説明

冷間成形された精密鋼管を製造するための方法

本発明は、選択的に添加される単数または複数の合金元素と融解に起因した不純物とを有する特に圧力を付加されるシリンダ管として応用するための冷間成形され特に冷間引抜き加工された精密鋼管を製造するための方法に関する。その際、継目無しに熱間成形されまたは熱間鋼帯から製造された溶接素管が、規定された出発状態を有して単数または複数の引抜き工程で仕上げ管へと引抜き加工され、仕上げ引抜き工程の前に管が焼入れ焼戻し処理を施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前文に記載された冷間成形され特に冷間引抜き加工された精密鋼管を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これに関連して特に検討されるDIN EN10305、第1、第2分冊による精密鋼管は動作状態のとき高い内部圧力を受け、例えば液圧分野または空気圧分野でシリンダ管として応用される。
【0003】
冷間引抜き加工される継目無精密鋼管または溶接精密鋼管の基本的製造プロセスは例えば鋼管ハンドブック(Stahlrohr Handbuch)、12版、1995、ブルカン出版、エッセンに述べられている。
【0004】
このように製造された管は特に肉厚および直径の公差が狭いことを特徴としている。
【0005】
出発製品は継目無しで仕上げられた熱間圧延素管か、または熱間鋼帯から高周波誘導溶接(HFI溶接)によって製造された素管のいずれかとすることができる。
【0006】
中空材と称されるこの素管は、単数または複数の引抜き工程を含むことのできる後続の冷間引抜き加工プロセスにおいて所要の仕上げ寸法(直径、肉厚)に引抜き加工されて仕上げ管とされる。
【0007】
冷間加工によって素材の固化が始まり、すなわちその降伏点と強さが高まる一方、同時にその伸び値と靭性値は小さくなる。
【0008】
このことは多くの応用目的にとって望ましい効果である。しかし変形能力の低下のゆえに、他の加工過程の前に、次の引抜き加工過程用に素材を再び冷間加工可能とするために再結晶化熱処理が場合によっては不可欠である。
【0009】
このように製造された精密鋼管の特性はDIN EN10305、第1、第2分冊に述べられている。
【0010】
E355までの非合金品質鋼も、StE690までの高張力品質も、鋼種として利用される。
【0011】
高い内部圧力を受けるこのような管を例えば液圧シリンダ管として使用するためにその靭性には厳しい条件が要求される。液圧シリンダは、なかんずく大きな温度差で戸外でも利用される多くの機械器具において運動経過を制御する。
【0012】
−20℃までの温度条件のもとで、従来素材の圧力下のシリンダまたは管の脆性破壊傾向のゆえに人的、物的損傷の虞を確実には排除できなかった。
【0013】
検査で判明したように、標準試料に対する−20℃における吸収エネルギー27Jとの従来一般的な要請も、こうした温度において脆性破壊による部材破壊を確実に排除するには十分でない。
【0014】
組込完了したシリンダ管に対するシャルピー衝撃試験、落重引裂試験および部材試験を含む匹敵する系統的検査が示すように、落重引裂試験において50%の剪断破面率を生じる吸収エネルギーの最低値についてはじめて十分な延性部材破壊を予想することができる。
【0015】
しかしこのことは、シャルピー衝撃試験において達成可能な値について、例えばSt52の場合利用温度において約80Jの最低値を意味する。この最低値は部材に十分な塑性変形余裕を与え、部材の多部分脆性分解の虞を防止する。
【0016】
仕上げ管についてシャルピー衝撃試験で突き止められた吸収エネルギーはしかし、従来応用された製造法では所要のレベルに高めることができない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の課題は、−20℃までの利用温度においても管の十分な延性破壊を簡単かつ安価な仕方で確実に達成できる、特に圧力付加されるシリンダ管として応用するための冷間成形され特に冷間引抜き加工された精密鋼管を製造するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この課題は、請求項1の前文から出発して特徴部分と合わせて解決される。有利な諸構成は従属請求項の対象である。
【0019】
本発明の教示に従って応用される方法では、素管が単数または複数の工程で仕上げ引抜き加工され、仕上げ引抜き加工前に管が焼入れ焼戻し処理を施され、鋼管が:
C =0.05〜0.25
Si=0.15〜1.0
Mn=1.0 〜3.5
Al=0.020〜0.060
V 最大0.20
N 最大0.15
S 最大0.03
以上の化学組成(%)と、選択的に添加されるCr、Mo、Ni、W、TiまたはNbの単数または複数の合金元素と、融解に起因した不純物とを有する。
【0020】
選択的に添加される合金元素は、要求された特性分布に応じて、すなわち特に所望の機械的特性に相応して確定され、有利には:
Cr 最大0.80
Mo 最大0.65
Ni 最大0.90
W 最大0.90
Ti 最大0.20
Nb 最大0.20
以上の含有量(重量%)を有する。
【0021】
焼入れ焼戻し処理自体は管の古典的焼入れとそれに続く焼戻しとからなる。その都度の素材に合わせて約910〜940℃の温度においてオーステナイト化が実行され、焼入組織を形成する焼入過程がそれに続く。焼入れはさまざまな焼入剤を介して行うことができ、ふつう焼入れは噴水を介して水によって行われる。空気焼入素材を利用する場合、焼入れは例えば静止空気で行われる。
【0022】
焼入れ後に行われる焼戻し処理は素材に応じて約540〜720℃の温度で行われる。
【0023】
