説明

分光器

【課題】面倒な調整の必要がなく、波長再現性の良い安価な分光器を提供する。
【解決手段】回折格子およびスリット部を、可動部を持たない固定型とし、回折格子1で分光された分光光に対応した位置に複数のスリットが設けられたスリット部3を設置し、さらに特定波長の分光光のみ透過可能なマスクを該スリット部の入射側手前に設置し、減光フィルタ26を付設したλ3用マスク4に開口されたスリット4aに合致した光のみを透過させて、前記複数の分光光すべての検出が可能な大きさを有する検出器5により光強度を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光器に係り、特にプラズマエッチング等を用いた被処理層の加工における工程管理に用いられる分光器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータのような情報機器の急速な普及により、半導体装置は飛躍的に発展している。その機能面において、半導体装置は高速で動作すると同時に大容量の記憶能力を有することが要求される。これにより、半導体装置は、集積度、信頼度および応答速度などを向上させる方向に製造技術が発展している。これにより、半導体装置の集積度向上のための主な技術として膜形成技術またはエッチング技術などのような微細加工技術に対する要求が厳しくなっている。
【0003】
前記微細加工技術のうち、エッチング技術は基板上に形成させた膜の所定部位を除去し、膜を所望するパターンに加工する技術として、0.15μm以下のデザインルール(design rule)を必要とする。このような最近の半導体装置の製造では、プラズマを利用するドライエッチング装置を主に使用する。
【0004】
エッチング装置は、プラズマの形成方式によってわずかな差があるが、基本的には、加工チャンバを備え、加工チャンバ内には基板を配設するための把持器およびプラズマ発生器を備える。また、基板上に形成された所定の膜を正確な位置までエッチングするための部材を備える。部材はエッチング工程中に放出される光を透過させるエッチング終点検出窓と、エッチング終点検出窓を透過した光の波長を感知してエッチング終点を検出する検出装置を備える。
【0005】
上記のとおり、エッチング中に放出される光の波長によってエッチング終点を検出する方法および装置の例は、特許文献1および特許文献2に開示されている。特許文献1においては、「シリコンウェハ上に形成された酸化膜のうちエッチング除去する部分に励起光を照射し、この励起光によって照射された部分において発生するフォトルミネセンス光の強度を検出する」方法、また、特許文献2においては、「エッチング時に被処理物表面の全体から放出される放射光の発光強度を検出するとともに、その発光強度信号を積分し、前記発光強度信号の変化および上記積分値に基づいてエッチング終点を検出する」方法が述べられている。
【0006】
エッチング終点検出窓は加工チャンバ内の側壁に締結され、加工チャンバ内で放出される光が加工チャンバの外へ透過されるように備えられる。また、前記光を効果的に透過させるために全体が石英(quartz)材質で形成される。
【0007】
加工チャンバ内で放出される光を検出する従来の検出装置の例として、図3に示すモノクロメータおよび図4に示すポリクロメータについて説明する。
【0008】
図3に示すモノクロメータでは、加工チャンバ内で放出される光が入射光として入射スリット2を経由して回折格子12で分光される。例として図示するλ1からλ5までの5つの波長毎に分光された光はスリット部14に結像し、スリット部14のスリット14aに合致したλ3の光のみが透過して検出器15により光強度が検出される。他の波長の光を検出するためには、回転機構部13により回折格子12を回転させて所望する光がスリット14aを透過するように回転角度を選択する。
【0009】
図4に示すポリクロメータでは、加工チャンバ内で放出される光が入射光として入射スリット2を経由して回折格子22で分光される。例として図示するλ1からλ5までの5つの波長毎に分光された光はスリット部21に結像し、各波長毎に合致したスリットを透過し、さらに各波長毎の検出器16、17、18、19、20により光強度が検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−233384号公報
【特許文献2】特開2003−147553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図3にモノクロメータを用いて波長設定を行う方式を示す。モノクロメータには一般的にねじ送り機構を利用して回折格子を回転させて設定波長に合わせるサインバー方式を利用しており、手動で回折格子の回転角度を変えるダイアルが備えられている。波長設定はダイアルを手で回して指示値を設定波長に合わせるのだが、市販されている一般的なダイアルの表示部のバックラッシュが大きく、また、ねじ送り部にもバックラッシュがあるため波長再現性が悪い。
