し、燃料電池スタック2の放熱を行うものである。
【0028】
サーモスタット10は、前記したように、冷却水の温度に追従して冷却水の流れる方向を制御するものであり、以下に説明するような構造を有している。
図2に示すように、サーモスタット10は、収容ケースとしてのケース11に収容されるサーモスタット本体20と、このサーモスタット本体20に設けられたジグルバルブ22とを備えている。また、このようなサーモスタット10を備えた冷媒路の冷媒路壁には、ジグルバルブ22の側方に空気溜り部12(図3参照)が設けられ、この空気溜り部12に空気抜き孔13が設けられている。本実施形態では、サーモスタット10を収容するケース11(後記する第2ケース部11B)の後方に冷却水ポンプ4が接続されており、これらが一体的に構成されている。
【0029】
ケース11は、第1ケース部11Aと第2ケース部11Bとを備えている。第1ケース部11Aは、円筒状の直線部11aとこの直線部11aに連続する湾曲筒状の折曲部11aとを有しており、この折曲部11aによって、直線部11aから略直角に折曲する冷却水の流路が形成されている。本実施形態では、図3に示すように、折曲部11aの角部11aが、折曲部11aの頂部に位置するように、ケース11を傾斜させている。
直線部11aの開口端には、ラジエータ5からの配管3cが接続されるようになっている。つまり、第1ケース部11Aには、ラジエータ5からの冷却水が導入される。
【0030】
空気溜り部12は、冷却水の充填時にジグルバルブ22を通じて抜けた空気を溜める(集める)部位であり、本実施形態では、ジグルバルブ22を通じて空気が抜ける側となる冷媒路壁、つまり、折曲部11aの頂部となる角部11aの内側の冷媒路壁を利用して、空気溜り部12が形成されている。このように、空気溜り部12は、角部11aの内側の冷媒路壁を利用して形成されているので、結果として、ジグルバルブ22よりも高い位置に形成されることとなる。したがって、ジグルバルブ22を通じて後記する第2室11B’側から第1室11A’側に抜けた空気は、空気溜り部12に好適に集まるようになっている。
【0031】
空気抜き孔13は、冷却水の充填時に溜まった空気を排出する役割をなす孔であり、本実施形態では、図4に示すように、空気溜り部12の最上部Tから若干側方に偏倚した部位に開口するように設けられている。
このような空気抜き孔13には、図2に示すように、大気側に通じる空気抜き管30が接続されている。空気抜き管30は、接続部31と、この接続部31に接続された排出管32とを備えている。接続部31は、折曲部11aの角部11aに設けられたボス部14に対応した形状を有しており、空気抜き孔13に連通する連通孔31aを有している。接続部31は、ボルト33でボス部14に固定されるようになっている。排出管32は、大気側に連通する管であり、空気溜り部12に溜められた空気を排出するためのものである。なお、排出管32の端部は、着脱可能な図示しないキャップ等によって閉塞されるようになっている。なお、空気抜きを行う際には、後記するように、空気溜り部12に溜まった空気を空気抜き孔13から排出管32を通じて抜きつつ、排出管32内を冷却水で満たすことによって空気抜きを終了することができる。
【0032】
第2ケース部11Bは、段付きの円筒形状を呈しており、内部には、サーモスタット本体20が収容される。第2ケース部11Bの開口端には、図1に示したバイパス配管3eが接続される。ここで、燃料電池スタック2の温度が低い状態では、サーモスタット本体20のバルブ25(図3参照、以下同じ)が閉じられる状態となることによって、冷却水は、ラジエータ5を経由せずにバイパス配管3eを介して、配管3dから冷却水ポンプ4を通じて配管3aを通り、燃料電池スタック2に流れるように制御される。
【0033】
そのための構成として、第2ケース部11Bの側方壁には、図5に示すように、冷却水ポンプ4の吸入口側と連通する開口部11eが設けられている。これによって、バイパス配管3e(図1参照)を通じて第2ケース部11Bに流入した冷却水は、開口部11eを通じて冷却水ポンプ4に吸入される。なお、開口部11eは、第2ケース部11Bと冷却水ポンプ4との側壁を開口形成することで形成されているので、この例では、図1に示す配管3dが省略されたものとなっている。