提案された方法の利点は、仕上げ引抜き加工前の焼入れ焼戻しステップによって優れた靭性を有するごく一様な均質組織が生成され、管の仕上げ引抜き加工後にもこの組織が実質維持されることに見ることができる。検査で判明したように、落重引裂試験で−20℃および50%剪断破面率における吸収エネルギー値は横試料の場合優れた80J、縦試料の場合100Jである。
仕上げ引抜き加工後に顧客から要求されることのある応力除去焼なましの態様の仕上げ焼なましは、吸収エネルギー値、従って部材の靭性を再度改善するのに寄与する。
【0024】
仕上げ焼なましは、素材に応じて有利には500〜700℃の温度範囲内で実行され、その際、厳密な温度確定は達成されるべき例えば強さ、破断伸び、吸収エネルギー等の素材特性に依存して行うべきであることに注意しなければならない。
【0025】
本発明に係る方法で製造された管の検査で判明したように、横方向と縦方向とで吸収エネルギーレベルに顕著な違いを有する、構造用鋼の本来典型的に存在するフェライトパーライト組織は、本発明に係る方法で作製された素材では見られない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
そのことを明確に示す図1に示す実験結果は、改良型StE460からなるシリンダ管の吸収エネルギー値についてのものである。縦方向でも横方向でも、ほぼ同一の吸収エネルギーレベルが約180Jにおいて達成される。
【0027】
図2に示すように、本発明により製造された改良型StE460鋼管からなる部材は−20℃までの温度において、従来型StE460から従来どおり作製された鋼管と比較して延性破壊挙動の割合が十分に高く、従って、部材の多部分分解の虞を確実に防止するのに十分な塑性変形余裕を有する。
【0028】
こうして本発明に係る素材コンセプトは−20℃までの温度範囲でも液圧シリンダの動作を確実に可能とする。
【0029】
特定鋼等級における強さ値の明確な上昇は肯定的副次効果と称することができる。そのことから有利なことにシリンダ管の肉厚を30%以下だけ減らすことができ、従って、軽量構造の要求を考慮した重量低減が可能となる。
【0030】
圧力を付加されるシリンダ管の本発明に係る製造方法でもって−20℃までの利用温度においても部材の多部分破壊は確実に防止され、さらに30%までのシリンダ外被の肉厚低減が可能であると要約して確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】吸収エネルギー値の実験結果を示す図である。
【図2】剪断破面率と試験温度との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特に圧力を付加されるシリンダ管として応用するための冷間成形され特に冷間引抜き加工された精密鋼管を製造するための方法であって、精密鋼管が、
C =0.05〜0.25
Si=0.15〜1.0
Mn=1.0 〜3.5
Al=0.020〜0.060
V 最大0.20
N 最大0.15
S 最大0.03
以上の化学組成(重量%)と、選択的に添加されるCr、Mo、Ni、W、TiまたはNbの単数または複数の合金元素と、融解に起因した不純物とを有し、継目無しに熱間成形されまたは熱間鋼帯から製造された溶接素管が、規定された出発状態を有して単数または複数の引抜き工程で仕上げ管へと引抜き加工され、仕上げ引抜き工程の前に管が焼入れ焼戻し処理を施される方法。
【請求項2】
選択的に鋼に添加される合金元素が、
Cr 最大0.80
Mo 最大0.65
Ni 最大0.90
W 最大0.90
Ti 最大0.20
Nb 最大0.20
以上の含有量(重量%)を有することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
焼入れ焼戻しのために管が910〜940℃の温度にまで加熱され冷却され、引き続き焼戻し処理を施されることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
冷却が急速冷却であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
急速冷却が焼入れであることを特徴とする、請求項4記載の方法。
【請求項6】
焼入れが噴水によって行われることを特徴とする、請求項5記載の方法。
【請求項7】
冷却が静止空気で行われることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
焼戻し処理が540〜720℃の温度範囲内で実行されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
仕上げ引抜き加工された管が仕上げ焼なましを施されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
仕上げ焼なましが500〜700℃の温度範囲内で実行されることを特徴とする、請求項9記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−509040(P2009−509040A)
【公表日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−531521(P2008−531521)
【出願日】平成18年8月18日(2006.8.18)
【国際出願番号】PCT/DE2006/001457
【国際公開番号】WO2007/033635
【国際公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(508087952)マンネスマン・プレーツィスローア・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (1)
【Fターム(参考)】