【0012】
前記波長再現性を改善するために、参照光を入射し元の値に合わせるために再調整したり、信号のピーク値を捕らえるダイアル再調整が必要となり余分な再調整時間を要する。
【0013】
また、終点検出を行う波長の発光強度は波長毎に異なるため、検出器感度を高感度にしておくと、ある波長では信号を得られても、波長によっては感度が高すぎて信号強度が飽和してしまうことがある。そこで、入力光量に応じて、検出器が光電子増倍管であれば負高圧、フォトダイオードであればIV(電流‐電圧)変換のゲインの調整をすることで、検出器感度を変更し、信号強度が飽和することを防ぐ必要がある。
【0014】
また波長再現性を重視する場合には、多波長を同時に測定する必要がないにもかかわらず、波長再現精度に影響を与える可動部がなく安定しているという理由から、図4に示す高感度な検出器を備えた高価なポリクロメータを採用する場合もある。前記の状況から、面倒な調整の必要がなく、波長再現性の良い安価な分光器の提供が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために本発明は、入射光を透過させる入射スリットと、該入射光を分光する回折格子と、分光された光の結像面またはその近傍に設置されるとともに該分光光を透過させるスリット部と、該スリット部を透過した光を検出する検出器からなる分光器において、分光像の結像面位置またはその近傍位置に設置され且つ、各波長の分光光が透過できる位置に複数のスリットを設けたスリット部と、前記スリット部の入射側前面に、特定波長の分光光のみ透過可能なマスクを設置し、さらに受光面がスリット部全体の大きさ以上の大きさを持つ検出器を設置する。
【0016】
さらに前記マスクに開口されたスリットに減光フィルタを付設する。
【発明の効果】
【0017】
回折格子およびスリット部は可動部を有しない固定型であるため、入射光に対して一定の位置を保持することが可能であり、波長再現性が極めて高い。また設定波長の発光強度に合わせた減光フィルタの付設により入射光量を減少させて検出器の飽和の発生を防ぐため、検出器感度の調整を必要としない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態におけるエッチング装置内の分光器を示す概略的な構成図である。
【図2】本発明の一実施形態におけるエッチング装置を示す概略的な構成図である。
【図3】エッチング装置における検出装置としてモノクロメータを示す概略的な構成図である。
【図4】エッチング装置における検出装置としてポリクロメータを示す概略的な構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
スリット部を分光像の結像面に設置し、該スリット部に各波長の分光光が透過可能な複数のスリットを設けるとともに、前記スリット部に、特定波長の分光光のみ透過可能なスリットを持つマスクであって、さらに該スリットに減光フィルタを付設したマスクを設置する。
【実施例1】
【0020】
本発明の実施例を図1および図2に示す。図1は、本発明の一実施形態おけるエッチング装置内の検出装置を示す概略的な構成図であり、図2に示したエッチング装置内の分光器9の概略的な構成図である。
【0021】
図2は本発明の一実施形態におけるエッチング装置を示す概略的な構成図である。図2に示すように、エッチング装置6は基板上に形成されている膜をエッチングして設定されたパターンを形成する工程を実施するための加工チャンバ10を備える。
【0022】
加工チャンバ10内には、エッチングを実施するための基板を固定するチャック7が備えられる。また、エッチングガスの提供を受けてプラズマを形成するプラズマ形成部11が備えられている。プラズマ形成部11は加工チャンバ10内の上側にプレート形態の電極11aと、電極11aにパワーを印加するRFパワー提供部11bにより構成される。
【0023】
したがって、加工チャンバ10に提供されるエッチングガスをプラズマ状態で形成することができる。さらに、チャック7にバイアスパワーを印加させるバイアスパワー提供部24を備え、プラズマに方向性を提供してエッチングの効率性を高くすることができる。
【0024】
加工チャンバ10に設けられ、エッチング中に放出される光を加工チャンバ10の外部に透過させるエッチング終点検出窓8と、エッチング終点検出窓8を通じて透過される光の波長を検出する分光器9を備えたものである。