また、図2に示すように、第2ケース部11Bの上部には、冷却水の充填口11fが開口形成されている。この充填口11fには、充填ホース11gが接続されている。
【0034】
サーモスタット本体20は、図3に示すように、感温部23に封入された熱膨張体(ワックス)24の熱膨張を利用した公知のワックスペレット型のものであり、第1ケース部11Aと第2ケース部11Bとの間に、フランジ部21の外周部が挟持される状態で取り付けられている。
サーモスタット本体20の構造と動作について簡単に説明すると、フランジ部21に設けられたジグルバルブ22と、感温部23に設けられ、第1ケース部11A内の第1室11A’と第2ケース部11B内の第2室11B’との間を封止する弁体としてのバルブ25と、直線移動可能な可動部26とを備えている。ここで、可動部26が第1ケース部11A側に駆動されることにより、バルブ25が閉弁され、また、これとは反対の第1ケース部11Aから遠ざかる側に可動部26が駆動されることにより、バルブ25が開弁されるようになっている。可動部26は通常、バルブ25が閉弁される方向にバネ27によって付勢されている。
【0035】
ジグルバルブ22は、第2室11B’内の気泡が上に移動する性質に合わせてフランジ部21の上側に位置するものであり、主として第2室11B’から第1室11A’へ向けて空気が抜けるように、フランジ部21の連通孔に遊嵌されている。
また、このジグルバルブ22は、冷却水ポンプ4が駆動されて、第2室11B’の圧力が減圧されると、フランジ部21に形成された連通孔を塞ぐように第2室11B’側へ向けて吸引される。これによって、ジグルバルブ22を通じた第1室11A’と第2室11B’との間の冷却水の通流が防止される構造となっている。
【0036】
このようなサーモスタット10は、バイパス配管3e(図1参照)を通じて第2ケース部11Bに流入される冷却水の温度が、作動温度未満であるときには、バネ27の付勢力によってバルブ25が閉弁されるように動作する。
また、バイパス配管3eを通じて第2ケース部11Bに流入される冷却水の温度が、作動温度以上になると、ワックス24(図3参照)が熱膨張し、バネ27の付勢力に抗して可動部26が第1ケース部11Aから遠ざかる側に移動されることとなり、バルブ25が開弁されるように動作する。このように、サーモスタット10は、冷却水の温度に応じて、冷却水の流れをバイパス配管3eとラジエータ5からの配管3cとの間で切り替えるようになっている。
【0037】
次に、このような冷却システムにおいて、冷却水を充填する際の手順について説明する。
冷却水を充填する際には、まず、空気抜き管30が大気側に連通する状態にし(図示しないキャップ等を取り外し)、冷却水を充填する過程において、空気溜り部12に溜まってくる空気が、空気抜き管30の排出管32を通じて大気側に排出されるようにセットする。このようにセットした状態で、図6(a)に示すように、充填ホース11gを通じて充填口11fから第2ケース部11B内に冷却水を充填する。
【0038】
充填口11fから第2ケース部11B内に冷却水を充填すると、図6(a)に示すように、第2室11B’内で冷却水の水位W1が上昇し、これとともに、図示しない配管(バイパス配管3e、3c)を通じて第1室11A’内にも冷却水が供給されるようになり、第1室11A’内における冷却水の水位W2も前記水位W1に連動して上昇する。
【0039】
第2室11B’内で冷却水の水位W1が上昇してくると、第2室11B’にある空気がジグルバルブ22を通じて第1室11A’側に抜けて移動し、空気溜り部12の空気抜き孔13から空気抜き管30の排出管32を通じて大気側へ放出される(冷媒路に冷却水を充填しながら、ジグルバルブ22を通じて空気溜り部12側に空気を抜くステップ)。
【0040】