【0025】
図1に示すとおり、加工チャンバ内で放出される光が入射光として入射スリット2を経由して回折格子1で分光される。例として図示するλ1からλ5までの5つの波長毎に分光された光はスリット部3に結像し、前記λ1からλ5に対応した位置に複数のスリットが設けられたスリット部3の入射側手前に置かれた減光フィルタ26を付設したλ3用マスク4によって開口されたスリット4aに合致したλ3の光のみがスリット3bを透過して検出器5により光強度が検出される。なお検出器5はλ1からλ5のどの波長が透過しても検出可能な大きさを有する。すなわち検出器5の受光面はスリット部3の大きさと同程度かそれより大きいものとする。
【0026】
終点検出を行う波長の発光強度は波長毎に異なるため、単一の検出器5で検出しようとするとある波長では信号を得られても、波長によっては感度が高すぎて信号強度が飽和してしまうことがある。そこで、入射光量に応じて、例えばλ1用マスク23には減光フィルタ25、またλ3用マスク4には減光フィルタ26を付設することにより検出器5の信号強度が飽和することがないように入射光量をあらかじめ減少させておく。
【0027】
他の波長の光を検出するためには、所望する波長が透過可能に開口されたマスクに取り替えるだけでよい。例えば波長λ1を選択する場合は、減光フィルタ25を付設したλ1用マスク23に取替え、スリット23aおよびスリット3aより波長λ1の光を透過させる。他の波長を選択する場合は、同様にその波長専用の減光フィルタを付設したマスクに取り替えればよい。マスクには減光フィルタを付設せずに光をそのまま検出器5に入射させる場合もある。
【0028】
次に、エッチング終点検出方法を、図1に示す検出器5として光電子増倍管(図示せず)を使用した場合を例に説明する。分光されて光電子増倍管に入射した光は電気的信号に変換され、その出力電圧の変化を判断することにより、基板上の膜のエッチング終点を検出することができる。
【0029】
具体的には、ベース膜および前記ベース膜上に所定の膜が形成されている基板で所定の膜をエッチングして、エッチングがベース膜に達した時点でエッチングを停止しなければならないと仮定する。この時、ベース膜はその上にある所定の膜が完全にエッチングされた後に、エッチングされることになる。このためベース膜のエッチングが始まると、エッチング時に放出される光の波長はベース膜上に形成されている膜がエッチングされたときと異なる。その結果、光電子増倍管で電圧の変化が生ずるので、この電圧の変化によりエッチング終点を検出することができる。
【0030】
次に一例として、半導体のプラズマエッチングプロセス中の終点検出に用いられる主な検出波長と発光種を下表に示す。
【表1】

【符号の説明】
【0031】
1 回折格子
2 入射スリット
3 スリット部
3a スリット
3b スリット
4 λ3用マスク
4a スリット
5 検出器
6 エッチング装置
7 チャック
8 エッチング終点検出窓
9 分光器
10 加工チャンバ
11 プラズマ形成部
11a 電極
11b RFパワー提供部
12 回折格子
13 回転機構部
14 スリット部
14a スリット
15 検出器
16 検出器
17 検出器
18 検出器
19 検出器
20 検出器
21 スリット部
22 回折格子
23 λ1用マスク
23a スリット
24 バイアスパワー提供部
25 減光フィルタ
26 減光フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射光を透過させる入射スリットと、該入射光を分光する回折格子と、分光された光の結像面またはその近傍に設置されるとともに該分光光を透過させるスリット部と、該スリット部を透過した光を検出する検出器からなる分光器において、分光像の結像面位置またはその近傍位置に設置され且つ、各波長の分光光が透過できる位置に複数のスリットを設けたスリット部と、前記スリット部の入射側前面に、特定波長の分光光のみ透過可能なマスクを設置し、さらに受光面がスリット部全体の大きさ以上の大きさを持つ検出器を設置したことを特徴とする分光器。
【請求項2】
前記マスクに開口されたスリットに減光フィルタを付設したことを特徴とする請求項1記載の分光器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−2672(P2012−2672A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138035(P2010−138035)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】