そして、さらに充填口11fから第2ケース部11B内に冷却水を充填すると、第2室11B’内での冷却水の水位W1、および第1室11A’内での冷却水の水位W2がいずれも上昇し、ジグルバルブ22を通じて第2室11B’内の空気が第1室11A’側に抜けきり、この抜けた空気が、第1室11A’の頂部となる角部11aの空気溜り部12に集まる。これにより、空気溜り部12に集まった空気は、空気抜き孔13から空気抜き管30の排出管32を通じて大気側へ放出される。
【0041】
そして、さらに充填口11fから第2ケース部11B内に冷却水を充填し、空気溜り部12に溜まった空気を、冷却水の水位W2の上昇によって、空気抜き孔13から空気抜き管を通じて大気側へ排出する。このとき、空気抜き管30内を冷却水で満たすようにする(図6(b)参照、空気溜り部12に溜まった空気を空気抜き孔13から空気抜き管30を通じて抜きつつ、排出管内を冷却水で満たすステップ)。
【0042】
これによって、サーモスタット10の周りの冷媒路内に存在する空気が空気抜き管30を通じて好適に排出される。つまり、排出管32の図示しない端部から冷却水が出てきて排出管32が冷却水で満たされる状態となったら、空気抜きが完了してサーモスタット10の周りの冷媒路内が冷却水で満たされ、冷却水の充填が完了した状態であることを確認することができる。
したがって、冷媒路が冷却水で満たされて冷媒路内から空気が排出されたことを容易に確認することができ、空気抜きを伴う冷却水の充填作業を容易に行うことができる。
【0043】
以上説明した本実施形態の冷却システムによれば、サーモスタット10の側方部位における水路壁には、ジグルバルブ22よりも高い位置に空気溜り部12が形成されているので、冷却水の充填時にジグルバルブ22を通じて抜けた空気をこの空気溜り部12に溜、めることができ、ジグルバルブ22を通じて確実な空気抜きを行うことができる。そして、空気溜り部12には、充填時に溜まった空気を排出するための空気抜き孔13が設けられているので、空気抜き孔13を通じて空気溜り部12に溜まった空気を排出することができ、サーモスタット10の周りの冷媒路における空気抜きを確実に行うことができる。
このように、サーモスタット10の周りの冷媒路における空気抜きを確実に行うことができるので、冷却水の変動量を減少することができ、冷却水を貯留するリザーブタンクの小型化が可能になる。
【0044】
したがって、燃料電池スタック2の好適な冷却が実現されて、耐久性、信頼性に優れた燃料電池システム1が得られる。
【0045】
また、空気抜き孔13は、空気溜り部12の最上部Tから若干側方に偏倚した部位に位置しているので、空気溜り部12に溜まった空気を比較的スムーズに排出することができるとともに、空気抜き孔13が冷却水の流れの抵抗になり難く、冷却水のスムーズな流れを実現することができる。
なお、空気溜り部12の最上部Tに空気抜き孔13を設け、空気溜り部12に溜まった空気が空気抜き孔13を通じてより一層確実に排出されるようにしてもよい。
【0046】
また、空気抜き孔13には、大気側に通じる空気抜き管30が接続されているので、空気抜き管30の排出管32を通じて、大気側にスムーズに空気を抜くことができる。しかも、空気抜きを行う際には、排出管32内が冷却水で満たされるように空気を排出することで、空気抜きを確実に行うことができる。
【0047】
(第2実施形態)
図7は本発明の第2実施形態に係る冷却システムのサーモスタット周りの構造を示す断面図である。本実施形態が前記第1実施形態と異なるところは、空気溜り部12’が、サーモスタット10を収容する第1ケース部11Aの上部(一部)を上方へ膨出形成することによって設けられている点である。
このように構成することによって、サーモスタット10の側方部位に空気溜り部12’を容易に配置することができ、空気溜り部12’に溜まった空気を排出管32を通じて容易に排出することができる。なお、この例では、空気溜り部12’をサーモスタット10の側方に形成して、ここにジグルバルブ22を通じて抜けてきた空気を集めることができるので、前記実施形態のように、折曲部11aの角部11a(図3参照)が第1ケース部11Aの頂部に位置するように設ける必要がなく、サーモスタット10の軸心が水平方向に向くような取付姿勢(取付態様)を採ることができる。
【0048】
(第3実施形態)
図8(a)は本発明の第3実施形態に係る冷却システムを示す配管系統図である。本実施形態が前記第1,第2実施形態と異なるところは、大気側に通じる空気抜き管30が空気抜き弁35を備えているとともに、冷媒路には、ドレン弁40が設けられている点である。
【0049】
空気抜き弁35は、空気抜き管30の管路の途中に設けられており、当該管路を開閉するための弁である。この例では、ボンネットBを開いて操作者の手の届く位置(操作可能な位置)となるパワープラント収容室Rの上部に設けられている。
また、空気抜き弁35よりも下流側である空気抜き管30の端部には、ジョイント部材37が取り付けられている。このジョイント部材37には、図8(b)に示すように、冷媒排出用の排出管38が接続可能である。
【0050】
ドレン弁40は、冷媒路内の冷媒を排出する際に開弁される弁であり、本実施形態では、配管3bに接続された接続配管3fに設けられて、冷媒路の一番低い位置に配置されている。
【0051】
次に、このような冷却システムにおいて、冷却水を充填する際の手順について説明する。
冷却水を充填する際には、まず、図8(b)に示すように、ボンネットBを開け、パワープラント収容室Rの上部に位置するジョイント部材37に排出管38の一端を接続し、排出管38の他端を車体の前方等に置いたバケツ等の容器Hに持ってくる。次に、空気抜き弁35を開き、充填する過程において空気溜り部12(図6(a)(b)参照)に溜まってくる空気が、排出管32を通じて大気側に排出されるようにセットする。このようにセットした状態で、前記と同様に図6(a)に示すように、充填ホース11gを通じて充填口11fから第2ケース部11B内に冷却水を充填する。
【0052】
冷却水を充填していくと、前記したようにして、サーモスタット10の周りの空気が、空気溜り部12に集められ、空気溜り部12から空気抜き孔13を通じて空気抜き管30の排出管32に流れて、図8(b)に示す空気抜き弁35から排出管38を通じて大気側へ放出される。
そして、サーモスタット10の周りの空気が抜け切ると、空気抜き管30の排出管32が冷却水で満たされた状態となり、ジョイント部材37に接続された排出管38を通じて、容器Hに冷却水が排出される状態となる。
このように、容器Hに冷却水が排出される状態となったことで、冷媒路内から空気が排出されて、冷却水の充填が完了したことを容易に確認することができる。
その後、空気抜き弁35を閉じるとともにジョイント部材37から排出管38を外して、空気抜きを伴う冷却水の充填作業を終了する。
【0053】
本実施形態では、排出管38を通じてパワープラント収容室Rの外の容器Hに冷却水を排出することができるので、パワープラント収容室R内が冷却水で被水するのを好適に回避することができる。また、冷却水の充填後は、空気抜き弁35が閉弁されることで、大気側と排出管32との連通が好適に遮断され、冷媒路に空気が混入するのを好適に阻止することができる。
【0054】
次に、冷却水を排出する際の手順について説明する。
冷却水を排出する際には、まず、ボンネットBを開いて排出管32に設けられた空気抜き弁35を開き、排出管32を大気側に連通する。これによって、排出管32を通じて冷媒路内に大気圧が作用するようになる。
そして、冷媒路の低い位置に設けられたドレン弁40を開弁し、ドレン弁40を通じて冷媒路内の冷却水を排出する。
【0055】
本実施形態によれば、ドレン弁40を開弁して冷媒を排出する際に、空気抜き弁35を開弁するので、空気抜き弁を通じて空気抜き管から冷媒路に大気圧が作用するようになり、その結果、ドレン弁40を通じて冷媒が好適に排出されるようになる。つまり、冷媒の排出時には、大気圧を利用した冷媒の排出が可能となり、冷媒のスムーズな排出を実現することができる。
したがって、冷媒の排出作業が容易であり、また、冷媒排出の作業時間の短縮を図ることも可能となる。
【0056】
前記した各実施形態において、前記した空気溜り部12,12’は、その形状や設置個数を任意に設定することができる。
【0057】
また、前記した各実施形態では、燃料電池システム1が燃料電池自動車に搭載された場合を例示したが、その他に例えば、自動二輪車、列車、船舶に搭載された燃料電池システムでもよく、また、住居、店舗、オフィス等の用途とした燃料電池システムでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の第1実施形態に係る冷却システムが適用される燃料電池システムを示す概略図である。
【図2】同じくサーモスタット周りの構造を示す断面図である(一部切断)。
【図3】同じくサーモスタット周りの要部構造を示す断面図である。
【図4】図2のX−X線に沿う断面図である。
【図5】サーモスタットと冷却水ポンプとを示す説明図である(一部切断)。
【図6】(a)(b)は冷却水の充填時の作用を示す説明図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る冷却システムのサーモスタット周りの構造を示す断面図である。
【図8】(a)は本発明の第3実施形態に係る冷却システムを示す配管系統図、(b)は同じくこの冷却システムにおける冷却水の充填時の様子を示す模式図である。
【符号の説明】
【0059】
1 燃料電池システム
2 燃料電池スタック
3e バイパス配管
4 冷却水ポンプ
5 ラジエータ
10 サーモスタット
11 ケース
11A 第1ケース部
11B 第2ケース部
12 空気溜り部
13 空気抜き孔
20 サーモスタット本体
21 フランジ部
22 ジグルバルブ
25 バルブ(弁体)
30 空気抜き管
32 排出管
35 空気抜き弁
38 排出管
40 ドレン弁
T 最上部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被冷却体とラジエータとの間の冷媒路に設けられ、冷媒の温度に応じて弁体が開閉して冷媒の循環を制御するサーモスタットを備えた冷却システムであって、
前記サーモスタットは、ジグルバルブを有しており、
冷媒の充填時に前記ジグルバルブを通じて空気が抜ける側となる、前記ジグルバルブ側方の冷媒路壁には、前記ジグルバルブよりも高い位置に空気溜り部が形成されており、
前記空気溜り部には、冷媒の充填時に溜まった空気を排出するための空気抜き孔が設けられていることを特徴とする冷却システム。
【請求項2】
前記空気溜り部は、前記サーモスタットを収容する収容ケースの一部を上方へ膨出形成することによって設けられていることを特徴とする請求項1に記載の冷却システム。
【請求項3】
前記空気抜き孔は、前記空気溜り部の最上部に位置していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の冷却システム。
【請求項4】
前記空気抜き孔には、大気側に通じる空気抜き管が接続されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の冷却システム。
【請求項5】
前記空気抜き管は、その管路に空気抜き弁を備えることを特徴とする請求項4に記載の冷却システム。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の冷却システムにおける冷媒の充填方法であって、
前記冷媒路に冷媒を充填しながら、前記ジグルバルブを通じて前記空気溜り部側に空気を抜くステップと、
前記空気溜り部に溜まった空気を前記空気抜き孔から前記空気抜き管を通じて抜きつつ、前記空気抜き管内を冷媒で満たすステップと、
を備えたことを特徴とする冷媒の充填方法。
【請求項7】
請求項5に記載の冷却システムにおける冷媒の排出方法であって、
前記冷媒路は、当該冷媒路内に充填された冷媒を抜くためのドレン弁を備えており、
前記ドレン弁を開弁して冷媒を排出する際に、前記空気抜き弁を開弁することを特徴とする冷媒の排出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−272123(P2009−272123A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−121219(P2008−121219)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】